導入:特採を紙とメールで回す工場で起きていること
製造業 特採管理システム 導入を考える工場の多くは、特採の申請を紙、メール、Excel で回しています。特採(特別採用)とは、要求事項を満たしていない製品を、条件付きで使用またはリリース(次の工程へ進めること、あるいは出荷)することの許可です。ところが手作業の運用では、次のようなことが起きやすくなります。
- 特採の承認メールが個人の受信箱に埋もれ、承認済みかどうかが現場で分からない
- 数量上限や期限を超えて、特採品を出荷してしまう
- 特採品のロットが出荷記録と結び付かず、客先監査や問い合わせに答えられない
- 同じ不適合で特採が繰り返され、是正処置につながらない
- 顧客承認が必要な特採と、社内で決めてよい特採の線引きが人によって違う
本記事では、特採管理の導入は「特採申請書を電子化すること」ではないと考えます。次の5つを一体で設計するものだと考えます。
- 不適合の事実と範囲(ロット、数量、特性、測定値、限度)を定義する
- 影響評価にもとづいて、処置区分(そのまま使用、手直し、修理、再格付け、スクラップ)と承認者(社内の権限者か、顧客承認が必要か)を決める
- 承認された条件(数量上限、期限、識別、追加検査)を、システムで実行制御する
- 特採品のロットやシリアルを、出荷記録まで追跡できるようにする
- 是正処置と結び付け、同じ不適合の特採が繰り返されないようにする
最初に3点をお断りします。第一に、本記事は製品の推奨やランキングではありません。各社の機能は、各社の公式説明を帰属付きで紹介するだけです。第二に、後半の費用試算は、この記事のための仮の数字です。第三に、特採は不適合品を適合品にする手続きではありません。特採を受けても製品は不適合のままであり、決められた条件の範囲で使用や出荷を認めるだけです。この前提が、システム設計のすべての出発点になります。
対象は、タイの自動車部品、電子部品、機械、金属加工、樹脂成形などの工場で、品質保証、品質管理、生産技術、生産管理、工場長、または日系本社の IT や DX を担当する方です。品質保留(隔離と解除)、リワークの工程、代替部品の承認、受入検査、出荷ゲート、工程内不良の追跡、是正処置の効果確認、設計変更、MES 選定は、それぞれの専門記事に任せます。本記事では境界の説明とリンクにとどめます。
なぜ今、タイの工場で特採の管理を見直すのか
背景を、年や基準の限定を付けて短く整理します。ここに挙げる数字は業界全体の動きであり、読者の工場の状況を示すものではありません。
まず自動車です。タイ工業連盟(FTI)の発表(2026年1月28日)によると、2025年のタイの自動車生産は 1,455,569 台でした。目標の145万台を上回りましたが、前年比では −0.9% でした。2026年の目標は150万台とされています。Krungsri Research の自動車産業見通し(2026年8月3日発表)は、2026〜2028年の生産を年 0.5〜1.5% の緩やかな拡大と見ています。同資料では、2026年1〜4月の生産は 473,545 台(前年同期比 +4.0%)でした。同資料はリスクとして、原材料と部品のコスト上昇、一部部品の供給不足を挙げています。要因の例は、中東情勢の長期化と、中国のレアアース輸出規制です。自動車部品については、Krungsri Research の見通し(2026年5月7日発表)が、2026〜2028年の生産を年 1.5〜2.5% の拡大と見ています。
部品の調達先や仕様が揺れる局面では、「規格どおりではないが、限度内なら使えるか」という判断が増えやすいと本記事では考えます。そうした判断を個人の受信箱で処理していると、記録の抜けが積み上がります。
投資の動きもあります。タイ投資委員会(BOI)のプレスリリース No. 15/2569(2026年1月26日)によると、2025年通年の投資申請は、自動車と部品の分野で 84,085 百万バーツ、288 件でした。電機電子(E&E)の分野では 277,645 百万バーツ、470 件でした。新しいラインや新しい顧客が増えれば、顧客ごとの特採ルールも増えます。
日系企業の状況として、JETRO の「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」があります。調査は2025年8〜9月に行われ、タイでは 646 社が有効回答しました(うち製造業 333 社)。タイの回答企業(n=632)のうち、2025年の営業利益見込みを黒字とした割合は 63.3% でした。本記事では、利益を確保するうえで、再選別や客先対応といった手戻りの費用も見過ごせない要素だと考えます。
規格側の動きもあります。IATF の統計ページ(2026年9月28日更新)では、直近12か月の重大不適合の総量に占める箇条別シェアで、10.2.3 問題解決が 12.10%、10.2.1 不適合及び是正処置が 5.60% と上位にあります。8.7 系の箇条は上位10に入っていません。本記事ではこの結果を、特採の判断そのものに加えて、その後の問題解決と是正処置まで記録をつなぐ設計が重要になることを示すものと読みます。
また ISO 9001 は、2026年9月16日に ISO 9001:2026(第6版)が発行され、ISO 9001:2015 は撤回されました。IATF 16949 は 2016年版(第1版)が現行です。第2版は、IATF の通知 SC-2026-005(2026年7月)で 2027年中頃の発行予定とされ、日程は暫定とされています。規格の版が動く時期は、社内手順とシステムの要件を見直す機会にもなります。
特採管理の全体の流れ:申請から記録保管まで6つのブロック
冒頭の5つの設計要素を、業務の流れとして6つのブロックに展開します。
| ブロック | 主な内容 | 結び付くシステム |
|---|---|---|
| 1 不適合報告 | ロット、数量、特性、測定値を記録する | QMS 記録、ERP/MES/WMS のロット状態と品質保留 |
| 2 影響評価 | 機能、安全、顧客仕様、法規への影響を評価する | QMS 記録 |
| 3 処置区分の決定 | そのまま使用、手直し、修理、再格付け、スクラップから選ぶ | QMS 記録 |
| 4 承認 | 社内の権限者(MRB など)、必要な場合は顧客承認 | QMS 記録と監査証跡 |
| 5 条件付き出荷 | 数量上限、期限、識別、追加検査を実行制御する | QMS 記録、ERP/WMS の出荷停止とシリアル一覧 |
| 6 クローズ | 是正処置との連携、記録保管 | QMS 記録、ERP の出荷記録 |
ポイントは、どのブロックも QMS の記録と監査証跡に結び付くことです。誰が、いつ、何を、なぜ決めたかを残します。もう一つは、ERP、MES、WMS 側のロット状態、出荷停止、品質保留、シリアル一覧が、不適合報告、条件付き出荷、クローズの3か所で品質側の決定と結び付くことです。
本記事では、特採は「一度承認したら終わり」の書類ではないと考えます。特採は条件付きの決定であり、ロット、数量、承認者と結び付いたまま残ります。出荷のたびに条件と照合され、期限が来れば失効し、最後に是正処置と記録保管でクローズされます。この「条件を持ったまま動き続ける記録」を扱えるかどうかが、紙やメールとシステムの差になります。

図1 特採管理のデータフロー。1 不適合報告(NONCONFORMITY REPORT)、2 影響評価(IMPACT ASSESSMENT)、3 処置区分の決定(DISPOSITION)、4 承認(APPROVAL)、5 条件付き出荷(CONDITIONAL RELEASE)、6 クローズ(CLOSE-OUT)の順に進みます。下段の QMS 記録と監査証跡は1〜6のすべてに、ERP/MES/WMS(ロット状態、出荷停止、品質保留、シリアル一覧)は1、5、6に結び付きます。
特採(特別採用)とは何か:逸脱許可、修正、手直し、修理、再格付け、スクラップとの違い
特採とは何かを、用語の定義から確認します。日本の実務でいう「特採」は、JIS の訳語「特別採用」の略称です。ここでは ISO 9000:2015 の一致翻訳である JIS Q 9000:2015 の定義を使います。なお ISO 9000 は、2026年5月に ISO 9000:2026(第5版)が発行され、2015年版は撤回されています。以下は 2015年版の定義であり、2026年版で番号や文言が変わっている可能性があります(本記事では2026年版の本文を確認していません)。
| 用語(JIS Q 9000:2015 の番号) | 定義の要点 | 製品は要求事項に適合するか |
|---|---|---|
| 不適合(3.6.9) | 要求事項を満たしていないこと | 適合しない |
| 修正(3.12.3) | 検出された不適合を除去するための処置。例として手直し、再格付けがある | 処置の内容による |
| 再格付け(3.12.4) | 当初とは異なる要求事項に適合するよう、等級を変更すること | 当初の要求事項には適合しない |
| 特別採用(3.12.5) | 規定要求事項に適合していない製品の使用またはリリースを認めること | 適合しないまま |
| 逸脱許可(3.12.6) | 当初の規定要求事項からの逸脱を、製品の実現に先立ち認めること | 当初の要求事項とは異なる |
| リリース(3.12.7) | プロセスの次の段階または次のプロセスに進めることを認めること | (判断の行為) |
| 手直し(3.12.8) | 要求事項に適合させるため、不適合となった製品に対してとる処置 | 適合させることを目的とする |
| 修理(3.12.9) | 意図された用途に対して受入れ可能とするため、不適合となった製品に対してとる処置 | 適合するとは限らない |
| スクラップ(3.12.10) | 当初の意図していた使用を不可能にするため、不適合となった製品に対してとる処置(例: 再資源化、破壊) | (使用しない) |
特別採用の定義には注記があります。JIS Q 9000:2015 の 3.12.5 の注記は、特別採用は通常、特定の限度内で不適合となった特性をもつ製品を引き渡す場合に限定され、数量または期間を限定し、特定の用途に対して与えられる、と述べています。逸脱許可(3.12.6)の注記も、一般に数量または期間を限定し、特定の用途に対して与えられる、としています。英語の原文でも同じ構造です。ISO 9000:2015 の定義(欧州鉄道機関 ERA の用語集経由で確認)では、concession は “Permission to use or release” で始まり、deviation permit は “prior to its realization” という限定を持ちます。
ここから、特採と逸脱許可の違いが読み取れます。
- 特採(特別採用)は、すでに不適合となった製品について、使用またはリリースを認めるものです。
- 逸脱許可は、製品を作る前に、当初の要求事項から外れることを認めるものです。
どちらも製品を「適合」に変えるものではありません。特採は、不適合のまま、限度と条件の範囲で使うことの許可です。逸脱許可は、当初とは異なる条件で作ることの事前の許可です。製造前の変更という点で、逸脱許可は 4M 変更の管理と近い位置にあります。4M 変更の境界と初品の確認は 4M管理システムの記事 で扱っています。
修理の注記にも注意が必要です。JIS Q 9000:2015 の 3.12.9 の注記1は、修理が成功しても必ずしも要求事項に適合するとは限らず、修理と併せて特別採用が必要となることがある、と述べています。つまり「修理したから問題ない」とはならない場合があります。システムでは、修理の処置区分を選んだときに、特採の要否を判断する欄を設けると、判断の抜けを防ぎやすくなると本記事では考えます。
手直しは、要求事項に適合させることを目的とする処置です。手直しの工程、作業指示、再検査の流れは リワーク管理システムの記事 に任せます。本記事では、手直しを処置区分の一つとして選び、その記録を特採の記録と結び付けるところまでを扱います。
また、JIS の 3.12.10 の訳語は「スクラップ」です。本記事でも処置区分の名前としては「スクラップ」を使います。

図2 処置区分(そのまま使用(特採)、手直し、修理、再格付け、スクラップ、製造前の逸脱許可)と、システムが管理すべきこと(承認、数量と期間の限定、識別、出荷記録、再検査、等級変更、スクラップ記録、期限)の対応です。赤は、製品が当初の要求事項と異なるまま残る処置を示します。RFPを書くための概念図であり、顧客要求や規格の代替ではありません。
規格は特採に何を求めているか:ISO 9001:2015 の 8.7 と IATF 16949 の 8.7.1.1
次に、規格の要求を確認します。ここで引く ISO 9001 の条文は、ISO 9001:2015(JIS Q 9001:2015)のものです。2026年9月16日発行の ISO 9001:2026 で、番号や文言が変わっている可能性があります(本記事では2026年版の本文を確認していません)。なお、コンサルティング会社 Advisera の二次資料の対照表では、8.7 は「変更なし」に分類されていますが、ISO の原文での検証は本記事では行っていません。
| 箇条(ISO 9001:2015) | 求めていることの要点 | システムへの示唆(本記事の見解) |
|---|---|---|
| 8.6 製品及びサービスのリリース | 文書化した情報として、a) 合否判定基準への適合の証拠、b) リリースを正式に許可した人へのトレーサビリティを保持する | 出荷可否の判断と許可者を記録に残す |
| 8.7.1 不適合なアウトプットの管理 | 不適合なアウトプットを識別し管理する。不適合の性質と影響に基づいて処置をとる。処理方法は a) 修正、b) 分離、散逸防止、返却または提供停止、c) 顧客への通知、d) 特別採用による受入の正式な許可の取得、の一つ以上。修正を施したときは要求事項への適合を検証する | 処置区分と承認の記録、修正後の検証結果の記録 |
| 8.7.2 文書化した情報 | a) 不適合、b) とった処置、c) 取得した特別採用、d) 不適合に関する処置について決定する権限をもつ者、を記載した文書化した情報を保持する | 申請、処置、特採、決定権限者を1件の記録で結ぶ |
8.7.1 は、特別採用による受入の正式な許可の取得を、処置の一つとして挙げています。8.7.2 は、取得した特別採用と、決定権限者の特定を文書化した情報として求めています。紙やメールでも満たせますが、件数が増えると、記録をそろえる作業そのものが負担になります。
自動車業界の IATF 16949:2016 には、8.7.1.1「Customer authorization for concession」があります。IATF の公式資料「Sanctioned Interpretations」の SI 9(2017年10月発効)による改訂後の本文では、次の2点が求められています。
- 製品または製造工程が、現在承認されているものと異なる場合は、次の工程に進める前に、顧客の特採または逸脱許可を得ること
- 不適合品の “use as is”(そのまま使用)と rework for repair(8.7.1.5 参照)の処置で次の工程に進める前に、顧客の承認を得ること。製造工程で副部品を再利用する場合は、そのことを特採または逸脱許可の中で顧客に明確に伝えること
IATF 16949 には、このほかにも手直し、修理、疑わしい製品、顧客通知などに関する細分箇条があります。8.7.1.7「Nonconforming product disposition」については、IATF の FAQ(2026年6月版)の FAQ 11 が、廃棄の前に製品を使用不能にすることの意図を説明しています。製品が非公式の補修市場や車両に流れたり、誤って顧客に出荷されたりしないようにするためで、粉砕までは求めていない、という説明です。
IATF 16949 の第2版は、前述のとおり 2027年中頃の発行予定で、日程は暫定です。
航空宇宙では AS9100D が使われていますが、本記事では条文を確認できていません。NASA OSMA の記事(2024年4月17日)は、AS9100 が ISO 9001 の本文に業界の追加要求を加えた構成であり、次の改訂で IA9100 に改番される予定で、発行は2024年時点の見込みで2026年第4四半期としています。
最後に、ISO 自身の説明では、ISO 9001 は189か国で100万件を超える認証が発行されており、ISO 9000 ファミリーの中で認証の対象になる規格は ISO 9001 だけです(認証は義務ではありません)。特採の記録は、こうした認証審査と顧客監査で確認の対象になりうる記録です。
申請:不適合の事実と範囲をどう定義するか
特採管理の最初のブロックは、不適合報告と特採の申請です。本記事では、不適合の記述が曖昧だと、その後の影響評価も承認も曖昧になると考えます。「寸法が少し外れている」という申請では、承認者は何をどこまで認めたのかを説明できません。
申請の画面で必須にしたい項目は、次のとおりです。
- 対象:品番、ロット番号、シリアル番号(あれば)、数量
- 不適合の内容:特性、規格値と公差、測定値、測定方法と測定器
- 発生場所:発生した工程、設備、日時、発見した工程
- 疑わしい製品の範囲:同じ材料、同じ設備、同じ条件で作った他のロットを含めるかどうか
- 現品の状態:隔離の場所、保留の状態、識別の方法
- 申請者と申請日、関連する顧客と顧客の品番
とくに、疑わしい製品の範囲は重要です。見つかったロットだけに特採をかけても、同じ条件で作った別のロットが出荷されていれば、問題は残ります。範囲の指定は、ロットの系譜(どの材料ロットから、どの設備で作られたか)をたどれるかどうかに左右されます。
現品の隔離、保留、解除の運用そのものは、品質保留管理システムの記事 で扱っています。特採の申請は、保留中の現品に対して「どう処置するか」を決める入口であり、保留の仕組みと二重に作らないことが大切です。
製品側の実装の例として、2社の公式説明を紹介します。Infor の公式ドキュメント(Infor LN 10.7)によると、購買、工程、生産で不適合が見つかった品目は隔離在庫に移すことができ、隔離在庫の品目は Return to Vendor、Rework(新しい仕様へ、または既存の仕様へ)、Reclassify、Scrap、Use as is の処置で評価できる、と説明しています。Microsoft の Dynamics 365 Supply Chain Management について、Microsoft Learn は、不適合オーダーが不適合品の数量、問題の発生源、問題の種別、説明の注記を記述し、不適合タグとレポートで Unusable(使用不可)や Restricted usage(使用制限)などの状態を示せる、と説明しています。
どの製品を使う場合でも、申請項目を顧客ごと、品目ごとに増減できるか、測定値を検査記録から転記せずに参照できるかは、RFP で確認しておきたい点です。
影響評価と処置区分の決定:誰が決めるか
二つ目と三つ目のブロックは、影響評価と処置区分の決定です。影響評価では、不適合が次の点に影響するかどうかを評価します。
- 機能:組付け、性能、耐久性への影響
- 安全:使用者や車両の安全への影響
- 顧客仕様:図面、仕様書、顧客固有の要求への影響
- 法規:仕向け地の法規や認証への影響
評価の結果から、処置区分を選びます。候補は、そのまま使用(特採)、手直し、修理、再格付け、スクラップです。本記事では、処置区分ごとに承認者が変わるように設計すると考えます。たとえば、手直しで当初の要求事項に適合させる場合と、そのまま使用で特採を受ける場合では、承認の重さが違います。システムでは、処置区分と顧客要求の組み合わせから、承認経路を自動で決める設計が考えられます。
誰が決めるかについて、ISO 9001:2015 の 8.7.2 d) は、不適合に関する処置について決定する権限をもつ者を特定することを求めています。この役割を材料審査委員会(MRB: Material Review Board)と呼ぶ会議体が担う工場もあります。MRB は、品質、技術、製造などの代表者が不適合品の処置を決める会議体として一般に用いられる呼称です。規格が MRB という名前の会議体を求めているわけではありません。Infor LN のメニューに「Review board」という項目名があるように、製品に審査会の機能名を持つ例もあります。
顧客側のルールの一例として、スウェーデンの Oetiker Sweden AB が公開しているサプライヤーマニュアル(2018年版)があります。このマニュアルでは、不適合品に関する仕入先からの逸脱の申請は、同社の担当品質技術者の審査と承認を受け、必要な場合は同社の顧客の承認も出荷前に得ることとしています。逸脱の承認は、特定の納入期間、注文、または部品の数量に限定されます。恒久的な逸脱は認められず、数量にもとづく承認が望ましいとされています。また、逸脱の承認の申請には常に是正処置を含めることとしています。これは欧州の Tier1 の一例であり、すべての顧客に当てはまるわけではありません。ただし、期限と数量上限を持たせ、是正処置と結び付けるという考え方は、システムの項目設計の参考になります。
処置区分の中には、代替部品の使用と紛らわしいものがあります。不適合品をそのまま使う特採と、図面上の部品を別の承認済み部品に置き換える代替部品の承認は、別の手続きです。代替部品の承認の進め方は 代替部品の承認管理の記事 に任せます。本記事では、申請の画面で「特採か、代替部品か、逸脱許可か」を最初に選ばせ、取り違えを防ぐ設計を勧めます。
顧客承認が必要な特採と、仕入先から受ける特採申請
特採に顧客承認が必要かどうかは、顧客要求と適用される規格で決まります。「特採には常に顧客承認が必要」とも「社内承認で足りる」とも、一般化はできません。自動車業界で IATF 16949 を適用している場合は、前述の 8.7.1.1(SI 9)の範囲で、承認済みと異なる製品や製造工程で進める前の顧客の特採または逸脱許可、そのまま使用と rework for repair の処置で進める前の顧客承認が求められます。そのうえで、顧客ごとの固有要求が加わります。
本記事では、顧客承認の要否を担当者の記憶に頼らず、マスタで持つことを勧めます。顧客、品目、処置区分の組み合わせごとに「顧客承認が必要」「社内の権限者で決定」を定義し、申請時に自動で判定します。判定のルールを変えたときは、変更の履歴と理由を残します。
顧客承認の記録には、顧客の承認番号、承認者、承認日、承認された条件(数量上限、期限、識別、追加検査)、承認文書の添付を持たせます。条件が申請と違う形で承認された場合は、承認された条件のほうをシステムの実行条件にします。
自社が顧客の立場で、仕入先から特採申請を受ける場面もあります。流れは次のとおりです。
- 仕入先が特採を申請する
- 自社が影響評価を行う
- 必要な場合は、自社の顧客に特採を申請する
- 承認された条件を、仕入先への回答と、自社の受入の条件に反映する
この往復がメールの外で記録されていないと、受入の担当者は特採品が届いたことに気づけません。仕入先別の受入検査と使用許可の流れは 受入検査管理システムの記事 で扱っています。特採の承認を受入のロットと結び付け、承認された数量を超えた入荷を受入の段階で止めることが、二つの仕組みの接点です。
製品側の例として、Oracle は Oracle Fusion Cloud Quality Management のデータシート(Version 3.0、2024年)で、SCAR(仕入先是正処置要求)をサプライヤーポータルで仕入先に割り当てる、と説明しています。仕入先との往復を、どの画面とどの記録で行うかは、RFP で具体的に書いておきたい点です。
条件付き出荷:数量上限、期限、識別、追加検査
五つ目のブロックが、条件付き出荷です。本記事では、ここが特採管理システムの中心だと考えます。承認された条件を人が覚えておくのではなく、システムが実行制御します。
| 条件 | システムが行うこと(本記事の見解) |
|---|---|
| 数量上限 | 承認された数量を超える出荷指示や引当を止める。残数量を画面に表示する |
| 期限 | 期限が来たら特採を自動で失効させ、対象ロットを出荷できない状態に戻す |
| 識別 | 現品、箱、出荷ラベルに特採番号を表示する指示を出し、表示の確認結果を記録する |
| 追加検査 | 承認条件として指定された検査を指示し、結果が記録されるまで出荷を止める |
| 用途の限定 | 承認された顧客、品番、納入先以外への出荷を止める |
識別の方法(ラベルの様式や表示位置など)は、顧客要求と社内手順で決まります。本記事では規格の条文としてではなく、設計上の要件として扱います。
この実行制御は、QMS だけでは完結しません。出荷指示や在庫の引当は ERP や WMS で行われるためです。特採の承認状態、残数量、期限を ERP や WMS のロット状態に連携し、条件を外れたロットは出荷停止にします。品質保留の状態とも矛盾しないようにします。たとえば、品質保留中のロットに特採が承認されたら、保留の解除と出荷の許可を同時に、記録付きで行います。
出荷の最終判定と、物理的な隔離の層については 不良品の流出防止の記事 で扱っています。特採品は「出荷してよい不適合品」という例外の扱いになるため、出荷ゲートの判定ロジックに例外として組み込む必要があります。例外の扱いを個別の手作業にすると、出荷ゲートの意味が薄れます。
識別と追跡:ロットとシリアルを出荷記録に結び付ける
本記事では、特採品は出荷した後も追跡できる状態にしておく必要があると考えます。客先から「あの特採品は、いつ、どこに、何個出たのか」と問われたときに、すぐに答えられる状態が目標です。
ISO 9001:2015 の 8.6 は、リリースについて、合否判定基準への適合の証拠と、リリースを正式に許可した人へのトレーサビリティを、文書化した情報として保持することを求めています(2015年版の条文です。2026年版で番号や文言が変わっている可能性があります)。特採品の場合、合否判定基準を満たしていないこと自体が前提です。そのため、リリースの記録には「どの特採の承認にもとづいて出荷したか」を結び付けておくことが大切だと本記事では考えます。
追跡に必要な結び付きは、次の3方向です。
- 特採番号から、対象のロットとシリアルを引く
- ロットとシリアルから、出荷指示、出荷日、顧客、納入先、数量を引く
- 顧客の問い合わせ(品番、ロット、納入日)から、該当する特採番号を引く
とくに3つ目の逆引きは、紙とメールの運用では難しくなります。出荷記録の側に特採番号を持たせ、どちらからでも検索できる構造にします。
製品側の例として、Oracle は Oracle Fusion Cloud Quality Management のデータシートで、ロット品とシリアル管理品の追跡のために系譜(genealogy)を記録できる、と説明しています。
工程内で見つかった不良のロットを特定し、原因をたどる仕組みは 工程内不良の追跡の記事 で扱っています。また、追跡の仕組みが実際に機能するかは、模擬回収のテストで確かめられます。テストの手順と受入基準は 模擬回収テストとトレーサビリティの記事 を参照してください。本記事では、特採品のロットを模擬回収の対象に含めることを勧めます。
是正処置との連携:同じ不適合の特採を繰り返さない
六つ目のブロックは、クローズです。ここで重要なのが、是正処置との連携です。特採は、目の前の不適合品をどう扱うかを決めるものです。不適合の原因をなくすものではありません。同じ不適合で特採が繰り返されているなら、原因が残っているということです。
前述の Oetiker Sweden のサプライヤーマニュアル(2018年版)は、逸脱の承認の申請に是正処置を含めることとしています。本記事では、この考え方をシステムに取り入れ、特採の申請と是正処置の記録を1対1または多対1で結び付けることを勧めます。是正処置の記録が無い特採は、クローズできないようにする設計も考えられます。
是正処置の進め方の一つに、8D があります。ASQ の説明では、8D は自動車業界でよく使われる問題解決の手法で、D1〜D8 の段階から成ります。特採との関係が深いのは次の段階です。
- D3:暫定の封じ込め計画を立てて実行する(問題を隔離する封じ込め処置)
- D4:根本原因を特定し、検証する
- D5:恒久的な修正を選び、検証する
- D6:是正処置を実施し、効果を確かめる
- D7:予防の処置をとる
特採は、D3 の暫定の封じ込めと並行して起きることが多いと本記事では考えます。D5 と D6 で恒久対策が効けば、同じ不適合の特採は繰り返されにくくなります。
前述のとおり、IATF の統計ページ(2026年9月28日更新)では、直近12か月の重大不適合の総量に占める箇条別シェアで、10.2.3 問題解決が 12.10%、10.2.1 不適合及び是正処置が 5.60% でした。特採の記録を是正処置と結び付けておくことは、こうした箇条への備えにもつながると本記事では考えます。
再発を見える化するには、特採の件数、理由、仕入先、工程、品番を集計します。製品側の例として、MasterControl は、不適合の傾向を材料、シフト、機械、仕入先などで分析できる、と説明しています。
是正処置の効果確認の運用は 是正処置と効果確認の記事 に任せます。恒久対策が図面や仕様の変更になる場合は、設計変更の流れに乗せます。版数と適用日の管理は 設計変更のPLMとERP連携の記事 を参照してください。
タイ製造物責任法と特採の記録
タイには製造物責任法があります。正式な英題は Liability for Damage Arising from Unsafe Goods Act B.E. 2551 で、一般に Product Liability Act B.E. 2551(2008年)と呼ばれます。以下の内容は、タイ消費者保護委員会事務局(OCPB)の職員による非公式英訳にもとづきます。公式にはタイ語の条文だけが有効です。また、本記事は法的助言ではありません。
| 条 | 内容の要点(非公式英訳による) |
|---|---|
| 第2条 | 官報掲載(2008年2月20日)から1年後に施行する |
| 第4条 | 不安全な製品(製造上の欠陥、設計上の欠陥、指示や警告の欠如などにより損害を生じる、または生じうる製品)、事業者(製造者または製造委託者、輸入者、製造者などを特定できない場合の販売者、製造者などと見える表示をした者)、損害を定義する |
| 第5条 | 消費者に販売された不安全な製品による損害について、すべての事業者は、故意か過失かを問わず、被害者に対して連帯して責任を負う |
| 第6条 | 被害者は損害が事業者の製品によることなどを立証するが、どの事業者が損害の原因かを立証する必要はない |
| 第7条 | 事業者は、(1) 製品が不安全な製品ではない、(2) 被害者が不安全であることを知っていた、(3) 正しく明確な使用方法や警告を表示していたのに誤った使用や保管で損害が生じた、のいずれかを立証すれば責任を負わない |
| 第8条 | 部品の製造者は、不安全さが完成品の製造者の設計、組立、指示、警告などに起因することを立証すれば責任を負わない |
| 第9条 | 損害発生前の消費者との合意や、事業者の通知によって、責任を免除または制限することはできない |
| 第11条(2) | 裁判所は、実際の損害額の2倍を上限として、懲罰的な賠償を命じることができる |
| 第12条 | 損害と賠償義務者を知った日から3年、または製品の販売日から10年で、請求できなくなる |
この法律の条文に、特採という語はありません。特採品が不安全な製品かどうかは、個別の事情で判断されるものです。
そのうえで本記事では、特採の承認記録、承認された条件、識別、追跡の文書化は、万一のときに第7条の立証に備えるための実務上の根拠になりうると考えます。たとえば、どの特性がどの限度内で不適合だったのか、誰がどの影響評価にもとづいて承認したのか、どのロットがどこに出荷されたのかを示せることは、事実関係の説明に役立ちます。一方で、記録があることで責任の有無が決まるわけではありません。法的な判断は、タイの法律の専門家に確認してください。
ERP、MES、QMS、WMSの役割分担
特採管理は、一つのシステムでは完結しにくい業務です。本記事では、データの流れを次のように整理します。
- 検査と不適合の発生:MES または QMS で、検査結果と不適合を記録する
- 特採の申請と承認:QMS で、申請、影響評価、処置区分、承認を管理する
- ロット状態と出荷停止:ERP または WMS で、ロットの状態、品質保留、出荷停止を管理する
- 出荷記録:ERP で、出荷指示、出荷実績、顧客、数量を記録する
- 是正処置:QMS で、是正処置と効果確認を管理する
どの機能をどの製品で持つかは、工場の既存システムによって変わります。参考として、各社の公式説明を帰属付きで、アルファベット順に紹介します。以下は機能の存在の紹介であり、優劣の比較や推奨ではありません。また、どの製品についても、特採の期限や数量上限を持つ専用の項目があるかどうかは、公式ページでは確認できていません。
| 製品(提供元) | 公式説明の要点(取得日 2026年10月17日) |
|---|---|
| ETQ Reliance(Octave Intelligence plc) | 同社は、Quality Events を、製品の品質や安全などに影響する計画外の事象や逸脱の調査を追跡、管理するアプリケーションと説明しています。逸脱管理には顧客苦情、計画逸脱、NCM、CAPA などが含まれると説明しています |
| Infor LN | Infor のドキュメント(LN 10.7)は、隔離在庫の処置として Return to Vendor、Rework、Reclassify、Scrap、Use as is を挙げ、NCR を発行できると説明しています |
| MasterControl | 同社は、不適合を開始、調査、推奨、処置、管理承認の5段階で進めると説明しています。逸脱管理の製品を他の品質事象の管理と統合できるとも説明しています |
| Microsoft Dynamics 365 Supply Chain Management | Microsoft Learn は、既定の不適合種別6種、不適合からの品質オーダーの作成、隔離オーダーによる在庫の分離を説明しています |
| Oracle Fusion Cloud Quality Management | 同社は、品質管理を Define、Identify、Analyze、Correct の4段階で説明し、品質問題や CAPA の解決が設計変更指示(ECO)のプロセスに直接つながると説明しています |
| PTC Windchill | PTC Help Center(Windchill 11.2.1.0)は、deviation を部品を作る前に製造仕様から外れる許可の要求、waiver を作られた後の不適合な材料の受入れの要求と説明しています |
| SAP S/4HANA Quality Management | SAP Learning は、品質技術者が検査結果を記録した後、品質エンジニアが検査ロットの合否を決める usage decision を説明しています。同コースには Quality Notifications、8D、Production Deviation などの単元があります |
| Siemens Opcenter X Quality | 同社は、クラウドの QMS として、不適合品に関する事象の記録と管理、PPAP の支援などを説明しています |
PTC の deviation と waiver が、ISO 9000 の逸脱許可と特別採用にそれぞれ対応するというのは、本記事の解釈であり、PTC の記述ではありません。SAP の usage decision は、検査ロットの合否を決め、在庫区分へ転記する操作として説明されています。
製品を選ぶ前に、自社の業務で「どのデータを、どのシステムが正とするか」を決めることが先です。とくに、特採の承認状態をどのシステムが持ち、ERP や WMS がそれをどのタイミングで受け取るかは、条件付き出荷の確実さに直結します。MES の選定の進め方は タイのMES選定ガイドの記事 で扱っています。
タイの工場で起きやすいつまずき
ここでは、タイの工場で特採管理をシステム化するときに、つまずきやすい点を本記事の見解として挙げます。数値の根拠があるものではなく、設計時に確認しておきたい論点の整理です。
一つ目は、本社標準と現地の顧客要求の二重基準です。日系本社の品質規程と、タイの顧客ごとの要求が食い違うことがあります。どちらを優先するかを決めないままシステムに載せると、承認経路が複雑になります。顧客ごとの要求をマスタで持ち、本社標準との関係を明文化しておくことを勧めます。
二つ目は、申請と承認の言語です。現場はタイ語、技術者は英語、本社は日本語という工場は珍しくありません。画面の言語を切り替えられても、自由記述の欄は書いた人の言語のまま残ります。不適合の内容は、選択式の項目(特性、不適合の種類)と測定値で記述し、自由記述に頼りすぎない設計が有効です。
三つ目は、承認者が不在のときの代理と権限です。承認者が出張や休暇で不在のとき、誰が代理で承認できるかを決めておかないと、特採が止まるか、権限の無い人が承認してしまいます。代理承認の範囲(処置区分、金額、顧客)を定義し、代理で承認した記録を残します。
四つ目は、移行のハイブリッド期間です。システム導入の直後は、メールでの承認や紙の署名が残りがちです。システムの外で承認された特採をどう登録するか、登録までの間に出荷を止めるかどうかを、移行計画で決めておきます。
五つ目は、仕入先からの申請を転送するだけになることです。仕入先の特採申請を、そのまま自社の顧客に転送している工場もあります。自社としての影響評価が記録に残らず、顧客から問われたときに説明できません。
六つ目は、期限切れの特採品の在庫です。期限が切れた後も、特採品が倉庫に残っていることがあります。期限切れの在庫を一覧で出し、再申請、手直し、スクラップのどれにするかを決める運用が必要です。
七つ目は、BOI の恩典を受けた保税原材料を使っている場合の、スクラップの扱いです。スクラップの手続きは BOI の規則と関係することがあります。本記事では詳細を扱いませんが、スクラップの処置区分を設計するときに、BOI 関連の担当部署と確認しておくことを勧めます。
RFPに書く要件:特採管理システムの機能と連携
ここからは、RFP(提案依頼書)に書く要件の例です。本記事の見解として整理したもので、顧客要求や規格の代替ではありません。
| 区分 | RFP に書く要件の例 |
|---|---|
| 不適合の記述 | 品番、ロット番号、シリアル番号、数量、特性、規格値と公差、測定値を必須項目として持てる |
| 疑わしい製品 | 同じ材料、設備、条件で作った他ロットを範囲として指定し、まとめて保留できる |
| 影響評価 | 機能、安全、顧客仕様、法規の評価結果と評価者を記録できる |
| 処置区分 | そのまま使用、手直し、修理、再格付け、スクラップを選べ、区分ごとに必須項目を変えられる |
| 承認経路 | 処置区分と顧客要求の組み合わせで承認経路を決められる。代理承認の範囲を定義できる |
| 顧客承認 | 顧客の承認番号、承認者、承認日、承認文書を添付できる。承認された条件を実行条件として登録できる |
| 条件の実行制御 | 数量上限、期限、識別、追加検査、用途の限定を条件として持ち、出荷指示の段階で照合できる |
| ERP と WMS の連携 | 特採の状態と残数量を連携し、条件を外れたロットを出荷停止にできる。品質保留の状態と矛盾しない |
| 追跡 | 特採番号、ロット、シリアル、出荷記録を相互に検索できる |
| 是正処置の連携 | 特採と是正処置を結び付け、件数、理由、仕入先、工程で傾向を集計できる |
| 監査証跡と記録保管 | 誰が、いつ、何を、なぜ変更したかを残す。記録の保管期間を設定できる |
| 多言語 | タイ語、英語、日本語の画面と帳票を持てる |
| 仕入先の申請 | 仕入先からの特採申請を受け付け、回答と受入の条件に反映できる |
| データのエクスポート | 特採の記録と添付を、汎用の形式でまとめて出力できる |
| 文書 | FAT と SAT の計画書、手順書、結果報告書を納品物に含める |
RFP では、機能の有無だけでなく、「どの画面で、誰が、どの記録を使って」行うかを書くと、提案の比較がしやすくなると本記事では考えます。とくに、条件の実行制御が QMS の画面の中だけで終わるのか、ERP や WMS の出荷指示まで止められるのかは、提案ごとに差が出やすい点です。
FAT/SATの受入基準:特採の条件が本当に止まるかを確かめる
FAT(工場出荷前の受入試験)と SAT(現地での受入試験)では、特採の条件が実際に止まるかどうかを確かめます。以下は本記事の見解としての受入基準の例です。
| 試験 | 受入基準の例 |
|---|---|
| FAT | 模擬データで、申請、承認、条件付き出荷、クローズの一連の流れが通る |
| FAT | 数量上限を超える出荷指示が止まる |
| FAT | 期限を過ぎた特採が自動で失効し、対象ロットを出荷できない |
| FAT | 承認の無い特採品を出荷できない |
| FAT | 特採品ロットの出荷先を、特採番号から逆引きできる |
| FAT | 監査証跡に、誰が、いつ、何を、なぜ変更したかが残る |
| SAT | 実際のロットとシリアルで、ERP や WMS の出荷停止が連動する |
| SAT | 仕入先からの特採申請を受け付け、受入の条件に反映できる |
| SAT | 停電や通信断の後に、承認状態と出荷停止の状態が正しく復旧する |
| SAT | 特採の記録と添付をエクスポートし、内容を確認できる |
本記事では、FAT と SAT の結果は、合否の一覧だけでなく、試験で使ったデータと記録そのものを受け取ることを勧めます。たとえば、数量上限の試験では、承認された数量、出荷指示の数量、止まった時点の残数量を記録で受け取り、自社で検算します。結果の画面の写しだけでは、条件が正しく判定されたかを後から確かめられません。
費用と効果のモデル試算(仮の数字)
ここでは、費用と効果の考え方を示すために、モデル試算を置きます。以下は、この記事のための仮の数字です。実在の工場の数値ではありません。
想定する工場は、タイの日系自動車部品工場です。年間の特採申請(社内特採と、顧客承認を要する特採の合計)は360件(月30件)とします。申請は紙とメールで行い、承認状況は品質保証の担当者が Excel で追っています。数量上限や期限の超過、識別漏れ、出荷記録との不一致が後から見つかり、再選別、再検査、客先対応、出荷遅延が発生しています。ここに、申請、影響評価、処置区分別の承認経路、条件の実行制御、ERP や WMS との連携、是正処置との連携を持つ特採管理システムを導入します。
費目は、特採に関わる2項目だけを数えます。品質コスト全般、不良そのものの損失、年間のライセンスと保守の費用は数えていません。
| 項目 | 現状 | 基準ケース後 | 感度ケース後 |
|---|---|---|---|
| A 1件あたりの工数(申請側+承認側+顧客連絡) | 2.0+3.0+1.0=6.0時間 | 1.0+1.5+0.5=3.0時間 | 1.0+2.5+0.5=4.0時間 |
| A 年間の工数(×360件) | 2,160人時 | 1,080人時 | 1,440人時 |
| A 年間の費用(人時単価 200 THB、仮) | 432,000 THB | 216,000 THB | 288,000 THB |
| B 条件の未遵守の件数 | 年36件(申請の10%) | 年9件 | 年18件 |
| B 1件あたりの手戻り費用(仮) | 12,500 THB | 10,000 THB | 10,000 THB |
| B 年間の費用 | 450,000 THB | 90,000 THB | 180,000 THB |
| 年間費用の合計(A+B) | 882,000 THB | 306,000 THB | 468,000 THB |
| 年間の削減額 | - | 576,000 THB | 414,000 THB |
| 回収期間(初期費用 1,800,000 THB) | - | 約3.13年 | 約4.35年 |
初期費用は 1,800,000 THB とします。内訳は、QMS ソフトウェアとワークフローの設定 700,000 THB、ERP、MES、WMS との連携 500,000 THB、マスタ整備(処置区分、承認経路、顧客別の要求)と教育 300,000 THB、FAT と SAT と文書 300,000 THB です(700,000+500,000+300,000+300,000=1,800,000 THB)。
基準ケースでは、A は1件あたり 3.0時間 × 360件 = 1,080人時で、1,080 × 200 = 216,000 THB/年になります(削減 216,000 THB)。B は、条件の実行制御で未遵守が年9件に減り、記録がそろうことで1件あたりの費用も 10,000 THB に下がるとして、9 × 10,000 = 90,000 THB/年です(削減 360,000 THB)。対策後の合計は 306,000 THB/年で、削減は 882,000 − 306,000 = 576,000 THB/年です。回収期間は 1,800,000 ÷ 576,000 ≈ 3.13年(約3年2か月)です。
感度ケースは、顧客承認の往復がメールのまま残り、承認側の工数が1件 2.5時間までしか減らず、条件の未遵守も年18件までしか減らない場合です。A は 4.0時間 × 360件 = 1,440人時で、1,440 × 200 = 288,000 THB/年(削減 144,000 THB)です。B は 18 × 10,000 = 180,000 THB/年(削減 270,000 THB)です。対策後の合計は 468,000 THB/年で、削減は 882,000 − 468,000 = 414,000 THB/年です。回収期間は 1,800,000 ÷ 414,000 ≈ 4.35年(約4年4か月)です。

図3 現状、基準ケース後、感度ケース後の年間費用(A 工数と B 手戻り費用の積み上げ)と、削減額と回収期間です。この記事のための仮の数字です。
読み方を補足します。回収期間は、承認の往復が顧客承認を含めてシステムの中で完結するかどうかと、条件の未遵守の件数と1件あたりの費用によって大きく変わります。基準ケースと感度ケースの差は、主にこの2点から生じています。また、年間のライセンスと保守の費用は別に見込む必要があり、それを含めると回収はさらに長くなります。
本記事では、導入の前に、直近1年の特採申請の件数、1件あたりの申請と承認の人時、条件の未遵守の件数と対応費用を記録しておくことを勧めます。これが無いと、導入後の効果を確かめられません。なお、特採管理システムの導入そのものが不適合の発生を減らすわけではありません。効くのは、特採の決定と条件の管理、記録、再発の見える化です。不適合そのものを減らすのは、是正処置の役割です。
よくある質問:特採と逸脱許可、顧客承認、期限と数量
特採(特別採用)とは何ですか?
規定要求事項に適合していない製品の使用またはリリースを認めることです(ISO 9000:2015、JIS Q 9000:2015 の 3.12.5 の定義。2026年版で番号や文言が変わっている可能性があります)。日本でいう「特採」は、JIS の「特別採用」の略称です。
特採と逸脱許可の違いは何ですか?
特採は、すでに不適合となった製品の使用またはリリースを認めるものです。逸脱許可は、製品の実現に先立って、当初の要求事項からの逸脱を認めるものです(いずれも JIS Q 9000:2015 の定義)。作った後か、作る前か、が大きな違いです。
特採をすれば製品は適合になりますか?
なりません。特採を受けても、製品は不適合のままです。特採は、決められた限度、数量、期間、用途の範囲で、その製品を使うことや出荷することを認めるものです。そのため、識別と追跡の記録が必要になります。
特採には必ず顧客の承認が必要ですか?
一律には言えません。顧客承認が必要かどうかは、顧客要求と適用される規格で決まります。たとえば IATF 16949:2016 の 8.7.1.1(SI 9、2017年10月発効)は、承認済みと異なる製品や製造工程で進める前の顧客の特採または逸脱許可と、そのまま使用や rework for repair の処置で進める前の顧客承認を求めています。顧客ごとの要求は、契約や顧客の品質マニュアルで確認してください。
特採の期限や数量上限はどう決めますか?
ISO 9000:2015 の定義の注記は、特採は一般に数量または期間を限定して与えられると述べていますが、具体的な数値の要件はありません。顧客側のルールの一例として、Oetiker Sweden のサプライヤーマニュアル(2018年版)は、逸脱の承認を納入期間、注文、または数量に限定し、恒久的な逸脱を認めず、数量にもとづく承認が望ましいとしています。実際の上限と期限は、影響評価と顧客の承認条件で決めます。
特採の記録には何を残しますか?
ISO 9001:2015 の 8.7.2 は、a) 不適合、b) とった処置、c) 取得した特別採用、d) 不適合に関する処置について決定する権限をもつ者、を記載した文書化した情報の保持を求めています(2015年版の条文。2026年版で番号や文言が変わっている可能性があります)。本記事では、これに加えて、承認された条件、識別、対象ロットと出荷記録、是正処置との結び付きを残すことを勧めます。
特採管理システムのRFPとFAT/SATで最低限確認することは?
本記事の見解では、次の4点です。数量上限を超える出荷指示が止まること。期限を過ぎた特採が自動で失効すること。承認の無い特採品を出荷できないこと。特採番号から出荷先を逆引きできること。あわせて、試験のデータと記録を受け取り、自社で検算することを勧めます。
まとめ
- 特採(特別採用)は、不適合品を適合にする手続きではありません。製品は不適合のままで、条件付きで使用や出荷を認めるものです。
- 逸脱許可は製造前、特採は製造後の許可です。どちらも数量または期間を限定して与えられるのが一般的です。
- 規格の条文は、ISO 9001:2015 の 8.7 と IATF 16949:2016 の 8.7.1.1(SI 9)の範囲で確認しました。ISO 9001:2026 で番号や文言が変わっている可能性があります。
- 顧客承認が必要かどうかは、顧客要求と適用される規格で決まります。マスタで持ち、申請時に判定する設計を勧めます。
- システムの中心は、数量上限、期限、識別、追加検査を ERP や WMS の出荷指示まで実行制御することです。
- 特採品のロットとシリアルを出荷記録と結び付け、どちらからでも逆引きできるようにします。
- 特採を是正処置と結び付け、同じ不適合の特採が繰り返されないようにします。
- 費用試算は仮の数字ですが、回収期間は承認の往復と条件の未遵守の件数で大きく変わります。導入前に現状を記録しておくことを勧めます。
TOMAS TECH は、タイの製造業向けに、ERP、MES、QMS、WMS の連携設計から RFP の作成支援、FAT と SAT の計画まで、IT と OT の両面からご支援しています。特採管理の仕組みづくりについてのご相談は、お問い合わせページ からお気軽にご連絡ください。
参考情報
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- ISO, ISO 9000:2026 Quality management — Fundamentals and vocabulary(Edition 5、2026年5月発行、ISO 9000:2015 は撤回)
- JIS Q 9001:2015 品質マネジメントシステム-要求事項(ISO 9001:2015 一致翻訳、kikakurui.com 公開テキスト)
- JIS Q 9000:2015 品質マネジメントシステム-基本及び用語(ISO 9000:2015 一致翻訳、kikakurui.com 公開テキスト)
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- European Union Agency for Railways, Railway Terminology Collection: Deviation permit(出典 ISO 9000:2015)
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- SAP Learning, Applying SAP S/4HANA Quality Management: Executing a Usage Decision
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- Advisera, ISO 9001:2015 vs. ISO 9001:2026 – Main differences(二次資料)