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2026.10.06

取出しロボットの選定|射出成形のサイクル短縮とタイ工場のRFP

取出しロボットの選定|射出成形のサイクル短縮とタイ工場のRFP

「成形機ごとに作業者が張り付いて、安全扉を開けて手で成形品を取り出し、ゲートをカットして箱に詰めている。取出しロボットを入れたいが、どの方式をどの大きさで選び、何を仕様書に書けばいいのか分からない」。タイのラヨーン、チョンブリー、アユタヤ、サムットプラーカーンの日系樹脂成形工場で、生産技術や成形の担当の方からよく聞く相談です。取出しロボットの選定というと、まず型締力と可搬重量を見比べがちです。しかし、この2つだけで選ぶと、期待したほど人もサイクルも減りません。

効果を決めるのは、次の2つです。

  • 型が開いている間に、手やハンドが型内にいる時間(取出し時間)
  • 取り出した後のゲートカット、検査、箱詰めを、誰がどの速さでやるか

そこで本記事では、選定を次の3つの順番で進めることを提案します。

  • 型締力、成形品、金型(2プレートか3プレートか、スプルーの有無)から方式を絞る
  • 取出し時間と後工程の処理時間をサイクルの内訳として数字で出し、1人が何台を見られるかを先に決めてからRFP(見積依頼書)を書く
  • 成形機との信号インターフェース(EUROMAP 67など)は「工程の連動信号」と「安全関連信号」を分けて仕様書に書かせ、FAT/SAT(出荷前と現地の受入試験)で試験する

なお、本記事に登場する秒数、ショット数、人数、金額、年数のうち、後述の「モデル工場M」に関するものは、すべて本記事オリジナルの試算値・想定値です。業界平均でも調査値でもありません。自社の数字に置き換えて使う「計算の型」として読んでください。

取出しロボットとは — 方式の比較と型締力の目安

4つの方式

射出成形の取出し自動化に使われる装置は、大きく4つの方式に分けて考えると整理しやすくなります。

方式主な役割向いている場面の例選定で見る点
スプルーピッカースプルーやランナーの取出し小型機、ランナーを分離して落とす工程製品取出しまで任せられる機種か
トラバース型(直交)取出しロボット成形品の取出し、整列、受渡し小型から超大型までよく使われる可搬重量、ストローク、軸数、3プレート対応
サイドエントリー(側面取出し)型の側面から高速に取出し薄肉品、ハイサイクル床置きの設置スペース、成形機との位置関係
多関節ロボット、協働ロボット取出しと後工程(インサート、検査、箱詰め)の兼務後工程が複雑、品種切替が多い成形機インターフェース、安全の設計

スプルーピッカーは、本来はスプルーやランナーを取り出す小型の装置です。Wittmann社のロボット総合カタログ(2026年3月版)によると、同社のスプルー取出し機WX90はサーボ駆動の自由プログラム軸を持ち、成形機の安全囲いの中の狭い空間で簡単な製品取出しもこなせ、型締力35〜150 tの成形機に対応するとされています。ただし、これはWX90についてのメーカー公称であり、スプルーピッカー全般が製品取出しに使えるとは限りません。

トラバース型取出しロボットは、成形機の上に載せて直交の軸で型内に下りる方式で、よく使われる方式です。日本のハーモ(HARMO)の公式英語サイトのラインナップによると、同社のトラバース型サーボロボットは、標準機のHRXⅢ-bシリーズが15〜70 t級から400〜1300 t級まで、超大型のTRXシリーズが850〜1300 t級から2000〜4000 t級までをカバーしています。これは各シリーズの最小機種の下限から最大機種の上限までの幅で、1機種でその全範囲を扱えるわけではありません。同じサイトでは、海外向け小型機ARXⅢ-80の型式がSW(2プレート用)とGW(3プレート用)に分かれており、3プレート金型でランナーを同時に取り出すかどうかで型式が変わることが分かります。

サイドエントリーは、型の側面からハンドを差し込む方式です。Shini社によると、同社のサイドエントリーロボットSSEはサイクル6秒未満の薄肉製品向けで、型締力400 t未満の成形機に適合し、成形機とは別に床に置く設計です。1社の製品例であり、全社共通の定義ではありませんが、「薄肉でハイサイクルの用途」の代表例として押さえておくとよいでしょう。

多関節ロボットや協働ロボットも、成形機との信号インターフェースを持たせれば取出しに使えます。安川電機(Motoman)によると、同社のSPI-67は、ロボットと横型成形機を物理的に結ぶインターフェースで、扉の状態、ロボット運転中、エジェクタ位置などの標準的なハンドシェイク信号を伝え、二重化した安全信号で成形機に直接接続でき、オプションにEUROMAP 67のコネクタも含むとされています。協働ロボットの導入費用の考え方は協働ロボット 価格|本体は総額の半分以下、タイ工場の見積と回収で詳しく整理しています。

型締力で構造を選ぶ(メーカーの区分の例)

Wittmann社のカタログは「ロボット選定で最初に考えるのは成形機の型締力」とし、次のように構造を分けています。

型締力の範囲(Wittmannの区分)適するとされる構造
20〜300 t固定式のデモールド軸
300〜1,200 t可動式のデモールド軸(複雑なグリッパーの余地と全高の抑制)
1,200〜5,000 t可動X軸方式(大型グリッパー、追加の回転軸向け)

これはWittmann社の推奨区分であり、業界標準ではありません。他社の区分線とは一致しないので、「何トンならこの構造」と決め打ちせず、候補メーカーごとに提案理由を書かせるのが確実です。

新製品の動き(K 2025とFakuma 2026)

2025年10月のK 2025(ドイツ・デュッセルドルフ)では各社が取出しロボットの新製品を発表しました。業界誌Plastics Technologyによると、Sepro社は型締力最大900 tの成形機向けロボットを再設計した新S-LineをK 2025でデビューさせ、前世代比15%の高速化をうたっています。WittmannはPrimus 118を初公開し、Primus直交ロボットの適用範囲を型締力最大250 tの成形機まで広げました。ユーシン精機も、スウェーデンのグループ会社Wemoと共同で出展し、高速取出しロボットと自動化システムを展示すると告知していました。

また、国際プラスチック加工見本市Fakuma 2026は、2026年10月12〜16日にドイツのフリードリヒスハーフェンで開かれます。本記事の公開の翌週です。新製品の情報は会期後に各社の発表で確かめてください。

カタログの「サイクル時間」を取出し時間と読み違えない

取出しロボットの比較でいちばん多い読み違いが、カタログの「サイクル時間」です。Wittmannのカタログの仕様表には、機種ごとに「Typical application cycle time」が載っていますが、注記で「成形機+ロボット+周辺自動化のセル全体のサイクル時間」と説明されています。つまり、これはロボットが型内にいる取出し時間ではなく、セル全体の値です。

同様に、メーカーがうたう短縮率も、何を短縮したのかを必ず確認してください。

  • Wittmannのニュースリリース(2021年4月)によると、プラテンが完全に開く前にロボット軸の先行進入を始める機能「SmartRemoval」で、型開時間を10〜30%短縮できるとされています。これはサイクル全体の短縮率ではありません。
  • ハーモによると、2軸サーボスイング型のEXZⅡは、エア式ロボット比で取出し時間を62%短縮、生産性を15%向上し、段取り調整時間を5分から30秒に縮めるとされています。
  • 業界誌Plastics Machinery & Manufacturing(2019年)によると、ユーシン精機の大型機MKA-2000Sは前世代比で取出し時間17%、サイクル時間10%の短縮をうたっています。
  • Sepro S-Lineの15%の高速化も、前世代機との比較です。

いずれも各社の自社比較で、金型や成形機などの条件は公開されていません。他社機との比較や自社工場での効果の予測にそのまま使うことはできません。RFPでは「取出し時間(型開完了からハンドが型外に出て型閉許可を出すまで)」と「セル全体のサイクル時間」を分けて、自社の金型を前提に提示させましょう。

効果はサイクルの内訳で決まる — モデル試算1

モデル工場Mの前提

ここからは、架空のモデル工場Mで考えます。前提は次のとおりです。

  • タイ・ラヨーン県の日系自動車部品メーカー。型締力350 tの射出成形機10台で内装部品を成形。金型は2個取り(1ショットで2個)
  • 2交替(12時間×2)で、段取りや停止を除いた実稼働は1日20時間=72,000秒
  • 現状は成形機1台に作業者1人が張り付き、安全扉を開けて手で取り出し、ゲートカット、目視検査、箱詰めまでを行う。10台×1人×2交替=20人
  • 1人あたりの年間人件費は、残業、賞与、社会保険、採用・離職のコストを含めた想定値として月20,000バーツ、年240,000バーツ
  • 後工程(ゲートカット+目視検査+箱詰め)の手作業時間は1個あたり7秒

人件費の想定値は最低賃金そのものではありません。タイの最低賃金は、DLA Piperの解説によると2025年7月改定時点で日額337〜400バーツ(400バーツはバンコク、チョンブリー、ラヨーンなど)ですが、モデルでは周辺コストを含めた総額を置いています。

取出しの10秒が2秒になる

モデル工場Mのサイクルの内訳を、手取出しと取出しロボットで比べると次のようになります。

要素手取出し(現状)取出しロボット
射出・保圧・冷却26秒26秒
型開・型閉4秒4秒
取出し(安全扉の開閉、手やハンドが型内にある時間)10秒2秒
成形サイクル40秒32秒
取出しロボットの選定|射出成形のサイクル短縮とタイ工場のRFP - figure 1

図1:手取出しとロボットのサイクル内訳(横棒、26/4/10秒と26/4/2秒)

手取出しでは、サイクルの25%(10÷40)が取出しに使われています。ロボットではこれが約6%(2÷32=6.25%)になります。サイクルは8秒短くなり、短縮率は20%(40秒→32秒)です。

1台1日のショット数は、72,000÷40=1,800ショットから、72,000÷32=2,250ショットに増えます。2個取りなので、個数では3,600個から4,500個です。生産能力は25%増(2,250÷1,800=1.25)になります。

ここで3つ注意があります。

  1. 冷却時間はロボットでは縮みません。射出、保圧、冷却の26秒は、製品と金型で決まります。ロボットが縮めるのは、取出しの時間だけです。
  2. 取出しの10秒と2秒は、本記事のモデルの想定値で、メーカー公称値ではありません。自社の成形機で、ストップウォッチや成形機のサイクルログを使って実測してください。射出成形のショット実績を自動で集める仕組みは生産管理システム 射出成形|導入要件2026で解説しています。
  3. 手取出しでは、扉を開けるタイミングが人によってばらつき、実質的な冷却時間が揺れて、寸法や外観に響くことがあります。ロボットで取出しのタイミングがそろうことは品質面の利点ですが、本記事の試算には入れていません。

律速は後工程に移る — 1人が何台を見られるか

取出しロボットだけでは、人は半分までしか減らない

取出しロボットを入れると、成形機1台の出来高は「32秒ごとに2個」になります。では、ゲートカット、検査、箱詰めを人が続ける場合、1人で何台を担当できるでしょうか。

  • 案A(取出しロボットのみ。ゲートカット、検査、箱詰めは人): 1人が2台を担当すると、32秒の間に4個×7秒=28秒の作業が発生し、負荷は87.5%(28÷32)です。1人3台にすると6個×7秒=42秒で、負荷は約131%(131.25%)となり回りません。したがって1人2台が上限で、1交替5人×2交替=10人になります。
  • 案B(取出しロボット+ゲートカット治具ステーション+画像検査+自動箱詰め): 人の仕事は段ボールの補充、満箱の搬出、NG品の処理だけになります。1人5台を担当でき、1交替2人×2交替=4人です。

参考までに、現状の手取出しの1人の負荷を計算すると、(取出し10秒+2個×7秒)÷40秒=60%です。手取出しで人が要るのは「忙しいから」ではなく、「張り付かないと回らないから」です。取出しロボットはこの「張り付き」を外しますが、外した後に残る後工程の手作業が、1人が見られる台数の上限を決めます。

RFPの前に後工程の秒数を測る

この計算から分かるのは、ロボットだけを入れても、人の削減は後工程の手作業時間で頭打ちになるということです。1個あたりの秒数が変われば、1人が見られる台数もそのまま変わります。だからRFPを書く前に、ゲートカット、検査、箱詰めの秒数を製品ごとに測ってください。

後工程を自動化する場合の要素技術は、それぞれ専用の検討が要ります。画像検査はロボットビジョン導入の費用と投資回収|供給・精度・照明で決まる、箱詰めは箱詰め自動化ロボット2026|止まるのは詰める工程ではないを参照してください。

投資額と回収のモデル試算 — 人件費だけで見ると遅い

1台あたりの投資

モデル工場Mの1台あたりの投資を、次のように想定します(単位はバーツ、すべて本記事の想定値で市場価格ではありません。取出しロボットの価格は公開情報が見当たらないため、実際の金額は見積で確かめてください)。

費目案A案B
取出しロボット本体(3軸サーボのトラバース型、350 t級)900,000900,000
安全柵・インターロック・成形機との信号接続150,000150,000
落下シュート・取出しコンベヤ100,000100,000
据付・ティーチング・FAT/SAT・教育80,00080,000
ゲートカット治具ステーション—400,000
画像検査—250,000
自動箱詰め—350,000
1台あたり合計1,230,0002,230,000
10台の合計12,300,00022,300,000

見方1: 需要が今のまま(人件費の削減だけで見る)

需要が変わらない場合、効果は人件費の削減だけです。

項目案A案B
人数20人→10人20人→4人
人件費の削減10人×240,000=2,400,00016人×240,000=3,840,000
保守費(年)30,000×10台=300,00060,000×10台=600,000
純便益(年)2,100,0003,240,000
投資額12,300,00022,300,000
単純回収約5.9年約6.9年
5年累計−1,800,000−6,100,000

案Aは12,300,000÷2,100,000=約5.9年、案Bは22,300,000÷3,240,000=約6.9年で回収です。5年累計は、案Aが2,100,000×5−12,300,000=−1,800,000バーツ、案Bが3,240,000×5−22,300,000=−6,100,000バーツで、どちらも5年では回収できません。案Bの追加投資10,000,000バーツに対し、純便益の差は年1,140,000バーツなので、追加分の回収には約8.8年かかります。

つまり、タイの人件費水準では、人件費の削減だけで見ると回収が5年を超えます。後工程まで自動化する案Bは、人件費だけでは正当化しにくい選択肢です。案Bが生きるのは、「人が採れない」「品質クレームで全数の画像検査が必要になった」など、人件費以外の理由があるときです。

見方2: 需要が20%増える(増産の余力で見る)

次に、需要が20%増える場合を考えます。これは見方1とは別の前提(別の世界線)で、見方1の効果に足すものではありません。また、ここでは案Aだけを計算します。

  • 必要なショット数は、現状10台×1,800=18,000ショット/日から、20%増で21,600ショット/日になります。
  • 手取出しのまま対応する場合: 21,600÷1,800=12台が必要です。成形機を2台追加購入することになり、1台4,500,000バーツ(付帯工事込みの想定値)として9,000,000バーツです。作業者は12台×2交替=24人になります。
  • 案Aで対応する場合: 21,600÷2,250=9.6台分なので、既存の10台で足ります(稼働率96%)。作業者は10人のままで、1人2台の負荷は87.5%×0.96=84%なので回ります。

この場合の比較の基準は「手取出しのまま12台・24人で増産する場合」です。

項目案A(見方2)
実質投資12,300,000−9,000,000=3,300,000
人件費の差(24人−10人)=14人×240,000=3,360,000
保守費(年)300,000
純便益(年)3,060,000
単純回収約1.1年
5年累計3,060,000×5−3,300,000=12,000,000
取出しロボットの選定|射出成形のサイクル短縮とタイ工場のRFP - figure 2

図2:累積キャッシュフロー(見方1の案A・案B、見方2の案Aの3本の線、0〜5年)

同じ案Aでも、需要が今のままなら回収に約5.9年、需要が20%増えるなら約1.1年です。違いを生んでいるのは、成形機を2台買わずに済むことです。需要が伸びる工場では、取出しロボットの価値は人件費の削減よりも、サイクル短縮による増産の余力に表れます。

試算に入れていないもの

  • 見方2では、追加する成形機2台の保守費、電力、床面積、金型の追加は入れていません。入れれば案Aはさらに有利になります。
  • 不良率の改善、労災リスクの低下、品質の安定は、どちらの見方にも入れていません(保守的な試算です)。
  • BOIの恩典も入れていません。使えれば回収はさらに短くなりえます。
  • 成形機1台の価格4,500,000バーツも本記事の想定値で、市場価格ではありません。

回収計算を自社でやり直すときは、まず「需要が今後どうなるか」を決め、その前提に合う見方を1つだけ選んでください。2つの見方の効果を足し合わせると、同じ効果を二重に数えることになります。

成形機との信号インターフェースと安全 — 工程信号と安全信号を分ける

EUROMAP 67で何をやり取りするか

取出しロボットと成形機は、信号のやり取りで動きを合わせます。ASTOR社の解説(2025年7月)によると、EUROMAP 67は欧州プラスチック・ゴム機械工業会(EUROMAP)が策定した成形機と産業用ロボットの間の電気インターフェース規格で、信号の例として、エジェクタの後退許可と前進許可、それぞれの位置確認、型開完了、扉の状態、ロボット運転中、エジェクタ位置などがあります。ロボットは、型から製品を取る前に、成形機がサイクルを終えて型が開いていることを確かめなければなりません。旧規格のEUROMAP 12に対応した成形機もあるため、既存機の対応規格は1台ずつ確認しましょう。

新しい動きとしては、OPC Foundationが成形機とロボットの間のOPC UAインターフェース「OPC 40079」を公開しています。同財団の文書ページによると、V1.00は2021年10月31日付のRelease Candidateで、リアルタイムの信号交換、軸位置、許可信号、部品のトラッキング、生産データや品質データの交換を含みます。採用している成形機・ロボットがあるかは、候補メーカーに確認してください。

「型内領域空き(MAF)」は安全信号ではない

ここで最も注意したいのが、信号の安全上の位置づけです。台湾の射出成形機メーカーHuarong社の解説(2026年5月)は、成形機とロボットの間の主な信号として、型開と型閉、エジェクタの前進と後退、型内領域空き(Mould Area Free、MAF。ロボットが危険領域の外にいること)、型閉許可、双方向の非常停止、安全扉のインターロックを挙げたうえで、シーケンスを制御する「工程インターロック信号」と、危険な動きを防ぐ「安全関連信号」(非常停止、安全扉、ライトカーテン)を区別すべきだとしています。

協働ロボットのUniversal Robots(UR)社は、2021年11月の安全通知で、同社の成形機インターフェース製品について、成形機からの安全関連入力は非常停止と保護停止の2つだけであり、MAFの配線は非安全の信号で、ロボットや成形機の停止に使ってはならないと警告しています。これはUR製品についての通知ですが、「型内領域空きの信号が来ているから、ロボットが型内にいる間は型が閉じない」と安全の根拠にしてしまう誤解は、どのメーカーの組み合わせでも起こりえます。

したがって、RFPでは信号ごとに「工程の連動信号」か「安全関連信号」かを分けた区分表を提出させてください。Wittmannが説明するような、真空監視で製品保持を確かめた時点でロボットが型外に出る直前に型閉許可を出すといった工程側の工夫は、サイクル短縮には有効ですが、あくまで工程の連動であり、安全機能とは別に設計・確認されるべきものです。

参照する規格と、確認できていないこと

安全の設計では、成形機側とロボット側の両方の規格を参照します。

  • EN ISO 20430:2020: 射出成形機の安全要求を定める規格で、エストニア規格協会(EVS)の販売ページによると、従来のEN 201:2009を置き換えました。プラテンの移動が油圧または電動の機械が対象で、金型と排気システムは機械の一部ではないとされています。
  • ISO 10218-1/-2:2025: 産業用ロボット(Part 1)と、ロボットのアプリケーション・セル(Part 2)の安全要求で、EN版の有効日は2025年4月1日です。

ただし、両規格の適用の境界や、トラバース型の取出し機がISO 10218でいう産業用ロボットに当たるかどうかは、公開された要旨では確認できませんでした。どちらか一方の規格だけで済むと決めつけず、成形機側とロボット側の両方の規格を参照したうえで、どの危険源をどちらの責任範囲で扱うかをRFPで明記させ、リスクアセスメントを提出させてください。適用の判断は、規格や認証の専門家に個別に確認するのが確実です。安全柵の考え方はロボット安全柵の規格2026|要否を決めるのは柵ではなく停止距離も参考になります。

米国労働安全衛生局(OSHA)の横型射出成形機の安全解説は、操作側の扉には閉じているときだけ機械が動くインターロックを付けること、製品の排出口にガードを付けて型内へ手が届かないようにすること、ロボットは運転中に作業者がその空間に入れないようガードすることなどを挙げています。これは米国の行政資料でタイの法的要件ではありませんが、設計の確認項目として参考になります。

取出しロボットの選定でRFP・見積依頼に書く12項目

取出しロボットの比較を公平にするには、各社に同じ前提で提案させることが欠かせません。RFPには最低限、次の12項目を書きましょう。

  1. 成形機と金型の仕様: 成形機のメーカー、型式、型締力、型開ストローク、タイバー間隔、取付面。金型は2プレートか3プレートか、取り数、スプルーやランナーの有無。
  2. 成形品とハンド: 成形品の重量、寸法、材質、取出し姿勢、傷や変形の許容。ハンド(吸着かチャックか、真空監視の有無)を含めた重量の合計を示し、可搬重量に余裕を持たせる。
  3. 方式の提案理由: スプルーピッカー、トラバース型、サイドエントリー、多関節・協働のどれを、なぜ提案するのか。
  4. 取出し時間の保証値: 型開完了からハンドが型外に出て型閉許可を出すまでの時間と、セル全体のサイクル時間を分けて提示させる。
  5. 信号インターフェース: EUROMAP 67、EUROMAP 12、SPI、OPC 40079などのどれを使うかと、信号ごとに「工程の連動信号」か「安全関連信号」かを分けた区分表。
  6. 安全: 安全柵と扉のインターロック、非常停止の相互接続、保護停止、成形機の安全扉とロボット柵の関係、参照する規格(EN ISO 20430、ISO 10218-2など)、リスクアセスメントの提出。
  7. 後工程との責任範囲: ゲートカット、検査、箱詰め、インサート挿入をどこまで含むかと、1個あたりの処理時間。
  8. 型替え: 段取り時のハンド交換時間と、プログラムの呼び出し方法。ハンド交換の自動化はロボットツールチェンジャー 選定:タイ工場の調達・受入ガイドで整理しています。
  9. 据付と改造の範囲: 据付、配線、成形機側の改造の範囲と、成形機メーカーの承認が要るかどうか。
  10. FATとSAT: 出荷前と現地の試験項目、合格基準。
  11. 保守: 点検の周期、予備品、タイ国内の技術者と応答時間、タイ語の操作手順書。
  12. 商取引の条件: 価格の有効期限、為替、輸入時の税と通関、支払条件、BOI申請に必要な機械リストと見積明細を出せるか。

見積は、前述の費目表のように「ロボット本体」「安全柵・インターロック・信号接続」「シュート・コンベヤ」「据付・ティーチング・試験・教育」に分けて出させると、各社の比較がしやすくなります。型替えのたびにプログラムとハンドを切り替える運用では、金型ごとの情報管理も重要です。金型管理システム導入|タイ工場のショット管理と貸与型台帳の設計も合わせてご覧ください。

FAT/SATで確認すること

FAT(出荷前の工場試験)とSAT(現地据付後の試験)では、次の点を確認します。合格値は自社で決める必要があり、以下はその決め方の例です。

  • 取出し時間とサイクル時間の実測: 実際の金型と材料で、例えば数時間の連続運転を行い、RFPの保証値と比べる。
  • 落下や取り損ないの検知: 真空監視で取り損ないを検知したとき、ロボットと成形機がどう止まり、どう復帰するか。
  • 安全扉と非常停止: 成形機の安全扉を開けたとき、非常停止を押したときに、ロボットと成形機の両方が止まること。
  • 工程信号が切れたときの挙動: 型内領域空き(MAF)のような工程信号が切れたとき、安全機能としてではなく、工程の連動として正しく待つか。
  • 停電とエア圧低下: ワークが落下しないか、ハンドが保持し続けるか、復旧の手順はどうか。
  • 段取り替え: 実測の段取り時間と、ハンド交換の手順。
  • 後工程との連携: コンベヤの詰まり、満箱、NG品の排出のときにどう振る舞うか。
  • 教育と手順書: タイ語の操作手順書と日常点検の手順書、作業者への教育。

FATで確認した項目を、SATで現地の成形機と組み合わせて再確認するのが基本です。特に安全扉と非常停止の相互接続は、成形機側の配線が現地で初めてつながるため、SATで必ず試験してください。

タイ固有の論点

1. 人件費だけの回収計算は5年を超えやすい

タイの最低賃金は2025年7月改定時点で日額337〜400バーツですが、日本と比べるとまだ低い水準です。モデル工場Mの見方1のように、人件費の削減だけで回収を計算すると5年を超えやすいのがタイの特徴です。取出しロボットの判断は、増産の余力(成形機を追加購入せずに済むか)、人が採れないこと、品質の安定の3点を中心に行うべきです。

2. 産業の規模と品質要求

Krungsri Research(2025年3月)によると、タイで稼働しているプラスチック加工業者は2023年時点で3,217社で、タイ・プラスチック研究所の2021年の調査では、プラスチック生産者の36.5%が射出成形を使っています。これは射出成形を使う生産者の割合で、生産量に占める射出成形の比率ではありません。また、タイ工業連盟(FTI)によると、2025年のタイの自動車生産は1,455,569台で、うち輸出向けが65.69%でした。輸出向けの比率が高い自動車部品の成形では品質要求が厳しく、取出しのタイミングがそろうことの価値は小さくありません。

3. メーカーの現地拠点と保守の応答時間

取出しロボットは毎日のように段取り替えやティーチングの調整が入る設備で、故障すれば成形機が止まります。ユーシン精機の沿革によると、同社は1996年にバンコクに駐在員事務所を開き、2008年にタイの現地法人を設立しています。ハーモも2023年にタイ向けウェビナーの開催を告知していました。候補メーカーごとに、タイ国内の技術者の人数や拠点、応答時間、予備品の在庫をRFPで確認する意味はここにあります。

4. BOIのSmart and Sustainable Industry措置

タイ投資委員会(BOI)の2023年版投資奨励ガイドによると、Smart and Sustainable Industry措置の機械更新・自動化では、投資額100万バーツ以上(土地と運転資金は含まない)を条件に、機械の輸入税免除と、投資額の50%を上限とする3年間の法人税免除が受けられます。自動化システムやロボットで、更新する機械の価額の30%以上がタイの自動化産業とのリンクによる場合は、上限が投資額の100%になります。タイ首相府の副報道官によると、2023年から2026年上半期に、日本の株主を持つ企業がこの措置で400件超、550億バーツ超を申請しています。

ただし、Alvarez & Marsalの解説(Mondaq掲載)によると、BOIは2026年1月に投資奨励措置を刷新し、多くの措置を2026年から2027年に申請可能としていますが、本措置の最新の要件や期限は確認できていません。申請を検討する場合は、BOIに個別に確認してください。要件の詳細はBOI自動化投資の法人税免除2026|50%と100%を分ける要件で解説しています。

5. タイ省令B.E.2564の一般的な要求

タイ労働省の「機械、クレーン、ボイラーの労働安全衛生管理基準に関する省令 B.E.2564(2021年)」は、2021年8月6日に官報で公布されました。Envilianceの解説によると、使用者には書面の操作手順の作成や、身体切断の危険がある機械の危険評価などが求められます。ただし、取出しロボットや射出成形機についての個別の規定は確認できていません。自社の設備にどの規定が当てはまるかは、安全の専門家や所轄の労働当局に確認してください。

6. 展示会での情報収集

最新機種の比較には展示会も役立ちます。Fakuma 2026は2026年10月12〜16日の開催です。タイ国内の展示会も含め、会期は各展示会の公式サイトで確認してください。

取出しロボット導入の90日の進め方

取出しロボットの選定から先行導入までを、90日で次のように進めると、判断を急ぎすぎず、かといって検討だけで終わらせずに済みます。

取出しロボットの選定|射出成形のサイクル短縮とタイ工場のRFP - figure 3

図3:90日の進め方(3フェーズ)

0〜30日: 実測と対象機の優先順位づけ

  • 成形機ごとにサイクルの内訳(射出・保圧・冷却、型開・型閉、取出し)を実測する
  • ゲートカット、検査、箱詰めの1個あたりの秒数を製品ごとに測る
  • 需要の見通し(今のままか、増えるか)を営業と確かめ、回収の見方を1つ決める
  • 取出し時間の比率が大きく、需要が増える製品の成形機から優先順位をつける

31〜60日: 方式と範囲を決めてRFP、見積比較

  • 方式(スプルーピッカー、トラバース型、サイドエントリー、多関節・協働)と、後工程をどこまで自動化するかを決める
  • 12項目のRFPを出し、見積を費目別に比較する
  • 信号の区分表(工程の連動信号と安全関連信号)を各社から出させて比べる
  • BOIの対象になりうるかをBOIに確認する

61〜90日: 1台で先行導入、FAT・SAT、横展開の判断

  • 1台で先行導入し、FATとSATで取出し時間、安全、停電時の挙動を確かめる
  • 作業者への教育と、タイ語の手順書を整える
  • 実測の取出し時間と、1人が見られる台数から回収を計算し直し、残りの成形機に広げるかを判断する

よくある質問(FAQ)

Q1. 取出しロボットとスプルーピッカーの違いは?

スプルーピッカーは、本来スプルーやランナーを取り出す小型の装置です。取出しロボットは、成形品そのものを取り出し、整列や受渡しまで行います。Wittmann社のWX90のように簡単な製品取出しも可能とされる機種もありますが、メーカー公称の機種単位の話であり、スプルーピッカー全般で製品取出しができるわけではありません。3プレート金型でランナーと製品を同時に取るかどうかも、方式と型式を分けるポイントです。

Q2. 取出しロボットは型締力何トンから必要ですか?どう選べばよいですか?

「何トン以上なら必要」という決まりはありません。メーカーのラインナップは小型機から超大型機まであり、たとえばハーモのトラバース型は15 t級から4000 t級までのシリーズを揃えています。選び方は、型締力、成形品(重量、寸法、取出し姿勢)、金型(2プレートか3プレートか、取り数)、後工程(ゲートカット、検査、箱詰めの秒数)の4つから方式と大きさを絞ることです。Wittmann社の型締力による構造の区分(20〜300 t、300〜1,200 t、1,200〜5,000 t)も1つの目安になりますが、他社の区分とは一致しません。

Q3. 取出しロボットの価格・導入費用はいくらですか?

取出しロボット本体の価格は、メーカーや販売店の公開情報が見当たりません。本記事のモデル工場Mでは、350 t級のトラバース型で、本体、安全柵・インターロック・信号接続、シュート・コンベヤ、据付・ティーチング・試験・教育を合わせて1台1,230,000バーツと想定しましたが、これは市場価格ではありません。実際の費用は、本記事の費目表のように費目別に見積を取って比べてください。

Q4. 取出しロボットでサイクルタイムはどれくらい短くなりますか?

縮むのは取出しの時間だけで、射出、保圧、冷却の時間は縮みません。モデル工場Mでは、取出しが10秒から2秒になり、サイクルは40秒から32秒(20%短縮)になりましたが、これは想定値です。メーカー公称の短縮率(たとえばWittmannの型開時間10〜30%短縮、ハーモのエア式比62%の取出し時間短縮)は、いずれも各社の自社比較で条件が公開されていません。自社の成形機で取出し時間を実測し、RFPで保証値を出させるのが確実です。

Q5. EUROMAP 67とは?安全信号として使えますか?

EUROMAP 67は、成形機と取出しロボットなどのハンドリング装置の間の電気インターフェース規格で、型開完了、エジェクタの前進・後退の許可、扉の状態などの信号をやり取りします。ただし、信号のすべてが安全信号というわけではありません。URは安全通知で、型内領域空き(MAF)の信号は非安全の信号であり、ロボットや成形機の停止に使ってはならないと警告しています。RFPで信号ごとに工程の連動信号か安全関連信号かを区分させ、安全の設計と規格の適用は専門家に確認してください。

Q6. 協働ロボットで取出しはできますか?

できます。成形機インターフェース(EUROMAP 67やSPIなど)を持たせれば、多関節ロボットや協働ロボットでも取出しに使えます。後工程(インサート挿入、検査、箱詰め)を兼務させやすいのが利点です。一方で、トラバース型と比べた取出しの速さを自社の金型で確かめる必要があり、成形機の安全扉や非常停止との相互接続を含めた安全の設計とリスクアセスメントが欠かせません。協働ロボットだから柵が要らない、とは限らない点に注意してください。

まとめ

  • 取出しロボットの選定は、型締力と可搬重量だけでは不十分です。効果を決めるのは、型内にいる取出し時間と、後工程の処理時間です。
  • カタログの「サイクル時間」はセル全体の値で、取出し時間ではありません。メーカーの短縮率はすべて自社比較で条件不明なので、RFPで取出し時間とサイクル時間を分けて保証させましょう。
  • モデル工場Mでは、取出しが10秒から2秒になり、サイクルは40秒から32秒、生産能力は25%増えました。ただし冷却時間は縮みません。
  • ロボットだけを入れると、1人が見られる台数は後工程の秒数で頭打ちになります(案Aで20人から10人)。RFPの前に後工程の秒数を測りましょう。
  • 人件費の削減だけで見ると、案Aの回収は約5.9年、案Bは約6.9年です。需要が20%増える場合は、成形機2台の追加購入を避けられるため、案Aの回収は約1.1年になります。2つの見方は別の前提で、足し合わせません。
  • 信号は「工程の連動信号」と「安全関連信号」を分け、型内領域空き(MAF)を安全の根拠にしないこと。規格の適用境界、タイ省令の適用、BOIの最新要件は、専門家、所轄、BOIに個別に確認してください。

TOMAS TECHでは、サイクルの内訳や後工程の秒数の測り方、どの成形機から始めるかを決める前の段階からご相談を承っています。お手元の見積を取出し時間とセル全体のサイクル、費目に分けて読み直したい、成形機との信号の区分表をどう書かせるか整理したい、といったご相談も歓迎です。成形品の取出し自動化をご検討中の方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考情報