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2026.10.06

金型管理システム導入|タイ工場のショット管理と貸与型台帳の設計

金型管理システム導入|タイ工場のショット管理と貸与型台帳の設計

「金型が何面あって、どこにあって、誰の所有で、あと何ショット使えるのか。それがExcelと担当者の記憶にしかない」。チョンブリー、ラヨーン、アユタヤ、バンコク近郊の日系の射出成形、プレス、ダイカスト、自動車部品工場で、工場長や生産管理課長、型保全の担当者からよく聞く悩みです。本記事では、金型管理システムの導入を、台帳の設計から保全、貸与型の保管・返却・廃棄の記録まで、順番に整理します。

先に結論を書きます。金型管理システムは「型の一覧表を電子化するもの」ではありません。 型ごとに「誰の物か」「どこにあるか」「あと何ショット使えるか」「最後にいつ使ったか」を、常に正しい状態に保つための仕組みです。導入がうまくいくかどうかは、ソフトウェアの機能の多さよりも、台帳の4つの軸(所有、所在、ショット、稼働状況)を、誰が、いつ更新するかで決まります。

進め方は次の3段階です。

  • 台帳を現物と突き合わせる棚卸から始める(所在と所有が合っていない台帳にショット管理を載せても意味がない)
  • 保全を時間基準からショット数基準に切り替える(回数を減らすのではなく、保全を必要な型に寄せる)
  • 動かない型(非稼働型)を分類し、保管、返却、廃棄の協議を記録に残す

なお、本記事に登場する「モデル工場B」の金型の面数、ショット数、保全回数、工数などは、すべて本記事オリジナルのモデル設定・想定値です。業界平均でも調査値でもありません。自社の数字に置き換えて使う「計算の型」として読んでください。

2026年に金型管理が問われる理由

日本で型の無償保管への監視が強まっている

最初に、日本側の動きを整理します。日本の下請法は、改正法の施行により「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)に改められました。AMT法律事務所のニュースレター(2026年7月31日)によれば、施行日は2026年1月1日です。

公正取引委員会(公取委)は2026年6月10日、令和7年度の取適法の運用状況を公表しました。令和7年度の勧告は39件、指導は8,261件です。この公表を解説したAMT法律事務所のニュースレターによれば、39件の勧告のうち26件は金型等に関連する事例で、発注を長期間行わないにもかかわらず、金型等を無償で保管させたこと等によるものとされています。

公取委と中小企業庁は2025年11月13日、「型の無償保管について、監視を強化しています」というリーフレットを公表しています。そこに載っている型の無償保管に係る勧告件数は、令和4年度1件、令和5年度3件、令和6年度9件、令和7年度13件です。ただし令和7年度の13件は、2025年11月13日時点の数値であり、年度の確定値ではありません。

同じリーフレットは、対象となる「型等」を、金型、木型、治具、検具、製造設備等と説明しています。違反となり得る事情としては、部品等の発注を長期間行わないこと、受託側が型等の廃棄や引取り等を希望していること、委託側が次回以降の具体的な発注時期を示せないこと、型等の再使用が想定されていないこと、の4つが挙げられています。また、双方で協議したうえで、年度ごとに発注状況を確認し、保管期間に応じた保管費用をまとめて支払うことも許容されるとしています。

公取委が公表した最近の勧告事例のうち、型の保管に関するものを表にまとめます。いずれも公取委の公表内容から事実のみを抜き出したものです。

公表日事業者対象となった事業者数型の数公表内容の要点
2025年11月13日三菱ふそうトラック・バス61名金型等5,694個令和6年3月1日以降の無償保管に加え、年1回の棚卸作業も無償で行わせた
2026年6月26日ダイヘン69名金型等475個発注を長期間行わないにもかかわらず無償で保管させた
2026年7月8日ノーリツ41名金型5,242個遅くとも令和5年6月以降、保管費用を負担せずに保管させた
2026年7月10日ミネベアアクセスソリューションズ36名金型846個2024年1月から2026年2月1日まで保管費用を負担せずに保管させた(不利益額は全額支払済み)

この中で金型管理の実務に直接関係するのが、三菱ふそうトラック・バスの事例で「年1回の棚卸作業」も無償で行わせた点が問題とされたことです。型を保管するだけでなく、型の現物を確認する作業の工数も、取引上の論点になり得ることを示しています。

自動車業界団体が型の書面化と記録の一元管理を掲げている

日本自動車工業会(JAMA)の自主行動計画(2025年12月24日改訂)と、日本自動車部品工業会(JAPIA)の「徹底プラン」(令和7年12月改訂)は、どちらも型取引の適正化を取り上げています。主な内容は次のとおりです。

  • 型の保管や廃棄の取扱いを、協議のうえで決めて書面にする
  • 量産から補給期間への移行や廃止品番の通知を、最低年1回は行う
  • 量産終了から一定年数(15年を目安)が経過した型は、廃棄を前提に協議する
  • 1年以上発注が無い、または今後1年間発注が見込めない製品の型の保管費は確実に支払う
  • 最低年1回は協議の場を持ち、その内容を記録して一元的に管理する
  • 直接の取引先だけでなく、その先(Tier2以降)の仕入先で発生する保管料も含めて協議する

タイの工場にとっての意味

ここで区別しておくべきことがあります。取適法は日本の法律です。 タイ法人どうしの取引に直接適用されるかどうかは、本記事では判断しません。適用関係は、取引の当事者や契約の形によって変わり得るため、弁護士に個別に確認してください。

そのうえで、筆者の見立てを書きます。日本の親会社や日系の顧客は、上記のような業界団体のルールに沿って、型の保管状況や協議の記録を社内で管理する体制を整えていくと考えられます。その流れの中で、海外拠点やその仕入先にも同じ水準の記録を求める場面が出てくる可能性があります。 「御社で預かっている当社の型は何面あり、最後にいつ使い、今後どうする予定か」と問われたときに、台帳があればすぐに答えられます。台帳が無ければ、倉庫を一から探すことになります。

タイの自動車生産とEV移行で「動かない型」が増える

タイ側の状況も見ておきます。ロイター配信を伝えたCapital.comの記事によると、タイ工業連盟(FTI)の発表では、2026年8月の自動車生産は124,646台で、前年同月比10.93%増でした。7月も117,383台で6.12%増と報じられています(NST)。一方でFTIは、中東情勢による輸出減を理由に、2026年通年の生産見通しを前年比3.33%減としています。

構造面では、タイの自動車・部品関連の10団体が2026年5月14日、EVの普及と中国からの輸入によって部品メーカーが受注を失っていると政府に警告し、2027年を「崖」と表現しました(ロイター配信)。ASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)も2025年12月の報告書で、エンジン、トランスミッション、排気系など、EVでは不要になる部品に特化した既存サプライヤー、特に中小企業が受注の急減に直面していると指摘しています。

なお、Trading Economicsが伝える工業経済局(OIE)の発表によると、製造業生産指数(MPI)は2026年8月に4.44%増でしたが、算出方法が改定されているため、過去の数値とは単純に比較できません。

ここからは筆者の推論です。ICE車向け部品の量産終了や補給期間への移行が増えれば、工場の中で「量産では使わないが、補給のために残している型」や「今後の発注が分からない型」が増えていきます。動かない型が増えるほど、保管場所、保管費用、廃棄の判断をめぐる確認が増えます。2026年は、金型台帳を見直すのに適した時期だと考えます。

金型管理システムとは:4つの軸で型を管理する

金型管理システムは、型ごとに次の4つの軸を、正しい状態に保ち続ける仕組みです。

軸答える問い崩れたときに起きること
所有誰の型か(顧客所有か、自社所有か)保管費や廃棄の協議相手が分からない
所在今どこにあるか(棟、ラック区画、外注先、Tier2貸与先)段取りの直前に型が見つからない、棚卸の工数が膨らむ
ショット累積で何ショット使い、次の保全まで何ショット残っているか保全不足による成形不良、または過剰保全
稼働状況最後にいつ使い、量産中か、補給期間か、打ち切り済みか動かない型が倉庫を埋め、協議が遅れる

Excelの金型台帳でも、この4つの列を作ること自体はできます。問題は更新です。所在は型が動くたびに、ショットは生産のたびに、稼働状況は顧客から通知が来るたびに変わります。誰かが思い出したときに手で更新する運用では、数か月で台帳と現物がずれていきます。システムにする価値は、段取り、生産実績、保全、顧客からの通知という「日々の業務の中で」4つの軸が自動的に、または必ず更新される流れを作れることにあります。

射出成形の工場全体の生産管理の中で金型管理をどう位置づけるかは、射出成形の生産管理システムの記事でも整理しています。

まず金型台帳を現物と突き合わせる

モデル工場Bの前提

ここからはモデル工場Bで考えます。繰り返しになりますが、以下の数値はすべて本記事オリジナルのモデル設定です。

  • タイ・チョンブリー県の日系自動車部品工場。射出成形機28台、プレス機12台
  • 台帳上の金型は600面。顧客から貸与された型(顧客所有)が380面、自社所有が220面
  • Excelの金型台帳には所在、所有、最終使用日の列があるが、更新は不定期
  • 保全は全型一律で「3か月ごと」の時間基準
  • ショット数は成形機のカウンタを日報に手書きしている

台帳の600面を一面ずつ確認した結果

モデル工場Bで、台帳に載っている600面を一面ずつ現物と照合した結果が次の表です。

区分面数
台帳どおりの場所にあった552面
場所が違った(別棚、別棟、保全の外注先に出ていた)31面
見つからなかった(Tier2仕入先に貸与中の可能性、所在不明)17面
台帳の合計600面
(参考)現物はあるが台帳に無かった12面
金型管理システム導入|タイ工場のショット管理と貸与型台帳の設計 - figure 1

所在の一致率は、552 ÷ 600 = 92%です。裏返すと、場所が違った31面と見つからなかった17面を合わせた48面、つまり8%の型は、台帳を見ても今どこにあるかが分かりません。さらに、台帳に載っていない型が12面ありました。現物として確認できた型は、552 + 31 + 12 = 595面です。見つからなかった17面は、現物を確認できていません。

92%という数字は、一見すると悪くないように見えます。しかし、段取りの直前に「型が無い」と分かる、顧客から「当社の型は何面あるか」と聞かれて答えられない、といった問題は、この8%の側で起きます。とくに見つからなかった17面のうち、Tier2の仕入先に貸与している可能性がある型は、所有者が顧客であれば、顧客から所在の説明を求められることになります。

棚卸の工数も取引条件になりうる

この確認作業に、1面あたり30分かかったとします。600面で30分 × 600 = 18,000分、つまり300人時です。年1回行うとすれば、毎年300人時の工数がかかります。

先ほど触れたとおり、三菱ふそうトラック・バスの事例では、年1回の棚卸作業を無償で行わせたことも問題とされました。日本の事例をそのままタイに当てはめることはできませんが、型の現物確認の工数を誰が負担するか自体が、取引条件になりうることは覚えておく価値があります。少なくとも、自社でどれだけの工数をかけているかを数字で把握しておけば、顧客との協議の材料になります。

台帳の棚卸で決めておくこと

現物確認を一度きりのイベントで終わらせないために、次の3つを決めておきます。

  1. 金型IDの付け方: 刻印、銘板、2次元コード、RFIDタグのいずれかで、型そのものに恒久的な番号を付けます。台帳の番号と現物の番号が一致しない限り、照合はいつまでも人の記憶頼みになります。
  2. 所在の単位: 「第2倉庫」ではなく「第2倉庫のラックC-14」まで決めます。外注先やTier2への貸与も、所在の一つとして台帳に持ちます。
  3. 更新のタイミング: 型が動くとき(段取り、保管庫への返却、外注先への搬出)に、誰がどの画面で所在を更新するかを決めます。

型のIDとロケーションに2次元コードとRFIDのどちらを使うかは、読み取りの距離や環境によって変わります。費用の考え方は工場のRFID導入費用の記事を参考にしてください。

金型の保全をショット数基準に切り替える

時間基準の保全が生む2つの問題

モデル工場Bでは、全型一律に「3か月ごと」に保全しています。分かりやすいルールですが、型によって稼働がまったく違うため、同じ3か月でも型が受ける負荷は大きく異なります。

ここでは、量産中で稼働の多い射出成形型120面を対象に考えます。保全間隔は10万ショットごととします。これはモデルの設定です。実際の保全間隔は、型の構造、樹脂、取り数などによって変わるため、型メーカーや保全担当者が決めてください。

グループ面数月間ショット(1面あたり)年間ショット(1面あたり)ショット基準の年間保全回数3か月ごと(年4回)の場合3か月ごとだと保全間のショット数
A(高稼働)3060,000720,0007.2回 × 30面 = 216回120回180,000(間隔の1.8倍)
B(中稼働)5025,000300,0003回 × 50面 = 150回200回75,000
C(低稼働)4010,000120,0001.2回 × 40面 = 48回160回30,000
合計120414回480回
金型管理システム導入|タイ工場のショット管理と貸与型台帳の設計 - figure 2

合計回数はあまり変わらない。変わるのは配分

ショット数基準に切り替えると、年間の保全回数の合計は480回から414回になります。減るのは66回、約14%です。思ったほど減らない、と感じるかもしれません。

この試算で見てほしいのは、合計ではなく配分です。

  • A群(高稼働): 3か月ごとの保全では、保全から次の保全までに18万ショット、つまり保全間隔の1.8倍も型を使ってしまいます。保全が足りていません。ショット数基準では、1面あたり年7.2回、A群全体で216回の保全が必要になり、時間基準の120回より96回増えます。
  • B群(中稼働): 3か月で75,000ショットなので、時間基準でも間隔の内側に収まっています。ショット数基準では年3回、B群全体で150回です。
  • C群(低稼働): 3か月で3万ショットしか使っていないのに保全しています。ショット数基準なら年1.2回、C群全体で48回で済み、時間基準の160回より112回少なくなります。

つまり、時間基準の保全は、高稼働の型の保全不足と、低稼働の型の過剰保全を同時に生んでいます。 ショット数基準は「保全の回数を減らすための仕組み」ではなく、「保全を、必要な型に寄せる仕組み」です。型の不具合で成形不良が出てから保全している工場では、A群のような型がまさに不良の発生源になっている可能性があります。

本記事では、この切り替えの効果を金額では試算しません。保全工数の削減、不良の減少、型寿命の延長はそれぞれ互いに重なる部分があり、単純に足し合わせると効果を二重に数えてしまうためです。まずは「どの型が保全不足になっているか」を可視化することを目的にしてください。

ショット数基準に必要な3つのデータ

ショット数基準の保全を回すには、型ごとに次の3つが必要です。

  1. 累積ショット数(その型が生まれてから何ショット使ったか)
  2. 前回保全した時点のショット数
  3. 保全間隔(ショット数)

この3つがあれば、「次回保全までの残りショット」は引き算で出せます。問題は1の累積ショット数で、型が複数の機械を渡り歩いたり、外注先に出たりすると、どこかで数え漏れが起きます。この点は、後のシステム要件の節で詳しく扱います。

保全の指示や履歴を設備保全の仕組みとどうつなぐかは、設備保全管理システムの記事も参考にしてください。

非稼働型と貸与金型の保管:返却・廃棄の協議を記録する

モデル工場Bの非稼働型は190面

次に、最後に使った日(最終使用日)で、台帳の600面を分類します。

最終使用日による区分面数
12か月以内に使用(稼働型)410面
12〜36か月使っていない128面
36か月超使っていない62面
合計600面

12〜36か月使っていない128面と、36か月を超えて使っていない62面を合わせた190面、つまり約32%が非稼働型です。190面のうち、顧客所有が142面、自社所有が48面です。

非稼働型190面を、現在の状況で3つに分けます。

状況面数次の打ち手
量産終了、補給(サービスパーツ)期間中70面補給期間の終了見込みを顧客と確認し、保管費を協議する
顧客から打ち切り通知あり、廃棄は未協議45面返却、廃棄の協議を記録し、書面で合意する
今後の発注予定が不明75面顧客に次回発注時期の確認を依頼し、回答を台帳に記録する
合計190面
金型管理システム導入|タイ工場のショット管理と貸与型台帳の設計 - figure 3

1面あたりラック1区画を使うとすると、非稼働型だけで190区画を占めています。ここでは費用への換算はしませんが、倉庫が足りないと感じている工場では、この190区画の中身を分類することが最初の一歩になります。

3つの状況ごとの打ち手

量産終了、補給期間中の70面は、まだ使う可能性がある型です。ただし、補給期間がいつ終わるのかを、顧客と確認しておく必要があります。終了の見込みと、それまでの保管費の扱いを、協議の記録として台帳に残します。

打ち切り通知があり、廃棄が未協議の45面は、最も早く手を付けるべき型です。顧客は不要と判断しているのに、型だけが残っている状態です。返却するのか、廃棄するのか、廃棄の前に一括生産をするのかを協議し、合意した内容を書面にします。

今後の発注予定が不明な75面は、顧客に次回の発注時期を確認するところから始めます。回答が来たら、日付と内容を台帳に記録します。回答が得られない場合も、「いつ、誰に、何を問い合わせたか」を残しておくことが大切です。

なお、JAMAやJAPIAは量産終了から15年を目安に廃棄を前提とした協議を行うことを掲げていますが、本記事のモデル工場Bの分類には、この15年という基準は使っていません。15年は目安として紹介するにとどめ、実際の判断は顧客との協議で決めてください。

業界団体のルールを台帳の項目に翻訳する

JAMAとJAPIAが掲げる内容を、金型台帳に持つべき項目に置き換えると、次のようになります。これは業界団体の文書をもとにした筆者の整理です。

業界団体が掲げる内容台帳に持つべき項目(筆者の整理)
型の保管や廃棄の取扱いを書面化する所有者と、所有権や取扱いを定めた書面の参照
量産から補給への移行、廃止品番の通知を最低年1回行う状態(量産中、補給期間、打ち切り通知済みなど)と、量産終了日
量産終了から15年を目安に廃棄を前提に協議する量産終了日と、補給期間の終了見込み
1年以上発注が無い製品の型の保管費は確実に支払う最終発注日と最終使用日
協議内容を記録し一元的に管理する協議記録(日付、相手、合意内容、書面の参照)
Tier2以降の保管料も含めて協議する所在(外注先、Tier2貸与先を含む)

この表から分かるのは、最終発注日、量産終了日、所有者、所在、協議記録を型ごとに持てる台帳が無いと、業界団体のルールに沿った運用ができない、ということです。

顧客所有の型とIATF 16949

自動車部品の工場では、顧客所有の型について、IATF 16949の要求も関係します。箇条8.5.1.6は、顧客所有の工具や設備に、所有権と用途が判別できる恒久的な表示がされていることを求めています。品質コミュニティのElsmar Coveフォーラムでは、所有者名を直接刻印しなくても、恒久的な識別番号と、その番号から所有者を引ける管理リストで要求を満たし得るという見解が示されています。

金型IDと台帳の所有者欄は、この管理リストの役割を果たし得ます。ただし、自社の運用が要求を満たしているかどうかは、認証機関に個別に確認してください。トレーサビリティ全体の考え方は、IATF 16949のトレーサビリティの記事で整理しています。

金型台帳に持つべき12項目(チェックリスト)

ここまでの内容を、金型台帳に持つべき12項目にまとめます。Excelの台帳を見直すときにも、システムのRFPを書くときにも、そのまま使えます。

  1. 金型ID: 恒久的な識別番号。刻印、銘板、2次元コード、RFIDタグのいずれか
  2. 所有者: 顧客名または自社と、所有権を示す書面の参照
  3. 対象品番: 自社品番、顧客品番、取り数(キャビティ数)
  4. 現在の所在: 工場、棟、ラック区画。外注先やTier2の貸与先を含む。あわせて最終確認日
  5. 状態: 量産中、補給期間、打ち切り通知済み、修理中、廃棄済み、返却済み
  6. ショット数: 累積ショット数と、前回保全時点のショット数
  7. 保全間隔: ショット数での保全間隔と、次回保全までの残りショット
  8. 保全・修理の履歴: 日付、内容、交換部品、担当者
  9. 最終使用日と最終発注日: 最終生産日と、その型を使う品番の最終発注日
  10. 量産終了日と補給期間: 量産終了日と、補給期間の終了見込み
  11. 協議記録: 保管、返却、廃棄に関する協議の日付、相手、合意内容、書面の参照
  12. 成形条件・段取り記録との紐付け: どのロットをどの金型IDで作ったか(トレーサビリティ)

Excelの台帳では、1から5の一部は列としてあっても、6から12が抜けていたり、更新されていなかったりすることが少なくありません。とくに9から11は、日本側の動きに備えるうえで重要な項目です。品番、顧客、取引先などのマスタをどう整えるかは、製造業のマスタデータ管理の記事を参考にしてください。

金型管理システムの要件とMES・ERP・保全との連携

成形機からショット数を取る:EUROMAP 77

射出成形機とMESのデータ交換には、OPC 40077(EUROMAP 77)という規格があります。OPC Foundationが公開している仕様(v1.01、2020年6月1日公開)によると、対象範囲には、成形機の一般情報、金型や射出ユニットを含む現在の構成と状態、ジョブとサイクルの情報、成形条件のデータセットの転送が含まれます。ジョブ情報の中では、金型ID(MouldId)と取り数(NumCavities)が必須の項目とされています。

一方で、共通の型定義であるOPC 40083(EUROMAP 83)の金型オブジェクトには、ID、在否、説明、状態などのプロパティはありますが、金型単位の累積ショットカウンタは定義されていません。 サイクルのカウンタは、ジョブ単位と機械単位で用意されています。

ここからは筆者の読みです。EUROMAP 77で取れるのは、「どの金型IDで、そのジョブや機械で何サイクル回ったか」です。金型の生涯ショット数、つまり複数の機械や外注先をまたいだ累積は、金型管理システムやMESの側で、金型IDごとに積算する設計が必要になります。また、成形機メーカーや機種によって対応している仕様のバージョンが異なる可能性があるため、RFPでは機械側の対応バージョンを確認してください。

EUROMAP 77対象外の機械はどうするか

プレス機やダイカストマシンは、EUROMAP 77の対象外です。EUROMAP 77に対応していない古い成形機も同様です。これらの機械では、ショット数を次のいずれか、または組合せで取ります。

  • 機械のカウンタ信号を取り込む
  • 金型に後付けのショットカウンタを取り付ける
  • 段取り時に金型IDをスキャンし、日報の生産数から入力する

後付けのカウンタには、さまざまな製品があります。機能の例として紹介すると、松井製作所の発表では、同社の「Smart Shot Counter」は金型にマグネットで取り付け、ショット数、サイクルタイム、金型表面温度、金型周辺温度、周辺湿度の5項目を取得します。米国のProgressive Componentsの「CVe Monitor」は、2010年の業界誌記事によると、金型に搭載してサイクルタイムや稼働状況、メンテナンスを行ったサイクル区間を記録するモニタです。これらは機能の例示であり、特定の製品を推奨するものではありません。

段取り時の金型IDスキャンが要

ショット数の積算も、ロットとの紐付けも、出発点は「今どの機械に、どの型が付いているか」です。これが分からなければ、機械のカウンタが何ショットを数えても、どの型のショットか分かりません。

そのため、段取りのときに金型IDをスキャンして、機械と型の組合せをシステム上で確定させる運用が要になります。誤った型をスキャンしたら生産開始をブロックする、または警告を出すようにしておけば、型の取り違えによる不良の防止にもつながります。

MES、ERP、保全との連携

金型管理システムは単独では動きません。主な連携先は次のとおりです。

  • MES、生産管理(ERP): 品番マスタ、顧客マスタ、生産実績(ロット)を受け取ります。最終使用日や最終発注日は、ここから自動で更新できます。MESの全体像はタイ工場のMES導入の記事で整理しています。
  • 設備保全: 次回保全までの残りショットがしきい値に達したら、保全指示を自動で起票します。保全が終わったら、その結果を受け取って残りショットをリセットします。
  • 権限と監査: 所有者や状態の変更は承認制にし、変更履歴を残します。所有者が勝手に書き換えられる台帳は、顧客への説明にも監査にも使えません。
  • 多言語: 型保全の担当者や倉庫の担当者が使う画面とラベルは、タイ語で用意します。

金型の受渡を企業間で管理する仕組みもあります。機能の例として、シー・アイ・エム総合研究所の「Dr.型管Cloud」は、企業間の金型受渡のワークフローや、メンテナンスのしきい値とショット管理によるメンテ予定の把握などを掲げています。これも機能の例示であり、推奨ではありません。

自動車部品工場の生産管理全体との関係は、自動車部品の生産管理システムの記事も参考にしてください。樹脂成形に特有の論点は、タイの樹脂成形の生産管理システムの記事で扱っています。

金型管理システム導入のRFPと受入試験

RFPに書く項目

金型管理システムを外部に発注するとき、RFP(提案依頼書)には少なくとも次の項目を書きます。

項目書く内容の例
対象の規模型の面数、機械の台数と機種、EUROMAP 77への対応の有無
ショット取得方式成形機からの取得、カウンタ信号、後付けカウンタ、手入力のどれを、どの機械に使うか
識別方式刻印、2次元コード、RFIDのどれを使うか
台帳項目本記事の12項目を基準に、必須とする項目
保全しきい値しきい値をショット数で、型ごとに設定できるか
外部との受渡記録顧客や仕入先との型の受渡、協議の記録が必要か
帳票顧客向けの保管型リスト(最終使用日、状態つき)
移行範囲既存のExcel台帳から、どの項目とどの期間の履歴を移すか

受入試験の判定基準の例

工場での受入試験(FAT、SAT)では、次のような判定基準を置きます。数値を含め、いずれも本記事のモデルとしての判定基準です。

  • 段取りで異なる金型IDをスキャンしたら、生産開始がブロックされる(または警告が出る)
  • 1週間の並行運用で、システムのショット積算と機械のカウンタの差が±0.5%以内(モデル基準)
  • しきい値に達したときに、保全指示が自動で起票される
  • 台帳の所有者や状態を変更すると、承認と履歴が残る
  • 顧客別の保管型リスト(最終使用日、状態つき)を出力できる

とくに2つ目の並行運用は重要です。ショット数の積算がずれていると、保全のタイミングもずれ、システム全体が信用されなくなります。

金型管理システム導入の90日の進め方

モデル工場Bを例に、最初の90日の進め方を示します。

0〜30日: 台帳を整える

  • 台帳の12項目を定義する
  • 全600面の現物を確認する(所在、所有、状態)
  • 金型IDのラベルを貼る
  • 非稼働型を抽出する

31〜60日: 稼働の多い型からショット数基準に切り替える

  • 稼働の多い120面から、ショット数基準の保全に切り替える(しきい値の設定、段取り時の金型IDスキャン)
  • 成形機からのショット取得を試行する

61〜90日: 非稼働型の協議を始める

  • 非稼働型190面を3つの区分に分け、顧客ごとの協議リストを作る
  • 協議記録の運用を始める
  • 月次レビューを始める(所在一致率、保全の遅れ、協議の進捗)

90日後の目標は、モデル工場Bの目標設定として、所在一致率99%以上、A群の保全遅れゼロとします。これは目標の置き方の例であり、達成を約束するものではありません。全600面を一度にシステムに載せるより、台帳の整備、稼働の多い型、非稼働型の順に、範囲を区切って進める方が、現場の負担を抑えられます。

よくある質問(FAQ)

金型管理システムとは何ですか?Excelの金型台帳では足りませんか?

金型管理システムは、型ごとに所有、所在、ショット数、稼働状況の4つの軸を、常に正しい状態に保つための仕組みです。Excelでも列を作ることはできますが、段取り、生産実績、保全、顧客からの通知のたびに手で更新する必要があり、数か月で現物とずれていきやすくなります。型の数が少なく、更新の担当者とタイミングが決まっていれば、Excelから始めても構いません。

金型のショット数はどうやって自動で数えますか?

EUROMAP 77に対応した射出成形機であれば、金型IDとジョブのサイクルを取得できます。ただし、金型単位の累積ショットカウンタは規格上定義されていないため、金型管理システムやMES側で金型IDごとに積算する設計が必要だと筆者は考えます。対応していない機械やプレス機では、機械のカウンタ信号の取り込み、後付けのショットカウンタ、段取り時の金型IDスキャンと日報入力の組合せで取ります。

金型の保全はショット数と期間のどちらで決めるべきですか?

稼働に差がある型が混在しているなら、ショット数を基本にすることをおすすめします。本記事のモデルでは、一律3か月ごとの保全は、高稼働の型の保全不足と、低稼働の型の過剰保全を同時に生んでいました。ただし、長期間使わない型の保管中の点検など、期間で管理した方がよい場面もあります。保全間隔そのものは、型メーカーや保全担当者が決めてください。

顧客から預かっている金型(貸与型)は何を管理すればよいですか?

最低限、恒久的な金型ID、所有者と所有権を示す書面、所在、最終使用日、保管や返却、廃棄に関する協議記録を持つことをおすすめします。IATF 16949の箇条8.5.1.6は、顧客所有の工具に所有権と用途が判別できる恒久的な表示を求めています。自社の運用が要求を満たしているかは、認証機関に個別に確認してください。また、貸与型を海外から受け入れる際の通関やBOI上の扱いは、BOIや専門家に個別に確認してください。

タイの工場にも日本の取適法(型の無償保管)は関係しますか?

取適法は日本の法律です。タイ法人どうしの取引に直接適用されるかどうかは、本記事では判断しません。適用関係は弁護士に個別に確認してください。ただし、日本の自動車業界団体は型の保管や廃棄の書面化、最低年1回の協議、記録の一元管理を掲げており、日系の顧客や本社が、海外拠点にも同じ水準の記録を求める可能性はあると筆者は考えます。台帳があれば、その問い合わせに答えられます。

金型管理システムの導入期間と進め方は?

型の数や連携の範囲によって変わりますが、本記事では90日を3つに区切る進め方を紹介しました。最初の30日で台帳の項目定義と現物確認、次の30日で稼働の多い型からショット数基準の保全への切り替え、最後の30日で非稼働型の協議記録の運用開始、という順番です。成形機やMESとの連携を含めた本格的なシステム化は、この台帳の整備ができてから広げる方が、手戻りが少なくなります。

まとめ

金型管理システムの導入は、型の一覧表を電子化することではありません。型ごとに、所有、所在、ショット数、稼働状況の4つの軸を正しく保ち続けることであり、成否は、それを誰がいつ更新するかで決まります。

本記事のモデル工場Bでは、台帳600面のうち所在が一致したのは552面(92%)で、48面(8%)は場所が違うか見つかりませんでした。稼働の多い120面をショット数基準の保全に切り替えると、年間の保全回数は480回から414回と約14%減るだけですが、高稼働のA群では保全が足りていなかったことが分かります。さらに、非稼働型が190面(約32%)あり、そのうち打ち切り通知があるのに廃棄を協議していない型が45面ありました。

日本では型の無償保管への監視が強まり、自動車業界団体は型の書面化と協議記録の一元管理を掲げています。タイでは、EV移行の中で動かない型が増えていく可能性があります。まずは今ある金型台帳を、本記事の12項目と照らし合わせるところから始めてください。

TOMAS TECHでは、今あるExcelの金型台帳の項目を見直す段階や、稼働の多い型だけでショット管理を試す段階からでも、ご相談を承っています。金型の所在や所有、ショット数の管理でお困りの方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考情報