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2026.08.28

BOI自動化投資の法人税免除2026|50%と100%を分ける要件

BOI自動化投資の法人税免除2026|50%と100%を分ける要件

タイで自動化・ロボット投資を検討すると、必ず「BOIの自動化投資向け法人税免除は使えるのか」という問いが出てきます。答えは多くの場合「使える」です。しかし実務で効いてくるのは可否ではなく、免除枠が投資額の50%までか100%までかという分岐のほうです。この差は数千万バーツ規模の投資で数百万バーツの税額に直結し、しかも分岐条件は設備の仕様を固めてしまう前にしか動かせません。本記事ではBOIのスマート&サステナブル・インダストリー措置の骨子と、その分岐点を投資設計にどう織り込むかを整理します。

BOIのスマート&サステナブル・インダストリー措置とは?

タイ投資委員会(BOI)が2022年12月8日付の告示 No.15/2565 で定めた投資奨励措置が「Smart and Sustainable Industry(スマート&サステナブル・インダストリー)」です。2022年12月の告示に基づいて運用が始まり、2026年時点でも現役の制度として動いています。

この措置を理解するうえで最初に押さえるべきなのは、BOIの投資奨励の中では例外的に「すでに動いている工場」を対象にしているという点です。従来のBOI恩典は、新規に法人を設立して新しい工場を建てる、あるいは新しい事業カテゴリのプロジェクトを立ち上げる、という「新規プロジェクト」を前提に設計されてきました。そのため、10年前・20年前に進出して恩典期間がとっくに切れている既存工場が、いま老朽化した設備を自動化ラインに置き換えようとしても、使える枠組みが乏しいという状態が長く続いていました。

スマート&サステナブル・インダストリー措置は、この空白を埋めるために設けられたものです。既存工場の生産性向上・省エネルギー・デジタル化・持続可能性の向上に向けた投資に対して、法人所得税の免除を与えます。措置によっては機械輸入関税の免除も付帯します。つまり、建屋も法人もそのまま、生産ラインの中身だけを入れ替える投資が恩典の対象になるという設計です。

BOI自動化投資の法人税免除2026|50%と100%を分ける要件 - figure 1

対象は「既に動いている工場」で、非BOI工場も申請できる

対象となるのは、既存の事業(BOI奨励を受けているプロジェクトか否かを問わない)、または新規のGroup Bプロジェクトです。既存事業の場合、申請の時点でBOIの投資奨励の対象範囲にある事業であることが前提になります。

ここで重要なのは、過去にBOI恩典を一度も取っていない工場でも、この措置の申請はできるという点です。「うちは非BOIだから関係ない」と最初から検討対象から外してしまっている日系工場は少なくありませんが、それは前提が違います。

一方で、すでにBOI奨励を受けているプロジェクトには条件が付きます。公式ガイドは、この措置を申請するBOI奨励案件について「法人所得税免除の恩典がすでに満了しているか、または法人所得税免除を付与されていないこと」を求めています。つまり、いま法人所得税免除の期間中にある案件が、その上にこの措置を重ねて適用することはできません。恩典期間が切れた古い案件が、次の設備更新で改めて使う、という位置づけです。この点を取り違えると申請そのものが成立しないため、自社のBOIカード(投資奨励証書)の恩典期間を先に確認してください。

ただし、一部の業種は対象外です。1.1の措置では、一般乗用車の製造、二輪車の製造(排気量248cc未満を除く)、電動車のうちPHEV・HEVの製造、セメントの製造、コイルセンター、ヘルスリハビリテーションセンター、コワーキングスペース、TISO、IBC、IPOが除外対象として列挙されています。電動車については除外の範囲がPHEVとHEVに限定されており、BEVおよびBEVプラットフォームの製造は除外リストに含まれていません。同じ除外リストは新規Group Bプロジェクト向けの2.x措置にも適用されます。

注意すべきは、この除外リストが措置ごとに異なることです。1.2のデジタル技術導入措置では、上記に加えてソフトウェア・デジタルプラットフォーム開発、データセンター、クラウドサービス、スマートシティ関連、スマート物流センターなど、より広い範囲が除外されます。逆に1.4の省エネ・環境負荷低減措置では、自動車や二輪車の製造は除外リストに入っていません(セメント製造については、温室効果ガス排出削減を目的とする機械更新に限り申請可能とされています)。自社の事業がBOIのどの事業カテゴリに分類されるかによって、そもそも申請可能かどうかが変わります。この分類は自己判断で決められるものではないので、投資の構想段階でBOIまたは実務経験のある専門家に当たりを付けておく必要があります。

既存事業向けの最低投資額は100万バーツ、ただし土地と運転資金は含まない

既存事業向けの1.x措置について、金額の敷居は土地代と運転資金を除いて100万バーツ以上です。日本円にして約450万円(1バーツ=4.5円で換算)という水準なので、ロボット1台と周辺装置、あるいはライン1本分の搬送・検査の自動化でも十分に届きます。「BOIは大型投資のための制度」というイメージが先行しがちですが、この措置に限っては中堅工場のライン改造が現実的な射程に入っています。小さく始める場合の進め方はロボット導入 中小企業2026|小さく始める手順とBOI恩典であわせて整理しています。

なお、この100万バーツという金額要件は既存事業向けの措置に定められたものです。新規Group Bプロジェクト向けの2.x措置には、公式ガイド上この金額要件の記載がありません。

一方で、この「土地・運転資金を除く」という但し書きは後の計算にも一貫して効いてきます。免除枠の上限も、対象投資額(土地・運転資金を除く)に対する割合として決まるためです。稟議書に載せる総投資額と、BOIの計算に使う対象投資額は別物になる、と理解しておくと後の齟齬を防げます。

5つの措置と免除上限の違いを1枚で把握する

スマート&サステナブル・インダストリー措置は、単一の恩典ではなく複数の措置の束です。既存事業向けの1.1から1.5、および新規Group Bプロジェクト向けの2.x が用意されており、どの措置で申請するかによって免除上限が変わります。

措置主な対象投資法人所得税免除の上限
1.1 機械・オートメーションのアップグレード/更新生産ラインへの自動化システム導入で所定の指標を満たすもの、非自動機械の近代化・更新3年間・対象投資額の50%(要件充足で100%)
1.2 デジタル技術の導入ソフトウェア、AI、ビッグデータ活用3年間・対象投資額の50%
1.3 インダストリー4.0への移行自動化・ネットワーク技術、データ分析・スマートオペレーション、デジタル技術導入の複合実施3年間・対象投資額の100%(NSTDAの承認が必要)
1.4 省エネ・代替エネルギー・環境負荷低減省エネ設備、代替エネルギー導入、環境負荷を下げる投資3年間・対象投資額の100%
1.5 国際的なサステナビリティ認証の取得に向けた生産ライン改善GAP、FSC、PEFC、食品安全マネジメント等の国際認証取得に向けた生産ラインのアップグレード3年間・対象投資額の100%

新規のGroup Bプロジェクトについては、別に2つの措置が用意されています。2.1 オートメーション・ロボット導入措置は、自動化またはロボットのシステムを製造・サービス工程に導入するもので、上限は対象投資額の50%、タイ国内の自動化システムへの連動・支援が自動化・ロボットシステムの価値の30%以上であれば100%に引き上げられます。2.2 インダストリー4.0移行措置はNSTDAの承認を要し、上限は対象投資額の100%です。既存事業か新規プロジェクトかで入口の番号が変わるだけで、50%と100%を分ける考え方の骨格は共通しています。

この表で見落としやすいのが、免除期間の「3年間」はどの措置でも共通で、変わるのは上限だけという点です。BOIの法人所得税免除は「3年間まるまる無税」という意味ではありません。免除される法人所得税の総額に上限(キャップ)が設けられ、その上限が対象投資額の50%あるいは100%として決まります。したがって、上限枠を3年より早く使い切ってしまえば、そこから先は通常課税に戻ります。逆に、3年のあいだに枠を使い切れないまま期間が終われば、残った枠は使われずに終わることになります(枠の繰り越しの可否など運用の細部は、証書の条件とBOIの取り扱いによります)。

したがって、この恩典の実質的な価値は「上限枠」と「3年間で発生する法人所得税額」の小さいほうで決まります。上限枠だけを見て大きい小さいと議論しても意味がなく、自社の利益水準と突き合わせて初めて金額として意味を持ちます。この点は後述の試算で具体的に示します。

免除枠が50%か100%かを分ける30%の現地連動要件

ここが本記事の核心です。自動化・ロボット投資でもっとも使われる1.1「機械・オートメーションのアップグレード/更新」措置は、原則として3年間・対象投資額の50%を上限とする法人所得税免除です。機械の輸入関税免除も付帯します。

しかし、この上限には引き上げ条項があります。生産ラインまたはサービス工程で用いる自動化システムまたはロボットが、タイ国内の自動化産業に対して、更新する機械の価値の30%以上にあたる連動・支援を持つ場合、上限は対象投資額の100%に引き上げられます。同じ投資額、同じ設備構成の見た目でも、この要件を満たすかどうかで免除枠が2倍になります。

分母に注意してください。1.1措置の条文が基準としているのは投資総額ではなく「更新する機械の価値」です(新規Group B向けの2.1措置では、分母が「自動化・ロボットシステムの価値」と定められています)。ソフトウェアやクラウド費用まで含めた投資総額で30%を計算すると、実際より低く見積もってしまいます。

BOI自動化投資の法人税免除2026|50%と100%を分ける要件 - figure 2

30%要件は「どこで買うか」ではなく「どう組むか」の話

この要件を「タイ製のロボットを買え」という意味だと受け取ると、まず実現できません。タイで稼働する産業用ロボットの本体は日本・欧州・中国からの輸入が大半を占めており、ロボット本体まで含めてタイ国内で完結させる調達は現実的ではないからです。

要件が見ているのは、更新する機械の価値に対して、タイ国内の自動化産業が担う部分がどれだけの比率を占めるかです。自動化設備を構成要素に分解すると、輸入せざるを得ないものと、タイ国内で製作・調達できるものがはっきり分かれます。

構成要素タイ国内での製作・調達のしやすさ
ロボット本体、サーボモータ、減速機ほぼ輸入。国内比率には乗りにくい
画像センサ、変位センサ、安全センサ主に輸入。ブランド指定があるとさらに固定される
PLC、サーボアンプなどの制御機器機器本体は輸入だが、盤への実装は国内
制御盤の設計・製作・配線タイ国内のパネル製作で完結しやすい
架台、フレーム、安全柵、カバー類板金・溶接・加工ともタイ国内調達が容易
コンベヤ、シュート、ストッカーなどの搬送標準品と特注品の双方でタイ国内製作が可能
治具、ハンド、爪、ワーク受け図面次第でタイ国内の機械加工に出せる
据付、配線、ティーチング、立ち上げの工数国内SIerが担えば国内側に立つが、算入可否は要確認

この分解を見ると分かるとおり、30%要件を満たせるかどうかは設備の選定よりも、設備の切り分け方とSIerの選び方で決まります。ロボット本体という一点だけを見て「輸入だから無理」と諦めるのは早計で、実際には架台・搬送・治具・制御盤の合計が更新する機械の価値に占める割合は、ライン全体を組む案件であれば決して小さくありません。

ただし、BOIの公式ガイドは30%の算定方法を構成要素の単位までは明示していません。上の表はあくまで「どの要素がタイ国内側に立ちうるか」という実務的な整理であり、据付・配線・ティーチングといったエンジニアリング工数が分子に算入されるかどうかは、案件の内容によって判断が分かれます。この点は申請の前にBOIへ直接確認すべき論点です。

実務的な示唆は3つです。

第一に、見積を総額一本で取らないことです。「自動化ライン一式 1,200万バーツ」という一行見積では、国内比率を計算する材料が存在しません。要件を主張するには構成要素別の内訳と、それぞれの製作・調達地が分かる資料が要ります。RFPの段階で「タイ国内で製作・調達する要素の金額内訳を提出すること」を要求事項として明記しておくのが最も確実です。見積の粒度をそろえる考え方については、自動化見積もり比較2026|金額を並べる前に揃えるスコープの基準で整理しています。

第二に、SIerの実働拠点がタイ国内にあるかどうかが要件の充足度に直結します。設計も製作も海外で完結させ、完成品をコンテナで運び込んで据え付けるだけの体制では、国内比率は上がりようがありません。逆に、タイ国内に設計・製作・据付の機能を持つSIerであれば、同じ仕様のラインでも国内側に立つ金額が自然に積み上がります。恩典を狙うのであれば、SIer選定の評価項目にこの観点を1行加えておく価値があります。選定の進め方はタイ ロボットSIer選定2026|RFP・安全・FAT/SAT実務ガイドにまとめています。

第三に、要件を意識した設備分割が、そのまま保守性の向上にもつながるという副次効果があります。架台や搬送、治具をタイ国内で製作しておけば、量産開始後にワークが変わったときの改造も国内で回せます。恩典のためだけの最適化ではなく、ライン寿命全体で見ても筋の良い設計になりやすいという点は、稟議の説明材料としても使えます。

なお、組立系の自動化では設備の精度以上に部品公差の管理が成否を分けます。恩典の設計と並行して押さえておきたい論点は組立自動化ロボット2026|成否を決めるのは精度ではなく部品公差で扱っています。

上限が2倍になると、実際にいくら変わるのか

上限枠の議論は抽象的になりがちなので、単純化した数字で見てみます。前提として、この措置の法人所得税免除は既存プロジェクトから生じる所得に対して付与されると定められています。新設ラインの売上だけを切り出して計算するのではなく、既存事業の所得に対して免除枠を当てていく形です。ここでは、対象投資額1,000万バーツの自動化投資を行い、恩典期間の3年間で3,000万バーツの課税所得が出る工場を想定します。タイの法人所得税率は20%です。

項目上限50%のケース上限100%のケース
対象投資額(土地・運転資金を除く)10,000,000バーツ10,000,000バーツ
法人所得税の免除上限枠5,000,000バーツ10,000,000バーツ
3年間の課税所得(想定)30,000,000バーツ30,000,000バーツ
3年間の法人所得税額(税率20%)6,000,000バーツ6,000,000バーツ
実際に免除される額5,000,000バーツ(枠で頭打ち)6,000,000バーツ(枠内に収まる)
上限100%のケースとの差額1,000,000バーツの不利

この試算は説明のために単純化した仮定であり、実際の免除額は証書の条件、収益の発生時期、他の恩典との関係によって変わります。それでも、ここから読み取れる構造的な示唆が2つあります。

ひとつは、上限枠が2倍になっても、実際に免除される額が2倍になるとは限らないということです。免除されるのはあくまで実際に発生した法人所得税額までであり、枠が大きくても利益が出ていなければ使い切れません。この例では上限が2倍でも差額は100万バーツにとどまっています。

もうひとつは、その裏返しで、収益性が高い工場ほど100%枠の価値が大きくなるということです。仮に同じ工場で3年間の課税所得が7,500万バーツ出たとすると、法人所得税額は1,500万バーツ。上限50%なら500万バーツで頭打ちですが、上限100%なら1,000万バーツまで免除できます。差額は500万バーツに広がります。つまり、すでに利益体質が確立していて、そこへ増産・省人化の投資を重ねる工場ほど、30%要件を取りにいく経済的な意味が大きいという判断になります。逆に、赤字が続いていて当面課税所得が見込めない工場では、上限の議論より先に投資そのものの回収計画を詰めるべきです。

もうひとつの100%ルート、インダストリー4.0移行措置

1.1の30%要件とは別に、上限100%へ到達する経路がもうひとつあります。1.3(新規Group Bプロジェクトの場合は2.2)のインダストリー4.0移行措置です。

こちらは自動化・ネットワーク技術、データ分析・スマートオペレーション、デジタル技術の導入といった複数領域を組み合わせて実施することが前提で、NSTDA(タイ国家科学技術開発庁)の承認が必要です。ロボットを1台入れるだけでは届きませんが、生産設備の自動化と同時に稼働データの収集・分析基盤、エネルギー監視、生産管理システムまでを一体で計画している場合には、こちらのルートのほうが素直に100%へ届くことがあります。

実務上の含意は、「自動化案件」と「システム案件」を別々の稟議に切り分けると、届いたはずの100%を取り逃すという点です。設備部門がロボットの稟議を出し、IT部門が半年後にMESの稟議を出す、という進め方は社内の意思決定としては自然ですが、BOIの申請単位としては別プロジェクトになります。FA導入の全体像を先に描いてから投資の単位を切る、という順番であれば、この取りこぼしは避けられます。FA全体の進め方はファクトリーオートメーションとは|FA導入の全体像と進め方2026を参照してください。

投資額の算入ルール|半額になるのは基幹系ソフトとクラウドだけ

上限が対象投資額の何%かという議論と並んで、そもそも何がその「対象投資額」に算入されるのかが金額を左右します。1.1措置の算入表は次のとおりです。

投資対象算入割合
機械・設備全額
機械・設備に統合され、製造工程を制御・監視・支援するソフトウェア/IT全額
AI、機械学習、ビッグデータ、データ分析の活用全額
企業管理用のソフトウェア/ITのうち、タイ国内の開発者が開発しBOI承認の関連機関の認証を受けたもの全額
企業管理用のソフトウェア/ITのうち、上記の認証がないもの、または海外の開発者によるもの半額
タイ国内のクラウド/データセンターの利用費用全額
国外のクラウド/データセンターの利用費用半額
土地代算入対象外
運転資金算入対象外

この表で最も誤解されやすいのが、ソフトウェアの扱いです。「タイ国内開発でなければ半額」という条件が掛かるのは、ERPのような企業管理用(enterprise management)のシステムに限られます。設備に組み込まれて製造工程を制御・監視・支援するソフトウェアや、AI・機械学習・ビッグデータ・データ分析の活用にかかる投資は、開発元を問わず全額算入です。画像検査のAIモデルや設備稼働データの分析基盤を海外ベンダーと組んで構築する場合でも、この区分に収まるのであれば半額にはなりません。ソフトウェア投資を一律に「半額だから恩典に効かない」と切り捨ててしまうと、算入できたはずの金額を自ら削ることになります。

半額の線引きが実際に効いてくるのは、クラウドのリージョン選択と、基幹系パッケージの調達方法の2つです。

クラウドについては、MES、エネルギー監視、設備稼働の可視化といったシステムをSaaSやIaaS上に構築する場合、契約時にリージョンを意識せず既定値のままシンガポールや日本のリージョンで組んでしまうケースが非常に多くあります。技術的には何の問題もありませんが、算入額の観点では半額になります。タイ国内リージョンを選べる構成であれば、同じ費用で算入額が倍になるという話です。

基幹系については、「海外本社が採用したグローバル標準のERPパッケージをタイ工場にも展開する」という進め方が、算入の観点では半額側に落ちます。もちろん恩典のためだけにシステムの選定基準を曲げるべきではありませんが、同等の機能・同等の価格で選択肢が並んだときに、算入割合が判断材料のひとつになることは知っておいて損がありません。この判断は投資額が大きいほど効いてきます。

また、土地代と運転資金が対象外である以上、既存建屋の中で完結する設備更新はこの措置と相性が良いといえます。新しい建屋を建てる計画と抱き合わせると、対象投資額の計算はかえって煩雑になります。

申請から3年以内の操業開始まで|設備仕様を固める前に確認する理由

制度の中身と同じくらい重要なのが時間軸です。この措置には時間の基準が2つ設定されています。

BOI自動化投資の法人税免除2026|50%と100%を分ける要件 - figure 3

免除の起点と、証書発行から3年という締切

法人所得税の免除期間は、投資奨励証書(Promotion Certificate)の発行後、収益が発生した日から起算されます。証書が出た日ではなく、そこから収益が立った日が起点です。

同時に、証書の発行日から3年以内に、アップグレードを完了して操業を開始する必要があります。つまり、証書を取ってから設備の設計・製作・据付・立ち上げをすべて終えなければならないという期限が走ります。

自動化ラインの案件で、構想から量産立ち上げまでに1年から1年半かかることは珍しくありません。仕様確定に3か月、SIerの選定と契約に2か月、設計・製作に6か月、据付とFAT/SATに3か月、量産移行の安定化に2か月といった積み上げは、標準的なスケジュールです。3年という期限には余裕があるように見えますが、証書取得のタイミングが早すぎると、まだ仕様も固まっていないうちに時計が動き出すことになります。逆に遅すぎれば、後述の落とし穴を踏みます。

段階主にやること恩典の観点で確認すること
構想対象工程の選定、概算投資額の把握事業カテゴリが対象外業種でないか、100万バーツを超えるか
概算構成ラインの構成要素と分担の粗い割り付け30%要件に届く構成が現実的か、1.1と1.3のどちらを狙うか
RFP要求仕様と提出資料の指定国内製作・調達分の金額内訳の提出を要求事項に入れる
見積・選定各社見積の比較、SIer決定国内比率が計算できる粒度で見積がそろっているか
申請BOIへの申請、審査対応算入対象と対象外の切り分けが説明できるか
証書発行投資奨励証書の取得発行日から3年の期限が起算されることを工程表に反映
実装設計・製作・据付・立ち上げ期限内に操業開始できる工程になっているか

落とし穴は「仕様を固めてから確認する」順番

もっとも多い失敗は、設備仕様と見積を固め、稟議を通し、発注してから恩典の可否を確認するという順番です。この順番だと、要件を満たしていないと分かった時点で選べる道が2つしかなくなります。

ひとつは、設備の構成を変更して要件を満たしにいく道です。しかしこの時点では設計が進んでおり、変更すれば再見積になり、納期は後ろにずれ、場合によってはSIerの選定からやり直しになります。増産の立ち上げ時期が決まっている案件では、この遅延を飲めないことが多くあります。

もうひとつは、恩典を諦めて当初の仕様のまま進める道です。こちらは工程は守れますが、稟議で示した投資回収年数の前提が変わります。免除枠が数百万バーツ規模で消えるわけですから、承認された投資判断の根拠そのものが崩れかねません。

この二択が生まれる原因は、確認が遅いことではなく、確認の順番が逆になっていることです。30%要件は「どの製品を買うか」ではなく「ラインをどう構成し、どこで製作するか」の問題なので、構成が固まる前でなければ動かせません。したがって、正しい順番は「概算構成 → BOI要件の当たり付け → RFP → 見積 → 稟議 → 申請」です。概算構成の段階であれば、架台と搬送を国内製作に寄せる、治具の設計と製作をタイ側に持たせる、といった調整がコストと納期をほとんど動かさずに実行できます。

稟議書に載せる回収年数が恩典の有無で変わる

もうひとつ実務的に重要なのは、恩典の有無が投資回収年数の計算に直接入ってくることです。法人所得税の免除は税引後キャッシュフローを押し上げるため、同じ設備・同じ効果でも回収年数は短くなります。稟議の段階で恩典を織り込むかどうかで、承認のハードルを越えられるかどうかが変わる案件は実際に存在します。

一方で、まだ申請も出していない段階で恩典を前提にした回収年数だけを書くのは危険です。実務的には、恩典なしの回収年数を基本ケースとして示し、恩典が取れた場合の改善幅を併記する形が説明として通りやすくなります。稟議と受入設計をあわせた進め方は設備投資計画支援2026|タイ工場の稟議・BOI・受入設計で整理しています。

2026年の申請実績が示す投資動向

制度が現に使われているかどうかは、申請実績で確認できます。以下はBOIが公表する申請統計をもとに、投資顧問各社の分析記事等で報じられている数字です。BOIの統計は四半期ごとの公表と半期・通年の集計が併存しており、報道の時点によって参照している集計単位が異なります。以下の表もその形をそのまま反映しているため、同じ集計期間・同じ集計軸で並んだ数字ではないことを前提にお読みください。数字を稟議書や投資判断の根拠として使う場合は、BOIが公表する最新の統計そのものに当たってください。

対象期間件数申請額
機械・オートメーション・ロボット分野(業種分野別の集計)2026年第1四半期38件8,081百万バーツ
スマート&サステナブル・インダストリー措置(措置別の集計)2026年第1四半期61件7,071百万バーツ
スマート&サステナブル・インダストリー措置(措置別の集計)2023年の制度開始から2026年上半期までの累計1,397件146,000百万バーツ超(1,460億バーツ超)

上の2行は集計軸が異なります。1行目は事業分野(機械・オートメーション・ロボット)で切った数字、2行目は適用する措置で切った数字であり、一方が他方の内数という関係ではありません。件数が多いほうの金額が小さいのはそのためです。

累計1,397件で1,460億バーツ超ということは、1件あたりの平均が約1.05億バーツという計算になります。これだけ見ると「大型投資の制度」に見えますが、既存事業向けの最低投資額は100万バーツです。平均値と最低要件のあいだにこれだけの開きがある以上、少数の大型案件が平均を押し上げている可能性が高く、平均額をもって申請の目安と考えるべきではありません。ライン1本の自動化を検討している中堅工場が、金額規模を理由に検討対象から外す必要はありません。タイでのFA投資を順序立てて進める考え方はファクトリーオートメーション タイ|導入の順序と費用・BOI恩典でも扱っています。

もうひとつ読み取れるのは、直近四半期でも61件・7,071百万バーツという規模で申請が続いており、制度が縮小や打ち切りの方向にはないということです。ただし、投資奨励措置は告示の改定によって条件が変わりうるものです。申請の直前には、その時点で有効な告示の内容を必ず確認してください。本記事の内容は2026年8月時点で公開されている情報に基づく一般的な整理であり、個別案件の適用可否や税務上の取り扱いについては、BOIおよび税務の専門家への確認が必要です。

よくある質問

BOI恩典を受けていない工場でも申請できますか?

できます。この措置の対象は「既存の事業(BOI奨励を受けているプロジェクトか否かを問わない)」または「新規のGroup Bプロジェクト」と定められており、現在恩典を受けていないことは申請の障害になりません。過去に一度もBOIを使っていない工場も対象です。なお逆に、すでにBOI奨励を受けているプロジェクトの場合は、法人所得税免除の恩典が満了しているか、そもそも法人所得税免除を付与されていないことが条件になります。免除期間の途中にある案件がこの措置を重ねて適用することはできません。

法人税免除は50%と100%のどちらが受けられますか?

1.1の機械・オートメーションのアップグレード/更新措置は、原則として対象投資額の50%が上限です。導入する自動化システムまたはロボットが、タイ国内の自動化産業に対して、更新する機械の価値の30%以上にあたる連動・支援を持つ場合、上限は100%に引き上げられます。また、1.3のインダストリー4.0移行措置、1.4の省エネ・環境負荷低減措置、1.5の国際サステナビリティ認証取得に向けた生産ライン改善措置は、いずれも上限100%です。免除期間はどの措置も3年間で共通です。

対象外になる業種はありますか?

あります。1.1の措置では、一般乗用車の製造、二輪車の製造(排気量248cc未満を除く)、電動車のうちPHEV・HEVの製造、セメントの製造、コイルセンター、ヘルスリハビリテーションセンター、コワーキングスペース、TISO、IBC、IPOが対象外です。除外リストは措置ごとに異なり、1.2のデジタル技術導入措置ではソフトウェア開発やデータセンター、クラウドサービスなども加わってさらに広くなります。自社の事業がBOIのどのカテゴリに分類されるかによって判定が変わるため、構想段階で確認しておくのが安全です。

ロボット1台の導入でも申請できますか?

金額の面では、土地・運転資金を除いて100万バーツ以上という最低投資額を満たせば形式要件はクリアします。ただし1.1は「生産ラインへの自動化システム導入で所定の指標を満たすもの」または「非自動機械の近代化・更新」が対象であり、単体の装置を置いただけでは指標の説明が難しい場合があります。ライン単位での効果を説明できる構成にしておくのが現実的です。

ソフトウェアだけの投資でも使えますか?

1.2のデジタル技術導入措置が該当します。組織の内外をつなぐソフトウェア/情報システムの導入、AI・機械学習・ビッグデータ・データ分析の活用、公的機関のオンラインシステムとのデータ連携が対象で、上限は3年間・対象投資額の50%です。1.1と違い、機械輸入関税の免除は付帯しません。

算入割合にも注意が必要です。ソフトウェア/情報システムの導入では、タイ国内の事業者が開発・改修し関連機関の認証を受けたものは全額、認証がないものや海外事業者によるものは半額の算入となります。加えて、組織内外の連携とデータ連携の類型については、タイ国内の事業者が開発・改修し認証を受けたソフトウェアへの投資があること自体が要件とされています。AI・機械学習・ビッグデータ・データ分析への投資は全額算入です。クラウドやデータセンターの費用は、タイ国内なら全額、国外なら半額です。

免除期間の3年間はいつから数えますか?

投資奨励証書の発行後、収益が発生した日から起算します。あわせて、証書の発行日から3年以内にアップグレードを完了して操業を開始する必要があるため、証書の取得タイミングと設備の立ち上げ工程を一本の工程表で管理する必要があります。

機械の輸入関税はどうなりますか?

既存事業向けのうち、1.1の機械・オートメーション更新措置、1.3のインダストリー4.0移行措置、1.4の省エネ・環境負荷低減措置、1.5の生産ライン改善措置には、機械輸入関税の免除が付帯します。一方、1.2のデジタル技術導入措置の恩典には機械輸入関税の免除が含まれていません。また、新規Group Bプロジェクト向けの2.1・2.2の恩典として公式ガイドに記載されているのは法人所得税の免除のみで、機械輸入関税の免除は挙げられていません。自動化設備の多くを輸入に頼らざるを得ない案件では、法人所得税の免除と並んでキャッシュフロー上の効果が大きい部分なので、どの措置で申請するかによって効果が変わる点に注意してください。

まとめ

BOIのスマート&サステナブル・インダストリー措置は、既存工場の生産性向上投資と新規Group Bプロジェクトに対して法人所得税の免除を与える制度です。自動化・ロボット投資の観点で実務上押さえるべき点を整理します。

  • 対象は既存の事業または新規Group Bプロジェクトで、非BOI工場も申請できる。ただしBOI奨励中の案件は、法人所得税免除の恩典が満了しているか付与されていないことが条件。最低投資額は土地・運転資金を除いて100万バーツ。
  • 免除期間は3年間で共通。措置ごとに変わるのは「免除できる法人所得税額の上限が対象投資額の何%か」という枠の大きさである。
  • 自動化・ロボット投資で使う1.1措置の上限は原則50%。タイ国内の自動化産業への連動・支援が、更新する機械の価値の30%以上であれば100%へ引き上げられる。分母は投資総額ではない。
  • 30%要件は購入するロボットの銘柄ではなく、架台・搬送・治具・制御盤をどこで作るかという構成の問題である。RFPの段階で国内製作分の金額内訳を要求しておく。算定方法の細部は申請前にBOIへ確認する。
  • 別ルートとして、NSTDA承認を要するインダストリー4.0移行措置なら上限100%。設備とシステムの稟議を分けると取り逃す可能性がある。
  • 算入は機械が全額。設備組込みソフトとAI・ビッグデータ活用も開発元を問わず全額で、半額になるのはERP等の企業管理系ソフトと国外クラウドだけ。
  • 除外業種と機械輸入関税免除の有無は措置ごとに違う。1.2のデジタル技術導入措置には機械輸入関税の免除が付かない。
  • 証書発行日から3年以内に操業開始が必要。仕様を固めてから可否を確認すると、設備変更か申請断念かの二択になる。確認は概算構成の段階で行う。

自動化投資でBOIの恩典を最大限に活かせるかどうかは、設備を選ぶ前の、ラインをどう構成しどこで作るかという段階でほぼ決まります。TOMAS TECHはバンコクに設計・製作・据付の実働機能を持つFA企業として、この構成づくりの段階からご相談をお受けしています。まだ投資額も対象工程も固まっていない初期段階で構いません。現在の工程と検討中の投資規模をお聞かせいただければ、どの措置が現実的か、30%要件に届く構成が組めるかの当たり付けからご一緒します。ご相談はお問い合わせフォームからお願いいたします。

参考情報

本記事は2026年8月時点で公開されている情報に基づく一般的な整理です。投資奨励措置の条件は告示の改定により変更される場合があります。個別案件の適用可否および税務上の取り扱いについては、BOIおよび税務の専門家にご確認ください。