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2026.10.06

協働ロボット 価格|本体は総額の半分以下、タイ工場の見積と回収

協働ロボット 価格|本体は総額の半分以下、タイ工場の見積と回収

「ネットで調べた協働ロボットの価格と、販社から届いた見積の金額が2倍以上違う。どこが高いのか分からないし、何年で回収できるのかも説明できない」。タイのラヨーン、チョンブリー、アユタヤの日系工場で、生産技術課長や購買担当の方からよく聞く悩みです。結論から書くと、協働ロボット 価格として検索で出てくるのは、ほとんどがアーム本体の値段です。工場で実際に動く「セル」(ロボットシステム)の総額から見ると、アームは半分以下にすぎません。

そして、もう一つ大事な結論があります。投資回収の年数を決めるのは、アームをいくら値引きさせたかではなく、「何交替で、何台の設備を、何人分の作業から外せるか」です。だから見積を比較するときは、次の3つを先に揃える必要があります。

  • 見積の総額を6つの内訳(アーム/エンドエフェクタ/架台・ワーク供給排出/安全/SI/FAT・SAT・教育)で揃える
  • 運用条件(交替数、1台で見る設備の台数、ロボット化後に残る人の作業)を先に決める
  • 安全規格の改訂(ISO 10218:2025)で増えたSI側の評価と文書化の作業を、安全とSIの費目に織り込む

なお、本記事に登場する金額・人数・年数のうち、後述の「モデル工場K」に関するものは、すべて本記事オリジナルの試算値・想定値です。業界平均でも調査値でもありません。自社の数字に置き換えて使う「計算の型」として読んでください。

2026年の協働ロボット市場と価格動向

IFR:協働ロボットは設置台数の1割で定着、伸びは初めて市場全体を下回った

国際ロボット連盟(IFR)は2026年9月24日、年次報告「World Robotics 2026」を公表しました。IFRによると、2025年の世界の産業用ロボットの新規設置台数は60万3,000台(前年比11%増)で、初めて60万台を超えました。稼働台数は507.9万台(同9%増)です。IFRは2026年の設置台数を65万5,000台と予測しています。

このうち協働ロボットについて、IFRは2025年の新規設置が6万6,000台で、産業用ロボット全体の11%だったとしています。伸び率は7%で、IFRによると、協働ロボットの伸びが産業用ロボット市場全体の伸びを下回ったのは統計を取り始めて以来初めてです。つまり「協働ロボットは急拡大中」というよりも、「設置台数の約1割を占める選択肢として定着し、伸びは落ち着いてきた」と見るのが正確です。

設置先では中国が突出しています。IFRによると、2025年の新規設置の59%が中国(35万4,000台、同20%増)で、中国市場では中国メーカーのシェアが55%に達しました。ただしこれは産業用ロボット全体の数字で、協働ロボットに限った中国メーカーのシェアではない点に注意してください。

Interact Analysis:中国では1台あたりの価格下落がほぼ止まった

調査会社のInteract Analysisは2026年6月2日、2025年の世界の協働ロボット出荷が約5万7,000台(前年比14.5%増)、売上が12億ドル超(同10.5%増)だったと発表しました。IFRの6万6,000台とは数字が違いますが、これは統計の定義や調査方法が異なるためで、両者を混ぜて計算することはできません。本記事でも、どちらの数字なのかを必ず書き分けます。

価格の面で注目したいのは、Interact Analysisが示した中国市場の1台あたり平均売上の変化です。同社によると、中国では2024年に7.9%下がったのに対し、2025年の低下は0.35%にとどまり、中国での価格競争は落ち着きつつあるとしています。出荷に占める中国の比率は54.7%で、2030年には61.4%になると予測しています。2030年の世界出荷は12万8,918台、年平均17.3%の成長という見通しです。

ここから言えるのは、価格競争が続いていた中国市場でも値下がりが一服しており、「もう少し待てばアームがもっと安くなる」という理由で判断を先送りする根拠は弱くなっているということです。後で示すとおり、そもそもアーム価格の差は回収年数にあまり効きません。

高可搬・高速の新機種で「協働=小型・低速」の前提が変わりつつある

製品の側でも変化が出ています。ABB Roboticsは2026年4月、可搬重量7〜30kg(6クラス)、最高速度5.8m/sの協働ロボット「PoWa」シリーズを発表しました(The Robot Reportの報道による。価格は非公表)。ABBは世界の協働ロボット市場が2028年まで年20%成長すると見込んでいますが、これは同社の見通しであり、IFRの2025年実績(7%増)とは別物です。

Universal Robotsも2025年5月12日、同社最速(TCP最大5m/s)の「UR15」(可搬15kg、パレタイジング時は最大17.5kg)を発表しました。同社によると、ピックアンドプレースのサイクルタイムを既存のURロボット比で最大30%短縮できるとしています。こうした新機種の登場は、協働ロボットを価格だけでなく、サイクルタイムと用途で比べる必要があることを示しています。

タイの販売網の動き

タイでも量のまとまった導入案件が出ています。Doosan Roboticsは2025年2月5日、タイのロボットSIerであるVRNJと協働ロボット300台の供給に関するMOUを締結したと発表しました。同社によると、初回の確定分は60台で、2年かけて納入する計画です。また、調査会社MarketsandMarketsは、タイの協働ロボット市場を2025年の2,740万ドルから2030年に8,870万ドル(年平均26.5%)へ拡大すると予測しています(同社の推計で、算出方法は非公開)。

タイで協働ロボットを導入する全体像は、タイでの協働ロボット導入の進め方でも整理しています。

協働ロボットの価格 — アーム本体の掲載価格の例

主要メーカーは公式の定価を公表していない

まず押さえておきたいのは、Universal RobotsやFANUCなどの主要メーカーは、公式の定価表を一般に公開していないことです。ネットで見かける「協働ロボットの価格」は、販売プラットフォームや販売店の掲載価格、あるいは業界サイトや他社の推計です。以下の数字はすべて「調査日(2026年10月6日)時点の掲載価格の例」であり、メーカーの定価でもタイでの販売価格でもありません。

機種(メーカー公称の可搬・リーチ)掲載先掲載価格(調査日時点)掲載上の同梱範囲
Universal Robots UR5e(5kg・850mm)Vention34,527.00 USDアーム、コントロールボックス、ティーチペンダント
FANUC CRX-5iA(5kg・994mm)Vention47,528.64 USD掲載ページにコントローラ同梱の明記なし
FANUC CRX-10iA/L(10kg・1,418mm)Vention56,931.82 USDコントローラ込みと記載
DOBOT Nova 5(5kg・850mm)Top 3D Shop(米国の販売店)13,790.00 USDコントローラ、ケーブル、工具など

同じ5kgクラスでも掲載価格には大きな幅があります。たとえばDOBOT Nova 5のTop 3D Shopでの掲載価格は、UR5eのVentionでの掲載価格の約4割です。ただし、これは販売チャネルが異なる参考値どうしの比較であり、同梱範囲も保守の条件も揃っていません。どちらが良い・悪いという話ではなく、「掲載価格だけでは比べられない」ことを示す例として見てください。FANUC CRX-5iAについても、掲載ページの同梱物の記載が他と揃っていないため、「本体だけでこの価格」と断定することはできません。

業界サイトや周辺機器メーカーの目安

価格帯の目安を示している業界サイトもあります。いずれも各社の見解である点に注意が必要です。

  • グリッパーメーカーのRobotiqは2025年2月25日のブログで、アーム単体の価格を「中国製のエントリーモデルで1万5,000ドル」から「最上位モデルで6万ドル超」としています。
  • Qviroは56機種の調査(2026年9月10日更新)で、協働ロボットの平均価格を2万7,158ユーロとし、可搬重量別に5kgで約2万5,000ユーロ、10kgで約3万5,000ユーロ、15kgで約4万5,000ユーロとしています。データの出所は記事内で明示されていませんが、「可搬重量が大きいほど、ほぼ比例して価格が上がる」という傾向はつかめます。
  • 協働ロボットメーカーのStandard Botsは2025年10月3日の記事で、URの各機種の価格帯を推計しています(たとえばUR5eは3万〜4万5,000ドル)。これは自社製品を低価格の選択肢として訴求している競合メーカーの推計であり、公式価格ではありません。

掲載価格に含まれないもの

掲載価格をそのままタイでの予算にすることはできません。海外の販売サイトの価格には、少なくとも次のものが含まれていません。

  • ドル建て・ユーロ建てであることによる為替の影響
  • 送料と輸入時の税、通関の費用
  • タイ国内の販売代理店によるサポート、保守、予備品在庫の費用
  • 付加価値税などタイ国内での取引にかかる税

本記事では、ドルやユーロの掲載価格をバーツに換算した数字は作りません。換算レートとその日付によって結果が変わるうえ、上の費用が乗るためです。次の節からのモデル試算は、最初からバーツ建ての想定値で置いています。

協働ロボットの導入費用の内訳 — セル総額を6つの費目で見る

アームだけでは工場で動かない

Robotiqは、アームは単体では役に立たず、エンドエフェクタ(ハンド)、インテグレーション、ソフトウェアが別途かかると説明しています。セル全体の総額について、業界の目安として、Qviroは「総額はアーム単体価格の2〜3倍になる」とし、Standard Botsは「完全な協働ロボットセルは4万〜15万ドルになることが多い」「インテグレーションはロボット本体と同額になりうる」としています(後者はロボットメーカー自身の見解です)。

一方で、「セル総額のうちアームが何%を占めるか」について、国際機関やアナリストが公表した信頼できる統計は見当たりません。ネット上には%の内訳を示す記事もありますが、記事どうしで数字が食い違っています。そこで本記事では、統計の代わりにモデル工場の見積例を使って内訳を示します。

モデル工場Kの前提

  • タイ・ラヨーン県の日系の自動車部品メーカー(切削加工)
  • CNC旋盤へのワーク着脱(マシンテンディング)と、加工後の目視確認・トレイ詰めを協働ロボットに置き換える
  • 現状はCNC 1台につき、作業者1名が交替ごとに付いている
  • 作業者1名あたりの年間人件費は、月20,000バーツ、年240,000バーツと想定(残業代、賞与、社会保険、福利厚生、採用・離職にかかるコストを含めた想定値で、最低賃金そのものではありません)
  • ロボット化した後も、材料の補充、段取り替え、監視のために1交替あたり0.25人分の作業が残る(工程に付く人はゼロにはならない)
  • 年間の運用費(保守契約、予備品、ソフトウェア更新)は100,000バーツ/年

1セル(CNC 1台)の見積総額の内訳

費目内容金額(THB)
アーム本体コントローラ、ティーチペンダント込み1,200,000
エンドエフェクタグリッパ、品種別に交換する爪250,000
架台・ワーク供給排出トレイ台、位置決め350,000
安全エリアセンサー、リスクアセスメント、妥当性確認の文書化200,000
SI設計、プログラム、CNCとの信号インターフェース550,000
FAT/SAT・立上げ・教育出荷前・現地での試験、立上げ、教育150,000
合計2,700,000
協働ロボット 価格|本体は総額の半分以下、タイ工場の見積と回収 - figure 1

このモデルでは、アーム本体は1,200,000 ÷ 2,700,000 = 約44%です。言い換えると、セルの総額はアームの2.25倍になります。Qviroの目安「2〜3倍」の範囲に収まる水準ですが、これはあくまで1つの見積例であり、工程やワークによって比率は大きく変わります。

内訳を見ると、アーム以外で最も大きいのはSI(550,000バーツ)です。CNC旋盤との信号のやりとり、ワークの把持位置の調整、品種ごとのプログラムといった「その工場だけの作業」がここに入ります。次に大きいのが架台・ワーク供給排出(350,000バーツ)で、ロボットが毎回同じ位置でワークをつかめるようにするための仕組みです。マシンテンディングでは、この部分の出来がサイクルタイムと停止回数を左右します。

販社から「一式」で見積が届いた場合、ネットで見たアーム価格との差がどこから来ているのか分かりません。見積を6つの費目に分けてもらうことが、比較の出発点になります。

安全規格の改訂で増えた費目 — ISO 10218:2025と協働アプリケーション

「協働ロボット」ではなく「協働アプリケーション」

産業用ロボットの安全規格ISO 10218-1/-2は2025年に改訂されました。2026年2月にarXivで公開されたHartmannらの論文(査読前の可能性があります)によると、2025年版では、協働ロボットの技術仕様書ISO/TS 15066:2016の要求事項の大半がPart 2(ISO 10218-2:2025)に規範として統合されました。そして「協働ロボット」という用語は削除され、代わりに「協働アプリケーション」「協働タスク」が定義されました。

これが見積にとって意味するのは、安全性はロボット単体で決まるのではなく、用途(アプリケーション)全体のリスクアセスメントで決まるということです。「協働ロボットを買ったから安全柵は要らない」という前提で見積を組むと、リスクアセスメントの結果、エリアセンサーや速度制限、レイアウト変更が必要になり、後から安全の費目が増えることがあります。

同論文が挙げる主な追加要求

同論文によると、2025年版では主に次の要求が加わりました。

  • サイバーセキュリティ(脅威アセスメント、通信インターフェースの保護、認証など)
  • ロボットのクラス分け(クラスIはマニピュレータ質量10kg以下、最大力50N以下、速度250mm/s以下で、それを超えるとクラスII)
  • リスクアセスメントをISO 12100:2010に準拠して実施すること
  • インテグレータが取扱説明書に、PFL(動力・力制限)用途の生体力学的な限界値・接触部位・有効質量、安全機能の性能レベル、サイバーセキュリティ機能を記載すること

また、協働アプリケーションでは生体力学的な量の測定が求められます。同論文は、インテグレータの管理面・技術面の負担が大幅に増えると結論づけています。

見積にどう織り込むか

改訂によって安全評価の費用が何%増えるといった定量値は、公表されたものが見当たりません。ただ、同論文の整理によれば、インテグレータが行う評価と文書化の作業は増えています。見積を比べるときは、安全の費目に「誰がリスクアセスメントを行い、どの成果物(報告書、測定記録、取扱説明書の記載)が納品されるのか」が書かれているかを確認してください。安全の費目が極端に小さい見積は、この作業が含まれていない可能性があります。

なお、タイで同規格がタイ工業規格(TIS)などに採用されているかは確認できていません。自社の用途がどの要求に当たるか、柵を省けるかといった適合の判断は、専門家や認証機関に個別に確認してください。規格改訂の全体像は産業用ロボット導入とISO 10218の要点で詳しく解説しています。

協働ロボットの投資回収 — 3つのケースのモデル試算

ここからは、モデル工場Kの前提で回収年数を計算します。単純回収年数は「見積総額 ÷ 年間純便益」、年間純便益は「人件費の削減額 − 年間運用費」です。5年累計は「年間純便益 × 5 − 見積総額」で、プラスなら5年以内に元が取れていることを意味します。

山場1:アームを10%値引きさせても回収年数はほとんど変わらない(2交替)

まず、CNC 1台を2交替で動かしている場合です。

  • 現状の人件費:2人 × 240,000 = 480,000バーツ/年
  • ロボット化後に残る作業:0.25人 × 2交替 = 0.5人 → 0.5 × 240,000 = 120,000バーツ/年
  • 人件費の削減額:480,000 − 120,000 = 360,000バーツ/年
  • 年間純便益:360,000 − 100,000 = 260,000バーツ/年
  • 単純回収:2,700,000 ÷ 260,000 = 約10.4年
  • 5年累計:260,000 × 5 − 2,700,000 = 1,300,000 − 2,700,000 = −1,400,000バーツ

ここで購買担当が頑張って、アーム本体を10%(120,000バーツ)値引きさせたとします。見積総額は2,580,000バーツになり、単純回収は2,580,000 ÷ 260,000 = 約9.9年、5年累計は−1,280,000バーツです。値引きで縮む回収年数は、半年足らず(約0.46年)にすぎません。アームの値引き120,000バーツは、総額2,700,000バーツの約4.4%だからです。

山場2:3交替(夜勤を含む24時間稼働)にすると回収が4年以上縮む

同じセルを3交替で動かす場合です。

  • 現状の人件費:3人 × 240,000 = 720,000バーツ/年
  • ロボット化後に残る作業:0.25人 × 3交替 = 0.75人 → 0.75 × 240,000 = 180,000バーツ/年
  • 人件費の削減額:720,000 − 180,000 = 540,000バーツ/年
  • 年間純便益:540,000 − 100,000 = 440,000バーツ/年
  • 単純回収:2,700,000 ÷ 440,000 = 約6.1年
  • 5年累計:440,000 × 5 − 2,700,000 = 2,200,000 − 2,700,000 = −500,000バーツ

見積総額は1バーツも変わっていないのに、回収年数は2交替の約10.4年から約6.1年へ、約4.2年短くなります。アームの値引き(約0.46年)と比べると、効き目の差は歴然です。ただし、5年ではまだ回収しきれません。

山場3:1台のロボットでCNC 2台を見る(2台持ち)+3交替

さらに、1台のロボットで隣り合うCNC 2台のワーク着脱を受け持つ「2台持ち」にした場合です。

  • 2台目のCNCとのインターフェースとレイアウト変更を追加:+400,000バーツ → 見積総額 3,100,000バーツ
  • 現状の人数:CNC 2台 × 3交替 = 6人
  • ロボット化後に残る作業:2台分の補充・段取りで0.5人/交替 × 3交替 = 1.5人
  • 人件費の削減額:6 × 240,000 − 1.5 × 240,000 = 1,440,000 − 360,000 = 1,080,000バーツ/年
  • 年間純便益:1,080,000 − 100,000 = 980,000バーツ/年
  • 単純回収:3,100,000 ÷ 980,000 = 約3.2年
  • 5年累計:980,000 × 5 − 3,100,000 = 4,900,000 − 3,100,000 = +1,800,000バーツ

ロボット化後に残る作業を1交替あたり0.5人としたのは、山場2の0.25人の2台分だからです。見積総額は山場1・2より400,000バーツ増えていますが、回収は約3.2年まで縮み、5年累計はプラスに転じます。

ケース見積総額(THB)年間純便益(THB)単純回収5年累計(THB)
山場1:2交替・CNC 1台2,700,000260,000約10.4年−1,400,000
山場1’:同上でアーム10%値引き2,580,000260,000約9.9年−1,280,000
山場2:3交替・CNC 1台2,700,000440,000約6.1年−500,000
山場3:3交替・CNC 2台持ち3,100,000980,000約3.2年+1,800,000
協働ロボット 価格|本体は総額の半分以下、タイ工場の見積と回収 - figure 2

山場3の前提が崩れる条件

2台持ちの試算は、次の条件がそろって初めて成り立ちます。

  • CNCの加工サイクルが、ロボットの着脱時間より十分に長いこと(2台の加工終了が重なると、どちらかのCNCに待ちが出て、生産量が落ちる)
  • 2台のCNCが同じ品種群を加工し、同じグリッパで扱えること
  • 夜間に段取り替えが無いこと(夜勤に段取りできる人がいなければ、品種切替で止まる)

このどれかが崩れると、残る作業が増えたり、生産量が落ちたりして、約3.2年という数字は成り立ちません。現状の時間測定で、加工時間と着脱時間を分けて測っておくことが重要です。

試算で二重計上を作らないための注意

  • 人件費の削減は、その人を他の工程へ配置転換し、その分の採用を止められた場合に初めて現金の効果になります。 人を減らせない、または配置転換先が無い場合、この試算の効果は出ません。
  • BOIの税恩典は試算に入れていません。恩典の金額は企業の利益によって変わるためです。恩典を使えれば、回収はさらに短くなりうる、という位置づけです。
  • 品質の向上や稼働率の向上による効果も入れていません。その意味で、この試算は保守的です。

ROIの計算の組み立て方は、ロボット導入のROIの考え方でも詳しく説明しています。

投資回収を左右する運用条件 — 交替数・2台持ち・残る作業

3つの山場から分かるのは、協働ロボットの費用対効果を決めるのは「買う値段」より「使い方」だということです。見積を取る前に、次の運用条件を社内で決めておくと、見積の比較も回収の説明もずっと楽になります。

何交替で動かすか

同じセルでも、2交替と3交替では外せる作業者の数が違います。夜勤の採用が難しい工場ほど、ロボットを夜間に動かす価値は大きくなります。ただし、夜間に人が少ない状態で止まったときに、誰がどう復旧するのかを決めておかないと、夜間の稼働率が下がり、試算どおりの効果は出ません。

1台で何台の設備を見るか

2台持ちは回収を大きく縮めますが、前の節で挙げた条件がそろう工程は限られます。加工時間が長いCNC、同じ品種群を流すライン、レイアウトで2台を隣り合わせにできる場所が候補です。ロボットを台車やAMRに載せて複数の設備を回る構成もありますが、位置決めや安全の考え方が変わります。この選択肢は移動型協働ロボット(AMR×アーム)の導入で整理しています。

残る人の作業を棚卸しする

ロボット化しても、材料の補充、段取り替え、品質の確認、異常時の復旧は残ります。モデルでは1台あたり0.25人/交替と置きましたが、実際の値は工程によって違います。残る作業を見積もらずに「1人がゼロになる」と計算すると、効果を過大に見積もることになります。現状の作業を「着脱」「検査」「補充」「段取り」「待ち」に分けて時間を測り、どれがロボットに移り、どれが人に残るのかを書き出してください。

外した人をどこへ配置するか

前の節でも書いたとおり、人件費の削減が現金の効果になるのは、配置転換や採用の抑制ができた場合だけです。ロボット化の計画と、人の配置の計画は同時に立てる必要があります。

協働ロボットの見積を比較するときに揃える12項目

見積依頼書(RFP)に次の12項目を書いておくと、各社の見積を同じ物差しで比べられます。

  1. 6つの費目の内訳を分けて記載すること(一式見積は受け取らない)
  2. アームの型式、可搬重量、リーチ、コントローラ、ティーチペンダント、ソフトウェアオプションの範囲
  3. エンドエフェクタの品種別交換部品の数と単価(品種を追加したときの費用)
  4. 安全:リスクアセスメントの実施者と成果物、ISO 10218:2025(Part 2)に沿った協働アプリケーションとしての評価、エリアセンサーなど追加の安全機器の有無、柵を省く場合の根拠
  5. CNCや既存設備との信号インターフェース(I/O、通信)と、既存設備側の改造の責任範囲
  6. サイクルタイムの保証値と測定方法(着脱時間、CNCの加工時間、待ち時間を分けて)
  7. FAT(出荷前試験)とSAT(現地試験)の試験項目、合格基準、使う実ワークの数
  8. 教育(ティーチング、段取り替え、異常からの復旧)の対象者、時間、言語(タイ語・日本語)
  9. 保守:保守契約の範囲、予備品リスト、応答時間、タイ国内に在籍する技術者
  10. 価格の有効期限、為替の条件、輸入時の税と通関費用の扱い、支払条件
  11. 保証期間と保証範囲(減速機やケーブルなど消耗品の扱い)
  12. BOI申請に必要な書類(機械リスト、見積明細)の提供可否

特に1と4と6が揃っていないと、見積金額の差が「中身の差」なのか「範囲の差」なのか判断できません。SIerの選び方そのものについては、ロボットSIerの選び方もあわせて参考にしてください。

FAT/SATで確認すること

見積の段階で決めた条件が守られているかは、FAT(出荷前試験)とSAT(現地試験)で確かめます。合格の基準値は自社で決めるものです。下の表は、その決め方の例です。

確認項目確認の方法自社で決める合格基準の例
連続運転でのサイクルタイムと停止回数例として8時間、規定の数量を連続で流す保証値以内、停止回数は事前に決めた上限以下
ワーク着脱の失敗率実ワークで着脱を繰り返し、失敗とチャッキング不良を記録不良を検出して止まること、復旧手順どおりに戻せること
安全機能の動作人が接近したときの減速・停止を確認リスクアセスメントで決めた条件どおりに動くこと
品種切替の所要時間タイ人オペレーターが手順書どおりに切り替える計画した段取り時間以内
夜間無人を想定した異常時の動作異常を起こし、停止と通知を確認通知が担当者に届き、安全に停止すること

FATで合格しても、現地の照明、床の振動、ワークのばらつきによってSATで問題が出ることがあります。FATで使う実ワークは、できるだけ量産で流れる状態に近いものを用意してください。

タイ固有の論点 — 人件費・BOI・販売網と保守・多言語教育

人件費と最低賃金

FlowAccount(タイの会計ソフト会社)のまとめによると、2025年7月1日に施行された最低賃金の改定が2026年10月時点でも有効で、日額は337〜400バーツです。県別では、バンコク、チョンブリー、ラヨーン、チャチューンサオが400バーツ、パトゥムターニー、サムットプラーカーンが372バーツ、アユタヤが357バーツとされています。施行日と2026年10月時点で有効であることはWageIndicatorでも確認できますが、官報の原本は確認できていません。最新の金額は所轄機関に個別に確認してください。

ただ、協働ロボットの判断で効いてくるのは、最低賃金の水準そのものより、「夜勤の人が採用できない」「採用しても定着しない」ことです。採用と教育のコスト、離職による欠員の穴埋めまで含めると、1人あたりの実際のコストは最低賃金よりかなり大きくなります。モデル工場Kで月20,000バーツと置いたのも、そうしたコストを含めた想定値です。自社の実績値で置き換えてください。

BOI「Smart and Sustainable Industry」措置

タイ投資委員会(BOI)の「Smart and Sustainable Industry」措置は、既存工場の自動化投資を支援するものです。BOIのガイドによると、既存事業の機械更新・自動化では、機械の輸入関税の免除と、改善投資額の50%を上限とする3年間の法人税免除が受けられます。タイ国内の自動化産業と連携・支援する機械が高度化機械の価値の30%以上なら、上限は投資額の100%になります。既存事業の場合、投資額は100万バーツ以上(土地と運転資金を除く)が要件です。

BOIによると、2026年上半期の同措置への申請は132件、約172億バーツでした(申請ベース)。2026年も申請が続いていることが分かります。

見積との関係で大事なのは、機械リストと見積明細が申請書類になることです。BOIのガイドでは、機械設備は投資額に全額算入され、ソフトウェアなどは区分によって全額または半額で算入されます。見積を6つの費目に分けておけば、そのまま申請の整理にも使えます。なお、一般自動車製造など対象外の業種があり、BOIの恩典を受けて法人税免除期間中の既存プロジェクトは既存事業向けの措置の対象外とされています。申請期限を含め、自社が対象になるか、どの機械が算入できるかは、必ずBOIに個別に確認してください。措置の詳しい内容はBOIの自動化投資に対する法人税免除で解説しています。

販売網と保守

協働ロボットは、止まったときにすぐ直せるかどうかで実際の稼働率が決まります。見積を比べるときは、価格に加えて、タイ国内に在籍する技術者の人数、予備品の在庫の場所、応答時間を確認してください。前述のDoosan RoboticsとVRNJのMOUのように、タイの販売網は動いています。メーカーや販売代理店ごとに保守の体制は異なるため、同じ条件で比較することが大切です。

多言語での教育

段取り替えや異常からの復旧を担うのは、多くの場合タイ人のオペレーターです。ティーチペンダントの表示言語、タイ語の段取り替え手順書と復旧手順書、日本語での技術資料の有無を見積の段階で確認しておくと、夜間の停止時間を減らせます。教育の費目に、どの言語で何時間の教育が含まれるかを書いてもらいましょう。

協働ロボット導入の90日の進め方

見積を取り始めてから稼働までの最初の90日を、3つの段階に分けて進めます。

期間やること成果物
0〜30日対象工程の選定、現状の時間測定(着脱・加工・待ち)、人の作業の棚卸し対象工程リスト、時間測定の記録、残る作業の見積
31〜60日6つの費目で見積を取り、運用条件(交替数、2台持ちの可否)を固定して比較RFP、見積比較表、回収年数の試算
61〜90日FAT・SATの計画、教育の計画、BOI申請の準備試験項目と合格基準、教育計画、機械リスト
協働ロボット 価格|本体は総額の半分以下、タイ工場の見積と回収 - figure 3

最初の30日で最も大事なのは、現状の時間測定です。加工時間と着脱時間を分けて測っていないと、2台持ちが成り立つかどうか判断できません。31〜60日では、運用条件を固定してから見積を比べます。条件が見積ごとに違うと、金額の差の理由が分からなくなるからです。61〜90日では、発注先と一緒に試験と教育の計画を固め、BOIの申請に必要な書類をそろえます。

協働ロボットの価格と費用に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 協働ロボットの価格はいくらですか?

アーム本体の掲載価格の例として、調査日時点で、Universal Robots UR5eはVentionで34,527.00ドル(コントロールボックスとティーチペンダント込み)、FANUC CRX-10iA/Lは同じくVentionで56,931.82ドル、DOBOT Nova 5は米国の販売店Top 3D Shopで13,790.00ドルと掲載されています。ただし主要メーカーは公式の定価を公表しておらず、これらはタイでの販売価格ではありません。為替、送料、輸入時の税、国内販売店のサポート費は含まれていないので、タイでの価格は販売代理店から見積を取って確認してください。

Q2. 協働ロボットの導入費用の内訳は?

本記事のモデル試算(CNC 1台のマシンテンディング)では、総額2,700,000バーツのうち、アーム本体1,200,000、エンドエフェクタ250,000、架台・ワーク供給排出350,000、安全200,000、SI 550,000、FAT/SAT・立上げ・教育150,000バーツと置きました。アームの比率は約44%で、総額はアームの2.25倍です。これは1つの見積例で、工程によって比率は変わります。

Q3. 協働ロボットは何年で投資回収できますか?

交替数と、1台で見る設備の台数で大きく変わります。本記事のモデル試算では、2交替・CNC 1台で約10.4年、3交替・CNC 1台で約6.1年、3交替・CNC 2台持ちで約3.2年でした。一方、アームを10%値引きさせても約10.4年が約9.9年になるだけです。人件費の削減は、配置転換や採用の抑制ができた場合に初めて現金の効果になる点にも注意してください。

Q4. 協働ロボットなら安全柵は不要で、安全費用はかかりませんか?

そうとは限りません。2025年に改訂されたISO 10218では、「協働ロボット」ではなく「協働アプリケーション」として扱われ、安全性は用途全体のリスクアセスメントで決まるという整理になっています。リスクアセスメントの結果、エリアセンサーなどの追加の安全機器が必要になることもあります。柵を省けるかどうかは、専門家や認証機関に個別に確認してください。

Q5. 中国メーカーの安い協働ロボットを選んでもよいですか?

掲載価格には大きな差があります。たとえば同じ5kgクラスでも、DOBOT Nova 5のTop 3D Shopでの掲載価格は、UR5eのVentionでの掲載価格の約4割です。ただし販売チャネルも同梱範囲も違う参考値です。また、本記事のモデルではアームは総額の約44%なので、アーム価格の差が総額と回収年数に与える影響は、見た目ほど大きくありません。メーカーを問わず、タイ国内の保守網、予備品の在庫、サポートの言語、サイクルタイムを同じ条件で比べて選ぶことをおすすめします。

Q6. 協働ロボットの見積を比較するときのポイントは?

6つの費目の内訳、安全の成果物、サイクルタイムの保証値と測定方法を揃えることが最優先です。本記事の「見積を比較するときに揃える12項目」をRFPにそのまま書き込んで使ってください。あわせて、交替数や2台持ちの可否といった運用条件を先に決めておくと、回収年数も同じ前提で比べられます。

まとめ

  • 協働ロボットの価格としてネットに出ているのは、ほとんどがアーム本体の掲載価格です。主要メーカーは公式の定価を公表しておらず、為替や輸入時の税、国内のサポート費は含まれていません。
  • 本記事のモデル試算では、CNC 1台のセル総額2,700,000バーツのうち、アームは約44%でした。見積は6つの費目に分けて比べてください。
  • 2025年のISO 10218の改訂で、安全は「協働アプリケーション」全体のリスクアセスメントで決まる整理になり、SI側の評価と文書化の作業が増えたとされています(Hartmannらの論文による)。安全の費目を小さく見積もらないことが大切です。
  • 回収年数を決めるのは、アームの値引きではなく運用条件です。モデルでは、アーム10%値引きで縮むのは半年足らずなのに対し、3交替にすると回収は約4.2年短くなり(約6.1年)、2台持ちを組み合わせると約3.2年まで縮みました。
  • Interact Analysisによると、中国市場の1台あたり平均売上の低下は2025年に0.35%まで鈍っています。価格が下がるのを待つより、運用条件を固めて見積を取るほうが、判断は早く進みます。

TOMAS TECHでは、どの工程を対象にするかの選び方や、お手元の見積を6つの費目に分け直して比較するといった段階からご相談を承っています。協働ロボットの導入を検討中で、見積の読み方や回収の説明に迷っている方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考情報