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2026.10.06

垂直搬送機の選定|往復式と連続式の比較、タイ工場のRFPと受入

垂直搬送機の選定|往復式と連続式の比較、タイ工場のRFPと受入

「メザニン(中2階)への部品の上げ下ろしを、フォークリフトと階段の手運びから卒業したい。でも、垂直搬送機の選定で何を基準にすればいいのか分からない」。タイのチョンブリー、ラヨーン、アユタヤ、サムットプラーカーンの日系工場で、生産技術や施設の担当の方からよく聞く相談です。カタログを見比べると、まず目に入るのは積載重量と揚程です。しかし、この2つだけで選ぶと、据え付けてから「思ったほど運べない」という事態が起きます。

理由は単純です。垂直搬送機の能力を決めるのは昇降の速さではなく、各階での受渡し(積込み、取出し、扉の開閉)の時間で、1サイクルの大半はそこに消えるからです。そこで本記事では、選定を次の3つの順番で進めることを提案します。

  • ピーク時の1時間あたり搬送量と、搬送単位(ケースか、台車やパレットか)から、往復式か連続式かを先に決める
  • 受渡しを人がやるか、コンベヤで自動化するかを方式と同時に決め、RFP(見積依頼書)にサイクル時間の内訳を書かせる
  • 安全は「人が乗らない構造」であることを、米国の業界規格、日本の運用、タイの省令の3つの視点で確かめ、FAT/SAT(出荷前と現地の受入試験)の試験項目にする

なお、本記事に登場する秒数、搬送量、人数、金額、年数のうち、後述の「モデル工場M」に関するものは、すべて本記事オリジナルの試算値・想定値です。業界平均でも調査値でもありません。自社の数字に置き換えて使う「計算の型」として読んでください。

垂直搬送機とは — 往復式と連続式、エレベーターとの違い

垂直搬送機の基本

日立の物流センター用語解説は、垂直搬送機を「物流センターなどで上下階へ商品を垂直搬送する設備」と説明しています。同解説によれば、人が直接介入せずに搬入出できるよう、ローラコンベヤやチェーンコンベヤ、ベルトコンベヤなどと組み合わせて使われることが多く、人が乗り込んで操作しない点で荷物用エレベーターと異なります。

工場の現場では、垂直搬送機は大きく2つの方式に分かれます。

方式動き方得意な搬送単位主な用途の例
往復式(リフト型、英語ではVRC)かごやプラットフォームが上下に往復する台車、パレット、まとまった荷メザニンや2階への台車・パレットの上げ下ろし
連続式(バーチカルコンベヤ)荷を途切れなく連続的に流す小さなケース、軽量の小物物流センターでのケースの連続搬送

往復式は英語圏でVRC(Vertical Reciprocating Conveyor)と呼ばれ、1回の昇降で台車1台、パレット1枚といった「まとまり」を運びます。一方の連続式は、ケースを1個ずつ次々に流すのが得意で、台車やパレットのような大きな単位は運べません。この2つは同じ「垂直搬送機」という言葉でくくられていても、別物の機械だと考えたほうが選定を誤りません。

エレベーターとの違いは「人が乗らない構造」

垂直搬送機と荷物用エレベーターの違いは、国によって扱いが異なります。

米国では、業界団体MHIのVRCサブコミッティがまとめたガイドライン(2019年2月版)が、マテリアルリフト(エレベーターの規格であるASME A17.1の対象)とVRC(コンベヤの安全規格ASME B20.1の対象)を区別しています。同ガイドラインによると、VRCは通常100 ft/min(約30m/min)未満で運転され、操作盤はキャリッジ(かご)の上から決して操作できない位置に置き、乗場の扉には機械式ロックと電気的な扉状態スイッチの組み合わせが必要とされます。ただし、これは業界団体の立場表明であり、米国でも州や自治体の検査当局が異なる判断をする場合があることを、同文書自身が背景として述べています。

日本では、建築基準法上のエレベーターに該当しない設備として垂直搬送機を扱うための「3要件」が知られています。これについては後述の安全の節で詳しく触れます。

タイについては、労働安全の省令が「貨物用リフト」を定義しています。垂直搬送機がこれに当たるかどうかは、本記事執筆時点で公式な解釈を確認できていません。この点も「タイ固有の論点」の節で扱います。

いずれの国でも共通しているのは、「人が乗らない」「人がかごの中で荷を扱わない」構造になっていることを、設計と運用の両面で示せるかどうかが、エレベーターとの分かれ目になっているという点です。

垂直搬送機の方式比較 — 往復式(油圧式と機械式)と連続式

往復式の油圧式と機械式

往復式には、油圧シリンダーで昇降させる油圧式と、モーターと減速機、チェーンで昇降させる機械式があります。MHIのガイドラインは両者の使い分けを次のように整理しています。

  • 油圧式は典型的には2レベル(2つの階)の運転向けで、中間に停止階がある用途には推奨されない。製造コストが低いため、大半のVRCがこのクラスである
  • 機械式(ブレーキ付きモーターと減速機、重チェーンで昇降)は、高揚程の2レベル、3レベル以上や中間停止、自動化システム、高速・高サイクルの用途の選択肢となる

これはあくまで米国の業界団体の推奨です。「油圧式は2階建てまでしか使えない」と断定するものではありませんが、停止階が3つ以上ある、受渡しをコンベヤで自動化して高いサイクルで回したい、という条件なら、機械式を候補に入れて比べるのが自然な進め方です。

メーカー公称仕様の例

各社の仕様はメーカー公称値で、機種や構成によって変わります。以下は公開されているページから拾った例で、優劣を比べるためのものではありません。

メーカー・機種(掲載元)方式主なメーカー公称仕様
PFlow Industries 21 Series往復式(油圧)積載最大6,000 lbs(約2,700kg)、最大キャリッジ12フィート幅×10フィート長、揚程22フィート(約6.7m)、標準速度24 FPM(オプションで最大30 FPM)、10サイクル/時・100サイクル/日
Wildeck 機械式VRC往復式(機械式)積載100〜30,000 lbs、標準速度28 fpm(高速化可)、プラットフォーム最大12フィート幅×30フィート長、揚程は標準で最大150フィート(カスタム可)
セントラルコンベヤー CL型垂直搬送機最大荷姿600W×800L×1500H、最大荷重100kg、最大揚程12m、最大能力150ケース/時
セントラルコンベヤー PL型垂直搬送機1100W×1100L×1800H、1200kg、12m、60パレット/時
セントラルコンベヤー RZ型・RC型垂直搬送機(同社の高能力型)700W×800L×1500H、50kg、10m、1000ケース/時
三機工業 エスコンミニ パワーアップフロー(高津伝動精機掲載)連続式1個あたり3kgまで、ベルト幅500mm、速度最大32.4m/min、搬送物の目安は約260L×440W×160H mm

いくつか補足します。

  • PFlow社によれば、21 SeriesはASME B20.1の安全規格に適合するとされ、チェーン破断時に下降を防ぐセーフティカム、油圧系統の破裂時に制御不能な下降を防ぐベロシティヒューズ、停電時に保持するチェックバルブ、手動の下降弁などを備えています。
  • Wildeck社の数値は、それぞれが製品群としての上限です。積載の上限と揚程の上限、プラットフォーム寸法の上限を1台で同時に満たせるという意味ではありません。同社によれば構成にはStraddle、Cantilever、Heavy Duty(4XLift)、Box Lift、Deltaがあり、積み降ろしのパターンは「C」「Z」「90度」から選べます。安全機能として過負荷・ジャム保護、チェーン破断時の自由落下防止、多層機のセルフ診断などが挙げられています。
  • セントラルコンベヤー(1961年設立、2008年からIHIグループ)のRZ型・RC型が往復式か連続式かは、掲載ページの本文に明記がありません。価格は同社への問い合わせとなっています。
  • 三機工業の連続式の例は、軽量小物を連続で流す用途の機種です。同社製品を掲載する高津伝動精機によれば、投入前の制御が不要で、下り搬送のタイプもあります。

往復式と連続式の処理能力の目安

米国の販売店Cisco-Eagle社のブログ(2023年2月)は、小物ケース向けのパッケージリフトの例として、往復式は最大420個/時、連続式は標準で400個/時、カスタムで最大2,000個/時と紹介しています。床面積は往復式が7.5平方フィート、連続式が16平方フィートで、どちらもスパイラルコンベヤより経済的、インクラインコンベヤより高価とされています。

これは販売店が特定の製品を例に説明した数値で、業界統計ではありません。また、台車やパレットを運ぶ往復式の能力とは比べられない点に注意が必要です。とはいえ「軽い小物ケースを大量に流すなら連続式、台車やパレットのようなまとまった単位なら往復式」という方式選びの出発点を確認するには役に立ちます。

方式選びの考え方をまとめると、次のようになります。

  • 搬送単位が台車、パレット、大きな荷 → 往復式。停止階の数と自動化の程度で油圧式か機械式かを比べる
  • 搬送単位が小さなケースで、時間あたりの個数が非常に多い → 連続式も候補。ケースの寸法と重量が機種の範囲に収まるかを確認する
  • 両方が混在する → 単位をどちらかに揃えられないかを先に検討する(揃えられないなら、方式を分けて2系統にすることも選択肢)

マテハン機器全体の中で垂直搬送機をどう位置づけるかは、マテハン機器の選び方|タイ工場のRFP・FAT/SATでも整理しています。

垂直搬送機の能力はサイクルで決まる — 1サイクルの内訳

モデル工場Mの前提

ここからは、架空のモデル工場Mで計算します。繰り返しになりますが、数値はすべて本記事の想定値です。

  • タイ・チョンブリー県の日系電子部品メーカー。1階が成形と部品倉庫、メザニン(中2階、揚程5m)が組立と検品
  • 搬送単位は、部品ケースを12ケース積んだ台車(1台=12ケース)。上りは部品、下りは完成品または空の台車で、上り下りとも1サイクルで台車1台を運ぶ
  • 需要は上り600ケース/日。2交替・16時間稼働なので、平均は37.5ケース/時。シフト開始直後などのピークは平均の3倍で112.5ケース/時
  • 現状は、フォークリフトでのメザニン端への持ち上げと階段の手運びで、上下搬送に3人/交替×2交替=6人がかかっている
  • 1人あたりの年間人件費は、残業、賞与、社会保険、採用と離職のコストを含めた想定値として、月20,000バーツ、年240,000バーツ

ここで大事なのは、設備の能力は平均ではなくピークで判断することです。平均の37.5ケース/時なら、どの方式でも余裕で運べます。問題はシフト開始直後に部品の補充が集中する時間帯で、ここで能力が足りないと、組立ラインが部品待ちで止まります。

案A:往復式1基・人手で受渡しする場合の1往復

まず、往復式を1基入れ、各階で作業者が台車を押し込み、引き出す「案A」を考えます。1往復(上りと下り)の内訳は次のとおりです。

要素1回の時間回数/往復小計
台車の積込み・取出し(人手)45秒4回(各階で積込み・取出し×上下)180秒
扉の開閉・起動待ち15秒4回60秒
昇降走行(揚程5m)40秒2回(上り・下り)80秒
合計320秒
垂直搬送機の選定|往復式と連続式の比較、タイ工場のRFPと受入 - figure 1

比率にすると、受渡しの180秒が約56%(56.25%)、扉の開閉と起動待ちの60秒が約19%(18.75%)、昇降走行の80秒が25%です。1往復の4分の3は、かごが止まっている時間ということになります。

ここから能力を計算します。

  • 1時間の往復数=3,600秒÷320秒=11.25往復
  • 上りの能力=11.25往復×12ケース=135ケース/時
  • ピーク需要に対する稼働率=112.5÷135=約83%(83.3%)

稼働率83%というのは、ピークの1時間のうち大半の時間、垂直搬送機が休みなく動いているということです。能力とピーク需要の比は1.2倍しかありません。作業者が別の作業に呼ばれて受渡しが少し遅れる、台車の向きが悪くて押し込みに手間取る、といった小さな乱れが重なると、すぐに待ち行列ができます。

サイクル時間の式を自社に当てはめる

モデル工場Mの計算は、次の式に一般化できます。

  • 1往復の時間=(受渡し1回の時間×受渡し回数)+(扉の開閉・起動待ち1回の時間×回数)+(走行1回の時間×走行回数)
  • 1時間の能力=3,600秒÷1往復の時間×1回で運ぶ単位数

自社で使うときは、受渡し1回の時間を「カタログ値」ではなく、今の現場で台車を押し込む、引き出す動作をストップウォッチで測った値にするのがポイントです。走行時間は揚程とメーカーの速度で決まりますが、受渡しと扉の時間は、台車の形、床の段差、作業者の動線、扉の種類でいくらでも変わります。

なお、本試算の走行40秒はモデルの想定値で、メーカー公称値ではありません。走行の速さはメーカー、機種、揚程によって変わります。

「速いリフト」より「受渡しの自動化」が効く

走行を2倍速にした場合

案Aの能力に不安があるとき、まず思いつくのは「もっと速いリフトにする」ことです。走行を2倍速にして、1回40秒を20秒にしたとします。

  • 1往復=320秒−40秒(走行2回分がそれぞれ20秒短くなる)=280秒
  • 1時間の往復数=3,600÷280=約12.86往復
  • 上りの能力=約154ケース/時(154.3)

能力の伸びは約14%にとどまります。走行は1往復の25%しか占めていないので、それを半分にしても全体は大きく縮まないのです。

受渡しを自動化した場合(案B)

次に、両階にローラーコンベヤと自動扉を付け、台車の積込みと取出しを自動化する「案B」を考えます。受渡し1回の時間が45秒から15秒に縮むと想定します。扉の開閉・起動待ちと走行は案Aと同じです。

  • 1往復=4回×15秒+60秒+80秒=200秒
  • 1時間の往復数=3,600÷200=18往復
  • 上りの能力=18×12=216ケース/時

能力は135ケース/時から216ケース/時へ、60%伸びます。ピーク需要112.5ケース/時に対する稼働率は約52%(52.1%)まで下がり、受渡し側の小さな乱れを吸収する余裕が生まれます。

比較1往復1時間の往復数上りの能力案Aからの伸びピーク稼働率
案A(人手受渡し)320秒11.25往復135ケース/時—約83%
走行2倍速(受渡しは人手のまま)280秒約12.86往復約154ケース/時約14%—
案B(受渡し自動化)200秒18往復216ケース/時60%約52%

需要が増えたときに差が出る

この差は、需要が増えたときにはっきり表れます。たとえば、生産量が伸びて需要が30%増えたとすると、ピークは112.5×1.3=約146ケース/時(146.25)になります。

  • 案A(135ケース/時)では能力不足になり、ピークの時間帯に部品待ちが発生する
  • 案B(216ケース/時)なら、そのまま対応できる

垂直搬送機は建屋の床に開口を設け、ピットや基礎を作り、囲いを立てる設備です。後から2基目を追加するのは、建屋工事も含めて大がかりになります。導入時に「何年後にどこまで需要が増えうるか」を想定し、受渡しの自動化で能力に余裕を持たせておくほうが、結果として安く済むことが多いと考えられます。

受渡しのコンベヤは、合流や滞留の設計を誤ると、そこで能力が頭打ちになります。コンベヤ側の設計の考え方はコンベヤ設計2026|止まるのは速度ではなく合流と滞留で詳しく扱っています。

垂直搬送機の導入費用と回収のモデル試算

公開価格は見当たらない

先にお断りしておくと、本記事の調査範囲では、垂直搬送機の公開価格や販売店の掲載価格は見つかりませんでした。国内メーカーの多くは「お問い合わせ」としています。搬送単位、揚程、停止階の数、建屋工事の範囲によって金額が大きく変わる設備なので、相場を一つの数字で示すことはできません。

そこで以下では、費目の構成と回収の考え方を示すためのモデル試算として、本記事で想定した金額を使います。実際の見積とは異なりますので、自社の見積を同じ費目に分けて当てはめてください。

案Aと案Bの投資額の内訳

費目(バーツ)案A 往復式・人手受渡し案B 往復式・自動受渡し
垂直搬送機 本体1,800,0001,800,000
建屋工事(床開口・ピット/基礎・囲い)900,000900,000
電気・制御300,000300,000
安全(ゲートインターロック・囲い・表示)200,000200,000
FAT/SAT・教育100,000100,000
両階の受渡しコンベヤ・自動扉・I/O連携—1,200,000
合計3,300,0004,500,000

本体は合計の一部にすぎず、案Aでも建屋工事、電気と制御、安全、受入試験と教育で1,500,000バーツを想定しています。見積を比べるときに本体価格だけを見ると、後から建屋工事や安全の費目が別途で追加され、予算を超えるという事態になりがちです。

案A:削減3人、回収約5.2年

案Aでは、受渡しを人が担うため、導入後も上下搬送に1.5人/交替×2交替=3人が残ります。

  • 人件費の削減=(6人−3人)×240,000バーツ=720,000バーツ/年
  • 年間の保守・点検費=80,000バーツ/年(タイの省令が適用される前提での点検と年次荷重試験の外部委託を含む想定)
  • 純便益=720,000−80,000=640,000バーツ/年
  • 単純回収=3,300,000÷640,000=約5.2年(5.16)
  • 5年累計=640,000×5−3,300,000=−100,000バーツ

5年たっても投資額を回収しきれない計算です。

案B:削減5人、回収約4.2年

案Bでは、受渡しが自動化されるため、残るのは台車の補充や異常対応の0.5人/交替×2交替=1人です。

  • 人件費の削減=(6人−1人)×240,000バーツ=1,200,000バーツ/年
  • 年間の保守・点検費=120,000バーツ/年(コンベヤと自動扉の分を加算)
  • 純便益=1,200,000−120,000=1,080,000バーツ/年
  • 単純回収=4,500,000÷1,080,000=約4.2年(4.17)
  • 5年累計=1,080,000×5−4,500,000=900,000バーツ
垂直搬送機の選定|往復式と連続式の比較、タイ工場のRFPと受入 - figure 2
指標案A案B
投資額3,300,000バーツ4,500,000バーツ
導入後に残る人数3人1人
人件費の削減720,000バーツ/年1,200,000バーツ/年
保守・点検費80,000バーツ/年120,000バーツ/年
純便益640,000バーツ/年1,080,000バーツ/年
単純回収約5.2年約4.2年
5年累計−100,000バーツ900,000バーツ

さらに、案Bで追加した1,200,000バーツだけを見ると、純便益の差は1,080,000−640,000=440,000バーツ/年なので、追加投資は1,200,000÷440,000=約2.7年(2.73)で回収できる計算になります。

初期投資が高い案Bのほうが、回収は早い。これがモデル試算の結論です。回収の差を生んでいるのは、人が受渡しに張り付かなくてよくなること(削減人数の差)です。前の節で見た「能力が60%伸びる」効果は、需要増への備えとして別に効いてくるもので、この金額には入れていません。

試算の前提が崩れる条件

ただし、この結論はいくつかの条件の上に成り立っています。次の条件が満たせない場合、案Bの効果は大きく目減りします。

  • 台車とケースの寸法が揃っていて、コンベヤで受け渡せること。台車の種類が多い、キャスターの向きがばらばら、ケースがはみ出して積まれる、といった状態では自動の受渡しは安定しません。
  • 上下の階で台車を受け取る先(工程側のバッファ)があること。垂直搬送機から出てきた台車を置く場所がなければ、コンベヤの上で詰まり、結局人が引き取りに走ることになります。
  • 削減した人を他の工程に配置転換し、その分の採用を止められること。人が減らせなければ、人件費の効果は出ません。

二重計上を作らないための注意

試算を自社で作り直すときに、陥りやすい誤りがあります。

  • 比較の基準は「現状の6人」です。案A、案Bとも、この基準からの削減で計算しています。案Bの削減5人に、案Aの削減3人を足してはいけません。
  • フォークリフトの削減効果(燃料やリース)、労災リスクの低下、品質(落下による破損)の改善効果は、この試算には入れていません。その意味で保守的な試算です。
  • BOIの恩典も入れていません。使える場合は、回収はさらに短くなりうる、という位置づけです。
  • 連続式は台車を運べないため、このモデルの比較対象にはしていません。ケース単位で需要がさらに大きい工場では、連続式も選択肢になります。

自動倉庫など、より大きなマテハン投資の費目の立て方は自動倉庫の価格2026|タイ工場の見積内訳と投資回収の考え方も参考になります。

垂直搬送機の安全 — 「人が乗らない構造」を立証する

垂直搬送機の安全で最も大切なのは、人がかごに乗らない、かごの中に手や体を入れない、かごが落ちないことを、構造で担保することです。ここでは、米国の業界規格と推奨、日本の行政の運用を、設計と受入の物差しとして紹介します。いずれも日本やタイの法令そのものではないことに注意してください。

米国の業界規格と推奨:ASME B20.1とMHIガイドライン

ASMEの公式ページによると、コンベヤと関連機器の安全規格ASME B20.1の最新版は2024年版です。適用範囲はコンベヤとコンベヤシステムの設計、製造、据付、保守、点検、運転(危険に関して)で、人の移動を主な目的とするコンベヤは除外されています。

MHIのガイドラインによれば、2015年より前のB20.1は性能を定める規格で「どう達成するか」の詳細がありませんでしたが、2015年の改訂でVRCの設計、据付、試運転、定期点検の仕様を定めた強制付属書が追加されました。同ガイドラインは、VRCを規制するために使える有効な安全規格はASME B20.1のみである、という業界の立場を示しています。また、米国ではVRCは典型的にOSHA(労働安全衛生局)が規制・検査し、マテリアルリフトは州や自治体の当局が規制・検査する、と記載しています。

MHIガイドラインが挙げる主な安全の考え方は、次のとおりです。

  • ゲート・インターロック:全ての扉やゲートが閉じていない限りVRCが動かず、キャリッジがその階にいない限り扉やゲートが開かないロック機構。上下に開くもの、横にスライドするもの、スイングするもの、全てのゲートにインターロックを求めています。
  • 乗り込み禁止:人がリフトのキャリッジに乗ることを決して許さない。操作の押しボタンは、ゲートを閉じた状態でキャリッジの上から操作できない位置か、キャリッジから少なくとも6フィート(約1.8m)離す。
  • 安全装置をバイパスしない:安全装置とインターロックの配線が済む前に運転しない。盤内のコンタクタを手で押して動かす運転は、全ての安全装置をバイパスしてしまうため禁止。
  • 囲い:金網やエキスパンドメタル、鋼板などで囲い、金網やメッシュは2インチの球が通らない目開きとし、全ての囲いは任意の方向の200ポンドの力に耐えること。一般的なスイングゲートの高さは84インチ。
  • 落下防止:キャリッジを吊るすタイプの全てのVRCに落下防止の安全装置を求める(油圧のラムやシリンダーが直接支える方式は不要)。機械式では、チェーンのたるみを検知して止めるスイッチなどを備えうる。

また、ASME B20.1は全てのVRCの設置で、リフトや荷との不意の接触による傷害を防ぐ完全なガードと、荷降ろし階の扉やゲートのインターロックを求め、ゲートや囲いを誰が供給したかにかかわらず、要求を満たす責任は据付業者にある、とMHIガイドラインは記載しています。これは米国の業界ガイドラインの記述ですが、タイでの契約でも「囲いやゲートをどこが用意し、安全の要求を満たす責任を誰が負うのか」をRFPで明記すべきという示唆として受け取れます。

日本の運用:垂直搬送機の「3要件」と兵庫県の基準

日本本社の設備基準と照らし合わせる方のために、日本の運用も紹介します。兵庫県住宅供給公社の吉野弘晃氏が近畿地方整備局の研究発表会(2016年)で発表した論文によれば、垂直搬送機の基準としては「昇降機技術基準の解説」にある次の3要件しか見当たらない、とされています。

  1. 工場や作業場などの生産設備または搬送(荷役)設備として、専らそれらの過程の一部に組み込まれる施設であること
  2. 人が搬器への物品の搬出、搬入に直接介入せずに使用されること
  3. 人が乗り込んだ状態で運転されるおそれのない構造であること

同論文によると、兵庫県はこの3要件を具体化する基準を作成し、近畿圏の共通の取扱いとして採用されました。全国で統一された法令の基準ではない点に注意してください。

兵庫県の基準の主な内容は、搬送システムをシーケンス制御とし、一連の搬送動作を自動(原則1回の操作)で行えること、操作盤は安全柵などの外で搬器から手が届かない位置に置くこと、安全柵は高さ1.1m以上とすること、昇降路は原則として床面から1.8m以下の部分を隙間のない鉄板などで覆うこと(人の手が入らない網目の金網などは可)、出入口に操作回路とインターロックされた進入防止扉を設け、搬器の移動中に扉が開いたら搬送システムが止まること、非常停止ボタンなどを要所に設けること、などです。

この基準づくりの背景には、痛ましい事故があります。同論文によれば、兵庫県では2009年、2010年、2012年に、姫路市内の別々の工場で、違法に設置された荷物運搬用エレベーターによる死亡事故が起きました。かごが着床していないのに乗場のドアが開いた(ドアロックが無かった)、ワイヤーロープが緩んでかごが落ちた(たるみを検知するスイッチが無かった)など、安全装置の不備が原因とされています。同論文が調査対象とした兵庫県内の工場398件のうち、荷物用エレベーターを設置していたのは49%でした(この比率は調査対象の工場に限った値です)。

日本の3要件の考え方を一言でまとめると、「受渡しは自動で、人は搬器の外にいる」ということです。これは、本記事の案B(受渡しの自動化)が目指す方向と重なる考え方でもあります。能力を伸ばすための自動化が、安全の立証にもつながるという点は、選定のときに意識しておきたいところです。

ただし、日本で「垂直搬送機」と呼べば建築基準法や労働安全衛生法の適用外になる、というわけではありません。建築基準法上のエレベーターに当たらない設備として扱われるには、少なくとも3要件を満たす構造であることが前提です。メーカーの中には、自社製品を「労働安全衛生法、建築基準法の適用を受けない垂直搬送機」と説明するところもあります(たとえばジャロック社は、最大積載2000kgのスライドリフターについて、昇降路内で荷捌きをしない設計とし、確認申請や法定点検が不要と説明しています)。こうした説明はメーカーの主張であり、日本国内の法令の話です。タイの工場にそのまま当てはまるものではありません。

安全制御の性能をどう決めるか

ゲートのインターロックなど安全に関わる制御をどの水準で作るかについて、本記事の調査範囲では、垂直搬送機のインターロックに求められる性能レベル(ISO 13849のPLr)を明記した一次資料は確認できませんでした。そのため、特定の値を必須と断定することはしません。進め方としては、リスクアセスメントで求める性能レベルを決め、RFPで要求値と検証の方法(計算書など)を提出してもらう、という一般的な手順をおすすめします。安全制御の検証の進め方は安全PLC導入|認証で終わらないRFP・妥当性確認で詳しく解説しています。

安全規格への適合の判断は、最終的には所轄の当局や安全の専門家に個別に確認してください。

垂直搬送機のRFP・見積依頼に書く12項目

ここまでの内容を、RFPに書き込む12項目にまとめます。複数社の見積を同じ土俵で比べるためにも、最初の依頼の段階で揃えておくことが大切です。

  1. 搬送単位とピーク搬送量:ケース、台車、パレットの寸法、重量、重心の位置(最大と最小)と、ピーク時の1時間あたり搬送量
  2. 方式と理由:往復式か連続式か、油圧式か機械式か。そう判断した理由の提出も求める
  3. サイクル時間の内訳:受渡し、扉の開閉、走行を分けて、保証値として提示すること
  4. 停止階と揚程:停止階の数、揚程、積み降ろしの向き(同じ面、反対面、90度)
  5. 受渡しの方法:人手、コンベヤ、AGVやAMRのどれか。周辺コンベヤとのI/O(入出力信号)とインターロックの責任範囲
  6. 安全:ゲートのインターロック(全ゲートが閉じないと動かない、かごがいない階のゲートは開かない)、乗り込み禁止の構造と表示、落下防止装置、囲いの網目と強度、非常停止
  7. 準拠する規格・基準:ASME B20.1などの参照、日本本社の基準、タイの省令にある点検や荷重試験への対応可否
  8. 建屋工事の範囲:床の開口、ピットや基礎、梁の補強、防火区画と、施主と施工者の分担
  9. 稼働中の工場での据付計画:工期、仮置きスペース、生産を止める時間
  10. FAT・SATの試験項目と合格基準
  11. 保守:点検の周期、年次の荷重試験を誰が実施するか、予備品、タイ国内の技術者と応答時間
  12. 商務条件:価格の有効期限、為替、輸入時の税と通関、支払条件、BOI申請に必要な機械リストと見積明細の提供可否

なかでも、3番のサイクル時間の内訳を保証値として書かせることが、能力不足を防ぐうえで最も効きます。「最大能力○○/時」とだけ書かれた見積は、どの受渡し時間を前提にしているのかが分かりません。内訳を出してもらえば、自社の現場で測った受渡し時間と照らし合わせて、実際の能力を見積もり直すことができます。

また、5番の責任範囲も見落とされやすい項目です。垂直搬送機のメーカー、受渡しコンベヤの業者、建屋の施工業者が別々になると、インターロックの信号を誰がどこでつなぐのか、詰まったときにどちらの制御で止めるのかが曖昧になりがちです。

垂直搬送機のFAT/SATで確認すること

FAT(工場出荷前試験)とSAT(現地受入試験)では、次の項目を確認します。合格の値は、自社で決める例として示しています。

試験項目確認の内容合格基準の例(自社で決める)
サイクル時間受渡し、扉、走行に分けて、実際の台車で連続運転して実測するRFPで保証させた内訳の値以内
ピーク搬送量の再現ピーク時と同じ頻度で台車を投入するピーク需要を運びきり、待ち行列が解消する
ゲート・インターロック全ゲートが閉じていないと動かない、かごがいない階のゲートが開かない全階、全ゲートで例外なく作動
定格荷重での昇降定格荷重を載せて昇降する異音や停止がなく、所定の時間内で昇降
過負荷定格を超える荷重を載せる検知して運転しない
落下防止装置メーカーの手順に従い作動を確認する手順書どおりに作動
非常停止・停電運転中に非常停止、停電を発生させる安全に停止し、復旧手順どおりに再開できる
受渡しコンベヤとの連携タイムアウト、詰まり、片側に台車が残った場合の扱い想定した状態に必ず移り、人が介入する手順が明確
表示と手順書搭乗禁止と許容荷重の表示、タイ語の操作手順書と日常点検の手順書全階と、かご内に掲示されている

ゲートのインターロックについては、MHIガイドラインが現地での試験項目として、上下の速度、全てのリミット、ゲートのインターロック、ゲートの状態スイッチなどを挙げています。これを参考に、自社のSATチェックリストを作るとよいでしょう。

受入試験の進め方そのものは、同じく上下階をまたぐ設備を扱ったAGV エレベーター 連携|RFP・FAT/SAT受入設計とも共通する部分が多くあります。

タイ固有の論点 — 省令、据付、人件費、BOI

省令B.E.2564の「貨物用リフト」と、該当するかの確認

タイでは、機械、クレーン、ボイラーなどに関する労働安全の管理基準を定めた省令(B.E.2564、官報掲載は2021年8月6日)があります。この省令は「貨物用リフト(ลิฟต์ขนส่งวัสดุ)」を、建物などの各階の間で物品の上下搬送にのみ使用し、人の搭乗に使用しない機械、と定義しています。英語の二次資料であるEnviliance社のレポートも、同省令が機械、クレーン、ボイラーなどを対象とし、リフトを機械の区分に含めていると紹介しています。

官報版の条文によれば、貨物用リフトには主に次のことが求められます。

  • 堅固に設置し、毎日点検すること
  • 試験や修理の間の危険防止措置と使用禁止の表示
  • メーカーが定める荷重を超えたときの警報と、運転を遮断する装置
  • 扉が閉じていなければ動かない措置
  • 許容荷重の表示と「搭乗禁止」の表示(かごの中と、全ての階の扉の外)
  • 積荷の移動防止、かごの詰まり防止の措置
  • 設置後と、使用中は少なくとも年1回の部品と装置の試験。荷重試験はメーカーが指定する最大使用荷重の100%以上で行い、結果を掲示して記録を保管する
  • 安全装置と作動系の毎月の点検
  • 安全率はワイヤロープで5以上、チェーンで4以上

ここで注意が必要なのは、タイで垂直搬送機がこの「貨物用リフト」に当たるかどうかの公式な解釈は、本記事執筆時点で確認できていないということです。日本のように「垂直搬送機は別扱い」とする行政の取扱いがタイにあるかも確認できていません。一方で、定義の文言だけを読めば「物品のみを階の間で上下に運ぶ機械」なので、該当しうると考えられます。

そこで、次の手順をおすすめします。

  1. 導入前に、所轄の労働保護福祉局や、安全の専門家、検査機関に、自社の機械が該当するかを確認する
  2. 確認の結果が出るまでは、該当する前提で、毎日と毎月の点検、年1回の荷重試験の計画と費用を見込んでおく(モデル試算の保守・点検費も、この前提で置いています)
  3. RFPで、メーカーや据付業者に、省令の点検と荷重試験に対応できるか、誰が実施するかを確認する

該当しないと分かった場合に費用が浮くのは問題ありませんが、該当するのに見込んでいなかった場合は、後から点検体制を作り直すことになります。安全側に倒しておくのが無難です。

稼働中の工場での据付

既存の工場にメザニン用の垂直搬送機を入れる場合、生産を続けながらの据付になることがほとんどです。業界メディアMaterial Handling 247の記事(2026年9月22日)によれば、PFlow社は稼働中の施設でのVRC据付ガイドを公開しました。同ガイドは計画の項目として、搬入経路(実際の扉の幅や通路の幅)、仮置きスペース(最大で50フィート×50フィート、約15m×15m程度が必要な場合がある)、リギング、溶接の許可と火気の監視、安全区画、立上げと教育(容量の制限、ゲートの機能、日常点検)を挙げ、稼働中の施設では通常の工期に1〜2週間上乗せされるのが一般的だとしています。これらはPFlow社のガイドの目安で、タイの工場での実績値ではありませんが、計画の抜け漏れを確認するリストとして使えます。

また、PFlow社は2026年4月のMODEX 2026(米アトランタ)で、モジュール式のVRC「RapidStack Lift」を披露したと報じられています。上下2つの既製セクションと受注生産の中間セクションを組み合わせる構成で、積載は2,500ポンド(約1,130kg)、標準は2レベルのメザニン端部構成、ボルト締結で現地での溶接が不要とされています。稼働中の工場で火気作業を減らしたいというニーズに応える方向の製品と言えます。

タイでは、これに加えて次の点を工程に織り込んでおくと安心です。

  • 雨季に建屋の床開口や外壁の工事が重なると、工期が読みにくくなる
  • 生産を止められない工程の上下では、夜間や休日に工事を寄せる必要がある
  • 溶接や切断を伴う場合の火気の管理と、工場内の他の作業との調整

人件費と、上下搬送の要員が定着しにくいこと

ILCT法律事務所の資料によれば、2025年7月の改定時点で、タイの日額最低賃金は県により337〜400バーツです。チョンブリー、ラヨーン、バンコクなどは400バーツ、サムットプラーカーンは372バーツとされています。モデル工場Mの人件費(年240,000バーツ)は、最低賃金そのものではなく、残業、賞与、社会保険、採用と離職のコストを含めた想定値です。

金額以上に現場で問題になるのが、上下搬送の要員がなかなか採用できない、定着しないことです。台車を押して階段やメザニン端を行き来する作業は体力的にきつく、単調で、腰にも負担がかかりやすい仕事です。辞めた人の穴埋めに他工程から応援を出すと、そちらの工程が回らなくなります。受渡しの自動化は、人件費の削減だけでなく、この採用と定着の悩みを根本から減らす手段でもあります。

BOI Smart and Sustainable Industry措置

タイ投資委員会(BOI)の「Smart and Sustainable Industry」措置の投資奨励ガイド(2023年版)によれば、機械の更新や自動化による効率向上を対象に、次のような恩典があります。

  • 対象は既存事業(BOI奨励の有無を問わない。BOI案件は法人税免除が満了済みか未付与であること)
  • 投資額は土地と運転資金を除き100万バーツ以上
  • 機械の輸入税の免除
  • 3年間の法人税免除(上限は投資額の50%)
  • 自動化システムやロボットを使い、タイの自動化産業との連携・支援が改良機械の価額の30%以上の場合は、上限が投資額の100%

ただし、申請期限や、2026年時点での措置の継続・改定の状況は、本記事では確認できていません。また、垂直搬送機の単体が「自動化システム」に当たるかはBOIの個別の判断になります。自動化ライン投資の一部として検討する余地はありますが、最新の要件は必ずBOIに個別に確認してください。本記事のモデル試算には、BOIの恩典は入れていません。要件の詳細はBOI自動化投資の法人税免除2026|50%と100%を分ける要件で解説しています。

参考までに、日本国内では、国土交通省の標準仕様パレット利用促進支援事業の4次公募で、垂直搬送機の導入が対象設備に挙げられていました(LNEWSの2026年8月26日の記事による。補助率1/2、上限は荷役等の効率化の事業で500万円、物流効率化の事業で1000万円。垂直搬送機は荷役等の効率化の対象として挙げられていました)。公募は2026年10月2日で締め切られており、本記事の公開時点では受付を終えています。日本国内の制度なので、タイの拠点は対象外です。とはいえ、日本でも垂直搬送機が物流効率化の投資として政策支援の対象になっていることは、本社に投資を説明するときの背景として使えるかもしれません。

日本本社の基準とタイの法令を両方満たす

日系工場では、日本本社の設備基準に沿った設計を求められることがよくあります。日本の3要件の考え方(受渡しは自動で、人は搬器の外、乗り込めない構造)と、タイの省令の要求(扉のインターロック、表示、点検と荷重試験)を両方満たす仕様にしておくと、本社の監査でも、タイの当局の確認でも、後から是正を求められにくくなります。RFPの7番「準拠する規格・基準」に、両方を明記しておくのがおすすめです。

垂直搬送機導入の90日の進め方

ここまでの内容を、90日の計画に落とし込みます。

0〜30日:搬送量の実測と搬送単位の標準化

  • 上下階の搬送量を、時間帯ごとに実測する。特にシフト開始直後などのピークを把握する
  • 今の受渡し(台車の押し込み、引き出し)の時間をストップウォッチで測る
  • 台車とケースの種類を棚卸しし、寸法と積み方を標準化できるかを検討する
  • 上下の階で台車を受け取る場所(バッファ)を確保できるかを確認する

31〜60日:方式と受渡し方法の決定、RFPと見積比較、所轄への確認

  • 搬送単位とピーク量から、往復式か連続式かを決める
  • 受渡しを人手にするか自動化するかを、モデル試算と同じ型で比べて決める
  • 12項目を書き込んだRFPを複数社に出し、サイクル時間の内訳を含む見積を比較する
  • 省令の貨物用リフトに該当するかを、所轄や専門家に確認する

61〜90日:建屋工事と据付計画、FAT・SAT、教育

  • 床開口、ピットや基礎、囲いの工事計画を立て、雨季や生産への影響を織り込む
  • 稼働中の工場での据付手順(搬入経路、仮置き、火気管理、安全区画)を決める
  • FATでサイクル時間とインターロックを確認し、据付後にSATでピーク搬送量を再現する
  • タイ語の操作手順書と日常点検の手順書を整え、作業者と保全担当を教育する
垂直搬送機の選定|往復式と連続式の比較、タイ工場のRFPと受入 - figure 3

実際の導入では、建屋工事や機器の製作期間によって90日に収まらないこともあります。それでも、最初の30日で「ピーク量」と「受渡しの時間」を測っておくだけで、その後の方式選びと見積比較の精度は大きく上がります。

垂直搬送機の選定に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 垂直搬送機とエレベーターの違いは何ですか?

最大の違いは、人が乗らない構造になっているかどうかです。米国では、業界団体MHIのガイドラインがVRC(コンベヤの安全規格ASME B20.1の対象)とマテリアルリフト(エレベーターの規格の対象)を区別しています。日本では、生産・搬送工程に組み込まれている、人が搬入出に直接関わらない、人が乗った状態で運転されるおそれがない、という3要件が運用の目安とされています(近畿圏の取扱いを紹介した論文による)。ただし、扱いは国ごとに違います。タイでの扱いは、所轄の当局や専門家に確認してください。

Q2. 垂直搬送機は往復式と連続式のどちらを選べばよいですか?

搬送単位とピーク時の搬送量で決めます。台車やパレットのようなまとまった単位なら往復式です。連続式は小さく軽いケースを途切れなく流すのに向いていますが、台車やパレットは運べません。往復式の中では、MHIのガイドラインによれば、油圧式は典型的に2レベル向けで、中間停止のある用途には推奨されず、3レベル以上や自動化システム、高サイクルの用途では機械式が選択肢になるとされています。

Q3. 垂直搬送機の導入費用はいくらですか?

本記事の調査範囲では、公開されている価格は見つかりませんでした。搬送単位、揚程、停止階の数、建屋工事の範囲で大きく変わります。本記事のモデル試算では、本体、建屋工事、電気と制御、安全、FAT/SATと教育、受渡しの自動化という費目に分けて考えました。見積は、この費目ごとに分けて出してもらうことをおすすめします。

Q4. 垂直搬送機の処理能力はどう計算しますか?

1往復の時間を「受渡しの時間×回数+扉の開閉・起動待ちの時間×回数+走行の時間×回数」で求め、3,600秒をその値で割って1時間の往復数を出し、1回で運ぶ単位数を掛けます。モデル工場Mの案Aでは、1往復320秒、1時間11.25往復、上りの能力は135ケース/時でした。受渡しの時間は、カタログ値ではなく自社の現場で測った値を使ってください。

Q5. タイで垂直搬送機を使うときの法令や点検はどうなりますか?

タイの省令(B.E.2564)は貨物用リフトを定義し、毎日の点検、扉が閉じていないと動かない措置、搭乗禁止と許容荷重の表示、年1回以上の最大使用荷重100%以上での荷重試験、毎月の点検などを求めています。垂直搬送機がこれに当たるかの公式な解釈は確認できていませんが、定義の文言上は該当しうるため、導入前に所轄の労働保護福祉局や安全の専門家に個別に確認し、該当する前提で点検と試験の費用を見込んでおくのが安全側です。

Q6. AGVやAMRと垂直搬送機をつなげますか?

考え方としては可能です。IDECファクトリーソリューションズのコラムは、エレベーターの制御盤にメーカーと協力して入出力信号を追加し、AMRとの間に連携制御盤を置いて、インターロック、タイムアウト処理、動作シーケンスを設計した事例を紹介しています。同コラムは、エレベーター内の金属構造で電波が弱まりやすいこと、人との共用には安全上の懸念があることも指摘しています。これはエレベーターの事例ですが、入出力の連携とインターロック、タイムアウトの設計の考え方は、垂直搬送機にも類推で当てはめられます。上下の階でAMRやコンベヤが台車を受け取る仕組みを含めて設計してください。受渡しの仕様の決め方はコンベヤ搭載 AMR導入|受渡し仕様と90日PoC設計も参考になります。

まとめ

  • 垂直搬送機は、積載重量と揚程だけで選ぶと能力不足になりがちです。モデル工場Mの案Aでは、1往復320秒のうち受渡しが約56%、扉の開閉と起動待ちが約19%で、走行は25%にすぎませんでした。
  • 方式は、搬送単位とピーク搬送量で先に決めます。台車やパレットなら往復式、小さく軽いケースを大量に流すなら連続式も候補です。各社の仕様はメーカー公称で、上限値どうしを組み合わせて判断しないよう注意してください。
  • モデルでは、走行を2倍速にしても能力の伸びは約14%でしたが、受渡しを自動化すると60%伸び、ピーク稼働率は約83%から約52%に下がりました。需要が30%増えても対応できます。
  • 投資額は案Bのほうが1,200,000バーツ多いものの、純便益が大きいため回収は約4.2年と、案Aの約5.2年より早くなりました。ただし、台車の寸法が揃っていること、受け取る先があること、削減した人を配置転換できることが前提です。
  • 安全は「人が乗らない構造」の立証です。米国のASME B20.1とMHIガイドライン、日本の3要件は設計と受入の物差しとして使い、タイの省令の貨物用リフトへの該当可否は所轄や専門家に確認したうえで、該当する前提で点検と荷重試験を見込んでおきましょう。

TOMAS TECHでは、上下階の搬送量やピークの測り方、往復式と連続式のどちらにするかを決める前の段階からご相談を承っています。お手元の見積をサイクル時間の内訳や費目に分けて読み直したい、受渡しの自動化までを含めて全体像を整理したい、といったご相談も歓迎です。メザニンや2階建て工場の上下搬送でお困りの方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考情報