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2026.10.10

通い箱 管理システム導入|紛失・預け残高・循環日数とRFP

通い箱 管理システム導入|紛失・預け残高・循環日数とRFP

繁忙期になると、出荷場で通い箱(リターナブル容器)が足りなくなる。仕方なく段ボールに詰め替えて出荷し、顧客から「次は通い箱で」と言われる。年に一度の棚卸では帳簿と数が合わず、足りない分を追加で購入する。通い箱 管理システムを検討し始めるタイの工場では、こうした光景をよく見かけます。アユタヤ、チョンブリー、ラヨーン、バンコク近郊の日系の自動車部品、電子部品、樹脂成形、金属加工の工場で、珍しくない話です。

いちばん困るのは、「今、どの取引先に、どの種類の箱を何個預けているか」に誰も即答できないことです。箱は工場の中ではなく、顧客の工場の受入場や、仕入先の倉庫や、運送会社のトラックの上にあります。工場の中をいくら探しても見つかりません。

この記事は、そうした工場の物流課長、倉庫、購買、生産管理、営業管理、IT担当に向けて、通い箱の管理の仕組みを作るときに「何を記録し、どう照合し、何で読み、どのシステムで、どう比べ、どう進めるか」を整理した実務ガイドです。

最初に、この記事の主張をまとめておきます。

通い箱管理システムの目的は「箱を探すこと」ではありません。取引先ごとの預け残高と、箱が1周して戻るまでの循環日数を、数字で持つことにあります。

箱が足りなくなる典型は、次の3つです。

  • ①取引先別の預け残高(出荷した累計から返却された累計を引き、調整を加えた数)を、誰も持っていない
  • ②返却の期限、無償で保管してよい日数、紛失したときの請求のルールが、取引先と合意されていない
  • ③保有数を「平均の循環日数」で決めていて、戻りの遅い箱(分布の上側)を見ていない

だから、QRコードにするかRFIDにするかという識別方式の話より先に、照合の仕方とルールを決めます。後半の仮の試算でも、投資の回収を決めるのは識別方式ではなく、自社の紛失の実測値と、循環日数を縮めて追加購入を避けられるかどうか、の2つだという結果になります。

なお、この記事は特定の製品を推奨したり、ランキングを付けたりするものではありません。法務、通関、電波法の助言でもありません。タイの関税と電波の話は「確認すべき論点」として紹介するもので、最新の要件は通関業者や所轄当局(タイ税関、NBTC)に確認してください。試算に出てくる個数、金額、時間、費用は、すべてこの記事のための仮の数字です。

なぜ今、通い箱の管理を見直すのか

生産が伸びる局面では、箱の不足と滞留が表に出やすい

タイの製造業の直近の数字は、生産と受注が伸びていることを示しています。ロイターの報道によると、タイ工業省の製造業生産指数(MPI)は2026年8月に前年同月比+4.44%で、ロイター調査の市場予想+1.0%を上回りました。ただし工業省はこのとき、新しい電子製品を加えウエイトを変えるなど、MPIの算出方法を改定しています。2026年8月以降の数字は、旧系列と単純には比べられません。

S&P GlobalのタイManufacturing PMIは、2026年9月に54.3(8月は53.8)で、2025年12月以来の高い水準でした。Trading Economicsの報道では、生産は9カ月ぶりの速さで拡大し、新規受注は6カ月で最も強かったとされています。

これらの数字が通い箱の不足を引き起こしている、とまでは言えません。ただ、出荷が増えると、1日に使う箱の数が増えます。循環日数が同じなら、必要な箱の数は出荷量に比例して増えます。出荷が少ない時期には見えなかった「顧客の工場に溜まったまま戻らない箱」が、生産が伸びる局面では不足という形で表に出やすくなります。

EUの包装規則は、欧州系の顧客から先に届く可能性がある

もう1つの動きは、EUの包装・包装廃棄物規則(Regulation (EU) 2025/40、PPWR)です。EUの官報によると、この規則は2026年8月12日から適用されています。輸送包装については、2030年1月1日から、EU域内でパレットやプラスチックの箱、トレー、クレートなどの輸送包装を使う事業者に、その合計の少なくとも40%を「再使用システムの中の再使用可能な包装」にすることを求める予定です。2040年1月1日からは少なくとも70%を目指すよう努める、とされています。同じ事業者の拠点間の輸送などでは、2030年1月1日から再使用可能な包装であることを求める予定です。このうち、一定の事業者が使うパレットのラップとストラップについては、2026年5月に官報に掲載された委員会の委任決定(Delegated Decision (EU) 2026/429)で、拠点間などの100%再使用の要件から外されました。40%の目標から外されたわけではありません。なお、段ボール箱などはこの要件の適用外とされています。

さらに規則の附属書では、再使用システムが、回転数、不合格、回収率(返却率)、追加した包装の数、廃棄した数などのデータにアクセスできる報告ルールを持つことを求めています。

範囲には注意が必要です。PPWRはEU域内の輸送包装の規則で、タイの工場の通い箱に直接かかるものではありません。タイ国内で同じ種類の義務ができたことも、今回の調査では一次情報で確認できていません。ただ、EU向けに輸出している工場や、EU域内に拠点を持つ欧州系の顧客と取引している工場では、「回転数と返却率を集計できるか」という形で、顧客の調達要求として先に届く可能性があります。通い箱の記録の仕組みを作るなら、その項目も最初から持てるようにしておくと後で困りません。

通い箱管理とは:容器が1周する流れ

1周の流れ

通い箱の管理は、箱が工場を出てから戻ってくるまでの1周を、段階ごとに記録することから始まります。

通い箱 管理システム導入|紛失・預け残高・循環日数とRFP - figure 1
  1. 出荷:製品を詰めた箱を顧客や次工程の取引先へ出す
  2. 取引先で使用・滞留:顧客の工場で中身が使われ、空箱が返却を待つ
  3. 返却:空箱が運送会社のトラックなどで戻ってくる
  4. 受入・検査:戻ってきた箱の数と種類を確かめ、破損や汚れを見る
  5. 洗浄・修理:必要なら洗い、割れや変形を直す
  6. 再使用:使用可能な箱として、次の出荷に回す

検査で使えないと判断した箱は、廃棄に回ります。この流れの中で、取引先ごとに「出荷した数」と「返ってきた数」を数えていけば、その差が取引先に預けている数、つまり預け残高になります。

段階箱がある場所記録すること記録が抜けると起きること
出荷自社の出荷場から取引先へ取引先、容器の種類、個数、日時預け残高の起点が無くなる
取引先で使用・滞留顧客の工場、仕入先の倉庫(直接は記録できない)何日溜まっているか分からない
返却運送会社のトラック返却元の取引先、種類、個数預け残高が減らず、相手と数が合わない
受入・検査自社の受入場良品数、破損数、汚れ使えない箱が使える箱として数えられる
洗浄・修理洗浄場、修理場洗浄・修理の開始と完了「あるはずなのに使えない箱」が見えない
廃棄廃棄場廃棄数と理由帳簿上の保有数が実数より多いままになる

工場の中の空箱回収とは別の話

「空箱の回収」というと、工場の中でライン脇に溜まった空箱を集めて戻す搬送の話を思い浮かべる方もいるかもしれません。それは工場の中の搬送設計の話で、空箱回収の自動化の記事で整理しています。この記事で扱うのは、工場の外、つまり顧客や仕入先との間で箱が循環する部分の管理です。箱が自社の敷地を出た瞬間から、自社の目は届かなくなります。だからこそ、記録と照合の仕組みが要ります。

GS1による通い箱の分類

流通標準のGS1は、通い箱やパレットのように繰り返し使う輸送用の資材を「RTI(Returnable Transport Items)」と呼んでいます。GS1の物流向けガイドライン(2013年)では、RTIを次の2つに分けています。

  • 返却可能な二次包装:トートやプラスチッククレートなど。日本の工場でいう樹脂製の通い箱はここに入ります
  • 返却可能な荷役器具:パレット、ロールコンテナ、台車、ハンガーラックなど。スチールラックもこちらに近い位置づけです

いずれも、識別のための推奨キーはGRAI(Global Returnable Asset Identifier)とされています。瓶や缶のような返却可能な一次包装はRTIに含まれず、トレーラーや海上コンテナはRTIではなく別のキー(GIAI)が推奨されています。また同じガイドラインでは、RTIは1個ずつの資産としてではなく、「交換可能な品」として数量で管理されることが多い、とも書かれています。

箱が足りなくなる3つの理由

理由①:取引先別の預け残高を誰も持っていない

1つめの理由は、取引先ごとの預け残高を誰も持っていないことです。出荷の記録は出荷伝票に、返却の記録は受入場のメモに、と別々に残っていて、取引先ごとに「出荷累計−返却累計±調整」を計算している人がいない。この状態では、ある顧客の工場に何千個も溜まっていても、誰も気づきません。気づくのは、出荷場で箱が足りなくなったときです。

理由②:返却期限と請求のルールが合意されていない

2つめは、取引先との取り決めが無いことです。何日以内に返すのか、何日まで無償で置いてよいのか、見つからない箱は誰が負担するのか。これが決まっていないと、預け残高が分かっても、相手に返却をお願いする根拠がありません。「いつもお世話になっている顧客に、箱を返してくれとは言いにくい」という遠慮も、ルールが無いことの裏返しです。

理由③:保有数を平均の循環日数で決めている

3つめは、何個の箱を持つべきかを「平均の循環日数」で決めていることです。平均の日数が同じでも、実際にはすぐに戻る箱もあれば、何週間も戻らない箱もあります。平均で決めた保有数では、戻りの遅い箱の分だけ、どこかの日に足りなくなります。

研究が示していること

この3つは、海外の研究とも重なります。スウェーデンのルンド大学のJohanssonとHellströmの研究(2007年)は、スウェーデンの乳業でのロールコンテナの事例と離散事象シミュレーションをもとに、RTIは高価で盗難に弱く、生産と流通に欠かせないのに、可視性が低いまま管理されていることが多く、その結果、保有数が大きく、運用コストも高くなりがちだと指摘しています。そのうえで、資産の可視性によって大きなコスト削減が見込めるものの、「可視性だけでは不十分で、適切な管理の行動と、継続的な管理の注意が必要」だと述べています。単一の事例とシミュレーションに基づく研究である点は、著者自身が限界として挙げています。

同じ著者らの2010年の研究は、実際の事例に基づくシミュレーションで、管理の戦略をどう選ぶかが投資と運用のコストに大きく影響し、RTIの減耗は追跡システムの選択でも、管理の戦略の選択でも制御できる、としています。戦略ごとに必要な保有数を推定するシミュレーションの手法も示しています。

つまり、読み取りの技術を入れるだけでは箱は戻ってこない、ということです。記録したデータを誰が見て、どう動くかを決めて初めて効果が出ます。

「紛失」を3つに分ける

紛失には3種類ある

「箱が無くなった」と一口に言っても、中身は違います。この記事では、次の3つに分けて考えます。

種類状態主な対策記録上の扱いの例
①取引先に滞留顧客や仕入先の手元にあるが、戻ってこない預け残高の照合と返却期限のルール預け残高として残る
②所在不明どこにあるか誰も分からない(本当の紛失)移動履歴を残し、責任の所在を決める照合で差異として確定し、償却
③破損・廃棄割れや変形で使えなくなった検査、修理、廃棄の記録廃棄イベントで保有数から外す

この3つを分けずに「紛失」とまとめてしまうと、対策を誤ります。①なら取引先との照合とルールで取り戻せます。②は移動履歴を残して、どこで消えたかを絞り込むしかありません。③は品質と修理の問題で、記録を残して保有数から正しく外すことが大事です。

紛失率の公的な横断統計は見当たらない

では、通い箱はどのくらい無くなるものなのか。紛失率は業種と運用で大きく違い、調査主体、国、業種、母数がはっきりした公的な横断統計は、今回の調査では見当たりませんでした。ネット上にはさまざまな数字がありますが、出所が確認できないものを自社の判断の基準にするのは危険です。

このため、この記事では、まず自社の実測から始めることを勧めます。取引先ごとの預け残高を一度棚卸して、帳簿との差を測る。それが自社の紛失率の出発点です。

Chalmersの事例の「2%」は廃棄率

参考になる事例として、スウェーデンのChalmers工科大学の修士論文(2019年)があります。スウェーデンの自動車メーカー(OEM)1社(匿名)と、そのサプライヤーの包装の流れを調べたものです。この論文によると、OEMの包装の年間の廃棄(scrap)は、過去4年の平均で年2%でした。

ここで注意が要るのは、この2%は廃棄率であって、紛失率ではないことです。上の表でいえば③にあたります。論文では、廃棄分はOEMが請求しない一方、サプライヤーが紛失した場合は請求する、と書かれています。また、包装の位置が分からないために紛失についての不確実性が大きい、とも指摘しています。スウェーデンのOEM1社、2019年の修士論文という範囲の話であり、他の業種や国に一般化できる数字ではありません。

最小データモデル:何を記録するか

4つの表を持つ

通い箱管理システムで最低限持つべきデータは、次の4つです。

データ中身例注意点
容器マスタ容器の種類と、必要なら個体種類=樹脂箱A型、個体=シリアル番号種類で数えるか、個体で追うかを先に決める
拠点・取引先マスタ箱が行き来する相手と場所顧客4社の各工場、自社の倉庫、洗浄場同じ顧客でも工場ごとに分ける
イベント出荷、受入、返却、検査、修理、洗浄、廃棄、棚卸何月何日に、顧客B工場へA型を何個出荷したか取消と訂正の記録も残す
預け残高取引先別・種類別の出荷累計−返却累計±調整顧客B工場に預けているA型の個数照合で確定した調整を履歴で持つ

預け残高は、イベントから計算で出すのが基本です。残高だけを手で書き換える運用にすると、なぜその数になったのかが後から分からなくなります。

種類で数えるか、個体で追うか

GS1の考え方では、容器は「種類(クラス)」と「個体」の2層で識別できます。GS1の物流向けガイドラインでは、GRAIの主な目的は資産の種類の識別で、同じ種類の資産には同じGRAIを付けます。1個ずつ識別する必要があれば、任意のシリアル番号を必ず付けます。

GRAIの書式は、GS1のアプリケーション識別子(8003)として「N4+N14[+X..16]」と定められています。先頭の「0」(1桁)に、GS1事業者コードと資産の種別、チェックデジットからなる13桁が続き、その後ろに任意のシリアル(英数字で最大16桁)を付けます。参考までに、1個ずつの資産を識別するGIAI(8004)は、英数字最大30桁の1要素だけで、種類を表す部分を持ちません。

実務では、すべての箱を個体で追う必要はありません。大量の樹脂箱は種類ごとの数量で管理し、高価なスチールラックだけ個体で追う、という分け方もあり得ます。どちらにするかは、次の章の識別方式の選び方にも関わります。

付番するのは所有者

GS1のガイドラインでは、GRAIは資産の所有者が付番します。自社が設計した通い箱なら自社が、プール事業者が流通させる容器ならプール事業者が付けます。顧客から支給された箱を使っている場合は、顧客側の番号体系に合わせる必要があるかを、最初に確認しておくとよいでしょう。

イベントの設計:何を「出来事」として記録するか

GS1 CBVの語彙を借りる

イベントの名前は、自社で自由に決めることもできますが、企業間でデータを共有するなら、GS1の標準語彙であるCBV(Core Business Vocabulary)2.0(2022年6月承認)に合わせておくと便利です。CBVは、EPCISというイベント共有の規格で使う業務ステップ(bizStep)と状態(disposition)の名前を定めています。企業間のイベント共有そのものについては、EPCIS 2.0の導入の記事で詳しく扱っています。ここでは、通い箱のイベントにCBVの語彙をどう当てるかに絞ります。

自社の出来事CBVの業務ステップ(bizStep)の例状態(disposition)の例メモ
出荷shipping、loadingin_transit預け残高を増やす
返却の受入receiving、unloading(検査待ち)預け残高を減らす
検査inspectingdamaged または available破損ならdamaged
修理repairing修理後はavailableCBVでは修理完了後に使用に戻った状態をavailableとしている
洗浄(標準語彙に無い)(自社で定義)自社の拡張語彙として定義する
保管storingavailable使用可能在庫として保管
棚卸cycle_counting—照合の根拠になる
廃棄decommissioning、destroying—保有数から外す

CBV 2.0の文書には、通い箱に関係する例も載っています。たとえば、パレットのプール事業者が板の破損を見つけてパレットのEPCを読み取り記録する場面が、damaged(破損)の例として挙げられています。また、旧版の non_sellable_damaged は CBV 2.0 で damaged に置き換えられ、売り物ではない返却資産にも使えるようになった、と明記されています。

洗浄は自社で定義する

CBV 2.0には、洗浄(cleaning や washing)専用の業務ステップは見当たりませんでした。食品や医薬品向けの部品を入れる箱のように、洗浄の記録が必要な場合は、自社の拡張語彙として定義する必要があります。名前と意味を文書にしておき、取引先とデータを共有するときに説明できるようにしておきます。

取消と訂正を設計しておく

現場では、出荷数の入力間違いや、別の取引先の箱を受け入れてしまうことが必ず起きます。イベントを上書きして直すのではなく、取消と訂正のイベントを別に記録できるようにしておくと、預け残高がなぜその数になったのかを後から説明できます。これはRFPで必ず確認したい項目の1つです。

預け残高の照合と、取引先との取り決め

照合の頻度を決める

預け残高は、計算で出すだけでは不十分です。自社の帳簿上の残高と、取引先の手元の実数は、必ずずれていきます。定期的に取引先と突き合わせ、差異を確定させる「照合」が要ります。

先ほどのChalmersの修士論文(スウェーデンのOEM1社、2019年)では、サプライヤーの1社が、自社の在庫にある容器の数を、OEMのITシステム上の数と年約4回照合していました。一致しなければ探し、見つからなければ料金を支払う、という流れです。年1回の棚卸で初めて差異に気づく運用と比べると、差異が小さいうちに見つけられます。

照合の頻度は、取引先ごとに決めて構いません。預け残高が大きい顧客とは月1回、小さい仕入先とは四半期に1回、といった分け方もあり得ます。

無償保管の日数と、超過したときの扱い

同じ論文では、パレットと箱は21日間はレンタル料なしで保管でき、ラックなどの特殊な包装はそれより約10日短く、超えると日数分を支払う、という取り決めが紹介されています。ラックの紛失料は、パレットや箱より高く設定されていました。

これはスウェーデンの1社の例で、そのまま真似る必要はありません。ただ、「何日までは無償、それを超えたら日数に応じて費用が発生する」という型があると、取引先にとっても返却を急ぐ理由ができます。日系の取引関係では、いきなり課金の話をするのは難しいかもしれません。その場合でも、まずは「返却の目安日数」を合意し、それを超えた箱の数を毎月共有するだけで、滞留はかなり見えやすくなります。

紛失したときの請求先は、移動履歴で決める

紛失した箱を誰が負担するかは、箱がどこで消えたかで決まります。出荷した記録はあるが、顧客の受入記録が無いなら、運送の途中かもしれません。顧客は受け取ったが返却の記録が無いなら、顧客の手元か、その先です。

GS1の物流向けガイドラインの事例では、プール事業者のパレットについて、メーカーは積み込み時に運送会社が引き取った枚数を記録し、運送会社は納品した枚数と回収した空パレットの枚数を記録できる、とされています。自社、運送会社、取引先の3者がそれぞれの受け渡しの時点で数を残していれば、どこで差が出たかを絞り込めます。

日本国内の考え方:契約で回収の主体と費用負担を明記する

日本の国土交通省のパレット標準化の資料(2024年11月)も参考になります。この資料では、標準仕様のパレットの運用としてレンタル方式を推進し、売買契約やレンタル契約で、仕分けと回収の作業を誰が担い、費用を誰が負担するかを明記する、という考え方を示しています。ロードマップには「パレット紛失防止策の適切な実施」や「使用後の所有者等への適切な返却」も含まれています。

これは日本国内のパレットの話で、タイの通い箱にそのまま当てはまる基準ではありません。ただ、日系の取引先との間で取り決めを作るとき、「回収の主体と費用負担を契約に書く」という考え方は、共通の言葉として使いやすいはずです。

出荷通知とEDIに容器の数を載せる

照合を楽にするいちばんの方法は、出荷のたびに容器の種類と数を、取引先と共有するデータに載せておくことです。顧客と出荷通知(ASN)やEDIでつながっているなら、そこに通い箱の種類と個数の項目を加えられないか検討します。EDIの接続の進め方は、製造業EDI導入ガイドの記事で整理しています。出荷の時点で双方が同じ数を持っていれば、照合の差異は返却と受入の側に絞られます。

出荷場での数の確認そのものは、製品の出荷検品と同じ場所で行うことが多いはずです。照合ポイントの決め方は、入出荷検品システムの記事も参考になります。

循環日数と必要保有数

平均ではなく、分布の上側で見る

何個の箱を持てばよいかを考えるには、箱が出荷されてから戻るまでの日数、つまり循環日数を知る必要があります。ここで大事なのは、平均ではなく分布で見ることです。

米国ミズーリ州立大学のCobbの研究(2016年)は、RFIDのデータから、返却容器が充填されてから次に充填されるまでのサイクルタイムの確率分布を推定し、大半の容器が戻るまでの期間を見積もる方法を示しています。全数にタグを付けていなくても満足できる結果が得られた、とも報告しています。LiとCobbの研究(2022年)は、ある期間に充填された容器が一定の時間内に戻る確率の分布を、季節性を考慮して予測し、将来戻ってくる容器の数を推定する方法を示しています。

具体的な日数や返却率の数字は、これらの論文の抄録には書かれていません。ここで借りたいのは、「循環日数は分布として見る」「大半の箱が戻るまでの日数で考える」という考え方です。

必要保有数の目安

この記事では、必要な保有数の目安を次のように整理します。これは記事側の整理であって、上の論文が示した公式ではありません。

必要保有数 ≒ 1日に使う箱の数 × 循環日数(大半の箱が戻るまでの日数)+ 安全分(紛失、修理中、滞留の分)

循環日数に平均を置くと、戻りの遅い箱の分だけ足りなくなりやすくなります。まずは自社の出荷と返却の記録から、たとえば「出荷した箱の大半が戻るまでに何日かかっているか」を取引先ごとに出してみることから始めます。

管理の仕方で、必要な保有数は変わる

先ほどのHellströmとJohanssonの研究(2010年)は、管理の戦略によって必要な保有数が変わることを、シミュレーションで推定する手法を示しています。言い換えると、箱を買い足す前に、循環日数を縮められないかを考える余地がある、ということです。

この記事の仮の数字で見てみます。チョンブリー県の日系自動車部品工場が、樹脂製の通い箱を10,000個持ち、顧客4社との間で回しているとします。安全分は10%(×1.1)と置きます。

通い箱 管理システム導入|紛失・預け残高・循環日数とRFP - figure 2
ケース1日に使う箱循環日数必要保有数保有10,000個との比較
現状400個22日400×22×1.1=9,680個足りる
来年(循環日数そのまま)500個22日500×22×1.1=12,100個2,100個足りない
来年(循環日数を16日に短縮)500個16日500×16×1.1=8,800個足りる

来年、出荷が1日400個から500個に増えると、循環日数が22日のままなら12,100個が必要になり、2,100個が足りません。交換単価を1個300バーツと置くと、追加購入は2,100×300=630,000バーツです。一方、循環日数を16日に縮められれば、必要な数は8,800個で、今の10,000個のままで足ります。

数字は仮のものですが、構造は多くの工場に共通します。出荷が増える局面では、「何個買うか」より先に「何日で戻せるか」を考える価値があります。

識別方式の選び方:QR、RFID、トラッカー

3つの方式

ここで初めて、箱をどう読むかの話になります。容器に付ける識別の方式は、大きく3つです。

方式読み方向いている場面注意点
容器ラベル+QRコード(またはバーコード)ハンディやスマートフォンで1個ずつ読む大量の樹脂箱を低コストで全数管理する1個ずつ読む手間。ラベルの汚れ、剥がれ
UHF RFIDタグゲートやハンディで複数を一括で読む読取点が多く、出入りの数が非常に多い金属、液体、積み重ねで読取が不安定になり得る。実環境での試験が前提
BLE・LPWAなどのトラッカー電池付きの端末が位置を発信する高価なラックや、工場の外での位置を知りたい容器端末の単価と電池の管理

GS1によると、GRAIはバーコードにも、EPC/RFIDタグにも符号化できます。どちらを選んでも、同じ番号体系で管理できるということです。製品や部品に付けるコードの選び方は、トレーサビリティのバーコード選定の記事で詳しく扱っています。ここでは「容器に付ける」観点に絞ります。

混在が実態

実際には、1つの方式に統一している例ばかりではありません。日本パレットレンタル(JPR)が掲載している導入事例(コマツ物流、2020年6月掲載当時の情報)によると、コマツ物流は建設機械部品の供給に使う自社の金属製リターナブル容器を、同社の管轄部門だけで約9万枚、200種類に及ぶと紹介されていました。旧システムではRFIDで個体を管理していましたが、全容器を管理するために、単価の安いQRコードを基本とし、インドなどの海外拠点ではRFIDを使っている、とされています。ベンダーが掲載した事例であり、2020年時点の情報です。

RTLS(位置測位)のベンダーであるPozyxのブログ(2025年10月)も、返却包装の追跡は、屋内外の測位と各種の無線を組み合わせた方式に進化しつつある一方、パッシブRFIDやバーコードは特定のチェックポイントで引き続き役割を持つ、としています。こちらもベンダー自身の見解です。

方式の選び方は、「全数をどの単位で読むか」と「読む場所の環境(金属、積み重ね、屋外)」で決まります。多くの工場では、QRで全数を数量管理し、高価なラックや特定の拠点だけRFIDやトラッカーを使う、という混在から考えるのが現実的です。

金属、液体、積み重ねでのRFIDの注意

UHF RFIDを検討するなら、読取環境の確認が欠かせません。RFID機器の販売店であるatlasRFIDstoreの技術解説(2024年4月更新)によると、液体は電波のエネルギーを吸収してタグが応答しにくくなり、金属は電波を反射して、タグのアンテナの特性をずらしたり、読めない場所を生んだりします。対策として金属用のタグや、タグと液体の間に隙間を取る方法などを挙げつつ、「完全に金属で覆われたタグは読めない」「一貫して動作する保証はなく、テストが鍵」と書いています。

スチールラックや金属の通い箱、部品を詰めて何段にも積み重ねた樹脂箱では、カタログの読取距離は当てになりません。自社の箱と自社の積み方で、実際に読めるかを試験することが前提です。RFIDの機器、タグ、工事の費用の考え方は、RFID導入費用の記事で5年の総保有コストとして整理しています。この記事では、後半の試算で通い箱の場合の損益の分かれ目だけを示します。

関連する規格

通い箱へのRFIDの適用については、ISO 17364(2013年版)が、RTIと返却可能な包装に使うサプライチェーンRFIDの基本的な機能を定めています。識別、タグ上の追加情報の推奨、データの構文、最小の性能要件などが範囲です。リーダーとタグの間の通信(エアインターフェース)は、ISO/IEC 18000-63:2021(860〜960 MHz帯)が参照規格になります。

タイでRFIDの読取機を使うときの電波の要件

タイでUHF RFIDの読取機を使う場合は、NBTC(国家放送通信委員会)の技術基準に合っている必要があります。NBTCの告示「RFIDの技術基準」(กสทช. มท. 1010–2560)は、2017年11月24日に官報に掲載され、翌25日から施行されています。

告示に書かれた最大送信電力(e.i.r.p.)許可の扱い(920–925 MHz、リーダーとアクティブタグ)
50 mW無線機の製造、所持、使用、輸入、輸出と無線局開設の許可が免除
0.5 W所持、使用、持出しと無線局開設の許可が免除
4 W関連する無線通信の許可が必要

適合性確認の区分は、920–925 MHzで送信電力50 mW以下の機器がSDoC(供給者適合宣言)、50 mW超〜4 W以下のリーダーとアクティブタグが「ประเภท ก」(Category A)とされています。上の表と区分は、2026年10月時点で確認できた現行の基準をまとめたもので、その後の改正の有無は確認できていません。海外から読取機を持ち込む場合は特に、機器の仕様書と適合書類で周波数帯と送信電力の区分を確かめ、導入時にNBTCや機器ベンダーに最新の要件を確認してください。

越境で通い箱を回す場合

空の箱を戻すのは、コストとCO2のトレードオフ

タイの工場から海外の拠点へ、あるいは海外の仕入先からタイへ通い箱を回す場合は、国内とは別の論点が出てきます。

米国MITの交通・物流センター(CTL)の修士キャップストーン(2022年5月のポスター、スポンサーは日産自動車)は、グローバルな供給網でのRTIの再配置を最適化する研究です。コスト最小、CO2最小、両方を目的とする3つのモデルを比べ、RTIの導入を増やすとコストの削減に寄与する一方で、輸送に関するCO2は増え、コストとCO2を同時に最小にすることはできない、と結論しています。空の箱を海を越えて戻すことには、費用だけでなく環境面の負担もある、ということです。

先を読んで、余っている拠点から戻してもらう

先ほどのJPR掲載のコマツ物流の事例(2020年時点の情報)では、海外とのやり取りには半年先までの予測が必要で、不足が予測されるときは、余剰のある海外拠点に空容器の返却を呼びかけている、とされています。また、容器の使用効率をKPIにして拠点の評価に使っているとも書かれています。越境では戻るまでの日数が長いため、不足に気づいてから動いたのでは間に合いません。

インボイスの容器名と申告価格

同じ事例では、海外から容器を戻すときのインボイスの作成(容器名の表記や申告価格)にも、容器マスタのデータを活用しているとされています。越境の通い箱では、容器マスタに容器名や申告に使う価格を持っておくと、書類の作成が楽になり、誤りも減らせます。

関税の枠組み(助言ではありません)

タイの関税率法の第4部(関税の免除品)には、2014年の改正までを反映した法令本文で確認した範囲では、包装用の容器や、包装、固定、結束、緩衝に使う用具で、輸入されて再輸出されるものを、関税局長が定める基準と条件のもとで免税とする類(類19)があります。この類は2014年の改正で加えられたものです。また、輸出した物品を形を変えずに1年以内に再輸入する場合で、輸出時に再輸入の許可証を受けていたものを免税とする類(類1)もあります。

ただし、これは法令の枠組みを紹介したもので、法務や通関の助言ではありません。どの類が自社の通い箱に当てはまるか、届出の様式や期限、保証の要否などの具体的な手続は、必ず通関業者やタイ税関に確認してください。

自社で持つか、プールやレンタルを使うか

公式ページで確認できる範囲

通い箱やパレットは、自社で持つだけでなく、プール(共同利用)やレンタルの事業者から借りる方法もあります。タイで関係しそうな事業者について、公式ページで確認できた範囲を紹介します。いずれも事業者自身の説明であり、効果や優位性を保証するものではありません。価格はここでは扱いません。

  • JPR「Logiarx」:日本パレットレンタルの公式ページによると、パレット、カゴ車、プラスチックコンテナなどの通い容器を、総量ではなく個体で管理するクラウド型のサービスです。RFIDや2次元バーコード、各種システムからのデータ連携で、どの容器がどこにあり、いつどこを移動したかを追跡し、ダッシュボードで拠点ごとの過不足、紛失、滞留が分かる、とされています。読取機器やRFタグも提供可能とのことです。
  • JPR「APP(アジアパレットプール)」:同社の公式ページによると、輸出国でパレットを借り、輸入国で空のパレットを返却できる国際間のレンタルパレットのサービスです。2026年5月現在の利用可能国として、日本、タイ、中国、韓国、台湾、シンガポール、ベトナム、マレーシア、北米が挙げられています。
  • CHEP:タイ向けの公式ページによると、タイでは2002年からサプライチェーンの最適化を支援しており、事業は60カ国で展開しているとされています。英国向けのページでは自動車・産業向けにプラスチッククレートやコンテナのプーリングを紹介していますが、タイで同じサービスを提供しているかは、タイの公式ページでは確認できませんでした。
  • Loscam Thailand:Loscamの公式ページによると、タイは同社の東南アジアで最大の事業で、タイでパレットプーリングの概念を開拓し、FMCG(消費財)業界のメーカーや小売の市場リーダーだとしています。2015年5月にアユタヤ県ワンノイに東南アジア最大のSuper Depotを開設した、とも書かれています。主な顧客は消費財の業界と自社で記載しており、自動車部品の通い箱のプールとして使えるかは確認できていません。

大手のプール事業者でも、個体追跡は試行の段階

CHEPの親会社であるBramblesの2026年6月期(FY26)の決算発表(2026年8月)は、プール事業の難しさも示しています。同社の発表によると、米国では修理能力の制約により約9,000万米ドルの減益影響があり、2026年6月30日時点で米国に未修理の余剰パレットが340万枚ありました。

同じ発表では、個体識別のプログラム「Serialisation+」について、パイロット市場のチリで、補償されないパレットの損失、サイクルタイム、損傷率の可視化から追加の価値を得られる証拠を得ている、としています。北米では80のサービスセンターに読取の機能を設置し、北米での展開の判断は2027年1〜3月期に発表する予定とされています。これはチリと北米の話で、タイの話ではありません。ただ、世界最大級のプール事業者でも、個体単位の追跡はまだ一部の市場での試行の段階にある、という点は押さえておく価値があります。

比べるときの観点

自社で持つか、プールやレンタルを使うかは、次のような観点で比べます。

観点自社で持つプールやレンタルを使う
容器の形と寸法自社の部品に合わせて設計できる事業者が扱う品目の範囲から選ぶ
預け残高の管理自社で照合とルールを作る事業者のルールによっては移動の報告が要る
紛失と破損の負担自社が負担し、取引先との取り決めで分ける事業者の契約条件による
越境の返送自社で手配し、通関の論点も自社で確認国際間のサービスがあれば返却先が広がる
洗浄と修理自社か委託先で行う事業者の契約条件と拠点による
データの持ち方自社のシステムに持つ事業者のシステムと自社のシステムの連携が要る

どちらを選んでも、取引先別の預け残高と循環日数を自社で把握する必要は変わりません。プールを使う場合も、GS1のガイドラインの事例のように、事業者のルールによっては移動を報告する必要があります。

費用と効果のモデル試算(仮の数字)

想定する工場

ここからは、この記事のための仮の数字で試算します。実在の工場の数字ではありません。

  • チョンブリー県の日系自動車部品工場
  • 自社所有の樹脂製の通い箱10,000個(交換単価1個300バーツ)を、顧客4社との間で回している
  • 出荷に使う箱は、現状1日400個、来年は1日500個の見込み
  • 循環日数(大半の箱が戻るまでの日数)は現状22日、目標16日。安全分は10%(×1.1)
  • 現状の管理はExcelと年1回の棚卸

構成は2つ比べます。

  • 構成A:容器ラベル+QR+ハンディ+クラウド。初期費用700,000バーツ(容器ラベル10,000枚、ハンディ6台、クラウドの設定、取引先との照合ルールの整備、教育)、年間費用168,000バーツ(サブスクリプション、保守)
  • 構成B:UHF RFIDタグ+3カ所のゲート。初期費用2,200,000バーツ、年間費用300,000バーツ

効果①:紛失の削減

年間の所在不明と償却を、保有数の6%と置きます。10,000個の6%で600個、1個300バーツで年180,000バーツです。照合とルールで、これを2%(200個、60,000バーツ)に下げられたとすると、効果は年120,000バーツです。

なお、6%も2%も、この試算のための仮の数字です。先に書いたとおり、紛失率の公的な横断統計は見当たらないため、自社の実測で置き換えることが前提です。

効果②:段ボール代替の削減

箱が足りずに段ボールに詰め替えて出荷する回数を、年5,000回と置きます。段ボール代と詰め替えの作業で1回30バーツとすると、年150,000バーツです。滞留が減って箱が出荷場に戻るようになり、これが年1,000回(30,000バーツ)に減れば、効果は年120,000バーツです。

効果③:照合の事務

取引先との照合、出荷と返却の記録の突き合わせ、問い合わせ対応に、月40時間かかっているとします。1時間200バーツで、40×200×12=年96,000バーツです。システムで預け残高を自動計算し、照合レポートを取引先に送れるようになって月10時間(年24,000バーツ)に減れば、効果は年72,000バーツです。

構成Aの効果と回収

項目現状導入後効果(年)
①紛失の削減600個×300=180,000バーツ200個×300=60,000バーツ120,000バーツ
②段ボール代替の削減5,000回×30=150,000バーツ1,000回×30=30,000バーツ120,000バーツ
③照合の事務40時間×200×12=96,000バーツ10時間×200×12=24,000バーツ72,000バーツ
効果の合計——312,000バーツ
年間費用——168,000バーツ
純効果——144,000バーツ

構成Aの純効果は、312,000−168,000=年144,000バーツです。初期費用700,000バーツを回収するには、700,000÷144,000で約4.9年かかります。紛失と段ボールと事務の効果だけでは、回収にはそれなりの年数がかかる、という結果です。

追加購入を避けられた場合

ここで、前の章の必要保有数の話が効いてきます。構成Aを入れて循環日数を22日から16日に縮められれば、来年の必要保有数は8,800個で、今の10,000個で足ります。循環日数が22日のままなら必要だった2,100個の追加購入、つまり630,000バーツを避けられます。

この場合、初期費用の実質の負担は700,000−630,000=70,000バーツで、70,000÷144,000で約0.5年で回収できる計算です。

ただし、追加購入の回避は1回限りの効果です。年間の効果(312,000バーツ)には入れておらず、純効果の144,000バーツにも含めていません。同じ効果を年間効果と初期の負担の両方で数えないよう、二重には計上していません。また、効果①〜③は現状の出荷規模で計算したもので、来年の出荷の増加分による効果の増減は加えていません。

通い箱 管理システム導入|紛失・預け残高・循環日数とRFP - figure 3

構成B(RFID)の場合

構成Bでは、効果①は構成Aと同じ120,000バーツと置きます。紛失の主な原因は、箱の読み方ではなく、返却のルールと照合にあるからです。効果②も同じ120,000バーツです。効果③の照合の事務は、ゲートでの一括読取によって月40時間から月4時間に減ると置き、96,000−9,600=年86,400バーツとします。

項目構成A(QR)構成B(RFID)
初期費用700,000バーツ2,200,000バーツ
年間費用168,000バーツ300,000バーツ
①紛失の削減120,000バーツ120,000バーツ
②段ボール代替の削減120,000バーツ120,000バーツ
③照合の事務72,000バーツ(月40→10時間)86,400バーツ(月40→4時間)
効果の合計312,000バーツ326,400バーツ
純効果144,000バーツ26,400バーツ
回収年数約4.9年約83年
追加購入630,000バーツを避けた場合約0.5年約59年

構成Bの効果の合計は326,400バーツ、年間費用300,000バーツを引いた純効果は年26,400バーツです。回収は2,200,000÷26,400で約83年かかります。追加購入の630,000バーツを差し引いても、1,570,000÷26,400で約59年です。この仮の数字の工場では、RFIDの読取の速さは、追加の費用に見合いません。

感度:紛失が6%ではなく3%だった場合

効果①の前提である「紛失6%」が、実測してみたら3%だった場合を見てみます。3%は300個で90,000バーツ、これを2%(60,000バーツ)に下げても、効果①は30,000バーツにとどまります。構成Aの効果の合計は30,000+120,000+72,000=222,000バーツ、純効果は222,000−168,000=年54,000バーツで、回収は700,000÷54,000で約13.0年になります。

紛失の前提が6%から3%に変わるだけで、回収年数は約4.9年から約13.0年に延びます。効果の合計で比べると、紛失の前提の違いによる差は年90,000バーツ(312,000−222,000)で、識別方式をQRからRFIDに変えたときに上乗せされる効果(年14,400バーツ、326,400−312,000)よりずっと大きいものです。

試算の読み方

この試算から言えるのは、回収を決めるのは識別方式ではない、ということです。決めるのは次の2つです。

  • ①自社の紛失を実測して、6%級なのか3%級なのかを知ること
  • ②循環日数を縮めて、追加購入を避けられるかどうか

RFIDは、読取点が多く照合の事務が非常に大きい場合や、高額なラック類に限って検討するのが妥当です。

この試算に入れていないもの

顧客のラインを止めてしまう欠品のリスク、EU向けの報告への対応、容器の洗浄と修理の費用、CO2は、この試算に入れていません。特に顧客のライン停止は、起きれば影響が大きいため、自社の状況に合わせて別途評価してください。

RFP・デモで確認する項目

自社の箱で、1周を流してもらう

通い箱管理システムを比べるときは、機能の一覧表を埋めてもらうより、自社の箱と自社の取引先で、出荷から返却、照合までの1周を流してもらうのが確実です。

確認項目確認の仕方根拠・背景
容器の種類と個体の両方を持てるか樹脂箱は種類で、ラックは個体で登録してもらうGS1のGRAIのクラスとシリアルの考え方
付番の体系を自社で決められるか自社の番号と、顧客支給の箱の番号を両方登録するGRAIは所有者が付番する
取引先別・種類別の預け残高を出せるか出荷と返却のイベントから残高を計算させる出荷累計−返却累計±調整
照合レポートを取引先に出せるか取引先に送る形式で出力してもらう年約4回の照合などの運用例
無償保管日数の超過を出せるか取引先ごとに日数を設定し、超過数を出す21日などの取り決めの例
移動履歴で紛失の区間を絞れるか運送会社の受け渡しを含めて記録する引渡し、納品、空容器回収の記録
イベントの取消と訂正誤入力を取消し、訂正の履歴を残す残高の根拠を説明できるようにする
CBVの語彙との対応と拡張出荷、受入、検査、修理、廃棄の対応と、洗浄の拡張GS1 CBV 2.0
循環日数の分布を出せるか取引先ごとに、大半が戻るまでの日数を出す平均ではなく分布で見る考え方
越境の書類への出力容器名と申告価格を容器マスタから出すインボイスの容器名と申告価格の事例
EU向けの集計(該当する場合)回転数、不合格、返却率、追加数、廃棄数を集計するEU PPWRの附属書(EU域内の再使用システム)
識別方式の混在QRとRFIDを同じ容器マスタで扱う基本はQR、一部でRFIDという混在例

PoC、FAT、SATで確かめること

試行(PoC)、工場出荷前の試験(FAT)、現地での受入試験(SAT)では、次の点を確かめます。

  • 読取の試験:RFIDを使うなら、自社の箱を自社の積み方で積み、ゲートやハンディで実際に読めるかを測る。金属のラックや部品を詰めた状態でも試す
  • 預け残高の計算:試行期間の出荷と返却を手で数えた結果と、システムの預け残高が一致するか
  • 照合レポート:取引先に実際に送り、相手の数と突き合わせられる形式か
  • 取消と訂正:わざと誤入力をして、取消と訂正の履歴が残り、残高が正しく戻るか
  • EU向けの集計:EU向けの出荷や欧州系の顧客がある場合、回転数と返却率などを集計できるか
  • 電波の書類:RFIDの読取機について、920–925 MHz帯と送信電力の区分が分かる適合書類が揃っているか

導入の進め方:90日で預け残高の棚卸から保有数の判断まで

システムを全社に広げる前に、90日で次の3段階を進めるのが目安です。

1〜30日目:全取引先の預け残高を棚卸し、照合ルールの案を作る

最初の30日は、システムを入れる前の準備です。

  • 取引先ごと、容器の種類ごとに、今いくつ預けているかを棚卸する。取引先にも数えてもらい、自社の帳簿と突き合わせる
  • 帳簿との差を、①取引先に滞留、②所在不明、③破損・廃棄の3つに分けて記録する。これが自社の紛失率の最初の実測値になる
  • 照合の頻度、返却の目安日数、紛失したときの負担の考え方について、取引先と話すための案を作る
  • 容器の種類と、個体で追う容器の範囲を決める

在庫の棚卸を速くしても差異が減らない理由は、製品在庫について棚卸の効率化の記事で書いたとおりで、通い箱でも同じです。数える速さより、差異の原因を分けて記録することが大事です。

31〜60日目:1顧客・1容器種で試行する

次の30日は、預け残高が大きい顧客1社と、その顧客との間で使う容器1種類に絞って試行します。

  • 容器にラベルを付け、出荷と返却の記録をシステムで始める
  • 運送会社の受け渡しの記録も、できる範囲で残す
  • 2週間ごとに、システムの預け残高と顧客の手元の数を突き合わせる
  • 取消と訂正がどのくらい発生するかを数える

61〜90日目:照合差異と循環日数を実測し、保有数と展開を判断する

最後の30日で、試行の結果を数字にまとめます。

  • 照合の差異がどのくらい残ったか、その原因は何か
  • 試行した顧客について、出荷した箱の大半が戻るまでに何日かかっているか(循環日数の分布)
  • その循環日数で、来年の出荷量に対して何個の箱が必要か。追加購入が要るのか、循環日数を縮めれば足りるのか
  • 他の顧客や容器へ広げるか、RFIDを検討すべき拠点や容器があるか

90日の終わりに、自社の紛失の実測値と循環日数が手元にあれば、試算の前提を自社の数字で置き直せます。投資の判断は、そこからで十分間に合います。

タイ工場で特に確認すること

帳票の言語

照合レポートや返却の依頼書は、取引先の担当者が読める言語で出せる必要があります。タイの顧客や運送会社にはタイ語、日系の顧客には日本語、海外拠点とのやり取りには英語、というように、相手ごとに言語を切り替えられるかを確認します。

運送会社の受け渡しの記録

タイでは、通い箱の返却を運送会社に任せていることが多いはずです。運送会社のドライバーが、空箱をいくつ受け取り、いくつ届けたかを記録に残せるか。紙の受領書で残すのか、ハンディやスマートフォンで記録するのか。ここが抜けると、紛失した区間を絞り込めません。

顧客の工場の中での置き場

顧客の工場の中で、空箱がどこに置かれているかも確認したい点です。返却待ちの空箱の置き場が決まっていないと、他社の箱と混ざったり、顧客の社内で別の用途に使われたりします。顧客と話して、返却待ちの置き場を決めてもらえるとよいでしょう。

繁忙期の段ボール代替のルール

箱が足りないときに段ボールで出荷すること自体は、すぐには無くせません。誰の判断で段ボールに切り替えるのか、その回数を記録しているか、顧客は段ボールでの納品を受け入れているか、を確認します。段ボール代替の回数は、箱の不足を示す分かりやすい指標になります。

RFID機器の適合書類

RFIDを使う場合は、読取機が920–925 MHz帯に対応し、送信電力の区分に合った適合書類が揃っているかを、導入前に確認します。海外製の機器を持ち込む場合は特に注意が要ります。

よくある質問

通い箱 管理とは?

通い箱(リターナブル容器)が工場を出てから、取引先で使われ、返却され、検査、洗浄、修理を経て再び使われるまでの1周を記録し、取引先ごとの預け残高と循環日数を数字で持てるようにすることです。目的は箱を探すことではなく、どの取引先に何個預けていて、何日で戻ってくるかを把握し、不足と追加購入を防ぐことにあります。

通い箱の紛失はどう防ぐ?

まず「紛失」を、①取引先に滞留、②所在不明、③破損・廃棄の3つに分けます。①は取引先との定期的な照合と、返却の目安日数のルールで減らせます。②は自社、運送会社、取引先の受け渡しの記録を残し、どの区間で消えたかを絞り込みます。③は検査と廃棄の記録で保有数から正しく外します。紛失率の公的な横断統計は見当たらないため、自社の実測から始めてください。

通い箱にRFIDは必要?

必ずしも必要ではありません。この記事の仮の試算では、QRを使う構成Aの回収が約4.9年だったのに対し、RFIDを使う構成Bは約83年でした。紛失の主な原因は読み方ではなく返却のルールと照合にあると考え、RFIDにしても紛失の削減効果は構成Aと同じと置いたため、費用が大きい割に上乗せされる効果が照合の事務の分だけになったからです。RFIDは、読取点が多く照合の事務が非常に大きい場合や、高額なラック類に限って検討するのが妥当です。使う場合は、金属や積み重ねの状態で実際に読めるかの試験が前提です。

預け残高はどう照合する?

取引先別、容器の種類別に、出荷累計から返却累計を引き、調整を加えた数を預け残高として計算し、定期的に取引先の手元の数と突き合わせます。スウェーデンのOEM1社の事例(2019年の修士論文)では、サプライヤーが年約4回照合していました。出荷通知やEDIに容器の数を載せておくと、照合の差異を返却側に絞り込めます。

通い箱は何個持てばよい?

この記事では、「1日に使う箱の数×循環日数(大半の箱が戻るまでの日数)+安全分」を目安として整理しました。これは記事側の整理で、出典の公式ではありません。仮の数字では、1日400個・22日・安全分10%で9,680個、出荷が1日500個に増えると12,100個が必要になりますが、循環日数を16日に縮めれば8,800個で足ります。買い足す前に、循環日数を縮められないかを検討する価値があります。

Excelでは駄目?

駄目ではありません。取引先が少なく、出荷と返却の数を同じ担当者が記録できているなら、Excelでも預け残高は計算できます。問題になるのは、取引先と容器の種類が増え、出荷と返却の記録が別々の部署に分かれ、照合に月何十時間もかかるようになったときです。取引先ごとの預け残高にすぐ答えられなくなったら、システムを検討する目安です。

通い箱管理システムの導入期間は?

製品と範囲によって大きく変わるため、一律の期間は言えません。この記事では、全社に広げる前の90日で、全取引先の預け残高の棚卸と照合ルールの案づくり、1顧客・1容器種での試行、照合差異と循環日数の実測までを進める目安を示しました。期間の長さより、90日の終わりに自社の紛失の実測値と循環日数が手元にあるかが大事です。

まとめ

  • 通い箱管理システムの目的は、箱を探すことではなく、取引先ごとの預け残高(出荷累計−返却累計±調整)と循環日数を数字で持つこと
  • 箱が足りなくなる典型は、①取引先別の預け残高を誰も持っていない、②返却期限、無償保管日数、紛失時の請求のルールが合意されていない、③保有数を平均の循環日数で決めている、の3つ。研究(スウェーデンの乳業の事例、2007年)も、可視性だけでは不十分で管理の行動が要るとしている
  • 「紛失」は、取引先に滞留、所在不明、破損・廃棄の3つに分ける。紛失率の公的な横断統計は見当たらず、Chalmersの事例の2%は廃棄率であって紛失率ではない。自社の実測から始める
  • データは、容器マスタ(種類と個体)、拠点・取引先マスタ、イベント、預け残高の4つ。イベントの名前はGS1 CBV 2.0を参照し、洗浄は自社で拡張して定義する
  • 必要保有数は「1日に使う箱×循環日数(大半が戻るまでの日数)+安全分」を目安にする。仮の数字では、来年12,100個が必要なところを、循環日数を22日から16日に縮めれば8,800個で足り、630,000バーツの追加購入を避けられる
  • 識別方式は、QRで全数、RFIDやトラッカーは一部、という混在が現実的。RFIDは金属や積み重ねで実地の試験が前提で、タイではNBTCの基準(2017年11月24日官報掲載、翌25日施行)を確認する
  • 仮の試算では、構成A(QR)の純効果は年144,000バーツで回収約4.9年、追加購入を避けられれば約0.5年(追加購入の回避は1回限りで年間効果には入れていない)。構成B(RFID)は純効果年26,400バーツで約83年。紛失が3%なら構成Aでも約13.0年。回収を決めるのは識別方式ではなく、紛失の実測値と循環日数の短縮
  • EUの包装規則(PPWR)は2026年8月12日から適用され、輸送包装の再使用の目標は2030年からの予定。EU域内の話でタイの工場に直接はかからないが、欧州系の顧客から回転数や返却率の集計を求められる可能性がある

TOMAS TECH では、タイの工場で、通い箱や物流の記録の仕組みの設計、ハンディやラベル、RFIDの機器の選定と読取の試験、既存のシステムとの連携のお手伝いをしています。製品を選ぶ前の段階、たとえば取引先別の預け残高の棚卸や、照合のルールとイベントの設計、RFPの要件づくりの段階でもご相談いただけます。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。

参考情報