現品にIDをどう載せるか。トレーサビリティのバーコードを選ぶとき、多くの工場が「読みやすいから」「安いから」で決めてしまいます。ところが半年後にラベルは剥がれ、油でにじみ、客先監査で品質基準を問われて答えられなくなる。識別方式の良し悪しを決めるのは読みやすさではありません。現品の物理条件、読み取り点の数、粒度、そして国ごとの法規です。本記事では、ラベル印字・直接刻印・2次元コード・RFIDの4方式を、この4条件で選び分ける手順に整理します。実際に選ぶことになる組み合わせは、第3章で4つに置き直します。
トレーサビリティのバーコードは「読めるか」では決まらない
識別方式を選ぶ場面は、たいてい似た形で始まります。客先から「ロット単位でのトレーサビリティを確保してほしい」という要求が来る。あるいは社内で工程内不良の追跡ができておらず、不良が出るたびに現品を追いかけて工程を止めている。そこで「バーコードを貼ろう」という話になり、ラベルプリンタとハンディスキャナの見積もりが並びます。
このとき、選定の判断材料としてテーブルに乗るのはたいてい次の3つです。読み取り精度、機器の価格、そして「うちの現場でも扱えるか」。どれも重要ではあるのですが、この3つだけで決めた選定は、およそ次のような形でほころびます。
半年後に剥がれる。 熱処理炉を通る部品にラベルを貼った。あるいは切削油のかかる工程を通した。粘着剤が負けてラベルが浮き、端から巻き上がって、最後は落ちる。落ちたラベルはどこかの工程で拾われ、別の現品の脇に転がっている。
1年後に読めなくなる。 屋外ヤードに置く製品にラベルを貼った。紫外線で印字が飛び、コントラストが落ち、スキャナが読まなくなる。目視ではまだ数字が見えるので、作業者は手入力で回避しはじめる。手入力が始まった瞬間に、そのトレーサビリティは「記録されているが信用できないデータ」に変わります。
客先監査で止まる。 「刻印の品質はどう管理していますか」と聞かれ、「読めていますので問題ありません」と答える。監査員は納得しません。読めているかどうかは結果であって、管理の説明にはならないからです。
機材を移設したら電波が出せない。 日本の親工場で使っていたRFIDのゲートリーダを、タイの新工場へ移そうとした。ところが現地の規制に照らすと、その出力帯では免許が要る。あるいはそもそも割当帯域が違う。これは設置工事の当日に発覚すると、日程がまるごと飛びます。
4つとも、読み取り精度の問題でも、機器の価格の問題でもありません。現品が置かれる物理環境、工程内で何回読むのか、どこまで細かく識別するのか、そしてその国で何が許されているのか——選定を実際に決めているのはこの4つです。読みやすさは、この4つを満たしたあとに残った選択肢の中でだけ意味を持ちます。
タイの事業環境の変化も一つ添えておくと、BOIは2026年方針でサプライチェーン強化(外資とタイ部品企業の連携促進)を掲げ、2026年6月23日には先端製造分野の合計7,000億バーツ超の投資案件を対象に許認可期間を短縮する新制度「タイランド・ファストパス」が発足しました。工場が増え、取引先が増えるということは、客先ごとに異なる識別仕様が降ってくる回数も増えるということです。
識別方式を決める4条件
前章の4つのほころびのうち、「半年後に剥がれる」「1年後に読めなくなる」は現品の物理条件に、「機材を移設したら電波が出せない」は法規に帰着します(「客先監査で止まる」は、規格と合格線の話として後段で別に扱います)。ここに、費用と運用を左右する「読み取り点」と「粒度」を加えた4つが、選定を決める条件です。順番にも意味があります。上から順に潰していかないと、下の条件で決めたことが上の条件でひっくり返ります。
条件1|現品の物理条件
まず、IDを載せる相手そのものを見ます。ここを飛ばして方式を決めた案件は、ほぼ確実に貼り直しになります。
| 項目 | 見るべきこと | 方式選定への影響 |
|---|---|---|
| 素材 | 金属/樹脂/紙・段ボール/布・ゴム | 金属面はRFIDの電波を反射し、タグのアンテナ特性を狂わせるため専用タグが要る。刻印は素材硬度で手法が変わる |
| 表面 | 粗さ・曲率・光沢・塗装の有無 | 曲面と光沢面は2次元コードの読み取りを難しくする。刻印はコントラストが出るかが勝負 |
| 温度 | 熱処理・リフロー・塗装焼付を通るか | ラベルの粘着剤と印字は温度で負ける。RFIDタグのICも高温には弱い |
| 液体 | 切削油・洗浄液・水洗・薬液 | 洗浄工程を通る現品にラベルは残らないことが多い |
| 寿命 | 工程内だけか、出荷後も何年読むか | 市場で10年読む必要があるなら、消耗するラベルは前提から外れる |
| 面積 | コードを置ける平面が何mm角あるか | 情報量と面積はトレードオフ。小物部品ではこれが最初の制約になる |
現場で一番よく見落とされるのが寿命です。「工程内トレーサビリティだから工場を出るまで読めればいい」のか、「市場での個体管理システムまで見据えるから出荷後10年読む」のかで、選ぶ方式は変わります。前者ならラベルで十分な場合が多く、後者ならラベルは最初から候補から外れます。
洗浄・水濡れが常態の工程については、食品工場での事情を水回りのある工程でのトレーサビリティ設計に整理しています。金属加工とは制約の出方が違うので、あわせて確認してください。
条件2|読み取り点の設計
次に、工程フローの上に「読む場所」を打っていきます。ここで決まるのは点の数と、誰が読むかです。
読み取り点が工程内に1点しかないなら、人がハンディで読めば足ります。追加の設備投資はほとんど要りません。ところが読み取り点が5点、10点と増えると話が変わります。人が読む前提のままだと、その秒数がそのまま人件費として毎月効いてきます。逆に自動読み取りにするなら、点の数だけ読み取り機を設置することになり、初期投資が点数に比例して膨らみます。
あわせて見るべきなのが読む姿勢です。両手が現品や工具でふさがっている工程で「ハンディを持って読め」という設計にすると、作業者はどこかで読まなくなります。読み取りに失敗したときのリカバリ手順(手入力を許すのか、許すなら誰の承認が要るのか)を決めていないと、そこから運用が崩れます。読み取り端末側の運用設計はハンディ端末とピッキング運用の設計で詳しく扱っているので、本記事では「読まれる側」に集中します。
条件3|粒度
ロット単位で追うのか、箱・パレット単位なのか、個体シリアル単位なのか。この決め方そのものは本記事の主題ではありません。客先要求から粒度を逆算する手順は自動車部品でのIATF16949対応に、紐付けキーの設計は品質データ管理システムの組み立て方に整理してあります。
本記事で受け取るのは、その結論だけです。すなわち「粒度は決まっている。ではそれを現品にどう載せるか」。
粒度が上がると、現品に載せるべき符号が伸びます。ロット番号管理だけなら品番+ロット番号で足りますが、シリアル番号管理システムまで踏み込むと、品番・ロット・製造日・シリアルと項目が増えます。ここで1次元バーコードを使い続けると、現品票にバーコードが何本も並ぶことになります。この「並ぶ」が、あとで効いてきます。
条件4|法規と国境
そして、多くの選定資料が触れていない4つ目。RFIDだけは、使ってよい周波数・出力・免許の要否が国ごとに違います。 バーコードにも刻印にも、この制約はありません。紙に印刷したコードが国境で違法になることはないからです。
この差は、方式間の優劣ではなく前提条件の違いとして扱うべきものです。ASEANに複数拠点を持つ企業ほど重く効きます。詳しくは後段で1章を割きます。

4方式を横並びで比較する
ここで整理しておきたいのですが、実務で語られる「ラベル印字」「直接刻印」「2次元コード」「RFID」という4つは、そのままでは同じ軸に並びません。ラベル印字と直接刻印はIDの載せ方の話であり、1次元か2次元かは符号の種類の話だからです。ラベルに2次元コードを印字することもできますし、直接刻印で2次元コードを彫ることもできます。
そこで、選定の場で実際に選ぶことになる4つの組み合わせに置き直します。
| 比較軸 | ①ラベル+1次元バーコード | ②ラベル+2次元コード | ③直接刻印(DPM、通常は2次元) | ④UHF RFIDタグ |
|---|---|---|---|---|
| 載せられる情報量 | 実用上は品番かロット番号のどちらか。両方載せるなら本数を増やす | 品番・ロット・期限・シリアルを1シンボルに収められる | ②と同等 | ID本体に加えユーザメモリを持つ品種もある |
| 必要な面積 | 桁数に比例して横に伸びる | 同じ情報量なら1次元より大幅に小さい | 同上。ただし刻印可能な平面が要る | タグの物理サイズと金属からの離隔が要る |
| 物理条件への強さ | 弱い(剥離・にじみ・退色) | 弱い(①と同じ) | 強い。熱処理・洗浄・油に耐えうる | 中。金属面は専用タグ、高温は不可の品種が多い |
| 汚れ・欠けへの耐性 | 低い。バーが1本潰れると読めない | 高い。誤り訂正で一定の欠損を復元できる | 高い(②と同じ符号の性質) | 汚れの影響を受けにくい(視線を必要としない) |
| 読み取りの自動化 | 可能だが視線が通る必要がある | 同左 | 同左。照明設計の難度が上がる | 視線不要。複数一括読み取り、箱の中も読める |
| 1個あたりの費用 | 最安 | ほぼ①と同等(ラベル代は同じ) | 初期の刻印設備は要るが、現品1個あたりは安い | 最も高い。タグが消耗品になるかが分岐点 |
| 品質評価の規格 | 1次元シンボル用の印字品質規格で評価する | ISO/IEC 15415 | ISO/IEC 29158(DPMグレード) | 規格ではなく読み取り率で管理する |
| 電波法規制 | なし | なし | なし | あり。国ごとに帯域・出力・免許が違う |
この表から読み取ってほしいのは、どれか1つが勝つわけではないということです。実際の工場では併用になります。工程内の仕掛品には刻印、外装箱にはラベル+2次元、パレットにはRFID、という組み合わせは珍しくありません。
そのうえで、代表的な絞り込みの分岐は次のようになります。
- 現品が洗浄・熱処理・切削油を通る、または出荷後も長期に読む必要がある → ③直接刻印が第一候補。ラベルは残らない
- 現品は工程内だけ、面積に余裕がある、粒度はロット単位 → ①または②で足りる。既存のラベルプリンタが使える
- 粒度がシリアルまで上がり、現品票に載せたい項目が3つ以上ある(1次元ならバーコードが3本並ぶ)→ ②に畳む。次章で扱います
- 読み取り点が多く、1点あたりの手作業が長い(箱を開ける、中身を数える等) → ④RFIDを検討する価値がある。ただし条件4(法規)と経済性の検算が先
- 現品が金属で、かつ小物 → ③と④の両方に制約が出る。刻印面積とタグ寸法の両方を先に測る
粒度を現品にどう載せるか — GS1 Sunrise 2027と2次元コードへの流れ
現品票にバーコードが何本並んでいますか
条件3で触れた「並ぶ」問題を具体化します。粒度が上がると、現品票はこうなりがちです。
- 品番のバーコード
- ロット番号のバーコード
- 製造日のバーコード
- シリアル番号のバーコード
4本並べば、現品票のサイズは大きくなります。小物部品では貼れる面がなくなり、「じゃあ袋に入れて、袋に貼ろう」となる。すると個体との対応が緩み、袋を開けた瞬間に個体管理システムの根拠が消えます。作業者側も、4本のうちどれを読むのかを工程ごとに覚えなければならず、読み間違いが発生します。
この問題に対する回答が2次元コードです。GS1 DataMatrix は、GTIN(品目コード)・ロット/バッチ番号・使用期限・シリアル番号といった構造化データを1つのシンボルに格納できます。 4本並んでいたバーコードが1つになる。読み取り操作も1回になる。面積も小さくなる。
これは「新しい技術に乗り換える」という話ではなく、現品票の面積と操作回数という物理的な問題を解くという話です。
GS1 Sunrise 2027は小売だけの話ではない
2次元コードへの移行には、業界全体の期限が引かれています。通称 GS1 Sunrise 2027(Ambition 2027)。2027年末までに、世界の小売POSが従来の1次元バーコードに加えてGS1の2次元コードを読める状態にする、という目標です。移行は48カ国で進行中で、世界GDPの約88%に相当する範囲に及ぶとされています。
実際の動きも出ています。2026年4月、英国のTescoが自社ブランドのソーセージの主力レンジで、従来の1次元バーコードをGS1ベースのQRコード/Data Matrixに置き換えました。英国のスーパーマーケットでは初の事例とされています。
小売POS向けにGS1が挙げる2次元コードの選択肢は次の3つです。
| 選択肢 | 内容 |
|---|---|
| ① GS1 Digital Link URI構文のQRコード | URI形式でデータを表現するQRコード |
| ② GS1 Digital Link URI構文のData Matrix | 同じURI構文をData Matrixで表現 |
| ③ GS1 DataMatrix | GS1のアプリケーション識別子でGTIN・ロット・期限・シリアル等を構造化 |
「うちは小売向けではないから関係ない」と読まれがちですが、部品メーカーにとっては別の形で関係します。客先の要求仕様として降りてくるからです。完成品メーカーが2次元コード前提の運用に移れば、その要求は納入部品の現品票やラベル仕様に反映されます。すでに要求が来ていなくても、これから設備を選ぶなら2次元コードを読める・出せる構成にしておくほうが、あとで安く済みます。
判断のポイントは3つです。
- 自社のERP/MESが、2次元コードに載せる構造化データを生成・保持できるか。 シンボルに載せる項目がマスタ側に無ければ、印字機だけ替えても意味がありません
- 生産ラインで必要な品質で印字・刻印できるか。 情報量が増えるとセルサイズが細かくなり、印字・刻印の要求精度が上がります
- 1次元と2次元が混在する期間を運用できるか。 一斉切替は現実的ではありません。読み取り側が両方読める構成であることが前提になります

「読めています」は監査の回答にならない — ISO/IEC 15415と29158
品質を規格で語れるかどうか
冒頭で挙げた「客先監査で止まる」を回収します。監査で「識別コードの品質をどう管理していますか」と問われたとき、「現場で読めていますので問題ありません」は回答になりません。 読めているかどうかは、そのとき使ったスキャナの性能と照明条件と現品の個体差に依存する結果であって、管理の仕組みの説明ではないからです。
回答になるのは、次の形です。「印字ラベルは ISO/IEC 15415 で評価し、社内合格線をグレード◯以上に置いています。直接刻印は ISO/IEC 29158 で評価し、DPMグレード◯以上を合格線にしています。検証はベリファイアで、◯◯の頻度・◯◯のサンプル数で実施し、記録を◯年保管しています」。
つまり、どの規格で・どのグレードを合格線にしているかが回答になります。この2つを決めていない工場は、監査の場で必ず詰まります。
15415と29158の使い分け
規格の使い分けは、載せ方で決まります。
| 対象 | 使う規格 | 備考 |
|---|---|---|
| ラベルやプリンタで印字した2次元コード | ISO/IEC 15415 | 一般的な2次元シンボルの品質評価 |
| 金属面などへのレーザー/ドットピン刻印(DPM) | ISO/IEC 29158 | 結果は「DPMグレード」として報告される |
刻印に15415をそのまま当ててはいけない、というのが実務上の要点です。改訂の流れは ISO/IEC TR 29158:2011(技術報告書として発行)→ ISO/IEC 29158:2020 → ISO/IEC 29158:2025 と進んでいます。刻印品質を社内標準に書き込むときは、どの版を参照しているかまで明記しておくと、監査時の説明が短くなります。
なぜDPMには専用の規格が要るのか
「同じ2次元コードなのに、なぜ規格が別なのか」という質問はよく出ます。実務で効く違いは2点です。
違い1:アパーチャ(測定に使う開口)の決め方。
15415では、モジュールサイズのおよそ80%程度のアパーチャを選ぶのが一般的です。これに対し29158は、まず復号できるまでアパーチャ径を変え、そのうえで 50%と80%の2条件で採点し直すという手順を取ります。刻印は印字と違ってモジュールの形が均一にならないため、単一のアパーチャで測ると評価が実態からずれるからです。
違い2:しきい値の決め方。
15415は、最大反射率と最小反射率の中央値で大域しきい値を決めます。ところが金属面のDPMでは、テカリ(グレア)で最大反射率が突出します。すると中央値で決まるしきい値が上振れし、本来問題のない刻印の変調度が不当に低く出る。29158はこの問題に対処した評価方法になっています。
この2点を知っていると、「刻印の品質が上がらない」という現場の悩みが、刻印そのものの問題なのか、評価方法の選び違いなのかを切り分けられます。金属部品で「読めているのにグレードが出ない」という報告が上がってきたら、まず15415で採点していないかを確認してください。
合格線の決め方
合格線は、次の3つを見て決めます。
- 客先要求。 明示的にグレードを指定してくる客先があります。指定があれば、それが下限
- 読み取り環境の余裕。 出荷時点でぎりぎりのグレードだと、現品が汚れたり摩耗したりした時点で読めなくなります。工程の下流ほど条件は悪くなるので、上流で余裕を持たせます
- 設備の実力値。 実際に自社の刻印機・印字機で出せるグレードを、素材別・条件別に測っておきます。ここを測らずに合格線だけ高く設定すると、毎日不合格が出て運用が形骸化します
RFIDは国境を越えない — 日本・タイ・ベトナムの規制差
本記事の4条件のうち、他社の選定資料がほぼ触れていないのがここです。
日本の工場で使っていた920MHz帯のUHF RFIDリーダとタグを、そのままタイやベトナムの拠点に持ち込む計画は、成立しないことがあります。 帯域も、出力の区分も、免許の制度も、国ごとに違うからです。
3カ国の比較
| 国 | 割当帯域 | 出力の区分 | 免許・認証 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | 920MHz帯 | 250mW以下=特定小電力/それを超える高出力タイプ(1W以下) | 特定小電力は申請不要。高出力タイプ(登録局・免許局)は総務省への申請が必要 | 950MHz帯のRFIDは2018年3月31日で使用期限を迎え、以後の使用は電波法違反 |
| タイ | 920–925MHz | 50mW EIRP以下/50mW超〜4W EIRP | 50mW EIRP以下はSDoC(自己適合宣言)で足りる。50mW超〜4W EIRPはNBTCのCategory Aライセンスが必要 | 技術基準はNTC TS 1010-2560(旧 NTC TS 1010-2550 を置換、2017年11月24日施行)。非RFIDのIoT機器は NTC TS 1033-2560 |
| ベトナム | 918–923MHz | 0.5W ERP | 上限を超える運用は要免許 | 根拠は Circular 46/2016/TT-BTTTT。旧 920–925MHz から 918–923MHz へ変更済み。866–868MHz の免許不要RFID枠は削除(2019年2月12日以前に製造・輸入された製品は、有害な混信が無ければ継続使用可) |
安全規格については、タイでは IEC 60950-1 または TIS 1561-2556 が参照されます。ベトナム側の関連通達には Circular 18/2018/TT-BTTTT もあります。
この表の数字を「そのまま比べて」はいけない
まず技術的な注意を1つ。上表の出力値は、基準が揃っていません。
- タイの数値は EIRP(等価等方輻射電力。アンテナ利得を含む)
- ベトナムの数値は ERP(実効輻射電力。ダイポールアンテナ基準)
- 日本の250mWは送信出力の区分であり、EIRPやERPとは基準が異なる
ERPとEIRPの間には約2.15dB(およそ1.64倍)の差があります。ベトナムの 0.5W ERP をEIRPに直すと約0.82W。これに対しタイのライセンス上限は 4W EIRP なので、同じEIRP基準に揃えて比べればタイの上限はベトナムの約4.9倍ということになります。逆に言えば、EIRPとERPを取り違えたまま「タイは4W、ベトナムは0.5W、8倍違う」と読むと、機器選定の前提を誤ります。
「そのまま移設」が成立しない具体的な形
失敗の形は3つあります。
① 帯域が重ならない。
タイは 920–925MHz、ベトナムは 918–923MHz です。重なるのは 920–923MHz の範囲だけで、タイで使っていた 923–925MHz 側のチャネル設定は、ベトナムでは割当の外になります。逆に、ベトナムで使っていた 918–920MHz 側はタイの割当の外です。日本の「920MHz帯」も、名称は近くても割当範囲がこの2国と完全に一致するわけではありません。「同じ920MHz帯だから使える」という判断は、この時点で危険です。
② 出力区分が違い、免許の要否が変わる。
日本では250mW以下は特定小電力として申請不要です。ところがタイでは、免許不要(SDoC)で済む区分は 50mW EIRP以下。日本で「申請不要だから」という理由で選定した機種が、タイでは免許の要る区分に入る可能性があります。 そしてタイで 50mW超〜4W EIRP を使うには NBTC の Category A ライセンスが必要です。これは機器を買ってから気づくと、稼働日程に直接響きます。
③ 機器の適合認証がその国のものでない。
日本の技術基準適合証明(技適)は、タイやベトナムでは通用しません。タイであれば NTC TS 1010-2560 に基づく適合が問われ、ベトナムであればMIC側の枠組みで問われます。同じ型番でも、その国向けの認証を取得したモデルでなければ使えないというのが原則です。メーカーによっては国別モデルが用意されているので、購買の段階で「タイ向けの型番はどれか」を必ず確認してください。
実務上の進め方
したがって、RFIDを候補に入れる場合の手順は次のようになります。
- 設置する国を確定する。 「まず日本で試して、うまくいったらタイに横展開」という進め方は、機種選定の段階で分けて考える必要があります
- 必要な読み取り距離から、必要な出力を逆算する。 ここで免許不要の区分に収まるなら、話は大幅に簡単になります
- その国の免許不要区分に収まるかを確認する。 収まらないなら、免許取得に要する期間を稼働計画に織り込む
- 候補機種のType Approval(その国向けの適合認証)の取得状況を、メーカーに文書で確認する
- 設置環境の電波干渉を確認する。 工場内の無線LANや他システムとの共存は別問題です。産業ネットワーク側の設計は工場の無線LANと産業ネットワークを参照してください
確認事項: 本記事に記載した帯域・出力・免許区分は公開情報の範囲でまとめたものです。実際の選定と申請は、必ず最新の総務省/NBTC/MIC の告示と、対象機器のType Approval取得状況に基づいて確認してください。 制度は改訂されます。また、当社は無線機器の免許申請を代行する立場ではありません。方式選定の切り分けと、規制確認が必要な論点の洗い出しまでが当社の関与範囲です。
経済性は「付ける・読む・紐付ける」の3つで見る
費用の構造を3つに分ける
識別方式の費用は、次の3つに分けると比較できるようになります。
| 区分 | 内容 | 何に比例するか |
|---|---|---|
| ① 付ける | ラベル・タグ・刻印そのもの。マーキング設備と消耗品 | 粒度と数量。ロット単位なら1ロットに1回、個体単位なら1個に1回 |
| ② 読む | 読み取り機と、読む作業の工数 | 読み取り点数。人が読む前提なら「1回あたりの秒数 × 点数 × 数量」 |
| ③ 紐付ける | 読んだIDを製造履歴管理のデータに結びつけるシステム側 | 方式にほとんど依存しない |
この3分解はRFIDに限った話ではありません。ラベル印字から直接刻印への切り替えも、まったく同じ式で判断できます。刻印は①の設備投資が先に立つ代わりに現品1個あたりが安く、貼り直しや読み直しの発生率が下がるぶん②も減ります。以下では、①と②の差が最も大きく出るRFIDを例に取って計算しますが、置き換える方式が変わっても構造は同じです。自社で試算するときは、比較したい2方式を①と②に入れ替えてください。
ここで重要なのは、③は方式選定の比較にはほぼ効かないということです。ラベルで読もうがRFIDで読もうが、「読んだIDを製造履歴に書き、材料ロットと紐付ける」システム側の処理は同じだからです。ただし絶対額としては③が最も大きくなる案件も珍しくないので、予算全体の話はトレーサビリティ構築の費用の見方を参照してください。本章では、方式間で差が出る①と②に絞ります。
損益分岐を決めているのは2つの変数だけ
RFIDが効くのは、①の単価差(タグは紙ラベルより高い)を、②の工数削減が上回るときだけです。タグの単価だけを見比べても答えは出ません。
式にすると、こうなります。
RFIDの増分コスト(月) = ①タグの単価差の合計 + ②1点あたりの設備差額 × 読み取り点数
RFIDで削減できる額(月) = 1回あたりの短縮秒数 × 秒あたり人件費 × 数量 × 読み取り点数
①は読み取り点数に比例しません(タグは点数が何点でも、タグを付ける対象1つにつき1回付けるだけ)。②と削減額は読み取り点数に比例します。したがって、点数を増やしていくと、あるところで削減額が増分コストを追い越します。この交点が損益分岐点です。
そして削減額の側は、1回あたりの短縮秒数に比例します。つまり損益分岐は「読み取り点数」と「1回あたりの手作業秒数」の2変数でほぼ決まります。
試算の前提
以下は本記事の前提での試算であり、実勢価格ではありません。自社の条件で必ず置き換えてください。
| 前提 | 値 |
|---|---|
| 月産数量 | 30,000個 |
| 対象 | 工程内トレーサビリティ。ワークは工程内キャリア(治具パレット)に載って流れる |
| 工程内キャリア数 | 3,000台(仕掛の滞留を含む循環数) |
| 作業者人件費 | 月額 THB 20,000(法定福利込み)/月208時間 → 時給 THB 96 → 秒あたり 約 THB 0.027(本試算では 0.027 で計算) |
| RFIDタグ | キャリア用ハードタグ THB 130/台、耐用5年(60ヶ月) |
| バーコード側の識別 | キャリアへのレーザー刻印 THB 25/台、耐用5年(60ヶ月) |
| RFID読み取り設備 | 1点あたり 固定リーダ+アンテナ+工事 THB 120,000、耐用5年(60ヶ月) |
| バーコード読み取り設備 | 1点あたり THB 30,000、耐用4年(48ヶ月)。ハンディ端末はバッテリと筐体の消耗が早いため、固定リーダより耐用年数を短く置いています |
| 1回あたりの短縮秒数 | 手持ちスキャンに4秒/RFIDはゲート通過で実質0秒 → 短縮4秒 |
ここから月額に直します。
- ①タグの単価差=(130 × 3,000 ÷ 60)−(25 × 3,000 ÷ 60)= 6,500 − 1,250 = THB 5,250/月(点数によらず一定)
- ②設備差額=(120,000 ÷ 60)−(30,000 ÷ 48)= 2,000 − 625 = THB 1,375/月・1点あたり
- 削減額=30,000個 × 4秒 × THB 0.027 = THB 3,240/月・1点あたり
1点増えるごとの純便益は 3,240 − 1,375 = THB 1,865。これで①の 5,250 を埋めればよいので、損益分岐点は 5,250 ÷ 1,865 = 約2.8点になります。
感度分析A:読み取り点数を振る
| 読み取り点数 | RFIDの増分コスト/月 | 削減できる手作業/月 | 差引 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 1点 | THB 6,625 | THB 3,240 | −3,385 | RFID不利 |
| 2点 | THB 8,000 | THB 6,480 | −1,520 | RFID不利 |
| 3点 | THB 9,375 | THB 9,720 | +345 | ほぼ均衡 |
| 4点 | THB 10,750 | THB 12,960 | +2,210 | RFID有利 |
| 5点 | THB 12,125 | THB 16,200 | +4,075 | RFID有利 |
同じ工場・同じ数量・同じ機材でも、読み取り点数が1点か5点かで結論が反転します。 1点では月 THB 3,385 の持ち出しになり、5点では月 THB 4,075(年間 THB 48,900)の便益になる。タグ単価の比較からは、この反転は絶対に見えてきません。
なお、上表の増分コストには設備とタグの償却が既に含まれています。したがって、この差引に対してさらに「投資回収年数」を別計算してはいけません。設備費を月次償却で織り込み済みなので、同じ設備費から回収年数を再計算すると、設備費を二度数えることになります。比較したいのは月次の総コスト差です。
感度分析B:1回あたりの手作業秒数を振る
読み取り点数と並ぶもう1つの変数が、1回あたりに短縮できる秒数です。上の前提(月30,000個、①の差額 THB 5,250/月、設備差額 THB 1,375/月・点)のまま、秒数だけを振ります。
| 短縮できる秒数 | 1点あたりの削減額/月 | 1点あたりの純便益/月 | 損益分岐となる読み取り点数 |
|---|---|---|---|
| 1秒 | THB 810 | −565 | 何点あっても成立しない |
| 2秒 | THB 1,620 | +245 | 約21点(現実には存在しない) |
| 4秒 | THB 3,240 | +1,865 | 約2.8点 |
| 6秒 | THB 4,860 | +3,485 | 約1.5点 |
| 10秒 | THB 8,100 | +6,725 | 1点でも成立 |
短縮秒数が1秒しかない工程では、読み取り点を何点増やしてもRFIDは成立しません。設備の差額を人件費の削減で埋め切れないからです。逆に、1回あたり10秒かかっている工程(箱を開ける、中身を数える、複数枚のラベルを1枚ずつ読む)なら、読み取り点が1点でも成立します。
「RFIDは高い/安い」という議論に意味がないのは、この2変数を固定せずに話しているからです。
使い捨てタグでは、この計算はまず成立しない
上の試算は「タグをキャリアに付けて繰り返し使う」前提です。もし現品1個ごとに使い捨てのRFIDタグを付けるとどうなるか、同じ枠組みで見ます。
RFIDラベルタグを THB 12、紙ラベルを THB 0.60 とすると、1個あたりの差額は THB 11.4。月産30,000個なら THB 342,000/月です。1点あたりの純便益 THB 1,865 でこれを埋めるには、読み取り点数が 342,000 ÷ 1,865 = 約183点必要になります。工程内にそんな読み取り点は存在しません。
つまり、タイの人件費水準では、現品1個ごとに使い捨てタグを付ける工程内トレーサビリティは、労務削減だけを根拠にすると成立しにくいということです。日本の本社で通った投資計画が、タイで同じ計算にならない主因はここにあります。人件費が安いということは、人件費削減を根拠にした自動化投資の分母が小さいということでもあります。
RFIDが成立しやすいのは、タグが繰り返し使われる単位(キャリア・通い箱・パレット・治具)に付く場合か、1回あたりの手作業秒数が大きい業務の場合です。棚卸業務がまさに後者にあたり、その費用構造はRFID棚卸の費用で個別に扱っています。

選定を進める手順と、よくある失敗
8ステップの進め方
ここまでの内容を、実際に動かせる順序に並べ直します。
- 対象品目の物理条件を書き出す。 素材・表面・温度・液体・寿命・面積の6項目を、代表品目ごとに1行で埋めます。この表が無いまま先に進まないこと
- 工程フロー図に読み取り点を打つ。 何点あるか、誰が読むか、両手が空いているかを図の上で確定します
- 粒度を客先要求から確定する。 ロット/箱・パレット/個体シリアルのどれか。ここは既存の設計に従います
- 符号を決める。 粒度から必要な桁数を出し、1次元で足りるか、2次元に畳むべきかを判断します。現品票に載せたい項目が3つ以上(1次元ならバーコードが3本並ぶ)なら2次元へ
- 載せ方を決める。 物理条件がラベルの耐久を超えるなら直接刻印。工程内だけならラベルで足りることが多い
- RFIDを使うなら、機器選定の前に国別の法規を確認する。 順番が逆になった案件はほぼ手戻りします
- 品質評価の規格と合格線を決める。 ラベルは15415、刻印は29158。検証頻度・サンプル数・記録の保管期間まで決めて文書化します
- システム側の紐付けを設計する。 読んだIDを何のキーで、どのテーブルに、いつ書くか。材料ロットとの紐付けはここで担保します
よくある失敗5つ
失敗1:読み取り点を数えないまま機器を選ぶ。
「まずハンディを2台買って試そう」で始まると、点数が増えたときの費用構造が見えません。前章のとおり、点数は損益分岐を決める2変数の1つです。試すのは構いませんが、最終形の点数を先に数えておくことが前提です。
失敗2:粒度を後から上げる。
ロット単位で設計したものを、あとから個体シリアルに上げると、①のコストが数量倍になります。ラベル1枚がロットに1枚だったのが、1個に1枚になるからです。客先要求が個体管理に向かう見込みがあるなら、載せ方の選定時点で織り込んでおきます。
失敗3:ラベルの耐久試験をしない。
「メーカーのカタログに耐熱と書いてある」で決めない。実際の工程を通した現品で、実際の期間置いてから読む。この試験を1回やるだけで、貼り直しの案件は大幅に減ります。
失敗4:日本の運用をそのまま持ち込む。
RFIDの法規は本記事で扱ったとおりですが、それ以外にも、日本語表記のみのラベル、日本の帳票様式に依存した現品票など、現地で機能しないものが紛れ込みます。作業者が読む面(人が目で見る文字)と、機械が読む面(コード)を分けて設計してください。
失敗5:品質評価の合格線を決めずに運用を始める。
決めていないと、監査で詰まるだけでなく、日々の「読めない」が判断できません。読めなかったときに刻印機を調整すべきなのか、読み取り機側なのか、切り分ける基準が無いからです。
よくある質問
トレーサビリティのバーコードはQRコードとどちらを選ぶべき?
用途が違うので、二者択一ではありません。1次元バーコードは情報量が小さく、桁数に比例して横に伸びます。品番だけを載せるなら十分ですが、ロット番号や個体シリアルまで載せると、現品票にバーコードが何本も並ぶことになります。2次元コード(QRコードやData Matrix)は同じ情報量を小さい面積に収められ、誤り訂正があるので一定の汚れや欠けにも耐えます。
判断の基準は明快で、現品票に載せたい項目が3つ以上(1次元バーコードなら3本並ぶ)なら2次元です。あわせて、GS1 Sunrise 2027の流れで客先要求が2次元に寄っていく可能性があるため、これから設備を選ぶなら読み取り側は1次元と2次元の両方を読める構成にしておくのが無難です。なお、シンボル周囲に必要な余白(クワイエットゾーン)はData Matrixのほうが小さいため、同じ情報量でも狭い面積に収めやすいという特徴があります。刻印面積が制約になる部品では、この点が選定理由になります。
トレーサビリティのRFIDは費用に見合う?
「読み取り点数」と「1回あたりの手作業秒数」の2つで決まります。本記事の試算前提(月産30,000個、キャリア3,000台にタグを付けて繰り返し使用、1回あたり4秒の短縮)では、損益分岐は読み取り点数で約2.8点でした。1点しかない工程では月 THB 3,385 の持ち出し、5点あれば月 THB 4,075 の便益と、同じ条件でも結論が反転します。
一方、現品1個ごとに使い捨てタグを付ける前提にすると、同じ試算で損益分岐は約183点となり、工程内では現実的に成立しません。タグ単価だけを比べても答えは出ず、点数と秒数を固定しないと議論が始まらない、というのが実務上の結論です。これらの数値は本記事の前提での試算であり、実勢価格ではありません。
日本で使っているRFIDリーダを、タイの工場でそのまま使えますか?
そのまま使えるとは限りません。3つの理由があります。第一に割当帯域が違うこと。タイは 920–925MHz、ベトナムは 918–923MHz で、日本の「920MHz帯」とも完全には一致しません。第二に免許の区分が違うこと。日本では250mW以下が特定小電力として申請不要ですが、タイで免許不要(SDoC)となるのは 50mW EIRP以下で、50mW超〜4W EIRP は NBTC の Category A ライセンスが必要です。第三に適合認証が国別であること。日本の技適はタイでは通用せず、タイでは NTC TS 1010-2560 に基づく適合が問われます。
したがって、機器を購入する前に「その国向けの型番か」「Type Approvalを取得しているか」をメーカーに文書で確認してください。制度は改訂されるため、最終判断は必ず最新の総務省/NBTC/MIC の告示に基づいて行う必要があります。なお日本国内でも、950MHz帯のRFIDは2018年3月31日で使用期限を迎えており、以後の使用は電波法違反となります。古い機材を海外拠点へ回す計画がある場合は、この点も確認対象です。
材料ロットと製品シリアルの紐付けは、どの方式でも同じようにできますか?
紐付けの仕組み自体は方式に依存しません。読んだIDをキーにして製造履歴のデータへ書き込む処理は、ラベルでもRFIDでも同じです。差が出るのは紐付けが発生する瞬間に、その現品を確実に識別できるかという点です。
材料ロットの紐付けは、多くの場合「材料を投入する瞬間」に発生します。この瞬間に作業者の両手が塞がっていたり、材料が袋の中にあってラベルが見えなかったりすると、読み取りが飛ばされます。飛ばされた紐付けは後から復元できません。したがって、投入工程の物理的な条件(両手が使えるか、コードが見える向きに置けるか)を先に確認し、それが満たせないならRFIDのような視線不要の方式を検討する、という順序になります。紐付けキーの設計そのものは品質データ管理システムの組み立て方で扱っています。
金属部品への直接刻印は、どの規格でどこまで管理すればよいですか?
直接刻印(DPM)の品質評価には ISO/IEC 29158 を使います。ラベル印字用の ISO/IEC 15415 を刻印にそのまま当てると、金属面のグレアの影響でしきい値が上振れし、実際には問題のない刻印が不当に低く採点されることがあります。29158は、復号できるまでアパーチャ径を変えてから50%と80%の2条件で採点し直す手順を取り、この問題に対処しています。結果は「DPMグレード」として報告されます。
管理の範囲としては、①どの規格のどの版を使うか、②合格線とするグレード、③検証の頻度とサンプル数、④記録の保管期間、の4点を社内標準に明記しておけば、多くの客先監査には対応できます。逆に言えば、この4点を決めていないと「読めています」以上の説明ができません。
工程内不良の追跡だけが目的なら、どこまでやれば十分ですか?
工程内不良追跡だけ、つまり内部トレーサビリティに限定するなら、識別が工場を出るまで持てばよいという条件になります。これは選定を大幅に楽にします。市場で10年読む必要がないため、耐久性の要求が下がり、ラベルが候補に残ります。
具体的には、①粒度は不良の切り分けに必要な単位まで(ロット単位で原因が特定できるなら、個体シリアルまで上げる必要はありません)、②読み取り点は不良が発生しうる工程の前後に絞る、③識別媒体は工程内の環境に耐えれば足りる、という3点で設計します。
ただし、注意が1つあります。内部トレーサビリティで済むという判断は、客先要求が変わると崩れます。 客先が個体単位のリコール対応を求めてきた瞬間に、粒度を上げ直すことになり、①のコストが数量倍になります。いま内部だけで足りるとしても、選定時に「粒度を上げるとしたらどの方式なら耐えるか」を1度だけ検討しておくと、後の手戻りが小さくなります。
まとめ
識別方式の選定は、読みやすさや機器の価格で決めるものではありません。本記事で整理した骨格を、もう一度並べます。
- 選定を決めるのは4条件。 現品の物理条件、読み取り点の設計、粒度、法規と国境。この順で潰します
- 選ぶのは4つの組み合わせ。 ラベル+1次元/ラベル+2次元/直接刻印(DPM)/UHF RFID。どれか1つが勝つのではなく、工程ごとの併用が現実解です
- 粒度が上がったら2次元に畳む。 GS1 DataMatrix は GTIN・ロット・使用期限・シリアルを1シンボルに収められます。GS1 Sunrise 2027 は48カ国・世界GDPの約88%相当の範囲で進行しており、2026年4月には英Tescoが自社ブランドのソーセージ主力レンジで1次元を置き換えました。客先要求として降りてくる前に、読み取り側を両対応にしておくのが安全です
- 品質は規格で語る。 ラベル印字は ISO/IEC 15415、直接刻印は ISO/IEC 29158。客先監査で「読めています」は回答になりません。どの規格で・どのグレードを合格線にしているかが回答です
- RFIDは国境を越えない。 日本の920MHz帯、タイの920–925MHz、ベトナムの918–923MHz は一致しません。免許不要となる出力区分も国ごとに違い、適合認証も国別です。機器を買う前に確認すべき論点です
- 経済性は3つに分けて2変数で見る。 付ける・読む・紐付けるの3つに分け、損益分岐は「読み取り点数」と「1回あたりの手作業秒数」でほぼ決まります。本記事の前提では、点数が1点か5点かで結論が反転しました
最後に、この記事全体を通じて一番強調したい点を繰り返します。識別方式は、現品と工程と法規が決めるものであって、好みや慣れが決めるものではありません。 日本の工場で長年うまくいっていた方式が、タイの同じ製品ラインで同じようにうまくいく保証はどこにもありません。判断の前に、現品の物理条件と読み取り点の数だけは必ず紙に書き出してください。この2つを書き出すだけで、検討に値する選択肢はかなり絞り込まれ、そこから先の議論が具体的になります。
自社の場合にどの方式が合うのか、切り分けの段階でも構いませんのでご相談ください。「この部品は刻印にすべきか、ラベルで足りるのか」「読み取り点が何点なら自動読み取りに投資する価値があるのか」「タイとベトナムの拠点で同じ機材を使えるのか」といった、選定に入る手前の論点整理からお手伝いできます。導入を前提としたご相談でなくても構いません。お問い合わせはこちらからどうぞ。
参考情報
GS1 Sunrise 2027と2次元コード
- GS1 Digital Link(GS1): https://www.gs1.org/standards/gs1-digital-link
- Preparing for the GS1 Sunrise 2027 Initiative(Cognex): https://www.cognex.com/blogs/machine-vision/preparing-for-the-gs1-sunrise-2027-initiative-shifting-to-2d-barcodes
- GS1 Sunrise 2027(Scandit): https://www.scandit.com/blog/gs1-sunrise-2027-smart-data-capture-revolution/
- GS1 Sunrise 2027(Videojet): https://www.videojet.com/us/homepage/resources/learn/gs1-sunrise-2027.html
コード品質の評価規格(ISO/IEC 15415 / 29158)
- ISO/IEC 29158:2025(ISO): https://www.iso.org/standard/87123.html
- ISO/IEC 29158:2020(ISO): https://www.iso.org/standard/69411.html
- Differences between grading standards 15415 and 29158(Cognex): https://docs.cognex.com/dmst_6112/web/EN/DM475V_Manual/Content/Topics/DM360_370_470_475_Manual/differences-grading-standards-15415-29158.htm
- ISO/IEC TR 29158の解説(キーエンス): https://www.keyence.com/ss/products/auto_id/codereader/code_verification/tr-29158.jsp
RFIDの周波数・出力・免許(日本/タイ/ベトナム)
- 950MHz帯の使用期限および920MHz帯への移行(総務省): https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000329.html
- 920MHz帯RFID 無線局申請ガイドライン(日本自動認識システム協会): https://www.jaisa.or.jp/pdfs/191227/001.pdf
- Thailand NBTC updates 920–925MHz usage, RFID / non-RFID(360 Compliance): https://360compliance.co/global-market-access/thailand-nbtc-updates-920-925mhz-usage-rfid-non-rfid/
- Guidelines for RFID usage in Thailand(Activio): https://www2.activio.asia/2025/06/20/guidelines-for-rfid-usage-in-thailand/
- Vietnam MIC Circular 18/2018/TT-BTTTT(CSA Group): https://www.csagroup.org/global-certification-regulatory-update/vietnam-mic-circular-18-2018-tt-btttt/
タイの投資環境(BOI)
- バンコク週報: https://bangkokshuho.com/thainews-731/
- バンコク週報: https://bangkokshuho.com/thainews-1215/
- MarkLines: https://www.marklines.com/ja/news/338411
各規格・法令の内容は改訂されます。本記事の記載は上記出典を参照した執筆時点の整理であり、実際の機器選定・申請にあたっては最新の告示および対象機器のType Approval取得状況をご確認ください。