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2026.10.11

LoRaWAN 工場導入|タイのAS923・電波規則とゲートウェイ選定・RFP

LoRaWAN 工場導入|タイのAS923・電波規則とゲートウェイ選定・RFP

はじめに:配線できない計測点を、紙の巡回から電池式の無線へ

この記事は、タイの工場でLoRaWANの工場導入を検討している、食品、化学、自動車部品、電子部品工場の工場長、設備保全、ユーティリティ担当、生産技術、情報システムの方に向けて書いています。構内は広く、ボイラー室、排水処理、タンクヤード、倉庫、屋外の配管ラックにセンサーを置きたい。けれども、そこまでケーブルを引く工事費と、工事のための停止が重い。Wi-Fiは事務所と一部のラインにしか届いていない。結局、毎日の巡回で計器を見て、紙に書き、事務所でExcelに転記している。そんな工場は珍しくありません。

日本の本社から「LPWAなら安く後付けできるらしい」と聞いたものの、タイで使える周波数や機器の条件、どこまでを業者に任せてよいのかが分からない。この記事は、そうした段階の方のための整理です。

先に結論を書きます。LoRaWANは「遠くへ、少ないデータを、ゆっくり」送るためのセンサー網です。工場では「配線できない点を、電池で、数分から数時間ごとに測る」用途に絞ると強みが出ます。 逆に、設備の制御、安全インターロック、振動波形のような高頻度のデータには向きません。導入で先に決めるのは、次の4つです。

  1. どの計測点を載せるか。周期、データ量、遅延の許容で仕分ける
  2. タイの規則に合う機器か。周波数プランAS923-1、タイの型式認証、LoRaWAN Certifiedを確かめる
  3. ゲートウェイの配置を現地サーベイで決め、ネットワークサーバーとデータの行き先を自社で持つかを決める
  4. 電池寿命を「条件付きの値」として扱い、電池交換の計画を予算に入れる

受入は、通信のKPI(受信率、RSSIとSNR、受信したゲートウェイの数)と、データが欠けたときの振る舞いで判定します。センサーの種類と測定周期の考え方そのものは、工場のIoTセンサー種類の記事で扱っています。

本記事は特定製品の推奨やランキングではありません。製品の機能はメーカーの資料として紹介し、価格は扱いません。後半の費用対効果は、この記事のための仮の数字で組んだ試算です。

なぜ今、タイの工場で後付けセンサー網を考えるのか

まず、タイの製造業と、LoRaWANを取り巻く足元の数字を確認します。数字は発表元と対象範囲をそのまま書き、互いに足し合わせたり比べたりはしません。

  • タイ投資委員会(BOI)の2026年10月7日の発表によると、2021年から2026年半ばまでに、日本企業から1,380件、117.2億ドル超(約3,965億バーツ)の投資申請がありました。これは日本企業の申請ベースの累計で、認可額や実際の投資額ではありません。同じ発表によると、タイ・日本投資フォーラム2026(バンコク、700人超が参加)にあわせて、BOIのナリット事務局長が、既存工場が自動化、排出削減、クリーンエネルギーの利用拡大によって「Smart & Sustainable Industry」の基準へ高度化することを支援していると述べています。JETROバンコク事務所の阿部一郎所長は、デジタル化と自動化の変革の中で国境を越えた資本の流れを保つには、予見可能な事業環境、公正な競争、生産性の継続的な向上が必要だと述べました。
  • BOIの2026年8月27日の発表によると、2026年上期だけで、BOIはスマートで持続可能な製造の案件を132件、5億1,680万ドル(170億バーツ)承認しました。設備の近代化、クリーンエネルギーの採用、高度な自動化の統合が目的とされています。こちらは2026年上期の承認ベースの数字です。
  • Reuters配信の記事を掲載したThe Star(2026年9月30日)によると、タイ工業省が発表した2026年8月の製造業生産指数(MPI)は前年同月比4.44%上昇し、Reutersの予想(1.0%上昇)を上回りました。工業経済局長は、電子機器の生産増、政府の景気刺激策、バーツ安を要因に挙げています。なお、MPIの算定方法は新しい電子製品の追加とウェイトの変更で改定されており、過去の値との単純な比較には注意が要ります。
  • LoRa Allianceの2025年末報告(2026年2月公表)によると、世界のLoRaWANの導入端末数は1億2,500万台に達し、年平均成長率は25%でした。認証済みデバイスは625を超え、導入の最大の業種は引き続きユーティリティ(スマート水道が牽引)で、スマートビルと施設管理ではLoRaWANが首位の無線技術になったとしています。これは業界団体自身の発表値です。
  • IoT Analyticsの2024年3月21日の発表によると、2023年末の世界のLPWANのIoT接続数は約13億でした。これはLoRaWAN単独ではなく、LPWAN全体の接続数です。中国のデータを外して数えると、LoRaが世界のLPWAN接続の41%を占めて首位になるとしています。

工場の現場から見ると、こうした動きは「既存の工場を、止めずに、少しずつデジタル化していく」要求として表れます。新しいラインは最初から配線とネットワークを設計できますが、既存の工場のユーティリティや屋外設備は、後から計測点を足すしかありません。配線工事を最小にして計測点を増やせる無線のセンサー網は、その選択肢の一つです。

LoRaWANとは:LoRa変調とLoRaWANの役割分担、星型の構成

LoRaWANを理解するには、「LoRa」と「LoRaWAN」を分けて考えると分かりやすくなります。LoRaは、遠くまで届く代わりに速度が遅い無線の変調方式です。LoRaWANは、その上で動く通信の取り決め(プロトコル)で、端末の参加手続き、暗号化、データレートの管理、ネットワークの構成を定めています。

LoRa Allianceが公開するLoRaWANのリンク層仕様(TS001-1.0.4、リソースハブ掲載日は2023年9月28日、認証に必須の仕様)は、冒頭でLoRaWANを「電池で動く端末に最適化したネットワークプロトコル」と説明しています。端末は移動するものでも、固定設置のものでも構いません。国際的にも、LoRaWANはITU-Tの勧告Y.4480「広域無線ネットワークのための低消費電力プロトコル」として承認されています(LoRa Allianceの2021年12月7日の発表)。

LoRaWAN 工場導入|タイのAS923・電波規則とゲートウェイ選定・RFP - figure 1

ネットワークの形は「スター・オブ・スターズ」と呼ばれる星型です。仕様によると、ゲートウェイが端末とネットワークサーバーの間の通信を中継し、ゲートウェイとネットワークサーバーの間は通常のIP接続でつながります。端末は、1台または複数のゲートウェイへ1ホップの無線で送ります。ここがメッシュ型の無線と違う点で、基本の構成では端末どうしが中継し合うことはありません(後の章で触れるリレー仕様は、電波が届かない場所のための追加の仕組みです)。工場の構成に置き換えると、次のような流れになります。

層役割工場での例
端末(センサー)測った値を無線で送る。多くは電池駆動蒸気トラップ、温湿度、流量、圧力、タンク液位のセンサー
ゲートウェイ無線を受けてIPネットワークへ渡す。複数台が同じ電波を受けることもあるボイラー室、倉庫の天井、屋外のポール
ネットワークサーバー重複の整理、端末の認証、データレートの管理、下り通信の予定構内のサーバー、またはクラウド
アプリケーションデータを使う側監視画面、MES、ヒストリアン、保全システム

端末には3つのクラスがあります。仕様は、すべての端末に少なくともクラスAの実装を求めています。

クラス動き方工場での向き不向き
クラスA端末が送信した直後に、短い受信窓を2つ開く。それ以外の時間にサーバーから送りたいデータは、次の端末の送信まで待つ最も消費電力が小さい。電池式のセンサーの基本
クラスBゲートウェイのビーコンで時刻を合わせ、予定した時刻に受信窓(ping slot)を開く下り通信の反応時間をある程度そろえたい場合
クラスC送信中と2つの受信窓の時間を別にすれば、常に受信している十分な電源がある機器向け。電池式には向かない

仕様はまた、クラスBに対応した端末がクラスBとクラスCを同時に有効にしてはならないとしています。工場のセンサー網では、ほとんどの計測点がクラスAで足ります。

もう一つの重要な考え方が、拡散率(SF)です。SFを上げると遠くまで届き、受信感度も上がりますが、同じ量のデータを送るのにかかる時間が長くなります。The Things Network(TTN)の解説によると、LoRa変調にはSF7からSF12までの6段階があり、SFが高いほど無線の動作時間が長くなって電池寿命は短くなります。受信感度の例はSF7で−123 dBm、SF12で−137 dBmです。Semtechの解説では、SFを1段上げるごとに感度は約2.5 dB良くなる代わりに、シンボルの周期が倍になります。リンク層仕様も、データレートの選択は「通信距離と送信時間のトレードオフ」だと書いています。

このSFとデータレートを端末ごとに自動で調整する仕組みが、ADR(適応データレート)です。仕様は、端末の電池寿命とネットワーク全体の容量の両方を最大にするために、ネットワーク側が端末ごとにデータレートと送信電力を管理できるとしています。

工場で向く用途・向かない用途

LoRaWANの工場導入で最初にやるべきことは、計測点の仕分けです。どの点を無線に載せ、どの点を有線のまま残すかを、周期、データ量、遅延の許容で分けます。

向かない用途ははっきりしています。2017年にIEEE Communications Magazineに採録された論文「Understanding the Limits of LoRaWAN」は、工業の制御ループは1 msから100 ms程度の応答時間を求めることがあるのに対し、10バイトの小さなパケットでもSF7での送信時間は約40 msかかるため、LoRaWANは工業オートメーションの候補にはなり得ないと指摘しています。アクセス方式がALOHAで、送信が衝突し得るため、決定的な動作も保証できません。この論文の解析は、主に欧州の868 MHz帯と、そこでのデューティ比の制約を前提にしたものですが、制御用途に向かないという結論は、工場で用途を仕分けるときの目安になります。

一方で同じ論文は、小規模なネットワークであれば、SFを最小にするなどの条件付きで、毎秒のサンプリングのような用途にも応えられる場合があるとしています。また、イタリアの大学の研究(Sensors誌2022年採録論文のプレプリント)は、重大事故リスクのある工場でのガス検知ウェアラブルを対象に、LoRaWANの遅延と信頼性の限界を評価し、下り制御パケットで端末の送信を協調させる方式を提案して、工場に近い環境で実験しています。ただし、これは素のLoRaWANでは足りず、独自の協調制御を足した研究です。安全用途にそのまま使えるという意味ではありません。

これらを踏まえた仕分けの目安を表にします。周期や遅延の欄は、計測点を仕分けるための考え方の例です。

計測点の例周期の目安データ量遅延の許容LoRaWANとの相性
蒸気トラップの状態数十分〜1時間ごと状態と温度程度数十分は待てる向く
タンク液位数分〜数十分ごと液位1値数分は待てる向く
倉庫、原料庫の温湿度数分〜数十分ごと2値数分は待てる向く
流量、圧力(積算や傾向を見る)数分ごと数値数個数分は待てる向く
電流センサーでの稼働有無数分ごと、または状態変化時状態と電流値数分は待てる向く
屋外配管、排水処理の計器数分〜1時間ごと数値数個数分は待てる向く
振動の波形、音の波形連続大きいほぼ待てない向かない
設備の制御、インターロックミリ秒単位小さい待てない使わない
安全に関わる停止信号ミリ秒単位小さい待てない使わない

用途の例として、横河電機のスチームトラップ監視XS822(Sushi Sensor)があります。メーカーの資料によると、温度と音響のセンサーでトラップの状態を「Good」「Cold」「Blow through」の3つに判定し、プラント内で最大1 kmまでの広い範囲の設備を監視できるとしています。電池寿命は、更新周期1時間、周囲温度23±2℃の条件で10年とされています。本質安全防爆(Ex ib IIC T4 Gb)にも対応し、クラウドとオンプレミスのどちらの構成も選べるとしています。数字はいずれも、示された条件付きの値です。

用途ごとのセンサーの選び方と受入は、それぞれ次の記事で詳しく扱っています。

周期とデータ量の考え方は、センサー種類の記事の「精度でなく周期で選ぶ」という整理がそのまま使えます。

LPWAの工場センサー網としての位置づけ:他の無線方式との違い

工場の無線は、LoRaWANだけではありません。無線LAN、プライベート5G、Thread、DECT NR+、IO-Link Wireless など、それぞれ得意な領域が違います。ここでは考え方だけを比べます。距離や電池寿命、遅延の具体的な数値は、方式ごとに前提条件が大きく違うため、この記事では並べません。

方式考え方の要点工場での主な用途の例詳しくは
LoRaWAN星型。端末は1ホップでゲートウェイへ送る。電池で動く端末を前提に、小さなデータを間隔を空けて送る。タイでは920〜925 MHzの規則に従う構内に散らばったユーティリティ、屋外設備の監視この記事
無線LANアクセスポイントを中心に、比較的大きなデータを扱う。端末には電源があることが多いライン、事務所、ハンディ端末無線LANの記事
プライベート5G基地局を中心にした自営のセルラー網。周波数の免許制度に従う移動体、大容量のデータプライベート5Gの記事
ThreadIPv6ベースのオープンなプロトコル。省電力のIEEE 802.15.4が土台建物の設備機器の接続と制御Thread Sub-GHzの記事
DECT NR+ETSIの規格(DECT-2020 NR)。1.9 GHzなどの国際的な無免許の帯域を使うとされる多数の端末の接続から低遅延の用途までDECT NR+の記事
IO-Link Wireless機械の中のセンサーとアクチュエーターを無線でつなぐ回転部、可動部IO-Link Wirelessの記事

各方式の要点として、Thread Groupは、ThreadをIPv6ベースのオープンなプロトコルで、省電力のIEEE 802.15.4のMAC/PHYに基づき、家庭や建物の機器をつないで制御するものと説明しています。DECT NR+(ETSI DECT-2020 NR)は、IEEE ComSocのTechblog(2021年10月)によると、ITU-R WP 5Dの会合で、ITU-R M.2150の次の改訂に含まれることになりました。推進側は「世界初のセルラーではない5G技術の標準」と表現しています。

LoRaWANの特徴は、仕様で見た通り、端末が1ホップでゲートウェイへ届けるスター・オブ・スターズの構成にあります。端末どうしの中継が無いので、端末は自分の送信の時だけ起きればよく、電池駆動に向きます。その代わり、ゲートウェイに届かない端末はつながりません。ここがゲートウェイの配置と現地サーベイが重要になる理由です。

他の方式の詳しい選び方は、次の記事をご覧ください。

実際の工場では、一つの方式で全部をまかなう必要はありません。ラインと事務所は無線LAN、構内に散らばったユーティリティはLoRaWAN、機械の中は有線やIO-Link、という組み合わせが自然です。

LoRaWAN タイ AS923:使う周波数と電波規則

タイでLoRaWANを使うときに、最初に確かめるのが周波数と規則です。ここは条件付きで正確に理解しておく必要があります。

周波数プランはAS923-1

LoRa Allianceの地域パラメータ仕様(RP002-1.0.4、リソースハブ掲載日は2023年9月17日)の国別対応表では、タイは920〜925 MHzがAS923-1、433.05〜434.79 MHzがEU433に対応付けられています。920〜925 MHzの欄には「X」の印があります。この「X」は、LoRaWANの認証を受け、タイの型式認証も取得した端末が存在することを示す印です。多数あるという意味ではありません。なお、この表は各国の無免許帯域と推奨チャネルプランをまとめた早見表で、タイでの許可の要否を示すものではありません。

AS923にはいくつかのグループがあります。仕様によると、AS923-1は周波数のずらし幅(オフセット)が0 MHzのグループで、923.0〜923.5 MHzの共通チャネルを持つ、いわば「元祖」のAS923の国々を指します。一方で、たとえばインドネシアは同じ表で920〜923 MHzのAS923-2とされています。ASEANの複数国で同じ機器を使う計画があるなら、国ごとに別のグループになり得ることに注意してください。

AS923の端末がすべて持つ既定のチャネルは923.2 MHzと923.4 MHzで、いずれもタイの920〜925 MHzの範囲に入ります。データレートはSFと帯域幅で決まり、仕様の表では次のように定められています。

データレート変調ビットレート
DR0SF12、125 kHz250 bit/s
DR1SF11、125 kHz440 bit/s
DR2SF10、125 kHz980 bit/s
DR3SF9、125 kHz1,760 bit/s
DR4SF8、125 kHz3,125 bit/s
DR5SF7、125 kHz5,470 bit/s
DR6SF7、250 kHz11,000 bit/s
DR7FSK50 kbps

1回に送れるアプリケーションのデータも限られます。仕様の表(中継器対応、滞留時間の制限なしの場合)では、DR0〜DR1で51バイト、DR2〜DR3で115バイト、DR4〜DR7で222バイトです。400 msの滞留時間の制限を有効にした場合、DR0〜DR1は使えず、DR2では11バイトになります。工場のセンサーは数値を数個送るだけのことが多いので、通常は十分ですが、データ量の多い計測点を載せたいときは、この上限を先に確かめておきます。

NBTCの920〜925 MHz規則

タイの国家放送通信委員会(NBTC)は、2017年11月24日の官報で、920〜925 MHzの周波数の使用を認める基準を告示しました(2017年11月17日署名)。タイ電気通信協会が掲載する官報の写しによると、要点は次の通りです。

  • 920〜925 MHzは、非音声の通信だけに使える
  • RFID以外の無線機は、e.i.r.p.(等価等方放射電力)4 W以下であること
  • e.i.r.p.50 mW以下の機器は、製造、所持、使用、輸入、輸出の許可と、無線局の開設許可が免除される。ただし、販売の許可は免除されない
  • e.i.r.p.500 mW以下の機器は、所持、使用、輸出の許可と、無線局の開設許可が免除される。ただし、製造、輸入、販売の許可は免除されない
  • NBTCの技術基準に適合し、機器の検査と認証(型式認証)を受けること
  • 混信からの保護は受けられない。他の許可済みの周波数に重大な混信を与えた場合は、直ちに使用を止めなければならない

つまり、「タイではLoRaWANに許可が一切要らない」とは言えません。50 mW以下の機器でも販売には許可が要り、500 mWを超えて4 W以下の機器は、上の免除の対象には入りません。ゲートウェイのように送信電力が大きくなり得る機器は、どの区分で使うのかを、機器の設定値と合わせて確かめます。工場の側から見ると、型式認証を取った機器を、許可を持つ販売店から買うことが基本になります。また、混信の保護が無いので、同じ帯域の他の機器から妨害を受けても、法的な救済を前提にはできません。重要な計測点ほど、欠測を検知する仕組みが必要です。

技術基準1033–2560の要点

同じ日の官報に、RFID以外の920〜925 MHzのデータ通信用無線機の技術基準(กสทช. มท. 1033–2560)も載っています。要点は次の通りです。

  • e.i.r.p.は4 Wを超えないこと
  • 周波数の使い方(Spectrum access)は、デューティ比の制限か、周波数ホッピング(FHSS)の条件の、いずれかを満たすこと
  • LBT(送信前に空きを確かめる方式)の規定は、この基準には無い
  • 不要発射は、ETSI EN 300 220-1の該当条項か、米国FCCの§15.209のいずれかに適合すること

デューティ比の具体的な値は、この基準の表で確かめてください。インターネット上のLoRaWANの解説には、欧州の規則のデューティ比の値が多く載っていますが、それはタイの規則ではありません。TTNの解説も、デューティ比の制限は端末だけでなくゲートウェイにも適用されると書いたうえで、送信時間を計算して送信間隔を決めるよう勧めています。

型式認証については、2017年12月4日に出た第三者の規制アップデート(Kiwa/Product Compliance Specialists)が、920〜925 MHzで動くRFID以外の無線機はすべてNBTCの型式認証が必須になると要約しています。これは2017年の制定時点の第三者による要約で、現行の認証区分はNBTCの一次資料では確認できていません。

日本向けの設定をそのまま持ち込まない

RP002は、AS923の端末の既定のEIRPを16 dBmとしています。これは仕様上の既定値(推奨)で、タイの法定上限(e.i.r.p. 4 W)とは別物です。また、RP002が日本で運用するAS923の端末にARIB STD-T108に基づくLBTの実施を求めているように、日本向けの機器は日本の規則に合わせた設定になっています。日本で使っている機器や設定を、そのままタイへ持ち込むのは避けてください。タイの型式認証を取ったタイ向けの機種か、販売店に確かめます。

法令は調達時に確かめる

この記事で紹介した告示と技術基準は2017年のものです。その後の改訂の有無は、この記事では確認できていません。調達の際には、販売店と認証機関に、現行の規則と、機器の型式認証の状況、送信電力の区分を必ず確かめてください。

端末(センサー)の選び方:LoRaWAN Certified・AS923-1・OTAA・電池

端末の選定では、次の4点を確かめます。

1. LoRaWAN Certifiedか

LoRa Allianceの認証ページによると、認証には、第三者の認定試験所を使う方法と、自社で試験するSelf Testの2つの経路があります。同ページは、LoRa Allianceが認証するのはLoRaWANの標準に適合する端末だとしています。ゲートウェイやネットワークサーバーの認証についての記述は、このページにはありません。2025年末報告では、認証済みデバイスは625を超えています。

2. タイ向けのAS923-1で、タイの型式認証を取っているか

LoRaWAN Certifiedと、NBTCの型式認証は別のものです。前者はプロトコルへの適合、後者はタイの電波規則への適合です。RFPでは、この2つを別の項目として証跡を求めることをおすすめします(これは規格の要求ではなく、この記事からの提案です)。

3. OTAAに対応しているか

仕様は、端末にOTAA(無線による参加手続き)とABP(事前に鍵を書き込む方式)のどちらか、または両方の実装を求めています。後の章で見るように、セキュリティの面ではOTAAが勧められています。

4. 電池と、電池寿命の条件

電池式の端末では、電池の種類と容量、電池寿命の値がどの条件で示されているかを確かめます。たとえば、Milesightの温湿度センサーEM300-THは、販売店が掲載する旧版のメーカー資料によると、4,000 mAhの塩化チオニルリチウム電池(ER18505)を使い、電池寿命は「10分間隔、SF10」の条件で5年超とされています。この値には「実験室条件で試験した目安」という注記が付いています。保護等級はIP67、動作温度は−30〜+70℃とされています。

条件の書き方は製品ごとに違います。前の章で紹介した横河電機XS822は「更新周期1時間、周囲温度23±2℃」で10年としています。測るものも送信間隔も違うので、この2つの値を並べて優劣を比べることはできません。自社の計測点の周期と設置環境に近い条件で、値を読み直す必要があります。

ほかに、保護等級、動作温度、防爆の要否(可燃性ガスや粉じんのある区域かどうか)、取付け方法(配管へのバンド固定、磁石、ねじ)、電池を現場で交換できるか、も確かめます。

LoRaWAN 電池寿命の見積もり方

電池寿命は、LoRaWANの工場導入の費用を左右します。ところが、メーカーが示す電池寿命は、どれも特定の条件での値です。自社の条件に置き換えるときは、次の要素で変わると考えます。

要素電池寿命への影響確かめ方
SF(データレート)SFが高いほど送信時間が長く、電池寿命は短いゲートウェイからの距離と障害物。サーベイで実際のSFを見る
送信間隔間隔が短いほど送信回数が増え、電池寿命は短い計測点ごとに必要な周期を決める
温度メーカーの値は特定の温度条件(例:23±2℃)で示されることがある高温のボイラー室、屋外の直射日光など設置場所の温度
試験条件実験室条件の値は目安データシートの注記を読む
データ量1回に送るデータが多いほど送信時間が長い送る項目を絞る

SFの影響は、TTNの解説がはっきり書いています。SFが高いと同じ量のデータでも送信時間が長くなり、無線の動作時間が長くなって電池寿命は短くなります。Semtechの解説では、SFを1段上げるごとにシンボルの周期は倍になります。つまり、ゲートウェイから遠い、または障害物の多い場所にある端末ほど、高いSFで送ることになり、電池の減りが早くなります。同じ機種でも、置き場所によって電池寿命が大きく変わり得るということです。

送信間隔を決めるときは、TTNの解説が勧めるように、送信時間の計算機を使って1回の送信が消費する時間を求め、それをもとに適切な送信間隔を選びます。

ADRは、電池寿命を延ばす手段になります。TTNの解説は、無線の状態が十分に安定している端末ではADRを有効にすべきで、固定設置の端末では一般に有効にできるとしています。The Things Stackは、直近20回のアップリンクのうち最良のゲートウェイのSNRから、必要なSNRとの差(マージン)を計算し、それをもとにデータレートを上げます。解説の例では、SF12で受けたSNRが5.0 dBならマージンは25 dBあり、SF7に上げても12.5 dBが残るとしています。工場のセンサーは固定設置なので、ADRを使える場面が多いはずです。

新しい動きとして、LoRa Allianceは2025年11月4日に地域パラメータの新版RP2-1.0.5を発表し、新しいデータレートとしてSF5(15.6 kbps)とSF6(9.4 kbps)を加えました。発表によると、SF5では従来より3倍、SF6では1.5倍速く送れ、データレートが上がるとネットワークの容量も増え、同じ数のゲートウェイでより多くの端末を動かせるとしています。ただし、AS923でのデータレートの割当てや、対応するハードウェアは確認できていません。既存のAS923の端末やゲートウェイがSF5/SF6を使えるとは限らないので、電池寿命の見積もりは現行のSF7〜SF12の前提で行います。

電池寿命の見積もりは、最終的には「何年で、何個の電池を、誰が交換するか」という計画に落とします。点数が多い工場では、毎年どこかで電池交換が発生します。後の試算では、電池寿命が想定の半分だった場合の感度も示します。

LoRaWAN ゲートウェイ 選定

ゲートウェイの選定では、設置場所(屋内か屋外か)、保護等級と動作温度、バックホール(上位ネットワークへのつなぎ方)、パケットフォワーダの方式、チャネル数、組込みのネットワークサーバーの有無を見ます。製品の例を、メーカーの資料に沿って紹介します。

製品(メーカーの資料による)設置保護等級、温度バックホール主な特徴
Milesight UG65(北米版データシート)屋内(軒下など屋外の一部にも)IP65、−40〜+70℃Ethernet、Wi-Fi、4G8チャネル、SX1302。組込みのネットワークサーバー。ノイズ解析。BACnet/IPとModbusでBMS、PLCへ連携
RAKwireless RAK7289V2/RAK7289CV2屋外IP67、−30〜+55℃Ethernet(PoE)、Wi-Fi、LTE Cat-4(CV2)SX1303、8チャネル(16チャネルはオプション)。AS923-1/2/3/4。組込みNS(LoRaWAN 1.0.3)。LBTはオプション
Kerlink Wirnet iStation 923 MHz(販売店の製品ページ)屋外IP674G、EthernetSecureBoot、SecureStorage、OpenVPN/IPsec。GPS、4G、LoRaのアンテナ内蔵

いくつか補足します。Milesight UG65は、メーカーの資料によると、見通しで最大15 km、市街地で約2 kmをカバーし、10分間隔のアップリンクでクラスA/B/Cの端末を約2,000台サポートするとしています。これは特定の条件付きのベンダー主張で、どの工場でも1台のゲートウェイで同じ数を収容できるという意味ではありません。消費電力は通常2.9 W、最大4.2 Wとされています。なお、取得できたのは北米版のデータシートで、認証欄も北米のものです。タイ向けの仕様とNBTCの認証は、販売店に確かめる必要があります。

RAKwirelessのRAK7289V2は、メーカーの資料によると、受信感度はSF12で−141 dBm、パケットフォワーダとBasics Stationの両方の構成に対応します。SemtechのSX1303は、メーカーの資料によると、ゲートウェイ用の新世代のベースバンドプロセッサで、SX1302とサイズとピンの互換があり、到着時間差(TDOA)による位置推定に使える細かいタイムスタンプの機能を持ちます。

パケットフォワーダとBasics Stationは、ゲートウェイがネットワークサーバーとやり取りする方式です。どちらを使うかは、ネットワークサーバー側が何に対応しているかで決まります。後の章で紹介するChirpStackは、両方に対応するとしています。

単一チャネルのゲートウェイは、RP002-1.0.4の改訂で明示的に認められました。ただし、仕様上認められたことと、多チャネルのゲートウェイと同じだけの端末を収容できることは別の話です。工場の常設の網に使う場合は、収容と冗長の観点から慎重に判断します。

電波が届かない場所への対策としては、ゲートウェイを足すほかに、リレー仕様(TS011-1.0.0、2022年10月発表)があります。eeNews Europeの記事によると、この仕様は、電池で動く中継ノードを介して端末とゲートウェイ、ネットワークサーバーの間でLoRaWANのフレームを双方向に運ぶ仕組みで、地下や建物の奥、金属の盤の中のメーターなどが用途に挙げられています。RP002-1.0.4は、AS923のリレー用の既定チャネルとして923.6 MHz、応答用に923.8 MHzを定めています。使う場合は、端末、ゲートウェイ、ネットワークサーバーがリレーに対応しているかをRFPで確かめます。

ゲートウェイは、1台が止まると、その周辺の計測点がすべて欠測する可能性があります。重要な計測点は、2台以上のゲートウェイで受信できる配置にしておくと、1台の故障に耐えられます。LoRaWANでは、複数のゲートウェイが同じ端末の電波を受け、ネットワークサーバーが重複を整理するので、この冗長の取り方が自然にできます。

LoRaWAN ネットワークサーバーとデータの行き先

ゲートウェイの先には、ネットワークサーバー(NS)が要ります。NSをどこに置き、誰が管理するかで、運用とデータの持ち方が大きく変わります。選択肢は大きく3つです。

方式内容向く場面確かめること
自営(構内)構内のサーバーやゲートウェイ組込みのNSで運用するデータを構内に置きたい。上位システムと構内で連携したいサーバーの保守、バックアップ、更新を誰が担うか
クラウド(ホスティング)NSの提供事業者のクラウドを使うサーバーの運用を持ちたくないデータの保存場所、契約の条件、インターネット断の影響
公衆網通信事業者のLoRaWAN網を使う構内の外にも計測点が広がるタイでの提供状況、エリア、契約条件

自営で使われるソフトウェアの例として、ChirpStackがあります。メーカーの資料によると、ChirpStackはオープンソースのLoRaWANネットワークサーバーで、複数の地域設定を同時に扱えます。ゲートウェイとの接続には、SemtechのUDPパケットフォワーダとBasics StationのWebSocketの両方に対応し、FUOTA(無線によるファームウェア更新)の仕様(v1、v2の両方)にも組込みで対応しています。MQTTでの転送の機能も持ちます。ライセンスはMITで、商用のサポートは作者に問い合わせる形です。

もう一つの例が、The Things Industriesが開発するThe Things Stackです。公開されているREADMEによると、大規模な公衆網にも小規模なプライベート網にも使えるオープンソースのLoRaWANネットワークサーバーで、ライセンスはApache-2.0です。ホスティングと商用サポートはThe Things Industriesが提供するとしています。なお、無償で使える共用の環境(The Things Stack Sandbox)には、1端末あたり1日30秒のアップリンク送信時間と、1日10回のダウンリンクという公正利用の制限があります。TTNの解説によると、プライベート網を使う場合はこの制限は適用されません。無償の共用網で試したときの振る舞いを、そのまま本番の設計に当てはめないよう注意してください。

ゲートウェイに組込みのNSを使う方法もあります。前の章のMilesight UG65やRAK7289V2は、メーカーの資料で組込みのNSを持つとしています。小規模な試験には手軽ですが、ゲートウェイが複数台になったとき、どのゲートウェイのNSに全体を集約するのか、ゲートウェイが壊れたときにNSの設定とデータをどう戻すのかを決めておく必要があります。

公衆網については、タイでは2018年7月に、CAT TelecomがActilityのThingParkで全国のLoRaWAN網の展開を始めたと発表されています(当初はプーケット、次にバンコク)。その後、2020年11月の報道では、TOTとCAT Telecomの統合が2021年1月までに完了し、統合後はNational Telecom(NT)になる予定と報じられました。現在の提供状況は、この記事では確認できていません。 公衆網を検討する場合は、事業者に直接、エリアと契約条件を確かめてください。

NSから先は、データをどこへ送るかの設計です。工場では、監視画面だけでなく、MES、ヒストリアン、保全システムへ送ることが多くなります。NSからMQTTやAPIで上位へ渡す設計は、次の記事が参考になります。

この記事では、データの持ち主が自社であることを明確にするため、NSとデータの行き先を自社で持つ構成(自営)を試算の前提にしています。どの方式でも、NSの管理者権限を誰が持つか、端末の鍵を誰が持つかは、契約前に決めておきます。

セキュリティ:鍵、OTAA、フレームカウンタ、1.0.xと1.1

LoRa AllianceのセキュリティFAQ(第2版、2020年2月、仕様1.0.3に準拠)によると、LoRaWANは、相互の認証、データの出所の認証、完全性、再送攻撃への保護に対応しており、これらはすべて128ビットの鍵を使うAESに基づいています。工場で押さえるべき点は次の通りです。

OTAAを基本にする

OTAAの端末は、端末ごとのAES-128のルート鍵(AppKey)を持ち、参加のたびにセッション鍵を作ります。ABPの端末は、仕様によると、生涯にわたって同じセッション鍵を使い、鍵の更新ができません。仕様は、より高いセキュリティが要る用途ではOTAAの端末を使うよう勧めており、セキュリティFAQも、高いセキュリティが必要な端末ではABPよりOTAAを優先すべきだとしています。

ABPを使うならフレームカウンタに注意

ABPの端末は、仕様上、フレームカウンタを製造時に0から始め、端末の生涯を通じてリセットしてはなりません。電池交換などで電源が切れても、カウンタは保持されなければならず、不揮発メモリなどに保存することが求められています。フレームカウンタは32ビットです。電池交換のたびにカウンタが0に戻ってしまう端末は、仕様の要求を満たさないだけでなく、ネットワークサーバーにデータを受け付けてもらえず、欠測の原因になるおそれがあります。ABPの端末を使うなら、電源断の試験を受入に入れます。

鍵は端末ごとに固有

セキュリティFAQは、LoRaWANには「既定の鍵」や「既定のパスワード」という概念は無く、すべての端末が固有の鍵を持つ必要があるとしています。端末の識別子(DevEUI)は64ビットで、割当てにはIEEEの登録機関から取得した組織識別子(OUI)が必要です。納入業者から鍵の一覧をどう受け取り、どこに保管するかを決めておきます。

バックエンドの通信

アプリケーションのデータは、端末からアプリケーションサーバーまでエンドツーエンドで暗号化されます。一方、ネットワークサーバーとアプリケーションサーバーの間などのバックエンドは区間ごとの保護で、セキュリティFAQはHTTPSやVPNの技術を勧めています。ゲートウェイ側では、メーカーの資料でVPN(IPsec、OpenVPN、WireGuardなど)やSecureBootに対応するとしている製品があります。

1.0.xと1.1の違い

2021年の文献レビュー(de Moraes、da Conceição、arXiv 2105.00384)によると、仕様1.1では、端末にAppKeyとNwkKeyの2つのルート鍵が記録され、端末の認証を担う新しい要素としてJoin Serverが導入されました。同じレビューは、31本の研究をもとに、参加要求のメッセージが暗号化されないこと、フレームカウンタの管理が仕様で詳しく定められていないこと、鍵の供給、保管、使用が定められていないことなどを、脆弱性の領域として整理しています。これは2021年時点のレビューです。セキュリティFAQも、脅威は仕様、実装、展開のいずれからも生じ得るとし、実装の問題は各メーカーが対応すべきだとしています。どの版の仕様に対応した機器かを、端末、ゲートウェイ、NSでそろえて確かめます。

LoRaWANの網も、工場のOTネットワークの一部です。ゲートウェイやサーバーの調達要件は、次の記事の考え方が使えます。

現地サーベイとゲートウェイ配置

ゲートウェイの台数と配置は、図面だけでは決められません。工場には、金属の構造物、タンク、配管ラック、コンクリートの壁、移動するフォークリフトや資材があり、電波の届き方が場所によって変わります。だからこそ、現地サーベイで決めることが基本です。

LoRaWAN 工場導入|タイのAS923・電波規則とゲートウェイ選定・RFP - figure 2

サーベイの手順の例

RAKwirelessのフィールドテスターRAK10701-Plusは、メーカーの資料によると、屋内外のLoRaWANのカバレッジの試験、ゲートウェイの配置の評価、ネットワークの最適化のための携帯型の機器です。アップリンクのRSSI、SNR、パケットロスと、受信したゲートウェイの情報を表示し、CSVで出力できます。AS923-1/2/3/4に対応するとしています。

同社の現地試験の手順では、歩きながら測る試験と、定点での試験を使い分けます。定点では、機器を固定して静止したまま、自動で50パケットを送らせ、正確で再現性のある比較をします。その際、歩かない、機器を回さない、アンテナをふさがない、機器とゲートウェイの間に立たない、という注意が書かれています。

同社は、結果の目安として、RSSIが−80 dBmより強く、SNRが0 dBより高く、パケットロスが5%未満なら「Good」といった区分を示しています。ただし、これは同社の目安であり、規格の値ではありません。区分の間に空白がある箇所もあり、そのまま受入の基準にするには不完全です。自社の判定基準は、後の章のように自社で決めます。

RSSIとSNRの読み方

TTNの解説によると、LoRaはノイズの水準より弱い信号でも復調できます。そのため、RSSI(受信電力、0に近いほど強い)だけでなく、SNR(信号とノイズの比)も見ます。SNRがマイナスでも受信できますが、SF12で受信できるSNRの下限は約−20 dBとされています。RSSIに効く要因として、経路での損失、アンテナの利得、ケーブルとコネクタでの損失が挙げられています。ゲートウェイのアンテナを盤の中に置いたり、長いケーブルで引き回したりすると、それだけで不利になります。

Milesight UG65のように、メーカーの資料で周波数のノイズを測ってチャネル選択に使える機能(Noise Analyzer)を持つとしているゲートウェイもあります。工場の中には、同じ帯域を使う他の機器があるかもしれません。混信の保護が無い帯域なので、サーベイの段階でノイズの様子を見ておく価値があります。

時間による変動

電波の届き方は、時間とともに変わります。2025年に公開された研究(arXiv 2510.04346)は、オフィスの1フロアで12か月にわたってLoRaWANの受信を測り、湿度や温度などの環境の変数を入れると受信の変動をよりよく予測でき、必要な余裕(フェードマージン)の見積もりも変わることを示しています。これはオフィスでの研究で、その数値を工場にそのまま当てはめることはできません。ただ、「一度測って良かったから、ずっと良い」とは限らないことは読み取れます。サーベイの結果には余裕を持たせ、試験運用の期間を置いて確かめます。

配置の考え方

一般論として、次の点を意識します。

  • ゲートウェイは高い位置に、アンテナの周りを金属でふさがないように置く
  • タンクヤードや配管ラックの多い場所は、電波の影になる側が出やすいので、複数の方向から受けられるようにする
  • 重要な計測点は、2台以上のゲートウェイで受信できることを確かめる
  • 屋外のゲートウェイは、保護等級、温度、雷、電源とバックホールの経路を確かめる
  • サーベイは、設備が稼働している時間帯にも行う

LoRaWAN RFPに書く要件

LoRaWANの網を外部に依頼するときに、RFP(提案依頼書)に書いておきたい要件を表にまとめます。ゲートウェイの台数と配置は、サーベイの後に確定させる、と書いておくのがポイントです。

項目RFPに書く内容確認の観点
計測点一覧計測点ごとの場所、測る量、周期、遅延の許容、重要度制御や安全の信号が含まれていないか
周波数プランAS923-1(920〜925 MHz)。端末、ゲートウェイ、NSでそろえる他国向けのグループや日本向けの設定が混ざっていないか
端末の認証LoRaWAN Certifiedの証跡と、NBTC型式認証の証跡を別々に提出機種名、型番、地域版が一致しているか
送信電力と規則区分端末とゲートウェイの送信電力の設定値と、規則上の区分50 mW以下、500 mW以下、4 W以下のどこに当たるか。販売の許可を持つ販売店か
ゲートウェイ台数と配置はサーベイ後に確定。屋内外の別、保護等級、電源重要な計測点を2台以上で受けられるか
バックホールEthernet、PoE、セルラーなどの方式と経路工場のネットワークのどこにつなぐか。障害時の扱い
NSの設置場所と権限構内、クラウド、組込みの別。管理者権限の持ち主契約終了時に設定とデータを引き取れるか
鍵管理とOTAAOTAAを基本とする。鍵の受渡しと保管の方法ABPを使う場合のフレームカウンタの保持
FUOTA端末とNSのFUOTAへの対応の有無更新の手順と、失敗したときの戻し方
データ連携MQTT、APIなどでの上位システムへの連携形式、頻度、失敗時の再送
欠測時の扱い欠測の検知、通知、記録の方法何分届かなければ欠測とするか。ゲートウェイ停止の検知
電池交換計画想定する電池寿命と前提条件、交換の手順と担当電池残量や電圧を上位で見られるか
保守ゲートウェイとNSの更新、障害対応、予備品タイでの対応体制、タイ語での資料

FUOTAについては、LoRa Allianceが関連する仕様群(時刻同期のTS003、分割データ転送のTS004、マルチキャストの設定のTS005、ファームウェア管理のTS006、複数パッケージへのアクセスのTS007)を公開しています。端末側の対応は機種によって違うので、RFPで「端末がFUOTAに対応しているか」を確認項目にしておくことをおすすめします(これはこの記事からの提案です)。

異なるメーカーの機器をつなぐときの相互運用の考え方は、TIS 30162と産業用IoTの互換性の記事が参考になります。

RFPには、機能の有無だけでなく、「その機能を受入試験でどう確かめるか」まで書いておくと、次の章のFAT/SATにそのままつなげられます。

LoRaWANのFAT/SATと受入基準

FAT(工場出荷試験、または導入前の模擬環境での試験)とSAT(現地受入試験)では、通信のKPIと、データが欠けたときの振る舞いを確かめます。数値目標は自社で決めるものです。以下では例として目標の置き方を示しますが、業界標準ではありません。

FAT(模擬環境での試験)

  • 地域設定:端末、ゲートウェイ、NSがAS923-1に設定されていることを確かめる。下り通信の既定の受信窓(RX2)が、仕様の既定値(923.2 MHz、DR2)またはNSで決めた値とそろっているかも見る
  • 参加手続き:すべての端末がOTAAでネットワークに参加できることを確かめる
  • ADR:ADRを有効にした端末で、データレートが変わることを確かめる
  • 鍵:端末ごとに固有の鍵であることを、鍵の一覧で確かめる
  • 電源断:ABPの端末を使う場合は、電池を抜いて戻し、フレームカウンタが0に戻らず、NSがデータを受け付け続けることを確かめる
  • 欠測アラーム:端末の送信を止め、決めた時間で欠測の通知が届くことを確かめる。ゲートウェイの電源を切った場合の通知も確かめる
  • 上位連携:NSからMQTTやAPIで上位システムへデータが届くこと、上位が止まったときの扱いを確かめる

SAT(実環境での試験)

  • 実環境で一定期間(例として数週間)運用し、計測点ごとの受信率を確かめる。例として、重要な計測点は受信率の目標を高めに置き、それ以外とは分けて評価する
  • 計測点ごとのRSSIとSNRの分布、受信したゲートウェイの数を記録する。重要な計測点が2台以上で受信されているかを見る
  • ゲートウェイを1台ずつ止め、残りのゲートウェイで重要な計測点が受信できるかを確かめる
  • ADRが落ち着いた後のデータレート(SF)の分布を見る。高いSFに偏る端末は、電池寿命が短くなる可能性があるので配置を見直す
  • 電池電圧の推移を記録し、想定より早く下がる端末が無いかを見る
  • 上位システム(監視画面、MES、ヒストリアン)までデータが届いていること、時刻がそろっていることを確かめる
  • 移行期間中は紙の巡回記録も並行して残し、無線のデータと突き合わせる。食い違いがあれば、原因を調べてから巡回を減らす

欠測は、LoRaWANに限らず、無線のセンサー網で必ず起こり得ます。混信の保護が無い帯域であることも踏まえ、欠測を検知して通知し、欠けた期間を記録に残す設計が要ります。欠測対策の考え方と受入基準の置き方は、工場センサーデータ欠測対策の記事で詳しく扱っています。

費用と効果のモデル試算(仮の数字)

ここからの数字は、すべてこの記事のための仮の数字です。LoRaWANの機器、ネットワークサーバー、クラウドサービスの公式な価格は確認できなかったため、費用も仮置きしています。効果の割合についても一次データは確認できておらず、すべて仮定です。自社で試算するときの枠組みとして使ってください。

想定する工場:タイの日系の食品、化学工場。構内は約8ヘクタール。ユーティリティと設備の計測点は120点(蒸気トラップ40、温湿度40、流量と圧力30、タンク液位10)。現在は1日2回の巡回で、紙に記録しています。

現状の費用(基準額、年間)

費用の箱基準額(年)
巡回点検、手記録、転記の工数540,000 THB(1,800時間×300 THB)
蒸気、圧縮空気、冷却などのユーティリティ異常の発見遅れによる、エネルギーと品質の損失1,200,000 THB
タンクの欠品、設備停止の発見遅れによる損失400,000 THB

構成A:LoRaWANの自営網(ゲートウェイ3台、構内のNS、センサー120点)

ゲートウェイを3台(屋内2台、屋外1台)置き、構内のサーバーでネットワークサーバーを動かし、120点のセンサーをつなぎます。

初期費用の項目計算金額
ゲートウェイ3×60,000180,000 THB
センサー120×12,0001,440,000 THB
サーバー、上位連携—400,000 THB
現地サーベイ、設計、試験—300,000 THB
初期費用合計180,000+1,440,000+400,000+300,0002,320,000 THB

年間運用費は、電池交換80,000 THB、保守40,000 THB、サーバー運用80,000 THBで、合計200,000 THB/年と置きます。

効果(仮定)計算年間効果
巡回工数50%減540,000×50%270,000 THB
ユーティリティ損失30%減1,200,000×30%360,000 THB
停止損失25%減400,000×25%100,000 THB
効果合計270,000+360,000+100,000730,000 THB

純効果は730,000−200,000=530,000 THB/年、回収期間は2,320,000÷530,000≒約4.4年です。

比較B:同じ120点を有線(配線、リモートI/O、PLC)で取る場合

同じ120点を、配線とリモートI/O、PLCで取る場合と比べます。配線工事は120×30,000=3,600,000 THB、制御盤、設計、試験は1,200,000 THBで、初期費用は合計4,800,000 THBと置きます。電池交換が無いので、年間運用費は100,000 THB/年とします。効果は構成Aと同じ730,000 THB/年と仮定します。

純効果は730,000−100,000=630,000 THB/年、回収期間は4,800,000÷630,000≒約7.6年です。

感度:電池寿命が想定の半分だった場合(構成A)

電池寿命が想定の半分で、電池交換費が2倍の160,000 THBになった場合、年間運用費は160,000+40,000+80,000=280,000 THB/年です。純効果は730,000−280,000=450,000 THB/年、回収期間は2,320,000÷450,000≒約5.2年になります。

ケース初期費用年間運用費年間効果年間純効果回収期間
構成A(LoRaWAN自営網)2,320,000 THB200,000 THB730,000 THB530,000 THB約4.4年
比較B(有線)4,800,000 THB100,000 THB730,000 THB630,000 THB約7.6年
感度(構成A、電池寿命が半分)2,320,000 THB280,000 THB730,000 THB450,000 THB約5.2年
LoRaWAN 工場導入|タイのAS923・電波規則とゲートウェイ選定・RFP - figure 3

試算の読み方

  • 年間の純効果は、電池交換の無い有線(比較B、630,000 THB/年)の方が、構成A(530,000 THB/年)より大きくなります。それでも、初期費用の差(2,320,000 THBと4,800,000 THB)が大きいため、回収は無線の方が早く、約4.4年と約7.6年の差になります
  • 構成Aの初期費用2,320,000 THBのうち、1,440,000 THBがセンサーです。この試算では、費用を左右するのはゲートウェイではなく、計測点の数です。計測点の仕分けで、本当に必要な点に絞ることが費用の面でも効きます
  • 電池寿命が想定の半分だった場合、回収期間は約4.4年から約5.2年に延びます。電池寿命は条件付きの値なので、サーベイで実際のSFを見て、送信間隔を見直すことが費用の管理にもなります
  • 点数が少ない場合や、すでに近くにI/Oや制御盤がある点は、有線の方が合理的なこともあります。計測点ごとに、無線と有線を選び分けて構いません
  • この試算には、配線工事のための設備停止の影響を含めていません。停止の影響が大きい工場では、無線の利点はさらに大きくなります。逆に、欠測時の対応や、規則の確認にかかる手間も含めていません

工場IoTの費用の積み上げ方と、既存設備への後付けの考え方は、工場IoT費用の記事と既存設備のIoT化の記事で詳しく扱っています。

よくある質問

LoRaWANとは?

LoRaWANは、LoRaという遠くまで届く変調方式の上で動く、電池駆動の端末に最適化したネットワークのプロトコルです。端末が1ホップでゲートウェイへ送り、ゲートウェイがIP接続でネットワークサーバーへ渡す、星型の構成をとります。LoRa Allianceが仕様を定め、ITU-Tの勧告Y.4480にもなっています。工場では、構内に散らばった計測点を、電池式のセンサーで、数分から数時間ごとに測る用途に向きます。

タイでLoRaWANを使うのに免許は要る?

条件によります。NBTCの2017年の告示では、920〜925 MHzは非音声の通信に限って、e.i.r.p.4 W以下で使えます。50 mW以下の機器は、製造、所持、使用、輸入、輸出の許可と無線局の開設許可が免除されますが、販売の許可は免除されません。500 mW以下の機器は、所持、使用、輸出の許可と無線局の開設許可が免除されますが、製造、輸入、販売の許可は免除されません。どの区分でも、技術基準への適合と型式認証が必要で、混信からの保護はありません。その後の改訂は確認できていないため、調達時に販売店と認証機関に確かめてください。

LoRaWANの電池寿命はどれくらい?

一つの値では言えません。電池寿命は、SF、送信間隔、温度、試験条件で大きく変わります。メーカーの資料では、たとえばMilesight EM300-THが「10分間隔、SF10」で5年超(実験室条件での目安)、横河電機XS822が「更新周期1時間、周囲温度23±2℃」で10年としていますが、条件が違うので並べて比べることはできません。ゲートウェイから遠い端末ほど高いSFで送るため、電池の減りは早くなります。現地サーベイで実際のSFを確かめ、電池交換の計画を予算に入れてください。

ゲートウェイは何台必要?

構内の広さ、建物と障害物、計測点の配置、重要度で決まるため、図面だけでは決められません。メーカーの資料には、1台で多数の端末を収容できるといった値もありますが、どれも条件付きです。現地サーベイで電波の届き方を測り、重要な計測点が2台以上のゲートウェイで受信できる配置にすることをおすすめします。RFPには、台数と配置はサーベイ後に確定すると書いておきます。

ネットワークサーバーは自前で持つべき?

データを構内に置きたい、上位システムと構内で連携したい、という工場では、自営の構成が合います。その代わり、サーバーの保守、バックアップ、更新を自社か委託先が担う必要があります。クラウドや公衆網を使う場合は、データの保存場所、契約の条件、インターネットが切れたときの影響を確かめます。どの方式でも、管理者権限と端末の鍵を誰が持つか、契約終了時に設定とデータを引き取れるかを、契約前に決めておくことが大切です。

LoRaWANで設備の制御はできる?

制御や安全インターロックには使わないでください。2017年の論文は、工業の制御ループが1 msから100 ms程度の応答を求めることがあるのに対し、10バイトの小さなパケットでもSF7での送信時間が約40 msかかり、アクセス方式の性質上、決定的な動作も保証できないと指摘しています。クラスAの端末では、サーバーからの指示は次の端末の送信まで待つことになります。LoRaWANは、状態や傾向を監視する用途に使い、制御は有線や制御用のネットワークに任せます。

Wi-Fiやプライベート5Gとどう使い分ける?

データ量と電源で分けると分かりやすくなります。映像や大きなデータ、ハンディ端末、移動体は、無線LANやプライベート5Gの領域です。構内に散らばった、電源の無い場所の、少ないデータを間隔を空けて送る計測点は、LoRaWANの領域です。一つの方式で全部をまかなう必要はなく、計測点ごとに選び分けます。各方式の選び方は、本文で紹介した無線LANやプライベート5Gの記事をご覧ください。

まとめ

  • LoRaWANは「遠くへ、少ないデータを、ゆっくり」送るセンサー網。工場では、配線できない点を電池で数分から数時間ごとに測る用途に絞ると強い
  • 制御、安全インターロック、高頻度の波形には向かない。計測点を周期、データ量、遅延の許容で仕分けてから、無線に載せる点を決める
  • タイの周波数プランはAS923-1(920〜925 MHz)。NBTCの規則は、50 mW以下、500 mW以下、4 W以下の区分で免除の範囲が違い、販売の許可は免除されず、混信の保護も無い。改訂の有無は調達時に販売店と認証機関に確かめる
  • AS923の既定EIRP 16 dBmはタイの法定上限ではない。日本向けの機器や設定をそのまま持ち込まない
  • 端末は、LoRaWAN Certifiedと、NBTCの型式認証を別々に確かめる。OTAAを基本にし、鍵は端末ごとに固有のものを受け取って管理する
  • 電池寿命は条件付きの値。SF、送信間隔、温度、試験条件で変わる。交換の計画を予算に入れる
  • ゲートウェイの台数と配置は現地サーベイで決め、重要な計測点は2台以上で受信できるようにする。サーベイ機器の判定目安は規格の値ではない
  • ネットワークサーバーとデータの行き先は、管理者権限と鍵の持ち主まで含めて契約前に決める
  • 仮の数字の試算では、LoRaWANの自営網(構成A)が純効果530,000 THB/年、回収約4.4年。有線(比較B)は純効果630,000 THB/年と大きいが、回収は約7.6年。電池寿命が半分なら構成Aの回収は約5.2年に延びる

どの計測点を無線に載せるかの仕分けや、現地サーベイの計画づくりといった、検討を始めたばかりの段階でも、TOMAS TECHにご相談いただけます。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。

参考情報