2025年9月、タイのNBTC(国家放送通信委員会)が4,800MHz帯のうち100MHzを工場・企業向けに無料開放する方針を発表しました。結論から言えば、プライベート5G 工場導入のハードルはこの発表で確実に下がりましたが、すべての工場に向くわけではありません。判断の分かれ目は接続台数と敷地規模、そしてAGVのように遅延のばらつきが許されない用途があるかどうかです。本記事では制度の中身、Wi-Fiとの比較基準、タイでの先行事例を順に整理します。
プライベート5Gとは何か|工場ネットワークでの位置づけ
プライベート5Gとは、通信事業者の公衆網とは分離された、特定の敷地内だけで完結する5Gネットワークのことです。基地局、コアネットワーク、端末のすべてを自社または自社が委託した事業者が運用し、データは工場の外に出ません。工場から見れば「敷地内に自分専用のモバイルキャリアを持つ」ようなイメージが近いでしょう。
日系製造業の現場で誤解されがちなのは、「5G=速いWi-Fi」という理解です。工場用途でプライベート5Gが評価されている理由は、実は最大速度ではありません。重要なのは次の3点です。
- 遅延の「ばらつきの小ささ」。平均遅延ではなく、最悪ケースの遅延が一定の範囲に収まること
- 同時接続端末数の多さ。センサーやタグを面で敷き詰めても輻輳しにくいこと
- 電波の管理が中央集権的であること。端末が勝手に接続先を選ぶのではなく、基地局側がスケジューリングすること
3番目が特に本質的です。Wi-Fiは「早い者勝ち」で電波を掴みにいく仕組み(CSMA/CA)を基礎にしているため、端末が増えるほど、また端末が移動するほど、待たされる確率が上がります。一方で5Gは基地局が各端末に送信タイミングを割り当てるスケジュールドアクセス方式を採ります。混雑時にも「誰がいつ喋るか」が事前に決まっているため、最悪値が跳ね上がりにくいのです。
URLLC・mMTCという2つのキーワード
5Gの規格には工場に直結する2つの機能カテゴリがあります。ひとつはURLLC(超高信頼・低遅延通信)で、AGVの遠隔制御や安全関連の信号など、遅延と到達保証が命になる用途に対応します。もうひとつはmMTC(多数同時接続)で、振動センサーや温湿度センサー、資産タグのような小さなデータを大量の端末から集める用途に対応します。工場のトレーサビリティや設備稼働監視は、この2つの組み合わせで設計されることが多くなっています。
プライベート5Gとキャリア5Gの違い
キャリアの公衆5Gを工場で使う場合、電波の設計も帯域の割り当ても通信事業者側の都合で決まります。他社のトラフィックと帯域を分け合うため、生産設備の制御に必要な安定性を契約で保証してもらうのは容易ではありません。プライベート5Gは、この「他人と共有しない」という一点で工場向けの選択肢になります。逆に言えば、基地局とコアの調達・運用責任が自社側に来るということでもあります。
NBTCが2025年9月に発表した4800MHz帯無料開放の中身

タイでプライベート5Gの検討が急に現実味を帯びたのは、NBTCが2025年9月に打ち出した周波数開放方針が理由です。NBTCコミッショナーのSomphop Purivigraipong氏が明らかにした内容によると、4,800MHz帯のうち100MHz幅を、工場や企業が自社ネットワークを構築するために無料で開放する方針が示されました。
PNOライセンスという枠組み
この帯域は「誰でも自由に使ってよい免許不要帯」ではありません。Private Network Operator(PNO)ライセンスという申請ベースの免許として付与される仕組みです。オークションで巨額の落札金を積む必要がない代わりに、申請して審査を通す必要があります。
対象として想定されているのは、工場、企業、インダストリアルエステート(工業団地)の運営者、そして地方自治体などです。工業団地の運営者が対象に含まれている点は、タイの日系製造業にとって実務的に重要です。自社単独で申請する道と、入居している工業団地側が整備するインフラに相乗りする道の、両方があり得るということだからです。
非商用限定という最大の条件
PNOライセンスには明確な利用条件があります。用途は非商用に限定され、自社の生産効率改善を目的とすることが求められます。外部に対する通信サービスの提供、つまり回線を第三者に売るような使い方はできません。もし商用サービスとして提供したいのであれば、別途オークションでの入札が必要になります。
もうひとつ見落とされやすい制約が、既存の2,600MHz帯の商用5Gサービスとの連携・ローミングができないという点です。これは設計上のインパクトが小さくありません。工場敷地内ではプライベート5G、外に出たらキャリア5Gへシームレスに引き継ぐ、という運用は前提にできないということです。構内で使う端末と、構外にも持ち出す端末は、最初から役割を分けて設計する必要があります。
「無料」なのは周波数であって、運用費はかかる
bangkokbiznews、mcot.netなどのタイ国内報道によれば、周波数そのものの割り当ては無料でも、年間の電波使用料として5,000〜10,000バーツ程度が発生する見込みとされています。年間で数千バーツから1万バーツ規模ですから、この費用自体が導入の障害になることはまずありません。
ただし、ここで冷静に見ておきたいのは、周波数コストがゼロに近づいても、産業用5Gの費用全体が安くなるわけではないという点です。無償化されたのは費用構造のごく一部であり、基地局、コアネットワーク、端末側のモジュール、そして運用体制のコストは従来どおり残ります。「周波数が無料になったから安く導入できる」という理解は正確ではありません。正しくは「これまでオークション参加という形で事実上閉ざされていた道が、申請という形で開いた」ということです。
制度の現在地を正しく押さえる
ひとつ強調しておきたいのは、これは2025年9月時点で発表された方針だということです。本記事の執筆時点で、個別の工場に対して実際にPNOライセンスが発給された事例が公開情報として確認できているわけではありません。したがって「すでに多くの工場が稼働させている」といった前提で計画を立てるのは危険です。現段階では「申請可能な枠組みが公表された」という状態として捉え、最新の運用細則や申請様式についてはNBTCおよび現地の通信事業者・SIerに直接確認することをおすすめします。
産業用Wi-Fiとの違い|レイテンシ・同時接続・TCOの分岐点

「Wi-Fiで足りているのに、なぜ5Gなのか」という問いは、検討の最初に必ず出てきます。ここを数値で判断できるようにしておくと、社内稟議が一気に進みます。
テールレイテンシという指標
海外ベンダーの技術資料によれば、Wi-Fi 6は端末が移動してアクセスポイント間をローミングする際、テールレイテンシが最大264msに達することがあるとされています。テールレイテンシとは、平均ではなく「稀に発生する最悪ケース」の遅延のことです。同じ資料では、プライベート5Gはスケジュールドアクセスにより99.99パーセンタイルで45ms未満に収まるとされています。
この差が効くのは、平均値では見えない現象だからです。Wi-Fiの平均遅延が数ミリ秒でも、ローミングの瞬間だけ264msの空白が生じれば、その瞬間に走行しているAGVは制御信号を受け取れません。人が使うPCやタブレットなら「一瞬引っかかった」で済みますが、動いている搬送機や検査装置では、そこが安全設計上の問題になります。
さらに同資料では、AGV群の遠隔制御においてプライベート5Gでは99.9%のパケットが10ms未満の遅延で届くという数値も示されています。なお、これらはベンダーが自社技術の優位性を説明するために公開している技術資料に基づく数値であり、第三者機関による中立的な比較試験の結果ではない点は割り引いて読む必要があります。実際の工場では、建屋の構造、金属什器の配置、干渉源によって結果は変わります。
比較の要点を整理する
| 比較軸 | 産業用Wi-Fi 6 | プライベート5G |
|---|---|---|
| アクセス制御 | 端末が電波を掴みにいく競合型 | 基地局が送信機会を割り当てるスケジュール型 |
| ローミング時のテールレイテンシ | 最大264msに達する場合がある | 99.99パーセンタイルで45ms未満 |
| AGV遠隔制御の到達性 | 環境依存が大きい | 99.9%のパケットが10ms未満 |
| 周波数の扱い | 免許不要帯を共用 | PNOライセンスで割り当てを受ける |
| 適する規模 | 接続台数50台未満の中小規模で効率的 | 大規模・広域・高密度で優位 |
| 主な費用の性格 | 初期が軽く台数増で膨らみやすい | 初期が重く規模で回収する |
TCOが逆転する規模の目安
費用面では、ベンダー資料に興味深い試算があります。延床面積100,000平方フィート(約9,300平方メートル)を超える大規模工場では、プライベート5GがTCO(総所有コスト)を最大53%削減できるという試算です。逆に、接続台数が50台未満の中小規模工場では、Wi-Fi 6の方が効率的というのがベンダー側の目安として示されています。
この2つの数字は、実務では次のように使うのが現実的です。まず自社の対象エリア面積と、5年後までに接続予定の端末台数を出します。9,300平方メートルを大きく超え、かつ端末が数百台規模に向かうなら、プライベート5Gの検討価値は高いといえます。逆に単一建屋で端末が数十台なら、まずは産業用Wi-Fiの設計を見直す方が投資対効果は高いはずです。一般的な産業用Wi-Fiの設計・費用構造については、工場の無線LAN構築|費用5層と産業用ネットワーク設計2026で5つの費用層に分けて整理していますので、Wi-Fi側の検討をされる場合はそちらをご覧ください。
費用は「層」で見積もる
産業用5Gの費用について、公表された相場が存在しない項目に金額を当てはめるのは危険です。ここでは金額ではなく、見積もりを取る際に必ず分解して確認すべき費用の層を示します。
| 費用の層 | 内容 | 確認のポイント |
|---|---|---|
| 免許・電波関連 | PNOライセンス申請、年間電波使用料 | 年間5,000〜10,000バーツ程度の見込み。申請代行費は別 |
| 無線アクセス | スモールセル基地局、アンテナ、設置工事 | 必要局数はエリア調査の結果で決まる。見積り前提の面積を確認 |
| コアネットワーク | 5Gコア本体、オンプレかクラウドか | サブスクリプション型か買い切りかで5年TCOが大きく変わる |
| 端末側 | 5Gモジュール、ルーター、SIM管理 | AGVやカメラの既存機器が5G非対応なら変換装置が必要 |
| 運用・保守 | 監視、障害対応、セキュリティ運用 | 自社運用か委託か。OT側の運用ルールとの整合 |
この層分解で見ると、周波数無料化が効いているのは1層目だけであることがはっきりします。逆に言えば、2層目以降をどう設計するかで総額が数倍変わるということでもあります。
どんな工場・用途に向くか

技術比較よりも、実務では「うちのどの工程に効くのか」が知りたいところです。プライベート5Gの特性が活きるのは、次のような用途です。
AGV・AMRの遠隔制御と群管理
最も分かりやすい適用先です。搬送車が広い敷地を移動し続ける前提では、アクセスポイント間の切り替えが常時発生します。ここでテールレイテンシが安定していることは、そのまま搬送効率と安全マージンに直結します。台数が増えるほど、また走行エリアが広がるほど、5G側の優位が出やすくなります。
機械ビジョン・外観検査
高解像度カメラの映像をエッジやサーバーへ送って推論する構成では、上り方向の帯域と安定性が要求されます。ラインを止められない検査工程で、映像が途切れたり遅延で判定が間に合わなかったりすると、そのまま歩留まりや検査漏れの問題になります。配線が難しい場所にカメラを増設したい、レイアウト変更が頻繁で有線を引き直したくない、という条件が重なると5Gの価値が出ます。
デジタルツインと設備稼働の面的な可視化
設備稼働、電力、環境データを面で集めてリアルタイムに再現する構成では、端末数が一気に増えます。mMTCの多数同時接続が効く領域で、後から測定点を増やしても輻輳しにくいのは運用上のメリットです。トレーサビリティ用途で工程ごとに読み取り点を増やしていく場合も同様です。
遠隔作業支援と技術伝承
日本の親会社やベンダーの技術者が現地に来られない状況で、現場のカメラ映像を高品質のまま共有し、双方向で指示を出す用途です。後述するタイでの実証事例も、まさにこの領域から入っています。
逆に、向かないケース
一方で、次のような条件なら5Gを急ぐ必要はありません。単一建屋で数十台の端末しかない、端末が固定設置で移動しない、既存のWi-Fiで実運用上の問題が起きていない、といったケースです。この場合は、Wi-Fi側のチャネル設計、ローミング設定、アクセスポイント配置の見直しで解決することが多く、費用対効果も高くなります。「5Gにすれば何かが良くなる」ではなく「今どの数値が足りていないか」から入るのが鉄則です。
なお、無線を工場に導入する際は、ネットワーク構成と同時にOT側のセキュリティ設計が必要になります。プライベート5Gは公衆網から分離されているとはいえ、コアネットワークや管理系がIT側と接続される以上、ゾーン分割と境界防御の考え方は変わりません。IEC 62443を軸とした工場のセキュリティ設計についてはオペレーションテクノロジー(OT)セキュリティ|工場の実務ガイド2026で整理しています。
タイでの先行事例|KDDI・日本工営とダイキン工業タイの実証
タイにおけるプライベート5Gの実証として公開されている事例が、KDDI(KDDIタイランド)と日本工営による取り組みです。実施期間は2022年1月24日から3月上旬まで。場所はアマタシティ・チョンブリ工業団地内にあるDaikin Industries(Thailand)社の工場です。
技術構成としては、約120メートル四方の区画を対象に、3GPPおよびO-RAN準拠の5G基地局を3台設置しています。役割分担は、日本工営が全体管理、KDDIが機器設置とネットワーク構築を担当しました。
実証されたアプリケーションは2つです。
- 4K360度カメラおよび装着式カメラを用いた遠隔作業支援
- IPカメラ映像と設備稼働音のAI分析による故障予兆検知・稼働監視
この事例の読み方として重要な点があります。これは2022年の実証であり、NBTCが2025年に発表したPNOライセンス制度が存在する前の取り組みだということです。つまり当時の周波数利用条件と、現在申請できる枠組みの条件は異なる可能性があります。技術的な実現性と適用シーンの参考にはなりますが、ライセンスの手続きや条件をそのまま踏襲できるとは考えないでください。
もうひとつ実務的な示唆があります。約120メートル四方という限定エリアに基地局3台という規模感です。いきなり工場全体をカバーするのではなく、効果が測れる特定の区画とアプリケーションに絞って始めるアプローチが、実証としては現実的だということを示しています。
日本のローカル5Gとの比較で分かる導入の勘所
日系製造業の方には、日本の「ローカル5G」の方がなじみがあるかもしれません。技術効果の参考値として、日本側で公表されている数字を見ておきます。
NTT東日本の解説によれば、5Gは4Gと比べて通信速度が理論値で約10倍、遅延の精度が約10倍向上し、同時接続台数は約30〜40倍に拡大するとされています。また、総務省の実証事業では、製造業での活用により平均15〜30%程度の効率改善が報告された事例があるとされます。具体例としては、住友商事が8Kカメラ映像とAIを組み合わせた製品検査の自動化にローカル5Gを活用した事例があります。
ここで絶対に混同してはいけないのが、日本の「ローカル5G」制度と、タイのNBTCによる「PNOライセンス」は、別の国の別の制度だということです。所管官庁も、割り当てられる帯域も、利用条件も異なります。日本での申請経験がそのままタイで通用するわけではありませんし、逆にタイのPNO条件を日本の基準で判断することもできません。
| 観点 | 日本のローカル5G | タイのPNOライセンス |
|---|---|---|
| 所管 | 総務省 | NBTC(国家放送通信委員会) |
| 発表・位置づけ | 制度として運用実績あり | 2025年9月に開放方針を発表 |
| 対象帯域 | 本記事では扱わない | 4,800MHz帯のうち100MHz |
| 用途条件 | 本記事では扱わない | 非商用・自社の生産効率改善に限定 |
| 商用提供 | 本記事では扱わない | 不可。商用は別途オークション入札 |
| 公衆網との連携 | 本記事では扱わない | 2,600MHz帯の5Gサービスとの連携・ローミングは不可 |
日本の数値から引き出せる「勘所」は、制度ではなく効果の出方にあります。平均15〜30%程度の効率改善という数字は、5Gを入れれば自動的に得られるものではなく、8Kカメラ映像のAI検査のように「これまで無線では扱えなかったデータ量・応答速度を前提にした業務そのものの作り直し」とセットで初めて出てくる数字です。ネットワークを更新しただけで既存業務をそのまま流すなら、投資は回収できません。プライベート5Gの検討では、必ず「5Gだからできるようになる新しい業務」を1つ以上定義してから予算化することをおすすめします。
導入までの進め方|申請から構築・運用まで
具体的な進め方を、一般的な流れとして整理します。個別の期間や費用は工場の条件で大きく変わるため、ここでは順序と各段階でやるべきことに絞ります。経験則としての目安ですが、用途を絞ったスモールスタートであれば、要件定義から実証開始までおおむね90日程度を見込む進め方が現実的とされることが多いですが、ライセンス審査の所要期間は制度の運用状況によって変わるため、余裕を持った計画をおすすめします。
- 用途とKPIの定義。どの工程の、どの数値を、どれだけ改善するかを先に決める。ここが曖昧なまま機器選定に入ると必ず失敗する
- 現状のネットワーク評価。既存Wi-Fiで実際に問題が起きているのか、遅延・切断のログを取って確認する
- 電波環境調査。対象エリアの構造物、金属什器、干渉源を実地で確認し、必要な基地局数を見積もる
- PNOライセンスの申請準備。事業の非商用性、用途、対象エリアを説明できる資料を整える
- NBTCへの申請と審査対応。最新の申請様式・条件はNBTCまたは現地SIerに確認する
- 設計と調達。基地局、コア、端末側モジュールを層ごとに見積もり、5年TCOで比較する
- 構築と電波測定。設置後に実測し、設計値との差を確認する
- 限定区画でのPoC。KPIに対して効果を測る。KDDI・日本工営の事例のように区画を絞る
- 本番運用への展開とOT側との統合。監視、障害対応、セキュリティ運用のルールを決めてから広げる
このうち、日系工場でつまずきやすいのは1番と4番です。1番は「とりあえず5Gを入れて何ができるか見たい」という進め方になりがちですが、KPIがないと本番展開の稟議が通りません。4番は、非商用であることの説明を現地法人の事業内容に即して整理する必要があり、日本側の資料をそのまま翻訳しても通らないことがあります。
よくある質問
プライベート5Gの費用はどのくらいかかるか
産業用5G 費用は、周波数、無線アクセス、コアネットワーク、端末側、運用保守の5つの層に分かれます。NBTCの方針により周波数自体は無料で、年間の電波使用料は5,000〜10,000バーツ程度の見込みとされています。しかし総額を決めるのは残りの4層で、対象面積と接続台数によって数倍の幅が出ます。相場を一律に示せる性質の投資ではないため、必ず層ごとに分解した見積もりを取り、5年間のTCOで比較してください。
タイのNBTCライセンスは誰でも申請できるか
対象として想定されているのは、工場、企業、インダストリアルエステート(工業団地)の運営者、地方自治体などです。申請ベースでの付与となるため、条件を満たして審査を通る必要があります。重要な条件は、非商用であり自社の生産効率改善を目的とすること、外部への商用サービス提供はできないこと、そして既存の2,600MHz帯5Gサービスとの連携・ローミングはできないことです。商用提供を行いたい場合は、別途オークションでの入札が必要になります。
AGVの5G レイテンシは実際どのくらいか
ベンダーの技術資料によれば、AGV群の遠隔制御においてプライベート5Gでは99.9%のパケットが10ms未満の遅延で届くとされています。また全体としては99.99パーセンタイルで45ms未満に収まるとされています。比較対象として、Wi-Fi 6はローミング時にテールレイテンシが最大264msに達することがあるとされています。ただしこれらはベンダー資料の数値であり、実際の工場では建屋構造や干渉源によって変わります。導入判断の前に、対象エリアでの実測を含むPoCを行うことをおすすめします。
既存のWi-Fiは全部置き換える必要があるか
いいえ。置き換えではなく役割分担で考えるのが現実的です。オフィス系端末、固定設置の端末、一般的な情報系用途は既存のWi-Fiで十分機能します。プライベート5Gを充てるのは、移動体の制御、広域をまたぐ端末、高密度の測定点など、遅延のばらつきや同時接続数が問題になっている領域に限定するのが費用対効果の面で合理的です。接続台数50台未満の中小規模であれば、そもそもWi-Fi 6の方が効率的というのがベンダー側の目安でもあります。
導入までどのくらいの期間がかかるか
用途を絞ったスモールスタートであれば、要件定義から実証開始までおおむね90日程度を見込む進め方が一般的です。なおこの90日という数字は公的な基準値ではなく、計画づくりの経験則としての目安です。また、PNOライセンスの審査に要する期間は制度の運用状況によって変わるため、この目安には含めずに別枠で見ておく必要があります。2025年9月に方針が発表された制度であり、本記事執筆時点で個別工場への発給事例が公開情報として確認できているわけではないため、スケジュールは保守的に組むことをおすすめします。
まとめ
タイでのプライベート5G 工場導入について、判断に必要な点を整理します。
- NBTCが2025年9月に、4,800MHz帯のうち100MHzを工場・企業向けに無料開放する方針を発表した。PNOライセンスとして申請ベースで付与される
- 条件は非商用・自社の生産効率改善目的に限定。外部への商用サービス提供は不可で、2,600MHz帯5Gサービスとの連携・ローミングもできない
- 周波数は無料でも、年間の電波使用料が5,000〜10,000バーツ程度かかる見込み。加えて基地局、コア、端末、運用の費用は残る
- ベンダー資料によれば、Wi-Fi 6はローミング時のテールレイテンシが最大264msに達することがある一方、プライベート5Gは99.99パーセンタイルで45ms未満とされる。AGV遠隔制御では99.9%のパケットが10ms未満
- 同じくベンダー資料では、延床面積100,000平方フィート(約9,300平方メートル)超の大規模工場ではTCOを最大53%削減できるという試算がある一方、接続台数50台未満ならWi-Fi 6の方が効率的
- タイでの公開事例はKDDI・日本工営とダイキン工業タイによる2022年の実証。PNOライセンス制度ができる前の枠組みである点に注意
- 制度は「発表済みの方針」の段階。個別工場への発給事例が公開情報として確認できているわけではないため、最新の運用細則はNBTCまたは現地SIerに確認する
判断の順序としては、まず「今のネットワークで何が足りていないか」を数値で押さえること。次に対象面積と5年後の接続台数を出すこと。この2つが揃えば、Wi-Fiの改善で足りるのか、プライベート5Gに踏み込むべきかは、かなりはっきりします。
TOMAS TECHは、タイで操業する日系製造業向けに、生産管理システムPEGASUSをはじめとする現場のDX・自動化をご支援しています。プライベート5Gについても、いきなり導入を決める前段階の「うちの工場だと何が課題で、どこから測ればいいのか」という整理からご相談いただけます。検討段階・情報収集段階でも構いませんので、お問い合わせページからお気軽にお声がけください。
参考情報
- Bangkok Post – NBTC spectrum policy for private networks
- Bangkok Post – 4800MHz band allocation for factories and enterprises
- bangkokbiznews – NBTC 4800MHz open access report
- MCOT – NBTC private network spectrum report
- KDDI Thailand – KDDI and Nippon Koei 5G proof of concept news release
- GXC – How Private 5G Outperforms Wi-Fi 6
- NTT East BizDrive – Local 5G in factories