「PLCに手を入れられない古い設備が多い。CTクランプなら安く後付けできると聞いたが、本当に稼働率が取れるのか」。タイの日系工場の生産技術や保全の方から、こうした相談をよく受けます。結論から書きます。電流センサーで稼働監視を導入するとき、電流が教えてくれるのは「電気が流れている」ことであって、「機械が生産している」ことではありません。 本当の成果物はセンサーではなく、「停止・待機・加工」といった状態の定義(状態モデル)と、機械ごとの閾値です。CTは安く後付けできますが、プロジェクトの成否を分けるのは閾値の設計と受入試験です。そして、電流から得られるのは主に稼働時間で、生産個数や良品数には別のデータが要ります。
本記事に登場する金額・台数・回数・人数・消費電力・回収年数は、電気料金の平均単価を除き、すべて後述のモデル工場を前提にした本記事オリジナルの試算値・想定値(仮置き値)です。業界平均でも調査値でもありません。特にセンサー・ゲートウェイ・工事・システム連携の価格は、公開された一次情報が見つからなかったため、仮に置いた値です。自社の実測値と見積もりに差し替えて使う「計算の型」として読んでください。
なぜ今、タイ工場で電流センサーによる稼働監視の導入が問われるのか
タイへの投資の勢いは続いています。タイ投資委員会(BOI)が2026年7月23日に公表した発表によると、2026年上期の投資奨励の申請は1,299件・436億ドル(約1.47兆バーツ)で、前年同期比37%増でした。ただし申請額の大半はデジタル分野(AIデータセンターなど)で、この数字がそのまま製造業の設備投資の伸びを表すわけではありません。
製造業に近い数字としては、同じ発表で、機械の更新や自動化の導入を対象とする「Smart and Sustainable Industry」措置への申請が、2026年上期に132件・5億760万ドルあったとされています。既存工場の高度化に投資する動きは、タイ国内で一定の規模で続いていると読めます。
生産の側では、タイ工業省の発表を伝えたTrading Economics(2026年9月30日)によると、2026年8月の製造業生産指数(MPI)は前年同月比4.44%増でした。通信機器が大きく伸びています。ただし、指数の算出方法が改定された直後なので、過去との単純な比較には注意が必要です。
一方で、コストの圧力もあります。タイ工業連盟(FTI)の工業景況感指数は2026年8月に89.7で、7月の90.0から下がりました(Thai PBS World、2026年9月9日)。低下要因として、大雨による混乱、弱い国内購買力、自動車部門の縮小とともに、「高いエネルギーコスト」が挙げられています。電気料金は、エネルギー規制委員会(ERC)が2026年9〜12月期の燃料費調整額(Ft)を1kWhあたり16.23サタンとし、平均料金は1kWhあたり3.95バーツ(付加価値税抜き)で据え置かれました(The Nation Thailand、2026年7月23日)。
人手が限られ、エネルギーコストも気になる中で、「どの機械が、いつ、どれだけ止まっているか」を古い設備も含めて知りたい。その最初の手段として、配線を切らずに付けられる電流センサーが候補に挙がります。電流センサーによる後付け監視は新しい方式ではなく、たとえばラピスセミコンダクタは2018年4月に、既存の製造装置の稼働状況をモニタリングするCTセンサー用の中継基板を発表しています。古くからある方式だからこそ、「付けたのに使われない」失敗の型も見えています。
電流センサーの基本:CT・ロゴスキー・ホールと、分割型の後付け
3つの方式と、交流・直流の違い
計測器メーカーHIOKIの解説では、電流センサーを大きく3つに分けています。
| 方式 | 測れる電流 | 特徴(HIOKIの解説による) |
|---|---|---|
| 巻線方式(CT) | 交流のみ | 検出に電源が不要 |
| ホール素子方式 | 直流・交流 | 直流も測れるが、ホール素子の直線性による精度の限界と、温度による経時ドリフトが弱点 |
| ロゴスキーコイル方式 | 交流のみ | 大電流でも飽和しにくく柔軟で発熱が少ないが、ノイズを受けやすく高精度の測定には向かない |
稼働監視の後付けでよく使われるのは、輪の一部を開いて電線を挟める「分割型(スプリットコア)」のCTです。ここで押さえておきたいのは、CTとロゴスキーコイルは交流専用だという点です。直流で動く機器や、直流の回路を監視したい場合は、ホール素子方式などが必要です。たとえばAccuenergyは、分割型のホール方式の直流電流センサーを製品として出しています(メーカー公称値で最大1,000 Aの直流、精度1%)。直流負荷でも分割型で後付けできる例はある、という程度に受け取ってください。
アルスター大学のMaddenらの論文(2024年)は、シャント抵抗、ホール効果、CT、分割型CT、ロゴスキーコイルを定性的に比べ、分割型CTを「低コストで許容できる精度があり、設置に機械の停止が要らない」として採用しています。電源を落として配線を切り離す必要があるインライン型の電力計と比べて、停止を伴わない点を利点としています。ただし、この比較は「高・中・低」の定性的なもので、数値の精度比較ではありません。
分割型CTは「配線を外さずに付けられる」が「停電なしで作業してよい」ではない
AccuenergyのAcuCT Aシリーズの設置ガイドは、同製品を「一次ケーブルを切り離さずに、既設の導体やブスバーの周りに設置する必要がある場所」向けと説明しています。二次側の出力は、モデルによって80 mA・100 mAの電流出力と、250 mV・333 mVの電圧出力があります。
一方で、同じガイドは、設置と保守は高電圧・大電流機器の訓練と経験を持つ有資格者だけが行うこととし、手順の最初に「可能なら回路を停電させ、ロックアウト/タグアウトを適用し、無電圧を確認する」と書いています。配線を外さずに付けられることと、通電中の盤内に誰でも手を入れてよいことは、まったく別の話です。この点は、後の「設置の安全と規格」とタイの規則の節で詳しく扱います。
電流は「電気が流れている」しか教えない:状態モデルという本当の成果物

電流波形の4つの読み方
CTクランプのデータは、どう読めば「稼働」になるのでしょうか。電流による設備監視サービスを提供するGuidewheelの解説(2026年6月10日更新)は、次の4つのパターンで読むと説明しています。
- 高く安定した電流:負荷をかけて運転中
- 低いベースラインの電流:電源は入っているがアイドル
- ほぼゼロ:停止(電源オフ)
- 繰り返すスパイク:個々の生産サイクル
この分類は便利ですが、ここに落とし穴があります。電流が教えるのは、あくまで「どれだけ電気が流れているか」です。「なぜ止まっているか」は分かりません。材料待ちの機械も、段取り待ちの機械も、オペレーターが休憩中の機械も、電源が入っていれば同じ「アイドル」に見えると考えられます。停止の理由を知りたいなら、電流とは別に、操作盤やタブレットなどで理由を入力する仕組みが要ります。
状態モデルを先に決める
だからこそ、CTを付ける前に「何を稼働と呼ぶか」を文書で決めます。岐阜県情報技術研究所の研究(2017年度の研究報告)では、平面研削盤の状態を次の3つに定義しています。
| 状態 | 定義(同研究による) |
|---|---|
| 停止 | 主軸モーターが停止している |
| 待機 | 主軸は回転しているが、加工していない |
| 加工 | 主軸が回転し、加工している |
この定義は工場の目的によって変わります。「電源オンなら稼働」と定義すれば数字は良く見えますが、改善には使いにくくなります。「加工中だけを稼働」と定義すれば、待機の時間が浮かび上がり、段取りや材料供給の問題に手が打てます。どちらの定義で測るかは、社内の稼働率の定義(計画停止を含めるか、段取りをどう扱うか)と合わせて決めます。状態モデルは、センサーよりも長く使う「仕様書」です。
CTをどの回路に付けるか
状態モデルを決めると、CTを付ける場所も決まります。岐阜の研究では、CTを機械の主電源ではなく、主軸インバータの1次側のケーブルに取り付けています。モーターが止まっているときに流れる電流は、インバータ本体が消費する分だけになる、という性質を利用して停止を判定しました。逆に言えば、この構成では電源が入っている限り、停止中でも電流はゼロにはなりません。
Guidewheelは、精度の問題が出るのは「生産状況にかかわらず常時回るモーターを持つ機械」などの例外的なケースだとしています。たとえば油圧ポンプが常に回っている設備では、主電源の電流だけでは加工と待機の差が小さくなる可能性があると考えられます。その場合は、主電源ではなく、主軸や加工に直結する負荷の回路にCTを付けることを検討します。機械ごとに回路図を見て、「どの線を挟めば、定義した状態の差が電流に出るか」を決める作業が、導入の最初の山場です。
三相の機械で1相だけを測るか、3相すべてを測るかも、ここで決めます。三相の負荷が不平衡な機械では、1相の値で全体を代表できない場合があると考えられます。電流以外の後付けの選択肢として、表示灯の信号を取り出す方法もあります。比較は「三色灯 データ収集」で解説しています。
CTセンサーのしきい値設定:研究事例に学ぶ「実測で決める・ばたつきを抑える・遅れを測る」

閾値(しきい値)は、電流の値を状態に変換するルールです。ここでは、岐阜県情報技術研究所の平面研削盤の研究を、1台の研究事例として詳しく見ます。数値そのものではなく、決め方と検証の仕方に学ぶのが目的です。
生の電流で判定すると状態がばたつく
同研究では、改造なしで後付けできるクランプ式電流センサーを主軸インバータの1次側に付け、センサー側で実効値を計算し、無線でゲートウェイに送りました。ところが、電流が振動する波形だったため、そのまま閾値で判定すると状態の切り替わりが多発しました。そこで、電流の包絡線(波形の上下の外形線)を使って判定しています。
これは、どの工場でも起きうる問題です。生の電流をそのまま閾値と比べると、加工中に一瞬電流が下がっただけで「待機」に落ち、すぐ「加工」に戻る、という短い切り替わりが記録されます。稼働率の数字はそれほど変わらなくても、停止回数やチョコ停の件数が実態とかけ離れてしまいます。対策として、包絡線や移動平均で波形をならす、状態を確定するまでに一定時間を待つ、上がるときと下がるときで閾値を変える(ヒステリシス)、といった工夫を判定ロジックに入れます。どの工夫をどの程度入れるかは、機械ごとの波形を見て決めます。
閾値は「データを観察して決めた」値
同研究の判定ルールは、「下側の包絡線が閾値1より小さければ停止、それ以外で電流の増加分が閾値2より大きければ加工、それ以外は待機」というものです。パラメータは、閾値1が1.0 A、閾値2が0.5 A、判定の窓が60秒で、報告書には「時系列データを観察して決定した」と書かれています。
ここで強調しておきたいのは、この1.0 A・0.5 A・60秒は、平面研削盤1台の実データを見て決めた値だという点です。ほかの機械にそのまま使える一般値ではありません。CNC旋盤4台・フライス盤2台・マシニングセンタ1台の消費電力を測ったLvらの研究(2016年)でも、待機などの非切削動作とフライス加工の消費電力は機械によって違う、と結論づけています。閾値は、機械ごとにベースラインを実測して決めるものです。インターネット上に「定格電流の何%以下なら停止」といった目安が出回っていることがありますが、出典の確かでない一般値を使うより、自社の機械で1〜2週間の電流を記録し、動画や日報と突き合わせて決める方が確実です。
判定の遅れと取りこぼしを測る
同研究では、動画で確認した加工の開始が16時39分40秒だったのに対し、電流からの推定では16時41分30秒となり、110秒の遅れが出ました。砥石が被削材に部分的にしか触れておらず、電流が小さかったためと考察されています。
ここから学べるのは、軽い負荷の加工は、検出が遅れたり取りこぼしたりするということです。判定の窓を長くすれば、ばたつきは減りますが遅れは増えます。短くすれば遅れは減りますが、ばたつきが増えます。このトレードオフは避けられないので、「どの程度の遅れなら許容するか」を先に決め、受入試験で実際の遅れを測って確認します。閾値設計の成果物は、閾値の数字だけでなく、「その閾値でどれだけ正しく判定でき、どれだけ遅れるか」の検証記録までを含みます。
閾値の変更手順を決めておく
機械は使ううちに変わります。工具や砥石の摩耗、加工品目の変更、モーターの交換、段取りの変更で、電流のベースラインは動きます。閾値を誰が、どの手順で、どんな記録を残して変えるのかを決めておかないと、ある日から稼働率の数字が理由もなく変わる、ということが起きます。閾値の変更履歴を残せることは、システムに求める要件の1つです。停止の記録を後から再現できるようにする考え方は「設備 稼働ログ 取得」で詳しく扱っています。
電流データで取れる指標と取れない指標:OEEの可用性・性能・品質
設備の総合効率(OEE)は、可用性(Availability)×性能(Performance)×品質(Quality)で表されます。Vorne Industries(OEE.com)の定義では、可用性=稼働時間÷計画生産時間、性能=(理想サイクルタイム×総生産数)÷稼働時間、品質=良品数÷総生産数です。
この式を見ると、電流データでどこまで取れるかがはっきりします。電流で状態を判定できれば、稼働時間が分かるので、可用性は計算できます。しかし、性能には「総生産数」と「理想サイクルタイム」が、品質には「良品数」が必要です。Guidewheelは繰り返すスパイクから生産サイクルを読めることがあるとしていますが、岐阜の研究のように軽い負荷の加工は検出が遅れることもあります。品質については、Guidewheelも、手入力の不良記録や既存の品質システムとの連携で補うのが一般的だとしています。
本記事では次のように整理します。CTの電流だけで確実に得られるのは、主に「状態」と「稼働時間」。個数やサイクルは波形から推定できる場合があるが、良品数は別系統。
数値の例で確かめます(以下は本記事の仮置き値です)。ある機械1台の1日(2交替)の計画生産時間を960分とします。
| 要素 | 計算(仮置き値) | 結果 | 必要なデータ |
|---|---|---|---|
| 可用性 | 稼働時間840分(停止120分)÷計画生産時間960分 | 87.5% | 状態と時間(CTで取れる) |
| 性能 | 理想サイクルタイム1.0分×総生産数714個÷稼働時間840分 | 85.0% | 個数(PLC・カウンター) |
| 品質 | 良品700個÷総生産数714個 | 98.0% | 良品数(品質記録) |
| OEE | 0.875×0.850×0.980 | 約72.9% | 上の3つすべて |
検算として、OEEは(良品数×理想サイクルタイム)÷計画生産時間でも求められ、700×1.0÷960=約72.9%で一致します。CTだけの監視で「OEEを出す」と提案された場合は、性能と品質の数字をどこから取るのかを必ず確認してください。個数と停止理由まで取る構成は、後述のモデル試算の構成Bにあたります。
消費電力の計測:電流だけのkWhは換算値
電流×設定電圧の換算か、実測の電力か
稼働監視と同時に、機械ごとの消費電力(kWh)を計測したいという要望はよくあります。ここで注意したいのは、電流しか測らないセンサーのkWhが何を意味するかです。MonnitのALTA無線AC電流メーターのデータシートによると、同センサーは最小・最大・平均の実効電流とアンペア時(Ah)を報告し、クラウド側で既定の電圧を設定するとWh・kWhを生成できます。つまり、このkWhは実際の電圧を測った値ではなく、設定した電圧からの換算です。電圧の変動や力率は反映されないと考えられるので、省エネ効果の見積もりや部門別の配賦に使うなら、その前提を理解したうえで使います。
電力量を正確に取りたいなら、電圧も測る電力計が必要です。その場合はCTの向きも重要になります。Accuenergyの設置ガイドは、正の有効電力・力率の符号・電流と電圧の位相関係を正しく得るために、CTのH1(またはP1)を電源側に向け、全相で向きをそろえるよう求めています。負の電力や力率の反転が出たら、CTの向きと電圧の相の割り当てを確認するよう書かれています。電流の大きさだけを見る稼働判定なら向きの影響は小さいと考えられますが、電力を測るなら必須です。受電点や主要盤での実測kWhの集め方は「電力量計 データ収集」で解説しています。
測定範囲と定格の選び方
CTには測定できる範囲があります。たとえばAcuCT Aシリーズの測定範囲は、定格電流の5%〜120%とされています(メーカー公称値)。定格の大きすぎるCTを選ぶと、待機時の小さな電流が範囲の下限を下回り、停止と待機の区別がつきにくくなる可能性があります。CTの定格は、主幹の遮断器の容量ではなく、測りたい状態の実電流(特に待機時の電流)を見て選びます。
無線・電池式の報告間隔と電池寿命
配線工事を減らすために、電池で動く無線のCTセンサーを選ぶこともあります。ここには報告間隔と電池寿命のトレードオフがあります。Monnitのデータシートは電池寿命を「AA電池で10年以上」としていますが、報告頻度などの条件で決まると注記しています(メーカー公称値)。内蔵メモリは最大512件で、何日分を保持できるかも報告間隔に依存します(同データシートでは10分間隔で3.5日分、2時間間隔で42日分)。Maddenらの論文は、別の電池式無線ノードについて、データの細かさは電池寿命で制限され、10分間隔の報告は生産工程の細かな電流変化をとらえるには粗すぎる可能性があると指摘しています。
稼働判定に必要な時間分解能は、閾値設計で決めた「許容できる遅れ」と、短い停止をどこまで数えたいかで決まります。チョコ停まで数えたいなら、電池式よりも、給電して細かく送れる構成が向く場合があります。製品例として、HARDWARIOのCHESTER Currentは、分割型のクランプ式プローブを最大4チャンネル持ち、交流・直流の電流を測り、NB-IoT・LTE-M・LoRaWANで送るとしています(メーカー公称値。IP67、使用温度−20〜+60°C)。無線の製品を使う場合は、導入する国の電波認証を取得しているかを確認してください。
設置の安全と規格:有資格者・停電とロックアウト・二次開放・1線クランプ
盤内の作業は有資格者が、停電とロックアウトで
先に触れたとおり、AcuCT Aシリーズの設置ガイドは、設置・保守を有資格者に限り、可能な限り停電とロックアウト/タグアウトで作業し、無電圧を確認するよう求めています。活線での作業が必要な場合は、その工場で承認された活線作業の手順に従い、アークフラッシュ用の保護具と絶縁工具を使うよう書かれています。「クランプを挟むだけだから」と、保全担当者が通電中の動力盤を開けて作業するのは避けるべきです。タイでの規則は、後の「タイ・ASEAN固有の論点」で整理します。
電流出力のCTは、二次側を開放しない
CTには、二次側の扱いに注意が必要なものがあります。一般に、一次側に電流が流れている状態で電流出力型のCTの二次側を開放すると、二次端子に危険な高電圧が誘起されると、複数の技術解説で説明されています。一方、AcuCT Aシリーズは、全モデルが内部に開放保護を持ち、二次側が危険な開放電圧を生じないので短絡用のブロックは不要とされ、電圧出力品などの開放リスクは電流出力のCTより低いと書かれています(ただし配線は終端し保護しておくこと、とされています)。これはこの製品に限った記述です。使うCTが電流出力か電圧出力か、保護を内蔵しているかを確認し、電流出力で保護のないものは二次側を開放しない手順を作業手順書に書きます。
1相の導体1本だけに通す
意外に多い失敗が、挟み方です。Monnitのデータシートは、交流回路の電線1本だけにCTを付けるよう求め、行きと帰りの線を同時に挟むと電流は0と読まれると書いています。Accuenergyのガイドも、CTは1相の導体1本の周りにだけ取り付け、複数の相の導体を同じCTに通さないとしています。行きと帰りの電流は打ち消し合うので、複数の芯線が1本にまとまったケーブルをそのまま挟むと、正しい値が出ません。盤内で相ごとに分かれた電線を選んで挟みます。二次配線は、鋭い部分・可動部・高温部・ノイズの多い導体から離し、なるべく短くするよう、同ガイドは求めています。
規格と測定カテゴリ
規格の扱いも整理しておきます。計器用の変流器については、IEC 61869-2(変流器の追加要求事項、2012年)があり、IEC 60044-1などを置き換えたものとされます。一方、IEC 61010-2-032は手持ち型の電流クランプが対象で、IEC Webstoreの旧版の説明では、固定設置の変流器や電流トランスデューサは除外されています。つまり、盤内に常設する稼働監視用のCTと、保全担当者が持ち歩くクランプメーターは、別の規格の世界にあります。稼働監視用の安価なCTがすべてIEC 61869-2に適合しているとは限らないので、RFPでは準拠規格をメーカー資料で示してもらいます。
測定カテゴリも確認します。Flukeの解説(IEC 61010-1準拠)では、CAT IIはコンセントにつながる単相の負荷、CAT IIIは三相の配電(開閉装置や多相モーターなど固定設置の機器を含む)、CAT IVは受電点・屋外の導体・電力量計・引込口とされています。工場の動力盤や機械の主電源はCAT III相当の位置にあたるので、取り付ける位置に合ったカテゴリの製品を選びます(たとえばAcuCT Aシリーズは600 VAC、CAT IVとされています。メーカー公称値)。
費用とROI:電流センサーによる稼働監視の導入をモデル工場で試算する
ここからの数値は、電気料金の平均単価を除き、すべて本記事が独自に置いた仮置き値です。業界平均でも調査値でもありません。センサー・ゲートウェイ・工事・連携の価格は公開された一次情報が無いため、金額は仮に置いた値です。 実際の判断は、複数社の見積もりと自社の実績で計算し直してください。
共通前提(モデル工場M)
| 項目 | 前提(仮置き値) |
|---|---|
| 工場 | タイ東部(チョンブリー県)の日系機械加工・自動車部品工場。対象20台(CNC旋盤・マシニングセンタ・研削盤など)。うち8台はPLCにEthernetで接続でき、12台はPLCに手を入れられない古い設備 |
| 稼働 | 2交替、300日/年 |
| 現状の記録 | 手書きの日報。短い停止は記録されない |
| 休日出勤 | 生産遅れを取り戻すための休日出勤が年24回。1回あたり30,000 THB(割増賃金・光熱費・監督者込み)→ 年720,000 THB |
| 日報の集計 | 日報の集計とExcelへの転記に事務担当1名(年間人件費240,000 THB) |
| 待機電力 | 電源は入っているが生産していない状態の消費電力を1台あたり2 kWと仮置き(実際は機械ごとに違うので実測で置き換える) |
| 電気料金 | 3.95 THB/kWh(ERCが示した2026年9〜12月の平均単価・税抜。実際の単価は契約種別で異なるので、平均単価の目安として使う) |
構成A:CTのみで状態監視(20台)
初期投資は、CTセンサーと送信ノード20台×25,000 THB=500,000 THB、ゲートウェイ・サーバー(またはクラウド)の設定150,000 THB、盤内の取付工事(有資格者による、停電・ロックアウト・回路図の更新を含む)20台×8,000 THB=160,000 THB、機械ごとの閾値設計(ベースラインの実測と状態モデルの定義)とSATで190,000 THBです。合計は500,000+150,000+160,000+190,000=1,000,000 THB。年間運用費は、クラウド利用と保守で120,000 THB/年とします。
効果(想定値)は次のとおりです。
- 休日出勤:24回→14回。停止の時間が見えるので、段取りや材料待ちに手が打てる。減った10回×30,000 THB=300,000 THB
- 待機電力:昼休み・交替の間・終業後に「電源オンで待機」している時間を状態データで特定し、停止のルールを決めて1台あたり1日2時間減らす。20台×2時間×300日=12,000時間、×2 kW=24,000 kWh、×3.95 THB=94,800 THB
- 人員:生産個数は手書きのままなので、日報担当は削減0
効果合計は300,000+94,800=394,800 THB/年、年間純便益は394,800−120,000=274,800 THB/年、単純回収期間は1,000,000÷274,800=約3.6年です。
構成B:CT+PLC・カウンター連携で個数まで自動取得(20台)+停止理由の入力
初期投資は、構成Aの一式1,000,000 THB(閾値設計・SATを含む)に、次の追加分を加えます。PLC連携(8台)8×40,000 THB=320,000 THB、古い12台へのカウンター信号の追加(サイクル完了信号や近接センサーなど)12×15,000 THB=180,000 THB、停止理由を入力するタブレット4台×25,000 THB=100,000 THB、日報の自動化と既存システムとの連携200,000 THB、追加分のFAT/SAT 200,000 THB。追加分は320,000+180,000+100,000+200,000+200,000=1,000,000 THBで、合計は2,000,000 THBです。年間運用費は200,000 THB/年とします。
効果(想定値)は、構成Aの効果を置き換えるものとして計算します(構成Aの効果に足し算はしません)。
- 休日出勤:24回→10回。停止の理由まで分かるので対策が早い。減った14回×30,000 THB=420,000 THB(構成Aの10回を含む)
- 待機電力:構成Aと同じ94,800 THB(状態データの出どころは同じCTなので、Bで増えない)
- 人員:日報の集計・転記が要らなくなる。1名×240,000 THB=240,000 THB
効果合計は420,000+94,800+240,000=754,800 THB/年、年間純便益は754,800−200,000=554,800 THB/年、単純回収期間は2,000,000÷554,800=約3.6年です。
| 項目 | 構成A(CTのみ) | 構成B(CT+個数+停止理由) |
|---|---|---|
| 初期投資 | 1,000,000 THB | 2,000,000 THB |
| 年間運用費 | 120,000 THB | 200,000 THB |
| 休日出勤削減の効果 | 300,000 THB(10回) | 420,000 THB(14回) |
| 待機電力削減の効果 | 94,800 THB | 94,800 THB |
| 日報担当の効果 | 0(0名) | 240,000 THB(1名) |
| 年間純便益 | 274,800 THB | 554,800 THB |
| 単純回収期間 | 約3.6年 | 約3.6年 |
| 5年累計(純便益×5−初期投資) | 374,000 THB | 774,000 THB |
読みどころ1:回収年数はほぼ同じ。5年累計ではBが上回る
単純回収期間は、どちらも約3.6年でほぼ同じです。5年累計は、A: 274,800×5−1,000,000=374,000、B: 554,800×5−2,000,000=774,000で、Bが上回ります。
構成Bの上乗せ分だけを取り出すと、追加の初期投資は2,000,000−1,000,000=1,000,000 THB、追加の年間純便益は554,800−274,800=280,000 THB/年で、上乗せ分の回収は1,000,000÷280,000=約3.6年です。5年累計の差は280,000×5−1,000,000=400,000 THBで、774,000−374,000と一致します。
この上乗せ分は、「個数と停止理由」の価値です。電流だけでは性能(個数)が取れず、停止の理由も分からない、という前の節の整理と対応しています。どちらから始めるかは、日報の集計にかかっている工数と、休日出勤の実績で決まります。日報担当の工数が小さい工場なら、まず構成Aで状態を見える化し、効果を確かめてから個数の取得に進む順番も合理的です。
読みどころ2:閾値設計とSATを省いたら
CTが安いからといって、閾値設計とSATの190,000 THBを削ると、どうなるでしょうか。構成Aからこの費用を抜いた構成を、仮に構成A′とします。
初期投資は1,000,000−190,000=810,000 THBに下がります。しかし、状態の判定がばたつき、待機と加工の区別も怪しいデータは、現場に信用されず、対策に使われなくなると想定します。休日出勤は24回→22回にしか減らず、2回×30,000 THB=60,000 THB。待機電力の停止ルールも半分しか運用されないとすると、94,800÷2=47,400 THBです。効果合計は60,000+47,400=107,400 THB/年で、運用費120,000 THBを引くと−12,600 THB/年。運用費すらまかなえず、回収できません。
190,000 THBを削ると、年間純便益は274,800 THBから−12,600 THBに落ちる。これがこの試算で一番伝えたいことです。もちろん効果の減り方は仮置きですが、「CTは安いが、成否を分けるのは閾値設計と受入試験」という構造は、どの工場でも変わらないと考えられます。
検算の注意(二重計上を作らない)
構成Bの効果は構成Aの効果を置き換えたもので、両者を足してはいけません。休日出勤の削減14回はAの10回を含み、待機電力の94,800 THBはA・Bで同額です。出発点は、休日出勤年24回・1回30,000 THB・日報担当1名・待機2 kWの1つの現状だけです。また、CTのみで得るkWhは電流と設定電圧からの換算なので、待機電力の効果は計画段階の概算として扱います。
稼働監視システムのRFPに書く12項目
メーカーやシステム会社に見積もりを依頼する際、RFP(提案依頼書)に最低限書いておきたい項目です。
- 対象設備の台帳と負荷の種類:機械ごとの型式、電源(三相・単相、交流・直流)、主な負荷(主軸・油圧ポンプ・ヒーターなど)、インバータの有無
- 状態モデルの定義:停止・待機・加工などの状態の定義と、社内の稼働率の定義(計画停止・段取りの扱い)
- CTの取付回路・定格・方式:主電源か主軸・負荷側か、1相か3相か、待機時の実電流に合った定格、交流ならCT・直流ならホール方式など
- 閾値の決め方と変更の手順・権限:ベースラインの実測期間、判定ロジック(包絡線・移動平均・ヒステリシス・判定の窓)、閾値の変更履歴の記録
- サンプリング・報告の間隔と判定の遅れ:許容する遅れ、数えたい最短の停止時間、通信断のときの内蔵メモリでの保持
- kWhの算出方法:実測の電力(電圧・力率を含む)か、電流×設定電圧の換算か。電力を測るならCTの向きと電圧の相の割り当て
- 個数・停止理由の取得方法:PLC連携、カウンター信号、入力端末のどれで取るか。品質記録との連携の要否
- 無線の方式・電波認証・電池:通信方式、導入国での電波認証、電池式なら報告間隔に対する電池寿命(メーカー公称値と条件)
- データの保存・出力・既存システムとの連携:保存期間、CSVなどの出力、生産管理システム・MESとの接続、時刻同期
- 盤内工事の体制:有資格者による作業、停電の計画とロックアウト・表示、工事後の電気回路図の更新、点検・保守記録
- 現地サポート・タイ語対応:タイ国内の保守窓口、センサー故障時の交換、現場担当者へのタイ語での説明
- FAT/SAT基準:試験項目、正解データの取り方(動画・記録)、合格基準、立会いの範囲
特に重要なのは2・4・6です。2が曖昧なままだと、各社が「稼働」を別の意味で使った提案を比べることになります。4を書かないと、閾値を一度決めたきり、誰も直せないシステムになります。6を確認しないと、換算のkWhが実測値のように扱われます。全社の製造データ収集の中で稼働監視をどう位置づけるかは「製造データ 収集」で整理しています。
稼働監視のFAT/SATで確認すること
工場出荷前の試験(FAT)と、据付後の現地での試験(SAT)では、カタログの値ではなく、自社の機械で「正しく判定できる・遅れが許容範囲に入る・データが欠けない」ことを確かめます。電流による判定は、機械と回路ごとに結果が違うので、特にSATが重要です。
- 定格と実電流の範囲:待機時と加工時の実電流が、CTの測定範囲(メーカー公称値)に入っているかを確認する
- 状態判定の正解率:一定期間の動画や作業記録を正解として、システムの判定と突き合わせ、状態ごとに一致した時間の割合を記録する
- 状態が切り替わるときの遅れ:加工の開始・終了で、動画の時刻と判定の時刻の差を測り、RFPで決めた許容値に入るかを見る
- ばたつき:短時間の状態の切り替わりが何回出るかを数え、停止回数が実態とずれていないかを確かめる
- 誤判定しやすい条件:軽い負荷の加工、常時回るモーターがある機械、段取り中の空運転などで、わざと条件を作って判定を確認する
- 挟み方・向き・相:1相の導体1本に付いているか、電力を測るならCTの向きと電圧の相の割り当てが正しいか(負の電力が出ていないか)
- 通信断とデータ欠損:通信を一時的に止めて、内蔵メモリの保持と、復旧後の再送・欠損の表示を確認する
- 停電後の復帰と時刻:停電・再投入のあと自動で計測に戻るか、時刻がずれていないかを確認する
状態判定の正解率を測る作業は手間がかかりますが、これを省くと、読みどころ2で見たとおり、データが信用されずに投資が回収できなくなります。正解データの取り方は、短い停止の検証と共通する部分が多いので、「チョコ停対策を30日で検証」もあわせてご覧ください。
タイ・ASEAN固有の論点
電気に関する労働安全衛生の省令(B.E. 2558)
タイ労働省には、電気に関する労働安全衛生の基準を定めた省令(仏暦2558年、2015年2月6日官報掲載)があります。条文の要点を本記事の要約で紹介します。この省令は、電気系統・電気機器・電線の設置、点検、試験、修理、保守などを行う労働者を「電気に関わる業務を行う労働者」と定義しています。そのうえで、使用者に次のような義務を課しています。
- 電気に関わる業務を行う労働者に訓練を受けさせる(第4条)
- 事業所内の電気回路図を、電気分野の免許を持つ技術者か地域の電力公社の認証を得て保管し、改修・変更があれば図面を正しく修正する(第5条)
- 電気設備の点検・保守の記録は、法律の定める登録者または許可を受けた法人が作成・認証する(第12条)
- 電気系統・電気機器の作業中は、スイッチが入らないよう施錠などの防止策を講じ、投入禁止の表示を掲げる(第15条)
盤内にCTを追加する工事は「設置」にあたる可能性があり、第15条のロックアウトと表示、第5条の回路図の更新が関係しうると考えられます。ただし、どの工事がどの条文に当たるかの法的な判断は、工場の安全担当、電気技術者、専門家に個別に確認してください。RFPの「盤内工事の体制」に、工事後の回路図の更新を含めておくと、後で慌てずに済みます。
電気工の技能証明
Thai PBSの2019年10月の記事によると、技能開発局(DSD)は技能開発促進法に基づき、屋内電気工を「技能証明書を受けた者だけが従事できる職種」に指定しています。ただし、この記事は屋内電気工についてのもので、工場の産業用の電気工事が対象かどうかは確認できていません。2019年の記事でもあるので、最新の指定職種はDSDで確認し、工事を委託する会社には、作業者の資格を示してもらうようにします。
電気料金の単価は契約で違う
試算では、ERCが示した2026年9〜12月の平均単価3.95バーツ/kWh(税抜)を使いました。実際の工場の単価は、TOUや大口などの契約種別で異なります。なお、The Nation(2026年8月12日)によると、9月請求分は平均3.89バーツ/kWhに引き下げられましたが、家庭向けの措置を含む内容で、産業需要家にどう適用されるかは本記事では確認できていません。省エネ効果を計算するときは、自社の請求書の単価を使ってください。瞬時電圧低下など電源品質の問題で機械が止まっている疑いがある場合は、電流だけでなく電圧も見ます。考え方は「電圧 監視 システム」で解説しています。
高温多湿と盤内の温度、無線の認証
タイの工場の盤内は、高温になることがあります。センサーや送信ノードの使用温度範囲を、メーカー公称値で確認します(たとえばAcuCT Aシリーズは−25〜70°C、CHESTER Currentは−20〜+60°Cとされています)。無線の製品は、海外の認証を持っていても、タイで使える認証を持っているとは限りません。導入する国の電波認証の有無を、メーカーや代理店に確認してください。
BOIの高度化措置
BOIの投資奨励ガイド(2023年版)の「スマート&サステナブル産業への高度化措置」では、既存事業の機械の更新・自動化による効率向上について、投資額100万バーツ以上(土地・運転資金を除く)を条件に、機械の輸入税の免除と、3年間の法人税免除(上限は高度化の投資額の50%、タイの自動化産業との連携が一定以上なら100%)が示されています。投資額の算定には、製造工程を制御・監視・支援するために機械と一体化したソフトウェアやITへの投資も挙げられています。ただし、これは2023年版の資料で、条件が変わっている可能性があります。また、CTセンサーの後付けだけで対象になるかは本記事では確認できていません。最新の条件と対象の可否は、所轄機関(BOI)や専門家に個別に確認してください。
市場にある選択肢の例
電流センサーや稼働監視の製品・サービスには、たとえば、分割型CTや直流センサーのAccuenergy、無線の電流メーターのMonnit、クランプ式プローブ付きの無線ノードのHARDWARIO(CHESTER Current)、CTクランプによる設備監視サービスのGuidewheelなどがあります。計測器メーカーのHIOKIは、電流センサーの方式の解説を公開しています。ほかにも多くの製品があります。ここでは例として挙げるだけで、推奨や優劣の評価ではありません。古い設備のIoT化を、維持・移行・廃棄の判断と合わせて考える場合は「設備老朽化 IoT」も参考になります。
90日計画

0〜30日:対象設備の棚卸しと現状の集計、状態モデルの定義
対象にしたい機械を一覧にし、型式、電源、主な負荷、インバータの有無、PLCに接続できるかを調べます。盤内の回路図が現状と合っているかもこの段階で確認します。あわせて、過去1年の休日出勤の回数とコスト、日報の集計にかかっている工数を拾い、モデル試算の前提を自社の値に置き換えます。最後に、「停止・待機・加工」などの状態モデルと、社内の稼働率の定義を文書にします。
31〜60日:代表機でベースラインを実測し、閾値を仮決めする
機械の種類ごとに代表の1〜2台を選び、有資格者の工事でCTを付けて、1〜2週間の電流を記録します。同じ期間に動画か作業記録を取り、電流の波形と実際の状態を突き合わせて、閾値と判定のロジック(波形のならし方・判定の窓)を仮に決めます。軽い負荷の加工でどれだけ遅れるか、常時回るモーターがある機械で待機と加工を分けられるかも、ここで確かめます。分けられない機械は、取付回路を変えるか、個数の信号を足すか、別の方法を検討します。
61〜90日:RFP・FAT/SAT基準・発注判定(AかBか)
実測の結果をもとに、RFPの12項目と、FAT/SATの試験項目・合格基準(正解率と許容する遅れ)を確定し、複数社から同じ条件で見積もりを取ります。自社版の試算で、構成A(CTのみ)から始めるか、構成B(個数と停止理由まで)に進むかを判定します。
90日の終わりに手元にそろえておきたい成果物は、①対象設備の台帳と回路の確認結果、②状態モデルと稼働率の定義、③代表機の閾値と判定の検証記録(正解率・遅れ)、④自社版の投資試算、⑤RFPとFAT/SAT基準、の5点です。
よくある質問
電流センサー(CTクランプ)で稼働監視するとき、何がわかって何がわからないのか?
電流から分かるのは、電気がどれだけ流れているかです。閾値で判定すれば、停止・待機・加工といった状態と、その時間(可用性)が分かります。一方、なぜ止まっているか(材料待ち・段取り待ちなど)は分かりませんし、生産個数(性能)や良品数(品質)にも別のデータが要ります。個数は波形から推定できる場合もありますが、軽い負荷の加工は検出が遅れることがあります。停止理由は入力端末で、個数はPLCやカウンターで、良品数は品質記録で補うのが現実的です。
設備稼働監視は既存設備に後付けできますか?停止は必要ですか?
分割型のCTは、一次側の配線を切り離さずに既設の電線へ取り付けられるので、機械の改造なしで後付けできます。ただし、配線を外さないことと、通電中の盤内で誰でも作業してよいことは別です。メーカーの設置ガイドは、有資格者が、可能な限り停電させてロックアウト・タグアウトを行い、無電圧を確認して作業するよう求めています。タイでは電気に関する労働安全衛生の省令(B.E. 2558)で、作業中の施錠・投入禁止の表示や回路図の更新などが定められています。具体的な適用は、工場の安全担当・電気技術者・専門家に個別に確認してください。
CTセンサーのしきい値はどう設定すればよいですか?
機械ごとに電流のベースラインを実測して決めます。待機や非切削のときの消費電力は機械によって違うので、一般的な目安の値をそのまま使うのはおすすめしません。岐阜県情報技術研究所の研究では、平面研削盤1台について、時系列データを観察して閾値と判定の窓を決め、包絡線で波形をならして状態のばたつきを抑えていました。それでも軽い負荷の加工では検出が遅れました。動画や作業記録と突き合わせて正解率と遅れを測り、閾値の変更手順と履歴も決めておきます。
電流センサーで消費電力(kWh)も計測できますか?
電流だけを測るセンサーでも、設定した電圧から換算してkWhを出せる製品があります。ただし、実際の電圧や力率を測った値ではないので、概算として扱います。正確な電力量が必要なら、電圧も測る電力計を使い、CTの向き(H1/P1を電源側)と電圧の相の割り当てをそろえます。RFPでは、kWhが実測の電力か、換算かを明記してもらいます。
稼働監視システムのRFPとFAT/SATでは何を確認すべきですか?
RFPでは、状態モデルの定義、CTの取付回路と定格、閾値の決め方と変更手順、許容する判定の遅れ、kWhの算出方法、個数・停止理由の取得方法、盤内工事の体制などを書きます。FAT/SATでは、動画や作業記録を正解にした状態判定の正解率、状態が切り替わるときの遅れ、ばたつきの回数、誤判定しやすい条件での挙動、挟み方と向き、通信断と停電後の復帰を確認します。
電流センサーによる稼働監視の費用と回収期間は?
センサーや工事の価格は公開された一次情報が無いため、本記事のモデル試算は仮置きの値で計算しました。20台をCTのみで監視する構成Aは初期投資1,000,000 THB・単純回収約3.6年、個数と停止理由まで取る構成Bは2,000,000 THB・約3.6年で、5年累計はAが374,000 THB、Bが774,000 THBでした。閾値設計とSATを省くと、年間純便益がマイナスになり回収できない、という計算にもなります。自社の実績と複数社の見積もりで計算し直してください。BOIの奨励措置の対象になるかどうかは、所轄機関・専門家に個別に確認してください。
まとめ
- 電流が教えるのは「電気が流れている」ことで、「生産している」ことではない。本当の成果物は、状態モデル(停止・待機・加工の定義)と、機械ごとの閾値。
- CTは交流専用で、1相の導体1本に通す。主電源か主軸・負荷側か、どの回路に付けるかで判定のしやすさが変わる。常時回るモーターがある機械は特に注意する。
- 閾値は機械ごとの実測で決め、ばたつきを抑え、判定の遅れを測る。研究事例の数値は1台の例で、一般値ではない。
- 電流で取れるのは主に可用性。性能には個数、品質には良品数、停止の理由には入力の仕組みが要る。電流だけのkWhは換算値。
- 盤内の工事は有資格者が、停電・ロックアウトと回路図の更新を含めて行う。タイの省令や資格の適用は個別に確認する。
- モデル試算(仮置き値)では、CTのみも個数連携も回収は約3.6年。閾値設計とSATを削ると回収できなくなる。成否を分けるのはセンサーの価格ではなく、閾値設計と受入試験。
TOMAS TECHでは、タイの日系工場を対象に、対象設備の棚卸しや状態モデルの定義、代表機での閾値設計といった準備の段階から、RFPの作成、盤内工事の段取り、FAT/SATの立会い、既存システムとの連携までご相談を承っています。「まずはどの機械のどの回路に付ければよいかを整理したい」という段階でも構いませんので、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。
参考情報
- HIOKI「Current Sensor Working Principle & Characteristics」:https://www.hioki.com/id-id/learning/test-tools/general-current-sensing.html
- Accuenergy「DC Current Sensors」:https://accuenergy.com/products/dc-sensors
- Accuenergy「AcuCT A Series Revenue Grade Split-Core Current Transformer Installation Guide」v1.0.1:https://www.accuenergy.com/wp-content/uploads/acuct-a-series-revenue-grade-split-core-current-transformer-installation-guide.pdf
- Madden, Coleman, Kerr, Quinn「Retrofitting Manufacturing Efficiency: Low-Cost Electrical Current Monitoring for Industrial Machinery」(IET LoDiSA 2024、2024年10月3日):https://pure.ulster.ac.uk/ws/files/216763877/madden-et-al-2024-retrofitting-manufacturing-efficiency-low-cost-electrical-current-monitoring-for-industrial-machinery.pdf
- Industrial Monitor Direct「Current Transformer Open Secondary Terminal Hazards」:https://industrialmonitordirect.com/blogs/knowledgebase/current-transformer-open-secondary-terminal-hazards
- Monnit「ALTA Wireless AC Current Meters」データシート(Omega配布):https://assets.omega.com/spec/AC%20Current%20Meter%20Data%20Sheet.pdf
- 岐阜県情報技術研究所 研究報告 第19号「IoT技術を活用した予防保全に関する研究開発(第1報)」:https://www.gitec.rd.pref.gifu.lg.jp/files/reports/2017/information_2017_01.pdf
- Guidewheel「Machine monitoring without IT, no PLC」(2026年6月10日更新):https://www.guidewheel.com/blog/machine-monitoring-without-it-no-plc
- Lv J. ほか「Experimental study on energy consumption of computer numerical control machine tools」(Journal of Cleaner Production、2016年):https://eprints.gla.ac.uk/145041
- Vorne Industries(OEE.com)「Calculating OEE」:https://www.oee.com/calculating-oee/
- VDE Verlag「IEC 61869-2 Ed.1.0」プレビュー:https://www.vde-verlag.de/iec-normen/preview-pdf/info_iec61869-2{ed1.0}b.pdf
- IEC Webstore「IEC 61010-2-032」:https://webstore.iec.ch/en/publication/18841
- Fluke「IEC Category Ratings」:https://my.fluke.com/en-us/article/KA-03314
- HARDWARIO「CHESTER Current」:https://www.hardwario.com/products/chester/catalog/current/
- ラピスセミコンダクタ「CT Sensor Shield 2」プレスリリース(2018年4月27日):https://digitalpr.jp/r/26982
- タイ労働省 電気に関する労働安全衛生の省令(B.E. 2558、官報写し):https://ams.medsci.nu.ac.th/wp-content/uploads/2022/07/LAW2022/S13-%20กฎกระทรวง%20ความปลอดภัย%20อาชีวอนามัย%20และสภาพแวดล้อมในการทำงานฯ%202558.pdf
- Enviliance「Thailand OSH」:https://enviliance.com/regions/southeast-asia/th/th-osh
- Thai PBS(DSDの電気工の技能評価、2019年10月21日):https://www.thaipbs.or.th/news/content/285360
- Thailand BOI OSOS(2026年上期の投資申請、2026年7月23日):https://osos.boi.go.th/EN/news/2430/Thailand-Secures-43-6bn-1H-2026-Investment-Surge-as-Big-Tec/
- BOI「Measure for Industrial Upgrades towards Smart and Sustainable Industry」(投資奨励ガイド2023抜粋):https://www.boi.go.th/upload/content/Smart_and_Sustainable_Industry.pdf
- The Nation Thailand「Power tariff held at 3.95 baht through year-end」(2026年7月23日):https://www.nationthailand.com/news/40068945
- The Nation Thailand「Thailand cuts September power tariff, caps first 200 units at 3 baht」(2026年8月12日):https://www.nationthailand.com/news/40069705
- Trading Economics「Thailand Industrial Output Growth Beats Forecasts」(2026年9月30日):https://tradingeconomics.com/thailand/industrial-production/news/587981
- Thai PBS World(FTI工業景況感指数、2026年9月9日):https://www.thaipbsworld.com/world/557682