コンベヤを流れてくる製品を、人がトレーやケースに並べ替えている。タイの日系食品・医薬・日用品・電子部品工場では、いまもよく見る光景です。この工程を自動化しようとすると、候補に挙がるのが天吊りで高速に動くパラレルリンクロボット(デルタロボット)です。ところが、パラレルリンクロボット 選定の場面では、カタログに大きく書かれた「○○回/分」や「サイクルタイム○秒」を見て機種を決めかけてしまうことが少なくありません。
この記事の主張は一つです。パラレルリンクロボットの選定は、カタログの最大速度・最大可搬では決まりません。 カタログ値は「25-305-25」のような試験動作での値で、その条件はメーカーごとに違います。実ラインで出る能力は、①実際のワークと実際のハンドでのピック時間、②コンベヤトラッキングとビジョンの処理、③必要な姿勢回転(回転軸の有無で可搬が大きく変わる機種があります)、④洗浄・衛生条件、の4つで決まります。だから RFP(提案依頼書)では「自社の製品・ハンド・レイアウト・目標能力での実演」を条件にし、FAT(工場出荷前試験)と SAT(現地受入試験)では「目標能力に余裕率を掛けた速度で連続運転し、取りこぼし・落下・誤配置が許容範囲内に収まるか」を確かめます。
以下では、生産技術課長や工場長が社内で判断材料をそろえられるよう、次の5段の順番で整理します。
- 対象工程と必要能力の確定(製品の流量[個/分]、ばらつき、ピーク、並べ方のパターン、何台で分担するか)
- ワークとハンドの決定(吸着か把持か、把持・解放の時間、回転の要否、ワーク重量+ハンド重量)
- 機種の絞り込み(軸数、回転軸の有無を含めた可搬、作業領域、衛生仕様・保護等級、取付け方式)
- ビジョン・コンベヤトラッキング・複数台の負荷分散の設計
- 安全・衛生・受入(ガード、ISO 10218:2025、ISO 13857、洗浄手順、FAT/SAT)
なお、記事中の能力設計の例とモデル試算に出てくる流量、台数、人数、金額、回収年数は、すべてこの記事のために置いた仮の数字です。業界平均でも調査値でもメーカーの価格でもありません。
なぜ今、タイの工場でパラレルリンクロボットの選定が問われるのか
タイの工場で並べ替え工程の自動化が検討される背景には、人件費、輸出環境、世界のロボット導入の流れという3つの材料があります。
まず人件費です。タイ労働省の発表(2025年7月17日)によると、2025年7月1日から、バンコクでは全業種で最低賃金が日額400バーツになりました。最低賃金は地域ごとに額が異なり、同じ発表には372バーツの県や、最も低い337バーツの県も並んでいます。また、県によって適用開始日が告示ごとに異なる場合があるため、自社の所在地の額と施行日は個別に確認が必要です。2026年の改定については、2026年10月時点で引き上げの兆しはないとの報道もありますが、これは一次資料ではありません。いずれにしても、並べ替え工程に人を張り付ける費用は、最低賃金そのものではなく、社会保険・賞与・残業・採用と教育の手間まで含めて見る必要があります。
次に輸出環境です。タイ国家食品研究所(NFI)の発表を伝えた報道によると、2025年のタイの食品輸出額は1兆5,100億バーツで、前年比8.1%減でした。2026年1〜2月も2,021億バーツで、前年同期比10.5%減です。輸出が伸び悩む局面では、同じ人数でより多くの品種・荷姿に対応できること、そして人の確保に左右されずにラインを回せることの価値が上がります。
最後に世界の流れです。国際ロボット連盟(IFR)が2026年9月24日に発表した World Robotics 2026 によると、2025年に世界で新たに設置された産業用ロボットは60万台を超え、前年比11%増でした。工場で稼働しているロボットの総数(稼働台数)は過去最高の500万台(前年比9%増)に達しています。国別の2025年の設置台数は、中国が354,000台(世界の59%)、米国が約38,500台(前年比12%増)で日本を抜いて2位、日本は36,219台(前年比19%減)でした。IFR は2026年の設置台数を655,000台、2029年を806,000台と予測しています(いずれも予測)。ちなみに前年版の World Robotics 2025 では、2024年の世界の設置台数は542,000台で、新規設置の74%がアジアでした。なお、World Robotics 2026 のプレスリリースにはタイや ASEAN、食品産業に関する数値は含まれていません。
人手の確保と費用、輸出の逆風、世界的な自動化の広がり。この3つが重なり、「並べ替え工程にロボットを入れられないか」という相談は増えています。そのとき最初に確認したいのが、パラレルリンクロボットという方式そのものの性格です。
パラレルリンクロボットとは:スカラ・垂直多関節との違い
パラレルリンクロボットは、天井側のベースから複数本の腕(リンク)を並列に下ろし、その先端のプラットフォームを動かす構造のロボットです。形がギリシャ文字のΔに似ていることから、デルタロボットとも呼ばれます。川崎重工の Y シリーズのカタログは “Parallel link type” と表記し、食品、医薬、化粧品、電機・電子、機械部品の分野で使われる長リーチ・超高速のピッキングロボットだと説明しています(メーカーの説明)。オムロンの iX4 のデータシートは、4本の腕で負荷を均等に分散する構造で、高速コンベヤ上の高速ピック&プレースに対応すると説明しています(メーカーの説明)。
取付けは、各社とも天吊り(Ceiling、inverted)が基本です。FANUC、ABB、川崎重工、オムロンの資料でいずれも天吊りと記載されています。床に置くロボットと違い、コンベヤの真上から作業するため、ライン上のスペースを取りにくいのが特長です。その反面、架台(フレーム)の剛性と、架台そのものの洗浄性が設計の論点になります。
軸数にはバリエーションがあります。並進3軸に手首の回転1軸を加えた4軸が主流で、FANUC M-2iA や DR-3iB、ABB IRB 360 の4軸版、安川電機 MOTOMAN-MPP3S、川崎重工 YF002N/YF003N、オムロン iX4/Quattro などが該当します。回転の要らない用途向けの3軸機(FANUC M-1iA/1H など)、製品の向きを変える再配向用途の5軸機(ABB IRB 365)、一部の6軸バリエーション(FANUC M-1iA)もあります。
作業領域は「直径×高さ」で表記されます。たとえば川崎重工 YF003N は Φ1,300×H500、オムロン iX4-650 は X・Y 方向のストローク1300 mm、Z 方向500 mm です。作業領域は単純な円柱ではなく、外周や底部では到達できる範囲が狭まる形になるため、外形図で確認することが欠かせません。
スカラロボットや垂直多関節ロボットとの違いを、一般的な性格として整理すると次のようになります。メーカーが方式どうしを数値で比較した一次資料は確認できなかったため、ここでは定性的な比較にとどめます。
| 観点 | パラレルリンク(デルタ) | スカラ | 垂直多関節 |
|---|---|---|---|
| 主な取付け | 天吊り | 床置き(架台上) | 床置き・天吊りなど |
| 得意な動き | 軽いワークの水平移動主体の高速ピック&プレース | 水平移動主体の組立・搬送 | 6軸による姿勢の自由度が要る作業 |
| 可搬の傾向 | 軽量 | 中可搬 | 重可搬まで幅広い |
| 向く工程の例 | コンベヤからトレー・ケースへの並べ替え | 部品の挿入・ねじ締め・整列 | 箱詰め・パレタイズ・機械への投入 |
| 選定で注意する点 | 回転軸の有無で可搬が変わる、作業領域の外周、架台の剛性と洗浄性 | 設置面積、上下方向の動き | 設置面積、安全柵の範囲、サイクル |
方式ごとの価格帯や選び方の総論は「産業用ロボット導入2026|多関節・スカラ等5方式の価格と選び方」で整理しています。本記事は、その中のパラレルリンク方式に絞り、機種選定・RFP・受入試験の実務を扱います。
カタログの「サイクルタイム」「回/分」の読み方
パラレルリンクロボット 選定で最も誤解が起きやすいのが、カタログの速度表記です。結論から言うと、メーカーの公表値は試験条件によって大きく変わるため、メーカーをまたいで数字を横に並べて「どれが速いか」を比べることはできません。
「25-305-25」は共通でも、中身は同じではない
多くのメーカーが「25-305-25」という試験動作を使っています。25 mm 上昇、305 mm 水平移動、25 mm 下降という動きです。ただし、条件の書き方は各社で違います。
- 川崎重工のカタログは「25 mm 上昇、305 mm 水平、25 mm 下降」の往復動作(to-and-fro motion)と記載しています。
- オムロンのデータシートは、25/305/25 に加えて、水平移動を700 mm に伸ばした 25/700/25 の条件も併記し、周囲温度20°Cでの連続(sustained)サイクルタイムだと記載しています。
- ABB の IRB 360 データシート(2013年版)は、25/305/25 と 90/400/90 の2条件を示し、実条件で測定した値だが、実際の用途(ツールデータ、経路の丸め半径、グリッパーの作動など)によって変わり得ると注記しています。
- 安川電機の MPP3S データシートは、25-305-25 に加えて 300-400-100、70-700-70 の3パターンを示し、表のサイクルタイムは「ピッキング時間と製品を含まない」と注記しています。
つまり、同じ「25-305-25」という名前でも、往復か片道か、何 kg を載せたか、ピック・プレースの時間を含むか、連続運転か瞬間的な値か、という条件が揃っていません。
同じ機種でも「把持・解放時間」を含むかで数字が変わる
条件の違いがどれほど効くかを示す好例が、安川電機の MPP3S です。米国のメーカーページは、3 kg 満載で最大150 CPM(cycles per minute、回/分)、1 kg で最大185 CPM と公表し、この値には1サイクルあたり0.04秒の部品の取得と解放の時間が含まれていると明記しています(メーカー公表値)。一方、同じ機種のデータシートの表には「ピッキング時間を含まない」条件での CPM が載っており、こちらは同じ可搬でもより大きな数字になっています。同一機種・同一メーカーでも、把持と解放の時間を含めるかどうかで表記上の能力が大きく違って見えるわけです。
実ラインでは、吸着パッドが真空を確立する時間、真空を破壊してワークを放す時間、ワークが確実に離れたかを待つ時間が必ず発生します。ワークの形や表面状態によっては、カタログが想定するより長くなることもあります。
回転の有無で可搬が大きく変わる機種がある
もう一つの落とし穴が可搬質量です。オムロン iX4-650H のデータシートでは、最大可搬が「6 kg(P30: 15 kg)」と併記されています。P30 は回転のない固定プラットフォームでの最大可搬で、回転付きのプラットフォームでは可搬が大きく下がります。同じ iX4-800H では「4 kg(P30: 10 kg)」です。製品の向きを揃えて並べる工程では回転軸が必要になることが多く、その場合に使える可搬は、カタログ上いちばん大きい数字ではありません。
可搬の計算には、ワークの重量だけでなくハンド(吸着パッド、マニホールド、配管、取付けブラケット)の重量も入ります。複数個を同時に取るマルチピックのハンドは重くなりがちです。
カタログ値から実ライン能力へ
ここまでを整理すると、カタログ値と実ライン能力の差は、次のような要素の積み重ねで生まれます。
- 把持・解放の時間(吸着の確立、真空破壊、離れの確認)
- 実際の移動距離と上下ストローク(コンベヤとトレーの位置関係、トレーのポケットの深さ)
- コンベヤトラッキングとビジョンの処理(流れる製品に追従しながら取る)
- 回転の有無と角度(回転付きでは可搬と動作の条件が変わる)
- 連続運転での発熱や負荷(オムロンはサイクルタイムを連続運転〔sustained〕の値と明記しています)

この差を前提にすると、選定の出発点はカタログではなく「自社の工程に必要な能力」になります。本記事では、次の仮置きの例を使います。
| 項目 | 値(仮置き) |
|---|---|
| 対象工程 | 1ラインのコンベヤから製品をトレーに並べる工程 |
| 製品の流量 | 120個/分 |
| ロボット台数 | 2台で分担 |
| 1台あたりの必要能力 | 60個/分 |
| 受入試験の目標 | 目標能力の1.2倍=1台72個/分、2台合計144個/分で連続運転 |
1台60個/分は、平均すると1秒に1回のピック&プレースです。受入試験ではこれに余裕率1.2を掛け、1台72個/分(60×1.2)、2台合計144個/分(120×1.2)で連続運転させます。余裕率1.2は本記事の提案値であり、業界標準ではありません。 流量のばらつきやピークの大きさ、停止後の追い上げの必要性によって、自社で決めてください。
デルタロボット 比較:主要メーカー機種の公表仕様
ここでは、主要メーカーの代表的な機種について、公式ページやデータシートに記載された仕様を並べます。表の値はいずれもメーカーの公表値(メーカー主張)です。前章のとおり試験条件が揃っていないため、サイクルタイムや回/分によるメーカー横並びの速度比較はしません。 速度は、自社のワークとハンドで実演してもらって確かめるものです。
| メーカー・機種 | 軸数 | 可搬(公表値) | 作業領域(公表値) | 保護等級・衛生(公表値) | 資料 |
|---|---|---|---|---|---|
| FANUC M-1iA/0.5S | 4 | 0.5 kg | リーチ280 mm | IP20 | FANUC America |
| FANUC M-2iA | 4 | 3 kg | φ800 mm・300 mm または φ1130 mm・400 mm | Food Option の記載あり | FANUC 本社 |
| FANUC M-3iA | 4 または 3 | 6 kg または 12 kg | φ1350 mm・500 mm | Food Option の記載あり | FANUC 本社 |
| FANUC DR-3iB/8L | 4 | 8 kg | リーチ1600 mm | 標準で IP69K。無塗装+無電解ニッケルめっきのオプションあり | FANUC America |
| ABB IRB 360(2013年版データシート) | 3/4 または 4 | 1 kg〜8 kg(バリエーションによる) | 800 mm〜1600 mm(バリエーションによる) | 組合せにより IP55、IP67、IP69K | ABB |
| 安川電機 MOTOMAN-MPP3S | 4 | 3 kg | φ800 mm、ストローク300 mm | IP67、クリーンルーム ISO class 4(50%速度)/ class 5(100%速度) | Yaskawa Europe |
| 川崎重工 YF002N | 4 | 2 kg | Φ600×H200 | IP65相当、食品グレードのグリス・オイル | 川崎重工カタログ |
| 川崎重工 YF003N | 4 | 3 kg | Φ1,300×H500 | IP65相当、食品グレードのグリス・オイル、酸・アルカリ洗浄剤での洗浄に対応 | 川崎重工カタログ |
| オムロン iX4-650H | 4 | 6 kg(P30: 15 kg) | X・Y 1300 mm、Z 500 mm | プラットフォーム・アーム IP67 | オムロン |
表を読むときの注意点を補足します。
- ABB IRB 360 の値は2013年版データシート(制御盤 IRC5 の世代)の記載です。 現行仕様と異なる可能性があるため、見積時に最新の資料で確認してください。
- 川崎重工の値は、カタログ(Cat. No. 3L2246 May ’22)の記載です。 同カタログのサイクルタイムは、YF002N が0.3秒(0.5 kg)/0.36秒(2 kg)、YF003N が0.27秒(1 kg)/0.45秒(3 kg)で、条件は前述の往復動作です(カタログ記載値)。別の資料では異なる値が示されている例もあり、版の違いに注意が必要です。
- オムロン iX4 の HS 型は、食肉・家禽加工向けの USDA-Accepted と記載され、プラットフォームがステンレス製です。可搬は H 型と異なり、iX4-650HS は「3 kg(P30: 12 kg)」です。
- 繰返し精度は、川崎重工 YF002N が ±0.04 mm(ISO 9283準拠)、YF003N が ±0.1 mm、安川 MPP3S が ±0.1 mm、オムロン iX4-650 が ±0.10 mm、FANUC M-1iA/1H が ±0.02 mm と公表されています。ただし、コンベヤ上の製品を取る工程で効いてくるのは、静止状態の繰返し精度よりも、後述するトラッキング時の精度です。
- 2025〜2026年に主要メーカーからデルタロボットの新機種が発表されたことは、今回の調査範囲では一次資料で確認できませんでした。発表時期の新しさではなく、工程の条件に合うかで判断してください。
この表は機種を「決める」ためではなく、「候補を絞る」ための材料です。たとえば、回転付きでハンド込みの重量が大きくなるなら、P30 の数字ではなく回転付きの可搬で候補を見直す。コンベヤ幅とトレー位置まで含めて広い範囲を動くなら、作業領域の外周で到達範囲が狭まる点を外形図で確認する。洗浄を前提にするなら、次章以降の衛生仕様で候補を絞る。こうした順番で、2〜3機種に絞ってから実演を依頼するのが現実的です。
ハンドとワーク:高速ピッキング ロボットの能力を決める把持
高速ピッキング ロボットの能力を最終的に決めるのは、ロボット本体よりもハンドとワークの組合せです。カタログのサイクルタイムは軽い試験荷重で測られることが多く、実際の製品とハンドを付けた瞬間に条件が変わります。
吸着か把持か
パラレルリンクロボットの並べ替え工程では、真空吸着が多く使われます。吸着は軽く、取り・放しが速く、ハンドを小さくできるからです。一方、表面に凹凸や通気性があるワーク、油分や水分が付いたワーク、柔らかく形が崩れやすいワークでは、吸着が安定しないことがあります。その場合は、フィンガーで挟む把持や、ワークに合わせた専用のハンドを検討します。ハンドの方式ごとの考え方と把持力の計算は「ロボットハンド・グリッパー選定2026|3方式と把持力計算の実務」、吸着の真空源の選び方は「真空エジェクタ 選定|タイ工場の吸着搬送設計と受入試験」で詳しく扱っています。
把持・解放の時間を測る
前章の安川電機の例のとおり、把持と解放の時間は能力に直結します。1台60個/分の工程なら、1サイクルの中で移動・トラッキング・把持・解放のすべてを平均1秒に収める必要があります。把持と解放にかかる時間は、真空の立ち上がり、ワークの離れ具合、配管の長さなどで変わるため、机上の計算ではなく、実ワークと試作ハンドで測るのが確実です。RFP の段階で「実ワークでの把持・解放時間の実測値」を求めておくと、後の能力計算がぶれにくくなります。
マルチピックという選択肢
1回の動作で複数個を取るマルチピックは、1台あたりの能力を上げる有力な方法です。オムロンの iX4 は、マルチハンド(マルチピッキング)を支える高い可搬を設計の特長として挙げています(メーカーの説明)。ただし、マルチピックのハンドは重くなり、回転付きの可搬の制約に当たりやすくなります。また、複数個を同時に取るには、コンベヤ上の製品の間隔や向きがある程度そろっている必要があります。マルチピックを前提にする場合は、ハンド込みの重量と、製品の流れ方の両方を先に確認してください。
落下と誤配置の扱い
高速で動かすほど、遠心力や加減速でワークが落ちやすくなります。落下したワークをどう扱うか(再投入するのか、廃棄するのか、誰が拾うのか)は、衛生管理と安全の両方にかかわります。落下率と誤配置率の許容値は、受入試験の合否基準として事前に数字で決めておくべき項目です。
コンベヤトラッキングとビジョン、複数台の負荷分散
パラレルリンクロボットの並べ替え工程では、流れている製品を止めずに取る「コンベヤトラッキング」が前提になります。ここでの設計が、実ライン能力と取りこぼしの多さを大きく左右します。
コンベヤトラッキングの基本
従来は、コンベヤにエンコーダを取り付けて速度と位置を取得し、カメラで撮った製品の位置と組み合わせて、ロボットが製品の動きに追従する方式が基本です。各社とも専用のソフトウェアや機能を用意しています。
- FANUC の iRPickTool は、ライントラッキングの設定と運用を簡単にするソフトウェアパッケージで、複数のコンベヤ、固定ステーション、トレー、複数台ロボット間の負荷分散を扱えると説明されています。FANUC Europe のページでは、最大32台のロボット、最大32本のコンベヤ、最大2000ピック/分(複数台協調時)といった値が示されています(いずれもメーカー公表値)。
- FANUC の Real-time Visual Tracking は、高速の2D カメラでエンコーダを使わずにライントラッキングを行う方式で、エンコーダの取付けが現実的でない場面向けとされています(メーカーの説明)。
- FANUC は iRVision の3D ビジョンでライントラッキング用のビジョンプロセスも用意しています。
- ABB は PickMaster で高速のコンベヤに追従できるとしています。
- オムロンの iX4/Quattro はコンベヤトラッキング入力を4つ持ち、NJ501-R コントローラでは最大8台を EtherCAT で接続できるとしています(メーカー公表値)。
- 安川電機の MPP3S は MotoSight、MotoPick、コンベヤトラッキングに対応し、複数台システムを計画する場合は営業窓口への相談を案内しています。
3D ビジョンを使ったコンベヤ追従の発注・検収については「3Dビジョン コンベヤ追従 導入|タイ工場の発注・検収ガイド」で詳しく整理しています。
コンベヤ速度が上がるとトラッキング精度は下がる
見落とされやすいのが、コンベヤ速度とトラッキング精度の関係です。ABB の IRB 360 データシート(2013年版)には、IRB 360-1/1130 と PickMaster を使い実条件で測定したトラッキング時の繰返し精度が載っています。コンベヤ速度が一定200 mm/s のとき1.0 mm、350〜750 mm/s で1.5 mm、800〜1400 mm/s で5.0 mm です(メーカー公表値)。同じデータシートでの静止状態の繰返し位置精度は0.1 mm なので、コンベヤが速くなるほど、取る位置のずれが大きくなることが分かります。
トレーのポケットに入れる工程では、このずれがポケットに入るかどうかを左右します。製品の流量を同じに保つなら、コンベヤを速くするより製品の間隔を詰めるほうが有利な場合もあります。コンベヤ速度、製品間隔、トレーの公差をセットで決めることが大切です。
ビジョンで決めておくこと
ビジョンの役割は、製品の位置と向きを検出し、必要なら取ってはいけない製品(向き違い、重なり、欠け)を判定することです。決めておくべき点は次のとおりです。
- 検出する対象(位置・向きだけか、外観の判定も行うか)
- 照明と背景(コンベヤベルトの色、製品の光沢、周囲光の影響)
- 製品どうしの重なりや接触をどう扱うか(取らずに流す、上流で整列させる)
- 撮像位置からロボットの作業領域までの距離と、その間の製品のずれ
ビジョン導入の費用と効果の考え方は「ロボットビジョン導入の費用と投資回収|供給・精度・照明で決まる」も参考にしてください。
2台で分担する負荷分散
本記事の例では、120個/分の流量を2台で分担し、1台あたり60個/分とします。上流のロボットが取りきれなかった製品を下流のロボットが取る構成が一般的です。

負荷分散で決めておきたいのは次の点です。
- 分担のルール: 上流と下流で半分ずつ取るのか、上流が取れるだけ取り、下流が残りを取るのか。後者は下流の負荷がばらつきやすくなります。
- 取りこぼしの行き先: 2台とも取れなかった製品を、コンベヤの末端でどう回収するか。
- 1台が止まったときの運転: 1台が停止したとき、もう1台で何個/分まで処理できるか、ラインの速度を落とすのか、上流を止めるのか。自動で負荷が再配分される機能があるかどうかは、メーカーの一次資料で確認できなかったものもあるため、候補機種ごとに仕様として確認し、FAT で実際に試してください。
- トレー側の同期: トレーもコンベヤで流れている場合は、トレー側のトラッキングも必要になります。
食品・医薬向けの衛生設計と洗浄(食品 ロボット 洗浄 IP69K)
食品や医薬の工場でパラレルリンクロボットを使う場合、衛生仕様は機種選定を大きく左右します。製品の真上で動くロボットは、潤滑剤の漏れや、汚れのたまりやすい構造が、そのまま異物混入のリスクになるからです。
メーカーの衛生仕様(公表値)
主要メーカーの資料に記載された衛生関連の仕様は次のとおりです(いずれもメーカーの公表値・説明)。
| メーカー・機種 | 保護等級 | 潤滑・材質・洗浄 |
|---|---|---|
| FANUC DR-3iB/8L | 標準で IP69K | 無塗装+無電解ニッケルめっきのオプションあり。ばね・ステッカー・くぼみのある締結部品なし。自己排水する傾斜面。減速機の点検窓でグリス・オイルの漏れを早期に確認できる。食品グレードのグリスと、酸・アルカリの消毒剤に対応する特殊コーティング |
| ABB IRB 360(2013年版データシート) | 組合せにより IP55、IP67、IP69K | 全金属部品がステンレスのオプションは IP69K の検証済みで、工業用洗剤と高圧温水で洗浄可能。潤滑剤不要の関節 |
| 川崎重工 YF002N / YF003N | IP65相当 | 両機種とも食品グレードのグリス・オイルを使用。YF003N は酸・アルカリ洗浄剤による洗浄に対応 |
| オムロン iX4 / Quattro(HS 型) | プラットフォーム・アーム IP67 など | 食肉・家禽加工向けの USDA-Accepted。ステンレス製プラットフォーム |
| 安川電機 MPP3S | IP67 | クリーンルーム ISO class 4(50%速度)/ class 5(100%速度) |
IP69K は高圧・高温の水による洗浄を想定した保護等級として、食品工場の洗浄仕様の議論でよく使われます。ただし、IP69K の機種を選べば衛生設計が完了するわけではありません。洗浄に使う洗剤・消毒剤の種類(酸かアルカリか)、温度、圧力、頻度に、ロボット本体とハンド、配管、ケーブル、架台が耐えられるかを、それぞれ確認する必要があります。
「食品グレード」と NSF H1 の関係
食品工場では、潤滑剤について NSF H1 という区分がよく話題になります。NSF H1 は、一般に、偶発的な食品接触が起こり得る箇所で使う潤滑剤の登録区分を指します。今回確認したメーカーの一次資料では、いずれも “food grade grease”(食品グレードのグリス)という表記で、特定の登録区分は明記されていませんでした。自社の品質基準や顧客の監査で特定の登録区分が求められる場合は、使用している潤滑剤の名称と登録の有無を、メーカーに書面で確認してください。
EHEDG Guideline 62 Part 1
衛生設計の基準として、2026年3月に EHEDG(欧州衛生工学設計グループ)から Guideline 62 Part 1 が初版として公表されました。タイトルは「食品加工環境におけるロボットシステムの衛生設計基準 Part 1:ロボットの基本要求事項」です。適用範囲は開放系の食品加工環境で、湿式・乾式の洗浄の両方を扱い、構造、設置、インテグレーション、文書化の最低要求をカバーしています。EHEDG の機器認証プログラムで衛生設計を評価する際の基礎としても使われます。今後のパートでは、エンドエフェクタ(ハンド)、システムインテグレーション、移動ロボットなどを扱う予定とされています。
ハンドやシステム全体の衛生設計は、今後のパートで扱われる予定の領域です。現時点では、ロボット本体の衛生設計はガイドラインを参照しつつ、ハンドと架台、配管、カバーについては自社の衛生基準とメーカー・SIer の設計で詰める必要があります。
洗浄手順を先に決める
衛生仕様の選定で実務上いちばん効くのは、洗浄手順を先に決めることです。毎日の終業時に高圧温水で洗うのか、乾式の清掃で済ませるのか。ロボットを洗うときにハンドは外すのか。架台の上部やケーブルダクトに洗浄水がたまらないか。こうした手順が決まると、必要な保護等級、材質、カバーの有無が自然に決まります。逆に、手順を決めずに保護等級だけで機種を選ぶと、ハンドや架台が洗浄に耐えられないという事態が起こり得ます。
安全設計(ガード、ISO 10218-1/-2:2025、ISO 13857)
パラレルリンクロボットは高速で動く産業用ロボットであり、協働ロボットではありません。本記事では、人と柵なしで同じ空間で作業する前提は取らず、ガードで囲う前提で整理します。川崎重工のカタログも、掲載写真は安全規則で定められた安全柵や安全装置を外して撮影したものが多いと注記しており、実機では安全柵などが必要になることを前提にしています。
ISO 10218:2025 の改訂
産業用ロボットの安全規格 ISO 10218 は、2025年2月に改訂版が発行されました。ISO 10218-1:2025 は第3版でロボット本体の安全要求、ISO 10218-2:2025 は第2版でロボットアプリケーションとロボットセルの安全要求を扱います。業界誌の解説によると、主な変更点は、機能安全の要求を暗黙から明示へ改めたこと、協働運転の技術仕様 ISO/TS 15066 の内容を統合したこと、エンドエフェクタや手動での投入・取出しの安全指針を取り込んだこと、ロボットの分類の更新、サイバーセキュリティの要求の追加などです。2011年版以来の大きな改訂とされています。
パラレルリンクロボットの導入では、ロボット本体の仕様はメーカーが、セル全体の安全設計は SIer とユーザーが責任を持つ、という役割分担になります。RFP の段階で、どの規格のどの版に基づいてリスクアセスメントと安全設計を行うのかを明記しておくことが大切です。
ISO 13857 の安全距離
ガードの高さや開口部の大きさを決める際の基準が ISO 13857:2019 です。上肢・下肢が危険区域に届かないための安全距離を定めた規格で、2019年発行の第2版が2025年に見直し・確認されています。人体寸法は95パーセンタイルを想定しています。コンベヤの出入口はガードに開口が必要になるため、開口から手が届かない距離をこの規格で確認します。
ガードの構成
一般的には、メンテナンス用の扉にインターロックを付け、扉が開いたらロボットが停止する構成にします。コンベヤの出入口は製品が通る開口部になるため、ISO 13857 の安全距離を確保する、トンネル状のカバーを付けるなどの対策を取ります。ABB の IRB 360 データシートは、監視付きの二重回路、非常停止、安全機能、3ポジションのイネーブル装置を挙げ、衝突検知をオプションとして示しています(メーカーの説明)。
食品工場では、ガードそのものも洗浄の対象になります。透明パネルの材質が洗剤に耐えられるか、ガードの下部に汚れがたまらないか、といった衛生面の確認も必要です。安全柵の要否と停止距離の考え方は「ロボット安全柵の規格2026|要否を決めるのは柵ではなく停止距離」で詳しく解説しています。
パラレルリンクロボット 価格と費用対効果のモデル試算(仮の数字)
パラレルリンクロボット 価格については、今回確認した FANUC、ABB、安川電機、川崎重工、オムロンの公式ページ・データシートのいずれにも公開価格はありませんでした。実際の費用は、ロボット本体と制御盤に加え、ビジョン、ハンド、コンベヤ、安全柵(ガード)、衛生仕様、SI(システムインテグレーション)の範囲によって大きく変わります。必ず見積で確認してください。
そのうえで、費用対効果を社内で議論するための考え方を、仮置きのモデル試算で示します。以下の数字はすべてこの記事のために置いた仮の値です。
モデル工場の前提
対象は前章までの例と同じ1ラインのみで、工場全体ではありません。通貨はタイバーツ(THB)、3交替で運転しているとします。比較の基準(ベースライン)は「現状=12人で人手による並べ替え」の1本だけです。
| 項目 | 値 | 計算・備考 |
|---|---|---|
| 現状の作業者(並べ替え工程) | 1交替4人×3交替=12人 | 仮置き |
| 自動化後に残る作業者(供給・監視・段取り) | 1交替1人×3交替=3人 | 仮置き |
| 削減人数(中位ケース) | 9人 | 12−3 |
| 1人あたり年間人件費(賃金・社会保険・賞与・残業等の総額) | 180,000 THB/年 | 仮置き。最低賃金そのものではない |
| ① 人件費の削減 | 1,620,000 THB/年 | 9×180,000 |
| 初期費用(ロボット2台・ハンド・ビジョン・トラッキング・ガード・衛生仕様・据付・FAT/SAT) | 5,280,000 THB | 仮置き。公開価格は無いので見積で置き換える |
| 年間運用費(保守契約・吸着パッド等の消耗品・予備品・保全工数) | 300,000 THB/年 | 仮置き |
| 年間純効果 | 1,320,000 THB/年 | 1,620,000−300,000 |
| 単純回収年数 | 4.0年 | 5,280,000÷1,320,000 |
この前提では、年間の純効果は1,320,000 THB、単純回収年数は4.0年になります。
削減人数が変わると回収年数はどう動くか
この試算で最も前提に依存するのが削減人数です。初期費用と運用費を固定し、削減人数だけを変えると次のようになります。
| 削減人数 | ① 人件費の削減 | 年間純効果 | 単純回収年数 |
|---|---|---|---|
| 6人(1交替2人削減、または2交替で3人削減) | 1,080,000 THB/年 | 780,000 THB/年 | 6.8年(5,280,000÷780,000=6.77) |
| 9人(中位ケース) | 1,620,000 THB/年 | 1,320,000 THB/年 | 4.0年 |

削減人数が9人から6人に減るだけで、回収年数は4.0年から6.8年に延びます。削減人数は「ロボットで必ず実現できる値」ではなく、効果がどれだけ前提に依存するかを示すための仮置きです。 自動化後も、製品の供給、トレーの補充、取りこぼしの回収、段取り替え、洗浄に人が要ります。実際の値は、現場の作業分析と FAT の結果で置き換えてください。
試算に含めていないもの
- BOI の税制恩典は、回収年数の計算に含めていません。 後述する BOI の効率向上措置の対象になれば法人税の免除などが受けられる可能性がありますが、適用の可否は案件ごとに確認が必要なためです。
- 品質改善や歩留まり向上の効果も数えていません。 人手による並べ替えでの誤配置や異物混入リスクの低減は、定性的には効果があり得ます。しかし、ベースラインを1本に保ち、効果の二重計上を避けるため、ここでは人件費の削減だけで計算しています。社内の稟議では、こうした効果は「数字に含めていない上振れ要因」として別に書くのが安全です。
パラレルリンクロボットの RFP に書く項目
ここまでの論点を、RFP に書く項目として整理します。ポイントは、「カタログ値の提示」ではなく「自社条件での実演と、その条件での約束」を求めることです。
| No. | 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|---|
| 1 | 対象工程と目標能力 | 製品の流量(個/分)、ばらつきとピーク、並べ方のパターン、台数の想定、受入試験の目標能力と余裕率 |
| 2 | ワークの仕様 | 品種ごとの寸法・重量・表面状態、許容できる把持の跡、温度や水分の状態 |
| 3 | ハンドの仕様と把持時間 | 吸着か把持か、ハンド込み重量、実ワークでの把持・解放時間の実測値、マルチピックの有無 |
| 4 | 回転の要否と可搬 | 回転の要否と角度、回転付きでの可搬の公表値と余裕 |
| 5 | 作業領域とレイアウト | コンベヤ幅、トレー位置、上下ストローク、外形図での到達範囲の確認 |
| 6 | 公表能力の試験条件 | 提示するサイクルタイム・回/分の試験動作、可搬、把持時間を含むか、連続運転の値か |
| 7 | コンベヤトラッキングとビジョン | エンコーダ方式かエンコーダレスか、検出対象、照明、コンベヤ速度とトラッキング精度 |
| 8 | 複数台の負荷分散 | 分担のルール、取りこぼしの扱い、1台停止時の運転と処理能力 |
| 9 | 衛生仕様と洗浄 | 洗浄手順(洗剤・温度・圧力・頻度)、保護等級、潤滑剤の名称と区分、ハンド・架台・ガードの材質 |
| 10 | 安全設計 | 準拠する規格と版(ISO 10218-1/-2:2025、ISO 13857:2019 など)、ガードの構成、リスクアセスメントの範囲 |
| 11 | 実演の条件 | 自社の製品・ハンド・レイアウトに近い条件での実演、実演時の測定項目 |
| 12 | 受入試験と保守 | FAT/SAT の項目と合否基準、保守契約、予備品リスト、現地での対応体制 |
特に重要なのは6番と11番です。各社の公表値を同じ土俵で比べることはできないため、「どの条件の数字か」を書いてもらい、そのうえで自社条件で実演してもらう。この2つをセットにすると、提案どうしを比べやすくなります。
FAT/SAT で確認すること
FAT は SIer の工場など出荷前の環境で、SAT は自社の工場に据え付けた後に行う受入試験です。パラレルリンクロボットの FAT/SAT では、目標能力に余裕率を掛けた速度で連続運転し、取りこぼし・落下・誤配置が許容範囲内かを確かめることが中心になります。
| 区分 | 確認項目 | 確認の方法・基準の例 |
|---|---|---|
| 能力 | 目標能力×余裕率での連続運転 | 本記事の例では1台72個/分、2台合計144個/分で、事前に決めた時間連続運転する |
| 能力 | 取りこぼし率 | 取れずに流れた製品の数を数え、許容値と比べる |
| 能力 | 落下率・誤配置率 | トレーへの入れ間違い、ポケットからのはみ出し、搬送中の落下を数える |
| ワーク | 品種ごとの確認 | 品種ごと、特に最も重い・最も滑りやすい・最も形が崩れやすい品種で試す |
| ワーク | 製品の状態 | 把持の跡、変形、欠けなどが品質基準内か |
| トラッキング | コンベヤ速度の変化 | 速度を変えたとき、立上げ・停止のときの追従 |
| トラッキング | ビジョンの判定 | 向き違い・重なり・欠けの検出と、取らずに流す動作 |
| 負荷分散 | 1台停止時の運転 | 1台を止めたとき、残りの1台での処理能力とラインの挙動 |
| 衛生 | 洗浄手順の実施 | 実際の洗剤・温度・圧力で洗浄し、水のたまり、漏れ、腐食の兆候を確認する(SAT で重点的に) |
| 安全 | ガードとインターロック | 扉の開放で停止するか、開口部の安全距離、非常停止の動作 |
| 運用 | 段取り替えと復帰 | 品種切替の手順と時間、停止からの復帰手順、現地スタッフが操作できるか |
FAT では SIer 側の環境で能力と機能を確認し、SAT では自社の製品、自社のコンベヤ、自社の洗浄手順で同じ項目を再確認します。特に洗浄と衛生は、自社の環境でしか確かめられない項目です。また、FAT で得た実際の能力と、自動化後に残る作業の実態は、前章のモデル試算の削減人数を置き換える材料にもなります。
ケースへの箱詰めまで含めた工程全体の考え方は「箱詰め自動化ロボット2026|止まるのは詰める工程ではない」も参考にしてください。
タイ・ASEAN 固有の論点
1. BOI の効率向上措置
タイ投資委員会(BOI)には、既存事業の機械の更新や自動化を対象にした効率向上の措置があります。BOI 告示 No.15/2565(2022年12月8日)の「スマートで持続可能な産業への高度化措置」の中にある「機械の更新・自動化による効率向上措置」です。BOI の投資奨励ガイドによると、主な内容は次のとおりです。
- 対象: 既存事業(BOI 奨励の有無を問わない)。投資額100万バーツ以上(土地・運転資金は含めない)。BOI 奨励プロジェクトの場合は、法人税免除期間が終了済みであること
- 恩典: 機械の輸入関税の免除、3年間の法人税免除(上限は投資額の50%)
- 自動化・ロボットの投資で、タイの自動化産業からの調達(リンケージ)が改善する機械価値の30%以上の場合、上限は投資額の100%
- 稼働開始は奨励証書の発行から3年以内
申請の期限は今回確認した資料からは分かりませんでした。また、報道では2025年7月にタイの中小企業(SME)向けの拡充策が伝えられていますが、対象はタイ企業の SME とされており、日系の大企業には当てはまらない可能性が高いと考えられます。自社が対象になるか、どの措置を使えるかは、BOI または専門家に個別に確認してください。前述のとおり、本記事のモデル試算は BOI の恩典を含めずに計算しています。
2. 最低賃金と人件費の見方
前述のとおり、最低賃金は地域ごとに異なり、施行日も告示によって違う場合があります。費用対効果を試算するときは、最低賃金ではなく、社会保険、賞与、残業、採用と教育の手間を含めた1人あたりの総額で考えるのが実態に近づきます。
3. 現地の SIer と保守部品
パラレルリンクロボットは、本体だけでなく、ビジョン、トラッキング、ハンド、ガード、衛生仕様を組み合わせて初めて動きます。タイで導入する場合は、現地でこれらを一括して設計・据付・立上げできる SIer がいるか、故障時に現地で対応できるか、吸着パッドなどの消耗品や予備品がタイ国内で調達できるかを確認してください。高速で動くロボットは、ハンドの消耗品の交換頻度も上がりがちです。予備品リストと在庫の持ち方は、RFP の段階で決めておくと立上げ後に困りません。
4. 操作と教育の言語
段取り替えや停止からの復帰を担うのは、現地のスタッフです。操作画面や手順書の言語、教育の範囲と回数を、提案の比較項目に入れておくことをおすすめします。
よくある質問
パラレルリンクロボットとは何ですか?
天井側のベースから複数本の腕を並列に下ろし、先端のプラットフォームを動かす構造のロボットで、デルタロボットとも呼ばれます。天吊りで取り付け、軽いワークを水平方向に高速で動かすピック&プレースが得意です。食品、医薬、化粧品、電機・電子などの分野で、コンベヤから製品を取ってトレーやケースに並べる工程によく使われます。
デルタロボットの価格はどれくらいですか?
主要メーカーの公式ページやデータシートには公開価格がありません。費用はロボット本体と制御盤に加え、ビジョン、ハンド、コンベヤ、ガード、衛生仕様、SI の範囲で大きく変わるため、見積で確認する必要があります。本記事では社内議論のための仮置きの試算を示していますが、実際の金額ではありません。
デルタロボットはどう比較すればよいですか?
カタログのサイクルタイムや回/分をメーカーをまたいで並べるのではなく、可搬(回転付きかどうか)、作業領域、衛生仕様、トラッキング機能で候補を絞り、自社の製品とハンドでの実演で能力を比べます。公表値は試験条件がメーカーごとに異なり、同じ機種でも把持・解放の時間を含めるかどうかで数字が変わるためです。
スカラロボットとどちらを選ぶべきですか?
一般的には、コンベヤ上の軽いワークを高速で並べ替える工程はパラレルリンクロボット、床置きで部品の挿入や整列を行う工程はスカラロボットが向いています。ただし、ワークの重さ、必要な姿勢、設置スペースによって答えは変わります。方式ごとの総論は関連記事を参考にしてください。
パラレルリンクロボットは水で洗浄できますか?
機種によります。メーカーの公表値では、IP69K に対応する機種や、酸・アルカリの洗浄剤での洗浄に対応する機種があります。ただし、ロボット本体だけでなく、ハンド、配管、ケーブル、架台、ガードが洗浄に耐えられるかを確認する必要があります。洗浄の手順(洗剤・温度・圧力・頻度)を先に決めてから機種を選ぶのが確実です。
コンベヤトラッキングには何が必要ですか?
一般的には、コンベヤの速度と位置を取るエンコーダ、製品の位置と向きを検出するカメラ、ロボット側のトラッキング機能が必要です。エンコーダを使わずに高速カメラで追従する方式もメーカーから提供されています。コンベヤ速度が上がるとトラッキング時の精度が下がる傾向があるため、速度、製品間隔、トレーの公差をセットで決めます。
1台で足りるか、2台必要かはどう決めますか?
必要な流量を、1台が自社の製品とハンドで実際に出せる能力で割って決めます。その際、余裕率を見込みます。本記事の仮置きの例では、120個/分を2台で分担し、受入試験では1台72個/分で連続運転できるかを確認する設計にしています。1台が止まったときの運転方法も、台数を決める判断材料になります。
まとめ
- パラレルリンクロボット 選定は、カタログの最大速度・最大可搬では決まりません。公表値は試験条件がメーカーごとに異なり、同じ機種でも把持・解放の時間を含めるかどうかで数字が変わります。
- 実ラインの能力は、実ワークと実ハンドでのピック時間、コンベヤトラッキングとビジョン、回転の有無、洗浄・衛生条件で決まります。回転付きでは可搬が大きく下がる機種があります。
- 選定は、①必要能力の確定、②ワークとハンド、③機種の絞り込み、④トラッキングと負荷分散、⑤安全・衛生・受入、の順番で進めます。
- 食品・医薬では、洗浄手順を先に決め、ロボット本体だけでなくハンド・架台・ガードまで衛生仕様を確認します。潤滑剤の区分は書面で確認します。
- 費用対効果は削減人数の前提に大きく依存します。仮置きの試算では、削減人数が9人なら回収4.0年、6人なら6.8年でした。実際の値は作業分析と FAT で置き換えます。
- RFP では自社条件での実演を求め、FAT/SAT では目標能力に余裕率を掛けた速度で連続運転し、取りこぼし・落下・誤配置が許容範囲内かを確かめます。
TOMAS TECH では、タイの工場のラインや製品に合わせて、ロボットによる並べ替え・ピッキング工程の自動化をお手伝いしています。機種が決まっていない段階、たとえば対象工程の流量の整理や候補機種の絞り込みの段階でもご相談いただけます。お問い合わせはこちらのフォームからお気軽にどうぞ。
参考情報
- FANUC:デルタロボット一覧
- FANUC America:M-1iA/1H
- FANUC America:M-1iA/0.5S
- FANUC America:DR-3iB/8L
- FANUC America:食品向けデルタロボットの発表(2019年9月23日)
- FANUC America:iRPickTool
- FANUC Europe:iRPickTool Advanced Line Tracking
- FANUC America:Real-time Visual Tracking
- FANUC America:iRPickTool iRVision 3D
- ABB:IRB 360 データシート(2013年5月)
- ABB:IRB 365 の発表
- Yaskawa America:MPP3S
- Yaskawa Europe:MPP3S データシート
- 川崎重工:Y シリーズ カタログ
- オムロン:iX4 / Quattro データシート
- ISO:ISO 10218-1:2025
- ISO:ISO 10218-2:2025
- ISO:ISO 13857:2019
- Control Design:ISO 10218 改訂の解説
- EHEDG:Guideline 62 Part 1 の公表(2026年3月24日)
- EHEDG:Guideline 62 Part 1
- IFR:World Robotics 2026 の発表(2026年9月24日)
- IFR:World Robotics 2025 の発表
- BOI:Smart and Sustainable Industry 措置
- Nation Thailand:BOI の SME 向け措置(2025年7月14日)
- タイ労働省:最低賃金の改定(2025年7月17日)
- Thairath:2026年の最低賃金(参考)
- Nation Thailand:タイの食品輸出(2026年3月31日)