「コンベヤを止めずに、向きがばらばらの部品をロボットでつかめないか」。タイの工場でこの相談を受けたとき、3Dビジョン コンベヤ追従の導入可否はカメラの認識率だけで決まりません。部品が視野に入ってからロボットが接触するまでの時間、搬送速度の揺れ、把持後の挿入や締結、そして安全停止後の復帰を一つの工程として評価する必要があります。本稿は設備担当者が見積依頼、90日間の実証、FATとSATを具体的な数字で進めるための実務ガイドです。
2026年9月の発表は何を変え、何を保証していないか
ニコンは2026年9月30日、ロボットビジョンシステムに3Dビジョントラッキング機能を追加すると発表しました。公表された発売時期は2026年10月で、既存システムの顧客には有償ソフトウェアアップデートとして提供する予定です。3Dカメラで移動するワークの位置だけでなく傾き、姿勢、向きを計測し、ランダムな方向の鋳物や部品のピッキング、車体へのグロメット挿入、移動中のワークへのボルト締結を用途に挙げています。また、同社の構成では追加のエンコーダーなどの設備を必要としないと説明しています。これはニコンの特定システムについての発表であり、すべてのコンベヤ追従方式にエンコーダーが不要という意味ではありません。出典:ニコンの2026年9月30日発表。
同社は2025年11月に軽量・小型の2D追従専用モデルも紹介しています。そこでは2Dカメラによる平面上の位置と速度の変化への追従を主眼に置き、カメラや制御PC、校正板を構成要素として示しています。高さと姿勢を要求する工程には3D、平面上の位置だけで足りる工程には2Dという比較軸ができます。ただし「3Dだから2Dより必ず速い」「既設設備ならソフト更新だけで据付が終わる」とは読めません。レンズ、照明、ロボット、ハンド、制御インターフェース、安全柵、現場校正の適合性は個別確認が必要です。出典:ニコンの2025年11月26日発表。
発表資料にタイ工場での処理個数、認識精度、稼働率、価格の保証値はありません。調達文書にメーカーの宣伝文句を数値保証として転記しないことが重要です。ライン固有のワークと速度を用いて受入基準を合意し、試験で実測します。
まず「追従する作業」を一文にする
導入の議論は「3Dビジョンを買う」から始めると拡散します。例えば「ランダムな向きで単層搬送される鋳物を、停止せずにピックして治具へ置く」「移動中の車体穴へグロメットを挿入する」「搬送中の板金ワークの指定点に締結する」と、ワーク、動き、ロボットの動作、良品判定を一文で定義します。この一文をRFPの先頭に置けば、カメラの解像度だけを競う見積もりを防げます。
静止した箱の中から部品を取り出すバラ積みピッキングと、走行中のコンベヤ上の部品を追いかける作業は、時間の扱いが違います。前者は遮蔽、衝突回避、把持候補が中心です。後者は認識時刻とロボット到達時刻の差、速度変動、移動中の再観測が中心になります。既存のロボットビジョン導入の費用と投資回収は供給、精度、照明の一般的な費用構造を扱っています。本稿ではその先の「動くワークへの追従」と検収に範囲を絞ります。ピッキングロボット導入の検討と併せて、停止ピックとの境界を確認してください。

3Dが必要な条件と、2Dで足りる条件
3Dが効くのは、ワークの高さや傾きが接近角度と接触位置に影響する場合です。鋳物の表裏や傾きがばらつく、成形品がベルト上で回る、車体側の穴面が動いて締結軸が変わるといった工程では、平面のX・Y・回転だけでは動作を確定できません。一方、単層で平らに搬送され、高さが治具で一定、吸着点も固定なら、2Dとセンサーで十分な場合があります。3Dを要件に書く前に、ワークの高さ分布、許容姿勢、必要な工具角度を測ってください。
「3D」は一つの機能名ではありません。点群、ステレオ、構造化光などの計測原理と、認識、追跡、ロボットへの座標転送は別の層です。光沢のある金属、黒色樹脂、深い穴、重なり、油、切粉、外乱光では可視領域が変わります。候補機のデモでは代表的な新品部品だけを流さず、最大・最小サイズ、色違い、汚れ、傷、部分遮蔽、混流品を混ぜます。治具で部品を整列させればビジョンが不要になる可能性も見積り比較に残します。
方式比較は「エンコーダーあり/なし」だけでは不十分です。ニコンは自社の3D追従について追加エンコーダー不要と説明しています。他方、ABBのConveyor Tracking Moduleはカメラ/センサーとコンベヤ/エンコーダーの接続口を備える構成例を公開しています。両者は製品のアーキテクチャが違います。ベルト速度の変動、滑り、制御盤から取得できる信号、停止後の再起動条件を踏まえ、どの時点の位置をどの装置が責任を持って推定するかを比較してください。出典:ABB Conveyor Tracking Module。
FANUCもiRPickToolと3D iRVisionの組み合わせをライン追従と部品検出のソリューションとして紹介しています。重要なのはブランド名を並べることではなく、同一ワーク、同一速度、同一良品判定で比較できる試験条件を作ることです。出典:FANUC iRPickTool/3D iRVision、FANUCの動的アプリケーション解説。
RFPに載せるべき入力データ
見積依頼には、設備仕様書のほかに「実際の流れ」を添えます。ワーク図面だけでは、姿勢の出現比率やベルト上の間隔は分かりません。最低でも複数シフトの動画、品種別の混流比、最大・最小・通常の搬送速度、加減速と瞬停のログ、良品・不良品サンプルを渡します。安全上または機密上、動画を社外に出せないなら、現地で撮影・試験する条件をRFPに記します。
| 入力項目 | 渡す内容 | 見積りへの影響 |
|---|---|---|
| ワーク | 材質、寸法公差、重量、表面状態、把持禁止面、品種数 | カメラ、照明、ハンド、認識モデル |
| 供給 | 単層・重なり、向きの分布、個間距離、混流、落下や跳ね | 視野、再撮像、整列機構 |
| 搬送 | 通常・最大・最小速度、加減速、蛇行、滑り、停止/再起動 | 追跡方式、ロボット可動範囲 |
| 工程 | ピック、挿入、締結、検査、手直しの順序と良品条件 | 工具、力制御、後工程連携 |
| 制御 | PLC機種、I/O、ネットワーク、既存エンコーダー、時刻同期 | 接続工数と責任分界 |
| 現場 | 照明変動、油・粉じん、温湿度、清掃、保全技能 | 保護構造、校正・保守計画 |
| 安全 | 人の立入り、柵、扉、非常停止、解除手順 | リスクアセスメントと安全機器 |
発注側は「認識できないワークの扱い」も書きます。見逃したら下流へ流すのか、排出するのか、搬送を止めるのか。二重ピック、空振り、落下、別品種の混入に対するラインの反応を決めないまま認識率だけ合意すると、量産試運転で揉めます。除外品を手作業で回収するなら、その作業時間と安全な導線もTCOに入れます。
時間予算を分解して「届くか」を先に計算する
ワークがカメラ視野を通過した時刻からロボットが接触するまでには、露光、画像転送、3D復元、対象判定、ロボットの軌道更新、ハンドの動作が連なります。各遅延の平均だけでなく上側のばらつきを確認します。理論上の可動範囲に入っていても、追跡が遅れるとワークは到達不能な位置へ進みます。
設計レビューでは、速度が一定という近似のもとで次の関係を測定値で埋めます。「利用可能時間=撮像位置から最後に安全に把持できる位置までの距離÷その速度」。加減速がある実ラインでは速度履歴を用いて位置を時間積分し、追跡が成立する時間窓を実測します。これに対し「必要時間=撮像から認識完了まで+座標伝達と軌道補正+ロボット接近+把持判定+安全余裕」を比較します。距離や時間に余裕がなければ、速いカメラに替える前に、撮像位置を上流へ移す、ハンドを軽くする、ピック範囲を広げる、ワーク間隔を確保するなどの設計を検討します。この式は検討の枠組みであり、製品性能の保証式ではありません。
例えば「速度0.5m/s、撮像位置からピック可能範囲の終端まで0.8m」という値を仮に置くと、利用可能時間は1.6秒です。これは説明用の仮定値で、タイ工場の標準速度ではありません。ここから安全余裕、ロボット接近、把持確認を差し引いて初めて画像処理に使える時間が分かります。停止、再加速、手動ジョグで同じ式が成立するかも試験します。

KPIは「カメラの正解率」ではなく工程の良品流出で決める
PoCの主指標を認識率だけにすると、カメラがワークを見つけてもロボットが取れない工程を成功と数えてしまいます。発注側は対象母数を明確にした複数の指標を定義します。「投入ワーク数」「検出候補数」「正しいID/姿勢を得た数」「安全な到達領域に入った数」「ピック成功数」「挿入/締結完了数」「最終検査合格数」「人手介入数」を同じロット単位で記録します。画像処理会社、ロボットSI、工場の責任境界を追えるためです。
通過率、ピック成功率、最終良品率はそれぞれ分母を明示します。例えばピック成功率を「ピック指令の出たワークのうち把持完了が確認された数/ピック指令数」とし、投入母数から除いた対象は理由コードを残します。保全性のためには平均値だけでなく、最悪条件に近い短時間窓と連続運転の両方を見ます。採否閾値はワークの価値、安全性、人による手直し可能性で変わるため、この記事では一律の合格率を置きません。RFPに工場自身の閾値と試験ロット数を記入します。
締結の場合は位置が合うだけでは不十分です。トルク、角度、ネジ山損傷、工具の空転を確認します。挿入では挿入力、着座深さ、向き違い、部品の傷を確認します。ピックではワーク落下、他ワークとの接触、手直しの要否を確認します。下流検査の見逃しを含めて工程の良品判定とします。必要な測定器とトレーサビリティのデータ構造も見積り対象にします。
90日PoCの進め方|購入判断までの四つのゲート
90日は万能の標準工期ではなく、発注前の検証を管理するための例です。既設ロボットや安全設備の有無、サンプルの調達時間によって変えます。大切なのは、全期間を「デモを見る時間」にせず、次のゲートで不確実性を減らすことです。
| 期間の例 | ゲート | 必須成果物 | 中止または条件変更の判断 |
|---|---|---|---|
| 1〜15日 | 現場定義 | ワーク・搬送・安全のベースライン、対象外条件、目標KPI | 実データ不足なら購買を保留 |
| 16〜35日 | 光学・把持成立 | 全品種の撮像サンプル、照明案、把持候補と失敗理由 | 認識不能品が多ければ供給方法を再設計 |
| 36〜65日 | 動的セル試験 | 速度変動を含むログ、指令と実動作の時系列、除外処理 | 到達時間や安全余裕が足りなければ配置変更 |
| 66〜90日 | 現場相当試験 | 連続運転、段替え、停止復帰、品質・保全・教育記録 | 工場の閾値を満たせなければ量産投資を保留 |
初期ゲートでは、机上のワーク図面ではなく実際の搬送を観察します。品種ごとに何個流れるか、作業員が無意識に向きを直していないか、夜勤の照明条件、清掃直後と稼働末期の差を記録します。現場の小さな手作業が隠れた整列装置になっている場合があります。そこを外して自動化した瞬間に姿勢分布が変わるため、PoCサンプルは工程変更後の状態を再現する必要があります。
動的試験では、デモ用の一定速度だけを使わず、実運転で起きる加減速と間欠停止を含めます。作業者が安全扉を開けた後、再開時に旧座標を誤って使わないか。通信が切れたときワークをどこまで追跡するか。カメラレンズが汚れたら何をアラームにするか。これらは「画が見える」デモでは出てこない故障モードです。
PoCの最終資料には成功動画だけを載せないでください。除外品の一覧、失敗時刻、根本原因、再現条件、対策と残存リスクを一表にします。タイの現場チームが引き継げるよう、英語またはタイ語の画面表示と手順書、校正作業の担当も決めます。
見積りはカメラ価格で比較しない
同じ「3Dビジョン付きロボットセル」でも、対象範囲が違えば価格比較はできません。最低限、カメラとレンズ、照明、制御PC、ライセンス、ロボット、ハンド、力・トルク機器、コンベヤ改造、PLC連携、安全機器、治具、設計、据付、試運転、教育、予備品、現地保守を分けて見積らせます。更新費、追加SKU学習、カメラ再校正、夜間対応、部品交換のリードタイムもTCOに入れます。
ニコンの既設システム向け有償ソフトウェア更新は、調達形態の一つです。ただし既設ハードやロボットが今回の3D追従に適合するか、現地で使えるサポート体制があるか、費用がいくらかは発表資料だけでは分かりません。既存設備を使う案、別メーカーの追従モジュールを組む案、供給を整列させて2Dにする案、工程を一度停止させる案を同じ生産目標で比較します。稼働後の人手回収や品質損失まで含めて、投資判断を行います。
固定価格の見積りを急ぐ前に、仕様変更の価格表を求めてください。品種が増える、ベルト速度が上がる、ハンドを替える、カメラを移設する、工場のネットワーク規則が変わる場合の費用と工期を知ることで、初期価格の安さが後工程の高額な変更費へ移っていないか確認できます。
FATとSATで何を分けて検収するか
FATは製作側または試験設備で、合意済みのワークと再現条件を使って機能を確認する段階です。SATはタイ工場の実ラインで、照明、振動、搬送、PLC、安全扉、作業者との関係を含めて確認する段階です。FATの合格はSATの代わりにはなりません。特にコンベヤ追従では、実ラインの速度変動とワークの滑りが現れて初めて問題が分かることがあります。
| 試験 | FATで確認 | SATで追加確認 | 証跡 |
|---|---|---|---|
| 認識・姿勢 | 全品種、良・不良、遮蔽、照明変化 | 現場光、汚れ、振動、混流 | 元画像、判定、理由コード |
| 動的追従 | 設定速度範囲、加減速、停止復帰 | 実ベルト、滑り、PLC時刻差 | 時刻付きイベントログ |
| 作業品質 | ピック、挿入、締結の規格値 | 後工程検査、手直し、連続運転 | 測定値とロットID |
| 安全 | 柵、扉、非常停止、復帰 | 現場の人流、保全作業 | リスク評価とテスト記録 |
| 運用 | アラーム、品種切替、校正 | 現地担当者による操作 | 手順書、教育・承認記録 |
契約書には各試験のサンプル数、対象外の定義、閾値、再試験回数、ログの保存先、承認者を記します。「概ね正常」「現場で調整」だけでは客観的な検収になりません。FATで落ちた項目をSATに先送りする場合は、未解決項目と暫定対策を別紙に残し、量産開始の条件を明示します。
安全はロボット単体のカタログだけで判断できません。ISO 10218-2:2025は産業用ロボットのアプリケーションとロボットセルの安全要求事項を扱います。移動ワークの把持、落下、挿入治具、人の近接、保全時の復帰を含むセル全体のリスクアセスメントを発注範囲に入れます。規格の存在だけで現地法令や個別設備への適合を証明するものではありません。出典:ISO 10218-2:2025。

責任分界を先に書く|タイでの保守と改造まで含める
3Dカメラメーカー、ロボットメーカー、ハンドメーカー、コンベヤ設備メーカー、SI、工場保全が別々だと、失敗時に「座標は渡した」「ロボットは指令どおり動いた」と責任が分かれます。発注側はインターフェース表に信号名だけでなく、タイムスタンプの基準、座標系、誤認識時の動作、通信タイムアウト、復帰権限を記します。誰が原因を切り分け、どこまで無償で直し、いつから保守契約に移るかを合意します。
タイの工場では、現場で英語・タイ語・日本語が混在する場合があります。アラーム表示、作業者手順、保全マニュアルの言語を指定し、日常点検を担当する人が実際に使えるかSATで試します。カメラの再校正やモデル追加をベンダーだけが行える設計なら、その作業の費用、所要時間、遠隔接続の許可条件を明記します。停電、ネットワーク断、部品交換後に現地の担当者だけで安全に戻せる範囲も決めます。
TOMAS TECHのロボットハンド・グリッパー選定ガイドも併せて読むと、把持力と爪形状の条件を視覚系から切り離して検討できます。追従精度が良くても、ハンドが滑れば工程は成立しません。
発注前の現場確認チェックリスト
ベースラインは一日平均でなく品種と時間帯で切る
追従セルを設置する前の工程能力を一つの平均タクトだけで表すと、導入後に改善したかどうかが分からなくなります。品種別に投入数、良品数、取りこぼし数、手直し数、停止分数を記録し、昼勤、夜勤、段替え直後、清掃前後を分けます。例えば昼勤の整列した部品だけで成立したPoCを、夜勤の混流品へそのまま展開してはいけません。現在の作業者がワークを取りやすい向きへ直す、隙間を空ける、表裏を見分けるといった補正を行っているなら、その頻度を動画と作業観察から数えます。その補正がロボット化後も残る設計なのか、機械に移す設計なのかで、必要なカメラと供給装置が変わります。
基準値の計算でも分母を統一します。時間当たりの投入数は稼働中の実時間で割るのか、休止や段替えを含むシフト時間で割るのか。欠品や前工程待ちを追従セルの停止に含めるのか。これらを明示しないまま導入前後の稼働率を比べると、改善が大きく見えたり小さく見えたりします。PoC前に品質と製造の担当者が一枚の定義表を承認し、FATとSATでも同じ計算方法を使います。
異常時と段替えを試験項目に昇格する
量産ラインでは正常な連続搬送だけが続くわけではありません。ワークが途中で回転する、ベルトに乗ったまま滑る、二つの部品が接触して重なる、端部で跳ねる、作業者が手動で一品種を追加することがあります。これらをすべて認識させる必要はありませんが、対象外にするなら安全な排出と理由コードが必要です。認識不能を無理に成功へ寄せるより、何を見逃し、どう回収するかを設計する方が安定稼働につながります。
段替え試験では、品種レシピの選択、カメラの露光と照明、ハンドの爪、ロボット軌道、検査規格が同じ品種IDで切り替わるかを確認します。PLCが新しい品種IDを出したのにカメラだけ前品種のモデルを使う状態を防ぐため、変更完了の相互確認を設計します。切替の途中にあるワークをどう扱うか、切替失敗時に前品種へ戻すか、空ラインにしてから再開するかも決めます。現場の手順書には「どの画面を見たら再開できるか」を記し、SATで担当者自身に操作してもらいます。
保証範囲はワーク分布で表現する
提案書に「全品種対応」と書かれていても、実際には各品種の表面状態や姿勢に範囲があります。サンプルを選ぶ際は、代表品だけでなく、反射が強い、黒くて奥行きが取りにくい、重なりやすい、重心が偏る、把持面が小さいといった難しい条件を意図的に入れます。ワーク図面の公差内でも、製造ロットで外観が変わることがあります。FATの対象サンプルを封印または画像・ロット番号で特定し、SATでは別ロットのサンプルを追加すれば、学習済みデモだけが成功する状態を見抜けます。
性能保証を提示するベンダーには、適用範囲を「搬送速度の範囲」「品種と姿勢の範囲」「照明と汚れの範囲」「連続運転時間」とセットで示してもらいます。範囲を超えたときのアラームと停止条件、範囲に戻ったときの復帰方法も確認します。そうすれば、受入試験の成績と日常運転の期待値が同じ土台に乗ります。公開されたメーカー発表は技術選択の入口として有用ですが、工場固有の保証条件を代替する資料ではありません。
工場長と設備担当者が最後に同じ表を見られるよう、現場確認は「測った値」「測った日時」「誰が確認したか」で残します。搬送速度は設備の設定値と実測値を分け、最大速度の一瞬だけでなく品種切替後の立ち上がりも含めます。部品の向きは都合のよい写真を数枚集めるのでなく、シフトをまたいだ投入順に記録します。照明は昼夜、清掃前後、隣接設備の点灯状態で比較し、カメラの視野に入る反射物を確認します。
ロボットの可動域図には、ピックできる理論領域だけでなく、実際に安全に減速・退避できる領域を書き込みます。空振りや把持ミスが発生したワークがどこへ行くかも追います。落下品がコンベヤ下に溜まる設計なら、回収のために安全柵へ入る頻度と停止時間が保守負荷になります。通信時刻のずれや古い追跡IDが残った場合に、自動再開を許すか、作業者の確認を要求するかを明文化します。
一つの故障でカメラ、PLC、ロボットのログ時刻が異なると原因究明に時間がかかります。時刻同期方法、ログ保存期間、ロットIDとの紐付け、映像を保存できる範囲をRFPで決めます。検査に使うデータが個人を映す場合の現場運用も工場の規則に合わせます。これらは「高性能な認識アルゴリズム」と別の作業ですが、量産後の停止時間を左右します。
検収書の承認欄も先に決めます。設備担当だけが合格としても、品質担当が挿入深さを確認していなければ量産は始められません。製造はタクトと人手介入、品質は最終良品、安全は立入りと復帰、保全は校正と故障対応をそれぞれ確認し、未解決項目には担当者と期限を付けます。ベンダーと工場の双方が同じ版の測定記録を持てるよう、試験日、ソフトウェア版、レシピ版、ワークロット、測定器の校正状態を検収書に残します。これにより後日の品種追加やソフト更新で性能が変わった場合も、変更前の基準へ戻って原因を追えます。
導入判定会議では、PoCで達成した値だけでなく、達成しなかった条件と追加費用を同じページに載せます。条件を除けば合格になる試験については、その除外条件を量産ラインで保証できるかを製造、品質、保全、安全の担当者全員で確認します。保証できなければ合格基準を緩めるのではなく、供給方法、ハンド、設備配置または工程そのものを再設計する判断が必要です。
よくある質問
3Dビジョン コンベヤ追従の導入ではエンコーダーが不要ですか?
一律には言えません。ニコンの2026年9月発表は同社の新機能について追加エンコーダー不要と説明しています。一方、エンコーダー接続を含む他方式もあります。ベルトの滑り、速度変動、撮像位置と接触位置の距離、必要な証跡を踏まえ、候補ごとに試験してください。
2Dと3Dのどちらを選ぶべきですか?
ワーク高さや姿勢が工具角度と接触位置に影響するなら3Dを評価します。高さが一定で平面上の位置だけ補正すればよい工程なら2D案も残します。3Dを採用する前に、供給を整える方が総費用を下げないか比較するのが実務的です。
処理能力は何個/分を目標にできますか?
メーカー発表からタイ工場の個数を約束することはできません。対象品種、ワーク間隔、撮像から把持までの距離、ロボット軌道、ハンドの時間、失敗時処理で変わります。RFPに実際の投入パターンを添え、PoCとFAT/SATで実測した分布と連続運転結果を合格基準にします。
既設のロボットビジョンならソフト更新だけで完成しますか?
ニコンは既存システム向け有償アップデートを案内していますが、対象機種、3Dカメラ、ロボット、ハンド、PLC、安全設備の適合や現場作業の要否は個別確認が必要です。更新価格と現場改造を分けて見積ります。
PoCが成功した後に量産導入が失敗するのはなぜですか?
デモでは品種、速度、照明、汚れ、停止復帰の範囲が狭いことがあります。PoCの入力を現場の分布に近づけ、失敗理由と除外条件を残し、FATを経てSATで実ラインを再確認します。成功動画よりも失敗ログの品質が量産移行を助けます。
まとめ|動くワークを「見る」から「良品にする」まで契約する
3Dビジョン コンベヤ追従の導入判断は、最新カメラの有無ではなく、移動するワークの姿勢を測り、接触時刻を予測し、把持・挿入・締結を安全に完了できるかで行います。2026年9月のニコン発表は選択肢を広げましたが、ライン固有の処理能力と品質は公開発表から確定できません。RFPで入力条件と責任分界を固定し、90日PoCで主要な不確実性を消し、FATとSATで同じKPIを追うことが、現場で動く設備への最短経路です。
タイ工場で搬送中ワークのピック、挿入、締結を検討中なら、ワーク写真や現在のタクトが揃っていない段階でもお問い合わせください。対象工程の切り方とRFPに必要な現場データから一緒に整理できます。
参考情報
- Nikon, “Nikon Adds 3D Vision Tracking to Its Robot Vision System,” 2026-09-30
- Nikon, “Nikon releases new lightweight and compact model of robot vision system,” 2025-11-26
- FANUC America, “3D iRVision for Line Tracking and Part Detection”
- FANUC America, “Stream Motion Meets the Real Factory”
- ABB, “Conveyor Tracking Module”
- ISO, “ISO 10218-2:2025”