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2026.08.10

予備品管理システム2026|設備停止コストで決める在庫の持ち方

予備品管理システム2026|設備停止コストで決める在庫の持ち方

「予備品管理システムを入れたのに、在庫金額が減らない」。タイの日系工場でよく聞く話です。原因はシステムではなく、評価のものさしにあります。予備品の需要は毎日出るものではなく、出ない月が続いたあとに一度だけ出ます。この出方に生産部材と同じ回転率や在庫日数をあてはめると、持つべき部品を捨て、捨てるべき部品を持ち続けることになります。この記事では、需要の出方・停止コスト・調達リードタイムという3つの軸で、80台規模のモデル工場の数字を使いながら、保全部品をいくら持つべきかを整理します。

予備品管理システムが「入れたのに在庫が減らない」で終わる理由

まず、この記事の全体で使うモデル工場を置きます。タイにある日系の金属加工+組立の工場で、設備80台、予備品のSKU(品目コードの数)は1,200点、予備品在庫金額は480万THB、年間の保全部品消費額は240万THBです。つまり在庫回転率は0.5回/年です。24か月以上出庫のない、いわゆる死蔵はSKU比で38%、金額比で27%、金額にして130万THBあります。

この工場の数字を見せると、多くの管理部門はまず「回転率0.5回/年は低すぎる」と反応します。生産部材の感覚では確かに低い。年に0.5回しか回らない在庫は、資材課であれば改善指示の対象です。ところが、予備品でこの評価を下した瞬間に、設計の方向が間違った側に振れます。

なぜなら、予備品の回転率を上げる最短の方法は「出ない部品を捨てること」だからです。1,200点のうち、めったに出ない部品を機械的に整理すれば、分母が減って回転率は簡単に上がります。しかしその中には、10年に1回しか壊れないが、壊れたらA層の設備が72時間止まる部品が混ざっています。回転率という指標は、この部品と、単に発注ミスで買ってしまった重複品とを区別できません。両方とも「2年間出庫なし」として同じ列に並びます。

予備品在庫が持っている価値は、消費されることではなく、消費されずに置かれていることです。保険と同じで、使わずに済んだ年の保険料を「無駄だった」と評価しても意味がありません。評価すべきは「その部品が無いときに発生する損失の期待値」と「持ち続けるコスト」の比較です。

保有コストも、金利だけで見ると小さく見えます。このモデル工場では保有コスト率を年22%として計算しています。内訳は資本コスト8%、保管2%、陳腐化10%、保険・棚卸2%です。予備品でこの率が高くなる理由は陳腐化です。設備が更新されれば部品は行き場を失い、電子部品はEOL(End of Life、生産中止)で価値が消えます。480万THBの在庫を持つということは、年105.6万THBを払い続けるということです。

だから、予備品管理システムの導入で最初に決めるべきなのは、機能一覧でも製品名でもなく、何を評価軸に置くかです。回転率や在庫日数を目標値に据えたシステムは、どれだけ高機能でも、現場に「持つべき部品を捨てさせる」方向に働きます。次章から、そのかわりに置くべき3つの軸を順に見ます。

予備品の需要は間欠——「予備品の適正在庫」を公式で出せない理由

生産部材の安全在庫の公式は、需要が毎日一定の分布で発生することを前提にしています。平均と標準偏差が計算でき、正規分布で近似できるから、サービス率から安全在庫が逆算できます。この前提は、毎日出る部材については十分に実用的です。

予備品ではこの前提が崩れます。ある月は出庫ゼロ、次の月もゼロ、半年後にまとめて出る。このような需要を間欠需要(intermittent demand)と呼びます。間欠需要の平均を取ると1個に満たない小数になりますが、そのとおりの数量が出る月は実際には存在しません。平均も標準偏差も、現実に起きることを説明していないのです。

この状態で安全在庫の公式を回すと、二重に外します。出庫の少ない部品には「ほとんど要らない」という答えが出て、たまたま直近に出た部品には「もっと持て」という答えが出ます。前者には保険が必要な高額部品が含まれ、後者には代理店で翌日買える消耗品が含まれています。予備品の適正在庫を、生産部材と同じ計算式で出そうとしてはいけない理由はここにあります。

SBC分類——ADIとCV²の2軸で需要を4象限に分ける

間欠需要を扱うときの出発点になるのが、需要パターンの分類です。よく使われるのがSyntetos, Boylan & Croston(2005)にもとづく分類で、頭文字を取ってSBC分類と呼ばれます。使う指標は2つだけです。

ADI(Average Demand Interval)は、需要が発生する平均間隔です。出庫のあった月から次に出庫のあった月までが平均何期間空くかを表し、値が大きいほど「めったに出ない」ことになります。CV²は需要量の変動係数の二乗で、出るときの数量がどれだけばらつくかを表します。毎回同じ数だけ出る部品はCV²が小さく、出るたびに数量が大きく振れる部品は大きくなります。

この2つに閾値を置いて4象限に分けます。閾値はADI=1.32、CV²=0.49です。分類の名前は smooth、intermittent、erratic、lumpy の4つです。

象限ADICV²需要の出方
smooth1.32未満0.49未満定期的に、ほぼ同じ数量が出る
intermittent1.32以上0.49未満出る間隔は空くが、出るときの数量は安定
erratic1.32未満0.49以上毎期出るが、数量が大きくばらつく
lumpy1.32以上0.49以上間隔も空き、数量もばらつく

この閾値は絶対的な境界ではなく、統計的な予測手法を選ぶための目安です。閾値の付近にある品目をどちらに入れるかで結論が変わるようなら、その部品は次章以降の停止コストとリードタイムで判断すべきものだと考えてください。

4象限それぞれで、スペアパーツ管理の持ち方は変わる

分類そのものより重要なのは、象限ごとに打ち手が変わることです。

smoothに入るのは、フィルター、Oリング、潤滑油、ベルトなど、計画保全で定期的に交換している部材です。ここは需要が読めるので、発注点と発注量を決めて自動発注に載せられます。予備品の中で唯一、生産部材と同じ考え方が通じる領域です。

intermittentは、出る間隔は空くが、出るときはだいたい1個か2個という部品です。汎用のセンサ、リレー、小型モーターなどが典型です。数量が安定しているので、少数の定数在庫を置いて使ったら補充するか、代理店の在庫に依存するかを、リードタイムで判断します。統計的な発注点計算を回す領域ではありません。

erraticは、毎期のように出るが数量が読めないもので、消耗の激しい治具部品や刃具、シール類が入ります。ここは在庫数よりも、設備との紐付けが効きます。どの設備で何個使うかが分かれば、生産計画から必要量を先に読めるからです。

lumpyがいちばん厄介で、統計的な予測がほぼ効きません。制御ユニット、サーボアンプ、専用の駆動部品などが入ります。この象限に対して予測精度を上げようとするのは投資として割に合いません。予測ではなく、壊れたときにいくら損するかで持つかどうかを決める領域です。この記事の判定式は、主にこの象限のための道具です。

なぜ在庫日数・回転率を部品在庫管理のKPIにしてはいけないのか

以上を踏まえると、回転率や在庫日数をKPIに置くことの問題がはっきりします。これらの指標は、smoothの部品に対しては機能します。しかし1,200点の中で数として多いintermittentとlumpyの部品に対しては、「めったに出ない=悪い」としか言えません。指標が構造的に、保険としての在庫を否定する向きに働くのです。

かわりに置くべきKPIは3つです。ひとつは部品待ちによる設備停止時間、とくにA層設備のそれ。ふたつめは緊急エア便の件数で、これは在庫設計の失敗が現金で表に出た数です。みっつめは死蔵金額で、24か月以上出庫のない在庫の金額です。ここで大事なのは、この金額を2つに割って見ることです。停止コストで正当化できるもの、つまり意図して置いている保険在庫は「持ち続けてよい死蔵」で、それ以外が「減らすべき死蔵」になります。減らす目標を立てるのは後者だけです。死蔵「率」ではなく金額で持つのは、率にすると分母をいじって改善したように見せられるからです。

なお、毎日動く生産部材の在庫については、回転率や在庫日数は依然として有効な指標です。両者は別の管理として設計します。生産部材側の考え方は適正在庫の管理2026で整理しているので、対比として読むと違いが分かりやすいはずです。同じ「在庫管理」という言葉でくくって、同じシステム設定で運用しようとすると、どちらかが必ず壊れます。

予備品管理システム2026|設備停止コストで決める在庫の持ち方 - figure 1

第2の軸——停止コストで設備を3層に分ける

需要の出方だけでは、持つ・持たないは決まりません。「めったに出ない」部品でも、欠品した瞬間にライン全体が止まるなら持つべきですし、止まっても迂回できるなら持たなくてよい。ここで必要になるのが2番目の軸、停止したときのコストです。

計画外停止のコストは、世界的にも大きな金額として認識されています。Siemens/Senseyeの「The True Cost of Downtime 2024」の分析では、世界の大手500社が計画外停止で失っている金額は年約1.4兆USD、売上の11%相当とされています。自動車では最大で1時間あたり230万USD(原文では2.3 million USD)という数字が示されています。同じ分析が挙げる改善の側では、月あたりの停止件数が42件から25件へ、停止時間が39時間から27時間へ減少したことも報告されています。これらは大手500社の話であってタイの中堅工場にそのまま当てはまるものではありませんが、「停止時間を金額で管理する」という発想そのものは規模に関係なく使えます。

モデル工場では、80台の設備を停止1時間あたりの損失で3層に分けています。

台数停止1時間の損失説明
A層12台45,000 THB/h止まるとライン全停
B層28台8,000 THB/h迂回・段取り替えで一部吸収できる
C層40台1,200 THB/h単独工程・代替あり

この表の読み方で大事なのは、金額の絶対値より層のあいだの比です。A層とC層では37.5倍の開きがあります。同じ単価の部品でも、A層に付くなら在庫として正当化できるのに、C層に付くなら正当化できない、ということが起こります。部品を単価や名前で分類しても、この差は絶対に出てきません。部品ではなく、部品が付いている設備で分類するのが要点です。

層分けの作り方は難しくありません。停止1時間の損失は、その設備が止まったときに失われる生産数量に、製品1個あたりの限界利益を掛けて出します。残業や休日出勤で取り返せるなら、取り返すためのコストに置き換えます。厳密な原価計算は不要で、桁が合っていれば判断は変わりません。むしろ精度を上げようとして検討が半年止まるほうが損です。製造部と経理で1日かけて80台に値を振れば、最初の版としては十分です。

台数の配分にも意味があります。A層は12台、全体の15%です。ここに管理の手間を集中させ、C層の40台は基本的に「壊れてから直す」で回します。設備を層に分けて保全の手のかけ方を変える考え方は、外注の切り分けでも同じ構造になります。詳しくは設備保全の外注2026で扱っています。予備品と外注は別のテーマに見えて、どちらも「どの設備にいくら払うか」という同じ問いの派生です。

なお、層は固定ではありません。生産品目が変われば、昨日までC層だった設備がボトルネックになることがあります。少なくとも年に1度、生産計画の見直しに合わせて振り直してください。層が古いまま予備品の設計だけ精緻にしても、意味のない精度になります。

第3の軸——調達リードタイムはタイでは50倍ちがう

3番目の軸が調達リードタイムです。ここがタイ拠点の予備品管理を、日本国内とはっきり分ける部分です。同じ「部品を1点手配する」という行為でも、経路によって時間が桁で違います。

経路リードタイム
現地代理店の在庫あり2〜5日
タイ国内取り寄せ(バンコク代理店からメーカー現法)2〜4週
日本メーカー直(エア便・通関込み)4〜10週
半導体を含む制御ユニット(MCU/FPGA搭載)30〜55週

現地代理店に在庫があれば5日、半導体を含む制御ユニットなら30〜55週。最大で50倍を超える開きになります。この表の読み方は単純で、調達リードタイムが「その設備を止めておける時間」を超えるかどうかを見ます。超えないなら持たなくてよく、超えるなら持つか、別の手当てが要ります。単価も故障率も、この判定のあとに来ます。

最下段の30〜55週は特殊な事情によるものです。GlobXの「Electronic Component Lead Times 2026」(2026年7月17日更新)によれば、MCUは30〜55週超、FPGA・CPLDは40〜52週、パワー半導体・アナログICは26〜40週、MLCCなどの受動部品は12〜26週、標準ロジック・ディスクリートは10〜20週とされています。平時の8〜16週から26〜55週超へ伸びた、というのが2026年時点の状況です。ここで問題になるのは単体の半導体を買う工場ではなく、その半導体が載った制御ユニット・インバータ・アンプを買う工場です。メーカーが部品を確保できなければ、完成ユニットの納期がそのまま延びます。

この状況が意味するのは、「壊れてから頼めばいい」という運用が、制御系については成立しなくなっているということです。40週待つあいだ設備を止めておける工場はありません。結果として、他の設備から部品を抜く、中古を探す、代替機種に載せ替えるといった対応に追われ、そのたびに保全の工数と停止時間が積み上がります。制御系の部品については、故障率が低くても保険在庫を検討する理由がここにあります。

もうひとつ、2026年に変わった条件があります。2026年1月1日から、タイの1,500バーツの少額免税(de minimis)が撤廃されました(Customs Notification No. 219/2568)。金額にかかわらず7%のVATと関税の対象になります。加えて2026年3月30日には、消費財を中心とした関税引き上げが公表されています。予備品の輸入そのものは以前から課税対象でしたが、これまで少額のセンサやコネクタを個別にエア便で送っていた運用では、1件あたりの通関手続きとコストが確実に乗るようになりました。「小さい部品だから都度手配で済ませる」という判断が、以前より不利になったということです。

実務としては、緊急便の件数を減らす設計に価値が出ます。同じ年間の輸入金額でも、32件を11件にまとめられれば、通関手数料も社内の手続き工数も減ります。これは後述する費用5層の第4層に直接効きます。

予備品管理システム2026|設備停止コストで決める在庫の持ち方 - figure 2

3軸から決める、予備品の持ち方5類型

需要の出方、停止コスト層、調達リードタイム。この3軸が決まると、予備品の持ち方は5つの類型に落ちます。1,200点のSKUを1点ずつ吟味するのではなく、この5つのどれに入れるかを決めていく作業になります。

①発注点で常備は、いちばん普通のやり方です。決めた在庫数を下回ったら自動で補充します。需要が読めるsmooth、消費が多いerraticの安価な部品が対象です。ここは自動化できる領域なので、システムの設定が効きます。

②1点だけの保険在庫は、めったに出ないが欠品が致命的な部品です。発注点も発注量も置かず、「1点だけ棚に置き、使ったら必ず補充する」という運用にします。lumpyかつA層かつ長リードタイムの部品が典型で、後述する判定式で正当化します。数を持つ必要はありません。2点持っても停止確率はほとんど下がらず、保有コストだけが倍になります。

③代理店預託(VMI・コンサインメント)は、代理店に在庫を持ってもらい、使った分だけ支払う方式です。VMIはVendor Managed Inventory、供給者が在庫を管理する仕組みを指します。自社の資産にならないので保有コストが乗らず、それでいて即日引き当てられます。バンコク近郊の工業団地であれば、汎用品についてはこの選択肢が現実的です。ただし代理店の在庫は自社専用ではありません。同じ部品を近隣の工場が先に引き当てる可能性があるので、A層の停止に直結する部品を全面的に預けるのは避けます。

④拠点間共有は、同じグループの他工場やタイ国内の他拠点と在庫を融通する方式です。同型設備が複数拠点にある場合、各拠点が1点ずつ持つのは重複です。ただし、これが機能するのは「他拠点に何があるか、その場で見える」ことが前提です。電話とメールで探す運用では、探している間に自前で買ったほうが早くなります。ここはシステム側の要件に直結します。

⑤持たない(都度手配)は、代理店在庫があり、停止コストも低い部品です。C層の汎用品の多くはここに入ります。「念のため」で棚に置かれている部品の大半は、本来この類型です。

3軸と類型の対応を表にまとめます。

類型主な需要象限設備層調達リードタイム判断の決め手
①発注点で常備smooth / erratic全層2日〜4週消費が読めるか
②1点だけの保険在庫lumpy / intermittentA層中心4週以上期待損失回避が保有コストを大きく超えるか
③代理店預託intermittent / smoothB層・C層2〜5日代理店が在庫を持ち続けるか
④拠点間共有lumpyA層・B層4週以上他拠点の在庫がその場で見えるか
⑤持たないintermittentC層2〜5日停止許容時間がLTを上回るか

この表は「まずリードタイムを見て、次に層を見て、最後に需要象限を見る」順で使います。逆順にすると、需要が読めない部品をすべて保険在庫にしてしまい、在庫が膨らみます。1,200点を全部きれいに振り分ける必要はありません。金額上位の2割と、A層設備に付く部品をすべて振り分ければ、金額の大半はカバーできます。

いくらまでなら持ってよいか——保全部品の損益分岐単価の出し方

ここが記事の中心です。②の保険在庫を正当化する式を置きます。

持つべき単価の上限 = 年間故障率 λ ×(停止に直結する時間 × 停止1時間コスト)÷ 保有コスト率

言い換えると、判断基準は回転率ではなく期待損失回避額が保有コストを上回るかです。λ(ラムダ)は年間故障率で、その部品が1年に平均何回壊れるかを表します。過去の出庫履歴、メーカーの推奨交換周期、同型設備の実績から置きます。「停止に直結する時間」は故障から復旧までの全時間ではなく、手元に在庫が無いことによって余分に止まる時間です。ここを取り違えると数字が大きく出すぎます。

例1——A層のサーボアンプ

単価180,000 THB、年間故障率λ=0.15回/年、調達リードタイム8週の部品です。手元に無い場合でも、他機から抜く・レンタル・修理といった代替手段で、停止は72時間に短縮できるとします。8週まるごと止まるわけではありません。

1回あたりの損失は72h × 45,000 = 3,240,000 THB。期待損失回避は0.15 × 3,240,000 = 486,000 THB/年です。一方の保有コストは180,000 × 22% = 39,600 THB/年。比は12.3倍で、明確に持つという結論になります。類型は②の1点だけの保険在庫です。18万THBの部品を「年に0.15回しか使わないのに置いておくのか」と言われたときに、この計算がそのまま回答になります。

例2——C層の汎用光電センサ

単価4,500 THB、λ=0.8回/年、現地代理店に在庫があり2日で入る部品です。C層は単独工程で代替があるため、この部品が無くても生産そのものは2日間続けられます。止まるのは切り替えにかかる4時間だけで、1回あたりの損失は4h × 1,200 = 4,800 THB。期待損失回避は0.8 × 4,800 = 3,840 THB/年、保有コストは4,500 × 22% = 990 THB/年で、比は3.9倍になります。

比だけを見れば「持つ」に見えます。しかしこの部品は、停止許容時間(2日を超える)が調達リードタイム(2日)を上回っています。部品が届くまでに生産が止まりきらないので、自社の棚に置いても防げる停止はほとんど増えません。類型は③の代理店預託、あるいは⑤の持たないが妥当です。

ここが「比率だけで判断すると全部持つことになる」落とし穴です。比が3.9倍あっても、差額の絶対値は年に数千THBの規模でしかなく、SKUを1点増やすことで生じる棚番の付与・棚卸・発注点の維持といった管理の手間に見合いません。比率は、絶対額が小さいときに判断を誤らせます。だから比の計算より先に、調達リードタイムが停止許容時間を超えるかどうかを見る。超えないなら、そもそも自社在庫で買える停止削減量が小さいのです。前章で「まずリードタイムを見る」と書いたのはこの理由です。

判定式を単価の側から解くと、層とλごとの分岐点単価が出ます。これを超える単価の部品は、その故障率では自前で持つ経済合理性がない、という線です。

分岐点単価 = λ × 停止に直結する時間 × 停止1時間コスト ÷ 0.22

λ=0.1回/年λ=0.3回/年λ=1.0回/年
A層(72h × 45,000=324万THB/回)1,473,000 THB4,418,000 THB14,727,000 THB
B層(24h × 8,000=19.2万THB/回)87,000 THB262,000 THB873,000 THB
C層(4h × 1,200=4,800 THB/回)2,200 THB6,500 THB21,800 THB

この表の使い方を説明します。A層の設備に付く部品は、10年に1回しか壊れない(λ=0.1)ものでも、147万THBまでは持つ計算になります。実務上、A層に付く部品でこの上限に引っかかるものはほとんどありません。A層の部品は、迷ったら持つという判断でほぼ正しい、というのがこの行の意味です。

対してC層は、10年に1回のものなら2,200 THBまで、年1回壊れるものでも21,800 THBまでです。C層の設備に21,800 THBを超える部品を保険として置いているなら、それは経済的に説明できません。B層は中間で、8.7万〜87万THBの帯に判断が集中します。ここがいちばん議論の要る層で、逆に言えば、検討の時間はB層に使うべきだということです。

注意点を2つ。第1に、この式は「代替手段で停止を短縮できる」ことを織り込んだ時間を使います。例1で72時間としたのがそれです。8週まるごと止まる前提で計算すると、期待損失回避額が桁ひとつ大きくなり、どんな部品も持つべきだという答えになってしまいます。第2に、λは1点の部品に対する故障率です。例1の0.15回/年は、その部品が付いている設備1台あたりの値として置いています。同型設備が12台あって、そのうち1台が壊れる確率を見るなら、λは台数分だけ上がります。1点の保険在庫で12台をカバーできるかは、同時故障の確率と復旧時間で判断してください。

予備品管理システム2026|設備停止コストで決める在庫の持ち方 - figure 3

予備品管理システムに必要な7つの機能

3軸で設計が決まったら、それを日々回すための仕組みが要ります。予備品管理システムに求める機能は、汎用の在庫管理ソフトの機能一覧とはかなり違います。ここでは外せない7つを挙げます。

設備BOM(設備と部品の紐付け)が第1です。どの設備のどのユニットに、どの部品が何個使われているかの構造です。これが無いと、設備を更新したときにどの予備品が不要になるか分からず、死蔵が発生します。逆にこれがあれば、設備更新の計画から不要になる部品を先に洗い出せます。汎用の在庫管理ソフトに無い機能の筆頭がこれです。

出庫時の設備・作業オーダー紐付けが第2です。部品を棚から出すときに「どの設備の、どの作業で使ったか」を記録します。この記録が無いと、λ(故障率)が永久に計算できません。前章の判定式が使えるかどうかは、この機能を運用に乗せられるかで決まります。逆に言えば、1年間これを続ければ、翌年からは実データで判定できるようになります。

発注点と最小発注単位が第3です。①の類型に入る部品を自動発注に載せるための基本機能ですが、タイでは最小発注単位(MOQ)とロットの制約が効きます。一定のロット単位でしか買えない部品の発注点を最小値に置いても、補充のたびにロット分だけ増えます。発注点と発注量を別々に持てることが要件です。

代替品・互換品が第4です。メーカーが違っても機能的に置き換えられる部品、後継機種、旧型番との対応を持ちます。これが無いと、棚に使える部品があるのに型番違いで発見されず、緊急便が発生します。EOLの多い電子部品では特に効きます。

保管場所とロケーションが第5です。棚番だけでなく、防湿庫、ESD対応棚、油脂類の期限管理棚といった保管条件も属性として持ちます。後述するタイの気候条件では、この管理の有無が部品の寿命を変えます。

EOL・生産中止フラグが第6です。メーカーから生産中止の案内が来た部品に印を付け、その設備が更新されるまでに必要な数量を確保するか、代替に切り替えるかを判断します。制御系のリードタイムが30〜55週という状況では、EOLの把握が遅れると設備更新が強制されます。

拠点間の在庫照会が第7です。④の拠点間共有を成立させる前提で、他拠点の在庫がその場で見えることが条件です。見えないなら④の類型は使えません。

これら7つは、保全の作業履歴と地続きです。出庫を作業オーダーに紐付けるということは、CMMS(Computerized Maintenance Management System、設備保全管理システム)側の起票と接続するということでもあります。台帳の粒度をどこまで細かくするか、起票をどの経路で行うかは設備保全システムの選び方2026で整理しています。予備品側だけで完結させようとすると、出庫記録がいつまでも「誰が何を持って行ったか」で止まり、λが出ません。

費用5層と、メンテナンス部品の在庫管理をどこまでシステム化するか

見積を取るときに、部品代とソフト代だけを比べると判断を誤ります。予備品管理にかかるコストは5つの層に分かれます。モデル工場での初年度の目安を置きます。

内容モデル工場での目安(初年度)
第1層 部品原価部品そのもの既存在庫480万THB+年間補充240万THB
第2層 保管棚・防湿庫・ESD対策・油脂の期限管理・保管場所18万THB
第3層 台帳・システム在庫/CMMS、ハンディ、ラベルプリンタ、初期データ整備42万〜120万THB
第4層 調達・通関エア便、通関手数料、少額免税撤廃で1件あたり増年58万THB(緊急便32件を含む)
第5層 陳腐化・廃却EOL、設備更新に伴う不要化、棚卸差異の評価損年26万THB

この表の読み方の要点は、毎年出ていくのは第4層と第5層であり、第3層だけを高い安いで判断できないことです。システムに42万〜120万THBかけることをためらう一方で、第4層の緊急便に年58万THB、第5層の陳腐化に年26万THBを毎年払っている。合計84万THBが毎年出ていく構造に対して、初年度だけ効く第3層の投資を比較するのは筋が通ります。第3層の幅が広いのは、初期データ整備の範囲で決まるからです。1,200点の棚卸と型番整理を外部に任せるか、自社の保全課で夜間に進めるかで、この幅の上下が入れ替わります。

では、どこまでExcelで足りるのか。線引きははっきりしています。Excelで足りるのは、品目数が数百点以内で、拠点が1つで、出庫の記録を紙で残さずに済むあいだです。棚番と在庫数と単価を持つだけなら、Excelのほうが速く安く回ります。

Excelでは無理になるのは、次の3つのどれかが起きたときです。ひとつは、出庫を設備・作業オーダーに紐付けたくなったとき。1行の出庫記録に対して設備・作業・作業者・日時が付くと、表計算の構造では集計が破綻します。ふたつめは、複数人が同時に触るようになったとき。保全課の3人が夜勤・日勤で同じファイルを更新すると、上書きで在庫数が合わなくなります。みっつめは、拠点間で在庫を照会したくなったとき。これはファイル共有では実現できません。

モデル工場は1,200点、A層12台、拠点間共有を検討する段階なので、システム側に入ります。ただし、いきなり全機能を入れる必要はありません。設備BOMと出庫の紐付けの2つだけを最初に入れ、発注点の自動化は1年分のデータが溜まってから設定する。この順序であれば、第3層は下限の42万THBに近いところから始められます。

タイ拠点に固有の5つの論点

ここまでは、どの国の工場にも通じる設計です。タイ拠点では、これに5つの論点が加わります。

輸入リードタイムと通関が第1です。日本メーカー直の4〜10週には、通関の時間が含まれます。書類の不備で止まると、この幅の上限側に振れます。HSコードの事前確認、インボイスの品名記載、原産地証明の要否を、緊急時ではなく平時に整理しておくことが、実質的なリードタイム短縮になります。急ぐ部品ほど書類が雑になり、結果的に遅れるというのが現場でよく起きることです。

少額免税の撤廃が第2です。2026年1月1日から1,500バーツの少額免税がなくなり、金額にかかわらず7%のVATと関税の対象になりました。少額部品を都度エア便で送る運用のコストが上がっています。緊急便の件数そのものを減らす設計が、以前より効くようになったということです。

BOI恩典との関係が第3です。Thailand Board of Investmentの機械輸入免税では、免税で輸入する機械は促進証書の発行から30か月以内に輸入すること、恩典対象の製品の生産に専用で使い5年を超えて使用することが条件として示されています。ここで注意が要るのは、後年に購入する交換部品がこの枠にそのまま入るとは限らないことです。BOIの当該ページは予備品を明示していません。予備品や交換部品が免税の対象になるかどうかは、促進の種別、証書の記載、輸入の時期によって変わります。案件ごとにBOIおよび通関に確認が必要で、この記事の内容を根拠に判断しないでください。断定できる話ではありません。

保全担当の離職と台帳の属人化が第4です。タイの製造現場では保全担当者の異動や転職が起きやすいと言われ、「あの部品がどこにあるかはあの人しか知らない」という状態が実損に直結します。棚番の付与、写真付きの現物確認、タイ語での品名併記といった基本が効きます。台帳をタイ語と英語の両方で持つのは手間ですが、引き継ぎ時に効きます。

高温多湿と雨季の保管環境が第5です。電子部品は湿度で寿命が落ちるため、制御基板やアンプは防湿庫かデシケータでの保管が要ります。ゴム、ベルト、Oリングは経時劣化するので、購入日を記録して先入先出を徹底しないと、棚にあるのに使えない部品が生まれます。潤滑油やグリスにも使用期限があります。第2層の18万THBは、こうした保管条件を整えるための費用です。「在庫金額を減らす」という目的だけで動くと、この層への投資が後回しになり、結果として第5層の陳腐化が膨らみます。

死蔵在庫の片づけ方——38%のSKUをどう処理するか

モデル工場では、24か月以上出庫のないSKUが38%、金額で130万THBあります。これを整理する作業は、単に「捨てる」ことではありません。捨ててよいものと、実は保険として必要なものを分ける作業です。

第1の突合先は設備更新計画です。すでに撤去された設備の部品、次年度に更新が決まっている設備の部品は、明確に不要です。設備BOMがあれば機械的に抽出できます。逆に、更新予定が10年先のA層設備に付く部品は、24か月出庫が無くても保険在庫として正当です。この判定は前章の分岐点単価で行います。老朽化した設備をいつ更新するかの判断そのものは老朽化設備の更新2026で扱っています。更新計画が固まっていない工場では、予備品の整理も途中で止まります。

第2の突合先は棚卸です。死蔵の洗い出しは、実地棚卸のタイミングに乗せるのがいちばん効率的です。どうせ全点を数えるので、そのときに「最終出庫日」と「現物の状態」を同時に記録します。ゴムの硬化、基板の腐食、油脂の期限切れはこのときにしか見つかりません。棚卸の進め方は棚卸の効率化2026にまとめています。予備品の棚卸は製品在庫と違って点数が多く金額が散るので、ハンディとラベルの整備が効きます。

第3が評価損の出し方です。ここで多くの工場が止まります。130万THBの在庫を落とすと、その期の損益に出ます。だから現場は「まだ使うかもしれない」と言い、経理は帳簿から動かさない。結果として、使えない部品が棚を占め続けます。

進め方としては、一度に全額を落とさず、段階的に処理します。撤去済み設備の部品から先に落とし、次に代替品で置き換え可能なもの、最後に判断の分かれるものを残す。年度をまたいで分割すれば、単年度の損益への影響は薄まります。モデル工場の設計後の目標では、死蔵金額は130万THBから45万THBになっています。ゼロにはなりません。残る45万THBは、停止コストで正当化できる保険在庫だからです。死蔵ゼロを目標にしないでください。ゼロを目指すと、必ず持つべき部品まで落とすことになります。

なお、社外に売却できる部品もあります。同型設備を使っている近隣工場、中古設備商社、メーカーの引き取り制度です。金額として大きくは戻りませんが、廃却費用が浮き、保管スペースが空きます。

90日で回るところまで持っていく順序

設計の話を実行に移す順序を置きます。1,200点を全部整理してからシステムを入れる、という進め方は現実には終わりません。

0〜30日では、設備の3層分けと、A層に付く部品の洗い出しだけを行います。製造部と保全課で80台に停止1時間コストを振り、A層12台を確定させます。次にA層12台の主要ユニットについて、部品リストを作ります。1,200点すべてではなく、A層に付く部品だけです。並行して、過去2年の出庫履歴から最終出庫日を全点に付けます。これは在庫データがExcelでもできます。

31〜60日では、A層の部品に判定式を当てます。単価はすでにあるので、必要なのはλと停止に直結する時間の2つです。λは出庫履歴とメーカー推奨から、停止時間は保全課の実感から置きます。精度は粗くて構いません。ここで、持つべきなのに持っていない部品と、持つ必要のない高額部品の両方が出てきます。同時に、調達リードタイムを主要な代理店・メーカーに確認して表を埋めます。制御系については、EOLの有無も併せて聞きます。

61〜90日では、②の保険在庫を実際に手配し、⑤に振り分けた部品の補充を止めます。この2つを同時にやるのが要点です。片方だけだと、在庫金額が増えるか、停止リスクが上がるかのどちらかになります。並行して、出庫時に設備と作業オーダーを記録する運用を始めます。システムの導入がまだでも、紙とExcelで先に始めてください。この記録が翌年のλの原資になります。

90日でできるのはここまでです。発注点の自動化、拠点間の在庫照会、代替品マスタの整備は、その先の話です。モデル工場の設計後の姿は12か月時点のもので、90日で到達する数字ではありません。

指標現状設計後(12か月)
予備品在庫金額480万THB340万THB(-29%)
死蔵金額130万THB45万THB
緊急エア便年32件年11件
A層設備の部品待ち停止時間年96時間年36時間(-62%)
保有コスト(22%)105.6万THB/年74.8万THB/年

この表で注目してほしいのは、在庫金額が29%減っているのに、A層の部品待ち停止時間が62%減っている点です。減らすところと増やすところを同時にやった結果です。在庫を一律に削減した場合、金額は同じように下がりますが、停止時間はまず悪化します。逆に、停止を恐れて増やすだけなら、停止時間は改善しても保有コストが上がります。両方を同時に動かせるのが、3軸で設計することの効果です。

保全部品の在庫管理でよくある失敗5パターン

最後に、タイの工場でよく見る失敗を5つ挙げます。

在庫金額の削減だけを目標にするのが第1です。目標が金額だけだと、現場は最も削りやすいところ、つまり高額で動きの遅い部品を削ります。それはA層の保険在庫です。半年後に停止が増え、緊急便が増え、結果として支出は増えます。金額目標を置くなら、必ずA層の部品待ち停止時間とセットにしてください。

全点に発注点を設定するのが第2です。1,200点すべてに発注点と安全在庫を計算して設定すると、間欠需要の部品には無意味な数字が入ります。とくに、直近1年にたまたま2回出た部品に高い発注点が付き、自動発注が回り始めます。発注点を置くのはsmoothとerraticの部品だけです。

現物を見ずにデータだけで整理するのが第3です。帳簿上「在庫あり」でも、現物が湿気で使えなくなっていることがあります。タイの保管環境では珍しくありません。データ上の整理と現物確認は必ずセットにします。

代理店在庫を確認せずに自前で持つのが第4です。例2で見たとおり、代理店が在庫を持っている部品を自社でも持つのは二重投資です。年1回は主要代理店に、どの型番を何点、どの拠点に常備しているかを確認してください。逆に、代理店が常備していると思っていた部品を、いつのまにか取り扱いをやめていることもあります。

λの記録を始めないまま設計を終えるのが第5です。初回の設計は推定値で構いませんが、出庫を設備に紐付ける運用を始めないと、2年目も3年目も推定のままです。設計は一度で完成しません。実データが溜まるほど、持つ部品と持たない部品の線引きは精度が上がります。90日計画の最後に出庫記録の運用を置いたのは、そのためです。

まとめ

予備品には、生産部材の適正在庫の公式は使えません。需要が間欠だからです。回転率や在庫日数で評価すると、持つべき部品を捨て、捨てるべき部品を持ち続けることになります。

かわりに使うのは3つの軸です。需要の出方をSBC分類で見て予測できるかを判断し、設備を停止コストでA・B・C層に分けて欠品時の損失を金額にし、調達リードタイムが停止許容時間を超えるかを見る。この3軸から、持ち方は発注点で常備・1点の保険在庫・代理店預託・拠点間共有・持たないの5類型に落ちます。

金額の判断は、期待損失回避額が保有コストを上回るかで行います。年間故障率λに、停止に直結する時間と停止1時間コストを掛け、保有コスト率で割る。この式を通すと、A層の部品は迷ったら持つ、C層の部品は代理店に任せる、判断が要るのはB層だという整理になります。

システムに求める機能も、この設計から決まります。設備BOMと出庫の設備紐付けが最初で、発注点の自動化は後です。データが無いまま高機能なシステムを入れても、λが出ないので判定式が使えません。90日でA層だけを設計し、出庫記録の運用を始める。そこから12か月かけて、在庫金額と停止時間を同時に下げていくのが現実的な道筋です。

予備品管理を見直すときの相談先について

どの部品を持ち、どれを代理店に預け、どれを捨てるか。この判断は、現場の台帳と設備の実態を見ないと決まりません。同じ1,200点でも、A層が12台の工場と、その倍以上ある工場では答えが変わります。在庫金額の圧縮が目的でも、停止時間の短縮が目的でも、最初にやることは同じで、設備を層に分けて出庫を設備に紐付けるところからです。TOMAS TECHはタイの工場で生産管理・保全のシステム導入を手がけており、既存のExcel台帳の棚卸から関わることもあります。まだ検討段階で、何から手を付けるか整理したいという状態でも構いません。お問い合わせからご連絡ください。

よくある質問

予備品管理システムとは何ですか?

設備の保全に使う部品の在庫を、設備との紐付けを持った状態で管理する仕組みです。品目・数量・棚番を持つだけの在庫管理ソフトとの違いは、設備BOM(どの設備のどのユニットにどの部品が使われているか)と、出庫時の設備・作業オーダーの紐付けを持つ点にあります。この2つがあることで、設備を更新したときに不要になる部品が分かり、部品ごとの故障率を実データで出せるようになります。

予備品はいくら持てばよいのですか?

一律の目安はありません。判断は部品単位で、期待損失回避額が保有コストを上回るかで行います。年間故障率に、在庫が無いことで余分に止まる時間と停止1時間コストを掛けたものが期待損失回避額で、単価に保有コスト率(この記事では年22%)を掛けたものが保有コストです。モデル工場のA層設備であれば、10年に1回しか壊れない部品でも147万THBまでは持つ計算になります。C層なら2,200 THBまでです。同じ「予備品の適正在庫」でも、付いている設備によってこれだけ変わります。

保全部品の在庫管理は、生産部材の在庫管理と何が違いますか?

需要の出方が違います。生産部材は毎日出るので平均と標準偏差が意味を持ち、安全在庫の公式が使えます。保全部品は出ない月が続いたあと一度に出る間欠需要で、平均を取っても現実に起きることを説明しません。したがって評価指標も変わります。生産部材では回転率と在庫日数が有効ですが、保全部品では部品待ち停止時間、緊急便の件数、死蔵金額で見ます。両者を同じシステム設定で運用しようとすると、どちらかが必ず壊れます。

予備品管理はExcelでは無理ですか?

品目数が数百点以内で、拠点が1つで、出庫を紙で記録せずに済むあいだはExcelで足ります。無理になるのは3つの場合です。出庫を設備・作業オーダーに紐付けたくなったとき、複数人が同時に更新するようになったとき、拠点間で在庫を照会したくなったときです。1,200点を超え、複数拠点で同型設備を持つ規模になると、Excelでは在庫数が合わなくなります。逆に、システムを入れる前でも、設備との紐付けの記録だけはExcelで始められます。

死蔵になった予備品はどう処分すればよいですか?

先に、捨ててよいものと保険として必要なものを分けます。撤去済み設備や更新予定の設備に付く部品は明確に不要ですが、24か月出庫が無くてもA層設備に付く高額部品は保険在庫として正当です。分別のあとは、実地棚卸のタイミングで現物の状態を確認し、評価損を段階的に落としていきます。撤去済み設備の部品から先に処理し、判断の分かれるものは残す。年度をまたいで分割すれば単年度の損益への影響は薄まります。死蔵ゼロは目標にしないでください。

タイの工場で日本から予備品を取り寄せると、どれくらいかかりますか?

現地代理店に在庫があれば2〜5日、タイ国内の取り寄せで2〜4週、日本メーカー直のエア便・通関込みで4〜10週が実勢です。半導体を含む制御ユニットは別枠で、30〜55週かかることがあります。加えて2026年1月1日から1,500バーツの少額免税が撤廃され、金額にかかわらず7%のVATと関税の対象になりました。少額部品を都度エア便で送る運用は以前より不利になっています。

予備品管理システムの費用はいくらですか?

システムそのものの費用だけを見ると判断を誤ります。予備品管理の費用は、部品原価、保管、台帳・システム、調達・通関、陳腐化・廃却の5層に分かれます。モデル工場の初年度では、台帳・システムが42万〜120万THB、保管が18万THB、調達・通関が年58万THB、陳腐化・廃却が年26万THBです。幅が広いのは初期データ整備の範囲によるためで、1,200点の型番整理を外部に任せるか自社で進めるかで上下が入れ替わります。第4層と第5層は毎年出ていく費用なので、初年度だけ効く第3層の投資と比較して判断します。

参考情報