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2026.08.09

老朽化設備の更新2026|壊れる前に部品が消える4つの期限

老朽化設備の更新2026|壊れる前に部品が消える4つの期限

老朽化設備の更新は、たいてい「壊れてから」か「償却が終わってから」検討が始まります。ところが設備の寿命を実際に決めているのは、機構部の摩耗ではありません。制御部品の供給が止まるメーカーのカレンダーです。鋳物のフレームは30年持っても、CPU・タッチパネル・サーボアンプは10年から15年で生産中止になります。この記事では、タイ・ラヨーン県の日系金属加工工場をモデルケースに、期限が3つではなく4つあること、選択肢が二択ではないこと、制御部だけの更新なら設備まるごと更新の18.3%の費用で2.6年で回収することまで、計算式ごと開示します。

老朽化設備の寿命を決めているのは、摩耗ではなくメーカーのカレンダー

日本の生産設備は、すでに相当に古くなっています。日刊工業新聞の社説(2025年3月19日、日本工作機械工業会のデータ)によれば、導入から10年以上経過した設備が60%を超え、20年以上のものも35%を超えています。3台に2台が10年選手で、3台に1台が20年選手ということです。

海外工場では、この数字がさらに悪くなる方向に働きます。日本の工場で使われていた設備を移設して立ち上げた、という工場が珍しくないからです。日本で10年使ったものをタイに運び、こちらでさらに15年使えば、通算25年です。ジェトロの2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編、2025年11月)は、20カ国・地域に進出する日系企業5,109社から有効回答を得ています。これだけの数の日系企業が海外で操業しており、進出から20年、30年を数える拠点も少なくありません。設備の年齢も、それに従って積み上がっています。

機構部は30年持つが、制御部は10年から15年で消える

ここで押さえておきたいのは、「設備が古い」という言い方が、実は2つのまったく違う話を混ぜているという点です。

第一に、機構部の話です。鋳物のベッド、フレーム、主軸、ボールねじ、リニアガイド。これらは摩耗しますが、摩耗は測れます。測れるということは、交換・研磨・調整で維持できるということです。20年、30年と使われている工作機械の本体が今も精度を出しているのは、この維持ができるからです。

第二に、制御部の話です。CPUユニット、I/Oユニット、タッチパネル、サーボアンプ、電源ユニット。これらは摩耗ではなく、メーカーが生産を止めた瞬間に寿命が来ます。まだ動いていても、壊れたときに同じものが手に入らない。この2つはまったく違う種類の期限です。

部位代表的な構成要素更新を迫られる理由期限を決めるのは
機構部鋳物ベッド、フレーム、主軸、ボールねじ、リニアガイド摩耗。測定でき、交換・研磨で維持できる自社の保全
駆動部サーボモーター、サーボアンプ生産中止。互換品への載せ替えが要るメーカー
制御部CPU、I/O、ネットワークユニット生産中止。上位機種への移行が要るメーカー
操作部タッチパネル、操作盤、表示器生産中止。液晶やバックライトの供給も止まるメーカー
盤内機器電源、遮断器、電磁開閉器、端子台規格変更・型式変更メーカーと規格

なお、この表の「更新を迫られる理由」は部位ごとの一般的な傾向を整理したものであり、具体的な年数は機種・メーカー・使用環境で大きく変わります。自社設備の期限は、必ずメーカーの生産終了品一覧で形名ごとに確認してください。

設備台帳ではなく「制御部品の期限台帳」で計画を作る

この構造から、実務上の結論が1つ出ます。老朽化設備の更新計画は、設備台帳の取得年月日ではなく、制御部品の期限台帳で作るべきものだということです。

多くの工場の設備台帳には、機番、メーカー、型式、取得年月日、簿価が並んでいます。この情報からは「古い順」しか出てきません。ところが更新の緊急度を決めているのは古さではなく、その設備に載っている制御部品がいつ手に入らなくなるかです。1998年製でも制御部を2015年に更新していれば期限はまだ先ですし、2012年製でも搭載しているCPUが2026年に生産中止なら、そちらのほうが先に来ます。

古い順に並べた設備台帳を見ながら更新の優先順位を議論している限り、この逆転は見えません。

期限は3つではなく4つある — 4つ目は自社が握っている

メーカーが公表する期限は3つです。受注締切、生産中止、修理対応期限。多くの工場はこの3つを見て「修理対応期限までまだ何年もある」と判断します。

しかし現場で先に来るのは、たいてい4つ目の期限です。

#期限誰が決めるか過ぎるとどうなるか
1受注締切メーカー新品が買えない。予備品の確保はこの日まで
2生産中止メーカー流通在庫のみ。価格が跳ね、真贋リスクが出る
3修理対応期限メーカー直せない。中古・改造・載せ替えしか無い
4社内の期限自社部品はあるのに直せない。図面・プログラム・担当者が消えた状態

4つ目の期限は、部品ではなく情報と人の期限

4つ目の期限は、部品の在庫とはまったく関係がありません。その設備を直すために必要な情報と人が、社内に残っているかどうかの期限です。

具体的には次のようなものが失われます。制御盤の実配線図が、改造のたびに更新されず現物と合わなくなっている。PLCのプログラムがソースコードではなくPLCの中にしか無い。そのプログラムにパスワードがかかっていて、設定した人がもういない。タッチパネルの画面データが、当時の作画ソフトのバージョンでしか開けない。サーボのパラメータのバックアップが、退職した担当者のノートPCと一緒に消えている。立ち上げに立ち会った生産技術の担当者が日本へ帰任している。

このどれか1つが欠けるだけで、部品が手に入っても直せません。より正確に言えば、直せはするが「元通りに戻す」ことができません。パラメータが分からなければ試運転からやり直しになり、プログラムが読めなければ挙動を推測しながら書き直すことになります。1日で終わるはずの復旧が、2週間になります。

日本から持ち込んだ設備ほど、4つ目の期限が早い

海外工場では、この4つ目の期限が構造的に早く来ます。理由は3つあります。

立ち上げたのが日本の生産技術部門であること。図面と取扱説明書が日本語であること。プログラムのパスワードや設計思想が、日本側の担当者の頭の中にあること。

日本の工場なら、設計した部署が同じ建屋にあり、10年経っても誰かが覚えています。海外工場ではそうなりません。立ち上げから3年、5年で担当者は帰任し、その後の改造は現地で行われ、日本語の図面は更新されないまま棚に残ります。メーカーの修理対応期限までまだ何年もあるから安心だと言っている工場ほど、実際には「部品はあるのに直せない」状態に先に到達しているというのは、この構図から出てきます。

自社の4つ目の期限を測る方法は簡単です。設備を1台選び、「この設備のPLCプログラムのソースを、今日、パスワード込みで開ける人は誰か」と聞いてみてください。名前が出てこなければ、その設備の4つ目の期限はすでに過ぎています。

老朽化設備の更新2026|壊れる前に部品が消える4つの期限 - figure 1

いま実際に走っている期限の例 — 部品の生産中止は延長も撤回もある

抽象論ではなく、実際に走っている期限を2つ挙げます。

三菱電機 MELSEC-Q ユニバーサルモデルQCPU

三菱電機は、MELSEC-QシリーズのユニバーサルモデルQCPU(Q03UDCPUからQ26UDEHCPUまでの14形名)について、受注締切を2026年9月30日、生産中止を2026年10月と案内しています。修理対応は、同社の案内では生産中止から7年です。

本記事の公開日である2026年8月9日時点で、受注締切まで残り52日です。

この52日という数字の意味は、新品が買えなくなるということだけではありません。予備品を確保できる最後の期限でもあります。生産中止後は流通在庫を探すことになり、価格は上がり、真贋のリスクも出てきます。予備品での延命という選択肢そのものが、受注締切をもって選べなくなります。

修理対応期限の具体的な年月日については、本記事では「生産中止から7年」という案内の記載までにとどめます。一次資料の該当箇所で年月日を確定できなかったためです。自社設備が該当する場合は、必ず三菱電機の生産終了品一覧とテクニカルニュースで形名ごとに確認してください。

オムロンは期限を延長し、一部は撤回した

一方で、期限は必ずしも前倒しに動くわけではありません。

オムロンは2024年11月5日の案内で、CJ2H-CPU6□-EIP の生産終了時期を2025年3月末から2027年3月末へ、CJ2M-CPU3□ を2026年3月末から2028年3月末へ延長しました。さらに CS1D-CPU6□H/P と CJ1W-NC□□3 については、生産終了そのものを撤回しています。

これは実務上、非常に重要な事実です。2024年の初めに「2025年3月末で終わり」という前提で立てた更新計画は、この案内によって前提が変わりました。逆に、前提が変わったことを知らずに慌てて予算を取った工場は、2年分早く投資したことになります。

だから期限台帳は年1回の更新が要る

延長もあれば撤回もある。この事実から導かれる運用は1つです。期限台帳は一度作って終わりにはできず、年1回の棚卸しが要るということです。

チェックすべきなのは3点です。手持ちの形名が新たに生産終了アナウンスの対象になっていないか。すでに把握している期限が延長・撤回されていないか。後継機種の型式と移行方法が公開されていないか。

この3点は、メーカーの生産終了品一覧を年1回見に行けば確認できます。作業自体は半日で終わります。にもかかわらずこれをやっている工場は少なく、多くは「取引先の商社から連絡が来たら考える」状態のまま走っています。

選択肢は延命か全更新かの二択ではない — 老朽化設備の更新4つの案

期限が見えたところで、次の論点に移ります。何をどこまで更新するかです。

現場の議論はたいてい二択になります。予備品を買って延命するか、設備をまるごと入れ替えるか。この二択で議論すると、必ず次の展開になります。設備まるごと更新の見積が出てくる、金額が大きすぎて稟議が通らない、結果として延命が続く、そして期限だけが近づく。

実際には、その間に2つの案があります。

4つの案

何をするか機構部制御部盤本体
案A 延命予備品を買って持つそのままそのままそのまま
案B 制御部のみ更新(レトロフィット)CPU・HMI・駆動を新世代に入れ替える流用新規流用(改造)
案C 制御盤ごと新製案Bに加えて盤そのものを作り直す流用新規新規
案D 設備まるごと更新同等クラスの設備を新設する新規新規新規

案Bが、いわゆるレトロフィットです。工作機械であれば、鋳物のベッドも主軸もボールねじも生かしたまま、制御部と駆動部だけを現行世代に載せ替えます。案Cは、それに加えて制御盤の箱そのもの、端子台、遮断器、盤内配線を新しくします。

この2つが議論から飛ばされる理由は、たいてい情報の出方にあります。設備メーカーに相談すれば新品の見積が出てきますし、商社に相談すれば予備品の見積が出てきます。案Bと案Cは、どちらの相手に聞いても出てこないのです。制御部の更新は、設備メーカーの商材でも商社の商材でもなく、制御系のエンジニアリングの仕事だからです。

案Bは案Dの18.3%、案Cは23.8%

後の章で1台あたりの費用を積み上げますが、結論だけ先に書きます。モデルケースの試算で、案Bは案Dの18.3%、案Cは案Dの23.8%です。

いきなり7,840,000バーツの稟議を出して通らずに延命を続けるか、1,435,000バーツで期限を10年以上先送りするか。この差は、技術の差ではなく、選択肢を4つ並べたかどうかの差です。

制御部の更新は、既存設備のIoT化とは別の話である点にも注意してください。センサーを後付けして稼働データを取る取り組みは既存設備のIoT化(レトロフィット)で扱っていますが、あちらは設備を替えずにデータを取る話です。制御部品の期限は、データを取っても1日も延びません。

老朽化設備の更新2026|壊れる前に部品が消える4つの期限 - figure 2

4案の設備更新費用を1台で比べる

ここからモデルケースで数字を積み上げます。

モデルケースの前提

タイ・ラヨーン県の日系金属加工工場です。プレス・切削・組立の3工程を持ち、設備は40台。稼働は2直で16時間/日、年250日です。

まず全設備の制御部品について、メーカーの生産終了品一覧と突き合わせた棚卸しの結果がこちらです。

区分台数
保有設備40
制御部の主要部品が生産中止アナウンス済み14 台(全体の 35%)
うち修理対応期限が5年以内6
予備品を1点も持っていない9

40台のうち14台、全体の35%がすでに生産中止アナウンスの対象でした。そのうち6台は修理対応期限が5年以内。そして9台は予備品を1点も持っていません。この9台は、制御部品が1つ壊れた時点で、流通在庫を探すところから復旧が始まります。

この中から代表例として、1998年製・制御部を2009年に更新したCNC旋盤1台を取り、4案で比較します。以下の金額はモデルケースの試算であり、実際の見積は機種・軸数・盤の状態・停止可能期間によって変動します。

案A 延命(保守在庫の確保)

項目金額(バーツ)
CPUユニット予備 1台85,000
タッチパネル(HMI)予備 1台45,000
サーボアンプ予備 2台(1台 90,000180,000
電源ユニット・I/O予備60,000
初期計370,000
保管・年1回の通電確認(年額)12,000
修理対応期限までの 7 年総額454,000
1年あたりに直すと64,857

初期費用は85,000 + 45,000 + 180,000 + 60,000 = 370,000バーツ。ここに保管と年1回の通電確認が年12,000バーツかかります。修理対応期限までの7年で見ると370,000 + 12,000 × 7 = 454,000バーツ、1年あたり64,857バーツです。

年6万バーツ台。数字だけ見れば最も安く見えます。しかしこの454,000バーツで買っているのは7年分の時間だけで、7年後には何も残りません。予備品を使えばその分また買い足す必要がありますが、そのときには新品が手に入らない可能性が高い。そして4つ目の期限、つまり図面とプログラムと担当者の期限は、この案では1日も延びません。

案B 制御部のみ更新(レトロフィット。機構部は流用)

項目金額(バーツ)
CPU・I/O・ベースユニット220,000
タッチパネル(HMI)95,000
サーボアンプ・モーター(3軸)480,000
盤内配線改造・部材140,000
プログラム移行(変換+差分補正+再検証)260,000
立ち上げ・調整・試運転180,000
図面・取扱説明書の更新60,000
1,435,000
現場の停止期間10

合計は220,000 + 95,000 + 480,000 + 140,000 + 260,000 + 180,000 + 60,000 = 1,435,000バーツです。

この内訳で注目してほしいのは、部品代(CPU・HMI・駆動で795,000バーツ)よりも、プログラム移行260,000バーツと立ち上げ180,000バーツと図面更新60,000バーツの合計500,000バーツのほうです。ここは物が残らない費用なので、見積を安く見せたいときに真っ先に削られます。しかし削った結果として起きるのは、4つ目の期限をリセットし損ねることです。図面が更新されず、プログラムのソースが納品されなければ、10年後にまったく同じ問題が起きます。

案C 制御盤ごと新製

項目金額(バーツ)
案Bの内容一式1,435,000
盤本体・端子台・遮断器一式320,000
据付・既設盤の撤去110,000
1,865,000
現場の停止期間(盤を先に作って載せ替える)7

1,435,000 + 320,000 + 110,000 = 1,865,000バーツ。案Bとの差は430,000バーツです。

差額を払う価値があるのは、次のような場合です。既設盤の中が増改造で追いきれなくなっている。端子台や遮断器も年数を経ている。図面と現物が合っていない。そして何より、停止期間が10日から7日に短くなる点です。盤を工場外で先に製作し、当日は載せ替えと結線と調整だけを行うので、ラインを止める日数が減ります。稼働率の高いラインでは、この3日の差が430,000バーツを上回ることがあります。制御盤そのものの設計・製作の考え方は制御盤設計・製作で整理しています。

案D 設備まるごと更新(同等クラスのCNC旋盤を新設)

項目金額(バーツ)
本体6,800,000
搬入・据付・基礎工事420,000
治具・周辺設備の改造380,000
教育・立ち上げ150,000
既設設備の撤去・処分90,000
7,840,000
現場の停止期間(並行設置できる場合)3

6,800,000 + 420,000 + 380,000 + 150,000 + 90,000 = 7,840,000バーツ。本体以外に1,040,000バーツかかる点に注意してください。設備更新費用を本体価格だけで見積もると、この1,040,000バーツが後から出てきます。

4案の比較

費用(バーツ)案Dに対する比率停止期間期限のリセット
案A 延命454,000(7年総額)7年総額どうしではないため単純比較不可0 日されない
案B 制御部のみ更新1,435,00018.3%10制御部と社内側がリセットされる
案C 制御盤ごと新製1,865,00023.8%7制御部・盤・社内側がリセットされる
案D 設備まるごと更新7,840,000100%3すべてリセットされる

1,435,000 ÷ 7,840,000 = 18.3%、1,865,000 ÷ 7,840,000 = 23.8%です。案Aの7年総額454,000バーツは案Bのおよそ3分の1にあたりますが、7年後に残るものが違います。

そして案Dは、更新単独では成立しません。後の章で見るとおり回収に14.4年かかるからです。案Dが正当化されるのは、能力増強や新規受注、加工可能なワークサイズの拡大といった、更新とは別の効果を乗せられるときだけです。逆に言えば、「古いから替える」という理由だけで案Dを提案すると、投資基準の前で必ず止まります。

制御部更新で何を触るのか — CPU・HMI・駆動部と制御盤の中身

案Bの1,435,000バーツが何に使われるのかを、もう少し具体的に見ます。ここが分からないと、見積の妥当性が判断できません。

CPUとI/Oの載せ替え

現行世代のCPUへの移行は、単純な差し替えではありません。ベースユニットの形状が変わり、I/Oの割付が変わり、ネットワークの規格が変わることがあります。旧世代の増設ユニットが後継シリーズに存在しない場合は、機能を別の方法で実現する設計が必要になります。

ここで見積に必ず入れるべきなのが、I/O点数の実測です。図面上のI/O点数と現物が合っていない設備は珍しくありません。増設したセンサーが図面に反映されていない、使われていない配線が端子台に残っている、といった状態が普通です。実測せずに図面の点数で発注すると、現地作業の段階で点数が足りず、追加費用と工期延長が発生します。

タッチパネル(HMI)の更新

タッチパネルは、制御部の中でも期限が早く来やすい部位です。液晶パネルとバックライトの供給がPLC本体より短い周期で終わることがあるためです。

更新時に問題になるのは、画面データです。旧機種の作画データを新機種へ変換するツールはメーカーが提供していますが、変換で落ちる要素があります。マクロ、レシピ機能、通信設定、フォント。変換後に1画面ずつ目視で確認する工数が要ります。260,000バーツのプログラム移行費に「差分補正」を含めているのは、この作業を見込んでのことです。

サーボアンプとモーターの入れ替え

3軸分のサーボアンプとモーターで480,000バーツ。ここは金額が大きいだけでなく、機構部との接点になるので技術的な確認事項も多い部分です。

確認すべきなのは、モーター軸径とカップリングの適合、取付フランジの寸法、エンコーダの分解能、そしてゲイン調整です。特にゲインは、機構部の摩耗状態に依存します。20年使ったボールねじのバックラッシュと、新品のそれは違います。旧設備と同じパラメータを入れて動かせば済む、という話にはなりません。試運転と調整に180,000バーツを積んでいるのはこのためです。制御方式そのものの選び方はサーボ制御とインバーター制御で整理しています。

盤内配線と盤本体

案Bでは盤の箱を流用し、中の配線を改造します。140,000バーツはその部材と工事です。案Cは案Bの内容一式に、盤本体・端子台・遮断器の新製320,000バーツと、据付・既設盤の撤去110,000バーツが加わる構成です。配線の作り直しは案Bにも案Cにも含まれるので、差額の430,000バーツは箱まわりの費用ということになります。

判断の目安を挙げておきます。盤内の温度上昇が大きい、端子台の増設で余裕がない、既設の遮断器が旧規格、実配線図と現物が合っていない。このうち2つ以上に当てはまるなら、案Cを検討する価値があります。逆に、盤の中が整っていて図面も合っているなら、案Bで十分です。

図面・プログラム・ドキュメントの更新

最後の60,000バーツが、実は4つ目の期限を直接リセットする項目です。

更新すべきなのは、実配線図、I/O一覧、パラメータ一覧、PLCプログラムのソース(コメント付き)、タッチパネルの画面データ、そして操作手順書です。これらが現物と一致した状態で納品されて初めて、10年後の担当者がその設備を直せます。

この項目を削って納期と金額を圧縮した更新工事は、10年後にまた同じ壁を作ります。メーカー側の3つの期限は部品を新しくすればリセットされますが、4つ目の期限だけは、ドキュメントを納品させない限りリセットされません。

老朽化設備の更新2026|壊れる前に部品が消える4つの期限 - figure 3

効果は「損失回避」だけでは足りない — 回収年数が変わる3つの併算

更新の稟議が通らない最大の理由は、効果の書き方です。

老朽化設備の更新は、生産量が増えるわけでも、不良が劇的に減るわけでもありません。だから効果として書けるのは「壊れたときの損失を避けられる」ことだけになりがちです。ところが損失回避だけで割ると、回収年数が伸びます。

期待損失だけで割ると5.6年

まず損失回避を計算します。

制御部品が調達できずに長期停止した場合の想定です。停止1時間あたりの損失を9,500バーツ、復旧までを21日、稼働を1日16時間とすると、停止時間は21 × 16 = 336時間。336 × 9,500 = 3,192,000バーツが1回あたりの損失です。年間の発生確率を8%と置くと、期待損失は3,192,000 × 8% = 255,360バーツ/年になります。

この8%という数字は、モデルケースの試算で置いた仮定値です。予備品を1点も持っていない設備で、制御部の主要部品が生産中止アナウンス済みという条件から置いています。自社で計算するときは、過去5年間に制御部品の調達で復旧が長引いた件数を数えて置き換えてください。

案Bの1,435,000バーツをこの期待損失だけで割ると、1,435,000 ÷ 255,360 = 5.6年です。

5.6年。投資基準を3年や5年に置いている会社では、この時点で却下されます。これが「更新の稟議が通らない」原因です。

併算すべき2つの効果

損失回避以外に、制御部の更新には金額換算できる効果が2つあります。

第一に、電力削減です。旧世代のサーボアンプから現行世代へ入れ替えると、回生とスイッチング効率の改善で消費電力が下がります。モデルケースの設備の年間消費電力は96,000kWh。削減率を11%と置くと96,000 × 11% = 10,560kWhの削減で、電力単価5.9バーツ/kWhを掛けると10,560 × 5.9 = 62,304バーツ/年です。

第二に、制御系起因の想定外停止の減少です。この設備では、制御系のトラブル(接点不良、通信断、パラメータ飛び、パネルのタッチ不良など)による想定外停止が年60時間発生していました。制御部を更新した後の想定を年36時間、つまり24時間の削減(40%減)と置きます。24 × 9,500 = 228,000バーツ/年です。

項目計算年額(バーツ)
部品調達不能による長期停止の期待損失停止1時間 9,500 × 復旧 21 日 × 16 時間 = 336 時間 = 3,192,000、年発生確率 8%255,360
電力削減年間消費 96,000 kWh × 削減 11% = 10,560 kWh × 5.9 バーツ/kWh62,304
制御系起因の想定外停止の減少60 時間 → 36 時間(24 時間削減、40%減)× 9,500228,000
合計545,664

255,360 + 62,304 + 228,000 = 545,664バーツ/年です。

併算すると案Bは2.6年で回収する

この545,664バーツで各案を割ります。

費用(バーツ)回収年数
案B 制御部のみ更新1,435,0002.6
案C 制御盤ごと新製1,865,0003.4
案D 設備まるごと更新7,840,00014.4

1,435,000 ÷ 545,664 = 2.6年、1,865,000 ÷ 545,664 = 3.4年、7,840,000 ÷ 545,664 = 14.4年です。

期待損失だけなら5.6年だった案Bが、併算すると2.6年になります。同じ投資、同じ効果の実体で、書き方だけが違います。そして案Dは14.4年。案Dは能力増強や新規受注の効果を別に乗せない限り、更新単独では成立しません。

ここで強調しておきたいのは、併算は水増しではないという点です。電力削減も制御系起因の停止削減も、更新後に実測できる数字です。むしろ期待損失255,360バーツのほうが、確率を掛けた推定値である分だけ検証しにくい。検証しやすい効果を書かずに、検証しにくい効果だけで割っていたというのが、稟議が通らない工場で起きていることです。

なお、この3つは別々の事象を数えているので二重計上ではありません。1つ目は部品が調達できずに復旧が長引く事象、3つ目は部品はあるが制御系の不具合で止まる事象で、原因も復旧時間の桁も違います。自社で計算するときは、過去の停止記録を「部品調達待ちで長期化したもの」と「その日のうちに復旧したもの」に分けて数えてください。

案Aを同じ式で割ってはいけない理由

ここまでの表に案Aが入っていないのは、意図的です。案Aを同じ545,664バーツで割ると、454,000 ÷ 545,664 で1年を切り、案Bの2.6年を圧倒しているように見えます。しかしこれは成り立ちません。理由は3つあります。

第一に、案Aが拾えるのは3つの効果のうち1つ目だけです。予備品を持てば、部品が調達できずに長期停止する確率は確かに下がります。ただし下がるのは一部です。予備として持つのはCPU・タッチパネル・サーボアンプ・電源の4部位で、制御部が止まる原因はこれで尽きません。通信ユニット、エンコーダ、盤内のケーブル、そしてパラメータやプログラムそのものの喪失は、予備品では復旧できません。255,360バーツの期待損失のうち、案Aが消せるのはこの一部だけです。

第二に、残る2つの効果は案Aでは1バーツも発生しません。電力削減62,304バーツと制御系起因の停止削減228,000バーツ、合わせて年290,304バーツは、部品を新しくして初めて出る数字です。予備品を棚に置いても、動いている設備の消費電力も停止時間も変わりません。

第三に、期間が違います。案Aが下げた確率は、修理対応期限が切れる7年後に元へ戻ります。むしろ悪化します。予備品を使い切った時点で調達手段が残っていないからです。案Bの1,435,000バーツが買うのは効果の10年以上の継続で、案Aの454,000バーツが買うのは7年の猶予です。回収年数という同じ物差しに並べると、この期間の違いが見えなくなります。

したがって案Aは、回収年数ではなく「7年をいくらで買うか」という別の指標で評価すべき案です。年64,857バーツで7年の猶予を買う判断そのものは、合理的な場面があります。ただしそれは、その7年のあいだに案Bか案Cを実行する計画がある場合に限ります。計画のない延命は、7年後に選択肢が案Dしか残っていない状態を、年64,857バーツかけて作りにいく行為になります。

延命を選ぶとBOIの恩典を捨てることになる

もう1つ、案Aの隠れたコストがあります。BOI(タイ投資委員会)の恩典です。

生産効率向上のための措置には投資額の下限がある

BOIには「生産効率向上のための措置」という奨励策があります。既に操業している事業を対象に、機械の差し替えやアップグレードを支援するものです。

一般的な基準として、1,000,000バーツ以上の投資(土地代・運転資金を除く)が条件になっています。自動化機械設備を使用する改善であれば3年の法人所得税免除が受けられ、免除の上限は自動化機械設備への投資金額の50%です。さらに、自動化への投資額の30%以上をタイ国内メーカーから購入する場合、免除される金額は自動化への投資額の100%を超えない範囲まで調整されます。

この基準を4案に当てはめると、次のようになります。

投資額(バーツ)1,000,000バーツ基準免除枠の目安
案A 延命370,000満たさない対象外
案B 制御部のみ更新1,435,000満たす50%=717,500 / 国内調達30%以上なら1,435,000
案C 制御盤ごと新製1,865,000満たす投資額に応じて拡大
案D 設備まるごと更新7,840,000満たす投資額に応じて拡大

案Aの370,000バーツは、投資額が1,000,000バーツの基準に届かないため、この枠には乗りません。

一方、案Bなら投資額1,435,000バーツに対して50%の717,500バーツ、タイ国内調達が30%以上であれば1,435,000バーツまで法人所得税の免除枠が立つ計算になります。ただし免除の上限は、出典上は自動化機械設備への投資金額を基準にしています。ここでは案Bの総額を基準に置いた概算であり、プログラム移行費や立ち上げ費がどこまで対象に含まれるかは案件ごとの判断になります。

延命は、安く見えて恩典を捨てているというのはこの意味です。案Aで454,000バーツを7年かけて使い、何も残さず、恩典もゼロ。案Bで1,435,000バーツを使い、期限を10年以上先送りし、最大で1,435,000バーツ分の免除枠が立つ。この比較を稟議書に載せると、議論の前提が変わります。

2つの措置と、インダストリー4.0の枠

生産効率向上のための措置には、第1の措置(省エネルギー・代替エネルギーの利用・環境負荷低減のための機械の差し替えまたはアップグレード)と、第2の措置(機械のアップグレードによる生産効率の向上)があります。

案Bは第2の措置に該当する可能性が高い一方、電力削減を伴う制御部の更新であれば第1の措置に乗る可能性もあります。ただしどちらに整理されるかは案件の内容次第であり、ここで断定はできません。申請前にBOIまたは代理人に確認してください。

より大きな枠としては、インダストリー4.0の変革に対する奨励があります。機械の輸入税免除に加えて3年の法人所得税免除が受けられ、投資の100%が対象になります。ただしタイ国立科学技術開発庁(NSTDA)が認定した変革投資計画が必要で、制御部の更新1台という規模で使える枠ではありません。工場全体の変革計画を持っている場合に検討する選択肢です。

ここで挙げたBOIの条件は、2021年11月18日付のBOI日本語資料に基づくものです。奨励策の内容と条件は改定されるため、申請時は必ず最新の告示を確認してください。本記事の数字は、更新案の比較検討に使う目安としてお読みください。

期限台帳の作り方 — 40台を1日で棚卸しする手順

ここまでの議論はすべて、自社の期限が分かっていることを前提にしています。では、それをどう作るか。

結論から言うと、40台規模なら1日で作れます。必要なのは、設備台帳と、制御盤の中を見る作業と、メーカーの生産終了品一覧です。システムは要りません。

台帳に持たせる列

内容取得元
機番・設備名既存の設備台帳の記載設備台帳
制御部の更新履歴最後に制御部を更新した年設備台帳・保全記録
CPU形名PLCの本体形名制御盤の現物
HMI形名タッチパネルの形名現物(銘板または裏面)
サーボアンプ形名全軸分制御盤の現物
受注締切形名ごとの受注締切メーカーの生産終了品一覧
生産中止形名ごとの生産中止時期メーカーの生産終了品一覧
修理対応期限形名ごとの修理対応期限メーカーの生産終了品一覧
予備品の有無部位ごとの在庫点数保全倉庫の実棚
ソースの所在PLCプログラムのソースがどこにあるか自社で確認
パスワード誰が知っているか自社で確認
図面の状態実配線図が現物と一致しているか自社で確認

最初の5列は設備と形名を特定するための欄、続く3列がメーカー側の期限、9列目の予備品の有無は延命できる余地の大きさ、最後の3列が社内側の期限です。最後の3列を持たない台帳は、4つ目の期限を見落とします。

半日で回る手順

現物の形名を拾う作業は、盤の扉を開けて銘板をスマートフォンで撮るだけです。40台なら2人で半日かかりません。撮った写真から形名を書き出し、メーカーの生産終了品一覧で検索します。三菱電機とオムロンはいずれもWebで形名検索ができます。

このとき、CPU・HMI・サーボアンプの3点に絞ってください。盤内のすべての部品を追うと終わりません。この3点が、金額でも調達難易度でも支配的だからです。電源やI/Oは、この3点を更新するときに一緒に見れば足ります。

予備品の有無は保全倉庫の実棚で数えます。社内側の3列、つまりソースの所在、パスワード、図面の状態は聞き取りで埋めます。ここで「分からない」が並ぶ設備が、期限台帳の上位に来ます。

台帳から更新順を決める

台帳ができたら、並べ替えの軸を決めます。取得年ではありません。

第一の軸は、修理対応期限までの残り年数です。第二の軸は、予備品を持っているかどうか。第三の軸は、その設備が止まったときの1時間あたり損失です。第四の軸は、社内側の3列に「分からない」がいくつあるか。

この4軸で順位を付け、順位の合計が小さい順に並べます。モデルケースでは、この並べ替えで上位に来たのが、予備品を1点も持っていない9台と、修理対応期限が5年以内の6台の重なり部分でした。まずここから手を付けます。

設備の日常保全をどこまで内製し、どこから外注するかという分界点の議論も、この台帳を作った後のほうが正確になります。設備保全の外注では、その分け方を整理しています。

発注前に決める7項目

更新工事を発注する前に、仕様書に書いておくべき項目があります。ここを決めずに発注すると、工事は完了しているのに4つ目の期限がリセットされない、という結果になります。

#決める項目決めないとどうなるか
1PLCプログラムのソース納品(コメント付き)10年後に中身が読めない。改造のたびに元請けを呼ぶことになる
2プログラムとHMIのパスワード預託先担当者の退職・帰任と同時に、自社の設備が自社で開けなくなる
3ドキュメントの言語日本語だけの図面は、現地の保全担当が読めず更新もされない
4実配線図の「現物一致」納品竣工図と現物がずれたまま次の10年に入る
5旧設備からの動作差分の扱い「前と同じ動き」の定義が曖昧なまま検収でもめる
6立ち上げ後の窓口と対応時間立ち上げ直後の微調整で、誰に連絡すればよいか分からなくなる
7更新後の部品の期限リスト提出新しい制御部の期限が分からず、次の期限台帳が作れない

特に落としやすい3項目

7項目のうち、実務で最も落ちやすいのは2番、3番、7番です。

2番のパスワード預託は、日本本社の生産技術が設定したまま引き継がれていないケースが非常に多い項目です。更新工事は、これをリセットできる唯一の機会です。誰が保管するか、どこに記録するか、担当者が変わったときにどう引き継ぐかまで仕様書に書いてください。

3番のドキュメント言語は、海外工場特有の項目です。日本語だけの図面は、現地の保全担当が使えないため更新されません。更新されない図面は数年で現物と乖離します。英語か、タイ語か、少なくとも図面記号と信号名は現地担当が読める形にしてください。

7番の期限リストは、ほとんどの仕様書に入っていません。しかしこれが無いと、更新した設備の次の期限が分からないまま次の10年が始まります。納品時に、搭載したCPU・HMI・サーボアンプの形名一覧を必ず受け取ってください。

なお、PLCのプログラム開発そのものを誰にどう発注するかという論点は、更新工事とは別に整理が要ります。ソースの権利、コメント規約、変更管理といった観点はPLCプログラム開発の外注で扱っています。

よくある失敗5パターン

失敗1|修理対応期限だけを見て安心した

「修理対応は生産中止から7年ある」という案内を見て、更新を先送りする。最も多いパターンです。しかし4つ目の期限、つまり図面・プログラム・パスワード・担当者の期限は、メーカーの案内には書かれていません。部品はあるのに直せない状態に、修理対応期限より先に到達します。

失敗2|延命か全更新かの二択で議論した

案Bと案Cを飛ばして議論すると、7,840,000バーツの稟議か370,000バーツの予備品購入かの二択になります。前者は通らず、後者が選ばれ、期限だけが近づきます。案Bなら1,435,000バーツ、案Dの18.3%です。

失敗3|効果を損失回避だけで書いた

期待損失255,360バーツ/年だけで案Bを割ると5.6年。電力削減62,304バーツと制御系起因の停止削減228,000バーツを併算して年545,664バーツになり、2.6年になります。検証しやすい効果を書かずに、検証しにくい効果だけで割っていたことが原因です。

失敗4|プログラム移行費とドキュメント更新費を削った

案Bの内訳のうち、プログラム移行260,000バーツ、立ち上げ180,000バーツ、図面更新60,000バーツは物が残らない費用です。見積を圧縮するときに真っ先に削られますが、削ると4つ目の期限がリセットされません。工事は完了しているのに、10年後に同じ問題が起きます。

失敗5|期限台帳を一度作って更新しなかった

オムロンの2024年11月5日の案内のように、期限は延長されることも撤回されることもあります。CJ2H-CPU6□-EIP は2025年3月末から2027年3月末へ、CJ2M-CPU3□ は2026年3月末から2028年3月末へ延長され、CS1D-CPU6□H/P と CJ1W-NC□□3 は生産終了が撤回されました。年1回の見直しをしないと、古い前提のまま計画を立てることになります。

よくある質問

老朽化設備の更新費用はいくらかかりますか?

何をどこまで更新するかで、10倍以上の幅があります。モデルケースのCNC旋盤1台では、予備品を買う延命が7年総額454,000バーツ、制御部のみの更新が1,435,000バーツ、制御盤ごとの新製が1,865,000バーツ、設備まるごとの更新が7,840,000バーツでした。制御部のみの更新は、設備まるごと更新の18.3%です。見積を取るときは、この4案のうちどれで見積もっているのかを最初に揃えてください。案Bと案Cは設備メーカーに聞いても商社に聞いても出てこないことが多いので、こちらから指定する必要があります。

PLCの更新とリプレースは何が違いますか?

実務ではほぼ同じ意味で使われますが、範囲の指定として使い分けると議論が正確になります。PLCの更新(リプレース)は、CPUとI/Oを後継機種に載せ替える作業を指すのが一般的です。これに対してレトロフィットは、PLCだけでなくタッチパネル、サーボアンプ、モーター、盤内配線までを含めて制御部一式を現行世代にする作業を指します。モデルケースの案Bがレトロフィットで、その中の220,000バーツ分がPLC本体の更新にあたります。PLCだけを替えてタッチパネルとサーボを残すと、残した部位の期限が数年後に来るので、結局2回工事することになります。範囲を先に決めてください。

レトロフィットは工作機械にも使えますか?

使えます。むしろ工作機械は、レトロフィットの効果が最も出やすい設備です。鋳物のベッド、主軸、ボールねじ、リニアガイドといった機構部は20年、30年と維持できる一方で、制御部と駆動部は10年から15年で生産中止になるためです。モデルケースの1998年製CNC旋盤は、制御部を2009年に一度更新しており、今回が2回目の更新にあたります。ただし機構部の状態は必ず先に確認してください。ボールねじのバックラッシュや主軸の振れが規格を外れている場合、制御部だけを新しくしても精度は戻りません。機構部の精度測定を先に行い、その結果を見てから案を決める順序が正しいやり方です。

制御盤の更新だけでも意味がありますか?

あります。モデルケースでは、制御部のみの更新(案B、1,435,000バーツ)で年545,664バーツの効果が立ち、2.6年で回収しています。内訳は、部品調達不能による長期停止の期待損失255,360バーツ、電力削減62,304バーツ、制御系起因の想定外停止の削減228,000バーツです。盤本体まで作り直す案C(1,865,000バーツ)でも、同じ効果で3.4年です。一方、設備をまるごと更新した場合(案D)の回収は14.4年なので、投資効率で見れば制御部あるいは制御盤までの更新のほうが優れています。ただしこれはモデルケースの試算です。自社で計算するときは、停止1時間あたりの損失額と、過去の制御系起因の停止時間を実測して置き換えてください。

部品が生産中止になったと通知が来たら、何から始めればよいですか?

まず、その形名が自社の何台に載っているかを数えてください。1台だと思っていたら5台に載っていた、というのはよくあることです。次に、受注締切の日付を確認します。予備品での延命という選択肢が選べるのは、この日までです。三菱電機のMELSEC-Q ユニバーサルモデルQCPU(14形名)は受注締切が2026年9月30日で、本記事公開日の2026年8月9日時点で残り52日です。そのうえで、対象設備の社内側の期限、つまりプログラムのソースの所在、パスワードを知っている人、図面が現物と合っているかを確認します。この3つが揃っていない設備は、部品を確保しても直せない可能性があるので、延命ではなく更新を検討してください。

BOIの恩典は設備更新にも使えますか?

生産効率向上のための措置という枠があり、既に操業している事業の機械の差し替えやアップグレードが対象になります。一般的な基準として1,000,000バーツ以上の投資(土地代・運転資金を除く)が条件で、自動化機械設備を使用する改善なら3年の法人所得税免除、免除上限は自動化機械設備への投資金額の50%です。自動化への投資額の30%以上をタイ国内メーカーから購入する場合は、投資額の100%を超えない範囲まで調整されます。予備品購入による延命(370,000バーツ)は基準を満たさず対象外ですが、制御部の更新(1,435,000バーツ)なら717,500バーツ、国内調達の条件を満たせば1,435,000バーツまで免除枠が立つ計算になります。なおここで挙げた条件は2021年11月18日付のBOI日本語資料に基づくものであり、申請時は最新の告示を確認してください。

更新中に設備を何日止めることになりますか?

モデルケースでは、制御部のみの更新(案B)が10日、制御盤ごとの新製(案C)が7日、設備まるごと更新(案D)が並行設置できる場合で3日と置いています。案Cが案Bより短いのは、盤を工場外で先に製作しておき、当日は載せ替えと結線と調整だけを行うためです。停止期間が生産に直結するラインでは、この3日の差が案Cと案Bの差額430,000バーツを上回ることがあります。停止日数を短くしたい場合は、盤を先行製作する案Cのほうが有利です。実際の日数は軸数、配線量、既設図面の精度によって変わるので、見積時に停止工程表を出してもらってください。

まとめ

老朽化設備の更新で最初に直すべきなのは、判断の材料です。設備台帳の取得年月日ではなく、制御部品の期限台帳で計画を作ってください。鋳物のフレームは30年持ちますが、CPU・タッチパネル・サーボアンプは10年から15年で生産中止になります。日本では導入から10年以上の設備が60%超、20年以上が35%超で、日本から移設した設備を使う海外工場ではさらに古くなります。

期限は3つではなく4つあります。受注締切、生産中止、修理対応期限に加えて、図面・プログラム・パスワード・担当者が社内に残っている期限です。修理対応期限まで何年もあるから安心だと言っている工場ほど、部品はあるのに直せない状態に先に到達します。三菱電機のMELSEC-Q ユニバーサルモデルQCPU(14形名)は受注締切が2026年9月30日で、本記事公開日から52日。一方でオムロンは2024年11月5日の案内で期限を延長し、一部は撤回しています。だから期限台帳は年1回の更新が要ります。

選択肢は二択ではありません。延命(案A、7年総額454,000バーツ)と設備まるごと更新(案D、7,840,000バーツ)の間に、制御部のみ更新(案B、1,435,000バーツ)と制御盤ごと新製(案C、1,865,000バーツ)があります。案Bは案Dの18.3%、案Cは23.8%です。この2案が議論から飛ばされるのは、設備メーカーに聞いても商社に聞いても出てこないからです。

効果は損失回避だけでは足りません。期待損失255,360バーツ/年だけで案Bを割ると5.6年ですが、電力削減62,304バーツと制御系起因の停止削減228,000バーツを併算して年545,664バーツとすると、案Bは2.6年、案Cは3.4年で回収します。案Dは14.4年なので、能力増強や新規受注の効果を別に乗せない限り更新単独では成立しません。

そして延命は、安く見えて恩典を捨てています。BOIの生産効率向上のための措置は1,000,000バーツ以上の投資が条件なので、370,000バーツの予備品購入は対象外です。案Bなら717,500バーツ、タイ国内調達が30%以上なら1,435,000バーツまで免除枠が立つ計算になります。ただしこの条件は2021年11月18日付のBOI日本語資料に基づくものなので、申請時は最新の告示を確認してください。

最後に、発注時にドキュメントを納品させてください。プログラムのソース、パスワードの預託先、現物一致の実配線図、そして更新後の部品の期限リスト。これらが無い更新工事は、3つの期限をリセットしても4つ目をリセットしません。10年後に同じ壁が来ます。

期限台帳の作り方だけ相談したい、という段階でも構いません。制御盤の中の形名を拾う作業は、40台規模なら2人で半日です。メーカーの生産終了品一覧との突き合わせまで含めても、1日あれば台帳の形になります。その結果を見て、案Aから案Dのどれで見積もるかを決めるところまでが、本来の検討の入口になります。自社の設備が今どの期限のどのあたりにいるのか、更新の順番をどう付ければよいのか、見積の内訳に何が入っていて何が抜けているのか。そうしたご相談を日常的にお受けしています。ご検討の段階でお問い合わせからお声がけください。

参考情報