「この軸はサーボ制御にすべきか、インバーター制御で足りるか」。タイの工場で設備更新の見積を取るとき、この問いはたいてい価格表の比較になります。しかし現場で誤選定が起きる原因は価格ではありません。その軸に位置を要求しているのか、速度だけでよいのか、負荷トルクが回転数とともにどう変わるのかを、誰も数字で確かめていないからです。本記事では、ラヨーン県の日系金属加工工場を想定したモデルケースで、選定を分ける4つの境界を計算式ごと公開します。
サーボ制御とインバーター制御の違いは、モーターではなく「軸への要求」で決まる
インバーターとサーボの違いを「精度が違う」「値段が違う」と説明されることがありますが、それでは選定の判断材料になりません。両者を分けているのは、装置に何を指令するかです。
インバーターに与える指令は周波数、つまり速度です。50 Hz で回せ、30 Hz に落とせ、という指令に対して、モーターは指令どおりの回転数で回り続けます。どこで止まるかはインバーターの関心事ではありません。減速停止したあと、実際にどの位置で止まったかは、そのときの慣性と摩擦が決めます。
サーボアンプに与える指令は位置です。原点から 120.00 mm の地点に移動しろ、という指令に対して、エンコーダが実際の位置を読み返し、指令値との差がゼロになるまでトルクを出し続けます。目標に到達したあとも、外力で押されればそれを押し返します。この「読み返して差を潰す」ループがあるかどうかが、両者の構造的な違いです。

したがって最初に決めるべきは、モーターの型式ではなく、その軸に対する要求の種類です。本記事では次の4種の回転体をモデルケースとして扱います。タイ・ラヨーン県の日系金属加工工場、プレスと機械加工のラインで、既存設備の制御更新を検討している状況を想定します。年間運転時間は全設備 6,000 時間、2直に残業を加えた稼働で共通とします。
| 対象 | 容量 | 台数 | 負荷トルク特性 | 位置決め |
|---|---|---|---|---|
| 集じん機ファン | 22 kW | 2台 | 二乗低減トルク | 不要 |
| 冷却水ポンプ | 15 kW | 2台 | 二乗低減トルク | 不要 |
| ベルトコンベヤ | 3.7 kW | 6台 | 定トルク | 不要 |
| 位置決めテーブル | 2.0 kW | 4軸 | — | 必要 |
この表を見て「位置決めが必要な軸だけサーボ、あとはインバーター」と読むのは半分正解で、半分不正解です。位置決め列だけを見ればサーボの要否は決まりますが、残りの3種にインバーターを付けるべきかどうか、付けたときに投資が回収できるかどうかは、負荷トルク特性の列を見なければ判断できません。ここが本記事の中心です。
よくある2つの誤解
「安いからインバーター」という誤解。 インバーター単体の価格はたしかにサーボアンプより安く済みますが、更新工事の費用は本体価格だけでは決まりません。後述するモデルケースでは、集じん機ファン2台のインバーター化にかかる 374,000 バーツのうち、インバーター本体は 120,000 バーツ、つまり約3分の1です。残りは盤改造、ノイズ対策、PLC側の指令ロジック変更、試運転調整です。本体価格で比較して発注した案件が、盤の空きスペースが足りずに新設盤を追加することになり、想定の倍になるのはタイでもよくある展開です。制御盤の設計と製作の考え方については、制御盤設計・製作の外注ガイドで別途整理しています。
「精度が要るからサーボ」という誤解。 ここで言う精度が何を指しているのかが、たいてい共有されていません。停止位置の精度なのか、回転速度の均一性なのか、同じ動作を繰り返したときのばらつきなのかで、必要な機器は変わります。速度の均一性だけが要求ならセンサレスベクトル制御のインバーターで足りることが多く、繰返し位置決め精度が要求ならサーボが必要です。「精度が要る」という言葉のまま見積を取ると、要求されていない性能に費用を払うことになります。
選定の順序は次のとおりです。第1に、その軸に停止位置の要求があるか。第2に、負荷トルクが回転数とともにどう変わるか。第3に、必要な応答性がどの制御方式の段に載るか。第4に、その投資をどの優遇措置で申請するか。以下、この4つの境界を順に見ていきます。
境界1|その軸は「止める」必要があるか — 位置決め制御の要否
第1の境界は単純です。停止精度を仕様書に数値で書けるかどうか。書けないなら、その軸にサーボは要りません。
「だいたいこのあたりで止まればいい」「目視で合わせている」という軸は、書けない軸です。集じん機ファン、冷却水ポンプ、ベルトコンベヤ、撹拌機、油圧ポンプはいずれも書けない軸に入ります。これらの軸に対する要求は「必要な風量・流量・搬送速度が出ること」であって、「どこで止まるか」ではありません。
書ける軸には、要求が数値で存在します。位置決めテーブルなら「繰返し位置決め精度 ±0.05 mm 以内」、ロータリーインデックスなら「割出角度誤差 ±0.02°」、供給フィーダなら「送り長さ 120.0 mm に対して ±0.1 mm」といった形です。加えて、整定時間、つまり指令位置に到達してから振動が収まるまでの時間も、タクトタイムに直結するので数値化が必要です。
なお「止まる」という言葉には、現場で3つの意味が混在しています。ひとつ目は減速停止で、速度をゼロにするだけの動作です。ふたつ目は位置保持で、停止後に外力が加わっても位置を維持する動作です。みっつ目は非常停止時の挙動で、電源が落ちたときに自由に動いてよいのか、その場に止めておく必要があるのかという話です。垂直軸で位置保持が必要なら、サーボであっても電磁ブレーキの併用を前提に設計します。この3つを分けずに「止まればいい」と伝えると、非常停止時にワークが落下する設計が納品されます。
機械式ストッパで位置を出している軸は、段取りのたびに人が触っている
書ける軸なのにサーボが入っていない、という設備は珍しくありません。典型が、汎用モーターで動かして機械式ストッパに突き当てて位置を出している軸です。運転中の精度はストッパが保証するので、品質上は問題が出ません。問題が出るのは品種切替のときです。
モデルケースの位置決めテーブル4軸が、まさにこの状態にあるとします。品種を切り替えるたびに、作業者がストッパ位置を調整し、試打ちをして寸法を測り、必要なら再調整します。1回あたり18分、1日6回の切替が発生しています。サーボ化して座標をプログラムから呼び出せるようにすると、この作業が品種番号の呼び出しと初品確認だけになり、1回3分になります。
削減時間は、18分から3分を引いた15分に、1日6回、年間250日を掛けて算出します。15分 × 6回 × 250日 = 22,500分、つまり 375 時間/年 です。このラインの設備時間単価を 850 バーツ/h とすると、375 h × 850 バーツ = 318,750 バーツ/年 の効果になります。
投資額は4軸分で次のとおりです。
| 項目 | 金額(バーツ) |
|---|---|
| サーボアンプ+サーボモーター 2.0kW級 78,000 × 4軸 | 312,000 |
| ボールねじ・カップリング等の機械側改造 | 240,000 |
| 位置決めユニット・PLC改造 | 130,000 |
| ティーチング・立上げ調整 | 95,000 |
| 合計 | 777,000 |
回収年数は 777,000 ÷ 318,750 = 2.4 年 です。ここで注意すべきなのは、投資額 777,000 バーツのうちサーボアンプとモーターは 312,000 バーツ、4割にすぎないという点です。ボールねじとカップリングの機械側改造に 240,000 バーツかかっています。汎用モーターとストッパの組み合わせで動いていた機構は、ガタや剛性がサーボの応答に耐えないことが多く、機械側を作り替えなければサーボの性能が出ません。「サーボアンプを買えばサーボ化できる」という前提で稟議を上げると、承認後に機械費が出てきて計画が止まります。
そして最も重要な点です。この投資で電気代は下がりません。むしろ微増します。サーボはサーボオン中、位置を保持するために電流を流し続けるため、保持損失が発生します。停止中に電力を消費しない汎用モーターとの比較では、消費電力はわずかに増える方向です。サーボ化の効果は段取り時間と停止精度に出るのであって、電気代には出ません。この一点を取り違えると、後述する優遇措置の選択も間違えます。
境界2|負荷トルク特性 — インバーター制御で電気代が下がる設備・下がらない設備
第2の境界が、本記事で最も強調したい部分です。インバーター化で電気代が下がるのは二乗低減トルク負荷だけです。定トルク負荷に付けても、ほとんど下がりません。そして現場で確かめられていないのが、まさにこの負荷トルク特性です。
二乗低減トルク負荷とは、ファンやポンプのように、必要なトルクが回転数の2乗に比例して変わる負荷です。トルクが回転数の2乗に比例するので、軸動力(トルク×回転数)は回転数の3乗に比例します。回転数を50%に落とすと、軸動力は 0.5³ = 0.125、理論上は12.5%まで落ちます。実際には効率低下や静圧の影響があるので理論値どおりにはなりませんが、それでも大きな削減が期待できます。
定トルク負荷とは、コンベヤ、押出機、クレーン巻上、容積形ポンプのように、回転数が変わっても必要なトルクがほぼ一定の負荷です。軸動力は回転数に比例するだけなので、回転数を50%に落としても消費電力は50%までしか落ちません。しかも、コンベヤの回転数を落とすということは搬送量を落とすということですから、生産している時間は落とせません。落とせるのは材料が流れていない空運転の時間だけです。この二重の制約が、定トルク負荷でインバーターが回収しない理由です。

もうひとつ、現状の絞り方が重要です。ファンの風量を制御する方法には、ダンパーで流路を絞る方法と、回転数そのものを落とす方法があります。ダンパー絞りは、モーターを定格回転のまま回し続けたうえで流路に抵抗を追加する方法なので、絞っても消費電力はあまり下がりません。逆に言えば、ダンパーを絞る運転をしている時間が長い設備ほど、インバーター化の削減余地が大きいということです。すでに全開のまま運転していて、絞る必要がない設備には、削減余地がありません。
試算A|集じん機ファンのインバーター化
基準点には、日本電気技術者協会が公開している解説の定量例を使います。この例は実揚程30%・締切圧力140%を仮定したポンプとバルブ絞りの計算で、流量を50%に絞ったときの軸動力はバルブ絞りで 0.65 Pn、回転数制御で 0.238 Pn です。ここで Pn は定格軸動力を表します。ファンのダンパー絞りも「モーターを定格回転のまま回して流路に抵抗を足す」という原理は同じなので、この2点を保守的な基準点として援用します。ファンには実揚程に相当する成分がないぶん、実際の削減はこれより大きく出る方向です。なお同じ解説はファンの事例として、可変速駆動が吸込みダンパー制御に対して約50%強の省エネになったことも報告しています。
ひとつ断っておくと、0.238 は実揚程を含むポンプのモデル値なので、前節で触れた純粋な3乗則の 0.5³ = 0.125 よりは高く出ます。100%流量では両者とも 1.00 Pn です。75%流量については出典に該当点の数値が無いため、絞り側を2点間の直線内挿で 0.825 Pn、回転数制御を3乗則で 0.75³ = 0.422 Pn とします。50%点と75%点でモデルが混在しており、これは削減量をやや大きめに見せる方向に効きます。だからこそ次の試算A’で、前提が崩れたケースを必ず併記します。
この工場の集じん機ファンは、加工内容によって必要風量が変わり、100%流量が時間の20%、75%流量が30%、50%流量が50%という運転パターンだとします。各流量帯での削減量に時間比率を掛けて足し合わせると、年間平均の削減率が出ます。
| 流量 | 時間比率 | 絞り制御(ダンパー・バルブ) | 回転数制御 | 差 | 加重寄与 |
|---|---|---|---|---|---|
| 100% | 20% | 1.000 Pn | 1.000 Pn | 0.000 | 0.000 |
| 75% | 30% | 0.825 Pn | 0.422 Pn | 0.403 | 0.121 |
| 50% | 50% | 0.650 Pn | 0.238 Pn | 0.412 | 0.206 |
| 合計 | 100% | — | — | — | 0.327 |
加重平均の削減率は 0.327 です。つまり、定格軸動力の32.7%相当を年間を通して削減できるという意味になります。1台あたりの年間削減量は、22 kW × 0.327 × 6,000 h = 43,164 kWh です。2台で 86,328 kWh、これに電力単価 3.95 バーツ/kWh を掛けて、86,328 kWh × 3.95 バーツ = 340,996 バーツ/年 となります。
なおこの 3.95 バーツ/kWh という単価は、タイの ERC が承認した 2026年5〜8月期の平均電力料金で、VAT別の値です。この期の燃料調整費(Ft)は 16.23 サタン/kWh に設定されています。実際の工場向け TOU 単価は受電電圧の区分と時間帯によって変わるため、本記事の試算は平均単価を用いた概算である点にご注意ください。自社の実単価で置き換える場合は、上記の kWh 値に自社単価を掛け直してください。
投資額は2台分で次のように積み上げます。
| 項目 | 金額(バーツ) |
|---|---|
| インバーター本体 22kW級 60,000 × 2台 | 120,000 |
| 盤改造・動力/制御配線・端子台 45,000 × 2台 | 90,000 |
| ノイズ対策(入力リアクトル・EMCフィルタ・シールド線) 22,000 × 2台 | 44,000 |
| PLC側の風量指令・インターロック変更 | 65,000 |
| 試運転・現地調整・取扱説明 | 55,000 |
| 合計 | 374,000 |
回収年数は 374,000 ÷ 340,996 = 1.1 年 です。この水準なら、稟議の説得は難しくありません。ノイズ対策に 44,000 バーツを計上している点は見落とされがちですが、インバーターは高速スイッチングによってノイズ源になるため、既設の計装信号やエンコーダ線への影響を防ぐ費用は最初から入れておくべきです。ここを削って、隣の計量器の値が飛ぶようになった、という事例が実際にあります。
試算A’|絞っていない工場では回収しない、どころか増える
上の 1.1 年という数字は、運転パターンが「100%が20%、75%が30%、50%が50%」であることに完全に依存しています。前提が崩れたときにどうなるかを、同じ工事・同じ機器のまま計算し直します。
もし運転パターンが 100%流量70%、75%流量20%、50%流量10% だったとします。つまり、ほとんどの時間を全開で回している工場です。加重差は 0.20 × 0.403 + 0.10 × 0.412 = 0.122 Pn となり、標準ケースの 0.327 の4割弱まで落ちます。
年間削減量は 22 kW × 0.122 × 6,000 h × 2台 = 32,208 kWh、金額にして 32,208 kWh × 3.95 バーツ = 127,222 バーツ/年 です。回収年数は 374,000 ÷ 127,222 = 2.9 年 になります。同じ機器、同じ工事、同じ投資額で、回収が 1.1 年から 2.9 年へ動きました。動かしたのは機器の性能ではなく、運転パターンです。
さらに悪い前提もあります。ダンパーをまったく絞らず、常時全開で運転している設備にインバーターを付けた場合です。削減はゼロになるうえ、インバーター自身の変換損失が約3%上乗せされます。22 kW × 2台 × 6,000 h × 3% = 7,920 kWh、金額にすると年 31,284 バーツの増加 です。省エネ投資として稟議を通した工事で、電気代が上がるという結果になります。
したがって、インバーター化を検討するときに測るべきは定格ではありません。絞っている時間の割合です。ダンパーの開度、あるいは実消費電力の時間分布を、最低でも代表週の1週間分は取ってください。電力の実測が必要になる理由と測り方については、工場の電力監視システム導入で扱っています。ただし監視システムを入れただけでは電気代は1バーツも下がりません。測って分布を得たあと、負荷特性で対象を選別して初めて下がります。既設の古い設備から実データを取り出す手順そのものは、既存設備のIoT化・レトロフィットにまとめています。
試算B|コンベヤに付けても5.4年
同じ工場のベルトコンベヤ6台にインバーターを付けた場合を計算します。定トルク負荷なので、軸動力は回転数に比例するだけです。かつ、回転数を落とすと搬送量が落ちるため、生産中は落とせません。落とせるのは材料が流れていない空運転の時間だけです。
在席検知センサを追加して、空運転を検出したら50%速度に落とす制御にするとします。空運転が全体の25%あるとすると、1台あたりの削減量は 3.7 kW × 0.5 × 6,000 h × 25% = 2,775 kWh です。6台で 16,650 kWh、金額は 16,650 kWh × 3.95 バーツ = 65,768 バーツ/年 となります。
この計算は、空運転中も定格の 3.7 kW を消費している前提を置いた楽観値です。実際には、荷が載っていないベルトの負荷トルクは定格の2割から4割程度まで下がるので、削減の絶対量はこれより小さくなります。つまり後述の回収年数は、現実にはさらに長くなる方向です。
投資額は6台分で次のとおりです。
| 項目 | 金額(バーツ) |
|---|---|
| インバーター本体 3.7kW級 18,000 × 6台 | 108,000 |
| 盤改造・配線 20,000 × 6台 | 120,000 |
| 在席検知センサ・PLC改造 | 85,000 |
| 試運転・現地調整 | 40,000 |
| 合計 | 353,000 |
回収年数は 353,000 ÷ 65,768 = 5.4 年 です。集じん機ファンの 1.1 年と比べて約5倍かかります。工事の内容はほとんど同じで、インバーターを買って盤に組み込み、PLCから指令を出すという構成も同じです。違うのは負荷トルク特性だけです。
しかも投資額の内訳を見ると、本体 108,000 バーツに対して盤改造・配線が 120,000 バーツと、本体より工事費のほうが高くなっています。1台あたりの容量が小さいのに台数が多いと、機器費は下がっても工事費は台数に比例して積み上がるためです。小容量多台数の設備は、インバーター化の費用対効果がとくに出にくい構造にあります。
同じ「インバーターを付ける」工事が、負荷トルク特性ひとつで回収 1.1 年にも 5.4 年にもなる。この事実を確かめずに、設備一覧に一律でインバーターを提案する見積が回ってきたら、負荷特性の列を追加させてください。それだけで、投資すべき設備と後回しにすべき設備が分かれます。
境界3|制御方式の階段 — V/f・ベクトル制御・サーボの間にある3段
第3の境界は、インバーターとサーボのあいだが断崖ではなく階段になっている、という話です。多くの検討が「インバーターでは無理そうだからサーボ」と一足飛びに進みますが、そのあいだには少なくとも3段あります。
| 制御方式 | 速度検出 | 得意な領域 | 弱点 | 保守できる人の要件 |
|---|---|---|---|---|
| V/f制御 | なし | ファン・ポンプの風量/流量調整、多台数一括駆動 | 低速域のトルクが不足しやすく、負荷変動で速度が変わる | 電気工事の基礎と取説の設定手順が読めれば足りる |
| センサレスベクトル制御 | なし(推定) | コンベヤ・撹拌機など、負荷が変わっても速度を保ちたい軸 | 極低速や停止付近で推定が不安定。位置は保持できない | モーター定数のオートチューニングと結果の妥当性判断ができる |
| PGベクトル制御 | エンコーダ | 巻取・張力制御、ゼロ速トルク、高い速度応答が要る軸 | エンコーダ配線とノイズ対策が増える。調整工数が上がる | ゲイン調整とエンコーダ異常の切り分けができる |
| サーボ制御 | エンコーダ | 位置決め、繰返し精度、短い整定時間 | 機械側の剛性・バックラッシュを作り込む必要がある | 位置決めパラメータとティーチングを管理でき、機械側も見られる |
段が1つ上がるごとに、費用だけでなくそれを保守できる人の要件が上がります。これはタイの工場では日本以上に重い制約です。V/f制御なら現地のローカル電気工事業者でも設定変更ができますが、PGベクトルのゲイン調整やサーボのパラメータ管理となると、対応できる技術者は限られます。夜勤帯に動かなくなったとき、誰が触れるのか。この問いに答えられない段の機器を入れると、故障のたびにライン停止が長引きます。
技術的な到達点も動いています。近年のインバーターは、永久磁石(PM)モーターとエンコーダを組み合わせた PGベクトル制御で速度応答周波数 250 Hz に達しており、初期の ACサーボに相当する応答領域まで来ています。つまり、「応答が足りないからサーボ」という判断は、いま一度確かめる価値があります。位置決めそのものが要求されているならサーボですが、要求が速度応答や張力保持なら、インバーターの上位の段で足りることがあります。
判断の順序としては、まず境界1に戻って「位置決めの要求があるか」を確認します。要求があるならサーボです。要求がなく、速度応答や低速トルクが問題になっているだけなら、V/f から順に段を上げて、要求を満たす最も低い段を選びます。サーボの手前でどこまで行けるかを検討せずにサーボを買うのは、いちばん高い段から入ることです。費用も、保守要件も、機械側の作り込みも、すべて最大になります。
境界4|どの優遇措置で申請するか — 同じ工事でCIT免除枠が363,500バーツ変わる
第4の境界は、技術ではなく申請の話です。タイでは BOI が既存プロジェクト向けの効率化措置を用意しており、制御更新はここに乗せられる可能性があります。ただし、乗せる措置を間違えると免除枠が半分になります。
| 措置 | 内容 | 恩典 |
|---|---|---|
| 1.1 | 機械更新・自動化の効率化 | 機械輸入関税免除 + 3年CIT免除(投資額の50%上限) |
| 1.4 | 省エネ・代替エネ・環境負荷軽減 | 機械輸入関税免除 + 3年CIT免除(投資額の100%上限) |
この措置は最低投資額が100万バーツで、土地代と運転資金は除きます。本モデルケースの投資合計は 374,000 + 353,000 + 777,000 = 1,504,000 バーツ なので、最低投資額の条件は満たします。ここからが分岐点です。
分けて申請する場合を計算します。インバーター化にあたる集じん機ファンとコンベヤの分は 374,000 + 353,000 = 727,000 バーツで、これは省エネを目的とした投資なので措置1.4に該当し、100%上限なら枠は 727,000 バーツです。サーボ化の 777,000 バーツは省エネではなく自動化なので措置1.1に該当し、50%上限で 777,000 × 50% = 388,500 バーツ です。合計すると枠は 1,115,500 バーツ になります。
全部をまとめて措置1.1で申請した場合は、1,504,000 × 50% = 752,000 バーツ です。差は 1,115,500 − 752,000 = 363,500 バーツ。同じ工事、同じ投資額で、申請の分け方だけで枠がこれだけ動きます。
ただし措置1.1には例外があります。自動化・ロボットシステムについて、タイ国内のオートメーション産業との連携が更新機械の価額の30%以上ある場合は、措置1.1でも投資額の100%を上限とする扱いになります。サーボ化の発注先をタイ現地のシステムインテグレーターにするかどうかが、ここで枠の大きさに直結します。自社の案件がこの条件を満たすかどうかは、発注先を決める前に確認しておく価値があります。
ここで境界1の結論が効いてきます。サーボ化は省エネ投資ではありません。境界1で見たとおり電気代はむしろ微増するので、省エネを根拠に措置1.4で申請しても、効果の裏付けが示せません。逆に、インバーター化を自動化として措置1.1にまとめてしまうと、100%枠を使える投資を50%枠に押し込むことになります。技術的な性質の違いが、そのまま申請区分の違いに対応しているわけです。
なお、BOI の措置内容や適用条件は改定されます。本記事の数値は公開ガイドに基づく整理であり、実際の申請可否は個別審査によります。省エネ効果の算定根拠として何を提出するか、既存設備の更新がどこまで対象になるかは案件ごとに判断が分かれるため、投資委員会または申請実務に詳しい専門家への事前確認を前提としてください。試算Aで示したような、負荷特性と運転パターンに基づく削減量の計算過程は、この事前確認の場でそのまま説明資料として使えます。
サーボモーター選定と電気設計外注で、発注前に決めておく7項目

4つの境界を通過して機器の方向性が決まったら、次は発注です。電気設計を外部に委託する場合、仕様書に書かれていない項目は必ず後から追加費用になるか、あるいは誰も担当しないまま納品されます。発注前に自社側で決めておくべき7項目を挙げます。
| 項目 | 決めておく内容 | 決めないとどうなるか |
|---|---|---|
| 指令方式 | パルス列か、ネットワーク(産業用イーサネット等)か。既設PLCの空きスロットと対応可否 | 現地で配線後にPLCが対応していないと判明し、CPU増設が発生する |
| 原点復帰の方式 | ドグ式か、アブソリュート方式か。停電後に原点復帰が必要か | 毎朝の立ち上げに原点出し作業が残り、段取り削減の効果が目減りする |
| 非常停止時の挙動 | フリーランか、ダイナミックブレーキか、電磁ブレーキで保持か。垂直軸の落下対策 | 非常停止でワークやツールが落下し、安全審査でやり直しになる |
| 再現性の要求値 | 繰返し位置決め精度と整定時間を数値で明記 | 「精度が出ない」という抽象的なクレームになり、責任範囲が決まらない |
| 保守部品の現地在庫 | アンプ・モーター・エンコーダケーブルの現地調達可否と納期 | 故障時に日本からの空輸待ちで、ラインが1週間止まる |
| パラメータの管理主体 | 設定値のバックアップを誰がどこに保管するか。変更時の承認フロー | 業者が離任した時点で誰も設定値を知らず、機器交換ができなくなる |
| HMIの言語 | タイ語・日本語・英語のどれを表示するか。アラームメッセージも含むか | オペレーターがアラームを読めず、内容を確認せずにリセットする運用になる |
このうち現地で最も問題になりやすいのが、下から3項目です。保守部品の現地在庫は、選定段階でタイ国内に代理店とサービス拠点があるメーカーかどうかを確認しておけば回避できます。パラメータの管理主体は、外注先に丸投げすると設定値がブラックボックス化します。納品時にパラメータ一覧を紙とデータの両方で受け取り、社内の保全部門が保管する運用を、契約条件に入れておくべきです。
HMI の言語は、タイの工場では品質問題に直結します。日本語だけの画面を納品して、タイ人オペレーターがアラーム内容を読まずにリセットを押し続けた結果、異常を検知できていなかったという事例は少なくありません。アラームメッセージまで含めた多言語化を、見積の段階で明記してください。
どこまでを外注し、どこから自社で持つかという線引きについては、PLCプログラム開発の外注で発注先の種類ごとに整理しています。本記事が扱っているのは、その一段手前、つまりその軸に何を要求するかを自社で決める部分です。ここが決まっていないまま外注すると、業者は要求を推測して設計するしかなく、推測が外れたときの手戻り費用は発注側が負担することになります。
タイの工場で制御更新を進めるときの順序
ここまでの内容を、実行の順序に並べ替えます。順序を守ることに意味があるのは、後の工程が前の工程の出力を使うからです。
第1に、測る。対象設備の実消費電力と運転パターンを、代表週の1週間分は取得します。定格銘板の値ではなく、実際に何%の負荷で、どれだけの時間動いているかを取ります。ダンパーやバルブで絞っている設備は、開度の分布も記録します。この段階で「絞っている時間がほぼゼロ」と判明した設備は、その時点で対象から外れます。試算A’で見たとおり、そこに投資すると電気代が増えます。
第2に、分ける。測ったデータを、負荷トルク特性で二乗低減トルクと定トルクに仕分けます。二乗低減トルクの設備は削減率を試算Aの方式で計算し、定トルクの設備は落とせる時間の割合を先に確認します。この仕分けをせずに設備一覧のまま見積を取ると、回収 1.1 年の案件と 5.4 年の案件が同じ表に混在し、平均値で判断することになります。平均値で判断すると、単独では通るはずの案件まで落ちます。
第3に、申請を分ける。省エネ目的のインバーター化と、自動化目的のサーボ化を、別の投資として整理します。モデルケースでは、この分離だけで CIT 免除枠が 363,500 バーツ変わりました。申請書類の作成には、第1段階で取った実測データと、第2段階の削減量計算がそのまま使えます。逆に言えば、測らずに進めた案件は、申請段階で根拠資料を作り直すことになります。
第4に、発注する。前節の7項目を仕様書に落とし、指令方式と非常停止時の挙動を確定させたうえで見積を取ります。既存設備を止められる期間、つまり据付と試運転に使える停止枠も、この時点で工場側から提示します。据付後の立ち上げで何が起きるか、どこまでを誰が担当するかについては、設備立ち上げ支援を参照してください。制御更新は、機器が納品された時点ではなく、既存のライン運用に馴染んだ時点で完了します。
この4段階のうち、飛ばされがちなのが第1と第2です。設備が古い、電気代が高い、という認識から、いきなり第4の発注に進む案件が最も多く、そして最も回収しません。
よくある質問
サーボ制御とインバーター制御の違いは?
指令の種類とフィードバックの有無が違います。インバーターに与えるのは速度(周波数)の指令で、どこで止まるかは制御していません。サーボに与えるのは位置の指令で、エンコーダで実位置を読み返し、指令との差がゼロになるまでトルクを出し続けます。したがって選定の基準は「精度が要るか」ではなく「その軸に停止位置の要求を数値で書けるか」です。書けるならサーボ、書けないならインバーターの領域です。
インバーター制御は必ず省エネになりますか?
なりません。省エネになるのはファンやポンプのような二乗低減トルク負荷で、かつ現在ダンパーやバルブで絞る運転をしている設備だけです。コンベヤのような定トルク負荷では軸動力が回転数に比例するだけで、しかも回転数を落とすと生産量が落ちるため、削減できる時間が限られます。本記事のモデルケースでは、集じん機ファンの回収が 1.1 年、コンベヤが 5.4 年でした。常時全開で運転している設備に付けた場合は、インバーター自身の変換損失 約3% のぶん、年 31,284 バーツの増加になります。
サーボモーターの選定で最初に決めることは?
容量ではなく、要求仕様の数値化です。繰返し位置決め精度、整定時間、最大移動距離とタクトタイム、可搬質量、そして非常停止時にその軸をどうしたいか。この5つが決まると、必要なトルクと慣性比が計算でき、そこから容量が決まります。逆の順序、つまり既設モーターの容量に合わせてサーボを選ぶと、慣性比が合わずに整定時間が伸び、期待した精度が出ません。加えて、機械側のボールねじやカップリングの剛性が不足していれば、アンプの性能に関係なく精度は出ません。
電気設計の外注はどこまで任せられますか?
回路設計、盤製作、配線、PLCプログラム、試運転調整までは外注できます。任せられないのは、その軸に何を要求するかの定義です。停止精度の要求値、非常停止時の挙動、原点復帰の方式、パラメータの管理主体は、設備を使う側でなければ決められません。ここを空欄にしたまま発注すると、業者は一般的な仕様で設計し、その前提が自社の運用と合わなかったときの手戻り費用は発注側の負担になります。仕様書に数値が入っているかどうかが、外注が成功するかどうかの分かれ目です。
タイでサーボ・インバーターを更新するとBOIの恩典は使えますか?
既存プロジェクト向けの効率化措置に該当する可能性があります。機械更新・自動化は措置1.1で CIT 免除が投資額の 50% 上限、省エネ・代替エネ・環境負荷軽減は措置1.4で 100% 上限です。最低投資額は100万バーツで、土地と運転資金は除きます。重要なのは、サーボ化は電気代が下がらないため省エネ措置では申請できず、インバーター化を自動化としてまとめると 100% 枠を使えなくなる点です。なお措置1.1でも、タイ国内のオートメーション産業との連携が更新機械の価額の30%以上ある場合は 100% 上限になります。ただし措置内容は改定されますし、適用可否は個別審査によりますので、投資委員会または申請実務に詳しい専門家への事前確認が必要です。
まとめ
サーボ制御とインバーター制御の選定は、モーターのカタログを比べる作業ではありません。その軸に位置を要求しているのか、速度だけでよいのかという定義の問題です。そして誤選定の実害が最も大きく出るのは、第2の境界である負荷トルク特性を誰も確かめないときです。
同じ「インバーターを付ける」工事が、二乗低減トルク負荷では回収 1.1 年、定トルク負荷では 5.4 年、常時全開の設備では年 31,284 バーツの増加になります。この差を生むのは機器の性能ではなく、運転パターンと負荷特性です。サーボ化は電気代を下げず、効果は段取り時間に出ます。モデルケースでは年 375 時間、318,750 バーツ相当で、回収 2.4 年でした。この性質の違いは、BOI の申請区分にもそのまま対応し、分けて申請するかどうかで CIT 免除枠が 363,500 バーツ変わりました。
やるべき順序は、測る、負荷特性で分ける、申請を分ける、そして発注する、の4段階です。最初の2段階を飛ばした案件が、最も回収しません。
制御更新の検討で、対象設備の負荷特性の切り分けや、発注仕様に落とす前の要求整理でお困りでしたら、TOMAS TECH までお気軽にお問い合わせください。まだ設備が特定できていない、実測データがない、という検討段階からのご相談も承っています。タイ国内の工場を対象に、現場の実測から仕様書の作成、施工後の立ち上げまで日本語で対応しています。ご相談はお問い合わせフォームからお願いいたします。
参考情報
- インバータとサーボは何が違う? — 安川電機
- インバータ制御方式の基礎知識や選定方法 — 安川電機
- ポンプ・ファンの回転数制御による省エネの実際 — 日本電気技術者協会
- ERC sets power tariff at 3.95 baht per unit for May-August — Nation Thailand、2026年4月1日
- Measure for Industrial Upgrades towards Smart and Sustainable Industry — Thailand Board of Investment
- サーボモータ・位置決め制御とは? — ソフテック