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2026.08.08

自動機 設計製作の発注ガイド2026|見積が割れる5層

自動機 設計製作の発注ガイド2026|見積が割れる5層

自動機の設計製作を外注すると、同じ仕様書を渡したのに見積が1.7倍違う、ということが起こります。原因は機械の値段ではなく、どこまでを見積の範囲に入れたかが書かれていないことです。本記事はタイ・チョンブリ県の日系自動車部品工場をモデルに、費用を5つの層に分解し、発注前に自分で判断できる材料を数字で並べます。

前提(モデル拠点と生産条件)

金額の話をする前に、どんな工場の、どの工程の話なのかを先に固定します。前提が違えば金額はすべて変わります。以下はTOMAS TECHが実案件の相場から組んだ想定モデルであり、公表統計ではありません。自社の見積を読むための物差しとして使ってください。

項目内容
拠点タイ・チョンブリ県の日系自動車部品工場、従業員 420名
対象工程樹脂部品にゴムシールを組み付け、外観を確認して箱詰めする
現状の人員1直あたり作業者 3名 × 2交代 = 6名
手作業の実力タクト9.2秒
年間稼働250日 × 2交代 × 7.5時間 = 3,750時間
年産1,800,000個(必要タクト 7.5秒、480個/時)
作業者1名あたりの実効人件費216,000 バーツ/年
通貨すべてバーツ(THB)。為替と税率は2026年8月時点

作業者1名あたり 216,000 バーツ/年 という数字には説明が要ります。これは月18,000バーツ相当で、基本給だけの金額ではありません。法定福利、残業、食事補助、送迎まで含めた会社が負担する総額です。チョンブリ県の2026年の最低賃金は日額 400 バーツ ですが、年間稼働250日で積んでも 100,000 バーツにしかなりません。実効の 216,000 バーツ はその2倍を超えます。最低賃金だけを人件費として自動化の効果を計算すると、効果は半分以下に見積もられます。自動化の検討で使うべきは、最低賃金ではなく1名分がいなくなったときに実際に消える会社負担の総額です。

背景として、自動化そのものは特別な選択肢ではなくなっています。International Federation of Robotics によれば、2024年の世界の産業用ロボット導入台数は 542,000台、そのうちアジアが新規導入の74%を占め、稼働台数は 4,664,000台(前年比9%増)に達しました。ただし、ロボットが増えていることと、自社のこの工程が自動化で回収できることは別の話です。以下では後者だけを扱います。

なお本記事では、標準機(カタログから選ぶ機械)ではなく、この工程のためだけに設計する専用機を前提にします。専用機は「機械を買う」買い物ではありません。「この工程の仕様を確定させる作業」を発注する買い物です。見積が割れる理由も、回収が読みにくい理由も、すべてここから出てきます。

自動機の設計製作の費用は5層に分かれる

自動機 設計製作の発注ガイド2026|見積が割れる5層 - figure 1

専用機の費用は、大きく5つの層に分かれます。層1が機構(メカ)、層2が制御・電気、層3が安全、層4が立上げ、層5が保全です。層1から層4までが初期費用、層5は導入後に毎年出ていく費用です。

金額初期費用に占める割合
層1 機構3,200,00036.4%
層2 制御・電気3,650,00041.5%
層3 安全730,0008.3%
層4 立上げ1,210,00013.8%
初期費用 計(層1〜4)8,790,000100%
層5 保全(5年)1,135,000
5年総額9,925,000

この表でまず見ていただきたいのは、目に見える機械、つまり触れる金属の部分は初期費用の36.4%しかないことです。工場を歩いて装置を指させば「これが8,790,000バーツの機械だ」と言えますが、そのうち手で触れるのは3分の1強です。残りの3分の2は、設計、プログラム、判定条件、安全の根拠、そして立ち上げるという行為に払っています。

層1 機構は初期費用の36.4%しかない

層1は、フレーム、搬送、供給、治具、購入部品、そして組立調整です。内訳は次のとおりです。

項目金額
構想設計・レイアウト180,000
機構詳細設計(3Dモデル・部品図)420,000
フレーム・架台製作260,000
搬送・位置決め機構(インデックステーブル・コンベヤ)540,000
供給部(パーツフィーダ 2基)480,000
治具・ハンド(3種)320,000
機械加工部品・購入品(ガイド・アクチュエータ・センサ)610,000
組立・調整(メカ)390,000
層1 小計3,200,000

層1のなかで見積から落ちやすいのが、供給部の 480,000 です。パーツフィーダはワークの形状によって成立するかどうかが変わるため、仕様が固まっていない段階では見積に入れにくい費目です。ここを外すと見積は安く見えますが、実機が来たときに「誰かがワークを1個ずつ並べる」ことになり、省人化の効果そのものが消えます。

もうひとつ、構想設計と機構詳細設計で 600,000(180,000 + 420,000)かかっている点にも注目してください。図面を描く作業は、鉄を切る前に発生します。仕様が途中で変わると、この600,000のやり直しが発生し、そこから下流の製作もすべてずれます。専用機の費用が膨らむ典型的な入口です。治具単体を外注する場合の考え方は治具設計・製作の外注で別途整理しています。

層2 制御・電気が41.5%で最大になる理由

層2が最大です。3,650,000 で初期費用の 41.5% を占めます。

項目金額
電気設計(回路図・部品表)240,000
制御盤製作(PLC・サーボアンプ・I/O)520,000
PLCプログラム開発380,000
HMI画面設計・作成180,000
ロボット本体(6軸・可搬10kg)680,000
ロボットティーチング・アプリ作成260,000
外観検査一式(カメラ2台・照明・処理装置)740,000
検査アルゴリズム調整(限度見本と判定閾値の作り込み)420,000
配線・盤内組立230,000
層2 小計3,650,000

層2が最大になる理由は3つあります。

第1に、外観検査が高いからです。カメラ・照明・処理装置で 740,000、そこに判定閾値の作り込みで 420,000 が乗り、合わせて 1,160,000 になります。これは層1の機構の3分の1を超えます。カメラの値段ではなく、「どこからが不良か」を決める作業に払っていると考えてください。この作業は限度見本を並べ、良品と不良品の境界を数値に落とし、照明を振って再現性を確認する、という地道な繰り返しです。

第2に、ロボットは本体だけでは動かないからです。本体 680,000 に対してティーチングとアプリ作成が 260,000。合計 940,000 のうち、約28%が動かすための作業費です。ロボットを入れるかどうかの判断軸はロボットSIerの選び方にまとめています。

第3に、プログラムは資産として残るのに見積では軽く見られがちだからです。PLCプログラム 380,000 とHMI画面 180,000 は、装置が動いている限り毎日使われ、改造のたびに触るものです。ここが安い見積は、たいていソースコードや設定ファイルの引き渡しが含まれていません。制御盤側の相場感は制御盤設計・製作の発注ガイド、プログラム外注の考え方はPLCプログラム開発の外注を参照してください。

層3 安全は削れない

層3は 730,000、初期費用の 8.3% です。金額としては最も小さい層ですが、削ることはできません。

項目金額
安全柵・インターロックドア210,000
安全PLC・非常停止・ライトカーテン280,000
リスクアセスメント(ISO 12100)と文書化150,000
安全回路の検証と記録90,000
層3 小計730,000

注目していただきたいのは、リスクアセスメントと文書化の 150,000、安全回路の検証と記録の 90,000 です。合わせて 240,000、層3の約3分の1が「物ではない費目」です。この2つは、装置が動くかどうかには関係しません。しかし監査や事故のときに提示を求められるのはこの文書のほうです。

見積を比較するとき、安全柵の値段だけを見て「A社のほうが安い」と判断するのは危険です。柵は同じ値段でも、リスクアセスメントの文書が付いてくるかどうかで意味がまったく違います。 文書がなければ、後から自社の生産技術が作ることになり、その工数は見積のどこにも出てきません。

層4 立上げは「動いた」を確定させる費用

層4は 1,210,000、初期費用の 13.8% です。

項目金額
社内仮組・ドライラン(製作側の工場で)260,000
分解・輸送・搬入180,000
現地据付・配管配線接続220,000
立会検査と量産試験340,000
操作・段取り教育(タイ語)120,000
取説・図面・プログラムの引き渡し90,000
層4 小計1,210,000

層4は、装置が「作られた」状態から「使える」状態に変わるための費用です。最大は立会検査と量産試験の 340,000。ここで初めて、実際のワークを流して必要タクト 7.5秒 が出るか、判定が安定するかを確認します。

タイの拠点で見落とされやすいのが、操作・段取り教育(タイ語)の 120,000 です。日本語や英語のマニュアルだけを渡すと、現場のオペレーターとリーダーが装置を止めたときに復帰できません。段取り替えのたびにエンジニアが呼ばれる装置は、稼働率が落ちるだけでなく、結局は人が張り付く装置になります。教育の言語は、見積依頼の段階で指定してください。

層5 保全は5年で1,135,000

層5は導入後の費用です。5年で 1,135,000

項目金額
予備品の初期セット210,000
年次点検 60,000/年 × 5年300,000
消耗品 45,000/年 × 5年225,000
検査条件の再調整 80,000/年 × 5年400,000
層5 小計1,135,000

層5で最も大きいのは、点検でも消耗品でもなく、検査条件の再調整で 400,000 です。年 80,000 が5年続きます。これは外観検査を積んだ装置に固有の費用で、材料ロットが変わる、金型が摩耗する、照明が経年で暗くなる、といった理由で判定の境界がずれるためです。外観検査は入れたら終わりではなく、毎年面倒を見る設備だと考えてください。この費目を見積に書かない会社は珍しくありませんが、書かなくても発生します。

見積が1.7倍割れるのは値引きではなく範囲の差

自動機 設計製作の発注ガイド2026|見積が割れる5層 - figure 2

ここが本記事の核心です。同じ工程で複数社に見積を依頼すると、金額が大きく割れます。しかしその差は、多くの場合値引き幅ではなく範囲の差です。

見積含む範囲金額
範囲を絞った見積機構から供給部 480,000 を除外、制御から外観検査 740,000 と検査調整 420,000 を除外、安全 730,000 と立上げ 1,210,000 を含まない5,210,000
5層を含む見積層1〜層4のすべて8,790,000
範囲の差であって値引き幅ではない1.7倍

5,210,000 と 8,790,000。1.7倍です。 そして安いほうの見積は、間違ってはいません。書かれた範囲については正しい金額です。問題は、外した 3,580,000 分の作業が消えるわけではないことです。外した分は必ず自社に残ります。 供給部がなければ人がワークを並べ、検査がなければ人が目視し、安全の文書がなければ生産技術が書き、立上げの手配がなければ設備担当が段取ります。

見積を横並びで比較する前に、次の5つの分界点について、各社が「含む」と書いているか「含まない」と書いているか、あるいは何も書いていないかを確認してください。何も書かれていない項目は、たいてい含まれていません。

分界点1 ワークのばらつきを誰が測るか

専用機は現物に合わせて設計します。したがって、ワークの寸法がどれだけばらつくかを知らなければ設計できません。樹脂部品であれば、成形の収縮、ロット間の差、バリの出方が効いてきます。

ここで問われるのは、そのばらつきを誰が、いつ、何個測るかです。発注側が測ってデータを渡すのか、製作側がサンプルを預かって測るのか。製作側が測る場合、その工数は見積に入っているのか。この工程が抜けたまま設計が始まると、装置ができてから「このロットは流れない」という事態になり、治具のやり直しが発生します。仕様確定に 4週 を割く理由はここにあります。

分界点2 供給をどこまで機械の責任にするか

供給部(パーツフィーダ 2基)の 480,000 が含まれるかどうかは、省人化の効果そのものに直結します。

バラ積みの部品をパーツフィーダで整列させて機械に渡すのか、それとも人がトレイに並べたものを機械が取るのか。後者であれば装置は安くなりますが、トレイに並べる人が必要です。「装置は安く買えたが、装置の前に1名立っている」という結末は、供給を機械の責任範囲に入れなかったときに起こります。

見積依頼の段階で、「ワークはどの状態で装置に到着するか」を1行で書いてください。ここが決まらないと、各社が別々の前提で見積を作り、比較そのものが成立しません。

分界点3 検査の合否は誰が決めるか

外観検査一式 740,000 と検査アルゴリズム調整 420,000、合計 1,160,000 が含まれるかどうかです。

そして、含まれる場合でも問われるのは判定の責任です。限度見本を作るのは誰か。合格ラインを決めるのは誰か。装置が「不良」と判定した現品を、最終的に人が見て覆せるのか。ここが曖昧なまま立会検査に入ると、「装置の判定が厳しすぎる」「いや品質基準どおりだ」という議論になり、量産開始が遅れます。

実務上の落としどころは、限度見本の作成と合格ラインの決定は発注側、その基準を数値に落として再現させるのは製作側という分け方です。この一文を見積依頼書に書くだけで、後の揉め事はかなり減ります。

分界点4 安全は既設の柵で足りるか

層3の 730,000 が含まれるかどうかです。「既設のラインの柵の中に入れるから安全は不要」という説明を受けることがありますが、そのまま受け取ってはいけません。

確認すべきは、第1に、装置を追加したことで既設のリスクアセスメントが有効でなくなっていないか。第2に、段取り替えや清掃のときに、人が装置に近づく動線ができていないか。第3に、非常停止を押したときに、新しい装置と既設ラインが整合して止まるか。これらのどれかが崩れていれば、既設の柵があっても安全の再検討は必要です。

そして、リスクアセスメント文書 150,000 と安全回路の検証記録 90,000 が誰の成果物になるのかを明示させてください。装置を作った側が書くのが自然です。

分界点5 立上げと引き渡し文書は含まれるか

層4の 1,210,000 です。特に確認すべきは3点あります。

第1に、立会検査の合格条件。何個流して、何秒のタクトで、不良率がいくつなら合格なのか。これを数値で書いていない見積は、合格の判断が主観になります。

第2に、引き渡す文書の一覧。取説、機構図面、電気回路図、部品表、PLCプログラム、HMI画面データ、ロボットのプログラム、検査の判定条件。このうちPLCプログラムと検査の判定条件は、渡されないことが実際にあります。 渡されなければ、以後の改造はすべて製作元に依頼するしかなくなります。

第3に、教育の言語と対象者。タイ語で、オペレーターとリーダーと保全の3階層に対して行うのか。日本人管理者向けの説明だけで終わるのか。

発注前に決める7項目(見積依頼書に書く内容)

上の5つの分界点に、タクトと保全を加えた7項目を、見積依頼書に書いてから配ってください。この7項目が書かれた依頼書を配ると、各社の見積は同じ土俵に乗ります。 逆に言えば、書かずに配った見積は比較できません。

項目見積依頼書に書く内容
項目1 ワークの条件図面と現物サンプルの提供数、寸法ばらつきの実測値、測定は誰が行うか
項目2 タクトと稼働条件必要タクト 7.5秒、年間稼働 3,750時間、2交代、年産 1,800,000個
項目3 供給の前提ワークが装置に到着する状態(バラか整列か)、供給部を装置の範囲に含めるか
項目4 検査の基準限度見本の有無、現状の流出不良率 0.35% と目標 0.08%、判定を覆す権限は誰にあるか
項目5 安全の要求ISO 12100 に基づくリスクアセスメント文書の要否、既設柵の利用可否、安全PLCの要否
項目6 立上げと引き渡し立会検査の合格条件(数量・タクト・不良率)、引き渡す文書の一覧、教育の言語と対象者
項目7 保全の前提予備品セットの範囲、年次点検の頻度と費用、検査条件の再調整を誰が行うか

項目4に現状と目標の不良率を書く意味は大きいです。0.35% を 0.08% にしたいと書けば、製作側はその差を実現できるカメラと照明と判定方式を提案します。「外観検査を付けてください」とだけ書けば、各社が別々の水準で見積を作ります。数値で書くことが、比較可能性を作ります。

費用対効果は人件費削減だけでは足りない

ここは誠実に書きます。この案件は、人件費削減だけでは5年で回収できません。

項目数値
導入前の人員 6名 × 216,0001,296,000/年
導入後の人員 2名 × 216,000432,000/年
人件費の削減864,000/年
外観の流出不良 0.35% → 0.08%(差 0.27%)1,800,000個 × 0.27% = 4,860個/年
流出1個あたりの費用 180 バーツ874,800/年
年間効果 合計1,738,800/年
5年総額 9,925,000 ÷ 1,738,800単純回収 5.7年
人件費削減だけの5年累計 864,000 × 54,320,000(5年総額の 43.5%)

計算を追ってください。6名が2名になり、人件費は 864,000/年 減ります。5年で 4,320,000。しかし5年総額は 9,925,000 です。864,000 × 5 = 4,320,000 は、5年総額の 43.5% にしかなりません。 人件費削減だけを根拠に稟議を書くと、5年で半分も返らない投資になります。

回収を成立させているのは品質です。外観の流出不良を 0.35% から 0.08% に下げると、差の 0.27% が減ります。年産 1,800,000個 に対して 4,860個/年。流出1個あたりの費用を 180 バーツ とすると 874,800/年 です。この 874,800 を人件費削減の 864,000 に足して 1,738,800/年。9,925,000 ÷ 1,738,800 = 単純回収 5.7年 になります。

流出1個あたり 180 バーツ という数字は、部品代だけではありません。選別、再検査、輸送、客先での手続き、そして社内の対応工数を含んだ会社負担の総額です。この数字は工程ごとに違うので、自社の値を必ず出してください。ここが自社の数字に置き換わらない限り、専用機の稟議は「人件費だけで足りない」という壁を越えられません。

そしてもうひとつ、はっきり書いておきます。生産能力の増加は効果に算入していません。 手作業のタクト 9.2秒 が装置では 7.5秒 になるので、理屈のうえでは同じ時間でより多く作れます。しかし売り先が決まっていない増産分は現金になりません。 増産を効果に入れてよいのは、受注が既にあり、その受注を今の能力では受けきれない場合だけです。増産分を効果表に載せると回収年数は簡単に短くなりますが、それは稟議を通すための数字であって、実際に返ってくる数字ではありません。人件費側の考え方はタイの人件費高騰対策、他工程での実例は省人化の事例と費用対効果にまとめています。

BOIの生産効率向上措置で実効負担はどこまで下がるか

タイには、既存工場の生産効率向上のための投資に対する投資奨励措置があります。自動化設備の導入はこの対象になり得ます。

項目数値
免除される法人所得税額の上限(投資額の50%)4,395,000
国内の自動化産業から30%以上を調達した場合の上限(投資額の100%)8,790,000
法人所得税率20%
上限 4,395,000 を使い切るのに必要な課税所得(3年間)21,975,000(年 7,325,000)
上限 8,790,000 を使い切るのに必要な課税所得(3年間)43,950,000(年 14,650,000)
上限50%を使い切れた場合の実効負担 9,925,000 − 4,395,0005,530,000(回収 3.2年)
上限100%を使い切れた場合の実効負担 9,925,000 − 8,790,0001,135,000

数字だけ見ると強力です。上限50%を使い切れれば実効負担は 5,530,000 に下がり、年間効果 1,738,800 に対して回収は 3.2年 になります。上限100%まで届けば実効負担は 1,135,000、つまり保全費用の分だけです。

しかし、ここで必ず押さえていただきたいことがあります。免除されるのは税額であって、補助金ではありません。 現金が振り込まれるわけではなく、払うはずだった法人所得税が減るだけです。したがって、払うべき法人所得税がなければ、恩典は使えません。

法人所得税率20%のもとで上限 4,395,000 を使い切るには、3年間で 21,975,000 バーツの課税所得が必要です。年あたり 7,325,000。上限 8,790,000 まで使い切るなら、3年間で 43,950,000、年あたり 14,650,000 の課税所得が要ります。

黒字が細い拠点、あるいは赤字の年がある拠点では、上限まで届きません。 恩典の上限額を根拠に「実質半額」と稟議に書く前に、自社の直近3年の課税所得を確認してください。年 7,325,000 の課税所得が3年続く見込みがないなら、実効負担は 5,530,000 にはなりません。なお、機械の輸入関税免除は別枠で受けられます。BOI恩典の適用可否は案件ごとに異なるため、申請の可否と区分は必ず事前に確認してください。

内製と外注の分界点

自動機 設計製作の発注ガイド2026|見積が割れる5層 - figure 3

「自社の保全チームで作れないか」という検討は、ほぼ必ず出ます。数字を並べます。

項目金額
内製 購入部品費(購入品 610,000 + 供給部 480,000 + 搬送 540,000 + フレーム 260,000 + ロボット 680,000 + 検査 740,000 + 制御盤部品 520,000 + 安全部品 350,000)4,180,000
内製 工数 保全エンジニア2名 × 8か月 = 16人月 × 55,000880,000
内製 計5,060,000(外注 8,790,000 の 58%)

5,060,000 は外注 8,790,000 の 58% です。見かけ上は 3,730,000 安くなります。この数字だけを見れば内製が有利に見えます。

しかし、内製で止まるのは機構ではありません。制御・安全・検査の層です。フレームを溶接し、コンベヤを組み、エアシリンダを配置するところまでは、保全チームの延長で進みます。止まるのはその先です。サーボの多軸同期、ロボットのティーチング、外観検査の照明と閾値の作り込み、そして安全回路の設計と検証。この4つは、日常の保全業務では経験が積み上がらない領域です。

そして 5,060,000 に入っていないものが3つあります。

第1に、8か月間、保全エンジニア2名が本来業務から外れることです。16人月 × 55,000 = 880,000 という工数原価は計上していますが、その2名が抜けた8か月間に既存設備の故障対応が遅れることの損失は含まれていません。設備トラブルによるライン停止の頻度が高い拠点では、この機会損失が 3,730,000 の差を簡単に食います。

第2に、図面と安全文書と検査の判定条件が社内に残らないことです。作った本人の頭のなかにはありますが、文書にはなりません。外注であれば層3の 150,000 と 90,000、層4の 90,000 という費目で文書が成果物として定義されます。内製では、この文書を書く時間は誰の工数にも計上されず、結果として書かれません。担当者が異動した瞬間に、その装置は誰も触れない装置になります。

第3に、故障時に社外へ頼れないことです。自社で設計した装置に、外部のサービスマンは対応できません。

現実的な分界点はこうです。機構と搬送は内製に向き、制御・安全・検査は外注に向きます。 装置全体を内製するのではなく、フレームと架台と搬送部を自社で作り、制御盤とプログラムと検査と安全を外注する、という分割が最も費用対効果が高くなる場面は実際にあります。ただしその場合でも、インターフェース(どこまでが誰の責任か、電気と機械の接続点の仕様)を先に文書で決めることが条件です。ここを決めずに分割すると、立上げで両者が互いを待つことになります。

タイで作るか日本で作るか

タイに拠点を持つ日系工場では、装置を日本の機械メーカーに発注してタイへ輸入するか、タイ国内の製作会社に発注するかという選択があります。

日本で作る場合の利点は、実績のある機械メーカーの標準的な作り方に乗れることと、日本本社の生産技術が仕様を確認しやすいことです。不利な点は、距離が費用と時間に直結することです。層4の内訳を見てください。分解・輸送・搬入で 180,000、現地据付・配管配線接続で 220,000。輸送距離が伸びればこれらは増えます。加えて、量産開始後に不具合が出たときの対応が、渡航を伴う対応になります。

タイで作る場合の利点は、立上げ後の距離が近いこと、そして教育とドキュメントをタイ語で作れることです。層4の操作・段取り教育 120,000 は、現地の言語で行ってはじめて意味を持ちます。層5の年次点検 60,000/年 と検査条件の再調整 80,000/年 も、近くにいる会社のほうが実行されやすい費目です。5年で 1,135,000 の保全費用が実際に回るかどうかは、距離でかなり決まります。

判断の目安を書きます。装置の作りが標準化されていて、立上げ後に触る頻度が低い装置は日本で作ってもよい。工程固有の作り込みが多く、材料ロットの変動に合わせて判定条件を触り続ける装置は、タイで作るほうが総額で有利になりやすいということです。本記事のモデル案件は後者にあたります。外観検査の再調整が5年で 400,000 発生する装置は、その都度渡航が必要な体制では回りません。

引き合いから量産までの32週

期間の目安です。合計 32週(約7.4か月)

工程期間
構想と概算見積2週
仕様確定(ワークのばらつき測定を含む)4週
設計(機構・電気・安全)8週
製作と組立(部品調達は設計と並行)8週
社内デバッグと立会検査4週
輸送と搬入2週
現地据付・立上げ・量産試験4週
合計32週(約7.4か月)

この表で最も重要なのは、設計に8週、製作と組立に8週で、両者が同じ長さだということです。専用機の期間は、鉄を切っている時間ではなく、決めている時間と同じだけかかります。

そして仕様確定の4週を圧縮しようとしないでください。ここを2週に縮めると、決まらなかった項目が設計フェーズに持ち越され、8週の設計が10週になります。さらに、設計中に仕様が変わると、既に発注した部品が使えなくなり、製作と組立の8週が伸びます。仕様確定の1週の短縮は、下流で2週から3週の遅れになって返ってきます。

新製品の量産立ち上げに合わせて装置を入れる場合は、量産開始日から32週を逆算してください。ただし、この32週は引き合いからの期間です。社内の予算申請と稟議、BOI申請の検討期間は含まれていません。実務では、量産開始日の10か月から12か月前に検討を始めるのが現実的です。

よくある質問(FAQ)

自動機と専用機と省力化装置は何が違うのか

呼び方の違いであって、明確な線引きはありません。一般に、人の作業を機械が代替する装置を広く自動機と呼び、そのなかでも特定の工程のためだけに設計するものを専用機、作業の一部だけを機械化して人の負担を減らすものを省力化装置と呼び分けることが多いです。

実務で重要なのは呼称ではなく、その装置が5層のどこまでを含むかです。「省力化装置だから安い」のではなく、供給部や外観検査や安全を含まないから安いのです。見積を読むときは、装置の呼び名ではなく層1から層5までの範囲を確認してください。

自動機の設計製作にはどれくらいの期間がかかるのか

本記事のモデル案件では、引き合いから量産まで 32週(約7.4か月) です。内訳は構想と概算見積に2週、仕様確定に4週、設計に8週、製作と組立に8週、社内デバッグと立会検査に4週、輸送と搬入に2週、現地据付から量産試験に4週です。

これに社内の予算申請と稟議の期間は含まれていません。量産開始日が決まっている場合は、その10か月から12か月前に動き始めてください。なお仕様確定の4週を削ると、下流で2週から3週の遅れになって返ってくるため、実質的に短縮になりません。

見積を依頼するとき最初に渡すべき情報は何か

7項目です。ワークの条件(図面と現物サンプル、寸法ばらつきの実測値)、タクトと稼働条件(必要タクト 7.5秒、年間稼働 3,750時間、年産 1,800,000個)、供給の前提、検査の基準(現状 0.35% と目標 0.08%)、安全の要求、立上げと引き渡し文書、保全の前提です。

このうち特に効くのは数値で書けるものです。タクト、稼働時間、年産、不良率。この4つを数値で渡すだけで、各社の見積が同じ前提に揃い、比較が成立します。逆にこれらがないと、金額差が範囲の差なのか実力差なのか判別できません。

中小規模の工場でも自動機は回収できるのか

条件付きで可能です。本記事のモデルでは、人件費削減だけでは 864,000/年 にとどまり、5年で 4,320,000、5年総額 9,925,000 の 43.5% にしかなりません。回収を成立させたのは、流出不良の削減 874,800/年 を足した 1,738,800/年 で、単純回収は 5.7年 です。

したがって判断の分かれ目は工場の規模ではなく、不良流出や手直しに現在いくら払っているかです。ここが大きい工程であれば、規模が小さくても回収します。逆に、品質が既に安定していて人件費削減しか効果がない工程は、規模が大きくても回収しにくくなります。BOIの生産効率向上措置を使えれば実効負担は 5,530,000(回収 3.2年)まで下がり得ますが、上限 4,395,000 を使い切るには3年間で 21,975,000 の課税所得が必要なため、黒字が細い拠点では上限まで届きません。

既存の設備に後から自動機を足すことはできるのか

できますが、確認すべき点が3つあります。第1に安全です。既設の柵の中に装置を追加すると、既存のリスクアセスメントが有効でなくなる場合があります。非常停止を押したときに既設ラインと新設装置が整合して止まるかも確認が必要です。

第2にタクトの整合です。前後工程より速い装置を入れても、ライン全体のタクトは変わりません。ボトルネックがどこにあるかを先に測ってください。

第3に搬入経路です。既設ラインの中に装置を入れる場合、分解して搬入し現地で組み直すことになります。層4の分解・輸送・搬入 180,000 と現地据付 220,000 は、この経路条件によって増えます。天井高、通路幅、クレーンの有無を、見積依頼の段階で伝えてください。

まとめ

専用機は「機械を買う」買い物ではなく、「仕様を確定させる作業」を発注する買い物です。

だから、目に見える機械は初期費用 8,790,000 のうち 3,200,000、36.4% しかありません。最大は制御・電気の 3,650,000、41.5% です。安全が 730,000(8.3%)、立上げが 1,210,000(13.8%)、保全が5年で 1,135,000。合計 5年総額 9,925,000 です。

見積が 5,210,000 と 8,790,000 で 1.7倍 に割れるのは、値引き幅ではなく範囲の差です。外した分は必ず自社に残ります。 供給部 480,000、外観検査 740,000、検査調整 420,000、安全 730,000、立上げ 1,210,000。これらを含むか含まないかを、5つの分界点として確認してください。

そして効果です。人件費削減は 6名から2名で 864,000/年、5年で 4,320,000。これは5年総額の 43.5% にすぎず、それだけでは回収しません。回収を成立させるのは流出不良の削減 874,800/年 を足した 1,738,800/年 で、単純回収は 5.7年 です。生産能力の増加(9.2秒 から 7.5秒)は、売り先が決まっていない限り現金にならないため算入していません。

BOIの生産効率向上措置を使えば実効負担は 5,530,000(回収 3.2年) まで下がり得ますが、免除されるのは税額であって補助金ではありません。 上限 4,395,000 を使い切るには3年間で 21,975,000 の課税所得が要ります。内製は 5,060,000 で外注の 58% に見えますが、8か月間エンジニア2名が本来業務から外れることと、図面・安全文書・判定条件が残らないことは、その金額に入っていません。

TOMAS TECHでは、発注前の切り分けだけのご相談も承っています。いまお手元にある見積が5層のどこまでを含んでいるのか、自社の流出不良の費用をどう数値化すればよいのか、内製と外注をどこで分けるか。この3つを伺えれば、稟議に載せる前の段階で判断材料をお渡しできます。導入を決めていない検討段階で構いませんので、お問い合わせフォームからお気軽にお声がけください。

参考情報