Blog

2026.10.10

S&OP 導入の進め方|タイ工場のPSI計画・月次会議・RFP

S&OP 導入の進め方|タイ工場のPSI計画・月次会議・RFP

S&OP 導入を検討するタイの工場では、毎月よく似た光景が繰り返されています。営業は顧客別の販売見込みを自分のExcelで作り、生産管理は前月の生産計画をコピーして数字を直し、購買は資材の手配表を、経理は予算の実績比較表を、それぞれ別のファイルで作る。月次会議では、4つの表の数字が合わず、「どれが正しい数字か」の突き合わせだけで2時間が過ぎていきます。

その間にも、顧客の内示は振れます。来月の数量が急に2割増えたと連絡が来れば、生産管理は休日出勤を組み、購買は資材を航空便で取り寄せる。逆に内示が減れば、作りかけの製品と買ったばかりの資材が倉庫に積み上がる。倉庫の棚は年々埋まっていくのに、なぜか特定の品番だけは欠品して、営業が顧客に謝りに行く。アユタヤ、チョンブリー、ラヨーン、バンコク近郊の日系の自動車部品、電子部品、樹脂成形、金属加工、食品の工場で、珍しくない光景です。

この記事は、そうした工場の工場長、生産管理課長、営業管理、購買、経営企画、経理、IT担当に向けて、S&OP(Sales and Operations Planning、販売・事業計画と生産・供給計画をつなぐ計画プロセス)を始めるときに「何を決め、どの順で、どのツールで、どう比べ、どう進めるか」を整理した実務ガイドです。

最初に、この記事の主張をまとめておきます。

S&OP導入の本体はソフトウェアではありません。「毎月、誰が、どの数字で、何を決めるか」という約束です。

S&OPは、需要の計画と供給の計画を1つの数字、つまり1つの計画に揃え、どうしても揃わない差分を「経営が決める論点」として上げる、月次の意思決定プロセスです。導入がこじれる典型は、次の3つです。

  • ①会議はあるが、その会議で「決めること」が決まっていない(数字の報告会になっている)
  • ②販売計画が「目標」と「見込み」を混ぜたまま出てくる
  • ③供給側の制約(設備や人の能力、資材のリードタイム、BOIの最大在庫など)が、会議の前に整理されていない

だから、進める順番は「①会議の決定事項と月次カレンダー → ②1つの数字(品目群×月×数量と金額) → ③予測精度とバイアスの測定 → ④ツール」です。ツールは、在庫の規模や品目数、拠点数が大きくなって初めて投資を回収できます。このことは、後半のモデル試算で、在庫の規模を変えた場合の数字を使って示します。

なお、この記事は特定の製品を推奨したり、ランキングを付けたりするものではありません。製品の機能は各社の公式ドキュメントや解説記事に書かれた内容(ベンダーの主張)として紹介します。試算に出てくる在庫金額、費用、時間、効果は、すべてこの記事のための仮の数字です。

なぜ今、タイの工場で需給調整を見直すのか

新規受注は強いのに、景況感は50を下回ったまま

タイの製造業の直近の数字は、方向がそろっていません。

Trading Economicsの報道によると、S&P GlobalのタイManufacturing PMIは2026年9月に54.3(8月は53.8)で、2025年12月以来の高い水準でした。生産は9カ月で最も速く拡大し、新規受注は6カ月で最も強い伸びでした。一方で雇用は自然減で減り、受注残が積み上がって、能力面の圧力が出ていると報じられています。

ところが、タイ中央銀行(BOT)の景況感指数(BSI)は、2026年9月に48.1(8月は49.8)で、9カ月連続で50を下回りました。同じ報道では、自動車産業の景況感が悪化し、特に自動車部品メーカーでは「EVの輸入が増えたことで、国内で生産する部品の需要が減った」とされています。3カ月先の見通しのBSIは50.8(8月は50.5)でした。

PMIとBSIは、調査の主体も対象も違う指標です。どちらが正しいということではありません。ただ、「受注は強いと答える会社がある一方で、景況感が弱いと答える会社も多い」という状態が続いていることは読み取れます。

業種によって、需要の向きが割れている

業種別に見ると、違いはさらにはっきりします。

電子部品の側は強い数字が並びます。ロイター配信の報道によると、タイ工業省の製造業生産指数(MPI)は2026年8月に前年同月比+4.44%で、市場予想の+1.0%を上回りました。押し上げ要因は電子製品の増産、政府の景気刺激策、バーツ安とされています。ただし工業省はこのとき、新しい電子製品を加えてウエイトを変えるなど、MPIの算出方法を改定しています。Trading Economicsによると、8月の内訳では通信機器が前年比+24.41%、コンピュータ・周辺機器が+28.23%でした。輸出も、2026年8月に前年同月比+24.3%の346億米ドルで、コンピュータ・同部品は+42.1%と報じられています。

自動車の側は、月ごとの振れが大きくなっています。報道によると、タイの自動車生産の前年同月比は、2026年6月が−7.55%、7月が+6.12%(117,383台)、8月が+10.93%(124,646台)でした。8月は国内販売が+25.59%だった一方、輸出は−2.04%です。そしてタイ工業連盟(FTI)は、2026年通年の自動車生産を3.33%減と予測しています。従来の3%増から、中東情勢による輸出減を理由に下方修正したものです。

さらに2026年5月には、タイの自動車・部品関連の10団体(会員1,500超)が、EVの普及が国内生産を侵食し、中国からの安価なゼロ関税輸入と競合できずに部品メーカーが受注を失っていると政府に訴えました。EV生産の奨励策が終わる2027年に、業界が「崖」から落ちかねないと警告しています(ロイター配信)。

輸出の条件も、毎月のように変わる

米国向けの輸出条件も動いています。The Nationの報道(2026年10月7日)によると、米国の相互関税は2025年の36%から19%に引き下げられた一方、タイ製品には強制労働に関連するSection 301による12.5%の関税が課されているとされ、タイ側は総関税負担を抑える方向で交渉を進めています。また、米ホワイトハウスの通商製造政策局の報告書(2026年8月13日)は、タイを迂回輸出(transshipment)の「Tier 2」に分類しました。米国税関・国境警備局(CBP)が違法な迂回輸出と判断した貨物には、追加40%の関税などの罰則が科され得ると報じられています。

「月ごとに振れる需要」を、月ごとに合わせ直す

ここに挙げた数字は、どれも対象と定義が違います。足し合わせたり、自社の来月の販売に当てはめたりすることはできません。この記事で言いたいのは、もっと単純なことです。

同じタイの製造業でも、業種によって需要の向きが割れ、しかも月ごとに振れている。 電子部品の工場は「受注が強すぎて能力が足りない」側の悩みを、自動車部品の工場は「来月の数量が読めない」側の悩みを抱えやすい。どちらの場合も、年に1回作った予算や、半年前に作った生産能力の計画のままでは、現場が特急便と休日出勤で吸収し続けることになります。

需要と供給を毎月同じ表で見直し、ずれを早めに経営の判断に上げる。それがS&OPの役割です。

S&OPとは:月次5ステップの流れ

1つの計画を作るための、毎月の決まった手順

TechTargetの解説によると、S&OPは「営業部門がオペレーション(生産・供給)部門と協働して単一の生産計画を作ることで、メーカーの供給を需要により良く合わせるプロセス」です。通常は月次の会議で回し、①データ収集、②需要計画、③生産(供給)計画、④調整、⑤エグゼクティブ会議の5ステップで進めるとされています。

SAPinsiderの解説記事も、同じ5ステップを次のように説明しています。

  • STEP1 データ収集: 販売実績を振り返り、データを整え、統計予測のモデルを確定する
  • STEP2 需要計画: コンセンサス(合意された)予測で締める
  • STEP3 供給計画: 能力と資材の制約を確定する
  • STEP4 プレS&OP会議: エグゼクティブ会議に出す推奨案と議題を決める
  • STEP5 エグゼクティブS&OP: 組織としての行動計画を出す

そして各ステップは、月次で決められたカレンダーに沿って実施します。ここが大事なところで、S&OPは「必要なときに集まる会議」ではなく、「毎月同じ順番、同じ締め日で回す手順」です。

S&OP 導入の進め方|タイ工場のPSI計画・月次会議・RFP - figure 1

各ステップの入力・出力・参加者

5ステップを、タイの日系工場に置き換えると、たとえば次のようになります。所要日数は、月初から月の中旬までに1サイクルを回す場合の目安の一例です。会社の規模や会議の頻度によって変わります。

ステップ主な入力出力主な参加者所要日数の目安(一例)
1 データ収集前月の出荷・生産・在庫の実績、受注残、顧客の内示更新された実績(締めた数字)生産管理、営業管理、倉庫、IT月初の約3営業日
2 需要計画統計予測、内示、確定受注、営業の判断制約をかけない需要計画(Unconstrained demand plan)営業、営業管理、需要計画担当約3営業日
3 供給計画需要計画、設備と人の能力、資材のリードタイム、在庫方針制約をかけた供給計画(Constrained supply plan)生産管理、製造、購買、倉庫約3営業日
4 プレS&OP需要計画と供給計画の差、財務への影響選択肢と推奨案、エグゼクティブ会議の議題各部門の課長、経理1〜2日(会議は半日程度)
5 エグゼクティブS&OP推奨案、選択肢ごとの数量と金額決定事項と1つの計画(Decisions & one plan)社長・工場長、各部門長、経理責任者会議1〜2時間

ポイントは、ステップ2の出力が「制約をかけない」需要計画である点です。営業は「能力が足りないから少なめに出しておこう」と遠慮せず、売れると見込む数量をそのまま出します。能力や資材の制約はステップ3でかけます。こうしておくと、「売れるのに作れない量」がはっきり見えて、それをどうするかがステップ4と5の論点になります。

S&OP・PSI計画・IBPの違い

PSI計画は「数量の均衡」、S&OPは「数量と金額の経営判断」

日本の製造業では、S&OPより先に「PSI計画」という言葉がなじみ深いかもしれません。PSIは、生産(Production)・販売(Sales)・在庫(Inventory)の頭文字で、日本の現場で広く使われてきた用語です(Pを仕入(Purchase)とする説明もあります)。

IT トレンドの解説によると、PSI管理は、生産・仕入、販売、在庫の計画と実績を連動させ、何を作り、買い、売り、持つかを同じ時間軸で管理して需給を均衡させる手法です。そのうえで、PSI管理が業務上の需給均衡に焦点を当てるのに対し、S&OPは売上や利益などの財務指標を意思決定に組み込む点が異なる、と説明しています。

KPMGコンサルティングも、従来のPSI計画は「数量ベースで現場レベルの調整を行うこと」を主眼とし、短期の課題への対応が中心であるのに対し、S&OPは中長期の視点で経営と現場を統合する「戦略連動型」の意思決定プロセスだと対比しています。

IBPは、S&OPを戦略と財務まで広げたもの

もう1つよく出てくるのがIBP(Integrated Business Planning、統合事業計画)です。コンサルティング会社のOliver Wightは、IBPを「戦略、ポートフォリオ、需要、供給、およびその結果としての財務を、月次の再計画プロセスを通じて整合させる意思決定プロセス」と定義しています。ローリングで24カ月先までの計画を投影し、毎月「前回の計画から何が変わったか」に焦点を当てる、例外駆動のレビューだとしています。TechTargetの解説も、S&OPはIBP(より包括的で長期の計画プロセス)と密接に関係し、その構成要素となることが多いと説明しています。

S&OP 導入の進め方|タイ工場のPSI計画・月次会議・RFP - figure 2

3つを並べると、次のように整理できます。S&OPの時間軸「3〜18カ月」は、この記事での目安で、経営が判断する中心の期間(3カ月先から18カ月先)を指します。計画表そのものは、凍結期間の先から18カ月先までを持ちます(後述)。

観点PSI計画S&OPIBP
中心になる数字数量(生産・販売・在庫)数量+金額戦略、ポートフォリオ、需要、供給、財務
主な目的現場の需給の均衡需要と供給を1つの計画に揃え、差分を経営が決める事業計画全体を月次で整合させる
時間軸短期(週〜数カ月が中心)中期(この記事の目安で3〜18カ月)24カ月ローリング
主な担い手拠点の計画担当者経営チーム(工場長、各部門長、経理)経営層
会議の性格調整・確認選択肢を比べて決める前回計画からの変化(例外)を中心に決める

3つは、どれかを選ぶものではなく、段階です。PSI計画で数量の均衡が取れていない工場が、いきなりIBPを目指してもうまくいきません。多くのタイの日系工場にとって現実的なのは、まずPSIの数量をS&OPの月次サイクルに乗せ、そこに金額を足していく順番です。

生産スケジューラーや凍結期間との境界

S&OPと混同されやすいのが、日〜週の詳細な日程を組む生産スケジューラー(APS)です。S&OPは、月次で、品目群のレベルで「どれだけ作り、どれだけ売り、どれだけ持つか」を数量と金額で合意する場です。その出力(来月以降の品目群ごとの生産量)が、APSで日々の設備ごとの順番に分解されます。Excelの日程表からAPSに移る話は「生産計画 エクセル 脱却|タイ工場のAPS移行実務」、製品の比べ方は「生産スケジューラー比較2026|タイ工場のRFP・PoC・選定基準」で解説しています。

また、直近の数週間の計画を動かさないルールは「凍結期間」として決めます。S&OPが扱うのは、凍結期間より先の期間です。凍結期間の中は変更承認のルールで、その先はS&OPの月次の合意で動かす、と分けておくと、現場が「いつの数字を、誰の判断で変えてよいのか」に迷わなくなります。凍結期間の決め方は「生産計画の凍結期間を設定する方法|変更承認と受入試験」を参照してください。

S&OP導入がこじれる3つの理由

S&OPの解説書を読み、5ステップのカレンダーを作り、月次会議を立ち上げた。それでも半年後には元の「数字合わせの会議」に戻っている。そういう工場は少なくありません。こじれる理由は、だいたい次の3つに集約されます。

理由①:会議で「決めること」が決まっていない

いちばん多いのが、月次会議が「数字の報告会」になっているケースです。営業が先月の売上実績と来月の見込みを説明し、生産管理が生産実績と稼働率を説明し、購買が資材の入荷状況を説明し、経理が予算との差を説明する。全員が説明を終えたところで時間切れになり、「では来月も引き続き注視しましょう」で閉会します。

報告は、会議の前に資料で済ませられます。会議で本来やるべきことは、需要と供給がずれている部分について、どちらに寄せるかを決めることです。決める項目が事前に決まっていないと、会議は報告で埋まります。

理由②:販売計画が「目標」と「見込み」を混ぜている

2つ目は、営業から出てくる販売計画の性格です。営業の数字には、2種類の数字が混ざりがちです。1つは「今期はこれだけ売りたい」という目標(予算)、もう1つは「顧客の内示と商談から見て、実際にはこれくらいになりそうだ」という見込み(予測)です。

目標を生産計画に入れると、達成できなかった分だけ在庫が積み上がります。逆に、営業が目標未達を責められないように見込みを低めに出すと、内示が上振れしたときに特急便と休日出勤で吸収することになります。冒頭で触れた「在庫は増えているのに欠品も出る」という状態は、品目によって数字の性格がばらばらなときに起きやすくなります。

理由③:供給側の制約が、会議の前に整理されていない

3つ目は、供給側の情報です。「来月この品目群を2割増やせるか」と聞かれたとき、生産管理がその場で答えられないことがよくあります。設備の能力、人とシフト、金型や治具の数、資材のリードタイムと最小発注量(MOQ)、BOIで認められた最大在庫。こうした制約が、会議の前に1つの表に整理されていないからです。

その場で答えられないと、「確認して後で返事します」となり、決定は次の月に持ち越されます。持ち越している間に内示の数量は確定し、結局は現場の残業で吸収することになります。

この3つの理由に、それぞれ対応する手順を次の章から順に説明します。①には「決定事項を先に決める」、②には「1つの数字を作り、目標と見込みを分ける」、③には「供給計画で制約を事前に整理する」で対応します。

決めることを先に決める:エグゼクティブS&OPの決定事項

毎月の議題になる「決定事項」の例

S&OP導入で最初に作るべきものは、システムの画面ではなく、エグゼクティブS&OPで毎月決める項目のリストです。タイの日系工場であれば、たとえば次のような項目が候補になります。

決定事項典型的な選択肢決める人(例)
能力を超える需要の配分どの顧客、どの品目を優先して供給するか社長・工場長、営業部長
需要の山の吸収方法前もって在庫を積む/残業・休日出勤で対応/外注に出す工場長、生産管理部長、経理責任者
需要の谷への対応生産を落とす/在庫として作り置く/他品目の前倒し工場長、生産管理部長
販促・値上げとの連動値上げの時期を供給余力に合わせるか、販促を控えるか社長、営業部長
予算との差の扱い予算を見直すか、差を埋める施策を打つか、差を受け入れるか社長、経理責任者
資材の先行手配リードタイムの長い資材を、内示の確定前に手配するか生産管理部長、購買責任者
新製品・切替品の立ち上げ旧品の在庫をいつまでに使い切るか、切替時期をどうするか工場長、営業部長、技術責任者

このリストができると、プレS&OPの役割がはっきりします。プレS&OPは、このリストのうち「今月は判断が要る項目」だけを選び、それぞれに2〜3の選択肢と、選択肢ごとの数量と金額を用意する会議です。

自社のS&OPが「どの段」にいるかを見る

Consumer Goods Technologyの解説記事によると、Gartnerは5段階のS&OP成熟度モデルを示しています。段階の名前は、Stage 1「React」、Stage 2「Anticipate」、Stage 3「Integrate」、Stage 4「Collaborate」、Stage 5「Orchestrate」です。同記事の概要では、Stage 1は共有されたS&OPの目標がなく非公式なプロセス、Stage 2はサプライチェーン部門が主管する公式のプロセスがあるものの、なお受動的な段階、Stage 3は数量の計画と財務の計画が整合した段階とされています(Gartnerの原典は有料のため、ここでは二次資料による概要だけを紹介します)。

冒頭で描いたような、部門ごとに別のExcelがあり、会議が数字合わせで終わる工場は、多くの場合Stage 1に近い状態です。最初の目標は、Stage 2の「決まった手順で毎月回る」状態です。数量と金額を同じ表で見るStage 3は、その次の目標になります。いきなり上の段を狙うより、1段ずつ上がるほうが確実です。

なお、東南アジアの製造業やタイの日系企業に限ったS&OPの導入率や成熟度の一次調査は、今回の調査では見つかりませんでした。他社と比べるより、自社が先月より1段上がったかどうかを見るほうが実務的です。

1つの数字を作る:品目群×月×数量と金額

品目(SKU)ではなく、品目群で合意する

S&OPの「1つの数字」は、品目(SKU)ごとの数字ではありません。品目が1,500ある工場で、1,500行を月次会議で議論することはできないからです。S&OPでは、品目を「品目群(ファミリー)」にまとめて合意します。

品目群の切り方は、供給側の制約が共通するかどうかを基準にするのが実務的です。たとえば、同じ射出成形機の群で作る樹脂部品、同じプレスラインで作る金属部品、同じ実装ラインを通る基板、といった単位です。こうしておくと、「この品目群を2割増やすと、どの設備が足りなくなるか」がすぐに分かります。顧客別、用途別の見方は、品目群の下の層として持てば十分です。

1つの数字の基本形は、品目群×月×数量と金額です。数量は生産管理と購買が使い、金額は経理と経営が使います。同じ表の上で数量と金額を換算できるようにしておくことが、PSI計画からS&OPへ進むための最初の一歩です。

計画の時間軸:期間、凍結、見直し

時間軸も、最初に決めておきます。たとえば次のような決め方です。

  • 計画期間: 凍結期間の先から18カ月先まで(この記事の目安。経営が判断する中心は3〜18カ月先)
  • 凍結期間: 直近の数週間は、S&OPでは動かさない(変更承認のルールで扱う)
  • 見直しの頻度: 毎月1回、同じカレンダーで全期間を見直す
  • 粒度: 直近3カ月は月別、その先は月別または四半期別

BOIの最大在庫の申請には6カ月分の輸出予測が要る(後述)ので、少なくとも6カ月先までは月別の数量を持っておくと、申請の準備にも使いやすくなります。

「目標」と「見込み」を分けて持つ

理由②で触れたように、販売の数字は「目標」と「見込み」を別の行で持ちます。表の上では、次のように並べるのが分かりやすいでしょう。

  • 予算(目標): 年初に決めた売上の目標。原則として期中は動かさない
  • 需要計画(見込み): 毎月見直す、実際にそうなりそうな数量
  • 差: 見込み−予算。この差が、エグゼクティブS&OPで「どう埋めるか、受け入れるか」を決める論点になる

生産と資材の計画には、目標ではなく見込みを使います。目標との差は、隠さずに表に出して議論します。

内示、確定受注、統計予測、営業判断の重ね方

需要計画の見込みは、いくつかの情報を期間ごとに重ねて作ります。

期間主な情報源扱い方
直近(凍結期間内)確定受注、受注残確定数量として扱う
1〜3カ月先顧客の内示(フォーキャスト)、EDIで届く予定数量内示をベースに、過去の内示と実績のずれを見て補正する
4カ月先以降統計予測、営業の判断(新規案件、失注、値上げの影響)統計予測をベースに、営業が根拠を付けて上書きする

確定受注と受注残の管理は「製造業の受注残管理システム導入|部分出荷と確約納期を揃える」、顧客の内示をEDIで取り込む方法は「製造業EDI導入ガイド|タイ工場の取引先接続、90日PoC、費用とRFP」で解説しています。内示が手入力のPDFやメールで届いている工場では、内示を取り込むところから整えると、需要計画の作業時間が大きく変わります。

需要計画:統計予測、営業の上書き、そして測定

統計予測を「たたき台」にし、営業が根拠付きで上書きする

需要計画の基本の流れは、まず統計予測でたたき台を作り、営業がその上に判断を加え、最後に関係者で合意(コンセンサス)する、というものです。営業の上書きには、「A社の新車種の立ち上げが2カ月遅れると連絡があった」「B社は値上げを受け入れず、一部を他社に転注する見込み」のように、理由を1行付けるルールにしておきます。理由が残っていれば、後でその上書きが当たったかどうかを振り返れます。

予測のモデルそのもの(どの手法を使うか、AIを使うか)については「需要予測AIの費用対効果|タイ工場が見るべき精度指標と投資回収年数」で詳しく扱っています。この記事では、予測を「会議で使う数字」にするための手順と、測り方に絞ります。

予測精度は、少なくとも2種類の指標で測る

需要計画を毎月回すなら、その精度を毎月測ります。測らないと、「営業の見込みはいつも高めだ」「いや生産管理が慎重すぎる」という印象論の言い合いが続きます。代表的な指標は次のとおりです。

指標何を見るか注意点
MAPE(平均絶対パーセント誤差)予測と実績の誤差の大きさを、実績に対する割合で平均したもの単位に依存せず比べられる。一方で実績が0だと計算できず、0に近いと極端な値になる。誤差の向きによって重みが偏る(非対称性)
WMAPE(加重平均絶対パーセント誤差)誤差を販売数量で加重したMAPE売れる品目の誤差が重く数えられるので、品目群全体の精度を見るのに向く
バイアス(トラッキングシグナル)予測が過大または過小に偏る傾向0ならバイアスなし。±4.5を超えると予測が「管理外」とされる
FVA(Forecast Value Added)予測の各ステップや参加者が、精度をどれだけ変えたか比較の基準にはナイーブ予測(先月の実績を今月の予測とする等)を使う

MAPEの性質は、Hyndman と Athanasopoulos の教科書『Forecasting: Principles and Practice(第3版)』の説明によります。同書は、実績が0やそれに近い値をとる場合の代替として、ナイーブ予測で正規化した尺度化誤差(MASE)を挙げています。品目数が多く、月によって出荷ゼロの品目が混じる工場では、品目ごとのMAPEより、品目群ごとのWMAPEのほうが扱いやすいでしょう。WMAPEの定義は、Institute of Business Forecasting & Planning(IBF)の用語集の説明です。

バイアスについては、Arkievaの解説記事が、トラッキングシグナルが±4.5を超えると予測が「管理外」になると説明しています。同記事は、12期間の正規化予測指標(NFM)では+2を超えると過大予測、−2を下回ると過小予測のバイアスがあるとしています。精度(誤差の大きさ)とバイアス(誤差の向き)は別物です。誤差が小さくても、毎月同じ向きにずれているなら、在庫が少しずつ積み上がるか、欠品が少しずつ増えていきます。

営業や会議の上書きは、本当に精度を上げているか(FVA)

SASのMichael Gilliland氏は、FVAを「予測プロセスの特定のステップや参加者に帰属できる、性能指標(MAPE等)の変化」と説明しています。具体的には、ナイーブ予測、統計予測、営業の上書き後、会議での合意後、という各段階の数字を残しておき、それぞれの誤差を比べます。営業が上書きした後のほうが誤差が大きければ、その上書きは精度を下げていたことになります。

IBFのブログ記事(2014年)は、サプライチェーン企業8社を対象とした研究で、予測の52%が単純なランダムウォーク(ナイーブ予測)より悪かったと紹介しています。ただしこれは8社という小さな標本で、原研究の詳細は確認できていません。この数字を一般化することはできませんが、「手間をかけた予測が、何もしない予測に負けることがある」という可能性は、自社で測ってみる価値があります。

最初から全部を測る必要はありません。最初の3カ月は、品目群ごとのWMAPEとバイアスの2つだけを毎月出す。それだけでも、会議の議論は「印象」から「数字」に変わります。

供給計画:能力、資材、在庫方針、BOI

能力:設備、人、シフトを品目群の単位で持つ

供給計画では、需要計画(制約をかけない数字)に対して、実際に作れる量を品目群ごとに確かめます。必要なのは、品目群ごとの「月あたりの能力」です。設備の台数と稼働時間、人の数とシフト(2直か3直か、休日出勤をどこまで認めるか)、金型や治具の数を、品目群の単位でまとめておきます。

能力を超える月が見つかったら、その差を「前の月に作り置く」「残業・休日出勤で増やす」「外注する」「供給を絞って顧客と調整する」といった選択肢にして、プレS&OPに上げます。供給計画の担当者が1人で抱え込まず、選択肢として経営に渡すことが大事です。

資材:リードタイムとMOQ

資材は、リードタイムと最小発注量(MOQ)が制約になります。海外から調達する樹脂原料や電子部品は、リードタイムが数カ月に及ぶこともあります。その場合、内示が確定する前に手配するかどうかは、それ自体がエグゼクティブS&OPの決定事項になります。

S&OPで決めた品目群の数量は、MPS(基準生産計画)とMRP(資材所要量計画)で品目と資材の単位に展開されます。このとき、BOM(部品表)やリードタイムのマスタが古いと、正しい月次の合意をしても間違った発注が出ます。マスタの鮮度の保ち方は「MRPシステム2026|止まるのは計算でなくマスタの鮮度」で解説しています。

在庫方針:品目群ごとに「持つ量」を決める

在庫は、需要の振れと供給の制約の間の緩衝材です。品目群ごとに、製品在庫を何日分持つか、どの品目は受注生産に寄せるか、を在庫方針として決めておきます。安全在庫や発注点の計算の中身は「在庫最適化AIの実務|安全在庫・発注点・多拠点配分の決め方」、欠品を出さないための仕組みは「欠品防止システム2026|在庫・発注点・例外対応の5層設計」を参照してください。S&OPでは、計算の細部より、「この品目群の製品在庫を来月から何日分減らす」のような方針を決めて、その影響を数量と金額で確かめることに集中します。

BOIの最大在庫と、6カ月分の輸出予測

タイのBOI(投資委員会)の恩典を受けて輸出向けの原材料を輸入している工場では、供給計画にもう1つ制約が加わります。BOIの告示 Por. 3/2556(英語の非公式訳)によると、第36条の輸入関税免除では、「Maximum stock(最大在庫)」が関税免除を認められる原材料の数量とされます。そして生産フォーミュラと最大在庫の承認を申請する際には、BOI証書の総生産能力または顧客の注文に基づく「6カ月分の輸出向け完成品の数量予測」と、原材料ごとの最大在庫の数量の一覧を出すことになっています。

つまり、BOIの最大在庫の申請は、そもそも需要計画(輸出の見込み)を前提にしています。S&OPの1つの数字で6カ月先までの輸出数量を月別に持っていれば、申請の根拠としても使いやすくなります。また、BOIの説明資料は、BOI上の在庫と社内の実在庫を照合するために、6カ月ごとにMML(Material Master List)をダウンロードすることを推奨しています。RMTSでの消し込みと社内システムの設計については「BOI 原材料 在庫管理|RMTS消し込みが合う社内システム設計」で詳しく扱っています。

なお、この記事は法務やBOI手続の助言ではありません。最新の要件や自社の証書の条件は、BOIや専門家に確認してください。

4月はソンクラーンで稼働日が減る

タイの工場の供給計画で忘れてはならないのが、祝日による稼働日の偏りです。2026年のタイの祝日(BOTが公表する金融機関の休日)では、ソンクラーンが4月13〜15日(月〜水)で、週末とつながる5連休の形になります。4月は6日のチャクリー記念日もあり、祝日が集中して稼働日が減ります。ほかにも5月1日・4日、6月1日・3日、7月28日・29日、8月12日、10月13日・23日、12月7日・10日・31日などが休日です。

月別の能力を「1カ月=同じ稼働日数」で持っていると、4月だけ能力が足りなくなります。供給計画では、月ごとの稼働日数を能力に反映させ、4月の前に作り置くのか、4月の出荷を前後に振るのかを、3月より前のS&OPで決めておく必要があります。自社の休日カレンダーは会社ごとに違うので、会社のカレンダーで確かめてください。

プレS&OPとエグゼクティブS&OP:会議の進め方

プレS&OP:例外だけを拾い、選択肢を作る

プレS&OPは、課長クラスの実務者が集まる準備の会議です。やることは3つあります。

  1. 需要計画と供給計画を突き合わせ、ずれている品目群(例外)だけを拾う
  2. 例外ごとに、2〜3の選択肢を作り、選択肢ごとの数量と金額(売上、在庫金額、追加コスト)を並べる
  3. エグゼクティブS&OPの議題と推奨案を決める

ずれていない品目群は、議題にしません。「計画どおり」の品目群を1つずつ説明していくと、また報告会に戻ってしまいます。Oliver WightがIBPについて「前回計画から何が変わったか」に焦点を当てる例外駆動のレビューと説明しているのは、まさにこの考え方です。

エグゼクティブS&OP:決めて、記録する

エグゼクティブS&OPは、社長や工場長、各部門長、経理責任者が出る、1〜2時間の会議です。進め方の例を挙げます。

  • 冒頭5分: 前月の決定事項と宿題の実施状況を確認する
  • 次の15分: 全体の数字(品目群合計の売上見込み、在庫金額、予算との差)を確認する
  • 中心の時間: プレS&OPが用意した議題について、選択肢から1つを選ぶ
  • 最後の10分: 決定事項、宿題、担当、期限を読み上げて記録する

記録は、議事録の形より「決定事項の台帳」の形が便利です。日付、議題、選んだ選択肢、理由、担当、期限を1行で残しておくと、翌月の冒頭で確認でき、半年後に「あのとき在庫を積む判断は正しかったか」を振り返れます。

財務との接続

S&OPを数量だけの会議で終わらせないためには、経理が最初から参加することが大切です。Oliver Wight Americasが2015年にボストンのIE Group S&OP Innovation Summitで行った調査(回答者数は非公表)では、S&OP担当者の45%が「在庫評価や開示を含む財務統制が、S&OP/IBPで十分に考慮されていない」と答え、財務統制が財務目標と「完全に整合している」と答えたのは28%にとどまりました。また51%が、SOX法の要件をS&OP/IBPに織り込んでいないと答えています。古い調査で母数も分からないため、この割合をそのまま今の企業に当てはめることはできませんが、「数量の計画と財務がつながりにくい」という課題が以前から指摘されていたことは分かります。

タイの日系工場では、経理が月次決算と日本の親会社への報告で忙しく、S&OPの会議に出られないことがよくあります。その場合でも、品目群ごとの数量を金額に換算する単価表だけは経理に作ってもらい、プレS&OPで在庫金額と売上見込みが出せるようにしておきます。

月次カレンダーをタイの日系工場に合わせる

月初の実績締めから逆算する

5ステップのカレンダーは、月初の実績の締めから逆算して作ります。前月の出荷、生産、在庫の実績が締まらないと、ステップ1が始まりません。倉庫の棚卸差異の調整や、仕掛品の計上に何日かかっているかを、まず確かめます。実績の締めに1週間かかる工場では、その短縮がS&OPの最初の改善テーマになります。

日本の親会社の締めとのずれは「確認すべき論点」

タイの日系工場には、もう1つ固有の事情があります。日本の親会社の月次計画や予算の締めと、現地のS&OPの締めがずれることです。親会社への月次報告の提出日、親会社側の生産販売会議の日程、予算の見直しの時期は会社ごとに違います。この点についての一次統計や調査は、今回の調査では見つかりませんでした。

そのため、ここは「各社で確認すべき論点」として挙げておきます。

  • 親会社への月次報告の提出日は、エグゼクティブS&OPの前か後か
  • 親会社から届く販売計画(グループ内の取引)は、現地の需要計画のどのステップで取り込むか
  • 予算の見直しの時期に、S&OPの見込みをそのまま使えるか
  • 日本との時差を踏まえ、親会社がオンラインで参加できる時間帯はいつか

エグゼクティブS&OPで決めた内容が、翌週の親会社の会議でひっくり返される、という状態は避けたいところです。親会社の会議の直前にエグゼクティブS&OPを置くか、親会社の担当者にエグゼクティブS&OPへ出てもらうか、どちらかに寄せるのが現実的です。

言語と役割分担

タイの工場では、資料の言語も決めておく必要があります。現場の計画担当者はタイ語、日本人の経営層は日本語、親会社やグループ会社とのやり取りは英語、ということがよくあります。表の項目名はタイ語と英語(必要なら日本語)を併記し、数字の表は1つにして、説明の文章だけを言語ごとに用意する、という形が手戻りが少なくて済みます。

役割分担は、たとえば次のように決めます。

部門主な役割締め(例)
営業・営業管理需要計画(見込み)と上書きの理由、顧客の内示の取り込みステップ2の締め日
生産管理供給計画、能力の確認、S&OP全体の事務局ステップ3の締め日
購買資材のリードタイム、MOQ、先行手配の要否ステップ3の締め日
倉庫在庫実績の締め、棚卸差異、保管スペースステップ1の締め日
経理数量と金額の換算、予算との差、在庫金額ステップ4の前日
経営(社長・工場長)エグゼクティブS&OPでの決定ステップ5

事務局は、生産管理か経営企画が担うことが多いでしょう。事務局の仕事は、数字を作ることではなく、締め日を守らせ、例外を拾い、決定事項の台帳を管理することです。

ツールの選び方:3つの段階

段階1:Excel、BI、PSI可視化ツール

最初の段階は、Excelや BI(ダッシュボード)で1つの数字を作る段階です。部門ごとのExcelを1つの共有ブックか、データベースとBIの組み合わせにまとめ、品目群×月×数量と金額の表を全員が同じものとして見られるようにします。

日本の製品には、PSIの可視化を主目的とするツールもあります。インプレスのIT Leadersの記事によると、日立ソリューションズ東日本は「SynCAS PSI Visualizer」のSaaS版を2026年2月5日に発表し、2026年3月に提供する予定としていました。同社の発表では、在庫状況の多面的な可視化、アラートによる在庫リスクの優先度付け、在庫エイジングの自動計算などを備え、2010年の発売以来、製造・流通で200社超の導入実績があるとしています(いずれもベンダーの主張)。価格は利用データ量に応じた月額で、最低3ライセンスとされていますが、金額は公表されていません。

また、クラウド Watchの記事によると、トランスコスモスは2026年4月14日に「trans-scManager」を発表し、過去の出荷実績から需要を予測し、需給バランスを評価して在庫の補充量を導くとしています。PSIの可視化にはSynCAS PSI Visualizerを活用するとされています(ベンダーの主張。価格は非公表)。

段階2:ERPに付属する需要計画・MPS

次の段階は、すでに使っている、または導入予定のERPに付属する需要計画やMPSの機能を使う段階です。

  • Odoo 19のMaster Production Schedule(MPS): 公式ドキュメントによると、手動で調整できる需要予測と在庫目標から補充量を提案します(発注や製造指図は利用者が作成し、自動では発行しません)。グリッドに「Forecasted Demand」を日・週・月・年の期間ごとに入力し、予測在庫は「期首在庫−予測需要−間接需要の予測+補充」で計算されるとしています。エディションの要件はページ上で明記されていません。
  • Oracle NetSuiteの「Demand Planning」: ヘルプセンターによると、販売履歴から将来の需要を月次、週次、日次で見積る需要計画と、リードタイムと安全在庫を織り込んだ供給計画(購買や作業指示の提案)を備えます。予測手法は線形回帰、移動平均、季節平均、販売予測(商談、見積、受注から)で、Advanced Inventory Managementの有効化が前提、一度に処理できるのは最大10,000品目とされています。
  • Microsoft Dynamics 365 Supply Chain Managementの「Demand planning」: Microsoft Learnの公式ドキュメントによると、ノーコードの需要モデリング、全社や製品群から地域やSKUへの集計・按分のその場での編集、AIによるパラメータの自動調整、販促や欠品といった外部シグナルの考慮、バージョン履歴、Teams連携のコメント、SCMとのネイティブ統合を備えるとしています。本番利用にはユーザーごとのライセンスが必要です。2026 release wave 1(2026年4〜9月の提供分)では、販売価格と需要パターンの相関を特定する需要計画の機能などが挙げられています。なお、Microsoftは2026年9月以降、Dynamics 365のリリースプランの公開をやめ、「AI at Work roadmap」に移行すると告知しています。

いずれもベンダーの主張で、価格はページに記載がありません。

段階3:専用の計画基盤

品目数、拠点数、シナリオの数が増え、Excelでは月次サイクルが回らなくなったら、専用の計画基盤を検討する段階です。

  • SAP IBP: SAPinsiderの解説によると、2605(2026年5月)では、Planner Workspacesの中で統計予測のシミュレーションができるようになり、Excelとの往復が不要になったほか、安全在庫の判断が運転資本に与える影響をAIで表示するとしています。McCoy & Partnersの解説によると、2608では、Jouleによる「AI支援シナリオプランニング」(作りたいシナリオをプロンプトで指示する)や、在庫モジュールの「Lead Time Intelligence」(リードタイムの変化を検知してマスタの更新案を作り、計画者が承認または却下する)が加わったとされています。
  • Kinaxis Maestro(旧RapidResponse): 同社のS&OPのページでは、全機能の同時計画、無制限で即時のwhat-ifシナリオ、部門横断の協働、長期の戦略と短期の業務の接続をうたい、小規模な入口として「Planning One」を「低リスク・低コスト・短期間で価値実現」と説明しています。

ほかにも、S&OPやIBPの機能を持つ計画製品はいくつもあります。日本の事例としては、MONOistのスポンサード記事で、TOAがSAP IBPをPSI計画システムとして導入した事例が紹介されています。2023年3月に開始し、2024年1月に本稼働するまで約10カ月で、PSI計画のサイクルを週次から日次にし、製品4,000品目の在庫・販売計画を同時に実行できるようにしたとしています(ベンダー側の事例)。

3つの段階の比較

段階代表例(すべてベンダーの主張)向いている状況注意点
1 Excel/BI/PSI可視化Excel、BI、SynCAS PSI Visualizer SaaS版、trans-scManager品目群とプロセスを固める最初の1年ファイルの版管理、手作業の転記ミス
2 ERP付属の需要計画・MPSOdoo 19 MPS、NetSuite Demand Planning、Dynamics 365 SCM Demand planningERPのマスタと受注データをそのまま使いたい品目群の階層や金額換算をどこまで持てるかを確認
3 専用計画基盤SAP IBP(2605・2608の解説による)、Kinaxis Maestro在庫規模、品目数、拠点数が大きく、シナリオ比較が欠かせない費用、導入期間、社内の運用体制

価格は、どの製品もほぼ非公表です。比較の際は、見積を同じ前提(ユーザー数、品目数、拠点数、導入範囲)で取ることが欠かせません。

AI機能は「自律化はまだ少数」と併せて見る

各社がAI機能を前面に出していますが、現時点では期待値を調整しておく必要があります。Modern Materials Handlingが報じたGartnerの予測(2026年9月24日発表)によると、2030年までに、何らかのサプライチェーン計画の自動化を導入している組織のうち、計画上の意思決定の少なくとも10%を自律的に行うのは5%にとどまるとされています。調査は2025年11月11日〜12月18日、年商5億ドル以上の組織の上級リーダー243人(グローバル)が対象です。同じ調査では、83%がサプライチェーン計画の自動化(AIを含む)に少なくとも300万ドルを支出していました。Gartnerは、補充や受注の優先順位付けのような定型の業務判断は自動化の余地が大きい一方、ネットワーク設計や在庫方針のような戦略的な判断には引き続き人の判断が必要だとしています。

大企業でもこの状況です。AI機能があるかどうかより、まず人が毎月決める仕組みを作り、AIはその判断材料を早く出す道具として位置づけるのが現実的です。なお、2026年6月24日には、Boardが需要変化の予兆検知やトレードオフ分析を行う「Supply Chain Agent」を発表するなど、AIエージェントをうたう製品も出てきています(ベンダーの主張)。

費用と効果のモデル試算(仮の数字)

想定する工場と前提

ここからは、S&OP導入の費用と効果を、仮の数字で試算します。以下の数字は、すべてこの記事のための仮の数字です。 実在の会社や製品の価格ではありません。自社で試算するときの「式の形」として使ってください。

想定する工場は、タイの日系の自動車部品・電子部品の工場で、品目は約1,500、顧客は約40社です。現状は、営業、生産管理、購買、倉庫、経理が別々のExcelで計画を作っています。

前提値(仮置き)
平均在庫(原材料+仕掛品+製品)60,000,000 THB
在庫保有コスト率年20%(資金、保管、陳腐化の合計を仮置き)
計画変更の吸収コスト(特急便、休日出勤など)年1,500,000 THB
計画の数字合わせにかかる時間(5部門合計)月80時間
時間単価300 THB

比べるのは2つの構成です。

  • 構成A(プロセス先行+Excel/BI): 決定事項、月次カレンダー、品目群とマスタを整え、BIのダッシュボードで1つの数字を見る
  • 構成B(Aの上に専用の計画ツールを追加): 構成Aを済ませたうえで、専用ツールを追加する。評価は、Aに対する差分(追加の費用と追加の効果)で行う

構成A:プロセス先行+Excel/BI

構成Aの費用は、初期800,000 THB(プロセス設計、品目群とマスタの整理、BIダッシュボード、教育)、年間150,000 THBと置きます。

効果は3つです。

  • 効果①在庫: 平均在庫を5%、つまり3,000,000 THB減らす。保有コストの削減は 3,000,000×20% = 600,000 THB/年
  • 効果②計画変更の吸収コスト: 30%減らす。1,500,000×30% = 450,000 THB/年
  • 効果③数字合わせの時間: 月80時間を40時間にする。減る40時間×12カ月×300 THB = 144,000 THB/年

効果の合計は 600,000+450,000+144,000 = 1,194,000 THB/年です。ここから年間費用150,000 THBを引いた純効果は 1,194,000−150,000 = 1,044,000 THB/年で、初期費用の回収期間は 800,000÷1,044,000 ≈ 約0.8年(約9カ月)になります。

ここで1つ注意があります。在庫を3,000,000 THB減らすと、その分の現金が一度だけ戻ってきます。しかし、この3,000,000 THBは年間の効果には含めていません。含めると、効果①の保有コストの削減(在庫が減ったことで毎年かからなくなる資金や保管のコスト)と二重に数えることになるからです。年間の効果は、在庫が減った状態が続くことで毎年浮くコストだけで数えます。

構成B:専用の計画ツールを追加した場合(差分)

構成Bの追加費用は、追加初期3,500,000 THB、追加年間1,200,000 THBと置きます。

追加の効果は次のとおりです。

  • 在庫: 基準の60,000,000 THBに対してさらに5%(3,000,000 THB)減らす。3,000,000×20% = 600,000 THB/年
  • 計画変更の吸収コスト: さらに基準額(1,500,000 THB)の10%を減らす。1,500,000×10% = 150,000 THB/年
  • 数字合わせの時間: 月40時間を30時間にする。減る10時間×12カ月×300 THB = 36,000 THB/年

追加の効果の合計は 600,000+150,000+36,000 = 786,000 THB/年です。追加の年間費用1,200,000 THBを引くと、追加分の純効果は 786,000−1,200,000 = −414,000 THB/年になります。つまり、この規模の工場では、専用ツールの追加分は毎年赤字で、初期費用は回収できません。

感度:在庫が3倍の会社なら

では、平均在庫が3倍の180,000,000 THBの会社ならどうでしょうか。構成Bの追加の在庫効果は 180,000,000×5%×20% = 1,800,000 THB/年になります。追加の効果の合計は 1,800,000+150,000+36,000 = 1,986,000 THB/年、追加の年間費用を引いた純効果は 1,986,000−1,200,000 = 786,000 THB/年で、追加初期費用の回収期間は 3,500,000÷786,000 ≈ 約4.5年です。

この感度の試算では、簡略化のため、計画変更コストの効果(150,000 THB)と数字合わせの効果(36,000 THB)は在庫の規模に比例させず、据え置いています。実際には、在庫が大きい会社は品目数や拠点数も多く、これらの効果も大きくなる可能性があります。

S&OP 導入の進め方|タイ工場のPSI計画・月次会議・RFP - figure 3

試算のまとめ

項目構成A構成B(追加分)構成B(追加分・在庫3倍)
初期費用800,0003,500,0003,500,000
年間費用150,0001,200,0001,200,000
在庫の保有コスト削減600,000600,0001,800,000
計画変更の吸収コスト削減450,000150,000150,000
数字合わせの時間削減144,00036,00036,000
効果合計1,194,000786,0001,986,000
純効果(効果合計−年間費用)1,044,000−414,000786,000
回収期間約0.8年(約9カ月)回収しない約4.5年

(単位: THB。年間の数字は1年あたり。すべて仮の数字)

図3は、構成Aの効果①600,000、②450,000、③144,000と年間費用−150,000から純効果1,044,000(回収約0.8年)になる流れと、構成Bの追加分の純効果−414,000、在庫3倍のときの構成Bの追加分の純効果786,000(回収約4.5年)を並べたものです。

この試算から言えることは1つです。S&OPの効果の大半は、プロセス(決め方と1つの数字)から出ます。専用ツールは、在庫の規模、品目数、拠点数が大きく、Excelでは月次サイクルが回らなくなってから検討するものです。

なお、この試算には含めていない効果もあります。欠品による売上の機会損失と顧客からの評価、BOIの最大在庫の申請の精度、予算の精度、経営判断の速さです。これらは金額にしにくいものの、実際には導入の判断に影響します。自社で試算するときは、別の欄に定性的に書いておくとよいでしょう。

RFP・デモで確認する項目

専用ツールやERPの計画機能を比べる段階になったら、次の項目をRFP(提案依頼書)とデモの確認表に入れておきます。デモでは、ベンダーが用意したデータではなく、自社の品目群と月次の数字(数カ月分)を使ってもらうのが理想です。

確認項目確認する内容デモでの見せ方の例
品目群の階層と按分品目群→品目、顧客群→顧客の階層を持てるか。上の層で入れた数字を下の層に按分できるか品目群の合計を1割増やし、品目別の数字がどう按分されるかを見る
数量⇔金額の換算単価表で数量と金額を同じ画面で切り替えられるか。単価の改定時期を持てるか値上げ後の単価で、売上見込みが自動で変わるかを見る
バージョン管理毎月の計画を版として残し、前月の版と比べられるか前月の版と今月の版の差分を表示する
シナリオ比較「在庫を積む案」「残業で吸収する案」など複数案を並べて比べられるか2案の在庫金額と追加コストを並べる
予測精度とバイアスの自動計算MAPE、WMAPE、バイアス、FVAを品目群ごとに自動で出せるか過去数カ月の予測と実績から指標を計算する
ERP/MRPとの連携合意した数字をMPS/MRPに渡せるか。実績をERPから自動で取り込めるか連携の方式(API、ファイル)と頻度を説明してもらう
タイ語/英語UI画面、項目名、帳票がタイ語と英語に対応するか計画担当者がタイ語の画面で操作する
権限部門ごとに入力できる範囲、閲覧できる範囲を分けられるか営業は需要計画だけ、購買は資材だけ編集できる設定を見る
監査ログ誰が、いつ、どの数字を、なぜ変えたかが残るか営業の上書きとその理由の履歴を表示する
データ取込顧客の内示(EDI、Excel、CSV)や在庫実績を取り込めるか自社の内示ファイルを取り込んでもらう
ライセンス体系ユーザー単位か、品目数やデータ量単位か。閲覧だけのユーザーの扱い3年分の費用を、同じ前提で見積もってもらう

IT トレンドの解説も、PSI管理システムを選ぶときは「必要なのは在庫の可視化だけか、需要から供給までの計画全体か」「月次か日次か」「既存のERPや生産管理と連携できるか」を確認すべきだとしています。この3つは、上の表を使う前の「そもそも何を選ぶのか」を決める質問として役立ちます。

導入の進め方:最初の90日

S&OP導入は、ツールの導入から始める必要はありません。最初の90日は、次のように進めるのが一つの方法です。

0〜30日:決定事項、カレンダー、品目群を決める

  • エグゼクティブS&OPで毎月決める項目のリスト(決定事項)を作る
  • 5ステップの月次カレンダー(締め日、会議日、参加者)を決める
  • 品目群の切り方を決める(供給側の制約が共通する単位で)
  • 予算(目標)と需要計画(見込み)を別の行で持つことを決める
  • 事務局(生産管理か経営企画)を決める

この30日で、ソフトウェアを買う必要はありません。必要なのは、社長や工場長が「この会議でこれを決める」と宣言することです。

31〜60日:1つの数字を手作業で2サイクル回す

  • 品目群×月×数量と金額の表を1つ作り、全部門が同じ表を使う
  • 決めたカレンダーで、5ステップを実際に2カ月分回す
  • プレS&OPで例外を拾い、2〜3の選択肢を作る練習をする
  • エグゼクティブS&OPの決定事項を台帳に記録する

最初の1サイクルは、ほぼ確実にうまく回りません。実績の締めが遅れる、営業の見込みが出てこない、単価表が無い、といった問題が出ます。それを見つけることが、この期間の目的です。2サイクル目で、問題の多くは減ります。

61〜90日:精度とバイアスを測り、ツールの要件を決める

  • 品目群ごとのWMAPEとバイアスを毎月出し始める
  • 営業の上書きの前後で誤差を比べ、FVAの考え方を試す
  • 手作業で回したときに時間がかかった作業、転記ミスが出た箇所を洗い出す
  • それをもとに、ツールに求める要件(前章のRFP項目のうち、どれが欠かせないか)を決める

90日が終わった時点で、「Excelのままもう半年回す」「BIを足す」「ERPの計画機能を使う」「専用ツールを検討する」のどれに進むかを、決定事項の台帳と時間の記録をもとに判断します。

よくある質問

S&OPとは?

S&OP(Sales and Operations Planning)は、需要の計画と供給の計画を1つの計画に揃え、揃わない差分を経営が決める、月次の意思決定プロセスです。データ収集、需要計画、供給計画、プレS&OP、エグゼクティブS&OPの5ステップを、毎月決まったカレンダーで回します。

S&OPとPSI計画の違いは?

PSI計画は、生産(Production)・販売(Sales)・在庫(Inventory)の数量を均衡させる、現場レベルの短期の計画です。S&OPは、数量に金額(売上、在庫金額、コスト)を加え、中期の期間(この記事の目安で3〜18カ月)について経営が判断する場です。PSIの数量をS&OPの月次サイクルに乗せ、金額を足していく順番が現実的です。

S&OPとIBPの違いは?

Oliver Wightの定義では、IBPは戦略、ポートフォリオ、需要、供給、財務を月次の再計画で整合させる意思決定プロセスで、24カ月先までをローリングで計画し、前回からの変化に焦点を当てます。S&OPはIBPの構成要素となることが多く、IBPはS&OPを戦略と財務まで広げたものと整理できます。

S&OPの導入期間は?

プロセスの立ち上げであれば、この記事で示したように、最初の90日で決定事項、カレンダー、品目群を決め、手作業で2サイクル回し、精度の測定を始めることができます。専用ツールの導入期間は、範囲と品目数によって大きく変わります。ベンダー側の事例では、SAP IBPのPSI計画システムを約10カ月で本稼働させた例が紹介されています。

Excelでも始められる?

始められます。むしろ、最初の段階ではExcelやBIで十分なことが多いです。この記事のモデル試算(仮の数字)でも、効果の大半はプロセスと1つの数字から出ていました。Excelで回らなくなったら、その時点で何が回らないのかが、ツールの要件そのものになります。

需給調整の会議は誰が出る?

プレS&OPには、営業管理、生産管理、購買、倉庫、経理の課長クラスの実務者が出ます。エグゼクティブS&OPには、社長や工場長、営業、生産、購買の部門長、経理の責任者が出ます。決める権限のある人がエグゼクティブS&OPに出ていないと、決定が持ち越されてしまいます。

PSI計画システムの選び方は?

まず「必要なのは在庫の可視化だけか、需要から供給までの計画全体か」「月次か日次か」「既存のERPや生産管理と連携できるか」を確かめます。そのうえで、品目群の階層と按分、数量と金額の換算、バージョン管理、シナリオ比較、予測精度とバイアスの自動計算、タイ語と英語のUIなどを、自社のデータを使ったデモで確認します。

まとめ

  • S&OP導入の本体はソフトウェアではなく、「毎月、誰が、どの数字で、何を決めるか」という約束です。
  • タイの製造業は、業種によって需要の向きが割れ、月ごとに振れています。需要と供給を毎月同じ表で見直す理由は十分にあります。
  • S&OPは、データ収集、需要計画、供給計画、プレS&OP、エグゼクティブS&OPの5ステップを、決まった月次カレンダーで回すプロセスです。
  • PSI計画は数量の均衡、S&OPは数量と金額の経営判断、IBPは戦略と財務まで含めた計画、という段階で整理できます。
  • こじれる典型は、決定事項が無い、目標と見込みが混ざる、供給の制約が会議の前に整理されていない、の3つです。
  • 1つの数字は、品目群×月×数量と金額で作ります。予算(目標)と需要計画(見込み)は別の行で持ちます。
  • 予測は、品目群ごとのWMAPEとバイアスから測り始め、上書きの効果はFVAで確かめます。
  • 供給計画では、能力、資材のリードタイムとMOQ、在庫方針、BOIの最大在庫(6カ月分の輸出予測)、4月のソンクラーンによる稼働日の減少を織り込みます。
  • 仮の試算では、プロセス先行の構成Aは約0.8年(約9カ月)で回収し、専用ツールの追加分は在庫60,000,000 THBの規模では回収せず、在庫が3倍なら約4.5年で回収しました。
  • 進める順番は、決定事項とカレンダー、1つの数字、精度とバイアスの測定、そしてツールです。

月次会議の決定事項の整理や、品目群と1つの数字の設計、ツールのRFP要件づくりといった、ツールを選ぶ前の段階からでもご相談いただけます。タイの工場の実情に合わせたS&OPの立ち上げを検討されている方は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

参考情報