タイの日系工場で CC-Link IE TSN 導入を検討するとき、本当に決めるべきことは「速いネットワークに替えるかどうか」ではありません。MELSEC-Q の保守期限までに、どのラインを、どの順番で、どこまで TSN に移し、どこを CC-Link IE Field のまま残すか。これは計画の問題です。さらに、制御通信と IT 通信を同じケーブルに載せられるという利点は、そのまま攻撃を受ける面にもなります。だから導入計画には、最初からネットワークの境界と、診断・保守の受入試験を組み込んでおく必要があります。
この記事では、生産技術・保全の責任者が社内で判断材料をそろえられるよう、仕組み、旧ネットワークとの違い、移行パターン、ネットワーク設計、セキュリティ、費用の考え方、RFP の項目、FAT/SAT の確認点、タイ固有の論点を順に整理します。なお、記事中の工場条件・費用・停止時間・削減率はすべてこの記事のために置いた仮の数字です。業界平均でも調査値でもメーカーの価格でもありません。自社で検討するときは、自社の停止記録と見積に置き換えてください。
なぜ今、タイ工場で CC-Link IE TSN 導入が問われるのか
2026年の後半に入って、タイの日系工場の生産技術部門には、判断を先送りしにくい材料が三つ重なりました。
一つ目は MELSEC-Q の生産終了です。三菱電機は2026年9月発行のテクニカルブレティン(FA-A-0495-A)で、MELSEC-Q の汎用 QCPU、ベース、I/O、ネットワークユニットなど多数の機種の生産終了を告知しました。対象には CC-Link IE Field のマスタ/ローカルユニット QJ71GF11-T2 や CC-Link のマスタ/ローカルユニット QJ61BT11N も含まれます。既設ラインが Q と IE Field の組み合わせで動いている工場にとっては、CPU だけでなくネットワークユニットも更新対象になるということです。
二つ目は脆弱性アドバイザリです。三菱電機は2026年7月30日に、CC-Link IE TSN 通信プロトコルに関する情報改ざんとサービス妨害(DoS)の脆弱性を公表し、2026年9月17日に更新しています。CC-Link IE TSN を新たに採用する場合、この内容を前提に境界の設計をする必要があります。
三つ目は新ラインや大改造の計画です。新しく入る設備の制御盤やサーボが CC-Link IE TSN 対応で出てくる場面が増えれば、既設の IE Field ラインとどうつなぐか、別々に運用するのかを決めなければなりません。
この三つは別々の話に見えますが、実際には一つの計画にまとまります。Q の更新時期、ネットワークの方式、セキュリティの境界を一緒に決めないと、二度手間の改造や、受入後に見つかる設計の穴につながります。PLC 更新全体の進め方は「PLC 更新・リプレース|タイ工場の停止リスク低減設計2026」でも整理しています。
CC-Link IE TSN とは:仕組み・クラス・認証
仕様の成り立ち
CC-Link 協会(CLPA)は2018年11月21日に、CC-Link IE の次世代ネットワークとして CC-Link IE TSN の仕様策定完了を発表しました。CLPA の説明では、CC-Link IE TSN は OSI 参照モデルの第2層にある TSN 技術を土台とし、第3〜7層は CC-Link IE TSN 独自のプロトコルと Ethernet の標準プロトコルで構成されます。時刻同期には IEEE 802.1AS、1本の回線を時刻で分けて共有する仕組みには IEEE 802.1Qbv を使います。
CLPA はこの構成によって、リアルタイム性を確保した制御通信を行いながら、他のオープンネットワークの通信や IT システムとの情報通信を同じネットワークで扱えると説明しています。配線を減らせるという利点がある一方で、後の節で触れるとおり、境界の設計が欠かせなくなります。
通信速度は 1 Gbps に加えて 100 Mbps にも対応できます。専用の ASIC や FPGA による実装に加えて、汎用の Ethernet チップ上でソフトウェアのプロトコルスタックとして実装することも、マネージャ局・デバイス局ともに可能だと CLPA は説明しています。
規格上の値と製品の上限は別物
CLPA のネットワーク仕様表では、1ネットワークの接続ノード数は 64,770 台(マネージャ局とデバイス局の合計)とされています。ただし、これは規格上の値です。実際の製品の上限は、三菱電機の公称では iQ-R のマスタ/ローカルユニット RJ71GN11-T2 と RJ71GN11-EIP が1ネットワーク最大121局(マスタ局を含む)、iQ-F の FX5-CCLGN-MS はマスタ局として使う場合に最大61局です。設計で効いてくるのは製品の上限の方なので、RFP や設計書には必ず使用する形名と、その形名での上限を並べて書きます。
最大ノード間距離はツイストペアケーブルで 100 m、マルチモード光ファイバで 550 m、トポロジーはライン、スター、ライン・スター混在、リングと CLPA は示しています。こちらも製品によって対応範囲が異なり、三菱電機の公称では RJ71GN11-T2 はライン・スター・リングに対応しますが、RJ71GN11-EIP はライン・スターのみ、FX5-CCLGN-MS もライン・スターのみです。
認証クラス A と B
CLPA の開発者向けページによると、CC-Link IE TSN には機器と Ethernet スイッチの機能・性能に応じて認証クラス A と B があり、B が上位の機能です。デバイスのクラス B では IEEE 802.1AS と IEEE 802.1Qbv への準拠、1 μs 以下の同期精度、時分割方式が必須とされています。クラス A は既存の TSN 非対応製品のソフトウェアを改修する場合に限って開発するもので、CLPA はクラス B の開発を推奨しています。
導入側にとって大事なのは次の注記です。CLPA の説明では、時刻同期 1 μs の精度を保証するには、システムを認証クラス B 製品だけで構成し、クラス B 製品の間にクラス A 製品(Ethernet スイッチを含む)を置かないことが条件です。また、マネージャ局はクラス A とクラス B の両方のデバイス局と通信できなければなりません。つまり、クラス A の機器をつなぐこと自体はできても、置く位置によっては同期精度の前提が崩れます。
スイッチにも認証クラスがあります。CLPA の説明では、クラス A・B とも 1000BASE-T または 100BASE-TX 準拠、Auto MDI/MDI-X、オートネゴシエーションが必須で、クラス B ではさらに IEEE 802.1AS 準拠、1 μs 以下の同期精度、IEEE 802.1Qbv 準拠が必須です。
コンフォーマンステストの意味
CLPA の説明では、パートナー各社が販売する CC-Link ファミリーの認定製品はすべてコンフォーマンステストに合格しています。試験はハードウェア試験、ソフトウェア試験、機器プロファイル(CSP+)の確認、エージング試験で構成されます。ただし、この試験は通信仕様への適合を確かめるものであり、機器固有の機能は対象外で、合格が製品自体の性能や品質を保証するものではないと CLPA は明記しています。受入試験を省いてよい理由にはなりません。
参考までに、CLPA の発表では2026年3月末時点で法人会員は 4,538 社超、CC-Link ファミリー対応製品の累計は 3,543 機種超です。これは CC-Link IE TSN 単独の数ではなく、ファミリー全体の数です。
国際標準化については、CLPA の説明では CC-Link IE TSN が IEC 61158 に2023年3月、CC-Link IE Controller/Field/TSN が IEC 61784-2-8 に2023年3月、CC-Link IE TSN が SEMI E54.23 に2020年5月に発行されています(いずれも初版の発行日)。

図1:事務所LANとファイアウォールで区切った CC-Link IE TSN の構成例。iQ-R マスタ、クラスB対応マネージドスイッチ、サーボ・リモートI/O・HMI を TSN 側に置き、ブリッジ NZ2GN-GFB の先に既設の CC-Link IE Field 区間を残しています。
CC-Link IE Field・CC-Link・Field Basic との違い
既設ラインに残るネットワークと CC-Link IE TSN の違いを、CLPA の仕様表と説明をもとに比べます。
| 項目 | CC-Link IE TSN | CC-Link IE Field | CC-Link IE Field Basic | CC-Link(Ver.1.10/2.00) |
|---|---|---|---|---|
| 通信速度 | 1 Gbps/100 Mbps | 1 Gbps | 100 Mbps(1 Gbps は任意) | 10 M〜156 kbps |
| 通信の方式 | 時分割方式・タイムマネージドポーリング方式 | トークンパッシング方式 | 仕様表は実装方式をソフトウェアと記載 | ブロードキャストポーリング方式 |
| 1ネットワークの規格上の台数 | 64,770 台(規格上の値) | 254 台 | 最大 64 局 | 最大 64 台 |
| 伝送路 | Ethernet(ツイストペア 100 m、光 550 m) | シールド付ツイストペア(カテゴリ5e) | Ethernet カテゴリ5e以上 | バス形式(RS485 準拠) |
| トポロジー | ライン、スター、混在、リング | ライン、スター、混在、リング | ライン、スター | バス |
| IT 通信との混在 | 同一ネットワークで融合可能と CLPA は説明 | (この比較では扱わない) | TCP/IP 通信の混在に対応 | 該当なし |
表の台数は規格上の値です。実際の上限は使う製品で決まります(前節参照)。
最も大きな違いは通信の制御方式です。CLPA の説明では、従来の CC-Link IE はトークン(送信権)を持つノードが送信した後に隣の局へトークンを譲るトークンパッシング方式です。CC-Link IE TSN は同期した時刻を使い、決められた時刻に出力と入力のフレームを双方向同時に送ることで、サイクリックデータの更新時間を短くします。また、同じネットワークの中で複数の通信周期を使い分けられます。
性能の数字を社内資料に載せるときは条件に注意してください。三菱電機タイの公称では、最小通信周期 31.25 µs はモーションユニット RD78GH の高速動作モードを使った場合の値です。「16倍高速」は CC-Link IE Field Network Motion との比較、「リンク点数2倍」は CC-Link IE Field との比較です。条件を外して「TSN にすれば16倍速くなる」と書くと、受入時に食い違いが生じます。
CC-Link(RS485 のバス)は最大64台で、10 Mbps では最大ケーブル総延長が 100 m です。古い設備に残っている場合は、TSN 化よりも先に、保守部品の確保と更新時期の整理を優先した方がよいことが多いでしょう。
CC-Link IE TSN 移行パターンの選び方
移行のやり方は大きく三つです。どれが正しいかはラインの残り寿命と更新計画で変わります。
パターンK:現状維持と予備品の確保
Q の CPU と IE Field のユニット、リモート局の予備品を確保して、当面は現状のまま運用します。費用は小さく見えますが、移行の費用を先送りしているだけです。三菱電機の公称では MELSEC-Q の修理対応は2036年12月31日まで(AnyWire 系の2機種は例外)とされていますが、予備品の確保は受注受付の期限である2029年9月30日までに終える必要があります。残り寿命が短い設備や、数年以内に設備ごと入れ替える予定のラインに向いています。
パターンB:段階移行(iQ-R マスタとブリッジ)
ラインのマスタを iQ-R と RJ71GN11-T2 に替え、既設の IE Field 側の局はブリッジで残す方法です。三菱電機タイの公称では、ブリッジユニット NZ2GN-GFB は CC-Link IE TSN 上ではリモート局として、CC-Link IE Field 上ではマスタ局またはローカル局として使えます。ただし NZ2GN-GFB は CC-Link IE TSN のマスタ局としては機能しないため、TSN 側には別にマスタ局が必要です。
この方法の利点は、まだ使えるリモート I/O やサーボの配線を一度に替えずに済むことです。一方で、IE Field 側の局はトークンパッシングのまま動くので、TSN の時刻同期の利点は TSN 側の区間に限られます。IE Field 側で起きた異常が TSN 側の診断画面でどう見えるかも、受入試験で確かめる必要があります。
パターンT:全面 TSN 化
マスタに加えてサーボを CC-Link IE TSN 対応機種に替え、スター構成の部分にはクラス B 対応のマネージドスイッチを入れます。三菱電機タイの公称で対応機種として挙がっているのは、サーボアンプ MR-J5-G、MR-J5W-G、MR-J5-G-RJ、MR-J5D-G4、MR-JET-G、インバータ FR-A800-GN、FR-E800-E/SCE(FR-E800-E/SCE の 1 Gbps は将来オプションで対応予定)、ロボット MELFA FR の CR800-R、GOT2000 用の通信ユニット GT25-J71GN13-T2(ローカル局として使用。GT2505 など一部機種は非対応)などです。
全面 TSN 化は配線とサーボの交換を伴うため、設備の大改造や新設と同時に行う場合に最も意味があります。
既設のシンプルモーションにも期限があります。三菱電機の公称では、CC-Link IE Field 対応のシンプルモーションユニット QD77GF4/8/16 と RD77GF4/8/16/32 は、受注生産への移行が2027年3月31日、受注受付が2028年3月31日まで、生産終了が2029年3月31日、修理受付が2036年3月31日までです。QD77GF4/8/16 の置き換え先として iQ-R のモーションユニット RD78G4/RD78G8/RD78G16 が示されており、RD77GF 系は営業所へ相談するよう案内されています。また、QD77GF と RD77GF は EU のサイバーレジリエンス法(CRA)に対応しない予定で、2027年4月以降に受注した分は CE マーキングなしで供給されるとされています。モーション機器の更新については「設備制御改造|MELSEC-Qモーション機器の生産終了とタイ工場の移行計画」も参考にしてください。
MELSEC-Q 生産終了のスケジュールと移行計画
三菱電機の公称スケジュールは次のとおりです。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2026年9月 | テクニカルブレティン FA-A-0495-A で生産終了を告知 |
| 2028年12月1日 | 受注生産へ移行 |
| 2029年9月30日 | 受注受付の終了 |
| 2029年12月31日 | 生産終了(部品の状況によって前倒しの可能性あり) |
| 2036年12月31日 | 修理対応の終了(AnyWire 系2機種が例外)、セキュリティサポートも原則この日まで |
代替機種として三菱電機は MELSEC iQ-R または MELSEC MX コントローラを示しています。ブレティンの「今後の取り組み」には、2026年10月の予定として GX Works2 から引き継いだプロジェクトを GX Works3 で編集する支援機能の追加、2027年4月の予定として支援機能の対象をインテリジェントユニットやネットワークユニットに広げることが書かれています。いずれも予定なので、実際に使えるかは提供開始後に確認してください。
注意したいのは、受注受付の終了から逆算した実務の締め切りです。予備品を買うにしても、移行の設計をするにしても、見積・社内稟議・発注・納期を考えると、2029年9月30日の直前では間に合わないことがあります。生産終了日は部品の状況で前倒しになる可能性もあります。
また、タイでは三菱電機 FA タイが「Product Migration Campaign」を2027年3月31日まで(または在庫限り)実施しています。同社の案内では、対象は iQ-F/iQ-R の PLC、MELSERVO J5、インバータ FR-800、GOT3000 で、特典は無償ソフトウェア(条件による)、無償の製品研修、標準保証に1年追加です。これは販売側の案内であり、条件は予告なく変更・中止される可能性があると明記されています。適用条件は営業担当か正規代理店に確認してください。

図2:MELSEC-Q 生産終了のタイムライン。2026年9月の告知から、2027年3月31日のタイの移行キャンペーン期限(販売側の施策)、2028年12月1日の受注生産移行、2029年9月30日の受注受付終了、2029年12月31日の生産終了、2036年12月31日の修理・セキュリティサポート終了までを並べています。
Q の CPU から iQ-R への更新では、プログラムの引継ぎと復旧テストも計画に入れておく必要があります。「三菱 PLC プログラム引継ぎ|タイ工場の復旧テスト実務」もあわせて読むと、作業の抜けを減らせます。
CC-Link IE TSN 導入のネットワーク設計の実務
局数は製品の上限で決める
前述のとおり、規格上の 64,770 台ではなく、使う製品の上限で設計します。RJ71GN11-T2 なら最大121局(マスタ局を含む)、FX5-CCLGN-MS ならマスタ局として最大61局です。将来の増設分も含めて局数の一覧を作り、上限に対してどれだけ余裕があるかを設計書に残します。
クラス A と B を混ぜるときのルール
CLPA の説明どおり、1 μs の同期精度が保証されるのは、クラス B 製品だけで構成し、クラス B の間にクラス A(スイッチを含む)を挟まない場合です。設備メーカーごとに機器を手配すると、どこかにクラス A の機器やスイッチが紛れ込むことがあります。全局の形名と認証クラスの一覧を出させ、構成図の上で接続順を確認するのが確実です。
スイッチの選び方
三菱電機タイの仕様ページでは、スイッチを使う場合は CLPA が推奨する CC-Link IE TSN(クラス B)対応のマネージド Ethernet スイッチを使うよう指定しています。同社の製品として、スター構成用のマネージドスイッチ NZ2MHG-TSNT4(4ポート)と NZ2MHG-TSNT8F2(8ポート)があり、空きポートに TCP/IP 機器を接続できます。ただし、この2機種は Moxa 社が開発・製造したもので、仕様と保証条件が MELSEC シリーズとは異なると三菱電機は注記しています。保守部品や修理の窓口が PLC と同じとは限らないので、調達前に確認します。汎用の産業用スイッチの選び方は「産業用イーサネットスイッチの選定|タイ工場の調達・検収」で詳しく扱っています。
100 Mbps 機器の混在
三菱電機タイの公称では、100 Mbps の機器と 1 Gbps の機器を同じネットワークで混在させる場合、100 Mbps の機器は 1 Gbps 対応(クラス B)の機器の後ろに接続します。インバータなど 100 Mbps で接続する機器がある場合は、接続順を図面に明記しておきます。
通信周期とロボット
同じネットワークの中で複数の通信周期を使い分けられるのは CC-Link IE TSN の特徴ですが、機器によっては制約があります。三菱電機の技術ニュース(2026年2月)では、ロボットコントローラ CR800/CR860 の D タイプ用のネットワークベースカード 2F-DQ535-TSN は、リモート局として接続でき、「Mixed Cycle Time」には対応しないとされています。このカードを載せたロボットをつなぐ場合、混在する全機器の通信周期間隔の設定を 1000 µs 以上にする必要があります。また HMS 社製の Anybus CompactCom M40 は顧客側で用意する必要があります。ロボットを含むラインでは、通信周期の設計を早い段階で決めておきます。
リングと冗長化
三菱電機の公称では、RJ71GN11-T2 はリングトポロジーに対応し、リング構成ではケーブルの断線やデバイス局の異常があっても、正常な局とのデータ通信が続きます。RJ71GN11-EIP はリングに対応せず、ネットワークの末端にのみ接続できるとされています。リングを採用するなら、使うマスタがリングに対応しているかを最初に確認してください。冗長化の方式全般は「産業用ネットワーク冗長化設計|MRP・RSTP・PRP・HSRを比較」で比較しています。
安全通信
CLPA の説明では、CC-Link IE の安全通信機能は IEC 61508 の SIL3 適合に必要な要件を満たし、IEC 61784-3 の機能安全通信の基本概念に従います。安全局と一般局を同じネットワークに混在させることもできます。三菱電機の公称では、RJ71GN11-T2 は iQ-R の安全 CPU と組み合わせることで安全マスタ/ローカル局として使えます(1局あたり最大120コネクション)。安全機能をネットワークに載せる場合は、安全回路の設計と検証の責任分担を RFP の段階で決めておきます。
CC-Link IE TSN のセキュリティ:アドバイザリと緩和策、境界設計
アドバイザリの内容
三菱電機はアドバイザリ 2026-005 で、CC-Link IE TSN 通信プロトコルに情報改ざんと DoS の脆弱性(CVE-2026-13584)があると公表しました。CVSS v4 の基本値は 7.1、初版は2026年7月30日、最終更新は2026年9月17日です。三菱電機の説明では、CC-Link IE TSN ネットワークにアクセスできる攻撃者が、特定のタイミング条件で細工したパケットを送ると、制御の入出力値を改ざんできる可能性があります。報告者は Nozomi Networks です。
影響製品として挙がっているのは、マスタ/ローカルユニット RJ71GN11-T2/SX/EIP、FX5-CCLGN-MS、MR-J5-G 系のサーボ、FR-A8NCG/FR-A800-GN/FR-E800-E/SCE、GOT3000 の一部、GT25-J71GN13-T2、ブリッジ NZ2GN-GFB、ロボット用の 2F-DQ535-TSN、MELSEC MX コントローラなどで、いずれも「All versions」とされています。つまり、この記事で移行先として挙げた主要な製品の多くが対象です。修正版の提供状況を含む最新の内容は、三菱電機 PSIRT のページで必ず確認してください。
三菱電機が示す緩和策
アドバイザリで三菱電機が推奨している緩和策は次のとおりです。
- 影響製品と、それが接続された CC-Link IE TSN ネットワークへの物理的なアクセスを制限する(設置場所の入退管理)
- 影響製品やネットワーク機器を収めた制御盤を施錠する
- ポートロックなどで Ethernet ポートを封鎖する
- 信頼できないネットワークやホストとの通信をファイアウォールなどで遮断した、信頼できるネットワークの中で使う
- 境界機器の認証情報とアクセス権を適切に設定する
どれも特別な技術ではありませんが、現場で実際に守られているかは別の問題です。空きポートに保全用ノート PC を挿す習慣、施錠されていない盤、設備ベンダーの遠隔保守回線などは、タイの工場でもよく見かけます。
CLPA のガイドライン
CLPA は、Nozomi Networks の助言にもとづき三菱電機(CLPA 幹事会社)がアドバイザリを発行したことを告知し、CLPA が発行する CC-Link IE TSN セキュリティガイドライン(概要編・詳細編)も参照してシステムを構築・運用するよう求めています。CLPA のセキュリティページでは、脅威と対策の例として、外部機器経由のランサムウェア感染には IDS/IPS 機能、DoS 攻撃には帯域制限とネットワークフィルタリング(エンジニアリングツールでアクセス元 IP を設定)、なりすましによる改ざんには認証機能(リモートパスワード)を挙げています。詳細版のダウンロードは CLPA 会員限定です。
境界をどこに引くか
CLPA は制御通信と IT 通信を同じネットワークで融合できると説明しています。また SLMP を使えば、事務所 LAN 上の PC からネットワークを越えて CC-Link IE や CC-Link の機器にアクセスし、パラメータの設定や保全情報の収集ができると CLPA は説明しています。便利ですが、裏返せば事務所側から制御側へ届く経路ができるということです。
実務では、TSN 側と事務所 LAN の間に必ずファイアウォールを置き、通してよい通信を一覧(ルール表)にして承認します。監視 PC や SNMP の収集サーバを TSN 側に置くなら、その PC 自体を制御側の機器として管理します。設備ベンダーの遠隔保守は、接続する時間と経路を決め、常時接続にしないことが基本です。OT/IT の分離設計は「産業用ネットワーク構築2026|工場のOT/IT分離と設計の勘所」、セキュリティ対策の発注と受入は「OTセキュリティ対策の導入|タイ工場のRFPとFAT/SAT受入計画」で扱っています。
CC-Link IE TSN 導入の費用と回収の考え方
ここからはモデル試算です。繰り返しになりますが、以下の数字はすべてこの記事が独自に置いた仮の数字で、業界平均でも調査値でもメーカーの価格でもありません。考え方の例として読んでください。
モデル工場Mの前提
- タイ東部(チョンブリー県)の日系電機部品工場(自動車部品ではない)。組立・検査ラインが6本
- 各ラインは MELSEC-Q の CPU、CC-Link IE Field マスタ(QJ71GF11-T2)、リモート I/O、シンプルモーション経由のサーボで構成
- ネットワーク起因の停止(断線、コネクタ、局異常、設定違い)が全6ラインで年18件。1件あたり原因特定から復旧まで平均2.5時間で、合計は年45時間
- ライン停止の損失を1時間あたり THB 30,000 と仮置きすると、年 THB 1,350,000
3パターンの比較
| パターン | 内容 | 初期費用(6ライン計) | 停止時間の削減(仮定) | 年間効果 | 単純回収年数 |
|---|---|---|---|---|---|
| K 現状維持+予備品 | Q 系の予備品を各ライン THB 150,000 確保 | THB 900,000 | 0% | 0 | 回収なし(延命費用) |
| B 段階移行 | 各ラインのマスタを iQ-R+RJ71GN11-T2 に替え、ブリッジ NZ2GN-GFB で既設 IE Field 側の局を残す。1ライン THB 600,000(設計・改造・試験込み) | THB 3,600,000 | 30%(13.5時間) | 13.5×30,000=THB 405,000 | 3,600,000÷405,000=約8.9年 |
| T 全面TSN化 | B に加えてサーボを MR-J5-G 系へ、スター部にクラスB対応マネージドスイッチ。1ライン THB 2,200,000 | THB 13,200,000 | 50%(22.5時間) | 22.5×30,000=THB 675,000 | 13,200,000÷675,000=約19.6年 |
停止時間の削減は、年45時間のうち B で30%にあたる13.5時間、T で50%にあたる22.5時間が減ると仮定しています。

図3:モデル試算の単純回収年数。B 段階移行は約8.9年、T 全面TSN化は約19.6年で、K 現状維持は予備品の費用のみで回収はありません(いずれもこの記事の仮置き値による試算)。
試算から読み取れること
この試算で分かるのは、停止時間の短縮だけを効果として数えると、B も T も回収までの年数が長いということです。診断機能やパラメータの自動配布で復旧が速くなるとしても、それだけで投資を正当化するのは難しいでしょう。
判断の軸は別のところにあります。一つは、MELSEC-Q の受注受付(2029年9月30日)と修理(2036年12月31日)の期限までに、どのラインをいつ替えるかです。もう一つは、新設や大改造のラインでは最初から TSN にしておくことです。B は期限への対応を前倒しして年度ごとに分散する手段であり、T は設備の更新と同時に行うときに意味が出ます。
二重計上をしないための注意
- K、B、T は互いに排他の選択肢です。効果や費用を足し合わせてはいけません
- B と T の停止削減率(30%、50%)は仮定であり、メーカーの保証値ではありません
- K の予備品費用 THB 900,000 は、いずれ必要になる移行費用を先送りしているだけで、移行費用の代わりにはなりません
- 品質、安全、セキュリティの効果は金額に入れていません。入れる場合は、それぞれ別の根拠(不良の記録、事故のリスク評価など)が必要です。根拠のない効果を足すと、同じ停止時間を二度数えることになりがちです
CC-Link IE TSN 導入の RFP に書く12項目
設備メーカーや SIer に見積を依頼する際、次の12項目を RFP に入れておくと、提案の比較と受入がしやすくなります。
- 形名・局数の一覧:既設と新設の CPU、ネットワークユニット、リモート局、サーボ、インバータ、HMI の形名と台数。MELSEC-Q の生産終了対象との突き合わせ結果も添付させる
- 移行パターン:K/B/T のどれを前提にするか。B の場合はどの局を IE Field 側に残すか
- 認証クラスとスイッチ:全局の認証クラス、スイッチの形名と認証クラス、クラス B の間にクラス A を挟まない構成図
- 通信周期と局数の検証方法:設計した通信周期と局数をどう確認するか、試験の時間と合否の基準
- ブリッジの扱い:NZ2GN-GFB を使う場合の TSN 側マスタの形名、IE Field 側の局の割り付け、診断の見え方
- 駆動・HMI の対応機種:サーボ、インバータ、ロボット、GOT の対応形名と通信速度。100 Mbps 機器の接続順
- 診断と保守機能:GX Works3 での診断、エラー履歴、パラメータ自動配布、SNMP 収集の範囲
- セキュリティ境界と緩和策:ファイアウォールの位置とルール表、ポート封鎖、盤の施錠、アドバイザリの緩和策の実施方法
- IT 通信の混在条件:同じネットワークに載せる監視 PC やデータ収集の通信量と、制御通信への影響の確認方法
- 停止計画と切替手順:切替日の停止時間、切り戻しの手順、旧ユニットの保管
- FAT/SAT の基準:次の節の項目をもとにした試験項目と合否基準
- 文書・教育・保守部品:タイ語・英語の手順書、構成図、パラメータのバックアップ、保全員の教育、予備品の数
データ収集の通信量の見積もり方は「PLCデータ収集2026|取れない原因は通信規格ではなく点数と周期」、制御盤側の仕様は「制御盤 設計|タイ工場の回路・熱・FAT発注実務」が参考になります。
CC-Link IE TSN の FAT/SAT で確認すること
以下は受入試験の項目例です。時間や件数の数字はこの記事の仮置きの目標例で、規格の値ではありません。
FAT(工場出荷前)
- 構成の確認:全局の形名、ファームウェアの版数、認証クラスの一覧を FAT の前に提出させ、クラス B の間にクラス A の機器が無いことを図面で確認する。三菱電機の公称では CC-Link IE TSN 対応機器はファームウェアの更新が可能(更新ツールとファイルは販売窓口に問い合わせ)なので、版数の記録は必須
- 局数と周期:設計どおりの局数と通信周期で連続運転(例:8時間)し、通信エラーの記録が出ないこと
- 断線・抜線試験:ライン端、中間、スイッチの下流でケーブルを抜き、GX Works3 の診断で位置を特定できるか、復帰後に自動で戻るかを見る。リング構成なら片側の断線で通信が続くかも確認する
- 機器交換試験:リモート局を予備品と交換し、パラメータの自動配布によって個別の設定なしで復帰すること
- 100 Mbps 機器の混在:混在させる場合は接続順と動作を確認する
- IT 通信の混在:同じネットワークに監視 PC と SNMP 収集を載せた状態で、制御通信に影響が出ないこと
- ブリッジ構成:IE Field 側の局が TSN 側のマスタから読めること、IE Field 側の異常が TSN 側の診断でどう見えるか
三菱電機の公称では、GX Works3 で CC-Link IE TSN のシステム構成を接続順に表示し、ケーブル断線や異常の位置を特定できます。各局は 1 ms 刻みのタイムスタンプ情報を共有し、エラー履歴を時系列で表示できるとされています。機器プロファイル(CSP+)を取り込めば、パートナー製品を含めて一元管理できます。CLPA の説明では SNMP にも対応しており、汎用の監視ツールでスイッチやルータも含めて情報を集められます。これらの機能は「ある」だけでは役に立たないので、FAT で実際に断線させて画面を確認し、保全員がその画面を読めるかまで見ておきます。
SAT(現地据付後)
- セキュリティ:空きポートの封鎖、盤の施錠、TSN 側と事務所 LAN の境界(ファイアウォールのルール表)、アドバイザリに書かれた緩和策の実施記録
- 文書:タイ語・英語の保全手順(断線時・交換時)、ネットワーク構成図、パラメータのバックアップ
- 稼働後の記録:稼働後30日の通信エラー件数と停止件数を記録し、現状値(モデル工場Mなら年45時間の内訳)と比べる
診断の受入の考え方は、規格は違いますが「PROFINETネットワーク診断の導入|RFP・FAT/SAT」とも共通する部分が多くあります。
タイ・ASEAN 固有の論点
1. 既設は Q・IE Field・CC-Link が混在している
タイの工場では、導入時期の違う設備が並んでいることが普通です。Q と IE Field の組み合わせ、さらに古い CC-Link のライン、設備ごとに違う HMI が混在しています。まずは形名の棚卸しをして、各形名の保守期限を一覧にすることから始めます。台帳づくりの進め方は「OT資産管理の導入実務|タイ工場の台帳・RFP・90日受入」を参照してください。
2. 保守部品と修理の窓口
CLPA は2016年4月にタイの拠点を開設したと発表しており、2025年にはラヨーン(5月8日)、チョンブリ(7月24日)、コラート(8月21日)、ソンクラー(9月25日)、チェンマイ(11月6日)で開かれた Modern Manufacturing Forum 2025 に出展しています。規格の情報を現地で集める窓口の一つになります。
前述の三菱電機 FA タイの移行キャンペーンは2027年3月31日までの販売施策です。特典の条件は代理店に確認が必要です。また、Moxa 製のマネージドスイッチのように保証条件が PLC と異なる製品もあるため、修理の窓口と予備品の置き場所を製品ごとに決めておきます。
3. 設備メーカーごとにネットワークがばらばら
日本、中国、タイ現地の設備メーカーから設備を買うと、ネットワークの方式もスイッチも機器の選び方もメーカーごとに違ってきます。設備仕様書の段階で、CC-Link IE TSN の認証クラス、局数の上限、スイッチの条件、診断の要件を指定しておくのが効果的です。後から合わせるより、発注時に条件を書いておく方が手戻りを減らせます。
4. BOI の効率向上措置
タイ投資委員会(BOI)の告示 No.15/2565(2023年1月3日施行)には、機械の更新・自動化による効率向上の措置があります。BOI の非公式英訳によれば、BOI 案件と非 BOI 案件の両方の既存プロジェクトが対象で、BOI 案件は法人税免除期間が満了しているか付与されていないことが条件です。最低投資額は100万バーツで、土地代と運転資金はこの額に含めません。恩典は機械の輸入関税免除と、既存事業の収入に対する3年間の法人税免除(投資額の50%が上限)で、国内の自動化産業とのつながりが自動化システム総額の30%以上なら上限が100%になります。証書の発行日から3年以内に完了する必要があります。BOI のガイドでは、機械と一体となって製造工程を制御・監督・支援するソフトウェアへの投資も算入できるとされています。
ただし、この措置が2026年時点で受付を続けているかどうかは、この記事では確認できていません。また BOI のガイドでは、一般自動車の製造(3.6)や PHEV/HEV の製造(3.8)などはこの措置の対象外の活動とされています。自動車向けには別に、告示 No.4/2569 の自動化・ロボット特別措置があり、法律事務所の要約によれば申請受付は2027年末までです。いずれも、利用を考える場合は BOI や専門家に個別に確認してください。
5. 遠隔保守と設備ベンダー接続
タイでは日本や中国の設備メーカーが遠隔で保守をする場面が多くあります。その接続が TSN 側のどこに入るのかを図面で明らかにし、ファイアウォールのルール表に載せます。保全用 PC の持ち込みや、空きポートへの直接接続も運用のルールで決めておきます。
6. ベトナム拠点への横展開
タイで作った形名一覧と受入試験の項目は、ベトナムなど他の拠点でもそのまま使えます。同じ一覧と同じ試験を使えば、拠点間の比較もしやすくなります。ただし、法令や補助金・優遇制度は国ごとに違うため、各国で個別に確認してください。
最新動向と隣接規格
TSN over 5G の検証
ソフトバンク、村田製作所、CLPA は2026年2月24日に、ラボのプライベート 5G 環境で CC-Link IE TSN の機器を動かした結果を発表しました。発表によると、5G 経由の時刻同期の平均誤差は 122 ns で、CC-Link IE TSN 対応のリモート I/O と PLC を 5G 経由でつなぎ、6時間以上の連続通信で 1 µs 以内の同期精度を保ち、クラス B の要件を満たしたとしています。ラボでの実証で、商用化の前段階です。
スイッチ IC と無線 LAN の認証
CLPA は2025年12月17日に、Analog Devices の TSN スイッチ IC ADIN6310(6ポート)と ADIN3310(3ポート)が、推奨配線部品試験のスイッチ認証クラス B とクラス A に合格したと発表しました。100 Mbps と 1 Gbps の両方で認証を取得しているとのことです。また報道(MONOist)によると、コンテックは2025年4月17日、業務用無線 LAN の FLEXLAN FX5000 と FX3000 シリーズが CC-Link IE TSN 推奨無線機器試験の無線認証クラス A カテゴリー CTRL を取得したと発表し、無線機器でのクラス A 取得は初めてだと同社は説明しています。
隣接規格
産業オートメーション向けの TSN プロファイル IEC/IEEE 60802 は、IEEE 802.1 のページによると2026年6月29日に規格として発行されました。CLPA は2022年4月に、60802 プロファイルの共通コンフォーマンス試験計画を作る TIACC に参加しています。PROFINET については、PI の説明によれば仕様 V2.4 で TSN を追加のレイヤ2技術として統合しています。OPC UA FX は、OPC Foundation が2022年に最初の4パート(コントローラ間の通信)をリリースしたことまでは確認できていますが、その後の拡張の状況は最新の情報を確認してください。OPC UA FX の導入の考え方は「OPC UA FX 導入|タイ工場のRFP・FAT/SAT実務ガイド」、TSN の土台になる時刻同期は「工場の時刻同期導入|PTPとNTPの選び方とタイ工場の受入試験」で扱っています。
どの方式を選ぶにしても、タイの工場で効いてくるのは、使う PLC メーカーの保守体制と、現地で直せる人がいるかどうかです。PLC メーカーの選び方は「PLC選定2026|あと何年直せるかで決まる主要4社の使い分け」も参考にしてください。
CC-Link IE TSN 移行の90日計画
0〜30日:棚卸しと現状の把握
- 全ラインの CPU、ネットワークユニット、リモート局、サーボ、インバータの形名と台数を一覧にする
- MELSEC-Q とシンプルモーションの生産終了の対象と突き合わせ、受注受付の期限と修理の期限を列に加える
- 過去1年分のネットワーク起因の停止記録を集計し、件数と時間、原因の内訳を出す
31〜60日:方針と設計の案
- ラインごとに K/B/T の移行パターンを比べ、費用と期限で並べる
- ネットワーク設計の案(局数、クラス、スイッチ、100 Mbps 機器、リング)を作る
- セキュリティの境界の案(ファイアウォールの位置、ルール表の素案、遠隔保守の経路)を作る
- RFP を発行する
61〜90日:受入基準とパイロット
- FAT/SAT の項目と合否基準を確定する
- 最初に移行するパイロットラインを選ぶ
- 見積を比べて発注を判定する。BOI の利用を考える場合は、この段階までに BOI に確認する
よくある質問
CC-Link IE TSN と CC-Link IE Field の違いは何ですか?
最大の違いは通信の制御方式です。CLPA の説明では、IE Field はトークンを順に譲るトークンパッシング方式で、CC-Link IE TSN は時刻同期を使い決められた時刻に双方向同時に送る方式です。CC-Link IE TSN は 100 Mbps にも対応し、同じネットワークで複数の通信周期を使い分けられ、IT 通信とも融合できると CLPA は説明しています。
MELSEC-Q の生産終了で、いつまでに何を決めればよいですか?
三菱電機の公称では、受注生産への移行が2028年12月1日、受注受付が2029年9月30日まで、生産終了が2029年12月31日(前倒しの可能性あり)、修理が2036年12月31日までです。予備品を買うか移行するかは、見積や稟議、納期を考えて受注受付の期限よりかなり前に決める必要があります。まずは形名の棚卸しから始めてください。
既設の CC-Link IE Field 機器は CC-Link IE TSN と一緒に使えますか?
三菱電機のブリッジ NZ2GN-GFB を使えば、TSN 側からはリモート局として、IE Field 側ではマスタ局またはローカル局として既設の局を残せます。ただし NZ2GN-GFB は TSN のマスタにはならないため、TSN 側には別にマスタ局が必要です。IE Field 側の異常が TSN 側の診断でどう見えるかは、受入試験で確認してください。
CC-Link IE TSN の脆弱性(CVE-2026-13584)にはどう対処すればよいですか?
三菱電機のアドバイザリ(最終更新2026年9月17日)は、設置場所の入退管理、制御盤の施錠、ポートロックによる Ethernet ポートの封鎖、ファイアウォールなどで守られた信頼できるネットワーク内での使用、境界機器の認証情報とアクセス権の設定を緩和策として挙げています。CLPA のセキュリティガイドラインも参照してください。修正版の提供状況を含む最新の内容は三菱電機 PSIRT で確認してください。
CC-Link IE TSN でスイッチは何を選べばよいですか?
三菱電機タイの仕様ページでは、CLPA が推奨するクラス B 対応のマネージドスイッチを使うよう指定しています。CLPA の説明では、1 μs の同期精度を保証するには、クラス B 製品だけで構成し、クラス B 機器の間にクラス A の機器(スイッチを含む)を挟まないことが条件です。三菱電機の NZ2MHG-TSNT4/TSNT8F2 は Moxa 社製で、保証条件が MELSEC 製品と異なる点に注意してください。
CC-Link IE TSN の RFP と受入試験(FAT/SAT)では何を確認すべきですか?
RFP では、形名・局数の一覧、認証クラスとスイッチ、通信周期の検証方法、ブリッジの扱い、セキュリティの境界、FAT/SAT の基準などを指定します。FAT では断線試験、機器交換試験、IT 通信を混ぜた状態での動作を実際に行い、SAT では緩和策の実施記録と稼働後の停止記録を確認します。BOI などの優遇措置や法令に関わる点は、所轄機関や専門家に個別に確認してください。
まとめ
CC-Link IE TSN 導入は、ネットワークを速くする話ではなく、MELSEC-Q の期限までにどのラインをどう移すかを決める計画の話です。規格上の 64,770 台ではなく製品の上限で設計し、クラス B の間にクラス A を挟まない構成にし、スイッチは CLPA 推奨のクラス B 対応品を選びます。同じケーブルに IT 通信を載せられる利点は攻撃面にもなるため、2026年のアドバイザリが示す緩和策と、事務所 LAN との境界を最初から計画に入れます。モデル試算で見たとおり、停止時間の短縮だけでは回収は長くなります。期限への対応を分散させる段階移行と、新設・大改造に合わせた全面 TSN 化を組み合わせ、RFP と FAT/SAT で設計の前提を一つずつ確かめていくことが、遠回りに見えて確実な進め方です。
形名の棚卸しや移行パターンの比較、RFP や受入基準づくりといった初期の段階からでも、TOMAS TECH にご相談いただけます。タイの工場の実情に合わせて、どこから手を付けるかを一緒に整理します。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。
参考情報
- CLPA:CC-Link IE TSN 仕様策定完了のプレスリリース(2018年11月21日)
- CLPA:CC-Link IE TSN の特長
- CLPA:ネットワーク仕様
- CLPA:CC-Link IE TSN の開発フロー(認証クラス)
- CLPA:コンフォーマンステスト
- CLPA:グローバル活動(会員数・対応製品数)
- CLPA:国際標準化
- CLPA:SLMP
- CLPA:安全通信
- CLPA:セキュリティに関する告知
- CLPA:CC-Link IE TSN のセキュリティ
- CLPA:ニュース一覧(タイ拠点開設、TIACC 参加)
- CLPA:イベント一覧
- CLPA:TSN over 5G 検証の発表(2026年2月24日)
- CLPA:ADI スイッチ IC の認証合格(2025年12月17日)
- 三菱電機FAタイ:ハブ・ブリッジ製品
- 三菱電機FAタイ:CC-Link IE TSN 仕様
- 三菱電機FAタイ:マスタ局製品
- 三菱電機FAタイ:駆動機器・HMI
- 三菱電機FAタイ:性能と診断
- 三菱電機FAタイ:タイムスタンプと機器混在
- 三菱電機FAタイ:パラメータ自動配布とリング
- 三菱電機FAタイ:Product Migration Campaign
- 三菱電機:ロボット用ネットワークベースカードの技術ニュース(2026年2月)
- 三菱電機:MELSEC-Q 生産終了のテクニカルブレティン FA-A-0495-A
- 三菱電機:QD77GF/RD77GF 生産終了のお知らせ No.26-08E
- 三菱電機 PSIRT:アドバイザリ 2026-005(CVE-2026-13584)
- BOI:告示 No.15/2565(非公式英訳)
- BOI:Smart and Sustainable Industry(投資奨励ガイド2023)
- Tilleke & Gibbins(Mondaq 転載):自動車向け新優遇措置の解説
- MONOist:コンテック無線LANの無線認証クラスA取得の記事
- IEEE 802.1:IEC/IEEE 60802
- PI:PROFINET over TSN
- OPC Foundation:OPC UA FX 最初の仕様のリリース(2022年12月)