タイに工場を持つ日系製造業の現場で、GHG排出量管理という言葉を耳にする機会が急に増えています。背景にあるのは、2025年12月にタイ政府が気候変動法案を閣議で原則承認したこと、そしてEUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)が2026年から本格運用に入ったことです。タイの法律はまだ成立していませんが、様子見でよいとは言い切れない状況になりつつあります。本記事では、Scope1/2/3の考え方から制度の最新動向、そして工場で排出量データを実際に集めるための仕組みづくりまでを整理します。
GHG排出量管理とは何か
「省エネ」と「排出量管理」は同じではない
工場の省エネ活動は、多くの日系メーカーがすでに長年取り組んできたテーマです。電力使用量を下げれば電気代が下がるという、効果が財務に直結する分かりやすい活動でした。一方でGHG排出量管理は、削減そのものよりも先に「自社がどれだけ排出しているかを、外部に説明できる形で数字にする」ことが求められる点で性格が異なります。
つまり、省エネは社内の改善活動として完結できますが、排出量管理は第三者に検証され、行政に報告され、取引先から開示を求められることを前提にした活動です。同じ電力量のデータを扱っていても、社内の改善用に月次の合計値があれば足りるのか、それとも設備別・期間別に遡って根拠を示せる必要があるのかで、必要なデータの粒度と保存の仕方がまったく変わってきます。この違いを最初に押さえておくことが、後戻りを防ぐうえで重要です。
なぜタイの日系工場でいま問われているのか
タイに拠点を置く日系メーカーの場合、圧力は3つの方向から同時にかかります。1つ目は日本の親会社です。日本国内では有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示が広がり、連結対象の海外拠点にも排出量データの提出が求められるようになっています。2つ目はタイ国内の制度で、後述する気候変動法案がその中心にあります。そして3つ目が取引先、とりわけEU向けの製品を扱う顧客からの開示要請です。
この3つは、求めてくるデータの形式も締め切りも異なります。親会社は連結決算のスケジュールに沿った四半期や年次の数字を求め、行政は制度で定められた様式を求め、取引先は製品や工程に紐づいた排出量を求めます。個別に対応しようとすると、そのたびに現場が電力量を集計し直すことになりかねません。逆に言えば、根っこにある使用量データを1か所に貯めておけば、出し方を変えるだけで3方向の要求に応えられます。ここが、排出量管理を「報告のたびの作業」ではなく「仕組み」として設計すべき理由です。
Scope1・Scope2・Scope3の定義
GHG排出量は、国際的に広く使われている考え方に沿って、大きく3つの範囲(スコープ)に分けて算定します。日本の環境省が公開しているサプライチェーン排出量算定のガイドラインでも、この3区分が基本になっています。
- Scope1は、自社が直接排出するGHGです。工場のボイラーや工業炉での燃料燃焼、社有車の燃料使用などが該当します。
- Scope2は、購入した電力・熱・蒸気を使うことに伴う間接排出です。工場が電力会社から買っている電気が典型例です。
- Scope3は、原材料の調達、輸送、製品の使用や廃棄など、自社の直接管理の外側で発生するサプライチェーン全体の排出です。国際的な基準では15のカテゴリに分けて整理されます。
この3区分を工場の実務に置き換えると、次のように整理できます。
| 区分 | 対象となる排出 | 工場での具体例 | データの主な入手先 |
|---|---|---|---|
| Scope1 | 自社が直接排出するGHG | ボイラーの燃料燃焼、工業炉のガス使用、社有車の燃料使用 | 燃料の購入伝票、給油記録、ガスの流量計 |
| Scope2 | 購入した電力・熱・蒸気の使用に伴う間接排出 | 電力会社から買っている電気、購入蒸気 | 電力会社の請求書、構内の電力量計 |
| Scope3 | 自社の直接管理外のサプライチェーン排出(15カテゴリ) | 原材料の調達、部品の輸送、従業員の通勤、製品の使用と廃棄 | 取引先から受け取る一次データ、購入金額に排出原単位を掛ける推計 |

製造業でつまずきやすいポイント
実際に算定を始めると、Scope1とScope2は比較的短期間で数字が出せる一方、Scope3で作業が止まるケースがほとんどです。理由は単純で、Scope3のデータは自社の中に無いからです。原材料メーカーや物流会社から排出量の実データをもらう必要があり、相手が算定していなければそもそも受け取れません。
そのため実務では、まずScope1とScope2を確実に押さえ、Scope3は購入金額に業種別の排出原単位を掛ける推計から始めて、重要な取引先から順に一次データへ置き換えていく進め方が一般的です。Scope3の収集手順についてはサプライチェーン排出量データの集め方で詳しく整理しています。
タイの気候変動法案の進捗とGHG報告義務化に向けた動き
2025年12月2日に閣議で原則承認された
タイの気候変動法案(Climate Change Act)は、2025年12月2日にタイ政府の閣議で原則承認されました。ここで注意が必要なのは、「原則承認」であって、まだ正式に成立した法律ではないという点です。
現在は法制委員会による法案審査の段階にあり、その審査を経たあとに国会審議が控えています。しかも国会に提出する前に、もう一度閣議での承認手続きが必要とされています。つまり、正式な施行までにはまだ複数の関門が残っており、施行時期は現時点で確定していません。いつ施行されるかを前提に計画を立てられる段階ではない、と理解しておくのが安全です。
草案が示している算定・検証・報告の義務
一方で、草案の中身はすでにかなり具体的です。報道や法律事務所の解説によれば、年間のGHG排出量が3,000トン(CO2e)を超える事業者、または政府が指定する産業に属する事業者に対して、国際基準に基づく排出量の算定、第三者による検証、気候変動・環境局(DCCE)への報告、そして監査を義務付ける方向が示されています。
3,000トン(CO2e)という水準は、決して大企業だけを狙った閾値ではありません。目安として後述する電力の排出係数で逆算すると、買電だけでこの水準に届く工場は、タイの工業団地では珍しくない規模です。自社が対象になるかどうかは、法案の成立を待たなくても、いま手元にある電力使用量と燃料使用量から概算できます。
罰則は草案段階でどう検討されていたか
過去の草案段階では、違反時の制裁についても検討が行われていました。国際法律事務所の解説によれば、違反の程度に応じて1万バーツから500万バーツの罰金、悪質な場合には違反によって得た利益の3倍までの追加制裁、さらに役員・経営者の連帯責任といった枠組みが検討されていたとされています。
ただし、これらはあくまで草案段階で検討されていた内容であり、最終的にどの規定がどの形で残るかは確定していません。法案は国会審議の過程で変更される可能性があります。ここで押さえるべきなのは、金額の細部ではなく、「排出量の報告が単なる努力目標ではなく、制裁を伴う制度として設計されようとしている」という方向性です。
T-VERとの関係
タイにはすでに、タイ温室効果ガス管理機構(TGO)が2012年に開始した自主的なカーボンクレジット制度であるT-VERがあります。第三者検証を経てTGOに登録し、クレジットの発行を受ける仕組みで、これまで参加は任意でした。
気候変動法案は、このT-VERを含む既存の制度に法的な根拠を与える位置づけを持つとされています。言い換えると、これまで自主的な取り組みとして運用されてきた枠組みが、法律の裏付けを持った制度に移行していく流れの中にあるということです。すでにT-VERに参加している企業にとっては、算定と検証の実務経験がそのまま将来の法対応の土台になります。

EUのCBAMは2026年からすでに実務対応が必要
移行期間は2025年12月末で終わった
タイの法案が草案段階であることを理由に「まだ動かなくてよい」と判断するのは、実は危険です。なぜなら、タイ国内法とは別に、EU側の規制がすでに実務対応を求めているからです。
EUのCBAM(炭素国境調整メカニズム)は、2023年10月から2025年12月末までが移行期間でした。この期間は排出量の報告のみが求められ、賦課金は発生しませんでした。そして2026年1月1日から本格運用が始まっています。鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、水素、電力といった対象品目をEUに輸出するタイ企業は、2026年以降、年次の排出量報告が必要になります。さらに2034年以降は、対象品目に含まれる排出量の100%について認証(クレジットの購入)が義務化される見込みとされています。
重要なのは、CBAMはEU側の規制であり、タイの気候変動法案の成立を待つ性質のものではないという点です。対象品目の輸出に関わっている企業には、法案の行方にかかわらず、すでに実務上の対応が求められています。2つの制度の位置づけを並べると、次のようになります。
| 項目 | タイの気候変動法案 | EUのCBAM |
|---|---|---|
| 現在の状態 | 2025年12月2日に閣議で原則承認。法制委員会による審査中 | 2023年10月から2025年12月末までが移行期間。本格運用に移行済み |
| 次に起きること | 国会提出前に再度の閣議承認、その後に国会審議 | 2026年1月1日から本格運用。2034年以降は排出量の100%について認証が必要になる見込み |
| 対象となる事業者 | 年間のGHG排出量が3,000トン(CO2e)を超える事業者、または指定産業に属する事業者(草案段階の内容) | 鉄鋼、セメント、アルミニウム、肥料、水素、電力などの対象品目をEUに輸出する企業 |
| 求められること | 国際基準に基づく算定、第三者検証、DCCEへの報告と監査(草案段階の内容) | 年次の排出量報告と、将来的な認証の購入 |
| 時期の確定度 | 施行時期は未定 | 2026年1月1日から実施済み |
直接の輸出者でなくても影響が届く
自社がEUへ直接輸出していないから関係ない、とも言い切れません。CBAM対象品目を扱う企業は、自社製品に含まれる排出量を算定するために、部材や加工を供給している取引先へ排出量データの提供を求めます。タイの日系サプライヤーが、EU向け完成品メーカーから「御社の工程分の排出量を出してほしい」と依頼されるケースは、この構造から生まれます。
この依頼は、たいてい短い納期でやってきます。求められてから電力量の集計方法を検討し始めると、過去に遡ったデータが取れず、根拠の薄い概算値しか出せません。データ収集の仕組みを事前に持っている企業とそうでない企業の差が、そのまま取引先からの評価の差になりやすい領域です。
依頼の中身も、単に工場全体の年間排出量を出せば済むとは限りません。相手が知りたいのは自社が購入している製品に紐づく排出量なので、工場全体の数字を生産量や工数で按分した、製品単位あるいは工程単位の値を求められることがあります。この按分を成り立たせるには、電力量のデータが生産実績のデータと同じ時間軸で並べられる状態になっている必要があります。排出量の算定というと環境部門の仕事に見えますが、実際には生産管理側のデータと接続できるかどうかが成否を分けます。
排出量データをどう集めるか
Scope1の測定ポイント
Scope1は、自社が燃やしている燃料の量が分かれば算定できます。工場で押さえるべき代表的な測定ポイントは、ボイラーや工業炉に供給しているLPG・天然ガス・重油などの燃料、フォークリフトやトラックの燃料、そして冷媒の補充量です。
多くの工場では、これらは購入伝票や給油記録として経理部門や資材部門に残っています。まず既存の帳票をかき集めることから始められるのがScope1の利点です。ただし、複数の設備で燃料を共用している場合、設備別の内訳を出すには流量計の設置が必要になります。全体の排出量を出すだけなら伝票で足りますが、どの設備を先に手当てすべきかを判断したいなら、設備別の計測が要ります。
Scope2の測定ポイントと電力の排出係数
Scope2は、多くの製造業で排出量の最大部分を占めます。算定の基本は、購入した電力量に排出係数を掛けるという単純な計算です。タイの電力網(EGAT)のCO2排出係数は、実務ガイドの記事によれば、目安として1MWhあたり0.4999トンCO2e(2023年のTGO/EGAT参考値)とされています。この数値は法的助言ではなく実務参考情報として扱う必要がありますが、自社が3,000トン(CO2e)の水準に近いかどうかを概算するには十分に使えます。
この係数を使うと、たとえば年間の買電量が6,000MWhの工場であれば、Scope2だけでおよそ3,000トンCO2eの規模になる計算です。ここにScope1の燃料分が加わることを考えると、中規模の工場でも閾値に近い水準に達しうることが見えてきます。まずは電力会社の請求書1年分を並べて、自社がどのあたりに位置するのかを確かめてみることをおすすめします。
請求書ベースの限界と、IoTでの実測
電力会社の請求書は、工場全体の月次の合計値です。総量の把握には使えますが、次の3つの用途では力不足になります。
- どの設備・どのラインが排出量を押し上げているのかを特定する
- 製品1個あたりの排出量(製品カーボンフットプリント)を出す
- 削減施策の前後で効果があったかどうかを、月をまたがずに確認する
これらに応えるには、受電点だけでなく、主要な分電盤や設備単位で電力量を継続的に計測し、時系列データとして蓄積する仕組みが必要になります。既存の電力量計にパルス出力やModbus出力があればそのまま拾えますし、無い場合もクランプ式のCTセンサーを後付けして計測できるケースが多くあります。生産設備を止めずに設置できるかどうかは、工場ごとの盤の構成によるため、事前の現地確認が欠かせません。
TOMAS TECHが提供しているエネルギー監視の仕組みも、まさにこの層を担うものです。工場内の電力量計や設備からデータを収集し、時系列で蓄積してダッシュボードに集約することで、排出量算定に必要な一次データを日常的に貯め続けられる状態をつくります。導入の全体像については工場のエネルギー監視システムで解説しています。

収集の粒度をどこまで細かくするか
計測点を増やせば分析の自由度は上がりますが、その分だけ初期費用と施工の手間が増えます。実務的には、最初から全設備を計測しようとせず、次の順序で段階的に増やすのが現実的です。
- 受電点(工場全体)を計測し、請求書と突き合わせて数字の整合を確認する
- 主要な分電盤の系統単位に分けて、建屋別・工程別の内訳を出す
- 消費電力の大きい設備(コンプレッサー、空調、大型加工機など)を個別に計測する
- 製品別の按分が必要な工程に限り、ライン単位・設備単位まで細分化する
この順序で進めると、各段階で得られた情報をもとに次の投資判断ができます。最初のステップで受電点と請求書が合わない場合、計測系そのものに問題があるということなので、細かい計測に進む前に必ず解消しておくべきです。
データの品質をどう担保するか
第三者検証を意識すると、データが「取れていること」だけでは足りず、「その数字が正しいと説明できること」が必要になります。検証の場面で問われやすいのは、次のような点です。
- 計測機器がどこに設置され、どの範囲の負荷を拾っているのかが図面で示せるか
- 計器の精度階級と校正の記録が残っているか
- 通信断や停電でデータが欠測した期間について、どのように補完したのかを説明できるか
- 使用した排出係数の出典と適用年度が記録され、途中で変更した場合はその理由が残っているか
これらは、システムを導入したあとから追加しようとすると手間がかかります。計測点の配置図と、係数を管理する台帳を最初に作っておくだけで、後年の検証対応の負担は大きく変わります。特に欠測の扱いは、事前にルールを決めておかないと、担当者ごとにばらばらの補完がなされ、あとから遡って説明できなくなりがちです。
カーボンニュートラルに向けたロードマップ
測定・見える化・削減・報告の順に進める
カーボンニュートラルを掲げた工場の取り組みは、往々にして「削減」から始まってしまいます。太陽光パネルを載せる、高効率設備に更新する、といった施策は分かりやすく、投資判断もしやすいためです。しかし、測定の仕組みが無いまま削減施策を打つと、効果を数字で説明できず、次の投資の根拠が作れません。
順序としては、測定、見える化、削減、報告の4段階で組み立てるのが堅実です。それぞれの段階で何をするのかを整理すると、次のようになります。
| 段階 | 主な作業 | 成果物 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| 測定 | 燃料の伝票整理、電力量の計測点設置、データ収集の自動化 | 設備別・期間別の使用量データ | 計測値と請求書が合わない、データが欠測する |
| 見える化 | 排出係数を掛けてCO2換算し、ダッシュボードに集約 | Scope1とScope2の月次・日次の推移 | 係数の出典と適用年度が管理されていない |
| 削減 | 大口設備の運転改善、更新投資、再生可能エネルギーの調達 | 削減施策ごとの効果の実測値 | 効果測定のベースラインが定義されていない |
| 報告 | 第三者検証への対応、行政や取引先への開示 | 検証を通せる算定根拠一式 | 過去データの根拠を後から再現できない |
見える化を飛ばさないこと
測定と削減のあいだにある「見える化」は、しばしば省略されがちですが、社内の合意形成のうえで欠かせません。数字が現場に見えていない状態で削減目標だけが降りてくると、現場は何をすればよいのか分からず、活動が続きません。逆に、ラインごと・シフトごとの排出量が日次で見える状態になると、現場自身が改善の余地に気づくようになります。この段階の設計については工場のCO2排出量の見える化で具体的に扱っています。
スモールスタートで始める理由
全社一斉に完璧な仕組みを入れようとすると、要件定義に時間がかかり、経営の関心が薄れたところで頓挫することがあります。1つの建屋、1つのライン、あるいは消費電力の大きい上位数設備に絞って始めれば、数か月で最初のダッシュボードが立ち上がります。
小さく始めることの本当の価値は、費用が抑えられることよりも、「自社の工場で、どのデータが実際に取れて、どのデータが取れないのか」が早い段階で分かることにあります。この見極めができていれば、法制度が固まったときにも、必要な範囲だけを追加で拡張すれば済みます。制度の細部が確定していない今こそ、拡張しやすい形でデータ基盤の骨格を作っておく時期だと言えます。
GHG排出量管理はいつから義務化されますか
タイ国内法としての義務化時期は、2026年8月時点では確定していません。気候変動法案は2025年12月2日に閣議で原則承認されましたが、その後は法制委員会の審査、再度の閣議承認、国会審議という段階を経る必要があり、施行時期は未定です。
一方で、EUのCBAMは2026年1月1日から本格運用が始まっており、対象品目の輸出に関わる企業にはすでに実務対応が必要です。「義務化がいつか」を待つのではなく、取引先からの開示要請がいつ来ても答えられる状態を先に作っておく、という考え方が現実的です。
中小企業も対象になりますか
草案が示している閾値は、年間のGHG排出量が3,000トン(CO2e)を超える事業者、または指定産業に属する事業者です。企業の資本金や従業員数ではなく、排出量そのものと業種で線が引かれる設計になっています。
このため、従業員数では中小規模でも、電力消費や燃料使用の多い工程を持つ工場であれば対象になりうる、という点に注意が必要です。目安として1MWhあたり0.4999トンCO2eの係数で試算すれば、自社が閾値のどのあたりに位置するかは今日でも概算できます。まずはその一手間をかけて、対象になる可能性の有無を確かめておくとよいでしょう。
CO2排出量の見える化とGHG排出量管理の違いは何ですか
CO2排出量の見える化は、収集したデータをダッシュボードなどで社内に共有し、改善につなげる活動です。GHG排出量管理は、それを含みつつ、外部に説明できる算定根拠を残し、第三者検証や行政報告に耐える形で管理することまでを含みます。
実務上の違いは、データの保存期間と、根拠の追跡可能性に表れます。見える化だけなら直近の推移が見えれば十分ですが、報告を前提にすると、使用した排出係数の出典と適用年度、計測機器の設置位置と校正記録、欠測が生じた期間の補完方法まで、後から説明できる形で残しておく必要があります。同じデータ基盤の上に立つ活動ですが、要求される厳密さが一段違うと理解してください。
スコープ3の排出量算定はどこから手を付ければよいですか
Scope3の15カテゴリすべてを最初から埋めようとすると、まず間違いなく行き詰まります。実務的には、購入金額に業種別の排出原単位を掛ける推計で全カテゴリの概算値をいったん出し、その中で金額と排出量の大きいカテゴリを2つか3つ特定するところから始めます。
多くの製造業では、購入した製品・サービス(カテゴリ1)と輸送(カテゴリ4)が上位に来ます。この上位カテゴリについて、主要な取引先から一次データを受け取る仕組みを整えていくのが次のステップです。全体を薄く埋めるより、影響の大きいところを深く固めるほうが、取引先からの開示要請にも第三者検証にも耐えやすくなります。
まとめ
タイの気候変動法案は2025年12月2日に閣議で原則承認され、年間のGHG排出量が3,000トン(CO2e)を超える事業者などに算定・第三者検証・報告を求める方向が示されています。ただし法制委員会の審査と国会審議が残っており、施行時期は未定です。
一方でEUのCBAMは2026年1月1日から本格運用に入り、対象品目の輸出に関わる企業にはすでに実務対応が求められています。2034年以降は排出量の100%について認証が必要になる見込みとされ、直接の輸出者でなくても取引先経由で排出量の開示を求められる場面が増えていきます。
この2つを並べると、「法律ができてから動く」という選択肢が実質的に無いことが見えてきます。目安として1MWhあたり0.4999トンCO2eという係数を使えば、自社が閾値のどのあたりにいるかは今日でも概算できます。まずは受電点の電力量を継続的に取れる状態を作り、測定・見える化・削減・報告の順に段階を踏むこと。制度が固まってから慌てて遡ろうとしても、過去のデータは戻ってこないという点が、この領域で最も見落とされやすい落とし穴です。
自社の工場でどこまでデータが取れるのか、どの計測点から着手するのが現実的か。こうした最初の見極めは、図面や電力会社の請求書を見ながら短時間で整理できることも多くあります。TOMAS TECHでは、タイの工場向けにIoTによる電力量データの収集とダッシュボード化を手がけており、排出量算定の基盤づくりについてもご相談いただけます。導入を決めていない検討段階でも構いませんので、お問い合わせフォームからお気軽にお声がけください。
参考情報
- タイ気候変動法案準備の現況と論点 – アジア経済研究所(IDE-JETRO) アジ研ポリシー・ブリーフ No.278
- Thailand’s future regulations on climate change – Legal500
- The impact of Thailand’s Climate Change Bill – Norton Rose Fulbright
- サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン – 環境省
- Carbon tax and the Climate Change Act – what factories in Thailand need to prepare – Capital Solar