「シフト管理システム」を調べ始める方の多くは、その直前に勤怠管理システムの検討を終えています。ところが打刻と給与計算が自動化されても、翌月の勤務表を組む作業だけは相変わらず特定の班長の机の上に残っている。この2つは名前が似ているだけで、解いている問題が違うからです。本記事では、タイの日系工場でシフト側だけが手つかずのまま残る理由と、その状態が生産停止リスクを内包している構造を整理します。
なぜ勤怠管理システムだけでは足りないのか
事後の記録と事前の設計は別の仕組み
勤怠管理システムが扱うのは、すでに起きた事実です。誰が何時に入場し、何時に退場し、そのうち何時間が時間外だったのか。記録を集め、法令と就業規則に沿って賃金を計算する。目的は、正確な支払いと、監督官庁や従業員に対して説明できる記録を残すことにあります。時間の流れで言えば、すべて事後の処理です。
シフト管理システムが扱うのは、まだ起きていない事実です。来月の第2週、A号ラインの夜勤に誰を置くのか。溶接資格を持つ作業者が2名必要な工程に、その資格者が足りているか。ある作業者の時間外がすでに今週の枠を使い切っているとして、代わりに誰を入れられるのか。こちらは事前の設計です。
同じ従業員マスタを参照するので、外から見ると同じ仕組みに見えます。しかし出口がまったく違います。
| 比較軸 | 勤怠管理システム | シフト管理システム |
|---|---|---|
| 扱う時点 | 事後。実際に働いた結果を記録する | 事前。これから働く計画を作る |
| 中心となる問い | いくら払うのか。法令通りに計算できているか | 誰をいつどこに置くのか。その配置で回るのか |
| 主な利用者 | 総務・人事・給与担当 | 製造課長・班長・現場責任者 |
| 主な出力 | 勤怠集計表、給与計算データ、法定帳票 | 勤務表、人員配置表、要員の過不足一覧 |
| 判断に必要な情報 | 打刻記録、休暇申請、承認記録 | 保有スキル、資格の有効期限、本人の同意と希望、法定上限の残り枠 |
| 失敗したときに起きること | 賃金の計算違い、是正勧告、従業員の不信 | ラインが立ち上がらない、無資格者の配置、法定上限の超過 |
この表の最下段が本記事の出発点です。勤怠管理システムの失敗は金銭と信頼の問題として現れますが、シフト管理の失敗は生産そのものが止まる形で現れます。にもかかわらず、投資判断の場に上がりやすいのは前者のほうです。給与計算の工数削減は金額で説明しやすく、シフト作成の負担は「班長ががんばっている」という言葉で処理されてしまうからです。
勤怠側の選定論点そのものについては、タイ工場で勤怠管理システムを選ぶときの判断軸で別途整理しています。本記事はその続きにあたり、勤怠を入れた拠点が次に直面するシフト側の課題を扱います。
タイの労働法は「事前に決めておくこと」を要求している
シフトが事前の設計だという話は、タイの労働者保護法を読むとより具体的になります。GVA法律事務所がまとめたタイの労働法制の解説によれば、通常業務の労働時間は1日8時間かつ週48時間以内とされ、地下作業や放射線業務、金属溶接、危険物の運搬といった有害業務については1日7時間かつ週42時間以内という、より短い上限が定められています。
時間の上限だけであれば、事後の集計でも確認はできます。問題はその先です。同じ解説によると、時間外労働・休日労働・休日における時間外労働の合計は、原則として週36時間を超えてはならないとされています。さらに、時間外労働と休日労働については従業員の「その都度の個別的な同意」が必要とされ、就業規則に包括的に書いておけば足りるという性質のものではないと整理されています。休憩についても、5時間を超える連続労働は認められず1時間以上の休憩が必要で、2時間を超える残業をさせる前には20分以上の休憩を挟む必要があるとされています。
これらはすべて、勤務表を組む段階で織り込んでおかなければ守れない条件です。事後の集計で「週36時間を超えていました」と分かっても、超えた事実は消えません。個別同意にしても、シフト表を配った時点で自動的に同意が成立するわけではないため、誰から何について同意を取ったのかを配置の計画とセットで管理する必要があります。
つまりタイの法令構造は、シフト作成を単なる現場の段取りではなく、コンプライアンスの前工程として位置づけています。この前工程が一人の頭の中にしかないとしたら、それは法令遵守の仕組みが一人の記憶に依存しているということでもあります。
制度側の要求も増えている
労働法制の側も動いています。2025年11月7日に官報へ掲載され、2025年12月7日に施行された労働者保護法の第9版改正では、従業員10名以上を雇用する企業に対し、雇用条件と労働環境に関する開示書を毎年1月中に労働保護福祉局長へ提出する義務が新設されました。同じ改正では産休が最大120日に拡充され、うち60日分は企業が全額賃金を負担し、最大60日分は社会保険から賃金の50%が給付される形になっています。配偶者の育児休暇も最大15日、全額賃金の扱いで新設されました。
シフト管理の観点で効いてくるのは、休暇制度の拡充です。産休が120日、配偶者育児休暇が15日という枠が制度として存在する以上、それが実際に取得される前提で要員計画を組む必要があります。従来から「誰かが長期で抜ける」ことは起きていましたが、制度上の権利として明示されると、抜けることを前提に配置を設計できているかどうかが問われるようになります。長期離脱を前提にした穴埋めの検討は、Excelの手作業では最も苦手とする部分です。
シフト作成の属人化というBCPリスク
Excelは作った人しか直せない
タイの日系工場でシフト作成に使われている道具は、ほぼ例外なくExcelです。それ自体は悪いことではありません。問題は、そのExcelが年々複雑になっていくことです。
シフト作成をExcelで効率化しようとすると、ある段階から関数だけでは足りなくなり、VBAマクロによる自動割り当てに手を出すことになります。スタッフの人数が多く早番・遅番・夜勤が混在する職場では手入力では対応しきれないとシフト作成ツールの解説でも指摘されており、その先で複雑な関数やマクロを組んだ本人にしか修正できない状態に陥っていくのは、現場でしばしば見られる展開です。工場の人員配置に関する解説でも、経験と知識を要する高度な業務であるがゆえに属人化し、引き継ぎが困難になりチェック機能が働かなくなるリスクが指摘されています。24時間を隙間なく埋め尽くす人員のパズルそのものが管理者にとって大きな負担であり、その負担を減らそうとした工夫が、かえって代替不能な属人化を生むという構図です。
現場で実際に起きるのは、次のような場面です。作成者が休暇に入った週に急な欠員が出て、誰もシフト表を直せない。マクロがエラーで止まったが、原因を追える人間が社内にいない。作成者が退職を申し出たが、引き継ぎのために本人が手順書を書き起こさなければならず、しかもその作業は通常業務の合間にしかできない。
いずれも、システムの障害ではなく人の不在によって生産計画が止まる事象です。BCPの文書には自然災害や停電、サプライチェーンの寸断は書かれていても、「シフトを作れる人がいなくなる」は書かれていないことがほとんどです。しかし発生確率で言えば、後者のほうがはるかに高い。

3交代・24時間稼働という埋めにくいパズル
工場のシフト管理が難しいのは、埋めるべきマス目の数が多いからだけではありません。制約の種類が多いからです。
工場のシフト管理に関する解説では、課題として雇用形態の混在、打刻管理の負担、法令遵守リスクの3点が挙げられ、システム選定の観点としては業種や企業規模への適合性、3交代制や24時間稼働といった勤務形態への柔軟性、そしてコスト効率の3点が示されています。タイの工場に当てはめると、この「雇用形態の混在」が日本以上に厚くなります。正社員、契約社員、派遣、外注業者、実習的な位置づけの短期要員が同じラインに並び、それぞれ適用される規則と単価が違う。
さらに交代制の周期が加わります。朝勤・昼勤・夜勤を一定の周期で回す場合、直近の勤務との間隔、連続勤務日数、夜勤の偏り、休日の公平性といった条件が同時に効いてきます。人が手で組むと、どうしても「いつもの組み合わせ」に落ち着きます。それは悪い選択ではないのですが、いつもの組み合わせに入っていない人にスキルが蓄積しないという副作用を伴います。
スキルマップはあるのに配置に使えていない
多くの日系工場には、すでにスキルマップがあります。ISO 9001の力量管理の要求や、食品系であればFSSC 22000の要求に応えるために整備され、監査のたびに更新されている一覧表です。
ところが、そのスキルマップがシフト表を作る現場で開かれることは、驚くほど少ない。製造現場の人員配置に関する解説でも、スキル情報が監査対応の書類として整備される一方で、実際の配置業務には活用されていないという課題認識が示されています。同じ解説では、配置業務にかかる時間が毎週7時間から1時間に短縮されたという導入事例が紹介されています。これは特定のツールを導入した企業の事例として公表されているもので、どの工場でも同じ結果になると読むべきではありませんが、配置とスキル情報が接続されていない現場がそれだけ多いことの裏返しでもあります。
なぜ使われないのか。理由は単純で、形式が合っていないからです。スキルマップは「人×スキル」の二次元の表として作られており、監査で提示するには最適な形をしています。一方でシフト表が必要としているのは「日付×時間帯×工程」の軸で、そこに「この工程に必要なスキルを持つ人は今日誰が空いているか」という逆引きです。紙やExcelの二次元表からこの逆引きを毎日行うのは現実的ではなく、結果として班長は自分の記憶に頼ります。
記憶に頼ることの何が問題なのか。第一に、記憶は共有できません。第二に、記憶は更新されません。3か月前に資格を取得した作業者が、その後もずっと「まだ一人でやらせられない人」として扱われ続けることがあります。第三に、記憶は検証できません。監査で「なぜこの工程にこの人を配置したのか」と問われたときに、示せる根拠がない。
スキルマップと配置が接続されていれば、この3つは同時に解けます。逆に言えば、シフト管理システムを検討する際に最初に確認すべきは、自社のスキルマップをそのままデータとして持ち込めるかどうかです。

タイ特有の変動要因として外国人労働者の供給がある
属人化したシフト作成が特に危険になるのは、要員の前提が急に動く局面です。タイの製造業は、この局面を実際に経験しています。
2026年6月5日付のバンコク週報が伝えたところによれば、タイ商工業界経済3団体合同委員会(JSCCIB)は外国人労働者の不足が深刻化しているとの見解を示しました。カンボジア人労働者の数は一時55万人規模だったものが約19万4000人へと急減しており、国境問題に端を発した摩擦が主因とされています。影響を受ける業種として建設、製造、農業、食品加工、サービス業が挙げられました。JSCCIBは同時に、2026年のGDP成長率見通しを1.2〜1.6%のまま据え置いています。
数字の規模はさておき、実務上の含意ははっきりしています。ある国籍の作業者層がまとまって抜ける事態は、タイでは仮定の話ではないということです。そのとき現場が直面するのは、単に人数が足りないという問題ではありません。抜けた層が担っていた工程のスキルをどこで埋めるか、という配置の問題です。
ここで、シフト作成が属人化していることの代償が一気に表面化します。誰がどの工程に入れるのかという情報が一人の頭の中にしかない状態では、要員構成の再設計を全員で分担できません。再設計を担うべきその一人は、平時の勤務表作成でもすでに手一杯です。
属人化をBCPの棚卸し項目として扱う
以上を踏まえると、シフト作成の属人化は次のようなリスクとして整理できます。
| リスク事象 | 発生時に止まるもの | 属人化していない場合との差 |
|---|---|---|
| 作成担当者の急病・突然の退職 | 翌月以降の勤務表作成。当面は前月の複製で凌ぐことになる | 配置ルールがデータ化されていれば、別の管理者が同じ基準で継続できる |
| 急な欠員の発生 | 当日の代替要員の決定。基準が不明なため無資格者を入れる判断ミスが起きやすい | 必要スキルを満たす候補者を条件で絞り込める |
| 要員構成の急変 | 工程ごとの要員計画の再設計 | 現有スキルの分布から不足工程を特定できる |
| 監査での配置根拠の説明 | 是正処置の対応工数 | 配置履歴とスキル情報の対応が記録として残る |
| 法定上限への抵触 | 是正勧告への対応、賃金の再計算 | 勤務表を組む段階で上限超過を検知できる |
この表を自社のBCP文書と突き合わせてみると、多くの拠点で1行目が抜けていることに気づくはずです。設備の冗長化には投資しているのに、勤務表を作れる人の冗長化には投資していない、という状態は珍しくありません。
費用対効果のモデル試算
前提を置いたモデルであることをはじめに明記します
ここから示す試算は、タイの日系工場を想定して本記事が独自に構築した架空のモデルです。実在の企業の実績値ではなく、費用も効果もすべて仮定として置いた数値です。自社の判断に用いる際は、必ず自社の人員規模と人件費単価に置き換えて再計算してください。
モデルの前提は次のとおりです。
| 前提項目 | 設定値 |
|---|---|
| 所在地・業態 | タイ東部の工業団地に立地する日系の組立系工場 |
| 従業員数 | 520名。うち勤務表の配置対象となる直接作業者は430名 |
| 稼働形態 | 5ライン、3交代による24時間稼働 |
| 勤務表の作成者 | 製造課長1名と班長4名の計5名 |
| 現状の作成工数 | 作成者1名あたり週7時間(調整と手直しを含む) |
| 管理者の時間単価 | 350THB(社会保険料等の事業主負担を含む想定) |
| 時間外の平均単価 | 90THB(割増後の平均として設定) |
作成工数の週7時間という設定は、前掲の製造現場の人員配置に関する解説で紹介されていた導入前の水準を、本モデルの出発点として借用したものです。原典では拠点全体の配置業務としての値ですが、本モデルでは作成者1名あたりの工数として置き直して使っています。自社の実測値がある場合はそちらを使ってください。
費用を層に分けて積む
シフト管理システムの費用は、ライセンス料だけを見ると小さく見え、社内工数を含めると急に大きく見えます。層に分けて積むほうが、後から削られにくい試算になります。
| 費用層 | 内容 | 一時費用(THB) | 経常費用(年額THB) |
|---|---|---|---|
| 層1 ライセンス | 配置対象430名分。1名あたり月45THBで設定 | 0 | 232,200 |
| 層2 初期設定・ルール設計支援 | ベンダーによる導入支援。シフトパターンと制約条件の設定 | 450,000 | 0 |
| 層3 マスタ整備の社内工数 | スキルマップのデータ化、配置ルールの明文化。延べ800時間 | 280,000 | 0 |
| 層4 教育・並行運用 | 班長・現場責任者への研修と、旧方式との並行運用期間の追加工数 | 120,000 | 0 |
| 層5 運用保守の社内工数 | マスタ更新、ルール改訂。月あたり約24時間 | 0 | 100,800 |
| 合計 | 850,000 | 333,000 |
初年度の総額は、一時費用850,000THBと経常費用333,000THBを合わせた1,183,000THBになります。2年目以降は333,000THBです。
この5層のうち、社内で最も過小評価されやすいのが層3です。スキルマップのデータ化と配置ルールの明文化は、ベンダーが代わりにやってくれる作業ではありません。「この工程は資格保有者が最低1名必要」「夜勤明けの翌日は日勤に入れない」といった条件は、社内の誰かが言語化するしかない。ここを見積もりに入れずに稟議を通すと、導入の途中で工数が足りなくなり、結局は元の担当者に負荷が戻ります。
効果は3系統に分けて見る
効果の側も、性質の違うものを混ぜないほうが議論が持ちます。
| 効果 | 算定の考え方 | 標準ケースの年額(THB) |
|---|---|---|
| 効果1 作成工数の削減 | 作成者5名の作業時間が週7時間から週2時間へ。削減5時間×5名×52週×350THB | 455,000 |
| 効果2 緊急の欠員対応に伴う時間外の削減 | 欠員起因の緊急残業が月200時間から月140時間へ。60時間×12か月×90THB | 64,800 |
| 効果3 スキル不適合に起因する手直し・立ち上がり遅れの減少 | 保守的に年150,000THB相当と設定 | 150,000 |
| 合計 | 669,800 |
効果1の削減幅について、AIによる自動作成を扱うベンダーの解説では、HRBESTというツールの導入ユーザー平均としてシフト作成時間を77.5%削減したという実績が紹介されています。これはツール提供側が公表している数値であり、自社で同じ削減率が出る保証はありません。本モデルでは週7時間から週2時間、すなわち約71%の削減を標準ケースとして置き、より控えめな水準と、公表事例に近い水準を別のシナリオとして並べます。
なお、効果3にあたる部分をゼロと置いても議論が成立するかは、事前に確認しておくべき点です。この効果は「スキル情報が配置に反映される」ことが前提になっており、システムを入れただけでは発生しません。スキルマップのデータ化(層3)をやり切って初めて乗る効果です。層3の費用を計上しながら効果3を落とすと、投資判断は成立しなくなります。

3つのシナリオで回収年数を比べる
効果の見積もりを3段階に振って、回収年数を比較します。
| シナリオ | 効果の置き方 | 年間効果(THB) | 経常費用(THB) | 年間の純増(THB) | 単純回収年数 |
|---|---|---|---|---|---|
| A 悲観 | 作成工数が週7時間から週4.5時間までしか減らず、効果2と効果3は計上しない | 227,500 | 333,000 | マイナス105,500 | 回収しない |
| B 標準 | 週2時間まで削減。効果2と効果3を上表のとおり計上 | 669,800 | 333,000 | 336,800 | 約2.5年 |
| C 良好 | 週1時間まで削減。効果2は月80時間削減、効果3は年300,000THB | 932,400 | 333,000 | 599,400 | 約1.4年 |
単純回収年数は、一時費用850,000THBを年間の純増で割った値です。
この表で最も重要なのは、B列でもC列でもなくA列です。シフト管理システムの効果を作成工数の削減だけで説明し、しかもその削減が中途半端に終わった場合、投資は回収されません。稟議で「シフト作成が楽になります」とだけ説明すると、決裁者は自然にA列の世界を想像します。
回収を成立させているのは効果2と効果3、すなわち欠員対応の質と配置精度です。そしてこの2つは、スキル情報が配置に接続されて初めて発生します。したがって投資の説明は「作成が楽になる」ではなく「配置の判断根拠が組織に残り、誰でも同じ基準で組めるようになる」という形にするのが、実態にも投資回収の構造にも合っています。
定量化しない効果を明示的に残しておく
上のモデルに入れていない効果が2つあります。ひとつは法定上限への抵触を事前に防ぐことによるリスク低減、もうひとつは作成担当者が不在になったときの継続性です。どちらも金額化しようと思えばできますが、発生確率の仮定が結論を左右してしまうため、本モデルでは意図的に外しました。
外した上で、稟議書には別枠で記載することをおすすめします。「回収年数の計算には含めていないが、週36時間の上限超過を事前に検知できる」「作成担当者が不在でも翌月の勤務表を組める体制になる」という2行は、数値に置き換えないほうがかえって伝わります。
選定・導入の進め方
選定基準は5つに絞る
シフト管理システムは製品数が多く、機能一覧で比べ始めると差がつきません。工場のシフト管理に関する解説でも、選定の観点として業種・企業規模への適合性、勤務形態への柔軟性、コスト効率の3点が挙げられています。タイの日系工場という条件を加えると、次の5点に絞るのが実務的です。
| 選定基準 | ベンダーに確認する質問 | 「できます」で終わらせない確認方法 |
|---|---|---|
| 交代制への柔軟性 | 自社の3交代パターン、周期、日跨ぎ勤務をそのまま設定できるか | 実際の勤務表を渡し、設定画面で再現してもらう |
| 制約条件の表現力 | 連続勤務日数の上限、夜勤明けの扱い、週36時間の枠を条件として持てるか | 自社の制約を5件挙げ、どこまで設定で表現できるか実演してもらう |
| スキル情報との連携 | 既存のスキルマップを取り込み、工程ごとの必要スキルで候補者を絞れるか | 自社のスキルマップのサンプルを渡して取り込んでもらう |
| 勤怠システムとの接続 | 確定した勤務表を勤怠側へ渡し、実績との差異を戻せるか | 連携の方式と、差異が出たときの突合手順を具体的に説明してもらう |
| 多言語と現場での使い勝手 | タイ語表示に対応しているか。班長が現場端末で修正できるか | 現場担当者に触ってもらい、研修なしでどこまで操作できるか見る |
このうち差が出やすいのは2番目と3番目です。勤務表を「作る」だけの製品は多くありますが、制約条件を持ち、スキル情報で候補者を絞り込めるところまで踏み込んだ製品は限られます。そして本記事の試算で回収を支えていたのは、まさにその部分の機能でした。
導入は5つの段階に分ける
段取りとしては、次のような進め方が標準的です。
- 第1段階 現状把握。既存のExcelとその中の判断ルールを棚卸しする。ここに1か月から2か月かける
- 第2段階 ルールの明文化。制約条件を文章として書き出し、班長どうしで解釈が割れる箇所を洗い出す
- 第3段階 スキルマップのデータ化。監査用の一覧を、工程ごとの必要スキルと対応づけた形へ整理し直す
- 第4段階 パイロット導入。1ラインに限定して、少なくとも2か月分の勤務表を実際に組んで運用する
- 第5段階 全社展開。パイロットで出た例外を反映してから広げる
第2段階を飛ばして製品選定に進むと、ベンダーのデモを見ながら要件を決めることになり、製品の機能に自社のルールを合わせる形になりがちです。逆に第2段階を丁寧にやると、その成果物そのものが属人化の解消として機能します。極端に言えば、システムを入れる前に制約条件を全部書き出せた時点で、リスクの半分は消えています。
第3段階のスキルマップ整理は、ISO 9001やFSSC 22000の力量管理の更新時期に合わせると効率的です。監査対応として一覧を見直すタイミングで、工程との対応づけまで一緒に済ませてしまう。監査用と配置用で二重にメンテナンスする状態を作らないことが、長期的な運用負荷を左右します。
誰がプロジェクトを担うのか
タイ拠点で最も難しいのは、この5段階を回す人を確保することです。総務・人事はすでに勤怠と給与で手一杯で、製造側の管理者は日々の生産に追われています。そして拠点にIT専任者がいない企業は少なくありません。
現実的な解としては、第1段階と第2段階を製造側が主導し、第3段階以降で総務側と本社IT部門が合流する形が機能しやすいと考えています。制約条件の言語化は現場にしかできず、システム化の設計は現場だけでは進まないためです。IT担当者が常駐していない拠点で、こうしたプロジェクトの役割分担をどう組むかについては、海外拠点のIT担当者不在をどう埋めるかで整理しています。
また、シフト管理は単独で完結する仕組みではありません。確定した勤務表は生産計画の裏付けであり、実績としての配置データは工程別の労務費や設備稼働の分析に接続します。この接続まで見据えて全体像を描く場合は、生産管理システムとは何かを整理した基礎記事も併せてご覧ください。
よくある質問
シフト管理システムと勤怠管理システムは併用が必要ですか
多くの拠点では併用になります。勤怠管理は実績の記録と賃金計算、シフト管理は事前の配置設計という別の役割を担っているためです。ただし製品によっては両方の機能を持つものもあり、その場合も「シフト作成の部分がどこまで作り込まれているか」を個別に確認してください。勤怠機能に付属する簡易なシフト表作成機能は、パターンの複製はできても制約条件による候補者の絞り込みまでは行えないことがあります。
3交代制でも自動でシフトを作れますか
製品によります。交代周期の設定に対応している製品は多いのですが、実際に確認すべきは、自社が持っている制約条件をどこまで表現できるかです。連続勤務日数の上限、夜勤明けの翌日の扱い、時間外の週あたりの枠、特定工程での資格保有者の必須人数といった条件を、設定として持てるかどうかを見てください。条件が表現できなければ、自動作成された案を人が手直しすることになり、工数は思ったほど減りません。
タイの労働法の上限をシステムでチェックできますか
上限そのものを条件として設定できる製品であれば、勤務表を組む段階での検知は可能です。タイの労働者保護法では通常業務が1日8時間かつ週48時間以内、有害業務が1日7時間かつ週42時間以内とされ、時間外労働・休日労働・休日の時間外労働の合計は原則として週36時間以内とされています。ただし、時間外労働と休日労働に必要な従業員の個別的な同意は、システムの計算では代替できません。同意の取得と記録は運用として設計する必要があります。適用される具体的な条件は、就業規則と現地の労務専門家の助言で確認してください。
スキルマップは作り直す必要がありますか
多くの場合、作り直しではなく整理し直しになります。監査対応として作られたスキルマップは「人×スキル」の一覧になっていることが多く、シフト作成で必要なのは「工程ごとに必要なスキルは何か」という対応関係です。既存の一覧を活かしつつ、工程側からの逆引きができる形に整理する作業が発生します。ISO 9001やFSSC 22000の力量管理の見直し時期と重ねると、二重の手間になりません。
導入までどれくらいかかりますか
規模と要件によりますが、現状把握から全社展開まで6か月前後を見ておくと現実的です。既存のシフト作成ルールが文書化されていない場合、最初の現状把握と明文化の段階が伸びます。逆に言えば、この段階に時間がかかっている拠点ほど属人化が進んでいるということでもあり、その工数は避けて通れないものだと考えたほうがよいでしょう。
従業員が数十名の規模でも意味はありますか
シフトのパターンが単純で、作成者が休んでも他の人が同じ表を組める状態であれば、Excelでも当面は回ります。判断の基準は人数ではなく、作成ルールが担当者以外に共有されているかどうかです。人数が少なくても、資格や工程の制約が複雑で、その組み合わせを一人しか把握していないのであれば、リスクの構造は大規模拠点と変わりません。まずはルールを書き出してみて、書き出せない部分がどれだけあるかを確認するところから始めてください。
まとめ
シフト管理システムの検討は、製品比較から始めると論点を外します。本記事で整理した要点を振り返ります。
- 勤怠管理は事後の記録と賃金計算、シフト管理は事前の配置設計。勤怠システムだけを入れても勤務表を作る負担は残る
- タイの労働者保護法は、労働時間の上限、週36時間の時間外の枠、時間外と休日労働への個別同意、休憩の付与を定めており、いずれも勤務表を組む段階で織り込む必要がある
- 2025年12月7日に施行された第9版改正で、産休の最大120日化と配偶者育児休暇15日の新設が行われた。長期離脱を前提とした要員計画が必要になる
- Excelでの効率化はVBAマクロへ進みやすく、作成者本人しか直せない状態を生む。これは設備故障よりも発生確率の高いBCPリスクである
- ISO 9001やFSSC 22000のために整備したスキルマップが、配置には使われていない拠点が多い。形式が監査向けで、工程からの逆引きに向いていないことが原因
- 外国人労働者の供給は実際に大きく動きうる。要員構成の再設計を一人に依存する体制は危うい
- モデル試算では、作成工数の削減だけでは投資が回収されない。欠員対応と配置精度の効果が乗って初めて2年台の回収になる
- 選定は5基準に絞る。特に制約条件の表現力とスキル情報との連携で製品の差が出る
- 導入で最も価値があるのは、制約条件を文章として書き出す段階そのもの
最初にやるべきことは、製品資料を集めることではありません。今月の勤務表を作った人に、どういう順番で何を考えて組んだのかを話してもらい、それを書き取ることです。書き取ってみると、本人も言語化していなかったルールが必ず出てきます。その数が、そのまま属人化の深さです。
TOMAS TECHは、PEGASUSをはじめとする生産管理・エネルギー管理システムを通じて、タイおよびASEANの日系工場で現場データの活用を支援してきました。誰をどの工程に置くかという判断を、個人の記憶から組織のデータへ移す設計は、その中で繰り返し向き合ってきたテーマです。製品を絞り込む前の段階でも、自社の配置ルールの棚卸しから一緒に整理するところでご相談いただけます。ご相談はお問い合わせページからお気軽にどうぞ。
参考情報
- タイの労働法制と実務 vol.1 — GVA法律事務所。労働者保護法における労働時間の上限、時間外労働の週36時間の枠、時間外労働と休日労働への個別的同意、休憩の付与に関する規定
- タイ労働者保護法ガイド — 2025年11月7日官報掲載・2025年12月7日施行の第9版改正。開示書の提出義務、産休の120日化、配偶者育児休暇の新設
- タイの外国人労働者不足に関するJSCCIBの見解 — バンコク週報。2026年6月5日発表。カンボジア人労働者の急減と影響業種、2026年GDP成長率見通し
- 工場のシフト管理の課題とシステム選定 — 工場特有のシフト管理の3課題と、システム選定における3つの観点
- シフト作成ツールの選び方 — クラウドサイン。早番・遅番・夜勤が混在する職場でExcelの手作業では対応しきれなくなる実情について
- 製造業の人員配置とスキル管理 — 株式会社Hutzper。スキルマップが監査用に整備されても配置に活用されていない課題認識と、配置業務が週7時間から1時間へ短縮されたという導入事例
- AIによるシフト自動作成 — TRYETING。HRBESTの導入ユーザー平均としてシフト作成時間を77.5%削減したとする実績の紹介
- シフト管理システムのカテゴリ概要 — ITreview。シフト管理システムの一般的な機能範囲と市場の概観