「駐在員のうち誰か一人にIT担当を兼ねてもらえば、当面は回る」。タイをはじめとする海外拠点の情報システムについて相談を受けると、多くの場合この前提から話が始まります。ところがこの数年で、現地の人材事情と本社側の送り出す余力は同時に変わりました。海外拠点 IT担当者不在という状態は、一時的な欠員ではなく、多くの日系製造業にとって前提条件になりつつあります。本記事は保守運用の費用相場そのものではなく、その手前にある「そもそも誰が回すのか」という体制設計の話に絞って整理します。
保守運用にいくらかかるのかという費用相場と契約設計は業務システムの保守費用を整理した記事に、何をどう監視するかという技術選定は工場のシステム監視について整理した記事に譲ります。本記事が扱うのは、その仕組みを日常的に回す人がいない現地法人で、体制をどう設計するかという組織側の論点です。想定している読み手は、日本本社の経営層と工場管理部門の方、そしてタイやASEANの現地拠点で管理部門を預かっている方です。
なぜ「駐在員の誰かに兼任させる」が構造的に難しくなっているのか
海外拠点の情報システムは、長らく人の善意と器用さで回してきた領域です。日本で少しシステムに詳しかった駐在員が、赴任先でパソコンの調達からネットワークの相談、生産管理システムの問い合わせ窓口までを引き受ける。この形は、決して例外的なものではありません。
問題は、この形を成り立たせていた前提が崩れつつあることです。ビジネスエンジニアリングがデロイト トーマツ戦略研究所と実施した「日系海外進出企業のIT活用動向調査2026年」(2026年1月、有効回答660件)によると、IT・DXに関する課題の1位は「人材が不足している」で、回答は約6割。しかもこれは3年連続で1位です。2位は「AIなど先端的な技術の利活用が不十分」で41.4%でした。人材不足が単年の景気変動によるものではなく、構造として定着していることを示しています。
同じ調査で、海外拠点のIT活用について「非常に強化する必要がある」と答えた企業は51.2%、「多少強化する必要がある」が40.7%で、合計すると9割を超える企業が強化の必要性を認めています。やるべきことは増えているのに、それを担う人が足りない。この二つが同時に起きているというのが、多くの企業の現在地です。
さらに見落とされがちなのが、駐在員そのものの構成が変わっている点です。同調査では、管理職(部長以上)に占める海外人材の比率が「50〜99%」という回答が最多で38.4%、現地化率100%の企業を含めると42.4%に達しています。つまり、拠点の管理職の半分以上が現地人材という企業がすでに多数派に近い。日本人駐在員に頼れる範囲が細っている以上、「駐在員の誰かに兼任させる」という選択肢は、そもそも母数の側から成り立ちにくくなっています。
現地で採用すれば解決するとは限らない
では現地でIT専任者を採用すればよいかというと、これも簡単ではありません。タイ現地法人の実情について、IIJ Global Solutions Thailandは、クラウドやインフラを扱える人材が限定的で、採用市場では常に取り合いの状態にあると指摘しています。結果として、IT専任者を置けず、総務や経理の担当者が兼任しているケースが多いとされています。
兼任の何が問題なのか。担当者の能力の話ではありません。兼任者は本業を持っているため、時間の使い方が必然的に「止まったものを直す」ことに寄ります。同社の指摘でも、予防的な運用や監視が後回しになりがちであることが挙げられています。バックアップが取れているかの確認、OSやアプリケーションの更新、ログの確認、アカウントの棚卸し。これらは緊急性がないぶん、月末や決算期には後ろへ回されがちです。
そして、この構造は本社からは見えません。トラブルが起きていない期間、報告は「特に問題ありません」になります。実際には更新が止まり、バックアップの復元テストが数年行われていないという状態でも、報告書の見た目は変わりません。海外拠点のIT体制を評価するとき、障害件数がゼロであることは必ずしも良い兆候ではない、という点は押さえておく価値があります。
この問題が最もはっきり表に出るのが、駐在員の交代時です。赴任には任期がありますので、兼任でIT関連を見ていた人は、数年周期で入れ替わります。引き継ぎの場で渡されるのは、たいていパソコンの調達先とベンダーの連絡先くらいで、ネットワークの構成がどうなっているか、どのサーバーに何が入っているか、ライセンスの契約期限がいつかといった情報は、口頭でも文書でも残らないことが多い。後任は着任後の数か月を、現状を把握するだけに使うことになります。この空白は交代のたびに繰り返されます。裏を返せば、体制を検討し直す最も自然なタイミングは、次の交代が決まった時点だということでもあります。
「担当者不在」が実際にどんなリスクとして表面化するか
体制の話は抽象的になりがちなので、それが何として表に出てくるのかを整理します。ここは煽られやすい論点ですので、事実と判断を分けて書きます。
事実として、日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)がアイ・ティ・アールの協力で2026年1月に実施した「企業IT利活用動向調査2026」では、ランサムウェアに感染した割合は全体平均で45.8%、およそ2社に1社という水準でした。業種別では製造業が57.1%と最も高く、全体平均を大きく上回っています。
この数字をどう読むかは慎重であるべきです。製造業が突出している理由は一つに絞れません。生産設備と情報系ネットワークが接続されている環境が増えたこと、止められない設備が多く更新の機会を取りにくいこと、サプライチェーン上の取引先経由で侵入を受ける経路があることなど、複数の要因が重なっていると考えられます。ただ、どの要因を取っても、日常的に手を入れる担当者がいるかどうかが結果に効いてくる点は共通しています。更新の適用も、不審な通信の検知も、権限の見直しも、誰かが定期的に見ていなければ実行されません。
もう一つ、より地味ですが現場の負担として大きいのが、対応可能な時間帯の問題です。IIJ Global Solutions Thailandは、タイの祝日や急な振替休日によって業務停止につながるリスクにも触れています。タイでは政府が直前に振替休日を設定することがあり、日本本社側のカレンダーとずれます。日本が稼働している日にタイの担当者が不在、あるいはその逆という状況は、年間を通じて何度も発生します。担当者が一人しかいない体制では、その一人が休んだ時点で対応力がゼロになります。
同社の記事では、「現地にIT担当がいないので、何かあったときに不安」という声が紹介されています。この不安は、具体的な障害が起きていなくても存在します。そして体制を検討する動機としては、実はこの「何かあったとき」の想定が最も重要です。
| 表面化する形 | 起きやすい状況 | 兼任体制で起きること |
|---|---|---|
| セキュリティ更新の遅れ | 生産設備につながる端末やサーバーの更新機会が取れない | 更新が数年単位で止まり、脆弱性が残り続ける |
| バックアップの形骸化 | 取得はされているが復元を試したことがない | 障害時に初めて復元できないと分かる |
| 属人化 | 設定内容やベンダー窓口が一人の頭の中にある | 帰任・退職の引き継ぎ時に情報が失われる |
| 休日・夜間の空白 | タイの祝日や振替休日が本社と一致しない | 一人が不在になった時点で対応が止まる |
| 判断の先送り | 平時に相談できる相手が社内にいない | 更新や刷新の判断が数年単位で遅れる |
誤解を避けるために付け加えると、これらのリスクはすべての拠点で同じ重みを持つわけではありません。従業員数十名で基幹システムを本社側に置いている拠点と、独立した生産管理システムと設備ネットワークを持つ数百名規模の拠点では、優先順位はまったく異なります。拠点数と、現地で持っているシステムの範囲に応じて、どこから手を付けるかを決めるべきです。すべてを一度に整えようとすると、たいてい何も進みません。
情報システム体制の4パターンを整理する
海外拠点のIT体制は、実務上おおむね4つのパターンに分かれます。どれが正解ということではなく、拠点の規模と本社側の体力によって適する形が変わります。

一つ目が駐在員兼任型です。日本から赴任した管理部門や製造部門の担当者が、本業と並行してIT関連を引き受ける形です。立ち上げ期の拠点や、システムの範囲が限定的な拠点では現実的に機能します。利点は、本社との意思疎通が速いことと、追加のコストがほぼ発生しないことです。弱点は、その人の帰任とともに知見が消えること、そして本人の専門性に体制の質が完全に依存することです。
二つ目が本社リモート型です。日本本社の情報システム部門が海外拠点も含めて管理する形で、統制の面では最も整います。ライセンス管理や標準化は進めやすく、セキュリティポリシーの統一もしやすい。一方で、現地の物理的な作業が発生した瞬間に止まります。ケーブルの抜き差し、機器の交換、現場の設備担当との立ち会い。これらはリモートでは代替できません。また、時差と言語の壁も現実的な制約になります。本社側の担当者がタイ語での現場対応まで担うのは無理があります。
三つ目が現地専任採用型です。現地でIT担当者を採用し、拠点に常駐させる形です。対応の速さと現場理解では最も優れています。ただし前述のとおり、クラウドやインフラを扱える人材は採用市場で取り合いになっており、採用そのものが容易ではありません。加えて、一人を採用した場合は「その一人が辞めたら」というリスクが残ります。定着と後任の確保まで含めて設計しないと、数年で振り出しに戻ることがあります。
四つ目が外部アウトソース型です。現地または広域のベンダーに、運用・保守の一部または全体を委託する形です。属人化と休日の空白を構造的に解消しやすく、人材の採用競争から距離を置けます。弱点は、委託範囲の設計を誤ると「何も分からないまま外に出す」状態になることです。この点は後の章で改めて整理します。
| 体制パターン | 向いている状況 | 主な弱点 |
|---|---|---|
| 駐在員兼任型 | 立ち上げ期、システム範囲が限定的、拠点1つ | 帰任で知見が消える、予防的な運用が後回しになる |
| 本社リモート型 | 本社に情報システム部門があり、標準化を進めたい | 現地での物理作業と現場対応ができない、時差と言語の制約 |
| 現地専任採用型 | 拠点規模が大きく、独自システムを多く抱えている | 採用が難しい、一人体制だと退職リスクが残る |
| 外部アウトソース型 | 専任を置けない、複数拠点、休日・夜間の空白を埋めたい | 委託範囲の設計を誤ると社内に知見が残らない |
実際には、これらを組み合わせている企業が多数です。標準化とライセンス管理は本社、日常の運用監視と一次対応は外部、現地との橋渡しは駐在員という三層構造は、拠点数が複数ある企業では合理的な形になります。重要なのは、どの業務を誰が持つかを紙に書き出しておくことです。書き出さないまま運用すると、誰も持っていない業務が生まれます。
判定モデル|自社はどの体制から始めるべきか
体制を選ぶための判断材料を、4つの変数に整理します。それぞれ0点から2点で採点してみてください。
| 変数 | 0点 | 1点 | 2点 |
|---|---|---|---|
| タイ・ASEANの拠点数 | 1拠点のみ | 2から3拠点 | 4拠点以上 |
| 現地で持っているシステムの範囲 | 基幹は本社側、現地は端末とネットワーク中心 | 生産管理など一部を現地で保有 | 生産管理・設備ネットワーク・サーバーを現地で保有 |
| 現状のIT担当 | 専任者がいる | 兼任者が一人いる | 実質的に誰も担当していない |
| 停止が許されない時間帯 | 平日日中に復旧できればよい | 夜間・休日の一部で稼働がある | 24時間稼働、または連休中も設備が動く |

採点はおおまかで構いません。ただし三つ目の「現状のIT担当」については、拠点側の自己申告ではなく、本社側から見た評価と突き合わせることをお勧めします。拠点は「担当者がいる」と回答し、本社は「あの人は本業が別にあるはず」と認識している、という食い違いは珍しくありません。
| 合計点 | 現実的な進め方の目安 |
|---|---|
| 0点から2点 | 当面は現行体制で回る。優先すべきは属人化の解消で、設定情報とベンダー窓口の一覧を文書化しておく |
| 3点から5点 | 一部業務からのアウトソースを検討する。監視・バックアップ確認・更新適用など、定型化しやすい業務から外に出す |
| 6点から8点 | 複数拠点を前提とした統合運用の設計に入る。拠点ごとに別々のベンダーを使うと、後の統合コストが大きくなる |
合計点が低い場合でも、やっておくと後で効く作業があります。それが0点から2点の行に書いた文書化です。ネットワーク構成図、サーバーとライセンスの一覧、契約中のベンダーと担当者の連絡先、パスワードの管理方法。これらを一箇所にまとめておくだけで、担当者が交代したときの立ち上がりがまったく変わります。逆に、これが無い状態でアウトソースを検討すると、引き継ぎのための調査だけで数か月かかることがあります。
この判定モデルには、意図的に費用の変数を入れていません。予算は判断材料として重要ですが、先に予算枠を置いてしまうと、必要な体制の議論が「いくらまでなら出せるか」の話に置き換わってしまうためです。まず必要な体制の形を決め、その上で範囲を調整するという順序のほうが、社内の合意は取りやすくなります。また、四つ目の変数に挙げた「停止が許されない時間帯」は、設備の稼働時間だけでなく、月末の締め処理や出荷のピーク時期も含めて考えてください。年間を通じて数日だけ絶対に止められない日がある、という工場は少なくありません。
合計点が6点以上で統合運用を勧める理由は、費用よりも設計の一貫性にあります。拠点ごとに別々の会社に委託すると、セキュリティ設定の水準もバックアップの方式も揃わず、本社から見たときにどの拠点がどの程度守られているのかが分からなくなります。拠点数が増えるほど、揃っていないことのコストが効いてきます。
アウトソース・運用代行を活用する場合の論点
採用が難しいなら外部に、という判断には合理性があります。その根拠になるデータも出ています。
ジェトロが東アジアビジネス評議会(EABC)と共同で実施した調査(2025年6月16日から7月10日、ASEAN+3の企業536件を対象)では、ASEAN日系企業の83.6%が「人材不足・スキルギャップの拡大」をデジタル化推進の課題として挙げています。要因として多かったのは「教育・研修機会の不足」44.8%、「各国の労働許可・ビザ制度の違い」32.8%、「人材の流出」31.9%でした(複数回答)。
この内訳は、採用と育成という自社完結の解決策がなぜ難しいのかを説明しています。教育・研修機会の不足は、そもそも社内に教える人がいないことの裏返しです。労働許可やビザ制度の違いは、日本から人を動かして埋める方法に制度上の制約があることを示します。人材の流出は、育てても残らないという問題です。三つとも、一社の努力だけでは短期に変えられません。外部の運用体制を使うという選択は、これらを迂回する手段として現実的です。
ただし、丸投げにしないことが前提になります。外に出してよい業務と、社内に残すべき業務の線引きを最初に決めてください。
| 外に出しやすい業務 | 社内に残すべき業務 |
|---|---|
| サーバー・ネットワークの死活監視と一次対応 | どのシステムをいつ更新・刷新するかの意思決定 |
| バックアップの取得確認と復元テスト | 自社データの保管場所と取り扱いルールの決定 |
| OS・ソフトウェアの更新適用 | アクセス権限を誰に与えるかの承認 |
| 障害発生時の切り分けとベンダー折衝 | ベンダーとの契約内容と費用の管理 |
| 定型的なアカウント作成・削除の作業 | 生産や品質に直結する業務要件の定義 |
右側の列に共通しているのは、判断と責任が伴う業務だという点です。委託先は作業を代行できますが、自社の事業判断を代わりに行うことはできません。逆に左側は、手順が定義できれば誰が実施しても結果が変わらない業務です。この線引きを曖昧にしたまま委託すると、障害のたびに「これは誰が決めるのか」で時間を失います。
委託先を選ぶ際に確認しておきたい点も挙げておきます。第一に、現地に技術者がいるかどうかです。機器の交換やケーブルの確認は、遠隔では完結しません。第二に、対応言語です。日本本社との報告は日本語、現地スタッフとのやり取りはタイ語または英語という二重の対応が必要になります。第三に、対応時間帯です。タイの祝日と日本の祝日は一致しませんので、どちらのカレンダーで稼働するのかを契約前に確認してください。第四に、報告の形式です。月次で何が起きて何を実施したかが記録として残る形になっているかどうかは、体制の継続性に直結します。
移行の進め方についても触れておきます。現在の体制から外部委託へ一度に切り替えようとすると、引き継ぎのための情報収集が終わらず、移行そのものが止まります。現実的なのは、定型度の高い業務から順に渡していく形です。最初に監視とバックアップの確認、次にOSとソフトウェアの更新適用、その後にヘルプデスクの一次受付、というように段階を分けます。一段ごとに手順書が作られていくため、結果として社内に残る文書も増えます。最初の一段を渡し終えるまでに数か月かかることは珍しくありませんので、駐在員の交代時期から逆算して着手時期を決めてください。
なお、委託費用の相場観と契約形態の考え方については業務システムの保守費用を整理した記事で費用構造を分解していますので、社内で予算を組む段階ではそちらもあわせてご覧ください。
タイ・ASEANならではの論点
ここまでは海外拠点全般の話ですが、タイおよびASEANに固有の事情もいくつかあります。
背景として、人材の逼迫はIT職種に限った話ではありません。ジェトロの2023年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)では、タイの日系企業の40.4%が人材不足を課題として挙げています。専門人材全般が取り合いになっている市場の中で、IT担当者だけを都合よく採用できると考えるのは現実的ではありません。

もう一つ、拠点が地理的に分散しているという事情があります。日系製造業では、バンコク近郊と東部の工業団地に工場を分けて持ち、さらにベトナムやインドネシアにも拠点があるという構成が珍しくありません。各拠点にIT担当者を一人ずつ置くという発想では、必要な人数が拠点数だけ増えます。一方で、拠点ごとの業務量は専任者一人分に満たないことが多い。この不釣り合いが、海外拠点のIT体制を難しくしている実務上の理由です。
この構造に対しては、拠点ごとに人を置くのではなく、運用の窓口を一つに集約し、そこから各拠点を見る形が現実的です。監視とヘルプデスクは集約し、物理作業が必要なときだけ現地に人が動く。この分け方であれば、拠点数が増えても人員は比例して増えません。加えて、複数拠点の状況を同じ基準で見られるため、どの拠点の設定が古いままかといった比較が本社側でできるようになります。
言語の設計も、ASEANでは避けて通れません。日本本社への報告は日本語、拠点の管理部門とは英語、現場のオペレーターとはタイ語やベトナム語という三層の言語が同時に走ります。障害対応の一次連絡をどの言語で行うかを決めておかないと、緊急時に翻訳待ちの時間が発生します。実務的には、一次受付は現地語、本社への報告は日本語、記録は英語で統一という形が扱いやすいと感じています。ただし、これは組織によって適する形が異なりますので、自社の実態に合わせて決めてください。
最後に、制度面の論点を一つ。委託先を選ぶときに、データがどこに保管されるかを確認しておくことをお勧めします。タイでは個人情報保護法(PDPA)が施行されており、従業員情報や取引先情報の取り扱いには社内ルールの整備が求められます。クラウドの保管先や、委託先のアクセス範囲がどうなっているかは、契約時に文書で確認しておくべき事項です。
よくある質問
海外拠点のIT担当者はどう確保すればいい?
確保の方法は大きく三つです。日本から駐在員を派遣する、現地で専任者を採用する、外部に運用を委託する。どれを選ぶかは、拠点数と現地で保有しているシステムの範囲によって変わります。拠点が1つで基幹システムを本社側に置いているなら、駐在員の兼任と本社リモートの組み合わせで当面は回ります。拠点が複数あり、現地に生産管理システムや設備ネットワークを持っている場合は、一人の採用では体制が成立しません。本記事の判定モデルで4変数を採点し、合計点が3点以上なら一部業務のアウトソースを検討する、という順序で考えてみてください。
駐在員にITを兼任させるリスクは?
三つあります。第一に、予防的な運用が後回しになることです。兼任者は本業を持つため、更新やバックアップ確認といった緊急性の低い作業が確実に後ろへ回ります。第二に、帰任とともに知見が失われることです。設定内容もベンダー窓口も本人の頭の中にある状態で交代が起きると、後任は一から調べ直すことになります。第三に、休日と夜間の空白です。タイの振替休日は直前に決まることがあり、本社のカレンダーとずれます。一人体制ではその日の対応力がゼロになります。これらを避けるには、業務の文書化と、定型業務の外部委託を組み合わせるのが現実的です。
IT運用をアウトソースする場合の費用感は?
費用は委託範囲、対象機器の台数、対応時間帯の三つでほぼ決まります。監視と一次対応だけを平日日中で委託する場合と、24時間対応で復旧作業まで含める場合では、当然ながら金額の水準が変わります。契約形態も、月額固定の保守契約、作業実績に応じた従量、その組み合わせといった選択肢があります。相場観と費用の分解については業務システムの保守費用を整理した記事で整理していますので、そちらをご覧ください。予算を組む前に、まず委託したい業務の一覧を作ることをお勧めします。範囲が決まらないと見積もりは比較できません。
現地スタッフに任せるのは可能?
可能ですが、任せ方の設計が要ります。現地スタッフに任せる場合に多い失敗は、日常の操作対応だけを任せて、セキュリティ設定やバックアップ方式の判断まで暗黙のうちに委ねてしまうことです。判断を伴う業務は、本社または外部の専門家が関与する形を残してください。また、一人に集中させると退職時のリスクが大きくなります。手順を文書化し、監視やバックアップ確認といった定型業務は外部の仕組みに載せておくと、担当者が交代しても運用が途切れません。
情報システム体制とセキュリティ対策はどう関係する?
密接に関係します。担当者が不在または兼任の状態では、更新の適用も、権限の棚卸しも、通信の監視も実行されません。製造業のランサムウェア感染割合が57.1%と業種別で最も高いという調査結果は、設備と情報系がつながる環境が増えていることと無関係ではないでしょう。生産設備側のネットワークまで含めた対策の考え方については工場のOTセキュリティについて整理した記事で扱っていますので、あわせてご確認ください。
監視ツールを入れれば担当者不在は解消できる?
監視ツールは、異常を検知して通知するところまでを担います。通知を受けて判断し、復旧の手を動かすのは人です。つまり、ツールの導入は担当者不在の解決策ではなく、少ない人数で回すための前提条件です。何をどう監視するかという技術選定については工場のシステム監視について整理した記事で整理しています。導入を検討する際は、通知を誰が受け、誰が対応するのかを先に決めてください。この宛先の設計を飛ばすと、鳴り続けるだけの通知が残ります。
まとめ
海外拠点のIT担当者不在は、個別企業の努力不足ではなく、構造的な条件として捉えるべき問題です。海外進出日系企業を対象とした調査では、IT・DX課題の1位は3年連続で「人材が不足している」であり、約6割の企業が回答しています。一方で海外拠点のIT活用を強化する必要があると答えた企業は9割を超え、管理職の現地化も進んでいます。やるべきことは増え、日本人駐在員に頼れる範囲は細っている。この二つは当面続くと考えるのが妥当です。
その結果として表面化するのは、派手な障害よりも、更新の遅れやバックアップの形骸化といった静かなリスクです。製造業のランサムウェア感染割合が57.1%と全体平均を上回っている事実は、日常的に手を入れる人がいるかどうかが結果に効くことを示しています。ただし、リスクの重みは拠点の規模とシステムの範囲によって異なりますので、優先順位をつけて着手してください。
体制の選択肢は、駐在員兼任型、本社リモート型、現地専任採用型、外部アウトソース型の4つです。拠点数、現地で持っているシステムの範囲、現状の担当者、停止が許されない時間帯という4変数を採点し、合計点が3点以上なら定型業務からのアウトソースを、6点以上なら複数拠点を前提とした統合運用を検討する、という目安で考えると判断しやすくなります。ASEAN日系企業の83.6%が人材不足・スキルギャップを課題として挙げている以上、自社での採用と育成だけに解決を求めるのは現実的ではありません。
そして、どの体制を選ぶ場合でも、意思決定とデータの取り扱いは自社に残してください。作業は委託できますが、判断は委託できません。合計点が低い企業でも、ネットワーク構成図とベンダー窓口の一覧を文書化しておく作業は、後で効いてきます。
私たちはタイで日系製造業の現場に入ってきた立場から、まず現状の体制を棚卸しし、どの業務を外に出せてどれを社内に残すべきかを整理するところからご一緒することができます。体制を変えると決めた後でなくて構いません。社内で議論の材料を集めている段階、あるいは駐在員の交代を控えて引き継ぎの範囲を確認したい段階でも、お問い合わせはこちらからお気軽にご相談ください。