マシンビジョンレンズの選び方は、カタログの焦点距離や「対応メガピクセル」を先に比べることではありません。タイ工場の検査対象、必要な視野、設置できる作動距離、判定したい最小特徴、ワークの高さ変動を先に定義し、その条件で画像を撮れる光学系を選びます。本稿は、産業用カメラ本体の選定や照明方式の詳細とは範囲を分け、レンズの調達仕様、固定焦点とテレセントリックの比較、RFPからFAT・SATまでを扱います。
マシンビジョンレンズを選ぶ前に決める検査仕様
最初の成果物はレンズの型番表ではなく、1工程につき1枚の撮像要求シートです。検査目的が「欠品の有無」なのか「外径を測る」なのかで、周辺の歪みやワーク高さへの許容度は変わります。画像上で検出できない欠陥を、画素数や高価なレンズで解決することもできません。品質保証、製造技術、設備保全、システム担当が良品・不良品・判定限界品を持ち寄り、観測できる差を言葉と画像で揃えます。設備メーカーへの相談時には、そのサンプルの撮影・使用条件と保管方法も合わせて伝えます。
要求シートにはワークの最大外形だけでなく、搬送位置のばらつき、治具の公差、検査領域の余白を入れます。鏡面、透明材、曲面、印字、段差などは別々に記録し、最も難しい箇所を示します。ラインの最高速度と撮像可能時間、カメラの取り付け空間、前面の保護窓の有無、清掃時の飛沫や粉塵、振動、周囲温度も必要です。レンズ選定に関係する光の波長帯は、照明担当と合意します。可視光用の仕様で選んだ後に近赤外を使うと、焦点位置や透過特性の再確認が必要になり得ます。具体的な波長と製品適合は必ずメーカーの仕様書で確認します。
レンズ単品の合否と、検査システム全体の合否を混ぜないことも大切です。レンズは画像の幾何とコントラストを担いますが、検査の見逃し率は照明、露光、トリガー、治具、判定ソフト、ワーク分布にも左右されます。写真として美しい画像より、合否を安定して決められる画像を評価します。カメラのインターフェースやセンサーの選定は産業用カメラ選定ガイドを、反射と欠陥の見せ方はAI外観検査の照明選定ガイドを参照してください。
発注前に固定する八つの入力
| 入力 | 記入する内容 | レンズ選定で使う理由 |
|---|---|---|
| 検査目的 | 有無、読取、位置決め、寸法測定の区別 | 歪み・倍率変動の許容値が違う |
| ワーク寸法 | 最大・最小、方向、位置ばらつき | 必要視野と余白を決める |
| 最小特徴 | 欠陥幅、文字線、エッジなど | 必要な物体側サンプリングを考える |
| 高さ範囲 | ワーク厚、反り、治具公差 | 被写界深度とテレセントリック要否を考える |
| 作動距離 | レンズ先端からワークまでの使用可能範囲 | 焦点距離と筐体干渉を確認する |
| センサー | 有効寸法、画素数、画素ピッチ、マウント | イメージサークルと解像を合わせる |
| 光学条件 | 照明波長、保護窓、偏光・フィルタ | 透過・反射・焦点の条件を揃える |
| 現場条件 | 速度、振動、粉塵、清掃、保守 | 絞り固定・取付・清掃手順に反映する |
この表の値が未確定なら、単一の「推奨レンズ」を見積もるより、範囲と前提を記した候補を出してもらいます。必要視野や作動距離が変われば焦点距離も変わります。候補の良し悪しを比べる条件が後で動くと、見積差を光学性能の差と取り違えます。RFPには入力の改訂番号を付け、変更が生じた場合の再評価範囲を明示します。
視野・作動距離・焦点距離を同じ図面で決める
視野(FOV)はセンサーに写すワーク面の範囲、作動距離(WD)は一般にレンズ前面からワークまでの距離です。カメラの後方寸法やレンズ胴長を含めた設備全高とは違います。機械図面にカメラ中心、レンズ先端、ワーク上面、最大高さのワーク、コンベヤや保護カバーを描き、干渉を確認します。作動距離を「カメラから」など曖昧な起点で書くと、候補ごとに別の値として解釈されます。測定起点を図に印します。
必要視野は最大ワーク寸法に位置ばらつきと安全な撮像余白を加えた値です。たとえば水平方向の最大対象幅が80 mmで、位置ばらつきと余白を両側10 mmずつ見込む計画なら、要求する水平視野は100 mmです。これは説明用の仮定であり、実案件の推奨余白ではありません。撮影画像の四隅でワークが欠けず、照明ムラや歪みが許容範囲に収まるかを、上限・下限位置のサンプルで確認します。部品が回転するなら対角方向の占有幅も見落とせません。
Edmund Opticsの計算ツールは、センサー寸法、画素ピッチ、WD、FOVから焦点距離や倍率を概算します。ただし同社も、近軸近似で主平面や歪みを省いた計算であり、短焦点などでは不正確になり得ると明記しています。概算から近い市販焦点距離を探しても、製品の最短撮影距離、実際の画角、フォーカス範囲、保護窓を通した撮影を確認するまでは確定しません。焦点距離だけを指定し、必要視野とWDをRFPから外すのは避けます。

画素ピッチと最小特徴は「見える保証」と分ける
画像の水平方向の画素数を2,000、水平視野を100 mmと仮定すると、名目上の物体側サンプリングは100÷2,000=0.05 mm/画素です。0.10 mmの線が2画素に相当しても、その線を安定して識別できる保証にはなりません。焦点ずれ、レンズのコントラスト伝達、照明、ベイヤー配列、動きぶれ、圧縮や前処理で見え方が変わるためです。Edmund Opticsの計算ツールも物体側解像を参照値とし、実性能の保証には使わないと注意しています。要求する判定精度は、限界サンプルの撮影とアルゴリズムを含む試験で決めます。
センサー寸法は「1/2型」のような通称だけで判断せず、採用するカメラの有効な横・縦・対角寸法をデータシートから転記します。画素ピッチと画素数から計算した有効寸法との整合も確認します。視野は横だけでなく縦と対角でも足りるかを確かめます。モノクロかカラーか、画素のビニングやROIを使うかでも有効画素数が変わるため、試験時のカメラ設定を凍結して候補を比較します。
イメージサークル・マウント・機械干渉を先に落とす
レンズのイメージサークルは、センサーを所定の品質で覆える画像範囲です。取り付けねじが合っても、イメージサークルがセンサー対角より小さければ周辺が暗くなり、端の情報を失う可能性があります。Baslerの2026年更新の選定資料は、マウント確認に続いてイメージサークルとセンサーを合わせる順序を示しています。レンズの「最大対応センサー」は製品仕様で確認し、対象の解像・歪みを必要とする画面端まで評価します。単に黒い周辺がないことだけを合格にしてはいけません。
Cマウントなどの機械的接続では、ねじ規格に加えてフランジバック、アダプタ、フィルタ、延長リングの組み合わせを照合します。BaslerはCマウントのフランジバックを17.526 mmとして説明していますが、実際の採用可否はカメラとレンズ双方のデータシートで確認します。アダプタを挟むとピント位置やケラレ、固定剛性に影響し得るため、必要な部品をレンズ見積と同じ部品表に載せます。Schneider-Kreuznachの光学ツールキットもマウントアダプタの検討を独立した項目として用意しています。
レンズ胴径・全長・前玉周辺の張り出しは、視野やWDが合っても設備内に入らない理由になります。照明リング、保護ガラス、エアパージ、清掃工具が共存するかを3Dモデルと現物で確認します。交換時に作業者がフォーカスリングへ手を伸ばせるか、ロックねじを締められるかも保守性です。タイ工場で予備品を持つ場合は、代替品の光学条件だけでなく筐体寸法とブラケット互換まで確認します。
MTFは「対応メガピクセル」より比較条件が大切
MTFは空間周波数に対して、模様の明暗コントラストをどの程度保持できるかを表す指標です。Schneider-Kreuznachの解説は、周波数と画面位置によって読み方が変わることを示しています。候補Aの中心MTFだけと候補Bの周辺MTFを比べたり、異なるF値・波長・WDでの曲線を比べたりしても公平ではありません。RFPではセンサー、絞り、照明波長、WD、評価位置、空間周波数を揃えた曲線または実写を求めます。
必要な欠陥が画面周辺に来る工程なら、中心だけ高解像でも不足します。ライン上の全ワーク位置で、要求するエッジまたは欠陥のコントラストが維持できるか確認します。MTFの値を単独で合否にしないのは、実ワーク表面の反射と照明でコントラストが変わるためです。レンズの公称解像は比較候補の絞り込みに使い、最後は採用センサーと現場相当照明の実画像を同じ表示倍率で評価します。
固定焦点とテレセントリックレンズの比較
一般的な固定焦点レンズは広い選択肢があり、対象を確実に写して有無判定や印字読取をする用途に向きます。通常の透視投影では、ワークがレンズに近づくと画像上の大きさが変わります。高さが一定の治具、校正可能な位置決め、必要な歪み許容がある場合は、この性質を織り込んで評価できます。「固定焦点」は焦点距離が固定という意味で、フォーカスリングが固定という意味とは限りません。調整後にフォーカスと絞りを機械的にロックできるかも確認します。
テレセントリックレンズは物体側の主光線がほぼ平行になる設計を利用し、所定範囲のワーク高さ変動に対して倍率変化を抑えます。Baslerは寸法測定のように透視による見かけの寸法差を避けたい用途を例に挙げています。万能という意味ではなく、必要視野、対応センサー、作動距離、被写界深度、照明、設置空間を同時に満たす必要があります。レンズの外径が対象視野に対して大きくなり得るため、機械干渉と予算の確認も欠かせません。価格や改善率の一般値はここでは置かず、同じワークで測定誤差を比較します。
| 比較条件 | 固定焦点の通常レンズ | 物体側テレセントリックレンズ |
|---|---|---|
| 主な用途 | 有無判定、読取、位置検出、条件を固定した測定 | 高さ変動がある寸法測定、輪郭の安定化 |
| 高さ変動 | 見かけの倍率が変化し得る | 指定範囲で倍率変化を抑える設計 |
| 歪み | 製品ごとに曲線と校正要否を確認 | 一般に低歪みだが製品ごとに確認 |
| 設置・調達 | 選択肢が多い。WDとマウントに注意 | 外径・WD・視野・コストを特に確認 |
| 採用判定 | 実ワーク画像の欠陥視認と再現性 | 基準片の寸法誤差と高さ変動試験 |

テレセントリックの採用判断を「精度が高そう」で済ませないため、必要な測定不確かさと、治具で抑えられないワーク高さの幅を先に定めます。同一の基準片を視野中央と四隅、ワーク高さの上下限で撮り、測定値の偏りとばらつきを比較します。通常レンズでも校正と治具で合格するなら、その構成も調達候補です。逆に通常レンズでは高さ変動による倍率差を補正できない場合、テレセントリックの必要性を数字で説明できます。
歪み補正だけで解決できるか
歪みは画像内の位置によって幾何的な位置がずれる現象です。Edmund Opticsは、歪みの波長依存や作動距離依存、幾何歪みとTV歪みという表示法の違いを説明しています。候補比較では、同じ定義・同じ条件の数値を並べます。格子やドットの校正板を撮り、使用する視野全域で残差を測り、補正後の画像で検査時間や判定結果が変わらないか確認します。単一の「歪み率0%」という記載だけで周辺の幾何品質を判断しません。
画像補正は事前校正した条件が維持されることが前提です。レンズ交換、フォーカス変更、WD変更、照明波長変更、カメラ角度変更があれば再校正を要求する運用にします。測定をする場合、校正板の証明書、撮影方向、温度条件、画像処理バージョンを記録します。アルゴリズム補正で失われた解像を回復できるわけではなく、計算時間も増え得ます。校正で処理できる歪みと、光学設計で先に抑えるべき倍率変化・ぼけを分けて検討します。
絞り・被写界深度・照明を一つの試験条件にする
絞りを開けば撮像に使える光は増えますが、被写界深度や周辺像質との兼ね合いがあります。絞りを絞れば深度は稼ぎやすい一方、光量不足を露光時間で補うと移動するワークがぶれ、さらに絞れば回折の影響が増えます。メーカーの曲線が示す最適条件は、実際の照明・WD・ワーク高さと一致するとは限りません。候補のF値を変え、上下限のワーク高さで最小特徴が写るか、ライン速度でぶれないかを同時に試験します。
色の違いを読むならカラー画像と色温度、反射を抑えるなら偏光、透過や輪郭を取るならバックライトというように、照明側の設計とレンズ側の波長・フィルタ・口径を一緒に決めます。照明を後から交換した場合、画像の明るさだけでなく収差、焦点、歪みの校正条件が変わることがあります。リングライトがレンズ外径に取り付けられるか、保護窓で不要反射が出ないかも確認します。照明選定の具体論は前述の関連記事に譲りますが、レンズを別発注する場合も撮像条件の責任者を一人決めます。
ライン速度が高い工程では、静止サンプルのきれいな画像より、動作中の限界品を優先します。露光時間、ストロボ発光、トリガー遅れ、搬送方向に対するワークの向きを記録し、同じ条件で候補を撮り比べます。フォーカス調整後はリング位置をマーキングするだけでなく、ロック機構と振動試験で保持を確かめます。日勤・夜勤、照明交換直後と一定時間運転後、清掃後の差もSATの条件に入れます。
タイ工場向けRFPに何を書くか
RFPはカタログ番号を指定する文書ではなく、サプライヤーが同じ条件で提案と試験を行うための文書です。発注側は合否に使うサンプルを準備し、機密保持の扱い、画像利用範囲、返却方法を決めます。限界品が少なければ、量産流出を防いだうえで模擬サンプルを作り、その限界を明記します。写真だけでは光沢、透明度、表面の微細凹凸が再現されないので、現物または現場撮像を要求します。
提案依頼には、必要視野とWDの許容範囲、カメラの型式と有効センサー寸法、マウント、照明波長、ワーク高さ範囲、最小特徴、判定速度、設置空間、保護窓とフィルタを入れます。レンズ候補ごとに、推奨絞り、対応イメージサークル、MTF・歪みの評価条件、フォーカス・絞りロック方式、アダプタとブラケットの部品表、交換部品の手配方法を求めます。見積はレンズ単価だけでなく、照明・治具・校正・現地立上げ・保守部品を含む構成で比較します。未確認事項には「要試験」を明記してもらい、推定値を保証値のように扱わないようにします。
| RFPの欄 | 最低限の記載例 | 受け取る証拠 |
|---|---|---|
| 撮像目的 | 寸法測定または欠品検出を明記 | 良・不良・限界サンプルの画像 |
| 光学幾何 | FOV、WD、高さ上下限、センサー対角 | 配置図、候補レンズ構成図 |
| 画質 | 最小特徴、全視野での判定条件 | 中心・四隅の元画像、試験条件 |
| 測定 | 許容誤差、校正方法、再校正条件 | 基準片データ、残差表 |
| 機械 | 外形、質量、ロック、保護窓、交換手順 | 3Dモデル、部品表、作業手順 |
| 運用 | 予備品、保守、教育、変更管理 | 保守計画、言語別手順書 |
複数のサプライヤーへ問い合わせる場合は、質問と回答を全候補に同じ版で共有します。ある業者だけが最新のワーク図を持つと比較が崩れます。現地でタイ語の保全手順が必要なら納品物に指定し、日本側の品質担当が確認する測定結果は日本語または英語でも読める形式にします。タイの代理店在庫や納期を断定せず、提案時点の供給状況と代替機種の手配条件を提示してもらいます。
レンズ専用の受入マトリクスを作る
RFPの「画質良好」「測定可能」という表現は、FATとSATで何を見ればよいかを決められません。検査システム全体の良否判定に加え、レンズと設置に起因する要素を切り出した受入マトリクスを作ります。以下は書式例であり、数値の合格値は各工場の製品公差と検査目的から決めます。例として、幅80 mmのワークに位置余白を加えて水平FOVを100 mmと見込む工程なら、受入表のFOV欄にその設計前提を書き、採用センサー、撮影高さ、品種とワーク位置の上下限を添えます。この100 mmは本文中の説明用仮定で、別の製品に流用する標準値ではありません。
| レンズ側の確認項目 | FATで残す証拠 | SATで追加する確認 | 不合格時の切り分け |
|---|---|---|---|
| 視野の全域 | 最大ワークと位置ずれ限界の元画像 | 量産搬送中に四隅で欠けない画像 | 治具位置、WD、焦点距離を分けて確認 |
| 最小特徴の見え方 | 良・不良・限界品を同じ露光で撮影 | ライン速度と品種切替後に再撮影 | フォーカス、絞り、照明、動きぶれを分離 |
| 周辺の品質 | 中央・四隅の基準ターゲット画像 | 現地の保護窓を通して再評価 | イメージサークル、窓反射、取付角を確認 |
| 寸法の残差 | 校正板・基準片の測定表 | 現地で再校正し同じ位置で測定 | WD、歪み補正、倍率変化を確認 |
| 保持と再現 | リングロック後の再撮影画像 | 振動・清掃・再起動後の画像 | ロック、ブラケット、交換手順を確認 |
マトリクスの各行には合格基準だけでなく、試験に使った物理サンプルのID、カメラ設定、照明設定、レンズの型番とシリアル番号、撮影時刻、判定者を記入します。画像をJPEGだけで圧縮保存すると微細な傷のコントラストが比較しにくい場合があるため、評価に使った元画像形式と処理済み画像を分けて保存します。測定用途なら基準片の実測値と校正ファイルの版を紐づけます。合格画像も残すのは、次に同じ設備を増設するときの比較基準になるからです。
FATで「レンズ起因か、照明・治具起因か」が曖昧な不合格が出たら、原因を断定して部品を交換する前に、一つずつ条件を固定して再撮影します。たとえば四隅だけ暗い場合は、イメージサークルの不足だけでなく保護窓やリングライトの反射、機械的なケラレも候補です。高さを変えたときだけ寸法がずれる場合は、ワークの姿勢、WD、校正面、レンズの倍率特性を見比べます。問題を切り分けたら、対策後に同じ限界品と同じ表を使って再試験します。別のサンプルで「改善した」と判断すると、受入基準そのものが動いてしまいます。
SATの判定では、工場で毎日再現できる試験だけを残すことも重要です。高度な校正板による詳細測定は立上げ時と部品交換後に行い、日常点検では代表的な限界品、焦点位置の目印、照明状態、画像の四隅を確認するなど、作業者が実行できる項目に整理します。日常点検で逸脱が見つかったときに設備を止める条件、品質が再判定する対象ロット、保全が再校正する順序をあらかじめ決めます。これにより受入時の光学性能と量産中の維持管理が同じ記録でつながります。
マトリクスは「検査する」と書くだけでは完結しません。合格値がまだ決まっていない欄は空白のまま発注せず、誰が、どの品質規格・顧客要求から値を決めるかを指定します。たとえば寸法測定なら製品の公差をそのままレンズ誤差の許容値にするのではなく、治具、校正、画像処理を含む誤差配分を検討します。有無判定なら、どの限界サンプルで見逃しと過検出を確かめるかを決めます。契約前に証拠の提出形式、再試験回数、合格判定者も決めておくと、現地設置後に「どちらの基準で合格とするか」を話し直さずに済みます。
タイの現地立上げでは、撮影した画像と表の保管先も決めます。設備PCにだけ保存すると、装置交換や担当者異動で比較資料が失われます。工場の権限管理に従い、製品型式、設備番号、撮影条件、試験日、承認版を索引にして保存してください。元画像は後からコントラスト調整や歪み補正をやり直せる状態で残し、顧客の製品情報を含む場合はアクセス範囲を限定します。数か月後に不良率の変化を調べる際、「過去の合格画像」と現在の画像を同じ条件で比較できることが、原因分析の出発点になります。
また、受入表の責任範囲を明確にします。カメラ・レンズ・照明を別の会社から買う場合、画像が暗い、四隅がぼける、寸法がずれるといった事象を一社だけの責任と決めつけられません。統合担当が組み合わせ全体の試験を主導し、各メーカーは自社部品の仕様と試験条件を提供する形にします。設備側ではブラケットの剛性と設置位置、品質側では限界サンプルと判定値を担当するなど、試験項目ごとに主担当と協力者を明記します。役割をRFPの段階で共有すると、FATで見つかった不具合をSATまで持ち越しにくくなります。
FATとSATでレンズをどう受け入れるか
FATは出荷前の工場受入試験、SATは設置後の現地受入試験です。まず同じ基準サンプルと限界品を使う試験計画を作り、カメラ設定、照明、絞り、WD、画像処理バージョンを固定します。静止画像の中央だけではなく、視野四隅、ワーク位置・高さの上下限、量産速度で撮ります。レンズの焦点合わせが可能だったというだけでなく、必要な欠陥や輪郭が判定できるかを合否にします。測定系なら校正板・基準片の証明書と、許容誤差に対する実測残差を記録します。
FATで良好でも、現地の振動、周囲光、取り付け角、エア配管、保護窓、清掃方法で画像は変わります。SATではライン停止時と稼働時の画像を取り、シフトや品種の代表条件を含めます。フォーカス・絞りのロック、ブラケットの再現位置、ケーブルの引き回し、清掃後の再立上げ手順も点検します。合否の閾値は契約前に数値または具体的な判定基準で合意し、変更を要する項目は責任者と再試験日を記録します。「画像がきれい」は受入基準になりません。

受入記録には、不合格画像だけでなく合格の限界品画像と元画像を残します。後でNG増加が起きたとき、レンズ汚れ、照明劣化、フォーカスずれ、ワーク位置変化、製品仕様変更を切り分けられます。レンズ交換後に同じ校正と限界品試験を繰り返す手順を保全へ引き継ぎます。交換レンズの型番が同じでも、フォーカスと取り付け位置は再確認します。検査能力を維持する運用まで含めて、調達完了と考えます。
現場でよくある失敗と防ぎ方
「カメラは高画素だからレンズも十分」と判断する失敗は、画面端のMTFとイメージサークルの未確認から起きます。「焦点距離は計算済みだから入る」と判断する失敗は、レンズ胴長・WDの起点・保護窓を図面に入れないためです。「歪みはソフトで補正できる」は、校正条件を変えた後の残差や処理時間を見ていない場合に危険です。「テレセントリックなら全部解決」は、対象視野と筐体径、必要光量、設置スペースを見落とします。対策は、仕様書の値を記録するだけでなく、その値に対応する現物試験と受入証拠をRFPから要求することです。
もう一つの失敗は、光学担当と設備担当、品質担当で測定の言葉が違うことです。「精度」を画素ピッチ、画像上の再現性、実寸法の絶対誤差、検査の正答率のどれとして使うか明示します。「分解能」もセンサー画素数とレンズの空間周波数を混同しません。検査項目ごとに必要な出力を決め、測定なら単位と校正、判定なら良否の限界と誤判定の許容を記します。タイの現地立上げで通訳を挟む場合は、FOV、WD、倍率、歪みの用語集を図付きで共有すると認識違いを減らせます。
比較表は性能値と確認済み範囲を分ける
候補比較表には、メーカーの公称値、代理店の回答、実ワークで確認した値を別列に置きます。たとえば「歪みが小さい」という回答だけでは、評価した視野範囲、波長、WD、計算方法が分かりません。MTF曲線も、その条件を揃えて初めて比較できます。納期や保証範囲については回答日と回答者を残し、量産発注の前に再確認します。性能と調達条件を一つの点数にまとめる場合も、測定誤差の必須条件を満たさない候補を価格で救済しないよう、必須項目と加点項目を分けます。
変更管理では、レンズ型番、製造ロット、カメラ設定、照明、ブラケット、校正ファイルを一組の構成として記録します。どれかを交換したら再試験範囲を判断できるようにするためです。量産時に別レンズを使う可能性があるなら、代替品を候補表に書くだけでなく、同じ限界品を撮った画像と寸法残差を残します。初号機で確認した条件が二号機以降にも再現されるか、治具の取付位置とフォーカス固定方法まで標準化します。この記録は、設備をタイ国内の別拠点へ移設するときにも役立ちます。
マシンビジョンレンズ選定の実行順序
第一に、実ワークと判定限界品で観測すべき特徴を決めます。第二に、ワーク寸法と位置ばらつきから必要視野を決め、機械配置からWD範囲を定めます。第三に、採用カメラの有効センサー寸法、画素ピッチ、マウントを確定し、概算ツールで候補焦点距離を絞ります。第四に、イメージサークル、MTF、歪み、絞り、波長、外形と供給条件で候補を比較します。第五に、同じサンプルと照明条件の実画像で通常レンズとテレセントリックを必要に応じて比較します。最後に、RFPで合否基準を固定してFAT・SATで証拠を残します。
レンズの調達は「型番が決まった日」では終わりません。現地の振動や清掃、品種切替後にも同じ撮像条件を再現できる設計と手順が必要です。問い合わせ前に完璧な仕様を作る必要はありませんが、未確定の入力を隠さず、選定の前提として共有してください。候補の比較に使える同一条件のサンプル画像を作ることが、結果的に最も早い絞り込みです。
よくある質問:産業用カメラのレンズ選び方
視野・作動距離・焦点距離はどの順番で決めますか?
対象全体と位置ばらつきを含む必要視野を先に決め、設備内で確保できるWDを図面で決めます。その後にセンサー有効寸法を入れて焦点距離を概算し、実レンズのデータシートと現物撮像で修正します。式だけで型番を確定しません。
テレセントリックレンズは寸法測定なら必須ですか?
必須ではありません。ワーク高さの変動、許容誤差、通常レンズでの校正残差を比較して判断します。治具で高さが安定し、通常レンズが受入基準を満たす場合もあります。高さ変動に伴う倍率差が支配的な場合はテレセントリックを試験候補にします。
レンズの「対応メガピクセル」が同じなら画質も同じですか?
同じとは言えません。画面中心と周辺のMTF、評価する空間周波数、絞り、WD、照明波長、センサーの画素ピッチで結果が変わります。カタログ表示は候補を減らす目安とし、限界品の元画像で比較します。
FATで合格したらタイ工場のSATを省略できますか?
省略すると、現地の振動、外光、取り付け角、保護窓、清掃後の位置ずれを確認できません。FATと同じ基準サンプルを使い、SATでは量産速度と代表的なシフト・品種条件も加えます。
まとめ
マシンビジョンレンズは、視野・作動距離・センサー寸法・画素ピッチ・イメージサークルを整合させ、MTF、歪み、絞り、高さ変動、設置条件を実画像で検証して選びます。固定焦点とテレセントリックの優劣を一般論で決めず、検査目的と許容誤差を同じサンプルで比較してください。RFPに試験条件と証拠を記し、FATとタイ工場のSATをつなぐことが、調達後の手戻りを減らします。
タイ工場の検査工程で、必要視野やWDは分かるもののレンズ候補や受入基準をまだ絞れない段階でも、TOMAS TECHへご相談ください。ワーク、限界サンプル、設置図のある範囲から撮像条件と比較項目を整理できます。
参考情報
- Basler: Bringing it All into Focus: Finding the Right Lens for Your Vision System(更新日2026-02-02。マウント、イメージサークル、焦点距離、解像、絞りの選定順序)
- Edmund Optics: Imaging System Parameter Calculator(FOV、WD、センサー寸法、倍率の概算とその限界)
- Edmund Optics: Distortion(幾何歪み、波長・WD依存、表示法の違い)
- Schneider-Kreuznach: Optical Engineering Toolkit(レンズ、アダプタ、被写界深度の設計ツール)
- Schneider-Kreuznach: What Is Lens MTF?(MTF曲線の読み方)
- Edmund Optics: Types of Machine Vision Lenses(レンズ方式の分類)