タイの日系機械加工工場で工作機械 稼働監視を始めようとすると、最初に「MTConnect と umati のどちらにするか」という問いが出てきます。けれども、メーカーも年式も違う CNC が数十台並ぶ現場では、この問いの立て方そのものが遠回りです。新しい機械は標準のインターフェースで多くの情報を出せますが、15年前の機械からは表示灯の色くらいしか取れないこともあります。取れる信号の深さは機械ごとに違う。これが出発点です。
この記事の主張は一つです。工作機械の稼働監視は「どの規格を選ぶか」の問題ではなく、「何を稼働とみなすか」という状態の定義を工場で一つに揃え、そのうえで取得方式を機械ごとに割り当てる設計の問題です。規格は手段であり、受入試験で確かめるべきは「定義どおりの状態が、どの機械でも同じ意味で記録されるか」です。
以下では、生産技術課長、保全課長、工場長が社内で判断材料をそろえられるよう、状態定義、MTConnect、umati(OPC UA for Machine Tools)、制御装置メーカー独自のインターフェース、後付けの信号、ネットワークとセキュリティ、費用の考え方、RFP の項目、FAT/SAT の確認点、タイ固有の論点を順に整理します。なお、記事中のモデル工場の台数、時間、金額、回収年数はすべてこの記事のために置いた仮の数字です。業界平均でも調査値でもメーカーの価格でもありません。
なぜ今、タイ工場で工作機械の稼働監視が問われるのか
2026年の後半、タイの機械加工工場を取り巻く数字には、方向の違う材料が並んでいます。
まず生産の数字です。タイ工業連盟(FTI)の発表によると、2026年8月のタイの自動車(四輪)生産は124,646台で、前年同月比10.9%増でした。増加の要因として、乗用 BEV の生産が前年比77%超、輸出向けピックアップが18%超増えたことが挙げられています。同じ月の国内販売は25.59%増、輸出は2.04%減です。二輪車は別の統計で、2026年8月の生産は194,642台(前年同月比6.9%増)、1〜8月の累計は1,658,772台と FTI は発表しています。
一方で、FTI は2026年通年の四輪生産の見通しを、従来の3%増から前年比3.33%減へ下方修正しました。理由は中東情勢による輸出の減少です。これは予測であり、確定値ではありません。単月は伸びても、通年では先が読みにくい。自動車部品や金型の加工工場にとっては、受注の波に合わせて、限られた台数の機械をどれだけ無駄なく回せるかが問われる状況です。
次に投資の数字です。タイ投資委員会(BOI)の「スマート&サステナブル産業への高度化措置」(2023年導入)には、2023年から2026年上半期までに1,397件、1,460億バーツを超える申請がありました。これは全国籍、全業種の合計です。日系企業に限ると、同じ期間の申請は400件超、550億バーツ超と報じられています。
また、同じ報道が引用する在タイ日系企業向けの調査(2026年上半期実施、回答504社、うち2026年の投資計画に答えたのは432社)では、既存機械を新しい設備に更新する計画が59%(256社)、生産効率の改善が31%(132社)、DX 投資が22%(96社)でした。割合の母数は432社です。この調査をどの団体が実施したかは、記事の中では明示されていません。
更新や効率改善を計画している工場は少なくありません。ただ、機械を新しくする前に、今ある機械が実際にどれだけ動いているかを正しく測れていないと、どの機械を更新し、どこに手を入れるべきかを判断できません。日報や目視の稼働率は、記入の粒度も、停止の理由の書き方も、人によって違います。工作機械の稼働率の見える化は、投資判断の前提をそろえる作業でもあります。OEE の測り方そのものの考え方は「OEE改善2026|設備総合効率が上がらないのは測り方が甘いから」で詳しく扱っています。
工作機械 稼働監視とは:何を取れば「稼働」がわかるか
最初に決めるのは「状態の定義」
工作機械 稼働監視の仕組みを選ぶ前に、工場として「どの状態を何と呼ぶか」を決めます。よくある分け方は次の五つです。
| 状態 | 意味(この記事での定義例) | 判定に使う信号の例 |
|---|---|---|
| 運転 | 自動運転で加工プログラムが実行されている | 実行状態が ACTIVE、かつモードが AUTOMATIC |
| 停止(理由未入力) | 電源は入っているが加工していない | 実行状態が READY や STOPPED、送り保持など |
| 段取り | 段取り、試し削り、プログラム修正 | モードが MANUAL や EDIT、または作業者の入力 |
| アラーム | 異常で止まっている | アラームの発生、非常停止の作動 |
| 計画停止 | 休憩、計画保全、受注が無い時間 | 生産計画またはカレンダーとの突き合わせ |
ここで大事なのは、表の右の列が機械ごとに違ってよい、という点です。ある機械は実行状態とモードで「運転」を判定し、別の古い機械は表示灯の緑で判定する。判定に使う信号は違っても、左の列の「運転」が同じ意味になっていれば、工場全体の稼働率を足し合わせて比べることができます。逆に、規格を一つに統一しても、「送り保持中は運転に数えるのか」「プログラム終了後に扉を開けて部品を取り出している時間は何か」が決まっていなければ、機械ごとに数字の意味がずれます。
規格にある状態の語彙
MTConnect の Streams スキーマ(v2.7)には、状態を表すデータ項目と取り得る値が定義されています。たとえば Execution(実行状態)には READY、ACTIVE、INTERRUPTED、FEED_HOLD、STOPPED、OPTIONAL_STOP、PROGRAM_STOPPED、PROGRAM_COMPLETED、WAIT、PROGRAM_OPTIONAL_STOP、UNAVAILABLE があります。ControllerMode(制御装置のモード)には AUTOMATIC、MANUAL、MANUAL_DATA_INPUT、SEMI_AUTOMATIC、EDIT などがあり、Availability は AVAILABLE と UNAVAILABLE、EmergencyStop は ARMED、TRIGGERED、UNAVAILABLE です。加えて PartCount(部品数)、Program、Block、Line、PathFeedrate、SpindleSpeed、RotaryVelocity といった要素もスキーマに定義されています。
この語彙は、自社の状態定義を作るときの下敷きとして便利です。たとえば「運転」を「Execution が ACTIVE、かつ ControllerMode が AUTOMATIC」と書いておけば、MTConnect に対応した機械では判定のルールがそのまま決まります。umati(OPC UA for Machine Tools)でも、後で触れるように機械の運転モードやジョブの状態を表す型が用意されています。違う規格の語彙を、自社の五つの状態にどう対応させるかを表にしておくのが実務の第一歩です。
KPI の定義は規格を参照しつつ、自社で書く
稼働率や OEE の定義については、ISO 22400-2:2014(製造オペレーション管理の KPI、第2部:定義と説明)があります。KPI を式、要素、時間の扱い、単位などで定義する規格で、2017年に追補(Amd 1:2017)が出ています。ただし、この規格は改訂作業中です。2024年9月17日時点で改訂版 ISO/DIS 22400-2 がステージ 40.99 にあり、2014年版と追補を置き換える予定とされています。2025年版や2026年版の発行は確認できていません。
RFP や社内規程で「稼働率は ISO 22400-2 に従う」とだけ書くと、版の扱いと、どの要素をどの信号で測るかが曖昧になります。規格は参照にとどめ、自社の定義は「どの状態の時間を、どの時間で割るか」を式で書いておくのが安全です。

図:工場で揃える五つの状態(運転、停止、段取り、アラーム、計画停止)と、状態の間の遷移の例。判定に使う信号は機械ごとに違ってよいが、状態の意味は全機で同じにする。
MTConnect とは:仕組みと MTConnect 導入の要点
規格の版とソフトウェアの版は別物
MTConnect は工作機械などの製造装置のデータを、共通の語彙で読み出すための規格です。MTConnect® は米国の AMT(The Association For Manufacturing Technology)の登録商標です。
規格(情報モデル)の最新版は、MTConnect 公式 GitHub のリリースで「Version 2.7(February 2026)」とされ、採択日は2026年2月16日です。直前の版は Version 2.6(2025年9月、採択日2025年9月1日)でした。v2.0 以降は、SysML で記述されたモデルが規範となる情報モデルで、文書はそこから生成されるという位置付けです。
注意したいのは、規格の版と、参照実装のソフトウェアの版が別の番号で動いていることです。MTConnect Institute が公開している C++ のエージェント(cppagent)の最新リリースは v2.8.0.3(2026年9月25日公開)で、Ruby によるデータ変換の不具合修正、大きなモジュールのリファクタリング、Alpine Linux で長い URL を扱うときのスタックの問題の修正が含まれています。その前の v2.8.0.1(2026年9月3日)では、リソースリークの修正、ファイルディスクリプタとメモリの監視機能の追加、生成時刻のマイクロ秒精度化が行われました。これはソフトウェアの版です。提案書に「MTConnect 2.8 対応」と書かれていたら、規格の版のことかエージェントの版のことかを確認してください。
ANSI 規格として確認できるのは v1.4.0(ANSI/MTC1.4-2018)です。v2.x の ANSI 承認の状況は確認できていないため、v2.x を ANSI 規格と書いた提案書があれば根拠を尋ねる価値があります。
仕組み:アダプタとエージェント
cppagent の README によると、構成は次のようになります。
- 入力:エージェントは SHDR、JSON、MQTT など複数の入力方式に対応します。CNC からは SHDR アダプタ、IoT センサーなどからは MQTT で取り込むのが基本です
- SHDR:MTConnect 固有のテキスト形式のプロトコルで、時刻付きのキーと値の組をプレーンな TCP で流します。README では CNC アダプタの最も一般的な入力と位置付けられています
- 出力:REST の HTTP で
/probe(機械の構成)、/current(現在値)、/sample(履歴)、/assets(工具などの資産情報)を返します。MQTT での出力も可能です - 伝送:HTTP、WebSockets、TLS、MQTT が記載されています
つまり、機械ごとに「CNC の内部データを SHDR に変換するアダプタ」が必要で、その先にエージェントがあり、上位のシステムはエージェントから読み出す、という二段構えです。エージェント(cppagent)自体は Apache License 2.0 のオープンソースなので、エージェントのライセンス費はかかりません。ただし、各 CNC メーカーのアダプタや制御装置側のオプションは別の話で、機種ごとに条件を確認する必要があります。
読み取り専用という性質
cppagent の README には、エージェントは一方向で読み取り専用の情報モデルであり、機械へ指令を送り返さないと明記されています。稼働監視の目的では、この性質がそのまま安全側の設計になります。監視システムから制御装置へ書き込む経路を最初から持たない構成にできるからです。
OPC UA との橋渡し
MTConnect と OPC UA は対立するものではありません。OPC Foundation には、MTConnect の機器モデルを OPC UA で表すコンパニオン仕様 OPC 30070-1「MTConnect Devices」があり、V2.00(2019年1月15日)、V2.00.1(2020年6月25日)がリリースされています(閲覧には登録が必要です)。
MTConnect 導入で最初に確認すること
- 機械(制御装置)ごとに、MTConnect のアダプタがメーカーから提供されているか、別途用意が必要か
- アダプタを動かすための PC やゲートウェイが機械側に必要か
- 自社の状態定義に必要なデータ項目(Execution、ControllerMode、PartCount、アラームなど)が、その機械で実際に出てくるか
- エージェントをどこに置き、誰が版を管理するか
umati(OPC UA for Machine Tools)とは:MTConnect との違い
規格の名前と範囲
umati OPC UA for Machine Tools と呼ばれるものの中心は、OPC Foundation の仕様 OPC 40501-1「OPC UA for Machine Tools – Part 1: Machine Monitoring and Job Management」です。OPC Foundation のリファレンスでは、現行版は Release 1.02.0(2024年11月1日)で、2026年10月9日時点で1.03以降の版は掲載されていません。
仕様のスコープは「工作機械を表す OPC UA の情報モデルを規定する」というもので、目的は、異なるメーカー、異なる技術の工作機械を MES、SCADA、ERP、分析システムへ容易に統合することだとされています。OPC 40501-1 は OPC 40001-1(OPC UA for Machinery)の上に構築されています。
仕様を作ったのは OPC Foundation と VDW(ドイツ工作機械工業会)です。仕様書の中で VDW は約290社のドイツの工作機械企業を代表すると記載されています。
umati という取り組み
VDW の公式ページでは、umati(universal machine technology interface)は「機械製造業とその顧客のためのオープンな通信インターフェースのグローバルな取り組み」と定義されています。同じページには、約25のコンパニオン仕様が公開済みで、さらに30が開発中とあります。これは工作機械に限らない、機械業界全体の OPC UA コンパニオン仕様の数です。umati は2017年に VDW が主導して始めた取り組みです。
仕様に含まれるもの
OPC 40501-1 v1.02 の目次から、稼働監視に関係の深い部分を拾うと次のとおりです。
- ユースケース:異なるメーカーの機械の識別、生産稼働中かどうかの概観、ジョブ内のパーツ、ジョブのランタイム、機械の状態、今後の手作業、エラーと警告、KPI 計算用データの提供(5.8)、工具データの概観など
- 監視(Monitoring):チャネルや主軸の監視、機械の運転モードを表す状態機械(MachineOperationModeStateMachineType)など
- 生産(Production):ジョブの一覧、ジョブ、プログラム、パーツ、生産統計などの型
- 用語:積層表示灯(Stacklight)、アラート、チャネル、ジョブ、プログラムなど
KPI 計算用のデータ提供がユースケースとして明記されている点は、稼働率の見える化を目的とする工場にとって分かりやすい手がかりです。ただし、KPI の式そのものを工場で決める必要があるのは MTConnect の場合と同じです。
MTConnect との違い
| 観点 | MTConnect | umati(OPC UA for Machine Tools) |
|---|---|---|
| 規格の土台 | MTConnect 独自の情報モデル(v2.x は SysML モデルが正本) | OPC UA の情報モデル(OPC 40001-1 の上に構築) |
| 現行版 | Version 2.7(2026年2月採択) | OPC 40501-1 Release 1.02.0(2024年11月) |
| 典型的な構成 | 機械ごとのアダプタ → エージェント → REST や MQTT で読み出し | 機械側(または近く)の OPC UA サーバ → OPC UA クライアントで読み出し |
| 書き込み | エージェントは読み取り専用と README に明記 | OPC UA の権限設定しだい(製品ごとに確認) |
| 稼働監視に関係する部分 | Execution、ControllerMode、PartCount など | 運転モードの状態機械、ジョブ、生産統計、KPI 用データ |
| 策定 | MTConnect Institute(AMT の商標) | OPC Foundation と VDW |
どちらが優れているかではなく、自社の機械がどちらを出せるか、上位のシステムがどちらを受けやすいかで決まります。
メーカーの対応表明と展示会
三菱電機の欧州法人は、2019年9月の EMO 2019(ハノーバー)で、50社を超える工作機械メーカーとの umati 共同ライブデモに参加し、umati を支援すると表明しました。これは2019年時点の欧州法人の発表です。現在の M800 や M80 で、どの型式、どのオプション条件で umati のサーバ機能が使えるかは、メーカーに確認してください。
なお、第33回日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2026)は、2026年10月26日(月)から31日(土)までの6日間、東京ビッグサイトで開催される予定です(主催:日本工作機械工業会、東京ビッグサイト)。工作機械メーカーが集まる場なので、棚卸しで出てきた疑問を各社に直接尋ねる機会として使えます。ただし、どの会社がどの接続方式を展示するかは、この記事では確認していません。
制御装置メーカー独自インターフェースと後付けセンサー(古い機械への対応)
標準規格に対応していない機械や、標準規格では取りたい情報が足りない機械には、制御装置メーカー独自のインターフェースか、後付けの信号を使います。以下は各社の公式資料で確認できた範囲です。
FANUC
- FOCAS2 Library:Windows アプリを開発するためのライブラリで、Ethernet または HSSB で FANUC の CNC と通信します。メーカーの記載では、軸と主軸、工具寿命管理、CNC ファイル、サーボと主軸のデータ、診断、アラーム、オペレータメッセージなどを読み書きできます。価格は掲載されていません
- ネットワーク機能:FANUC Series 30i/31i/32i-MODEL B Plus では、FOCAS/Ethernet、FL-net、EtherNet/IP、PROFINET のネットワーク機能が標準搭載と同社の新製品ページに記載されています。これは 30i/31i/32i-B Plus についての記載です。ほかの機種や旧機種で同じ条件かは、機種ごとに確認が必要です
- FANUC MTConnect Server:CNC のデータを MTConnect の XML に変換するソフトで、FANUC MTConnect Adapter と標準の MTConnect エージェントが同梱されています。対応 CNC は Series 30i/31i/32i-MODEL A、同 MODEL B、0i-MODEL D、0i-MODEL F と記載されています。機械側に PC(産業用、組込み、標準の PC。Windows 7 または 10)が必要です。価格は掲載されておらず、無料トライアルの申込フォームがあります
- MT-LINKi:工場向けの稼働監視ソフトで、メーカーは1台から2,000台まで監視、管理できるとしています(メーカー公称)。PC と Ethernet で収集し、FANUC の CNC に加えてロボットや PLC などに OPC UA サーバのプロトコルで接続でき、旧型の FANUC CNC の一部は Ethernet コンバータ経由で接続できると説明されています。閲覧は Web やタブレットです。価格は掲載されていません
FOCAS2 が「読み書き可能」である点は、セキュリティの節で改めて取り上げます。
Okuma
Okuma は「Okuma Connect Plan」を公表しており、機械の状態、保守の状態、加工プログラムの履歴、操作の履歴、アラームの履歴を Web ブラウザでグラフ表示するとしています。プレスリリースの要約によれば、OSP suite 対応機のほか FANUC 機や MTConnect 対応機にも対応するとされています。旧型機向けには「OKUMA NETBOX suite-C」(稼働状態の簡易取得)、「suite-P」(非対応の他社プロトコル向け)、「suite-S」(ファイアウォールと不正接続の防止)という製品名が挙がっています。対応機種の条件などの詳細は、メーカーに確認してください。価格は公開されていません。
HEIDENHAIN
HEIDENHAIN の「OPC UA NC Server」は、同社のブローシャ(09/2022版)によると、TNC7(NC ソフト 81762x-16 以降)、TNC 640(34059x-10 以降)、TNC 620(81760x-08 以降)に対応します。ソフトウェアオプション56〜61のそれぞれが1つのアプリの接続に対応し、合わせて最大6つの OPC UA アプリを接続できます。OPC UA 対応のアプリとネットワークに接続した機械があれば、90日間の試用を1回できるとされています。
セキュリティについては、Security Mode が SignAndEncrypt、Security Policy が Basic256Sha256、ユーザー認証が X.509 v3 の証明書で、HEIDENHAIN Connection Assistant で証明書による接続を設定します。認証、認可、暗号化はドイツ連邦情報セキュリティ庁(BSI)の推奨に適合するとメーカーは説明しています(メーカー主張)。機能としては、プログラムの終了や中断などのイベント、保守や故障のメッセージ、NC プログラムからのカスタムメッセージの通知、NC プログラムの転送、工具データの転送が挙げられ、OPC UA はゲートウェイで MQTT や REST に変換できるとも書かれています。これは2022年のブローシャの内容なので、最新版で条件が変わっていないかは確認してください。
Siemens、三菱電機、Mazak、DMG MORI
これらのメーカーの制御装置や機械の OPC UA、MTConnect、umati への対応条件は、今回の調査では公式資料の本文で確認できませんでした。機種、ソフトウェアの版、必要なオプションによって条件が変わる可能性があるため、棚卸しの段階で機械メーカーと制御装置メーカーに書面で確認することをお勧めします。
後付けの信号(レトロフィット)
制御装置からデータを取り出せない古い機械や、オプションの追加が割に合わない機械では、機械の外側から信号を取ります。代表的なのは次の三つです。
- 表示灯の信号:積層表示灯の赤、黄、緑の点灯を取り出して状態を推定する
- 電流の信号:主軸モーターや機械全体の電流を電流センサーで測り、閾値で運転と停止を分ける
- 接点の信号:サイクルスタートや扉の開閉、部品カウント用の接点を取り出す
後付けの信号は、どのメーカーの機械にも付けられる反面、取れる情報は浅くなります。プログラム番号やアラームの内容は分からず、「加工しているらしい」ことまでしか分からない場合もあります。それでも、状態定義の「運転」と「停止」さえ同じ意味で判定できれば、工場全体の稼働率の計算に入れられます。停止の理由は作業者の入力で補います。電流の閾値の決め方と受入試験は「電流センサーで稼働監視を導入|閾値設計とタイ工場のRFP・受入試験」で詳しく扱っています。
4方式の比較表と、機械ごとの割り当て方
比較表
| 観点 | MTConnect | umati(OPC UA for Machine Tools) | 制御装置メーカー独自API | 後付け信号 |
|---|---|---|---|---|
| 取れる情報の深さ | 実行状態、モード、部品数、プログラム、送り、主軸回転など(機械が出す項目による) | 運転モード、ジョブ、プログラム、生産統計、KPI 用データなど(実装による) | 深い。メーカーによってはアラームや診断、工具寿命まで | 浅い。運転と停止の推定が中心 |
| 異なるメーカーの機械をそろえやすいか | 語彙が共通なのでそろえやすい | 語彙が共通なのでそろえやすい | メーカーごとに作り分けが必要 | 方式は共通だが判定の閾値は機械ごと |
| 機械側に必要なもの | アダプタ(メーカー提供または別途)、場合により PC | 制御装置の OPC UA サーバ機能(オプションの場合あり) | 制御装置の通信機能、開発や収集のソフト | センサー、入力ユニット、配線 |
| 書き込みの可能性 | エージェントは読み取り専用 | 権限設定しだい | 読み書きできる API がある(例:FOCAS2) | 原理上、制御装置に書き込まない |
| 古い機械への対応 | アダプタがあれば可能 | 制御装置の型式、ソフトウェアの版、オプションしだい(要確認) | 機種と年式しだい | どの機械にも付けられる |
| 主な確認先 | 機械メーカー、制御装置メーカー、SIer | 機械メーカー、制御装置メーカー | 制御装置メーカー | SIer、電気工事 |
機械ごとに割り当てる手順
- 棚卸しの表を作る:機械ごとに、機械メーカー、型式、制御装置のメーカーと型式、年式、ソフトウェアの版、オプションの有無、Ethernet の口の有無、設置場所を一覧にします
- 状態定義に必要な最低限の信号を決める:五つの状態を判定するのに最低限必要な信号(例:実行状態とモード、または表示灯の色)を決めます
- 各機械で使える方式を書き出す:その機械で MTConnect、umati、独自 API、後付け信号のどれが使えるかを、メーカーへの確認結果とともに書きます
- 一番浅くて足りる方式を選ぶ:深い情報が取れる方式が最適な場合もあれば、そうでない場合もあります。状態定義に足りるなら、構成が単純で保守しやすい方式を選びます。工具寿命やアラームの内容まで取りたい機械だけ、深い方式を選びます
- 方式の数を絞る:方式が増えるほど、保守する人の負担が増えます。工場全体で2〜3方式に収まるように調整します
複数の方式を一つの画面にまとめるときは、間にゲートウェイを置いて、MQTT や OPC UA などの共通の形に変換する構成がよく使われます。ゲートウェイの選び方と受入試験は「産業用プロトコルゲートウェイ選定|RFP・FAT・SAT実務」を参照してください。

図:4方式の取得アーキテクチャの例。MTConnect(アダプタとエージェント)、umati(OPC UA サーバ)、制御装置メーカー独自 API(収集ソフト)、後付け信号(センサーと入力ユニット)を、OT ネットワークの中のゲートウェイで共通の形にまとめ、ファイアウォールの先の上位システムへ渡す。
CNC データ収集のネットワーク設計とセキュリティ
監視のための接続が攻撃の入口にならないように
CNC データ収集のために機械をネットワークにつなぐと、それまで孤立していた制御装置に外から届く経路ができます。実際に、米国の CISA は工作機械の制御装置について複数のアドバイザリを出しています。
- ICSA-26-078-05(三菱電機 CNC シリーズ、Update A):CVE-2025-2399、CVSS v3 の基本値は5.9。悪用されると遠隔の攻撃者が境界外の読み取りを起こし、サービス拒否(DoS)に至るおそれがあります。対象は M800VW、M800VS、M80V、M80VW(BB 以前)、M800W、M800S、M80、M80W、E80(FM 以前)、C80(全バージョン)、M750VW、M730VW、M720VW、M750VS、M730VS、M720VS、M70V、E70(LJ 以前)などです。2026年3月10日に三菱電機のアドバイザリが初版として出され、2026年3月19日に CISA が再公開し、2026年8月27日に Update A が出ています。緩和策は、ファイアウォールや VPN の使用、LAN 内での使用と信頼できないネットワークからの遮断、IP フィルタ、修正版への更新(M800VW、M800VS、M80V、M80VW は BC 以降、M800、M80、E80 は FN 以降、M700V、M70V、E70 は LK 以降)です
- ICSA-23-208-03(三菱電機 CNC シリーズ、Update E):CVE-2023-3346、古典的なバッファオーバーフローで、CVSS v3 の基本値は9.8。特殊なパケットによって DoS や悪意あるコードの実行のおそれがあります。初版は2023年7月27日、Update E は2024年1月30日です。アドバイザリでは、三菱電機の緩和策としてファイアウォールや VPN の使用、接続する PC へのウイルス対策、LAN 内での使用と信頼できないネットワークからの遮断、物理的なアクセスの制限が挙げられ、CISA は制御系の機器をインターネットから到達できないようにすることを推奨しています
型式とソフトウェアの版の正確な対象範囲は、それぞれのアドバイザリの原文で確認してください。ここで言いたいのは、特定のメーカーが危ないということではなく、稼働監視のために制御装置をネットワークにつなぐ以上、こうしたアドバイザリを前提に設計する必要があるということです。
設計の原則
- OT ネットワークを分ける:工作機械と収集用の機器を置く OT 側のネットワークと、事務所 LAN の間にファイアウォールを置き、通してよい通信を一覧(ルール表)にして承認します
- 読み取り専用を基本にする:監視の目的なら、制御装置へ書き込む経路は持たないのが原則です。MTConnect のエージェントは読み取り専用の設計です。一方、FOCAS2 のように読み書きできる API もあるため、使う場合は監視用のプログラムが書き込み機能を使わないことを、RFP と受入試験で確かめます。NC プログラムの転送のように書き込みが必要な用途は、監視とは別の仕組みとして分けて扱います
- 暗号化と認証を使う:HEIDENHAIN の OPC UA NC Server のように証明書による認証と暗号化を選べる製品では、それを使う設定にします。証明書の有効期限と更新の手順も決めておきます
- 制御装置のソフトウェアの版を管理する:アドバイザリの対象かどうかは版で決まります。棚卸しの表に版を書き、更新の計画を持ちます
- 時刻をそろえる:状態の切り替わりを機械どうしで比べるには、収集機器の時刻が合っている必要があります。時刻のずれは受入試験の項目に入れます
SIer に求める体制
IEC 62443 には、システムのセキュリティ要件とセキュリティレベルを定める IEC 62443-3-3(2013)と、産業用自動制御システムのサービスプロバイダ向けのセキュリティプログラム要件を定める IEC 62443-2-4(最新は2023年版)があります。2-4 は、インテグレーションや保守を行うサービスプロバイダ(SIer)に求める要件として、リモートアクセス、パッチ、バックアップなどを扱います。RFP では、SIer に 2-4 を踏まえた体制(遠隔保守の手順、作業用 PC の管理、バックアップ)を説明してもらうのが一つの方法です。その前提として、監視対象の機械と通信の経路を図面に描いておきます。
費用と回収の考え方(モデル試算)
ここからはモデル試算です。以下の数字はすべてこの記事が独自に置いた仮の数字で、業界平均でも調査値でもメーカーの価格でもありません。 今回調べた範囲では、FOCAS2、FANUC MTConnect Server、MT-LINKi、Okuma Connect Plan、HEIDENHAIN OPC UA NC Server のいずれも価格が公開されていませんでした。自社で検討するときは、自社の記録と見積に置き換えてください。
モデル工場Pの前提
- タイの日系の精密加工工場。CNC 工作機械が30台あり、メーカーと年式が混在している
- 1台あたりの計画稼働時間は1日16時間(2直)、年300日。1台あたり年4,800時間、30台で年144,000時間
- 現状は日報と目視で稼働を把握している。プログラム終了後の放置、材料待ち、検査待ちなどの「気づかれない停止」が、どれだけあるかは正確には分かっていない
方式の割り当てと初期費用(仮置き)
| 方式 | 台数 | 1台あたりの初期費用(仮) | 小計 |
|---|---|---|---|
| MTConnect(アダプタとエージェント) | 8台 | THB 60,000 | 8 × 60,000 = THB 480,000 |
| umati(OPC UA)対応機の接続 | 4台 | THB 60,000 | 4 × 60,000 = THB 240,000 |
| 制御装置メーカー独自API | 10台 | THB 50,000 | 10 × 50,000 = THB 500,000 |
| 後付け信号(表示灯、電流) | 8台 | THB 40,000 | 8 × 40,000 = THB 320,000 |
| 機械ごとの費用の合計 | 30台 | ― | THB 1,540,000 |
| 共通費用(収集サーバ、OT ネットワークの分離、画面、FAT/SAT、教育) | ― | ― | THB 1,160,000 |
| 初期費用の合計 | ― | ― | THB 2,700,000 |
台数の合計は 8 + 4 + 10 + 8 = 30台、機械ごとの費用は 480,000 + 240,000 + 500,000 + 320,000 = THB 1,540,000、初期費用の合計は 1,540,000 + 1,160,000 = THB 2,700,000 です。運用費(保守、ライセンス、サーバの維持)は年 THB 270,000 と置きます。
効果の置き方:比べる世界は一つだけ
効果は、「稼働監視を入れなかった場合の同じ工場」と比べた差分だけを数えます。比べる相手(反実仮想)は、受注量も人員も今と同じで、稼働監視だけが無い、ただ一つの世界です。
稼働監視を入れると、気づかれない停止が画面とアラートで見えるようになり、1台あたり1日0.3時間の加工時間を取り戻せると仮定します。
- 取り戻せる時間:0.3時間 × 300日 × 30台 = 年2,700時間(計画稼働時間144,000時間の約1.9%)
- 取り戻した1時間の価値:THB 500(仮置き。追加で加工できる仕事がある場合の1時間あたりの限界利益として置く)
- 年間の効果:2,700時間 × THB 500 = THB 1,350,000
- 運用費を引いた年間の正味の効果:1,350,000 − 270,000 = THB 1,080,000
- 単純回収年数:2,700,000 ÷ 1,080,000 = 2.5年
前提が半分なら
取り戻せる時間が1台あたり1日0.15時間(上の半分)だった場合も計算しておきます。
- 取り戻せる時間:0.15時間 × 300日 × 30台 = 年1,350時間
- 年間の効果:1,350時間 × THB 500 = THB 675,000
- 運用費を引いた正味の効果:675,000 − 270,000 = THB 405,000
- 単純回収年数:2,700,000 ÷ 405,000 = 約6.7年
回収年数は、取り戻せる時間の仮定で2.5年から約6.7年まで大きく変わります。さらに、取り戻した時間に載せる仕事が無ければ、1時間の価値はゼロになり、この効果は生まれません。受注が減る局面では、効果は「増産」ではなく「残業や休日出勤の削減」など別の形で数える必要があり、その場合は別の単価で計算し直します。

図:モデル工場Pの試算。初期費用 THB 2,700,000 の内訳(4方式と共通費用)と、取り戻せる時間が1台1日0.3時間の場合(単純回収2.5年)と0.15時間の場合(約6.7年)の比較。いずれもこの記事の仮置き値による。
二重計上をしないための注意
- 稼働率の向上と取り戻した時間を両方足さない:計画稼働時間を分母とする稼働率が約1.9ポイント上がったことと、2,700時間を取り戻したことは、同じ出来事の言い換えです。どちらか一方だけを金額にします
- ベースラインは稼働監視を入れた後に測る:導入前の「気づかれない停止」は、そもそも測れていません。導入直後の1か月を現状値(ベースライン)として記録し、その後の改善を差分として数えます。この現状値は「稼働監視が無い世界」の代わりとして使う近似で、導入直後の1か月に出た改善は効果に数えない、保守的な数え方です。試算の0.3時間も、この現状値からの差分として読み替えてください。日報の稼働率を現状値にすると、日報が見落としていた停止まで「改善」に数えてしまいます
- 日報の集計工数の削減は今回の金額に入れていない:入れる場合は、停止理由の入力という新しい作業が増える分を差し引いた、正味の工数で数えます
- 品質や工具寿命の効果も入れていない:入れる場合はそれぞれ別の記録を根拠にします。根拠のない効果を足すと、同じ時間を二度数えることになりがちです
工作機械 稼働監視の RFP に書く項目
SIer や機械メーカーに見積を依頼する際、次の12項目を RFP に入れておくと、提案を比べやすく、受入もしやすくなります。
| No. | 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|---|
| 1 | 機械の棚卸し表 | 全機の機械メーカー、型式、制御装置の型式、年式、ソフトウェアの版、オプションの有無、通信口。提案側に確認結果を書き戻させる |
| 2 | 状態の定義 | 五つの状態の定義と、機械ごとの判定ルール(どの信号のどの値で判定するか) |
| 3 | 方式の割り当て | 機械ごとに MTConnect、umati、独自 API、後付け信号のどれを使うか。理由と、必要なオプションや PC |
| 4 | 取得するデータ項目と周期 | 状態、部品数、プログラム番号、アラームなど。項目ごとの取得周期 |
| 5 | 規格とソフトウェアの版 | MTConnect の規格の版とエージェントの版、OPC 40501-1 の版、制御装置のソフトウェアの版を分けて書かせる |
| 6 | 書き込み権限の扱い | 監視システムから制御装置へ書き込まないこと。書き込み可能な API を使う場合の制限方法 |
| 7 | ネットワークとセキュリティ | OT ネットワークの分離、ファイアウォールのルール表、証明書の運用、関連するアドバイザリへの対応方針 |
| 8 | 欠測と時刻 | 通信が切れたときのデータの扱い(バッファ、再送、欠測の表示)、時刻の同期方法 |
| 9 | 停止理由の入力 | 作業者が理由を入力する画面、言語(タイ語、英語、日本語)、入力しなかったときの扱い |
| 10 | 稼働率の計算式と出力 | 稼働率や OEE の式、上位システム(MES、ERP、ヒストリアン)への出力形式 |
| 11 | FAT/SAT の項目と合否基準 | 次の節の項目をもとにした試験の内容、合否の基準、記録の様式 |
| 12 | 保守体制と文書 | 現地での保守窓口、遠隔保守の手順、IEC 62443-2-4 を踏まえた体制の説明、手順書、教育 |
項目5は、前述のとおり MTConnect の規格の版とエージェントの版が別々の番号で動いているためです。項目6は、監視のための接続が制御装置への書き込みの経路にならないようにするためです。項目8は、欠測が多いと稼働率の数字そのものが信用されなくなるため、最初から仕様に入れておきます。
FAT/SAT で確認すること
以下は受入試験の項目例です。時間や件数はこの記事の仮置きの目標例で、規格の値ではありません。
FAT(工場出荷前、または事前の検証環境で)
- [ ] 状態定義の実装:五つの状態の判定ルールが、機械の種類(方式)ごとに設定どおり実装されている
- [ ] 状態遷移の突合:代表機を方式ごとに1台選び、運転、送り保持、プログラム終了、手動操作、アラーム、非常停止を実際に起こして、画面の状態が意図どおりに変わる
- [ ] 部品数の一致:一定数(例:20個)を加工し、画面の部品数と実際の数が一致する
- [ ] 欠測の扱い:収集機器のケーブルを抜く、電源を切るなどして、欠測が「停止」ではなく「欠測」として記録され、復帰後に再送やバッファのデータが正しく埋まる
- [ ] 時刻:収集機器どうしの時刻のずれが合否基準(例:1秒以内)に収まる
- [ ] 書き込みの禁止:監視システムの権限で制御装置への書き込みができないことを確かめる
- [ ] 通信の暗号化と認証:証明書を使う方式では、未登録のクライアントが接続できない
SAT(現地据付後)
- [ ] 全機の状態の突合:一定期間(例:2直を3日間)、全30台について、画面の状態の記録と、作業者や班長の記録、または動画を突き合わせ、状態の判定の誤りを機械ごとに数える
- [ ] 停止理由の入力:作業者が実際に理由を入力でき、言語の表示が正しい
- [ ] ネットワークの境界:ファイアウォールのルール表どおりの通信だけが通る
- [ ] 上位システムへの出力:稼働率が計算式どおりに出力され、手計算と一致する
- [ ] 文書と教育:タイ語と英語の手順書、構成図、機械ごとの判定ルール表、復旧手順がそろい、保全担当者が教育を受けている
- [ ] 稼働後30日の記録:欠測の件数、状態の誤判定の件数、停止理由の未入力率を記録し、改善の計画につなげる
SAT で最も時間がかかるのは、状態の突合です。特に後付け信号の機械では、閾値の設定によって「運転」と「停止」の境目がずれやすく、ここで見つかった誤りを潰しておかないと、稼働率の数字が信用されません。停止を後から再現して分析できるログの残し方は「設備 稼働ログ 取得|停止分析を再現可能にする受入テスト設計」もあわせて参照してください。
タイと ASEAN に固有の論点
1. 生産国の違う機械が混在している
タイの機械加工工場では、日本製の機械と、欧州やアジアのほかの国の機械が同じ職場に並んでいることがあります。umati はドイツの VDW が主導した取り組みで、MTConnect は米国の AMT の商標です。どちらに強く対応しているかは機械メーカーによって違う可能性があります。だからこそ、規格を一つに決め打ちせず、機械ごとに方式を割り当てる考え方が効いてきます。
2. 機械メーカーの現地代理店ごとに回答の質が違う
制御装置のオプションの有無やソフトウェアの版は、現地の代理店に聞いても即答できないことがあります。棚卸しの表の項目を固定して書面で確認し、回答の出どころ(日本本社、現地法人、代理店)を記録しておくと、後で条件が違ったときに追いかけられます。
3. 作業者の言語と入力の習慣
停止理由の入力は、作業者が使う言語で表示されないと定着しません。タイ語、英語、日本語の3言語の表示と、入力しやすい理由の数(多すぎない選択肢)を最初に設計します。入力率は SAT 後の30日の記録で追います。
4. BOI の効率改善措置
BOI の「既存プロジェクト向け効率改善措置」(投資奨励ガイド2023)では、次の条件が示されています。稼働中の既存事業であること(BOI の奨励の有無は問わない)、BOI の奨励事業の場合は法人税の免除期間が終了しているか付与されていないこと、投資額が100万バーツ以上であること(土地代と運転資金はこの金額に含めない)です。サブ措置には「1.1 機械の更新と自動化」「1.2 デジタル技術の導入」「1.3 Industry 4.0 への転換」などがあります。
1.1 の恩典は、機械の輸入関税の免除と、3年間の法人税の免除(上限は効率改善の投資額の50%)で、タイの自動化産業とのつながりが更新する機械の価額の30%以上なら上限は100%になります。1.1 では、機械や設備と一体で製造工程を制御、監視、支援するソフトウェアや IT への投資も算入の対象とされています。1.2 のデジタル技術の導入は、組織の内外で連携するソフトウェアや情報システム(資源管理のための機能が少なくとも三つ)などが対象です。
なお、1.1 と 1.2 では「一般自動車製造(Activity 3.6)」などが対象外の活動とされています。対象外のリストには自動車部品の製造の記載はありません。ただし、実際に恩典が適用されるかどうかは BOI が個別に判断します。また、この内容は2023年のガイドの記載時点のもので、2026年10月時点の受付期限や最新の改定は確認できていません。利用を考える場合は、受付期限内かどうかも含めて BOI や専門家に確認してください。
5. 遠隔保守と機械メーカーの接続
日本や海外の機械メーカーが遠隔で保守をする場合、その接続が OT ネットワークのどこに入るのかを図面にし、ファイアウォールのルール表に載せます。稼働監視のために作った経路が、そのまま遠隔保守の経路として常時開いている、という状態は避けます。
6. 他拠点への横展開
タイで作った状態定義、棚卸しの表、方式の割り当ての考え方、FAT/SAT の項目は、ベトナムなどほかの拠点でもそのまま使えます。同じ定義を使えば、拠点どうしの稼働率を同じ意味で比べられます。ただし、優遇制度や法令は国ごとに違うため、各国で個別に確認してください。
よくある質問
MTConnect とは何ですか?導入には何が必要ですか?
MTConnect は工作機械などの製造装置のデータを共通の語彙で読み出すための規格で、最新の規格の版は Version 2.7(2026年2月採択)です。MTConnect 導入には、機械ごとに CNC のデータを変換するアダプタと、データを集めて REST や MQTT で提供するエージェントが必要です。参照実装のエージェント(cppagent)は Apache License 2.0 のオープンソースですが、各メーカーのアダプタや制御装置のオプションの条件は機種ごとに確認してください。
umati と MTConnect の違いは何ですか?
umati の中心となる OPC UA for Machine Tools(OPC 40501-1、現行は Release 1.02.0)は OPC UA の上に作られた情報モデルで、OPC Foundation と VDW が策定しました。MTConnect は MTConnect Institute の独自の情報モデルで、エージェントが読み取り専用でデータを提供します。どちらも異なるメーカーの機械を共通の語彙で扱う点は同じで、選ぶ基準は、自社の機械がどちらを出せるかと、上位のシステムがどちらを受けやすいかです。
古い工作機械でも稼働監視はできますか?
できます。制御装置からデータを取り出せない機械でも、表示灯、電流、接点の信号を後付けで取れば、運転と停止を判定できます。ただし取れる情報は浅く、プログラム番号やアラームの内容は分からないことが多いので、停止の理由は作業者の入力で補います。制御装置メーカーによっては旧型機向けの接続手段を用意している場合もあるため、まずメーカーに確認してください。
CNC データ収集で、制御装置に悪影響が出ることはありませんか?
監視の目的なら、制御装置に書き込まない構成にするのが原則です。MTConnect のエージェントは読み取り専用の設計ですが、FOCAS2 のように読み書きできる API もあるため、書き込み機能を使わないことを RFP で指定し、受入試験で確かめます。また、CISA は工作機械の制御装置について複数のアドバイザリを出しているため、OT ネットワークの分離、ファイアウォール、ソフトウェアの版の管理を最初から設計に入れてください。
工作機械 稼働監視の費用はどのくらいかかりますか?
今回調べた主要な製品では価格が公開されておらず、機械の台数、方式の組み合わせ、ネットワークの状態によって大きく変わります。この記事のモデル試算(仮の数字)では、30台の工場で初期費用 THB 2,700,000、年間の運用費 THB 270,000 と置き、取り戻せる時間の仮定によって単純回収年数は2.5年から約6.7年まで変わりました。自社の見積と、導入後に測った現状値で計算し直すことをお勧めします。
工作機械の稼働率の見える化は、どこから始めればよいですか?
機械の棚卸しと、状態の定義から始めます。全機の制御装置の型式、年式、オプション、通信口を一覧にし、「運転」「停止」「段取り」「アラーム」「計画停止」をどの信号で判定するかを決めます。そのうえで、方式ごとに代表機を1台ずつ選んで試し、状態の判定が意図どおりになることを確かめてから、全機に広げるのが手戻りの少ない進め方です。
まとめ
工作機械 稼働監視は、MTConnect か umati かという規格の選択から始めると、古い機械や対応していない機械の扱いで行き詰まります。先に工場として「何を稼働とみなすか」という五つの状態の定義を一つに揃え、機械ごとに MTConnect、umati(OPC UA for Machine Tools)、制御装置メーカー独自の API、後付けの信号を割り当てる。こう考えると、規格は目的ではなく手段として位置付けられます。
規格の版とソフトウェアの版を分けて確認し、監視のための接続が制御装置への書き込みや攻撃の経路にならないよう、OT ネットワークの分離と読み取り専用の構成を基本にします。費用対効果は、取り戻せる時間の仮定と、その時間に載せる仕事があるかで大きく変わるため、導入後に測った現状値で計算し直す前提で考えます。そして受入試験では、定義どおりの状態がどの機械でも同じ意味で記録されるかを、状態の突合、部品数、欠測、時刻、停止理由の入力で一つずつ確かめていきます。
機械の棚卸しや状態定義の整理、方式の割り当ての検討、RFP や受入基準づくりといった初期の段階からでも、TOMAS TECH にご相談いただけます。メーカーや年式の違う機械が並ぶタイの工場の実情に合わせて、どこから手を付けるかを一緒に整理します。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。
参考情報
- MTConnect:Version 2.7 のリリース(GitHub、2026年2月)
- MTConnect:規格の版の履歴(GitHub)
- MTConnect:cppagent v2.8.0.3 のリリース(2026年9月25日)
- MTConnect:cppagent v2.8.0.1 のリリース(2026年9月3日)
- MTConnect:cppagent(README とライセンス)
- MTConnect:スキーマ(MTConnectStreams_2.7.xsd)
- MTConnect:v1.4.0 ANSI 版(ANSI/MTC1.4-2018)
- AMT:MTConnect Institute の ANSI 認定に関する記事
- OPC Foundation:OPC 30070-1 MTConnect Devices
- OPC Foundation:OPC 40501-1 の版情報
- OPC Foundation:OPC UA for Machine Tools リファレンス
- OPC Foundation:OPC 40501-1 v1.02 のスコープと目次
- VDW:umati の紹介
- 三菱電機(欧州):EMO 2019 での umati 支援の発表(2019年9月16日)
- 東京ビッグサイト:JIMTOF 2026 の開催案内(2026年6月19日)
- FANUC America:FOCAS2 Library
- FANUC:Series 30i/31i/32i-MODEL B Plus の新製品情報
- FANUC America:FANUC MTConnect Server
- FANUC America:MT-LINKi
- Okuma:Connect Plan のプレスリリース
- HEIDENHAIN:OPC UA NC Server ブローシャ(09/2022)
- MarkLines:タイの2026年8月の四輪生産(2026年9月28日)
- Capital.com:タイの8月の自動車生産と FTI の通年予測(2026年9月28日)
- MarkLines:タイの二輪生産(2026年9月28日)
- Nation Thailand:BOI スマート&サステナブル措置の申請状況(2026年8月13日)
- MGR Online:日系企業の生産拠点高度化と BOI、JETRO、JCC の会合(2026年8月17日)
- BOI:Smart and Sustainable Industry(投資奨励ガイド2023)
- ISO 22400-2:2014 のプロジェクト情報
- ISO/DIS 22400-2 のプロジェクト情報
- CISA:ICSA-26-078-05 三菱電機 CNC シリーズ(Update A)
- CISA:ICSA-23-208-03 三菱電機 CNC シリーズ(Update E)
- GlobalSpec:IEC 62443-2-4:2023