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2026.10.16

KY活動のAI導入|危険予知を多言語で支える設計とRFP

KY活動のAI導入|危険予知を多言語で支える設計とRFP

はじめに:KY活動のAI導入で先に決める3つのこと

KY活動のAI導入を検討する前に、現場の悩みを整理しておきます。朝礼のあとに班ごとにKYシートを書き、指差し呼称をしてから作業に入る。日本本社流のこの習慣をタイの工場で続けている日系企業でも、「毎朝同じ危険ばかり書かれていて形だけになっている」「タイ人やミャンマー人の作業者に、日本語やタイ語の資料だけでは伝わっているか分からない」「段取り替えや清掃、保全、閉所での作業になると、危険の洗い出しが職長の経験頼みになる」「KYシートが紙のままで、災害時に当日のKYを追えない」といった声が聞かれます。

タイの労災の規模も確認しておきます。タイ社会保障事務所(SSO)の労災補償基金事務所がまとめた報告書によると、労災補償基金の適用労働者を対象とした業務上の負傷・疾病は、2567年(2024年)に87,728件でした。このうち死亡は595件です。同じ報告書では、2563〜2567年の5年平均(全業種)で、原因の最多が「物による切れ・刺され」(23.88%)、負傷部位の最多が手の指(30.40%)とされています。指を切る・刺すといった危険は、作業前のKYで日々取り上げられてきたテーマの一つだと考えます。

こうした課題に生成AIをどう使うか。本記事では、KY活動にAIを入れるとき、先に決めるのはツールの名前ではなく、次の3つだと考えます。

  1. 分担:AIは危険の候補出しと対策案の列挙、多言語化を受け持つ。危険のポイントの絞り込みと「私たちはこうする」の決定は、職長とチームが行う。
  2. 根拠:作業手順書、設備の仕様、SDS、過去の災害やヒヤリハット、これまでのKYの記録をAIに参照させ、出した危険ごとに出典を示させる。根拠が古い候補や根拠の無い候補は、人が却下できるようにする。
  3. 確認:RFP・PoC・受入試験で、「見落とし(出なかった危険)」「誤った対策(出たが間違っている対策)」「言語(作業者が理解できたか)」を別々に数えて記録する。

KY活動とは何か:KYT・4ラウンド法とJHA

KY活動(危険予知活動)は、作業に潜む危険を作業前に職場の仲間と話し合って見つけ、対策を決めて実行する活動で、その訓練手法がKYT(危険予知訓練)です。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の用語解説によると、KYTは「危険・予知・訓練」の頭文字をとったもので、職場や作業に潜む危険要因を発見・把握・解決する手法として、ゼロ災運動と結びついています。

同じ用語解説によると、KYTの基本は次の4ラウンド法です。

  • 1R「どんな危険がひそんでいるか」:潜んでいる危険を出し合う
  • 2R「これが危険のポイントだ」:重要な危険を絞り込み、指差し唱和で確認する
  • 3R「あなたならどうする」:絞り込んだ危険への対策案を出す
  • 4R「私たちはこうする」:重点実施項目とチーム行動目標を決める

この4ラウンド法に、安全確認の手段である指差し呼称を組み合わせたものが標準とされています。

英語圏では、似た考え方がJHA(Job Hazard Analysis)やJSA(Job Safety Analysis)と呼ばれます。米国労働安全衛生局(OSHA)の手引き「Job Hazard Analysis」(Publication 3071、2002年改訂版)は、JHAを作業タスクに着目して危険を事前に特定する手法とし、作業者・タスク・道具・作業環境の関係に焦点を当てると説明しています。KYTはチームでの話し合いに、JHAは作業をステップに分解した文書化に重きがあると考えます。

KY活動はリスクアセスメントとも関係します。厚生労働省の「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年3月10日公示)は、危険性・有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定とリスク低減措置の検討、その実施という流れを定めています。リスクアセスメントが変更時などの「計画段階の評価」なら、KY活動はその日の条件で危険を確かめ直す「作業直前の確認」にあたると考えます。

国際規格では、二次情報によると、ISO 45001:2018 の6.1.2が危険源の特定を、5.4が労働者の協議と参加を扱っています。KY活動は、危険源の特定に労働者が参加する仕組みの一つと考えます。

KY活動にAIを使うと何が変わるのか

生成AIをKY活動に使うといっても、できることは大きく4つに分けられると考えます。

  1. 危険の候補出し:作業内容、設備、場所を入力すると、AIが考えられる危険を一覧で出す。
  2. 対策案の列挙:絞り込んだ危険に対して、手順書や過去の対策をもとに対策案を並べる。
  3. 多言語化:KYシートの内容や行動目標を、タイ語・ミャンマー語など作業者の言語に訳し、読み上げる。
  4. 記録:KYシートを電子化し、話し合いを音声で記録し、作業・日付・設備で検索できるようにする。

4の記録は、AIを使わない「KYシートの電子化」だけでも、検索や災害時の追跡に役立つと考えます。生成AIの価値は、記録された過去のKYや災害の情報を、次のKYの候補出しに使えるところにあると考えます。

本記事が扱うのは、作業を始める前の、テキストや音声による対話の支援です。カメラ映像で保護具の未着用などを検知する方法は「工場AIカメラで保護具着用を検知する導入ガイド」で扱っています。起きた後のヒヤリハット報告の分類・集計は「ヒヤリハットのAI分析導入|タイ工場の多言語報告と受入試験」で整理しています。映像監視を含む安全管理AIの全体像は「安全管理 AI 工場|検知の後ろを設計する3層モデルと5類型」をご覧ください。作業姿勢の評価は「工場の人間工学評価AI導入|RULA・REBAとカメラ受入基準」にまとめています。これらに対しKY活動は、作業前に「これから起こりうること」を人が想像し、合意する活動です。

背骨①:AIと人の分担をKYTの4ラウンドで決める

最初に決めるべきは「どのラウンドをAIに手伝わせ、どのラウンドを人が行うか」だと考えます。この整理は手法の構造から当社が推論したもので、厚生労働省の資料などに書かれた主張ではありません。

ラウンドやることAIの役割人の役割
1R どんな危険がひそんでいるか潜んでいる危険を出し合う手順書・設備情報・過去の災害やヒヤリハットをもとに、危険の候補を出典つきで列挙する職長とチームが候補を読み、現場の今日の条件(人・設備・天候・混在作業)で足りない危険を加える
2R これが危険のポイントだ重要な危険を絞り込み、指差し唱和で確認する行わない(1Rで出した候補と出典を表示するだけにとどめる)チームが話し合って絞り込み、その場の言語で指差し唱和する
3R あなたならどうする対策案を出す手順書や過去の対策をもとに対策案を列挙し、根拠を示す現場で実行できるか、手順書と矛盾しないかを確かめ、案を加える
4R 私たちはこうする重点実施項目とチーム行動目標を決める行わない(決まった内容の多言語化と記録だけを担う)チームで合意し、職長が確定する

要点は、AIに「考える材料を増やす」役割を与え、「決める」役割を与えないことです。1Rと3Rは案が多いほど良いラウンドで、見当違いの候補は人が外せば済みます。2Rと4Rは、チームが自分たちの言葉で危険を確かめ、行動を約束するラウンドです。ここをAIの出力に置き換えると、作業者は「AIが決めたこと」を読み上げるだけになり、危険への感受性を高めるというKY活動の目的が弱まると考えます。

KY活動のAI導入|危険予知を多言語で支える設計とRFP - figure 1

もう一つの要点は、職長がAIの候補のどれを採用・却下し、何を加えたかを画面とログに残すことです。AIの出力をそのまま印刷して署名欄だけを埋める運用では、紙のKYシートの形骸化をAIで速くしただけになりかねません。

制度は「人が決める」前提で書かれている

日本とタイの制度は、もともと「現場の人が危険を洗い出し、事業者が決めて実施する」という分担で書かれていると考えます。

日本の厚生労働省のリスクアセスメント指針は、実施体制として、作業内容を詳しく把握している職長等に、危険性の特定・リスクの見積り・リスク低減措置の検討を行わせるよう努めることを定めています(4(1)エ)。そのうえで施行通達は、「リスク低減措置の決定及び実施は、事業者の責任において実施されるべき」なので、職長等に行わせる事項には含めていない、と説明しています。職長等が担うのは「検討」までで、AIはさらにその手前の「検討の材料」を出す位置にあると考えます。

タイの労働安全衛生環境法 B.E.2554(2011年)は、英訳によると、事業者に次のような義務を課しています。

条文(英訳による)内容KY活動との関係
第14条危険のある条件で働かせる場合、作業から生じうる危険を労働者に告知し、作業手順書を全員に配布する。時期は作業開始前、作業変更時、作業場所変更時作業前に危険を伝える義務は事業者にある。AIの出力は伝える内容の下書きにとどまる
第16条経営者・監督者・労働者に安全衛生環境の研修を行う。雇入れ、作業変更、作業場所変更、機械設備の変更の際は作業開始前に全員へ研修する非定常作業や設備変更の前のKYは研修の機会にもなる
第21条監督者は、有害となりうる欠陥・損傷を知ったとき、自分の責任範囲で直ちに防止措置を取る職長がKYで気づいた危険への対応は監督者の責任
第32条事業者は危険性評価などを行い、局長に提出する(対象業種・規模・方法は大臣告示で定める)KYの記録は危険性評価の見直しの材料になる

この英訳はプリンス・オブ・ソンクラー大学掲載の非公式訳で、法的な引用にはタイ語原文の確認が必要です。

職長の役割については、省令「安全担当者・要員・部署・人の集まりの設置」B.E.2565(2022年、2565年6月17日官報掲載)が具体的です。この省令は、職位に応じた安全担当者を職長級と管理職級の2区分に分けています(ข้อ6)。職長級安全担当者(จป.หัวหน้างาน、職長が兼ねる安全担当者)の職務(ข้อ9)には、(1) 安全手順書の遵守を監督する、(2) 担当部署の作業を分析し、危険やリスクを初期段階で洗い出す、(4) 正しい作業方法を教える、(5) 毎日の作業前に機械・工具・設備の安全状態を点検する、などがあります。(2) は技術級以上の安全担当者と共同で行うこともできます。こうした職長級の職務、とくに (2) の危険の洗い出しは、KY活動そのものだと考えます。AIで候補出しを支援しても、この職務は職長から移りません。

省令は安全委員会も定めています。労働者50人以上の事業所は、人数要件を満たしてから30日以内に安全委員会を設置し(ข้อ25)、委員会は安全手順書の検討などを事業者に提出し、少なくとも月1回会議を開きます(ข้อ32・ข้อ33)。AIの導入方針や参照させる手順書の範囲は、安全委員会の議題に適していると考えます。

EU向けの製品や機械を扱う工場では、EUのAI法(Regulation (EU) 2024/1689)も参考になります。第14条(4)は、監督者がAIの能力と限界を理解し、出力に自動的に頼る傾向(自動化バイアス)に注意し、出力を正しく解釈し、使わない判断もできるようにすることを求めています。AIを安全部品として使う場合は、第6条(1)の2条件(附属書Iの整合法令の対象製品の安全部品か製品そのものであること、その製品が第三者適合性評価を要すること)を両方満たすと高リスクになりえます。KY支援AIがこれに当たるかは個別の判断で、本記事では断定しません。タイの工場にEU AI法が直接適用されるという意味でもなく、「人が限界を理解し、使わない判断もできる」という考え方を設計の参考にする位置づけです。

研究から分かるLLM単独の限界

生成AIがどの程度の危険を拾えるかについての研究は、どれも条件が限られており、数値をそのまま製造業のKYに当てはめることはできません。条件と並べて整理します。

研究条件分かったこと使い方の注意
ISARC 2025(Chaudharyほか)建設作業の画像16枚、専門家17人のパネルが特定した危険120件を正解とし、5つのLLMを学習なし・指針なしのゼロショットで評価16枚の平均で再現率(Recall)は全体で0.30。モデル別の再現率は0.29〜0.33。著者は、この条件ではLLMはあまり良い性能を示さなかったと結論建設・画像入力・ゼロショットでの値。テキストのKYや製造業の見落とし率ではない
CIB Conferences 2026(Lawaniほか)英国の大学院生25人の作業時点リスクアセスメントと、ChatGPTが作成した1件を比べたパイロット研究危険の種類は学生21種類、AI20種類。AIは学生が見逃した9種類を挙げ、学生はAIが見逃した10種類を挙げた。著者は現時点では人による監督が必要と結論学生とAIの出力1件の比較。相補的になりうることの定性的な裏づけにとどめる
Sammourほか(arXiv、2024年)米国の安全専門家資格(BCSP)試験の385問GPT-4oの正答率は84.6%。安全マネジメントシステムと危険の特定・管理の領域は比較的よくでき、計算・緊急時対応・防火の領域は弱かった。プロンプトの違いで正答率が変わった知識問題の正答率で、現場の危険特定やKYの精度ではない

これらから「AIは危険を○割見落とす」といった一般的な数字は言えません。製造業のテキストのKYやJHAで見落としを数えた査読論文は、今回の調査では見つかりませんでした。言えるのは次の2点だと考えます。

1つ目は、根拠を与えずにLLMに危険を挙げさせると、少なくとも一部の条件では見落としが大きいということです。ISARCの研究は画像入力ですが、手順書も過去の災害も与えないゼロショットという条件は、「作業名だけを入れてKYシートを作らせる」使い方と似ていると考えます。

2つ目は、AIと人は互いに相手の見逃した危険を挙げうるということです。AIを「人の代わり」ではなく「もう一人の視点」として1Rに加える分担は、CIBのパイロット研究の結果とも矛盾しないと考えます。

米国国立標準技術研究所(NIST)の生成AIプロファイル「NIST AI 600-1」(2024年7月)は、confabulationを「自信をもって述べられた誤った内容の生成」と定義し、俗にhallucinationとも呼ばれるとしています。NISTによると、confabulationは生成モデルの設計の自然な結果で、根拠づけの論理や引用までconfabulateすることがあり、人の過信を招きます。KYでいえば、もっともらしい対策が実は自社の手順書と矛盾している、という形で現れると考えます。

背骨②:根拠を参照させ、出典を示させる設計

見落としともっともらしい誤りへの対策として、本記事では、AIに自社の資料を参照させ、危険や対策ごとに出典を示させる設計を勧めます。何を参照させるかは、厚生労働省の指針が調査で入手すべき情報として7(1)で挙げる項目が手がかりになります。施行通達の説明と合わせ、KY支援AIの参照データに読み替えると次のようになります。

指針・通達の項目主な内容AIに参照させるデータの例
7(1)ア 作業標準・作業手順書等作業の手順と注意事項最新版の作業手順書・作業標準書
7(1)イ 仕様書・SDS等機械設備の仕様、化学物質の危険有害性設備の取扱説明書、SDS
7(1)ウ 機械設備のレイアウト等設備の配置ライン配置図、通路と保管場所の図
7(1)エ 作業環境測定結果等作業環境の状態作業環境測定の結果
7(1)オ 混在作業の情報複数の事業者や部署が同じ場所で働く状況協力会社の作業予定、構内工事の予定
7(1)カ 災害事例・災害統計等通達7(3)カにより、事業場内の災害事例、ヒヤリハット、トラブル記録、労働者が日常不安を感じている作業などを含む自社の災害報告、ヒヤリハット報告、設備トラブル記録
7(1)キ その他通達7(3)キにより、危険予知活動(KYT)の実施結果、職場巡視結果などを含む過去のKYシート、安全パトロールの指摘事項

指針は、非定常作業の資料も含めることを求めています。OSHAの手引きも、JHAの始め方として「災害履歴を見直す(ヒヤリハットを含む)」ことを挙げています。

ヒヤリハット報告を参照させるには、報告が作業・設備・場所で検索できる形になっている必要があります。報告の分類や集計は「ヒヤリハットのAI分析導入」で扱っています。

NIST AI 600-1は、confabulationへの対応として、導入前のリスク測定と継続的なモニタリングの中で、出力中の出典と引用をレビューし検証することを挙げています(MS-2.5-003)。RAG(検索拡張生成)や業務ルールなど人のドメイン知識をどこまで使ったかの記録(MS-2.5-002)、RAGのデータが根拠に基づいていることの検証(MS-2.5-005)も挙げています。KY支援AIでは、次のような画面の要件になると考えます。

  • 危険の候補と対策案の1件ごとに、参照した文書名・版・該当箇所を表示する
  • 参照した文書が無い候補(AIの一般知識から出た候補)は、それと分かる表示にする
  • 職長が「根拠が古い」「根拠が無い」「この現場には当てはまらない」として却下でき、その理由を記録できる

参照させる手順書が最新版かどうかも重要です。旧版を回答に使わせない仕組みは「工場RAGの文書版管理を導入する方法|旧版回答を防ぐ要件と検収」で整理しています。手順書が整っていない作業は、AIで手順書を作成し、承認して現場と照合する進め方を「製造業の作業標準書をAIで作成・導入する方法|承認と現場照合まで」で整理しています。

非定常作業と作業許可:AIの支援が効きやすい場面

AIの候補出しが役立ちやすいのは非定常作業だと考えます。段取り替え、清掃、保全、設備の故障対応、閉所での作業は頻度が低く、職長の経験に差が出やすいからです。

厚生労働省の指針は、調査で入手する情報に非定常作業の資料を含めるとし、施行通達は段取り替えの情報も入手するとしています。指針は、調査の実施時期として、設備や作業方法・作業手順の新規採用・変更のときや災害発生時などを挙げています。OSHAの手引きも、JHAを優先する作業として、災害率が最も高い作業、重篤な災害の可能性がある作業、一つの単純ミスが重大災害につながる作業、新規または変更された作業、文書化した指示が必要なほど複雑な作業を挙げています。

タイの法第16条(英訳による)も、作業変更や機械設備の変更の際に作業開始前の研修を求めています。AIに保全作業の手順書や、その設備で過去に起きた災害・ヒヤリハットを参照させれば、経験の浅い職長でも危険を洗い出す手がかりを得られると考えます。

閉所での作業は、作業許可の手続きと結びつきます。チュラロンコン大学SHEが掲載する閉所(ที่อับอากาศ)作業の省令 B.E.2562(2019年)の本文によると、事業者は作業前と作業中に大気を測定・記録・評価し、労働者を閉所で働かせるたびに作業許可書(หนังสืออนุญาต)を用意し、危険評価の結果や安全対策などを記載します。許可の責任者は原則として事業者で、研修を受けた労働者に書面で委任できるとされています。現場には作業監督者(ผู้ควบคุมงาน)を常時配置し、危険があれば作業を一時中止させる権限を持たせます。

作業許可書の発行と署名、作業監督者の判断はAIに置き換えられません。AIの出力は作業前KYの候補として扱い、許可の判断とは画面上も分けておくべきだと考えます。

多言語化の設計:タイ語・ミャンマー語のKY

タイの工場には、タイ人に加えて近隣国からの作業者が働くところもあります。国連の作業部会に市民団体が提出した文書によると、労働省の数値として、2025年3月時点で就労許可を受けた外国人労働者は約310万人とされています(労働省の原表は今回確認していません)。

安全教育や手順書を労働者の理解できる言語で行うことを定めたタイの規定は、今回の調査では、法本文、省令B.E.2565、閉所作業の省令の本文ページのいずれにも見つかりませんでした(規定が無いと確認したわけではありません)。いずれにしても、法第14条(英訳による)が危険の告知を事業者に求めている以上、作業者に伝わらなければ意味が薄れると考えます。

日本の厚生労働省は、外国人労働者向けの安全衛生教育教材「マンガでわかる働く人の安全と健康」を、同省ページの一覧でタイ語・ミャンマー語を含む11言語で公開しています。こうした教材は、用語や表現の手がかりになります。

KYの多言語化をAIで行う場合、本記事では次の運用を考えます。

  • 用語集を先に作る:設備名、部位名、危険の言い方(挟まれ・巻き込まれ・切れ・刺されなど)、保護具の名前を言語ごとに対応させ、AI翻訳に使わせる。
  • 職長は自分の言語で確認する:職長がタイ人なら、AIの候補はタイ語で表示し、タイ語で確認・修正する。
  • 作業者には読み上げと確認を組み合わせる:行動目標を作業者の言語で表示・読み上げ、自分の言葉で言い直してもらう。
  • 指差し呼称・唱和はその場の言語で行う:チームの共通語で唱和するか、言語ごとに分けるかは職場で決める。AIの翻訳は唱和の文言を用意する手段で、唱和そのものの代わりにはならない。

社内文書のAI翻訳で用語をそろえる仕組みは、「翻訳 自動化 企業向け|タイ・ASEAN拠点のAI翻訳設計」で整理しています。

職長がAIの候補を却下できるようになるには、根拠を確かめる使い方を自分の言語で学ぶ教育も欠かせません。タイ語での生成AI研修の進め方は「生成AI研修のタイ語対応|現地スタッフに届く教材と講師の選び方」をご覧ください。

公開事例に見る役割分担

日本では、建設や昇降機の分野で、KY活動にAIを使う取り組みが発表・報道されています。いずれも日本国内の事例で、タイの製造業での提供や対応を示すものではありません。ここでは、機能と人の確認の位置だけを整理します。並びは会社名の五十音順で、優劣や推奨の意味はありません。

事例(出典)AIが担う機能人の確認の位置
東急建設(IT Leadersの報道)KYの発話を騒音対策マイクと音声AIで記録し、生成AIが要約する。危険箇所の指摘の具体性や注意喚起の質をABCの3段階で自動評価する報道の内容からは、AIは発話の記録と質の評価を担う位置づけと読み取れる(危険の候補出しを担う事例ではない)
NITACO「KY-AI」(同社リリース)現場の住所から天気とWBGTを取得し、作業内容と天気をもとに4ラウンド法に沿った危険予知のたたき台を作る。KY活動記録表を出力できる職長がたたき台を確認・修正し、全員で指差唱和を行い、作業者が確認する
前田建設工業「SpectA KY-Tool」(労働新聞の報道)作業内容の入力から、過去の労働災害データの中から関連性の高い災害事例と対策を選んで示す。生成AIかどうかは公開部分に記載なし公開部分に記載なし
三菱電機ビルソリューションズ「KY-Support」(AISmileyの報道)蓄積した作業データをもとに作業特有の潜在リスクを洗い出し、行動目標への助言を行う。4ラウンド法の流れをアプリ内で再現し、音声入力と片手操作に対応する報道に記載なし

東急建設の取り組みは、報道によると2026年3〜6月に複数現場で行ったPoCで、所長・現場監督・職長の16人が参加し、課題として高騒音下の認識精度と通信に制約のある現場が挙げられています。三菱電機ビルソリューションズのKY-Supportは、報道によると三菱電機とAWSの協業による生成AIの現場作業支援技術がベースで、2026年4月から昇降機部門で順次導入するとされています。

AIの役割は「候補を出す」「過去の事例を探す」「記録して評価する」に分かれています。人の確認の位置が公開情報から読み取れない事例もあるため、自社で導入するときは、人の確認と決定の位置を仕様に明記すべきだと考えます。

背骨③:「見落とし」「誤った対策」「言語」を分けて確かめる

KY支援AIを「便利だった」という感想だけで評価すると、安全上の欠陥を見逃すおそれがあります。本記事では、次の3つを別々に数えて記録することを勧めます。

指標定義記録の仕方主な原因の例
見落とし専門家・職長の正解リストにあるのに、AIの候補に出なかった危険試験ケースごとに、正解リストの危険のうちAIが挙げなかったものを列挙する参照データの不足、手順書に書かれていない現場の条件、入力の情報不足
誤った対策AIが出したが、手順書と矛盾する、現場で実行できない、危険を増やすなど、そのまま使うと誤りになる対策対策案ごとに、正しい・修正が必要・誤りに分け、誤りの理由を書く旧版の手順書、他の設備の情報の混入、confabulation
言語作業者が危険と行動目標を正しく理解できたか作業者に読み上げ、自分の言葉で言い直してもらい、理解できた・誤解した・分からなかったを記録する用語の不統一、直訳、音声の聞き取りにくさ

3つを分けるのは、直し方が違うからです。見落としには参照データや入力項目の見直し、誤った対策には版管理や出典表示の強化、言語には用語集や読み上げの改善で対応します。一つの「精度」にまとめると、どこを直せばよいかが分からなくなります。

とくに「誤った対策」は重く扱うべきだと考えます。もっともらしい対策が出典つきで示されると、職長が信じて採用してしまうおそれがあるからです。NISTが自動化バイアスの例として挙げる、人が出力を実際より高品質だと思い込む状態です。

合格ラインの数値は本記事では示しません。対象作業の危険の重さや既存のKYの水準で許容範囲が違うからです。安全委員会や安全担当者が、試験の前に「見落としてはならない危険の種類」と「誤った対策が出た場合の扱い」を決めておくことが大切だと考えます。

次の図は、SSOの報告書による2567年(2024年)のタイの労災の内訳です。休業3日以内が62,065件、休業3日超が24,127件、身体の一部喪失が925件、死亡が595件、障害が16件で、合計は87,728件です。件数の多くは休業3日以内の区分ですが、死亡も595件あります。見落としてはならない危険は、件数だけでなく結果の重さで決めるべきだと考えます。この図はタイの労災全体の背景データで、AIの効果を示すものではありません。

KY活動のAI導入|危険予知を多言語で支える設計とRFP - figure 2

同じ報告書によると、2567年の発生率は適用労働者1,000人あたり7.23件で、適用労働者は12,134,149人です。

個人情報とKY記録の扱い

KYを電子化し、音声で記録すると、作業者の氏名、顔写真、声がシステムに残ることがあります。タイの個人情報保護法(PDPA、B.E.2562)について、二次情報によると、第19条は原則として本人の同意を求め、第24条は正当な利益など同意が不要な例外を定め、第26条は人種、健康、生体情報などのセンシティブ情報について、明示的な同意か限定的な例外を求めています。同意が不要な場合でも、事業者は収集前に労働者へ通知する必要があるとされています。

KY記録の写真や音声が第26条の生体情報に当たるかどうかは、個人の識別に使うかどうかなど、利用方法によるとされています。写真や音声が当然に生体情報になるという公式見解は、今回の調査では見つかりませんでした。生体情報として扱われる可能性があるため、本記事では、次の点を導入前に決めておくべきだと考えます。

  • 何のために氏名・写真・音声を記録するのか(参加の記録か、理解の確認か、災害時の追跡か)
  • 同意を取るのか、通知で足りるとするのか、その根拠
  • 音声は文字起こし後に消すのか、どれだけの期間残すのか
  • 誰が記録を見られるのか

KYの入力には作業者名や災害の詳細が含まれることがあるため、生成AIに入力してよい情報を規程で決めておく必要があります。タイ拠点の生成AI利用規程で見落としやすい点は「生成AI利用規程2026|タイ拠点で本社版が効かない4つの穴」にまとめています。

RFPに書く項目

KY支援AIを外部に発注する場合、RFP(提案依頼書)には次の項目を書くことを勧めます。分担・根拠・確認の3つを仕様の言葉に置き換えたものです。

項目RFPに書く内容
対象作業と現場対象のライン・工程・作業(定常か、段取り替え・清掃・保全などの非定常か)、利用者の人数規模
入力手段テキスト、音声、写真のどれで入力するか。片手操作や手袋着用での操作が必要か
参照データと版管理参照させる手順書・SDS・設備情報・災害報告・ヒヤリハット・過去のKYの範囲、更新の頻度、旧版を参照させない仕組み
出典表示危険の候補と対策案の1件ごとに、参照した文書名・版・該当箇所を表示すること。参照の無い候補を区別して表示すること
言語と用語集表示・読み上げの言語(日本語・タイ語・ミャンマー語など)、用語集の作成と更新を誰が行うか
人の確認・承認の画面とログ2Rの絞り込みと4Rの決定を人が行う画面、候補の採用・却下・追加と理由の記録、職長の確定操作のログ
記録と検索・保存期間作業・日付・設備での検索、保存期間、災害時に当日のKYを取り出せること
オフラインと騒音通信が不安定な場所や騒音の大きい場所での動作。東急建設のPoCでも高騒音下の認識精度と通信制約が課題とされていた
個人情報氏名・写真・音声の扱い、保存場所、アクセス権、PDPA上の同意・通知の設計への協力
評価指標と受入試験見落とし・誤った対策・言語の3指標を別々に記録する試験の方法、試験ケースの作り方、合格ラインは発注者が決めること
費用の内訳初期構築、参照データの整備、用語集の作成、利用料、保守、追加言語のそれぞれの費用

特に「人の確認・承認の画面とログ」と「出典表示」は、オプションではなく必須の要件にすべきだと考えます。

PoCと受入試験の設計

KY支援AIのPoC(概念実証)と受入試験は、「使ってみた感想」ではなく、背骨③の3指標を数える形で設計することを勧めます。

試験ケースの選び方:過去に災害やヒヤリハットが起きた作業を中心に置けば、「その危険をAIが候補に挙げたか」を確かめられます。非定常作業や設備変更のあった作業も含めます。

正解リストの作り方:安全担当者と経験のある職長が、試験ケースごとに挙げるべき危険と正しい対策のリストを先に作ります。AIの出力を見てから作ると、候補に引きずられるおそれがあります。

3指標の記録:AIの候補と正解リストを比べて見落としを記録し、対策案を一つずつ判定して誤った対策を記録します。言語は、作業者に読み上げて自分の言葉で言い直してもらい、理解を確かめて記録します。出典表示が正しいか(示された文書の該当箇所に本当にその内容があるか)も、あわせて確かめます。

合格ラインは自社で決める:試験の前に、見落としてはならない危険の種類、誤った対策が1件でも出たら不合格とするのか、言語の理解の確認方法を、発注者が決めて記録しておきます。

本番後の見直し:OSHAの手引きは、JHAを定期的に見直し、災害が起きたら特に見直し、改訂したら影響を受ける全員に教育するとしています。KY支援AIでも、職長が却下した候補や加えた危険を、参照データと用語集の改善に戻す流れを作るべきだと考えます。

次の図は、本記事で考える運用の流れです。入力をもとにAIが出典つきの下書きを作り、職長が採用・修正・却下を判断し、チームで指差し呼称を含むKYを行って記録し、データの改善に戻します。

KY活動のAI導入|危険予知を多言語で支える設計とRFP - figure 3

PoCをどこで終えて本番に移すか、検収と運用の引き継ぎをどう設計するかは、「AI PoC終了基準|本番移行・検収・運用引継ぎの設計」で整理しています。

よくある質問

危険予知はAIに任せてよい?

危険予知そのものをAIに任せるべきではないと考えます。AIが受け持つのは候補出し・対策案の列挙・多言語化・記録までで、絞り込みと決定は職長とチームが行います。日本の厚生労働省の指針と施行通達でも、職長等が担うのはリスク低減措置の「検討」までで、「決定及び実施」は事業者の責任とされています。

KYシートを電子化するだけでもAIは役立つ?

電子化だけでも、記録を作業・日付・設備で検索でき、災害時に当日のKYを追いやすくなります。蓄積した記録は、次のKYの候補出しの根拠としてAIに参照させる材料になるため、AI活用の準備にもなると考えます。

タイ語・ミャンマー語のKYにAI翻訳は使える?

用語集と人の確認を組み合わせることを前提に使えます。工場の用語集をAIに使わせ、職長が自分の言語で確認し、作業者には読み上げて自分の言葉で言い直してもらいます。受入試験では「言語」を別の指標として記録します。

生成AIのもっともらしい誤りはどう防ぐ?

完全には防げない前提で設計します。NISTは、confabulationを生成モデルの設計上の自然な結果とし、出典と引用のレビューと検証を推奨しています。候補ごとに参照した文書の名前・版・該当箇所を表示させ、根拠が古い・無い候補を職長が却下できるようにし、手順書を最新版に保ちます。

KY活動AIの導入費用はどう見積もる?

金額は対象の作業数、言語数、参照データの整備状況で変わるため、本記事では示しません。初期構築、参照データの整備、用語集の作成、利用料、保守、追加言語の費用を分けて出してもらうことを勧めます。参照データの整備は見落としを減らす中心的な作業で、社内の工数も見込んでおくべきだと考えます。

まとめ

  • KY活動にAIを入れるとき、先に決めるのはツールの名前ではなく、①分担、②根拠、③確認の3つだと考えます。
  • 分担:AIは1Rの候補出しと3Rの対策案の列挙、多言語化と記録を受け持ち、2Rの絞り込みと4Rの決定は職長とチームが行います(この整理は当社の推論です)。日本の指針と施行通達も、職長等には「検討」を、事業者には「決定及び実施」を位置づけています。
  • 根拠:作業手順書、SDS、災害事例・ヒヤリハット、過去のKYの記録をAIに参照させ、候補ごとに出典を示させます。
  • 確認:RFP・PoC・受入試験で、見落とし・誤った対策・言語を別々に数えて記録します。合格ラインは自社で決めます。
  • AIはKY活動を置き換えるものではなく、その質を支える道具として位置づけるべきだと考えます。

KYシートや作業手順書、ヒヤリハット報告がどこまで電子化されているかの棚卸しや、AIに参照させるデータをどう整えるかを検討する段階でも、TOMAS TECHにご相談いただけます。お問い合わせはこちらからどうぞ。

参考情報