はじめに:内示管理システム導入で先に決める3つのルール
内示管理システム導入を考える工場では、次のような悩みを抱えていないでしょうか。顧客から新しい内示が届くたびに、前の版との差を手で拾ってExcelの計画を直している。前の版は上書きされて残っていない。内示が下振れすると材料と仕掛が残り、上振れすると休日出勤や特急輸送が出る。そして、どこまで材料を先に買ってよいのか、顧客と文書で決めていない。
本記事では、内示管理システムの導入で先に決めるのは、画面や帳票ではなく次の3つのルールだと考えます。
- 版の保存と比較:どの版が、いつ、どれだけ変わったかを残す
- 確定と材料手配の責任範囲:どの期間までなら製作してよいか、どの期間までなら材料だけ手配してよいかを顧客と合意する
- MRPと生産計画への反映ルール:どの版を、いつ、どの粒度に集約し、どう丸めて流すか。変化がどれだけなら計画を動かすか
「システムは関係ない」という話ではありません。後で見るように、主要なERPや内示管理の製品は、この3つを“設定項目”として持っています。だからこそ、ルールを社内と顧客との間で決めていないと、システムを入れても設定できません。一方で、パッケージ側に機能が足りず個別開発が必要だったという事例もあります。
最初にお断りです。本記事は製品の推奨やランキングではありません。製品の機能は各社の公開資料の説明として紹介します。費用と効果の試算は、この記事のための仮の数字です。日本の法律や指針に触れる箇所がありますが、タイの現地法人どうしの取引にそのまま適用されるかは断定しません。
なぜ今、タイの部品工場で内示管理を見直すのか
タイの自動車生産は、台数の増減よりも中身の入れ替わりが目立つ局面にあります。数字は範囲を付けて確認します。
タイ工業連盟(FTI)の発表をXinhuaが伝えたところでは、2026年8月のタイ国内の自動車生産は124,646台で、前年同月比+10.93%でした。1〜8月の累計生産は959,711台で、前年同期比+1.27%です。同じ8月の国内販売は59,809台(前年同月比+25.59%)で、乗用BEVの国内販売は前年同月比+113.29%、国内販売全体の32.97%を占めたと報じられています。一方、内燃機関の乗用車の生産は8月に前年同月比−20.51%、1〜8月で前年同期比−32.62%で、輸出向けの減少によるものとされています。8月の完成車輸出は69,724台(前年同月比−2.04%)で、中東向けは−40.24%でした。
Nation Thailand(2026年8月1日)によると、FTI自動車工業部会は2026年の生産目標を150万台から145万台に引き下げました。減少分はすべて輸出向けで、輸出向けは95万台から90万台へ、国内向けの55万台は据え置きです。同じ記事で、FTIの同部会スポークスマンは、ピックアップトラックは部品の90%超が現地生産であり、ピックアップ販売の長期低迷が部品メーカーなどのサプライチェーンの生産を減らしていると説明しています。
電動化の投資も続いています。Nation Thailand(2026年7月3日)によると、タイ投資委員会(BOI)は2026年5月時点で、EV関連の投資198件、1,370億バーツ超を承認しています(承認ベースの数字です)。MarkLinesは、2025年のタイの部品サプライヤーが、日系OEMの国内での生産調整とピックアップ市場の減速に直面しつつ、中国系OEMの拡大によるEV化と、日系OEMを中心とするHEV需要の拡大への対応を求められた、と記述しています。
これらの数字は国全体の統計で、個々の工場や顧客に当てはまるものではありません。ただ、仕向け先や機種構成が動く局面では、顧客から届く内示の版ごとの変わり方も、顧客や品番によって違ってくる可能性があると本記事では考えます。版を残し、差を測る仕組みを点検するよい機会です。
内示とは:確定注文との違いと受け取り方
広島経済大学の上野信行氏の論文「内示理論」(2021年)は、内示を「生産に先行して,製造業者,販売業者などの顧客あるいは,自社の販売部門などから供給業者に提示される注文予定情報」と紹介しています。最終的には確定注文が届きますが、それは内示と必ずしも同じとは限らないので、内示は生産の参考値だという説明です。同論文は、確定注文は納期の一定期間(納入リードタイム)前に、内示はそれより早く製造リードタイム以前に提示され、一般的には複数回、たとえば3か月前、2か月前、1か月前に提示されると述べています。提示の仕方やタイミングは取引企業間の商習慣で決められ、多くのバリエーションがあるとしています。
三菱電機の製品紹介ページは、内示情報を「メーカーがサプライヤーへ提示する仮数量情報」、確定情報を「メーカーからの正式な注文で、同時に納期も確定」と説明しています。
日本の自動車業界の流れについて、MONOistの解説記事(2021年6月)は、部品メーカーの生産計画は自動車メーカーの月間内示数量が基になり、通常は20日ごろに今後3カ月分の月間内示数量が連絡される、と説明しています。翌月の数量はほぼ確定となる一方、2カ月後や3カ月後の内示は変動する可能性が高いとされます。確定の発注があると1日単位や1日複数回の便に分けて納入し、トヨタ自動車などでは、製品に付いた「かんばん」が外れた枚数だけ確定発注とする仕組みが多く使われている、と同記事は述べます。ただしこれは一般的な解説で、提示のタイミングは顧客ごとに違います。同記事は、内示や販売計画は部品メーカーと自動車メーカーで「非常にもめやすい問題」だとも書いています。
受け取り方も顧客ごとに違います。NECは自動車部品製造業向けの製品ページで、課題として「OEMごとに異なる形式の内示・確定受注を、EDIやExcelなど複数手段で受領」することを挙げています。タイの工場でも、顧客によってEDI、Excelの添付、ポータルからのダウンロードと受け取り方が分かれている場合は、同じ課題が生じます。
本記事が扱う範囲も整理しておきます。月次で需要と供給を突き合わせる会議の進め方はS&OP導入の記事で扱っています。また、自社の出荷実績などから需要を予測するAIは、顧客が出す内示を受け取って扱う本記事の仕組みとは役割が違います。精度指標と投資回収の考え方は需要予測AIの記事をご覧ください。本記事は、顧客から届く内示と確定注文を、取り込み、版を残し、差を測り、MRPと生産計画へ流すルールに絞ります。
内示の期間区分:確定、材料手配、予測
内示の期間を「確定ゾーン」「調整ゾーン」「予測ゾーン」と呼ぶ説明を見かけることがありますが、この呼び名を公的資料やベンダーの公開資料の本文で確認することはできませんでした。そこで本記事では、次の3つを本記事での呼び方として使います。
- 製作まで顧客が責任を持つ期間(本記事では「製作承認の期間」)
- 材料手配まで顧客が責任を持つ期間(本記事では「材料承認の期間」)
- 計画情報にとどまる期間(本記事では「予測の期間」)
呼び方は会社とシステムで違いますが、期間を分けて責任範囲を決める考え方は、各社の資料に共通して見られます。
| 出典 | 公開資料での呼び方 | 本記事の3区分との対応の目安(本記事の整理) |
|---|---|---|
| ANSI X12 830(Astemo Americasの運用、Adientのガイド) | Fabrication Authorization(製作承認)、Material Authorization(材料承認)、それ以外は計画。FST02はC=Firm、D=Planning | 製作承認、材料承認、予測にほぼ対応 |
| UN/EDIFACT DELFOR(D96A、DE 4017) | 1 Firm、2 Commitment for manufacturing and material、3 Commitment for material、4 Planning/forecast ほか | 2、3、4がそれぞれ製作承認、材料承認、予測に近い |
| SAP(購買側の分納契約) | Firm zone(production go-ahead period)、Trade-off zone(material go-ahead period) | 発注する側の設定。受け取る側から見ると製作承認と材料承認に近い |
| Oracle Release Management | Frozen fence、Firm fence、Forecast to OM fence、Forecast to PLN fence | 受け取った需要の扱いを期間で変える設定 |
| Infor LN | Frozen Zone +(増加の制限)、Frozen Zone −(減少の制限) | 変更を受け付けない期間を増加と減少で別に持つ |
注意点が2つあります。1つ目に、SAPのfirm zoneとtrade-off zoneの説明は、SAP S/4HANAの購買コースにある購買側(自社が仕入先に出す分納契約)の記述です。部品メーカーが顧客から受ける販売側の機能として同じ設定があるとは、今回の資料では確認していません。2つ目に、表の右列は本記事の整理で、各社がそう定義しているわけではありません。
EDIで届く内示:830、862、DELFOR、VDA 4905/4984
EDIで届く内示の代表は、北米で使われるANSI X12の830(Planning Schedule with Release Capability)です。Adientの実装ガイドに載っているX12の標準序文は、830の用途を、単純な予測、労務や材料などの資源の手配を買い手が売り手に承認する予測、そして累積数量や納入パターンを含んで発注の解除にも使う予測、の3つと説明しています。
日系Tier1の米州法人であるAstemo Americasのサプライヤー向けガイド(2025年8月)によると、同社の830は6か月分の予測で、毎週月曜の夕方に送られます。830には製作承認と材料承認が累積数量で載り、それぞれ製作リードタイム、材料購買リードタイムの範囲の所要を含むと説明しています。そして、830からは出荷は承認されないと明記しています。出荷の指示は862 Shipping Scheduleで、同社は862を確定の納入指示にあたる週次の所要と位置づけ、標準梱包数の単位で出すと説明しています。
UN/EDIFACTには、内示にあたるDELFORというメッセージがあります。DELFOR(D96A)のSCCセグメントには、上の表のとおり確定、製作と材料の承認、材料の承認、計画を区別するコードがあります(XEDIによるディレクトリの転載で確認)。欧州ではVDAの規格も使われており、SEEBURGERは、VDA 4984はEDIFACT DELFORをベースにした顧客からサプライヤーへのplanning scheduleで、旧来のVDA 4905を置き換えるものだと説明しています。旧来のVDA 4905には製作と材料の承認の情報が含まれない一方、今も多くのOEMやTier1が4905を使うか、4984と並行して提供している、とも同社は述べています。地域の傾向として、EUはVDA、NAFTAはANSI X12、アジアとEUではEDIFACTが広く使われる、というのが同社の説明です。
ここで内示管理にとって大事なのは、新しい内示が前の内示を置き換えるという点です。Astemo Americasは830も862も各送信が前回分を置き換えると説明し、SEEBURGERもVDA 4984の新しいメッセージは前の計画を置き換えると説明しています。SAPの旧リリース(R/3 3.0A)のリリースノートも、最新の納入日程が前の納入日程の日付と数量を全部または一部置き換えうると書いています。したがって、受け取る側が版を残さない限り、「いつ、どの版で、どれだけ変わったか」は残りません。これは各社の説明からの本記事の推論です。
日本国内では、業界ネットワークとしてJNXがあります。ソフトバンクはJNXを、自動車産業をはじめとする産業界をつなぐ業界共通ネットワークと説明しています。JNXはネットワークで、内示のデータ形式そのものではない点に注意が必要です。取引先との接続方式や回線、変換の選び方は製造業EDI導入の記事で詳しく扱っています。
内示管理システムに必要な機能の全体像
ここまでの話を、システムの機能に置き換えて並べます。各社の製品説明やERPのヘルプを読むと、内示管理に関わる機能はおおむね次の8つに整理できます(整理は本記事によるものです)。
| 機能 | 何をするか | 関係するルール |
|---|---|---|
| 取込 | EDI、Excel、ポータルの内示を顧客ごとのマッピングで共通の形に変換する | 全体の前提 |
| 版の保存 | 受け取った版を上書きせず、受信日時と発行順で保管する | ①版 |
| 比較 | 任意の2版、または内示と確定注文の差を品番、期間ごとに表示する | ①版 |
| 期間区分の適用 | 顧客ごとの製作承認、材料承認、予測の期間を当てはめる | ②責任範囲 |
| 累積照合 | 顧客の累積数量と自社の出荷累積を突き合わせる | ②と③ |
| MRP連携 | どの範囲を、どの粒度で、どう丸めてMRPに流すかを制御する | ③反映 |
| 例外通知 | 閾値を超えた変化、期間区分への違反、累積の差異だけを知らせる | ①と③ |
| ダッシュボード | 顧客別、品番別に、何か月前の内示がどれだけ外れたかを見る | ①の結果 |
画面や帳票の作り込みは後からでも直せますが、上の表の右列のルールが決まっていないと、どの機能も設定値を入れられません。次の章から、①②③を順に見ていきます。

ルール①:版の保存と比較
最初のルールは、受け取った版を残し、比べられるようにすることです。
Oracle E-Business Suite(R12.1)のRelease Managementのユーザーガイドによると、同製品のDemand Processorは受信したスケジュールを検証したあと「アーカイブ」して履歴として保管し、そのうえで新しい需要と古い需要を照合する、と説明されています。同社は「Net Change Report」で任意の2つのスケジュールを比べて増減を表示し、許容率を超えた品目だけを出すこともできると説明しています。
Infor LNのヘルプ(LN 10.8)は、顧客が送る予測の新しい版を前の版と比べて、フローズンゾーンへの違反がないかを確認する、と説明しています。SAPのAPOにあるDemand Waterfall Analysisは、異なる時点の予測のスナップショットを比べてウォーターフォール図で表示し、実績との乖離や閾値の超過を示す機能だとSAPのヘルプは説明しています。
日本の製品では、三菱電機が「Addon Solution 内示・確定システム」の紹介で、課題として「内示の洗い替え時に差数を手作業で確認して生産計画に反映するため時間を要しミスのリスクがある」ことを挙げ、機能として内示情報と受注確定情報の数量を横軸のカレンダー形式で照会する「内示確定比較照会」を挙げています。同社はまた、ベースにした生産管理パッケージに内示と確定データの洗い替え機能がなかったため個別に開発したと説明し、内示を基幹システムの外のExcelなどで別に管理している企業が多いとも述べています。システムの側に欠けがある場合もある、という例です。
版の保存で見落としやすいのが、同じ日に複数の版が届いたときの処理順です。Oracleのガイドは、同じ日に2本の置換スケジュール(10月1日の7時と9時の発行)が届いた例を挙げ、発行順に処理しないと正しく差し引けないことを示しています。受信の順と発行の順が食い違う可能性も考えて、どちらの時刻で並べるかをルールとして決めておく必要があります。
版の保存で決めることは、次のとおりです。
- 何を1つの版とみなすか(顧客、出荷先、品番、発行日時の組み合わせ)
- どれだけの期間、版を保存するか(後で述べる精度の分析には、過去6〜12か月分があると見やすくなります)
- 比較の基準を何にするか(直前の版との比較、n か月前の版との比較、確定注文との比較)
- 同日に複数の版が届いたときの処理順
なお、確定注文そのものが後から変わる場合(数量変更、納期変更、取消し)の版管理と影響評価は、内示とは別の流れで管理したほうが整理しやすくなります。こちらは受注変更管理の記事で扱っています。
内示と確定の差(ブレ)の測り方:何か月前の内示がどれだけ外れたか
版を残すと、初めて「何か月前の内示がどれだけ外れたか」を数えられるようになります。
上野氏の論文は、内示と確定注文の数量の差を「ブレ」と呼び、「i期前内示とのブレ=確定注文数量-i期前内示数量」と定義しています。内示が3か月前から出ていれば、3か月前、2か月前、1か月前の内示それぞれについて、別々のブレがあることになります。同論文は、ブレを分布で表すことが多く、平均がほぼ0で左右対称の例や、正負の比率がほぼ半々の例を示しています。ブレの分布は過去データの統計処理で求める例も示されています。
この考え方に沿うと、見るべきものは2つです。
- 偏り(バイアス):ブレの平均が0から離れていないか。たとえば2か月前の内示がいつも多めに出ているなら、偏りがあることになります。Hyndman氏らの予測の教科書も、残差の平均が0でなければ予測は偏っている、と説明しています。
- ばらつき:ブレがどれだけ散らばっているか。何か月前の内示かごとに分けて見ます。
精度の指標としては、平均絶対パーセント誤差(MAPE)がよく使われます。SAPのAPOのヘルプは、予測精度をMAPEから計算すると説明しています。ただし同じ教科書は、MAPEには実績が0のときに計算できず、0に近いと極端な値になるという欠点があり、負の誤差に重い罰を与えるとも説明しています。内示では、打切りや納入の後ろ倒し(スライド)で確定が0になる品番や週がありえます。そこで本記事では、ブレ(数量の差)と偏りを先に見て、MAPEは確定が十分に大きい品番で併用する、という順をおすすめします。
注文の振れについては、Lee、Padmanabhan、Whangの3氏が1997年に発表した論文が、注文として伝わる情報は歪みやすく、注文の分散は販売の分散より大きくなりうること、その歪みは上流に行くほど大きくなる傾向があることを示しました(ブルウィップ効果)。同じ著者はMIT Sloan Management Reviewの解説で、その症状として過剰在庫、計画の頻繁な修正、特急輸送や残業による高い修正コストなどを挙げています。
どれくらい振れるかについて、業界全体の平均を示す統計は確認できませんでした。三菱電機は製品紹介のなかで、内示が確定までに2割近く増減することがある、と述べています。これは同社の記述で、一般的な平均値ではありません。自社の顧客と品番で実際に数えてみることが出発点になります。
下の図は、版ごとの内示と確定注文を並べたウォーターフォール表示の考え方を示した架空の例です。本文の試算の数字とは関係ありません。

ルール②:確定と材料手配の責任範囲を顧客と合意する
2つ目のルールは、どの期間までなら製作してよいか、どの期間までなら材料だけ手配してよいかを、顧客と合意しておくことです。
ANSI X12 830には、資源の手配を承認するATH(Resource Authorization)というセグメントがあります。Adientの830実装ガイドは、ATHの注記で、財務的な責任(financial commitment)を定める交渉が事前に行われ、買い手と売り手の双方が合意していることが不可欠だと書いています。ATHのコードには、FI(完成品。労務、材料、間接費を含む)とMT(材料)があります。
Astemo Americasは、製作承認の期間内の部品については同社が購入の責任を持ち、材料承認の期間内では材料の調達を承認する、と説明しています。一方、830からは出荷は承認されません。つまり、どこまでを顧客が責任を持つかは、EDIのデータ項目として明示されていても、その中身は事前の合意が前提です。
ERPの側も同じ構造です。SAPのS/4HANA購買コースは、購買側の分納契約でfirm zoneとtrade-off zoneを暦日で設定でき、firm zone内の納入日程行は確定注文と同等とみなせると説明しています。そしてfirm zoneは仕入先と協議して決めるべきだ、と書いています。繰り返しになりますが、これは発注する側の設定です。Infor LNのヘルプは、フローズンゾーンを顧客とサプライヤーが取引条件の合意(terms and conditions agreement)で決める期間と説明し、減少を14日前、増加を21日前までに知らせるという設定例を示しています。この日数は設定例で、推奨値ではありません。また同社は、LNはこの制限を厳格には強制せず、手動で上書きできると注記しています。
社内の「計画凍結期間」との関係も整理しておきます。社内で計画を動かさない期間は、自社の段取りや材料の都合から決めるものです。顧客との責任範囲が社内の凍結期間より短いと、凍結期間の中で顧客の変更を受け止めることになります。両者の長さを並べて確認しておくと、どこで無理が生じるかが見えます。凍結期間の決め方と変更承認は生産計画の凍結期間の記事で扱っています。
材料のリードタイムが長い品目では、材料承認の期間より手前で材料を発注しなければならないことがあります。この場合、顧客の承認の範囲外で自社がリスクを取って手配することになるので、品目ごとに誰が承認したかを残しておくと、後で協議するときの材料になります。先行手配の管理の仕方は長納期部品の先行手配の記事をご覧ください。
合意しておきたい項目は次のとおりです。
- 顧客ごと、品番群ごとの製作承認と材料承認の期間(暦日か稼働日か)
- 内示が下振れしたときに残った材料と仕掛の扱い(買取り、次月以降への引き当て、協議の手順)
- 打切りになったときの請求の期限と手順
- 合意した内容を誰がシステムに設定し、変更時に誰が承認するか
日本の取引ルールが内示について示していること
日本では、内示と実際の発注の差について、法律と指針がいくつかのことを示しています。これらは日本の法律と日本の指針です。タイの現地法人どうしの取引にそのまま適用されるかは、契約と当事者の関係によるため、本記事では断定しません。個別の取引は法務の確認が必要です。
まず名称です。公正取引委員会によると、下請法は改正により「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)となり、2026年1月1日に施行されました。用語も、旧「親事業者」が「委託事業者」に、旧「下請事業者」が「中小受託事業者」に変わっています。
取適法は、中小受託事業者に責任がないのに給付の受領を拒むことを禁止しています。公正取引委員会と中小企業庁のテキストは、発注の取消しや納期の延期で当初の納期に受け取らないことも原則として含まれると説明し、生産計画の変更を理由とした受領拒否の事例を挙げています。
一方で、同テキストのQ72は、正式な発注に基づかず見込みで作ってしまった場合について、発注していないものについて受領を拒むことは問題ない、としています。ただし、正式な発注なのに書面などで明示せず口頭で一定数量を作らせて受領を拒むことは、受領拒否に当たるとも書いています。
内示と実際の発注の差そのものについては、振興基準が、発注予定数量を示したあとで合理的な理由なく実際の発注数量と大きな乖離が生じた場合、十分に協議し、余剰となる製品在庫と残材の買取りなどの措置を講ずるものとする、と定めています。振興基準は、委託事業者と中小受託事業者が「よるべき一般的な基準」と位置づけられています。経済産業省の自動車産業適正取引ガイドラインも、「望ましい取引慣行」として、発注予定数量(内示)と実際の発注数量の差への対応を挙げ、継続発注品の場合は次月での買取り分に引き当てるなどの方法を例示しています。これらは、取適法が禁止する行為(違反の類型)とは別の位置づけの記述です。
同ガイドラインは海外での取引についても触れ、自動車メーカーなどに、現地の法令や商慣習に配慮しつつ原則に留意して対応することが望ましいとしています。ベストプラクティスの例として、海外拠点へ供給するために現地生産するサプライヤーに、通常の部品内示情報のほかに車両生産の年間計画を説明する会議を開く例も紹介されています。
ここから言えることを、本記事の推論として整理します。内示だけでは「発注」にならない場合があり、内示に基づいて作ったものや買った材料の扱いは、合意がなければ協議に頼ることになります。だからこそ、どこまで製作し、どこまで材料を手配してよいかを顧客と文書で合意しておく意味がある、と本記事では考えます。
ルール③:MRPと生産計画への反映ルール
3つ目のルールは、受け取った内示をMRPと生産計画へどう流すかです。ここは各社の製品が最も細かい設定を持っている部分です。以下に出てくる数字は、すべて各社のヘルプにある設定例で、推奨値ではありません。
どの範囲をMRPに流すか。 SAPのS/4HANA購買コースは、購買側の分納契約で、MRPに拘束させる範囲を「trade-off zone以降の日程行だけ」「firm zone以降の日程行だけ」「全日程行」から選ぶと説明しています。受け取る側でも、製作承認の期間、材料承認の期間、予測の期間のどこまでを所要として扱い、どこからを参考値にとどめるかを決める必要があります。
どの粒度に集約するか。 同じSAPのコースは、当日から10日間は集約なし、10日から30日は日次、30日から60日は月次、という集約の設定例を示しています。近い期間は細かく、遠い期間は粗く流すという考え方です。
変化がどれだけなら計画を動かすか。 SAPのコースは、前回比で合計が2%を超えて増えるか、5%を超えて減ったときだけ予測納入日程を作る、という許容差の例を示しています。Oracleのガイドは、正負の需要許容差を顧客、出荷先、品目の単位で設定でき、超えた場合は処理したうえで例外レポートに警告を出すと説明しています。閾値を決めないと、わずかな変化でも計画が動きやすくなり、現場の負担が増えます。
フェンスの内側の変化をどう扱うか。 Oracleのガイドによると、frozenフェンス内の変更は受注に反映せず警告を出します。「Roll Forward Frozen Fence」を有効にすると、フェンス内の増加分だけをフェンス直後の日に寄せ、減少は警告だけにする、と説明されています。
どう丸めるか。 Oracleは、標準梱包数への切り上げ(Standard Pack Rounding)を行うと説明しています。Astemo Americasも、862は標準梱包数の単位で出すと説明しています。自社から材料を発注する段階では、仕入先の最小発注量や発注単位でさらに丸めが入ります。この丸めの順番と単位をどう設計するかは最小発注量(MOQ)管理の記事で扱っています。
月や週の数量をどう日に按分するか。 日立システムズは、FutureStage自動車部品業向けの製品情報(MarkLines掲載、2013年10月更新)で、EDIの内示と受注データの取込ファイルの変換マッピングと、生産手配数量の按分パターンを登録できると説明しています。MRPの試算結果に対しては、過去の確定情報を参考に最終的な計画の数量と納期を人が調整する、とも説明しています。三菱電機も、期間の受注数量を稼働日に按分する作業を経験則の手作業で行っていて手間がかかる、という課題を挙げています。
まとめると、MRPへの反映ルールでは次を決めます。
| 決める項目 | 出典にある設定例 |
|---|---|
| MRPへ流す範囲 | trade-off zone以降のみ、firm zone以降のみ、全行(SAP、購買側) |
| 集約の粒度 | 0〜10日は集約なし、10〜30日は日次、30〜60日は月次(SAPの設定例) |
| 変化の閾値 | +2%超、−5%超の変化でのみ作成(SAPの設定例)、正負の許容差で警告(Oracle) |
| フェンス内の変化 | 反映せず警告、増加分だけをフェンス直後に寄せる(Oracle) |
| 丸め | 標準梱包数への切り上げ(Oracle)、862は標準梱包数で発行(Astemo) |
| 按分 | 生産手配数量の按分パターン登録(日立システムズ) |
なお、どれだけ反映ルールを整えても、MRPが使う品目マスタ(リードタイム、梱包数、部品表)が古いと結果は狂います。マスタの鮮度を保つ考え方はMRPシステムの記事をご覧ください。
累積数量(CUM)の照合と打切り品の扱い
北米や欧州の自動車業界の内示では、数量を累積(CUM)で管理する考え方がよく出てきます。SAPの旧リリース(R/3 3.0A)のリリースノートは、累積数量を、変わり続ける取引の正確な姿をつかむための不可欠な道具だと説明し、顧客の累積受領数量、累積納入数量、累積リリース数量などを管理すると書いています。同ノートは、会計年度末に累積はゼロにリセットされ、OEMは年度末を累積受領数量の変更でしか伝えず、その時期もOEMごとに異なると説明しています。
Oracleのガイドは、顧客ごとにCUMのルールを定義し、顧客のCUMとシステムのCUMを比べて差異を例外レポートに出す、と説明しています。輸送中の数量は顧客のCUMから差し引き、顧客がCUMをリセットした場合は新しいCUM Keyを作る、とも書いています。
Astemo Americasは、同社の累積受領数量には輸送中の数量が含まれないので、サプライヤー側で累積出荷数量と比べて輸送中を差し引く責任がある、と説明しています。そして累積数量を追跡し、差異や異議は発生したときに解消することが不可欠で、差異の解消は最大48時間以内としています。
打切り品の扱いもここで決めておきます。Astemo Americasは、打切り(フェーズアウト)品は830上でBalance outとして示され、デッドストックについて同社に責任があると考える場合は、打切りから30日以内に請求するよう説明しています。請求の期限がある以上、打切りの通知を受けた時点で、残っている材料と仕掛と完成品を品番ごとに数え、承認の期間内に手配したものかどうかを示せる記録が要ります。ここで版の保存(ルール①)と責任範囲の合意(ルール②)が効いてきます。
内示の下振れや打切りで残った材料と仕掛を、どう棚卸しし、どう処分するかは、過剰在庫削減の記事で扱っています。
顧客ごとに違う形式をどう取り込むか
内示管理システムの導入で、意外に手間がかかるのが取込です。NECは、各OEMごとに異なる内示と確定受注の情報を自動で取り込んで一元管理し、置換処理を含めた受注管理を行うと説明しています。日立システムズも、得意先ごとに異なるEDIの内示と確定発注を取り込み、取込ファイルの変換マッピングを登録できると説明しています。
取込の設計で決めることは、次のとおりです。
- 顧客ごとのマッピング:顧客の品番と自社の品番、出荷先コード、数量の単位、日付の意味(納入日か出荷日か)
- 版の識別:EDIなら発行日時や版番号、Excelならファイル名やシート内の日付。どれを版のキーとするか
- 置換か追加か:新しい内示が前の版を全部置き換えるのか、一部の期間だけ置き換えるのか
- 区分の読み取り:EDIのコード(830のFST02、DELFORのDE 4017)やExcelの列から、確定、製作承認、材料承認、予測をどう読み取るか
- 取込エラーの扱い:マスタにない品番や、前の版より古い発行日時の版が届いたときに、誰に知らせて止めるか
Excelで届く内示は、顧客が書式を変えると取込が止まります。書式の変更があったときに誰が気づき、誰がマッピングを直すかまで決めておくと、運用が安定します。ポータルからダウンロードする内示は、ダウンロードを忘れると版が欠けるので、取得の担当と時刻を決めておきます。
ここまでは顧客から受け取る側の話です。自社が仕入先に内示を出す側も、同じ版の保存や責任範囲の考え方が当てはまりますが、仕組みは購買の側になります。仕入先との発注と納期回答のやりとりはサプライヤーポータル導入の記事で扱っています。
製品とERPで確認できた機能
公開資料で確認できた範囲で、内示に関わる機能を並べます。推奨や順位付けではありません。確認できなかった欄は「公開資料で確認できず」としています。
| 製品やERP | 主な対象 | 公開資料で確認できた内示関連の機能 |
|---|---|---|
| SAP(販売側、旧リリースのヘルプ) | 部品サプライヤーの分納契約 | 予測納入日程とJIT納入日程、累積数量の管理と年度末のリセット(R/3 3.0Aのリリースノート、4.6Cのヘルプ)。日程行カテゴリで計画関連か出荷関連かを制御。現行版での同等機能は公開資料で確認できず |
| SAP(購買側、S/4HANA購買コース) | 自社から仕入先への分納契約 | firm zoneとtrade-off zone、MRPへの拘束範囲、集約と許容差の設定、リリース文書による送信履歴の追跡 |
| SAP APO Demand Waterfall Analysis | 予測のスナップショット比較 | 異なる時点の予測の比較、ウォーターフォール表示、閾値超過の表示 |
| Oracle E-Business Suite Release Management(R12.1) | 顧客から受けるスケジュール | アーカイブ、Net Change Report、frozen、firm、forecastのフェンス、許容差、標準梱包への丸め、CUM照合 |
| Infor LN(10.8) | VMIで顧客とサプライヤーが共有するフォーキャスト | 前の版との比較、増加用と減少用のフローズンゾーン |
| 三菱電機 Addon Solution 内示・確定システム | Factory-ONE 電脳工場MFの拡張 | 内示の取込と洗い替え、確定情報の取込、内示確定比較照会(横軸カレンダー)、内示精度の分析への活用 |
| NEC EXPLANNER/Jx 自動車部品製造業向け | 自動車部品メーカー | OEMごとの内示と確定受注の自動取込と一元管理、置換処理、内示変動に応じた製品、中間品、材料の計画の連動、中間品の先行生産と確定による引当の制御 |
| 日立システムズ FutureStage 自動車部品業向け | 自動車部品メーカー | 得意先ごとのEDI内示と確定発注の取込、内示数と確定数の差分比較、変換マッピングと按分パターンの登録(2013年10月更新の製品情報) |
表のとおり、版の保存と比較、期間区分、MRPへの反映ルールは、多くの製品で何らかの形の設定項目として現れています。どの製品を選ぶにしても、顧客ごとの期間や閾値、丸めの単位を決めておかないと設定値が入りません。この点が、本記事でルールを先に決めることを勧める理由です。
内示管理は生産管理システム全体の一部です。自動車部品工場で生産管理システムを選ぶときの全体の基準と手順は、自動車部品工場の生産管理システムの記事で整理しています。
RFPに書く要件とPoC、受入試験の基準
ベンダーに提案を求めるときは、機能の有無だけでなく、本記事の①②③のルールを設定できるかを具体的に書きます。
| 要件 | RFPに書く内容 | 受入試験での確認方法 |
|---|---|---|
| 取込形式と顧客別マッピング | 顧客ごとの形式(EDI 830、DELFOR、Excel、ポータル)と、品番、単位、日付の変換 | 顧客ごとに過去の実データを取り込み、件数と合計数量が元データと一致するか |
| 版の保存期間と比較画面 | 何か月分の版を保存するか、任意の2版と確定注文を比べる画面 | 指定した2版の差分が手計算と一致するか |
| 同日複数版の処理順 | 発行日時の順に処理すること | 同日に2版を逆順で取り込み、結果が発行順の処理と同じになるか |
| 期間区分の顧客別設定 | 製作承認、材料承認、予測の期間を顧客と品番群ごとに設定 | 期間の境目の日付で、区分が正しく切り替わるか |
| MRPへ流す範囲と集約 | 流す区分、期間ごとの集約の粒度 | 設定どおりの範囲と粒度でMRPの所要になるか |
| 変化の閾値と例外通知 | 増加と減少で別の閾値、通知先 | 閾値を超えた変化だけが通知され、超えない変化は通知されないか |
| 丸めと按分 | 標準梱包数、按分のパターン | 端数のある内示で、丸めと按分の結果が手計算と一致するか |
| CUM照合 | 顧客CUMと自社CUMの比較、輸送中の差し引き、リセット | 輸送中の数量を含む例で差異が正しく出るか |
| 監査ログ | 取込、設定変更、手修正の履歴 | 誰が、いつ、何を変えたかを追えるか |
| 権限 | 設定変更と手修正の権限の分離 | 権限のない利用者が設定を変えられないか |
PoCと受入試験では、過去3か月分の内示を再生する方法が使えます。過去に実際に届いた内示の版を、届いた順に取り込み直し、差分レポートが手計算と一致するか、閾値を超えた変化だけが通知されるか、MRPに流れた所要が当時の判断と比べて説明できるか、を確かめます。この試験には、過去の版が残っていることが前提になります。導入を決める前から、届いた内示のファイルを上書きせずに保存し始めておくと、試験の材料になります。
費用について、今回調べた範囲では、三菱電機、NEC、日立システムズの内示関連の製品ページに公開価格は見当たらず、SAP、Oracle、Inforの内示関連機能の価格も公開されていることを確認できませんでした。日本金属プレス工業協会のクラウド型生産管理システムには、2015年5月の発表時点で3ユーザーライセンスが月額2万5500円(税別)からという発表価格がありますが、これは当時の発表で、現行の価格は確認していません。JNXについては、ソフトバンクの個人認証LAサービスが一時費用6,000円、月額2,800円(税抜、利用者1名、1アプリケーション)と公開されていますが、日本国内向けサービスの料金で、タイでの利用可否と料金は確認していません。見積りは、RFPの要件を示したうえで個別に取る必要があります。
費用と効果のモデル試算(仮の数字)
ここからの数字は、この記事のための仮の数字です。実在の工場のデータではありません。
想定する工場は、タイの日系自動車部品のプレスと溶接の工場です。顧客5社から内示がEDIとExcelで届き、生産管理の担当者がExcelで版を上書きしながら計画を直しています。
基準となる年間の損失は、次の2つです。下振れと上振れは別の事象として数えており、同じ変動を2回数えているわけではありません。
| 項目 | 金額(THB/年) |
|---|---|
| 内示の下振れで残った材料と仕掛の処分、評価損 | 360,000 |
| 内示の上振れへの緊急対応(休日出勤、特急輸送):年16回 × 30,000 THB | 480,000 |
| 合計 | 840,000 |
対策は、内示の取込と版の保存と比較、顧客別の期間区分と材料手配範囲の合意、MRPへの反映ルールと例外通知です。
| 項目 | 金額(THB) |
|---|---|
| 初期費用:取込、版管理、差分表示 | 450,000 |
| 初期費用:ERP、MRP連携 | 250,000 |
| 初期費用:顧客別ルール整理と合意文書 | 100,000 |
| 初期費用:教育、受入試験 | 100,000 |
| 初期費用の合計 | 900,000 |
| 年間の運用費 | 120,000(年) |
効果は、上の損失の半分(50%)を減らせた場合を基準ケースとします。
| ケース | 効果(THB/年) | 運用費(THB/年) | 純効果(THB/年) | 回収年数 |
|---|---|---|---|---|
| 基準ケース(損失の50%を削減) | 840,000 × 50% = 420,000 | 120,000 | 420,000 − 120,000 = 300,000 | 900,000 ÷ 300,000 = 3.0年 |
| 感度(損失の25%の削減にとどまる) | 840,000 × 25% = 210,000 | 120,000 | 210,000 − 120,000 = 90,000 | 900,000 ÷ 90,000 = 10.0年 |

この試算の読み方です。効果の割合(50%や25%)は仮定です。基準ケースでは純効果300,000 THB/年で回収は3.0年ですが、効果が25%にとどまると純効果は90,000 THB/年になり、回収に10.0年かかります。効果の割合が半分になると、回収年数は3倍以上に延びることが分かります。
効果を左右しやすいのは、ルール②の合意、つまり材料手配の範囲を顧客と合意できるかどうかです。顧客と合意できない場合は、システムを入れても、下振れで材料が残る状況は変わりません。版の保存と比較で差が早く見えるようになっても、その材料の扱いを決める根拠がないからです。
そこで、導入を決める前に、過去6〜12か月の内示の版と確定注文を並べて、何か月前の内示がどれだけ外れたかと、緊急対応の回数を数えることをおすすめします。そのうえで自社の数字に置き換えて試算し直してください。また、受入試験と3か月の運用で、差分の把握と例外通知が回っていることを確かめるまでは、効果に数えないほうが安全です。
よくある質問
内示と確定注文の違いは?
内示は、顧客が生産に先行して示す注文の予定情報で、確定注文は納期と数量が決まった正式な注文です。上野氏の論文は、確定注文は内示と必ずしも同じとは限らないので、内示は生産の参考値だと説明しています。EDIでは、Astemo Americasのように830(予測)からは出荷を承認せず、862で確定の納入指示を出す運用があります。
内示が大きく変動するときの対策は?
まず版を残し、何か月前の内示がどれだけ外れたかを顧客別、品番別に数えます。そのうえで、製作と材料手配の責任範囲を顧客と合意し、MRPへ流す範囲と変化の閾値を決めます。日本の自動車産業適正取引ガイドラインは、内示と実際の発注の差への対応を望ましい取引慣行として挙げていますが、タイの取引にそのまま適用されるかは断定できないため、合意を文書にしておくことに意味があると本記事では考えます。
内示はどこまで材料を手配してよい?
顧客と合意した材料承認の期間が目安になります。X12 830では材料承認、DELFORでは材料の承認を示すコードがあり、Adientのガイドは財務的な責任の範囲が事前に合意されていることが不可欠だとしています。合意がない場合や、材料のリードタイムが承認の期間より長い場合は、自社のリスクで手配することになるので、誰が承認したかを記録しておきます。
内示の精度はどう測る?
確定注文から n か月前の内示を引いた「ブレ」を、何か月前の内示かごとに分けて、偏り(平均)とばらつきを見る方法があります。MAPEも使われますが、確定が0の品番や週では計算できないので、ブレと偏りを先に見て、MAPEは併用にとどめると扱いやすくなります。
EDIで届く内示は何が違う?
EDIの内示は、確定、製作承認、材料承認、予測の区分をデータ項目で持てる点と、新しいメッセージが前の計画を置き換えると説明されている点が特徴です。置き換えられる以上、受け取る側が版を保存しない限り、変化の履歴は残りません。地域の傾向として、EUではVDA、NAFTAではANSI X12、アジアとEUではEDIFACTが広く使われる、とSEEBURGERは説明しています。
内示管理はExcelでは足りない?
顧客が少なく品番も少ないうちは、Excelでも版を別シートに残し、差を計算することはできます。ただ、三菱電機は内示の洗い替えで差数を手作業で確認する時間とミスのリスクを課題に挙げています。顧客ごとに形式が違う、同じ日に複数の版が届く、MRPへの反映や例外通知を自動にしたい、という段階になると、システムで持つ利点が出てきます。どちらの場合も、①②③のルールが先に必要です。
内示管理システムの費用は?
今回調べた範囲では、内示管理の製品とERPの内示関連機能について、公開価格は確認できませんでした。費用は、顧客の数と形式、ERPとの連携の範囲、版の保存期間などで変わると考えられます。本記事の試算では初期費用900,000 THB、運用費120,000 THB/年と置きましたが、仮の数字です。RFPで要件を示して見積りを取ることをおすすめします。
まとめ
- 内示管理システムの導入で先に決めるのは、①版の保存と比較、②確定と材料手配の責任範囲、③MRPと生産計画への反映ルールの3つだと本記事では考えます。
- EDIの内示は新しい版が前の版を置き換えると各社が説明しています。受け取る側が版を残さない限り、変化の履歴は残りません。
- 「確定、材料手配、予測」という期間区分の呼び方は会社やシステムで違います。X12 830の製作承認と材料承認、DELFORのコード、SAP(購買側)のfirm zoneとtrade-off zoneなど、各社の呼び方を確かめて顧客と合わせます。
- 製作や材料手配の責任範囲は、EDIの項目やERPの設定があっても、中身は事前の合意が前提です。日本の取適法や振興基準、業界ガイドラインの記述は日本の法律と指針で、タイの取引への適用は法務の確認が必要です。
- MRPへの反映では、流す範囲、集約の粒度、変化の閾値、丸め、按分を決めます。各社のヘルプにある数字は設定例です。
- 内示の精度は、何か月前の内示がどれだけ外れたかを、偏りとばらつきに分けて見ます。
- 試算(仮の数字)では、損失の50%削減で回収3.0年、25%にとどまると10.0年です。効果を左右しやすいのは材料手配の範囲の合意です。
- 導入の前に、過去6〜12か月の内示の版と確定注文を並べて数えることから始めると、要件と効果の見込みがはっきりします。
どの顧客のどの内示から版を残すか、過去の内示と確定注文の突き合わせをどう進めるか、顧客との材料手配範囲をどう整理するか、といった検討の早い段階でも、TOMAS TECHにご相談いただけます。お問い合わせはこちらからどうぞ。
参考情報
- 公正取引委員会、中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト『下請法』から『取適法』へ」令和7年11月 https://www.jftc.go.jp/toriteki/r7text.pdf
- 公正取引委員会「取適法(中小受託取引適正化法)について」 https://www.jftc.go.jp/partnership_package/index.html
- 経済産業省「自動車産業適正取引ガイドライン」令和7年12月最終改訂 https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/guideline/02_automobile.pdf
- MONOist「自動車メーカーの稼働調整になぜ注目? 工場の操業を左右する『生産計画』」2021年6月4日(1/2) https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2106/04/news029.html
- MONOist 同記事(2/2) https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2106/04/news029_2.html
- 三菱電機「Addon Solution 内示・確定システム」2022年3月 https://www.mitsubishielectric.co.jp/it/productreport/case-c6/
- NEC「自動車部品製造業向け 生産管理システム EXPLANNER/Jx」 https://jpn.nec.com/soft/explanner/explanner-jx/automobile-parts.html
- Infor「Forecast frozen zones(LN 10.8)」 https://docs.infor.com/ln/10.8/en-us/lnolh/cpordplanug/cpom000475.html
- 上野信行「内示理論―不確実な需要環境における先行需要予測情報の活用法の体系化―」広島経済大学経済研究論集 43(3)、2021年3月 https://hue.repo.nii.ac.jp/record/421/files/keizai2021430302.pdf
- Adient「EDI Implementation Guidelines ANSI X12 830 V3020」 https://www.adient.com/wp-content/uploads/2021/11/AdientEDI-Implementation-Guide-ANSI-X12-830-Updated-Logo.pdf
- Astemo Americas「Section 3 Production Control / Delivery(Issue 10)」2025年8月20日 https://www.am.astemo.com/sites/default/files/2025-09/Section%2003%20-%20Production%20Control%20-%20Issue%2010.pdf
- Derby Fabricating Solutions「830 Planning Schedule v04010 implementation guide」 https://derbyfab.com/wp-content/uploads/2025/09/Derby_830_v04010.pdf
- XEDI「UN/EDIFACT D96A DELFOR Message」 https://xedi.com/resources/edifact/D96A/delfor
- SEEBURGER「VDA 4984 EDI Planning Schedule」 https://seeburger.com/info/vda-4984-edi-planning-schedule
- SEEBURGER「What Is a VDA 4905 Message?」 https://www.seeburger.com/info/vda-4905-message/
- GEFEG「Training VDA message 4984 T2 Global DELFOR」 https://www.gefeg.com/wp-content/uploads/2024/01/Training-VDA-message-4984-T2-Global-DELFOR-GEFEG.pdf
- SAP Learning「Creating Scheduling Agreements with Release Documentation(Purchasing in SAP S/4HANA)」 https://learning.sap.com/courses/purchasing-in-sap-s-4hana/creating-scheduling-agreements-with-release-documentation
- SAP Help「Sales: Scheduling Agreement Processing for the Component Supplier Industry(Release Notes 3.0A、旧リリース)」 https://help.sap.com/saphelp_46c/helpdata/en/a2/613275e24bd111950d0060b03c6b76/content.htm
- SAP Help「Schedule Line Categories(SD-SLS-OA)」 https://help.sap.com/saphelp_globext607_10/helpdata/en/93/743a15546011d1a7020000e829fd11/content.htm
- SAP Help「Scheduling Agreements(Sales SD-SLS、4.6C、旧リリース)」 https://help.sap.com/saphelp_46c/helpdata/en/33/4361299d7a11d194e200a0c9306794/content.htm
- Oracle「Oracle Release Management Demand Processor(User’s Guide R12.1)」 https://docs.oracle.com/cd/E18727-01/doc.121/e16352/T414214T414225.htm
- Oracle「CUM Workbench」 https://docs.oracle.com/cd/E18727-01/doc.121/e16352/T414214T414221.htm
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- Xinhua「Thailand’s auto production surges 10.93 pct in August」2026年9月28日 https://english.news.cn/asiapacific/20260928/52ddb0e5283d4c1b867cab6683e58d87/c.html
- Nation Thailand「Thailand cuts 2026 car output target as exports weaken」2026年8月1日 https://www.nationthailand.com/business/manufacturing/40069285
- Nation Thailand「Thailand EV investment tops 137bn baht as BOI targets ASEAN hub」2026年7月3日 https://www.nationthailand.com/business/automobile/40068192
- MarkLines「Automotive Industry News and Content List(October 1, 2026)」 https://www.marklines.com/en/e-newsletter/latest-contents-20261001
- IT Leaders「日本金属プレス工業協会(JMSA)、生産管理のクラウドサービス提供し業界活性化へ」2015年5月27日 https://it.impress.co.jp/articles/-/12408
- MarkLines「日立 FutureStage 自動車部品業向け生産・販売管理システム」2013年10月18日更新 https://www.marklines.com/ja/product/1605
- ソフトバンク「JNXサービス」 https://www.softbank.jp/biz/services/others/jnx/