Microsoft 365 Copilotのライセンスは配った。それなのに現場からは「開いてはみたが、何に使えばいいのか分からない」という声しか返ってこない。タイに拠点を持つ日系製造業で、いま最も多く聞かれる相談のひとつです。Copilot 業務活用でつまずく原因は、多くの場合ツールの性能ではなく業務シーンの提示不足にあります。本記事ではWord・Excel・Teams・Outlookという4つの入り口ごとに使い方を整理します。生成AIそのものの基礎から確認したい方は生成AIとは何かもあわせてご覧ください。
Copilotの「導入」と「業務活用」は別の問題である
Copilotをめぐる議論は、この2年ほどで「入れるべきかどうか」から「入れたのに動かない」へと移りました。まずはその現在地を、数字で確認します。
有償シートは2,000万を突破し、大口顧客は前年比4倍に増えた
Microsoftが2026年4月30日に発表したFY26 Q3決算のなかで、Satya Nadella CEOはMicrosoft 365 Copilotの有償シート数が2,000万を突破したことを明らかにしました。あわせて、50,000シート以上を保有する大口顧客の数が前年比で4倍に増えたことも公表されています。同四半期のMicrosoft 365商業クラウドの収益は19%成長し、投資家向けの部門実績説明でも、Microsoft 365 CopilotはMicrosoft 365 E5とともに顧客単価の伸びを牽引した要因として明記されました。
つまり、企業がCopilotを買うという判断は、すでに珍しいものではなくなっています。少数の部署で試すパイロット段階から、数万人規模で一括契約する段階へと、市場の重心が移ったことを示す数字です。タイの日系製造業でも、日本本社がグローバル契約を結んだ結果として、現地法人にライセンスが降りてきたというケースが増えています。
買った数と使われている数の間には大きな隔たりがある
ところが、ライセンス数の伸びと実際の利用の広がりは、必ずしも一致していません。独立系の調査では、購入されたライセンスのうち週次で実際に使われているのは2割から3割程度にとどまり、職場全体での浸透率も3割台という水準が報告されています。これらはMicrosoftが公表した一次データではないため断定はできませんが、現場の実感と大きくずれる数字ではありません。
当社が支援している企業でも、「情報システム部門が全社員分を契約したが、実際に毎週触っているのは総務と経営企画の一部だけ」という状態は珍しくありません。ライセンス費用は人数分だけ毎月発生し続けるのに、効果は一部の人にしか出ていない。この状態が半年続くと、次の更新時に「効果が見えないので減らそう」という話になります。
「配ったのに使われない」のは導入の失敗ではなく活用設計の不在である
ここで整理しておきたいのは、この状態を「導入の失敗」と呼ぶべきではないということです。導入プロジェクトの成果物は、契約・権限設計・テナント設定・利用ガイドラインの整備までであり、その多くは正しく完了しています。足りていないのは、そのあとに続くはずの「誰が、どの業務で、どう使うか」を具体的に定義する工程です。
これは道具を配ったあとの話であり、購買の話ではありません。たとえば工場に新しい測定器を導入したとき、機器を購入して据え付けただけで測定精度が上がるとは誰も考えません。誰がどの工程で何を測るのか、判定基準はどうするのか、記録はどこに残すのかを決めてはじめて成果になります。Copilotもまったく同じです。
導入そのもの、つまり費用体系の比較や権限設計、どのプランを何人分契約するかといった意思決定については、Microsoft Copilot導入の進め方をまとめた記事で詳しく扱っています。本記事はその一歩先、ライセンスが手元にある状態からの話に絞ります。
本記事が扱うのは「配った後」の具体的な使い方である
以降では、Word・Excel・Teams・Outlookという日常業務で必ず開くアプリケーションごとに、Copilotで何ができるのかを具体的な業務シーンに落として整理します。そのうえで、製造業特有の使い方、定着しない構造的な原因、タイ拠点で展開する際の論点、始め方の順序を扱います。

Copilot Word文書作成の活用シーン
最初の入り口はWordです。文書仕事はCopilotの効果が最も早く体感できる領域であり、最初に触ってもらう業務シーンとしても適しています。
白紙から書き始める時間をなくす
WordのCopilotは、作りたい文書の目的と要点を指示すると、構成を持った下書きを生成します。「タイ人スタッフ向けの安全教育資料を、作業前点検・保護具・報告手順の3項目で、A4で2ページ程度にまとめて」といった指示で、見出しと本文を備えた原稿が返ってきます。
ここで重要なのは、生成された原稿をそのまま使うことが目的ではないという点です。文書作成でいちばん時間を食うのは、白紙を前に構成を考え、最初の一段落を書き出すまでの時間です。その部分を機械に肩代わりさせ、人は内容の正しさと自社固有の事情の反映に集中する。これが現実的な使い方です。
長文資料を読む前に要点をつかむ
既存の文書を開いた状態で要約を指示すると、全体の要点と論点を短くまとめてくれます。本社から送られてきた30ページの方針文書、取引先から届いた契約書のドラフト、業界団体のレポートなど、読むべきかどうかを判断するために全部読まなければならなかった資料が対象です。
要約は判断の材料であって、判断そのものではありません。契約書のように一語の違いが効いてくる文書は、要約で当たりをつけたうえで該当箇所を必ず原文で読む、という運用にしてください。
多言語の下訳として使う
日本語・英語・タイ語が混在するタイ拠点では、翻訳の用途が大きな比重を占めます。日本語で書いた社内通達を英語版とタイ語版に展開する、タイ語で届いた行政文書の内容を日本人駐在員が把握する、といった場面です。
翻訳結果を無修正で社外に出すのは避けるべきですが、社内向けの一次展開や内容把握のための下訳としては十分に実用水準にあります。従来は翻訳担当者の手が空くのを待っていた文書が、その日のうちに回り始めるという変化は、想像以上に業務のリズムを変えます。
Copilot Excel活用シーンは自然言語でのデータ分析にある
次はExcelです。製造業の管理部門にとって、Excelは事実上の基幹ツールであり、ここでの時間削減はそのまま部門全体の余力につながります。
数式を書かずに集計と分析を指示する
Copilotは、表を選択した状態で自然言語の指示を出すと、集計・並べ替え・条件抽出・簡単な傾向分析を実行します。「この受注一覧を得意先別・月別に集計して、前年同月比が落ちている得意先を抜き出して」といった指示が、関数やピボットテーブルの操作を経ずに通ります。
これまで、こうした作業ができるのは部署に数人いるExcelに強い担当者だけでした。その人に依頼が集中し、その人が休むと集計が止まる。Copilot Excel活用のいちばんの価値は、時間短縮そのものよりも、この属人化を解く点にあります。
データのクリーニングを任せる
現場から上がってくるデータは、たいてい整っていません。全角と半角が混在した品番、表記ゆれのある得意先名、日付なのか文字列なのか判別できない列。こうした前処理は、分析作業の時間の大半を占めているにもかかわらず、成果として見えにくい仕事です。
Copilotは、この整形作業を自然言語の指示で処理できます。「A列の品番をすべて半角に統一して、末尾の空白を削除して」といった指示は、置換の手順を思い出す時間よりも早く終わります。
数字の正確性は人が担保する
一方で、注意点があります。原価計算や在庫評価のように、数値の正確性が最優先される処理をCopilotに丸ごと委ねるのは避けてください。生成AIは「もっともらしい結果」を返す仕組みであり、計算の正しさを保証する仕組みではありません。
現実的な分担は、計算そのものは既存のシステムや検証済みの数式に任せ、Copilotには集計結果の傾向説明や報告文の作成を任せる、という形です。ツールに依存しないExcel業務の自動化全般については別記事で扱っていますが、Copilotに限って言えばこの線引きが安全です。
Copilot Teams議事録は会議の後処理をなくす
3つめはTeamsです。会議そのものではなく、会議の前後に発生する作業を減らす、という観点で見ると効果が理解しやすくなります。
録画データから議事録と決定事項を自動で取り出す
Teams会議を録画・文字起こしした状態でCopilotを使うと、会議内容の要約、決定事項、未解決の論点、担当者ごとのタスクを自動で抽出できます。会議に出られなかった人が要点だけを追う、議事録係を立てずに会議を進める、といった運用が可能になります。
国内ベンダーが公開している事例では、あるグローバル企業で英語会議の議事録作成に数日かかっていたものが、会議直後には形になるまで短縮されたと報告されています。日本語・英語・タイ語が入り混じるタイ拠点の会議では、この効果はさらに大きくなります。
日本製鉄では展開拡大後の1ヶ月で約20,000件のAIメモ利用があった
規模感の参考になるのが日本製鉄の事例です。Microsoftの公開しているカスタマーストーリーによれば、同社が2025年2月に全社展開を拡大した後の1ヶ月間で、Teams会議のAIメモ利用は約20,000件に達しました。同じ期間に、ファイル検索などに使われるCopilot Chatへのプロンプト送信は50,000回以上を記録しています。
会議の後処理という、これまで誰も業務として集計してこなかった作業が、実は全社でこれだけの回数発生していたということでもあります。1件あたり15分の削減でも、月単位では相当な時間になります。
議事録AIをツール横断で比較したい場合
なお、議事録の自動作成そのものは、Copilot以外にも専用ツールが多数存在する領域です。Teams以外の会議ツールを併用している、文字起こし精度や話者分離を重視したいといった要件がある場合は、議事録の自動作成AIをツール横断で比較した記事を参照してください。本記事では、すでにM365を使っている企業がTeams内で完結させる選択肢として位置づけています。
Outlook活用シーンは長文メールの要約と返信下書きにある
4つめはOutlookです。効果が地味に見える一方で、対象人数がいちばん多い領域でもあります。
積み上がったスレッドを要約する
長く続いたメールスレッドを開いた状態で要約を指示すると、経緯・現在の論点・保留になっている事項を短くまとめてくれます。休暇明けに未読が数百件たまっている、途中から引き継いだ案件の経緯が分からない、といった場面で効きます。
日本製鉄の事例では、展開拡大後の1ヶ月間でメールスレッドの要約が約4,500件利用されています。会議のAIメモに次ぐ利用量であり、日常業務のなかでメール処理が占める比重の大きさを示しています。
返信の下書きとカレンダー登録を任せる
受信メールに対する返信の下書き生成も、実用水準にあります。「日程を再調整したい旨を、丁寧なトーンの英文で」といった指示で、たたき台が返ってきます。完成品ではなく下書きとして扱い、送信前に人が必ず読む運用にしてください。
また、メール本文に含まれる日時をカレンダー予定として登録する操作も、指示ひとつで実行できます。細かい機能ですが、こうした小さな手間の削減が積み上がることで、Copilotを「毎日開くもの」に変えていきます。

製造業ならではのCopilot業務活用のポイント
ここまでは、どの業種でも共通する事務系業務の話でした。ここからは、製造業に固有の使い方に踏み込みます。
段階的に広げた日本製鉄の展開プロセス
日本製鉄は2024年2月にCopilotの検討を開始し、同年4月に300シートでのパイロット導入を4ヶ月間にわたって実施しました。その結果を踏まえ、2025年1月のライセンス更新時に4,400シートへ拡大し、100以上あるすべての部署でCopilotを利用できる機会を提供しています。その後、グループ全体では11,000シートまで拡大しました。
注目すべきは、いきなり全社に配らなかった点です。300シートで4ヶ月試し、そこで得られた具体的な使い方を持ったうえで拡大に進んでいます。この順序が、後述する「配っただけ」問題を避けるうえで決定的に効いています。
設備トラブル対策のプログラミング支援に使う
同社の事例で興味深いのは、活用の中心にいるのがシチズンデータサイエンティストやAzure OpenAI Service検証コミュニティのメンバーである点です。事務系の文書仕事だけでなく、設備トラブル対策のための画像解析プログラムの開発支援にもCopilotが使われています。
製造現場では、既製のソフトウェアでは対応できない小さな解析ニーズが常に発生します。特定の設備の振動波形を切り出したい、検査画像から傷の面積だけを数えたい。こうした要件は外注するほどの規模ではなく、かといって現場の技術者にプログラミングの時間的余裕もありません。Copilotはこの隙間を埋める道具として機能します。
仕様書の差異比較という地味だが重い作業
もうひとつ、同社が挙げているのが仕様書の差異比較です。改訂前後の仕様書、自社標準と顧客要求仕様、日本語版と英語版。製造業では、似て非なる文書を突き合わせて違いを洗い出す作業が頻繁に発生します。
この作業は、集中力を要するわりに付加価値として認識されにくく、しかも見落とせば手戻りが大きい。Copilotに一次比較をさせ、指摘された箇所を人が確認するという分担にすれば、負荷と見落としの両方を減らせます。
同社はこれらの取り組み全体で、年間数万時間規模の業務効率化を見込んでいるとしています。

なぜ「配っても使われない」のか
ここで、冒頭のギャップの話に戻ります。原因は担当者のやる気ではなく、いくつかの構造にあります。
業務シーンが提示されていない
最大の原因はこれです。「便利だから使ってみて」とライセンスだけ配られた担当者は、自分の仕事のどこにCopilotを差し込めばいいのかを、自力で発見しなければなりません。これは本来、かなり難度の高い作業です。
有効なのは、部署ごとに具体的な業務シーンを3つか4つ、指示文の例つきで提示することです。品質保証部なら「クレーム報告書の英訳」「是正処置報告書の下書き」「監査記録の要約」といった粒度まで落とします。抽象的な使い方紹介ではなく、明日そのまま貼り付けられる指示文があるかどうかで、初回利用率は大きく変わります。
最初の成功体験までたどり着けていない
生成AIは、指示の出し方によって出力の質が大きく変わります。最初に曖昧な指示を出して期待外れの答えが返ってくると、そこで試行が止まります。「使ってみたが大したことなかった」という評価は、多くの場合ツールではなく指示の出し方に起因しています。
短時間の研修でも、良い指示と悪い指示を並べて見せるだけで印象は変わります。研修の目的は機能の網羅的な説明ではなく、最初の成功体験を作ることに置いてください。
利用状況を見ていない
配って終わりにしている企業の多くは、誰がどれだけ使っているかを把握していません。利用状況が見えないと、伸びている部署の使い方を横展開することも、止まっている部署に手を入れることもできません。
利用実績は管理者向けのレポートで確認できます。全社の平均値ではなく部署単位で見ると、たいてい大きなばらつきが出ます。そのばらつきそのものが、次に何をすべきかを教えてくれます。
定着施策を体系的に組みたい場合
これら3点はいずれも、生成AIツール全般に共通する定着の課題です。研修の設計、推進担当者の置き方、効果測定の指標設定といった定着施策を体系的に組みたい場合は、AI活用の定着支援について整理した記事で詳しく扱っています。本記事では、Copilotに固有の論点に絞って先に進みます。
タイ拠点でCopilotを展開する際の論点
日本本社と同じ進め方をそのまま持ち込むと、タイ拠点では想定外の壁に当たることがあります。実務上、押さえておきたい点を3つ挙げます。
タイ語での利用をどう位置づけるか
Copilotはタイ語での入出力に対応していますが、日本語や英語と比べたときの出力品質には差があります。タイ人スタッフが日常業務でどこまで頼れるかは、業務の性質によって変わります。
現実的な運用としては、社内向けの下書きや要約はタイ語で使い、社外に出る文書は英語で生成してから人が確認する、という切り分けが機能しています。また、日本人駐在員が日本語で作った文書をタイ語に展開する用途では、言語間の橋渡しとして高い効果が出ています。「タイ語では使えない」でも「タイ語で完結できる」でもなく、用途ごとに線を引くことが重要です。
プラン選択と費用の考え方
Microsoftのタイ向け公式サイトでは、既存のMicrosoft 365ライセンスに追加するアドオンとして、法人向けのCopilotプランが案内されています。ここで注意したいのは、法人向けと一口に言っても中小企業向けと大企業向けでは条件が異なる点です。中小企業向けのCopilot Businessアドオンは、同サイトで2026年7月1日から9月30日までの期間限定割引が案内されており、この期間は年間契約でユーザーあたり月額18米ドル、通常価格は21米ドルとされています。一方、シート数の上限がない大企業向けのCopilot Enterpriseアドオンは年間契約でユーザーあたり月額30米ドルで、こちらは期間限定割引の対象外です。いずれも支払いを月ごとにすると単価は上がります。同ページに掲載されているのはこの2アドオンの価格のみです。
つまり、日本製鉄のような数千シート規模の展開を想定する場合、参照すべきは中小企業向けの割引価格ではなく大企業向けの単価です。契約更新やシート数の見直しが近い場合は、金額そのものより先に、どちらのアドオンを前提に、年払いと月払いのどちらで見積もるかを決めておいてください。
プランの比較や必要シート数の見積もり、権限設計といった導入時の意思決定については、Microsoft Copilot導入の費用と権限設計をまとめた記事で詳しく扱っています。
セキュリティとデータの取り扱い
タイ拠点特有の論点として、個人情報保護法への対応と、日本本社とのデータ共有範囲の設計があります。Copilotは自社テナント内のデータを参照して回答を生成するため、そもそも誰がどのファイルにアクセスできるかという既存の権限設計が、そのまま回答に反映されます。
つまり、権限設計が緩いまま全社にCopilotを配ると、これまで実質的に見えていなかったファイルが検索経由で見えるようになります。導入時に権限を棚卸ししていない場合は、活用を広げる前に一度確認してください。これは技術の問題ではなく、運用ルールの問題です。
もうひとつ、社内から質問が出やすいのがデータの所在地です。Copilotが参照するのは自社のMicrosoft 365テナント内のデータであり、そのデータがどのリージョンに保存されているか、処理がどこで行われるかは、テナントの設定と契約条件によって決まります。タイの個人情報保護法や、日本本社が定めるデータ管理方針との整合を求められる場合は、活用範囲を広げる前に自社テナントの保存先を確認し、社内説明の材料として用意しておくと話が早く進みます。
生成AI業務効率化としての始め方の概観
すでにライセンスがある状態から、実利用を立ち上げる順序を整理します。日本製鉄の展開プロセスも、結果的にこの順序をたどっています。
小さな業務シーンから試す
最初にやるべきは、全社展開ではなく、対象を絞ることです。1つか2つの部署、そのなかでも頻度が高く定型的な業務を3つ程度選びます。品質保証部のクレーム報告書、購買部の見積比較表、総務部の社内通達の多言語展開といった粒度です。
期間は1ヶ月から3ヶ月程度を区切り、その間に何がどれだけ短縮されたかを記録します。効果の記録は、次の拡大を稟議に通すための材料になります。
使える人を増やす
試行で有効な使い方が見つかったら、それを指示文の形にして横展開します。ここで効くのは、部署ごとに1人、使い方を聞ける人を置くことです。情報システム部門に問い合わせるほどではない小さな疑問が、その場で解消されるかどうかで利用の継続率が変わります。
展開を拡大する
利用が定着し、効果が数字で示せる段階になってから、シート数の拡大に進みます。この順序を逆にすると、費用だけが先に立ち上がり、効果が見えないまま更新時期を迎えることになります。日本製鉄が300シートのパイロットを経てから4,400シート、さらに11,000シートへと進んだのは、この順序を守った例と読むことができます。
自社のCopilotが「配っただけ」になっていないかのチェックリスト
現状を確認するための項目を挙げます。当てはまらない項目が多いほど、活用設計に手を入れる余地があります。
- 部署ごとに、Copilotで行う具体的な業務が3つ以上、指示文の例つきで示されている
- 全社の利用状況を、部署単位で把握できている
- 週に1回以上Copilotを開いている社員の割合を、数字で言える
- 短時間でよいので、指示の出し方を扱う研修またはガイドを提供している
- 部署ごとに、使い方を聞ける担当者が決まっている
- Copilotで削減できた時間を、何らかの形で記録している
- 権限設計の棚卸しを、Copilot展開の前後に実施している
- タイ語・英語・日本語のどの用途でCopilotを使うかの方針が決まっている
- 次のライセンス更新時に、シート数を判断する材料が手元にある
半分以上が「いいえ」であれば、追加のライセンスを買う前に、いま配っているライセンスの活用設計に投資したほうが投資対効果は高くなります。
よくある質問
Copilotは導入しただけでは使われないのですか?
そのとおりです。Microsoftの2026年4月30日発表では有償シート数が2,000万を突破する一方、独立系の調査では週次で実際に使われているのは購入ライセンスの2割から3割程度にとどまるという報告があります。原因は具体的な業務シーンが提示されていないこと、最初の成功体験までたどり着けていないこと、利用状況を把握していないことの3点に集約されます。ライセンス配布と活用設計は別の工程だと考えてください。
Copilot Teams議事録機能はどれくらい業務時間を削減できますか?
利用量の参考として、日本製鉄では2025年2月の全社展開拡大後の1ヶ月間で、Teams会議のAIメモが約20,000件利用されています。同社は取り組み全体で年間数万時間規模の業務効率化を見込んでいるとしています。削減幅は会議の性質や議事録の要求水準によって変わるため、まずは自社の会議1件あたりの後処理時間を測り、その何割が置き換わるかで試算することをおすすめします。
Copilotの費用はどれくらいかかりますか?
Microsoftのタイ向け公式サイトでは、既存のMicrosoft 365ライセンスに追加する法人向けアドオンとして2プランが案内されています。中小企業向けのCopilot Businessアドオンは、2026年7月1日から9月30日までの期間限定割引として年間契約でユーザーあたり月額18米ドル、通常価格は21米ドルとされています。シート数の上限がない大企業向けのCopilot Enterpriseアドオンは年間契約でユーザーあたり月額30米ドルで、期間限定割引の対象外です。月ごとの支払いでは単価が上がるため、企業規模と支払い方法、そして時期によって実際の負担は変わります。プラン選定や必要シート数の考え方は導入編の記事で詳しく扱っています。
Copilot Excel活用は数式が分からない担当者でも使えますか?
使えます。表を選択した状態で日本語や英語の文章で指示を出せば、集計・抽出・並べ替え・簡単な傾向分析が実行されます。むしろ、Excelに強い一部の担当者に集計依頼が集中している状態を解くことが、Copilot Excel活用の主要な価値です。ただし原価計算のように数値の正確性が最優先される処理は、検証済みの数式や既存システムに任せ、Copilotには結果の説明文作成を任せる分担が安全です。
タイ人スタッフもタイ語でCopilotを使えますか?
タイ語での入出力に対応しています。ただし日本語や英語と比べた出力品質には差があるため、用途ごとに線を引く運用が現実的です。社内向けの要約や下書きはタイ語、社外に出る文書は英語で生成して人が確認、という切り分けが機能しています。日本語で作成した社内文書をタイ語へ展開する用途では、特に効果が出やすい領域です。
すでにCopilotを配っていますが、いまから立て直せますか?
立て直せます。順序としては、まず部署単位の利用状況を確認し、使われている部署の具体的な使い方を集めます。次にそれを指示文の形にして、使われていない部署へ横展開します。全社一斉の研修より、実際に効果が出ている自社内の事例を配るほうが動きます。日本製鉄も300シートのパイロットで使い方を蓄積してから4,400シートへ拡大しており、順序としては同じ考え方です。
まとめ
本記事の要点を整理します。
Copilotの有償シート数は2026年4月30日のMicrosoft発表で2,000万を突破し、50,000シート以上を持つ大口顧客は前年比4倍に増えました。買う判断はすでに一般的なものになっています。一方で、独立系の調査では実際に週次で使われているのは購入ライセンスの2割から3割程度という報告もあり、配布数と実利用数の間には隔たりがあります。
この隔たりは導入の失敗ではなく、活用設計が存在しないことによって生まれます。埋めるための入り口は、Wordの下書きと要約と翻訳、Excelの自然言語による集計とクリーニング、Teamsの議事録と決定事項の抽出、Outlookのスレッド要約と返信下書きという4つです。製造業ではさらに、設備トラブル対策のプログラミング支援や仕様書の差異比較といった、事務系にとどまらない使い方が成立します。
日本製鉄は2024年4月に300シートでパイロットを始め、2025年1月に4,400シート、その後グループ全体で11,000シートへと段階的に拡大しました。展開拡大後の1ヶ月間で約20,000件のTeams会議AIメモ、約4,500件のメールスレッド要約、そして社内ファイル検索を中心としたCopilot Chatへの50,000回以上のプロンプト送信が記録されています。小さく試し、使い方を蓄積してから広げるという順序が、この結果を支えています。
タイ拠点で展開する際は、タイ語利用の線引き、プランと費用、権限設計の棚卸しという3点を先に押さえてください。そして、追加のライセンスを買う前に、いま配っているライセンスが実際に使われているかを部署単位で確認することをおすすめします。
Copilotのライセンスはすでに配布済みだが現場で使いこなせていない、タイ拠点特有の業務シーンに合わせて使い方を整理したい、といった検討段階でも構いません。TOMAS TECHでは、タイの日系製造業の現場を前提に、どの業務から手をつけるのが現実的かという整理からご相談を承っています。話を聞いてみたいという段階の方は、お問い合わせページからお気軽にご連絡ください。
参考情報
- CIO Dive「Microsoft touts Copilot growth, boosts spending as revenues soar」2026年4月30日
- Microsoft Investor Relations「FY26 Q3 Productivity and Business Processes Performance」
- Microsoft カスタマーストーリー「日本製鉄、DX を加速。Microsoft 365 Copilot を戦略的導入し、段階的拡大で生産性と効率化の成果を最大化」
- リコー「Microsoft 365 Copilotを使用した業務効率化の活用事例についてご紹介!」
- Microsoft Thailand「Microsoft 365 Copilot Pricing」