社内の会議で「うちも生成AIを使えないか」という話が出た。ニュースでも毎日のように見かける。それでも、生成AIとは結局のところ何なのか、これまでのAIと何が違うのかを人に説明できるかというと自信がない。日系製造業のタイ拠点でも、この段階で止まっている方は少なくありません。本記事は、言葉の意味を確認している段階の方に向けて、定義・できること・企業での使われ方・タイでの動向・始め方の順に整理します。
生成AIとは何か|学習したデータをもとに新しいものを作り出すAI
まず定義から確認します。ここを押さえておくと、以降の話がすべてつながります。
生成AIの定義は「新しいコンテンツを作り出すAI」
生成AI(ジェネレーティブAI、Generative AI)とは、大量のデータを学習し、そこから読み取ったパターンをもとに、文章・画像・音声・プログラムコードといった新しいコンテンツを作り出すAIの総称です。
重要なのは「作り出す」という部分です。生成AIが出力するものは、学習した文章をそのまま検索して引っ張ってきたものではありません。学習の過程で身につけた「こういう文脈ではこういう言葉が続きやすい」「こういう指示ではこういう構図になりやすい」というパターンを組み合わせ、その場で新しく組み立てたものが出力されます。だからこそ、同じ指示を出しても毎回まったく同じ答えが返ってくるとは限りませんし、逆に学習データのどこにも存在しない文章を作ることもできます。
この性質は、後述するハルシネーション、つまりもっともらしいが誤った内容を出力してしまう現象の原因でもあります。生成AIは「正しい答えを探してくる装置」ではなく「もっともらしい続きを組み立てる装置」である、と理解しておくと、使いどころと注意点の両方が見えやすくなります。
従来型のAIは「判断する・分類する」ためのものだった
製造業の現場では、生成AIが話題になるずっと前からAIが使われてきました。外観検査で良品と不良品を判別する、設備の振動データから異常の兆候を検知する、過去の受注実績から翌月の需要を予測する。こうした用途に使われてきたAIは、一般に判別AI(識別AI)や予測AIと呼ばれます。
判別AIの仕事は、入力に対して「ラベル」や「数値」を返すことです。画像を入れれば「良品」か「不良品」かが返る。センサーデータを入れれば異常度を示すスコアが返る。出力の選択肢はあらかじめ設計された範囲に収まっており、その範囲の外にあるものは出てきません。
生成AIはここが決定的に違います。入力に対して返ってくるのはラベルでも数値でもなく、文章や画像といった「中身のあるコンテンツ」です。出力の形はあらかじめ決められておらず、指示の仕方によって議事録にもメールの下書きにも作業手順書にもなります。
言い換えると、判別AIは「決められた問いに答えるAI」、生成AIは「問いの立て方次第で答えの形まで変わるAI」です。工場に既に判別AIが入っている企業でも、生成AIはまったく別の道具として検討する価値があります。
RPAは「決められた手順を繰り返す」もので、AIではない
もう一つ混同されやすいのがRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)です。RPAは、人がパソコン上で行っている定型作業、たとえば「基幹システムから受注一覧をダウンロードして、Excelに転記して、決まった宛先にメールで送る」といった一連の操作を、あらかじめ記録した手順どおりに自動で繰り返すツールです。
RPAの強みは、決められた手順を寸分違わず、疲れずに、高速で繰り返せることにあります。逆に言えば、手順に無いことは一切できません。転記元の画面レイアウトが変われば止まりますし、「この受注は内容がおかしいので確認したほうがいい」といった判断はできません。RPAには学習という概念が無く、厳密にはAIではありません。
生成AIが得意なのは、まさにRPAが苦手とする領域です。毎回内容が違う、手順書に落としきれない、しかし人がやると時間がかかる。そういう仕事に向いています。議事録の要約、問い合わせメールの下書き、仕様書のたたき台づくりなどが典型例です。
自然言語で指示できるようになったことが普及の転換点だった
技術としての生成AIは以前から研究されていましたが、企業での利用が一気に広がったきっかけは、日本語や英語といった普段の言葉で指示できるようになったことです。
判別AIを業務に入れる場合、学習用データを集め、ラベルを付け、モデルを構築し、システムに組み込むという工程が必要でした。当然、専門人材と相応の期間が要ります。一方、現在の生成AIは、ブラウザ上の入力欄に「この議事録を300字で要約して、決定事項と宿題を分けて書き出して」と日本語で書くだけで動きます。プログラミングの知識も、モデルを構築する工程も不要です。
この「誰でも触れる」という性質が、情報システム部門を経由せず現場から使われ始める状況を生みました。会社としての方針が決まる前に利用が広がりやすいという構造は、後述する社内ルール整備の論点にも直結します。

生成AIで何ができるか|5つの系統に整理する
「生成AIでできること」を並べると際限がありませんが、企業の業務で使う観点では大きく5系統に整理できます。
系統1|文章の作成・要約・校正
最も利用が多い領域です。会議の音声から起こしたテキストを議事録の形に整える、長い報告書を要点だけにまとめる、顧客への返信メールのたたき台を作る、書いた文章の誤字脱字や表現の重複を指摘させる、といった使い方が該当します。
タイ拠点の日系企業では、日本語・英語・タイ語が混在する文書を扱う場面が多く、翻訳とセットで使われることも増えています。ただし翻訳結果をそのまま外部に出すのではなく、内容を理解するための下訳として使い、最終確認は人が行うという運用が一般的です。
系統2|画像・図表の生成
指示文から画像を作る、既存の画像の一部を差し替える、簡単な図解のたたき台を作るといった用途です。製造業では、社内向け資料の挿絵、教育用の説明図、製品紹介ページのイメージ画像などで使われています。
一方で、実際の製品写真や図面の代替にはなりません。生成AIが作る画像は「それらしく見えるもの」であって、寸法や仕様の正確性は担保されないためです。
系統3|プログラムコードの生成
仕様を言葉で伝えるとコードの下書きを作る、既存コードの意味を説明させる、エラーの原因を推測させるといった用途です。情報システム部門や、Excelマクロを自分で書いている生産管理担当者にとって効果が出やすい領域です。
ただし、生成されたコードをそのまま本番システムに入れるのは避けるべきです。動くように見えて例外処理が抜けている、セキュリティ上の考慮が足りない、といったことが起こり得ます。人がレビューする前提で使う道具と考えてください。
系統4|対話(チャットボット・社内問い合わせ対応)
社内規程や作業手順書を読み込ませておき、従業員からの質問に答えさせる使い方です。「有給の申請期限は」「この設備の始業点検の手順は」といった、答えが文書のどこかに書いてあるが探すのが面倒な質問に向いています。
多言語拠点では、タイ語で質問してもタイ語で答えが返る仕組みを作れるため、日本語で書かれた社内規程をタイ人スタッフが参照しやすくなるという副次的な効果もあります。
系統5|データ分析の補助
表形式のデータを読み込ませて傾向を説明させる、分析の切り口を提案させる、グラフの説明文を書かせるといった用途です。分析そのものを丸ごと任せるというより、分析担当者の作業を早める補助として使われます。
数値の正確性が問われる場面では、生成AIに計算させるのではなく、計算は既存のシステムやExcelで行い、その結果の説明文を生成AIに書かせるという分担が安全です。
実際に企業が使っているのは上位3用途に集中している
5系統を挙げましたが、実際の利用は特定の用途に偏っています。帝国データバンクが2026年5月14日に公表した「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」によれば、生成AIを活用している国内企業の用途は次のとおりです。
| 用途 | 回答割合 |
|---|---|
| 文書作成・要約・校正 | 45% |
| 情報収集 | 22% |
| 企画立案時のアイデア出し | 11% |
この調査は日本国内の企業を対象にしたもので、有効回答は1万312社です。数字を見て分かるとおり、最も多い「文書作成・要約・校正」が45%で突出しており、2位の「情報収集」22%との差は2倍以上あります。さらに大企業に限ると「文書作成・要約・校正」の割合は46.5〜47.8%と、全体よりも高い水準になっています。
つまり、企業で実際に成果が出ているのは、派手な使い方ではなく、日々の文書仕事を軽くする使い方だということです。最初の一歩をどこに置くか迷ったら、この分布は有力な手がかりになります。

なぜ2026年に企業の生成AI活用が本格化したのか
生成AIという言葉自体は数年前から流通していましたが、企業の実利用という観点では2026年が一つの節目になりました。数字で確認します。
国内企業の活用率は34.5%
前掲の帝国データバンクの調査は、調査期間が2026年3月17日から31日、対象が約2万3,349社、有効回答1万312社、回答率44.2%という規模で実施されたものです。この調査で、生成AIを「活用している」と回答した企業は34.5%でした。内訳は「非常に活用している」が4.4%、「やや活用している」が30.2%です。
34.5%という数字の読み方には注意が必要です。「3社に1社しか使っていない」とも読めますし、「3社に1社はもう使っている」とも読めます。ただ、社内で検討する立場から見た場合に意味を持つのは後者です。同業他社の3社に1社が既に何らかの形で使っている状態であれば、「様子を見る」という判断そのものが相対的な遅れになり得ます。
活用している企業の87%が効果を実感している
同じ調査で、生成AIを活用している企業のうち87%が何らかの効果を実感していると回答しています。この数字は報道でも「企業の生成AI活用、9割が効果実感」として取り上げられました。
87%という高い数値をどう解釈するかですが、注意したいのは、これが「生成AIを導入すれば9割の確率で効果が出る」という意味ではないことです。母集団は「活用している企業」であり、導入したものの使われずに終わった企業や、検討段階で断念した企業はここに含まれていません。あくまで「使い続けている企業では効果を感じている」という読み方が妥当です。
それでも示唆はあります。使い続けられる形にさえ持っていければ、効果を感じられる可能性は高い。逆に言えば、勝負どころは技術そのものより「使い続けられる形にする」ところにある、ということです。
論点は「導入するか」から「どう使いこなすか」に移った
活用率34.5%、活用企業の87%が効果実感という組み合わせは、2026年の企業の関心がどこにあるかを示しています。数年前は「生成AIは本当に業務で使えるのか」という技術的な問いが中心でした。現在は、使えることは前提として、どの業務に、誰が、どんなルールで使うのかという運用の問いに論点が移っています。
なお前章で触れたとおり、大企業では「文書作成・要約・校正」の利用が46.5〜47.8%と全体より高い水準にあります。規模が大きい企業ほど、文書業務という具体的な用途で使われ方が固まってきていると読み取れます。
この変化は、これから検討を始める企業にとってはむしろ好材料です。先行した企業がどこでつまずいたかという情報が既に共有されており、同じ失敗を避けやすくなっているからです。
タイ・ASEANでの生成AI活用はどこまで来ているか
ここまでは日本国内の数字でした。タイ拠点で働く方にとっては、現地の状況のほうが切実でしょう。
タイの組織の7割以上が導入済みまたは導入計画中
日中投資促進機構が2026年4月2日に公表した東南アジア地域レポートによれば、タイの組織の7割以上が、効率化や収益向上を目的として生成AIを導入済み、または導入を計画しているとされています。
ここで一点、数字の扱いについて確認しておきます。前章で挙げた帝国データバンクの34.5%は日本国内企業を対象とした調査、この7割以上という数字はタイの組織全般を対象としたレポートです。調査主体も母集団も定義も異なるため、「タイのほうが日本の2倍進んでいる」といった比較はできません。社内資料に引用する際は、必ずどの調査のどの母集団の数字かを添えてください。
読み取るべきなのは倍率ではなく、タイでも生成AIの導入が例外的な取り組みではなくなっているという傾向のほうです。
事例1|マーケティング領域での活用
同レポートが紹介する具体例の一つが、AnyMind Groupによる飲料ブランド「Evian」のライブコマース施策です。AIアバターを配信に導入することで配信コストを90%削減しつつ、売上を従来比3.5倍以上に伸ばしたとされています。
この事例のポイントは、コスト削減と売上向上が同時に起きている点です。人手で回していた配信をAIアバターに置き換えたことで、配信回数や時間帯の制約が外れ、接触機会そのものが増えた結果と考えられます。生成AIの効果が「同じ仕事を安くやる」だけでなく「これまで量的にできなかったことをできるようにする」形で現れた例です。
事例2|金融領域での活用
SCB銀行は、ローン審査業務(マニー・タンジャイ)の所要時間を10分以内に短縮したとされています。
審査という業務は、申込内容の確認、必要書類の照合、過去情報との突き合わせといった、判断を伴う処理の積み重ねです。担当者が読み込むべき情報を整理した状態で提示できれば、判断そのものに時間を使えるようになると考えられます。書式や内容が一定でない情報を相手にするため、RPAでは扱いきれない業務の典型例だと言えます。
事例3|バックオフィス領域での活用
タイ法制委員会(OCS)は、当初7〜10年かかると想定されていた翻訳業務を6ヶ月で完了したとされています。
これは製造業の管理部門にとって最も想像しやすい事例かもしれません。法令文書の翻訳は、量が膨大で、用語の統一が求められ、しかし一件ごとの判断難易度はそれほど高くないという性質を持ちます。人手では単純に物量で詰まっていた仕事だからこそ、桁が違う短縮につながったと考えられます。
社内規程、作業標準書、品質マニュアルといった日本語文書をタイ語や英語に展開する作業を抱えている拠点であれば、同じ構図が当てはまる可能性があります。
現地で挙がっている課題も併せて押さえる
同レポートは、タイでの生成AI活用における主要課題として、PDPA(タイの個人情報保護法)への対応、文化的配慮、AIのハルシネーション防止の3点を挙げています。
特にPDPA対応は、タイに拠点を置く企業にとって避けて通れない論点です。従業員情報や顧客情報を含むデータを外部のサービスに投入する行為が、どの範囲まで許容されるのか。これは技術の問題ではなく、社内規程と契約条件の問題です。
同レポートは成功のための3ステップとして、特定課題での小規模試験導入、システム連携とローカライズ、全社展開と継続的改善という順序を示しています。いきなり全社展開から入らないという点は、後述する「何から始めるか」の話と直結します。

生成AI・従来型AI・RPAの違いを表で整理する
ここまで説明してきた3者の違いを、同じ軸で並べて整理します。社内で説明する際にそのまま使える形にしておきます。
| 観点 | RPA | 従来型AI(判別・予測) | 生成AI |
|---|---|---|---|
| 中心的な役割 | 決められた手順を繰り返す | 判断する・分類する・予測する | 新しいコンテンツを作り出す |
| 学習の有無 | 学習しない | 学習データからモデルを構築する | 大量のデータを学習済み |
| 入力 | 操作手順の定義 | 画像・センサー値・実績データ | 言葉による指示 |
| 出力 | 定型作業の実行結果 | ラベル・スコア・予測値 | 文章・画像・コード・回答 |
| 得意な仕事 | 毎回同じ手順の作業 | 大量データからの兆候検知 | 毎回内容が違う知的作業 |
| 苦手な仕事 | 例外・レイアウト変更 | 想定外のパターン | 正確な計算・事実の保証 |
| 導入の主な負担 | 手順の洗い出しと保守 | データ収集とモデル構築 | 社内ルールと使い方の定着 |
この3つは競合するものではなく、対象とする仕事の性質が違うだけです。実際の現場では、判別AIが検査を担い、RPAが結果の転記を担い、生成AIが是正処置報告書の下書きを担う、といった形で併存します。
そこで、身近な業務ごとにどれが向くのかを整理したのが次の表です。
| 業務の例 | 向いている手段 | 理由 |
|---|---|---|
| 受注一覧の基幹システムからの転記 | RPA | 手順が固定されており判断が不要 |
| 外観検査での良品・不良品の判別 | 従来型AI | 大量の画像から兆候を分類する仕事 |
| 設備の異常予兆の検知 | 従来型AI | センサーデータの傾向を扱う仕事 |
| 会議の議事録作成と要約 | 生成AI | 毎回内容が異なり手順化できない |
| タイ語社内通知の下書き作成 | 生成AI | 文章を新しく組み立てる仕事 |
| 社内規程に関する問い合わせ対応 | 生成AI | 文書を読んで答える仕事 |
| 月次の実績集計 | 既存システム・Excel | 数値の正確性が最優先される |
最後の行を入れているのには理由があります。生成AIは計算を得意としません。集計や原価計算のように「答えが一意に決まり、間違いが許されない」処理は、従来どおりのシステムに任せるのが正解です。
生成AIは何から始めればいいか
ここまで読んで「では自社では何をすればいいのか」と考えている方に向けて、一般的な進め方の全体像を示します。
順序としては「小さく試す」「使える人を増やす」「自社で回す」
多くの企業が通る順序は次の3段階です。
第1段階は、小さく試す段階です。特定の部署の特定の業務に絞って、既存のサービスをそのまま使ってみます。本格導入の前に効果と課題を確かめるこうした小規模な試行は、一般にPoC(概念実証)と呼ばれます。日中投資促進機構のレポートが示す3ステップの最初、特定課題での小規模試験導入がこれにあたります。ここでの目的は効果を出すことではなく、自社の業務に当てはめたときに何が障害になるかを知ることです。機密情報の扱い、既存システムとの接続、現場の受け入れ。実際にやってみないと分からない障害が必ず出てきます。
第2段階は、使える人を増やす段階です。試した結果が良くても、使えるのが情報システム部門の数名だけでは業務は変わりません。ここで研修や社内展開が必要になります。前章の帝国データバンクの調査で活用企業の87%が効果を実感しているという数字は、裏を返せば「使い続けている状態まで持っていけた企業」の話です。
第3段階が、自社で回す段階です。外部に都度依頼するのではなく、業務の変化に合わせて自社で設定や運用を調整できる状態を目指します。
具体的な進め方と費用は別記事で扱っています
上記はあくまで全体像です。実際に「どの業務から着手するか」「PoCにどのくらいの期間と費用をかけるか」「本番展開の判断基準をどう置くか」といった具体的な検討に入る段階になったら、生成AI導入の進め方と費用で工程ごとの進め方と費用の考え方を整理していますので、そちらをご覧ください。本記事は、その手前の「生成AIとは何か」を確認する段階を対象としているため、費用の詳細には踏み込みません。
導入の相談先と進め方にはどんな選択肢があるか
自社だけで進めるのが難しいと感じた場合、外部に相談するという選択肢があります。ここでは選択肢の存在だけ簡潔に触れます。
相談先には、課題の整理から一緒に考えるコンサルティング型、要件が固まった後の構築を担う開発会社、既に使っているクラウド基盤の窓口、自社人材の育成を支援する内製化支援型といった類型があります。どれが優れているという話ではなく、自社が今どの段階にいるかによって適した相手が変わります。要件が固まっていない段階で開発会社に相談すると話が噛み合わない、というのは典型的なつまずき方です。
候補が絞れた後、契約条件や見積書のどこを見るべきかについてはAI開発会社の選び方(契約・見積の急所)で扱っています。発注の一歩手前まで進んだ段階で確認してください。
もう一つの選択肢が研修です。外部に作ってもらうのではなく、自社の人が使えるようになることを目的とした取り組みで、第2段階と相性が良い選択肢です。ただし研修は実施すれば定着するというものではありません。実施した後に使われなくなる原因については生成AI研修が定着しない4つの原因で整理していますので、研修を検討する段階になったら先に目を通しておくと無駄が減ります。
本記事では相談先の選択肢があることを示すにとどめ、選び方の詳細には立ち入りません。まずは自社の課題が言葉になっているかどうかを確認するところから始めてください。
次に来る潮流|生成AIからAIエージェントへ
生成AIの理解を固めたうえで、その先の話にも軽く触れておきます。
ここまで説明してきた生成AIは、基本的に「指示を受けて、その場で応答を返す」道具です。要約を頼めば要約を返し、下書きを頼めば下書きを返す。指示と応答が1対1で対応しています。
これに対して2026年に注目が集まっているのがAIエージェントです。AIエージェントは、与えられた目的に対して、必要な作業を自分で分解し、順番を決め、複数のシステムを操作しながら業務プロセスそのものを進めていく仕組みを指します。「この文章を要約して」ではなく「今週の未処理案件を確認して、期限が近いものを担当者別に整理して連絡案を作って」といった、複数の工程をまたぐ指示に対応しようとするものです。
生成AIが「作業を助ける道具」だとすれば、AIエージェントは「業務プロセスの一部を担う存在」に近づいていく方向性だと言えます。ただし、任せる範囲が広がるほど、誤った判断が業務に与える影響も大きくなるため、どこまでを自動で進めさせ、どこで人が確認するのかという設計が重要になります。
現在地と製造業での具体的な適用可能性についてはAIエージェント最新動向2026で詳しく扱っています。本記事では、生成AIの延長線上にこうした流れがある、という位置付けの確認にとどめます。
導入前に知っておきたい3つの注意点
期待できることを並べてきましたが、始める前に知っておくべき論点も整理しておきます。
注意点1|機密情報・個人情報の扱い
最も基本的な論点です。外部のサービスに入力した情報がどう扱われるのかは、サービスや契約プランによって条件が異なります。入力内容が学習に使われない設定が用意されている場合もあれば、そうでない場合もあります。
タイ拠点であれば、前述のPDPAへの対応も併せて検討が必要です。従業員の個人情報を含む文書、顧客との取引条件が書かれた文書、図面や工程条件といった技術情報。これらをどこまで入力してよいかを、使い始める前に決めておく必要があります。
現実的な出発点としては、「機密区分の高い情報は入力しない」という単純なルールから始め、業務での必要性が見えてきた段階で、契約条件を確認したうえで範囲を広げていく形が取りやすいでしょう。
注意点2|ハルシネーション(誤った出力)のリスク
冒頭で触れたとおり、生成AIは「もっともらしい続きを組み立てる」仕組みです。そのため、存在しない規格番号を挙げる、実在しない条文を引用する、数値を取り違えるといったことが起こります。しかも、その出力は自信たっぷりに、体裁の整った文章として提示されます。
対策の基本は、生成AIの出力を「たたき台」として扱い、事実に関わる部分は人が一次情報で確認するという運用です。特に、社外に出す文書、法令や規格に関わる記述、数値を含む記述は必ず確認してください。
逆に言えば、要約や下書きのように「元となる情報を人が持っている」場面では、このリスクは相対的に小さくなります。最初の適用先として文書作成・要約が選ばれやすい理由の一つでもあります。
注意点3|社内ルールの整備が後追いになりやすい
生成AIは誰でも使えてしまうため、会社が方針を決める前に現場で使われ始めるという状況が起きます。悪意があるわけではなく、単に便利だから使う、というだけのことです。
ここで「禁止」から入ると、水面下で使われるだけで管理はかえって難しくなります。使ってよい業務の範囲、入力してはいけない情報の種類、出力を業務に使う際の確認手順という3点を最低限決めて明文化し、そのうえで使ってよいと伝えるほうが実効性があります。
ルールは最初から完璧である必要はありません。試す段階で出てきた実際の疑問に合わせて更新していくほうが、現場の実態に合ったものになります。
チェックリスト|自社は「知る」段階か「試す」段階か
最後に、自社が今どの段階にいるのかを確認するための項目を挙げます。
| 確認項目 | 該当する場合の状態 |
|---|---|
| 生成AIと従来型AI・RPAの違いを社内で説明できる人がいる | 「知る」段階は通過している |
| 生成AIを実際に触ったことがある人が部署に1人以上いる | 社内に手応えを語れる人がいる |
| どの業務を楽にしたいのかが具体的な工程名で言える | 適用先を選べる状態にある |
| 入力してよい情報・いけない情報の線引きが決まっている | 試す前提が整っている |
| 試した結果を評価する担当と期限が決まっている | 検討が止まりにくい状態にある |
上から2つに該当しない場合は、まだ「知る」段階です。この段階でやるべきことは、外部に相談することでも予算を確保することでもなく、まず数名が実際に触ってみることです。無料で試せる範囲でも、自社の業務に当てはめたときの感触はつかめます。
3つ目以降に該当するようになったら「試す」段階です。ここまで来ていれば、具体的な進め方や費用の検討に進む準備ができています。
よくある質問
生成AIとは何ですか?
大量のデータを学習し、そのパターンをもとに文章・画像・音声・コードといった新しいコンテンツを作り出すAIの総称です。異常検知や良品判別のようにラベルや数値を返す従来型AIとは異なり、出力されるのは中身のあるコンテンツです。また、決められた手順を繰り返すRPAとも仕組みが異なります。
生成AIで何ができますか?
企業の業務では、文章の作成・要約・校正、画像や図表の生成、プログラムコードの生成、対話による社内問い合わせ対応、データ分析の補助という5系統に整理できます。実際の利用は文書仕事に集中しており、帝国データバンクの調査では国内の活用企業のうち45%が「文書作成・要約・校正」を挙げ、次いで「情報収集」22%、「企画立案時のアイデア出し」11%となっています。
生成AIの業務活用はどのくらい進んでいますか?
帝国データバンクが2026年5月14日に公表した調査によれば、日本国内企業の生成AI活用率は34.5%です。内訳は「非常に活用している」4.4%、「やや活用している」30.2%となっています。また活用している企業の87%が何らかの効果を実感していると回答しています。タイについては、日中投資促進機構のレポートで組織の7割以上が導入済みまたは導入計画中とされていますが、こちらは母集団が異なるため日本の数字と直接比較することはできません。
生成AIとRPAはどう使い分ければいいですか?
毎回同じ手順を繰り返す作業はRPA、毎回内容が変わり手順書に落としきれない知的作業は生成AIが向いています。基幹システムからの定型転記はRPA、議事録の要約や通知文の下書きは生成AI、という切り分けが目安です。なお集計や原価計算のように数値の正確性が最優先される処理は、どちらでもなく既存のシステムやExcelに任せるのが安全です。
生成AIのビジネス活用はどこから始めるべきですか?
特定の部署の特定業務に絞って小さく試すところからです。日中投資促進機構のレポートも、特定課題での小規模試験導入、システム連携とローカライズ、全社展開と継続的改善という3ステップを示しています。最初から全社展開を目指すと、機密情報の扱いや現場の受け入れといった障害が一度に噴出して止まりやすくなります。
まとめ
本記事の要点を整理します。
生成AIとは、学習したデータのパターンをもとに新しいコンテンツを作り出すAIです。判断や分類を行う従来型AIとも、決められた手順を繰り返すRPAとも、担う仕事の性質が異なります。できることは文書、画像、コード、対話、データ分析の補助という5系統に整理できますが、実際の企業利用は文書作成・要約・校正に大きく偏っています。
2026年時点で、帝国データバンクの調査では国内企業の活用率が34.5%、活用企業の87%が効果を実感しています。タイでも日中投資促進機構のレポートで組織の7割以上が導入済みまたは計画中とされ、マーケティング・金融・バックオフィスの各領域で具体的な成果が報告されています。論点は「導入するかどうか」から「どう使いこなすか」に移りました。
始め方の順序は、小さく試す、使える人を増やす、自社で回す、の3段階です。始める前に、機密情報の扱い、ハルシネーションへの備え、社内ルールの整備という3点を押さえておくと、後戻りが少なくなります。
まだ「知る」段階だと感じたなら、次にやるべきことは大きな投資判断ではなく、数名が実際に触ってみることです。
生成AIについて調べ始めたばかりで、タイ拠点の自社業務に当てはめたときの具体的なイメージがまだ湧かないという段階でも構いません。TOMAS TECHでは、タイの日系製造業の現場を前提に、どの業務から検討するのが現実的かという整理からご相談を承っています。話を聞いてみたいという段階の方は、お問い合わせページからお気軽にご連絡ください。