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2026.08.12

チャットボット費用2026|比較の単位は月額でなく応答1件

チャットボット費用2026|比較の単位は月額でなく応答1件

チャットボット費用の見積書を3社から取っても、たいてい比較になりません。月額が一桁違う提案が並んだところで、どちらが割高なのかを判断する共通の物差しがないからです。製品ごとに課金の単位が違い、同じ「1応答」でも中身が違い、そもそも肩代わりできる問い合わせの割合が違います。この記事では、金額が桁で動く3つの理由を押さえたうえで、費用を5つの層に分け、月2,000件という仮定値を置いた3構成を「1件あたりいくらか」に揃えて比べます。

金額が桁で変わる3つの理由

課金の単位が製品ごとに別物である

最初につまずくのはここです。並べている3社は、そもそも違う単位で数えています。

LINE公式アカウントは、メッセージの「通数」で数えます。ただし課金対象になるのは push / multicast / broadcast / narrowcast であり、ユーザーの発話に対する reply message は課金対象外です(LINE Developers)。つまり、チャットボットがユーザーの質問に答える動作そのものは、LINE側の通数を消費しません。ボットが1日に1万回答えても、LINEの請求は変わらないという建て付けです。

Microsoft の Copilot Studio は「Copilot クレジット」で数えます。従量課金は1クレジットあたり $0.01、容量パックは 25,000クレジットで $200/月(1クレジットあたり $0.008)です。2025年9月に「メッセージ単位課金」からクレジット制へ移行しましたが、レート自体は据え置かれています。問題は1応答あたりの消費量で、公開されている消費例では、テナントのグラフを参照するエージェントの1応答が 12クレジット(グラウンディング10 + 生成2)。ここに推論(reasoning)を足すと、同じ1応答が112クレジット以上になります。約9倍です。設定を1つ変えただけで、応答単価が9倍動く単位で見積もっているわけです。

LLM API を直接呼ぶ構成なら、単位はトークンです。Claude Sonnet 5 は入力 $2 / 出力 $10(100万トークンあたり)、Claude Haiku 4.5 は入力 $1 / 出力 $5。公式の試算例では、サポート問い合わせ1万件を Haiku 4.5 で処理して約 $37(1会話あたり平均約3,700トークン)とされています。

通数、クレジット、トークン。この3つは換算表がありません。比較できる形に直す唯一の方法は、「自社の問い合わせ1件を処理すると、その製品ではいくらになるか」に全部を引き直すことです。この記事の後半でやるのは、まさにその作業です。

タイ語やベトナム語では同じ意味でもトークンが増える

2つめは言語です。主要なLLMのトークナイザは英語中心のデータで学習されているため、非ラテン文字は同じ意味を表すのにトークン数が増えます。実務上の目安として、非英語のクエリには2〜3倍の予算を見込むべきという指摘があり、CJK・アラビア文字・ヒンディー文字などの非ラテン系では 3〜8倍悪化するという報告もあります。タイ語は単語間に空白を置かない書記体系のため、同じ意味の英文が4〜5トークンで済むところ、15〜20トークン以上になる場合があります。

ここで注意が必要です。これは確定した係数ではなく、幅のある目安です。「タイ語は日本語の◯倍」と単一の数字で断定できる性質のものではなく、文の内容、トークナイザの世代、プロンプトの構成で変わります。この記事でも、単一倍率としては扱わず、レンジのまま試算に入れます。

実務上の含意は明確です。日本本社が日本語のコーパスで作った従量試算を、そのままタイ拠点に持ち込むと、従量部分だけが想定を外れて膨らむ可能性がある。ただし後述するとおり、それが総額を動かすかどうかは「従量が総額の何%を占めているか」次第です。多言語での運用設計そのものについては多言語チャットボットの導入で押さえる論点で別途整理しています。

封じ込め率が費用対効果の分母を決める

3つめが、実は一番大きい要素です。チャットボットの価値は「答えた件数」ではなく「有人対応に渡さずに済んだ件数」で決まります。この指標が containment(封じ込め率)です。

2026年時点で公開されているベンチマークでは、型ごとにレンジが分かれています。

  • スクリプト型のFAQボット: containment 25〜45%
  • 回答のみを返すAIエージェント: 40〜60%
  • 注文照会や返品処理などアクションを実行するAIエージェント: 55〜75%

多くの導入は 20〜40% から始まり、成熟すると 70〜90% に達するとされます。またエンタープライズCXにおけるTier1の deflection は、中央値 41.2%、上位四分位 58.7% という数字が出ています。

用語は分けて使う必要があります。containment はそのチャットが有人に渡らず終わったかどうか(チャット内に限定した指標)、deflection はチャネルを問わず有人キューに入らずに済んだかどうか、resolution は実際に解決したかどうか。ボットが答えたものの、ユーザーが諦めて電話をかけ直した場合、containment は成立していても deflection は失敗しています。

そして重要な前提として、これらの出典はeコマース中心のベンチマークであり、製造業の社内問い合わせの数字ではありません。工場の情シス問い合わせや生産管理の照会は、質問の型が定型に寄る一方で、社内システムの状態を見に行かないと答えられない比率が高く、単純にこのレンジを当てはめられる保証はありません。本記事の試算では、あくまで「型ごとの相対的な差」を表す指標として使い、絶対値は自社データで置き換える前提で扱います。

チャットボット費用2026|比較の単位は月額でなく応答1件 - figure 1

チャットボットの費用を5つの層に分解する

見積書が比較できないもう1つの理由は、見積書に載る層と載らない層があり、その境目が会社によって違うことです。費用は次の5層に分けると整理できます。

中身見積書に出るか
①プラットフォーム月額チャネルの基本料(LINE公式アカウント等)、ボット基盤のSaaS月額出る。金額も確定している
②応答の従量課金メッセージ通数、クレジット、APIトークン単価は出るが、総額は出ない
③ナレッジ整備・初期構築文書の棚卸し、シナリオやトピックの設計、検索用の整形出る。ただし範囲定義が曖昧なことが多い
④既存システム連携基幹・在庫・勤怠・チケット管理との接続、認証連携一部だけ出る。追加見積になりやすい
⑤ナレッジ改版の社内工数規程改定や手順変更のたびの更新、回答品質の点検出ない。自社の人件費として発生する

見積書に確定額が出るのは①だけ

①は確定額です。LINE公式アカウントのプラン料金も、ボット基盤のSaaS月額も、契約時点で金額が決まります。ここだけを見て「A社のほうが安い」と判断するのが、最もありがちな失敗です。①は総額の一部でしかありません。

③と④は金額が出るものの、性質が違います。範囲定義の解像度が、そのまま金額の信頼度になる層です。「ナレッジ整備一式」と書かれた見積は、何本の文書を、どの粒度まで、誰が整形するのかが決まっていません。④も同様で、「基幹システム連携」が読み取りだけを指すのか、書き込みまで含むのか、認証をどう通すのかで工数は数倍変わります。ここが曖昧なまま契約すると、追加見積という形で後から出てきます。

②の従量課金は、見積時点では誰にも総額が出せない

②が最も読みにくい層です。ベンダーが提示できるのは単価までで、総額は「自社が月に何件問い合わせるか」「1件あたり何回応答が発生するか」「1応答が何クレジット/何トークンを消費するか」の3つを掛けないと出ません。この3つは、ベンダーではなく発注側が持っている情報です。

つまり②の総額を出す責任は発注側にある、という構造になっています。ここを空欄のまま比較すると、月額の安い提案が従量で逆転するケースを見落とします。後述する感度分析では、①③④⑤を一切変えずに②の設定だけを変えた結果、年間の収支が黒字175,536 THBから赤字94,800 THBへ反転しました。

⑤は誰の予算にも載らない

⑤は見積書に絶対に出ません。他社が請求しないからです。しかしチャットボットの費用構造で、長期的に効いてくるのはここです。

社内規程が変わる、作業手順書が改訂される、製品仕様が更新される。そのたびに、ボットが参照しているナレッジも直さなければ、古い回答を自信満々で返し続けます。この「版ズレ」は、時間が経つほど発生確率が上がる性質のもので、放置すると封じ込め率がじわじわ下がります。運用側から見た版ズレの起き方と対処は社内問い合わせ自動化とナレッジの版ズレで詳しく扱っています。

本記事の試算では、⑤を「担当者の月あたり作業時間 × 時間単価」として明示的に金額化します。見積書に出ないものを0円として扱うと、費用対効果の判断が構造的に甘くなるからです。

製品タイプ4分類で見る封じ込め率と課金単位

製品名を並べる前に、型を決める必要があります。型が違えば封じ込め率のレンジが違い、課金単位も違い、必要な③④⑤の量も違うからです。

封じ込め率の目安主な課金単位向く用途
スクリプト型FAQボット25〜45%月額固定 + メッセージ通数定型FAQ、受付の振り分け、営業時間や場所の案内
回答のみのAIエージェント40〜60%クレジットまたはトークンの従量社内規程、作業手順、製品仕様の照会
アクション実行型エージェント55〜75%従量 + 連携開発の初期費在庫照会、チケット起票、申請受付、返品処理
自社構築(LLM API直叩き)目指す型のレンジに準じるトークン従量 + 自社の開発・運用独自データや独自業務フローに合わせ込む場合

4つめの「自社構築」は、厳密には型ではなく作り方です。LLM APIを直接呼ぶこと自体は封じ込め率を上げません。回答のみのエージェントとして作れば40〜60%のレンジを狙うことになり、アクション実行まで作り込めば55〜75%を狙えます。自社構築を選ぶ理由は単価の安さではなく、既製品では届かない業務フローに合わせ込む必要があるかどうかです。後の試算で示すとおり、自社構築のトークン従量は費用の主役になりません。主役は開発と連携と保守工数です。

型を先に決めるべき理由はもう1つあります。アクション実行型を選ぶと、④既存システム連携が必須になるからです。在庫を照会するには在庫システムに繋ぐ必要があり、チケットを起票するにはチケットシステムに繋ぐ必要がある。封じ込め率が高い型ほど、④の金額が跳ね上がります。封じ込め率だけを見て高い型を選ぶと、④で詰まります。

チャットボット費用2026|比較の単位は月額でなく応答1件 - figure 2

月2,000件を仮定した3構成の年間費用試算

ここからは思考実験です。前提となる数字を明示したうえで、3構成の年間費用を「問い合わせ1件あたりいくらか」に換算して比べます。

前提として置いた仮定値

以下の数字は、すべて筆者が仮に置いた値であり、実在企業の実データではありません。読者が自社の数字に入れ替えて再計算するための土台として提示します。末尾の参考情報に挙げた公表値(LINE、Copilot Studio、Claude API、封じ込め率、PDPA)と、この仮定値は明確に別物です。

前提項目置いた値種別
モデル企業タイの日系製造業、従業員200名規模仮定値
月間問い合わせ件数2,000件(年24,000件)仮定値
内訳社内1,200件 / 社外800件仮定値
言語構成タイ語60% / 日本語25% / 英語15%仮定値
有人対応の平均所要時間1件あたり8分仮定値
対応者の時間単価300 THB/時間(諸経費込み)仮定値
初期構築費の償却期間3年仮定値
為替1 USD = 32 THB と仮定仮定値

この前提から、有人対応1件あたりのコストは 8分 ÷ 60 × 300 THB = 40 THB になります。全件を有人で対応した場合の年間人件費は、24,000件 × 40 THB = 960,000 THB/年。これが本試算のベースラインです。

なお、実務では社内問い合わせと社外問い合わせは別チャネルで受けます。ここでは単価を比較可能にするため、「同じ月2,000件を1構成で受けたらいくらか」に条件を揃えています。この揃え方は比較のための便宜であり、実際の設計では窓口を分けることになります。

3構成の年間費用と1件あたり単価

3つの構成を置きます。

  • 構成A: LINE公式アカウント(Basic) + スクリプト型FAQボット
  • 構成B: Copilot Studio(Microsoft)ベースの回答型AIエージェント
  • 構成C: LLM API直叩きの自社構築によるアクション実行型エージェント
費用層構成A構成B構成C
①プラットフォーム月額111,360072,000
②応答の従量課金036,86417,050
③初期構築(3年償却)80,000150,000400,000
④既存システム連携(3年償却)060,000200,000
⑤ナレッジ改版の社内工数28,80057,60086,400
年間費用合計220,160304,464775,450

(単位: THB/年)

各層の根拠はこうです。なお、以下に出てくる初期構築費・連携費・SaaS月額・インフラ費・作業時間は、すべて筆者が置いた仮定値であり、実勢価格ではありません。参考情報に挙げた単価(LINE、Copilot Studio、Claude API)だけが実在の公表値です。

構成Aの①は、LINE公式アカウント Basic の月額 1,280 THB × 12 = 15,360 THB に、スクリプト型FAQボットのSaaS月額を仮に 8,000 THB/月(年96,000 THB)と置いた合計です。②が0なのは、ボットの応答は reply message で返すため課金対象外だからです。push は月3,000通程度と仮定しましたが、Basic に含まれる15,000通の枠内なので超過料金は発生しません。③は初期構築240,000 THBを3年償却。④は連携なしで0。⑤は月8時間 × 300 THB × 12。なお LINE の表示価格は VAT 7% 別で、年間15,360 THB に対して VAT は 1,075 THB です。本試算は全構成をVAT別で統一しています。

構成Bの②は、外部・非ライセンス分の800件/月 × 12クレジット = 9,600クレジット/月を従量 $0.01 で計算し、$96/月 × 12か月 × 32 THB = 36,864 THB。社内1,200件分を計上していないのは、Microsoft 365 Copilot ライセンス保有者が Copilot / Teams / SharePoint 内で使う社内向けエージェントは、フェアユースの範囲内で有償クレジットを消費しないためです。①が0なのは、この規模では容量パックを買う必要がないからです(理由は次項)。

ここには重要な但し書きがあります。Microsoft 365 Copilot ライセンスそのものの費用は、本記事が参照した公表資料の範囲に無いため試算に含めていません。社内利用者がライセンスを未保有なら、その分が丸ごと上乗せされ、構成Bの順位は変わり得ます。構成Bは「既にM365 Copilotを導入済みの企業が、その上にエージェントを載せる場合」の数字として読んでください。

構成Cの②は、Claude公式の試算例(1万件で約 $37)を出発点に、アクション実行のためツール呼び出しの往復が増えることを見込んで2倍、さらにタイ語主体の言語構成による増分を保守側の3倍として計算しています。24,000件 ÷ 10,000 × $37 × 2 × 3 = $532.80 → 約17,050 THB。①は運用インフラ(ホスティング、監視、ログ保管)を月6,000 THBと仮定。③④は自社開発1,200,000 THBと連携開発600,000 THBをそれぞれ3年償却。⑤は月24時間 × 300 THB × 12。検索対象のナレッジをどう作るかは工場ナレッジのRAG構築に整理しています。

これを封じ込め率と突き合わせます。封じ込め率は、前掲レンジの中央付近を1点選んで採用しました(A=35%、B=50%、C=65%)。レンジの中のどこを取るかで結論が動く点は、後段で扱います。

指標構成A構成B構成C
採用した封じ込め率35%50%65%
封じ込め件数(年)8,400件12,000件15,600件
総問い合わせ1件あたり単価9.17 THB12.69 THB32.31 THB
封じ込め1件あたりの実効単価26.21 THB25.37 THB49.71 THB

この表が本記事の中心です。総件数で割った単価では、構成Aが最も安く見えます(9.17 THB)。しかし実際に有人対応を減らせた件数で割り直すと、構成Aと構成Bはほぼ同水準(26.21 THB と 25.37 THB)になります。年間費用は構成Bのほうが84,304 THB高いにもかかわらず、です。差が消えるのは、構成Bが3,600件多く封じ込めているからです。

一方、構成Cの実効単価は49.71 THBで、有人対応1件のコスト40 THBを上回っています。この条件では、封じ込めた1件あたりのコストが、人が対応するコストより高い。月2,000件という規模では、アクション実行型の自社構築は割に合わないという結論になります。

効果額はベースラインを1つに固定する

削減額を計算するときに最も壊れやすいのが、ここです。

本試算では、効果として数えるのは「有人対応に費やしていた人件費のうち、封じ込めによって不要になった分」だけです。 外部BPOへの委託費削減は数えません。同じ有人対応を、人件費と委託費の両方で二度数えることになるからです。どちらを数えるかは、記事の中で1つに宣言しておく必要があります。

指標構成A構成B構成C
ベースライン(全件有人)960,000960,000960,000
封じ込め後の有人対応費624,000480,000336,000
人件費の削減額(年)336,000480,000624,000
年間費用合計220,160304,464775,450
年間の純効果+115,840+175,536−151,450

(単位: THB/年)

もう1つ、正直に書いておくべき但し書きがあります。この削減額は工数換算の効果であって、そのままキャッシュが浮くわけではありません。担当者の人数が変わらず、残業も減らないなら、現金の支出は1バーツも減りません。浮いた時間を別の仕事に振り向けられて初めて価値になります。「年間480,000 THBの削減」を稟議に書くなら、その時間で何をするのかまで書く必要があります。

損益分岐となる問い合わせ件数

同じ計算式を、件数を変数にして解き直すと、各構成が黒字になる問い合わせ量が出ます。固定費(①③④⑤)を、1件あたりの削減額から1件あたりの従量費を引いた値で割った結果です。

構成固定費(年)1件あたり削減額1件あたり従量費損益分岐点
構成A220,16014.00 THB(40 × 35%)0年約15,730件 = 月約1,310件
構成B267,60020.00 THB(40 × 50%)1.54 THB年約14,500件 = 月約1,210件
構成C758,40026.00 THB(40 × 65%)0.71 THB年約30,000件 = 月約2,500件

固定費は各構成の①③④⑤の合計、1件あたり従量費は②を年24,000件で割った値です。構成Bなら 267,600 ÷(20.00 − 1.54)≒ 14,500件 という計算になります。

構成Bの分岐点が構成Aより低いのは、封じ込め率の差が固定費の差を上回っているためです。安い構成が常に有利ではないという、当たり前だが見落とされやすい構造がここに出ています。

構成Cは月2,500件を超えて初めて黒字化します。仮定した月2,000件では2割足りません。ここから言えるのは、アクション実行型の自社構築は、問い合わせ量そのものが投資判断の前提条件になるということです。件数が読めないうちに自社構築を選ぶと、封じ込め率が高くても回収できません。

封じ込め率をレンジの端で取ると順位が入れ替わる

先ほどは各型のレンジ中央付近を1点だけ採用しました。レンジの下限と上限で取り直すと、こうなります(年間費用は据え置き、封じ込め率だけを動かした場合の純効果)。

構成レンジ下限採用した中央付近レンジ上限
構成A(25 / 35 / 45%)+19,840+115,840+211,840
構成B(40 / 50 / 60%)+79,536+175,536+271,536
構成C(55 / 65 / 75%)−247,450−151,450−55,450

(単位: THB/年)

封じ込め率が10ポイント動くと、どの構成でも純効果は96,000 THB動きます(24,000件 × 10% × 40 THB)。ここから2つ読めます。

1つは、構成Aが上限(45%)を出せるなら、構成Bが下限(40%)にとどまる場合を上回る(+211,840 対 +79,536)ということ。型の優劣は固定ではなく、運用でどこまで封じ込められるかで逆転します。安い型を選んで運用に投資する道と、高い型を買って運用が伴わない道では、前者が勝ち得ます。

もう1つは、構成Cは型のレンジ(55〜75%)の全域で赤字だということ。上限の75%を達成しても年間 −55,450 THB です。黒字に転じるには封じ込め率 約81%(775,450 ÷ 40 THB ÷ 24,000件)が必要で、これは前掲の「成熟すると70〜90%」の上端寄りに当たります。型のレンジ内では結論が動かない一方、成熟運用でそこまで引き上げ切れるかどうかが分かれ目になります。月2,000件という件数規模が、構成Cの固定費に対して単純に小さすぎます。

推論を足すと構成Bは赤字に反転する

②の危うさを、数字で見ます。構成Bの①③④⑤は一切変えず、1応答あたりのクレジット消費だけを 12クレジット から 112クレジット に変えます(推論を有効にした場合の公開消費例)。

800件/月 × 112クレジット = 89,600クレジット/月。ここで課金方式の選択が入れ替わります。従量 $0.01 なら $896/月ですが、容量パック(25,000クレジットで $200)を4本買えば100,000クレジットが $800/月。パックのほうが安くなります。

  • 変更前(12クレジット、従量): 年 36,864 THB
  • 変更後(112クレジット、容量パック4本): 年 307,200 THB

差は270,336 THB。年間費用合計は 304,464 → 574,800 THB になり、年間の純効果は +175,536 THB から −94,800 THB へ反転します。封じ込め1件あたりの実効単価も 25.37 THB から 47.90 THB に上がり、有人対応の40 THBを超えます。

クレジット消費が9.33倍(112 ÷ 12)なのに費用が8.33倍にとどまるのは、容量パックの単価(1クレジット $0.008)が従量($0.01)より安いためです。ついでに言えば、従量と容量パックの分岐点は月20,000クレジット($0.01 × 20,000 = $200)。12クレジット/応答なら月約1,670応答、112クレジット/応答なら月約180応答でパックの領域に入ります。推論を有効にした瞬間、少ない応答数でパック契約が前提になります。

見積書の①③④⑤が全部同じでも、設定1つで収支の符号が変わる。「1応答でいくら消費するのか」をベンダーに確定させないまま契約してはいけないという話です。

従量が総額に占める比率が、言語リスクの大きさを決める

冒頭で挙げた「タイ語のトークン増」は、どの構成にも同じように効くわけではありません。効き方は、②が総額の何%を占めるかで決まります。

構成②の年額年間費用合計従量が占める比率
構成A0220,1600%
構成B(12クレジット)36,864304,46412.1%
構成B(112クレジット)307,200574,80053.4%
構成C17,050775,4502.2%

構成Cは、②を保守側の3倍で見積もっても総額の2.2%にすぎません。仮に2倍に抑えられたとしても年11,366 THB、差は5,684 THB です。自社構築において、トークン単価の言語差は総額をほとんど動かしません。動かすのは開発費と連携費と保守工数です。

言語のトークン増が直撃するのは、②がトークン建てで、かつ従量が総額の主役になっている構成です。具体的には、初期構築を最小限にした軽量なSaaS従量プランで、月間件数が大きいケース。逆に、構成Bのようなクレジット建ての場合、公開されている消費例はグラウンディングと推論の有無で示されており、言語別の係数は示されていません。言語でクレジット数がどう動くかは製品ごとに確認が必要で、本記事では断定しません

では、タイ拠点でコストが本当に増える場所はどこか。実務的には②ではなく、③④⑤です。タイ語・日本語・英語の3言語でナレッジを揃える工数、用語の対訳を管理する仕組み、規程が改定されたときに3言語すべてを同時に更新する運用。ここが増分の本体です。従量単価の心配より、⑤の担当者を誰にするかを決めるほうが、費用への影響は大きいと考えられます。

チャットボット費用2026|比較の単位は月額でなく応答1件 - figure 3

タイ拠点で費用構造が変わる論点

LINE公式アカウントのタイ料金と、BasicとProの分岐点

タイで顧客向けチャネルを持つなら、LINE公式アカウントは避けて通れません。2026年時点のタイ向け料金は次のとおりです(表示価格はいずれも VAT 7% 別)。

プラン月額込みの通数超過単価
Free0月300通
Basic1,280 THB15,000通0.10 THB/通
Pro1,780 THB35,000通0.06 THB/通

Pro は MyCustomer(CRM機能)を追加費用なしで含みます。

この3つから、BasicとProの分岐点は計算で出せます。月間の配信通数を V とすると、Basic の費用は 1,280 + 0.10 ×(V − 15,000)、Pro は V が35,000通以下なら1,780 THB。両者が等しくなるのは V = 20,000通のときです(1,280 + 0.10 × 5,000 = 1,780)。

  • 月20,000通まで: Basic が安いか同額
  • 月20,000通を超えたら: Pro が安い

月25,000通なら Basic 2,280 THB に対し Pro 1,780 THB で、Pro が500 THB安くなります。「通数がまだ少ないからBasicで」という判断は、20,000通を境に逆転するということです。

なお、タイのLINE料金は改定を経てきた経緯があり、2019年8月1日の改定では超過料金が大幅に引き下げられました。当時の数字(Basic の超過が 0.3 から 0.08 へ、など)は現行価格ではありません。社内に古い試算表が残っている場合、現行の 0.10 / 0.06 で引き直す必要があります。

reply が課金対象外であることの、設計上の意味

料金表よりも設計に効くのが、この一点です。LINE Messaging API で課金対象になるのは push / multicast / broadcast / narrowcast であり、reply message は課金対象外です(料金プランは国・地域で異なります)。

つまり、こういうことになります。

  • ユーザーが質問し、ボットが reply で答える → LINE側の費用は増えない
  • ボットの回答精度を上げて応答回数が増える → LINE側の費用は増えない
  • 有人担当者が翌朝あらためて push で回答する → 1通ぶん課金される
  • 未読フォローや営業時間外の再通知を push で送る → そのぶん課金される

LINEチャットボットの費用を決めているのは、ボットの賢さではなく push の設計です。費用を抑えたければ、まず「なぜ push しているのか」を数え直すことになります。逆に、エスカレーション後の返信を非同期の push で運用する設計は、通数と直結します。有人に渡した後の返し方まで含めて、通数の見積を作る必要があります。

この構造は、社内向けチャネルの選択にも影響します。社内問い合わせをLINEで受けるか、Teamsで受けるかは、機能比較の前に課金構造の比較です。LINEは reply が無料で push が有料、Copilot Studio は応答ごとにクレジットを消費する(ただしM365 Copilotライセンス保有者の社内利用はフェアユース範囲内で消費しない)。同じ「1回の会話」でも、請求の発生条件がまるで違います

PDPAの執行フェーズと、チャットボットのログ設計

タイ拠点でチャットボットを持つなら、費用の話にPDPAが入ってきます。2025年8月以降、タイの個人データ保護委員会(PDPC)は警告中心の運用から実際に制裁金を科す執行フェーズへ移行しました。2026年5月時点で、累計 約2,150万THB(約66万USD) の行政制裁金が科されています。

制裁金の段階は条文ごとに上限が定められており、第82条違反で100万THB、第83条違反で300万THB、第84条違反で500万THB。2026年の重点調査分野は、eコマース、医療、通信、公共サービスとされています。製造業はこの重点分野には入っていませんが、顧客向けやサプライヤ向けのチャットチャネルを持てば、扱っているのは同じ個人データです。PDPCは苦情を待たずに職権で調査を行っており、ほぼ上限額の制裁やデータ削除命令も出ています。

チャットボットに引き直すと、論点は次の4つに集約されます。

  1. 会話ログは個人データを含みうる — 氏名、電話番号、注文番号、時には健康情報まで、ユーザーは自由記述欄に何でも書きます
  2. 保持期間を決めているか — ログを無期限に貯める設計は、削除要求に応えられない設計と同義です
  3. 越境移転をどう説明するか — LLM APIが国外リージョンで処理される場合、そこは説明対象になります
  4. 削除要求に個別対応できるか — 特定ユーザーのログだけを抜いて消せる構造になっているか

費用の話としては、これらは③初期構築と④既存システム連携に載るべき項目であり、見積書の範囲定義から最も漏れやすいところです。ログの保持期間管理も、ユーザー単位の削除機能も、後から入れるほうが高くつきます。データ削除命令が出た場合の作り直しコストは、本記事では試算しません(前提が多すぎて意味のある数字にならないため)が、設計段階で織り込んでおく費用と、後から対応する費用が同額でないことは確かです。生成AIを社内で使う際の全体的な統制設計はセキュアな生成AI環境の作り方にまとめています。

見積を取る前に決めておく4つのこと

ここまでの内容を、発注前の実務手順に落とします。

1. 対象の問い合わせを1年分数える。 件数、言語構成、1件あたりの所要時間。この3つが無いと②の総額が出せず、損益分岐点も出せません。チケットシステムが無いなら、2週間だけでも手で記録します。

2. どの型を狙うかを先に決める。 スクリプト型か、回答型か、アクション実行型か。型を決めずに製品を選ぶと、封じ込め率の目標が無いまま費用だけが決まります。アクション実行型を選ぶなら、④の連携先を同時に確定させます。

3. ②の単位を各社に揃えさせる。 「自社の問い合わせ1件を処理すると、御社の課金単位でいくつ消費するか」を全社に同じ形式で出させます。クレジットなら1応答あたりのクレジット数と、その設定条件(グラウンディングの有無、推論の有無)まで。通数なら課金対象になる送信の種類まで。ここを揃えて初めて比較表が成立します。

4. ⑤の担当者と時間を決める。 誰が、月に何時間、ナレッジを直すのか。この欄が空白のまま導入した案件は、半年後に封じ込め率が落ちます。見積書に出ない層なので、自社で決めるしかありません。

よくある質問

チャットボットの費用相場は?

相場という形では答えられません。課金単位が製品ごとに違い、封じ込め率が型ごとに違うため、月額を並べても比較にならないからです。代わりに使えるのが「封じ込め1件あたりの実効単価」で、本記事の仮定条件(月2,000件、有人1件40 THB)では、スクリプト型FAQボットが26.21 THB、回答型AIエージェントが25.37 THB、アクション実行型の自社構築が49.71 THB という試算になりました。この数字を自社の件数と時間単価で置き換えると、比較可能な形になります。判断基準は単純で、封じ込め1件あたりの実効単価が、有人1件のコストを下回っているかです。

社内チャットボットと顧客向けで費用はどう違う?

課金の発生条件が変わります。Copilot Studio(Microsoft)の場合、Microsoft 365 Copilot ライセンス保有者が Copilot / Teams / SharePoint 内で使う社内向けエージェントは、フェアユースの範囲内で有償クレジットを消費しません。一方、外部顧客向け、非ライセンスユーザー向け、スタンドアロンチャネル、自律実行は消費します。同じエージェントでも、誰がどこから使うかで請求が変わる構造です。加えて顧客向けは、個人データを扱う範囲が広がるためPDPA対応の設計負荷が上がり、③④の費用が増える方向に働きます。

LINEチャットボットは月いくらかかる?

タイの料金では、Free が月300通まで無料、Basic が月額1,280 THB で15,000通込み(超過0.10 THB/通)、Pro が月額1,780 THB で35,000通込み(超過0.06 THB/通)。いずれもVAT 7%が別途かかります。ただし課金されるのは push / multicast / broadcast / narrowcast だけで、ユーザーの発話に対する reply は課金対象外です。ボットが答える動作自体には通数がかかりません。月20,000通を超えるとProのほうが安くなるため、そこが乗り換えの目安になります。なお、ボット基盤のSaaS費用や初期構築費はこれとは別に必要です。

Teamsのチャットボットは追加費用が要る?

前項と同じ論点です。Microsoft 365 Copilot ライセンスを持つ社員が Teams 内で社内向けエージェントを使う範囲では、フェアユースの範囲内で有償クレジットは消費されません。ただし Microsoft 365 Copilot ライセンスそのものの費用は別途かかります(本記事はその金額を扱っていません)。また、社外公開する、非ライセンスユーザーに使わせる、エージェントを自律実行させる、といった使い方は有償クレジットの対象になります。「Teamsだから追加費用ゼロ」ではなく、「ライセンス範囲内の使い方なら追加のクレジット消費が無い」という理解が正確です。

タイ語のチャットボットは日本語より高くなる?

トークン数という意味では増えます。主要LLMのトークナイザは英語中心のため非ラテン文字はトークンが増え、実務上は非英語クエリに2〜3倍の予算を見込むべきとされ、非ラテン系では3〜8倍という報告もあります。タイ語は分かち書きが無いため、同じ意味の英文が4〜5トークンのところ15〜20トークン以上になる場合があります。ただしこれは幅のある目安で、単一の倍率で断定できるものではありません。 そして総額への影響は、従量が総額に占める比率次第です。本記事の構成Cでは②が総額の2.2%しかないため、3倍と2倍の差は年5,684 THB にとどまりました。タイ拠点で本当に増えるのは、③ナレッジ整備と⑤改版工数、つまり多言語でナレッジを揃えて維持する人手のほうです。

自社構築(LLM API直叩き)にすれば安く上がる?

トークン単価は確かに安くなります。本記事の構成Cでは、年24,000件を処理する②が約17,050 THB。年間費用775,450 THBの2.2%です。しかし残りの97.8%は開発、連携、インフラ、保守工数であり、単価の安さは総額をほとんど動かしません。損益分岐点は月約2,500件で、仮定した月2,000件では赤字(年間 −151,450 THB)という結果でした。自社構築を選ぶ理由は単価ではなく、既製品では実現できない業務フローに合わせ込む必要があるかどうかです。

まとめ

チャットボットの費用は、月額ライセンスを並べても比較になりません。金額が桁で変わるのは3点です。

第一に、課金の単位が製品ごとに別物です。LINE公式アカウントは push が課金対象で reply は課金対象外、Copilot Studio(Microsoft)はクレジット制で同じ1応答が12クレジットから112クレジット以上まで約9倍動き、LLM APIはトークン従量。「1問い合わせあたりいくらか」に揃えない限り、比較は成立しません。

第二に、タイ語やベトナム語は同じ意味でもトークンが増えます。ただしこれは幅のある目安であり、総額への影響は②が総額の何%を占めるかで決まります。本記事の構成Cでは②が総額の2.2%しかなく、2倍と3倍の差は年5,684 THBにとどまりました。タイ拠点で実際に増えるのは、③ナレッジ整備と⑤改版工数のほうです。なお②そのものの危うさは別物で、構成Bで1応答のクレジット消費を12から112に変えただけで、従量比率は12.1%から53.4%へ上がり、年間の収支は黒字から赤字へ反転しました。

第三に、封じ込め率が費用対効果の分母を決めます。25〜45%のスクリプト型と55〜75%のアクション実行型では、同じ費用でも実効単価が別物になります。本記事の仮定条件では、年間費用が84,304 THB高い構成Bのほうが、封じ込め1件あたりでは構成Aより安く(25.37 THB 対 26.21 THB)、純効果も59,696 THB大きい(175,536 THB 対 115,840 THB)という結果でした。一方、最も高機能な構成Cは実効単価49.71 THBで有人1件の40 THBを上回り、この件数規模では赤字になりました。高機能な型を選ぶことと、費用対効果が良いことは別です。

そして最も注意すべきは、見積書に出ない⑤ナレッジ改版の社内工数です。ここを0円として扱った瞬間、判断が構造的に甘くなります。

最初にやるべきことは、製品比較ではありません。過去1年の問い合わせを、件数・言語・所要時間の3列で数えた表1枚です。そこから逆算しないと、②の総額も損益分岐点も出せません。

TOMAS TECHはバンコクを拠点に、日系製造業の工場IT・OT/IoT・FA領域を支援しています。チャットボットについても、製品選定の前段階、つまり「自社の問い合わせを数えて、どの型を狙うかの当たりを付ける」ところからご相談いただけます。既存のLINE公式アカウントやMicrosoft 365環境をどう活かすか、多言語のナレッジをどう維持するかといった論点も、拠点の状況に合わせて整理します。ご相談はお問い合わせページからどうぞ。

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