Blog

2026.10.17

産業用UPSの選定|工場の容量計算とPLC・OT停止試験

産業用UPSの選定|工場の容量計算とPLC・OT停止試験

産業用UPSを選定するとき、カタログの「○分バックアップ」だけで発注すると、工場では最も守りたいPLC、産業用スイッチ、HMIのどれかが停電時に先に落ちることがあります。表示された時間は負荷やバッテリー条件によって変わり、同じVAでも出力可能なWが異なる製品があります。この記事では、タイの製造拠点で制御盤やOTネットワークにUPSを追加・更新する担当者に向け、守る対象の切り分け、工場UPSの容量計算、PLCのバックアップ、停止時間の決め方、見積依頼とFAT/SATまでを一つの設計手順として示します。個別製品の稼働時間を保証する記事ではありません。

産業用UPS選定の出発点は「何分動かすか」ではなく停電後の動作

停電を受けた設備を、必ずしもそのまま生産し続ける必要はありません。制御対象を整理すると、目的は主に三つに分かれます。第一は瞬低を越え、PLCや通信機器の再起動を避けること。第二は生産ラインを安全な状態へ移し、進行中のワークや記録を失わずに止めること。第三は非常用電源への切替まで監視・制御を続けることです。必要な時間と守る負荷は目的ごとに違います。

例えば機械の主モーターまで給電するのか、制御系だけを残して駆動は停止するのかで構成はまったく異なります。制御盤にある24 V DC電源と、盤外の産業用PCに入るAC電源も同じUPSで扱えるとは限りません。単に「ライン用UPS」と書いたRFPでは、見積の範囲が比較できません。停電時の設備状態を先に定義し、必要な負荷を一つずつ列挙します。

SiemensはSITOP DC UPSについて、24 V電源を停電中に維持し、制御されたシャットダウンまたは継続運転に使うと説明しています。Rockwell Automationの産業用UPS選定資料も、産業用PC、PLC、データロギングHMIの安全な停止に必要な時間を確保する用途を示しています。つまり購入判断の中心は最大分数ではなく、停電後にどの機能をいつまで生かすかです。特に光ファイバー区間は両端の機器の給電を確認します。産業用メディアコンバーター選定の記事も機器の電源条件を考える際の参考になります。

停電時の目標状態を4段階で書く

設計会議では「無停電」という一語を、①瞬低を吸収、②データと機械状態を保存、③安全停止、④発電機などへの切替まで運転、のどこまで求めるかに分解します。対象は設備、ライン、制御盤、ITラックの単位で決めます。安全停止は安全回路そのものの代替ではありません。UPSだけを加えても、安全関連の回路が停電でどう動くかは別に検証が必要です。

停止許容時間も二つに分けます。停電を検知してからPLCやIPCが保存・停止を完了するまでの「処理時間」と、復電または発電機切替を待つ「維持時間」です。前者は動作試験で測れますが、後者は運用条件で変わります。一定の分数を先に買うより、実測した最長停止シーケンスに余裕を加え、メーカーの負荷別ランタイム曲線で候補を比較する方が再現性があります。

工場UPS容量計算はW、VA、最大電流を分けて行う

AC UPSの容量表では、VAは皮相電力、Wは実電力です。Eatonは機器ごとの電圧と電流からVAを合算し、W表示の負荷は力率を考慮してVAに換算する手順を示しています。ただし力率を一律の数字で決めつけてはいけません。接続する各機器の銘板、技術資料、実測値を確認します。UPS候補についてもVA定格とW定格の両方を満たす必要があります。「1500 VAだから1500 Wまで使える」とは言えません。

24 V DCのUPSでは、主に連続電流Aとピーク電流、出力電圧範囲、バッテリーまたはコンデンサの給電時間を見ます。24 V × 10 A = 240 Wは理想的な定格換算であり、実際に使える容量・時間は製品の条件表で確認します。Phoenix ContactのあるQUINT 24 V/10 A製品の公開仕様では、負荷10 A時と2 A時のバッファ時間が大きく異なります。これは「24 V UPSなら何分」という一般化ができないことを示す製品例です。

産業用UPSの選定|工場の容量計算とPLC・OT停止試験 - figure 1

実務で使う負荷台帳

記録項目何を記入するか判断に使う理由
給電先PLC CPU、I/O、HMI、IPC、スイッチ、ゲートウェイ等停電時に残す機能を明確化
電源系統AC入力、24 V DC、別盤の電源UPSと配線の境界を決める
通常負荷銘板値と実運転の実測値常時容量とランタイムを照合
瞬時負荷起動時、通信機器のPoE給電時、出力切替時過負荷停止を避ける
停止順序アラーム、保存、制御出力停止、OS停止必要な給電時間を決める
必要な証拠ログ、PLC状態、設備安全状態、切替結果FAT/SATの合否条件になる

台帳は盤内の部品表だけでは完成しません。ネットワークが複数盤をまたぐと、PLCが生きていても上位スイッチやゲートウェイが落ちればデータ収集・遠隔監視は途切れます。HMIが残ってもPLCとの通信を担うスイッチが落ちれば運転員は状態を把握できません。停電中に必要な通信経路を端から端まで線で追い、UPSが供給する機器と供給しない機器を一枚の図面に色分けします。

容量計算の仮定例

以下は計算法を示す架空の例で、特定工場の実測値や推奨型式ではありません。PLC系24 V DCが3 A、HMIが2 A、産業用スイッチが1 A、ゲートウェイが1 Aなら通常合計は7 Aです。後から追加する機器を2 Aと仮定すると計画負荷は9 Aになります。ここから10 A定格のDC UPSを即決しません。スイッチの起動電流、電源の充電電流、出力の短時間過負荷、周囲温度、メーカーが指定するディレーティングを確認します。負荷電流9 Aで希望時間が成立するかは、その型式と蓄電モジュールの曲線で検証します。

AC側も仮にIPC 180 W、監視ディスプレイ50 W、産業用ルーター20 Wの計250 Wだとして、選定では各機器のVAまたは力率、起動時のピーク、UPSのW/VA両定格を確認します。EatonのUPS sizing guideは負荷より大きいVA定格として少なくとも15%の余裕を推奨し、Schneider ElectricのFAQは例示として定格の約80%を使用する考え方を示します。いずれもすべての産業設備に共通する規格値ではありません。必要な余裕は実負荷、将来増設、製品の周囲温度条件と冗長構成で決めます。

バッテリー容量とランタイムを混同しない

Ahだけを見て「24 V × Ah ÷ W」で稼働分数を決めると、放電率、変換損失、電圧終止、電池温度、劣化と製品側の保護動作を落とします。概算は候補の絞り込みに使えますが、購入仕様の時間はメーカーの負荷別表、構成表、環境条件で裏づけます。Phoenix Contactの製品ページは同じモジュールでも10 Aで1.5分、2 Aで20分という例を公開しています。この値は当該型式の仕様であり、他型式の保証値ではありません。

AC UPSでも出力容量を増やすこととバッテリーを増やすことは別です。Eatonは外付けバッテリーパックでランタイムを延ばしてもUPS本体の出力定格は増えないと明記しています。負荷が定格超過ならバッテリー追加では解決できません。逆に負荷が小さくても必要な停止時間が長ければ、適合バッテリー、追加モジュール、発電機連携を検討します。見積には「何Wまたは何Aの時に何分か」をセットで書いてもらいます。

PLC UPSバックアップは制御電源と停止シーケンスの範囲を決める

PLCのCPUだけを保持すれば十分とは限りません。入力センサー、出力回路、リモートI/O、通信スイッチが先に消えれば、PLCは不完全な状態を読みます。何を同時に残し、何を停電時に確実に落とすかが制御設計です。PLCの保持メモリがあることと、停電直前の製造データやIPCのファイルが安全に保存されることも別です。保存経路を含む実機テストが必要です。

24 V DC UPSは制御盤の電源系統に組み込みやすく、SiemensのSITOP製品群はPROFINETやOPC UAによる診断・制御、バッファ状態の通知を案内しています。コンデンサ式バッファは短い電圧低下向け、バッテリー式はより長い保持向けという区別があり、Phoenix Contactもコンデンサ式を数秒程度の短時間障害用として説明します。用途が瞬低吸収だけなら電池を抱える構成が最適とは限らず、IPCの正常終了を要するなら短時間バッファだけで足りない可能性があります。

守る範囲を三つの電源ドメインに分ける

第一は制御ドメインです。PLC CPU、必要なI/O、時刻源、制御ネットワークの最小構成を含めます。第二は操作・記録ドメインで、HMI、IPC、ヒストリアンやゲートウェイのうち、停止完了まで必要な機器を選びます。第三は駆動・補機ドメインで、主モーター、ヒーター、空圧弁、照明などを扱います。高負荷の駆動をUPSに無条件で接続すると容量が跳ね上がり、制御負荷に使う時間も短くなります。接続しない負荷には停電時の安全状態を別途規定します。

電源ドメイン間の「依存」は図面に書きます。ゲートウェイが正常終了するにはスイッチの給電が必要か、PLCから停止許可信号を受ける必要があるか、HMIは警報を表示するだけで停止に必須でないか。依存を整理すると、何を最後まで守るべきかが見えてきます。UPSを追加する場合は、制御仕様に停電と復電の状態遷移を明記してください。

UPSから制御システムへ渡す信号

停電検知、バッテリー運転、バッテリー残量低下、故障、交換時期の信号がどの機器に届くかを決めます。接点信号、USB、産業用Ethernetなど方式は製品で異なります。SiemensのSITOP UPS1600マニュアルはバッファ許可、切替しきい値、バッファ時間、PC停止後の追加時間などを設定できる例を示します。機能の存在だけで現場の自動停止が完成するわけではなく、PLCとIPCのプログラムが信号を受け、定義した順序で応答する必要があります。

停電信号はOT監視だけでなく、設備ログにも残します。時刻、UPS型式、入力状態、負荷、バッテリー状態、PLCモード、IPC停止開始・完了、復電検知、再起動許可を同じ時間軸で追えると、SATで「時間内に止まった」を証明できます。停電が一瞬で戻った場合のチャタリング、繰り返す瞬低、蓄電が十分に戻る前の再停電もシナリオに入れます。

OTネットワークUPSは通信経路全体の給電を設計する

産業用ネットワークで「スイッチにUPSを付けた」と報告されても、その先にあるメディア変換機、光終端、ゲートウェイ、無線アクセスポイント、ファイアウォールのいずれかが非保護なら通信経路は残りません。PLCからヒストリアンまでの経路を構成図に描き、各機器の電源と物理位置を記録します。制御通信が必要な系統と、停電時に記録を保存するだけの系統を分けると、必要なランタイムを過大にしにくくなります。

OTとITの境界機器まで維持する場合でも、UPSはネットワーク分離やセキュリティ機能を代替しません。ファイアウォールを維持するなら、その管理スイッチや上位回線が失われた場合の挙動を確認します。クラウドへ送れない間のデータ蓄積はゲートウェイ側の機能です。UPSが通電を続けても、アプリケーションが通信断に耐えられなければデータ欠落は起こります。電源・通信・記録の三つを同じ停止試験で観察します。

PoEを使うアクセスポイントやカメラがある場合、スイッチ本体の消費電力だけでなくPoE給電先を含む最大負荷を確認します。不要な映像装置までバックアップすると、PLCの通信維持に使える時間が短くなります。優先度の低い負荷を停止する設計や別系統化を見積に含めて比較します。スイッチの冗長リングがあっても両方のノードを同じ非保護電源に置けば、停電時に冗長性は残りません。

産業用UPSの選定|工場の容量計算とPLC・OT停止試験 - figure 2

UPSの停止時間はFAT/SATで測れる条件にする

「10分バックアップ」を検収文に書くだけでは不十分です。何を接続した10分か、測定開始はどのイベントか、温度と蓄電状態は何か、最後に必要な機器はどれかを明記します。発注時は、通常負荷、ピーク負荷、将来増設負荷の三条件でメーカーのランタイムを示してもらい、そのうち検収する条件を決めます。定格値は実装によって異なるので、正式な機器構成表で確認します。

停電の成功条件は、保護対象の機器が落ちなかったことだけではありません。PLCが安全停止へ遷移し、危険な出力が残らず、IPCがファイルを閉じ、必要な記録が消えず、復電後は運転員の確認なしに予期せぬ自動再起動をしない、という動作で判定します。これは制御設計と保全・生産の共同責任です。法令や機械安全の適合判定を本記事だけで済ませるものではありません。

FATで確かめること

FATでは候補UPSと負荷模擬装置を使い、設計した通常負荷・ピーク負荷に対して切替とバッファ時間を測ります。PLC、IPC、スイッチ、ゲートウェイを接続できる場合は、本番相当の設定で信号を流します。停電、短い瞬低、停電継続、復電、蓄電不足での再停電を別々に試験します。停電をシミュレーションするだけで、実際のUPS入力を落とさない試験では給電時間を検証できません。

FATの記録には、実際の接続負荷W/A、周囲温度、UPS設定、バッテリー状態、入力遮断時刻、イベント通知時刻、PLC状態、各負荷の停止時刻を含めます。例えば架空の設計で「IPCは停電から90秒以内に保存し終了、PLCとスイッチは120秒まで維持」と要求したなら、その数値は試験の合否基準として個別に定義します。ここで示した90秒と120秒は説明用の仮定であり、メーカーの標準値ではありません。

SATで確かめること

SATでは実際の盤、配線、保護器、ネットワーク経路、設備状態で同じシーケンスを確認します。実負荷は試験所の模擬負荷と異なることがあります。並行して動く機器、電源の立ち上がり電流、温度、盤内の熱、別盤からの給電、PoE負荷を反映させます。安全上の手順を用意したうえで、入力を遮断してイベントログと設備の動きを記録します。試験対象の機械と試験方法は現場の責任者が承認します。

停電復旧後の試験を省略しないでください。復電直後に全機器が同時起動し、UPSや上流電源が過負荷になる場合があります。PLCとHMIの時刻や状態がずれ、未完了ロットを二重に処理する可能性もあります。再起動順序、バッテリー再充電、警報解除、ライン再開の承認者を決めます。SAT報告書には成功例だけでなく、設定変更や再試験の履歴を残します。

停止時間の式を作業順序に落とす

必要な保持時間は、停電検知の遅れ、PLCの状態遷移、IPCやHMIの保存、通信機器が必要な最後の時点、復電または発電機切替の不確かさを足し合わせて決めます。ただし、並行して動く工程を単純合計すれば過大になり、独立しない工程を同時扱いすれば過小になります。タイムラインを描いてクリティカルパスを実測します。最後に劣化や将来負荷への設計余裕を検討し、メーカーの条件表と照らします。

産業用UPSの選定|工場の容量計算とPLC・OT停止試験 - figure 3

AC UPS、24 V DC UPS、コンデンサ式の選び分け

AC UPSはIPC、サーバー、AC入力のHMIやネットワークラックをまとめて守る場合に候補になります。ただし大きなAC UPSを一台置けば盤内24 Vのすべてが安全になるとは限りません。下流のAC/DC電源、分岐、保護器、停止信号の経路も設計対象です。AC UPSを選ぶなら入力・出力の電圧、相数、W/VA両定格、出力波形、バイパス・保守、通信通知、バッテリー交換条件を確認します。

24 V DC UPSはPLCや産業用スイッチなどDC負荷に近い位置へ置けます。連続電流、ピーク電流、出力電圧範囲、蓄電モジュール、診断方式、配線方法を見ます。SiemensやPhoenix Contactの公開情報には、24 V系でバッファ状態を診断できる製品があります。製品によって使える通信方式や電池との組合せは異なり、シリーズ名だけで同等と判断できません。

コンデンサ式バッファは短い電圧低下の橋渡しが中心です。Phoenix ContactはQUINT BUFFERを数秒の停電向けと説明し、PULSの製品表も一部モデルでミリ秒単位の典型的な保持時間を示します。バッテリー式DC UPSはより長い保持が可能な候補ですが、交換、充電、温度、劣化の運用を伴います。停電が頻繁で短いか、長くて停止が必要かを現場ログから確認すると、過不足の少ない選択になります。

保全まで含めて候補を比較する

UPSは設置して終わりではありません。バッテリーの劣化と交換、予備品、警報の監視、停電後の再充電時間、定期試験を運用に入れます。Eatonは、容量に余裕を設ける理由の一つにバッテリーの劣化を挙げています。ただし余裕だけでメンテナンスは不要になりません。温度の高い盤に電池を入れる場合は製品の周囲温度仕様と寿命条件を確認します。

保全担当者が「いつ交換するか」を判断できる診断項目も見積条件にします。残量表示だけか、バッテリー異常接点があるか、中央監視へ状態を送れるか、イベント履歴を取れるか。交換時に装置を止める必要があるか、バイパスや並列構成で継続できるかも、停止コストに直結します。小さなUPSの単価だけで比較すると、複数拠点での交換工数や再試験のコストを落としやすくなります。

RFP・見積依頼には計算根拠と検収条件を書く

ベンダーへ渡す仕様には、まず単線結線図、保護対象負荷のリスト、通常/ピーク/将来負荷、必要な停止シーケンス、現場の温度や設置寸法を添えます。提案者に「提案型式の定格W/VAまたはDC電流」「対象負荷に対するランタイム曲線」「蓄電モジュール構成」「切替・通知方法」「バイパスと保守方法」「保証と交換部品」を同じ表で返してもらいます。型番だけを並べた比較表では、工場の停電リスクに対して十分か判断できません。

設計責任の境界も明確にします。UPS本体の選定と配線、PLC停電ロジック、IPCシャットダウン設定、OTネットワークの電源系統、FAT/SAT、運転員教育を誰が担当するか。UPSメーカー、制御盤業者、SIer、工場保全の作業分界が曖昧だと、各社が自分の機器だけを合格にしてライン全体の復帰手順が抜けます。既存のPLCプログラムを変えるなら、バックアップとロールバックの手順も見積に入れます。

比較しやすいRFP文の例

「対象ラインのPLC、必要なI/O、産業用スイッチ、ゲートウェイ、IPCを負荷一覧と電源系統図により特定する。停電検知後、IPCは指定時間内に記録を保存し正常終了し、PLCは所定の安全状態へ遷移する。通信経路はPLC停止が完了するまで維持する。提案者は通常・ピーク・将来負荷ごとにUPSのW/VAまたはDC電流、蓄電構成、製品データに基づく保持時間、環境条件、充電条件を示す。FAT/SATでは入力遮断、瞬低、復電、再停電の各条件でログと設備状態を記録し、合否を判定する」。時間の数字は対象ラインの実測で埋めます。

価格を見るときはUPS本体、電池、盤改造、配線、停止ロジック、通信設定、試験、運用教育、予備品と交換作業を分けます。設備が止まった時間の損失を見積もるなら、自社の停止履歴と生産計画から計算します。他工場の「何%削減」を自社効果として書かないでください。単一のUPSで足りるか、負荷を分けて複数台にするかは、障害範囲と保守時の切替まで比較します。

タイ工場で見落としやすい停電設計の境界

同じ工場内でも、新設ラインと長年増設してきたラインでは電源系統の可視化の難しさが違います。制御盤の図面が現物と一致していないと、UPSが守るはずのPLC電源が別の分岐につながっている、あるいは新しく増設されたスイッチだけ非保護コンセントから給電されていることがあります。発注前の現場調査では図面上の結線だけを追うのでなく、実際のケーブル、ブレーカー、AC/DC電源、通信機器の給電元を一つずつ突き合わせます。更新日が不明な盤ほど、盤内写真と機器の型式、回路番号、実測負荷をセットで記録することが重要です。

例えばPLCが設備の停止判断を担当し、別盤の産業用PCが作業実績を保存するラインを考えます。PLC盤のUPSだけを更新しても、PC盤が先に停電すれば最後のロット記録は保存されません。逆にPCだけを守っても、PLCの状態を送るスイッチが落ちれば「正常停止した」というイベントを受け取れません。どのデータを停電時にも残す必要があるかを生産管理・品質・保全が共同で決め、必要な通信経路を負荷台帳へ戻します。この横断確認が、UPSの台数を増やす前にできる最も安い設計改善です。

工場の無線通信を使う場合は、アクセスポイントだけでなくPoEスイッチやコントローラー側の電源も確認します。無線端末のバッテリーが残っていても、アクセスポイントが落ちれば通信できません。ただし、無線LANの全アクセスポイントをUPSにつなぐ必要があるとは限りません。停電中に必要な情報を受け持つエリアと、停止してよいエリアを特定します。無線範囲・ローミング・設置位置は工場Wi-Fiサイトサーベイの記事を参照し、この記事ではその給電条件を追加します。

瞬低と長時間停電を同じ試験で済ませない

電源の乱れには、短い電圧低下、完全な停電、復電直後の不安定な電圧、繰り返す断続的な停電があります。瞬低で設備が落ちる問題なら、まずどの電源系統の電圧がどこまで下がったかを記録します。UPSで電源を保持できても、入力側の保護器や下流電源のしきい値で動作が変わることがあります。停電時に稼働を続ける設計なら、長時間の放電だけでなく短い低下からの復帰を試験し、意図せずバッテリーを使い続けないかも確認します。

二度目の停電は一度目と条件が異なります。蓄電が十分に回復していない状態で再停電すると、初回に実測した保持時間に届かないことがあります。メーカーの資料で充電時間と再使用条件を確認し、操業上想定する間隔で再停電の試験を計画します。ラインを再開してよいかは、単に商用電源が復帰したかではなく、UPSの準備状態と、途中で停止した設備・ロットの整合が確認できたかで判断します。

電池を持つ構成では温度も計画条件に入ります。タイの工場で制御盤の内部が高温になる場合、空調されたオフィスでのカタログ条件をそのまま採用できません。製品が許す盤内温度、推奨するバッテリーの設置条件、必要な換気、点検しやすさを確認します。夏季の昼間、熱源の近く、盤のドアを閉めた状態の負荷と温度を測れば、通常運転の条件を把握しやすくなります。温度条件を隠したまま「何分保持」と約束させる見積は、実機検収で争点になります。

通信機器の給電点を図面に落とす

光ファイバーで盤間をつなぐ現場では、両端の変換機器を確認します。一方のPLC盤だけをUPSに接続しても、相手側のメディアコンバーターが落ちれば光区間の通信は途切れます。機器を選ぶ際は、電源入力、冗長電源の有無、盤内温度だけでなく、停電時に両端を維持する必要があるかを検討します。製品比較の観点は産業用メディアコンバーター選定の記事で詳しく扱っています。

スイッチの管理画面やネットワーク図から論理経路を追うだけでは、給電の共通障害点を見落とすことがあります。二本の通信経路が別スイッチを通っていても、同じAC分電盤、同じAC/DC電源、同じ一台のUPSに依存していれば、電源障害に対しては独立していません。冗長化の要求があるなら、電源側の共通点も説明できるようにします。一方、すべてを二重化する設計は費用と保守対象を増やします。停止時間と損失の大きい箇所に絞り、どの障害を吸収するための冗長化なのかを明記します。

OTネットワークの停電対策は、通信が切れた後のアプリケーション挙動とも結びつきます。ヒストリアンへの送信が止まった場合、ゲートウェイがローカルで時刻付きデータを蓄積し、復旧後に重複なく再送できるか。PLCの時刻が停電後にずれた場合、保存済みイベントとどう整合するか。通信経路を維持する目的が「データ欠落防止」なら、UPSの保持時間だけでなく、通信断と復旧の記録処理まで試験します。必要ならバッファ領域の容量と、満杯時の動作も設計条件に加えます。

候補を絞る前に確認する八つの質問

一つ目は「停電中に何を生かすか」です。設備単位ではなくPLC、I/O、通信機器、PCを具体的に挙げます。二つ目は「最後に電源が必要なのはどの機器か」です。停止シーケンスの最後まで残す機器が保持時間を決めます。三つ目は「どこまでを正常終了と呼ぶか」です。画面が消えただけでは正常終了になりません。保存確認やログを合否に含めます。四つ目は「必要な負荷を実測したか」です。銘板値だけでなく通常時と起動時を確認します。

五つ目は「UPSの容量と時間を同じ条件で比較しているか」です。候補Aは軽負荷、候補Bは定格負荷の時間を並べると誤判断になります。六つ目は「外部バッテリーと出力定格を混同していないか」です。長時間化と高出力化は別の設計です。七つ目は「停電信号を誰が受け、どの順序で動くか」です。信号があるだけで制御は自動完成しません。八つ目は「保守時と再停電時にどう運用するか」です。交換部品、電池状態、バイパス、復電時の再起動を含めます。

この八項目を部門横断で埋めた時点で、必要なUPSの種類と概算の負荷範囲はかなり絞れます。逆に、空欄が多いまま型式を決めると、選定後に制御盤改造や通信機器の追加が判明し、当初のランタイム表が使えなくなります。調達担当は「どの型番が安いか」を尋ねる前に、候補間で同じ負荷と試験条件が提示されているかを確認すると、見積の比較精度を高められます。

導入後の監視を検収の延長として設計する

検収日に一度だけ停電試験を通しても、その後に負荷が増え、電池が劣化し、盤内温度が変われば当初の保持時間は維持されません。導入後は少なくとも保護対象機器の追加・撤去、通常負荷とピーク負荷の推移、蓄電の準備状態、異常警報、停電履歴、電池交換履歴を管理します。停止時間が重要な設備では定期的な模擬停電を計画し、設備の安全状態とデータ保存の結果を確認します。試験の頻度はメーカー指定、設備の重要度、操業上の停止可能時間に合わせて決め、形式的な一律周期を押し付けません。

変更管理の仕組みも必要です。新しいカメラや端末をPoEスイッチにつないだ時点で電源負荷が増えても、IT担当だけが変更を知っている状態ではUPSの再計算ができません。設備改造の申請書に「保護対象負荷の増減」「停電時の停止順序への影響」「ランタイム再確認の要否」を追加し、保全とOT担当が確認する運用にします。停電後のログを月次で見直せば、想定外に早く低バッテリー警報が出た事例や、通信経路だけが先に切れた事例を発見できます。

複数拠点へ展開するときは、まず一ラインの負荷台帳、停止タイムライン、FAT/SAT記録、保全手順を標準ひな形にします。ただし型式や容量を全拠点へそのままコピーしません。盤の温度、停電の頻度、ネットワークの構成、設備の停止許容時間が違えば、同じUPSでも必要な蓄電と試験条件が変わります。標準化するのは判断の手順と証拠の形式であり、最終的な構成は各現場の測定から決めます。

検収後に残すべき成果は、機器の取扱説明書だけではありません。どの設備を何分守る前提で選定したか、負荷台帳をいつ誰が測定したか、停電時の停止順序を誰が承認したか、バッテリー交換時にどの警報を確認するかを、一つの管理対象にします。盤改造で分岐が変わったり、通信機器を交換したりした際に、古い表をそのまま使うと容量の判断を誤ります。図面、負荷実測表、製品ごとの保持時間資料、FAT/SAT記録には版番号と変更日を付け、設備番号から同じ資料へたどれるようにしてください。

夜間に停電が起きる工場では、設計者が不在でも現場が対応できる手順が必要です。運転員向けには、警報を見たときに生産を続けるか停止するか、途中のワークをどう扱うか、再起動前にどの表示と記録を確認するかを短くまとめます。保全担当向けには、入力電源、UPS、蓄電モジュール、下流機器の順に状態を確認する診断手順を用意します。復電しただけで安全状態が解除されたと誤解しないよう、再開承認の責任者も明記します。こうした引き渡しがあると、停電試験で示した動作を実際の操業でも再現しやすくなります。

よくある質問

工場UPS容量計算でVAだけ見ればよいですか?

いいえ。AC UPSではVAとWの両定格、負荷の実測、起動時のピークを確認します。DC UPSでは連続/ピーク電流と電圧範囲を確認します。さらに候補の負荷別ランタイム表が必要です。VAが合ってもWが不足する場合や、定格内でも保持時間が足りない場合があります。

PLCをUPSにつなげばOTネットワークも残りますか?

残るとは限りません。PLCと上位システムの間にあるスイッチ、光変換機、ルーター、ゲートウェイなど、それぞれの給電系統を確認します。通信が必要な最後の時点まで経路全体を維持する構成が必要です。

UPSの表示ランタイムをそのまま停止時間に使えますか?

使えません。表示やカタログ値は特定の負荷と条件に基づきます。停電時の負荷、温度、蓄電状態、電池劣化、製品設定を条件にして製品表を確認し、FAT/SATで実機の停止時間を測ります。

瞬低だけなら電池式UPSが必要ですか?

必ずしも必要ではありません。短い電圧低下にはコンデンサ式バッファが候補になります。一方、IPCの正常終了や発電機切替を待つ場合は、必要時間に応じてバッテリー式の構成を検討します。製品の保持時間は負荷電流と組合せで確認します。

FATとSATはどちらも必要ですか?

FATは提案構成の切替・時間・信号を事前に確かめ、SATは工場の実配線・実負荷・運用で確かめます。大きな設備変更なら両方の役割があります。対象・合否条件・安全手順を発注書で決めます。

まとめ

産業用UPS選定では、停電後に残す機能と安全停止の順序を決め、PLC・IPC・OTネットワークの給電経路を負荷台帳にします。ACはW/VA、DCは電流と電圧範囲を照合し、希望時間は機種と蓄電構成の負荷別データで確認します。RFPに設計条件をそろえ、FAT/SATで停電・復電・再停電を実測すると、機器単体ではなくライン全体の継続性を判断できます。

制御盤とOTネットワークの給電範囲を整理している段階でも、TOMAS TECHへご相談ください。既存設備の負荷台帳、停電時の停止順序、UPS候補の比較、FAT/SATの条件づくりを一つの検討表にまとめるところから対応できます。

参照資料