設備の前に敷く安全マット(感圧マット)を選ぶとき、カタログの縦横寸法と単価だけを比較すると、現場で最も大切な「人が危険源へ届く前に設備が安全状態になるか」を見落とします。マットの外形と実際に足を検知する有効検知領域は同じとは限りません。複数枚を連結すれば継ぎ目が生まれ、外周の固定材やケーブル引き出しにも寸法が必要です。停止時間が想定より長ければ、広いマットを買っても危険源との位置関係を再設計しなければなりません。
この記事は、タイ工場の設備技術、EHS、製造、保全、調達の担当者が、既設機械への追加や新設設備のRFPを準備するときに使う実務ガイドです。安全マットを既設の安全リレー、扉スイッチ、ライトカーテンとどう接続するかも扱いますが、主題は床上の検知領域を成立させる設計、敷設、検証です。個別設備の安全性や法令適合をこの記事だけで判定するものではありません。適用法令、顧客要求、機械固有規格、採用する規格の版は案件ごとに有資格の担当者と確認してください。
最初に「誰を、どの動線で、何から守るか」を定義する
ISO 12100:2010は機械の危険源を特定し、リスクを見積もって低減する考え方を示します。したがって調達の起点は「マットが何枚必要か」ではなく、設備運転中に人がどの方向からどの危険源へ近づき、何をすれば危険が止まるのかです。プレスの前面、ロボットセルの開口、巻き込み点に近い搬送装置では、危険源も停止方法も異なります。運転、段取り替え、清掃、詰まり除去、異常復旧、保全をそれぞれ観察し、人が普段は使わない横道から入る可能性まで現地で歩いて確認します。
安全マットは、足で踏まれた領域を検出する保護装置です。マットの上にいる人の存在を検知している間、指定した安全機能を維持する設計ができます。一方、マットの周囲から飛び越える、柵の隙間から手を伸ばす、搬送物に乗る、マットを避けて通るといった経路は、マットだけでは閉じられません。安全柵、固定ガード、扉インターロック、ライトカーテンなどとの組み合わせを、実際の侵入経路と作業方法から決めます。マットが意図した動線の唯一の入口なら、側方からの迂回を防ぐ構造が同時に必要です。
ISO 13856-1:2013は足で作動する感圧マット・床の設計と試験の一般原則を示しています。しかし同規格は、個別用途に必要な有効検知領域の寸法・形状、適用の妥当性、機械ごとの安全関連制御部に必要なPLを一律には決めません。規格に沿った製品を購入しても、配置と制御と停止性能の検証は設備側の仕事として残ります。「ISO対応マット」という一行を受入条件にせず、どの安全機能をどの構成で実現するかを書きます。
選定前に現場で記録するもの
平面図には危険源、侵入可能な開口、作業位置、日常の通路、台車・フォークリフトのルート、床段差、排水、洗浄範囲を記載します。設備図には運動部分、停止手段、残留エネルギー、制御盤、接続予定の安全コントローラを示します。作業観察では、作業者が工具やワークを持っているときの足の置き方、踏み込む場所、腰を伸ばす場所を確認します。設備を止めるべき状態と、再起動を許す条件は生産・保全・EHSが同じ文書に署名できる粒度まで詰めてください。
ここでいう「危険停止」は単にPLCの運転ビットがOFFになることではありません。停止指令から危険な運動が消えるまでの時間、空圧・油圧や重力による再移動、コンタクタやドライブの故障時の挙動を含みます。安全関連回路の要件はリスクアセスメントから導き、ISO 13849-1:2023など適用する方法で設計・評価します。製品の宣伝にあるPLや認証表示を、そのまま完成設備のPL達成と読み替えないでください。
外形寸法と有効検知領域を別々に描く
床を測って「幅1,500 mm、奥行1,000 mmだから同寸法のマット」と発注する方法は危険です。選定図には少なくとも、マット本体の外形、足を検知できる有効領域、外周トリムの占有範囲、連結トリム、敷設後の段差、ケーブル出口を別レイヤーで描きます。メーカーごとに有効領域と端部構造が異なるため、製品図面の寸法線を照合します。Rockwell Automationの2026年のMatGuard技術資料も、複数枚の連結や外周トリムによって占有面積が変わることを図示しています。この寸法例を他社製品へそのまま転用することはできません。
人が危険源へ向かって歩く線を平面図上に複数引き、どの線でも必要な検知帯を踏むか確かめます。床の柱、治具台、材料棚、廃材箱が実際の動線を狭めることがあります。逆に、マットを避けて横へ回れる余白があれば、検知帯は連続していません。開口の有効幅だけを埋めるのでは足りず、身体や手が危険源に届く経路を考える必要があります。台車が一時的に置かれる位置や、清掃時にマットが覆われる場所も図面に書き込みます。
有効領域の端に「踏めば必ず検知する」と期待するのも避けます。カタログに指定された作動領域、荷重条件、試験条件を確認し、設置後にはメーカーの手順に従って端部と継ぎ目を含む代表点を実際に踏んで試験します。着靴、作業姿勢、荷重のかけ方が現場で変わるなら、試験計画に含めます。ISO 13856-1の適用対象には検出する人の体重に関する範囲があり、どんな軽い物体や足先でも検出すると読み替えることはできません。製品の指定条件を採用案件に合わせて確認します。

停止時間を測ってからマットの位置と奥行を確定する
安全マットの敷設位置を決めるには、人体の接近と機械の停止を同じ時間軸で考えます。ISO 13855:2024は、感圧マット・床を含む保護装置の検知領域の位置と寸法を扱います。旧版の式やメーカー資料に示された例を無条件にコピーせず、契約で採用する版、設備の侵入形態、測定した停止時間、制御応答を使って評価してください。2026年時点ではISO 13855:2024が公開版です。Rockwellの2026年資料には旧版の表記を参照する箇所もあるため、採用する規格版を設計レビューで明記する価値があります。
この停止時間と離隔距離の議論は、マットを危険源への接近を検知する保護方策として使う場合です。区域内の存在を検知するだけの機能には、ISO 13855:2024が示す離隔距離の適用除外があり、その用途の要求を別途評価します。両機能を併用するなら、どちらの目的でどの検知範囲を使うか仕様に分けて記載してください。
停止時間は、マットが作動してから危険な運動がなくなるまでの実測・評価が必要です。マット自体の応答、監視ユニット、安全PLCまたは安全リレーの応答、ドライブやバルブの反応、機械の惰走を合算して扱います。ワーク重量、速度、摩耗、空圧の変動などで停止性能が変わるなら、代表的な悪条件を選んで測ります。「マットの応答は数ミリ秒」という製品値だけで安全距離を決めると、停止全体の大部分を占める機械側を落とします。停止時間測定器の設定、試験回数、条件、結果、採用した最大値または評価値を記録します。
例えば、マットと危険源の間に十分な距離を取れない場合は、マットを大型化するだけでなく、危険源への物理的アクセスを変える、停止性能を改善する、別の保護装置を組み合わせるなどを検討します。どの案でも床の占有や生産動線に影響が出ます。設備担当だけで図面を確定せず、実際にワークを運ぶ製造と、清掃・復旧を担う保全に試してもらいます。
停止時間と再起動を混同しない
マットを踏めば機械が停止することと、人が離れた後に機械が勝手に再開しないことは別の要求です。安全機能の仕様に、作動時の停止動作、作動中の保持、故障検出、解除後の再起動条件、リセットの位置と視認性を明記します。自動復帰か手動リセットかはメーカーの機能選択肢だけで決めず、危険区域内に人が残れるかを評価します。作業者がマットから足を外して区域内へ進める構造なら、存在検知が消えた後の予期しない起動を別途防ぐ必要があります。ISO 14118:2017は予期しない起動を防ぐための設計上の手段を扱いますが、個別機械の具体策はリスクアセスメントで決めます。
継ぎ目、外周、スロープを含めた施工を選ぶ
複数枚のマットを敷くときは、「何枚まで接続可能か」だけでなく、足が継ぎ目に載ったときに検知できる構造かを確認します。RockwellのMatGuard資料は、適切に施工したアクティブ連結トリムが隣接するマット間の検知を担うと説明しています。ただし部品の呼び名や機構はメーカーごとに異なります。単に二枚を突き合わせ、普通の金属見切り材で固定しただけで、継ぎ目が有効検知領域になるとは限りません。提案図面には型式、結合方法、必要な隙間、固定位置、継ぎ目の試験方法を書いてもらいます。
外周トリムはマットの位置ずれを抑え、つまずきのリスクを下げ、ケーブルを通す構造にもなります。しかし外周トリムが占有する床面をマットの有効領域と誤認してはいけません。製品によって標準トリム、ケーブル用トリム、傾斜したランプ形状などがあり、車輪や人の通過方法に応じて選びます。台車の車輪荷重、床洗浄機、粉塵、切粉、油、水、薬液、温度、紫外線など、床材が実際に受ける条件をメーカーに伝え、指定された耐性・清掃方法を確認します。「工場用」という表示だけでは十分な適合判断になりません。
床に埋め込む案では、凹部の寸法、公差、排水、段差、固定、交換時の取り出しを検討します。床置き案では、ランプの勾配、台車の進入角度、つまずき、台車でマットを跨ぐ可能性を検討します。床が波打っていればマットが浮き、感度や耐久性に影響し得ます。コンクリートの仕上げ、アンカーの位置、接着剤の可否、改修時の工程も施工業者の範囲に含めます。マットに穴を開けて現場合わせすることや、許可なく切断することは避け、特殊形状が必要ならメーカー指定の製作・承認プロセスを使います。

電気構成は「マットから最終停止要素まで」を一つの機能として見る
安全マットの検知信号は、適合するマット監視ユニットまたは安全制御系へ接続し、設備を安全状態へ移す必要があります。入力だけを普通のPLCへ取り込んで画面にアラームを出しても、安全機能の設計・検証とは言えません。回路図にはマットの配線方式、断線・短絡監視、複数枚の接続、入力チャンネル、リセット、出力接点または安全通信、コンタクタ・ドライブ・バルブまでの系を通して示します。Rockwellのマットコントローラ資料には四線式で断線と短絡を検出する構成が示されていますが、採用製品と接続先の組み合わせで対応条件を照合してください。
安全関連制御部の要求性能はリスクアセスメントで決めます。ISO 13849-1:2023は安全機能を実現する制御部の設計・統合方法を示し、ISO 13849-2:2012は指定した安全機能、カテゴリ、達成PLを分析と試験で妥当性確認する枠組みを示します。たとえば「マットを踏むと駆動軸が停止し、マット上に人がいる間は再起動を禁止する」という機能を定義し、その入力、論理、出力、診断、故障時の反応を評価します。型式ごとのPFHd、MTTFd、DC、CCFなど必要なデータの出所と版を残し、制御盤の配線とソフトウェアの状態も引渡し対象にします。
複数マットの連結方法は仕様に従います。製品によって許容面積、ケーブル長、接続順序、終端、入力形式、監視機器との組み合わせが異なります。並列接続や現場での延長を、電気的に導通するという理由だけで認めないでください。Rockwellは同社の特定コントローラについて、複数枚で最大100 m²の監視領域を構成できると説明しています。これは当該製品の条件であり、マット一般の上限値ではありません。見積比較表には、最大枚数だけでなく「提案構成がメーカーの指定範囲内か」を証拠資料付きで記載します。
保守で故障を見つけ、交換できる構成にする
ケーブルが台車に踏まれる、コネクタへ水が溜まる、床洗浄で引っ張られるといった原因は、マットの素材寿命より早く故障を招きます。ケーブル出口は通路から外し、保護経路、曲げ半径、固定、点検可能な接続点を図面に示します。コネクタを床下に埋めてしまうと、トラブル時に切り分けが難しくなります。マット一枚を交換したときの再試験範囲、スペアの型式、旧型廃番時の対応も購入時に決めておくと保全が現実的になります。
洗浄手順は「水洗い可」といった曖昧な表現でなく、製品のIP等級、洗浄水圧、洗剤、乾燥、再通電、作動試験の条件を照合します。切粉や油膜は表面を滑りやすくし、トリムの下に堆積することがあります。Rockwellのユーザーマニュアルにはマット清掃とトリム点検の保守項目が設けられています。現場の清掃者に分かる言語で日常点検表を作り、異常があれば設備をどう扱うかまで書きます。
マット、ライトカーテン、扉スイッチをどう使い分けるか
安全マットは床上の存在を検出したい場所に向きます。開口に人が立ち入り、区域内で作業する場合は、立ち位置を検知する構成が選択肢になります。ただし床に製品や台車が頻繁に載ると不要停止が増え、作業者が迂回できる動線なら保護範囲が不足します。ライトカーテンは定めた面を通過する身体の検出に適しますが、通過後の区域内の存在をどう扱うかは別問題です。扉スイッチは扉の状態を監視しますが、扉のない開放作業位置の床上存在は検出しません。
「安全マットを追加すれば柵を撤去できる」という一般式はありません。守るべき危険源、開口の形、停止能力、身体の到達、材料の搬送、保守時の動線を一緒に比較します。同じ設備でも、前面はマット、側面は固定柵、保全扉はインターロックという組み合わせになり得ます。保護装置の選定は現場のリスク評価の結果であり、既設機械の改造では変更管理と再妥当性確認を行います。詳しくは安全リレーの選定と安全扉スイッチの選定も参照してください。
RFPで比較すべき項目を「購入品」と「完成機能」に分ける
見積の一行が「安全マット一式」では、提案会社ごとに含むものが変わります。マット本体の数量・形状、アクティブ連結部材、外周・ランプ、ケーブルと保護材、監視ユニット、安全制御の改造、停止要素の改造、床工事、図面、試験、教育、スペアを分けて明細化します。部材費が安くても、床工事や停止時間計測を別見積にすれば総額比較が崩れます。調達担当には有効検知面積だけでなく、提案した安全機能全体の価格と納期を比較してもらいます。
| 比較項目 | RFPで指定する資料 | 受入れで確認すること |
|---|---|---|
| 危険源と動線 | リスク評価、平面図、作業観察記録 | 迂回・跨ぎ・側面侵入を含めて確認 |
| 検知範囲 | 外形と有効領域を分けた施工図 | 端部・継ぎ目・通常の踏み位置を試験 |
| 停止性能 | 停止時間測定計画、採用規格版 | 悪条件を含む実機測定と距離の再評価 |
| 電気系 | 回路図、構成部品、診断・リセット仕様 | 断線・短絡・故障時の動作と再起動 |
| 床施工 | トリム、ランプ、排水、ケーブル経路 | 固定、段差、清掃、台車通行を現場確認 |
| 保守 | 点検表、交換手順、スペアリスト | 交換後の再試験と記録方法 |
仕様に寸法値や許容荷重を入れる場合は、製品資料の版と現場条件を紐づけます。「業界標準の停止距離」「一般的なIP」など出典のない数値を記載しないでください。採用国、輸出先、顧客仕様、機械固有規格によって要求が異なる可能性があります。タイ工場に置くから特定のISO規格が自動で法的義務になるという主張も避け、適用性を契約・法令担当と確認します。
FATとSATで何を試すか
FAT(工場出荷前受入試験)は、設置前に図面、部材、制御盤、プログラム、ロジックと故障時動作を確認する機会です。実際の床と機械の停止性能は現地SAT(据付後受入試験)でしか確かめられない場合があります。FAT合格をもってマットの位置や安全距離まで合格としないでください。試験手順書には作動点、押す順番、期待される停止、復帰条件、測定器、判定者、証拠写真を明記します。
FATでは少なくとも、提案型式と納入品の一致、複数マットの接続、監視ユニットの設定、安全出力、リセット動作、断線や短絡を模擬した故障処理を、実行可能な範囲で確認します。模擬試験は実機の停止時間測定を置き換えません。ソフトウェア版、パラメータ、回路図、試験時の構成を保存し、現地に運ぶ途中で変更したものを追えるようにします。どの試験がFATで未実施なのかも記録し、SATへ持ち越します。
SATでは、敷設した全マットの中央だけでなく、実際に歩く線、継ぎ目、端部、ランプの隣、ケーブル出口付近を試します。人の進入方向ごとに、安全機能がいつ作動し、機械がいつ安全状態になるかを測ります。単独作動、複数枚同時作動、作動中の再起動禁止、解除後の手動リセット、電源断・復電、断線・短絡、コンタクタやドライブの診断、上流設備との連動を受入表へ記録します。故障注入はメーカー手順と安全な隔離の下で行い、試験のために人を危険へさらしません。
床の受入れも重要です。マットがずれないか、トリムに鋭い段差がないか、台車の車輪が端部を巻き込まないか、洗浄後に水が残らないかを、製造と保全が現場で見ます。仮設ケーブルを片付けた後の完成状態で再試験します。誰が最終承認するかをRFP時点で明記し、是正項目を閉じるまで量産投入を認めない条件を合意します。

導入後の点検・変更管理を設計時に決める
日常点検では表面の損傷、滑り、異物、固定材の緩み、ケーブルの傷、警告表示、踏み込み時の停止とリセットを確認します。頻度は製品説明書、リスク評価、汚れ方、使用頻度から決めます。月次や定期点検では、端部・継ぎ目を含む作動点、断線・短絡監視、停止時間の変化、床の摩耗、清掃後の状態を記録します。点検者、試験点、結果、是正、設備再開承認を追える形式にします。点検のために安全回路を一時的に無効化したなら、復旧と再試験を独立したチェックにします。
設備の速度や制御プログラム、ブレーキ、床レイアウト、マット型式、台車動線を変えたら、初回の安全距離や検知範囲の評価が有効か見直します。マット交換を単なる消耗品交換と扱うと、同寸法でも有効検知領域や応答、接続方式が異なる製品へ置き換わる可能性があります。変更理由、影響を受ける安全機能、再測定項目、承認者を残すことが重要です。
安全装置を現場で使いやすくすることも継続運用の条件です。マットを踏むたびに不要停止するなら、作業者の問題にする前に、置き場、搬送経路、敷設位置、リセット動作を調べます。ただし停止回避のためにマットを短絡させたり、無効化したりする対策は許されません。生産性と安全機能を両立する配置変更は、改めてリスク評価と妥当性確認を経て行います。
現場で迷いやすい三つの境界を先に決める
第一は、安全機能と通常制御の境界です。マット作動の表示をHMIへ出す、停止回数を記録する、保全へ通知することは運用上有用ですが、これらの情報機能が安全停止の経路に入るかは別に設計します。通信が切れた場合、HMIが再起動中の場合、MESにデータが届かない場合でも、指定した安全機能が働く構成かを図面と試験で確かめます。運転員向けの画面には、どのマットが作動したか、故障か通常の踏み込みか、誰がどこでリセットできるかを分かりやすく示します。ただし画面上の「解除」ボタンを追加するなら、それ自体が安全機能に与える影響を改めて評価してください。
第二は、マットの保護領域と作業領域の境界です。ワークを置く台、手持ち工具、材料箱をマットの上に置く運用が始まると、人がいなくても検知が続いたり、逆に作業者が荷物を避けて端を歩いたりします。段取り替え時だけ通る経路や、清掃者が設備裏へ回る経路も、量産時の平面図では見落とされがちです。床に実物大の養生テープを貼り、作業者に一連の動作をしてもらう簡易レビューは、図面上の寸法チェックとは異なる問題を早期に見つけます。レビュー後は、変更した経路や固定柵の追加を図面へ戻し、最終版で改めて評価します。
第三は、納入業者と工場側の責任境界です。マットメーカーが製品試験を行い、制御盤業者が配線し、床業者が施工し、設備メーカーが停止時間を測る構成では、継ぎ目やケーブル出口の異常を誰が引き受けるか曖昧になりやすくなります。RFPの責任表で、リスク評価、保護範囲図、配線図、床施工図、停止時間測定、FAT、SAT、是正、保守教育の作成者と承認者を一つずつ指定します。各社の納入範囲がつながる地点には、図面番号と現物の確認点を設けます。最終責任を曖昧な「一式」に任せず、完成した安全機能を誰が実機で検証するかまで契約前に合意してください。
受入れ後に残すべき資料と教育
引渡しパッケージには、採用したリスク評価と安全機能仕様、規格版、マット・トリム・監視機器の型式、配置図と有効検知領域図、停止時間の生データと計算、回路図、ソフトウェア・パラメータのバックアップ、FAT/SATの結果、未解決事項と是正履歴を含めます。後から一枚だけ交換するとき、どこを試し直せばよいか判断できるよう、試験点を図面へ番号付きで残します。点検表の様式だけでなく、故障表示を見たときの設備停止、連絡先、交換品の確認、再起動承認の手順を現場へ渡します。
タイ工場では、日本語の設計資料だけで運用を始めると、日常点検と異常時の判断が現地担当者へ伝わりにくくなります。設備に必要な操作・点検・警告の文書は、実際に使用する担当者が理解できる言語で用意し、現物を使って教育します。教育では正常停止だけでなく、故障表示、床の破損、台車による引っ掛かり、清掃後の水残り、誤ったリセットの試験ケースを扱います。誰が教育を受け、どの操作を実演し、どの疑問が残ったかを記録します。教育は試運転の最後に一度説明して終わりではなく、担当交代やレイアウト変更時に更新する運用資料として扱います。
よくある質問
安全マットを敷けばライトカーテンは不要ですか?
一律には言えません。マットが足元の存在を、ライトカーテンが一定の面の通過を検知するという違いがあります。手や身体がマットを踏まずに危険源へ届く経路があれば、別の保護が必要です。どちらを使うか、併用するかは危険源、侵入経路、停止時間、運転方法から決めます。
マットの継ぎ目は全部検知しますか?
製品と指定部材の組み合わせ次第です。アクティブ連結トリムを使う製品では継ぎ目の検知を意図した構造がありますが、普通の見切り材や未指定施工で同じ性能は保証できません。メーカー図面と設置手順を確認し、SATで継ぎ目を試します。
マットの仕様書にPL dとあれば設備全体もPL dですか?
いいえ。完成した安全機能は入力、論理、出力、診断、配線、停止要素を含みます。必要なPLrは設備のリスク評価から決め、達成PLは採用構成をISO 13849-1等で評価し、ISO 13849-2等に沿って妥当性確認します。部品の表示だけでは結論になりません。
タイ工場で必要な法令や規格は何ですか?
設備の種類、設置場所、輸出先、顧客契約、改造範囲により変わります。本記事のISO規格は設計検討の参照資料であり、個別案件のタイ法令適合を保証するものではありません。現地のEHS・法務担当、設備メーカー、必要に応じ専門家に適用要求と版を確認してください。
交換用マットは寸法が同じなら別メーカーでよいですか?
寸法だけでは判断できません。有効検知領域、作動条件、応答、配線方式、監視ユニットとの適合、トリムの取り合いが変わります。代替品にする場合は変更管理を行い、接続と停止・再起動を再検証します。
まとめ:安全マットは床の製品ではなく安全機能の入口
安全マット選定では、現場の侵入経路と危険源を出発点に、有効検知領域、停止時間、敷設位置、継ぎ目、外周、床状態、配線、リセット、保守を一続きに設計します。ISO 13856-1はマット自体の一般原則、ISO 13855は位置と寸法、ISO 13849-1/2は安全関連制御の設計と妥当性確認に関係しますが、どの規格も現場固有の評価を省略させるものではありません。RFPでは購入部品と完成安全機能を分け、FAT/SATの判定点と証拠を契約前に揃えてください。
タイ工場の既設設備への安全マット追加や新設ラインの保護範囲について、現場動線の整理、RFP、停止時間測定計画、制御連携、FAT/SATの受入項目を検討する段階からご相談いただけます。設備型式や予算が固まる前でも、守るべき動線と不足資料を一緒に整理できます。お問い合わせからご連絡ください。
参考資料
- ISO, ISO 12100:2010 — Risk assessment and risk reduction
- ISO, ISO 13856-1:2013 — Pressure-sensitive mats and floors(2024年確認済み)
- ISO, ISO 13855:2024 — Positioning of safeguards
- ISO, ISO 13849-1:2023 — Safety-related parts of control systems
- ISO, ISO 13849-2:2012 — Validation
- ISO, ISO 14118:2017 — Prevention of unexpected start-up
- Rockwell Automation, Safety Mats and Edges Specifications Technical Data, March 2026
- Rockwell Automation, MatGuard Mat Manager User Manual, December 2024
- Rockwell Automation, MatGuard Control Unit User Manual, January 2024
- Rockwell Automation, Mat Controllers product information
資料の発行日、版、製品の供給状況と個別設備への適用性は発注直前に再確認してください。