ワイヤーハーネスの導通検査記録を紙やテスター内のファイルだけで管理していると、「この製品は、どの配線仕様・検査条件で、いつ、誰が、何回検査したか」という問いに答えるまで時間がかかります。記録システムの導入目的は、単に合格件数を集計することではありません。個体と検査条件と生データを結び、再検査や仕様変更が起きても出荷判断の根拠をたどれるようにすることです。本稿では、タイのハーネス工場を想定し、導通検査の範囲、テスターとMESのデータ連携、RFP、FAT、SAT、運用までを実務の順序で整理します。
最初に決めるべきこと:何を「導通検査」と呼ぶか
導通検査は、設計上つながるべき端子間の電気的な接続を確認する試験です。一方、つながってはいけない端子間の短絡、接続先の取り違え、絶縁抵抗、耐電圧は、検査項目や必要な測定能力が異なります。テスターの画面に一つの「PASS」が表示されても、その合格が何を保証するかはレシピに依存します。最初の仕様書には少なくとも次の区別を明記してください。
| 項目 | 確認したいこと | 記録で残すべきこと |
|---|---|---|
| 導通・接続抵抗 | 意図した経路が接続され、規定の抵抗範囲内か | 対象端子対、測定値または判定値、閾値、レシピ版 |
| 短絡 | 本来独立した経路が接続していないか | 検査したネットの組、判定、閾値 |
| 誤配線・ピン違い | 電線が正しい相手端子へ接続されているか | 期待接続表、検出した不一致、端子識別 |
| 絶縁抵抗 | 規定の抵抗値以上で絶縁されているか | 直流電圧、時間、測定抵抗(Ω/MΩ)、下限値、適用の有無 |
| 耐電圧・hipot | 試験電圧下で過大な漏れ・絶縁破壊がないか | 交流・直流の別、印加電圧、保持時間、漏れ電流・遮断値または破壊結果 |
| 治具確認 | 治具やアダプター自体が検査を妨げていないか | 治具ID、点検・校正状態、自己診断結果 |
Cirrisの抵抗閾値ガイドは、オープンとショートを判別する閾値が測定対象とテスター設定に左右されることを説明しています。そこにある数値例を、すべての製品に共通の合否値として採用するべきではありません。電線長、線径、端子、接触抵抗、測定方法、治具の寄与を確認し、顧客図面・製品仕様とともに閾値を決めます。低抵抗を厳密に測る場合は四端子測定などの適用も検討します。
抵抗器やダイオードを内蔵するハーネスでは、単純な接続パターン検査だけで部品値や極性まで保証できません。Cirrisの部品検査ガイドも、受動部品がある構成では単純な導通テスターに見落としがあり得ると説明しています。どの故障モードを検出したいかを先に列挙し、装置能力をその後に選びます。
なおIPC/WHMA-A-620の案内はハーネス組立の要求・受入に関する標準を説明していますが、このページを根拠に「全工場はMESへ全測定値を保存しなければならない」とは言えません。適用する版、顧客契約、製品クラス、検査頻度、保存期間は個別に確認する必要があります。
記録システムが解決する三つの断絶
第一は個体識別の断絶です。テスターの結果が日時順に並ぶだけでは、結果と実物を安定して結びつけられません。ハーネスの個体シリアル、ロット、作業指示番号をスキャンし、検査開始前に仕様との一致を確認します。バーコードを後から手入力して補う方式は、取り違えを検知する機会を逃します。シリアルを付けられない製品でも、ロット内の一意な製番やコンテナ番号など、監査時に現物へ戻れる識別単位を決めます。
第二は条件の断絶です。同じ製品番号でも図面改訂、テストプログラム、抵抗閾値、治具、装置ソフトウェアが変わります。「合格」という文字列だけでは当時の判定条件を再現できません。結果に製品仕様版とレシピID・版をスナップショットとして結び、後のレシピ更新で過去結果を書き換えない設計が必要です。
第三は工程の断絶です。圧着工程の品質データと電気検査の結果は別の事実です。圧着高さや圧着力が良好でも、ピン挿入位置や配索が違えば導通検査で不合格になり得ます。逆に導通合格だけで圧着品質の全要素を証明することもできません。圧着工程の監視に関する関連記事と検査記録を、同じ個体IDと工程履歴で関連付けると、再発分析の起点になります。

テスター、端末、MESの役割を分けて設計する
テスターは電気的測定と判定の正本です。現場端末は個体ID、作業者、作業指示、治具の照合と画面誘導を担います。MESまたは品質データ基盤はイベントを受信し、履歴検索、出荷判定、例外承認、分析へつなぎます。この役割分担を曖昧にすると、端末が勝手に判定値を上書きしたり、MESが受信した時刻を検査時刻として記録したりします。
標準的な流れは次のようになります。①作業者が個体IDを読み取る。②端末が製品品番、図面版、作業指示、レシピ版を照合する。③治具IDとテスターIDの使用可否を確認する。④テスターに開始指示を出すか、テスター側の開始イベントを受ける。⑤テスターの結果と測定条件を一つの試験イベントとして保存する。⑥MESが出荷ゲートへ合否を返す。いずれかの照合ができない場合、試験を記録せずに進めるのか、設備を止めるのかは品質責任者が事前に決めます。
テスターによって、API、ファイル出力、データベース連携、シリアル通信、専用ソフトウェアなどの実装可能な経路は異なります。Cirris Easy-Wireは試験プログラム作成、測定値を含むレポートの保存、複数ステーションでのデータ共有などを案内しています。CAMI CableEyeのソフトウェア案内にも自動データ記録と過去試験の確認機能があります。これらは製品機能の例であり、手元の機種・ライセンス・ソフト版で外部連携項目が取れることを保証しません。RFPでは実機のサンプル出力とインターフェース仕様を要求します。
最小データモデル:PASSだけでは足りない
一件の試験イベントに必要なフィールドを、画面に表示する情報と保存する情報に分けて定義します。最低限、試験イベントID、個体またはロット識別、製品品番と改訂、作業指示、テスターID、治具ID、レシピIDと版、試験開始・終了時刻、判定、試験項目別結果、再試験番号、作業者またはステーションIDを持たせます。測定値を出せる装置なら値と単位、閾値、端子対を関連付けます。装置が合否しか出せない場合は、取得できない値を推測で埋めず、装置のデータ制約として明記します。
| フィールド群 | 具体例 | 設計上の注意 |
|---|---|---|
| 識別 | test_event_id、serial_id、work_order_id | イベントIDは再送されても同じ値を使う |
| 仕様 | part_no、drawing_rev、recipe_id、recipe_rev | 結果時点の版を保存する |
| 設備 | tester_id、fixture_id、station_id | 治具交換と装置交換を区別する |
| 時刻 | started_at、ended_at、received_at | タイムゾーンと時計同期の状態を残す |
| 結果 | overall_result、item_result、measured_value、unit、limit | 試験項目の適用有無も示す |
| 再検査 | attempt_no、previous_event_id、reason_code、approval_id | 初回NGを消さない |
| 証跡 | operator_id、source_file_hash、interface_version | 誰が何を修正したか監査できるようにする |
この構成は提案用の最小例であり、法定の必須項目一覧ではありません。製品の危険度、顧客仕様、保管量、個人情報方針によって増減します。特に作業者IDはアクセス制御と保存期間を定め、品質分析に不要な個人情報を集めないようにします。
試験時刻と受信時刻は別に記録します。ネットワークが落ちてもテスターがローカルに結果を保持し、復旧後に同じイベントIDで再送できると、二重件数や欠番を防ぎやすくなります。ローカル蓄積の件数上限、再送間隔、ディスク満杯時の動作、時計ずれ許容値も仕様にします。送信成功の画面表示は、MESが永続保存した受領応答の後に出す設計が安全です。
再検査と不合格品の扱いを設計段階で決める
導通不良が出た後、コネクターを押し直して合格した場合、初回の不合格は製品の重要な履歴です。既存行の結果を「PASS」に上書きすると、接触不良の傾向も修理の実態も見えません。試験のたびに新しいイベントを追加し、元イベントへの参照、再検査理由、修理内容、承認者を残します。最終の出荷可否はイベントそのものとは別の状態として管理します。
例えば、初回NG → 作業台で再挿入 → 二回目PASSの事例では、初回NGも二回目PASSも残し、修理・再検査を許可する条件と出荷承認の担当者を作業標準に書きます。再検査の回数上限、同じ不良コードが続いた場合の隔離、治具交換後に必要な再試験も決めます。合格率を見たいときは「初回合格率」と「最終合格率」を区別し、分母を明示します。数字の改善が再検査増加だけによるものなら、工程改善とは解釈できません。
短絡や誤配線を見つけた場合は、表示された不良端子を作業者が確認できることも重要です。ただし画面の故障位置は、試験プログラムのネット定義と治具配線に依存します。実物の故障位置を断定する前に、マスター設定と治具を点検します。治具の接点劣化を製品不良として積み上げると、品質分析を誤らせます。

ハーネステスターとMESの連携方式を比較する
装置を入れ替えずに始めるなら、テスターが出すCSVやレポートファイルを端末が監視し、正規化してMESへ送る方式が候補です。導入しやすい反面、ファイル名の重複、書き込み途中の読み込み、時刻ずれ、文字コード、スキーマ変更への対処が必要です。ファイル生成完了の判定と取り込み後のアーカイブ、原本ハッシュ保存を含めて設計します。
APIやイベント配信を使える機種なら、試験開始・終了イベントを直接受け、個体IDとの同期をより明確にできます。ただしAPIが「合否だけ」なのか「項目別値・レシピ版まで」出せるのかは別問題です。専用ソフトウェアのデータベースへ直接アクセスする方式は、メーカーのサポート範囲とスキーマ変更時の責任を確認します。画面の自動操作や人手による転記は、移行期の暫定運用として期限を決める方がよいでしょう。
| 方式 | 向いている条件 | FATで必ず確認したい点 |
|---|---|---|
| CSV・ファイル | 既存機が安定した形式で出力する | 中途ファイル、重複、欠落、レシピ更新 |
| API・イベント | 装置が公式インターフェースを持つ | 認証、応答、再送、項目の網羅性 |
| メーカーソフト経由 | 装置群の管理をメーカー製品で統一する | ライセンス、版変更、データ持ち出し |
| 手動入力 | 短期パイロットのみ | 原本との突合、入力誤り、終了条件 |
装置メーカーに「MES連携可能ですか」と聞くだけでは、受け渡せるデータを判断できません。テスト実行中、PASS、OPEN、SHORT、MISWIRE、治具異常、通信断、再試験という複数ケースのサンプル出力を求め、項目表へマッピングします。測定値がないイベント、未実施の絶縁試験、タイムアウトは、いずれも単一の「FAIL」に潰さないことが重要です。
検査レシピの版管理と変更承認
ハーネス品番とレシピの対応表は、装置にだけ置くと管理者以外に見えません。MES側で許可された品番・改訂・レシピ版の組を持ち、テスターが返した版と照合する設計が有効です。旧版の試験結果は旧版として保存し、後から新しい閾値を当てて合格・不合格を再計算しないでください。再判定が必要なら、権限者の承認、対象範囲、理由、新しい判断を元の試験イベントと別に記録します。
新レシピの公開前には、意図した配線の正常品だけでなく、断線、隣接ピン短絡、ピン入れ替え、抵抗上昇、治具未装着などの故障サンプルで試します。機能部品を内蔵する製品では、極性、並列経路、測定電圧や電流による影響も確認します。顧客仕様で絶縁試験が必要な場合は低電圧導通試験とは別に条件と安全対策を定めます。「導通試験をしたから耐電圧も確認済み」と扱うのは誤りです。
レシピ版の識別方法として、メーカーのプログラム番号だけでは再利用や上書きのリスクがあります。ファイルハッシュ、承認番号、有効開始日時を併記し、マスターの変更履歴と照合できるようにします。複数ラインへ同じレシピを配布する場合は、端末での配布完了とテスター上の有効版確認を別々に記録します。
RFPに書くべき要件:装置能力とデータ能力を分ける
調達文書では「トレーサビリティ対応」という表現を分解します。まず対象品番数、最大試験点数、日産数、シフト、許容サイクルタイム、既存テスター型番とソフト版を示します。次に検出すべき故障モードと判定条件の決定主体を示します。そして保存するデータ項目、検索条件、エクスポート形式、バックアップ、アクセス権、障害復旧を示します。最後に、誰が治具を作り、誰がマスターを承認し、誰がMES連携を保守するかを明記します。
RFPの質問例を挙げます。
- サンプル結果ファイルまたはAPI応答を、PASS、OPEN、SHORT、MISWIRE、通信断、試験中断、再試験ごとに提供できるか。
- 測定値、単位、閾値、端子対、レシピ版、テスターID、治具IDを取得できるか。取得できない項目はどれか。
- シリアル重複、誤品番、失効レシピ、未点検治具を検査開始前に止められるか。
- 停電とネットワーク断の間の結果をどこへ何件保存し、復旧後どう再送するか。
- 改訂・ライセンス更新・装置交換でデータ形式が変わる場合、誰が通知・検証するか。
- 過去データを顧客要求の期間で検索・提出できるか。データ原本と修正履歴をどう保持するか。
- 試験回路と治具の校正・点検、故障サンプル、保守予備品の責任範囲はどこまでか。
ベンダー比較では購入価格だけでなく、治具製作、レシピ移行、インターフェース、ライン停止を伴う切替、年間保守、将来の品番追加を含む総費用で見るべきです。ただし一般化できる導入費用や工数はありません。既存機の出力形式と品番数が費用を大きく左右するので、現物のサンプル出力と二、三品番の代表レシピを渡して見積もりを取ります。トレーサビリティシステム構築費用の関連記事も、全体アーキテクチャを考える際の参考になります。
FATとSATで受け入れる:画面ではなく証跡を見る
FAT(工場出荷前受入試験)は、ベンダー環境でレシピと連携の主要機能を検証する場です。正常品だけを一回通して終えず、故障サンプルと境界ケースを事前に合意します。例えば、誤ったシリアルと品番の組み合わせ、同じイベントの二重送信、通信断中の連続試験、時刻ずれ、途中終了、再検査、閾値付近の測定値、治具未装着、レシピ版不一致を含めます。各ケースで、現場画面、テスター原本、MESイベント、出荷ゲートの四つが整合するか確認します。
SAT(現地受入試験)では、タイ工場の実設備・ネットワーク・作業者・実品番で同じ業務を再確認します。バーコードの読みやすさ、試験治具の着脱、シフト交代、再作業エリアからの戻り、停電復旧、夜間のサポートも対象です。FATの成功はSATの代わりになりません。現地の時刻設定や通信経路、治具配線が違えば、試験結果のひも付けが崩れる可能性があります。
受入基準は「速く動く」ではなく、測定可能な形にします。例として、決めた代表品番でテストイベントの欠落・重複がゼロ、再送時にも件数が増えない、全故障サンプルが期待したコードとして保存される、初回NGと再検査PASSの双方が追跡できる、旧レシピで試験開始できない、指定時間内にシリアルから証跡一式を取り出せる、などです。目標時間や対象件数は工場と顧客の要求に基づいて決め、記事中の仮例を契約値にはしないでください。

段階導入の進め方と運用指標
品番変更時の「新旧混在」を現場で止める
モデルチェンジの切替日は、旧図面の材料、旧治具、旧レシピが同じフロアに残りがちです。端末に新図面版を表示するだけでは、実際にテスターがどのプログラムを動かしたかを確認できません。作業指示の品番・改訂、スキャンした現物の識別、治具ID、テスターが返すレシピ版の四点を突き合わせ、組み合わせが承認表にない場合は開始を止めるのが基本です。特採や設計変更の移行期間に旧版を許可するなら、有効期限、対象ロット、承認者を記録します。
旧版と新版で端子割付が同じでも、線長や部品構成が変われば閾値が変わる場合があります。見た目の接続図が似ていることだけでレシピを共用せず、変更管理の対象として影響を評価します。新しいレシピの試験後は、結果画面だけでなく保存イベントの版情報を確認してください。現場表示が新版でも保存データが旧版なら、後の顧客提出に使えません。
検索の実演を受入条件に含める
受入時には「シリアルを入力すると何秒で何が出るか」を実演します。合格した個体だけでなく、初回NG後の修理品、検査中断品、別治具で再検査した品、仕様切替日の品をサンプルにします。検索画面で試験イベントの時系列、項目別の結果、レシピ版、治具、作業指示、出荷判定がつながるかを確かめます。CSV出力と画面表示で件数が違う場合は、フィルターやタイムゾーン、取消イベントの扱いを調べます。
顧客向けの提出書式と、内部の原本は別に設計して構いません。提出書式には必要な情報だけを載せつつ、内部では元イベントを保持します。レポートを再出力した日時と生成に使ったデータ範囲を残せば、同じシリアルについて複数版のレポートが存在する場合も理由を説明できます。匿名化が必要な場合は作業者の表示名を隠しても、権限者が内部IDを追える仕組みにします。
障害時の暫定作業をあらかじめ決める
MESが利用できない時間に製造を続けるかどうかは、単なるIT判断ではありません。品質部門が、製品群ごとにオフライン検査の可否と出荷保留条件を決めます。続行を許す場合は、テスター原本の保全、ローカルでの個体ID照合、手書き記録の採番、復旧後の突合、二重登録防止、未登録品の隔離を手順化します。未送信イベントが残っているのに端末だけを交換すると、後から結果を回収できなくなるおそれがあります。
復旧時には、テスター側の件数とMES側の受領件数を期間・ステーション・品番ごとに突き合わせます。件数だけ一致しても、別シリアルへ誤って結び付いた可能性があるため、イベントIDと個体IDの対応まで照合します。差分リストを品質担当者が承認するまで、対象ロットの出荷ゲートを開けない運用が必要かも決めておきます。
最初から全ラインを切り替えるより、代表的な一品番と一台のテスターでデータ取得を検証し、その後に複数品番、複数治具、複数シフトへ広げる方が問題を切り分けやすくなります。パイロットでは既存の紙記録と新システムを一定期間突き合わせ、個体ID、日時、合否、再検査回数、出荷判断が一致するか確認します。差異は単なる入力ミスとして消さず、連携・業務ルール・治具のどこに原因があるか記録します。
運用開始後は、初回合格率、故障モード別件数、再検査率、治具起因の不合格、レシピ不一致による停止、結果未送信件数、遅延受信件数を見ます。これらは品質の優劣を単独で示す指標ではありません。品番構成や判定条件が変われば数字も変わるため、品番・改訂・ライン・シフト・レシピ版で切り分けます。収集したデータで現場を評価する前に、マスターと欠測の品質を点検します。
データの保存期間、バックアップ復旧試験、管理者権限、外部提出手順も運用標準に含めます。顧客から特定シリアルの証跡を求められたとき、合否一覧だけでなく、当時の仕様版、レシピ、測定項目、再検査、修理と承認まで一連で提示できる状態が目標です。製品の変更で端子数が増えたときも、同じ検索軸が機能するかを回帰試験します。
監査で役立つ検索と権限の設計
記録を大量に集めても、問い合わせに答えるための検索キーがなければ実務では使えません。品質担当者が使う検索では、個体シリアルから直近の合否だけでなく、全試験イベントの順序、品番改訂、レシピ版、治具ID、異常コード、再検査理由、承認記録を同じ画面からたどれるようにします。ロット番号から対象個体を列挙できる検索、特定の治具を使用した期間の製品を抽出できる検索も有効です。治具が故障した場合、どの製品を再点検すべきか判断するためです。
検索結果を後から修正できる権限は狭く設定します。誤ったシリアルを入力した場合でも元イベントを無言で編集せず、訂正イベントと理由、操作者、承認者を残します。削除権限と閲覧権限は分け、ベンダー保守用のアカウントには利用期間と操作範囲を設けます。監査ログ自身も通常の作業者が消せない保存先に置きます。
顧客への提出では、個人名や工場内部の設備番号をそのまま見せる必要がない場合があります。外部向けレポートの表示情報は契約に合わせて絞りつつ、内部では元の測定イベントを保持します。レポートを生成した日時、対象データ、テンプレート版を記録すれば、後日同じ個体のレポートを再出力した際に差がある理由を確認できます。
バックアップは「コピーを取っている」だけでは十分ではありません。一定の頻度で、隔離された環境へ戻して検索と履歴の整合性を確認します。保存期間終了時に廃棄すべきデータがあるなら、その判断権者と処理ログを決めます。顧客保管要求、製品寿命、契約、現地の情報管理方針が異なる場合、最も厳しい値を無条件に全データへ適用する前に、対象データと費用を整理してください。
よくある質問:導通検査のトレーサビリティ
導通検査の合格記録があれば、絶縁試験の記録は不要ですか?
いいえ。両者は検査目的と条件が異なります。製品仕様や顧客要求で絶縁抵抗・耐電圧が必要なら、実施条件と結果を別項目として保存します。未実施は「合格」ではなく「対象外」または「未実施」と明示してください。
ハーネステスターとMESの連携では全測定値を保存すべきですか?
判断には不良解析、顧客提出、装置出力、データ量、保存費用を含めます。測定値を装置が出せるなら、項目別値と閾値を残すと後の傾向分析に使えます。一方、取得不能な値を作ることはできません。最低限、どの検査項目がどの条件で実施され、どう判定されたかが再現できるようにします。
再検査でPASSになったら、最初のNGは削除してよいですか?
削除しません。初回NGと再検査PASSを別イベントとして保存し、修理理由と出荷承認を関連付けます。初回合格率と最終合格率も分けて集計します。
既存テスターがCSVしか出せなくても始められますか?
可能性はあります。CSVに個体IDとレシピ版がない場合、端末で検査開始時に照合した情報と確実に結びつけられるかが重要です。中途ファイル、欠落、重複、装置時計ずれをFATで検証してください。
圧着検査の記録と導通検査の記録は同じですか?
別の工程証跡です。圧着の工程条件と電気的な導通結果は同じ個体IDで関連付けますが、片方の合格で他方の要求を満たしたとは扱いません。
まとめ
ワイヤーハーネスの導通検査記録システムは、テスターからPASSを取り込むだけでは成立しません。検査の対象範囲を定義し、個体ID、品番・図面版、レシピ版、治具、時刻、項目別結果、再検査を一つの追跡可能な履歴にします。調達時には実機データと故障サンプルを用い、FATとSATで欠落・重複・誤ひも付け・出荷判定を確認します。運用では初回NGを残し、条件変更と通信障害に耐える記録を維持することが、監査と改善の双方に役立ちます。
タイ工場で既存のハーネステスターとMESの接続方式を検討中なら、対象機種、代表的な試験結果ファイル、追跡したい個体単位を整理した段階でTOMAS TECHへご相談ください。RFPやパイロットの検査項目を決める段階から相談できます。
参考情報
- IPC, Meet Your Standards(IPC/WHMA-A-620の案内)
- Cirris, Guidelines for Setting Resistance Test Thresholds
- Cirris, Guidelines for Testing Components
- Cirris, Easy-Wire Software
- CAMI Research, CableEye Software Upgrade(自動データ記録機能)
- CAMI Research, CableEye Software(故障表示・レポート)
- Komax, EasyWiring Board with Integrated Testing(製造工程と検査のデジタル接続例)