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2026.10.09

リモートI/O 選定|タイ工場の盤内・機上比較とRFP・FAT/SAT

リモートI/O 選定|タイ工場の盤内・機上比較とRFP・FAT/SAT

PLC の更新やライン改造の見積を取ると、SIer から「I/O はリモートI/Oで」と提案されることが増えています。ところが、カタログを並べても、どの方式を選び、どの通信を指定し、受入で何を試せばよいかは書かれていません。この記事は、タイの日系工場でリモートI/O 選定を任された生産技術・設備保全・電気設計の担当者が、社内で判断材料をそろえるための実務ガイドです。

中央の制御盤から機械まで太いケーブル束が這い、センサー1個の断線で止まるたびに、どの端子かを探すのに時間がかかる。リモートI/Oは、この「探す時間」を短くできる可能性がある部品です。ただし、選び方を誤ると中途半端な結果になります。

この記事の主張は一つです。リモートI/Oは、カタログの点数・幅・保護等級の比較で選ぶものではありません。①上位PLCと工場標準の通信を先に固定し、②設置場所の環境(盤内か機上か)で形態を決め、③停止を短くする仕組み(診断の粒度、活線交換、設定の自動復元、予備品)を要件にし、④安全I/Oとサイバーセキュリティを最初から同じ設計に入れ、⑤受入試験で「わざと壊して」診断と復旧を確かめる。 そして PLC 更新と同時に進めるなら、既設配線をどこまで活かせるかで最適解が変わります。

以下、この5段の順番に沿って整理します。製品の仕様はすべてメーカーの公表値で、第三者が検証した値ではありません。試算の金額・時間・回数は、この記事のために置いた仮の数字です。

なぜ今、タイ工場でリモートI/O 選定が問われるのか

2026年のタイの製造業は、弱い数字と強い数字が混在しています。

The Nation が伝えたタイ工業経済事務局(OIE)の発表では、2026年6月の製造業生産指数(MPI)は94.99で、前年同月比3.10%の低下でした。設備稼働率は6月が57.61%、第2四半期平均が57.47%です。自動車は12.59%減で、家計債務と貸出基準の厳格化が理由に挙げられています。一方、Trading Economics によると、2026年8月の鉱工業生産は前年同月比4.44%増で、2カ月連続の増加でした。通信機器は24.41%増と、AI 投資・データセンター需要がけん引しています。工業省は2026年の工場生産の見通しを、従来の0.0%〜0.5%から2.75%〜3.55%へ上方修正しました(MPI 算出方法の改定を含む見通しで、予測値です)。

設備投資の意向も見えています。TCIJ が報じた、タイの日系企業504社を対象とした2026年上期の調査(投資計画の詳細回答は432社)では、59%(256社)が既存機械の更新、31%(132社)が生産効率の改善、22%(96社)がデジタルトランスフォーメーションへの投資を計画していると回答しました。同じ記事によると、2023年から2026年上期にかけて、日本資本の企業が BOI の「Smart and Sustainable Industry」措置に400件超を申請し、投資額は550億バーツを超えています。なお、この記事では調査主体は明示されていません。

政策面では、法律事務所 Tilleke & Gibbins の解説によると、2026年3月31日に官報に掲載された BOI 告示 No. 4/2569 が、一般自動車製造(カテゴリ3.6)と PHEV/HEV 製造(カテゴリ3.8)の既存・新規プロジェクトを対象に、機械の輸入関税の免除と、自動化・ロボットへの投資に対する3年間の法人税50%免除を定めています(同解説の要約表現で、免除額の上限などの厳密な条件は告示の原文で確認が要ります)。The Nation によれば、BOI は需要側(製造業者)に実投資額の50%相当のインセンティブを用意し、供給側では高度なエンジニアリング設計の技能を持つシステムインテグレーターを支援すると説明しています。

既存機械の更新を計画する企業が多いということは、PLC の更新、盤の更新、ライン改造の案件が増えるということでもあります。そうした案件の中で、I/O をどこに置くかという判断が同時に問われる場面は増えると考えられます。ただし、リモートI/Oの採用と設備更新の結びつきを直接示す統計は、今回確認できませんでした。ここは推論として読んでください。

リモートI/Oとは:中央集約I/O・分散I/Oとの違い

用語を先にそろえます。

中央集約I/O は、PLC の CPU と同じラックや同じ制御盤に I/O ユニットを並べ、機械のセンサーやバルブまで1点ずつ配線を引く構成です。配線の本数は I/O 点数に比例し、機械が盤から遠いほどケーブル束が太く長くなります。

リモートI/O は、I/O ユニットを機械の近く(機械ごとの小さな盤の中や、機械の上)に置き、PLC とは産業用 Ethernet やフィールドバスの通信ケーブルでつなぐ構成です。センサーからの配線は近くの I/O ユニットまでで済み、盤と機械の間は通信ケーブルと電源ケーブルが中心になります。

分散I/O(distributed I/O) は、リモートI/O とほぼ同じ意味で使われます。Siemens は ET 200 シリーズを「分散I/O」と呼び、Rockwell Automation は製品カテゴリを「In-Cabinet Distributed I/O」と「On-Machine Distributed I/O」に分けています。この記事でも、リモートI/Oと分散I/Oは同じものとして扱います。

リモートI/O 選定|タイ工場の盤内・機上比較とRFP・FAT/SAT - figure 1

リモートI/Oにすると、配線の作業量や盤のスペースが減る可能性があります。それ以上に効くのは、製品によっては、どの局のどのチャネルで異常が起きたかを I/O ユニット自身が通信で知らせてくれる点で、この記事では「停止時に原因を特定するまでの時間」を選定の中心の評価軸に置きます。

盤そのものをなくす「盤レス制御」は、リモートI/Oの先にある設計思想です。盤レス化の是非や新設・改造での見極めは「盤レス制御 導入ガイド|タイ工場の新設・改造で見極める条件」で整理しています。この記事は、その手前の部品としてのリモートI/Oの選定・調達・移行・受入に絞ります。

リモートI/O 比較:4つの形態の違い

リモートI/Oの製品は、大きく次の4つの形態に分けて考えると整理しやすくなります。メーカー自身も、Siemens は「盤内向けのコンパクトなモジュール」と「盤外向けの堅牢な設計」の二系統、Rockwell Automation は盤内と機上の二カテゴリで製品を分けています。

形態設置場所保護等級の目安(製品例の公表値)強み弱み向く用途
盤内スライス型機械ごとの小型盤、中継盤の DIN レール盤の保護等級に依存モジュールを細かく組み合わせられる。アナログ、高速カウンタ、モータスタータ、安全I/Oなどの種類が多い。製品によって活線交換に対応盤が必要。盤の冷却と防塵の設計は残る機械ごとに盤を置ける設備、I/O の種類が多い局、既設の中継盤の再利用
機上IP67ブロック型機械のフレームに直接取付IP65/IP67、製品によって IP69K(ET 200eco PN、ArmorBlock 5000 などの公表値)盤が要らない。M12/M8 のコネクタ配線で、センサー交換や配線の差し替えが速い1ブロックの点数が限られる。アナログや特殊機能は、一般に盤内型より選択肢が少ない。取付位置の熱や衝撃、ケーブルの取り回しの設計が要るコンベヤ、搬送、治具まわりなど、デジタル中心で点が機械全体に散っている設備
IO-Linkマスタ兼用機上(IP67 タイプ)または盤内機上タイプは IP65/IP67/IP69K の例あり(NQ-EP4L の公表値)センサーの設定値や診断情報をデジタルで扱える。交換時の設定の自動復元を組めるIO-Link デバイスでないセンサーには恩恵が小さい。ポートあたりの電源容量の確認が要る設定変更や品種切替の多いセンサー、状態監視したいセンサーが多い設備
安全リモートI/O盤内型・機上型の両方機上型は IP67 の例あり(Banner RSio の公表値)非常停止、ドアスイッチ、ライトカーテンなどの安全信号を同じ通信で扱える。安全機器の停止要因を特定できる製品もある安全プロトコルと安全PLC の組み合わせが前提。妥当性確認の工数がかかる安全機器が多く、安全回路の配線が長い設備

表の保護等級は、すべてメーカーの公表値を「例」として挙げたもので、網羅でも推奨でもありません。

形態は環境から決める

形態の選び方は、カタログの点数比較ではなく、設置場所の環境から入るのが順番です。

リモートI/O 選定|タイ工場の盤内・機上比較とRFP・FAT/SAT - figure 2
  1. 盤を置けるか。機械の近くに小型盤を置くスペースと冷却があるなら、盤内スライス型が候補です。盤を置く場所がない、あるいは盤そのものを減らしたいなら、機上型を検討します。
  2. 環境は厳しいか。粉塵、切削油、洗浄水がかかる場所なら、IP67 以上の機上型、洗浄の水圧や温度が高い食品ラインなら IP69K をうたう製品が候補になります。保護等級は「何に対してどの程度の保護か」を示す記号です。自社の洗浄条件(薬剤、水圧、頻度)を書き出し、それに適合するかをメーカーに確認します。
  3. 安全信号を載せるか。非常停止やドアスイッチが多いなら、安全I/Oを同じ形態の中に入れられるかを確認します。
  4. センサーの設定や状態を扱いたいか。品種切替でセンサーの設定値を変える、センサーの汚れや劣化を見たい、といった要求があるなら、IO-Link マスタ兼用の形態を検討します。

IO-Link については、IO-Link Community が「ポイントツーポイント通信」で「フィールドバスではない」と位置づけており、上位の通信の種類に依存しません。IO-Link センサーのデータ統合と受入の考え方は「IO-Link導入:センサーデータ統合と受入設計」で詳しく扱っています。

通信プロトコルの選び方:工場標準を先に固定する

リモートI/O 選定で最初に固定すべきなのは、製品ではなく通信です。リモートI/Oは上位の PLC と通信できなければ意味がなく、通信が決まれば候補の製品はかなり絞られます。

市場の推計と団体の自己集計

HMS Networks が2026年6月16日に発表した「Industrial network market shares report 2026」は、新規に設置されるノードの比率を、産業用 Ethernet 79%(2025年版は76%)、フィールドバス14%(同17%)、ワイヤレス7%と推計しています。産業用 Ethernet の内訳は、PROFINET 30%、EtherNet/IP 25%、EtherCAT 20%、Modbus TCP 5%、CC-Link IE 3%です。アジアについては「CC-Link IE は地域で強い存在感を保っている」と述べています。これは HMS 自身の市場知見と社内データ、業界関係者の情報に基づく推計で、実測の統計ではありません。

各団体も自らの集計を公表しています。PI(PROFIBUS & PROFINET International)は、2025年に PROFINET の新規ノードが1,040万、累計が8,920万に達したと発表しました。EtherCAT Technology Group(ETG)は、2025年末時点の累計ノード数を1億520万、2025年の新規を1,690万としています。ETG は「意図的に保守的な方法」で集計していると説明しています。いずれも団体の自己集計で、方法が違うため、数字どうしを直接比べることはできません。

各プロトコルの技術的な特徴(団体の公表情報)

  • PROFINET:PI が推進。仕様 V2.5 では、証明書配布を含むセキュリティ仕様の残課題の解決、パラメータ設定・ツールアクセス・ファームウェア更新用の新しいセキュアな伝送チャネル、Single Pair Ethernet の統合サポートなどが含まれると、IEB Media が報じています。
  • EtherNet/IP:ODVA が推進。上位層に CIP(Common Industrial Protocol)を使い、TCP/IP に加えて UDP によるリアルタイム周期通信をサポートします。トポロジはスター、ライン、DLR(Device Level Ring)です。CIP Safety、CIP Security などのサービスがあります。
  • EtherCAT:ETG が推進。ETG の公表値では、サイクルタイム100 µs 以下、同期ジッタ1 µs 以下、1セグメントに最大65,535台を接続でき、トポロジはライン、ツリー、スター、デイジーチェーンです。プロトコルは IEC 61158 で公開されています。
  • CC-Link IE TSN:CLPA が推進。三菱電機の説明では、Class B は IEEE 802.1AS と IEEE 802.1Qbv に準拠し時刻同期精度は±1 μs 以内、Class A は時刻同期技術を必要とせず機器コストを抑えつつ高速の I/O 制御を実現するとされています。
  • Modbus TCP:HMS の推計では新規ノードの5%です。この記事で挙げる製品例の中にも、マルチプロトコルの一つとして対応をうたうものがあります。

CC-Link IE TSN の導入判断は「CC-Link IE TSN 導入|タイ工場の移行判断・RFP・FAT/SAT」で扱っています。なお、CLPA の新製品一覧の2026年掲載分には、閲覧時点でリモートI/Oの新規掲載は見当たりませんでした。

日系工場では上位PLCで実質決まる

シェアの推計は世界全体の傾向で、個々の工場の選定にはあまり役に立ちません。日系工場では、既設の PLC メーカーと保全員が使い慣れた設定ツールで、通信は実質的に決まることが多いと考えられます。一般には、三菱電機の PLC が標準なら CC-Link IE 系、Rockwell の ControlLogix が標準なら EtherNet/IP、Siemens の PLC が標準なら PROFINET、Beckhoff の制御が標準なら EtherCAT、という組み合わせが多く見られます。ただし、同じメーカーの PLC でも複数の通信に対応する機種があるので、既設の構成と保全の慣れを確認したうえで決めます。

最近は複数のプロトコルに対応するリモートI/Oも増えています。メーカーの公表では、Siemens の ET 200SP と ET 200eco PN は PROFINET、EtherNet/IP、Modbus TCP に対応する MultiFieldbus をうたい、Murrelektronik の pure.IO は PROFINET、EtherNet/IP、EtherCAT を単一のプラットフォームで扱うとしています。上位の PLC メーカーが混在する工場では、選択肢を広げてくれる製品です。

それでも、工場として通信を1本に絞る理由はあります。設定ツール、予備品、障害の切り分け手順を1つにできるからです。マルチプロトコル製品は「将来の変更への保険」として評価し、工場標準は別に決めておくのがよいでしょう。異なる通信をどうしてもつなぐ場合の選択肢は「産業用プロトコルゲートウェイ選定|RFP・FAT・SAT実務」で、リモートI/Oを収容するネットワーク機器の選び方は「産業用イーサネットスイッチの選定|タイ工場の調達・検収」で整理しています。

製品例と公表仕様の読み方

ここでは、一次情報で仕様を確認できた製品を例として並べます。網羅ではなく、特定の製品を推奨するものでもありません。仕様はすべてメーカーの公表値(ベンダー主張)です。Omron、Phoenix Contact、Weidmüller、Balluff などもリモートI/Oを提供していますが、今回は一次情報で仕様を確認できなかったため、表には載せていません。

製品例形態主な公表仕様(メーカー公表値)
Siemens SIMATIC ET 200SP盤内スライス型DIN レール取付。デジタル、アナログ、フェイルセーフI/O、モータスタータ、テクノロジ・通信モジュール。multi-hot swapping。MultiFieldbus(PROFINET、EtherNet/IP、Modbus TCP)
Rockwell Automation FLEX 5000 I/O(5094)盤内スライス型1 Gb EtherNet/IP。DLR、スター、ライン、PRP。アダプタあたり最大16モジュール。RIUP(通電中の抜き差し)。安全I/Oは SIL 3、PLe、Cat. 4 まで(TÜV 認証)、安全反応時間は最大10 ms。動作温度 -40〜+70 °C
Beckhoff EtherCAT Terminals盤内スライス型デジタル端子は2/4/8/16/32チャネル。HD 版は16または32チャネルを幅12 mm に収める。TwinSAFE 端子。2026年4月発表の ED シリーズはプッシュイン配線と Data Matrix コードを使うアプリ支援の診断
WAGO I/O System 750/753盤内スライス型モジュール・コントローラ・カプラ合わせて500種超。フィールドバス非依存。幅12 mm で最大16チャネル。753 はプラガブルコネクタで 750 と互換。4ポート IO-Link マスタも掲載
Siemens SIMATIC ET 200eco PN機上ブロック型IP65/IP67/IP69K。動作温度 -40〜+60 °C。MultiFieldbus。安全モジュールは SIL3/PL e まで。S2 冗長。IO-Link モジュールあり
Rockwell Automation ArmorBlock 5000 I/O(5032)機上ブロック型最大 IP69K。IO-Link マスタブロックは Class A 4ポート+Class B 4ポート。出力は最大2 A。IODD の自動ダウンロード
Beckhoff EtherCAT Box機上ブロック型IP65/IP66/IP67、完全ポッティング。ステンレス版は IP69K。EtherCAT P(通信と電源を1本のケーブルで)。動作温度 -25〜+60 °C
三菱電機 CC-Link IE TSN 対応 IP67 リモートI/Oユニット機上ブロック型2022年の技報で6機種の開発を記載。IP67、最大負荷電流 4A/1点、CC-Link IE フィールドネットワークの通信モードにも対応。現行の型番と仕様は要確認
Keyence NQ-EP4LIO-Linkマスタ兼用EtherNet/IP、Modbus/TCP。IO-Link 4ポート(Class A)。IP65/IP67/IP69K。-40〜+70 °C。電源 V2 は4ポート合計4 A
Murrelektronik pure.IOマルチプロトコル(形態は要確認)PROFINET、EtherNet/IP、EtherCAT を単一プラットフォームで扱い、統合診断を備えると発表(Automate 2026 の展示)
Banner Engineering RSio Remote Safe I/O安全リモートI/OIP67。独立に構成できるハイブリッドポート6つ。ISD で各入力に安全機器を最大32台デイジーチェーン。Category 4 PLe、SIL3 まで。CIP Safety システム向け

公表仕様を読むときの注意

  • 数字の意味を確かめる。Banner RSio の「1ブロックあたり最大192台」は、ISD 対応の安全機器(非常停止など)をつなげる台数で、I/O 点数ではありません。
  • 発表の古さを確かめる。Turck の TBEN-S は、IP65/IP67/IP69K、マルチプロトコルの自動認識、内蔵 Web サーバでの平文の診断表示などをうたう製品ですが、出典は2015年3月の製品ニュースです。現行品の仕様は改めて確認が要ります。三菱電機の技報も2022年の記載です。
  • 安全とセキュリティの「対応」の範囲を確かめる。安全の SIL や PL は、どの構成・どのモジュールでの値かを確認します。セキュリティは次の章で触れるとおり、プロトコルの評価と製品の認証は別物です。
  • 省配線の数字は一般化しない。制御盤レス化の事例として、ifm は食品・飲料とエネルギー産業向けのプラントメーカー1社で、設置時間が約25%短縮し、1万ユーロ超のコスト削減と制御盤の不要化につながったと紹介しています。これは1社の事例で、ベンダー自身の発表です。自社の条件に当てはまるかは、自社の配線図で確かめるしかありません。

I/O設計の勘所:点数・予備・局の分割・電源

形態と通信が決まったら、I/O の中身を設計します。ここで手を抜くと、後から点数が足りない、電源が足りない、局の境目で保全の手順が複雑になる、といった問題が出ます。

点数の棚卸しと予備

まず既設の I/O 表を機械ごと、ユニットごとに棚卸しします。デジタル、アナログ、高速カウンタ、IO-Link、安全I/Oに分け、使用中・未使用の点と、図面と現物が合っていない点を洗い出します。古い設備では、図面にない追加配線が見つかるのが普通です。

予備点の比率は工場の標準として先に決め、局ごとに一定の空きを持たせます。何%にするかは工場の方針と盤のスペースで決まり、一律の正解はありません。

局の分割単位

局(リモートI/O の1ステーション)を何で区切るかは、保全性に直結します。

  • 機械単位:機械1台に1局。機械を止めて保全するときに、その局だけを考えればよく、責任範囲が明確です。
  • ユニット単位:大きな機械を、搬送部、加工部、検査部などのユニットに分けて局を置く方法です。機械の一部を交換・改造するときに影響範囲を小さくできます。
  • 場所単位:ケーブル長を最短にする観点で、物理的に近い I/O をまとめる方法です。配線は短くなりますが、複数の機械の I/O が1局に混ざると、1局の故障が複数の機械を止めます。

迷ったら機械単位を基本にし、大きな機械だけユニット単位に分けるのが、保全の手順を分かりやすく保つ方法です。

出力電流とセンサー電源

機上型のブロックでは、出力1点あたりの電流と、センサー電源のポートあたりの容量、ブロック全体の電源容量を確認します。公表値の例では、ArmorBlock 5000 は出力が最大2 A、センサー電源が1ポートあたり最大0.5 A、NQ-EP4L は電源 V2 が4ポート合計で4 A、三菱電機の IP67 リモートI/O(2022年の技報)は1点あたり最大4 A で、リレーを介さず直接駆動できる点をうたっています。ソレノイドバルブやランプの突入電流、同時に動く点の数を見込んで電源を設計します。

電源は、制御電源(ユニット本体)と負荷電源(出力・センサー)を分けられる製品もあり、非常停止で負荷電源だけを遮断する設計が取られることがあります。どの電源をどこで遮断するかは、安全回路の設計と一緒に決めます。盤の電源・熱・回路の設計は「制御盤 設計|タイ工場の回路・熱・FAT発注実務」で整理しています。

停止時間を短くする保全性:診断・活線交換・設定復元・冗長・予備品

リモートI/Oの価値は、機器費の差よりも、止まったときの復旧の速さで決まることが多いと考えています。後のモデル試算でも、効果の源泉は「I/O 起因の停止1回あたりの復旧時間の短縮」に置いています。

診断の粒度

診断で確かめるのは、異常を「局単位」でしか示さないのか、「モジュール単位」「チャネル単位」まで示すのか、そして断線・短絡・過負荷・電源喪失を区別できるのか、です。メーカーの公表では、Turck TBEN-S(2015年発表)は各出力チャネルを連続監視してイベントログに記録し、内蔵 Web サーバで平文表示するとしています。Banner RSio は、OSSD 信号と同じ配線で診断データを伝え、安全機器のチェーンのうち停止を引き起こした機器を特定できるとしています。Beckhoff の ED シリーズは、製品上の Data Matrix コードを読み取るアプリで診断を支援するとしています。

診断は PLC でエラーコードが取れるだけでは足りず、HMI に「どの機械の、どの局の、どのチャネルの、何の異常か」を保全員が読める言葉で出すところまでが設計の範囲です。

活線交換

運転中にモジュールを抜き差しできるかどうかは、復旧時間を左右します。Siemens は ET 200SP の multi-hot swapping、Rockwell は FLEX 5000 の RIUP(通電中の抜き差し)をうたっています。EtherCAT は、運転中にネットワークの区間を接続・切り離す Hot Connect の検出時間を15 μs 未満としています。活線交換に対応していても、交換中に止まる範囲(そのモジュールだけか、局全体か)は製品と設定で変わるので、FAT で実際に試します。

設定の自動復元

交換した新品のモジュールやセンサーに、設定を誰がどう入れるかも大切です。IO-Link では、デバイスごとに IODD(IO-Link Device Description)があり、交換時の自動パラメータ設定が可能だと PI が説明しています。Rockwell は ArmorBlock 5000 が IODD の自動ダウンロードに対応するとしています。夜勤の保全員が、パソコンと設定ツールなしでセンサーを交換できるかどうかは、RFP で要件として書いておくべき点です。

冗長

通信の冗長化は、ケーブル1本の断線でライン全体が止まるのを避ける手段です。公表値の例では、FLEX 5000 は DLR と PRP、ET 200eco PN は S2 冗長に対応し、EtherCAT はケーブル冗長の復旧を15 μs 未満としています。冗長には機器とケーブルの追加費用がかかるので、止まったときの損失が大きい局から適用を考えます。

予備品は契約で決める

タイ国内で、各メーカーのリモートI/Oの予備品在庫、納期、修理の対応がどうなっているかは、今回の調査で公開情報から確認できませんでした。三菱電機については、タイの販売会社 Mitsubishi Electric Factory Automation (Thailand) Co., Ltd. のサービス窓口の存在は確認できましたが、予備品の在庫や修理拠点の詳細はページに記載がありません。

だからこそ、予備品は「あるはず」ではなく契約で決めます。工場に置く予備の種類と数、メーカーや代理店の在庫を前提にする場合の納期、修理品の扱い、生産終了の事前通知を、RFP と保守契約に書きます。機種を工場で共通化すると、予備品の種類を減らせます。

安全I/Oと機能安全:安全回路もリモートI/Oに載せるか

非常停止、安全扉、ライトカーテンなどの安全信号は、従来は専用の安全リレーや安全PLCまで個別に配線する構成が多く見られました。現在は、通常の産業用 Ethernet の上に、安全のための通信プロトコルを「ブラックチャネル」方式で載せる構成が広く使われています。一般には、通信路そのものには安全の役割を持たせず、安全プロトコルを処理する送る側と受ける側の機器で通信の誤りを検出して安全を担保する、という考え方です。

各団体の公表では、次のとおりです。

  • CIP Safety(ODVA):IEC 61508 に基づき SIL 3 までのアプリケーションに対応し、ISO 13849 では PLd-Cat3(約 SIL2)にも言及しています。TÜV Rheinland が認証したブラックチャネルのプロトコルで、EtherNet/IP と DeviceNet の上で動作します。
  • FSoE(Safety over EtherCAT)(ETG):IEC 61784-3 で標準化され、SIL 3 までの安全アプリケーションに適合するとされています。
  • PROFIsafe(PI):PI の2025年実績の発表では、新規ノード280万、累計3,150万です。
  • IO-Link Safety:仕様 V1.1.4 を TÜV SÜD が認証したと、IO-Link Community が2025年8月11日に発表しました。開発フェーズを完了し、最初の認証製品は「まもなく」市場に出るとしています(予定)。IO-Link Community は、IO-Link Safety を PROFIsafe、CIP Safety、FSoE と互換としています。

製品の公表値の例では、FLEX 5000 の安全I/Oが SIL 3、PLe、Cat. 4、安全反応時間は最大10 ms、ET 200eco PN の安全モジュールが SIL3/PL e まで、Banner RSio が Category 4 PLe、SIL3 までです。

ここで注意したいのは、製品やプロトコルが SIL 3 対応をうたっていても、機械の安全機能がその水準を満たすかは、リスクアセスメント、安全機能の設計、検証と妥当性確認で決まる、という点です。リモートI/Oに安全信号を載せると配線は減りますが、通信の遅れを含めた応答時間、通信が途絶えたときの安全側の動作、アドレスの誤設定を防ぐ仕組みを、設計と試験で確かめる必要があります。安全 PLC と組み合わせた検証の進め方は「安全PLC導入|認証で終わらないRFP・妥当性確認」で扱っています。ここでの記述は規格や法令の解釈を示すものではなく、法的助言でもありません。個別の機械の適合判断は、専門家や認証機関に確認してください。

サイバーセキュリティ:IEC 62443 と CRA を最初から要件に入れる

リモートI/Oは通信機器でもあります。工場のネットワークにつながる以上、設定の書き換え、ファームウェアの改ざん、不正な機器の接続への備えを、後付けではなく最初の要件に入れます。

規格と認証の枠組み

ISA/IEC 62443 は、産業用制御システムのセキュリティの国際規格群です。システムのセキュリティ要件とセキュリティレベルを定める 62443-3-3、製品の安全な開発ライフサイクルを定める 62443-4-1、制御システムの部品(コンポーネント)の技術的要件を定める 62443-4-2 が、機器の調達では特に関係します。ISASecure の CSA 認証は、62443-4-2 と 4-1 に基づき、組込み機器やネットワーク機器などを対象に、Level 1〜Level 4 の4段階で認証する仕組みです。

プロトコルごとの取り組み(団体の公表)

  • CIP Security(ODVA):TCP の通信は TLS、UDP は DTLS で保護します。EtherNet/IP Confidentiality Profile、CIP User Authentication Profile、Resource-Constrained CIP Security Profile、Pull Model Profile の4つのプロファイルがあり、ユーザー認証には OpenID Connect を使います。ODVA は IEC 62443 と EU のサイバーレジリエンス法(CRA)への準拠の支援を掲げています。
  • PROFINET Security(PI):IEB Media によると、2026年1月時点で Security Class 1 は実運用、Class 2 と Class 3 は試験段階です。PI は2025年8月の発表で、仕様 V2.4 MU6 に Security Class 2 と 3 の包括的な定義を含めたとしています。
  • EtherCAT(ETG):ETG は、UL Solutions が EtherCAT のサイバーレジリエンスを評価し、IEC 62443-3-3 の100を超えるシステム要件に対応付けて、3つの典型的なシステム構成と脅威シナリオで、変更なしに Security Level 2 の要件を満たすと確認したと発表しました。これはプロトコルと典型的な構成の評価で、個別のリモートI/O製品の認証ではありません。

したがって RFP では、「対応プロトコルがセキュリティに対応している」ではなく、「提案する製品そのものが、どの規格のどの部のどのレベルに、どの機関の認証や評価を受けているか」を書いてもらいます。認証がない場合は、設定のパスワード保護、未使用ポートの無効化、ファームウェアの署名や更新手順など、製品として何ができるかを具体的に答えてもらいます。

EU 向けの機械・製品がある場合

EU のサイバーレジリエンス法(CRA)は2024年12月10日に発効し、アイルランド国家サイバーセキュリティセンターの説明では、2026年9月11日から、積極的に悪用された脆弱性と重大インシデントの報告義務が始まっています。早期警告は24時間以内、詳細の通知は早期警告から48時間以内(認知から計72時間)です。設計とライフサイクルの要件の全面適用は2027年12月の予定です。

CRA はタイの国内法ではありません。ただし、タイで製造した機械や製品を EU に輸出する場合、組み込むリモートI/Oの調達条件に影響する可能性があります。自社の製品が対象になるか、誰がどの義務を負うかは、法務の専門家に確認してください。この記事の記述は法的助言ではありません。

PLC 更新 リプレースと同時に進める場合

リモートI/Oの検討は、PLC の更新と同時に持ち上がることがよくあります。このとき最適解を大きく変えるのが、既設のフィールド配線をどこまで活かせるか、そして切替のための計画停止を何時間取れるか、です。

既設配線を活かす方法の例

Rockwell Automation の「1771-to-1756 I/O Swing-arm Conversion System」は、旧型の 1771 I/O モジュールのフィールド配線端子(スイングアーム)を、新しい 1756 I/O モジュールに合う端子へ変換する仕組みです。変換モジュールと専用ケーブルで構成され、既設のフィールド配線を活かして I/O を入れ替えるための仕組みです。メーカーの設置マニュアルは、作業の前に 1771 の配線図を入手すること、在庫と予備部品を確保すること、すべての電源を遮断してロックアウトすることを求めています。

これは一つのメーカーの例ですが、考え方は一般的です。既設の配線の状態が良く、図面と現物が合っていて、切替の停止時間が短く限られているなら、中央盤のまま配線を再利用するほうが合理的な場合があります。逆に、配線が劣化している、図面と現物が合っていない、機械の改造で配線をどのみち引き直す、という場合は、リモートI/Oへ移す好機になります。

3つの案を並べて比べる

PLC 更新時の I/O の置き方は、次の3つの案を並べると比べやすくなります。

  • 案A:中央盤の I/O のまま、配線を引き直す
  • 案A’:中央盤の I/O のまま、既設配線を端子変換で再利用する
  • 案B:機械ごとに盤内リモートI/O を置く

切替の手順、停止時間、旧システムへの切り戻しの方法は「PLC 更新・リプレース|タイ工場の停止リスク低減設計2026」で詳しく扱っています。次の章では、この3案を仮の数字で比べます。

費用のモデル試算(仮の数字)

ここで使う数字はすべて仮置きです。業界平均でも調査値でもメーカーの価格でもありません。結論が「既設配線を再利用できるか」と「I/O 起因の停止の頻度」で変わることを示すための試算です。実際の数字は、現地調査と見積で置き換えてください。

モデルの前提

既設の組立ライン1本(機械4台、I/O 合計480点)で PLC を更新します。比べるのは「I/O をどこに置くか」の3案だけです。通貨はタイバーツ(THB)で、停止1時間あたりの損失は全案共通で25,000 THB と置きます。

項目案A 中央盤I/O・配線引き直し案A’ 中央盤I/O・既設配線を端子変換で再利用案B 機械ごとに盤内リモートI/O(4局)
I/O機器費600,000 THB600,000 THB780,000 THB
配線材・施工費900,000 THB400,000 THB500,000 THB
切替のための計画停止32時間 → 800,000 THB20時間 → 500,000 THB16時間 → 400,000 THB
初期合計(一時費用)2,300,000 THB1,500,000 THB1,680,000 THB

計画停止の金額は、停止時間×25,000 THB で計算しています(32×25,000=800,000、20×25,000=500,000、16×25,000=400,000)。

初期合計の計算は次のとおりです。

  • 案A:600,000+900,000+800,000=2,300,000 THB
  • 案A’:600,000+400,000+500,000=1,500,000 THB
  • 案B:780,000+500,000+400,000=1,680,000 THB

年間の差(案Bのみ)

案A と案A’ は、運用中の停止の状況が現状と同じとみなします。案B だけに、次の差が出ると置きます。

項目値計算
I/O 起因の停止の回数年12回仮置き
1回あたりの復旧時間平均3時間 → 1.5時間仮置き。診断で局・チャネルを特定できることによる短縮
停止損失の削減450,000 THB/年12×1.5×25,000
予備モジュールの持ち増し費用30,000 THB/年仮置き
年間純効果420,000 THB/年450,000−30,000

停止1時間あたり25,000 THB という単価は、初期費用の計画停止と年間効果の突発停止の両方に使っていますが、前者は切替工事のための計画停止、後者は運用中の I/O 起因の突発停止で、対象の停止時間が別なので二重計上にはなりません。

試算の読み方

  • 案A と案B の比較:案B は初期費用で 2,300,000−1,680,000=620,000 THB 安く、さらに年420,000 THB の効果があります。この前提では案B が優位です。
  • 案A’ と案B の比較:案B は初期費用で 1,680,000−1,500,000=180,000 THB 高くなります。年420,000 THB の効果で割ると、180,000÷420,000≈0.43年(約5か月)で差を回収します。
  • 感度(案A’ と案B の比較で、I/O 起因の停止が年4回の場合):停止損失の削減は 4×1.5×25,000=150,000 THB/年、年間純効果は 150,000−30,000=120,000 THB/年です。差の回収には 180,000÷120,000=1.5年かかります。
リモートI/O 選定|タイ工場の盤内・機上比較とRFP・FAT/SAT - figure 3

既設配線を再利用できる案A’ が成り立つなら、初期費用だけを見ると案A’ が最も安くなります。それでも案B を選ぶかどうかは、I/O 起因の停止がどのくらい起きているか、そして診断でどれだけ復旧が速くなるかで決まります。停止の記録がない工場では、まず保全の記録から「I/O 起因の停止の回数と、原因の特定にかかった時間」を拾い出すことが、試算の出発点になります。

この試算に入れていないもの

過大評価や二重計上を避けるため、次の項目は試算に入れていません。

  • 省スペース化による盤のサイズの縮小
  • 配線ミスの減少
  • 将来の増設のしやすさ
  • 計画停止以外の機会損失(立ち上げ後の不具合による停止など)
  • BOI などの税制上の特典

これらを効果に入れたい場合は、それぞれ根拠となる自社のデータを用意し、別の行として足してください。

リモートI/O 選定の RFP に書く項目

ここまでの論点を、RFP(提案依頼書)の12項目に落とします。提案を比較できるよう、各社に同じ様式で回答してもらいます。

No.項目書く内容の例
1対象範囲対象のライン、機械、I/O 点数表(種類別、使用中・未使用・予備)。対象外の機械も明記する
2上位PLCと通信工場標準の PLC と通信プロトコル、使用する設定ツールとそのバージョン。マルチプロトコル製品を提案する場合は、使うプロトコルを1つに指定する
3設置形態と環境条件局ごとの盤内・機上の区分、周囲温度、湿度、粉塵、切削油、洗浄の条件(薬剤・水圧・頻度)、振動。求める保護等級と、その根拠となる試験条件の確認方法
4I/O 構成と予備局の分割単位(機械・ユニット)、局ごとの点数と予備の比率、アナログ・高速カウンタ・IO-Link・安全I/O の点数
5電源制御電源と負荷電源の分離、出力1点あたりの電流、センサー電源の容量、突入電流の考え方、非常停止時に遮断する電源
6診断局・モジュール・チャネルのどの粒度で、どの異常(断線・短絡・過負荷・電源喪失・通信断)を区別して PLC と HMI に出すか。表示の言語
7交換と設定の復元活線交換の可否と止まる範囲、交換後の設定の自動復元の方法、パソコンなしで交換できるか
8冗長と通信の構成リング・冗長の方式、ネットワークのトポロジ、スイッチの仕様、他システムとの分離
9安全I/O安全プロトコル、対象の安全機能、要求する SIL・PL と、その根拠となる製品の認証範囲、応答時間、通信途絶時の動作、妥当性確認の分担
10セキュリティ製品の IEC 62443 の認証・評価の有無と範囲、パスワード保護、未使用ポートの無効化、ファームウェア更新の手順、EU 向け製品の場合の CRA への対応方針
11移行と切替既設配線の再利用の範囲、切替の手順と計画停止の時間、切り戻しの方法、事前の配線調査の範囲
12予備品・保守・教育工場に置く予備品の種類と数、在庫と納期の前提、修理と生産終了の事前通知、タイ語・英語・日本語の教育資料と画面、保守の応答時間

複数社の提案を比べるときは、機器費の合計だけでなく、6〜7番(診断と交換)の回答の具体性を重く見ます。「対応可能」とだけ書かれた回答は、FAT で確かめる項目に回します。

FAT/SAT で確認すること:わざと壊す試験

リモートI/Oの受入試験で最も大切なのは、正常に動くことの確認よりも、「壊れたときに診断が正しく出て、決めた時間で復旧できるか」の確認です。そのために、試験の中で意図的に故障を作ります。

わざと壊す試験のリスト

区分試験やり方合格の考え方
FAT全点の入出力確認I/O 表のすべての点を、現物の操作または模擬信号で ON/OFF し、PLC と HMI の表示を照合するすべての点が I/O 表どおりに動き、名称が一致する
FATセンサーケーブルの抜去入力のケーブルを1本ずつ抜く局・チャネル・異常の種類が HMI に出る
FAT出力の短絡・過負荷試験用の負荷で出力を短絡・過負荷にする該当チャネルの異常が出て、他のチャネルに影響しない
FATモジュールの抜去と交換運転中にモジュールを抜き、予備品と交換する止まる範囲が仕様どおりで、交換後に設定が復元され、復旧時間が契約の範囲内
FAT通信ケーブルの抜去局間の通信ケーブルを抜く。冗長構成なら片側を抜く冗長なら運転が継続し、警報が出る。非冗長なら決めた安全側の状態になり、局が特定される
FAT電源断と瞬停制御電源・負荷電源を個別に落とす。瞬時の電圧低下を模擬する電源ごとに決めた動作になり、復電後の再起動の手順が仕様どおり
FAT安全I/O の応答非常停止・安全扉・ライトカーテンを動作させ、停止までの時間を測る。通信を断った場合の動作も確認する決めた応答時間内に安全側に停止し、停止要因の機器が特定できる
FAT設定の誤り局のアドレスや名称をわざと誤設定する誤った局が運転に入らない、または警報が出る
SATノイズ環境での運転現地のインバータ、溶接機、モータを動かした状態で連続運転する通信エラーや誤動作が契約で決めた範囲内
SAT局の追加予備の局を1つ追加して認識させる決めた手順と時間で追加でき、既存の局が止まらない
SAT診断表示の読みやすさタイ人の保全員が、手順書と HMI だけで、わざと作った異常の場所を特定する決めた時間内に正しい局・チャネルを特定できる
SAT復旧の記録一連の試験の異常と復旧の時刻が記録に残るかを確認する時刻・局・チャネル・異常の種類が欠けなく残る

FAT と SAT の分担

FAT(工場出荷前試験)は、SIer や盤メーカーの工場で、機能と診断のロジックを確かめる場です。SAT(現地受入試験)は、実際の機械、実際の配線、実際のノイズ環境、実際の保全員で確かめる場です。同じ試験でも、FAT で合格したから SAT で省略してよいとは限りません。特に、ノイズ、長いケーブル、洗浄後の動作、保全員による異常箇所の特定は、現地でしか確かめられません。

SAT の「保全員が異常の場所を特定する」試験は、試験の手順を知らない保全員に担当してもらうのが要点です。SIer の技術者が操作すると、表示が分かりにくくても経験で補ってしまい、試験の意味がなくなります。盤の FAT の進め方は「タイ 制御盤 製作|仕様・FAT・引渡しの発注実務ガイド」も参考になります。

タイ・ASEAN 固有の論点

暑さ、湿度、粉塵

タイの工場では、空調のない建屋で盤や機上の機器を使う場面があります。製品の動作温度の公表値(例:ET 200eco PN は -40〜+60 °C、EtherCAT Box は -25〜+60 °C、FLEX 5000 と NQ-EP4L は -40〜+70 °C)と、機械の取付位置の実際の温度を比べます。モータやヒーターの近く、直射日光の当たる場所、屋根の近くは、建屋の気温より高くなりがちです。測ってから決めるのが確実です。湿度の高い環境や腐食性のガスがある場所では、コンフォーマルコーティング(例:FLEX 5000 の XT 版)の有無も選定の材料になります。

洗浄

食品や飲料の工場では、洗浄水や薬剤がかかる場所に機器を置くことがあります。IP69K をうたう製品や、ステンレスのハウジングの製品(例:Beckhoff EtherCAT Box の EQ シリーズ)が候補になりますが、保護等級の記号だけで判断せず、実際の洗浄の条件をメーカーに示して適合を確認します。コネクタの未使用ポートの保護キャップの付け忘れも、洗浄の多い現場では故障の原因になりえます。

停電と瞬停

停電や瞬時の電圧低下のときに各局がどう振る舞い、復電後にどう再起動するかは、FAT の電源断と瞬停の試験で必ず確かめます。局ごとに再起動の順番が揃わないと、復電直後に一部の局だけが通信できない状態が起きえます。

保全員の多言語

保全員がタイ人中心の工場では、HMI の診断表示、異常時の手順書、ラベルをタイ語でも用意します。日本語や英語だけでは、夜勤の保全員が局やチャネルを特定できず、診断の価値が半減します。

予備品と調達のリードタイム

輸入品のモジュールは、故障してから発注すると届くまでラインが止まり続けるおそれがあります。前章のとおり、重要な局の予備は工場に置き、在庫と納期の前提は保守契約に書きます。

BOI 特典の対象の確認

前述の BOI 告示 No. 4/2569 では、Tilleke & Gibbins の解説によると、機械の総額の30%以上がタイ国内の自動化機器の製造産業を支援するものであれば、法人税の免除が100%に拡大し、最低投資額は100万バーツ(土地と運転資金は含まない。機械・設備・ソフトウェア・IT システムなどを含む)、申請期限は2027年末とされています。対象は一般自動車製造と PHEV/HEV 製造の区分なので、自動車部品、電子部品、食品、樹脂成形の工場は、自社が対象になるかを個別に確認する必要があります。免除額の上限などの条件は、告示の原文で確認してください。ここでの記述は税務・法務の助言ではありません。

よくある質問

リモートI/Oと分散I/Oの違いは?

実務では同じ意味で使われます。どちらも、I/O ユニットを機械の近くに置き、通信で PLC とつなぐ構成を指します。選定のときは呼び方よりも、盤内か機上か、どの通信で PLC とつなぐのかを確認します。

IP67のリモートI/Oは盤内I/Oより高い?

機器単体の価格は一般に公開されておらず、代理店の見積で決まるため、一概には言えません。比べるべきなのは機器費だけでなく、盤の有無、配線材と施工、切替の停止時間、運用中の復旧時間を含めた合計です。この記事のモデル試算(仮置き)でも、機器費が高い案が、配線費と停止時間を含めると初期費用で安くなるケースを示しました。

PLC更新時にリモートI/Oへ切り替えるべき?

既設配線をどこまで再利用できるかと、I/O 起因の停止の頻度で変わります。端子変換などで配線を再利用できるなら、中央盤のまま更新するほうが初期費用は安くなりえます。配線の劣化や図面との不一致があり、I/O 起因の停止が多いなら、リモートI/Oへ移す好機です。まず保全の記録と配線の現状を調べます。

IO-Linkマスタとリモートの違いは?

リモートI/Oは、センサーやバルブの ON/OFF やアナログ値を、通信で PLC に伝える機器です。IO-Link マスタは、IO-Link 対応のセンサーやアクチュエータと1対1で通信し、設定値や診断情報もやり取りする機器です。IO-Link はフィールドバスではなく、上位の通信には依存しません。IO-Link マスタ機能を内蔵したリモートI/O(例:ArmorBlock 5000 の IO-Link マスタブロック、ET 200eco PN の IO-Link モジュール、NQ-EP4L)もあり、両者を一つの機器で兼ねる構成が取れます。

制御盤設計はリモートI/Oでどう変わる?

中央盤の I/O ユニットと端子台、機械までの多芯ケーブルが減り、代わりに機械ごとの小型盤、または機上のブロック、通信ケーブル、電源の分配の設計が加わります。盤の数や大きさ、熱の設計、電源の系統、非常停止で遮断する電源の範囲が変わるので、制御盤 設計の段階からリモートI/Oの局の配置を決めておく必要があります。

安全回路もリモートI/Oでよい?

CIP Safety、FSoE、PROFIsafe などの安全プロトコルと、安全I/Oに対応したリモートI/O、安全 PLC を組み合わせれば、安全信号を同じ通信に載せる構成が取れます。ただし、製品が SIL や PL の値をうたっていても、機械の安全機能がその水準を満たすかは、リスクアセスメント、設計、応答時間を含む検証と妥当性確認で決まります。個別の判断は専門家や認証機関に確認してください。

まとめ

リモートI/O 選定は、カタログの点数や幅、保護等級を比べることから始めると、選んだ後で「診断が読めない」「交換すると設定が消える」「安全回路だけ別配線のまま残る」という結果になりがちです。先に、上位 PLC と工場標準の通信を固定する。次に、盤を置けるか、粉塵・洗浄・温度がどうかという環境から、盤内スライス型、機上 IP67 ブロック型、IO-Link マスタ兼用、安全リモートI/O の形態を決める。そのうえで、点数と予備、局の分割、電源を設計し、診断の粒度、活線交換、設定の自動復元、冗長、予備品を要件にする。安全とサイバーセキュリティは最初から同じ設計に入れる。この順番で決めると、何を買い、何を自分たちで決めるべきかがはっきりします。

PLC の更新と同時に進める場合、最適解は既設配線の再利用の可否と、I/O 起因の停止の頻度で変わります。モデル試算(仮置き)では、配線を引き直す案と比べればリモートI/Oの案が初期費用でも有利になる一方、既設配線を再利用できる案と比べると、停止が年12回なら約5か月、年4回なら1.5年で差を回収する、という違いが出ました。だからこそ、受入試験では、ケーブルを抜き、モジュールを抜き、電源を落とし、タイ人の保全員が自分で異常の場所を特定できるかを、量産に近い条件で確かめます。

TOMAS TECH では、タイの工場の設備と保全体制に合わせて、PLC 更新やライン改造の中でのリモートI/Oの検討をお手伝いしています。製品や方式が決まっていない段階、たとえば既設ラインの I/O 点数を棚卸しする段階や、盤内と機上の方式を比べる段階でもご相談いただけます。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。

参考情報