安全レーザースキャナの選定で最初に決めるべきことは、機器の最大検出距離ではありません。誰が、どこから、どの運転状態で危険区域へ近づき、検出後に設備が何秒で安全な状態になるかです。床面に沿う二次元の保護フィールドを柔軟に設定できるスキャナは、パレット搬送口、ロボットセルの前面、設備内の人の残留確認などに役立ちます。一方、棚や柱で遮られる場所、検出面の上下から入り込める場所、飛散物がある場所は、スキャナ一台では守れません。本稿はタイの工場で固定設備を導入・改造する担当者に向けて、用途整理、距離計算、機種比較、見積依頼、FAT・SATまでを一つの判断手順にまとめます。
安全レーザースキャナを選ぶ前に、保護機能を定義する
「検出したい対象」ではなく「防ぎたい危険」から始める
設備の前に人が立つ、荷物が通る、台車が横切るという光景だけでは安全機能は決まりません。危険源は回転軸か、ロボットの動作か、昇降機構か。人が保護フィールドに入ったとき、危険な動きを停止するのか、起動を禁止するのか。警告だけでよい区間はどこか。まず運転、段取り替え、清掃、詰まり除去、保全、復旧の各状態で、作業者の動線と危険な動きを記録します。パレットの搬入に合わせてフィールドを変える設備では、どの信号を根拠に切り替え、信号が失われたときどちらのフィールドへ移るかまで仕様にします。
リスクアセスメントの結果から、必要な安全機能と要求性能を決めるのが順序です。スキャナ単体がType 3、PL d相当などの仕様を持っていても、外部機器監視、出力、制御回路、接触器、駆動装置まで含む安全機能全体の妥当性は別に確認しなければなりません。既存の安全制御側の検証は安全PLCの検証記事で扱っています。本稿ではその前段となるフィールドの成立性と、機種を購入する際に必要な条件を中心にします。
固定設備に合う場面と、別の保護手段が要る場面
固定されたコンベヤ開口部やロボットセル前面では、壁と柵で囲ったうえで開放面を水平走査する構成が候補になります。人が危険点へ到達する前に必ず検出面を通ること、検出時に設備が十分早く止まること、停止後に人が内部へ残った状態で再起動しないことが前提です。スキャナは「空間のどこでも見る」センサではなく、決められた高さの走査面を測る機器です。高いところをまたぐ、下をくぐる、箱や支柱の背後へ隠れる動線があれば、柵、追加スキャナ、別方式の保護装置を組み合わせます。
光幕は出入口を横切る面の保護に向き、スキャナは床面に近い領域や不規則な形状の区域監視に向きます。ただし、どちらが常に安い・安全という比較はできません。開口部の寸法、荷物の流れ、必要な検出能力、停止時間、死角、清掃条件で構成が変わります。安全ライトカーテンの選定記事と同じ危険箇所を題材に、保護面の向きと物理柵の範囲を比較してから購入方式を決めると、後戻りを減らせます。
保護フィールドと警告フィールドを取り違えない
保護フィールドは侵入を検出したときに安全出力をオフにし、危険な動きを止めるための領域です。警告フィールドは予告、減速要求、表示などの運用に使う領域です。SICKの取扱説明書は警告フィールドを人の保護に使用しないよう明記しています。したがって「警告領域が遠くまで届くから停止距離を満たす」という選び方は誤りです。見積比較表では、保護フィールドの距離と警告フィールドの距離を別列にしてください。
例えばオムロンOS32Cのグローバル仕様ページでは、標準型と末尾「-4M」型で保護距離が異なり、選択する検出能力によっても届く距離が変わります。同ページの標準型は最小検出物体30 mmなら保護距離1.75 m、40 mmなら2.5 m、50/70 mmなら3.0 mで、警告領域は10.0 mです。一方「-4M」型は70 mm設定で保護距離4.0 m、警告領域15.0 mです。これは一製品系列の例で、地域版や型番の違うカタログ値を混ぜて比較してはいけません。必要な検出能力を先に決め、その設定での保護到達距離を照合します。
警告を先に出して設備を減速し、保護フィールド侵入で停止させる設計もあります。PilzはPSENscanの固定設備例でその動作を示しています。ただし減速が失敗しても必要な安全距離を満たすか、減速状態を安全に監視するかは個別の設計課題です。「警告があるから停止を遅らせてよい」と解釈せず、保護機能の前提を文書化してください。

停止時間と安全距離は現場の実測で閉じる
カタログの応答時間だけで距離は確定しない
固定設備の保護フィールドは、人が危険点に届く前に危険な動きが終わる寸法でなければなりません。ISO 13855:2024は、人の接近に対する保護装置の位置と検出区域の寸法を扱います。一般に検討の出発点は、接近速度、スキャナの応答、制御回路と駆動系の停止時間、侵入量、計測誤差などの合算です。KEYENCEの技術資料は水平面への接近の例として S = K × T + C + A を示し、Tをスキャナと機械の総応答時間として説明しています。ただし式の係数と適用条件は設置形態、検出面の高さ、検出能力、適用規格版に依存します。記事に載った例の数値をそのままタイ工場へ転用しないでください。
見積前に最低限測るのは、検出面から危険点までの距離、作業者が近づく方向、走査面の床からの高さ、現実の最長停止時間です。停止時間は非常停止ボタンを押したときの感覚ではなく、該当安全入力から危険な動きが終わるまでを対象設備で測ります。速度、負荷、温度、摩耗、空圧・油圧状態によって最長値が変わり得ます。オムロンの安全機器資料も、実機で停止時間を測定し、変化がないか定期的に確認するよう求めています。工場側は測定条件と波形または記録を保存し、改造後に再測定できる状態にします。
「最大距離」と「使える保護フィールド」は異なる
最大保護距離のカタログ値は、必要な検出能力、反射率、追加距離、測定誤差を差し引く前の選定入口です。領域の最も遠い角まで余裕があるか、隅の壁に未保護の細長い通路を残さないかを平面図で確認します。KEYENCEは未保護の隙間が最小検出物体より大きければ追加対策が必要と説明しています。設備前面の中央だけを検出できても、横の壁沿いやスキャナ直近から侵入できるなら安全機能は成立しません。候補機を選んだ後、メーカーの設定ツールで描いたフィールド図を現場寸法の図面に重ね、床に境界を明示し、実際の検出試験で照合します。
走査面の高さも固定値ではありません。低すぎれば台車や荷物の角、床の凹凸、堆積物で不要停止が増え、高すぎれば下をくぐれる可能性があります。検出能力を粗くすれば到達距離が伸びる製品があっても、その設定で人体の該当部位を確実に検出できるかが先です。コンベヤ下や架台の隙間はスキャナの図面上で塗られていても、現物の高さ関係で未検出になる場合があります。走査面の高さ、対象人体、侵入経路をセットで検証してください。
死角、遮蔽物、再起動を設計に入れる
スキャナの光は柱、パレット、箱、設備フレームを透過しません。SICKの取扱説明書は、監視領域内の物体の背後を監視できないと明記しています。固定設備ではパレットが置かれた状態、搬送中、空の状態を別々に図面化し、どの状態でも人が危険区域へ取り残されないか確認します。床の防護ラインの背後に人が立てる場合、保護フィールドが一度クリアになっても自動で再起動してはいけない構成があります。再起動インターロック、リセット位置、内部から押せないこと、全危険区域の視認性を併せて設計します。
「スキャナを二台置けば死角はゼロ」とも決めつけられません。二つの検出面に段差がある、両機の間に柱がある、起動時の有効フィールドが違う、といった組合せの隙間があり得ます。複数台案では各機の有効範囲だけでなく、重なり、配線故障時の状態、リセット動作、保守時の単体停止まで検収項目にします。スキャナが見ている場所と、人が実際に入り込める場所を現場で照合するのが重要です。
飛散・熱・挟み込みをスキャナだけに任せない
レーザースキャナは侵入検出を担う装置です。回転工具の破片、溶融物、液体、熱、落下物の飛散は止められません。ISO 13855の適用範囲も放出物や機械部品の破損などによる危険を対象外としています。そのため、飛散がある設備では物理柵や覆いの仕様を先に維持します。また、検出から停止までの間に人が挟み込まれる配置なら、保護フィールドの線を引くだけでは不十分です。危険源そのもののガード、停止カテゴリ、機械側の設計を見直してください。
フィールド切替は「どの状態でも安全」を証明する
搬入用の台車が入るときだけ一部の領域を変えたい、装置のモードで監視区域を変えたいという要望はよくあります。フィールドセットを複数登録できる機種なら実装の自由度はありますが、切替入力と実際の機械状態がずれた瞬間が危険です。どの信号がどのセットを選び、通信断、断線、非常停止、起動直後、モード変更中にどのセットが有効になるかを、シーケンス表で示す必要があります。SICKの取扱説明書は監視ケースを運転状態や速度に応じて切り替える構成を説明し、切替時の時間条件も個別に扱っています。
固定設備で搬送物が保護フィールドを一時的に遮るなら、単に「荷物が来たらフィールドを消す」仕様は避けてください。荷物の位置と寸法を検出できる追加機器、監視すべき残余領域、安全制御側の条件が必要です。設定画面上で便利に形状を描けても、搬送物の横を人が同時に通れるなら危険は残ります。FATでは模擬信号だけでなく、想定外の信号順序や切替途中に人が入る試験を計画します。SATでは現物のパレット形状、置き位置、反射面で確認します。

固定設備とAGV・AMRでは要求を分ける
安全レーザースキャナは固定設備だけでなく、AGVやAMRにも使われます。PilzはPSENscanを固定・移動の両用途に挙げ、SICKの車両向け説明書は保護フィールド長を停止距離と各種余裕から決める方法を示しています。しかし固定設備のRFPをそのまま車両へ流用すると、速度ごとのフィールド、積載と床条件による制動距離、旋回時の側方、車体直近の潜り込み、交差点での死角、進行方向の切替を漏らします。走行速度が変わるなら、各速度の停止距離と切替タイミングを検証します。
逆に、車両向けの「長距離警告」「多段階減速」を固定機械の安全機能と混同してもいけません。固定設備ではその危険点へ人が到達する時間が基準です。設計対象が固定設備か移動体かをRFPの最初に明記し、両方がある工場では安全機能一覧、図面、試験成績を分けて管理します。同じ型番を使えても必要な配置と検証は同じではありません。
タイ工場の購買で比較する仕様項目
設備条件から必要値を決める
メーカーの比較表は「保護距離が長い順」に並べず、次の順番で埋めます。第一に安全機能の対象と要求性能、第二に最長停止時間と必要な検出距離、第三に検出能力と走査面高さ、第四に設置角度と遮蔽物、第五にフィールド切替と安全出力、最後に環境と保守です。タイの工場では粉じん、結露、高温、床清掃の水、フォークリフトの接触、電源変動などを現場で確認し、製品の使用条件と照合します。ある製品のIP65表示だけで、すべての洗浄工程や結露条件に適合すると判断しないでください。
オムロンOS32Cの仕様ページには、検出能力、保護距離、警告距離、応答時間、切替時間、OSSD、動作温度、湿度、IP等級が一緒に載っています。このように同一型番の同一資料から値を抜き、未記載項目はメーカーへ確認します。仕様表の「応答時間80 msから」という最小値だけを採用せず、使用するスキャン設定での最大応答時間を確認します。制御装置が受ける安全出力の形式、診断情報の取り方、設定ソフトの対応OS、予備品や交換後の設定復元も購買条件に含めます。
価格比較は本体以外を含める
見積の総額には、本体、取付金具、保護カバー、ケーブル、安全制御機器、接触器・駆動装置側の改造、設計、設定、停止時間測定、FAT、SAT、教育、保守部品を含めます。単体価格が安くても、死角対策で二台必要になったり、配線距離が増えたりすれば総額は逆転します。改造工事で止められる時間も価格と並べて評価します。現地で交換品を何日で確保できるか、設定ファイルを工場が保管できるかも稼働継続性に関係します。
| 比較項目 | RFPで求める回答 | 採否判断の要点 |
|---|---|---|
| 安全機能 | 対象危険源、停止・起動禁止の範囲、要求性能 | 単体認証だけで回路全体を評価しない |
| 検出 | 最小検出物体、設定時の保護距離、走査角度 | 実際の最遠点と余裕を確認 |
| 時間 | 設定時の応答時間、切替時間、実機停止時間 | 最長値と測定条件を採用 |
| フィールド | 保護・警告・切替セットの数と図面 | 切替中の状態と死角を試験 |
| 接続 | OSSD、EDM、リセット、安全制御との互換 | 故障時の安全状態を確認 |
| 環境 | 温湿度、防塵防水、清掃、反射、振動 | タイ工場の実条件と比較 |
| 引渡し | 設定バックアップ、試験成績、教育、保守 | 再現・復旧できること |
見積依頼書(RFP)に添える現場資料
メーカーや施工会社へ「スキャナを一台設置したい」とだけ伝えると、設計者によって前提がばらつきます。RFPには、設備平面図と断面図、危険源と運転モード、作業者・台車・荷物の動線、最大速度と負荷、停止時間の測定結果、既存柵と開口部、遮蔽物の位置、洗浄・粉じん・温湿度条件、既存安全回路、希望する検収日を添えます。図面には「人が入れるがスキャナから見えない区域」と「人が取り残される可能性」を色分けして示すと、提案の差が見えます。
回答書には製品名だけでなく、各運転モードのフィールド図、距離計算の入力値と根拠、信号表、故障時の状態、再起動手順、未保護区域への別対策、FAT・SATの試験方法を求めます。代替案を認める場合も、同じ安全機能が成立する証拠と除外範囲を示してもらいます。タイ語の現場教育資料と英語または日本語の設計・保全資料が必要なら、納品物として指定します。設備メーカー、工場のEHS、保全、生産の誰がどの試験に立ち会うかも決めておきます。
提案比較で同じ図面と条件を使う
三社から見積を取るなら、各社に別々の口頭説明をするより、同じ改訂番号の平面図と停止時間記録を渡します。回答書の冒頭に「この図面のこの危険源を、どの安全機能で扱うか」を記載させると、保護範囲の抜けを見つけやすくなります。候補Aがスキャナ一台、候補Bが二台と柵の追加であっても、総額だけを横並びにしないことが大切です。最遠点、死角、再起動、保守時の扱いが異なるなら、同じ安全機能を満たしているとは限りません。保護フィールドを図面に重ねたPDF、条件表、除外事項の三点を共通の提出物にします。
現場側も「止まりすぎると困る」という要望を数値や場面に分解します。通常の搬送物の幅と高さ、停止位置のばらつき、台車の通行頻度、清掃時間、日ごとの段取り替え回数を示すと、提案者は不要停止の原因を設計段階で検討できます。ただし稼働率のために保護フィールドを先に狭める判断はできません。必要な安全機能を満たした案の中で、取付位置、遮蔽物、設備レイアウト、警告運用を比較します。
三つの現場例で選定の分岐を考える
第一の例は、ロボットセルの片側に開いた保全入口です。入口を横切る侵入だけを止めればよいのか、停止後に人がセル内に残っていることも検出する必要があるのかで装置構成が変わります。床面スキャンで内部残留を確認する案なら、ロボット台座の背後、搬送治具の下、開いた扉の陰を図面上で塗り分けます。スキャナが見えない範囲を柵や別の監視手段で補い、リセットスイッチを内部から押せない場所に置きます。入口だけの保護を選ぶ場合も、閉じ込め・予期せぬ再起動を別途評価します。
第二の例は、フォークリフトが通るパレット搬送口です。人と荷物が同じ開口を通るため、単純な常時監視では不要停止が多く、荷物通過時にフィールドを変えたくなります。ここではパレットの実寸、積み方、停止位置、側方隙間、乗務員の降車行動を記録し、どの状態でも人が荷物の脇を通れないかを確認します。パレット検出信号の故障時に安全側へ移ること、切替の途中に空白時間を作らないこと、荷物の背後に人が残らないことを提案書へ要求します。スキャナのみで条件を満たせないなら、柵や別の検出器との組合せを比較します。
第三の例は、設備前面の作業者が頻繁に出入りする包装ラインです。警告フィールドで表示や通常運転の減速を行うと、作業者へ早めに状態を知らせられる場合があります。それでも保護フィールドで危険な動きを止める境界は別に設計します。コンベヤの作業台、作業者が持つ箱、床に一時置きする材料が走査を遮らないかを観察します。保護区域を広げるだけで頻繁に停止するなら、取付高さと動線、作業標準を一緒に見直します。製品の機能数より、現場の運用で守れる設計かどうかが採否を左右します。
誰が設定変更を承認するかまで決める
導入時の設定が正しくても、設備改造やレイアウト変更のたびに現場が独自にフィールドを削れば安全距離は維持できません。設定ファイル、距離計算書、停止時間、フィールド境界図を同じ改訂番号で保管し、変更申請には「なぜ変更するか」「新しい侵入経路はあるか」「再測定・再試験が必要か」を記録します。日常点検でレンズの汚れや固定の緩みを確認し、異常停止の履歴を原因別に集計します。清掃後に誤検出が増えたからといって安全機能を無効化するのではなく、水滴、反射、取付位置、保護カバー、清掃手順を調べます。
タイ工場で本社と現地チームが共同運用する場合、設計上の承認者、現地で試験する担当者、設定バックアップの保管先を明確にします。翻訳された操作手順だけでは、異常時にどの版のフィールドが有効なのか分からないことがあります。現場掲示の境界図、設備上の表示、ソフト内のフィールド名を対応させ、英語・タイ語・日本語など必要な言語で同じ意味になるよう確認します。ベンダーに任せる範囲と工場が自ら保守する範囲を、引渡し前に契約と教育計画へ反映します。
量産開始後は、停止が発生した場所と時刻だけでなく、選択されていた運転モード、フィールドセット、搬送物の状態も記録すると原因を追いやすくなります。不要停止の調査と安全機能の無効化は別の話です。原因が反射なのか汚れなのか、人の侵入なのかを判別し、変更が必要なら距離計算と試験成績を更新します。予備機へ交換した場合も保存済み設定を読み込むだけで完了とせず、取付位置と角度、実際のフィールド境界、停止・再起動を再確認します。担当交代後も同じ試験を再現できる資料が、長期の安全と稼働を支えます。
発注前レビューで答えをそろえる
発注判定の会議では、EHS担当、設備設計者、保全、現場責任者が同じ資料を見て、五つの問いに答えられるようにします。第一に、停止させるべき危険な動きは何か。第二に、人がその危険へ至るすべての経路が保護されているか。第三に、最も停止が遅い条件でも間に合うか。第四に、フィールドの切替中と再起動時に人が取り残されないか。第五に、交換や設定変更の後に同じ安全性を再確認できるかです。どれか一つでも図面と試験計画で説明できなければ、見積価格の比較より先に設計条件を埋めます。
見落としやすいのは「通常運転では安全」という説明が、段取り替えや清掃には適用されないことです。例えば設備内のパレットを抜いた後に遮蔽物がなくなり、逆に人の立ち位置が広がる場合があります。保守員が柵の中に入って部品交換をするとき、水平スキャンだけで安全を保とうとするのも無理があります。保全モードの停止、隔離、ロックアウト、再起動手順を機械の運用全体で確認します。スキャナを追加したことによって既存の柵や作業手順を省けるとは限りません。
また、検出距離の余裕と不要停止の少なさは同時に評価します。余裕を削って停止を減らすのではなく、どの物体が何時にどのフィールドへ入ったかを診断し、配置や動線に原因がないか確認します。設備改造の初期段階で試験用のフィールドを現場に重ね、作業員と保全員に通路や清掃作業を実演してもらえば、図面だけでは分からない侵入経路や一時置き場所を発見しやすくなります。観察結果は後から誰でも確認できるよう、写真と図面の改訂履歴へ残してください。
FATとSATで「図面通り」を現物で証明する
FAT(工場受入試験)では、安全機能一覧から試験項目を作ります。保護フィールド侵入でOSSDが安全状態へ移り、危険な動きが停止すること。警告だけでは安全停止を代替しないこと。各モードで正しいフィールドが選択されること。通信断、入力矛盾、電源再投入、非常停止、リセット、外部機器監視異常で期待する状態になること。設定ファイルの版とパスワード管理が引渡し資料と一致すること。可能なら停止時間を最大負荷条件で測り、計算書に戻して確認します。
SAT(現地受入試験)は、据付後の実際の寸法と動線で行います。床に引いた境界の各角、スキャナ直近、柱の背後、パレットの左右、搬送物の停止位置、走査面の上下を試験します。人が危険区域へ残った状態で再起動できないか、リセット位置から全域が見えるかも確認します。現場で何度も不要停止する場合、保護フィールドを縮める前に原因を調べ、距離計算を再承認してください。清掃、水滴、粉じん、反射面、夕方の光など時間で変わる条件がある設備は、運転条件を変えて試験します。

試験成績には、設置写真、フィールド設定のエクスポート、設定ソフトとファームウェアの版、停止時間測定値、使用したテスト体、各試験の合否、未完了項目と責任者を残します。設備を引き渡した後も、柵の移設、パレットサイズ変更、速度変更、駆動装置交換、ソフト変更があれば再評価します。毎日の始業点検と定期点検で何を確認するかを作業標準に落とし、設定を無断で変更できない運用にします。
安全レーザースキャナ選定のFAQ
安全レーザースキャナの保護距離は長いほどよいですか?
必要な距離に余裕があることは大切ですが、長さだけでは選べません。最小検出物体を小さく設定すると最大保護距離が変わる機種があり、走査面の高さ、応答時間、誤差、遮蔽物も結果に影響します。最遠点までの有効な保護フィールドを、選んだ設定で確認してください。警告距離を保護距離として数えないことも重要です。
警告フィールドに人が入れば機械を停止できますか?
警告信号を減速や表示に使う製品はありますが、警告フィールドそのものを人の安全停止機能とみなせません。安全停止が必要な境界は、製品が定める保護フィールドと安全出力、安全制御回路で構成します。減速を安全距離の前提に入れるなら、減速の故障と監視方法を含めて検証します。
安全ライトカーテンとどちらを選べばよいですか?
開口部を横切る面を守るのか、床面上の区域を守るのかで候補が変わります。いずれも停止時間、侵入経路、荷物の通過、死角を評価します。飛散物の危険がある場合は、どちらのセンサも物理ガードを代替しません。機器価格だけでなく、安全機能全体と検収作業まで比較してください。
AGV・AMR用の仕様を固定設備にも使えますか?
製品によって両用途に対応しますが、同じ設定を流用するという意味ではありません。移動体は速度、制動距離、進行方向、旋回、車体直近の死角を評価します。固定設備は危険点への人の接近経路と機械の停止時間を軸に設計します。用途ごとに安全機能と試験成績を分けます。
タイ工場で見積前に最低限そろえる資料は何ですか?
危険源を示した平面・断面図、運転モード、作業と搬送の動線、実測停止時間、既存の安全回路、現場環境、要求する検収方法です。すべての詳細が揃わない段階でも、未測定項目を明記して現場調査付きの提案を依頼できます。最終発注前には停止距離と未保護区域を確定させてください。
まとめ:製品選びより先に安全機能の成立条件を固める
安全レーザースキャナの選定は、対象危険源と侵入経路を描き、停止時間を測り、保護フィールドの寸法と死角を確かめ、フィールド切替・再起動を設計し、現場の環境に合う機種を比較する流れで進めます。RFPには計算根拠と未保護区域の対策を要求し、FATとSATで設定と現物を照合します。この順番なら、カタログ上の長い距離や多いフィールド数に引っ張られず、工場で実際に機能する設備を選びやすくなります。
タイ工場の新設・改造で、フィールド図、停止時間の測定、既存安全回路との接続を整理する段階なら、TOMAS TECHへご相談ください。現場の図面やまだ決まっていない条件を一緒に確認し、見積依頼に必要な項目から整理できます。
参考情報
- ISO 13855:2024 の概要 — 保護装置の位置と検出区域の寸法。2026年10月8日確認。
- KEYENCE:レーザースキャナの設置と安全距離 — 水平接近の距離式、未保護の隙間。2026年10月8日確認。
- OMRON OS32C グローバル仕様 — 型番・検出能力別の保護距離、応答・切替時間。2026年10月8日確認。
- SICK S3000 取扱説明書 — 保護・警告フィールド、遮蔽物と監視ケース。2026年10月8日確認。
- Pilz PSENscan 製品情報 — 固定・移動用途とフィールドの使用例。2026年10月8日確認。
- Rockwell SafeZone Mini 取扱説明書 — 固定水平監視と保護距離、境界表示。2026年10月8日確認。