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2026.10.05

SECS/GEM導入|タイ半導体・電子部品工場の装置連携RFPとFAT/SAT

SECS/GEM導入|タイ半導体・電子部品工場の装置連携RFPとFAT/SAT

「装置の仕様書には『SECS/GEM対応』と書いてある。では、MESとつなぐには何を発注し、受入れで何を確かめればよいのか。旧型の装置はどうするのか」。タイの日系半導体後工程・電子部品工場の生産技術や情報システムの責任者から、よく受ける相談です。結論から書きます。SECS/GEM導入の成否は、装置が「GEM対応」かどうかでは決まりません。 決めるのは、①装置ごとのGEM適合宣言表と、イベント・変数・アラームの中身の棚卸し、②ホスト側でどの業務を自動化するかの選択、③装置ベンダー・ホスト開発者・工場の責任分界、の3つです。「GEM対応」は入口にすぎず、同じGEM対応でも装置ごとに出せるデータは違います。

本記事に登場する金額・時間・件数・削減率は、すべて後述のモデル工場を前提にした本記事オリジナルの試算値・想定値(仮置き値)です。業界平均でも調査値でもありません。自社の実測値に差し替えて使うための「計算の型」として読んでください。

なぜ今、タイ・ASEANでSECS/GEM導入が増えるのか

タイでは2026年に入り、半導体と電子部品の投資を後押しする発表が続いています。

2026年9月24日、タイ投資委員会(BOI)は、タイ初の国家半導体戦略が承認されたと発表しました。2050年までの戦略目標として、累計投資約800億ドル、年間の産業売上約1,500億ドル、23万人超の新規雇用を掲げています。ロードマップは3段階で、2030年までは既存の組立・テスト基盤の強化と先端パッケージングの拡大、前工程ウェーハ生産の基盤づくりに取り組みます。重点技術はフォトニクス、パワー半導体、センサー(MEMS)の3つです。同じ発表によれば、2023年から2026年上期までの半導体・先端電子分野の投資奨励申請は879件、約272億ドルでした。

その1週間後の2026年10月1日には、Infineonがサムットプラカン県でパワー半導体拠点を開所したとBOIが発表しました。投資額は14億ドルで、第1期のModule Aはクリーンルーム3万㎡と試作R&Dセンターを備え、5期すべてが完成すると同社最大の後工程(組立・テスト)拠点になる見込みです。BOIの発表では、ロボットや自動搬送、エンドツーエンドのデジタル生産システムを使う高度に自動化された工場と説明されています。

電子産業全体では、BOIが2026年8月26日に、2023年以降の電子産業への投資が305億ドル超に達し、そのうち224件・3,310億バーツがPCBと電子部品に集中していると公表しました。また、2026年8月27日の発表では、同年上期にBOIがスマート・サステナブル製造(設備の近代化や先端自動化の統合など)の案件を132件承認したとしています。SECS/GEMを名指しした制度ではありませんが、既存工場の設備近代化と自動化が投資の対象になっていることは読み取れます。

周辺国も動いています。マレーシアでは、2024年1月から2026年3月までの半導体分野の承認投資が約919億リンギに達したと、同国の投資貿易産業省の副大臣が明らかにしています。ベトナムでは2026年1月、Viettelがハノイのホアラック・ハイテクパークで国内初の半導体チップ製造工場に着工しました。

装置が増え、後工程・パワーモジュール・PCBの工場が増えると、「装置の稼働やレシピ、ロット実績を人が記録する」やり方は、顧客監査やトレーサビリティ要求に耐えにくくなります。装置とホストを規格でつなぐSECS/GEMは、そのための最も一般的な手段です。工場全体の生産管理システムの考え方は「MES導入の進め方(タイ工場向け)」で整理していますので、あわせてご覧ください。

SECS/GEMとは:SECS-II・HSMS・SECS-I・GEMの役割分担

SECS/GEMは1つの規格ではなく、役割の異なる複数のSEMI規格の組み合わせです。混同されやすいので、まず役割を分けて整理します。

SECS/GEM導入|タイ半導体・電子部品工場の装置連携RFPとFAT/SAT - figure 1
規格通称役割2026年10月時点の現行版
SEMI E5SECS-II装置とホストがやり取りするメッセージの形式と意味。Stream(活動の分類)とFunction(個別メッセージ)で体系化し、ItemとListで構造を定義E5-0725
SEMI E37HSMSTCP/IP上でSECSメッセージを運ぶ通信方式。単一セッション版はE37.1(HSMS-SS)E37-0222、E37.1-0819
SEMI E4SECS-IRS-232シリアルでの通信。旧型装置に残るレガシー経路(版番号は本記事では扱いません)
SEMI E30GEM通信リンクから見た装置の振る舞いの共通モデル。どのSECS-IIメッセージを使い、その結果装置がどう動くかを定めるE30-0526(2026年5月)

ひとことで言えば、SECS-IIが「言葉(文法と語彙)」、HSMSやSECS-Iが「電話回線」、GEMが「会話のマナー(どの場面で何を言い、言われたらどう振る舞うか)」です。現在の新しい装置ではHSMSが標準で、SECS-Iは旧型装置で使われていることがあります。HSMSの汎用セッション版(E37.2)は2009年に廃止されているため、新規の調達仕様では「HSMS-SS」と書くのが実務的です。

GEMの現行版は2026年5月のE30-0526です。検索結果にはひとつ前の版が「最新」と表示されることがあるため、RFPに準拠版を書く場合はSEMIの公式ストアで現行版を確認してください。また、装置ベンダーや市販ソフトが「どの版に準拠して実装したか」は現行版と一致しないことが多く、それ自体は異常ではありません。大切なのは、準拠版を装置ごとに書面で出してもらい、ホスト側と食い違いがないかを確かめることです。

「GEM対応」の中身を棚卸しする:基本要件と追加機能、GEM適合宣言表

GEMは2階層でできている

GEM(E30)は、要件を「基本要件(Fundamental Requirements)」と「追加機能(Additional Capabilities)」の2階層で定めています。GEMを実装する装置は基本要件をすべて満たすことが前提で、追加機能は該当する場合にだけ実装する任意項目です。どの追加機能を適用するかは、装置メーカーと顧客(工場)が協議して決めることになっています。

基本要件は、状態モデル(State Models)、装置の処理状態(Equipment Processing States)、ホストから始める通信確立のシナリオ(Host-Initiated Scenario)、イベント通知(Event Notification)、オンライン識別(On-Line Identification)、エラーメッセージ、ドキュメント、オペレーター操作による制御(Control (Operator Initiated))の8項目です。

追加機能には、通信確立、動的イベントレポート設定、変数データ収集、トレースデータ収集、ステータスデータ収集、アラーム管理(Alarm Management)、リモート制御(Remote Control)、装置定数、プロセスレシピ管理(Process Recipe Management)、マテリアル移動、装置端末サービス、時刻(Clock)、リミット監視、スプーリング(Spooling)、ホストからの制御(Control (Host-Initiated))の15項目があります。

ここで重要なのは、工場が自動化したい業務のほとんどが「追加機能」側にあることです。たとえばレシピ照合にはプロセスレシピ管理、ロットの開始・停止にはリモート制御、アラーム収集にはアラーム管理、通信断の間のデータ保全にはスプーリングが必要です。基本要件だけを満たした「GEM対応」装置では、やりたいことの半分もできない場合があります。

GEM適合宣言表(GEM Compliance Statement)で見るべき点

GEM準拠を名乗る装置は、ドキュメントにGEM適合宣言表を含める必要があります。この表で装置メーカーは、機能ごとに「実装しているか」「GEMに準拠しているか」を宣言します。GEMの実装範囲を限定していてもGEM準拠とみなされうる、と解説するベンダーもあります。つまり「GEM対応」という一語の中に、かなり幅のある実装が含まれているわけです。

棚卸しでは、装置ごとに次の点を一覧表にします。

  • 適合宣言表の有無と、準拠しているE30の版
  • 追加機能のうち、アラーム管理・プロセスレシピ管理・リモート制御・スプーリング・時刻・動的イベントレポート設定の実装状況
  • SVID(ステータス変数)、CEID(収集イベント)、ALID(アラーム)の一覧と、その意味の説明
  • レシピ(プロセスプログラム)の名前の付け方と、ホストへのアップロード・ダウンロードの可否
  • 接続方式(HSMSかSECS-Iか)と、HSMSの場合のアクティブ/パッシブ、ポート番号の変更可否

同じメーカーの同じ機種でも、装置ソフトの版によってCEIDやALIDの番号や意味が変わる可能性があります。棚卸しは「機種単位」ではなく「号機と装置ソフト版の単位」で行うのが安全です。

ホスト側で何を自動化するか:装置MES連携とEAP

装置がSECS/GEMで話せても、それを受け取るホスト側が何をするかを決めなければ、何も自動化されません。ホスト側のソフトは、工場によってEAP(Equipment Automation Program)、装置コントローラ、セルコントローラなどと呼ばれ、装置とMESの間に立って通信と業務ルールを受け持ちます。

SECS/GEM導入|タイ半導体・電子部品工場の装置連携RFPとFAT/SAT - figure 2

自動化の候補は大きく4つです。

  1. レシピ照合:ロットの品種・工程に対して、装置で選ばれたレシピ名(と必要ならパラメータ)がMESのマスタと一致するかをホストが照合し、一致しなければ処理開始を止める。プロセスレシピ管理とリモート制御が前提になります。
  2. ロットの開始・停止:作業者がロットIDを読み取り、ホストがMESに着工可否を問い合わせ、可ならリモート制御で装置を開始させる。ホールド中のロットや、品質保留中の材料を物理的に流させない仕組みです。
  3. アラーム収集:装置のアラーム発生・解除をイベントとして受け、時刻・ALID・ロットと紐づけて保存する。設備保全と不良解析の両方で使えます。
  4. 実績とトレーサビリティ:ロットの処理開始・終了時刻、使用レシピ、主要な変数(温度、圧力、時間など)をロット実績としてMESに渡す。顧客監査やクレーム時の追跡調査の時間を短くします。

すべてを一度にやる必要はありません。後述のモデル試算が示すとおり、多くの工場で投資効果の大半を生むのは1つ目のレシピ照合です。まずレシピ照合とロットの開始・停止を確実に回し、アラームと実績はその上に積み上げる、という順序をおすすめします。

ロット単位の実績をさらに個体(ユニット・基板)単位まで落とす考え方は「個体単位トレーサビリティの管理」で、電子部品工場の生産管理全体の設計は「電子部品工場の生産管理システム」で解説しています。また、EAPとMES、ERPの間のデータ受け渡しをどう設計するかは「製造業のAPI連携開発」が参考になります。

市場にある選択肢の例

ホスト側・装置側のSECS/GEMソフトには、いくつかの選択肢があります。たとえば、PDF Solutions傘下のCimetrix(SECS/GEM・GEM300・EDA向けの接続製品群)、カナダのPEER Group(装置接続、SEMI規格準拠のテストアプリケーション、E187準拠評価サービスなど)、フランスのAgileo Automation(装置制御ソフトの開発基盤にSECS/GEMとGEM300を統合し、EDAへの拡張方針を発表したと報じられています)、三菱電機のCコントローラ向けSECS/GEM通信ソフト(タイ法人のサイトにも掲載)、Inductive AutomationのIgnition用SECS/GEMモジュール(ホスト側専用で、テスト用のシミュレーション機能を持つ)などです。どれが適するかは、装置台数、既存のMESやSCADA、社内の保守体制によって変わります。本記事では推奨や比較評価はしません。なお、市販ソフトのドキュメントに記載された実装規格の版が、現行版より古いことはよくあります。版の差が実運用に影響するかは、装置側の実装とあわせて確認してください。

ホスト側の設計でつまずきやすい点

ホスト側の開発では、通信そのものより業務ルールの決め方でつまずくことが多くなります。代表的なのは次の3つです。

1つ目は、レシピ照合の単位です。レシピ名だけを照合するのか、レシピの中身(主要パラメータ)まで照合するのかで、必要な装置機能とホストの作り込みが大きく変わります。レシピ名の付け方が装置ごと・作業者ごとにばらばらな工場では、照合の前にレシピ名の規則とマスタの整備が必要です。ここを後回しにすると、照合は動いていても「どのレシピが正しいか」をホストが判断できない状態になります。

2つ目は、作業者操作とホスト制御の優先関係です。ホストが処理開始を止めたとき、作業者が装置のパネルから強制的に開始できるのか、できるなら誰の承認が必要で、その記録をどこに残すのかを決めておかないと、現場の運用で照合が形骸化します。GEMにはオペレーター操作による制御とホストからの制御の両方があるため、どちらを優先するかを装置ごとに確認します。

3つ目は、時刻のずれです。装置の時計とホストやMESの時計がずれていると、アラームとロット実績の前後関係が崩れ、不良解析やクレーム時の追跡で誤った結論を導きかねません。GEMの追加機能にある時刻(Clock)を使ってホストから時刻を合わせるか、別の方法で時刻を同期するかを、設計の初期に決めておきます。

GEM300とEDAをどこまで要求するか

GEM300は「300mm前工程の自動搬送」のための規格群

GEM300は、GEM(E30)を土台に、E39(オブジェクトサービス)、E40(プロセスジョブ)、E87(キャリアとロードポート)、E90(基板と基板位置の追跡)、E94(コントロールジョブ)などを積み上げた規格群です。300mmウェーハ工場の自動搬送、キャリア管理、ジョブ管理を前提にしています。GEM300関連の規格は、2025年秋・冬のバロット(投票)でE30、E40、E87、E90などに意味のある更新が入ったとされ、いまも改訂が続いています。

後工程や電子部品、PCBの工場では、搬送がマガジンやトレイ、リールで、ウェーハキャリアの自動搬送を前提としないことが多いでしょう。その場合、GEM300一式を全装置に要求すると、装置価格とホスト開発の両方が膨らみます。一方で、ウェーハテストや前工程に近い工程の装置、あるいは顧客がGEM300での接続を求めている場合は必要になります。GEM300は「あれば安心」で一律に要求するものではなく、工程ごとに個別判断するのが妥当です。

EDA(Interface A)は「追加の選択肢」

EDA(Equipment Data Acquisition、別名Interface A)は、工場のデータ収集ソフトと装置の間の通信を定めるSEMI規格群です。E120、E125、E132、E134、E164などで構成され、HTTP/HTTPS上のWebサービスでやり取りします。EDAはデータ収集に特化しており、装置の制御や設定の機能は持ちません。そのため、SECS/GEMを置き換えるものではなく、補完するものです。

レシピ照合やロットの開始・停止はSECS/GEMで行い、品質解析のために高頻度のセンサーデータが必要な装置だけEDAを追加する、という組み合わせが基本形です。EDAにはFreeze Version IとIIがあり、クライアントと装置で版が一致しないと互換性が取れない点に注意が必要です。導入初期からEDAを前提にする必要はなく、SECS/GEMでの運用が回ってから「どの装置のどのデータが足りないか」を見て判断すれば十分です。

装置のサイバーセキュリティ:E187・E188・E191と責任分界

SECS/GEMの導入は、これまで孤立していた装置を工場のネットワークにつなぐことを意味します。ここで、誰が何を守るのかを決めておく必要があります。

  • SEMI E187(E187-0122):装置のサイバーセキュリティ仕様。装置メーカーやシステムインテグレーター向けに、OSサポート、ネットワークセキュリティ、エンドポイント保護、セキュリティ監視の4分野でベースライン要件を定めています。対象はWindowsまたはLinuxを搭載した装置の計算機で、PLCやSCADAなどは対象外です。
  • SEMI E188(E188-0222):マルウェアフリーな装置統合の仕様。装置の納入・据付・保守の過程でマルウェアが工場に持ち込まれるのを防ぐ枠組みで、ネットワークやリムーバブルメディアによるアクセス、据付、アップグレードと保守、部品交換時の復旧を扱います。対象は装置内のすべての計算機ですが、工場側が用意するMES、搬送制御、ホストシステムは明示的に対象外です。
  • SEMI E191:装置の計算機ごとに、識別子、OSメーカー、OS名、OSバージョン、OSビルドの5つの情報を報告させる規格。工場が接続機器のリスクを評価する材料になります。

E188が「MESやホストは対象外」としていることは、責任分界を考えるうえで重要です。装置側の対策はE187・E188を手がかりに装置ベンダーへ求められますが、EAPやMES、その間のネットワークは工場(とホスト開発者)の責任範囲です。RFPでは、装置側とホスト側のそれぞれについて、誰が何を担うかを分けて書く必要があります。たとえば次のような分担表を、契約前に3者で合意しておくと、導入後の「それはうちの範囲ではない」を減らせます。

領域主な担い手手がかりになる規格・確認事項
装置内の計算機(OS、エンドポイント保護、ログ)装置ベンダーE187の4分野、E191によるOS情報の報告
装置の納入・据付・保守時のマルウェア持ち込み防止装置ベンダーと工場E188(ネットワーク・リムーバブルメディアの管理、復旧手順)
装置のGEM実装と適合宣言表、変数・イベント・アラーム一覧装置ベンダーE30・E5・E37の準拠版
ホスト(EAP)の業務ロジックとMES連携ホスト開発者工場の業務要件、FAT/SAT基準
装置ネットワークとホストの間の通信経路、遠隔保守の経路工場(情報システム部門)E188の対象外部分として工場側で設計

なお、SEMIのニュースレター(2026年8月号)によれば、E187には3段階のセキュリティレベルを導入する大改訂の作業が進んでいるとされます。ただし、2026年10月時点で改訂版は発行されていません。発注仕様では現行のE187-0122を基準にし、改訂の動向は情報として追うのが現実的です。

半導体のサプライチェーンがサイバー攻撃の標的になっている例も出ています。日本の半導体試験装置メーカーAdvantestは、2026年2月15日にIT環境で異常な活動を検知し、ランサムウェアが展開されたと2月19日に発表しました。同年3月には、タイにも事業拠点を持つ半導体試験会社Trio-Tech Internationalのシンガポール子会社でファイルが暗号化され、その後一部データの不正開示に広がったと報じられています。いずれも装置通信を経由した侵害と報じられたものではありませんが、装置をネットワークにつなぐ設計では、装置ネットワークとオフィスネットワークを分け、ホストとの通信経路を必要最小限に絞ることが前提になります。OT境界の守り方は「産業用データダイオードの選び方」で、装置のOSやソフトの脆弱性への対応順位の付け方は「OT脆弱性管理とパッチのトリアージ」で詳しく扱っています。

旧型装置(SECS/GEM非対応)をどうするか

どの工場にも、SECS/GEMに対応していない、あるいはSECS-I(RS-232)しか持たない旧型装置が残っています。選択肢は3つです。

  1. SECS-Iを変換してつなぐ:シリアル-TCP/IP変換器や、SECS-Iに対応したホストソフトを使って、HSMS対応装置と同じホストに収容します。装置側がGEMの振る舞いを持っていれば、ホスト側の業務ロジックを共通化できます。
  2. PLCや信号を経由してつなぐ:通信機能がない装置は、稼働・停止・アラームなどの信号をPLCで取り、PLCからホストへ上げます。PLCやコントローラにSECS/GEM通信ソフトを載せて、ホストからはSECS/GEM装置に見せる方法もあります(たとえば三菱電機は、Cコントローラ向けにPCゲートウェイなしでホストに直接接続できるSECS/GEM通信ソフトを提供しています)。PLCから上げるなら、OPC UAを使う選択肢もあります。考え方は「OPC UA 1.05への移行と認証」を参照してください。
  3. 手入力を残す:台数が少ない、更新予定が近い、工程上レシピ誤りが起きにくい装置は、無理につながず、ハンディ端末でのロットID読取りと簡易入力に置き換えるだけでも十分な場合があります。

旧型装置では、レシピ照合やリモートでの開始・停止ができないことが多く、得られる効果は「記録の自動化」が中心になります。どこまでつなぐかは、次の試算のように、効果の内訳を見て決めるのが合理的です。

費用とROI:モデル工場で試算する

ここからの数値は、すべて本記事が独自に置いた仮置き値です。業界平均でも調査値でもありません。

共通前提(モデル工場Q)

項目前提(仮置き値)
工場タイ東部の日系電子部品工場(パワーモジュール後工程)、24時間3交替、稼働350日/年
装置120台(SECS/GEM(HSMS)対応80台、旧型40台=SECS-Iのみまたは通信機能なし)
手入力・転記1交替あたり作業者8名が各1時間 → 1日24時間 → 年8,400時間(対応装置分5,600時間、旧型分2,800時間)
人時単価作業者180 THB、品質技術者250 THB
レシピ・パラメータ誤りによる不良ロット年8件、1件あたり損失400,000 THB(材料・再検査・顧客対応込み)
ロット追跡調査年30件×1件16時間=480時間(品質技術者)

この前提では、現状の転記にかかる人件費は年1,512,000 THB(8,400時間×180 THB)、レシピ誤りによる損失は年3,200,000 THB(8件×400,000 THB)、追跡調査の人件費は年120,000 THB(480時間×250 THB)です。

構成A:SECS/GEM対応80台のみ接続

初期投資は、要件定義・装置GEM棚卸し600,000 THB、ホスト・EAP開発2,400,000 THB、装置側のGEM有効化・設定1,200,000 THB(80台×15,000 THB)、MES連携800,000 THB、FAT/SAT 500,000 THBで、合計5,500,000 THBです。年間運用費は保守900,000 THBとライセンス保守200,000 THBで1,100,000 THB/年とします。

効果(想定値)は次のとおりです。

  • 転記削減:対応装置分5,600時間の80%=4,480時間×180 THB=806,400 THB
  • レシピ誤り防止:8件中5件を防止×400,000 THB=2,000,000 THB
  • 追跡調査の短縮:480時間の50%=240時間×250 THB=60,000 THB

効果合計は2,866,400 THB/年、運用費を差し引いた年間純便益は1,766,400 THB/年、単純回収期間は5,500,000÷1,766,400=約3.1年です。

構成B:構成A+旧型40台を変換器・PLC経由で後付け接続

初期投資は、構成Aの5,500,000 THBに、旧型装置の個別調査と変換器・PLC改造2,400,000 THB(40台×60,000 THB)、追加のFAT/SAT 300,000 THBを加えて、合計8,200,000 THBです。年間運用費は構成Aの1,100,000 THBに追加保守400,000 THBを加えて1,500,000 THB/年とします。

効果(想定値)は、構成Aの効果を置き換えるものとして計算します(構成Aの効果に足し算はしません)。

  • 転記削減:全8,400時間の80%=6,720時間×180 THB=1,209,600 THB
  • レシピ誤り防止:8件中7件を防止×400,000 THB=2,800,000 THB
  • 追跡調査の短縮:480時間の75%=360時間×250 THB=90,000 THB

効果合計は4,099,600 THB/年、年間純便益は2,599,600 THB/年、単純回収期間は8,200,000÷2,599,600=約3.2年です。

項目構成A(対応80台のみ)構成B(A+旧型40台)
初期投資5,500,000 THB8,200,000 THB
年間運用費1,100,000 THB1,500,000 THB
効果合計(年)2,866,400 THB4,099,600 THB
年間純便益1,766,400 THB2,599,600 THB
単純回収期間約3.1年約3.2年
5年累計(純便益×5−初期投資)3,332,000 THB4,798,000 THB

読みどころ1:回収年数はほぼ同じ、5年累計ではBが多い

5年累計で見ると、構成Aは1,766,400×5−5,500,000=3,332,000 THB、構成Bは2,599,600×5−8,200,000=4,798,000 THBで、構成Bが1,466,000 THB多くなります。旧型装置の追加分だけを取り出しても、追加の初期投資2,700,000 THBに対して追加の純便益は2,599,600−1,766,400=833,200 THB/年で、追加分の回収は約3.2年です。

つまりこの前提では、旧型装置の接続は「割に合わない投資」ではありません。それでも旧型を後回しにすることをおすすめするのは、儲からないからではなく、対応装置でレシピ照合・アラーム・ロットの運用が回ることを確かめてから広げる方が、失敗の範囲を小さくできるからです。ホストの業務ロジック、MESとの受け渡し、現場の運用ルールが固まってから旧型を追加すれば、変換器やPLC経由の接続も同じ型に当てはめるだけで済みます。これが段階導入の根拠です。

読みどころ2:効果の約7割はレシピ誤り防止

構成Aの効果2,866,400 THBのうち、レシピ誤り防止の2,000,000 THBが約70%を占めます。試しにレシピ誤りによる損失をゼロと置くと、効果は866,400 THB、運用費1,100,000 THBを差し引くと年−233,600 THBとなり、投資は回収できません。構成Bでも、効果4,099,600 THBのうちレシピ誤り防止の2,800,000 THBが約68%を占めます。

ここから言えるのは、「転記が減る」だけではSECS/GEM導入の投資判断は成り立ちにくい、ということです。判断を左右するのは、レシピやパラメータの誤りでどれだけ不良ロットが出ているか、その損失がいくらか、という自社の実績です。発注の前に、過去1年分のレシピ・パラメータ起因の不良ロット件数と損失額を集計することが最初の仕事になります。後述の90日計画では、これを最初の30日に置いています。

RFPに書く12項目

装置ベンダーとホスト開発者の両方に見積もりを依頼する際、RFP(提案依頼書)に最低限書いておきたい項目です。

No.項目書く内容の例
1準拠規格と適合宣言表E30・E5・E37の準拠版、装置ごとのGEM適合宣言表の提出
2変数・イベント・アラーム一覧SVID・CEID・ALIDの一覧と意味の説明、装置ソフト版との対応
3HSMS接続条件IPアドレス、ポート、アクティブ/パッシブ、各種タイムアウト値
4レシピ管理方式レシピ名の規則、アップロード・ダウンロードの可否、照合の単位
5ロット開始・停止の制御範囲ホストからのリモート開始・停止の可否、作業者操作との優先関係
6アラーム辞書と多言語アラームテキストの言語、ALIDごとのタイ語・英語表示の用意
7データ保存期間ロット実績・アラーム履歴・通信ログの保存期間と保存先
8E187・E188への適合状況装置の計算機ごとの適合状況、対象外部分の扱い
9リモート保守経路装置ベンダーが遠隔保守に使う経路、接続の申請・承認・記録
10変更管理装置ソフト更新時の事前通知、変数・イベントの変更点の提出、再試験
11FAT/SAT基準試験項目、合格基準、試験データの準備者
12現地サポート体制タイでの立会い、問い合わせ窓口、対応時間と言語

特に見落とされやすいのが10の変更管理です。装置ソフトが更新されてCEIDやALIDが変われば、ホスト側で正しく受け取れなくなるおそれがあります。更新のたびに変更点の一覧を出してもらい、ホスト側で回帰試験を行う取り決めを、最初の契約に入れておきます。

FAT/SATで確認すること

FAT(工場出荷前試験)とSAT(現地据付後試験)では、「つながった」ことではなく「業務として正しく動く」ことを確かめます。

確認項目確認の方法
シミュレータでの事前試験装置シミュレータでホストの業務ロジックを先に試験し、実機での試験時間を短くする
通信断・再接続ケーブル断、ホスト再起動、装置再起動の各場面で再接続とスプーリングの動作を確認
誤ったレシピの拒否意図的に誤ったレシピを選び、ホストが処理開始を止めることを確認
アラームの取りこぼしなし連続・同時に発生させたアラームが、すべて正しい時刻とALIDで記録されることを確認
ロット実績とMESの突合試験ロットの開始・終了時刻、レシピ、数量がMESの記録と一致することを確認
装置ソフト更新後の回帰装置ソフト更新後に、上記の主要項目を再試験する手順を決めておく

とりわけ「誤ったレシピの拒否」は、モデル試算で効果の約7割を担っている機能です。正常系だけでなく、作業者がやりがちな誤り(似た名前のレシピ、旧版のレシピ、別品種のレシピ)を試験ケースに入れておくことをおすすめします。

タイ・ASEAN固有の論点

BOI案件での調達・設備変更

BOIの投資奨励を受けている案件では、装置やソフトの調達、設備変更の扱いについて条件が付いていることがあります。SECS/GEM導入に伴う機器の追加や改造が恩典の条件にどう関わるかは、案件ごとに異なります。本記事では判断できないため、所轄のBOIや専門家に個別に確認してください。

装置ベンダーの現地サポート

後工程や電子部品の装置は、日本・台湾・欧州のメーカー製であることが多く、タイでの現地サポートが手薄な場合があります。GEM適合宣言表やSVID・CEID・ALID一覧の提出、FAT/SATへの現地立会い、遠隔保守の経路を、RFPで具体的に指定しておくことが重要です。特に遠隔保守の経路は、OTセキュリティ上の論点でもあります。E188の考え方を手がかりに、誰がいつどの経路で装置に接続したかを記録できる形にしておきます。

アラームテキストの多言語

アラームテキストは、装置の言語(日本語・英語・中国語など)のままホストに上がってきます。タイ人の作業者や保全担当がすぐに理解できるよう、ホスト側でアラーム辞書(ALIDごとのタイ語・英語の表示文と対処手順)を整備するのが実務的です。辞書づくりは装置ベンダーの協力が要るため、RFPの段階で依頼しておきます。

多拠点での共通化

タイ・マレーシア・ベトナムで同じ装置機種を使う場合、ホスト側の装置モデル定義(変数・イベント・アラームの対応表や業務ロジック)を共通化しておくと、2拠点目以降の導入費用を抑えやすくなります。ただし、前述のとおり装置ソフトの版で番号が変わる可能性があるため、拠点ごとの差分管理は欠かせません。

90日計画

SECS/GEM導入|タイ半導体・電子部品工場の装置連携RFPとFAT/SAT - figure 3

0〜30日:レシピ起因不良の実測と装置GEM棚卸し

過去1年分のレシピ・パラメータ起因の不良ロット件数と損失額を集計します。並行して、全装置のGEM適合宣言表、SVID・CEID・ALID一覧、接続方式、装置ソフト版を号機単位で棚卸しします。この段階で、モデル試算の前提を自社の数値に置き換え、投資判断の見通しを立てます。

31〜60日:代表装置3〜5台でホスト接続とレシピ照合を試行

効果が大きい工程から代表装置を3〜5台選び、ホストとHSMSで接続して、レシピ照合とロットの開始・停止を試行します。誤ったレシピを拒否できるか、作業者の運用に無理がないかを確認し、業務ルールとアラーム辞書のたたき台を作ります。

61〜90日:FAT/SAT基準の確定と旧型装置の扱い判定

試行の結果をもとにFAT/SATの試験項目と合格基準を確定し、RFPを仕上げます。旧型装置は、変換してつなぐ、PLC経由でつなぐ、手入力を残す、の3つのどれにするかを装置ごとに判定します。

90日の終わりに手元にそろえておきたい成果物は、①レシピ起因不良の集計表と、それを反映した自社版の投資試算、②号機単位のGEM棚卸し表(適合宣言表、変数・イベント・アラーム一覧、装置ソフト版)、③代表装置での試行結果と業務ルール案、④アラーム辞書のたたき台、⑤装置・ホスト・工場の責任分担表、⑥RFPとFAT/SAT基準、⑦旧型装置ごとの扱いの判定表、の7点です。これらがそろっていれば、本導入の見積もりを複数社から同じ条件で取り、比較できる状態になります。逆に、①の集計でレシピ起因の不良がほとんど出ていないと分かった場合は、自動化の対象をアラーム収集や実績の自動化に絞る、あるいは導入の時期を見直す、という判断も合理的です。

よくある質問

SECS/GEMとは? HSMSやSECS-IIとの違いは?

SECS/GEMは、半導体・電子部品の製造装置とホスト(工場側のシステム)をつなぐためのSEMI規格の組み合わせです。SECS-II(E5)がメッセージの形式と意味、HSMS(E37)がTCP/IP上の通信方式、SECS-I(E4)がRS-232のレガシーな通信方式、GEM(E30)が装置の振る舞いの共通モデルを定めます。GEMの現行版はE30-0526(2026年5月)です。

GEM300は後工程・電子部品工場にも必要ですか?

一律には必要ありません。GEM300は300mmウェーハ工場の自動搬送やキャリア・ジョブ管理を前提にした規格群です。ウェーハキャリアの自動搬送を使わない後工程や電子部品の工程では、必要性を工程ごとに判断します。顧客がGEM300での接続を求めている場合や、ウェーハを扱う工程では検討が必要です。

SECS/GEM導入の費用と期間は?

装置台数、接続方式、自動化する業務の範囲によって大きく変わります。本記事のモデル工場(装置120台)では、対応装置80台のみの接続で初期投資5,500,000 THB、旧型40台を含めると8,200,000 THBと試算しましたが、これはすべて仮置き値です。期間は、まず90日で棚卸し・試行・RFP確定まで進め、その後に本導入を行う段階的な進め方をおすすめします。

SECS/GEMに対応していない旧型装置はどうつなぎますか?

SECS-Iしか持たない装置は、変換器やSECS-I対応のホストソフトで接続できます。通信機能がない装置は、PLCで稼働・アラームなどの信号を取ってホストに上げる方法があります。台数が少なく効果も小さい装置は、ハンディ端末での入力を残すのも現実的な選択です。

EDA(Interface A)とSECS/GEMはどちらを選べばよいですか?

選ぶものではなく、組み合わせるものです。EDAはデータ収集専用で、装置の制御や設定の機能を持たないため、レシピ照合やロットの開始・停止はSECS/GEMで行います。品質解析のために高頻度データが必要な装置に限って、EDAを追加で検討するのが基本です。

SEMI E187・E188は装置の発注仕様に入れるべきですか?

装置をネットワークにつなぐ以上、装置の計算機ごとの適合状況を確認する項目として入れておくことをおすすめします。ただし、E188はMESやホストシステムを対象外としているため、ホスト側とネットワークの対策は工場側で別に決める必要があります。E187の改訂作業は進んでいるとされますが、2026年10月時点の現行版はE187-0122です。BOI案件の場合は、調達や設備変更の扱いも所轄機関・専門家に個別確認してください。

まとめ

  • SECS/GEM導入の成否は「GEM対応」の有無では決まらない。装置ごとのGEM適合宣言表と変数・イベント・アラームの棚卸し、ホスト側で自動化する業務の選択、責任分界の3つで決まる。
  • 工場が自動化したい業務(レシピ照合、ロット開始・停止、アラーム収集、通信断時のデータ保全)の多くは、GEMの「追加機能」側にある。
  • GEM300とEDAは一律に要求せず、工程と目的ごとに判断する。
  • E188はMESやホストを対象外としているため、ホスト側とネットワークの守りは工場側の責任として設計する。
  • モデル試算(仮置き値)では、効果の約7割がレシピ誤り防止だった。発注前に、レシピ起因の不良ロットの件数と損失額を実測することが最初の仕事。
  • 旧型装置の接続も割に合わないわけではないが、対応装置で運用を固めてから広げる段階導入が失敗の範囲を小さくする。

TOMAS TECHでは、タイの日系工場を対象に、装置ごとのGEM棚卸しやレシピ起因不良の集計といった準備の段階から、ホスト・MES連携の設計、FAT/SATの立会いまでご相談を承っています。「まず手元の装置で何ができるかを知りたい」という段階でも構いませんので、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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