DECT NR+ 工場IoT導入を検討するなら、通信方式の紹介より先に「その製品をタイで調達し、当該周波数・用途で使えるか」「電池式センサーや移動設備が、実際の工場で必要な品質を出せるか」を確認したい。2026年9月15日、DECT Forumは半導体からゲートウェイまで商用エコシステムが広がったと発表した。一方、候補製品の存在と、タイ国内の個別機種・設置条件で運用できることは別の確認事項である。本稿は発注前の判断から現場での受入試験までを、工場のOT担当者が使える手順に整理する。
まず結論:DECT NR+は「適合性と現場測定」を通して選ぶ
DECT NR+(DECT-2020 NR)は、ETSIが標準化を進め、ITU-RのIMT-2020仕様にも含まれる非セルラー方式の無線技術である。DECT Forumは点対点、スター、メッシュ構成や低消費電力への設計を説明している。ただし、技術仕様の到達値を工場の保証値として扱ってはいけない。設備の鋼材、搬送物、アンテナ位置、他の送信機、アプリケーション周期、ソフトウェア版によって結果は変わる。
導入判断は四つのゲートで行う。第一に、目的と許容停止を明確にする。第二に、タイの現行周波数条件、用途、機種ごとのNBTC認証、輸入・設置・運用条件を確認する。第三に、必要なトポロジーとプロトコルをサンプル機の正確なハードウェア・ファームウェア版で確認する。第四に、操業状態の工場で合否基準を先に決めて測る。どれかが曖昧なまま数量と工事費だけを見積もると、後で設計を戻すコストが大きい。
本稿で示す試験時間、場所、測定項目の例は導入計画の提案であり、DECT NR+規格の保証値でもメーカーの性能公約でもない。合格閾値は自社の工程、データ用途、リスク分析から決める。
なぜ今、工場向けDECT NR+を検討するのか
DECT Forumの2026年9月15日の発表は、チップ、ソフトウェア、製品、用途企業が商用開発段階に入りつつあると説明した。同発表は、2026年11月2〜4日にミュンヘンで予定されるDECT Worldで、産業分野の関係者が集まる見込みも示している。現時点ではイベントは開催前であり、当日の展示結果や発表を既成事実として扱えない。ForumはNR+認証プログラムについて、まずビル自動化を対象に2027年半ばを見込むと記している。したがって「技術に標準がある」「調達品の相互接続が第三者認証で確認済み」を混同しないことが重要だ。
製品面では、STRATUM 9が2026年5月に産業用DECT NR+ゲートウェイを発表し、移動体の通信、既存Ethernetとの接続、PROFINET/PROFISAFEの透過伝送、基地局間のハンドオーバーを自社製品の特長として説明した。これは個別メーカーの製品説明である。タイでの同一SKUの提供、対応ファームウェア、NBTC手続、工場の制御周期を保証するものではない。Nordic SemiconductorもnRF91系のNR+ファームウェアと開発情報を公開しているが、公開ページには版ごとにスター構成などの対応範囲が明記される。メッシュや省電力が技術全般で語られていても、候補部品の現在のソフトウェアで使えるとは限らない。
候補が増えた今こそ「採用できるか」を小さく確かめる価値がある。既設設備に後付けする温度・振動・稼働センサーと、動く搬送台車・治具では求める通信が異なる。前者は電池寿命と欠測の扱い、後者は移動時の遅延・切替と安全設計が中心となる。同じ無線方式でも一つの評価結果で全用途を承認しない。
想定用途を二つに分けて要件を書く
電池式後付けセンサー:周期と電池交換を設計する
既存のモーター、ポンプ、配電盤、コンプレッサーにセンサーを後付けする場面を考える。温度が数分ごとに届けばよい用途と、異常時にすぐ通知したい用途では、送信間隔も待機動作も違う。まず測定値の用途を明示する。「保全の傾向把握」「停止原因の事後分析」「作業者への警報」を別のサービスレベルとして書く。警報に使うなら欠測時の表示、再送期限、センサー故障時の扱いまで定義する。
電池寿命はカタログの年数を転記しない。センサー側のサンプリング、無線送信、再送、待機、ゲートウェイへの距離、周囲温度、交換可能な時間帯を一組で見積もる。DECT Forumはビーコン間隔と低消費電力のトレードオフを説明している。長く眠らせれば平均消費を下げられる可能性があるが、通知の即時性とは両立条件を確認する必要がある。部品メーカーには、用途に近いトラフィック、電池容量、温度条件、ファームウェア版での測定データを求める。
後付けしやすさには、取付金具、配線不要の範囲、電池交換スペース、センサー校正、機械振動、清掃薬品への耐性も含む。無線だけ通っても、センサーの測定値が品質管理に使えなければ事業価値は出ない。機種選定の前に測る点と記録先を設計する考え方は、既公開の工場IoTセンサー選定の記事ともつながる。
移動設備:遅延の平均ではなく悪い瞬間を見る
台車、電動モノレール、搬送治具、ロボットの周辺機器では、移動に伴い電波条件が連続して変わる。壁の前、金属ラックの間、人が集まる通路、設備の裏、基地局の境界で、受信品質とハンドオーバーを評価する。メーカーが「低遅延」「シームレス」と述べても、現場の制御周期を満たすかは別問題だ。遅延の平均値だけを合格基準にせず、悪い側の分布、連続欠落、復帰時間、再接続時の設備挙動を記録する。
安全関連信号を無線化する場合、無線リンクの宣伝文句だけで安全を主張してはいけない。機械のリスク評価、安全プロトコル、故障時の安全状態、システム全体の検証が必要になる。STRATUM 9の発表にはPROFISAFE透過伝送の説明があるが、個別設備の安全機能を自動的に認証する意味ではない。制御設計担当と設備メーカーを最初から評価に入れ、通信喪失時に減速、停止、保持のどれが正しいかを決める。

*図1:後付けセンサーと移動設備では、測るべき通信の失敗形が違う。*
タイでの導入可否:周波数とNBTCを発注前に確認
最も避けたい誤解は「欧州で免許不要のDECT帯だから、タイでも同じ条件で使える」という短絡である。Nordicの製品ページには1.9 GHz帯のライセンス免除を一般的な製品特長として記す箇所がある。しかし、その文章だけでタイの用途、出力、機種、輸入、設置・運用条件を確定できない。日本語の提案書に「タイでも無免許」と断定してはならない。
NBTCは2025年の公表で、1880〜1900 MHz帯をDECT技術に対応させる方針を述べている。その説明の中心にはイベントやコンサート向けの無線機器がある。また、NBTCの公開した意見募集資料にはDECT-2020 NRを参照する技術基準案が見える。案に記載された周波数や出力を、現行のあらゆる工場IoT用途への包括的な許可と読んではいけない。調達時点の最終告示、適用範囲、最新の運用条件を原文で照合する。
NBTCの型式認証検索ページで、実際に買うブランドと型番を調べる。候補ゲートウェイ、電池式端末、移動体端末は別の型番になり得る。輸入代理店には、製品ラベルの型番、無線モジュール、アンテナ、地域設定、送信帯域、最大出力、ファームウェア版、認証番号、輸入・販売に必要な書類をセットで提示してもらう。検索結果に見つからない場合も、ただちに「禁止」と断定せず、NBTCまたは認定試験機関・現地専門家に正規の申請経路を確認する。
さらに「認証されたモジュールを組み込めば完成品も自動的に承認される」とは考えない。筐体、アンテナ、出力設定、用途、表示などが変われば、完成品として別の確認が必要かもしれない。技術企画と法務・輸入担当が同じSKU表を使い、書類と物理サンプルの一致を確認する。もし用途や条件が合わないなら、試験用機材の扱いも含めて規制当局への確認が終わるまで現場で電波を発射しない。
調達前に販売者へ送る確認項目
| 確認項目 | 必要な回答・証拠 |
|---|---|
| タイ向けSKU | 正式型番、ハードウェア改訂、アンテナ仕様、ファームウェア版 |
| 電波条件 | 使用帯域・チャネル、最大送信出力、地域設定と固定方法 |
| NBTC適合 | 該当する認証番号・証明書、適用範囲、輸入・販売・使用条件 |
| 機能 | 端末数、スター/メッシュ、電池節約、移動時切替の版別対応表 |
| OT接続 | Ethernet、プロトコル、時刻同期、データ形式、欠測時動作 |
| 保守 | 更新手順、脆弱性対応、予備品、現地サポート、製品寿命 |
| 検証機 | 現場試験用の同一SKUと、採用後の供給見通し |
この表は行政上の許認可手順を代行するものではなく、発注で抜けやすい照合点の一覧である。規制の最終判断は最新のNBTC文書と個別製品情報に基づいて行う。
産業用ネットワーク構築で、既存方式と何を比較するか
DECT NR+は既存の工場無線LANやプライベート5Gを一律に置き換える候補ではない。現場が既にWi-Fi端末を大量に使い、IT側の運用・認証・監視が確立しているなら、まず無線LANのカバレッジとローミングの改善を測る方が合理的かもしれない。既公開の工場無線LANと産業用ネットワークの記事では、その設計論点を扱っている。
プライベート5Gには、利用できる帯域、端末エコシステム、事業者との役割分担、ネットワークコア、運用費といった独自の検討がある。タイ工場のプライベート5GとNBTCの記事も併読したい。DECT NR+の「非セルラー5G」という分類は、3GPP方式のプライベート5Gと同じ設備・SIM・制度を意味しない。ITU-RがETSI DECT 5G-SRITをIMT-2020の仕様に含めることと、ある工場の無線システムが自動的に適法・適合・高性能であることは別の話である。
比較表は技術名を横に並べるだけでは足りない。縦軸に「タイでの当該SKUの利用可否」「電池での実使用時間」「遮蔽区間の欠測」「移動境界での途絶」「OTプロトコル対応」「既存LANへの隔離接続」「現地交換品」「全期間コスト」を置く。各候補に同じアプリケーション負荷と同じ試験コースを与えると、宣伝値の違いではなく工程に必要な違いが見える。低頻度のセンサーと移動設備を一つの総合点にまとめず、用途ごとに採否を出す。
設備と情報の流れを先に描く
DECT NR+無線部を、センサーから業務アプリまでの全体図に置く。例えば、振動センサーの測定値は、端末、親機またはゲートウェイ、OT側の収集サーバー、履歴データベース、保全担当の画面へ進む。各境界でデータの時刻、単位、設備ID、品質フラグをどう維持するかを決める。欠測をゼロで埋めると「振動が消えた」と誤認するため、未取得を明示する設計が要る。
ゲートウェイは工場のOT LANへ入るので、管理ポート、更新経路、認証情報、ログ保存、リモート保守を決める。IPv6対応はDECT Forumが技術説明に挙げる特性だが、導入製品に必要なIP機能、セキュリティ設定、上位プロトコルが実装されているかは別に調べる。データがクラウドへ出る場合は、通信断時のバッファと再送、復旧後の重複処理も設計する。
移動設備では、無線ゲートウェイを既存Ethernetへつなぐ方式と、センサー値をアプリケーションへ上げる方式を分ける。前者は制御パケットの周期・順序・遅延が問題になり、後者はデータの完全性とイベント通知が問題になる。STRATUM 9製品が特定プロトコルの透過伝送をうたっていても、別メーカーのNR+製品に同じ機能があるとは限らない。RFPには「NR+対応」とだけ書かず、必要な接続経路と失敗時動作まで指定する。

*図2:端末からゲートウェイ、OT収集系までの境界と、欠測の扱いを確認する。*
電波受入試験は「良い場所」だけで終えない
試験前に合否を決める
PoCの開始前に対象設備、ルート、運転モード、負荷、試験期間を固定する。例えば稼働中と停止中、台車の空荷と積載、シャッター開閉、金属材料の在庫量を分けて記録する。数字を先に決める必要があるのは、後から良かった時間帯だけを抜き出さないためである。ただし本記事は汎用の遅延値やパケット到達率を合格ラインとして提示しない。許容値は、測定値の用途と設備の危険分析から顧客側が承認する。
試験表には最低限、端末ID、設置位置、測定時刻、ファームウェア版、送信設定、アプリケーション周期、ゲートウェイID、搬送位置、電源状態、エラー内容を残す。観測する結果は送受信の成否だけでなく、アプリまで届いた時刻差、連続欠測、再送回数、復旧時間、電池消費の傾向を含める。電波レベルのログとアプリケーションのログを同じ時計で突き合わせると、通信、ゲートウェイ、上位システムのどこで遅れたかを切り分けやすい。
工場のワーストケースを作る
固定センサーは、金属筐体内、モーター近傍、設備停止時と稼働時、床下または高所、ゲートウェイから遠い場所を選ぶ。移動体は、ラックの角、異なる建屋の境界、シャッター前、他車両とすれ違う地点、基地局切替地点を通す。反射や遮蔽の影響は図面だけでは決まらないため、実物の作業と材料配置で測る。
一回だけの通過で「問題なし」としない。通常の生産サイクルを複数回繰り返し、交替、清掃、搬入など配置の変わる時間帯を含める。これは全工場に共通の回数を規定する意味ではない。運用変化のうち通信に影響しそうなものを抽出し、再現可能な試験条件として記録するという意味である。測れなかった状態は「合格」ではなく「未評価」と表記する。
故障注入で復旧を確認する
端末の電源断、ゲートウェイ再起動、バックホール断、上位サーバーの一時停止、移動体の境界停止を安全な試験手順で再現する。通信が復帰したとき、失われたデータが識別できるか、重複登録を防げるか、アラームが消えずに残るかを確認する。機械の安全機能に関わる試験は設備メーカーと安全担当の承認した条件で実施する。
試験の結果を「平均遅延は良好」と一文でまとめない。用途ごとに合格・条件付き・不合格・未評価を示し、残課題の責任者と是正後の再試験範囲を明記する。候補が不適合ならアンテナやゲートウェイ位置、通信周期、別方式を比較し直す。設備を止められない工場ほど、調査と施工を段階化する計画が重要になる。

*図3:搬送ルートの遮蔽点とセル境界を通り、途絶と復帰を記録する。*
失敗を防ぐ発注・導入の順番
第一段階は机上の適合確認である。工程とデータ用途、候補SKU、NBTCに関わる資料、調達可能時期を一枚の表にする。この時点で制度や供給に明確な障害があれば、現場施工を含む高額なPoCへ進まない。無線LANなど既存手段で要件を満たせるかも同時に確認する。
第二段階は小規模の現場試験である。実際の端末とゲートウェイを使い、固定センサーの代表地点と移動設備の難所を選ぶ。PoC機が量産機と違う場合は差分を記録し、量産SKUで再確認する条件を契約に入れる。試験中は他の設備に干渉しないよう運用担当と時間・出力・設置場所を調整する。
第三段階は限定運用である。アラームの二重化、既存有線経路の維持、欠測時の手作業など、工場が許容できる退避策を持つ。保全、IT、OT、設備メーカー、輸入販売者が同じ障害連絡先と版管理表を使う。電池交換やファームウェア更新の作業時間まで積算し、調達価格だけで投資判断をしない。
第四段階は展開判定である。試験と限定運用の結果を、あらかじめ定めた用途別の合否基準に照らす。タイでの規制確認書類と、実機の型番・設定の一致も再点検する。設計変更でアンテナや出力が変われば認証上の扱いを再確認する。展開後も無線品質と電池の実績を監視し、設備移設やラック増設があれば再測定する。
調達仕様書に「技術名」ではなく検証可能な条件を書く
見積依頼で「DECT NR+ゲートウェイ一式」とだけ指定すると、販売者ごとに異なる前提の提案が並ぶ。比較に必要なのは、端末と親機の役割、設置場所、利用する地域設定、アンテナとケーブルの構成、上位ネットワークへの接続方法、必要なプロトコル、電源、保守範囲である。無線部品のメーカー名が同じでも、製品としてのファームウェア、筐体、アンテナ、サポートの条件は違う。評価機の写真と量産品の部品表を突き合わせ、どの部材が変更可能かを確認する。
見積書は機材費だけでなく、現地調査、認証・輸入に必要な確認、試験機の貸与、設置工事、OT側の設定、ログ収集、受入試験、教育、障害対応を分けて記載してもらう。通信の問題でライン停止が起きた場合、無線ベンダーと設備メーカーのどちらが現場で一次切り分けをするかも合意しておく。故障後に責任範囲を議論するより、調達段階でログの保管先とエスカレーション経路を決める方が早い。
供給継続性も確認する。初回PoCに使った型番が本番展開時に終売したり、更新により電波特性が変わったりすると、試験結果をそのまま横展開できない。交換品の型番互換、ファームウェアの支援期間、地域設定の固定方法、セキュリティ更新の手順を契約に入れる。相互接続性については「同じ標準」と「異なるメーカーの端末が当該版で接続できる」を分け、必要なら組み合わせ試験を発注条件にする。DECT Forumが説明する認証プログラムの進捗を確認しつつ、現時点の対象範囲を推測で広げない。
検収条件の書き方
「通信が安定する」では、検収時の判断が人によって変わる。固定センサーなら、対象地点、データ送信周期、欠測の記録方法、アラームの到達期限、電池交換計画を列にする。移動設備なら、ルート、速度帯、積載状態、切替地点、通信断時の設備動作、再開手順を列にする。合格閾値は現場の要求から書き、試験時間と運転条件も同時に指定する。未測定の条件が残る場合、限定運用の範囲と再試験期限を明確にする。
電池と通信の両立を、運用コストとして計算する
電池式センサーは「配線工事が減る」だけで採用すると、後で交換作業が増えることがある。センサー点数が増えるほど、巡回と足場の費用、交換時の設備停止、廃電池処理が効いてくる。電池寿命の評価では、最低温度と高温の時間、測定回数、送信回数、再送が多い区画、アラーム頻度を分けて記録する。試験開始時の新品電池だけで判断せず、電圧低下時に端末がどのように警告するかも確認する。
ビーコンやスリープの設定が電池消費を下げる可能性はある。しかし、異常を早く知る要求が強ければ、眠る時間を短くする必要があるかもしれない。「年単位で動く」という表現よりも、使用条件を添えた電流測定と計算表が役に立つ。測定しない限り、工場の金属遮蔽による再送増加を織り込めない。電池交換を保全計画へ入れるときは、交換する人、入場できる時間、交換後の校正・再接続確認まで工数に含める。
端末の通信が止まったときに、上位画面が最後の正常値を新しい測定として表示し続ける設計は危険である。各データに取得時刻と鮮度を付け、期限を超えた値は「古い」「未取得」と示す。電池残量と通信品質は測定値そのものとは別に監視する。こうしたデータ設計は無線方式に関係なく重要だが、後付けセンサーが大量に増える場面では特に見落としやすい。
試験で見えた不具合を分類して対策につなぐ
欠測が出た場合、「無線が弱い」と一括りにせず、端末の測定処理、送信待ち、空中の再送、ゲートウェイ、OTネットワーク、アプリケーション処理を順に確認する。電波レベルが良くても、ゲートウェイのバッファが埋まればデータは遅れる。逆にアプリケーションの表示が遅くても、無線区間は正常かもしれない。部品ごとの時計がずれていると原因が誤認されるため、試験前に時刻同期とログ形式を決めておく。
通信の不具合は場所と時間の組み合わせでも整理する。特定の金属ラック付近だけならアンテナ配置や経路を疑う。交替時間や搬入時間に集中するなら、人や車両、在庫の変化を調べる。端末全体で同時に起きるなら、親機の電源やバックホールを調べる。ファームウェア更新後に起きるなら、版と設定差分を確認する。こうした分類表があると、設備側・無線側・IT側の議論が同じ事実から始まる。
対策を加えた後は、変更箇所だけを軽く測って終えない。ゲートウェイ増設である区画が良くなっても、隣の区画の切替や電池消費が変わる可能性がある。PoCの合否基準を維持したまま、関連するルートと端末群を再測定する。対策前後の設定、写真、ログ、結果を残し、本番で設備レイアウトが変わったときの基準資料にする。
現場で使える受入試験記録の例
試験記録は、結果の良し悪しだけでなく、後から同じ条件を再現できるかで価値が決まる。冒頭に工場名、建屋、設備番号、試験日、責任者、立会者を記す。次にセンサーとゲートウェイの型番、シリアル番号、アンテナ、設置高さ、電源、ファームウェア版、地域設定を固定する。図面に端末の位置と搬送ルートを書き、試験日に動いていた設備や材料の位置を写真で補う。机上の電波設計図だけでは、稼働時の工場を再現できない。
各測定ケースに「何を起こすか」「何を測るか」「どの値なら合格か」「異常時に設備をどう守るか」を記す。固定センサーなら、通常送信に加え、温度上昇や振動しきい値の模擬イベントを発生させる。移動体なら、通常走行、停止、再発進、基地局の境界での往復を含める。データを受けるアプリケーション画面と無線側ログの両方を保存し、同じイベントを追跡できる識別子を付ける。
一つのケースで失敗したら、現場で原因を推測して設定を変える前に、まず元の設定とログを保存する。設定を変えた場合は別の試験ケースとして番号を振る。複数変更を一度に行うと、何が効いたのか分からない。合格後も、未実施の運転条件や規制確認が残るなら、その項目を明記して展開の停止条件とする。検収書は技術者だけで閉じず、工程責任者がデータ用途と停止時の運用を理解した上で承認する。
セキュリティと保守を無線の性能試験と同じ計画に入れる
工場の無線端末は、測定値を送るだけの小さな機器でも、長期にわたりOTネットワークの入口になる。候補製品には、端末登録の方法、管理者権限の分離、初期認証情報の変更、暗号化の設定、鍵の更新方法、盗難・紛失した端末の失効手順を確認する。セキュリティ機能は標準の説明ではなく、購入する製品とファームウェアで有効にできることを確認する。
ゲートウェイの管理画面を工場の一般端末から開ける構成は避け、OT側の管理経路とログ送信先を定める。外部保守が必要なら接続する時間、担当者、作業記録、停止手順を決める。更新で無線設定や通信周期が変わる可能性があるため、ファームウェア更新後は代表的な電波・アプリケーション試験を再実施する。脆弱性対応の期限を守るために、予備機と設定バックアップの手順も用意する。
電池式端末では、交換した端末が誤った設備IDで登録されることも実務上のリスクになる。設備銘板、端末ラベル、台帳、上位アプリのIDを一つの作業票で照合する。移動体では、保守後にアンテナの向きが変わるだけでも通信条件が変わり得る。設置写真と点検項目を残して、通常の設備保全の中で確認できるようにする。こうした運用設計まで含めて初めて、実験室で通った無線を工場の日常業務へ移せる。
よくある質問
DECT NR+とは何ですか。工場向けプライベート5Gと同じですか?
DECT-2020 NRを使う非セルラーの無線技術で、ETSIが標準化し、ITU-RのIMT-2020仕様に含まれる。3GPP系のプライベート5Gと同じ構成・端末・制度だと考えない。実際の選定では、技術名よりも候補製品の対応機能、タイの使用条件、工程での測定結果を比べる。
DECT NR+ 工場IoT導入で、タイの1.9 GHz帯は免許不要ですか?
欧州向けの「license-exempt」という製品説明をタイへそのまま転用しない。NBTCは1880〜1900 MHzでDECT対応を公表しているが、工場IoTの個別用途・製品・出力・輸入・運用条件は、発注時点の最終告示と型式認証情報で確認する。判断に迷う機種はNBTCまたは現地の認定専門家へ照会する。
後付け電池センサーなら必ず長寿命になりますか?
ならない。送信頻度、異常通知の要求、再送、温度、電池容量、ファームウェア設定で変わる。ビーコン間隔を延ばせば待機電力を抑えられる可能性がある一方、遅延の要件との調整が要る。候補機の条件付き測定データと、現場の消費実績で交換計画を立てる。
移動設備でPROFINETやPROFISAFEを使えますか?
STRATUM 9は自社の産業用ゲートウェイについて透過伝送とハンドオーバーを発表している。すべてのNR+機器の機能ではない。購入するSKU・ソフトウェア版の対応を文書で取り、設備メーカーと現場試験で確認する。安全機能の成立は無線リンクだけでなく、機械全体の安全設計と検証で判断する。
工場内の受入試験は何を測ればよいですか?
用途に応じて、アプリケーションまでの遅延分布、連続欠測、復帰時間、移動中の切替、電池消費を測る。製造条件と端末・ゲートウェイの版を必ず併記する。合格値は工程側で先に承認し、試験で観測しなかった状態は未評価とする。
まとめ
DECT NR+は、電池式の後付けセンサーや移動設備で検討に値する新しい選択肢である。2026年秋には商用エコシステムの発表が進み、11月のDECT Worldも予定されている。しかし、導入可否は「新しい規格だから」では決まらない。タイの周波数・型式認証・用途を実機単位で確かめ、メーカーの版別機能を確認し、操業中の工場で用途別の受入試験を行うことが、発注判断を強くする。
TOMAS TECHでは、既設設備のセンサー後付け、OTネットワークへの収集経路、現場試験項目の整理をお手伝いしています。方式を決める前の段階でも、お問い合わせから対象設備と測りたいデータをご相談ください。