工場や倉庫で「フォークリフトが来ない」「呼んでも誰が動いているのか分からない」という声は、生産量が増えるほど大きくなります。フォークリフト呼び出しシステムは、搬送を依頼する側と実際に車両を走らせる側のあいだにある情報の空白を埋める仕組みです。無線のコールボタンから、スマートウォッチへの通知、倉庫管理システムと連動した自動割当まで選択肢は幅広く、どこまで作り込むかで費用は十数倍の開きが出ます。本記事では、タイで工場や倉庫を運営する日系企業の視点から、選定の考え方と導入の順序を整理します。
フォークリフト呼び出しシステムとは何か
フォークリフト呼び出しシステムとは、現場のどこかで発生した「運んでほしい」という要求を、フォークリフトのオペレーター(リフトマン)に確実に届け、誰が対応するかを決めるための仕組みの総称です。特定の製品名ではなく、押しボタンと表示灯だけの構成から、倉庫管理システムと連動して次に行くべき場所を自動で指示する構成まで、幅の広い言葉として使われています。
現場で起きている問題は、突き詰めると三つに分かれます。一つ目は、依頼が届かないこと。ラインの作業者が声を出しても、エンジン音や設備の稼働音のなかでは届きません。二つ目は、届いても誰が対応するか決まらないこと。無線機で一斉に呼びかけると、全員が「誰かが行くだろう」と考えて誰も動かない、あるいは複数台が同じ場所に集まる、という状態が起きます。三つ目は、対応したかどうかが依頼側に返らないこと。依頼した作業者は、来るのか来ないのか分からないまま、ラインの横で待つことになります。
呼び出しシステムは、この三つのうちどこを解くのかで構成が変わります。逆に言えば、「うちの現場が困っているのはどれか」を先に決めないまま製品を比較すると、機能はあるのに使われない設備が増えるだけになります。
一般的な呼び出しシステムとの違い
工場向けの呼び出しシステム全般については、工場の呼び出しシステムの選び方をまとめた記事で基本的な構成と選定軸を解説しています。品質不良のときに検査員を呼ぶ、部品が切れたときに供給担当を呼ぶといった用途は、呼ぶ相手が固定的で、呼ばれる側も比較的決まった場所にいます。
フォークリフトの呼び出しがそれらと違うのは、呼ばれる側が常に移動しているという点です。リフトマンは倉庫と工場を行き来し、荷役中は運転席を離れることもあります。固定の表示灯を見に行くことも、事務所に指示書を取りに戻ることも、そのたびに走行が発生します。さらに、フォークリフトは重量物を持って構内を走る車両であるため、通知の受け取り方そのものが安全に直結します。走行中に画面を注視させる設計は、それ自体が事故の原因になります。
呼び出しの三つの型
呼び出しの発生源で分けると、次の三つになります。
一つ目は「人が呼ぶ」型です。ラインの作業者やトラックドライバーがボタンを押す、あるいは端末から依頼を出します。もっとも導入しやすく、現場の納得も得やすい形です。
二つ目は「設備が呼ぶ」型です。完成品のパレットが満杯になったことをセンサーが検知し、自動的に引き取り依頼を出します。人が押す手間が消える一方、センサーの設置と閾値の調整が必要になります。
三つ目は「システムが割り当てる」型です。倉庫管理システムや生産管理システムが持っている入出庫予定・工程進捗をもとに、まだ誰も呼んでいない段階で搬送タスクを生成し、位置と状態から最適な車両に割り当てます。もっとも効果が大きい代わりに、上位システムとの連携設計が必要になります。
なぜフォークリフトの呼び出しが現場のボトルネックになるのか
構内物流は、生産量が増えても人員が比例して増えるわけではないため、真っ先に詰まる工程です。日立が構内物流の課題を整理した記事でも、レイアウトが長年変わっていない工場や、生産量の増加でモノの流れが複雑化した工場では、「運ぶ」という作業そのものがボトルネックになりやすいと指摘されています。
このボトルネックは、三種類の時間として表面化します。
一つ目は、依頼側の待ち時間です。パレットが満杯になってから引き取られるまでのあいだ、その工程は次の製品を置く場所を失います。二つ目は、リフトマン側の空走行です。呼ばれた場所へ向かい、荷を降ろし、次の呼び出しがないので待機場所に戻る、という往復が積み上がります。三つ目は、探す時間です。どのパレットがどこにあるか分からないまま倉庫内を回る時間は、記録にも残らないまま消えていきます。
位置情報を使った動線分析の事例では、特定エリアへの長時間滞在は作業待ちの可能性、複数エリアにまたがる滞在は移動時間が多い可能性として読み解けるとされています。同じ分析を行ったフォークリフト生産工場では、動線と待ちの重なりを解消することでフォークリフトの稼働台数を約30パーセント削減できたと報告されています。呼び出しの仕組みを整えることは、車両を増やさずに搬送能力を上げる、もっとも安い手段になり得ます。
呼び出しシステムを三つの層で整理する

製品を横並びで比較する前に、機能を層として整理しておくと判断が速くなります。本記事では、フォークリフト呼び出しシステムを次の三層に分けて扱います。
| 層 | 何をする層か | 代表的な機器 | 解けること | 解けないこと |
|---|---|---|---|---|
| 層1 発信・表示層 | 呼び出しを発生させ、その場に見える形で示す | 無線コールボタン、パトライト、番号表示器 | 依頼が届かない問題 | 誰が対応するかの決定 |
| 層2 個人通知層 | 呼び出しを移動中の個人に届け、応答を返す | スマートウォッチ、業務用スマートフォン、車載端末 | 移動中に気づかない問題 | 依頼の優先順位付け |
| 層3 タスク割当層 | 依頼をタスク化し、車両の位置と状態から割り当てる | WMS/MES連携、車載端末、位置測位 | 誰が行くかの決定と空走行 | 現場の運用ルールの不在 |
この三層は積み上げの関係にあり、層2だけ、層3だけを単独で導入しても機能しません。呼び出しが発生しないところに通知は流れず、通知が届かないところに割当も届かないためです。以下では層ごとに、実際の機器と費用感、そして限界を見ていきます。
層1 無線コールボタンとアンドン表示
もっとも導入が速いのが、電池駆動の無線コールボタンと、それを受ける表示灯・ブザーの組み合わせです。配線工事が不要なため、既存の建屋に後付けできます。
日本国内で流通している低価格帯の無線呼出システムの例では、工場内の基本通信距離は約50メートル、中継機を追加すると1台につき30メートル延長でき、中継機は4台まで追加できるとされています。機器の価格例としては、防水コールボタンが2,200円、ナンバー表示器が7,000円、フラッシュチャイムが6,950円、中継機が7,800円といった水準です。いずれも日本国内での税込価格の一例であり、タイで調達する場合は輸入コストや現地代理店の価格体系が加わります。
実際の運用例として、倉庫のトラックバースに到着したドライバーがリフトマンを呼ぶ用途があります。ある物流事業者の事例では、約60メートル×50メートルの倉庫内でリフトマンが頻繁に移動する環境に対し、入口と事務所に送信機、倉庫内に受信機とパトライトブザーを設置しました。送信機を長押しすると番号が送信されてブザーが鳴り続け、再度の長押しで消える構成です。ボタンを押すだけで対応者を呼べるようになったことで、作業効率のムラがなくなったと報告されています。
海外製では、押しボタンユニットと信号灯を無線でつなぐ方式が製品化されており、各ボタンユニットは電池駆動にも対応するため、フォークリフトやけん引台車といった移動体に取り付けて単独のシステムとして使えるとされています。フォークリフトの運転者が自分のボタンユニットを押して、信号灯を介さずに他のユニットへ状態を報告する使い方も想定されています。
層1の限界
層1は「呼び出しが発生したこと」を見える化する層です。裏を返すと、その呼び出しに誰が応じるかは決まりません。表示灯が見えない位置にいるリフトマンには届かず、複数の呼び出しが同時に立つと、どれを先に処理すべきかも分かりません。層1だけで運用する場合は、担当エリアをあらかじめ人に紐づけておく必要があります。エリア制で回せる規模の現場であれば、層1だけでも十分に効果が出ます。
層2 スマートウォッチと車載端末への個人通知
層2は、呼び出しを移動中の個人に届ける層です。腕時計型の端末に文字と振動で通知する仕組みは、騒音の大きい製造現場で「連絡しても気がつかない」「誰が対応するのかはっきりしない」という課題に対して使われてきました。振動で気づき、画面で誰宛てかを確認し、ボタンで受諾を返す、という一連の流れが片手で完結します。
ウェアラブル端末そのものの選定については、製造現場でのスマートウォッチ活用をまとめた記事で、バッテリーや装着性を含めた検討ポイントを解説しています。フォークリフト運用に特有の注意点としては、次の三つを押さえておきたいところです。
第一に、走行中に操作させない設計にすることです。通知は振動と単純な色・記号までにとどめ、内容の確認と受諾は停車後に行う運用ルールとセットにします。第二に、手袋をしたまま操作できることです。タッチ操作の感度と、物理ボタンの有無を実機で確認します。第三に、充電の運用です。二交替・三交替であれば、交替のタイミングで端末ごと引き継ぐのか、個人持ちにして各自が充電するのかを最初に決めておかないと、電池切れの端末が現場に残ります。
車載端末を使う選択肢もあります。フォークリフトに搭載するタブレット型端末の製品例では、10.1型のタッチパネルに無線LANを備え、ロングレンジスキャナーやRFIDリーダーと連動する構成が紹介されています。この構成では、従来は紙の指示書を事務所へ取りに行っていた往復がなくなり、事務所からの指示がリアルタイムに現場へ配信されます。作業完了と同時に進捗が報告されるため、管理側は常に現場と連動した状況を見られます。さらに、運転席から3メートル離れた位置からコードを読み取れるため、降車の手間そのものが減ります。
腕時計型と車載端末は排他ではありません。車載端末は情報量が多く荷役作業と相性が良い一方、運転席を離れているときには見えません。腕時計型はその弱点を埋める補完として位置づけると、投資の意味が説明しやすくなります。
層3 WMS連携による搬送タスクの自動割当
層3は、呼び出しを「タスク」として扱い、システム側が割り当てる層です。倉庫管理システムや生産管理システムは、入出庫予定、在庫の所在、工程の進捗といった情報をすでに持っています。これらを起点にすれば、人が呼ぶ前に搬送タスクを生成できます。
自動割当を成立させるには、システム側が三つの情報を持っている必要があります。一つ目は、搬送タスクの内容、つまりどこからどこへ何を運ぶかです。二つ目は、車両の位置です。三つ目は、車両の状態、すなわち空車なのか実車なのか、荷役中なのかという区別です。このうち二つ目と三つ目が抜けやすく、結果として「タスクは自動生成されるが、割当は結局人が電話で調整している」という中途半端な状態に陥りがちです。
位置の取得方式には複数の選択肢があります。無線LANを使う方式ではアクセスポイントを20メートルから30メートル間隔で設置する構成が、超音波を使う方式では固定局を5メートル間隔で設置する構成が例として挙げられています。このほか、UWBや歩行者自律航法を組み合わせる方式もあります。測位精度を上げるほど設置密度が上がり、費用も上がるため、必要な精度は「どのエリアにいるか分かれば足りるのか、どの棚の前にいるかまで必要なのか」で決めるべきです。フォークリフトの呼び出し用途であれば、多くの場合はエリア単位の精度で足ります。
状態の取得は、車載端末での操作から取るのがもっとも確実です。荷を持ち上げたとき、降ろしたときに端末で確定させれば、空車と実車の切り替わりが記録されます。センサーを使って自動化することもできますが、初期段階では端末操作から始めて、運用が定着してから自動化を検討するほうが失敗が少なくなります。
必要なセンサーの選び方については、工場向けIoTセンサーの選定をまとめた記事も参考にしてください。
フォークリフト特有の論点 — 走行動線と安全

呼び出しの効率だけを追いかけると、安全の観点が抜け落ちます。フォークリフトは重量物を持って構内を走る車両であり、呼び出しの設計は走行動線の設計と切り離せません。
日本産業車両協会が厚生労働省の労働災害統計から取りまとめた集計では、2023年のフォークリフトに起因する死傷災害は1,989件、そのうち死亡災害は22件でした。事故の型別で見ると、死傷災害ではさまれ・巻き込まれが35.4パーセント、激突されが27.3パーセント、墜落・転落が11.9パーセントを占めています。呼び出しの設計が直接関わるのは、このうち激突されの領域です。
呼び出しシステムを入れることで、走行が増える方向にも減る方向にも動き得ます。増える方向とは、呼び出しが細かく発生し、そのたびに車両が単発で往復するようになる場合です。減る方向とは、複数の依頼をまとめて一巡で処理できるようになる場合です。同じシステムでも、割当のルール次第で構内の走行距離は逆方向に動くという点は、導入前に必ず意識しておくべきところです。
安全側で押さえるべき設計上のポイントは次の通りです。
呼び出しの受け取りは、停車状態でのみ内容を確認する運用にします。通知そのものは走行中でも届いてよいのですが、詳細の確認と受諾は停止後です。
呼び出し元の位置は、エリア単位で示します。細かい座標を画面で追わせると、運転者の視線が画面に向きます。
歩行者と交差する動線には、呼び出しを集中させないようにします。動線分析で交差点が特定できているなら、その手前を待機場所にしないだけでも接触リスクは下がります。
複数台が同じ呼び出しに向かうことを防ぎます。層1だけの運用で起きやすい問題で、受諾の仕組みがない場合はエリア担当制で補います。
タイでの運用では、資格と教育の管理も呼び出しの設計に影響します。タイにはフォークリフト運転者に対する政府発行の免許制度がなく、労働安全衛生法(OSH Act B.E.2554、西暦2011年)と、機械・クレーン・ボイラーに関する省令(B.E.2564、西暦2021年)の第4章第40条にもとづき、事業者が各オペレーターを訓練し、能力を評価し、認定する責任を負う枠組みが取られています。所管は労働保護福祉局です。この枠組みのもとでは、誰がどの車両を運転してよいかという情報を事業者側が持っていることになります。呼び出しシステムの割当ロジックに、この資格情報を突き合わせておけば、無資格者に搬送タスクが飛ぶ事態を仕組みとして防げます。
アンドンとの関係をどう整理するか
呼び出しシステムを検討していると、必ずアンドンとの関係が論点になります。アンドンはもともと、ラインの異常を色と位置で見える化する仕組みであり、アンドンシステムの基本と導入をまとめた記事で詳しく扱っています。
両者の関係は、次のように整理すると混乱しません。アンドンは「状態を見せる」仕組みで、呼び出しは「動いてほしい相手を決める」仕組みです。アンドンの表示だけでは、誰が対応するかは決まりません。逆に、呼び出しだけでは、いま構内で何件の依頼が滞留しているかという全体像が見えません。
実務上は、既存のアンドンがある工場であれば、そこに搬送要求の表示を1色追加するところから始めるのが現実的です。新たに設備を増やさずに層1が成立し、既存の朝礼や日々の管理サイクルにも乗せやすくなります。搬送要求を独立した色として分けておけば、後から層2・層3を追加するときの信号源としてもそのまま使えます。
呼び出しの粒度と運用ルールの設計
システムの選定よりも失敗しやすいのが、運用ルールの設計です。次の五つは、機器を選ぶ前に決めておくべき項目です。
誰が呼べるのかを決めます。全作業者が呼べる設計は自由度が高い一方、呼び出しが乱発されて優先順位が失われがちです。工程のリーダーに限定するのか、全員に開放するのかは、現場の成熟度で決めます。
何を呼び出しの単位にするかを決めます。パレット1枚単位なのか、工程1つ分をまとめて1件とするのかで、1日の件数が数倍変わります。件数が変われば、必要な通知端末の数も、割当ロジックの複雑さも変わります。
応答期限を決めます。呼び出しから何分以内に受諾されるべきかを決めておかないと、システムは呼び出しを記録するだけの装置になります。期限を決めて初めて、超過が例外として見えるようになります。
エスカレーションの経路を決めます。期限を超えた呼び出しをどこに上げるのか、班長の端末なのか事務所の一覧画面なのかを決めます。ここが空白だと、超過は誰にも気づかれません。
取り消しの方法を決めます。押し間違いや、状況が変わって不要になった呼び出しを消す手段がないと、現場は表示を無視するようになります。呼び出しを消せない仕組みは、必ず形骸化します。
タイの工場・倉庫で導入する際の実務ポイント
タイで導入する場合に、日本とは前提が異なる点をいくつか挙げます。
まず、表示と通知の言語です。現場のオペレーターはタイ語話者が中心で、管理側に日本語話者や英語話者が混じります。文字による通知を採用する場合、翻訳の管理が運用負荷になります。番号と色を主、文字を従にした設計にしておくと、言語の追加や入れ替えに強くなります。層1の番号表示器が現場で長く使われ続けているのは、この特性によるところが大きいと言えます。
次に、電波環境です。金属ラックが密に並ぶ倉庫や、大型設備が並ぶ工場では、電波の減衰と干渉が発生します。層1の無線コールボタンの通信距離が仕様値どおりに出ない前提で、中継機の追加余地を見込んでおきます。無線LANによる位置測位を検討する場合も、既存のアクセスポイント配置がそのまま流用できるとは限りません。
三つ目は、自動化との接続です。市場調査会社の予測では、タイの自律走行フォークリフト市場は2026年の1億100万米ドルから2031年には3億1,700万米ドルへ拡大し、年平均成長率は17.8パーセントとされています。同じ期間の世界全体の年平均成長率は9.7パーセントと予測されており、タイの伸びはその約2倍の水準です。将来的に無人フォークリフトを一部エリアに導入する可能性があるなら、呼び出しのタスク情報を、人が運転する車両と自動搬送車の双方に配れる形で持っておくほうが、後の移行が楽になります。
四つ目は、体制の引き継ぎです。オペレーターの入れ替わりがある前提で、呼び出しの運用ルールを紙1枚で説明できる形にしておきます。ルールが属人化していると、担当者の異動と同時に運用が崩れます。
モデルケースで見る導入費用と効果の試算
ここからは、架空の想定企業を使って費用と効果の関係を整理します。以下の数値は実在の統計や調査結果ではなく、本記事のための独自試算である点をあらかじめお断りします。
想定するのは、タイ東部に工場と併設倉庫を持つ日系電子部品メーカーの「G社」です。フォークリフトは8台、リフトマンは2交替で合計10名。搬送の依頼は内線電話と口頭で行われ、リフトマンは無線機の一斉呼び出しで動いています。1日あたりの搬送依頼はおよそ120件、依頼から着荷までの平均待ち時間は12分という設定です。
| 導入範囲 | 主な機器 | 機器費の累計 | 設計・設定の工数の累計 | 費用合計の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 層1のみ | コールボタン10台、受信表示器2台、中継機2台 | 30,000 THB | 2人日 | 90,000 THB から 130,000 THB |
| 層2まで | 上記に加えスマートウォッチ10台と通知連携 | 100,000 THB | 10人日 | 400,000 THB から 600,000 THB |
| 層3まで | 上記に加え車載端末8台とWMS連携 | 340,000 THB | 35人日 | 1,390,000 THB から 2,090,000 THB |
工数費はシステムインテグレーターのSE単価を1人日あたり30,000 THB から 50,000 THB と仮定した独自試算で、機器の実費とは別建てです。表の機器費と工数はその行までの累計であり、層2で積み増す分だけを見ると機器費70,000 THBと工数8人日、層3で積み増す分だけを見ると機器費240,000 THBと工数25人日という内訳になります。
効果側の試算は、層ごとに切り分けて置きます。
| 導入範囲 | 平均待ち時間 | 1件あたり短縮 | 1日あたりの待ち時間削減 |
|---|---|---|---|
| 導入前 | 12分 | — | — |
| 層1のみ | 8分 | 4分 | 480分(8時間) |
| 層2まで | 6分 | 6分 | 720分(12時間) |
| 層3まで | 5分 | 7分 | 840分(14時間) |
層ごとに短縮の理由が違う点が重要です。層1では、呼びに行く手間と探す時間が消えます。層2では、リフトマンが移動中でも呼び出しに気づけるようになり、受諾が返ることで依頼側の不確実性が減ります。層3では、次に行くべき場所がシステム側で決まるため、依頼の取り合いと待機場所への戻りが減ります。
層3にはもう一つ、待ち時間とは独立した効果があります。空走行の削減です。この試算では、車両1台あたり1日15分、8台で合計120分(2時間)の空走行が減る想定を置いています。これは搬送の順序が最適化されることによる効果であり、依頼側の待ち時間の短縮とは別の経路で発生します。
試算の前提が甘い可能性も見ておきます。仮に待ち時間の短縮幅が想定の半分にとどまった場合、層3まで導入したときの削減は1件あたり3.5分、1日あたり420分(7時間)となります。ただし、この係数は待ち時間の短縮にのみかかるもので、空走行の削減120分は搬送順序の変更から生じる効果であるため、この係数の影響を受けません。感応度を見るときに、性質の違う効果へ一律に係数を掛けると、結論を必要以上に悲観的にしてしまいます。
段階的な導入ステップ

一度に三層を作り込む必要はありません。次の順序で進めると、投資の判断を挟みながら前に進められます。
第一段階は、現状の可視化です。1週間から2週間、搬送依頼の発生時刻、依頼元、対応したリフトマン、着荷時刻を紙で記録します。この段階では設備投資は発生しません。ここで、1日あたりの依頼件数と待ち時間の分布、そして待ちが集中する時間帯と工程が分かります。この記録がないまま製品選定に入ると、効果の検証ができなくなります。
第二段階は、層1の限定導入です。待ちが集中している工程だけにコールボタンと表示灯を入れ、エリア担当制で回します。1か月ほど運用すれば、記録した待ち時間と比べて効果が確認できます。ここで効果が出ないなら、問題は呼び出しではなく車両台数やレイアウトにあるということなので、投資先を変える判断ができます。
第三段階は、層2または層3への拡張です。層1で待ちが減ったものの、リフトマン側が呼び出しに気づけないことが残課題であれば層2へ、依頼の優先順位付けと空走行が課題であれば層3へ進みます。既存のWMSがある場合は、まず参照だけの連携から始め、割当の自動化はその後に回すと、システム側の改修範囲を小さく抑えられます。
よくある失敗
呼び出しシステムの導入で繰り返し見られる失敗を挙げます。
一つ目は、通知先を全員にしてしまうことです。全リフトマンの端末が同時に鳴る設計は、無線機の一斉呼び出しを電子化しただけで、誰も動かない状態は解消されません。受諾の仕組みか、エリア担当制のどちらかを必ず組み込みます。
二つ目は、応答期限を決めないことです。期限がないと、遅延が例外として浮かび上がらず、記録は蓄積されるだけになります。
三つ目は、取り消しと完了の操作を設計しないことです。呼び出しが消えないと表示が飽和し、現場は表示を見なくなります。
四つ目は、走行中の操作を前提にしてしまうことです。安全面のリスクに加え、現場が「危ないから使わない」と判断すれば、投資はそのまま無駄になります。
五つ目は、位置測位の精度を過剰に求めることです。棚単位の精度が必要なのは在庫管理の要件であって、呼び出しの割当にはエリア単位で足りる場面が多くあります。要件を混ぜると費用だけが膨らみます。
六つ目は、既存のアンドンや無線機との役割分担を決めないまま新しい仕組みを足すことです。現場に「呼ぶ手段」が三つあると、結局はもっとも慣れた手段だけが使われます。
よくある質問
フォークリフト呼び出しシステムとは?
工場や倉庫で発生した搬送の要求を、フォークリフトのオペレーターに確実に届け、誰が対応するかを決めるための仕組みの総称です。無線のコールボタンと表示灯だけの構成から、倉庫管理システムと連動して搬送タスクを自動で割り当てる構成まで幅があります。特定の製品カテゴリを指す言葉ではないため、比較検討の際は「どの層の機能を求めているのか」を先に決める必要があります。
導入費用はどのくらいかかりますか?
構成によって大きく変わります。本記事の独自試算による想定企業のモデルケースでは、無線コールボタンと表示灯だけの層1構成が90,000 THB から 130,000 THB、スマートウォッチ通知を加えた層2構成が400,000 THB から 600,000 THB、WMS連携の自動割当まで含めた層3構成が1,390,000 THB から 2,090,000 THB という水準になりました。機器の実費に加えて、設計・設定の工数費が費用の大半を占める点に注意が必要です。
既存の無線機やトランシーバーでは足りませんか?
一斉に呼びかけて全員が聞ける点は無線機の強みですが、誰が対応するかが決まらない、記録が残らない、応答期限の管理ができない、という三点が構造的な弱点です。呼び出しの件数が少なく、リフトマンが2名から3名で互いの動きが見える規模であれば、無線機で十分機能します。件数が増え、誰が動いたか分からない場面が出てきた時点が、システム化の検討時期です。
走行中に通知を受け取らせても安全ですか?
通知の受信自体は走行中でも問題ありませんが、内容の確認と受諾操作は停車後に行う運用ルールとセットにするべきです。振動と単純な色や記号までを走行中に伝え、詳細は停止してから見る、という切り分けが基本です。細かい座標を画面上で追わせるような設計は、運転者の視線を画面に向けさせるため避けます。
WMSがなくても導入できますか?
層1と層2は、WMSがなくても単独で導入できます。層3の自動割当は、搬送タスクの元になる情報を持つシステムが必要になるため、WMSまたは生産管理システムとの連携が前提になります。WMSの導入を将来的に検討している場合は、層1・層2の段階から呼び出しの記録を残しておくと、後でタスク定義を設計する際の実データとして使えます。
タイの現場に導入する際の注意点は何ですか?
表示と通知を番号と色を主体にして、文字への依存を下げておくことが実務上有効です。オペレーターの多くはタイ語話者で、管理側に日本語話者と英語話者が混じるため、文字中心の設計は翻訳の維持が負荷になります。また、タイにはフォークリフト運転者への政府発行の免許制度がなく、事業者が訓練と能力評価、認定を行う責任を負う枠組みであるため、誰がどの車両を運転してよいかという情報を割当ロジックに反映させる余地があります。
効果はどのように測ればよいですか?
導入前に、搬送依頼の発生時刻、依頼元、対応者、着荷時刻を1週間から2週間記録しておくことが出発点です。導入後に同じ項目を取り、依頼から着荷までの平均時間と、その分布の広がりを比較します。平均だけを見ると、極端に待たされた依頼が埋もれてしまうため、分布の裾も併せて確認します。
まとめ
フォークリフト呼び出しシステムは、単一の製品ではなく、発信・表示の層、個人通知の層、タスク割当の層という三つの層の組み合わせとして捉えると選定しやすくなります。層1は導入が速く費用も小さい代わりに、誰が対応するかは決まりません。層2は移動中のリフトマンに届く代わりに、優先順位付けは解けません。層3は割当まで解ける代わりに、上位システムとの連携設計が必要になります。
フォークリフト特有の論点として、呼ばれる側が常に移動していること、通知の受け取り方が安全に直結すること、そして割当ルール次第で構内の走行距離が増減することの三点があります。これらを踏まえずに機能だけで製品を比較すると、現場で使われない設備が増えます。
進め方としては、現状を紙で記録して待ち時間の分布を把握し、待ちが集中している工程に層1を限定導入し、そこで残った課題の性質に応じて層2または層3へ広げる、という順序が現実的です。呼び出しの仕組みを整えることは、車両を増やさずに搬送能力を引き上げる手段になり得ます。
現場の待ち時間がどこで発生しているのか、どの層まで作り込むべきかは、レイアウトと生産量、そして現在の運用ルールによって変わります。TOMAS TECHでは、タイの工場・倉庫向けにIoTと生産管理システムの構築を手がけており、フォークリフトの呼び出しや搬送タスクの可視化についてもご相談いただけます。まだ具体的な製品を決めていない検討段階でも構いませんので、お問い合わせページからお気軽にお声がけください。
参考情報
- QQベル、工場の無線呼出システム 低予算で実現 完全ガイド
- WERMA Signaltechnik、AndonWIRELESS 製品ページ
- パシフィック湘南、リフトマンの呼び出しに無線アンドンシステム 導入事例
- MTS TECH BLOG、フォークリフト端末を活用した倉庫管理システム 前編
- 現場改善ラボ、フォークリフト事故の実態 事例や発生件数・原因について
- CEC、物流シミュレーションソフトウェアRaLC 作業者/フォークリフトの位置情報を取得・分析したい
- MarketsandMarkets、Thailand Autonomous Forklift Market
- GESTA、Forklift Operator Certification in Thailand
- ディーアイエスサービス&ソリューション、振動で現場での情報を見逃さない腕時計型ウェアラブル端末
- 日立製作所、構内物流とは 企業が抱える課題と改善ポイント