社内で生成AIを使ってみようという話は出ているものの、何から手をつければよいのか分からない。そんなときに「AI導入 相談」と検索してみたら、出てくるのは開発会社の一覧ばかりで、結局そのまま手が止まってしまった。日系製造業のタイ拠点で、こうした状態のまま数ヶ月が過ぎている例をよく見かけます。本記事では相談先の4類型と、自社がどの類型に向くのかを見極める3つの軸を中心に、最初の相談にたどり着くまでの手順を整理します。
なぜAI導入の相談先選びで手が止まるのか
最初に、相談先が決まらない理由を分解します。ここが整理できると、次に何を調べればよいのかが見えてきます。
課題が言語化できていない段階で開発会社に声をかけると噛み合わない
相談先が決まらない最大の理由は、相談する側の課題がまだ言葉になっていないことです。「AIで何かできないか」という漠然とした問題意識はある。しかし、どの業務の、どの工程の、何を変えたいのかまでは決まっていない。この状態でAI開発会社に声をかけると、相手からは「どのようなシステムをご希望ですか」と聞かれます。答えられないので話が進まず、とりあえず概算の見積もりだけもらって終わる、という流れになりがちです。
これは相談する側の準備不足というより、相談先の選び方の問題だと考えています。開発会社は要件が固まった案件を構築する役割を担っているため、要件が無い状態の相談は本来の守備範囲の外にあります。要件が固まっていない段階には、それに合った相談先が別にあります。
「相談する」の中身は相手によって違う
もうひとつ見落とされやすいのが、同じ「相談」という言葉でも、相手によって受け取ってもらえる内容がまったく違うという点です。
課題の優先順位付けから一緒に考えてくれる相手もいれば、要件が固まっていることを前提に構築の話をする相手もいます。自社にAI人材を育てることを目的に、技術移転を前提として伴走する相手もいます。どれが優れているという話ではなく、それぞれ想定している相談者の段階が違うだけです。にもかかわらず、検索結果には全部が同じ「AI導入の相談窓口」として並ぶため、選びようがない状態になります。
市場の追い風は確かにある。だからこそ入口を間違えたくない
判断を急がせるつもりはありませんが、周囲の状況は把握しておいて損はありません。
Microsoftが2026年6月10日にMicrosoft AI Tour Bangkok 2026で公表したGlobal AI Diffusion reportおよびWork Trend Index 2026によれば、タイの労働者のAI導入は前年比36.4%成長し、世界平均の17.8%を大きく上回りました。これは韓国の43.2%に次ぐ世界2位の伸び率です。同じ調査で、タイ全体のAI導入率は12.4%とされ、前回調査時点の9.1%から上昇しています。またタイの企業データワーカーのAI利用率は32%でグローバル平均の2倍、明確なAI戦略を持つタイの経営層は51%でこちらもグローバル平均の約2倍という結果が示されています。インフラ面では、Microsoftがタイのクラウドおよびクラウド上のAI基盤に対し、2026年から2028年にかけて10億ドル(約350億バーツ)以上を投資すると発表しています。
別の調査も見ておきます。AWSが公表した「Unlocking Thailand’s AI Potential 2026」レポートによれば、タイ企業の43%がAIを継続的に利用しており、前年の32%から34%の前年比成長となっています。推計で22万社が過去12ヶ月のあいだにAIを新たに導入した計算です。同レポートではタイの中小企業の70%超がAI導入に取り組んでおり、地域平均を上回るとされています。
一方で、対象範囲を変えると数字の見え方も変わります。ETDA、すなわちタイ電子取引開発機構が2024年に580社を対象に実施した調査では、タイのビジネス全体のAI導入率は18%にとどまるという結果が出ています。同調査では、これとは対象範囲の異なる製造業セクターについて、AI導入が2030年までに15%まで拡大すると見込まれています。ビジネス全体の18%と製造業セクターの15%は母集団が違う数字ですので、後者が小さいことを「減る」と読まないでください。またAIを利用している企業のうち84%が生産性向上を実感、前年の81%から上昇し、71%が増収を実感して平均19%の成長を報告したとされています。
ここで強調しておきたいのは、これらの数字を並べて比較したり足し合わせたりしてはいけないということです。Microsoftの調査は労働者と経営層を対象にしたもの、AWSのレポートは企業単位の継続利用、ETDAの調査は580社を対象にしたビジネス全体という具合に、調査主体も母集団も定義が異なります。同じ「AI導入率」という言葉でも指しているものが違うため、社内資料に引用する際は必ずどの調査のどの母集団かを添えてください。
数字の細かい差よりも読み取るべきなのは、タイでAIに取り組む企業が明確に増えており、それに応じて相談を受ける側、つまりベンダーやコンサルティング会社の供給も増えているという傾向です。選択肢が増えたぶん、入口の選び方が結果を左右するようになったと言い換えることもできます。なお日中投資促進機構が公表している東南アジア地域レポートでも、タイビジネスにおける生成AIについて、多くの企業がすでに導入済みまたは導入を計画しているとされています。
AI導入の相談先は4類型に分けられる

ここからが本記事の核です。AI導入の相談先は、担っている役割によって大きく4つの類型に分けられます。この分類を頭に入れておくと、検索結果に並ぶ会社がどこに位置するのかを判断できるようになります。
戦略・コンサルティング型|課題が曖昧な段階を引き受ける
1つ目が戦略・コンサルティング型です。何をAIで解決すべきかがまだ決まっていない段階から相談を受け、業務の棚卸し、適用候補の洗い出し、優先順位付け、PoCの設計までを一緒に進めます。
この類型の価値は、成果物がシステムではなく判断材料である点にあります。どの業務にAIを適用すると効果が出やすいのか、逆にどの業務は現時点で向かないのかを、自社の業務データや体制を見たうえで整理してもらえます。要件が固まっていないことがそのまま相談の前提になっているため、「まだ何も決まっていない」ことを引け目に感じる必要がありません。
一方で、この類型に依頼した場合でも構築は別途発注になることが多く、費用は構築とは別に発生します。コンサルティング会社の型の違いや費用構造については生成AIコンサルティングの4つの型と費用5層で分類と費用の内訳を整理していますので、コンサルティング型に絞り込んだ段階でそちらをご覧ください。本記事では4類型のひとつとしての位置付けにとどめます。
AI開発会社・受託開発型|要件が固まった段階を引き受ける
2つ目がAI開発会社・受託開発型です。何を作るかがある程度決まっている段階で、実際の構築と実装を担います。
この類型は、要件が具体的であるほど力を発揮します。逆に言えば、要件が曖昧なまま相談すると、すり合わせだけに時間を要する結果になりやすい類型でもあります。相談する前に、対象業務、現状の処理件数、目指す状態を言葉にしておくと、初回から具体的な話ができます。
発注先の候補が2社から3社に絞れた後、契約や見積もりでどこを見るべきかについてはAI開発会社の選び方と契約・見積の急所で扱っています。本記事は相談先の類型を選ぶ手前の段階を扱いますので、候補が絞れた段階に進んだらそちらに切り替えてください。
なお、開発会社を評価する際の一般的な観点として、同業種の導入事例について成功例だけでなく失敗例も具体的に語れるかを確認するのが有効とされています。成功事例しか出てこない場合は、実際の現場経験が乏しい可能性があるという見方です。またAIはシステム開発単体で完結せず、データ、セキュリティ、運用、ガバナンスまで含めた総合的な設計力が成否を分けるため、PoCから本番導入、運用改善まで一貫して支援できるパートナーを選ぶことが重要とされています。
クラウドベンダー・大手SIer型|既存の情報インフラとの接続を前提にする
3つ目が、クラウドベンダーおよびその認定パートナー、大手SIerを窓口にする類型です。すでに自社が利用しているクラウド基盤やグループウェアの延長でAIを検討する場合、この経路が最も摩擦が少なくなります。
この類型の特徴は、既存の情報インフラとの親和性が最初から担保されている点です。認証基盤、権限管理、ログ保全といった、後から作り直すと重くなる部分が既存の仕組みに乗ります。反面、相談の出発点が製品の適用範囲に寄るため、自社の課題が本当にAIで解くべきものかという問いには踏み込みにくい面があります。
本記事では特定のクラウドベンダーの優劣は扱いません。どの事業者を選ぶかではなく、自社の情報システムの現状がどこにあるかで決まる話だからです。すでに全社的に採用している基盤があるなら、まずその基盤の窓口に相談してみるのが、最も費用をかけずに情報を集める方法になります。
内製化支援型|社内AI構築を自社で回せるようにする
4つ目が内製化支援型です。外部に作ってもらうのではなく、自社にAIを扱える人材を育てることを目的に、技術移転を前提として伴走します。社内AI構築を継続的な取り組みとして位置付けたい企業に向いた類型です。
この類型を選ぶ判断には前提があります。育てる対象になる人材が社内にいること、そしてその人材が通常業務と兼務ではなく一定の時間を確保できることです。この2つが無い状態で内製化を掲げると、支援期間が終わった時点で誰も引き継げない状態になります。
どの層を自社で持ち、どの層を外部に委ねるかという設計についてはAI内製化支援と層ごとに持つ場所を決める考え方で整理しています。内製化の方向に傾いた段階で、層の切り分けをそちらで確認してください。本記事では4類型のひとつとして紹介するにとどめます。
4類型を並べて比較する
4つの類型を同じ軸で並べると、自社がどこに相談すべきかの見当がつきやすくなります。
| 類型 | 向いている段階 | 主に担う範囲 | 相談時に必要な情報 |
|---|---|---|---|
| 戦略・コンサルティング型 | 課題が曖昧で優先順位が付いていない | 業務の棚卸し、適用候補の洗い出し、PoC設計 | 課題感と業務の概要のみで可 |
| AI開発会社・受託開発型 | 何を作るかが決まっている | 構築、実装、テスト、本番移行 | 対象業務、処理件数、目指す状態 |
| クラウドベンダー・大手SIer型 | 既存基盤の延長で検討したい | 既存インフラとの接続、権限とログの設計 | 現在利用中の基盤と利用者数 |
| 内製化支援型 | 自社に技術を残したい | 技術移転、伴走、社内標準の整備 | 育成対象の人材と確保できる工数 |
この表で最も重要なのは右端の列です。相談時に必要な情報の量が類型ごとに違うため、手元にある情報の量で相談先を決めるという逆算ができます。課題感しか無いのであれば、必要な情報が最も少ない類型から始めるのが自然です。
「生成AIを何から始めるか」は自社の状態で決まる

相談先の類型が分かったところで、次は自社がどこに当てはまるかです。3つの軸で確認します。
軸1|課題が言葉にできているか
1つ目の軸は、解きたい課題を業務レベルで言葉にできているかです。判定は単純で、「どの部署の、どの作業に、月あたりどれくらいの時間がかかっていて、それをどうしたいか」を1文で言えるかどうかで見ます。
言えるのであれば課題は明確な側です。言えない場合、それは能力の問題ではなく、まだ現状の棚卸しをしていないだけです。棚卸し自体を相談の対象にできる類型があるので、無理に自社だけで言語化しようとして止まってしまうより、その状態のまま相談したほうが早く進みます。
軸2|社内にAIを触れる人材がいるか
2つ目の軸は、社内にAIツールを実際に触ったことがある人がいるかです。ここでいう人材は、モデルを開発できる技術者という意味ではありません。生成AIのツールを業務で使ってみたことがあり、何ができて何ができないかの感覚を持っている人、という程度の水準を指します。
この人がいるかどうかで、相談の質が変わります。いる場合は、提案された内容が現実的かどうかを社内で判断できます。いない場合は、提案の妥当性を自社で検証できないため、複数の相談先から話を聞いて内容を突き合わせる進め方が安全になります。
軸3|概算の予算感があるか
3つ目の軸は、金額の桁が決まっているかです。正確な予算である必要はなく、社内で承認を取れそうな桁が見えているかどうかで判定します。
予算感が無い状態でも相談自体は可能ですが、提案の粒度が定まりません。予算を伝えないほうが有利な提案を引き出せると考える方もいますが、実務では逆になることが多いと感じています。桁が分からないと、相手は最も無難な、つまり大きめの構成を提案せざるを得ないためです。
3軸の組み合わせで向く相談先を判定する
3つの軸の組み合わせを、4類型に対応させたものが次の表です。
| 課題の言語化 | 社内人材 | 概算予算 | 向いている相談先 |
|---|---|---|---|
| 曖昧 | いない | 未定 | 戦略・コンサルティング型、または現在利用中のクラウドベンダーの窓口 |
| 曖昧 | いない | あり | 戦略・コンサルティング型でPoCの対象を絞り込む |
| 曖昧 | いる | 未定 | 戦略・コンサルティング型で優先順位付けから着手 |
| 曖昧 | いる | あり | 戦略・コンサルティング型でPoC設計まで一気に進める |
| 明確 | いない | 未定 | クラウドベンダー・大手SIer型で概算を把握してから予算化 |
| 明確 | いない | あり | AI開発会社・受託開発型 |
| 明確 | いる | 未定 | クラウドベンダー・大手SIer型で概算を把握し、その後に内製の可否を判断 |
| 明確 | いる | あり | 内製化支援型、または開発会社型との併用 |
表を見ると、課題が曖昧な行はすべて戦略・コンサルティング型かクラウドベンダー型に寄ることが分かります。逆に内製化支援型が候補になるのは、3軸すべてが揃った行だけです。内製化から入りたいという相談を受けることは多いのですが、3軸が揃っていない段階で内製化を目標に置くと、後述する失敗パターンに入りやすくなります。
最初の相談で聞かれること、持っていくべき情報
相談先の当たりが付いたら、次は初回の打ち合わせの準備です。とはいえ、分厚い資料を作る必要はありません。
聞かれるのは主に4つ
初回のヒアリングで聞かれる内容は、相手の類型が違ってもおおむね共通しています。現状の業務フロー、課題感、概算予算、目指す状態です。
現状の業務フローは、図でなくても構いません。誰が何をどの順番でやっているかを箇条書きで書き出したもので十分に機能します。課題感は、その業務のどこに時間がかかっているか、どこでミスが起きているかを具体的に挙げます。目指す状態はKPIの形にできると理想的ですが、「この確認作業を半分の時間で終わらせたい」といった水準の表現でも初回としては足ります。
何も揃っていなくても、課題感だけあれば相談は成立する
ここは強調しておきたい点です。4つのうち3つが空欄でも、課題感だけ言語化できていれば、戦略・コンサルティング型とクラウドベンダー・大手SIer型は相談を受けてくれます。むしろ、それを言語化する作業自体が相談の対象になります。
準備が整うまで相談を先送りする企業をよく見かけますが、準備が整う日は自社だけではなかなか来ません。社内で棚卸しを完了させてから相談しようとして半年が過ぎるより、課題感を1枚にまとめた段階で相談したほうが、結果的に早く着手できます。
「生成AIツールの選び方」から入らないほうがよい理由
初回の相談で、どのツールを使うべきかという問いから入る方が少なくありません。しかし、生成AIツールの選び方はこの段階で決める話ではないと考えています。
理由は、ツールの選択が課題の定義と体制に従属するからです。扱うデータが社外に出せないのか、既存の業務システムと連携する必要があるのか、使うのは何人なのか。これらが決まると、選べるツールの範囲は自動的に絞られます。逆にツールから決めると、そのツールでできることに課題のほうを合わせることになり、本来解きたかった問題が後回しになります。
ツールの比較は、課題と体制が固まった後に行うのが順序として自然です。相談先には「どのツールがいいですか」ではなく「この課題と体制なら、選択肢はどこまで絞られますか」と聞いてみてください。返ってくる答えの具体性で、相手の実務経験も測れます。
相談から着手までの一般的な流れ
相談したあと、どういう順序で話が進むのかを把握しておくと、途中で不安になりにくくなります。
初回ヒアリングからPoC、そして本番設計へ
一般的な流れは、初回ヒアリング、PoC設計、小さく試す、本番設計という順序です。初回ヒアリングで現状と課題を共有し、そのうえで効果が出そうな領域を絞り、限定した範囲で試してみる。試した結果をもとに、本番の設計と投資判断を行う、という組み立てになります。
この順序で進める利点は、投資判断の材料が自社の実データで得られる点にあります。他社の事例は参考にはなりますが、自社のデータの整い方や業務の癖までは反映されていません。小さく試す工程は、その差を確認するための工程だと捉えてください。
いきなり全社展開の見積もりを求めないほうがよい
ここからは弊社が支援の現場で見てきた実務上の見解として述べます。最初の相談で「全社に展開した場合の総額を出してほしい」と依頼するのは、避けたほうがよいと考えています。
理由は2つあります。第一に、課題と対象範囲が固まる前の総額は、前提を大きく置いた見積もりにならざるを得ず、社内稟議に使える精度になりません。第二に、その大きな数字が社内で一人歩きし、「AIは高い」という結論だけが残って検討が止まる例を実際に見てきました。
相談の初期に依頼すべきなのは総額ではなく、小さく試す範囲の費用と期間です。この範囲であれば前提が限定されるため、見積もりの精度も上がります。そして小さく試した結果が出てから、その実測値をもとに全社展開の規模を見積もる。この順序であれば、社内で説明できる数字になります。
タイ拠点でのAI導入相談に固有の論点

ここからはタイの現場に引き寄せます。日系製造業のタイ拠点には、日本国内の企業には無い判断が加わります。
日本本社の情シスか、タイ現地のベンダーか
最も多い迷いが、日本本社の情報システム部門に相談すべきか、タイ現地のベンダーに直接相談すべきか、というものです。
弊社の実務上の見解として申し上げると、これはどちらか一方を選ぶ問題ではなく、役割分担で考えるのが実務的です。本社側が担うのは全社的なポリシー、たとえば生成AIの利用規程、データの取り扱い基準、そして予算の承認です。現地側が担うのは実装と現地語でのサポート、そして現場の業務に落とし込む部分です。
この分担を最初に決めずに進めると、二方向の停滞が起きます。本社にだけ相談すると、現地の業務実態が反映されない構成が降りてきて現場で使われない。現地にだけ相談すると、本社のポリシーとの整合が取れず、稟議の段階で差し戻される。どちらも、相談を始める前に分担を決めておけば避けられます。
具体的には、現地で相談を始める前に、本社の生成AI利用規程の有無と、その規程がどこまでを禁止しているかを確認してください。規程が無ければ、無いという事実を確認したうえで進めることになります。この確認をしないまま現地でPoCまで進み、本社の規程に抵触することが後から判明して振り出しに戻る、という事例を見ています。
現地の相談先は増えている
前述のとおり、Microsoftの調査ではタイの労働者のAI導入が前年比36.4%成長し、韓国の43.2%に次ぐ世界2位の伸び率とされています。世界平均の17.8%と比べると、タイでの動きの速さが分かります。企業側でも、AWSのレポートによればタイ企業の43%がAIを継続的に利用しているとされ、中小企業の70%超がAI導入に取り組んでいるという結果が出ています。
またUOB Business Outlook Study 2026では、タイの中小企業はレジリエンスを経営規律として捉えており、地域内で最もAI導入が進んでいるとされ、80%超が今後2年から3年で海外展開を計画しているという結果が示されています。
こうした需要の伸びに応じて、タイ国内で相談を受ける側の供給も増えています。数年前と比べると、現地で相談できる相手の選択肢は明らかに広がりました。ただし供給が増えたということは、実績の幅も広がったということです。だからこそ、前述した4類型のどこに位置する会社なのかを、最初に確認する必要があります。
現地語サポート体制の有無を契約前に確認する
もうひとつ、タイ拠点で必ず確認していただきたいのが、タイ語でのサポート体制です。
AIの導入は、構築して終わりではなく、現場が日々使うことで効果が出ます。使うのは現地スタッフですから、操作の説明も、疑問が出たときの窓口も、現地語で提供されなければ定着しません。マニュアル、研修、稼働後の問い合わせ窓口の3つについて、それぞれ何語で提供されるのかを契約前に確認してください。
「対応可能」という回答だけで済ませず、実際に対応する担当者が常駐しているのか、都度手配になるのかまで踏み込むと実態が分かります。これはオプションの快適さではなく、投資が回収できるかどうかを左右する条件だと考えています。
相談せずに進めた場合によくある失敗
相談先を選ばずに進んだ結果、どうなるか。よく見かける2つのパターンを挙げます。
課題が曖昧なまま開発会社に発注してしまう
1つ目は、課題が言語化できていない状態で、いきなりAI開発会社に発注してしまうパターンです。
この場合、契約後に要件のすり合わせが始まります。開発会社は要件を確定させないと着手できないため、ヒアリングを繰り返すことになります。しかし発注側も何を求めているかが定まっていないため、打ち合わせのたびに方向が変わる。結果として、要件のすり合わせだけで数ヶ月を費やし、その期間の費用も発生します。
このパターンの厄介な点は、どちらにも落ち度が無いことです。発注側は真面目に検討していますし、開発会社も丁寧にヒアリングしています。それでも進まないのは、要件が固まった段階を前提にした類型に、固まっていない段階で相談したという入口のミスマッチが原因です。
内製化を目指したが技術移転の計画が最初に無い
2つ目は、社内AI構築を目標に掲げたものの、誰にどの技術を移転するのかという計画が最初に無いパターンです。
外部の支援を受けながらシステムは動き始めます。しかし、実際の設計と実装は支援側が行い、社内メンバーは会議に同席するだけという状態が続く。支援期間が終わった時点で、社内に残っているのは動くシステムと、その中身を説明できない体制です。改修も運用改善も外部に依頼せざるを得ず、内製化という当初の目的は達成されません。
この2つはいずれも、プロジェクトが動き出した後というより、動き出す前の入口で決まっています。動き出した後に停滞する構造については生成AI導入の失敗と95%が停滞する構造で別途整理していますので、すでに着手済みで進まないという状況にある場合はそちらをご覧ください。本記事はあくまで、着手する前の相談先選びを扱っています。
相談前に確認するチェックリスト
相談に進む前に、社内で確認しておく項目です。会議でそのまま使える粒度にしてあります。
- 解きたい課題を「どの部署の、どの作業を、どうしたいか」の形で1文にできるか
- その業務に月あたりどれくらいの時間がかかっているかを概算で把握しているか
- 社内に生成AIのツールを業務で使ってみたことがある人がいるか
- その人が検討に一定の時間を割ける状態にあるか
- 社内で承認を取れそうな予算の桁が見えているか
- 目指す状態を、時間短縮やミス削減など測れる形で言えるか
- 日本本社に生成AIの利用規程があるかを確認済みか
- 規程がある場合、どのデータの取り扱いが禁止されているかを把握しているか
- 本社と現地の役割分担、つまり誰がポリシーを決め誰が実装するかを決めているか
- 相談先が4類型のどれに当たるかを、問い合わせ前に確認しているか
- 初回の相談で総額ではなく、小さく試す範囲の費用と期間を聞く準備ができているか
- マニュアル、研修、稼働後の窓口が何語で提供されるかを確認する項目を用意しているか
上から5つに答えられない段階でAI開発会社に相談すると、要件のすり合わせだけで時間を使うことになります。その場合は戦略・コンサルティング型か、現在利用中のクラウドベンダーの窓口から始めてください。また本社の生成AI利用規程、本社と現地の役割分担、現地語での提供範囲に関する3項目を確認せずにタイ拠点で進めると、稟議や定着の段階でつまずきやすくなります。
よくある質問
AI導入の相談はどこにすればよいのか
自社の状態によって変わります。課題がまだ言葉になっていない段階であれば戦略・コンサルティング型か、現在利用しているクラウドベンダーの窓口が向いています。何を作るかが決まっているならAI開発会社・受託開発型、自社に技術を残したいなら内製化支援型です。判断は、課題を言語化できているか、社内にAIを触れる人材がいるか、概算の予算感があるかという3つの軸で行ってください。この3軸のうち1つでも欠けている場合は、要件が固まっていることを前提とする開発会社型よりも、曖昧な段階を引き受ける類型から入るほうが早く進みます。
生成AIは何から始めればよいのか
ツールの選定からではなく、業務の棚卸しから始めてください。どの部署のどの作業に時間がかかっているか、どこでミスが起きているかを書き出し、その中から効果が出そうな領域を1つか2つに絞る。この作業まで自社で終えられない場合は、棚卸し自体を相談の対象にできる相談先があります。準備が整うまで待つより、課題感を1枚にまとめた段階で相談したほうが、結果として着手は早くなります。
生成AIツールの選び方で最初に見るべき点は何か
ツールの機能比較よりも、自社の制約条件を先に確定させることをおすすめします。扱うデータが社外に出せるのか、既存の業務システムと連携する必要があるのか、使う人数は何人か。この3点が決まると、選べる範囲は自動的に絞られます。ツールから決めると、そのツールでできることに課題を合わせることになり、本来解きたかった問題が後回しになります。相談先には「どのツールがいいか」ではなく「この課題と制約なら選択肢はどこまで絞られるか」と聞いてみてください。
社内AI構築は自社だけでできるのか
前提が揃っていれば可能ですが、揃っていない状態で目標に掲げるのは避けたほうがよいと考えています。必要な前提は、育成の対象になる人材が社内にいること、その人材が通常業務との兼務ではなく一定の工数を確保できること、そして誰にどの技術を移転するかの計画が支援開始前にあることの3つです。この3つが無いまま内製化を掲げると、支援期間が終わった時点で、動くシステムはあるが中身を説明できる人がいないという状態になります。どの層を自社で持つかの設計は、内製化の方向に傾いた段階で個別に検討してください。
タイ拠点では日本本社とタイ現地のどちらに相談すべきか
どちらか一方ではなく、役割分担で考えるのが実務的です。本社が担うのは全社ポリシー、つまり生成AIの利用規程やデータ取り扱い基準と、予算の承認です。現地が担うのは実装と現地語サポート、そして現場業務への落とし込みです。現地で相談を始める前に、本社の生成AI利用規程の有無と、その規程が何を禁止しているかを必ず確認してください。この確認を飛ばして現地でPoCまで進み、後から本社の規程に抵触することが判明して振り出しに戻る例があります。
まとめ
AI導入の相談先の選び方について、本記事で扱った要点を整理します。
- 相談先が決まらない原因は準備不足ではなく、要件が固まった段階を前提とする類型に、固まっていない段階で相談している入口のミスマッチにある
- 相談先は、戦略・コンサルティング型、AI開発会社・受託開発型、クラウドベンダー・大手SIer型、内製化支援型の4類型に整理できる
- 4類型は相談時に必要な情報の量が違うため、手元にある情報の量から相談先を逆算できる
- 自社の状態は、課題を言語化できているか、社内にAIを触れる人材がいるか、概算の予算感があるかという3つの軸で判定する
- 課題が曖昧な場合はコンサルティング型かクラウドベンダー型に、3軸が揃っている場合のみ内製化支援型が候補になる
- 初回の相談で聞かれるのは現状の業務フロー、課題感、概算予算、目指す状態の4つだが、課題感だけ言語化できていれば相談は成立する
- 生成AIツールの選び方は課題と制約が固まった後の話であり、ツールから決めると課題のほうをツールに合わせることになる
- 相談から着手までは初回ヒアリング、PoC設計、小さく試す、本番設計という順序が一般的で、最初に全社展開の総額を求めるのは避けたほうがよい
- タイ拠点では本社と現地のどちらかを選ぶのではなく、本社がポリシーと予算承認、現地が実装と現地語サポートという分担で考えるのが実務的である
- Microsoftの調査ではタイの労働者のAI導入が前年比36.4%成長で世界2位、AWSのレポートではタイ企業の43%がAIを継続利用とされ、現地の相談先の供給も増えている
- 各種調査は主体も母集団も異なるため、社内資料に引用する際はどの調査のどの母集団かを必ず添え、単純に並べて比較しない
最初にやるべきことは、ベンダーの比較でも見積もりの取得でもありません。解きたい課題を1文にすること、社内で触れる人を1人特定すること、予算の桁を確認することの3つを、社内だけで済ませることです。この3つが揃った段階で、本記事の表を使えば相談先は自動的に絞り込めます。
TOMAS TECHは、タイで操業する日系製造業向けに、生産管理システムPEGASUSをはじめとする現場のDX支援を行っています。AIについても、「そもそもどこに相談すればよいのか」「本社の規程との整合をどう取るべきか」といった手前の段階からご相談をお受けしています。導入を決める前の情報収集の段階でも構いませんので、お問い合わせページからお気軽にお声がけください。
参考情報
- Thailand Business News – Thailand ranks second worldwide for AI adoption growth, Microsoft reports
- SME Asia – Thailand’s AI use surges to 43% but most firms still struggle in adoption
- ThaiPR – UOB Business Outlook Study 2026 on Thai SME resilience and AI adoption
- HR NAVI – 生成AI開発会社を選ぶ際の確認観点
- 日中投資促進機構 – 東南アジア地域レポート、タイビジネスにおける生成AI導入