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2026.08.12

コンベヤ設計2026|止まるのは速度ではなく合流と滞留

コンベヤ設計2026|止まるのは速度ではなく合流と滞留

「コンベヤを入れたのに、現場は思ったほど楽になっていない」——タイの日系工場で何度も聞いた言葉です。原因はモーターの速度でもベルトの材質でもありません。流れが止まっているのは、二本のラインが合わさる場所、行き先が分かれる場所、そして待たせるべき場所で待たせられていない区間です。コンベヤ設計で最初に決めるのは搬送速度ではなく、どこで合わせ、どこで分け、どこで滞留させるかという流量の設計です。

そしてもう一つ、タイで発注前に必ず突き当たる壁があります。人件費だけでコンベヤを正当化しようとすると、回収年数が二桁になるということです。この記事では25m区間の工程間搬送を題材に、初期投資1,050,000バーツの内訳をバーツ建てで分解し、人件費だけで見た場合の回収16.1年と、供給待ちで止まっているライン時間まで入れた場合の4.9年を、計算過程ごと開示します。読み終えたら、自社の搬送距離と回数を入れて同じ計算をやり直してください。判断軸は「速いか遅いか」ではなく「止まる場所を設計してあるか」です。

コンベヤ設計で最初に決めるのは速度ではない

見積依頼書に最初に書かれる数字は、たいてい搬送速度と搬送距離です。「25m、毎分20m」といった具合に。しかしこの2つだけでは、コンベヤは設計できません。決まっていないことが多すぎるからです。

搬送速度が意味を持つのは、単位時間あたりに何個流れるかが決まったあとです。そして単位時間あたりの個数は、上流の工程が何秒に1個出すかで決まります。上流が20秒に1個しか出さないのに、コンベヤだけが毎分20mで走っていても、コンベヤの上には隙間だらけのワークが乗っているだけです。逆に上流が瞬間的に5個まとめて吐き出す工程なら、平均値としての毎分20mは何の保証にもなりません。到着が固まった瞬間に、下流の入口で渋滞が起きます。

つまりコンベヤ設計の実体は、速度の設計ではなく流量と待ち行列の設計です。工場の搬送が止まる場所は、ほぼ例外なく次の3か所に集中します。

  • 合流点 — 2本以上の流れが1本になる場所。到着タイミングが重なると衝突する
  • 分岐点 — 1本の流れが2本以上に分かれる場所。行き先の判定と、振り分け先が詰まったときの逃げ場が要る
  • 滞留区間 — 上流と下流のタクト差を吸収する場所。ここが短いと、下流の一瞬の停止が上流まで伝播する

この3か所の設計が抜けたまま、本体の仕様だけを比較して発注すると、据え付けた直後は流れるのに、本稼働で品種が混ざった途端に止まるコンベヤになります。そして厄介なことに、この失敗は据付後の調整では直りません。合流角度も、バッファ長も、分岐機構の設置スペースも、すべて架台のレイアウトに固定されているからです。

もう一点、タイ特有の事情を先に書いておきます。搬送の自動化を人件費削減として稟議に載せると、ほぼ確実に回収年数が二桁になります。理由は単純で、タイの最低賃金は2026年時点で日額337〜400バーツ(バンコク・チョンブリ・プーケットなどが400バーツ)であり、削減できる人件費の絶対額が小さいからです。後段で実際に計算しますが、25m区間の搬送を丸ごと自動化しても、人件費だけを見た回収は16.1年になります。

では自動化する意味がないのかというと、そうではありません。回収を作るのは搬送作業そのものではなく、搬送が間に合わないせいで止まっているラインの時間です。この時間は多くの工場で計測されていません。搬送は「間接作業」に分類され、ラインの停止は「部品待ち」に分類されるため、同じ原因から出た2つの損失が別々の帳票に記録されているからです。この記事の後半は、この2つをつなぐ話になります。

搬送方式の分岐|コンベヤ・AGV・台車・手運搬をどこで分けるか

コンベヤを検討している時点で、すでに「コンベヤありき」になっている案件がかなりあります。しかし工程間搬送の手段は4つあり、それぞれ得意な条件がはっきり違います。ここを間違えると、どれだけ良いコンベヤを設計しても投資は回収できません。

判断軸は4つです。搬送量の安定性、レイアウト変更の頻度、経路の共有度、そして段差と階層です。

コンベヤ設計2026|止まるのは速度ではなく合流と滞留 - figure 1

図1は、レイアウト変更頻度(横軸)と搬送量(縦軸)の2軸で、4つの搬送方式が向く領域を示したものです。コンベヤが有利なのは左上、つまり搬送量が多く、レイアウトを当面動かさない領域に限られます。

搬送量が安定しているか

コンベヤは固定設備です。敷いた経路の上を、決めた量が流れ続けることを前提にしています。1日120回の搬送が毎日発生する工程なら、コンベヤは強い。一方、繁忙期は1日200回だが閑散期は1日15回、という工程では、閑散期に1,050,000バーツの設備が寝ることになります。

判断の目安として、年間を通じた搬送回数の変動幅が上下40%を超える工程は、固定コンベヤの単独導入に向きません。この場合はAGVや台車と併用し、コンベヤは常時流れる幹線区間だけに限定するほうが投資効率は上がります。AGVとの費用比較についてはAGVの価格と導入コストを分解した記事で台数別に整理していますので、併せて確認してください。

レイアウトを何年動かさないか

これがタイの日系工場で最も見落とされる軸です。コンベヤ導入でよくある失敗として、レイアウト変更ができなくなったという事例が挙げられています。25mのローラーコンベヤと架台を据え付けると、その25mの直線は事実上、建屋の構造物になります。

タイの拠点では、日本の親会社の判断で生産品目が2〜3年単位で入れ替わることが珍しくありません。新機種の立ち上げでラインを1本増やす、EV部品に切り替えるためにセルを組み替える、といった動きが入ると、固定コンベヤは真っ先に障害物になります。

「このレイアウトを3年動かさないと言い切れるか」を、生産技術ではなく工場長の判断として確認してください。言い切れないなら、コンベヤの区間を短く区切る(例えば25mを5m×5モジュールにして、モジュール単位で組み替え可能にする)か、AGVを選ぶ方向に寄せます。レイアウトそのものの見直しから入る場合は、工場レイアウト改善の進め方で動線の整理手順をまとめています。

経路を何工程で共有するか

台車と手運搬は経路を共有できます。同じ通路を、A工程行きの台車もB工程行きの台車も通れる。AGVも同様で、1台が複数の経路を担当できます。コンベヤはこれができません。コンベヤの経路は、その経路専用です

したがって、1本の経路に1種類の流れしか乗らない工程ほどコンベヤが有利で、1本の通路を5工程が共有している工場ではコンベヤの投資効率が落ちます。工場全体の物流をどう束ねるかという視点は、工場内物流の改善で扱っています。

段差と階層があるか

床が平坦で同一フロアなら、台車でも運べます。逆に、階をまたぐ、あるいは1m以上の高低差を越える搬送は、人手だと工数が跳ね上がり、AGVも垂直搬送機との連携が必要になります。垂直搬送機やスクリューコンベヤ、バケットコンベヤといった特殊型は、この段差の問題を解くために存在します。段差がある搬送は、コンベヤの相対的な優位が最も出る条件です。

4方式の比較

判断軸コンベヤAGV/AMR台車(人押し)手運搬
搬送量の安定性安定して多い工程に強い変動に追随しやすい変動に強い変動に強い
レイアウト変更弱い(架台ごと移設)強い(経路の再設定)強い強い
経路の共有不可(専用経路)可(複数経路を1台で)
段差・階層垂直搬送機で対応可対応に別設備が必要実質不可実質不可
初期投資中〜大(固定費)大(台数比例)ゼロ
変動費小(電力・保全)中(充電・保守)大(人件費)大(人件費)
向く距離10〜100m程度の固定区間30m以上の可変経路20m未満10m未満

この表で重要なのは最下段2行の関係です。コンベヤは初期投資が大きく変動費が小さい、台車は初期投資ゼロで変動費が大きい。したがって両者の損益分岐は搬送回数×単価×年数で決まります。タイでは単価(人件費)が低いため、分岐点が日本より大幅に右に寄ります。弊社が関わった案件での感触として、同じ搬送量でも日本なら数年で回る投資が、タイでは十年単位になることが珍しくありません。これが「タイでコンベヤは回収しにくい」と言われる構造的な理由です。

コンベヤ設計の5層|搬送物・能力・環境・レイアウト・接続

方式がコンベヤに決まったら、次は仕様を詰めます。一般的な選定手順は搬送物・能力・環境・レイアウト・目的の5ステップとされています。本記事ではこの最後の「目的」を「接続」に置き換えます。理由は、工程間搬送で失敗するのは目的が曖昧だからではなく、コンベヤの両端が既存設備とどうつながるかが決まっていないからです。

第1層|搬送物

決めることは、寸法・質量・底面の形状・重心・温度・付着物の6つです。

最も事故が多いのは底面の形状です。ローラーコンベヤは、搬送物の底面が平らで剛性があることを前提にしています。段ボールの底が抜けている、パレットの桟がローラーピッチに落ちる、樹脂トレーの底に脚が付いている——こうした条件では、ローラーピッチを詰めるか、ベルトコンベヤに変える必要があります。設計の原則として、搬送物の進行方向長さの中に常に3本以上のローラーが接していることを確認します。

重心も重要です。背の高いワークや重心が偏ったワークは、加減速時と分岐時に倒れます。分岐機構の減速度を落とせば倒れませんが、その分だけ処理能力が落ちる。この関係は設計段階で数値にしておかないと、立ち上げ後に「速度を落として使う」という妥協になり、当初の能力計算が崩れます。

決め忘れると何が起きるか——ローラーピッチが合わずワークが落ち込み、ジャムが多発。ベルトへの作り替えは架台からやり直しになり、弊社が関わった案件での目安として、本体費用の3〜4割規模の追加費用が発生します。

第2層|能力

決めることは、ピーク時の処理個数・ワーク間隔・搬送速度・同時搭載質量の4つです。

ここで必ず平均ではなくピークで決めることです。1時間300個の工程でも、実際には10分間に80個出て、次の10分は20個ということが起きます。平均の毎分5個で設計したコンベヤは、毎分8個が来た瞬間に破綻します。上流工程の吐き出しパターンを1日分だけでも実測してください。これは無料でできる、最も費用対効果の高い設計インプットです。

ゴムベルトコンベヤの計算式はJIS B 8805に、ベルトコンベヤ用ローラはJIS B 8803に規定されています。ベンダー各社の計算根拠がこれらに準拠しているかは、見積時に確認する価値があります。

決め忘れると何が起きるか——モーター容量が不足し、満載時に起動できない。あるいはピーク時に上流のバッファが溢れ、上流工程を止めることになります。

第3層|環境

決めることは、温度・湿度・粉塵・油分・洗浄の有無・防爆要否です。

タイの工場では、空調のない棟と空調のある棟をまたぐ搬送に注意が必要です。乾季と雨季で相対湿度が大きく変わる環境では、ベルトの伸びと駆動部の結露が問題になります。塗装工程や洗浄工程の近傍では、水と薬液がベアリングに入ります。ステンレス仕様やIP等級の指定は、この層で決めます。

騒音も環境の一部です。コンベヤ導入の失敗例として騒音で作業環境が悪化したというケースが挙げられています。金属ローラーの上を金属パレットが流れる区間は、想像以上に響きます。作業者が常駐する検査工程の真横に金属ローラーの合流部を置くと、立ち上げ後に必ず苦情が出ます。

決め忘れると何が起きるか——駆動部の早期故障、あるいは騒音対策としての後付け防音カバーで数万バーツ規模の追加費用が発生します。

第4層|レイアウト

決めることは、経路・高さ・曲がり・勾配・通路横断・保全スペースです。

通路横断が最も揉めます。25mのコンベヤが人の通路を横切る場合、跨ぐ(歩道橋を作る)、潜る(コンベヤを高くする)、切る(開閉式にする)のいずれかが必要です。どれもコストが乗ります。そして「切る」を選ぶと、そこが恒常的な停止点になります。

保全スペースも忘れがちです。壁から300mmしか離していないコンベヤは、駆動側の反対側からアクセスできません。ローラー1本の交換にコンベヤ全体を止める設計になっていると、5年後の保全費が跳ね上がります。

決め忘れると何が起きるか——消防設備や避難通路との干渉で、据付後に工事のやり直しが発生します。タイでは工業団地の管理事務所や消防の確認が必要になる場合があり、手戻りの時間損失は費用より大きくなります。

第5層|接続

決めることは、上流設備からの受け渡し方式・下流設備への引き渡し方式・信号のやり取り・非常停止の連動範囲・手動介入の手順です。

コンベヤ単体は動くのに全体が流れない案件は、ほぼこの層が原因です。上流の成形機が完了信号を出さない、下流の検査装置が受け入れ可否を返さない、片方の非常停止でもう片方が止まらない。ここは機械屋ではなく制御屋の領域であり、コンベヤ本体の見積には含まれていないことが多い部分です。

決め忘れると何が起きるか——インターロックの追加開発が発生し、立ち上げが1〜2か月遅れます。この層を見積段階で明文化しておくかどうかが、プロジェクトの遅延リスクを最も大きく左右します。

5層のまとめ

決めること決め忘れたときに起きること
搬送物寸法・質量・底面形状・重心・温度・付着物ジャム多発、方式変更で架台からやり直し
能力ピーク処理個数・ワーク間隔・速度・同時搭載質量起動不能、ピーク時に上流工程を停止
環境温湿度・粉塵・油分・洗浄・騒音・防爆駆動部の早期故障、騒音苦情と後付け対策費
レイアウト経路・高さ・曲がり・勾配・通路横断・保全スペース消防/避難通路との干渉、保全性の悪化
接続受渡方式・信号・非常停止連動・手動介入インターロック追加開発で立ち上げが1〜2か月遅延

主要なコンベヤ形式は、ベルト・ローラー・チェーン・特殊型(スクリュー、バケット、垂直搬送機など)の4つに大別されます。ただし形式の選定は、上の5層を埋めた結果として自動的に決まる部分が大半です。形式から入らず、5層から入る。これが手戻りを最も減らす順序です。

流れが止まる3つの場所|合流・分岐・滞留

ここが本記事の核心です。コンベヤの搬送能力が不足して工場が止まることは、実はあまりありません。止まるのは合流点、分岐点、そして滞留区間です。

コンベヤ設計2026|止まるのは速度ではなく合流と滞留 - figure 2

図2は、上流2本が合流し、下流で2方向に分岐する典型的な工程間搬送を模式化したものです。滞留(アキュムレーション)区間が合流の手前と分岐の手前の2か所に必要になる理由を、次で説明します。

合流|到着が重なった瞬間に何が起きるか

2本のラインが1本になる場所では、上流それぞれの到着タイミングが独立しています。A系が20秒に1個、B系が25秒に1個出す場合、合計は毎時180個と144個で324個。合流後のコンベヤが毎時400個流せるなら、平均値としては余裕があります。

しかし到着が重なる瞬間があります。A系のワークが合流点に差しかかった0.5秒後にB系が来ると、物理的に衝突します。これを防ぐ方法は3つです。

  1. 交互投入制御 — 合流点の手前にセンサとゾーン制御を置き、片方を止めてもう片方を通す
  2. 速度差による間隔生成 — 合流直前区間の速度を上げ、ワーク間隔を物理的に広げる
  3. 合流角度の緩和 — 一般的な目安として30度以下の緩い角度で合わせ、接触してもガイドで整列させる

いずれの方法でも、合流点の手前には待たせるための区間が必要です。ここが1個分の長さしかないと、片方を止めた瞬間にその上流まで停止が伝わります。合流手前のバッファは、少なくとも上流工程が停止許容できない時間分を吸収できる長さにします。

分岐|振り分け先が詰まったときの逃げ場

分岐点では2つの判断が必要です。「このワークをどこへ送るか」と「送り先が受け入れられる状態か」です。前者だけを設計して後者を忘れると、送り先が満杯になった瞬間に、分岐点でワークが立ち往生し、その背後が全部止まります。

対策はリジェクトラインの確保です。送り先が満杯、または行き先判定が読めなかったワークを、本線から外して一時退避させる短い区間を設けます。この退避区間があるかどうかで、分岐点のトラブルが「ライン全停止」になるか「1個の手戻り」になるかが分かれます。

滞留(アキュムレーション)|バッファ長は何で決まるか

滞留区間は、上流と下流のタクト差を吸収するための区間です。必要な長さは次の式で決まります。

必要バッファ長 =(上流の処理レート − 下流の処理レート)×(差が続く時間)× ワーク1個あたりの占有長

考え方を示すための仮の数字で計算します。上流が20秒に1個(毎時180個)、下流が24秒に1個(毎時150個)、差は毎時30個。この差が30分続くなら滞留は15個。ワーク1個の占有長が0.4mなら、必要バッファ長は6mです。

この計算をせずに「とりあえず2m」でバッファを取ると、下流が10分止まっただけで上流に停止が伝播します。逆に、下流の停止時間の実績が1回あたり平均3分なら、6mも要らないかもしれない。バッファ長は勘ではなく、下流の停止実績から逆算するものです。

滞留させる方式には、後続のワークが前のワークを押す通常のアキュムレーションと、押圧をかけないゼロプレッシャー方式があります。ワークが変形しやすい、あるいは表面に傷が付くと不良になる場合は、ゾーンごとに独立して停止できるゼロプレッシャー方式が必要です。当然、ゾーン数だけセンサと制御が増えるため、費用は上がります。

片寄りとジャムという慢性的な損失

もう一つ、数字に出にくい損失があります。ベルトの片寄りとジャムです。

ベルトの片寄りは、テールプーリの平行度、ベルトの張力、搬送物の載せ位置の偏りで起きます。片寄ったまま運転を続けるとベルト端部が摩耗し、最終的に交換になります。ジャムは合流点と分岐点で集中的に発生し、1回あたりの復旧は数分でも、1日10回起きれば年間で無視できない時間になります。

重要なのは、この2つは「故障」として記録されないことです。作業者がその場で直してしまうため、保全記録にも停止記録にも残りません。結果として、投資検討の場面でこの損失が費用対効果の計算に入りません。導入前の現状把握では、作業者に1週間だけ「詰まりを直した回数」を記録してもらうことを勧めます。

仕分け自動化はどこから割に合うか

工程間搬送の次に相談が多いのが仕分けです。出荷先別、機種別、良品・不良品別に振り分ける工程を自動化したい、という依頼です。

方式の考え方

仕分け機構は、ワークへの当たり方で分類できます。

方式動作向く条件注意点
プッシャー式横から押し出す重量物、少ない仕分け先側面に力がかかる。倒れやすい形状に不向き
ポップアップ式ローラーやホイールがせり上がる平底の箱、中程度の能力底面が平らでないと確実に上がらない
スライドシュー式搬送面のシューが横に滑る多数の仕分け先、高い能力設備が大型。設置スペースが要る
アーム/ロボット式上から掴む・押す品種混在、形状不定単位時間あたりの処理数が方式中で低め

処理能力については、方式ごとに公表されている数字が条件によって大きく変わります。同じスライドシュー式でも、ワークの長さ・仕分け先ピッチ・要求精度で実効能力は倍近く変わるため、ここで具体的な数値を断定することはしません。一般的な目安として、プッシャー式やポップアップ式は毎分数十個の領域、スライドシュー式やクロスベルト式はそれより1桁高い領域と言われますが、実機の能力は必ずベンダーに自社のワーク条件を提示して回答を得てください。カタログ値は最良条件での値です。

仕分け先の数が費用を決める

見落とされやすいのは、費用を決めるのが処理能力ではなく仕分け先の数だということです。仕分け先が1か所増えるたびに、分岐機構1式、シュート1式、満杯検知1式、制御1系統が増えます。3先の仕分けと12先の仕分けでは、本体構造が同じでも総額が数倍変わります。

したがって設計の最初の問いは「毎時何個流すか」ではなく、「本当に何か所に分ける必要があるか」です。12先に見えても、上位3先で全体の8割を占めるなら、その3先だけを自動化し残りを人手にする構成のほうが投資効率は高くなります。仕分け先ごとの実績数量をパレート図にしてから設計に入ってください。

誤仕分けをどう扱うか

自動仕分けは必ず誤仕分けを出します。バーコードの読取失敗、ラベルの向き、ワークの重なり。ここで設計上決めるべきは「誤仕分けをゼロにする方法」ではなく、誤仕分けが出たときに何が起きるかです。

  • 読取失敗のワークをリジェクトラインに逃がし、人手で再投入する
  • 誤った先に入ったワークを、下流のどこで検出するか
  • 検出できなかった場合、出荷前のどの工程で止まるか

この3つが決まっていない仕分け自動化は、精度が99%でも運用が回りません。1%が月に何個で、その何個を誰がどう処理するかが決まっていないからです。

割に合う境界

仕分け自動化がペイするかどうかは、次の比較で判断します。

現在の人手仕分けにかかっている年間時間 × 時間単価 と、投資額 ÷ 想定使用年数 + 年間ランニング

タイの人件費水準では、この比較だけで自動化が正当化されるケースは限られます。仕分け自動化の投資判断でも、コンベヤと同じ構造の問題が起きます。回収を作るのは仕分け作業の工数ではなく、誤出荷による返品・再出荷コストと、仕分け待ちで出荷が遅れることによる機会損失であることが多い。この2つを金額化してから比較してください。箱詰めと仕分けを一体で検討する場合は、箱詰め自動化ロボットの検討軸も参考になります。

タイ工場での費用構造|5層で見積を分解する

ここから金額の話に入ります。コンベヤの見積を比較するときに最も多い失敗は、本体価格だけを比較することです。実際の総額は5つの層に分かれ、本体はその半分弱にすぎません。

本記事では以下のモデルケースを使います。

  • タイの組立工場、2直稼働、年間稼働300日
  • 25m区間の工程間搬送。現在は台車で実施
  • 導入するのはローラーコンベヤ25m+駆動部
コンベヤ設計2026|止まるのは速度ではなく合流と滞留 - figure 3

図3は、初期投資1,050,000バーツを5層に分解した内訳です。本体が45.7%を占める一方、電気工事・制御盤が20.0%、設計・立会・試運転が11.4%を占めており、本体以外の合計が54.3%になります。

初期投資の5層

内容金額(バーツ)構成比
本体ローラーコンベヤ25m+駆動部480,00045.7%
架台・据付架台製作、アンカー、レベル出し150,00014.3%
電気工事・制御盤配線、盤製作、シーケンス210,00020.0%
安全対策非常停止、カバー、センサ90,0008.6%
設計・立会・試運転図面、現地立会、調整120,00011.4%
合計1,050,000100%

各層で価格差が出る要因を説明します。

本体(480,000バーツ) — ローラー径、ピッチ、フレーム材質、駆動方式で変わります。タイ国内製作と日本からの輸入では、本体価格に大きな差が出ます。ただし後述するように、輸入を選ぶと保全部品の調達リードタイムが問題になります。

架台・据付(150,000バーツ) — 床の状態で変動します。既存アンカーが使えるか、床の水平がどれだけ狂っているか、夜間・休日作業が必要かで工数が変わります。弊社が関わった案件での目安として、稼働中のラインへの後付けでは、この層が1.5〜2倍になることを見込んでおく必要があります。

電気工事・制御盤(210,000バーツ) — 本体の次に大きい層です。ここが膨らむ理由は、既存設備との接続にあります。上流設備の完了信号を取り出すために、既存設備の盤を開ける必要がある。メーカー保証の関係で既存設備側の改造ができず、外付けセンサで代替する。こうした事情で、弊社が関わった案件での感触としては、当初見積の1.3倍程度に膨らむケースが珍しくありません。前章で「第5層|接続」を強調したのは、この費用が読めなくなるからです。

安全対策(90,000バーツ) — 削ってはいけない層です。詳細は後述します。

設計・立会・試運転(120,000バーツ) — 「設計費は無料にできないか」という交渉が入りやすい層ですが、ここを削ると5層の設計精度が落ち、結局は架台の作り直しで数倍のコストになります。特にタイでは、日本の親会社の設計標準と現地の施工事情を突き合わせる作業に工数がかかります。

見積比較で確認すべきこと

3社見積を取ったときに総額だけを並べても意味がありません。5層のどこが含まれ、どこが除外されているかを1枚の表に落として比較してください。安い見積は、たいてい電気工事と設計・試運転が「別途」になっています。

投資回収の試算|人件費だけで見ると16.1年

数字を計算します。前提は前章と同じモデルケースです。

現状の搬送工数

  • 搬送回数は1日120回(2直合計)
  • 1回あたり、往復+積み降ろしで3.5分
  • 120回 × 3.5分 = 420分/日 = 7.0時間/日
  • 年間稼働300日 → 7.0時間 × 300日 = 2,100時間/年

作業者の時間単価を出します。残業を含まない基準月額を14,000バーツ(基本給に諸手当を加えた額。残業代は含まない)月間所定労働時間を173時間と置きます。分子と分母をどちらも「残業を含まない基準」で揃えるのが要点です。

  • 14,000バーツ ÷ 173時間 = 約81バーツ/時間
  • 年間所定労働時間 173時間 × 12か月 = 2,076時間
  • 年額人件費 14,000バーツ × 12か月 = 168,000バーツ

なお、タイの最低賃金は2026年時点で日額337〜400バーツであり、バンコク・チョンブリ・プーケットなどが400バーツです。基準月額14,000バーツという置き方は、この日額水準に諸手当を含めた基準月額を想定したものであり、残業代は含んでいません。

搬送作業に残業が常態化している工程では、この単価をそのまま使わないでください。 その場合は、残業代を含む総額人件費を分子に、残業を含む総労働時間を分母に置いて単価を取り直します。分子だけに残業代を乗せて分母を所定時間のままにすると、削減効果が過大に出ます。いずれの取り方でも、自社の実績値に置き換えて計算し直してください。

コンベヤ導入後

25m区間の移動が自動化され、残るのは積み降ろしだけになります。

  • 1回あたりの残作業は1.2分
  • 120回 × 1.2分 = 144分/日 = 2.4時間/日
  • 年間 2.4時間 × 300日 = 720時間/年

削減時間を出します。

  • 2,100時間 − 720時間 = 1,380時間/年
  • 人数換算 1,380時間 ÷ 2,076時間 = 約0.66人分
  • 金額換算 1,380時間 × 81バーツ = 約111,780バーツ/年

時間単価の81バーツは14,000÷173=80.92…を丸めた値です。読者が電卓で追ったときに端数が合うよう、本記事では以降すべて丸め後の81バーツ/時間を単価として使い、111,780バーツを以降の計算の基準額とします。

年間ランニングコスト

  • 電力 0.75kW × 16時間/日 × 300日 = 3,600kWh。3,600kWh × 4.2バーツ = 15,120バーツ/年
  • 保全(部品・点検)初期投資の3% = 1,050,000 × 0.03 = 31,500バーツ/年
  • 合計 15,120 + 31,500 = 46,620バーツ/年

ケースA|人件費だけで見る

  • 年間正味効果 = 111,780 − 46,620 = 65,160バーツ/年
  • 単純回収年数 = 1,050,000 ÷ 65,160 = 16.1年

16.1年は、回収できないという結論です。 仮にコンベヤの物理的な寿命が一般的な目安として15〜20年程度あったとしても、その前に生産品目が変わり、レイアウトが変わります。人件費削減だけを根拠にした稟議は、この時点で却下されるべきです。

多くの提案書がここで「保全費を過小に見積もる」「稼働日数を増やす」といった調整で年数を縮めようとしますが、それは資料上の数字を動かしているだけで、現場のキャッシュフローは1バーツも変わりません。

ケースB|供給待ちの停止も入る工程

同じ工程を、別の角度から見ます。このラインでは、部品が手元に届かずに止まる「供給待ち」が発生しています。原因を問わず全原因を合計した供給待ちのライン停止が、1日18分(2直合計)発生していたとします。原因の内訳には、台車で搬送している作業者が他工程の応援に取られて部品供給が遅れるケースのほか、前工程の不良、金型交換の遅れ、部品の欠品そのものなどが混ざっています。

  • 18分/日 × 300日 = 5,400分 = 90時間/年
  • ラインの限界利益を2,800バーツ/時とすると、90時間 × 2,800バーツ = 252,000バーツ/年
  • このうち搬送起因の分(=コンベヤ導入で消える分)が60% = 252,000 × 0.6 = 151,200バーツ/年

60%という数字の意味を明確にします。これは18分の全原因のうち、搬送起因が占める比率です。残りの40%は前工程の不良や欠品など搬送以外の原因であり、コンベヤを入れても消えません。この比率は工場ごとに違います。自社で計算する際は、停止記録の原因欄を1か月分だけ集計して、搬送起因の比率を実測してください。

もう一点、この評価には前提があります。失った稼働時間を挽回できない(受注が能力制約にある)ことを前提に、限界利益で評価しています。 残業や休日出勤で挽回している工場では、失われるのは限界利益ではなく挽回にかかった実費です。その場合は、90時間分の残業割増賃金と光熱費など実際に追加で支払った金額に置き換えて計算してください。評価額は下がりますが、そのほうが自社の実態に合います。

  • 合計効果 = 111,780 + 151,200 − 46,620 = 216,360バーツ/年
  • 単純回収年数 = 1,050,000 ÷ 216,360 = 4.9年

2つのケースの比較

項目ケースA(人件費のみ)ケースB(ライン停止を含む)
人件費削減111,780バーツ/年111,780バーツ/年
ライン停止の回避0151,200バーツ/年
年間ランニング−46,620バーツ/年−46,620バーツ/年
年間正味効果65,160バーツ/年216,360バーツ/年
初期投資1,050,000バーツ1,050,000バーツ
単純回収年数16.1年4.9年

※人件費削減111,780バーツは、両ケースとも増員回避としてのみ現金化される金額です。現に人を減らさない限り帳簿上の人件費は減りません。詳細は次項に記載します。

同じ設備、同じ投資額、同じランニングコストです。違うのは、効果として何を数えたかだけです。16.1年と4.9年の差である約11年分は、すでに毎日発生しているが、誰も金額として記録していない損失から来ています。

二重計上を避けるための注記

この試算で最も注意が必要なのは、効果の二重計上です。ここを明示します。

基準線(反実仮想)は1つだけです。 すなわち「コンベヤを入れず、台車搬送を続ける世界」です。ケースAもケースBも、この同じ1つの世界と比較しています。ケースBは別の世界線を持ち込んでいるのではなく、同じ世界で発生している別種の損失を追加で数えているだけです。

そのうえで、2つの効果が重複していないことを確認します。ケースAの1,380時間は人の時間です。作業者が搬送に費やしている時間であり、削減されると作業者が他の作業に回れます。ケースBの90時間はラインの時間です。部品が届かずラインが止まっている時間であり、人が動いているかどうかとは無関係に発生します。

重要なのは、ケースBで金額化しているのが90時間の全部ではなく、そのうち搬送起因の60%(54時間相当)だけだという点です。この搬送起因の停止は、搬送者が他工程に取られて搬送していない間に起きています。搬送していない時間である以上、ケースAで数えた搬送作業1,380時間には含まれていません。片方は人が搬送に使っている時間、もう片方はラインが部品を待っている時間であり、時間の主体が違うため重複しません。 残る40%は搬送とは無関係の原因なので、そもそもコンベヤの効果として数えていません。

さらに、人件費111,780バーツの現金化についても明記します。この金額は増員回避としてのみ現金化されます。0.66人分の工数が浮きますが、現に人を1人減らさない限り、帳簿上の人件費は1バーツも減りません。したがって稟議では「111,780バーツのコスト削減」ではなく、「増産時に0.66人分の増員が不要になる」と書くのが正確です。この区別を曖昧にした提案書は、経理部門のレビューで必ず突き返されます。

なお、増産余地の有無は判断の前提になります。2026年第2四半期のタイ製造業の平均設備稼働率は57.47%であり、同期のMPIは前年同期比−1.79%でした。稼働率が6割を下回る水準にあるということは、設備側に余力が残っているという事実を示します。ただしこれは業種横断の平均値であり、余力があれば増産できるという因果を意味するものではありません。自社の受注見通しと照らして判断してください。

短期の動きも確認しておきます。タイの製造業生産指数(MPI)は2026年6月に前年同月比−3.1%、自動車生産は同−7.55%でした。なおMPIを公表しているのはタイ工業経済事務所(OIE)であり、自動車生産台数はタイ工業連盟(FTI)が公表する統計です。両者は出所の異なる指標なので、社内資料で引用する際は分けて帰属させてください。生産が縮小している局面で固定設備を増やす判断は慎重になるべきであり、これもケースAの16.1年を「やらない理由」として受け止めるべき根拠になります。

BOI恩典と2026年の制度で見落としやすい点

投資回収を短縮する手段として、BOI(タイ投資委員会)の恩典があります。ただし2026年の制度は対象範囲が明確に限定されており、ここを誤解した稟議が非常に多いため、正確に書きます。

BOI告示 第4/2569号の内容

2026年3月31日に官報で公示されたBOI告示 第4/2569号の要点は次のとおりです。

項目内容
恩典法人所得税を3年間50%免除
引き上げ条件機械価値の30%以上がタイ国内製の自動化機械に紐づく場合、100%に引き上げ
対象事業自動車製造(区分3.6)およびHEV/PHEV製造(区分3.8)
最低投資額100万バーツ以上(土地代・運転資金を除く)
申請期限2027年末

見落としやすい点1|対象は自動車とHEV/PHEVに限定される

この告示の対象は、自動車製造(3.6)とHEV/PHEV製造(3.8)です。「すべての製造業が対象」ではありません。 電機・電子、食品、樹脂成形、金属加工といった他業種の工場がこの告示をそのまま適用することはできません。他業種の場合は、BOIの自動化・ロボティクス関連の枠組みを個別に確認し、自社の事業区分で使える制度があるかを担当窓口に照会する必要があります。

自動車部品を作っている一次サプライヤーであっても、自社の登録事業区分が3.6でなければ対象外の可能性があります。稟議に恩典を織り込む前に、自社のBOI認証書に記載された事業区分を確認してください

見落としやすい点2|100万バーツの閾値は意外に近い

以下は、自社が事業区分3.6/3.8に該当する場合の話です。 その前提のうえで、最低投資額100万バーツ(土地・運転資金を除く)という条件は、コンベヤ案件では十分に射程に入ります。本記事のモデルケースの初期投資は1,050,000バーツであり、この閾値をわずかに超えます。ただしモデルケースは一般の組立工場であり、そもそも本告示の対象業種ではありません。あくまでコンベヤ案件の金額規模が閾値付近に来るという目安として読んでください。

ここで注意が必要なのは、何を投資額に算入できるかです。本体480,000バーツだけでは閾値に届きません。架台・据付、電気工事・制御盤、安全対策、設計・試運転のどこまでが算入対象になるかで、申請可否が変わります。この線引きは案件ごとの判断になるため、見積を5層に分解した状態でBOI側に確認するのが確実です。5層に分解しておく実務上の価値は、ここにもあります。

見落としやすい点3|タイ国内製30%の条件

これも事業区分3.6/3.8に該当する場合に限った条件です。 機械価値の30%以上がタイ国内製の自動化機械に紐づく場合、免除率が50%から100%に上がります。コンベヤは、この条件を満たしやすい設備です。架台とコンベヤ本体をタイ国内で製作すれば、機械価値に占める国内製比率は高くなります。

ただし、「タイ国内製」の判定には証明書類が必要です。国内製造業者としての登録、部材の原産、組立地の証明などが求められます。発注先を選ぶ段階で、その業者が国内製の証明書類を出せるかを確認してください。据付後に遡って書類を揃えるのは困難です。

見落としやすい点4|申請期限は2027年末

申請期限が2027年末である以上、2026年後半に構想を始める案件は時間的な余裕があるように見えます。しかし実際には、仕様確定から見積、稟議、発注、製作、据付、試運転までで6〜12か月かかります。設計に入る前の現状調査を含めれば、さらに前倒しが必要です。期限から逆算した工程表を、構想段階で引いておくことを勧めます。

安全と保全|巻き込まれ防止と定期点検

費用の5層のうち、削ってはいけないのが安全対策の90,000バーツです。理由を書きます。

巻き込まれが起きる場所は決まっている

コンベヤの人身事故は、機構的に危険な箇所がほぼ決まっています。

  • 駆動プーリとベルトの噛み込み部 — 最も重大な事故が起きる箇所
  • ローラーとフレームの隙間 — 手袋や袖が引き込まれる
  • チェーンとスプロケットの噛み合い部 — 保護カバーが外れやすい
  • 合流点と分岐点の可動部 — ジャム復旧時に手を入れる頻度が高い
  • ワークの落下範囲 — 高所を通す区間の下部

このうち、実際の事故で最も多いのはジャム復旧時です。運転中のコンベヤに手を伸ばして詰まりを直す動作は、どの工場でも日常的に行われています。したがって安全設計の要点は、カバーを付けることだけではなく、運転中に手を入れる必要がない構造にすることです。詰まりやすい箇所が分かっているなら、そこに手を入れずに解除できる機構を設計段階で入れます。

日本の労働安全衛生規則では、巻き込まれ防止装置の設置と定期点検が事業者の義務とされています。タイの工場では適用される法令が異なるため、労働省の関連規則に基づく要求事項を現地で個別に確認する必要があります。ただし実務としては、日本の親会社の設備安全基準を満たす設計にしておくほうが、後の監査対応も含めて安全側に倒れます。

非常停止の範囲を設計する

非常停止ボタンは「付いていればよい」ものではありません。設計で決めるべきは押したときに何が止まるかです。

25mのコンベヤの中央で非常停止を押したとき、上流の成形機も止まるのか、止まらないのか。止まらない場合、成形機が吐き出したワークはどこへ行くのか。止まる場合、成形機の再起動に何分かかるのか。この設計が曖昧だと、現場は「非常停止を押すと再起動が面倒だから押さない」という運用に流れます。これが最も危険な状態です。

原則として、非常停止の範囲は、それを押す人が目視できる範囲と一致させること。そして押しやすい位置に配置すること。配置間隔は一般的な目安として10m以下を出発点に置き、最終的な間隔は適用される法令とリスクアセスメントの結果に従って決めます。

定期点検の項目と頻度

保全費を初期投資の3%(31,500バーツ/年)と置きましたが、この金額が意味を持つのは点検が実施される場合だけです。最低限の項目を挙げます。

対象点検内容目安頻度
ベルト蛇行、摩耗、裂け、張力週次(目視)
ローラー回転不良、異音、軸受のガタ月次
駆動部チェーン張力、給油、減速機の油量月次
センサ類検出位置のずれ、汚れ月次
安全装置非常停止の動作、カバーの固定月次(記録必須)
制御盤端子の緩み、粉塵、冷却ファン半年

タイの工場では、点検表をタイ語で用意することが実効性を大きく左右します。日本語や英語だけの点検表は、形式的にチェックが入るだけで実質が伴わなくなります。導入時のベンダー選定では、タイ語の保全マニュアルと現地技術者による定期訪問の可否を条件に入れてください。

予備品の考え方

コンベヤの停止で最も長引くのは、部品待ちです。ローラー1本、ベルト1本、センサ1個が無いために数日止まる。日本から輸入したコンベヤの場合、部品調達に2〜4週間かかることがあります。

駆動用ベルト、ローラー(各サイズ数本)、センサ、モーター用の主要消耗品は、据付時に予備品として在庫しておくことを勧めます。この費用は初期投資の5層に含まれないことが多いため、見積段階で別途確認してください。

発注前チェックリスト

ここまでの内容を、社内でそのまま使える形に落とします。仕様書を出す前に、この11項目を埋めてください。空欄がある状態で見積を取ると、後から必ず追加費用が出ます。

  1. 搬送回数の実測値 — ピーク時と平均の両方。1日分でよいので実測する。推定値は使わない
  2. 搬送物の底面形状と重心 — 底が平らか、脚があるか、重心が偏っていないか。図面か現物写真で確認
  3. 上流工程の吐き出しパターン — 均等か、まとめて出るか。1日分の到着時刻を記録する
  4. 下流工程の停止実績 — 1回あたりの平均停止時間と頻度。バッファ長の逆算に使う
  5. 合流点と分岐点の数 — それぞれの箇所で、詰まったときの逃げ場が設計されているか
  6. レイアウトの固定期間 — 「このレイアウトを3年動かさない」と工場長が言い切れるか
  7. 通路横断の有無と処理方法 — 跨ぐ/潜る/切るのどれか。消防・避難通路との干渉確認済みか
  8. 上流下流との信号仕様 — 完了信号、受入可否、非常停止の連動範囲。既存設備側の改造可否も確認
  9. 見積の5層分解 — 本体/架台・据付/電気工事・制御盤/安全対策/設計・試運転が分かれているか
  10. 保全性の確認 — ローラー1本を交換するのに、ライン全体を止める必要があるか。保全用のアクセス幅は確保されているか
  11. BOI事業区分の確認 — 自社のBOI認証書の事業区分を確認し、適用可能な恩典があるかを窓口に照会したか

このチェックリストのうち、1・3・4は自社でしか測れません。そしてこの3つが、設計の質を最も左右します。ベンダーに丸投げできない部分です。

FAQ

コンベヤ設計の費用はいくらか?

本記事のモデルケース(25m区間、ローラーコンベヤ、2直稼働)では、初期投資の総額が1,050,000バーツです。内訳は本体480,000、架台・据付150,000、電気工事・制御盤210,000、安全対策90,000、設計・立会・試運転120,000で、本体は総額の45.7%です。

この金額は距離・搬送物・仕分け先数・既存設備との接続の複雑さで大きく変わります。ただし本体以外が総額の半分以上を占めるという構造は、多くの案件で共通します。本体価格だけで比較した見積は、必ず後から膨らみます。

コンベヤとAGVはどちらが安いか?

初期投資と変動費の構造が違うため、条件によって逆転します。コンベヤは初期投資が大きく変動費が小さい固定設備、AGVは台数に比例して費用が増える代わりに経路変更に強い設備です。

判断は費用の絶対額ではなく、次の3点で分かれます。①レイアウトを3年動かさないか、②1本の経路を複数工程で共有するか、③搬送量の年間変動幅が上下40%を超えるか。①がYesで②③がNoならコンベヤ、逆ならAGVが有利です。AGVの費用構造はAGV価格と導入コストの記事で台数別に分解しています。

既存ラインに後から追加できるか?

できますが、弊社が関わった案件での目安として、架台・据付の費用が1.5〜2倍になることを見込んでおいてください。稼働中のラインでは、アンカー打設と据付作業を夜間や休日に行う必要があり、工数が増えます。

より大きな問題は電気工事・制御盤の層です。上流設備から完了信号を取り出すために既存設備の盤を開ける必要があり、メーカー保証の関係で改造できない場合は外付けセンサでの代替になります。この検討を見積段階でやっていない案件は、立ち上げが1〜2か月遅れます。後付けを検討する場合は、接続仕様の確認を最初に行ってください

タイで製作するのと日本から輸入するのはどちらがよいか?

判断軸は3つです。

1つ目は保全部品の調達リードタイムです。日本から輸入した場合、ローラー1本の交換に2〜4週間かかることがあります。据付時に予備品を在庫しておく前提でなければ、この差は運用で効いてきます。

2つ目はBOI恩典です。BOI告示 第4/2569号では、機械価値の30%以上がタイ国内製の自動化機械に紐づく場合、法人所得税の免除率が50%から100%に引き上げられます。ただし対象は自動車製造(3.6)とHEV/PHEV製造(3.8)に限られるため、自社の事業区分の確認が先です。

3つ目は精度要求です。搬送物の位置決め精度が要求される区間や、特殊な環境条件がある区間は、実績のある製作元を選ぶ判断が優先します。実務上は、幹線の直線区間をタイ国内製作、精度が要る分岐・接続部を輸入品、という組み合わせになる案件が多くあります。

仕分け自動化は何台からペイするか?

「何台から」という問いの立て方自体が、判断を誤らせます。費用を決めるのは処理能力ではなく仕分け先の数であり、回収を決めるのは仕分け作業の工数ではないからです。

タイの人件費水準では、人手の仕分け工数を削減する効果だけで自動化が正当化されるケースは限られます。回収を作るのは、①誤出荷による返品・再出荷のコスト、②仕分け待ちで出荷が遅れることによる機会損失、の2つであることが多い。まずこの2つを金額化してください。

そのうえで、仕分け先ごとの実績数量をパレート図にします。12先あっても上位3先で8割を占めるなら、その3先だけを自動化する構成のほうが投資効率は高くなります。全数を自動化しないという選択肢を、最初から検討対象に入れてください

まとめ

コンベヤ設計で流れが止まるのは、速度ではなく合流・分岐・滞留の設計です。搬送能力が足りずに工場が止まることは稀で、止まるのは2本の流れが重なる合流点、行き先が詰まったときの逃げ場がない分岐点、そして上流下流のタクト差を吸収できない滞留区間です。この3か所は据付後の調整では直せません。架台のレイアウトに固定されているからです。

そして費用の話です。タイでコンベヤを人件費削減だけで正当化すると、回収は16.1年になります。年間1,380時間(約0.66人分)を削減して111,780バーツ、ランニング46,620バーツを差し引いて正味65,160バーツ。初期投資1,050,000バーツを割ると16.1年。これは「やらない」という結論です。

回収を作るのは搬送そのものではなく、供給待ちで止まっているラインの時間です。全原因合計で1日18分の停止は年間90時間、限界利益2,800バーツ/時で252,000バーツ。このうち搬送起因が占める60%、すなわちコンベヤで消える分が151,200バーツ。合計効果216,360バーツで、回収は4.9年になります。同じ設備、同じ投資額で、違うのは何を数えたかだけです。

ただし2つの留保を付けます。1つは、人件費111,780バーツが増員回避としてのみ現金化されること。現に人を減らさない限り帳簿上の人件費は減らないため、稟議には「増産時に約0.66人分の増員が不要になる」と書くのが正確です。もう1つは、停止時間を限界利益で評価しているのは失った稼働時間を挽回できない場合に限られること。残業で挽回している工場では、その実費に置き換えると評価額は下がります。この2点を書かずに4.9年だけを提示すると、経理部門のレビューで差し戻されます。

したがって発注前にやるべきことは、見積を3社から取ることではありません。自社のラインが搬送起因で何分止まっているかを、1か月分だけ実測することです。この数字がなければ、どのコンベヤを選んでも投資判断はできません。逆にこの数字さえあれば、本記事の計算式に自社の値を入れるだけで、稟議に載せられる回収年数が出ます。

搬送の設計は、現物とレイアウトを見ないと判断できません。同じ25mでも、通路を横切るか、段差があるか、上流がどんなパターンでワークを吐き出すかで、必要な仕様も費用も変わります。TOMAS TECHはバンコクを拠点に、日系製造業の工場IT/FA領域で搬送や生産管理の設計に関わってきました。まだ構想段階で図面がない、コンベヤにすべきかAGVにすべきかも決まっていない——その段階の相談が、実は最も手戻りを減らします。現状の搬送回数とレイアウト図をお持ちでしたら、判断軸の整理からご一緒します。お問い合わせはこちらからご連絡ください。