ロボット保守サポートで本当に短くなるのはどの時間か
ロボットの保守サポートを比較するとき、提案書の中心に置かれるのはたいてい「駆けつけ時間」です。翌営業日か、当日中か、24時間365日か。ところが実際に止まった日の時間を分解してみると、契約のグレードが動かしている部分は驚くほど小さいことが分かります。理由は単純で、保守契約が約束しているのは「何時間で来るか」であって、「何時間で直るか」ではないからです。
ロボットが止まってから生産が戻るまでの時間を決めているのは、次の3つです。部品が物理的にどこにあるか。復旧に必要な情報が残っているか。現地で誰が触れるか。海外拠点では、この3つがMTTR(平均復旧時間)の8割を占めます。契約書のグレードが作用するのは、残りの2割の、そのまた一部です。
この記事では、タイ・ラヨーン県の日系製造業(自動車部品、多関節ロボット12台)をモデルケースに、保守の整備で何時間が減り、いくらかかり、何年で回収できるのかを最後まで数字で追いかけます。結論を先に4つ書いておきます。
第一に、現状のMTTRは1件あたり52.0時間で、そのうち42.0時間、80.8%が「部品到着」です。保守契約が縮めるのは主に「切り分け」の3.0時間で、これは52.0時間の5.8%にすぎません。第二に、保守を整備すると年間の停止時間は468時間から232時間へ236時間減り、損失は1,298,000バーツ減ります。第三に、そのための初期費用489,000バーツのうち外注できるのは465,000バーツ(95.1%)で、外注できない24,000バーツ(4.9%)が最も安く、最も効きます。第四に、そして最も大事なこととして、年間の突発停止が1件しかない工場では、現地在庫285,000バーツは回収できません。回収年数は78.9年になります。だから最初にやるべきなのは契約でも在庫でもなく、突発停止の件数と区間別の時間を数えることです。
背景として、置いてすぐ脇に退ける数字を1つだけ出しておきます。国際ロボット連盟(IFR)が公表したロボット密度は、世界平均が従業員1万人あたり132台、アジアが131台、西欧が267台、北米が204台です。国別では韓国が1,220台、シンガポールが818台、ドイツが449台、日本が446台となっています。なおこのリリースにタイの数値は含まれていないため、本記事ではタイの密度には触れません。この数字が示しているのは、ロボットが特別な設備ではなくなりつつあるという流れだけです。密度そのものは、自社拠点の保守をどう組むかについて何も答えてくれません。答えを決めるのは、自社の台数と構成と、実際に止まった記録のほうです。
MTTRを5区間に分けると、契約が縮めるのは5.8%しかない
モデルケースの前提を置きます。タイ・ラヨーン県の日系自動車部品メーカー。多関節ロボットは12台で、内訳はアーク溶接6台、ハンドリング4台、パレタイジング2台です。稼働は2直で16時間/日、年250日、掛け合わせて4,000時間/年。導入からの平均経過年数は7年で、うち3台が8年を超えています。保全担当エンジニアの実効時給は320バーツとします。
この工場の直近12か月の突発停止は次のとおりでした。
| 区分 | 件数 | 停止1時間あたりの損失 |
|---|---|---|
| 溶接ラインが丸ごと止まる | 4 | 9,000 バーツ |
| セル単独で迂回できる | 5 | 2,700 バーツ |
| 合計・件数加重の平均単価 | 9 | 5,500 バーツ |
平均単価は (4 × 9,000 + 5 × 2,700) ÷ 9 = 49,500 ÷ 9 = 5,500 バーツ/時です。件数で加重した近似値であり、実際には止まる工程によって単価は上下します。それでも、以降の計算はすべてこの5,500バーツ/時を使って一本化します。単価を場面ごとに変えると、どこが効いたのかが読めなくなるからです。この一本化が結論をどれだけ甘くしているかは、後ろの章で最悪の組み合わせを置いて検証します。
区間ごとの実測

止まってから生産が戻るまでを、検知・切り分け・部品到着・復旧作業・精度確認の5区間に分けて実測すると、次のようになりました。「整備後」は2列に分かれます。現地在庫でカバーできる部品か、できない部品かで結果がまったく違うためです。
| 区間 | 現状 | 整備後(在庫あり部品) | 整備後(在庫なし部品) |
|---|---|---|---|
| 検知(異常に気づくまで) | 0.5 | 0.5 | 0.5 |
| 切り分け(原因の特定) | 3.0 | 1.0 | 1.0 |
| 部品到着 | 42.0 | 2.0 | 42.0 |
| 復旧作業(交換・調整) | 4.0 | 3.0 | 3.0 |
| 精度確認・立会い | 2.5 | 1.5 | 1.5 |
| 合計 | 52.0 | 8.0 | 48.0 |
この表を縦に見ると、保守サポートの提案書がどこを見ていないかが分かります。現状の52.0時間のうち、部品到着が42.0時間。42.0 ÷ 52.0 = 80.8%です。一方、保守契約に入って明確に短くなるのは切り分けの区間で、3.0時間から1.0時間へ、2.0時間の短縮です。実測の短縮率は 2.0 ÷ 52.0 = 3.8%。仮に切り分けの時間を丸ごとゼロにできたとしても 3.0 ÷ 52.0 = 5.8%です。つまり、契約のグレードを1段上げて動かせる余地は、上限でも全体の5.8%しかないということになります。
さらに厳しい事実があります。在庫でカバーできるのは9件中5件だけでした。バッテリー、ケーブル、グリス、センサ起因の停止です。残りの4件は減速機・サーボモータ・制御基板が原因で、これらは単価も在庫リスクも高く、現地に置く判断ができません。つまりこの4件については、整備後も部品到着は42.0時間のまま動きません。合計は48.0時間で、現状の52.0時間から4.0時間しか減らないことになります。整備の効果を「全件が8.0時間になる」と説明した提案書があれば、それは在庫できない部品を無視しています。
年間で見ると次のようになります。
| 状態 | 年間停止時間 | 損失/年 |
|---|---|---|
| 現状(9件 × 52.0) | 468 時間 | 2,574,000 バーツ |
| 整備後(5件 × 8.0 + 4件 × 48.0) | 232 時間 | 1,276,000 バーツ |
| 差 | 236 時間 | 1,298,000 バーツ |
計算を追えるように書いておきます。現状は 9 × 52.0 = 468時間、468 × 5,500 = 2,574,000バーツ。整備後は在庫あり5件が 5 × 8.0 = 40時間、在庫なし4件が 4 × 48.0 = 192時間で、合計232時間。232 × 5,500 = 1,276,000バーツです。差は 468 − 232 = 236時間、2,574,000 − 1,276,000 = 1,298,000バーツ。1件あたりに均すと 1,298,000 ÷ 9 = 144,222.2 となり、以降は丸めて144,200バーツとして扱います。この丸めた1件あたりの金額が、後半の感度分析でそのまま効いてきます。
ここで1つ、自分で自分の数字に穴を開けておきます。損失単価の内訳は「ライン全停止4件・セル迂回5件」で、在庫の可否は「在庫なし4件・在庫あり5件」です。この2つの4対5は別の切り方であって、同じ4件を指しているわけではありません。しかし最悪の場合、この2つが完全に重なることはあり得ます。ライン全体を止める高額な4件が、そのまま在庫できない減速機・サーボモータ・制御基板だった、という場合です。現状側は9件とも52.0時間なので、単価を分けても 4 × 52.0 × 9,000 + 5 × 52.0 × 2,700 = 2,574,000バーツで変わりません。ズレるのは整備後だけです。整備後の損失は 4 × 48.0 × 9,000 + 5 × 8.0 × 2,700 = 1,728,000 + 108,000 = 1,836,000バーツとなり、削減額は 2,574,000 − 1,836,000 = 738,000バーツまで落ちます。5,500バーツ/時という一本化は、この最悪の重なり方を平らにならしているわけです。この重なりが投資判断をどう変えるかは、感度分析の章でもう一度扱います。
なぜ海外拠点では部品到着が支配的になるのか
42.0時間という部品到着時間は、日本国内の工場に慣れた目には異常に長く見えます。しかしこれは業者の怠慢ではなく、構造の問題です。
第一に、在庫の所在です。減速機やサーボモータのような主要部品は、メーカーの地域倉庫か日本の工場に置かれています。現地の販売代理店が持っているのは、消耗品と一部のユニットまでです。タイ国内に無ければ、その時点で航空便の話になります。
第二に、輸送と通関です。航空便そのものは速くても、集荷の締め時刻、フライトの便数、到着後の通関、保税や許認可の確認、そして工場までの陸送が積み上がります。金曜の夕方に止まると、この積み上げが週末をまたぎます。42.0時間という数字は、平日の昼に止まった場合と週末に止まった場合を混ぜた平均であって、最悪値ではありません。
第三に、誰が判断するかです。部品を手配するには、まず「この部品が壊れている」と確定しなければなりません。切り分けが終わらないと発注できないので、切り分けの3.0時間は部品到着の42.0時間の前に直列で積み上がります。ここが、保守契約が効く唯一の区間が全体に効かない理由でもあります。切り分けを2.0時間縮めても、そのあとに42.0時間が待っているなら、体感は変わりません。
だからこそ順序が決まります。契約のグレードを上げる前に、どの部品を現地に置くかを決める。そしてどの部品を置くかを決めるには、過去の停止が何が原因で何件だったかを知っている必要があります。この考え方は保全業務全般に共通するもので、設備全体の枠組みは設備保全システムの選び方で整理しています。
産業用ロボットのメンテナンスは「3つの管理単位」で分かれる
産業用ロボットのメンテナンス計画が現場でズレる最大の原因は、期限の管理単位が3種類あることを意識せずに、全部を年度計画という1つの単位に載せてしまうことです。
カレンダー年・経過年数・サーボON時間をどう見分けるか
見分ける基準は「何が消耗を進めているか」です。
| 管理単位 | 代表的な対象 | 何で数えるか | 混ぜたときに起きること |
|---|---|---|---|
| カレンダー年 | 制御装置のバックアップ用電池、記憶保持部品 | 設置日からの暦の経過 | 稼働の多寡と無関係なのに、忙しい年だけ後回しにされる |
| 経過年数 | 減速機グリス、ケーブル、シール類 | 前回実施日からの年数 | 3年目安のグリスが年度予算の都合で4年目になる |
| サーボON積算時間 | 本体・制御装置のオーバーホール、軸別の疲労 | ロボットが実際に通電・動作した時間 | 2直と1直の設備が同じ扱いになり、片方が必ず早く傷む |
バッテリーは、ロボットが動いていようが止まっていようが放電します。だからカレンダー年で管理します。グリスは3年が一般的な目安とされ、これは前回交換からの経過年数で数えます。消耗品として挙がるのはバッテリー、ブレーキ、減速機、エンコーダあたりで、いずれも故障してから交換すると、部品到着の42.0時間がそのまま乗ります。
問題は3つ目です。オーバーホールの目安はサーボON積算時間で示されており、暦では管理できません。モデルケースの工場は2直16時間/日、年250日で4,000時間/年ですが、同じ会社の別ラインが1直だとすれば年2,000時間です。同じ年に導入した同じ型のロボットでも、到達時期は2倍違います。年度計画表の上では同じ行に並んでいるのに、実態は片方が倍の速度で消耗している。これが、カレンダーだけで保全計画を作ると必ずズレる理由です。
オーバーホールの目安と、1直と2直で倍ずれる話
三菱電機システムサービスは、オーバーホールの目安をサーボON積算時間で示しています。これを年4,000時間稼働という自社前提で年数に割り戻すと次のようになります。
| 対象 | 目安(サーボON積算時間) | 年4,000時間稼働なら |
|---|---|---|
| ロボット本体 | 24,000 時間 | 6 年 |
| 制御装置 | 36,000 時間 | 9 年 |
ここは誤解されやすいので明記します。「6年」「9年」はメーカーが示している数字ではありません。24,000 ÷ 4,000 = 6、36,000 ÷ 4,000 = 9 という、年4,000時間稼働という当社モデルケースの前提で割った試算です。1直(年2,000時間)の設備なら本体12年・制御装置18年になりますし、3直で回している設備ならもっと早く来ます。メーカーが時間で示しているものを年に読み替えた瞬間、その数字は前提とセットでしか意味を持たなくなります。
モデルケースの12台のうち3台は、すでに本体24,000時間の目安に到達しています。平均経過年数7年で年4,000時間なら28,000時間ですから、当然といえば当然です。ここで効いてくるのが、そもそもサーボON積算時間を読み出して記録しているかどうかです。読み出せていない工場では、この3台の存在に誰も気づいていません。気づくのは、止まった日です。
法定耐用年数5年のあと、保守の設計が効きはじめる
産業用ロボットの法定耐用年数は5年とされます。ただしこれは税法上の減価償却の期間であって、機械の寿命ではありません。実際には10年以上稼働している例が多く、償却の終わったロボットが主力設備として現役で残っているのが普通の状態です。
この差が保守の設計に効きます。導入から5年のあいだは、メーカー保証と初期の安定期が重なるため、突発停止はそれほど起きません。保守の議論も「まだ新しいから」で先送りされます。ところが償却が終わる頃から、消耗品の交換周期が一巡し、オーバーホールの目安が近づき、当時の担当者が異動または退職します。保守の弱さが顕在化するのは、簿価がゼロになったあとなのです。
そして厄介なことに、このタイミングは投資判断がいちばん通りにくい時期でもあります。簿価ゼロの設備に489,000バーツを投じる稟議は、新規ラインの投資より説明が難しくなります。だからこそ、感覚ではなく停止時間と損失の数字で書く必要があります。モデルケースで言えば、年間2,574,000バーツの損失が出ている設備に対して、初期489,000バーツと年間増分138,000バーツをどう置くか、という話になります。
償却後の設備では「更新すべきか、保守を強化すべきか」という論点も必ず出ますが、ここでも順序は同じです。年間468時間・2,574,000バーツという数字が出て初めて、更新案と保守強化案を同じ土俵に載せられます。
ロボット故障対応で最も高くつくのは、部品ではなく消えた情報

ここまでは9件の突発停止の話をしてきました。しかしロボットの故障対応で最も高くつく事象は、この9件の外側にあります。復旧に必要な情報が残っていないという事象です。
減速機を交換したとします。部品が届いて、交換して、電源を入れる。ここまでは保守業者の仕事の範囲です。しかしそのあと、ロボットが以前と同じ軌跡で同じ品質のビードを引くとは限りません。原点がずれ、ツール座標が変わり、教示点の実効位置が動きます。ここで頼りになるのがティーチングデータのバックアップです。無ければ、再ティーチングをやり直すことになります。
そして、この作業は保守契約の対象外です。保守契約が定めているのは部品交換と復旧作業と点検であって、「あなたの会社の製品の溶接条件を再現すること」ではありません。仮に業者に依頼できたとしても、時間単価の作業として別途見積になります。
再ティーチング1件 372,800 バーツの内訳
アーク溶接ロボット1台の再ティーチングにかかる時間を40時間とすると、コストは次の2本立てになります。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 作業工数 | 40 × 320 | 12,800 バーツ |
| そのあいだのライン停止 | 40 × 9,000 | 360,000 バーツ |
| 合計 | 372,800 バーツ |
見ておくべきは比率です。作業工数は12,800バーツで、全体の3.4%しかありません。残りの360,000バーツはライン停止の損失です。再ティーチングが高いのは、人件費が高いからではなく、そのあいだラインが止まるからです。だから「うちは自社でティーチングできるから大丈夫」という反論は、この金額に対しては効きません。自社でやっても40時間ラインが止まるなら、360,000バーツは同じように出ていきます。
一方、この事故を防ぐためのバックアップ整備(後述する第2層)は9,600バーツです。372,800 ÷ 9,600 = 38.8。1件防げただけで38.8倍になって返ってくる計算になります。保守の投資でこれほど分かりやすい比率が出る項目は他にありません。にもかかわらず、これが最も後回しにされます。バックアップは、取っている間は何の効果も見えないからです。
バックアップの3点と世代保管
取るべきものは3つです。ティーチングデータ、パラメータ、そして周辺のPLCラダーです。
- ティーチングデータ。教示点、ツール座標、ユーザ座標、溶接条件やハンドリングの動作条件を含みます。1台でも欠けると、その1台の再ティーチングが発生します。
- パラメータ。原点データ、軸の設定、安全に関する設定、通信設定。ここが欠けると、教示点が残っていても同じ位置に行きません。
- PLCラダー。ロボット単体では復旧しても、周辺機器とのやり取りが合わなければセルは動きません。ロボットのバックアップだけ取って安心している工場は少なくありません。
そして忘れられがちなのが世代保管です。最新の1本しか持っていないと、「先週の変更で品質が落ちた」というときに戻れません。上書き保存を繰り返している状態は、バックアップを取っていないのとほぼ同じ意味になります。日付を付けて数世代を残し、どの版が現在の量産条件なのかを1行で分かるようにしておく。これだけで、部品交換後の復旧の性格が変わります。
保管の場所は、ロボットの脇のUSBメモリだけでは足りません。火災でも盗難でも同時に失われるからです。とはいえ大掛かりな仕組みも要りません。工場のファイルサーバに台番号ごとのフォルダを切り、日付付きで置き、月次で持ち出す。モデルケースの第2層9,600バーツは、この作業を12台分やり切る費用です。
保守契約の3つの型と、台数による分岐点
ここまでの話を踏まえて、保守契約そのものを整理します。メーカーやロボットSIerが提供する保守サポートは、呼び名は各社で違いますが、実質的には3つの型に収まります。
スポット・年次点検のみ・フルメンテナンス
3つの型は、費用の出方と、予算の読みやすさと、社内に残る作業量が違います。
| 型 | 含まれるもの | 費用の出方 | 向いている状態 |
|---|---|---|---|
| スポット対応 | 呼んだときの出張・作業のみ。部品は都度見積 | 発生ベース。年によって大きく振れる | 台数が少なく、止まっても迂回できる |
| 年次点検のみ | 定期点検と点検報告。故障対応は都度見積 | 年額固定+発生ベース | 台数が中規模で、社内に保全要員がいる |
| フルメンテナンス | 定期点検+所定範囲の部品+作業料を包含 | 年額固定が大きい。予算が読める | 台数が多く、止まると全ラインが止まる |
比較で見落とされやすいのは、同じ「保守契約」という言葉が、定期点検・部品・作業料という3つの要素のどれを含むかで別物になることです。三菱電機システムサービスやオムロンの保守契約の説明を読むと、この切り分けが明示されています。見積を比べるときは金額の前に、部品代が含まれるのか、含まれるとしたらどの部品までか、作業料の時間単価はいくらか、時間外や休日の扱いはどうか、を1枚に並べてください。金額だけを並べた比較表は、ほぼ確実に別物を比べています。
12台のモデルケースで見る費用
モデルケースの工場は、これまでスポット対応でした。整備後は年次点検のみの契約を12台分結ぶ想定です。
| 区分 | 年額 |
|---|---|
| 従来(スポット対応の実績平均) | 78,000 バーツ |
| 整備後(年次点検契約 12台) | 216,000 バーツ |
| 増分 | 138,000 バーツ |
216,000 − 78,000 = 138,000バーツ。これが年間ランニングの増分です。1台あたりに直すと 216,000 ÷ 12 = 18,000バーツ/年の年次点検ということになります。
なぜフルメンテナンスにしないのか。理由はこの記事の最初に戻ります。フルメンテナンスに上げても、短くなるのは切り分けの区間が中心で、それは52.0時間の5.8%です。部品到着の42.0時間は、契約の型ではなく部品の所在で決まります。年額を大きくして予算を読みやすくすることに価値がある工場はありますが、それはMTTRを短くする投資ではなく、費用のばらつきを平準化する投資です。目的が違うものを、同じ「保守サポート」という言葉で比べないほうがよいでしょう。台数がもっと多い工場や、1台の停止が全ラインを止める構成であれば、フルメンテナンスの合理性は上がります。その分岐は台数と迂回可能性で決まるのであって、金額の大小では決まりません。
なお、保守を誰に頼むかという論点は契約の型とは別に存在します。メーカー系か、ロボットSIerか、独立系か。この選び方はロボットSIerの選び方で扱っており、保全業務そのものを外部に委ねる範囲の決め方は設備保全の外注で整理しています。
ロボット予防保全の投資回収|5層 489,000 バーツをどう積むか

ロボットの予防保全を「整備する」と言ったとき、実際に発生する費用は5つの層に分かれます。内製分は実効時給320バーツで換算しています。
初期費用の5層
| 層 | 内容 | 金額 | 内製/外注 |
|---|---|---|---|
| 第1層 | 台帳整備とサーボON時間の吸い上げ(12台・45時間 × 320) | 14,400 | 内製 |
| 第2層 | バックアップの取得と世代保管(12台 × 2.5時間 = 30時間 × 320) | 9,600 | 内製 |
| 第3層 | 重要部品の現地在庫(バッテリー12式・エンコーダ2台分・ケーブル3式・グリス一式) | 285,000 | 外注 |
| 第4層 | 特別教育(検査等)4名の受講 | 84,000 | 外注 |
| 第5層 | 復旧フローと保守手順書の整備(日本語・タイ語の2言語) | 96,000 | 外注 |
| 合計 | 489,000 |
合計は 14,400 + 9,600 + 285,000 + 84,000 + 96,000 = 489,000バーツです。内訳を内製と外注で切ると、内製が 14,400 + 9,600 = 24,000バーツで全体の4.9%、外注が 285,000 + 84,000 + 96,000 = 465,000バーツで95.1%になります。金額で見れば圧倒的に外注です。
しかし、見るべきなのは金額の大小ではなく線の位置です。第1層と第2層は、外注しようとしてもできません。自社のロボットが今何時間サーボONで動いたのか、どの版のティーチングデータが現在の量産条件なのか、この2つは社外の人間には分かりません。台帳を作る作業そのものは代行できても、そこに入る値が正しいかを判定できるのは自社だけです。そしてこの外注できない24,000バーツ、全体の4.9%が、最も安く、最も効きます。第2層の9,600バーツが372,800バーツの事故を1件防ぐ、という先ほどの計算がその証拠です。
第3層の現地在庫285,000バーツは、内訳を見ると分かるとおり、在庫できる部品にしか効きません。減速機やサーボモータや制御基板は入っていません。第4層の特別教育84,000バーツと第5層の手順書96,000バーツは、どちらも「現地で誰が触れるか」に対する投資です。手順書を日本語とタイ語の2言語で作るのは、書いた人と読む人が違うからで、これを1言語で済ませると運用に乗りません。
回収年数と感度分析
年間の便益は前半で出した1,298,000バーツ、年間の費用増分は138,000バーツです。差し引き 1,298,000 − 138,000 = 1,160,000バーツが純便益で、初期費用489,000バーツを割ると 489,000 ÷ 1,160,000 = 0.42年。5か月ほどで回収する計算になります。
ここで止めれば、きれいな提案書になります。しかしこの0.42年という数字は、年間の突発停止が9件あるという前提にぶら下がっています。そこで、1件あたりの削減額144,200バーツで按分して、件数を振ってみます。
| 年間突発停止 | 削減/年 | 純便益(− 138,000) | 回収年数 |
|---|---|---|---|
| 9件(基準) | 1,298,000 | 1,160,000 | 0.42 年 |
| 6件 | 865,200 | 727,200 | 0.67 年 |
| 3件 | 432,600 | 294,600 | 1.66 年 |
| 1件 | 144,200 | 6,200 | 78.9 年 |
計算はいずれも 489,000 ÷ 純便益です。6件なら 144,200 × 6 = 865,200、865,200 − 138,000 = 727,200、489,000 ÷ 727,200 = 0.67年。3件なら 144,200 × 3 = 432,600、432,600 − 138,000 = 294,600、489,000 ÷ 294,600 = 1.66年。ここまでは投資として十分に成立します。
問題は最後の行です。年1件の工場では、削減は144,200バーツ。そこから年間増分138,000バーツを引くと、純便益は 144,200 − 138,000 = 6,200バーツしか残りません。489,000 ÷ 6,200 = 78.9年。事実上、回収不能です。
しかもこの144,200バーツは、在庫あり5件・在庫なし4件という内訳の平均値です。年に1件しか止まらない工場では、その1件がどちらに転ぶかで結果が跳ねます。5,500バーツ/時の一本化のままでも、在庫している部品で止まれば削減は (52.0 − 8.0) × 5,500 = 242,000バーツ、在庫していない部品で止まれば (52.0 − 48.0) × 5,500 = 22,000バーツにとどまり、後者は年間増分138,000バーツを下回って年116,000バーツの持ち出しになります。
さらに、前半で置いた最悪の重なり(在庫できない部品が、ライン全体を止める高額な側と一致する)を当てはめると、もっと厳しくなります。在庫していない部品の1件なら削減は (52.0 − 48.0) × 9,000 = 36,000バーツ、在庫している部品の1件でも (52.0 − 8.0) × 2,700 = 118,800バーツで、どちらも138,000バーツに届きません。最悪の重なり方では、年1件の工場はどちらに転んでも持ち出しです。なお同じ重なりを9件の基準ケースに当てはめると、削減738,000バーツから138,000バーツを引いた純便益は600,000バーツ、回収は 489,000 ÷ 600,000 = 0.82年になります。件数のある工場なら、最悪の前提を置いても結論の向きは変わりません。平均値で書かれた回収年数は、件数が少ない工場ほど当てになりません。
感度分析の最後の行を提案書から消さないでください。年1件の工場に285,000バーツの現地在庫を持たせるのは、部品を倉庫で寝かせるだけの投資です。その工場が持つべきなのは第2層のバックアップ9,600バーツと、第1層の台帳14,400バーツだけです。合わせて24,000バーツ。この2つは件数が何件であっても効きます。バックアップは、突発停止がゼロの年でも、部品交換のたびに効くからです。
だから結論は在庫でも契約でもなく、順序の話になります。投資判断の前に、突発停止の件数と区間別の時間を数える。数えるのに必要なのは第1層の45時間だけで、14,400バーツです。この14,400バーツを払わずに285,000バーツの在庫を買う判断をしている工場が、実際にかなりあります。
タイでロボット保守を組むときの現地固有の論点
ここまでの計算は、どこの国の工場でも同じ形で使えます。ただしタイの拠点には、部品と人について現地固有の事情が加わります。どちらも金額表には載りにくいのに、実際のMTTRを大きく動かします。あわせて、投資判断の場でよく出るBOI措置との関係にも触れておきます。
部品の輸入リードタイムと通関
42.0時間という部品到着時間を短くする方法は、実務上3つしかありません。現地に置く、代理店の在庫を確認しておく、手配の意思決定を速くする、です。
現地に置くのは第3層の話で、置ける部品と置けない部品があります。2つ目の代理店在庫は費用がかかりません。減速機・サーボモータ・制御基板の型番を一覧にして、タイ国内の代理店またはメーカー現地法人にどこまで在庫があるかを、止まる前に一度確認しておく。これをやっておくと、止まった日に「どこにあるか」を探す時間が消えます。3つ目は社内の話です。部品の金額が大きくても、止まっている間の損失が5,500バーツ/時だと稟議の場が理解していれば、決裁は速くなります。誰がいくらまで即決できるかを、平時に決めておく話です。
現地で触れる人を誰にするか
ここは費用よりも、体制と法令の話になります。日本の労働安全衛生規則では、産業用ロボットの教示等が150条の3、運転中の柵等が150条の4、検査等が150条の5、教示前の点検が151条に置かれています。検査等の条文では、運転を停止すること、起動スイッチに施錠するか表示板を取り付けること、「作業中」である旨の表示を行うことが求められます。そして特別教育については、安衛法59条3項を受けた安衛則36条31号が教示等、32号が検査・修理・調整等を対象としています。つまり、教示だけでなく検査や修理や調整も特別教育の対象です。
ここで正直に書いておきます。日本の労働安全衛生法および安衛則は、タイの工場に直接適用されるものではありません。タイ側の要件は工場法や労働省の関連省令などで定められており、そちらを別途確認する必要があります。それでも安衛則の話をここに置くのは、日系企業の社内安全基準や本社の監査チェックリストが、実務上は安衛則を下敷きに書かれていることが多いためです。本社監査で「特別教育修了者は誰か」と聞かれる場面は現実に起きます。したがって、現地の法令要件と、本社基準として求められる水準の2つを、それぞれ確認しておくのが現実的な進め方になります。どちらか一方だけを見て断定しないでください。
そのうえで体制の話です。保守を外注すると決めても、社内に触れる人が要らなくなるわけではありません。日常点検、業者作業の立会い、停止の一次切り分け、再起動と精度確認は社内に残ります。モデルケースが第4層で4名分の特別教育84,000バーツを積んでいるのはこのためです。4名という数字は、2直体制で常時1名以上を確保し、なおかつ休暇と退職に耐えるための最小構成として置いています。2直それぞれに1名だけでは、片方の直の担当者が休んだ日に体制が消えるからです。タイ拠点では技術者の転職が現実的な前提なので、有資格者は複数名、かつ手順書は個人の頭ではなく第5層の96,000バーツの文書に置く。この2つはセットです。
BOI措置と設備更新の関係
タイ投資委員会(BOI)の2026年上期の申請は1,299件、1.473兆バーツで、前年同期比37%増と報じられています。うちスマート・サステナブル産業に関する措置の適用は132件、17.158十億バーツ(約172億バーツ)とされます。自動化・省人化に向かう投資が一定の規模で動いていること自体は事実です。
ただし、この数字から「だから保守も優遇される」と読むのは飛躍です。措置の対象や条件は案件ごとに異なり、既存設備の保守費用がそのまま対象になるとは限りません。ここで言えるのは、設備の更新や増設を検討する局面なら、保守体制の整備をその計画に含める余地がある、という程度です。新規に導入する台数が増えれば、第1層の台帳と第2層のバックアップは最初から作れます。既存12台の後追いより、新規分を正しく作るほうが安く済みます。協働ロボットを含む新規導入の費用構造は協働ロボット導入の費用で扱っています。
導入前チェックリスト
保守サポートの見積を取る前に、次の項目を自社で埋められるかを確認してください。埋まらない項目がある状態で見積を比べても、比べているものが揃いません。
- 直近12か月の突発停止が何件あったか。ライン全体が止まったものと、セル単独で迂回できたものを分けて数えたか。
- 1件ごとに、検知・切り分け・部品到着・復旧作業・精度確認の5区間の時間を書き出したか。書き出せない場合、次の1件から記録する仕組みがあるか。
- 停止1時間あたりの損失を、ラインごとに金額で言えるか。言えない場合、誰が算出できるか。
- 12台それぞれのサーボON積算時間を読み出せるか。読み出した値を記録する台帳があり、本体24,000時間・制御装置36,000時間の目安に対して何台がどこまで来ているか把握できているか。
- ティーチングデータ・パラメータ・PLCラダーのバックアップが全台分あるか。最終取得日はいつで、世代は残っているか。保管場所はロボットの脇のUSBメモリ以外にもあるか。
- 過去の停止のうち、現地在庫でカバーできたはずの件数は何件か。カバーできなかった部品の型番と単価、そしてタイ国内の代理店またはメーカー現地法人の在庫有無を、止まる前に確認できているか。
- 現地で日常点検と立会いを行う人は何名いるか。特別教育の修了者は何名か。休暇と退職に耐える人数か。
- 保守手順書と復旧フローは、実際に読む人の言語で書かれているか。
- 見積書に、部品代・作業料・時間外料金・出張費のどれが含まれ、どれが都度精算かが明記されているか。
よくある質問
ロボットの保守サポートは年間いくらかかりますか?
台数と契約の型で変わります。モデルケースの12台では、従来のスポット対応が実績平均で年78,000バーツ、年次点検契約に切り替えると年216,000バーツで、増分は138,000バーツでした。1台あたりでは年18,000バーツの年次点検という水準です。ただしこの金額だけを見て判断しないでください。同じ年額でも、部品代を含むか含まないか、時間外の扱いがどうかで中身がまったく違います。また、この年額の増分は、部品到着の42.0時間には作用しません。
産業用ロボットのメンテナンスは自社でできますか?
区分によります。日常点検、清掃、教示、グリス交換、バッテリー交換、そして一次切り分けまでは、体制と教育があれば自社で行っている工場が多くあります。一方、オーバーホール、減速機やサーボモータの交換、制御基板の交換は、部品の入手経路と専用の調整が必要なため外部に依存する部分が残ります。重要なのは、外注する範囲を決めても社内に残る作業(日常点検・立会い・記録・バックアップ)は消えない、という点です。そして本記事の主題である第1層の台帳と第2層のバックアップは、そもそも外注できません。
ロボットのオーバーホールはいつ必要ですか?
メーカーが示している目安はサーボON積算時間で、本体24,000時間、制御装置36,000時間です。これを年数に読み替えるときは、自社の稼働時間で割ってください。モデルケースの年4,000時間なら本体6年・制御装置9年ですが、これは当社が前提を置いて割った試算であって、メーカーが年数で示している数字ではありません。1直(年2,000時間)なら倍の年数になります。まず自社のサーボON積算時間を読み出すことが先で、暦での判断は最後です。
メーカー保守とロボットSIerの保守はどちらがよいですか?
一概には言えません。メーカー系は部品の入手と機種固有の知見に強く、SIer系はセル全体(周辺機器・PLC・治具)を含めた復旧に強い傾向があります。判断の分かれ目は、過去の停止が「ロボット本体の故障」だったのか「セル全体の不整合」だったのかです。前者が多ければメーカー系、後者が多ければセル全体を見られる相手が向きます。これも結局、過去の停止を数えていないと選べません。
タイでロボットのスペアパーツはどのくらいで届きますか?
部品の種類と在庫の所在で大きく変わります。モデルケースの実測では、現地在庫が無い部品の到着に平均42.0時間かかっていました。バッテリーやケーブルのように代理店が在庫している消耗品であれば当日から数日、減速機や制御基板のように地域倉庫や日本からの手配になる部品では、週末をまたぐと数日単位になります。現地在庫を置けば2.0時間まで縮みますが、置けるのは単価とリスクが見合う部品だけです。まずは主要部品について、タイ国内にどこまで在庫があるかを一度洗い出しておくことをおすすめします。
まとめ
ロボットの保守サポートを比較するとき、私たちはつい契約書の条件を並べます。しかしモデルケースで実測したMTTR 52.0時間のうち、契約のグレードが動かせるのは切り分けの3.0時間、全体の5.8%でした。残りを支配しているのは部品到着の42.0時間、80.8%です。停止時間を決めているのは契約ではなく、部品の所在と情報の有無と現地の体制でした。
整備すれば年間の停止時間は468時間から232時間へ236時間減り、損失は1,298,000バーツ減ります。初期費用489,000バーツのうち外注できるのは465,000バーツですが、外注できない24,000バーツ(第1層の台帳14,400バーツと第2層のバックアップ9,600バーツ)が最も効きます。バックアップの9,600バーツは、再ティーチング1件372,800バーツを防げば38.8倍で返ります。
そして最後に、感度分析の不都合な結論をもう一度書いておきます。年9件なら回収0.42年、6件なら0.67年、3件なら1.66年。しかし年1件の工場では純便益が6,200バーツしか残らず、回収は78.9年で事実上不能です。在庫は万能ではありません。だから順序は、契約でも在庫でもなく、突発停止の件数と区間別の時間を数えることから始まります。数えるための第1層は14,400バーツ、45時間の作業です。ここを飛ばした投資判断は、当たるか外れるかの賭けになります。
まだ数字が揃っていない段階でも構いません。過去の停止が何件あったか分からない、サーボON積算時間の読み出し方が分からない、バックアップがどこまで取れているか把握できていない。そうした状態からの整理が、私たちがいちばん多く相談を受ける場面です。見積の前段として、現状の区間別時間と件数を一緒に洗い出すところからお手伝いできますので、検討段階でもお問い合わせからお気軽にご相談ください。
参考情報
- IFR ロボット密度に関するプレスリリース (国際ロボット連盟。世界平均132台/万人、韓国1,220台、シンガポール818台、日本446台。タイの数値は本リリースに含まれません)
- タイBOI 2026年上期の投資申請 (Nation Thailand、2026年7月23日。申請1,299件・1.473兆バーツ、スマート・サステナブル産業措置は132件・17.158十億バーツ)
- 産業用ロボットの安全に関する法令の解説 (日本品質保証機構。教示等は安衛則150条の3、検査等は150条の5、特別教育は安衛則36条31号・32号) および 条文の並びの解説 (労働新聞社)
- 法定耐用年数と実際の稼働年数 (京二。法定耐用年数5年は税法上の償却期間で、実際は10年以上稼働する例が多いとされます)
- ロボットのオーバーホール (三菱電機システムサービス。目安は本体24,000時間・制御装置36,000時間。年数への換算は当社試算です)
- ロボットの保守契約 (三菱電機システムサービス) および 保守契約サービス (オムロン。いずれも定期点検・部品・作業料の切り分けを確認できます)
- ロボットの消耗品と交換目安 (MIRAI-LAB。グリス交換は3年目安、消耗品はバッテリー・ブレーキ・減速機・エンコーダ)