製造業・タイにおけるDXの取り組みとは?課題と事例を併せて解説

15-Aug-2022  15-Aug-2022

製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタルを活用して、既存のビジネスを変革すること、新しい価値を生むことです。
現場より集めたデータを活用して、入荷、製造プロセス、在庫、出荷に至るまで、すべてのデータを一元管理をしていきます。
これにより業務効率が向上するとともに、企業として新しい価値を生むための「種」を作ることができます。
本記事では、製造業のおけるDX、および海外拠点のタイにおけるDXの取り組みについて、わかりやすく解説をします。

    DXとは?

DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略語で、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という仮説です。スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマンが提唱したとされています。
経済産業省の、「DX推奨ガイドライン」では次のようにDXを定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。 」
従来は、IT・デジタルを活用して「業務を効率化する」ところをゴール・目的としていたものを、「ビジネスモデルや、組織に変革を起こす」ことと、目的に変化があります。

    製造業におけるDX

「ビジネスモデルや、組織に変革を起こす」ことを目的としているDX。
そんなDXは、製造業の分野でのように向き合えばいいのでしょうか?
現状の日系企業が抱えている課題を睨みながら、DXを活用して到達できるゴールを検討することが非常に重要になります。

    製造業におけるDXとは?

日本は、日本の目指すべき社会の姿として、”Society 5.0”を掲げており、さらに2017年3月に、日本の産業が目指すべき姿として、“Connected Industries (コネクテッドインダストリーズ) ”というコンセプトを提唱している。(引用:製造基盤白書(ものづくり白書))
Connected Industriesは設備、技術、人がデータを返して繋がることをさしており、新たな付加価値創出と、社会の課題解決を目指す産業の在り方である。キーとなる技術は、IoT、AIなどのデジタル技術です。
このデジタル技術が、製造業に与える大きな変革が、DX(デジタルフォーメーション)です。

    製造業DXにおける課題 「2025年の崖」問題

日本の製造業DX(デジタルトランスフォーメーション)を阻害する大きなリスクとして見落としてはならないものに、基幹システムの問題です。 (引用:製造基盤白書(ものづくり白書))
経済産業省「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の報告書によると、日本企業の約8割が「レガシーシステム」を抱えており、複雑化、老朽化、ブラックボックス化の問題について、警笛を鳴らしています。
「レガシーシステム」は、爆発的に増加するデータを活用しきることができず、業務基盤の維持継承が困難になるリスクがある。また、サイバーセキュリティや、事故・災害によるシステムトラブル、データ消失・流出のリスクが高まることが予想をされている。「レガシーシステム」が残存した場合、2025年までに予想されるIT人材の引退やサポート終了によるリスクの高まりに伴う、経済損失は、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)に上る可能性があると指摘。
これを「2025年の崖」と呼んでいる。この「2025年の崖」の問題は、我が国の製造業においても存在しており、その解決は喫緊の課題です。

    製造業DXの目的

「2025年の崖」問題で抱えている通り、「レガシーシステム」の改善対策が急務の課題です。

しかし一方で、アンケートのよると、DX推進の目的として、「業務オペレーションの改善や変革」、「既存ビジネスモデルの変革」が高い割合にあるのがわかります。

この結果からわかるように、日本企業のIT投資については、業務効率化、業務オペレーションの改善や変革が最も重要視されており、生産性向上が日本経営者にとって重要視するべき課題であるということがわかります。

出典: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査」(2019年12月)

    製造業DXの活用事例

企業の関心が、業務効率化に向けられている中、具体的に実施をされている企業のDX施策は、どのようなものがあるのでしょうか?

 

ここでは具体例として2社のDX事例を紹介します。

    事例① トヨタ自動車株式会社「工場IoT」

出典: 製造業DX取組事例集|pwc

概要

「工場IoT IoT工作機器などへの対応化されていない設備の標準化」:インターフェースの標準化」の考え方をエンジニアリングチェーンやサプライチェーンに広げ、「開発」「市場」「工場」をデジタル化で連携することを目的として情報共有基盤を構築。

取組内容

「工場IoT」においては、工場横断の共有プラットフォームを2~3年かけて段階的投資。製造側はデジタル技術を使ったトヨタ生産方式として、各社員が小規模なテーマを立案し、実行し、効果を出すというボトムアップの取り組みを行い、人材の育成も併せて進めた

成果

「工場IoT」で得られた成果を受け、エンジニアリングチェーンやサプライチェーンを含むデジタル化への適用を打ち出し、品質向上や商品力向上、法規への対応等、付加価値向上に関わるデジタル化に着手し始めた。

今後の課題

デジタル化とセキュリティ対策強化は同時並行で進めなければならないが、自社だけでなくサプライチェーン全体の理解と実施が必要である。

    事例② ダイキン工業株式会社「工場IoTプラットフォーム」

出典: 製造業DX取組事例集|pwc

概要

「工場内のIoT活用として、①製造現場のデータ発掘、②データの収集と統合、③データの見える化と分析、④顧客への価値提供(工場運営の高度化と効率化の同時実現)のサイクルを回すことを構想した。

取組内容

工場のすべての設備をネットワークでつなぎ、情報収集の標準化を進めるための情報基盤である「工場IoTプラットフォーム」を整備した。

成果

予測技術の確立や人の判断基準のモデル化、人やモノの動きのデジタル化、工場のデジタルツイン構築(生産シミュレーション)などを通して、予知・予測が可能になった。.

今後の課題

グローバルなサプライチェーンの変動に柔軟に対応するため、特に調達分野やBOMにおいて、人が介在して情報をつないでいる箇所の洗い出しなどを行い、デジタル化・標準化したい。

    タイにおけるDXの状況

タイにおけるDXの取り組み状況について、解説をします。
タイはタイ政府のデジタル経済社会省(กระทรวงดิจิทัลเพื่อเศรษฐกิจและสังคม)を中心に、デジタル化、およびDX化の促進をしています。
ここでは、デジタル経済社会省(กระทรวงดิจิทัลเพื่อเศรษฐกิจและสังคม)のビジョン、ミッション、取り組み内容について解説をします。

    デジタル経済社会省の役割

タイは自国のデジタル化を推進するため、2002 年10月に情報通信技術省を設立しました。その後、2016 年9月16 日にデジタル経済社会省(กระทรวงดิจิทัลเพื่อเศรษฐกิจและสังคม)と現在の名前に変更され、省庁、局、部門が刷新されました。

タイ国内へのデジタル経済を計画、促進、発展させる役割を担っており、ビジョンとして「Thailand 4.0 に向けてテクノロジーとデジタルイノベーションの活用をリードする」と掲げております。

ミッションについては、次の6つを掲げています。
1.経済社会のデジタル化、統計、気象に関する政策、国家計画、法律の提案。デジタル技術を安全かつ確実に使用することへの信頼を築く。

2.国の経済的および社会的発展のための通信、情報、電気通信インフラストラクチャを開発、管理、および監督。

3.テクノロジーとデジタルイノベーションの使用を促進およびサポートする 研究開発の継続 デジタルマンパワーの育成など 国の競争力を高め、人々の生活の質を向上をさせる。

4.複数の機関からの情報をデジタル技術と連携させることにより、行政業務の統合と効率化を促進する。

5.国の統計システムを管理。意思決定をサポートする 気象学を促進し発展させるだけでなく、効果的であること 間に合う サービス利用者のニーズに応える。

6.経済と社会のデジタル開発、統計、気象に関する政策、国家計画、法律を監督、監視、評価するため。デジタル技術を安全かつ確実に使用することへの信頼を築く。

出典:デジタル経済社会省

    デジタル経済社会省の構図

デジタル経済社会省は、4つの公的機関、および国有企業が付随しています。
1. ナショナル テレコミュニケーションズ パブリック カンパニー リミテッド(บริษัท โทรคมนาคมแห่งชาติ จำกัด )
2. タイ郵便株式会社 (บริษัท ไปรษณีย์ไทย จำกัด)
3. デジタルエコノミー推進機構(สำนักงานส่งเสริมเศรษฐกิจดิจิทัล)
4. 電子取引開発庁(สำนักงานพัฒนาธุรกรรมทางอิเล็กทรอนิกส์)

出典:デジタル省構図

    デジタルエコノミー推進機構のDXスタートアップ企業投資

デジタルエコノミー推進機構 (Digital Economy Promotion Agency  สำนักงานส่งเสริมเศรษฐกิจดิจิทัล) 通称:depa は、タイ国内におけるDXスタートアップベンチャーへの積極的な投資を行っています。
投資以外にも、デジタルスタートアップとテクノロジー起業家のネットワークを構築する活動の場としても利用されます。
国内外の両市場で、ビジネスをスケールアップさせるための育成活動と、ビジネスチャンスを拡大するためのビジネスマッチング活動が実施されます。.

出典: Digital Economy Promotion Agencyn

    デジタルエコノミー推進機構のDXスタートアップ企業投資

デジタルエコノミー推進機構 (Digital Economy Promotion Agency) 通称:depaがどのような企業に投資をしているのか、一例をご紹介します。

    事例① タイ初カーシェアリングサービススタートアップ

出典:Haupcar

企業名:
   Haupcar (บริษัท ฮ้อปคาร์ จำกัด)
事業内容:
   Hopcarは、タイ初のカーシェアリングサービスのスタートアップです。
車の配車予約、車を開けてロックするアプリケーションを通じて24時間、
毎日支払うことなく時間単位で使用可能。
Webサイト:
http://www.haupcar.com/

    事例② 物流効率化デジタルサービス

出典: Logisty

企業名:
   Logisty (บริษัท โลจิสตี จำกัด)
事業内容:
   Logisty (บริษัท โลจิสตี จำกัด)ロジスティクス」は、輸送サービス事業者をつなぎ、
仕事や車両を交換して利益を最大化するプラットフォームです。
顧客サービスの向上や、 車のアイドル状態の問題を減らします。
Webサイト:
https://www.logisty.asia/

    事例③ DXによる省エネシステム

出典: ENRES

企業名:
   ENRES (Energy Response Company Limited) (บริษัท เอ็นเนอร์จี้ เรสปอนส์ จำกัด)
事業内容:
   商業ビルと工場の管理は、複数のシステムで構成されています。
商業ビルと工場の管理効率をさらに向上させるために、ENRES はIoT 技術活用 して、センサーと制御システムを導入します。
人工知能 技術AIを活用して、すべてのセンサーから受信した大量のデータを処理して、最も効率的な制御を実現し、消費電力を最小化することが可能となります。
これにより、エネルギー消費をさらに削減できます。
地区や都市の電気系統を制御することでスマートシティに対応できる都市全体のピークと電力消費を削減します。
Webサイト:
https://enres.co/

    デジタルエコノミー推進機構の今後の方針

タイ初の配車アプリケーションサービスや、ここには掲載ができていないですが、タイ初の配車アプリケーション、マッサージ予約システム、ブロックチェーンを活用した金融プラットフォームと、様々な領域へのビジネススタートアップへの投資しています。
IoT、AIを活用して、電気効率を最大化する。消費電力が特に多い、商業ビル、工場をターゲットとしており、自給電力問題に悩むタイにおいては、必要なソリューションである。
Logistyは、配送を効率化するプラットフォーム。プラットフォームに登録をして、配送依頼をすると、配送効率を最大限高めてくれるため、顧客にとってベストな方法での配送が可能となります。
昨今のタイ国内のEC市場の発達で、さらなる需要拡大が見込める領域です。
デジタルエコノミー推進機構 (Digital Economy Promotion Agency) depaは、こうしたデジタル スタートアップ企業が、デジタル テクノロジーを活用して可能性を創造し、競争力のあるデジタルスタートアップ企業を増やすことを使命としています。

 

    まとめ:製造業・タイにおけるDXの取り組み

製造業におけるDXは、最終的な目指すべき姿をイメージして、スモールスタートで進めていくことが重要となります。
タイ国内の日系企業においても、IoTツールを活用したデータ収集については、導入をされているところも増えてきています。
しかしながら、現段階では、データを活かしきれていないというのが、現状かと思います。
こちらは三菱電機株式会社が掲げているDXへのロードマップです。
最終的には、生産情報と、ITを連携される仕組みで、工場設備IoTで製造現場起点の情報を取得して、リアルタイムにデータ分析・活用することを目指しているロードマップとなります。
初期段階の情報取りから進めていくことで、工場でも無理のない、リアルなDXを実現することができます。
エンジニアリングチェーンとサプライチェーンを俯瞰した分析を行うことで、ものづくり全体としての生産性向上やコスト改善を目指すことができるようになります。.

出典: 製造業DX取組事例集|pwc

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