「仕掛品管理をきちんとやりたいのですが、何から始めればいいですか」。タイの日系工場でよく受ける質問です。お答えはいつも同じで、まず工程と工程の間に何個溜まっているかを数えてください、と申し上げます。仕掛品は原価がすでに発生していて、それでいてまだ売上に変わっていない在庫だからです。この記事では、チョンブリ県の自動車部品加工工場を例に、5工程のあいだに積み上がった24,000個をどう数え、どこまで減らしたのかを追いかけます。
仕掛品管理が工場の利益を静かに削る理由 — 見えない在庫は減らせない
工場を訪問して「いま仕掛品は何個ありますか」と尋ねると、即答できる方はほとんどいません。返ってくるのは「月末の棚卸しの数字なら出せます」という答えです。つまり、いま現場に何個あるかではなく、先月末に何個あったかなら分かる、という状態です。
これは記録が雑だという話ではありません。むしろ逆で、月末の棚卸しは非常に丁寧に行われています。ラインを止め、担当者を総動員し、現品を数え、Excelに打ち込み、帳簿と突き合わせる。数日がかりの作業です。丁寧にやっているからこそ、月に一度しかできない。そして月に一度しか数えないので、その間に何が起きたかは分かりません。
仕掛品が厄介なのは、増えても誰も困らない点にあります。原材料が足りなくなればラインが止まるので、全員がすぐ気づきます。完成品が売れ残れば営業が動きます。ところが仕掛品は、工程と工程の間に置かれているだけで、誰の業務も止めません。むしろ、次の工程に渡す材料が手元に積んである状態は、現場の感覚としては安心に近いのです。
しかし会計の側から見ると、仕掛品は原材料費も労務費も加工費もすでに投じられた資産です。現金がその形に変わって、工場の床の上に置かれています。売れて回収されるまでは、その現金は使えません。仕掛品が多い工場は、利益率が悪いのではなく、同じ利益を出すために抱えている資金が多い工場です。
そして、仕掛品が多いことによる損失は、決算書のどこにも「仕掛品による損失」という科目では出てきません。出てくるのは、資金繰りの苦しさ、保管スペースの不足、リードタイムの長さ、棚卸し差異の大きさといった、別々の症状としてです。原因がひとつなのに症状が分かれているので、それぞれに別々の対策が打たれ、根本には手が届かないままになります。
仕掛品管理の出発点は、削減の方法を探すことではありません。いま何個あるのかを、月に一度ではなく日々知ることです。見えない在庫は減らせない、という単純な事実がすべての前提になります。
仕掛品とは何か — 原価は発生済みで、売上はまだ立たない
用語の整理から始めます。仕掛品とは、製造工程の途中にあって、まだ完成していない製品のことです。原材料の状態は過ぎているので原材料ではなく、まだ検査を通っていないので製品でもありません。その中間にある、名前のつけにくい状態です。
ダイコー・エクステックの解説では、仕掛品を「製造途中の製品であり、原材料費や労務費などのコストはすでに発生しているが、未完成のため販売できない状態」と説明しています。この定義に、仕掛品管理が難しい理由がすべて含まれています。コストは発生済み、しかし売れない。つまり、支出だけが先に確定していて、回収の見込みは工程の進み方に依存する、という資産です。
英語ではWIP(Work In Process、あるいはWork In Progress)と呼ばれます。MachineMetricsのWIPガイドも、仕掛品を製造工程の途中にあって完成していない品物と定義したうえで、サイクルタイム、リードタイム、スループットといった指標と併せて管理すべき対象として扱っています。タイ拠点では現地スタッフとの会話でWIPという語がそのまま通じることが多いので、日本語の「仕掛品」と英語のWIPは同じものを指す、という共通認識を最初に作っておくと話が早くなります。日本人管理者だけが「仕掛品」と言い、現地スタッフだけが「WIP」と言っている状態だと、同じ数字を見ていても議論が噛み合いません。
もうひとつ、実務でよく混乱するのが「半製品」との違いです。半製品は、それ単体で販売できる状態まで加工が進んだもの、あるいは在庫として計上する単位が確立しているものを指します。仕掛品は、単体では売れません。この違いは会計処理にも表れるので、自社の勘定科目でどちらに分類しているかを確認しておいてください。分類が曖昧なまま数量だけを追いかけると、経理の帳簿と現場の数字が最後まで一致しません。
そして仕掛品には、工程が進むほど単価が上がるという性質があります。切削を終えただけの部品と、熱処理と研削を終えた部品では、同じ形をしていても投じられた原価が違います。同じ1個でも、ラインの後ろにあるほど高い。この当たり前の事実が、後で仕掛品在庫額を計算するときに効いてきます。数量だけを見て「一番多いところを減らそう」と考えると、金額としては効果の小さいところに手をつけることになりかねません。
仕掛品管理が難しい3つの構造的な理由 — 数量・原価・滞留
仕掛品管理が難しい理由は、担当者の能力や意欲とは関係のないところにあります。構造的な理由が3つあります。
1つ目は、数量の把握が難しいことです。 原材料の在庫は倉庫にあり、完成品の在庫も倉庫にあります。倉庫は場所が決まっていて、入出庫の記録が残ります。ところが仕掛品は倉庫にありません。加工機の脇、コンベアの上、台車の中、検査待ちのラックの中、そして工程間の通路脇に置かれた通い箱の中に分散しています。しかも刻々と移動します。数えている間にも次の工程へ流れていくので、原理的に「ある瞬間の正確な数」を人手で取ることが難しいのです。
2つ目は、原価計算が複雑になることです。 前述のとおり、仕掛品の単価は工程の進み具合によって変わります。5工程あれば、少なくとも5段階の単価が存在します。実務では加工進捗度という考え方を使って按分しますが、どの工程まで進んだ品物が何個あるかが分からなければ、按分の元になる数字が作れません。数量の把握が甘いと、原価計算の精度も自動的に落ちます。ダイコー・エクステックの解説も、数量把握の困難さ、原価計算の複雑さ、過剰在庫リスクの3点を仕掛品管理の課題として挙げており、最初の2つは連鎖しています。
3つ目は、滞留が発見されにくいことです。 工程間に置かれた仕掛品は、全体としての量が同じであれば、中身が入れ替わっていなくても気づかれません。日々の管理が総量だけを見ていると、先入れ先出しが崩れていること自体が指標に現れないからです。金属部品であれば錆が出て、樹脂であれば変質し、電子部品であれば設計変更で使えなくなります。滞留は、量ではなく時間の問題なので、量だけを見る管理では捕まえられません。
この3つを並べると、共通する要素が見えます。いずれも「その場の努力では解決しない」ということです。数える回数を増やす、原価計算を丁寧にやる、現場を頻繁に見回る。どれも改善にはなりますが、人手でやる限りは頻度に限界があります。仕掛品管理がシステムの話になりやすいのは、精神論では届かない領域だからです。
リトルの法則|リードタイムは仕掛品在庫量で決まる
仕掛品管理を説明するとき、必ず最初に持ち出す原則があります。リトルの法則です。生産管理や待ち行列の分野で使われる基本則で、式としては次のように書けます。
リードタイム = 仕掛品在庫量 ÷ スループット(単位時間あたりの産出量)
式そのものは単純ですが、含意は強力です。スループットが一定であれば、リードタイムは仕掛品在庫量にそのまま比例します。仕掛品が半分になればリードタイムも半分になり、仕掛品が倍になればリードタイムも倍になる。スループットが変わらない限り、この比例関係は崩れません。
この法則が実務で効くのは、因果の向きをはっきりさせてくれることにあります。多くの工場では「リードタイムが長いのは工程が多いから」「機械が遅いから」「段取り替えに時間がかかるから」と説明されます。どれも間違いではありませんが、いずれもスループット側の話です。スループットを上げるには設備投資が要ります。一方、リトルの法則が示すもうひとつの経路は、仕掛品在庫量を減らすことです。こちらは設備を買わずに動かせます。
具体的な数字で見ます。1日あたり2,000個を産出しているラインに、仕掛品が24,000個あるとします。リードタイムは 24,000 ÷ 2,000 で12.0日です。この工場が設備を一切変えずに仕掛品を15,000個まで減らせば、リードタイムは 15,000 ÷ 2,000 で7.5日になります。4.5日の短縮です。機械を1台も買っていません。投入量と産出量のバランスを変えただけです。
ここで注意すべきことがあります。リトルの法則は、仕掛品を減らせばリードタイムが短くなると言っているだけで、仕掛品を減らす方法は教えてくれません。実際に減らそうとすると、投入のタイミングを工程の能力に合わせて絞る必要があり、そのためには各工程がいまどれだけ抱えているかを知る必要があります。つまり法則は目標の置き方を教えてくれるだけで、実行には可視化が要ります。順序としては、可視化が先、削減が後です。
もうひとつの含意として、仕掛品を減らすとリードタイムが短くなるだけでなく、品質問題の発見も早くなります。リードタイムが12.0日の工場では、上流で発生した不具合が最終検査で見つかるまでに平均12.0日かかります。そのあいだ、同じ不具合を持つ品物を作り続けることになります。リードタイムが7.5日まで縮めば、発見までの遅れも7.5日です。仕掛品削減が品質にも効くと言われるのは、この時間差が縮むからです。
工程間に仕掛品が積み上がる4つの原因
では、なぜ仕掛品は積み上がるのでしょうか。イプロスの解説では、仕掛品在庫の削減を妨げる要因として4つが整理されています。現場で見ている感覚とよく一致するので、順に見ていきます。
第1に、需要変動への対応不足です。 受注が読めないため、いつでも出せるように前工程を先に流しておく。この判断は、個別には合理的です。急な増産要請に応えられなければ客先の信頼を失うからです。ただし、需要が読めないことへの保険を仕掛品で持つと、保険料は在庫額と保管スペースとして毎日発生します。しかも読み違えた分は、そのまま滞留に変わります。
第2に、生産計画の非効率性です。 計画が立っていないのではなく、計画がリアルタイムの情報を反映できていないケースがほとんどです。週初に立てた計画が、週の途中で発生した設備トラブルや不良の手戻りを織り込めない。計画どおりに投入を続ける一方で、下流の工程は遅れている。この差がそのまま工程間の山になります。
第3に、工程間の連携不足です。 前工程は自分の生産数量目標を達成しようとし、後工程は自分の能力の範囲で処理します。両者のあいだで、いま何個渡っていて何個待っているかという情報が共有されていないと、前工程は止まる理由を持ちません。工程ごとの稼働率を評価指標にしている工場では、この傾向がさらに強まります。稼働率を上げる行動と、仕掛品を減らす行動が、真正面から衝突するからです。
第4に、品質問題による手戻りです。 検査で不合格になった品物が前工程に戻ると、その分だけ工程間の在庫が増えます。しかも手戻り品は正規のフローから外れるため、通常の進捗管理から漏れやすい。「あの箱は再加工待ち」という認識が担当者の頭の中にしかない状態は、どの工場でも見かけます。担当者が休んだ日に、その箱の存在は消えます。
この4つのうち、第2と第3は情報の問題、第1と第4は運用の問題です。そして情報の問題を先に解かないと、運用の問題にも手がつきません。需要変動への保険をどれだけ持つべきかを決めるには、いまどれだけ持っているかを知る必要があるからです。イプロスの解説も、対策としてAIによる需要予測、IoTやMESによるリアルタイム管理、統合的な生産管理システム、品質チェックの強化を挙げていますが、いずれも現状のデータが取れていることを前提としています。
モデルケース|チョンブリ県の自動車部品工場の仕掛品を数える

ここから具体的なモデルケースで見ていきます。以下は独自試算によるモデルケースであり、実在する企業の数値ではありません。金額や個数そのものより、どこに滞留が生まれ、可視化によって何が動くのかという構造をご覧ください。
前提はこうです。タイ・チョンブリ県にある日系の自動車部品加工工場、従業員180名。切削、熱処理、研削、組立、検査という5つの工程からなる一貫ラインを持っています。月22日稼働で、完成品の産出は1日あたり2,000個。仕掛品の現品管理は手書きの現品票とExcelで行っており、実地棚卸しは月に1回です。タイの日系加工工場としては、ごく標準的な構成です。
ある月末の実地棚卸しで、工程ごとに仕掛品を数え、それぞれの単価を掛けて金額に直したのが次の表です。単価は、その工程まで進んだ時点で投じられている原価です。
| 滞留場所 | 単価(THB/個) | 数量(個) | 在庫額(THB) |
|---|---|---|---|
| 切削待ち | 60 | 4,000 | 240,000 |
| 熱処理待ち | 120 | 7,200 | 864,000 |
| 研削待ち | 180 | 5,600 | 1,008,000 |
| 組立待ち | 260 | 4,400 | 1,144,000 |
| 検査待ち | 380 | 2,800 | 1,064,000 |
| 合計 | 24,000 | 4,320,000 |
合計で24,000個、金額にして4,320,000 THBです。この工場の経営陣は、この表を見るまで仕掛品の総額を把握していませんでした。月次の試算表には仕掛品の勘定残高が載っていましたが、それが工程のどこに、どういう形で存在しているのかは誰も見ていなかったからです。
まず、リトルの法則を当てはめます。仕掛品24,000個をスループット2,000個/日で割ると、リードタイムは12.0日です。これは、材料を投入してから完成するまでに平均12.0日かかっているという意味です。5工程の正味の加工時間を合計してもこの日数にはまったく届かないので、残りのほぼすべては待ち時間ということになります。
この12.0日という数字は、現場の感覚とかなりずれます。現場の担当者に「加工にどれくらいかかりますか」と聞くと、正味の加工時間を答えます。営業に「納期はどれくらいですか」と聞くと、余裕を見込んだ日数を答えます。その間にある「待っている時間」については、誰も担当していないので、誰も答えられません。仕掛品を数えて初めて、その待ち時間が数字になります。
もうひとつ、この表から読み取るべきことがあります。数量が最も多いのは熱処理待ちの7,200個ですが、金額が最も大きいのは組立待ちの1,144,000 THBです。単価が違うためです。数量で優先順位をつけるか、金額で優先順位をつけるかで、着手する場所が変わります。どちらが正しいというものではなく、リードタイムを縮めたいなら数量、資金を解放したいなら金額を見る、という使い分けになります。
滞留はどこに集中していたか — 切削と熱処理の間
工程別の内訳を見ると、熱処理待ちの7,200個が突出しています。全体24,000個のちょうど3割が、切削と熱処理のあいだの1か所に溜まっている状態です。理由を調べると、構造的な事情がありました。
熱処理は、バッチ処理の工程です。炉に一定量をまとめて入れ、決まった温度と時間で処理します。1個だけを流すことはできず、炉が一杯になるまで待つか、空きのまま回すかのどちらかになります。空で回せば燃料費が無駄になるので、現場は当然、一杯になるまで待ちます。その待ちが、そのまま切削後の仕掛品の山になります。
さらに、熱処理の前後で工程の「粒度」が変わります。切削は1個ずつ流せる工程、熱処理はまとめて流す工程、研削はまた1個ずつの工程です。連続処理とバッチ処理が交互に並ぶと、その接続点には必ず在庫が発生します。これは現場の運用が悪いのではなく、工程の性質が違うために必然的に生じるものです。
ただし、必然的に生じる分と、管理の不足で生じた分は別です。この工場では、炉の1回あたりの処理量が1,000個で、1日に2回稼働させています。1日の処理量は2,000個となり、ラインのスループットとちょうど釣り合っています。つまり工程として必要な滞留は、当日に処理する2バッチ分、すなわち2,000個程度です。実際には7,200個、日数にすると3.6日分が置かれていました。差の5,200個は、工程の性質ではなく、投入のタイミングが下流の能力と合っていないことによる余剰の候補です。
なぜ余剰が生まれるかというと、切削工程が自分の稼働率を最大化するように動いていたからです。切削機を止めれば稼働率が下がり、その数字は日報に残ります。熱処理の前に仕掛品が積み上がっても、その数字はどこにも残りません。評価される指標と、評価されない指標があるとき、人は評価される指標に沿って動きます。責める話ではなく、指標の設計の話です。
研削待ちの5,600個にも似た背景があります。熱処理後の品物は硬度のばらつきが出ることがあり、抜き取り検査に合格するまで次工程へ渡せません。この検査待ちの時間が積算されて、研削待ちの山になります。ここも、必要な待ちと余剰の待ちが混ざっており、分けて見ないと削減の余地が判断できません。
工程間の在庫を見るときは、「なぜそこにあるのか」を工程の性質と管理の状態に分けて説明できるかどうかが分岐点になります。説明できない分が、削減できる分です。逆に、説明できる分まで削ると、次にラインが止まります。
紙の現品票では棚卸しの日まで滞留に気づけない
このモデルケースの工場が使っていたのは、手書きの現品票とExcelでした。品物が入った通い箱に紙の票を貼り、工程を通過するたびに担当者が数量と日付を書き込み、日の終わりに事務担当がExcelへ転記する。多くの工場で見られる、標準的なやり方です。
このやり方の問題は、精度ではありません。書かれている内容自体は、おおむね正しいのです。問題は3つあります。
1つ目は、集計の遅れです。 現場で書かれた数字がExcelに入るのは早くて翌日、忙しい時期には数日遅れます。集計されて初めて工程別の残数が見えるので、「いま何個あるか」は常に過去の姿です。滞留が始まってからそれが数字として現れるまで、時間差があります。
2つ目は、滞留時間が記録されないことです。 現品票には、その箱がいつ工程を通過したかは書かれますが、いつからそこに置かれているかは意識されません。総量さえ合っていれば、置き場の奥で何か月も動いていない箱があっても集計上は変わらないため、時間の観点が抜け落ちます。
3つ目は、転記の負荷が可視化の頻度を決めてしまうことです。 この工場では、現品票の手書きとExcelへの転記に1日あたり合計4.5時間を使っていました。だからこそ、月に1回の棚卸し以上の頻度で全数を把握することは、現実的に不可能でした。頻度を上げようとすれば、その分だけ人手が要るからです。
Fabricoの仕掛品削減に関する解説は、この状況を端的に言い表しています。仕掛品を紙の現品票で管理している場合、その存在に気づくのは棚卸しの日になってから、という指摘です。紙の現品票が記録しているのは、工程を通過したという「点」だけです。点と点のあいだで品物が何日待っていたのかは、どこにも残りません。滞留は点ではなく、点と点のあいだの長さとして現れるものなので、この形式では原理的に捕まえられないのです。
Excelでの管理そのものが悪いわけではありません。ただ、扱う対象が動き続けるものになった瞬間に、Excelは向かなくなります。転記の手間が更新の頻度を決め、更新の頻度が意思決定の速さを決めてしまうためです。この限界の見極め方については、エクセル管理の限界と切り替えの判断基準で詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。
もうひとつ、紙の現品票には棚卸し差異という副作用があります。このモデルケースの工場では、実地棚卸しの数量と帳簿の数量の差が3.2%、数量にして768個ありました。転記の抜け、書き間違い、票の紛失、再加工品の二重計上など、原因は複数です。1件ずつは小さくても、数量が積み上がれば原価計算の精度に効いてきます。
現品管理システムで何が変わるか — 自動データ取得の3つの手段
現品管理システムの本質は、人が書いて人が転記していた部分を、機械が読み取る仕組みに置き換えることです。スマートマットクラウドの工場の見える化に関する解説では、IoTセンサーとクラウドを使って稼働率・在庫・品質を数値化することが挙げられており、Factory Advanceのリアルタイム原価管理の解説では、タブレットやQRコード、バーコードリーダーを使って作業者がその場で実績を入力する方式が紹介されています。いずれも、人の記憶と手書きを介さずにデータを取るという点で同じ方向です。手段は大きく3つに分かれます。
第1の手段はバーコードとQRコードです。 通い箱や現品票にコードを印刷し、工程の通過時にハンディターミナルで読み取ります。導入コストが最も低く、既存の現品票の運用をそのまま残せるのが利点です。一方で、読み取りは人の操作に依存するので、読み忘れが起きます。工程の出入口に読み取りを組み込み、読まないと次に進めない動線にするのが実務上のコツです。
第2の手段はRFIDです。 通い箱にICタグを付け、工程の出入口に設置したゲートアンテナで通過を自動的に検知します。人の操作が要らないので読み忘れが原理的に起きません。金属部品を扱う工場では電波の反射が問題になることがあるため、タグの種類と取り付け位置の事前検証が必須です。通い箱に付けて繰り返し使う運用にすれば、タグの単価は回数で割れるので、部品1個あたりのコストは小さくなります。
第3の手段はセンサーとカメラです。 重量センサーで箱の中の個数を推定する、天井カメラで置き場の占有状況を撮影する、加工機の信号から実績数をカウントする、といった方法です。現品に何も付けずに済むので、細かい部品を大量に扱う工程に向いています。個体単位の追跡はできませんが、「置き場にどれくらい溜まっているか」を知るには十分です。
3つのうちどれを選ぶかは、工程の性質で決まります。個体ごとのトレーサビリティが必要ならRFIDかバーコード、置き場の総量だけ分かればよいならセンサーやカメラ、というのが基本の考え方です。実際には工程ごとに使い分けるのが現実的で、全工程を同じ方式でそろえる必要はありません。
そして、いずれの方式を選んでも、得られるものは同じです。「いつ、どこに、何個あるか」が人手を介さずに記録され、集計の遅れがなくなります。この時点で初めて、滞留時間という指標が計算できるようになります。ある箱が同じ場所にとどまっている日数が分かれば、先入れ先出しが崩れている場所を特定できます。紙の運用では原理的に取れなかった情報です。
原価計算への接続も、同じデータから可能になります。工程通過の実績が自動で溜まれば、どの工程まで進んだ品物が何個あるかが日次で分かるので、加工進捗度を使った按分の元データがそのまま揃います。月末に現場を止めて数える作業が、日々の記録の積み上げに置き換わります。
モデルケースの導入後|仕掛品在庫額とリードタイムの変化

モデルケースの工場は、通い箱へのRFIDタグ取り付けと、工程出入口のゲートによる自動読み取りを導入しました。あわせて、切削工程の投入量を熱処理の炉の稼働計画に合わせて絞る運用に切り替えています。6か月後の状態が次の表です。繰り返しになりますが、独自試算であり実在企業の数値ではありません。
| 滞留場所 | 単価(THB/個) | 数量(個) | 在庫額(THB) |
|---|---|---|---|
| 切削待ち | 60 | 2,500 | 150,000 |
| 熱処理待ち | 120 | 4,200 | 504,000 |
| 研削待ち | 180 | 3,400 | 612,000 |
| 組立待ち | 260 | 2,900 | 754,000 |
| 検査待ち | 380 | 2,000 | 760,000 |
| 合計 | 15,000 | 2,780,000 |
主要な指標を導入前後で並べると、次のようになります。
| 指標 | 導入前 | 導入後 | 差 |
|---|---|---|---|
| 仕掛品数量(個) | 24,000 | 15,000 | 9,000減 |
| 仕掛品在庫額(THB) | 4,320,000 | 2,780,000 | 1,540,000減 |
| リードタイム(日) | 12.0 | 7.5 | 4.5短縮 |
| 棚卸し差異率(%) | 3.2 | 0.4 | 2.8ポイント改善 |
| 棚卸し差異数量(個) | 768 | 60 | 708減 |
| 仕掛品置場(平方メートル) | 480 | 300 | 180減 |
| 現品票の転記工数(時間/日) | 4.5 | 0.5 | 4.0減 |
数量は24,000個から15,000個へ、9,000個減りました。削減率は37.5%です。在庫額は4,320,000 THBから2,780,000 THBへ、1,540,000 THB減っています。こちらの削減率は35.6%で、数量の削減率よりわずかに小さい値です。理由は、削減の多くが単価の低い前半工程で起きたためです。切削待ちで1,500個、熱処理待ちで3,000個、合計4,500個が減っているのに対し、単価380 THBの検査待ちは800個しか減っていません。数量と金額の削減率がずれるのは、この構造によります。
リードタイムは、リトルの法則どおりに動きました。15,000 ÷ 2,000 で7.5日、導入前の12.0日から4.5日の短縮です。短縮率は37.5%で、数量の削減率とぴったり一致します。スループットが変わっていないので、当然そうなります。この一致は偶然ではなく、法則が成立していることの確認になるので、実際のプロジェクトでも必ず検算してください。数字が合わなければ、どこかの前提が動いています。
棚卸し差異率は3.2%から0.4%へ改善しました。数量では768個から60個です。人手の転記が消えたことによる効果で、これは削減施策の成果というより、データ取得方法の変更に自動的についてくる副産物です。差異が小さくなると原価計算の精度が上がり、月次の試算表と現場の実態が一致するようになります。
仕掛品置場は480平方メートルから300平方メートルへ、180平方メートル減りました。削減率は37.5%で、数量の削減率と同じです。空いた面積は新しい加工セルの設置に使われました。工場の敷地を広げずに生産能力を増やす余地が生まれた、ということです。面積の効果は金額に換算しにくいのですが、建屋を増やす判断を先延ばしできるという意味で、実際には大きく効きます。
現品票の転記工数は1日あたり4.5時間から0.5時間へ、4.0時間減りました。残った0.5時間は、読み取りエラーの確認と例外処理です。自動化しても例外はゼロになりません。ここを見込まずに人員計画を立てると、現場が回らなくなります。
仕掛品削減がキャッシュフローに効く4つの経路
仕掛品を減らすと会社の何が良くなるのか、という問いには、4つの経路で説明できます。ビズネットのリードタイム短縮に関する解説でも、仕掛在庫の削減がキャッシュフローの改善や保管スペースの効率化につながることが整理されており、ISDI今岡システムダイナミックス研究所の解説では、リードタイム短縮が企業の収益に結びつく理由が扱われています。順に見ていきます。
第1の経路は、運転資金の解放です。 仕掛品在庫額が1,540,000 THB減ったということは、その分の現金が在庫の形から解放されたということです。これは損益計算書には利益として出てきませんが、貸借対照表の資産構成が変わり、資金繰りが楽になります。特に、材料の仕入れ支払いが先で売掛金の回収が後になる取引条件の工場では、この差が資金繰りの余裕そのものになります。
第2の経路は、保管コストの低減です。 場所が空くだけでなく、通い箱の数、運搬の回数、フォークリフトの稼働、置き場の管理工数がすべて減ります。モデルケースでは180平方メートルが空きました。これを賃料に換算することもできますが、実際には新しい設備を置く余地として使われることのほうが多く、その場合の価値は賃料よりも大きくなります。
第3の経路は、品質リスクの低減です。 滞留期間が短くなると、錆、変質、汚れ、設計変更による陳腐化のリスクが下がります。加えて前述のとおり、上流の不具合が下流で発見されるまでの時間が短くなるので、不良品を作り続ける量が減ります。リードタイムが12.0日から7.5日に縮んだということは、不具合の発見が最大で4.5日早くなるということでもあります。
第4の経路は、リードタイム短縮による受注機会の拡大です。 客先に提示できる納期が短くなると、短納期案件を受けられるようになります。自動車部品の分野では、客先の生産計画変更に追随できるかどうかが取引継続の条件になることもあり、この能力は価格以外の競争力として効きます。納期の遅れが起きる仕組みと、その手前で打てる対策については納期遅延を未然に防ぐ工程管理の考え方で整理しています。
4つの経路のうち、経営層に説明しやすいのは第1と第2、現場が実感しやすいのは第3と第4です。プロジェクトの承認を取る場面では第1を、現場の協力を得る場面では第3と第4を前面に出すと、話が通りやすくなります。同じ施策でも、誰に何を語るかで受け止められ方が変わります。
工程進捗の見える化を段階的に進める4ステップ

工程進捗の見える化は、一度に全部やろうとすると必ず途中で止まります。段階を分けて進めてください。4ステップで整理します。
第1ステップは、現品の識別です。 何を1単位として数えるかを決め、その単位に識別子を与えます。通い箱単位か、パレット単位か、ロット単位か、個体単位か。細かくするほど情報は増えますが、運用の負荷も増えます。多くの加工工場では通い箱単位が現実的な出発点になります。この段階で決めるべきなのは、粒度をそろえることです。工程によって単位が違うと、後で数量が合わなくなります。
第2ステップは、データの自動取得です。 決めた単位に対して、バーコード、RFID、センサーのいずれかで通過実績を自動的に記録します。全工程を一度にやる必要はありません。滞留が最も大きい工程間から着手するのが効率的です。モデルケースであれば、熱処理の前後から始めることになります。1か所でも自動化されれば、そこだけは日次で数字が出るようになり、効果を社内に示せます。
第3ステップは、工程進捗の表示です。 集まったデータを、現場が見る画面と管理者が見る画面に分けて表示します。現場に必要なのは「いま自分の工程に何個待っているか」で、管理者に必要なのは「全工程のどこに何個あるか」です。同じ画面で兼ねようとすると、どちらにとっても情報が多すぎるものになります。現場向けの画面は、通路から見える位置に大きく1枚、が原則です。
第4ステップは、標準との比較です。 各工程間に「あるべき仕掛品量」を設定し、実際の量と比べます。あるべき量は、下流工程の1日あたりの処理量や、バッチ工程であれば1バッチ分といった具体的な根拠から決めます。この基準がないと、表示された数字を見ても多いのか少ないのか判断できません。見える化が「見せただけ」で終わる最大の原因が、この第4ステップの欠落です。
4つのステップのうち、第1と第2は導入の作業、第3と第4は運用の設計です。そして効果が出るのは第4に到達してからです。第3で止まっている工場は少なくありません。画面はあるが、その数字を見て誰が何をするかが決まっていない状態です。導入の計画を立てる段階で、第4ステップの基準値を誰がどう決めるかまで含めておいてください。
進め方の目安として、これまでご支援してきた範囲での感覚をお伝えすると、第1ステップと第2ステップは滞留の大きい工程間に絞れば短期間で立ち上がりますが、第4ステップの基準値だけは、自動取得したデータが十分に溜まるまで確定できません。全部を一度に決めようとせず、基準値の設定は最後に回してください。期間を先に決めてから逆算すると、必ず基準値の根拠が薄くなります。
仕掛品管理システムの費用と回収の考え方
費用の話をします。モデルケースの工場では、システムの初期費用が1,200,000 THB、年間の保守費用が180,000 THBでした。初期費用には、RFIDのタグとゲートアンテナ、読み取り用の端末、サーバーとソフトウェア、設置工事、現場の運用設計と教育が含まれます。これも独自試算であり、構成や規模によって大きく変わる点にご留意ください。
回収を考えるときは、一時的な効果と経常的な効果を分けます。混ぜると判断を誤ります。
一時的な効果は、運転資金の解放です。 仕掛品在庫額が1,540,000 THB減ったので、その分の現金が一度だけ手元に戻ります。この1,540,000 THBは、初期費用の1,200,000 THBを上回ります。ただし翌年も同じ額が戻るわけではないので、これを毎年の効果として計算してはいけません。あくまで、初期投資の原資として使えるという性質のものです。
経常的な効果は2つあります。 ひとつは工数の削減です。現品票の手書きと転記が1日あたり4.0時間減り、月22日稼働で88時間、年間では1,056時間になります。製造間接部門の時間単価を150 THB/時と置けば、年間158,400 THBです。もうひとつは在庫保有コストの低減です。資金コスト、保管費、陳腐化リスクを合わせた保有コスト率を年12%と置くと、削減した1,540,000 THBに対して年間184,800 THBになります。
この2つを足すと、年間の経常効果は343,200 THBです。ここから保守費用の180,000 THBを引くと、経常の純額は163,200 THB/年となります。
数字を並べると、この投資は「初年度に運転資金の解放で初期費用を賄い、2年目以降は年163,200 THBの純額が積み上がる」という形になります。派手なリターンではありません。仕掛品管理システムの投資判断は、多くの場合この程度の水準に落ち着きます。
したがって、金額だけで判断すると承認が通りにくい投資です。実務では、金額に換算しにくい効果を併せて説明することになります。空いた180平方メートルに何を置けるか、リードタイムが4.5日縮んだことで受けられるようになる案件があるか、棚卸しのためにラインを止める日数が減るか。これらは試算に載せにくいものの、現場と経営の双方にとって実質的な価値があります。
なお、費用を抑える方向としては、全工程を一度に対象にしないという選択があります。前述のとおり、滞留が最も大きい工程間から着手すれば、初期費用を分割しながら効果を確認できます。モデルケースの構成であれば、熱処理の前後2か所だけを対象にする案から始めるのが妥当です。
仕掛品を減らしすぎてはいけない — 適正水準の決め方
ここまで削減の話を続けてきましたが、仕掛品はゼロにすべきものではありません。工程間の在庫には、前工程の変動を吸収するという役割があります。これを取り去ると、前工程が一瞬でも止まった時点で後工程も止まります。
適正水準を決める考え方は、工程の性質によって3つに分かれます。
バッチ工程の前は、1バッチ分が絶対的な下限です。 モデルケースの熱処理であれば、炉の1回あたり処理量が1,000個なので、その手前には最低でも1,000個が必要です。ただし実務上の下限はもう少し上にあります。炉は1日2回動くので、当日分として2,000個は手元に置くことになるからです。導入後の熱処理待ちが4,200個で止まっているのは、この当日分に加えて、切削側の設備トラブルと段取り替えのばらつきを吸収する分を上乗せしているためです。余剰の候補だった5,200個のうち3,000個だけを削り、残りは意図して残した、という判断になります。
能力にばらつきのある工程の前は、変動幅の分だけ持ちます。 設備トラブルの発生頻度や、段取り替えの時間のばらつきを実績から測り、その変動を吸収できる量を置きます。感覚で「余裕を見て多めに」と決めると、必ず過剰になります。実績データがあれば、この判断が数字でできるようになります。可視化の効果は、削減だけでなく、必要量の根拠づけにも及びます。
客先の要求変動が大きい製品は、完成品側で持つほうが有利です。 仕掛品で持つと、どの品番になるかが確定していない分だけ柔軟性はありますが、単価の低い前工程で持つのか、単価の高い後工程で持つのかによって資金の拘束額が変わります。品番展開が後工程で起きる構造であれば、展開の直前で持つのが理にかなっています。
そして、削りすぎのサインがあります。工程の停止回数が増える、段取り替えの回数が増えて実質的な稼働時間が減る、急ぎの品を割り込ませる回数が増える。いずれも仕掛品を減らした直後に現れやすい症状です。これらが出たら、減らした量の一部を戻してください。仕掛品の適正水準は、一度決めて終わりではなく、実績を見ながら調整し続けるものです。
見える化が入っていれば、この調整も数字でできます。工程が止まった時刻と、その直前の仕掛品残数を並べれば、どの水準を下回ると止まるかが分かります。紙の運用では、この因果関係を後から追いかけることができませんでした。
タイ拠点で2026年に仕掛品管理が重要になる理由
タイの日系工場に固有の事情を挙げます。2026年に仕掛品管理の優先度が上がっている背景には、人の問題があります。
アライドコーポレーションのタイ就労環境に関する解説では、人口の高齢化が労働力の供給に深刻な影響を及ぼし始めており、熟練労働者の不足が製造業やサービス業のボトルネックになっていることが指摘されています。人手を前提にした運用が、以前ほど当然には成り立たなくなってきている、ということです。
この状況が仕掛品管理に直結するのは、現品票の手書きと転記が、まさに人手を前提にした作業だからです。モデルケースの工場では、この作業に1日あたり4.5時間を使っていました。しかもこの作業は、付加価値を生みません。品物の形は何も変わらないからです。採用が難しくなり人件費が上がっていく局面では、付加価値を生まない作業に人を割き続けること自体が、じわじわと競争力を削ります。
もうひとつ、タイ特有の事情として担当者の入れ替わりの早さがあります。転職が一般的な労働市場では、現場の担当者が2年から3年で入れ替わることは珍しくありません。仕掛品の所在が担当者の記憶に依存している工場では、人が変わるたびに把握の精度が落ちます。「あの箱は再加工待ち」という情報が引き継がれないまま、置き場の隅で滞留が始まる、というのは実際によく見る光景です。
日本人管理者の駐在ローテーションも同様です。3年から5年で交代すると、仕掛品がどこにどれだけあるのが正常なのかという感覚が、引き継ぎのたびにリセットされます。基準値がシステムに登録されていれば引き継げますが、頭の中にあるものは引き継げません。
さらに、面積の問題があります。仕掛品置場に使っている面積は、そのまま固定費です。モデルケースのように180平方メートルを空けられるということは、増産のために建屋を増やす判断を先延ばしできるということでもあります。工業団地内で拡張余地が限られている拠点ほど、この論点は設備投資の意思決定に効いてきます。
最後に、客先要求への備えです。現場でご相談を受ける範囲では、自動車部品のサプライチェーンで工程通過の記録を求められる場面が以前より増えています。仕掛品の工程通過を自動で記録する仕組みは、仕掛品削減のためだけでなく、この要求への対応にもそのまま使えます。ひとつの投資で2つの目的を満たせる構造になっているので、稟議の組み立て方としても有利です。
よくある失敗5パターン
タイの日系工場で実際に見てきた失敗を5つ挙げます。
削減目標だけを先に決めてしまう。 「仕掛品を3割減らす」という目標を掲げてから可視化に着手するパターンです。目標が先にあると、現場は数える前に減らそうとします。結果として、必要な緩衝在庫まで削られてラインが止まり、その反動で以前より多く持つようになります。順序は、数える、原因を分ける、減らす、です。
全工程を一度に対象にする。 5工程すべてにRFIDを入れる計画を立てると、初期費用が膨らみ、稟議が通らないか、通っても導入期間が長くなって現場が疲弊します。滞留の大きい工程間から着手し、効果を確認してから広げるほうが、結果的に速く進みます。
画面を作って終わりにする。 工程進捗のダッシュボードが完成した時点で、プロジェクトが完了した扱いになるケースです。前述の第4ステップ、つまり標準との比較の基準値が設定されていないと、表示された数字を見ても誰も動きません。基準値を誰がどう決めるかを、導入計画に含めてください。
稼働率の評価指標を据え置く。 工程ごとの稼働率を評価し続けたまま仕掛品削減を指示すると、現場は矛盾する2つの命令を受け取ることになります。前工程が止まらないよう作り続ければ稼働率は上がりますが、仕掛品は増えます。仕掛品削減に取り組むなら、評価指標の側も同時に見直す必要があります。
手戻り品を管理の対象から外す。 再加工待ちの品物は正規のフローから外れるため、識別と記録の対象から漏れやすい領域です。しかし滞留が最も長くなりやすいのも、この手戻り品です。識別子を与える段階で、手戻り品をどう扱うかを必ず決めてください。ここを決めていない仕組みは、稼働後に必ず数量が合わなくなります。
よくある質問
仕掛品管理とは何を管理することですか?
製造工程の途中にある未完成品について、いまどの工程にいくつあり、いくらの原価が投じられていて、どれだけの時間そこに留まっているかを把握し、適正な水準に保つ活動です。仕掛品は原材料費や労務費といったコストが発生済みでありながら販売できない状態にあるため、数量の把握、原価の按分、滞留の発見という3つを同時に扱う必要があります。工場では月末の実地棚卸しで数量を確認する運用が一般的ですが、それだけでは月中に何が起きたかが分かりません。仕掛品管理の実務は、月に一度の棚卸しを日次の把握に置き換えるところから始まります。
仕掛品在庫はどこまで減らせますか?
一律の答えはありません。工程の性質によって、必要な下限が変わるからです。バッチ処理の工程の手前には最低でも1バッチ分が必要ですし、設備トラブルや段取り替えの変動が大きい工程の手前には、その変動を吸収できる量が必要です。モデルケースでは24,000個から15,000個へ37.5%減らしましたが、これは可視化によって「工程の性質から説明できる分」と「投入タイミングのずれによる余剰」を分けられたためです。説明できない余剰を削り、説明できる分は残す。この線引きができるかどうかが、削減幅を決めます。
現品管理システムの費用はどれくらいかかりますか?
構成と規模によって大きく変わるため、相場として一般化できる数字はありません。モデルケースでは、5工程の一貫ラインにRFIDによる自動読み取りを導入した想定で、初期費用1,200,000 THB、年間保守180,000 THBと試算しています。判断の枠組みとしては、一時的な効果と経常的な効果を分けてください。モデルケースでは、運転資金の解放1,540,000 THBが初期費用1,200,000 THBを上回り、経常の純額は年163,200 THBでした。費用を抑えたい場合は、滞留の大きい工程間だけを対象に始める案が有効です。
工程進捗の見える化は何から始めればいいですか?
数える単位を決めることから始めてください。通い箱単位か、パレット単位か、ロット単位か。工程によって単位が違うと後で数量が合わなくなるので、粒度をそろえることが最初の作業です。次に、その単位の通過実績をバーコード、RFID、センサーのいずれかで自動的に記録します。全工程を一度に対象にする必要はなく、滞留が最も大きい工程間の1か所からで構いません。1か所でも自動化されれば日次の数字が出るので、次の投資の判断材料になります。画面を作るのはその後です。
リトルの法則は現場でどう使えばいいですか?
目標の置き方に使います。リードタイムは仕掛品在庫量をスループットで割った値になるので、スループットが変わらない限り、リードタイムと仕掛品数量は比例します。モデルケースでは、仕掛品が24,000個から15,000個へ37.5%減り、リードタイムも12.0日から7.5日へ37.5%短縮しました。この一致は、法則が成立していることの検算になります。実際のプロジェクトでも、削減後に必ずこの計算をしてください。数字が合わない場合は、スループットが変わっているか、数え漏れがある工程が残っています。
まとめ
要点を整理します。
仕掛品が減らないのは、現場の努力が足りないからではありません。工程と工程の間に何個あるかを、誰も日次で知らないからです。月に一度の実地棚卸しでは、月中に起きたことは分かりません。仕掛品は原価が発生済みで売上にはまだ変わっていない資産であり、増えても誰の業務も止めないため、放置されやすい性質を持っています。
リードタイムは、リトルの法則により仕掛品在庫量をスループットで割った値になります。設備を増やさなくても、仕掛品を減らせばリードタイムは比例して短くなります。ただし法則が示すのはどこを目指すかまでで、そこへ到達する手順は別に用意しなければなりません。工程間の実数を日次で捉える可視化を先に置き、削減はその後に着手してください。
モデルケースの試算では、チョンブリ県の自動車部品加工工場が抱えていた仕掛品は24,000個、金額にして4,320,000 THBでした。1日2,000個のスループットに対し、リードタイムは12.0日です。RFIDによる自動読み取りと投入量の調整を行った結果、仕掛品は15,000個、2,780,000 THBとなり、数量で37.5%、金額で35.6%の削減になりました。リードタイムは7.5日へ4.5日短縮し、短縮率37.5%は数量の削減率と一致しています。棚卸し差異率は3.2%から0.4%へ、仕掛品置場は480平方メートルから300平方メートルへ、現品票の転記工数は1日4.5時間から0.5時間へ改善しました。これは独自試算であり実在企業の数値ではありませんので、金額そのものではなく、どこに滞留が生まれてどう解くかという構造をご覧ください。
費用の面では、初期費用1,200,000 THB、年間保守180,000 THBに対して、運転資金の解放1,540,000 THBが一時的な効果として、工数削減158,400 THBと在庫保有コスト低減184,800 THBの合計343,200 THBが経常的な効果として発生し、保守費用を引いた経常の純額は年163,200 THBという水準でした。金額だけで見れば地味な投資です。空いた面積の使い道、受けられるようになる短納期案件、棚卸しでラインを止める日数といった、試算に載せにくい効果と併せて判断してください。
実務は、現品の識別、データの自動取得、工程進捗の表示、標準との比較という4ステップで進めます。効果が出るのは4段階目に到達してからです。画面を作った時点で完了にしないこと、そして仕掛品はゼロにすべきものではなく、工程の性質から説明できる分は残すこと。この2点が、削減を持続させる条件になります。
まずは、いちばん滞留が大きいと感じている工程間で、1日だけ実数を数えてみてください。その1か所の数字がスループットに対して何日分にあたるかを計算すれば、可視化に投資する価値があるかどうかの判断材料になります。
工程間に何個あるのか分からない、という段階でも構いません。TOMAS TECHはタイの日系工場向けに生産管理システムの導入と運用を手がけており、現状の工程と滞留の実態を一緒に整理するところからのご相談も承っています。導入を前提としないご相談も歓迎ですので、まず現状を数字にしたいという方はお問い合わせからお声がけください。
参考情報
- ダイコー・エクステック — 仕掛品とは 管理の重要性と生産管理システムによる効率化を徹底解説、daiko+の生産管理コラム
- イプロス — 製造業従事者必見 4課題で理解する仕掛品在庫の削減、ものづくり分野の解説記事
- MachineMetrics — What is Work in Progress WIP in Manufacturing A Complete Guide、仕掛品の定義と管理指標
- Fabrico — 5 Strategies to Reduce Work in Process WIP in Manufacturing、紙の現品票と可視化の限界
- スマートマットクラウド — 工場の見える化システム 主要システムの種類と選び方・導入事例、IoTセンサーによる数値化
- Factory Advance — 製造業のリアルタイム原価管理 月次決算を待たずに今の利益を知る方法、QRコード・バーコードによる実績入力
- ビズネット — 製造業向け リードタイム短縮のノウハウを公開 注意点も併せて解説、仕掛在庫削減とキャッシュフロー
- ISDI今岡システムダイナミックス研究所 — 製造業でリードタイム短縮をする理由とは 在庫時間の計算方法、リードタイム短縮と企業収益
- アライドコーポレーション — 2026年タイ就労環境の全貌 高度人材誘致戦略とデジタル大転換、労働力供給と熟練労働者の不足