電圧監視システムを検討する工場の多くは、ある日の朝礼で「昨日の15時ごろ、3ラインが同時に止まった。停電はしていない」という報告を受けたところから話が始まります。電力会社に問い合わせても記録が残っておらず、設備メーカーは「うちの機械は正常です」と答える。原因が誰の側にあるのか誰も証明できないまま、同じことが翌月も起きる。この記事は、その状況を数字で扱えるようにするための設計手順をまとめたものです。
電圧監視システムは電力監視システムとは別のものである
最初に整理しておきたいのは、この2つが同じ「電気を測る仕組み」でありながら、目的も測る量も設置場所も違うという点です。ここを混ぜたまま見積を取ると、機能の重複した高い提案が出てきます。
電力監視システムは、電気代を下げるために電力量と需要電力を測ります。測定周期は15分や30分で足ります。何が起きているかを金額に換算するのが仕事です。この領域については電力監視システム導入2026 測るだけで電気代が下がらない理由で費用の分解と原単位管理まで扱っているので、電気代側の話を先に詰めたい方はそちらをご覧ください。
電圧監視システムが測るのは、電圧そのものの波形と、その波形が正常範囲を外れた「事象」です。測定は半サイクル単位、つまりタイ国内の50ヘルツ系統なら10ミリ秒刻みで行われます。目的は電気代ではなく、生産が止まったことによる損失を減らすことです。なお、同じ「電圧監視」という言葉が、1分から15分の周期で電圧の傾向を見る用途を指して使われることもあります。この2つの使い分けについては工場のIoTセンサー種類2026 選定を決めるのは精度でなく周期でセンサー選定の観点から整理しています。本記事が扱うのは前者、つまりサグを捉えるための電圧監視です。
| 比較項目 | 電力監視システム | 電圧監視システム |
|---|---|---|
| 主な測定量 | 電力量、需要電力、力率 | 電圧の実効値、残電圧、継続時間、位相 |
| 測定周期 | 15分から30分 | 半サイクル(50ヘルツで10ミリ秒) |
| 主な設置点 | 受電点と主要負荷群 | 受電点と、止まる設備の直近盤 |
| 効果が出る指標 | 電気料金、原単位 | 停止回数、復旧時間、仕損 |
| 判断に使う相手 | 経理、経営、認証審査 | 電力会社、設備メーカー、客先 |
| 導入の起点 | 電気代が高い | 理由の分からない停止がある |
この表の最終行が実務上いちばん大きな違いです。電力監視は「高いから測る」で始まりますが、電圧監視は「止まるから測る」で始まります。動機が違うので、投資の稟議で比較される相手も違います。
ラインを止めているのは停電ではなく瞬時電圧低下である
工場の停止要因を語るとき、日本人駐在員の頭にはまず停電が浮かびます。ところが実際に生産を止めている回数が多いのは、停電ではなく瞬時電圧低下、いわゆるサグです。
サグは、電圧が定格の90パーセントを下回るものの、完全にゼロにはならない短時間の落ち込みを指します。IEEE 1159の分類では、継続時間は半サイクルから1分までとされ、残っている電圧の割合で表現します。北米の配電事業者であるPacific Gas and Electricの技術資料「Power Quality Bulletin No. 3」によれば、サグの典型的な継続時間は3サイクルから10サイクル、時間にして50ミリ秒から167ミリ秒です。人間の目には照明が一瞬ちらついただけに見えます。
問題は頻度です。同社のもう1つの技術資料「Short Duration Voltage Sags can Cause Disruptions」は、都市部の需要家が経験する停電が年に1回から2回であるのに対し、同じ需要家が経験するサグは年に20回を超えると述べています。数が合わない理由は配電系統の構造にあります。変電所の1つのフィーダで地絡事故が起きると、遮断器がその回路を切り離すまでの間、同じ母線につながる並列のフィーダ全部で電圧が落ちます。事故そのものは他人の回路で起きているのに、電圧の落ち込みだけが自社に届くわけです。
さらに、Power Quality Bulletin No. 3は、電力研究所であるEPRIの配電電力品質調査(DPQ)プロジェクトの結果として、典型的な需要家が電力会社側に起因するサグを平均で年12回経験しうるという数字を引用しています。加えて、Short Duration Voltage Sags can Cause Disruptionsによれば、自動再閉路を行う遮断器やリクローザが設置されている系統では、1つの事故に対して連続して3回のサグを受けることがあります。設備から見れば、短い間隔で3回叩かれることになります。

つまり、年に1回か2回の停電に備えて非常用発電機の話をしている間に、年20回のサグが誰にも記録されないまま生産を削っている、という構図が成立します。ここが電圧監視システムの出発点です。
なぜ電圧が7割残っているだけで設備は止まるのか
「電気が完全に切れたわけではないのに、なぜ機械が止まるのか」という質問は、現場でも本社でも必ず出ます。答えは、止まっているのが機械本体ではなく、機械を制御している部品だからです。
電磁接触器とリレーは、コイルの励磁で接点を保持しています。電圧が数十ミリ秒落ちると保持力を失い、接点が開きます。接点が開けばモータへの給電が切れ、電圧が戻っても接触器は自分では復帰しません。前掲の「Short Duration Voltage Sags can Cause Disruptions」も、モータ始動器の中のリレーや接触器がサグに敏感で、脱落するとプロセスの停止につながると明記しています。
インバータとサーボアンプは、内部の直流リンク電圧を監視していて、これが設定値を下回ると不足電圧トリップを出します。保護としては正しい動作ですが、サーボ軸を持つ設備ではトリップ後に原点復帰が必要になり、復旧に時間がかかります。
制御用のPLCと計装機器は、単相の制御電源から給電されていることが多く、三相の動力側より先に落ちます。同じ文書は、プロセスコントローラ、プログラマブルロジックコントローラ、可変速ドライブ、ロボットといった現代の設備が、複雑化するにつれてかえってサグに敏感になっていると指摘しています。
ここで重要なのは、同じサグを受けても工場内の全設備が一斉に落ちるわけではないという点です。三相のうちどの相が落ちたか、その設備がどの相間に接続されているか、電源装置にどれだけ余裕があるかで結果が変わります。だから「A棟の3台だけ止まってB棟は無事だった」という一見不可解な現象が起きます。この非対称性を説明できるのは、相ごとの電圧を記録している計測器だけです。
SEMI F47が示す「耐えるべき深さと時間」の線
設備が耐えるべき水準には、業界が合意した基準があります。半導体製造装置向けに定められたSEMI F47です。半導体以外の工場でも、設備の調達仕様に書き込める共通言語として広く使われています。
SEMI F47は、装置が耐えるべきサグを「残電圧の割合」と「継続時間」の組で規定しています。前掲の「Power Quality Bulletin No. 3」が掲載している要約表の値は次のとおりです。タイの50ヘルツ系統で読むため、サイクル数は50ヘルツ換算の列を採用しています。
| 継続時間(秒) | 継続時間(ミリ秒) | サイクル数(50ヘルツ) | 耐えるべき残電圧 |
|---|---|---|---|
| 0.05未満 | 50未満 | 2.5未満 | 規定なし |
| 0.05から0.2 | 50から200 | 2.5から10 | 定格の50パーセント |
| 0.2から0.5 | 200から500 | 10から25 | 定格の70パーセント |
| 0.5から1.0 | 500から1000 | 25から50 | 定格の80パーセント |
| 1.0超 | 1000超 | 50超 | 規定なし |
この表の読み方は、たとえば「定格の70パーセントまで落ちて0.4秒続くサグでは、装置は止まらずに運転を継続しなければならない」となります。逆に言えば、その条件で止まる装置はSEMI F47を満たしていません。
同種の要求は国際規格の側にもあります。IEC 61000-4-11は1相あたりの定格入力電流が16アンペア以下の機器、IEC 61000-4-34は16アンペアを超える機器について、電圧ディップ、短時間停電、電圧変動に対する耐性の試験方法を定めています。工場の大型設備は後者の範囲に入ります。後者には2025年8月7日付で第2次改正が発行されており、この分野の要求は現在も更新が続いています。
実務上の使いどころは、既設設備の改造ではなく新規設備の発注仕様です。仕様書に「IEC 61000-4-34に適合すること」あるいは「SEMI F47の要求曲線を満たすこと」と1行書いておくだけで、5年後の停止回数が変わります。既設設備を後から強くするより、買うときに書くほうが桁違いに安いからです。
電圧監視システムで何を測るのか — IEC 61000-4-30という共通言語
事象を記録しても、測り方が機器ごとに違えば比較も交渉もできません。ここを揃えるための規格がIEC 61000-4-30です。
この規格は、交流系統の電力品質パラメータについて、測定方法と結果の解釈を定めています。対象には供給電圧のディップとスウェル、電圧の中断のほか、周波数、フリッカ、高調波、不平衡が含まれます。測定方法には2つのクラスがあり、Aは「advanced」、Sは「surveys」の頭文字です。クラスAでは、ディップ、スウェル、中断を1サイクルの窓で測り、半サイクルごとに更新することが求められます。
第4版は2025年10月24日に発行され、2015年の第3版を置き換えました。さらに2026年7月に修正版が出ています。つまりこの分野の共通言語は、この1年で更新されたばかりです。既存の計測器が第3版準拠であることが直ちに問題になるわけではありませんが、これから調達するなら準拠する版を確認しておく価値があります。
実務でクラスAが要る場面は限られますが、要る場面ではほかに代わりがありません。電力会社に対して「御社の系統側に起因する事象で当社の生産が止まった」と申し入れる場合、あるいは客先から納期遅延の理由説明を求められる場合、クラスA準拠の記録は第三者に対する証拠として機能します。一方、社内で原因の切り分けをするだけならクラスSで十分です。受電点に1台だけクラスA、社内の分岐にはクラスSという構成が、費用と効果のバランスとしては現実的です。
計測点をどこに置くか — 受電点だけでは原因が分けられない
電圧監視の計測点を受電点だけに置くと、「サグが来た」ことは分かっても「そのサグで何が止まったか」が分かりません。逆に設備の直近だけに置くと、「電圧が落ちた」ことは分かっても「上流から来たのか構内で起きたのか」が分かりません。両方が必要です。
| 計測レベル | 設置場所 | 分かること | 推奨クラス | 台数の目安 |
|---|---|---|---|---|
| レベル1 | 受電点(PCC) | 系統側由来か構内由来かの切り分け、電力会社との協議材料 | クラスA | 1台 |
| レベル2 | 主幹盤、変圧器二次側 | どの系統が影響を受けたか、構内の大型負荷起動の影響 | クラスS | 2台から4台 |
| レベル3 | 止まる設備の直近分電盤 | 設備が実際に受けた電圧、相ごとの差、トリップとの時間関係 | クラスS | 停止の多い設備に限定 |
レベル1とレベル3の記録を突き合わせると、切り分けができます。受電点で電圧が落ちていて設備でも落ちているなら系統側の事象です。受電点は正常なのに設備側だけ落ちているなら、構内の配線、変圧器容量、あるいは近くの大型モータの始動が原因です。この区別ができないまま電力会社に苦情を入れると、話が進みません。

構内由来の場合の代表例が、大容量モータの始動やコンプレッサーの起動です。これらは0.5秒を超える緩やかな電圧降下を起こすため、波形を見れば系統事故によるサグと区別がつきます。系統事故は数十ミリ秒で切れて急に戻りますが、モータ始動はなだらかに落ちてなだらかに戻ります。
事象の記録が無いと、対策の議論が始まらない
多くの工場で起きているのは、技術的な問題ではなく記録の問題です。ラインが止まった事実は日報に残りますが、そのとき電圧がどうだったかは誰も記録していません。翌日に電力会社へ問い合わせても、系統側の記録の粒度は工場の求めるものと一致しません。
この状態を抜けるために必要なものは3つあります。1つ目は電圧側の事象記録、2つ目は設備側の停止記録、3つ目は両者を突き合わせるための時刻同期です。
3つ目が抜けている工場が非常に多く見られます。電圧の計測器は自分の時計で、PLCは自分の時計で、生産管理システムは別のサーバの時計で動いていて、それぞれが数十秒ずれています。サグの継続時間が0.2秒である以上、数十秒のずれがあると因果関係が読めません。NTPによる時刻同期を全機器に入れることが前提条件になります。設備側の停止記録をどう取るかについてはPLCデータ収集2026 取れない原因は通信規格ではなく点数と周期で収集点数と周期の設計を扱っています。
もう1つ、記録が取れても人に届かなければ意味がありません。サグが発生したこと自体を現場が把握できていれば、復旧の初動が変わります。誰にどの経路で通知するかの設計は設備異常 通知システムの選び方2026 MTTRで測る通知設計にまとめています。
なお、サーバやネットワーク機器といった情報システム側の電源品質については、生産設備とは別の設計が必要です。生産設備が動き続けている程度の浅いサグでも、サーバは再起動することがあります。この領域は工場のシステム監視2026 検知までの時間が損失を決めるで扱っているので、情報システム側の対策と混ぜないようにしてください。
損失額をどう数えるか
投資判断のためには、サグ1回あたりいくら失っているかを数える必要があります。ここで参考になるのが、ブラジルの中小規模の工場33社を対象にした実地調査です。
Motokiらが2021年にEnergies誌で発表した論文は、11.9キロボルトと13.8キロボルトの中圧系統に接続された12業種33社の中小企業を訪問し、質問票を使って電圧サグと短時間停電による損失を集計しています。従業員数の平均は349人で、日系のタイ工場と規模感が近い調査対象です。なお金額は2021年時点のブラジルにおける米ドル建てなので、水準そのものより業種間の差と構造を読むのが正しい使い方です。
結論として、1事象あたりの平均損失は7,364.75米ドル、中央値は4,733米ドルでした。中断された電力あたりでは1キロワットあたり6.72米ドルで、多くの企業が1キロワットあたり2米ドルから6米ドルの範囲に集中しています。
業種による差も明確です。
| 業種 | 調査社数 | 1事象あたり平均損失(米ドル) | 1キロワットあたり(米ドル) |
|---|---|---|---|
| 金属 | 6 | 10,787.67 | 13.26 |
| 自動車 | 4 | 7,974.75 | 3.39 |
| 家具 | 2 | 7,195.50 | 9.23 |
| プラスチック | 8 | 4,943.00 | 4.83 |
| 食品 | 2 | 2,897.50 | 4.00 |
| ガラス | 2 | 1,799.00 | 4.42 |
| 繊維 | 2 | 1,505.23 | 2.51 |
この表で注目すべきなのは金額の大小そのものではなく、同じ論文が示したもう1つの分析結果です。契約電力と1事象あたり損失額の相関係数は0.221しかありませんでした。工場が大きいほど損失が大きいとは限らないということです。論文は、損失を決めているのは設備規模ではなく製品の付加価値であろうと述べています。ただし同じ論文は、企業規模もおそらく損失額に影響する変数の1つだとも書いており、規模が無関係だと言い切っているわけではありません。
これは稟議の書き方に直結します。「うちは契約電力が小さいから対策は不要」という判断は、この調査結果からは支持されません。単価の高い製品を作っていて、再立ち上げに手間のかかる工程を持っている工場ほど、規模と無関係に損失が大きく出ます。

モデルケースで年間損失を置く
自社の数字に置き換えるための例として、タイ・チョンブリ県の自動車部品工場を仮定して積み上げます。以下は当社の想定に基づく試算であり、実測値ではありません。米ドル換算は1米ドル32バーツで計算しています。
前提は、契約電力1,500キロワット、加工から組立までの3ラインが同一系統、電圧監視で捉えられるサグが年20回、そのうち実際に設備がトリップして生産が止まるのが年8回、1回あたりの平均復旧時間が75分、という条件です。復旧時間には再起動、原点復帰、初品確認までを含みます。
| 損失項目 | 積算根拠 | 1事象あたり(バーツ) |
|---|---|---|
| 生産機会損失 | 3ライン × 75分 × 900バーツ/分 | 202,500 |
| 仕掛品と材料の廃棄 | 停止時点の仕掛分 | 28,000 |
| 再立ち上げの立会工数 | 12名 × 1.5時間 × 320バーツ/時 | 5,760 |
| 設備損傷と部品交換の年間按分 | 接触器、ヒューズ、基板の交換 | 15,000 |
| 合計 | 251,260 |
この251,260バーツは米ドルに直すと約7,850ドルで、先ほどの調査における自動車業種の平均7,974.75ドルとほぼ一致します。積み上げの前提が極端でないことの傍証になります。
年8回であれば、年間損失は2,010,080バーツ、約62,800米ドルです。ここから対策の投資と比較します。
対策は3階層に分かれる — 測る、耐える、補償する
サグ対策の見積を取ると、いきなり数百万バーツの補償装置が提案されることがあります。しかし対策には明確な階層があり、下の層を飛ばして上の層に行くと費用が跳ね上がります。
| 層 | 内容 | 代表的な手当 | 初期費用(バーツ) | 年間運用(バーツ) |
|---|---|---|---|---|
| 層1 測る | 事象の記録と切り分け | 受電点のクラスA計測器1台で380,000、クラスS計測器3台で285,000(主幹2台と停止の多い設備の直近1台)、計器用変成器と盤工事で220,000、収録と時刻同期で180,000 | 1,065,000 | 96,000 |
| 層2 耐える | 設備側の耐性を上げる | 接触器のホールドイン装置を32面で272,000、インバータの不足電圧設定見直しと直流リンク増強を18台で216,000、制御電源の三相化と容量増を6系統で270,000 | 758,000 | 0 |
| 層3 補償する | 電圧そのものを補う | 瞬低補償装置を主要2ラインに2台で4,800,000 | 4,800,000 | 240,000 |
層2の中身は地味ですが効果が高い部分です。前掲の「Power Quality Bulletin No. 3」は、電圧サグ耐性を自力で上げる方法として9項目を挙げています。電源装置の設定電圧範囲を定格が上限寄りになるよう選ぶこと、単相電源を相間接続にして余裕を確保すること、電源装置にかかる負荷を他系統へ移すこと、電源装置の容量そのものを上げて負荷率を下げること、単相電源を三相電源に置き換えること、直流バスから給電すること、保護リレーのトリップ閾値と遅延の設定を見直すこと、機械的質量の大きい接触器やホールドイン付属品を使うこと、そして最後の手段として電圧レギュレータを設置することです。同資料は9番目を明確に最後の手段として位置づけています。
ここで層1について、はっきり書いておくべきことがあります。層1単独では損失は1バーツも減りません。 計測器を付けても機械は止まります。したがって層1だけの投資回収年数は計算できません。それでも層1を先に置く理由は2つあります。1つは、どの設備がどの深さのサグで落ちているかを知らなければ層2の手当先を決められないこと。もう1つは、層3の補償装置を入れるべきかどうかの判断が、事象の深さと継続時間の分布に依存することです。層1は層2の設計費として計上するのが実態に合っています。
投資回収を比較する
層1と層2をまとめて入れた場合と、層3まで足した場合を比較します。層2の効果として、年8回の停止が年3回に減ると想定します。層3まで入れた場合は、極端に深いサグだけが残り年0.5回になると想定します。
| 案 | 初期投資(バーツ) | 年間運用(バーツ) | 削減される停止回数 | 年間削減額(バーツ) | 純便益(バーツ) | 回収年数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 層1のみ | 1,065,000 | 96,000 | 0回 | 0 | マイナス96,000 | 算定不能 |
| 層1と層2 | 1,823,000 | 96,000 | 5回 | 1,256,300 | 1,160,300 | 1.6年 |
| 層1と層2と層3 | 6,623,000 | 336,000 | 7.5回 | 1,884,450 | 1,548,450 | 4.3年 |
この表から読み取れることは1つです。層3を足すと年間削減額は1.5倍になりますが、初期投資は3.6倍になります。結果として回収年数は1.6年から4.3年に伸びます。
したがって、多くの工場にとっての正解は層2で止めることです。層3の瞬低補償装置が正当化されるのは、1回の停止が桁違いに高くつく工程を持っている場合に限られます。連続炉、めっき槽、樹脂の連続押出、クリーンルーム内の一部工程などが該当します。逆に、組立や機械加工が中心の工場で層3から検討を始めると、ほぼ確実に回収しません。
前提を崩すとどうなるか
上の試算は3つの前提に強く依存しています。それぞれを動かしてみます。
前提1として、停止回数が年8回ではなく年4回だった場合。立地する工業団地の系統が安定している、あるいは別変電所からの2ルートで受電している工場ではこちらに近くなります。なお、同じ変電所の同じ母線から2回線を引いても、サグはほとんど減りません。母線側で電圧が落ちれば両方の回線に同じように届くからです。減るのは停電であってサグではない、という区別はここでも効いてきます。同じ削減率が働くとすれば、年4回は層2で年1.5回に、層3まで入れて年0.25回になる計算です。この場合、層1と層2の回収年数は3.4年、層3まで入れると10.9年になります。層3は完全に成立しません。
前提2として、復旧時間が75分ではなく40分だった場合。再起動手順が標準化されていて、原点復帰の作業書が整っている工場です。ここで注意すべきは、復旧時間を短縮しても減るのは生産機会損失と立会工数だけで、仕掛品の廃棄額と設備損傷の按分は減らないという点です。仕掛品は停止した瞬間に決まり、接触器の摩耗はサグを受けた回数で決まるからです。この条件では、生産機会損失が3ライン × 40分 × 900バーツ/分で108,000バーツ、立会工数が12名の40分ぶん、合計8時間に320バーツ/時を掛けて2,560バーツとなり、廃棄の28,000バーツと設備損傷按分の15,000バーツはそのまま残ります。1事象あたり損失は153,560バーツとなり、層1と層2の回収年数は2.7年に伸びます。
前提3として、層2の効果が想定より低く、年8回が年5回にしか減らなかった場合。設備が古く、制御盤の改造余地が小さい工場ではこうなります。層1と層2の回収年数は2.8年です。回収はしますが、この場合は層2を追加投資するより、更新時期の来た設備から順にIEC 61000-4-34適合品に置き換えていくほうが総額では安く済みます。設備を残したまま外付けで手当てする発想については既存設備のIoT化 レトロフィット費用5層とタイ工場の進め方の考え方が参考になります。
3つの前提のうち、自社で最も不確かなのは前提1です。だからこそ層1の計測を先に置いて、実際の回数を6か月測ってから層2と層3の判断をする、という順序になります。
タイの工場で追加で決めておくこと
タイで電圧監視を設計するとき、日本の前提が通用しない点がいくつかあります。
雨季の落雷が主要な要因の1つです。おおむね5月から10月にかけての雨季には、架空配電線への直撃雷と誘導雷が単相地絡を引き起こします。前掲の「Short Duration Voltage Sags can Cause Disruptions」も、電力系統の事故の大半は単相地絡であり、その原因として気象条件、碍子の汚損、動物の接触、設備故障、車両事故を挙げています。タイの場合は、これらのうち気象条件に起因するものが雨季に集中します。したがって、計測を始めるなら雨季をまたぐ期間で測らないと、年間の実像が出ません。乾季の3か月だけ測って「サグは少ない」と結論づけるのが典型的な失敗です。
供給側の制度も押さえておく必要があります。工業団地内はPEAまたはMEAからの供給で、多くの工場は22キロボルトまたは33キロボルトで受電しています。電気料金については、エネルギー規制委員会が2026年5月から8月の平均料金を1ユニットあたり3.95バーツとし、うち燃料調整費は16.23サタン、基本料金は3.78バーツでした。これは直前期の3.88バーツからの引き上げでした。その後、2026年8月12日の報道によれば9月分から公共照明費が外され、平均料金は約3.89バーツ、基本料金は約3.72バーツになりました。3.88バーツ、3.95バーツ、約3.89バーツという推移なので、水準としてはほぼ横ばいです。産業用は需要電力課金と力率課金が別に乗るため単純比較はできませんが、電気代が横ばいで推移している局面では、電気代削減を根拠にした投資は通りにくくなります。逆に言えば、いま電力関連の投資を通すなら、電気代ではなく停止損失を根拠にするほうが説得力があります。
運用面では、駐在員が不在の夜勤帯と休日の判断基準を決めておくことが重要です。サグの直後に設備を再起動してよいのか、品質確認を先にするのか。この判断が現場任せになっていると、復旧時間のばらつきが大きくなり、上の試算の前提が崩れます。
近隣国との比較も一言だけ触れておくと、ベトナムでは計画停電と系統の不安定さの性質がタイとは異なり、同じ仕様をそのまま持ち込むと成立しないことがあります。この点はベトナム設備監視2026 停電と越境規制でタイ仕様が崩れる理由にまとめています。
導入の進め方
90日を1区切りとして進めるのが現実的です。以下は各期間でやることの目安です。
第1期の30日では、過去12か月の停止記録を掘り起こし、原因が「不明」または「電源異常」となっている件数を数えます。同時に、受電点と主幹の計測器の設置場所を決め、CTとVTの取り付け可否を電気主任技術者と確認します。この段階で1事象あたりの損失額の積算根拠を作っておきます。
第2期の30日では、計測器を設置し、全機器の時刻同期を入れます。PLCの停止ログと計測器の事象ログを同じ画面で並べられる状態にすることが目標です。ここで急いで対策を打たないことが重要です。
第3期の30日では、蓄積された事象を分類します。系統側由来か構内由来か、深さと継続時間はどの範囲に分布しているか、どの設備が何パーセントで落ちているかを表にします。この表ができて初めて、層2の手当先と層3の要否が決まります。
その後、雨季を含む6か月の測定を経て、年間の実回数を確定させてから層3の判断をします。急ぐ必要はありません。層2の手当だけなら、この時点で着手して構いません。
よくある質問
電圧監視システムとは何ですか
電圧の実効値を半サイクル単位で測り続け、定格から外れた事象を残電圧と継続時間の組で記録する仕組みです。電力量を測る電力監視システムとは目的も測定周期も異なります。測定方法の共通規格はIEC 61000-4-30で、精度に応じてクラスAとクラスSの2段階があります。
電圧監視システムの費用はどのくらいですか
本記事のモデルケースでは、受電点にクラスA計測器1台、社内分岐にクラスS計測器3台、計器用変成器と盤工事、収録と時刻同期を含めて初期1,065,000バーツ、年間運用96,000バーツで試算しました。工場の規模と既設盤の改造余地で変動しますが、計測だけであれば数十万バーツから始められる構成も組めます。
瞬時電圧低下の対策にはUPSを入れれば足りますか
情報システム側であればUPSが有効です。生産設備側では、動力を含む全負荷をUPSで賄うのは容量とコストの面で現実的ではありません。まず制御回路と電磁接触器の耐性を上げる層2の手当を行い、それでも止まる高付加価値工程に限って瞬低補償装置を検討する、という順序が費用対効果に合います。
電力監視システムがあれば電圧監視は不要ですか
不要にはなりません。電力監視システムの測定周期は15分から30分であることが多く、0.2秒のサグは平均化されて見えなくなります。同じ盤に追加で電圧側の計測器を置くか、電力監視側の機器が半サイクル記録に対応しているかを確認する必要があります。
受電設備の監視はどこまでやるべきですか
受電点だけでは「サグが来た」ことしか分かりません。止まる設備の直近盤にも計測点を置いて、両者を時刻同期のうえ突き合わせて初めて、系統側由来か構内由来かの切り分けができます。全設備に付ける必要はなく、停止実績の多い設備に絞れば十分です。
電力会社に補償を求めることはできますか
制度として自動的に補償される仕組みはありません。ただし、クラスA準拠の記録があれば、系統側の事象であることを示したうえで、供給ルートの見直しや保護協調の相談を持ちかける材料にはなります。記録が無い状態で申し入れても議論が始まらないというのが実務上の現実です。
まとめ
電圧監視システムは、電気代を下げる仕組みではなく、理由の分からない停止を数えられるようにする仕組みです。停電は年に1回か2回でも、サグは年に20回起きうるという頻度の差が、この投資の出発点になります。
設備が止まるのは電気が消えるからではなく、電磁接触器が脱落しインバータが不足電圧トリップを出すからです。耐えるべき水準はSEMI F47とIEC 61000-4-34という形で既に定義されていて、新規設備の発注仕様に1行書けば済みます。既設設備については、測って、耐えさせて、それでも足りない工程だけ補償する、という3階層の順序を守ることが費用を決めます。
モデルケースの試算では、層2まで入れた場合の回収は1.6年、層3まで入れると4.3年でした。削減額は1.5倍にしかならないのに投資は3.6倍になるからです。多くの工場にとっての答えは層2で止めることであり、層3が正当化されるのは1回の停止が桁違いに高くつく連続工程を持つ場合に限られます。
そして、その判断をするために必要な最初の一歩が、雨季をまたぐ期間の実測です。年に何回、どの深さで、どの設備が落ちているのか。この表が無いまま見積を比較しても、金額の大小しか議論できません。
電圧監視や瞬時電圧低下の対策について、まだ社内で方針が固まっていない段階でも構いません。過去1年の停止記録に「原因不明」がどれだけあるかを一緒に数えるところから、計測点の置き方や層2の手当先の絞り込みまで、実務の順序に沿ってご相談に応じています。設備の一覧と受電の単線結線図があれば、より具体的な話ができます。お問い合わせページからお気軽にご連絡ください。
参考情報
- IEC 61000-4-30:2025 Electromagnetic compatibility (EMC) – Part 4-30 Power quality measurement methods, IEC – 第4版の発行日、クラスAとクラスSの区分、対象パラメータの根拠として使用
- Power Quality Bulletin No. 3 Voltage Sag Immunity Standards – SEMI F47 and F42, Pacific Gas and Electric Company, July 2018 – SEMI F47の耐量表、EPRI DPQによる年12回という頻度、耐性を上げる9つの手当の出典
- Short Duration Voltage Sags can Cause Disruptions, Pacific Gas and Electric Company – 停電が年1回から2回に対しサグが年20回超という比較、再閉路による連続サグ、設備の感受性の記述
- Motoki et al., Cost of Industrial Process Shutdowns Due to Voltage Sag and Short Interruption, Energies 2021, 14, 2874, MDPI – 33社調査による1事象あたり平均7,364.75米ドル、1キロワットあたり6.72米ドル、業種別の損失額、契約電力との相関係数0.221の出典
- IEC 61000-4-34:2005 EMC – Part 4-34 Voltage dips, short interruptions and voltage variations immunity tests for equipment with mains current more than 16 A per phase, IEC – 16アンペア超の機器に適用される耐性試験規格の適用範囲
- IEC 61000-4-34:2005/AMD2:2025, IEC – 2025年8月7日発行の第2次改正
- IEC 61000-4-11:2020 EMC – Part 4-11 Voltage dips, short interruptions and voltage variations immunity tests for equipment with input current up to 16 A per phase, IEC – 16アンペア以下の機器との適用範囲の切り分け
- ERC sets power tariff at 3.95 baht per unit for May-August, Nation Thailand, 2026年4月1日 – 2026年5月から8月の平均電気料金、燃料調整費、基本料金の数値
- Thailand cuts September power tariff, caps first 200 units at 3 baht, Nation Thailand, 2026年8月12日 – 2026年9月分からの平均料金3.89バーツと基本料金約3.72バーツへの変更
- SEMI F47 – Specification for Semiconductor Processing Equipment Voltage Sag Immunity, SEMI – SEMI F47の規格名称と適用範囲の確認
- IEEE 1159-2019 – IEEE Recommended Practice for Monitoring Electric Power Quality, IEEE – サグの分類定義。継続時間は半サイクルから1分、残電圧の割合で表現する点の出典