タイで製造拠点や新規事業を立ち上げる際に注目されるのが、BOI(タイ投資委員会)制度です。
BOIはタイ政府の投資促進機関であり、外国企業を対象に税制・財政・手続きの面で幅広い支援を提供しています。
法人税の免除や関税の優遇、外資100%出資の許可、土地の取得、外国人ビザの取得支援まで、多くの恩典が受けられます。
また、対象業種は製造業だけでなく、医療・デジタル・循環型産業など多岐にわたり、持続可能な成長を後押しする内容です。
本記事では、BOI制度の仕組みから申請の流れ、対象となる業種、注意点や活用時のリスクまで、タイ進出を検討する企業が押さえておくべきポイントを丁寧に解説します。
タイBOI制度とは?

タイBOI(Board of Investment)は、タイ首相府傘下の政府機関で、外国企業を含む民間投資の促進と円滑化を担う要です。タイ BOIは大きく4つの役割を果たします。
- プロモーター(Promoter):世界経済の変化を踏まえ、国の開発戦略に合致する投資を積極的に呼び込み、タイへの新規事業進出を後押しします。
- インテグレーター(Integrator):法人税免除や輸入関税優遇など、税制上・財政上の優遇措置をはじめとする支援ツールを、ひとまとめの「パッケージ」として提供。企業は申請窓口を一か所に集約でき、手続きが大幅に簡素化されます。
- ファシリテーター(Facilitator):各省庁や関連機関との調整を代行し、ビザ発給や労働許可、土地取得といった煩雑な手続きをスムーズに進める架け橋となります。
- コネクター(Connector):大企業から中小企業まで、タイ国内外のパートナー候補を紹介。異業種・異地域を結びつけることで、新たな事業機会を創出します。
このように、タイ BOI制度は単なる「優遇措置の窓口」ではなく、制度設計から現地パートナー紹介、手続き代行までを一気通貫で担う“投資促進の総合サービス機関”です。製造業をはじめとする日系企業がタイで拠点を立ち上げる際には、このBOI制度の特長と活用方法を正しく理解することが、コスト最適化とスピーディーな進出の鍵となります。
BOIで受けられる優遇措置とは?

ここからは、BOIで受けられる優遇措置について解説していきます。
税制上の恩典
BOI認定を受けた事業は、以下のような税制優遇を受けられます。
- 法人所得税の免除/減税:A1~A4区分に応じて、投資額の50~100%を上限に、最長8~13年の免除・減税が可能。
- 機械・原材料の輸入関税免除:生産設備や研究開発用原材料の輸入時に課される関税が全額免除。
- 輸出用製品の原材料輸入税免除:完成品を輸出する際に使用する原材料も関税免除対象となり、グローバル競争力を強化。
これらの優遇措置によって、製造ラインの最新化や量産体制の構築に伴うコストを大幅に削減できます。
税制以外の恩典
税金以外にも、事業運営を円滑に進めるための支援が豊富に用意されています。
- 外資100%出資・土地所有権の取得:日本企業はタイ法人を100%出資で設立でき、用途に応じた土地の取得も可能に。
- 外国人ビザ・労働許可の取得支援:ワークパーミット発行要件の緩和やビザ手続きのワンストップサポートで、人材確保が容易に。
- 外貨送金の制限なし:利益や配当を本国へ送金する際の規制がなく、資金調達や配当還元の自由度が高まる。
- 現地調達・輸出条件の緩和:原則として現地調達比率や輸出要件の縛りがないため、事業計画に柔軟性を持たせられる。
これらの非税制優遇を組み合わせることで、製造拠点の設立から運用、人材配置までの一連工程をスムーズに進められるでしょう。
BOIの対象業種と注目のIBC制度

BOI制度では、タイ政府が成長ドライバーと位置づける「ターゲット産業」に対して投資奨励を行っています。2023年以降、新たに10業種が追加され、製造業を中心に医療・デジタル・循環経済など多岐にわたる分野がカバーされています。
どんな業種が対象になるのか?
BOIが定める主なターゲット産業は以下のとおりです。
- 農業・食品・バイオテクノロジー
- 医療産業
- 機械・車両産業(自動車含む)
- 電気・電子機器
- 金属・素材産業
- 化学・石油化学
- 公共事業・サービス産業
- デジタル・クリエイティブ産業
- 高付加価値サービス
- 循環経済を支える産業(廃棄物由来燃料など)
ABC産業以外でも「高度技能を持つ専門家」による研究開発やAI・ロボティクス応用などが対象となります。
これらの業種に該当すれば、区分(A1~B)に応じて法人税免除や輸入関税免除などの恩典が得られます。
IBC(国際ビジネスセンター)との関係
IBC制度は、BOI奨励を活用しつつ「ワンストップ」で各種サポートを受けられる仕組みです。具体的には、以下のような特徴があります。
- 要件:投資額100万バーツ以上、払込資本金1,000万バーツ以上、専門技能を有する従業員10名以上を雇用
- 税制優遇:機械輸入税免除(研究開発・トレーニング用機械)、法人所得税免除の併用申請が可能
- 非税制支援:外国人ビザ・労働許可の迅速発行、土地所有許可、外貨送金緩和など
また、実際に日本企業をはじめ多国籍企業がIBCを活用する事例も増えており、進出後のスムーズな事業運営とコスト最適化に貢献しています。
タイの地域社会・環境支援と連携したBOI活用

タイ政府は、製造業投資に伴う社会・環境への配慮を重視し、BOI制度を地域開発や環境保全施策と連動させています。とくに以下の3領域で、投資奨励とサステナビリティを両立できる仕組みが整備されています。
1. 農業・水資源支援と産業投資の両立
BOI認定を受けた製造業が、水資源管理やスマート農業技術の導入プロジェクトに投資すると、追加の税制優遇を享受できます。たとえば、灌漑システムや土壌センサーを整備しつつ自社工場を拡張するケースでは、農業関連設備への投資割合に応じて法人税免除期間が延長される仕組みです。
2. PM2.5削減プロジェクトとの連携
大気汚染の主要因となるPM2.5対策として、工場排ガス処理設備や植林プロジェクトへの投資もBOI優遇対象に含まれます。製造ラインに高効率のフィルター装置を設置したり、敷地周辺に緑地を拡充する取り組みを進めることで、「環境保全要件」をクリアし、追加優遇措置を受けられます。
3. 地域教育支援と人材育成の強化
地域の公教育機関や職業訓練校と連携し、製造業向けの研修施設を設置すると、人材育成支援としてBOIの非税制優遇が拡大します。具体例として、校舎改修費用や設備導入費の一部が免税対象となり、地元コミュニティへの貢献と人材確保を同時に実現できます。
タイでBOIを活用する流れ

BOI制度を活用するには、事前準備から申請後の運用まで、いくつかの段階を踏む必要があります。以下は基本的なプロセスです。
STEP1:事前相談と事業スキームの確認
まずはBOIの地域事務所(東京・大阪の日本窓口も活用可)へ事前相談を申し込みます。
- 対象業種の適合性チェック:自社の事業計画がBOIの奨励対象業種(A1~B区分)に該当するかを確認。
- 投資規模・計画のブラッシュアップ:資本金や設備投資額、雇用計画を整理し、BOI奨励要件とズレがないか詰める。
事前相談では、審査官から「要件マトリクス」作成のポイントや必要書類の詳細アドバイスが得られます。
STEP2:投資奨励申請と審査
事前相談を踏まえた申請書類をBOI本部へ提出します。
- 申請書類一式:事業計画書、設備仕様書、雇用計画書、資本金払込証明など
- ヒアリング:提出後1~2週間で面談が設定され、審査官と細部をすり合わせ
- 審査期間:通常2~3ヶ月で承認可否が決定
このフェーズでの書類精度が、その後のスムーズな優遇適用に直結します。
STEP3:投資奨励証(BOI Certificate)の取得
審査をクリアすると「投資奨励証(Promotional Certificate)」が交付されます。
- 証書の役割:これがなければ、法人税・輸入関税免除などの恩典を受けられない
- 証書交付後の優遇適用開始:証書取得日を起点に、免税期間や関税免除が有効化
発行後は速やかに証書原本を受領し、関係各所への提出を忘れないようにしましょう。
STEP4:事業開始と報告義務
設備導入・操業開始後は、定期的な報告が必須です。
- 年次報告書:投資実績、人員数、売上高などをBOIへ提出
- 収益報告:法人税免除措置の適用状況を含む収益データを報告
- モニタリング対応:現地調査や追加ヒアリングに備え、証憑(稼働ログ、写真、見積書)を保管
計画どおりに報告・運用できていれば、優遇措置は継続的に適用されます。運用フェーズの管理体制も、タイ BOI活用成功の鍵です。
BOI制度を活用する際の注意点とリスク

BOI制度は非常に魅力的ですが、誤解や運用ミスによるトラブルも散見されます。以下に代表的な注意点を整理します。
制度の複雑さと誤認
BOI優遇措置は「業種」「地域」「投資区分」によって内容が細かく異なり、頻繁に改定されます。たとえば、同じ製造業でもA1区分とA2区分では免税期間や要件が変わるため、公式資料や最新のセミナー資料で常に正確な情報を確認し、申請書類に反映することが重要です。
「BOI認定=全ての免除」ではない
よくある誤解として、「BOI認定を受ければすべての税金・手数料が免除される」と思い込むケースがあります。しかし、法人税は免除でも、VAT(付加価値税)や一部の個別輸入関税は対象外となる場合があります。土地取得や外資規制の緩和にも用途や地域ごとの条件があるため、認定後の細部要件もしっかり押さえましょう。
報告義務の不履行による恩典取り消し
BOIの優遇を受けた後は、年次報告や人員数、投資実績の提出が義務付けられています。これらの報告を怠ると、優遇措置が取り消され、過去分を遡って課税されるリスクがあります。特に、証憑となる稼働ログや支出証明は定期的に整理・保管し、監査に対応できる体制を整えておく必要があります。
日本語での制度理解・申請サポートが不可欠
BOI関連の公的書類や案内は英語・タイ語が中心で、日本語訳が不十分なケースが多々あります。申請ミスや要件解釈のズレを防ぐためには、日本語での正確な制度解説と申請サポートが欠かせません。TOMASTECHでは、BOI申請プロセスを日本語でフルサポートし、誤認や手戻りを最小化します。
タイのBOIに関するよくある質問

ここからは、タイのBOIに関するよくある質問に回答していきます。
BOI申請に必要な初期費用や手数料はいくら?
BOI申請自体に公的な手数料はかかりませんが、申請書類作成や事前相談の支援を専門コンサルに依頼する場合、概ね50万~100万円程度のコンサル費用が発生します。企業内部で対応する場合は、翻訳や登記費用(定款作成・認証手数料など)で20万~30万円程度を見込むと安心です。その他、現地法人設立や資本金払込に伴う実費も考慮してください。
事前相談から実際に優遇が始まるまでの具体的なタイムラインは?
タイ BOIの事前相談申込から回答までは約2週間、正式申請後の書類審査・ヒアリングに通常8~10週間程度かかります。申請が承認され「投資奨励証(Promotional Certificate)」を受領した日が優遇開始日となり、以降すぐに法人税・輸入関税の優遇が適用されます。全体で準備含め約3~4ヵ月を見込むのが一般的です。
BOI認定後の年次報告や監査はどのくらい厳格か?何を準備すべき?
BOI認定後は毎年、投資実績・人員数・生産量などをまとめた「年次報告書」をBOIに提出する義務があります。報告書には稼働ログ、写真、会計帳簿のコピーなど証憑を添付し、監査官による現地調査にも対応できるよう原本管理を徹底すると安心です。報告漏れや虚偽があると優遇取消やペナルティの対象となるため、社内で専任担当を置いて運用体制を整備しましょう。
まとめ:タイ進出にBOIは不可欠。正しく活用しましょう

タイ BOI制度を活用すれば、製造拠点の初期投資コストを大幅に削減し、人材確保や輸出促進まで幅広い支援を得られます。しかし、その恩典を受けるには、以下のポイントを押さえることが不可欠です。
- 制度要件を正確に把握する
- 申請から運用までの手順を厳守する
- リスク管理を徹底する
- 専門家・実行パートナーと連携する
これらを踏まえ、タイ BOIを単なる「優遇制度」としてではなく、製造業の成長戦略に組み込むことで、競争力強化と持続可能な進出を実現しましょう。