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2026.08.23

タイSMEデジタル投資減税2026|IoT導入に効く200%控除

タイSMEデジタル投資減税2026|IoT導入に効く200%控除

タイで工場のIoT化を検討していると、「タイにはデジタル投資の減税制度がある」という話を耳にすることがあります。2026年2月に施行された王令802号による200%控除がそれで、本記事ではタイSMEデジタル投資減税と呼びます。ただし、タイに拠点があればどの企業でも使える制度ではありません。払込資本金500万THB以下かつ売上高3,000万THB以下という小規模基準があり、対象支出もdepaデジタルカタログ登録のベンダー・製品に限られます。本記事では対象条件、対象になる支出、確認の実務、節税額の試算を整理します。

タイSMEデジタル投資減税とは何か|王令802号の概要

2026年2月に施行された新しい優遇措置

タイSMEデジタル投資減税の法的な根拠は、タイ歳入法典に基づく租税免除王令の第802号(仏暦2569年)です。この王令は2026年2月6日に官報で公示され、翌2026年2月7日に施行されました。中小企業がデジタル関連の製品・サービスに投資した場合、その支出について200%の控除を受けられる、というのが制度の骨格です。制度の公示についてはThaiPR|depa and Revenue Department Successfully Promote 200% Tax Deduction Measure to Support SME Digital Transformationが報じており、制度の詳細はタイデジタル経済振興機構(depa)がdepa|Thailand Digital Catalog 200%税額控除の案内で公開しています。

ここで最初に押さえておきたいのは、この制度が「タイで事業を行う法人一般」に開かれた制度ではないという点です。名称のとおり対象はSME、すなわち一定の規模要件を満たす中小企業に限られます。タイに現地法人があるというだけでは要件を満たしません。この点は後の章で数値とともに詳しく扱います。

「200%控除」という言葉が意味していること

「200%控除」という言葉は、日本語の感覚では誤解を招きやすい表現です。支出した金額の2倍が現金で戻ってくる制度でも、法人税額そのものから支出額の2倍を差し引ける制度でもありません。

この制度が定めているのは、対象となる支出について、損金算入できる金額を実際の支出額の2倍にしてよいという取り扱いです。損金算入額が増えれば、その分だけ課税所得が圧縮されます。課税所得が圧縮されれば、そこに法人税率を掛けて算出される法人税額が減ります。つまり節税の効果は、増えた損金算入額そのものではなく、増えた損金算入額に法人税率を掛けた金額として現れます。

この構造を理解しておかないと、「280,000 THBの投資をすれば560,000 THBが返ってくる」という誤った期待値で稟議を通してしまうことになります。実際にどれだけの効果があるのかは、後述するモデルケースの章で具体的な数字とともに確認します。

対象になるのは2025年6月24日から2027年12月31日までの支出

制度が施行されたのは2026年2月ですが、対象となる支出の期間はそれより前に遡ります。閣議決定が行われた2025年6月24日から2027年12月31日までに発生した対象支出が適用範囲とされています。この点はMahanakorn Partners|Thailand approves new tax incentive to accelerate SME digital transformationが整理しています。

実務上の意味は2つあります。1つは、すでに2025年後半から2026年前半にかけてIoTやシステムへの投資を行った企業も、要件を満たしていれば適用の可能性があるということです。もう1つは、期限が2027年12月31日で区切られているため、検討を先延ばしにすると制度そのものが使えなくなる可能性があるということです。適用の可否は個別の判断になりますが、過去の支出について確認する価値はあります。

なぜ今この制度が注目されているのか

2021年に失効した旧制度の復活という位置づけ

タイでデジタル投資に対する減税措置が設けられたのは、今回が初めてではありません。前掲のMahanakorn Partnersの解説によれば、王令802号は、2021年に失効した旧・王令725号(仏暦2564年)によるデジタル投資減税措置を、対象を拡大したうえで復活させたものとされています。

「復活」であることには実務上の意味があります。まったく新しい制度ではないため、旧制度の時期に同種の措置を扱った経験を持つ会計事務所であれば、過去の運用の考え方を参照できる可能性があります。一方で「対象拡大」の部分については、どこまでが対象になるかの解釈がまだ固まりきっていない領域が残ります。この不確実性が、後述する「歳入局の詳細な運用ガイドラインが未整備」という状況につながっています。

政策としてはSMEのデジタル化の遅れが背景にあると読み取れる

制度の対象が規模要件を満たすSMEに限定されていることからは、大企業と中小企業の間でデジタル化の進み方に差が生じているという課題認識が読み取れます。大企業や外資系の大規模拠点は自力でシステム投資を進められる一方、資本金と売上規模の小さい企業では、デジタル投資の初期費用が意思決定の壁になりやすいという構図です。

制度が「タイ国内に納税実体を持つベンダー」からの調達に限定されている点にも、政策としての意図が読み取れます。減税によって生じる財政上のコストを、タイ国内のデジタル産業の育成につなげようという設計です。この点は、後述するdepaデジタルカタログの仕組みと直結しています。

なお、本制度の初期の受益対象が600社規模になるという記述が一部の業界メディアで報じられていますが、この数字は歳入局や閣議決定の資料といった一次情報まで確認できていないため、本記事では確定した事実としては扱いません。

日系の小規模拠点にとっての意味

タイに拠点を持つ日系企業の中には、大規模な生産子会社だけでなく、物流や検査の代行、営業拠点、設計・技術サポート拠点といった小規模な現地法人を併せ持つケースが少なくありません。タイSMEデジタル投資減税が現実的な選択肢になるのは、多くの場合こうした小規模拠点の側です。

逆に言えば、グループ全体で見れば大きな企業であっても、タイに登記されている個別の法人単位で要件を判定することになります。自社グループのどの法人が対象になりうるのかを、法人ごとに確認する作業が最初の一歩になります。

対象になる企業の条件|資本金と売上高の壁

タイSMEデジタル投資減税2026|IoT導入に効く200%控除 - figure 1

この章は、本記事の中で最も先に読んでいただきたい部分です。制度の内容がどれだけ魅力的でも、要件を満たさなければ検討そのものが成り立たないからです。

2つの数値基準を両方満たす必要がある

対象となるSMEの条件は、決算期末時点で次の2つを両方とも満たすことです。片方だけでは対象になりません。

判定項目王令802号が定める基準判定のタイミング
払込資本金500万THB以下決算期末時点
売上高3,000万THB以下当該会計期間
他の税制優遇の受給BOI・国家競争力強化法・EEC法に基づく優遇を同時に受けていないこと当該会計期間

この基準の水準感は、日系製造業の実務者にとって決して緩いものではありません。生産設備を持って量産を行う拠点であれば、払込資本金500万THBという基準も、売上高3,000万THBという基準も、超えていることが多い水準です。タイに拠点を構える日系製造業の多く、特に一定規模以上の生産子会社は、この基準を超えており対象外になりうるという点を、検討の入口ではっきりさせておく必要があります。

「タイに拠点があれば使える制度」ではない

この制度に関する記事や案内の中には、規模要件を目立たない位置に置いたまま「タイのデジタル投資減税」として紹介しているものがあります。しかし実際には、規模要件こそがこの制度の性格を決めています。

社内で情報共有する際には、制度名だけを伝えるのではなく、資本金500万THB以下かつ売上高3,000万THB以下という条件をセットで伝えてください。この一言があるかどうかで、対象外の拠点が期待値を持ったまま検討工数を投じてしまう事態を防げます。特に、日本本社側に報告する場合には、タイの法人単位で判定される点も併せて伝えると誤解が生じにくくなります。

他の優遇制度を受けている場合は対象外

規模要件を満たしていても、BOI(投資奨励法)、国家競争力強化法、EEC法に基づく税制優遇を同時に受けている場合は対象外とされています。また、過去に同種の優遇措置を受けている場合も対象外です。

タイに進出している日系企業の場合、製造拠点はBOIの恩典を受けていることが多く、この時点で対象から外れます。一方、BOIの恩典を取得していない小規模なサービス拠点や物流拠点であれば、規模要件と併せて検討の余地があります。自社のどの法人がどの優遇制度の適用下にあるかは、税務申告を担当している会計事務所に確認するのが確実です。

対象になる支出・ならない支出

対象は4つのカテゴリに整理されている

前掲のdepaの案内によれば、対象となる支出は次の4つのカテゴリに整理されています。そしてこの4つのいずれについても、depaのデジタルカタログに登録されたベンダー・製品であることが条件になります。カテゴリごとの具体例については、iReadCustomer|How to maximize the Thai SME digital tax deduction 2026の整理が参考になります。

カテゴリ対象になる例
コンピュータソフトウェア・プログラムERP(統合基幹業務システム)、組込みシステム、ビッグデータ分析基盤
ハードウェア倉庫管理システムに統合されたバーコードスキャナー、HRシステムに連動する生体認証端末、ローカルデータベース用のエッジコンピューティングサーバー
スマートデバイス・機器業務システムと組み合わせて使うスマートデバイスおよび機器。出典に個別の例示はありません
デジタルサービス登録ベンダーが提供するデジタルサービス。出典に個別の例示はありません

上表のうち、日系製造業の現場で判断が分かれやすいのはハードウェアの扱いです。次の項で境界線を確認します。

「一般用途のパソコン」は対象にならない

対象になるハードウェアは、あくまでデジタルサービスと不可分一体な専用機器と位置づけられています。この境界について、前掲のiReadCustomerの解説は、汎用のノートパソコンや通常のオフィス機器は対象外であり、タイ国内に納税実体を持たない海外ベンダーからの調達も対象外になると整理しています。depaの案内でも、一般用途のパーソナルコンピュータは対象外とされています。

この線引きは、実務上は次のように読み替えると分かりやすくなります。その機器が単体で汎用的に使えるものなら対象外、特定のデジタルサービスやシステムと組み合わせて初めて機能するものなら対象になりうる、という判断軸です。倉庫管理システムに紐づいたバーコードスキャナーが例として挙げられているのは、まさにこの理由によります。

対象外になりやすい支出を先に確認する

検討の初期段階では、対象になるものを探すより、対象外になるものを先に外していくほうが早く結論に近づきます。次の支出は対象外、あるいは対象外になる可能性が高い区分です。

  • 汎用のノートパソコン、デスクトップPC、一般的なオフィス機器
  • タイ国内に納税実体を持たない海外ベンダーから直接調達したソフトウェアやサービス
  • depaのデジタルカタログに登録されていないベンダー・製品からの調達
  • BOI等の他の税制優遇をすでに受けている法人による支出

ここで注意したいのは、3つ目の条件です。製品の性質としては明らかにIoT機器やシステムであっても、ベンダーがカタログに登録されていなければ対象になりません。製品カテゴリの議論より前に、ベンダー登録の確認が必要だということです。

depaデジタルカタログとは|ベンダー確認の実務

カタログが果たしている役割

depaデジタルカタログは、タイデジタル経済振興機構が運営する、デジタル製品・サービスの登録リストです。タイSMEデジタル投資減税においては、このカタログが対象支出の範囲を実際に決める役割を担っています。制度の条文が対象カテゴリを定め、カタログが対象ベンダー・製品を確定させる、という二段構えです。

登録の有無はdepa|デジタルカタログ登録リストの確認ページで確認できます。検討中のベンダーや製品がこのリストに含まれているかどうかは、購入判断より前に確認しておくべき項目です。

確認のタイミングは請求書の発行時点

実務で最も見落とされやすいのが、確認のタイミングです。前掲のdepaの案内およびiReadCustomerの解説によれば、請求書が発行される時点でベンダーが登録リストに載っていない場合、200%控除の申請は認められません

これは、購入の意思決定時点で登録されていたかどうかではなく、請求のタイミングで登録状態にあるかどうかが問われるということです。導入プロジェクトが数か月にわたる場合、契約時と請求時の間に状況が変わる可能性は否定できません。契約書や発注書の段階で、ベンダー側に登録状態の維持について確認を取っておくことが、実務上の防御策になります。

ベンダーが未登録だった場合の動き方

検討していたベンダーがカタログに登録されていなかった場合、選択肢は3つあります。

  • 登録済みの別ベンダーを探し、同等の製品・サービスに切り替える
  • 現在検討中のベンダーに、カタログへの登録意向があるかを確認する
  • 制度の適用を前提とせず、通常の投資判断として進める

3つ目の選択肢を軽視しないでください。制度による節税額は、後述するモデルケースで見るとおり、投資判断を根本から覆すほどの規模にはならないケースもあります。制度に合わせて本来必要ないものを買ったり、要件に合うという理由だけで機能面で劣る製品を選んだりすれば、投資として本末転倒になります。制度は投資判断の後押しであって、投資判断の理由そのものではありません。

控除の仕組みを数字で理解する|200%控除と30万THB上限

タイSMEデジタル投資減税2026|IoT導入に効く200%控除 - figure 2

税額控除ではなく、損金算入額が2倍になる措置

この章では、制度の効果を数字で追えるようにします。まず用語の整理からです。

用語一般的な意味王令802号での取り扱い
税額控除算出された法人税額そのものから差し引くこの制度は法人税額から直接差し引く仕組みではない
損金算入課税所得を計算する際に費用として差し引く対象支出について、支出額の2倍を損金算入できる
200%控除対象支出額の2倍を損金算入する措置上限は対象支出額ベースで30万THB

この表で最も重要なのは、1行目と2行目の違いです。日本語で「200%税額控除」と表記されている資料もありますが、実態は損金算入額を2倍にする措置であり、節税額は増えた損金算入額に法人税率を掛けた金額になります。

上限は「対象支出額ベースで30万THB」

控除の上限は、控除後の金額ではなく対象支出額のベースで30万THBに設定されています。したがって、対象支出が30万THBちょうどであれば、その2倍にあたる60万THBを課税所得から控除できます。これがこの制度で得られる控除額の最大値です。

30万THBを超える部分については、200%の扱いは適用されず、通常どおり100%の損金算入に戻ります。つまり、対象支出が30万THBを大きく上回るシステム投資を行った場合でも、200%の扱いを受けられるのは30万THBまでで、超過部分は通常の損金算入として処理されるという理解になります。

この上限の水準は、制度の性格をよく表しています。大規模なシステム投資の資金負担を軽くする制度ではなく、小規模な企業がデジタル化の第一歩を踏み出す際の後押しをする制度だということです。IoTの本格導入を検討している企業にとっては、投資全体を左右する規模ではありませんが、パイロット導入の一区画分を軽くする効果は期待できます。

モデルケースで見る節税額

ここからは、制度の効果を具体的な金額で確認します。以下の数値は実在の統計や調査結果ではなく、架空の想定企業を前提とした当社の独自試算です。実際の税額は、企業固有の課税所得、適用される税率、他の控除項目によって変動します。

想定するのは、タイに登記する日系の小規模現地法人「G社」(仮名)です。生産子会社の物流と検査代行を担う小規模拠点という設定で、決算期末の払込資本金は300万THB、当該会計期間の売上高は2,500万THBとします。

G社のSME要件チェック

まず、G社が制度の対象になるかどうかを確認します。

項目王令802号の基準G社の実績判定
払込資本金500万THB以下300万THB基準内
年間売上高3,000万THB以下2,500万THB基準内
他の優遇制度の重複受給BOI・EEC等を同時受給していないこと受給なし基準内

3つの項目をすべて満たしているため、G社は制度の対象になりうる法人だと判断できます。ここで「対象になる」ではなく「対象になりうる」と書いているのは、後述するとおり歳入局の詳細な運用ガイドラインがまだ整備されておらず、最終的な適用可否は税務申告の実務を通じて確認する必要があるためです。

G社が購入したIoT投資と控除額の試算

G社が購入したのは、depaデジタルカタログの登録ベンダーから調達した、既設の検品ラインに後付けするIoT稼働監視センサー一式と、クラウド監視ソフトウェアのサブスクリプション(初年度契約分)です。購入金額は280,000 THBとし、上限の30万THBの枠内に収まる設定とします。

この支出について、制度を使わない場合と使う場合を比較すると次のようになります。

  • 通常の損金算入(200%控除を使わない場合): 280,000 THBがそのまま課税所得から控除される
  • 200%控除を適用した場合の損金算入額: 280,000 THB × 2 = 560,000 THB
  • 法人税の実効税率を20%と仮定した場合、通常の損金算入のみでの節税額: 280,000 THB × 20% = 56,000 THB
  • 200%控除を適用した場合の節税額: 560,000 THB × 20% = 112,000 THB
  • 制度による上乗せの節税効果: 56,000 THB

上乗せの効果が56,000 THBというのは、通常の損金算入で得られる節税額と同額がそのまま上乗せされる、という関係になります。これは、損金算入額が2倍になるという制度の仕組みから当然に導かれる結果です。

参考値として、上限の30万THBまで使い切った場合も計算しておきます。損金算入額は60万THB、実効税率20%を仮定した節税額は12万THB、そのうち制度による上乗せ効果は6万THBとなります。これがこの制度で得られる上乗せ効果の最大値です。

なお、上記の税率20%はタイの標準的な法人税率を仮定した独自試算です。実際の税額はG社固有の課税所得、適用税率、他の控除項目によって変動します。

この試算から読み取ってほしいこと

280,000 THBの投資に対して、制度による上乗せの節税効果は56,000 THBでした。投資額に対する比率で見ればおよそ2割にあたりますが、金額の絶対値としては、IoT導入の可否を左右するほどの規模ではありません。

したがって、この制度の使い方としては次の順序が現実的です。まず投資そのものの必要性と回収見込みで判断し、実行を決めたうえで、対象になるなら制度を使う。この順序を逆にして、制度が使えるから投資するという判断をすると、必要のないものを買う結果になりやすくなります。

IoT投資の回収を費用の内訳から検討する考え方については、海外拠点のIoT導入における遠隔監視の費用と回収で、費用を5つの層に分解して整理しています。制度による節税額は、この費用構造の中では初期費用の一部を軽くする効果として位置づけられます。全体の回収計算を先に行い、そのうえで節税効果を加味するという順序で検討してください。

他の優遇制度との関係|BOI・EECとの併用に注意

併用できない制度が明示されている

前述のとおり、BOI(投資奨励法)、国家競争力強化法、EEC法に基づく税制優遇を同時に受けている場合、タイSMEデジタル投資減税の対象外となります。また、過去に同種の優遇措置を受けている場合も対象外です。

タイに進出している日系製造業にとって、この条件は実務上大きな意味を持ちます。BOIの恩典を取得して製造拠点を運営している企業は非常に多く、その場合は規模要件の判定を待たずに対象外が確定します。検討の順序としては、規模要件より先に、他の優遇制度の受給状況を確認するほうが効率的な場合もあります。

グループ内の法人ごとに判定する

判定は法人単位で行われます。したがって、同じ日系グループの中でも、BOI恩典を持つ製造子会社は対象外、恩典を持たない小規模なサービス法人は規模要件次第で対象になりうる、という状態が生じます。

グループ内で複数の法人を運営している場合、次の3点を法人ごとに整理しておくと判断が速くなります。

  • 払込資本金と直近会計期間の売上高
  • BOI・国家競争力強化法・EEC法に基づく優遇の受給状況
  • 過去に同種のデジタル投資優遇を受けたことがあるかどうか

この整理は、税務申告を担当している会計事務所に依頼すれば、比較的短時間で作成できる資料です。制度の詳細な検討に入る前に、この一覧を用意しておくことをお勧めします。

IoT投資への活かし方

工場のIoTで対象になりうる支出

OT・IoTの領域で、この制度の対象になりうる支出の候補を挙げると次のようになります。いずれも、depaデジタルカタログに登録されたベンダー・製品であることが前提です。

  • 既設設備に後付けする稼働監視センサーや、そのゲートウェイ機器
  • 収集したデータを可視化するクラウド監視ソフトウェアのサブスクリプション
  • ローカルデータベースを持つエッジコンピューティングサーバー
  • 倉庫管理システムと一体で運用されるバーコードスキャナーやハンディターミナル
  • 生産管理・在庫管理と連動するERPやその関連モジュール

エッジコンピューティングサーバーとバーコードスキャナーは、前掲のiReadCustomerの解説がハードウェアの対象例として挙げているものです。いずれも、単体で汎用的に使うものではなく、特定のシステムと一体で機能する機器だという共通点があります。

パイロット導入の一区画と相性がよい

上限が対象支出額ベースで30万THBという水準は、工場のIoT導入で言えば、1ラインまたは数台の設備を対象にしたパイロット導入の規模感に近くなります。全社展開の投資規模には届きませんが、最初の一区画を試す段階の費用を軽くする効果は見込めます。

IoT導入を段階的に進める場合の費用構造については、工場のIoT導入における費用の5層分解と稼働監視の始め方で詳しく整理しています。センサーやゲートウェイといった機器の費用だけでなく、通信、基盤、アプリケーション、運用という層ごとに費用が発生する構造を押さえておくと、制度の対象になる部分とならない部分の切り分けもしやすくなります。

制度に合わせて設計を歪めない

制度の対象カテゴリに寄せるために、本来必要な構成を変えてしまうことは避けてください。たとえば、汎用のPCで十分に運用できる用途に、対象になるからという理由で専用機器を選ぶといった判断です。

判断の順序は、あくまで次のとおりです。必要な機能と構成を先に決め、その構成を満たせるベンダーの中に、カタログ登録済みのベンダーがあるかを確認する。登録済みのベンダーで要件を満たせるなら制度を使い、満たせないなら制度を使わずに要件を優先する。この順序であれば、制度の有無にかかわらず投資の質が保たれます。

申請・実務の進め方

タイSMEデジタル投資減税2026|IoT導入に効く200%控除 - figure 3

歳入局の詳細な運用ガイドラインは未整備

実務の話に入る前に、重要な前提を共有します。前掲のMahanakorn Partnersの解説は、記事執筆時点で歳入局による公式の実施ガイドラインがまだ発行されていないと明記しています。つまり、申請様式や添付書類の詳細といった具体的な手続きは、現時点では確定した形で公表されていません。

このため、本記事では存在しない手続きを具体的に描写することは避けます。現時点で実務として行えるのは、要件の確認と証憑の整備、そして税理士・会計士を通じた個別確認です。以下の3つのステップは、そうした前提のもとで整理したものです。

ステップ1|ベンダーと自社要件の確認

最初のステップは、購入や契約の前に行う確認作業です。確認する項目は次の3つに集約されます。

  • 自社が規模要件(払込資本金500万THB以下かつ売上高3,000万THB以下)を満たしているか
  • BOI・国家競争力強化法・EEC法に基づく優遇を受けていないか
  • 検討中のベンダー・製品がdepaデジタルカタログに登録されているか

3つ目については、前掲のdepa|デジタルカタログ登録リストの確認ページで確認できます。確認した日付と結果を記録として残しておくと、後の社内説明や税務上の確認で役立ちます。

ステップ2|購入と証憑の整備

購入の段階では、請求書の発行時点でベンダーが登録リストに載っている必要があります。この点は繰り返しになりますが、実務で最も落としやすい条件です。

証憑としては、請求書、契約書、支払記録に加えて、購入した製品・サービスが対象カテゴリのいずれに該当するかを説明できる資料を保管しておくことを勧めます。運用ガイドラインが未整備である以上、どこまでの資料が求められるかは現時点で確定していません。判断に迷う場合は、多めに残しておくほうが安全です。

社内の決裁の観点では、税制優遇を前提にした稟議は、制度の適用が確定していない段階で金額の根拠として使うと差し戻しの原因になりがちです。IT投資の稟議を通す際の組み立て方や、タイ拠点で発生しがちな二重承認の扱いについては、IT投資の稟議書の書き方と差し戻しを防ぐ決裁の型で整理しています。節税効果は投資判断の主たる根拠ではなく、あくまで補助的な要素として記載するほうが、決裁の場での議論が安定します。

ステップ3|税務申告での適用と個別確認

最後のステップは、法人税の確定申告における適用です。ここは自社だけで判断せず、タイでの税務申告を委託している税理士・会計士を通じて確認してください。

確認しておきたい論点は次のとおりです。適用にあたって追加で必要な書類はあるか、対象カテゴリの判定について歳入局の見解が示されているか、過去期間の支出について遡って適用する場合の手続きはどうなるか。運用ガイドラインが整備されるまでの間は、こうした個別確認が実質的な手続きになります。

よくある失敗・注意点

規模要件を確認せずに検討を進めてしまう

最も多い失敗です。制度の存在を知った時点で対象になる前提で社内の検討を始めてしまい、後になって払込資本金や売上高の要件を超えていることが判明する、という流れです。検討工数だけでなく、社内の期待値まで無駄にしてしまいます。

回避策は単純で、最初に払込資本金と売上高、そして他の優遇制度の受給状況を確認することです。この3項目の確認は、経理財務の担当者であれば数十分で完了します。

ベンダーの登録状態を購入前に確認しない

製品の仕様と価格の比較に時間をかけた後で、選定したベンダーがカタログに登録されていないことが判明するケースです。特に、日本本社が採用しているベンダーのタイ法人や、海外のクラウドサービスを直接契約する場合に起こりやすくなります。

ベンダー選定の初期段階、できれば候補を絞り込む前の段階で、カタログの登録状態を確認項目に加えておいてください。

節税額を過大に見積もる

「200%控除」という表現から、支出額の2倍が戻ってくると理解してしまう誤解です。本記事のモデルケースでは、280,000 THBの投資に対する上乗せの節税効果は56,000 THBでした。この差を稟議書の中で取り違えると、投資の正当化の根拠そのものが崩れます。

上限の30万THBを超える部分まで対象だと考える

上限は対象支出額ベースで30万THBです。これを超える部分は通常の100%の損金算入に戻ります。大規模なシステム投資を計画している場合、投資額全体に200%が適用されるわけではない点を、最初から前提に置いてください。

制度を理由に不要な投資を行う

節税額よりも投資額のほうが常に大きい以上、必要のない投資を行えば手元資金は減ります。制度は投資判断の後押しであって、投資の理由ではありません。この原則は、モデルケースの数字を見れば明らかです。

他の優遇制度との併用可否を確認しない

BOIの恩典を受けている法人が対象外である点は、条文上明示されています。製造拠点でBOI恩典を取得している日系企業は多く、この確認を省くと検討そのものが無意味になります。

よくある質問

タイに現地法人があれば、この制度は使えますか

使えません。対象は、決算期末時点で払込資本金が500万THB以下、かつ当該会計期間の売上高が3,000万THB以下という2つの条件を両方満たすSMEに限られます。BOI・国家競争力強化法・EEC法に基づく優遇を同時に受けている場合も対象外です。タイに拠点を構える日系製造業の多く、特に一定規模以上の生産子会社はこの基準を超えており対象外になりうるため、まず自社の法人単位で要件を確認してください。

200%控除とは、支出額の2倍が戻ってくるという意味ですか

違います。対象支出について損金算入できる金額が実際の支出額の2倍になる、という措置です。節税額は、増えた損金算入額に法人税率を掛けた金額として現れます。本記事のモデルケースの独自試算では、280,000 THBの支出に対して損金算入額は560,000 THBとなり、実効税率20%を仮定した場合の節税額は112,000 THB、制度による上乗せ効果は56,000 THBでした。

どんなIT機器を買っても対象になりますか

なりません。対象はコンピュータソフトウェア・プログラム、ハードウェア、スマートデバイス・機器、デジタルサービスの4カテゴリで、いずれもdepaデジタルカタログに登録されたベンダー・製品であることが条件です。一般用途のパーソナルコンピュータは対象外とされており、タイ国内に納税実体を持たない海外ベンダーからの調達も対象外です。ハードウェアについては、デジタルサービスと不可分一体な専用機器であることが求められます。

控除の上限はいくらですか

対象支出額のベースで30万THBです。したがって、その2倍にあたる最大60万THBを課税所得から控除できます。30万THBを超える支出については、超過部分は通常の100%の損金算入に戻ります。上限まで使い切った場合の節税額は、実効税率20%を仮定した独自試算で12万THB、そのうち制度による上乗せ効果は6万THBとなります。

申請の手続きはどう進めればよいですか

記事執筆時点で、歳入局による公式の実施ガイドラインはまだ発行されていません。このため、申請様式や添付書類の詳細は確定した形で公表されていない状況です。現時点で実務として行えるのは、規模要件と他制度の受給状況の確認、ベンダーのカタログ登録状態の確認、証憑の整備、そしてタイでの税務申告を委託している税理士・会計士を通じた個別確認です。

すでに購入済みの設備も対象になりますか

対象期間は2025年6月24日から2027年12月31日までに発生した支出とされているため、この期間内の支出であれば遡って適用できる可能性があります。ただし、規模要件を満たしていること、支出が対象カテゴリに該当すること、請求書発行時点でベンダーがdepaデジタルカタログに登録されていたことが条件になります。過去分の適用については、税理士・会計士を通じた個別の確認が必要です。

まとめ

本記事の要点を整理します。

タイSMEデジタル投資減税は、タイ歳入法典に基づく租税免除王令の第802号(仏暦2569年)による措置で、2026年2月6日に官報公示、2026年2月7日に施行されました。2021年に失効した旧・王令725号(仏暦2564年)の措置を、対象を拡大したうえで復活させたものです。対象期間は2025年6月24日から2027年12月31日までの支出です。

対象になるのは、決算期末時点で払込資本金500万THB以下、かつ当該会計期間の売上高3,000万THB以下という2つの条件を両方満たすSMEに限られます。BOI・国家競争力強化法・EEC法に基づく優遇を同時に受けている場合、および過去に同種の優遇を受けている場合は対象外です。タイに拠点があれば誰でも使える制度ではなく、一定規模以上の日系生産子会社は対象外になりうるという点が、この制度を検討するうえでの最初の分岐になります。

対象になる支出は、コンピュータソフトウェア・プログラム、ハードウェア、スマートデバイス・機器、デジタルサービスの4カテゴリで、いずれもdepaデジタルカタログに登録されたベンダー・製品であることが条件です。一般用途のパーソナルコンピュータは対象外であり、タイ国内に納税実体を持たない海外ベンダーからの調達も対象外とされています。登録の確認は請求書の発行時点が基準になるため、購入前だけでなく請求のタイミングまで見ておく必要があります。

控除の仕組みは、法人税額から直接差し引くものではなく、損金算入額を支出額の2倍にする措置です。上限は対象支出額ベースで30万THBで、その2倍にあたる最大60万THBを課税所得から控除できます。モデルケースの独自試算では、280,000 THBの投資に対して損金算入額は560,000 THB、実効税率20%を仮定した節税額は112,000 THB、通常の損金算入と比べた上乗せ効果は56,000 THBとなりました。上限まで使い切った場合は、損金算入額60万THB、節税額12万THB、上乗せ効果6万THBです。これらは架空の想定企業による独自試算であり、実在の統計ではありません。

実務としては、歳入局による公式の実施ガイドラインが記事執筆時点でまだ発行されていないため、申請手続きの詳細は確定していません。現時点で行えるのは、規模要件と他制度の受給状況の確認、ベンダーのカタログ登録状態の確認、証憑の整備、そして税理士・会計士を通じた個別確認です。IoT投資に活かす場合も、投資そのものの必要性と回収見込みで判断したうえで、対象になるなら制度を使うという順序を守ってください。

導入を検討する段階での相談先について

タイSMEデジタル投資減税をきっかけにIoT導入の検討を始める場合、最初に必要になるのは、自社の法人が規模要件を満たすのかという確認と、検討している投資が対象カテゴリに当てはまりそうかという整理です。TOMAS TECHでは、タイの日系企業の現場を前提に、IoT導入で何をどこまで測るか、費用がどの層にどれだけ発生するかといった検討段階からご相談を承っています。制度の適用可否そのものは税理士・会計士の領域になりますが、投資の内容を整理しておくことで、専門家への相談も進めやすくなります。予算や時期が固まる前の検討段階でも構いませんので、お問い合わせページからお気軽にご連絡ください。

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