タイ工場で「生産計画シミュレーション」を導入する目的は、Excelの計画表をそのまま自動化することではありません。有限能力、材料、人員、段取り、金型・治具、保全停止などの制約を同じモデル上に置き、通常受注、特急受注、設備停止、材料遅延といった複数の条件を比較して、納期・仕掛・残業・段取りのどこに影響が出るかを意思決定者が確認できるようにすることです。本稿では、タイの製造現場でRFPを作り、90日間のPoCを実施し、投資判断まで進めるための実務要件を整理します。
なぜ今、タイ工場に生産計画シミュレーションが必要なのか
タイの製造業を一つの平均値だけで捉えると、現場が直面する変動を見誤ります。タイ工業省産業経済局(OIE)が公表した2026年7月の製造業生産指数(MPI)は94.80で、前月比0.94%減、前年同月比0.46%増でした。しかし、電子部品・基板は前月比9.04%増、前年同月比2.36%増だった一方、鉄鋼は前年同月比4.01%減、コンピュータ周辺機器は前月比25.11%減でありながら前年同月比28.23%増でした。全体指数が小幅に動いていても、業種別・月別には大きな振れがあります。
NESDCの2026年第1四半期資料でも、タイGDPは前年同期比2.8%増だったのに対し、製造業の伸びは0.9%でした。これらの数値は個別企業の需要を直接予測するものではありませんが、「昨月と同じ前提で今月の計画を固定する」ことの危うさを示す背景になります。需要増だけでなく、品種構成の変化、仕入先の遅延、設備の不調、技能者の欠勤など、工場内外の条件は同時に変わるからです。
従来の月次・週次計画では、一つの確定案を作ることに時間がかかり、計画が完成した時点で前提が変わっている場合があります。生産計画シミュレーションは、予測の的中を約束する仕組みではありません。前提条件を明示し、複数案を同じKPIで比較し、現時点でどの案を採用するかを説明可能にする仕組みです。したがって、導入の評価軸は「AIが最適解を出したか」ではなく、「現実に実行できる代替案を、現場が判断できる時間内に提示できたか」であるべきです。
生産計画シミュレーションとは何をモデル化する仕組みか
生産計画シミュレーションは、受注や需要に対して、どの品目を、どの工程で、どの設備・人員を使い、いつ、どの順序で生産するかを試算する仕組みです。重要なのは、計画をきれいに見せることではなく、現場の制約を反映して「実行可能か」を判断できることです。
Microsoftの有限能力計画の説明では、既存の能力予約を考慮し、能力が不足する場合には日程を後ろにずらして実行可能な計画を作ります。同時に、シフトなどの能力設定が実態と合っていなければ計算結果も正しくならないことが明記されています。つまり、システムを入れれば制約が自動的に正しくなるのではなく、マスタとカレンダーの品質が計画品質を決めます。
個別のジョブスケジューリングでは、製造オーダーを作業単位に分解し、資源の空き、既存予約、有限材料、作業に必要な属性などを考慮します。納期から逆算する後方スケジューリング、現在から積み上げる前方スケジューリング、設備効率を用いた所要時間補正なども、現場の判断に関係します。
一方、APS(Advanced Planning and Scheduling)は一般に、長期の能力・需要検討、中期の生産計画、短期の詳細順序計画をまたいで、材料、資源、優先順位、ボトルネックを考慮する考え方・製品群を指します。生産スケジューラーは詳細な順序計画に重点を置く場合が多いものの、市場では機能範囲が重なります。そのため、名称だけで比較せず、「どの時間軸を扱うか」「何を制約として計算するか」「ERPやMESのどのデータと連携するか」をRFPで定義する必要があります。
タイでの製品候補の整理には、生産スケジューラー比較の記事も参考になります。本稿では製品ランキングではなく、導入前に固めるべきモデルと評価方法に焦点を当てます。

固定計画ではなくWhat-if比較を意思決定の中心に置く
生産計画を自動化するだけなら、現在のExcel手順をワークフロー化することでも一定の効果は出ます。しかし、入力条件が変わったときに担当者が手作業で全セルを修正するのであれば、判断速度は大きく変わりません。生産計画シミュレーションの価値は、基準計画と代替シナリオを同じデータとKPIで比較できる点にあります。
シナリオ1:通常受注
まずは現行の受注、在庫、設備、人員、シフト、保全計画を使って基準計画を作ります。ここでは「普段の工場を再現できるか」を見ます。現場の計画担当者が作った確定計画と完全一致する必要はありませんが、差異の理由を説明できなければなりません。たとえば、担当者が暗黙に考慮している洗浄順序、色替え、優先顧客、金型冷却時間がシステムに入っていないなら、その差はモデル不足として記録します。
シナリオ2:特急受注
高優先度の特急注文を一件入れたとき、既存注文の納期、段取り回数、残業、人員配置がどう変わるかを比較します。「特急を受けられる/受けられない」だけでなく、どの既存注文に何日の影響が出るか、別設備への振替やロット分割で影響を緩和できるかを示す必要があります。営業が顧客へ回答する期限までに再計画が終わるかも重要なKPIです。
シナリオ3:主要設備の停止
ボトルネック設備を計画外停止させ、復旧時刻を複数設定します。代替設備があっても、治具、能力、品質認定、作業者スキルが異なれば単純な振替はできません。代替資源の適格条件と、振替時の標準時間・歩留まり条件をモデル化し、どの時点で外注、残業、納期交渉が必要になるかを確認します。
シナリオ4:材料入荷の遅延
主要材料の到着を一日、三日、一週間と遅らせ、他品目を先に流す場合の影響を比較します。材料が無い作業を能力枠だけ予約してしまうと、見かけ上は設備が埋まっているのに実際は着手できません。有限材料の考慮、代替材料の承認条件、入荷予定の確度をどこまで計画に反映するかが論点です。
シナリオ5:残業上限
通常シフト、限定残業、残業不可の三案を比較します。残業を無制限の調整弁にすると、実行不可能な計画が「納期達成」と表示されます。部署別・技能別の上限、休日稼働の承認、通勤手段や食事手配など、タイ工場の実際の運用条件まで確認します。
シナリオ6:金型共有
複数設備で同じ金型を使える場合でも、同時使用はできません。金型の取り外し、搬送、予熱、清掃、保全、交換部品の準備まで含めて共有資源として扱います。設備能力だけを有限にして金型を無限資源とみなすと、同じ金型が二つのラインに同時に割り当てられる矛盾が生じます。
シナリオ7:多能工不足
設備が空いていても、認定された作業者がいなければ動かせない工程があります。人員を単純な人数ではなく、技能マトリクス、シフト、応援可能範囲、監督者要件で表現します。欠勤者が出た場合の再配置、段取り要員の競合、品質検査員の不足を試し、どの技能の育成が能力増強に効くかも検討できます。
これらのシナリオは、すべてを同時に最適化することが目的ではありません。経営・工場長・生産管理・製造・購買・営業が、「何を変えると、どのKPIが、なぜ動くか」を共通画面で確認することが目的です。
APS生産計画・生産スケジューラーのRFPに必要なデータ
RFPでは、画面一覧や機能チェック表だけでなく、PoCで使うデータ項目、粒度、期間、更新頻度、責任部署を明記します。生産管理システムの機能とRFP要件も併せて確認すると、ERP・MES・計画系の責任境界を整理しやすくなります。
1. 品目とBOM
製品、半製品、原材料、代替品のコード体系と有効期間を揃えます。設計BOMと製造BOMが異なる場合、計画に使う正本を決めます。歩留まり、副産物、リワーク、支給材の扱いも明記します。BOMの版が受注日や製造日で変わるなら、いつの版を適用するかが必要です。
2. 工程ルート
工程順序、分岐、並行工程、外注工程、待ち時間、搬送時間を定義します。「工程Aの後は必ず工程B」といった直列モデルだけでは、実際の選択肢を表現できない場合があります。品質検査の合否でルートが変わる場合や、顧客認定設備のみ使用できる場合も条件化します。
3. 標準時間と効率率
加工時間、作業時間、待ち時間を、固定時間・数量比例・ロット比例に分けます。標準時間は長年更新されていないことが多く、実績中央値や品種別分布と比較して補正します。Microsoftのジョブスケジューリングでも、効率率を使って所要時間を調整できると説明されています。数値を細かくする前に、現場実績と整合するかを確認する方が重要です。
4. 段取りマトリクス
前の品目から次の品目へ切り替える時間は、色、材料、サイズ、金型、洗浄条件で変わります。一律の段取り時間では順序最適化の差が出ません。すべての組合せを最初から登録するのではなく、影響の大きい製品群とボトルネックから始め、代表値と例外規則を定義します。
5. 設備・人員カレンダーと能力
稼働日、シフト、休憩、休日、残業枠、保全停止、設備ごとの能力を揃えます。計画上の24時間稼働と現場の実働が違う場合、シミュレーションは必ず過大な能力を算出します。設備能力だけでなく、段取り要員、検査員、フォークリフト、共用炉などの補助資源も、制約になる範囲で定義します。
6. 材料在庫と入荷予定
利用可能在庫、引当済み在庫、検査中在庫、安全在庫、入荷予定、仕入先回答日を区別します。帳簿在庫と実在庫の差が大きければ、計画ロジックより先に在庫精度を改善する必要があります。入荷予定は確定、回答待ち、予測などの確度を持たせると、シナリオ比較に使いやすくなります。
7. 受注納期と優先度
顧客要求納期、社内回答納期、出荷日、輸送リードタイムを分けます。優先度も「高・中・低」だけでなく、特急承認者、顧客ランク、遅延ペナルティ、ライン停止影響などの根拠を持たせます。優先度が頻繁に手動変更される場合、変更者と理由をログに残します。
8. 代替資源と特殊属性
同じ工程を処理できる設備、人員、外注先を定義し、速度、コスト、品質認定、最大サイズ、材料適合などの差を持たせます。「代替可能」という一つのフラグだけでは、現場で使えない代替案が生成されます。
9. 保全停止
定期保全、予防保全、校正、法定検査、予定修理をカレンダーに反映します。停止時刻だけでなく、再立上げ、初品確認、昇温・冷却に必要な時間も考慮します。突発停止はシナリオとして投入し、復旧見込みの不確実性を比較します。
10. ロットと分割・結合条件
最小ロット、最大ロット、移送ロット、分割可否、分割時の追加段取り、複数オーダーの結合条件を定義します。ロットを細かくすれば納期調整はしやすくなりますが、段取りと検査負荷が増えるため、両方のKPIを見る必要があります。
RFPには、各項目について「現在どこにあるか」「誰が更新するか」「どの頻度で連携するか」「欠損時にどう扱うか」を表で添付します。PoC段階で完璧なデータを求める必要はありませんが、不明な値をゼロとして扱う、古い値を黙って使う、といった挙動は避けるべきです。

小日程計画を自動化するときのモデル粒度
詳細な小日程計画では、制約を増やすほど現実に近づくように見えます。しかし、Microsoftのスケジューリングエンジンの説明では、制約や工程詳細を増やすほど計算量が増え、不要な全資源の有限能力化は性能問題につながるとされています。並列処理では計算の競合により結果が完全に決定的でない場合もあります。したがって、「最も詳細なモデル」が「最もよいモデル」とは限りません。
実務では、納期と能力に大きく影響するボトルネックから有限化します。非ボトルネック工程は、初期PoCでは無限能力または集約能力として扱い、差異が意思決定に影響すると分かった時点で詳細化します。時間軸も同様で、直近二週間は分・時間単位、その先は日・週単位など、タイムフェンスで粒度を変える方法があります。
計算時間には受入条件を設けます。たとえば「特急受注を投入した後、営業回答に間に合う時間内で代替案を提示する」と定義し、その時間は顧客の実運用から合意します。普遍的な秒数を置くべきではありません。タイムアウト時には、計算失敗として画面を止めるのか、現時点の最良案を表示するのか、制約を緩めた案を提示するのかもRFPで確認します。
もう一つ重要なのが再現性です。同じ入力で結果が異なる可能性があるエンジンでは、入力スナップショット、実行時刻、アルゴリズム設定、ユーザーが固定した作業、手動調整を保存します。「なぜ昨日と今日で順序が変わったのか」を説明できなければ、現場は計画を信用しません。
90日PoCで生産計画自動化の投資判断を行う
PoCはデモ画面を見る期間ではなく、自社データと現場制約で意思決定の改善を確認する期間です。90日を三段階に分けると、データ整備だけで期間を使い切ることを避けながら、運用面まで評価できます。
0〜30日:データ整備と制約定義
対象は一工場全体ではなく、一つの製品群、ライン、ボトルネック工程など、判断可能な範囲に絞ります。過去の代表的な一〜三か月を使い、品目、BOM、工程ルート、標準時間、段取り、設備・人員カレンダー、受注、在庫、入荷、保全停止を準備します。
この段階で、現場ヒアリングを通じて「システム外の制約」を集めます。ホワイトボード、チャット、朝会、担当者の記憶に残っているルールを、必須制約、できれば守る制約、参考情報に分類します。また、ERP、MES、設備データ、Excelのどれを正本にするか、更新責任者は誰かを決めます。
基準計画を再現し、差異一覧を作ります。差異をすべて消すのではなく、計画担当者の工夫なのか、マスタ不備なのか、シミュレーターの機能不足なのかを分類します。ここで受入KPIの定義と計測方法も合意します。
31〜60日:シャドー運用とWhat-if比較
現行計画を正式計画として維持しながら、シミュレーターを並行稼働します。通常受注、特急受注、設備停止、材料遅延、残業上限、金型共有、多能工不足のシナリオを、過去事例と当日条件の両方で実行します。
毎回、入力データの時点、固定条件、計算時間、出力KPI、現場判断、採用しなかった理由をログに残します。良い結果だけを選んで報告せず、実行不能案、計算が遅いケース、担当者が修正したケースも含めます。計画担当者の手修正は失敗ではなく、モデルに足りない知識を発見する材料です。
ERPやMESへはまだ自動反映せず、承認者が差分を確認します。シミュレーターが提示した開始・終了時刻、設備、ロット、優先度を現行計画と比較し、変更理由を説明できるかを評価します。
61〜90日:限定ラインで判断
リスクの低い製品群または限定ラインで、承認済み計画を実運用に使います。自動反映を行う場合も、計画担当者または責任者の承認ゲートを残します。緊急変更時に元の計画へ戻せること、変更履歴が追えること、計算停止時に現行手順へ切り戻せることを確認します。
最終判断では、ライセンス価格だけでなく、データ整備、マスタ維持、連携開発、教育、運用支援、モデル変更に必要な総作業を評価します。PoCで確認できなかった製品群や拠点へ効果をそのまま一般化せず、次段階で検証する仮説として残します。
PoCの評価KPIと受入条件
KPIは納期遵守率だけでは不十分です。納期だけを強く最適化すると、残業、段取り、仕掛在庫、現場負荷を悪化させる可能性があります。少なくとも次のKPIを、現行ベースラインとシミュレーション案の双方で計測します。
- 納期遵守率:顧客要求納期、社内回答納期、出荷納期のどれを基準にするかを明確にします。
- 計画作成時間:データ収集、計算、手修正、関係者確認までを含めます。
- 段取り時間:段取り回数だけでなく、品種切替による実時間を見ます。
- 仕掛在庫:数量、金額、滞留時間のどれで評価するかを決めます。
- 残業時間:部署・技能・シフト別に測り、未承認残業を計画に含めません。
- 再提示時間:計画変更の発生から、代替案を関係者へ提示するまでを測ります。
- 計画と実績の乖離:開始、終了、数量、設備、段取り、停止理由を比較します。
目標値は、ベンダーの一般値や架空の改善率ではなく、自社のベースラインから合意します。たとえば「計画作成時間を何時間にするか」は、現行の測定結果、必要な判断期限、対象範囲を基に決めます。ISO 22400-1:2014は、MOMにおけるKPIを定義、構成、交換、利用する業界中立の枠組みを提供し、2025年に再確認されています。PoCでは、このような共通定義の考え方を使い、分子・分母、対象期間、除外条件、データ取得元をKPI辞書として残すと比較の恣意性を減らせます。
受入条件には数値だけでなく、運用条件も含めます。計算結果の根拠を説明できる、手動固定した作業を保持できる、変更履歴を監査できる、タイ語・英語・日本語の担当者間で同じ計画を確認できる、障害時に切り戻せる、といった条件です。

ERP・MES・APSの責任境界を明確にする
生産計画シミュレーションは単独では成立しません。一般的には、ERPが受注、購買、在庫、原価などの取引情報を管理し、APS・生産スケジューラーが制約に基づく計画案を作り、MESが現場指示と実績を扱います。ただし、実際の製品構成や既存システムによって機能は重なるため、名称で責任を決めてはいけません。
RFPでは、データ項目ごとに作成、承認、更新、参照の責任を決めます。たとえば受注納期はERP、設備停止実績はMES、将来の保全予定は保全システム、技能マトリクスは人事または製造、計画順序はAPSというように、正本を一つにします。双方向連携では、どちらが更新権限を持つかを定義しないと、古い計画で上書きする事故が起きます。
計画結果をMESへ渡す際は、オーダー番号、工程、設備、予定開始・終了、数量、ロット、優先度、版番号を含めます。MESからは実績開始・終了、良品・不良数、停止理由、材料消費、作業者などを返し、次回計画の標準時間や進捗へ反映します。すべてをリアルタイムにする必要はありません。特急受注への回答、日次計画、進捗再計画など、意思決定の締切に合わせて更新頻度を決めます。
よくある失敗パターンと回避策
標準時間が更新されていない
精緻な最適化を行っても、標準時間が現実と違えば計画は外れます。PoC前に全品目を完璧にするのではなく、対象製品群の実績分布を調べ、差の大きい工程から補正します。PoC中も計画と実績の乖離を追い、標準時間の改訂手順を運用に組み込みます。
例外ルールを人の頭に残す
ベテランだけが知る顧客優先、品質認定、洗浄順序、同時加工禁止などを登録しないと、システムは見かけ上効率的でも実行できない案を作ります。例外をすべてハード制約にすると計算が重くなるため、必須、優先、警告に分けて管理します。
全工程を過剰にモデル化する
初期からすべての設備、人員、治具、搬送を秒単位で有限化すると、データ整備と計算時間が膨らみます。納期や仕掛を左右するボトルネックから始め、意思決定に影響することが確認できた制約だけを追加します。
KPIが納期だけ
納期を守るために残業と段取りが急増しても、納期遵守率だけなら成功に見えます。計画作成時間、段取り、仕掛、残業、再提示時間、計画実績差を同時に見て、部門間の負担移転を防ぎます。
ERP・MESとの責任境界が曖昧
同じマスタを複数システムで更新すると、どの値が正しいか分からなくなります。項目単位の正本、同期方向、更新頻度、エラー時の再送、承認権限をRFPとインターフェース仕様に記載します。
計画変更ログを残さない
計算結果を担当者が修正しても、その理由が残らなければモデル改善につながりません。変更前後、変更者、時刻、理由、承認者を保存し、頻出する手修正を制約・優先ルール・マスタ修正へ戻します。
タイでの導入体制と投資判断の注意点
タイ工場では、本社、生産管理、現地製造、IT、購買、営業、ベンダーの役割を最初に決めます。本社だけでモデルを作ると現地例外を見落とし、現場だけで進めるとERP連携や全社標準との整合が遅れます。PoCオーナー、データ責任者、計画責任者、各シナリオの承認者、最終投資判断者をRACIなどで明確にします。
言語も実装要件です。画面翻訳だけでなく、マスタ名、停止理由、変更理由、教育資料、問い合わせ窓口を、実際の利用者が理解できる言語で揃えます。日本人管理者が日本語、タイ人計画担当者がタイ語、地域ITが英語を使う場合、同じKPIと制約の定義が言語間でずれないよう用語集を作ります。
タイBOIの自動化関連ページには、製造を支えるソフトウェア・IT、AIやデータ分析を投資対象として扱う記載があります。ただし、掲載情報には2025年末を申請期限とする措置も含まれるため、2026年時点で利用できると断定はできません。投資恩典を前提に事業性を作らず、最新公示、対象活動、申請期限、費用区分、法人の適格性をBOIまたは認定専門家へ確認してください。
FAQ:生産計画シミュレーションの導入前によくある質問
生産計画シミュレーションとは?
受注、需要、材料、設備、人員、段取り、金型、保全停止などの条件をモデル化し、複数の生産計画案を比較する仕組みです。未来を正確に予言するものではなく、前提が変わったときの影響を納期、仕掛、残業、段取りなどのKPIで確認し、採用案を判断しやすくします。
APSと生産スケジューラーの違いは?
APSは長期・中期・短期を含む計画とスケジューリングを広く扱い、生産スケジューラーは現場に近い詳細順序計画へ重点を置くことが多い、という傾向があります。ただし製品ごとに機能範囲は重なります。名称ではなく、対象時間軸、制約、最適化目標、ERP・MES連携、運用責任で比較してください。
Excelから始められる?
始められます。Excelにある品目、工程、標準時間、設備カレンダー、受注、在庫をPoCの初期データとして使えます。ただし、複数ファイルでコードが違う、担当者しか意味を知らない列がある、版管理がない、といった問題を整理する必要があります。Excelを直ちに廃止するのではなく、データ定義を揃え、シミュレーターとの比較と承認に使いながら段階的に移行する方法が現実的です。
費用は何で決まる?
ライセンス方式、利用者数、対象拠点・ライン、計画モデルの複雑さ、ERP・MES連携、データ整備、カスタマイズ、インフラ、教育、保守支援で決まります。価格だけでなく、マスタを維持する社内工数と、制約変更時に誰がモデルを修正するかも含めて比較してください。自社データを使ったPoC範囲と成果物を揃えなければ、見積同士を公平に比較できません。
PoCで必要なデータは?
最低限、対象製品の品目、BOM、工程ルート、標準時間、主要段取り、設備・人員カレンダー、能力、材料在庫・入荷予定、受注納期、優先度、代替資源、保全停止、ロット・分割条件が必要です。全データを完璧にするより、欠損・推定・古い値を明示し、どの不確実性が判断に影響したかを記録することが重要です。
最適化結果はそのまま現場へ自動反映してよい?
初期段階では推奨しません。まずシャドー運用で差分と理由を確認し、限定ラインでも承認ゲートを設けます。入力スナップショット、変更履歴、手動固定、切り戻し手順を検証してから、自動反映の対象と条件を段階的に広げます。
まとめ:実行可能な計画を比較できることが導入価値
生産計画シミュレーションの成否は、計算機能の多さだけでは決まりません。現実の有限能力、材料、人員、段取り、金型、保全停止を必要十分な粒度で表現し、通常受注から特急・停止・遅延までのWhat-ifを同じKPIで比較し、結果の理由を説明できることが重要です。RFPではデータと責任境界を明示し、90日PoCではデータ整備、シャドー運用、限定運用を通じて、納期だけでなく計画時間、段取り、仕掛、残業、再提示時間、実績差を測ります。最初から全工場を最適化せず、ボトルネックを中心に承認ゲート付きで検証することが、現場定着と投資判断の確度を高めます。
タイ工場での生産計画シミュレーションについて、対象ラインの切り方、RFPデータ項目、90日PoCの受入条件を整理する段階からご相談いただけます。既存のExcel・ERP・MESを前提にした進め方も含め、TOMAS TECHへのお問い合わせをご利用ください。
参照情報
- Thailand Office of Industrial Economics, Industrial Production Index July 2026: https://www.oie.go.th/view/1/Home/en-us
- NESDC, Thai Economic Performance in Q1 2026: https://www.nesdc.go.th/wordpress/wp-content/uploads/2026/05/03-PRESS-EN-Q1-2026.pdf
- Microsoft Learn, Finite capacity planning: https://learn.microsoft.com/en-us/dynamics365/supply-chain/master-planning/planning-optimization/finite-capacity
- Microsoft Learn, Job scheduling: https://learn.microsoft.com/en-us/dynamics365/supply-chain/production-control/job-scheduling
- Microsoft Learn, Scheduling engine performance: https://learn.microsoft.com/en-us/dynamics365/supply-chain/master-planning/scheduling-engine-performance
- Siemens, Advanced Planning and Scheduling: https://www.siemens.com/en-us/products/opcenter/advanced-planning-scheduling-aps/
- Siemens, Manufacturing scheduling software: https://www.siemens.com/en-us/technology/manufacturing-scheduling-software/
- ISO, ISO 22400-1:2014: https://www.iso.org/cms/%20render/live/en/sites/isoorg/contents/data/standard/05/68/56847.html
- Thailand BOI, Automation measures: https://www.boi.go.th/index.php?language=th&page=automation-en