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2026.08.09

生産数カウント自動化の進め方2026|実績が合わない4つのズレ

生産数カウント自動化の進め方2026|実績が合わない4つのズレ

自動でカウントし始めたのに、会議で数が合わないのはなぜか

タイ・ラヨーン県の樹脂成形と組立をおこなう工場で、成形機12台・組立ライン5本・検査工程3か所の合計20設備にカウント用のセンサーを取り付けたとします。2交替(1直8時間)、月26日稼働。翌月の生産会議で、画面には前日の生産数として12,480と出ています。ところが経理が持ってきたERPの完成品数は12,000です。現場が出した手書きの日報には3,120と書いてあります。三者とも自分の数字が正しいと思っています。そして誰も間違っていません。

この状態になると、会議の時間はほとんど「どの数字が正しいか」の議論に消えます。二回か三回それが続くと、参加者は自動集計の画面を見るのをやめ、これまでどおり日報のExcelに戻ります。センサーもゲートウェイもクラウド画面も動き続けていますが、意思決定には一切使われません。投じた資金は、機器が動き続けているのに何も生まないまま寝ることになります。

原因はセンサーの精度ではありません。1台の光電センサーが10,000個のうち3個を数え落としたとしても、12,480と12,000の差である480個は説明できません。差の正体は、同じ工場のなかで「生産数」という言葉が指すものが最初から4つあり、そのどれを採用するかを誰も決めていなかったことです。

生産数の自動カウントというテーマで難しいのは、数えることではありません。何を1個と数えるかを決めることです。この記事では、その決め事を後回しにすると何が起きるかを、上記のモデルケースの数字で最後まで追いかけます。結論を先に3つ書いておきます。第一に、初期費用1,640,000バーツのうち、実際に数える装置(センサー・配線・ゲートウェイ)は480,000バーツで総額の29.3パーセントしかなく、定義合わせと上位系連携が680,000バーツで41.5パーセントを占めます。第二に、20設備を一括で自動化した場合の回収年数は13.2年で、これは投資として成立しません。ボトルネックの6設備に絞り、上位系連携を初期スコープから外し、定義合わせを内製にすると4.6年になります。第三に、2026年のタイは平均設備稼働率が57.47パーセントまで落ちており、「増産して回収する」という絵が描けません。だから回収は工数と仕掛在庫だけで組み立てる必要があります。

同じ日の「生産数」が4つある — 数える位置で数は変わる

先ほどのモデルケースで、同じ日の生産数を数える位置ごとに並べると次のようになります。1日の製造原価は420,000バーツ、完成品は12,000個(1個あたり35バーツ)という前提です。

数える位置その日の数差の中身
金型のショット数3,1201ショット4個取りなので個数ではない
設備の出口12,4803,120 × 4。不良も手直し待ちも含む
検査後の良品12,180不良 300 個を除いた数
梱包後の完成品12,000手直し待ち 180 個を除いた数

「昨日は何個作りましたか」という一言に対して、この工場は3,120・12,480・12,180・12,000の4通りの答えを持っています。しかもどれも嘘ではありません。成形の保全担当にとって意味があるのはショット数3,120です。金型の寿命はショットで管理するからです。生産技術にとって意味があるのは設備出口の12,480で、設備の実力値はここでしか見えません。品質保証が見たいのは検査後の12,180、そして経理と営業が見ているのは梱包後の12,000です。

問題は、この4つのうちERPの完成品数と一致するのが梱包後の12,000だけだという点です。生産管理システムや原価計算につなぐことを前提にするなら、最終的にどこかで12,000に到達しなければ数字は使えません。ところが自動カウントで一番取りやすいのはショット数か設備出口です。成形機の型開閉信号や、排出シュートに付けた光電センサーの信号がそれにあたります。

とくに事故になりやすいのが、ショット数のパルスをそのまま個数として画面に出してしまうケースです。4個取りの金型なら実際の個数は4倍あるので、3,120と12,480という4倍のズレが出ます。導入時にn個取りの情報を品目マスタに持たせていないと、画面は正しく信号を数えているのに、表示している数字だけが4分の1になります。そしてこの誤りは、画面を見た人が「うちの実力はこんなものではない」と違和感を持つまで誰も気づきません。

生産数カウント自動化の進め方2026|実績が合わない4つのズレ - figure 1

数える位置を決めるということは、投資の目的を決めることでもあります。設備の実力を上げたいなら設備出口、原価と在庫を合わせたいなら梱包後です。両方ほしい場合は両方に数える点を置くしかなく、そのぶん点数が増えて費用が上がります。最初に決めずに「とりあえず取りやすいところ」から始めると、後から必ずもう一箇所を足すことになり、工事も画面改修も二度手間になります。

実績が合わない4つのズレ — 位置・良品定義・時間の切り方・まとめ数え

自動カウントの数字が会議で合わない原因は、経験上4つに整理できます。センサーの検出精度はこの4つに入っていません。順に見ます。

ズレの種類症状モデルケースでの差決めるべきこと
数える位置画面とERPの完成品数が合わない12,480 と 12,000 で 480 個生産数と呼ぶ位置を1つに固定する
良品の定義品質会議と生産会議で数が違う不良 300 個・手直し待ち 180 個の扱い手直し品をいつ良品に戻すか
時間の切り方日別の合計が月合計と合わない夜勤が日付をまたぐ8時間分生産日の始まりを何時にするか
まとめ数え数字が実力より少ない、または多い1ショット4個取りで4倍n個取り・トレイ入数・箱入数

第一のズレ、数える位置は前章のとおりです。ここを決めずにシステムを入れると、以降の3つのズレをいくら潰しても数は合いません。逆にここさえ決めておけば、残りは運用ルールの話に落とせます。

第二のズレは良品の定義です。モデルケースでは検査で300個が不良と判定され、さらに180個が手直し待ちとして梱包に進んでいません。この180個は、翌日に手直しが済めば完成品になります。そのとき、この180個をどちらの日の生産数に載せるかを決めていないと、2日分の日別実績が両方ともずれます。手直し完了日に載せるなら、成形した日の完成品数は12,000で確定し、180個は翌日の生産数に加算されます。成形日にさかのぼって載せるなら、確定済みの日次データを書き換える仕組みが要ります。どちらでも構いませんが、決めた側に画面と帳票をそろえる必要があります。品質側のデータをどう持つかについては品質データ管理システムの選び方で扱っています。

第三のズレは時間の切り方です。2交替で1直8時間なら、夜勤は必ず日付をまたぎます。設備から上がってくる信号は0時ちょうどで日付が変わりますが、現場の日報は「その勤務がすべて終わったら1日ぶん」として書きます。この2つを突き合わせると、日別では合わないのに月合計では合うという厄介な現象が起きます。生産日の始まりを朝8時とするのか、0時とするのか、シフトの開始打刻に紐づけるのかを最初に決めて、画面もERPへの連携も同じ切り方にそろえてください。月末の締めだけを合わせて日別を放置すると、日々の異常検知にはまったく使えないデータになります。

第四のズレがまとめ数えです。1ショット4個取りの成形機、20個入りのトレイ、200個入りの梱包箱。工場のなかでは、物は常に何かの単位でまとまって動いています。センサーが数えているのはショットであったりトレイであったり箱であったりして、個数ではありません。この換算係数を品目ごとに持たせるのは、地味ですが必ず必要な作業です。しかも係数は品目切替で変わります。同じ成形機でも、A品番は4個取り、B品番は2個取りということが普通にあります。だから「いま何を流しているか」を機械が知らないと、換算そのものができません。ここで生産指示の情報を設備側に持っていく必要が出てきて、話が一気に上位系連携に広がります。費用が膨らむ分岐点は、たいていこの第四のズレのところにあります。

何で数えるか — 5つの取り方と、選択を決めるのは精度ではないという話

数え方には現実的に5通りあります。それぞれの特徴を整理します。なお費用は、画像を除けば方式の違いよりも点数のほうが大きく効きます。モデルケースでは1点あたりセンサー・信号灯読取り8,500バーツ、配線・盤内工事6,500バーツを目安に置いています。画像だけは照明の作り込みと品番ごとの調整が加わるため、この目安には収まりません。

取り方取れるもの設備の停止設備の改造向く場面
信号灯(積層灯)の読取り稼働・停止・異常の状態不要不要保証を切らせたくない古い設備、他社製で中が触れない設備
PLCの接点・デバイス読出し個数・状態・品番短時間必要配線追加が必要自社で電気図面を持っている設備
光電センサーの後付け個数のみ原則不要(取付位置により短時間)取付ブラケットのみ排出シュートやコンベアに物が流れる工程
既設カウンタのパルス取り出し個数のみ短時間必要端子台からの分岐すでに機械式カウンタが付いている設備
画像による計数個数・種類・簡易な外観不要照明の追加重なりや形状差があり単純検出では数えられない工程

この5つを並べると、多くの人は「どれが一番正確に数えられるか」を考えます。しかし実際の現場で選択を決めているのは精度ではありません。その設備を止められるか、そして改造できるかです。

稼働中のラインでPLCの端子台に配線を足すには、盤を開けて電源を落とす必要があります。受注が詰まっていて土日も動いている設備では、そのための30分が半年取れないということが本当に起こります。またリース設備や、メーカーの保守契約が生きている設備では、盤内に手を入れた時点で保証が切れる場合があります。この2つに当てはまる設備では、精度が高いかどうかにかかわらず、PLC接続は選べません。残る現実的な選択肢は信号灯の読取りか、シュートへの光電センサー後付けになります。

信号灯の読取りは個数を直接取れないと思われがちですが、緑の点灯が1サイクルごとに変化する設備であればサイクル数を数えられますし、そうでなくても稼働時間と標準サイクルタイムから推定値は出せます。何より、稼働・停止・異常という状態が確実に取れます。次章で述べるとおり、これは個数と同じかそれ以上に回収に効きます。既設設備を止めずに始めたい場合の考え方は工場のIoT導入ガイドにまとめています。

画像による計数は、重なって流れる小物や、形が不定な部品を数えるときには有力です。ただし照明条件の作り込みに時間がかかり、品番が変わるたびに調整が要ることが多いので、20設備のうち1台か2台の難所に限定して使うのが現実的です。最初から全設備を画像でそろえようとすると、初期費用も立ち上げ期間も跳ね上がります。

生産数カウント自動化の進め方2026|実績が合わない4つのズレ - figure 2

なお、どの方式を選んでも、数える位置と換算係数の問題は消えません。光電センサーをシュートに付ければ設備出口の12,480が取れますし、PLCからショット信号を取れば3,120が取れます。装置を選ぶ前に、前章の4つのズレをどう決めたかが先です。順番が逆になると、取り付けたあとに「この位置では欲しい数字にならない」と分かり、工事をやり直すことになります。

良品数と停止時間は同じ信号から取れる

自動カウントの導入で最ももったいないのは、個数だけを取って停止時間を捨てることです。この2つは追加のセンサーなしに、まったく同じ信号から取れます。

仕組みは単純です。光電センサーが出す個数のパルスには間隔があります。たとえば標準サイクルタイムが20秒の設備なら、パルスは20秒ごとに来ます。この間隔が標準サイクルタイムの3倍を超えたら、そこは設備が動いていない時間だと判定できます。閾値を秒数で固定するとサイクルの長い設備が常時停止扱いになるので、標準サイクルタイムに対する倍率で持たせるのが安全です。つまり、パルスの時刻を記録しておくだけで、個数とサイクルタイムと停止時間の3つが同時に手に入ります。信号灯を読んでいる場合はさらに直接的で、緑が消えて黄や赤が点いた区間がそのまま停止です。

にもかかわらず、実際の導入では「日報の生産数を自動で埋める」ことだけが要件になり、時刻を捨てて1日の合計値だけをデータベースに書く設計になっていることが少なくありません。こうすると、画面に出るのは1日1回更新される棒グラフだけになり、現場の改善には何も使えません。そして後から停止時間がほしくなったとき、データは残っていないので過去にさかのぼれません。

停止時間を捨てると回収も立たなくなります。モデルケースの年間効果231,858バーツのうち、転記工数の削減は119,970バーツで、残りは残業削減36,288バーツと仕掛削減75,600バーツです。この2つはどちらも停止時間が見えることから生まれています。段取りや小停止がどこで何分起きているかが分かるから、追い込みの残業が月21.6時間減ります。工程間のバッファを3日から2日に減らせるのも、前工程がいつ止まるか読めるようになるからです。個数だけを取る設計は、効果の半分を最初から捨てているのと同じです。

小さな停止をどう捕まえるかについてはチョコ停の見える化とOEE改善で詳しく扱っています。あわせて、良品数と生産数量を別の指標として持つ考え方は国際規格にもあります。ISO 22400-2は製造オペレーション管理のKPIを定義しており、PQ(produced quantity、生産数量)とGQ(good quantity、良品数量)を別々の指標として規定しています。社内で用語を決めるとき、この分け方に合わせておくと後から説明が楽になります。

生産数カウント自動化の進め方2026|実績が合わない4つのズレ - figure 3

費用の内訳 — 数える装置は総額の3割しかない

モデルケースの20設備を一括で自動化した場合の初期費用は次のとおりです。

費目金額(バーツ)
カウント用センサー・信号灯読取り 20点(1点 8,500)170,000
配線・盤内工事 20点(1点 6,500)130,000
IoTゲートウェイ 4台(1台 45,000)180,000
サーバー・クラウド初期構築と画面320,000
定義合わせ(品目マスタ・n個取り・良品定義・数える位置の決定)380,000
生産管理システムとの連携(インタフェース1本)300,000
立ち上げ・教育・現地立会い160,000
合計1,640,000

この表で注目してほしいのは上から3行の合計です。センサー170,000バーツ、配線130,000バーツ、ゲートウェイ180,000バーツで、合わせて480,000バーツ。総額1,640,000バーツに対して29.3パーセントです。つまり、実際に物を数えるハードウェアは総額の3割弱しかありません。

一方、定義合わせ380,000バーツと生産管理システム連携300,000バーツを足した680,000バーツは、総額の41.5パーセントを占めます。数える装置より、数え方を決めて上位につなぐ作業のほうが高いということです。残る480,000バーツが画面構築と立ち上げ・教育です。

この構造が分かると、見積の比べ方が変わります。3社から見積を取ったとき、多くの購買はセンサーの単価とゲートウェイの台数を比べます。しかしそこは総額の3割弱です。1点8,500バーツが7,500バーツになっても、差は20,000バーツで総額の1.2パーセントにしかなりません。比べるべきは、定義合わせの作業範囲がどこまで見積に入っているかです。

具体的には次の点を各社に書かせてください。品目マスタのn個取りは何品番ぶん整備するのか。良品の定義と手直し品の戻し方は誰が決めるのか。生産日の切り方の決定に立ち会うのか。既存の日報様式と自動集計の突き合わせを何日間・何ラインぶん実施するのか。ここが「別途」と書かれている見積は、総額が安く見えても、後から380,000バーツ相当の作業が追加で発生します。安く見えた見積が最終的に一番高くなるのは、たいていこのパターンです。工程系システム全体の費用の考え方は工程管理システムの費用と内訳にまとめています。

回収は転記工数だけでは立たない — 13.2年と4.6年を分けたもの

効果側を見ます。まず現状の工数です。実効時給は75バーツとします。

作業時間/月
現場の生産数記入(30秒 × 16回/日 × 20台)69.3
日報の転記とExcel集計(事務 2.0時間/日)52.0
実績と在庫の差異調査(月次)12.0
合計133.3

合計133.3時間に実効時給75バーツを掛けると月およそ9,998バーツ、12か月分では119,970バーツになります。これが「日報がなくなる」ことで得られる効果の全額です。ここに年間の運用費108,000バーツ(クラウド利用料ほか)をぶつけると、残りは11,970バーツしかありません。初期費用1,640,000バーツをこれで割ると137年です。転記工数だけでは回収の話にすらならないことが分かります。

そこで前章の停止時間データから生まれる効果を足します。段取りの追い込み残業が月21.6時間減り、残業単価140バーツを掛けて年36,288バーツ。工程間バッファを3日から2日に減らせて、1日分の製造原価420,000バーツに在庫保有コスト年18パーセントを掛けて75,600バーツ。転記工数119,970バーツと合わせて年間効果は231,858バーツになります。運用費108,000バーツを引いた純効果は123,858バーツ。1,640,000バーツを割ると13.2年です。改善しましたが、それでも投資判断は通りません。

ここで発想を変えます。20設備すべてを数える必要が本当にあるのか、という問いです。ボトルネックの6設備に絞り、生産管理システムとの連携を初期スコープから外し、定義合わせを自社主導にして支援だけ受ける構成にすると、初期費用は次のようになります。

費目金額(バーツ)
センサー・信号灯読取り 6点51,000
配線・盤内工事 6点39,000
IoTゲートウェイ 1台45,000
クラウド画面(初期)120,000
定義合わせ(内製・支援のみ)90,000
立ち上げ・教育60,000
合計405,000

この構成の年間運用費は28,800バーツです。効果側は、対象が6設備になるので転記工数は42,840バーツに減ります。内訳は、現場記入が6台分で月20.8時間、日報転記と集計が月20.8時間、差異調査が月6.0時間で、合計47.6時間に75バーツと12か月を掛けた数字です。日報転記の削減が52.0時間の4割にとどまるのは、残り14台ぶんの手書き日報が残るあいだは集計作業そのものが消えないためです。差異調査も、対象外の設備が絡む差異は残るので半分の6.0時間と見ています。一方、残業削減36,288バーツはそのまま残ります。追い込み残業はボトルネックの段取りで発生しているからです。仕掛削減はボトルネック前後のバッファに限定されるので半分の37,800バーツとします。

項目20設備を一括ボトルネック6設備
初期費用(バーツ)1,640,000405,000
年間運用費(バーツ)108,00028,800
年間効果 合計(バーツ)231,858116,928
純効果(バーツ)123,85888,128
回収年数13.2 年4.6 年

絞り込んだ構成の初期費用405,000バーツは、一括構成の24.7パーセントです。それなのに年間効果116,928バーツは一括構成の50.4パーセントが残ります。費用は4分の1になったのに効果は半分残る、という非対称がここにあります。

理由ははっきりしています。効果の大半を占める残業削減と仕掛削減は、ボトルネック設備に集中して発生しているからです。非ボトルネックの設備を数えても、そこは元々余力があるので残業は減りません。在庫も、ボトルネックから離れた工程のバッファが少し薄くなる程度です。つまり非ボトルネック14台への投資は、回収原資がほぼ転記工数に限られるということになります。一括構成の13.2年という数字は、この事実を平均で薄めた結果です。

ここから導かれる実務上の判断は単純です。全設備に一斉に付けるのではなく、まず止まると全体が止まる設備を6台選び、そこだけを4.6年で回します。残りの14台は、日報の手間が本当に耐えられなくなった時点で、価格が下がったハードウェアを使って足せばよいのです。

2026年のタイで前提が変わったこと — 稼働率57.47パーセントと賃金据え置き

このモデルケースの計算を、2026年のタイという文脈に置いてみます。ここで前提が一つ崩れます。

タイ工業経済事務所(OIE、工業省)の発表によれば、2026年6月の生産指数(MPI)は前年同月比で3.10パーセント減でした。これは2025年11月以降で最大の下げ幅です。同じ発表で、2026年第2四半期のMPIは1.79パーセント減、平均設備稼働率は57.47パーセントとされています。商業・工業・銀行合同常任委員会(JSCCIB)は2026年1月の時点で、2026年のGDP成長率見通しを1.6〜2.0パーセント、輸出をマイナス1.5〜マイナス0.5パーセントと見込み、複数業種で稼働率が60パーセントを割り、通常の70から80パーセントを大きく下回っていると指摘していました。半年後のOIEの数字は、その見立てをほぼなぞっています。

稼働率57.47パーセントという数字が投資計画に与える影響は具体的です。生産数を見える化する投資は、これまで「ボトルネックを見つけて能力を上げ、増産して売上を伸ばす」という形で説明されてきました。しかし平均稼働率が6割を割っている局面では、能力を上げても売る先がありません。増産で回収する絵が描けないということです。

つまり2026年のタイでは、生産数カウント自動化の回収は工数と仕掛在庫でしか組み立てられません。前章で計算した4.6年は、増産効果をまったく見込まずに出した数字です。逆に言えば、稼働率が戻ったときには回収はこれより速くなります。しかし投資判断は今の前提でおこなう必要があります。「稼働率が回復すれば」という条件付きの効果を積んだ計画書は、承認が通っても実績で外れます。

もう一つの前提が人件費です。ジェトロによれば、バンコク都の最低賃金は2025年7月1日施行で日額400バーツになりました。改定前は372バーツです。2026年の追加改定は確認できていないため、本記事では据え置きとして扱っています。ここが重要なのは、転記工数の削減効果119,970バーツが賃金水準に比例するからです。賃金が毎年上がる前提なら、工数削減効果も毎年増えて回収は前倒しになります。据え置きなら増えません。モデルケースの13.2年と4.6年は、賃金据え置きで計算した保守的な数字です。

なお、手作業のデータ収集がどれだけの停止時間を隠しているかについて、保全ソフトウェアのベンダーであるFabricoは2026年2月の記事で「実際のダウンタイムの最大30パーセントを隠す」と述べています。これはベンダーの主張であり、独立した検証がある数値ではないため、投資計算の根拠には使っていません。参考として挙げるにとどめます。

導入の進め方 — 90日で1ラインを通す

絞り込んだ構成であっても、いきなり6設備を同時に立ち上げるのは勧めません。まず1ラインを90日で通し、そこで定義を確定させてから横展開するほうが、結果的に速く終わります。

期間やること完了の判定
1日目から15日目数える位置・良品定義・生産日の切り方・n個取りを紙の上で決める4つのズレの決定内容が1枚の文書になっている
16日目から30日目対象1ラインで手集計と決定内容を突き合わせる決めた定義で手計算した数がERPの完成品数と一致する
31日目から50日目センサー取付・配線・ゲートウェイ設置設備を止めた合計時間が計画内に収まっている
51日目から70日目画面公開。手書き日報と自動集計を並走させる両者の差が説明できない日がゼロになる
71日目から90日目手書き日報を廃止。差異調査の手順を移す現場が自動集計の数字で会議をしている

この工程で最も重要なのは、16日目から30日目の突き合わせです。ここでは、まだ何も取り付けていません。決めた定義に従って手で数えた数字が、ERPの完成品数12,000と一致するかどうかを確認するだけです。この段階で合わないなら、センサーを付けても合いません。逆にここで合うなら、あとは同じ計算を機械にやらせるだけなので、取り付け後のトラブルは配線と通信の問題に限定されます。

多くの導入が失敗するのは、この15日間を飛ばして31日目の工事から始めるからです。工事が終わって画面が出てから定義の議論を始めると、画面の集計ロジックを何度も直すことになり、そのたびに現場の信用が落ちます。定義合わせに380,000バーツという見積が付くのは、この15日間の議論を外部が主導する場合の値段です。自社の生産管理担当が主導できるなら90,000バーツまで下がります。ここを内製できるかどうかが、4.6年と13.2年を分ける実質的な分岐点です。

51日目からの並走期間も省略しないでください。手書きと自動の両方を20日間続けるのは面倒ですが、差が出た日に原因を潰しておかないと、廃止後に一度でも数字が合わなくなった瞬間、全員がExcelに戻ります。並走で潰しておくべき典型は、品番切替時の換算係数、夜勤の日付境界、そして手直し品の戻しの3つです。

発注前に決めておく7項目

見積を依頼する前に、社内で次の7つを決めて文書にしてください。これが決まっていれば、各社の見積は比較可能になります。決まっていなければ、各社が勝手に前提を置くので、金額の差が何に由来するのか分からなくなります。

  • 生産数と呼ぶ位置を1つ選ぶ。ショット数・設備出口・検査後良品・梱包後完成品のどれか。ERPと合わせるなら梱包後の12,000
  • 手直し待ちの180個を、成形した日と手直しが終わった日のどちらの生産数に載せるか
  • 生産日の始まりを何時にするか。夜勤が日付をまたぐ場合の扱いを明記する
  • n個取り・トレイ入数・箱入数を品番ごとに誰が整備するか。対象品番数を数える
  • 対象設備を何台にするか。ボトルネック6設備に絞るか、20設備すべてか
  • 生産管理システムとの連携を初期スコープに入れるか、第2フェーズに回すか
  • 停止時間とサイクルタイムを最初から記録するか。1日の合計値だけにしないこと

7項目のうち、金額に最も効くのは5番目と6番目です。対象を20設備から6設備に絞ると初期費用は1,640,000バーツから405,000バーツになり、24.7パーセントまで下がります。連携を第2フェーズに回すだけで300,000バーツが初期投資から外れます。技術的な難易度ではなく、この2つのスコープ判断が回収年数を決めています。

7番目は金額にはほとんど効きませんが、効果に大きく効きます。時刻付きで記録するかどうかで追加費用はほぼ発生しないのに、記録しなければ残業削減36,288バーツと仕掛削減75,600バーツの根拠がなくなります。仕様書に「個数の時刻を1件ずつ保存する」の一行を入れてください。

よくある質問(FAQ)

生産数のカウントを自動化する費用はいくらかかりますか

モデルケースでは、20設備を一括で自動化して初期1,640,000バーツ、年間運用費108,000バーツです。ボトルネック6設備に絞り、生産管理システム連携を外し、定義合わせを内製すると初期405,000バーツ、年間運用費28,800バーツになります。内訳の特徴として、センサー・配線・ゲートウェイという数える装置は480,000バーツで総額の29.3パーセントしかなく、定義合わせと上位系連携が680,000バーツで41.5パーセントを占めます。金額を左右するのは機器の単価ではなく、対象設備数と定義合わせの作業範囲です。

既設の古い設備でも生産数を自動でカウントできますか

できます。ただし方式が限られます。盤を開けられない、あるいは開けると保守契約上の問題が出る設備では、信号灯(積層灯)の読取りか、排出シュートやコンベアへの光電センサー後付けを選びます。どちらも設備の中に手を入れないので、保証や図面の問題を避けられます。信号灯の読取りは個数を直接取れない場合がありますが、稼働・停止・異常の状態は確実に取れます。停止時間が取れれば、残業削減と仕掛削減という効果の大きい部分は成立します。

信号灯の読取りとPLC接続はどちらが良いですか

精度だけを見ればPLC接続です。個数だけでなく品番や設定値まで取れるので、n個取りの自動切替もできます。しかし選択を決めるのは精度ではなく、その設備を止められるか、改造できるかです。PLC接続には盤を開けて電源を落とす時間が必要で、リース設備や保守契約が生きている設備では保証の問題も出ます。止められない設備には信号灯読取り、止められて図面もある設備にはPLC接続、という順で振り分けるのが現実的です。両方を混在させて構いません。

サイクルタイムの計測は生産数カウントと同時にできますか

同時にできます。追加のセンサーは要りません。個数のパルスを時刻付きで記録しておけば、パルスとパルスの間隔がそのままサイクルタイムです。同じデータから、間隔が閾値を超えた区間を停止時間として切り出せます。つまり個数・サイクルタイム・停止時間の3つは1つの信号から取れます。逆に、1日の合計個数だけを保存する設計にすると、この3つのうち個数しか残りません。仕様書には時刻付きで1件ずつ保存する旨を必ず書いてください。

生産管理システムとつながないと意味がありませんか

初期段階では、つながなくても効果は出ます。モデルケースの絞り込み構成は連携300,000バーツを初期スコープから外していますが、年間効果は116,928バーツ残り、4.6年で回収します。連携が効いてくるのは、品番切替に応じてn個取りを自動で切り替えたい段階、および実績を原価計算に直結させたい段階です。先に定義合わせと現場での定着を済ませ、数字が信用されるようになってから連携を足すほうが、手戻りが少なく済みます。

出来高をリアルタイムに見られると何が変わりますか

変わるのは会議ではなく、その日のうちの打ち手です。翌朝の日報で遅れが分かる運用では、対策は翌日以降になります。1時間ごとの計画と実績が並んで見えていれば、昼の時点で応援を入れる、段取りの順番を入れ替えるといった判断がその日のうちにできます。モデルケースで見込んでいる月21.6時間の残業削減は、この当日中の打ち替えから生まれています。逆に、1日1回更新の画面では残業は減りません。

何か月で回収できますか

モデルケースでは月数ではなく年数で見る規模です。20設備を一括で自動化した場合は13.2年で、投資として成立しません。ボトルネック6設備に絞り、上位系連携を外し、定義合わせを内製した場合は4.6年です。この差を作っているのは機器の値段ではなく、非ボトルネック設備には残業削減が乗らず、回収原資がほぼ転記工数だけになるという構造です。2026年のタイは平均稼働率が57.47パーセントで増産効果を見込めないため、この4.6年は増産をゼロとして計算した数字になります。

まとめ

生産数の自動カウントで難しいのは数えることではなく、何を1個と数えるかを決めることです。同じ日の生産数は工場のなかに4つあり、モデルケースではショット数3,120、設備出口12,480、検査後良品12,180、梱包後完成品12,000という4つの数字が同時に成立します。ERPと一致するのは12,000だけです。この決め事を先送りしたまま装置を付けると、正しく動いているシステムの数字が会議で否定され、投資は稼働したまま使われなくなります。

費用の構造もこの事実を裏づけています。初期費用1,640,000バーツのうち、数える装置は480,000バーツで29.3パーセント、定義合わせと上位系連携が680,000バーツで41.5パーセントです。見積を比べるときはセンサー単価ではなく、定義合わせの作業範囲を比べてください。

回収は、20設備一括なら13.2年、ボトルネック6設備に絞って上位系連携を外し定義合わせを内製すれば4.6年です。費用は24.7パーセントに下がるのに効果は50.4パーセント残ります。非ボトルネック設備には残業削減が乗らず、回収原資がほぼ転記工数に限られるためです。そして2026年のタイは平均設備稼働率57.47パーセント、最低賃金も日額400バーツで据え置きという前提にあります。増産と賃金上昇のどちらも回収に足せない以上、工数と仕掛在庫だけで成立する範囲まで絞り込むのが、今この投資を通すための唯一の道筋です。

どこから数えるべきかがまだ決まっていない段階でも構いません。既存の日報とERPの完成品数を突き合わせるところから、どの位置を生産数と呼ぶべきか、どの設備をボトルネックとして先に手を付けるべきかをご一緒に整理できます。既設設備の写真と現在の日報様式があれば、方式の振り分けと概算の当たりまではその場で付けられます。ご相談はお問い合わせフォームからお寄せください。

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