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2026.08.21

PC資産管理の進め方2026|台帳17項目とライフサイクル4フェーズ

PC資産管理の進め方2026|台帳17項目とライフサイクル4フェーズ

工場の中でいちばん台数が多いIT機器は、サーバーでもネットワーク機器でもなく、人が毎日触るPCです。それにもかかわらず、PC資産管理の台帳が最新の状態で存在している工場は多くありません。Windows 10のサポートが終わり、監査で「PCの一覧を出してください」と言われて初めて、誰がどの機種をいつから使っているのか分からないことに気づく。この記事では、PC本体というハードウェアに絞って、台帳に何を書き、いつ更新を判断し、廃棄時に何を残すのかを、数字と一次情報で整理します。

PC資産管理が2026年に問題として浮上した理由

PCの管理は昔からある仕事です。パソコン資産管理という言葉自体は目新しいものではありません。それが2026年になって急に問題として扱われるようになったのには、いくつか重なった事情があります。

Windows 10のサポートが2025年10月14日に終わった

マイクロソフトのライフサイクル情報によれば、Windows 10 Home および Pro のサポートは2025年10月14日に終了しました。最終版はバージョン22H2です。同社のESUに関する説明によれば、この日を境に、技術サポート、機能更新、品質更新(セキュリティ修正と信頼性修正を含む)のいずれも提供されなくなっています。

サポートが終わってもPCは動きます。ここが厄介なところです。現場から見れば何も変わっていないので、更新の必要性が伝わりません。しかし監査やサプライヤ評価の場面では、サポート切れOSの端末が社内ネットワークにつながっていること自体が指摘対象になります。

延命の手段としてESU(Extended Security Updates)があります。マイクロソフトの説明では、法人向けはボリュームライセンス経由で1年目が1台あたり61米ドル、価格は毎年倍になり、最大3年間まで購入できます。この記述から計算すると2年目が122米ドル、3年目が244米ドルで、3年分をすべて購入すると1台あたり427米ドルになります(この3つの金額はマイクロソフトが明示している数字ではなく、上記の条件からの計算値です)。2年目から入る場合でも1年目分を遡って支払う必要があり、費用は累積します。ESUに含まれるのはセキュリティ更新だけで、新機能も、一般的な技術サポートも含まれません。

つまりESUは「更新を先送りするための費用」であって、先送りした分だけ後で高くつく仕組みになっています。

Windows 11に上げられないPCが必ず残る

Windows 11の最小要件は、マイクロソフトの公開情報で明確に定められています。主なものは、64ビット対応で2コア以上・1GHz以上のプロセッサ、メモリ4GB以上、ストレージ空き64GB以上、UEFIかつセキュアブート対応のファームウェア、そしてTPM 2.0です。このほかDirectX 12対応のグラフィックスや720p・9インチ以上のディスプレイも要件に含まれます。

このうち実務で引っかかるのはTPM 2.0とセキュアブートです。メモリやストレージは後から増やせますが、TPMとファームウェアは筐体の世代に依存するため、増設で解決できないことが多くあります。結果として「まだ十分動くのに、OSだけが上げられないPC」が一定数残ります。この台数を把握できていないと、更新計画そのものが立ちません。

タイでもWindows 10の端末はまだ4割残っている

StatCounterのデスクトップOSバージョン別シェア(タイ、2026年7月)では、Windows 11が59.71%、Windows 10が40.04%でした。サポート終了から9か月が経った時点でも、タイ国内のWindows端末の4割はWindows 10のまま動いていることになります。

これは他社も遅れているから安心してよい、という話ではありません。自社に残っている分がどの部署のどの端末なのかを説明できるかどうかが問われる、という話です。

デジタル化の遅れは統計にも出ている

ジェトロが2025年11月26日に公表した「2025年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」は、20か国・地域の日系企業12,900社に依頼し5,109社から有効回答を得た調査です(調査時期は2025年8月19日から9月17日)。この中で、デジタル技術の導入・利用およびデジタル分野への投資に取り組んでいる企業の割合は、全体で53.5%、ASEANで52.1%でした。タイは有効回答583社に対して46.1%で、ASEAN平均を下回っています。

導入・投資を進める際の課題(有効回答4,235社)としては、「デジタル人材の不足」が60.7%、「導入や運用のコストが高い」が56.0%で、いずれも半数を超えました。人が足りない、費用が出にくい。PC資産管理が後回しになる理由も、結局はこの2つに集約されます。

PC資産管理の進め方2026|台帳17項目とライフサイクル4フェーズ - figure 1

なお、この記事はPC本体というハードウェアのライフサイクルに絞っています。ソフトウェアライセンスや保守契約、クラウドサービスの契約管理については、工場のIT資産管理で別途扱っています。同記事は「モノではなく契約を管理する」という立場で書かれており、本記事はその対になる「モノ」の側です。両方を1つの台帳に押し込もうとすると、更新周期も担当部署も違うため、どちらも中途半端になります。分けて持つことを勧めます。サーバーの老朽化と仮想化についてはサーバー老朽化への対応を参照してください。

PC資産管理台帳に書く項目

台帳を作ろうとして最初につまずくのが「何を書けばよいか」です。項目が多すぎると誰も更新しなくなり、少なすぎると監査でも更新判断でも使えません。実務で使える最小限として、次の項目を挙げます。

分類項目何に使うかよくある欠落
識別資産番号現物と台帳を突き合わせる唯一の鍵シールが剥がれて追跡不能になる
識別メーカー・型番更新判断とドライバ管理「ノートPC」としか書かれていない
識別シリアル番号保証照会と盗難時の届出型番だけで代用してしまう
調達購入日・購入価格減価償却と更新時期の逆算検収日と混同する
調達発注部署・購入形態購入かリースかで処理が変わるリース満了日が別管理になる
保証保証終了日故障時に自費修理か無償かの判断延長保証を買ったのに記録がない
稼働利用者氏名・社員番号退職時の回収部署名だけで個人が特定できない
稼働設置場所現物棚卸の効率「事務所」としか書かれていない
稼働貸出・持ち出しの可否社外持ち出し時のリスク評価運用ルールが口頭のまま
構成OS・エディション・バージョンサポート終了日の一括判定「Windows」としか書かれていない
構成メモリ容量・ストレージ種別と容量延命可否の判断出荷時構成のまま更新されない
構成TPMの有無とバージョンWindows 11への移行可否そもそも項目が無い
ネットワークMACアドレス実際に接続している端末との突合IPアドレスだけを書いている
ネットワークホスト名ログとの照合命名規則が部署ごとに違う
管理資産の状態稼働・予備・修理中・廃棄待ちの区別廃棄したのに台帳に残り続ける
廃棄廃棄日・引取業者廃棄の事実を示す記録記録が担当者の私物メールにしかない
廃棄データ消去の方法と証明書番号個人データ保護法への対応「消しました」という口頭報告のみ

この17項目のうち、最も抜けやすいのは「TPMの有無とバージョン」と「データ消去の方法と証明書番号」の2つです。前者は数年前まで誰も気にしていなかった項目で、後者は廃棄という業務の終わりに発生するため、担当者が異動すると一緒に消えます。

項目を決めたら、次は「誰が、いつ更新するか」を決めます。ここを決めずに項目だけ増やすと、台帳は作った日が最新で、以後は誰も触らない資料になります。更新のきっかけは、次の4つに限定しておくと運用が続きます。

更新のきっかけ更新する項目担当タイミング
新規調達識別・調達・保証・構成情報システム検収時
利用者の変更利用者・設置場所情報システムと人事の連携入社・異動・退職の手続きと同時
修理・部品交換構成・資産の状態情報システム作業完了時
廃棄資産の状態・廃棄日・データ消去情報システムと総務の連携引取業者への引き渡し時

「利用者の変更」を人事の手続きに紐づけておくことが、実務では最も効きます。タイ拠点では人の入れ替わりが日本より速いため、退職手続きのチェックリストにPCの回収欄が無いと、数年で行方不明の端末が積み上がります。

PCライフサイクルの4フェーズと判断基準

PCの一生は、調達、運用、更新判断、廃棄の4つに分けられます。それぞれで見るべき数字と、判断を誤りやすい点が違います。

PC資産管理の進め方2026|台帳17項目とライフサイクル4フェーズ - figure 2

フェーズ1 調達

調達で決めるのは価格だけではありません。保証の年数、故障時の対応方式(オンサイトか引き取りか)、キッティングを内製するか委託するか、この3つが後年の手間を決めます。

タイの工場でとくに影響が大きいのがオンサイト保証の有無です。工業団地の所在地によっては、引き取り修理だと往復で1週間以上かかります。その間の代替機を予備として持つのか、オンサイト保証を買うのかは、台数と拠点の位置で答えが変わります。予備機を持つ場合は、その予備機も台帳に「予備」の状態で載せておかないと、いつのまにか誰かが使い始めて予備でなくなります。

また、2026年は調達価格そのものが動いている年です。IDCが2026年6月2日に公開した見通しでは、メモリの供給不足を背景に、2026年通年の世界PC出荷台数は11.3%減、平均販売価格(ASP)は17%上昇すると予測されています。供給の逼迫は2027年末まで大きな改善が見込めないとされ、価格が2025年の水準に戻ることは当面期待できないとされています。更新を後ろに倒すほど、同じ機種を高く買うことになる可能性があります。

フェーズ2 運用

運用フェーズで台帳に反映すべきなのは、故障と部品交換の履歴です。同じ機種で同じ部品が繰り返し壊れているなら、それは個体の問題ではなくロットや機種選定の問題です。台帳に履歴が残っていないと、次の調達で同じ機種を選び直してしまいます。

もう1つ、運用中に必ず起きるのが「持ち主が変わったのに台帳が変わらない」現象です。異動した人のPCが後任に引き継がれ、その後任がまた異動する。3回繰り返せば、台帳の利用者名は現実と一致しなくなります。

フェーズ3 更新判断

更新をいつやるかを決める材料は4つあります。

  • 保証が切れているかどうか。切れていれば故障時の費用と停止時間が読めなくなります
  • OSのサポート終了日までの残り期間。Windows 11の各バージョンにも個別のサポート期限があります
  • 業務上の必要スペックを満たしているか。設計や画像検査の端末は事務用と基準が違います
  • 税務上の償却が終わっているかどうか。簿価が残っている資産の除却には会計上の処理が伴います

このうち、本記事の立場では、単独で更新の理由になるのはOSのサポート終了だけです。他の3つは組み合わせで判断します。「保証が切れた」だけで一律に更新すると費用が跳ね上がり、「まだ動く」だけで放置すると突発故障が積み上がります。

フェーズ4 廃棄

廃棄は、費用としては小さく、リスクとしては最も大きいフェーズです。ここで残すべき記録は、いつ、誰が、どの端末を、どの業者に、どの方法でデータを消して引き渡したか、の5点です。この5点が揃っていない廃棄は、後から証明できません。詳しくは後述します。

4つのフェーズを一覧にすると次のようになります。

フェーズ主な判断見る数字判断を誤りやすい点
調達機種・保証年数・キッティング方式台数、拠点までの距離、調達価格の見通し保証年数を最短にして後で修理費がかさむ
運用修理か交換か、構成変更の可否故障履歴、経過年数、部品在庫履歴を残さず同じ失敗を繰り返す
更新判断更新する・延命する・用途を変える保証終了日、OSサポート期限、必要スペックサポート終了以外の要素を単独で理由にする
廃棄消去方法、引取業者、記録の保管記憶媒体の種類と台数記録を残さず口頭報告で終わらせる

独自試算 90台のモデル工場で3つのやり方を5年で比べる

ここからは、仮想のモデル工場を置いて、PCの更新のやり方を変えると5年間の費用がどう変わるかを試算します。実在企業の数値ではありません。前提はすべて明示し、後段で感応度分析を行います。

モデル工場の前提

前提項目根拠・置き方
拠点タイ東部の日系製造工場従業員320名
PC総数90台事務60台、設計・検査10台、現場据置20台
Windows 10残存台数32台全体の約36%。StatCounterのタイ40.04%を参考に、法人環境は個人より移行が進んでいるとみて少し低めに置いた
1台あたり調達費用39,000 THB本体32,000 + 保証延長4,500 + キッティング2,500
データ消去の外部委託1,200 THB/台証明書の発行を含む
社内人件費250 THB/時後述の方法で算出
為替32.0 THB/USDESU価格と社内人件費の換算に使用
比較期間5年5年間で90台すべてを1回更新することを3案共通の条件とする

社内人件費は次のように置きました。ジェトロの前掲調査によれば、タイの製造業エンジニア(正規雇用の中堅技術者、専門学校もしくは大卒以上かつ実務経験5年程度)の基本給・月額平均は830米ドル(2025年8月時点、有効回答209社)です。これを32.0 THB/USDで換算すると26,560 THBとなり、社会保険や賞与などの付帯費用を1.5倍として39,840 THB、月160時間で割ると1時間あたり249 THBです。端数を丸めて250 THB/時としました。付帯費用の1.5倍は本記事が置いた仮定であり、出典に基づく数字ではありません。

3案とも「5年間で90台すべてを1回更新する」ことを共通条件にしています。したがってPC本体の基準費用90台×39,000 THB = 3,510,000 THBは3案に共通で、差が出るのは調達の仕方と管理の手間の部分だけです。

比べる3つのやり方

  • 案A 事後対応型。台帳を持たず、壊れたら交換する。Windows 10機はESUを3年間フルに購入して延命し、期限が来てから慌てて更新する
  • 案B 一括更新型。台帳は作らないが、Windows 10残存32台を初年度に一括更新し、残りは4年目に一括更新する
  • 案C 計画更新型。台帳を整備し、資産管理ツールを導入したうえで、初年度にWindows 10残存32台、以後は年13台から14台ずつ計画的に更新する

5年間の総費用

項目案A 事後対応型案B 一括更新型案C 計画更新型
PC本体の基準費用3,510,0003,510,0003,510,000
調達単価の増減+263,250-173,160-144,300
ESU費用+437,248+62,464+62,464
台帳整備の初期工数00+23,500
資産管理ツール5年分00+225,000
業務停止に伴う人件費+180,000+81,000+57,000
棚卸・監査対応の工数+93,750+93,750+25,000
データ消去の外部委託+72,000+99,000+108,000
5年合計4,556,2483,673,0543,866,664

調達単価の増減は、案Aでは突発交換45台に緊急調達の割増15%が乗ることによる増加、案Bでは一括発注78台に対する8%の値引きと突発12台の割増15%の差引、案Cでは年次まとめ発注86台に対する5%の値引きと突発4台の割増15%の差引です。ESU費用は、案Aが3年分427米ドルを32台分、案BとCが初年度分61米ドルを32台分としています。

業務停止に伴う人件費は、3案とも同じルールで計算しました。まず、入れ替えを行う90台すべてについて、利用者側の再設定などで1台あたり2時間かかるとします。そのうえで突発故障で止まった台数には、利用者側8時間と情報システム側4時間の計12時間を追加します。単価は250 THB/時です。突発の台数は案Aが45台、案Bが12台、案Cが4台なので、停止時間は案Aが720時間、案Bが324時間、案Cが228時間になります。棚卸・監査対応は、台帳が無い案Aと案Bが年75時間、台帳がある案Cが年20時間として5年分を、台帳整備の初期工数は案Cのみ94時間を計上しました。データ消去の委託単価は、まとめて引き渡す案Bのみ1,100 THB/台、案Aと案Cは1,200 THB/台としています。データ消去の委託費が案Aで最も小さいのは、台帳が無いために90台のうち60台しか回収と消去の記録を残せない、という前提を置いたためです。安く済んでいるのではなく、記録が残らない30台があるということです。

案Aと案Cの差はどこから出ているか

案A(4,556,248 THB)と案C(3,866,664 THB)の差は689,584 THBです。内訳は次のとおりです。

差の要因金額向き
緊急調達の割増を減らし、まとめ発注の値引きを得た407,550案Cが有利
ESUを3年分ではなく1年分で済ませた374,784案Cが有利
突発故障による業務停止時間が減った123,000案Cが有利
棚卸と監査対応の工数が減った68,750案Cが有利
データ消去を全数について外部委託した36,000案Cが不利
台帳整備と資産管理ツールの費用248,500案Cが不利

有利な4項目の合計が974,084 THB、不利な2項目の合計が284,500 THBで、差引689,584 THBになります。効果の大半は、緊急調達の割増を避けたことと、ESUを3年フルに買わずに済んだことの2つで説明できます。

年ごとの支出の山

5年合計だけでは見えないのが、年ごとの支出の偏りです。PC調達費用とESU費用、資産管理ツール費用を年別に並べると次のようになります。

案A 事後対応型案B 一括更新型案C 計画更新型
1年目466,1141,210,6241,293,064
2年目528,578269,100608,550
3年目653,506269,100608,550
4年目1,651,6501,650,480571,500
5年目910,6500571,500

最大の年間支出は、案Aが1,651,650 THB、案Bが1,650,480 THB、案Cが1,293,064 THBです。案Bは5年合計では最も安いものの、1年目と4年目に大きな山が来ます。年度予算の枠が決まっている拠点では、この山が通らずに先送りされ、結果として案Aに近い動き方になることがあります。案Cの利点は総額よりもこの平準化の側にあります。

感応度分析

前提を変えたときに結論がどう動くかを見ます。

変える前提変更後結果
資産管理ツール費用45,000 THB/年0(Excel台帳で運用)案Cは3,641,664 THBとなり、案B(3,673,054)を31,390 THB下回って順位が入れ替わる
一括発注の値引き8%3%案Bは3,825,154 THBとなり、案Cとの差は41,510 THBまで縮む
為替32.0 THB/USD35.0 THB/USDESU分のみを動かすと案Aは4,597,240 THB、案Bは3,678,910 THB、案Cは3,872,520 THB。順位は変わらないが案Aの不利が拡大する
PC調達単価39,000 THB45,600 THB(IDCの2026年ASP17%上昇を39,000全体に当てはめ、十の位を四捨五入した)案Aは5,194,798 THB、案Bは4,237,750 THB、案Cは4,436,244 THB。案Aと案Bの差は957,048 THBに拡大する
案Aの突発交換45台25台案Aは4,379,248 THBまで下がるが、それでも3案中で最も高い

この感応度分析から言えることは2つです。

1つ目は、案Bと案Cの差(193,610 THB)は総額の5%程度でしかなく、資産管理ツールを入れるかExcelで済ませるか、まとめ発注でどれだけ値引きを引き出せるかといった前提の置き方ひとつで簡単に逆転する、ということです。したがって「計画更新のほうが一括更新より安い」とは、この試算からは言えません。

2つ目は、案A(事後対応型)だけは、突発交換の台数を半分近くまで減らしても、為替や単価を上の表の範囲で振っても、3案の中で最も高いままだということです。本記事で試した範囲において、この試算から頑健に言えるのは、この1点に限られます。

この試算で扱えていないもの

次の項目は金額に含めていません。過大な効果を主張しないために、扱えていないことを明示します。

  • サポート切れ端末が原因のセキュリティ事故による損害。発生確率も損害額も置きようがないため計上していません
  • PDPA違反による行政制裁金。これも発生を前提にした計算はしていません
  • 更新によるPCの処理性能向上で生まれる作業時間の短縮。効果はあるはずですが、業務内容によって差が大きすぎるため計上していません
  • 中古PCの売却益。タイでは法人向け中古PCの引取価格が機種と時期で大きく振れるため、ゼロとして扱っています

同じ考え方で業務システムの保守費用を分解した記事として工場の業務システム保守費用も参考にしてください。

データ消去と廃棄が抱えるリスク

PC資産管理で最も見落とされやすく、最も損失が大きくなり得るのが廃棄フェーズです。

PC資産管理の進め方2026|台帳17項目とライフサイクル4フェーズ - figure 3

タイの個人データ保護法が要求していること

タイの個人データ保護法(PDPA)第37条は、データ管理者に対して次のことを求めています。第37条(1)は、個人データの不正または違法な喪失、アクセス、利用、変更、訂正、開示を防ぐための適切な安全管理措置を講じ、委員会が定めて公示する最低基準に沿って、必要が生じたときまたは技術が変化したときに見直すことを求めています。第37条(3)は、保存期間が満了したとき、目的との関連性が失われたとき、データ主体が要求したとき、または同意が撤回されたときに、個人データを削除または破棄するための仕組みを備えることを求めています。第37条(4)は、個人データの侵害を知った場合、遅滞なく、可能な場合は72時間以内に当局へ通知することを求めています(権利や自由へのリスクが生じるおそれが低い場合を除きます)。

PCの廃棄がこれらに直接ぶつかります。人事情報や取引先の連絡先、従業員の顔写真を含む文書が入ったままの記憶媒体を、消去せずに外部へ引き渡せば、第37条(1)と(3)の両方に触れる可能性があります。

さらに、タイの個人データ保護委員会(PDPC)は個人データの削除、破棄、非識別化に関する基準を定めた告示を2024年8月13日に公示し、2024年11月11日から施行しています。この告示では、削除や破棄の要求に対して遅滞なく、かつ受領から90日以内に対応することが求められ、複製やバックアップを含めて、合理的に想定される手段では復元も復旧もできない状態にすることが求められています。90日以内に対応できない場合には、完了するまで当該データの収集、利用、開示が困難な状態になるよう、組織的、技術的、物理的措置を講じることとされています。

消去の方法と、残すべき記録

実務としてやるべきことは3つです。

  • 記憶媒体の種類を台帳で把握する。HDDとSSD、そして基板直付けのフラッシュメモリでは、有効な消去方法が違います
  • 消去の方法を決める。上書き消去、暗号化消去、物理破壊のいずれを標準にするかを社内規程として決め、例外を作らない
  • 消去の証明を残す。委託する場合は証明書に、対象のシリアル番号、消去日、消去方法が入っていることを確認する

台帳にシリアル番号が入っていないと、この3つ目が成立しません。証明書に書かれたシリアル番号と自社の資産を突き合わせられないからです。台帳の識別項目が、廃棄という最後の場面で効いてきます。

よくある抜け穴

現場でよく起きるのは、次のような形です。

  • 故障して起動しなくなったPCを、そのまま業者に引き渡す。起動しないことと、記憶媒体からデータを取り出せないことは別です
  • 部署の判断で古いPCを予備機として保管し続け、台帳から外れる。数年後に誰も由来を説明できない端末が倉庫から出てきます
  • 退職者のPCを後任がそのまま使い続け、前任者のデータが残ったまま数年経つ
  • リース満了で返却するPCについて、返却前の消去を業者任せにし、証明書を受け取っていない

バックアップ体制と個人データの扱いについてはバックアップと災害復旧の体制でも扱っています。廃棄したPCのデータがバックアップ側に残り続けている、という抜け穴も同じ考え方で潰す必要があります。

タイ拠点に固有の論点

税務上の耐用年数は日本とタイで違う

日本の「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表第一では、器具及び備品のうち事務機器・通信機器に分類される電子計算機について、パーソナルコンピュータ(サーバー用のものを除く)の耐用年数は4年、その他のものは5年と定められています。

一方タイでは、歳入法典に基づく勅令(第473号、2008年8月6日官報掲載)により、コンピュータのハードウェアとソフトウェアは年33.33%での償却が認められています。つまり実質3年で償却が終わる計算です。さらに、土地を除く固定資産が200,000,000バーツ以下かつ従業員200名以下の中小企業に該当する場合は、取得時に40%を初年度に償却し、残額を年33.33%以内で償却することが認められています。

日本本社の稟議書に「耐用年数4年」と書いてある一方で、タイ法人の帳簿では3年で償却が終わっている。この差を認識しないまま更新計画を立てると、本社と現地で更新時期の認識がずれます。実務では、税務上の償却年数と、実際に使う年数(更新周期)を別々の数字として台帳に持っておくのが安全です。

勅令802号の200%損金算入はPC本体には使えない

タイでは、払込資本金5,000,000バーツ以下かつ年間売上高30,000,000バーツ以下の中小企業を対象に、デジタル関連支出について損金算入を優遇する勅令(第802号、仏暦2569年)が施行されています。通常の損金算入に加えて同額を追加で算入でき、実質200%、上限300,000バーツまでが対象です。対象期間は2025年6月24日から2027年12月31日までの支出で、支出先はデジタル経済振興機構(depa)のThailand Digital Catalogに登録された事業者に限られます。

ここでPC資産管理の観点から重要な制約が2つあります。

1つ目は、条文上「コンピュータ」が対象から除外されている点です。対象はソフトウェア、ハードウェアおよびスマートデバイス、デジタルサービスとされていますが、そこからコンピュータ本体が明示的に除かれており、法律事務所の解説ではこれがノートPCやデスクトップPCを指すと説明されています。つまりPC本体の購入代金に、この措置をそのまま当てはめることはできません。

2つ目は、投資奨励法(BOI)、国家競争力強化法、EEC法によって法人所得税が免除されている事業で使う支出が対象外とされている点です(勅令第802号第5条(2))。これは企業単位ではなく事業単位の制約なので、BOIの奨励を受けている企業でも、法人所得税の免除を受けていない事業で使う支出であれば対象になり得ます。逆に言えば、法人所得税の免除を受けている事業のために使うソフトウェアやデジタルサービスには適用できません。

稟議書に「200%損金算入の対象になります」と書きたくなる場面ですが、支出の中身がPC本体かどうかと、その支出をどの事業で使うのか(法人所得税の免除を受けている事業かどうか)の2点を確認しないまま書くと、後の税務確認で前提が崩れます。制度の存在を知っていることと、自社に適用できることは別の話です。実際の適否は税務顧問に確認してください。

BOI恩典とPCの関係

BOIの機械輸入関税免除は、投資奨励法第28条および第29条に基づき、承認された機械リストに従って、奨励対象事業のために使用される機械を対象とします。事務用のPCがここに含まれるかどうかは、奨励されている事業の内容と機械リストの記載によります。

また、BOIには既存事業者の生産性向上を対象とした措置(Efficiency Enhancement Measure for Existing Projects)があります。BOIのInvestment Promotion Guide 2023に記載されているそのサブ措置1.1(機械・自動化設備の更新または入れ替え)では、機械の輸入関税免除と3年間の法人所得税免除が与えられ、免除枠は原則として対象投資額の50%、生産ラインで使う自動化システムやロボットがタイ国内の自動化産業と更新機械価値の30%以上にわたって連携する場合は100%とされています。この措置全体の条件として、対象投資額は土地と運転資金を除いて最低1,000,000バーツが必要で、奨励証書の発行から3年以内に操業を開始することが求められます。すでにBOIの奨励を受けている事業がこの措置に申請する場合は、法人所得税の免除期間が終了しているか、もともと免除を受けていないことが条件になります。

投資額に算入できる項目の表には、機械・設備のほか、機械と統合されて製造工程を制御・監視・支援するソフトウェアやITシステム、AIや機械学習、ビッグデータ分析、企業管理用のソフトウェア・ITシステム(国内開発で認証を受けたものは全額、国外開発は半額算入)、タイ国内のクラウドやデータセンターの利用料が挙げられています。一方で、事務用の汎用PCそのものが項目として挙げられている記述は見当たりません。

結論として、PC本体の更新費用をBOI恩典で軽くする前提は置かないほうが安全です。更新の稟議は、恩典ではなく本記事で示したような費用比較で組み立てるべきです。

人の入れ替わりが台帳を壊す

ジェトロの前掲調査では、タイにおける2026年のベースアップ率は3.9%の見込み(有効回答485社)でした。賃金の上昇そのものより、実務で効いてくるのは人の入れ替わりの速さです。PCの利用者情報は、入社、異動、退職のたびに書き換えが必要になります。この書き換えを情報システム部門の善意に任せている限り、担当者が変わった瞬間に台帳の更新は止まります。

対策は単純で、人事の入社手続きと退職手続きのチェックリストに、PCの貸与と回収の欄を作り、その欄が埋まらないと手続きが完了しない形にすることです。台帳を情報システム部門だけのものにしないことが、タイ拠点では特に重要になります。

よくある質問

PCの耐用年数は何年ですか?

税務上の耐用年数と、実務上の更新周期は分けて考える必要があります。日本の省令ではパーソナルコンピュータ(サーバー用を除く)は4年、タイの勅令第473号では年33.33%の償却が認められており実質3年です。一方、実務上の更新周期は、保証期間、OSのサポート期限、必要スペックの3つで決まります。事務用途であれば4年から5年、設計や画像処理を伴う用途であれば3年から4年を目安に、自社の故障履歴を見ながら調整するのが現実的です。

PC資産管理台帳はExcelでも良いですか?

台数が少なく、更新のきっかけが明確に運用されているなら、Excelでも成立します。本記事の試算でも、資産管理ツールを入れずにExcelで運用する場合、5年総額では計画更新型が一括更新型を下回る結果になりました。ただしExcelには2つの弱点があります。1つは、実際にネットワークにつながっている端末との突合が手作業になること。もう1つは、複数人が同時に更新するとファイルが分裂することです。台数が100台を超えるか、拠点が2つ以上になるあたりから、ツール導入を検討する価値が出てきます。

Windows 10のPCをそのまま使い続けてはいけませんか?

動作はします。ただし2025年10月14日以降、セキュリティ更新が提供されていないため、新しい脆弱性が見つかっても修正されません。ESUを購入すれば最大3年間はセキュリティ更新を受けられますが、1年目が1台61米ドル、以降は毎年倍額で、3年分では427米ドルになります。本記事のモデル前提(為替32.0 THB/USD、1台あたり調達費用39,000 THB)で換算すると1台13,664 THBで、更新費用のおよそ3分の1にあたります。「使い続けてはいけない」というより、「いつまで、いくら払って使い続けるかを決めておく」という整理が実務的です。

廃棄するPCのデータ消去はどこまでやれば十分ですか?

PDPCの告示は、複製やバックアップを含めて、合理的に想定される手段では復元できない状態にすることを求めています。方法として上書き消去、暗号化消去、物理破壊のいずれを選ぶかは、記憶媒体の種類と社内規程によります。実務で重要なのは方法の選択そのものより、対象のシリアル番号と消去日、消去方法が記載された証明書を受け取り、台帳と突き合わせて保管することです。証明できない消去は、やっていないのと同じ扱いになります。

PCの更新費用を稟議で通すにはどう書けばよいですか?

「古くなったから」では通りません。本記事の試算のように、更新しない場合に発生する費用を並べるのが基本形です。具体的には、ESUの累積費用、突発故障時の緊急調達の割増、業務停止時間の人件費、棚卸と監査対応の工数の4つを積み上げ、更新した場合の費用と比較します。加えて、年度ごとの支出の山が予算枠に収まるかを示すと、経理側の判断材料になります。BOI恩典や損金算入の優遇を根拠に書くのは、適用可否を確認してからにしてください。

まとめ

この記事で扱った内容を整理します。

  • Windows 10のサポートは2025年10月14日に終了し、ESUは1年目61米ドル、3年分で427米ドルと、延命するほど費用が積み上がる仕組みになっている
  • タイのデスクトップWindows端末は2026年7月時点でまだ40.04%がWindows 10であり、自社の残存台数を説明できる状態にしておく必要がある
  • PC資産管理台帳には識別、調達、保証、稼働、構成、ネットワーク、管理、廃棄の8分類で17項目を持つ。抜けやすいのはTPMの有無とデータ消去の証明書番号
  • PCのライフサイクルは調達、運用、更新判断、廃棄の4フェーズに分かれ、本記事の立場では、単独で更新の理由になるのはOSのサポート終了だけである
  • 90台のモデル工場の5年試算では、事後対応型4,556,248 THB、一括更新型3,673,054 THB、計画更新型3,866,664 THBとなった。一括更新型と計画更新型の差は前提次第で逆転するが、事後対応型が最も高いという結果は本記事で試したどの前提でも変わらなかった
  • PDPA第37条とPDPCの告示により、廃棄時のデータ消去は「やった」だけでなく「証明できる」状態が求められる
  • 勅令第802号の200%損金算入は条文上コンピュータ本体が対象外で、法人所得税が免除されている事業で使う支出も対象外である。PC本体の更新に当てにしないほうがよい

PC資産管理は、新しい仕組みを買ってくれば解決する種類の問題ではありません。台帳に何を書くかを決め、それを誰がいつ更新するかを人事や総務の手続きに紐づけ、更新と廃棄の判断基準を文書にする。この3つが揃って初めて、監査でも稟議でも使える状態になります。まずは自社に何台のPCがあり、そのうち何台がWindows 10のままなのかを数えるところから始めてみてください。

TOMAS TECHは、タイで操業する日系製造業向けに、生産管理システムPEGASUSをはじめとする工場のITインフラ全般をご支援しています。PC資産管理の仕組み化についても、台帳の項目をどう決めるか、更新の判断基準をどう社内文書にするかといった検討段階からご相談いただけます。まだ具体的な計画が固まっていない段階でも構いませんので、お問い合わせページからお気軽にお声がけください。

参考情報