タイで工場を任されている駐在員の方から、いちばんよく聞く悩みがあります。「現場が見えない」。いまラインがどう動いているのか、何か問題が起きていないか——それが分かるのは、たいてい“後から”です。
私自身、タイの現場に関わる中で、この“後から分かる”に何度も向き合ってきました。多くの方は「可視化システムを入れれば解決する」と考えます。半分は正しく、半分は違います。“見えない”の本当の原因は、システムの前に、もうひとつあるからです。
「報告が遅い」のではなく、報告の“前提”がすれ違っている
日本人管理者が現場に求めることは、シンプルです。問題が起きたら、すぐ報告してほしい。小さいうちに知りたい。日本で育った私たちには“当たり前”です。でも、その“当たり前”は、現場では必ずしも共有されていません。
| 日本式マネジメントが“当たり前”とすること | 現場で実際に起きやすいこと |
|---|---|
| 悪い情報は早く・小さいうちに上げてほしい | 問題は自分たちで収めようとし、上に伝わるのが遅れる |
| 決めた手順どおりに動いてほしい | 手順より、その場の状況判断を優先することがある |
だから、初期に言ってくれれば対応できた問題が、大きくなってから表に出る。日本人から見れば「報告が遅い」。でも、これは怠慢でも能力の問題でもありません。
これは“怠慢”ではなく、“文化”の話
背景には、文化の違いがあります。タイには「グレンチャイ(krengjai:相手に気を遣い、立場をおもんぱかる)」という感覚が根づいていると言われます。目上の人に悪い話を上げにくいのも、その裏返し。悪意ではなく、むしろ周囲への配慮なのです。
そして、仕事との向き合い方も人それぞれです。価値観は、無理に変えるものではありません。日本式の“報連相”を研修で教える企業もありますが、根っこの感覚はそう簡単に変わらないし、変えるべきものでもない。どちらが正しいという話ではないのです。
だから「人」を変えるより、「仕組み」で埋める
ここがポイントです。すれ違いを叱責や教育で埋めようとすると、たいてい消耗します。発想を変えましょう。「報告してもらう」ことに頼るのをやめ、「報告がなくても状況が見える」状態を作るのです。
- ラインの稼働・停止が、報告を待たずにリアルタイムで分かる
- 異常が起きた瞬間に、人の判断を介さずアラートが上がる
- 「誰かが上げてくれるか」ではなく、「仕組みが教えてくれる」
こうすれば、誰かを“責める”必要がなくなります。スタッフ一人ひとりは、自分のやり方で力を発揮すればいい。問題の発見だけ、仕組みが受け持つ。すれ違いはそのまま、ギャップだけが埋まります。
大きく入れない。小さく“見える”を作る
「では可視化システムを一式」と考えると、見積もりは数十万〜数百万バーツ、稟議は本社決裁、導入は半年。そこで止まります。
でも、本当に“全部”必要でしょうか。まずは「いちばん見えなくて困っている一点」だけを小さく見えるようにする。たとえば設備ひとつの稼働監視(センサーと表示だけの最小構成)なら、数万バーツ規模から始められます。一点が見えると現場の空気が変わり、次に何を見るべきかも分かってきます。
まとめ:すれ違いは、仕組みで埋められる
日本人とタイ人の仕事の進め方の違いは、優劣ではありません。変えようとするより、理解した上で、仕組みで橋を架ける。それが、タイの現場でDXがうまくいく、いちばんの近道だと、私は考えています。
御社の現場で、いちばん“見えなくて困っている一点”はどこでしょうか。——よければ一度、現場を一緒に歩くところから始めさせてください。