情シスアウトソーシング タイ2026|丸投げではなく線引きの設計
タイの工場で「今、社内システムのことを一番よく分かっているのは誰か」と聞くと、たいてい一人の名前が返ってきます。その人は情報システム担当者として採用された人ではありません。生産技術のマネージャーだったり、総務の課長だったり、たまたま前職でサーバーを触ったことがある駐在員だったりします。情シスアウトソーシングを検討し始める工場のほとんどが、この「一人の名前」を思い浮かべた瞬間から動き出します。
検討の入り口でよく聞かれるのは「どこまで任せられますか」「いくらかかりますか」の2つです。しかし、この2つに答える前に決めなければならないことがあります。何を外に出すかではなく、何を社内に残すかです。順序が逆に見えるかもしれませんが、残すものが決まらないと委託範囲は決まりません。残すものが決まっていない委託契約は、障害が起きた日に「それはうちの範囲ではない」という一往復を生みます。
本記事の立場ははっきりしています。タイの日系工場で情シスアウトソーシングの成否を決めるのは委託先の技術力ではなく、何を外に出し何を社内に残すかの線引き設計です。 全部委託するか全部内製するかの二択で考えている限り、費用の議論も噛み合いません。以下では委託範囲を3つの層に切り分け、層ごとにどの効果が発生し、削ると何が消えるかを、モデル工場の試算とあわせて具体的に整理します。
情シスアウトソーシングとは|タイの日系工場では何が違うのか
情シスアウトソーシングとは、社内の情報システム部門が担っている業務の一部または全部を、外部の事業者に委託することを指します。対象になる業務は幅広く、サーバーやネットワークの監視、ユーザーからの問い合わせ対応、機器の保守、ソフトウェアのライセンス管理、ベンダーとの調整などが含まれます。IT保守の外部委託、IT運用代行、システム監視のアウトソースといった呼び方も、実質的にはこの範囲の一部を指しています。
市場としては拡大が続いています。世界のITアウトソーシング(ITO)市場は2026年の6,386.5億米ドルから2031年には7,520.8億米ドルへ、年平均成長率3.32%で成長する見込みとされています。中でも中小企業(SME)セグメントの成長率は3.96%とやや高く、自前で情報システム部門を抱えにくい規模の企業ほど外部化が進む構図が読み取れます。ただしこれは世界市場の予測であり、タイ市場やタイに進出した日系工場の数値ではありません。傾向の裏づけとして読む範囲にとどめてください。
日本国内の一般的な情シスアウトソーシングと、タイの日系工場のそれとの違いは4つあります。
| 論点 | 日本国内の一般的な情シス委託 | タイの日系工場の場合 |
|---|---|---|
| 対象システム | 情報系(メール、グループウェア、業務システム) | 情報系に加えて生産系(生産管理サーバー、ハンディターミナル、現場の無線環境) |
| 停止したときの影響 | 業務が滞る | ラインが止まる。逸失利益が時間単位で発生する |
| 使う言語 | 日本語で完結 | 現場はタイ語、本社報告は日本語、ベンダー資料は英語が混ざる |
| 指示系統 | 情報システム部門が一元的に判断 | 日本本社の情報システム部と現地マネジメントの二重構造 |
このうち、費用の議論を最もねじれさせるのが2行目です。オフィスのメールが1時間止まることと、生産管理サーバーが1時間止まることは、同じ「システム障害」という言葉でくくれません。後者は止まっている間ずっと金額が積み上がります。だから監視の話が、単なるIT作業ではなく損益の話になります。
3行目と4行目は委託先の選定条件に直結します。現場のオペレーターがタイ語で問い合わせられること、その内容が日本語で本社に届くこと、この2つを満たせる事業者はそれほど多くありません。技術力よりも、この言語の橋を渡せるかどうかが実務では効きます。
二重の逼迫|タイのIT人材不足と本社のひとり情シス
「現地でIT担当者を採用すればよいのではないか」という選択肢は、当然のように検討されます。しかしそこには構造的な壁があります。
ジェトロが2023年8月から9月にかけて実施した海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)によると、タイに進出した日系企業のうち、プログラマー等のIT人材の不足を「とても深刻」または「やや深刻」と回答した割合は合計で56.7%でした。アジア大洋州地域の平均は58.2%なので、タイが突出しているわけではありません。地域全体としてIT人材が足りていない、という読み方が正確です。
一方で、タイが地域平均から明確に外れている項目があります。一般管理職の人材不足です。タイは79.8%で、地域平均の68.8%を11ポイント上回りました。IT人材だけでなく、その人を評価し配置しマネジメントする層まで足りていない、ということです。この2つを重ねると、「IT担当者を採用する」という打ち手の難しさが見えてきます。仮に採用できても、その人の仕事の質を評価できる管理職が現地にいないなら、採用は解決になりません。
| 人材不足の深刻度 | タイ | アジア大洋州地域平均 | 差 |
|---|---|---|---|
| プログラマー等のIT人材 | 56.7% | 58.2% | タイが1.5ポイント低い |
| 一般管理職 | 79.8% | 68.8% | タイが11ポイント高い |
では日本本社から人を送ればよいのか、というと、そちら側も余裕がありません。メタップスが2021年9月から10月にかけて実施した調査では、情報システム部門に所属する会社員514名のうち、情報システム担当が実質1名という「ひとり情シス」に該当する回答者は11.4%、人数にして514名中およそ59名でした。さらに、そのうち課題を感じていると答えた27名の内訳では「セキュリティ面への不安」が59.3%、「業務の負荷が大きく手が回らない」が51.9%と上位に挙がっています。
この調査については2点を断っておく必要があります。第一に、2021年時点の調査であり、現在の最新値ではありません。第二に、母数が514名、そのうちおよそ59名、さらにその中の27名という規模なので、割合の数字は目安として読むべきものです。それでも、情報システム部門が薄い企業が一定割合で実在すること、そして薄い部門の担当者がセキュリティと業務負荷を課題として挙げていることは、海外拠点を持つ企業にとって無視できません。国内の業務で手一杯の部門に、海外工場のサーバー監視まで期待するのは無理があります。
タイ側にも本社側にも人がいない。これが二重の逼迫です。 そしてもう一つ、時間の要素が加わります。タイでは現地採用スタッフの待遇改善が進み、日本人駐在員を減らして現地採用に切り替える企業があると報じられています。駐在員のポストは減る方向にあり、残った駐在員も数年で交代します。今いる一人に依存する設計は、その人がいる間しか持ちません。
「IT担当者が実質1人」の工場で実際に起きること
属人化のリスクは「担当者が辞めたら困る」という言い方で語られがちですが、それでは打ち手が「辞めさせない」という無理な話になってしまいます。実務で問題になるのは、担当者が在席している状態ですでに発生している「見えない依存」のほうです。

タイの工場でよく見かける具体的な症状を挙げます。
- サーバーの管理者パスワードが担当者のローカルPCのファイルにだけ存在し、共有場所にない
- ネットワーク構成図が更新されておらず、最新の配線は担当者の記憶の中にしかない
- 保守契約の更新期日を担当者が個人の手帳で管理していて、他の誰も期日を知らない
- ベンダーとのやり取りが担当者個人のメールアドレス宛に来ていて、履歴が共有されていない
- 現場からのIT関連の依頼が、システムではなくその人のチャットに直接届く
この5つはどれも、担当者が優秀であればあるほど起きやすくなります。頼めばすぐ解決するので、誰も手順を記録に残そうとしません。結果として、その人の稼働時間が工場のIT可用性そのものになります。夜間にサーバーが落ちれば朝まで誰も気づかず、その人が出張していれば止まったままです。
さらにタイ固有の事情が重なります。この「一人」が日本人駐在員である場合、その人は一般に数年で交代します。引き継ぎ期間も、長くて1か月程度になることが多いはずです。ネットワーク構成図が古く、パスワードがローカルにあり、ベンダーの担当者名が個人のメールにしかない状態で1か月の引き継ぎをしても、渡せるのは表面的な情報だけです。後任は着任後に、前任者が把握していたことを最初から調べ直します。この再調査のコストは決算書のどこにも現れませんが、確実に発生しています。
逆に「一人」がタイ人スタッフである場合は、別の問題が出ます。転職が起きたとき、引き継ぎ期間そのものが確保できないことがあります。しかも本社側にはその人が何をしていたかを検証できる人がいません。
属人化への対策は、担当者を増やすことでも引き止めることでもありません。情報が一人の中に溜まらない構造にすることです。 具体的には、パスワード、構成図、契約期日、ベンダー窓口、資産台帳を、担当者の外側に置いて更新し続ける仕組みを作ることです。この「更新し続ける」の部分が社内では最も続かないので、委託が効いてきます。
委託範囲を3層で切る|監視・ヘルプデスク・保守
ここから設計の話に入ります。情シスアウトソーシングを「全部任せる」か「任せない」かで考えると、見積りは高すぎるか、範囲が狭すぎて意味がないかのどちらかになります。実務では次の3層に切り分けると、費用と効果の対応が取れます。

| 層 | 委託する内容 | この層が守る効果 |
|---|---|---|
| 第1層 基本監視 | サーバー・ネットワーク機器の死活監視、リソース監視、しきい値超過時のアラート通知 | 効果A システム停止の早期検知による逸失利益の回避 |
| 第2層 一次切り分けとヘルプデスク | ユーザーからの問い合わせ受付(現地語)、障害の一次切り分け、簡易な復旧操作、エスカレーション判断 | 効果B 駐在マネージャーと総務スタッフのIT対応時間の削減 |
| 第3層 定期保守・資産台帳・ベンダー窓口 | 定期的な点検とパッチ適用、IT資産管理台帳の維持、保守契約とライセンスの期日管理、各ベンダーとの実務調整 | 効果C 属人化リスクの解消、契約更新漏れと重複調達の防止 |
この3層は積み上げの関係にあります。第2層だけを単独で委託することは技術的には可能ですが、監視がない状態でヘルプデスクだけ置くと、障害の発見は結局ユーザーからの申告に依存します。第3層だけを委託すると、台帳は綺麗になりますが止まったときには誰も動きません。したがって下の層から積むのが基本形です。
重要なのは、層ごとに守っている効果が違うことです。「予算が厳しいので第3層は外そう」という判断は成立しますが、そのとき効果Cが丸ごと消えることを理解した上で決める必要があります。後の章で、層を削ったときに回収期間がどう悪化するかを数字で示します。
なお、この3層はよくある「レベル1・レベル2・レベル3サポート」という区分とは別物です。あちらは対応の難易度による区分で、こちらは委託する機能の範囲による区分です。見積りを比較するときに用語が混ざりやすいので、事業者との会話では「機能の範囲」で揃えることをおすすめします。
第1層 基本監視|止まったことに気づくまでの時間を買う
システム監視をアウトソースするとき、買っているものは監視ツールではありません。異常が起きてから誰かが気づくまでの時間です。ここを取り違えると、監視の見積りが高く見えます。
工場のシステム障害には、気づくまでの遅れが構造的に発生する時間帯があります。夜勤帯、休日、そして始業前です。生産管理サーバーが土曜の夜に停止した場合、月曜の朝に出勤した人が気づくまで誰も知りません。ラインが止まっていなくても、その間に取り込まれるはずだった実績データは欠けます。
基本監視で最低限見るべき対象を挙げます。
| 監視対象 | 見る内容 | 気づかないと起きること |
|---|---|---|
| 生産管理サーバー | プロセスの生死、CPU使用率、メモリ、ディスク空き容量 | 実績が記録されず、翌日の生産指示が出せない |
| ファイルサーバー | 死活、ディスク空き容量、バックアップジョブの成否 | 図面と手順書に到達できない。バックアップが静かに失敗し続ける |
| コアスイッチとアクセススイッチ | 死活、ポートのリンク状態、トラフィック | 一部エリアの端末だけがつながらない状態が長引く |
| 無線アクセスポイント | 死活、接続端末数 | 現場のハンディターミナルが読めなくなり、実績入力が紙に戻る |
| インターネット回線とVPN | 疎通、遅延 | 本社との連携が切れ、原因を回線かシステムか切り分けられない |
監視の設計で実務的に効くのは、アラートの宛先と時間帯の設計です。すべてのアラートが担当者一人の携帯に飛ぶ設計だと、その人が寝ている間は監視していないのと同じになります。委託する場合は、一次受けを委託先が持ち、判断が必要なものだけ社内に上げる形にします。
もう一つ、監視のしきい値は最初から完璧に決められません。導入直後は誤検知が出ます。誤検知が続くとアラートが無視されるようになり、監視は形骸化します。したがって契約には「最初の3か月はしきい値の調整期間として、月次でチューニングを行う」ことを明記しておくべきです。ここを曖昧にすると、半年後には誰もアラートを見なくなります。
第2層 一次切り分けとヘルプデスク|駐在員のIT対応時間を切り離す
第2層で外に出すのは、ユーザー対応です。「プリンタが印刷できない」「ハンディターミナルが読み取らない」「共有フォルダが開かない」といった問い合わせの受付と、一次切り分けです。
この層の効果が大きく見えるのは、対応時間そのものより中断のコストがあるからです。駐在マネージャーが会議中や現場確認中に呼び出され、10分で解決したとしても、失われた時間は10分ではありません。中断された作業に戻るまでの時間を含めると、体感的なコストは対応時間そのものより大きくなります。モデル工場の試算では駐在マネージャーのIT対応を月32時間、総務スタッフを月18時間と置いていますが、これは実際に手を動かしている時間の集計です。
ヘルプデスクを委託するときの設計上の要点は3つです。
- 現地語で受け付けられること。 タイ人オペレーターが英語や日本語で問い合わせなければならない窓口は使われません。使われない窓口は、結局これまでどおり駐在員のチャットに直接届きます。
- 受付経路を1本に絞ること。 電話、チャット、メールと複数の入口があっても構いませんが、記録先は1つにします。記録が分散すると、何が何回起きているかが分からなくなり、恒久対策の判断ができません。
- エスカレーションの基準を先に決めること。 「委託先が判断できないもの」という曖昧な基準ではなく、「本番データを更新する操作」「ライセンス費用が発生する判断」「ライン停止を伴う再起動」のように、具体的な行為で線を引きます。
ここで委託範囲から外すべきものもあります。生産管理システムの業務上の使い方に関する質問、たとえば「この品目の在庫がマイナスになっているのはなぜか」という問い合わせは、ITの問題ではなく業務の問題です。これを委託先のヘルプデスクに投げると、答えられないまま滞留します。受付は一本化しても、業務系の問い合わせは社内の業務担当へ振り分けるという交通整理を最初に決めておきます。
第3層 定期保守とベンダー窓口の一本化
第3層は、止まっていないときにやる仕事です。定期的な点検、パッチ適用、バックアップの復元テスト、そして保守契約とライセンスの期日管理が入ります。
止まっていないときの仕事なので、社内では最も後回しにされます。担当者が一人の工場では、実質的に誰もやっていないことのほうが多いはずです。その結果として起きるのが、更新漏れです。保守契約が切れた状態で故障し、通常より高い緊急対応費用を払う。ライセンスの期限が切れて業務が止まる。こうした損失は「たまたま運が悪かった」として処理されがちですが、期日を管理する仕組みがない以上、いずれ必ず起きます。
もう一つ第3層の重要な機能が、ベンダー窓口の一本化です。工場のIT環境には複数のベンダーが関わっています。
| ベンダーの種類 | 扱うもの | 窓口が分散すると起きること |
|---|---|---|
| 生産管理システムのベンダー | アプリケーションと業務データ | 障害の原因がアプリかインフラか、双方が相手のせいにする |
| サーバー・PCのハードウェアベンダー | 機器と保守部品 | 故障時にどこへ連絡するか分からず初動が遅れる |
| ネットワーク機器のベンダー | スイッチ、無線機器 | 現場の通信不良の切り分けが進まない |
| 通信回線事業者 | 回線とVPN | 回線起因かどうかの確認だけで半日かかる |
| クラウドサービスの提供元 | メール、ストレージ、認証基盤 | 契約者情報が担当者個人になっていて手続きが進まない |
窓口が分散していると、障害のたびに「誰に連絡するか」を判断する人が必要になります。その判断をしているのが例の一人です。モデル工場の試算では、この調整工数を月6時間と置いています。委託先を一次窓口にして、そこから各ベンダーへ振り分ける形にすれば、この6時間は社内から消えます。
定期保守にどこまで含めるか、月額のどこまでが保守費用で、どこからが個別見積りになるのかは、契約の読み方を知らないと比較できません。保守費用の内訳と見積りの読み方については業務システムの保守費用の記事で詳しく整理しているので、そちらもあわせてご覧ください。本記事では、第3層の月額に定期保守が含まれるという前提だけを置きます。
IT資産管理台帳は委託先と共同で持つ
第3層の中で、属人化の解消に最も直接的に効くのがIT資産管理台帳です。ここは所有の設計が重要なので、章を分けて扱います。
台帳に載せるべき情報は、機器の一覧だけではありません。誰がどの端末を使っているか、どのソフトウェアが何ライセンス入っているか、保守契約はいつまでか、ベンダーの担当者は誰か、といった運用情報が揃って初めて、担当者の外側に情報が置かれた状態になります。
ここで判断が分かれるのが、台帳を誰が持つかです。3つのパターンがあります。
| パターン | 台帳の所在 | 起きること |
|---|---|---|
| 社内だけで持つ | 社内の共有フォルダかスプレッドシート | 更新が止まる。半年で実態と乖離し、誰も信用しなくなる |
| 委託先だけが持つ | 委託先の管理システム | 更新は続くが、契約終了時に手元に残らない。委託先を替えられなくなる |
| 共同で持つ | 委託先が更新し、社内がいつでも参照・出力できる | 更新が続き、かつ資産は社内に残る |
推奨は3つ目です。更新の作業は委託先に出し、台帳そのものの所有権は社内に残すという線引きです。契約書には「台帳データは委託期間中いつでも社内が閲覧・出力でき、契約終了時には汎用形式で引き渡す」ことを明記します。これを書いていないと、委託先を変更しようとした時点で、また同じ棚卸しをゼロからやり直すことになります。
台帳の項目設計や初回棚卸しの進め方そのものは、それだけで一本の記事になる分量があります。具体的な作り方は工場のIT資産管理の記事で扱っているので、実際に着手する段階ではそちらを参照してください。本記事の関心は、その台帳を誰が更新し誰が所有するかという一点にあります。
バックアップと復旧はどこまで任せられるか
監視・ヘルプデスク・保守の3層とは別に、必ず論点になるのがバックアップと復旧です。ここは委託の可否ではなく、責任分界点をどこに引くかの問題として扱う必要があります。
バックアップは3つの工程に分かれます。取得、保管、そして復元です。委託先に出しやすいのは取得と保管で、監視の対象にすればジョブの成否も自動で拾えます。問題は復元です。
- 取得の成否は自動で分かる。 バックアップジョブが失敗したときにアラートが上がる設計にすれば、委託先が拾えます。
- 保管の健全性も委託できる。 世代管理、保管場所の分散、媒体の劣化確認まで含めて委託範囲に入ります。
- 復元は社内の判断が要る。 どの時点に戻すかは業務判断です。3時間前に戻せば入力済みの実績が消えます。この判断を委託先には出せません。
したがって現実的な線引きは、「取得と保管とテストは委託し、復元の実行判断は社内が持つ」となります。ここで抜けやすいのが復元テストです。取得できていても復元できないバックアップは珍しくありません。年に1回でよいので、実際に復元してみる作業を委託範囲に明記しておきます。
災害時の復旧体制まで含めた設計、たとえばどのシステムを何時間以内に復旧させるかという目標の立て方については、業務システムのバックアップ体制の記事で整理しています。委託契約を結ぶ前に、自社の復旧目標がどのあたりにあるかを把握しておくと、委託範囲の会話が具体的になります。
本社標準と現地最適化の線引き
日系工場の情シスアウトソーシングには、もう一つ独特の論点があります。日本本社が定めた標準と、現地の実態が合わないことです。
本社の情報システム部は、グループ全体のセキュリティ方針、認証基盤、端末の標準構成、データの保持期間などを定めています。これ自体は正しい取り組みです。しかし現地の工場には、本社の標準が想定していない事情があります。現場のハンディターミナルは古いOSで動いていて更新できない、現地のベンダーが提供する回線は本社標準の機器に対応していない、タイの法令上ローカルに保持しなければならないデータがある、といった事情です。
委託先を入れるとき、この不一致が表面化します。委託先は現地の実態に合わせて動こうとし、本社は標準に合わせるよう求めます。板挟みになるのは現地のマネジメントです。
これを避けるには、委託契約を結ぶ前にどの領域が本社標準の適用対象で、どの領域が現地判断で決めてよいかを文書にしておく必要があります。
| 領域 | 決めるのは誰か | 理由 |
|---|---|---|
| セキュリティ方針、認証基盤、データ保持のルール | 本社 | グループ全体で揃っていないと監査に耐えられない |
| PCの標準構成とライセンスの調達方針 | 本社が枠を決め、現地が運用 | 調達単価は本社契約に乗るほうが有利 |
| 現場のネットワーク構成と無線設計 | 現地 | 建屋の構造と生産設備に依存し、本社では判断できない |
| 生産管理システムの運用手順 | 現地 | 現地の業務プロセスに直結する |
| 委託先との日常のやり取り | 現地 | 時差と言語の面で本社経由は成立しない |
海外拠点にシステムを導入する段階で本社標準をどう当てはめるか、という導入フェーズの論点は海外拠点のシステム導入の記事で扱っています。本記事が扱うのはその後、稼働してからの運用フェーズにおける線引きです。導入時に決めたはずの標準が、運用が始まると現地で少しずつ崩れていく、というのはよくある経過です。委託先を入れるタイミングは、その崩れを整理し直す機会にもなります。
外に出せないもの|社内に残す5つと委託先に渡す4つ
ここまでの議論を、線引きの形にまとめます。外に出せないものは、作業ではなく権限と責任です。

社内に残すのは5つです。このうち2つは本社が、3つは現地が持ちます。
- 本社が持つもの その1 投資判断とIT予算の承認。 どのシステムにいくら使うかは経営判断です。委託先が提案することはできますが、決めることはできません。
- 本社が持つもの その2 グローバル標準の決定。 セキュリティ方針、認証基盤、データ保持のルールは、拠点ごとに変えられません。
- 現地が持つもの その1 業務要件の定義と受け入れ判断。 何ができれば業務が回るかを定義できるのは現地だけです。委託先が作ったものを受け入れるかどうかの判断も現地が持ちます。
- 現地が持つもの その2 データへのアクセス権限の承認。 誰にどのデータを見せるかは、人事情報と組織構造を知らないと決められません。この承認を委託先に渡すと、退職者のアカウントが残り続けるといった事故につながります。
- 現地が持つもの その3 監査と法令対応の最終責任。 タイ当局への対応、個人データの取り扱いに関する説明責任は、委託していても現地法人が負います。
対して委託先に渡せるのは4つです。
- 委託先に渡すもの その1 監視と一次通報。 24時間の目を持つのは外部のほうが現実的です。
- 委託先に渡すもの その2 ヘルプデスクの一次対応と切り分け。 現地語での受付と初動を担います。
- 委託先に渡すもの その3 定期保守と資産台帳の維持。 止まっていないときの継続作業は、社内では続きません。
- 委託先に渡すもの その4 ベンダーとの実務調整。 一次窓口として各ベンダーへ振り分けます。
この 5対4 の線引きを契約書の別紙として持っておくと、障害が起きたときの「これは誰の範囲か」という議論が短く済みます。逆に、この線引きを作らずに「IT運用一式」という表現で契約すると、判断が要る場面ごとに交渉が発生します。
モデル工場での費用試算
費用の話に入ります。まず一般的な相場感を確認してから、モデル工場の試算に移ります。
日本国内では、情シスアウトソーシングの費用は一般的な目安として次のように紹介されています。月額定額制の場合はおおむね50,000円から300,000円程度、従量課金制の場合は1件または1時間あたり5,000円から10,000円程度、技術者が常駐するSES型の場合は1か月あたり100,000円から1,000,000円程度です。これは特定の調査に基づく数値ではなく、業界の一般的な目安として紹介されているものです。また日本国内の目安であり、タイでの見積りに換算して当てはめられるものではありません。以下のモデル工場の試算は、この金額を換算したものではなく、タイの実態を踏まえて独自に組んだものです。
モデル工場の前提を示します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在 | タイ・ラヨーン県の工業団地 |
| 業種 | 日系の自動車内装部品メーカー(樹脂成形と組立) |
| 従業員 | 480名。うち日本人駐在員4名 |
| 稼働 | 月20日、2直 |
| IT資産 | PC 210台、生産管理サーバー1台、ファイルサーバー1台、コアスイッチ1台、アクセススイッチ12台、無線アクセスポイント18台、ハンディターミナル40台 |
| 既存のIT体制 | 専任のIT担当者はゼロ。日本人の生産技術マネージャー1名が兼務し、タイ人の総務スタッフ1名が端末調達と請求処理を補助。日本本社の情報システム部は3名で国内2工場と海外2拠点を担当 |
| 駐在マネージャーの時間単価 | 1,150 THB(住宅手当等を含む総費用ベース) |
| 総務スタッフの時間単価 | 300 THB |
| ライン停止時の逸失利益 | 24,000 THB / 時間 |
委託費用は次のとおりです。
| 層 | 月額の増分(THB) | 累計の月額(THB) | 年額の増分(THB) | 初期費用の増分(THB) |
|---|---|---|---|---|
| 第1層 基本監視 | 12,000 | 12,000 | 144,000 | 130,000 |
| 第2層 一次切り分けとヘルプデスク | 18,000 | 30,000 | 216,000 | 90,000 |
| 第3層 定期保守・資産台帳・ベンダー窓口 | 14,000 | 44,000 | 168,000 | 100,000 |
| 合計(第3層まで) | 44,000 | 44,000 | 528,000 | 320,000 |
この表の「月額の増分」は、その層を積み増したときに追加でかかる金額です。第2層まで委託した場合の実際の支払いは月額30,000 THB、第3層まで委託した場合は月額44,000 THBになります。
効果の内訳です。
効果A 停止の早期検知による逸失利益の回避。 基幹サーバーまたはネットワークに起因してラインに影響した停止は年5件でした。監視を入れることで、異常の発生から気づくまでの時間が1件あたり平均1.5時間短縮されます。年7.5時間の短縮に対して1時間あたりの逸失利益24,000 THBを掛けると、年180,000 THBになります。ここで数えているのは復旧作業そのものの時間ではなく、気づくまでの遅れだけです。
効果B IT対応時間の削減。 駐在マネージャーのIT対応は月32時間、年384時間で、時間単価1,150 THBを掛けると441,600 THBです。総務スタッフは月18時間、年216時間で、時間単価300 THBを掛けると64,800 THBです。合計506,400 THBのうち、ヘルプデスクへ移管できるのは65%と見ています。残りの35%は、業務判断が絡む問い合わせと、社内でしか対応できない物理作業です。したがって効果Bは年329,160 THBになります。なお、この32時間と18時間にはベンダーとの調整工数を含めていません。それは効果Cで別に数えます。二重に数えないための定義です。
効果C 属人化の解消と契約・資産まわりの損失防止。 保守契約とライセンスの更新漏れによる緊急対応と割増が年3件、1件あたり38,000 THBで114,000 THBです。引き継ぎ不能に起因する重複調達と所在不明資産の再購入が年74,000 THBです。ベンダー窓口が分散していることによる駐在マネージャーの調整工数が月6時間、年72時間で、時間単価1,150 THBを掛けると82,800 THBです。合計して年270,800 THBになります。
集計すると次のようになります。
| 委託範囲 | 年間効果(THB) | 年間委託費(THB) | 年間純便益(THB) | 初期費用(THB) | 回収期間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 第1層のみ | 180,000 | 144,000 | 36,000 | 130,000 | 3.61年 |
| 第2層まで | 509,160 | 360,000 | 149,160 | 220,000 | 1.47年 |
| 第3層まで | 779,960 | 528,000 | 251,960 | 320,000 | 1.27年 |
この表が示しているのは、委託範囲を削ると安くなるが、回収は遅くなるという関係です。第3層を外すと年間168,000 THBの費用が浮きますが、効果C 270,800 THBが丸ごと消えるので、年間純便益は251,960から149,160へ下がります。回収期間は1.27年から1.47年に悪化します。第2層も外して第1層だけにすると、さらに効果B 329,160 THBが消え、年間純便益は36,000にまで縮み、回収期間は3.61年になります。
予算の制約で層を減らす判断はあり得ます。ただしそれは「安くする」判断ではなく、「回収を遅らせる代わりに当年のキャッシュアウトを抑える」判断です。この2つは違います。
感応度分析|ヘルプデスクの利用定着率が落ちたとき
上の試算には、実務上いちばん外れやすい前提が1つ含まれています。ヘルプデスクの利用定着率です。窓口を作っても、現場が従来どおり駐在マネージャーに直接聞き続ければ、効果Bは発生しません。
そこで、利用定着率を変数として置き直します。ここで重要なのは、この係数を掛ける対象を効果Bだけに限定することです。
- 効果A(監視による早期検知)は、監視エージェントとアラート経路が動いていれば自動的に発生します。ユーザーが窓口を使うかどうかとは無関係です。したがって係数を掛けません。
- 効果C(台帳の維持、契約期日の管理、ベンダー窓口の一本化)は、委託先の後方業務として実行されます。現場の利用定着率とは無関係です。したがって係数を掛けません。
| ヘルプデスクの利用定着率 | 効果A | 効果B | 効果C | 年間効果合計 | 年間純便益 | 回収期間 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 100% | 180,000 | 329,160 | 270,800 | 779,960 | 251,960 | 1.27年 |
| 70% | 180,000 | 230,412 | 270,800 | 681,212 | 153,212 | 2.09年 |
| 50% | 180,000 | 164,580 | 270,800 | 615,380 | 87,380 | 3.66年 |
定着率が半分まで落ちても、回収期間は3.66年で、投資判断としては成立する範囲に残ります。監視と台帳が定着率に依存しないからです。目安として、これは第1層の基本監視だけに絞った場合の3.61年とほぼ同じ水準です。つまり最悪の場合でも、範囲を最小に絞った委託と同程度までしか悪化しません。逆に言えば、定着率を上げる取り組みは、追加の費用をかけずに回収期間を1.27年へ戻す作業にあたります。
ここで注意点を1つ書いておきます。この係数を効果全体に一律で掛けてはいけません。 仮に定着率50%を年間効果合計779,960 THBの全体に掛けると389,980 THBとなり、年間委託費528,000 THBを下回って純便益はマイナス138,020 THBになります。「委託は割に合わない」という結論が出ますが、これは計算上の誤りです。利用定着率は現場のユーザーが窓口を使うかどうかの指標であって、夜間に監視エージェントが動くかどうかにも、委託先が契約期日を管理するかどうかにも関係しません。感応度分析で係数を置くときは、その係数がどの効果の発生条件に含まれているかを毎回確認してください。
定着率を上げる打ち手は費用の外側にあります。現地語で受け付けること、受付から一次回答までの時間を短く保つこと、そして駐在マネージャーが直接依頼を受けたときに窓口へ回すことを徹底することの3つです。3つ目が最も効きます。運用を決めた側が自ら例外を作れば、現場は元の経路に戻ります。
委託先の選定と移行の進め方
選定と移行は、次の5段階で進めるのが現実的です。
- 第1段階 現状の可視化(2週間から4週間)。 サーバー、ネットワーク機器、PC、契約の一覧を作ります。この時点で網羅できなくても構いません。不明なものを不明として記録することが目的です。
- 第2段階 委託範囲の仮決め(1週間から2週間)。 3層のどこまでを委託するか、社内に残す5つを誰が持つかを文書にします。ここが本記事の中心です。
- 第3段階 見積り取得と比較(2週間から4週間)。 同じ範囲定義を複数社に渡します。範囲定義を渡さずに「一式いくらか」と聞くと、比較できない見積りが返ってきます。
- 第4段階 移行(4週間から8週間)。 監視の設定、ヘルプデスク窓口の周知、台帳の初回棚卸しを並行して進めます。この期間は現行の担当者と委託先が二重に動きます。
- 第5段階 定着(3か月)。 アラートのしきい値調整、問い合わせ経路の是正、月次報告のフォーマット確定を行います。
見積りを比較するときの観点を整理します。
| 確認する項目 | なぜ確認するか |
|---|---|
| 現地語での受付が可能か、対応時間帯はいつか | 現地語で受けられない窓口は使われず、効果Bが発生しない |
| 監視のしきい値調整が契約に含まれるか | 含まれないと誤検知が放置され、監視が形骸化する |
| 資産台帳のデータを社内が随時参照・出力できるか | できないと委託先を変更できなくなる |
| エスカレーションの基準が具体的な行為で書かれているか | 曖昧だと障害のたびに範囲の交渉が発生する |
| 月額に含まれる作業と個別見積りになる作業の境界 | ここが曖昧な見積りは、運用開始後に追加費用が積み上がる |
| 契約終了時の引き継ぎ範囲 | 台帳、パスワード、設定情報の返却が明記されていないと乗り換えられない |
移行の実務で最も注意すべきは、第4段階の二重稼働期間です。この期間に現行の担当者が忙しさを理由に情報を渡しきれないと、委託先は不完全な情報で運用を始めます。二重稼働期間には、現行担当者の通常業務を意図的に減らす調整が必要です。ここを削ると、移行そのものが属人化の再生産になります。
よくある失敗パターン
- 範囲を決めずに「IT運用一式」で契約する。 障害のたびに範囲の交渉が発生します。契約書の別紙に、社内に残す5つと委託先に渡す4つを書いておくだけで、この交渉はほぼ消えます。
- 監視だけ入れて、アラートの宛先を担当者一人にする。 夜間と休日は誰も見ていないので、監視を入れる前と結果が変わりません。一次受けを委託先に持たせない限り、効果Aは発生しません。
- ヘルプデスクを作ったのに、駐在マネージャーが直接依頼を受け続ける。 定着率が上がらず、効果Bだけが試算から消えます。窓口を作った本人が例外を作るケースが最も多いパターンです。
- 台帳を委託先だけに持たせる。 更新は続きますが、契約終了時に手元に何も残りません。委託先の変更が事実上できなくなります。
- 本社標準と現地の実情を突き合わせないまま委託を始める。 委託先が現地実態に合わせて動くたびに本社から指摘が入り、現地マネジメントが板挟みになります。
- 感応度分析の係数を全効果に一律で掛ける。 前章のとおり、結論が反転します。委託を断念する判断が、計算の誤りから出てしまいます。
- 費用を月額だけで比較する。 初期費用、個別見積りになる作業、契約終了時の費用を含めないと、実際の総額は比較できません。
まとめ|買うのは人手ではなく線引き
情シスアウトソーシングで買っているものは、人手ではありません。どこまでを外に出し、どこを社内に残すかという線引きと、その線引きを維持し続ける仕組みです。
タイの日系工場は、タイ側のIT人材不足と本社側の情報システム部門の薄さという二重の逼迫の中にあります。ジェトロの調査ではタイのIT人材不足が56.7%、一般管理職の不足は79.8%で地域平均を11ポイント上回りました。日本本社側でも、2021年時点の調査で情報システム担当が実質1名という企業が一定割合存在しています。どちらからも人を出せない状況で、駐在員は数年で交代します。
この条件下で「詳しい一人に全部任せる」設計は、その人がいる間しか持ちません。かといって全部を委託しても、投資判断もデータのアクセス権限も監査対応も外には出せないので、社内が空になることはありません。だから設計の問いは「委託するかしないか」ではなく、3層のどこまでを出し、5つの権限をどう残すかになります。
モデル工場の試算では、第3層まで委託した場合の年間純便益は251,960 THB、初期費用320,000 THBの回収期間は1.27年でした。第3層を削れば1.47年に、第1層だけにすれば3.61年に悪化します。安くすると遅くなるという関係が、この層構造には組み込まれています。ヘルプデスクの利用定着率が50%まで落ちても回収期間は3.66年にとどまりますが、それは監視と台帳の効果が定着率に依存しないからです。
そして最後に一つ。委託は、これまで見えていなかったものを見える形にする作業でもあります。ネットワーク構成図がないこと、パスワードがローカルにあること、契約期日を誰も知らないことは、委託の準備段階で必ず表面化します。その時点で、すでに半分は解決しています。
タイでの工場ITについて、委託範囲をどこで切るべきか、現状の体制で何が抜けているかを整理する段階からご相談いただけます。IT担当が実質1名の状態でも、委託範囲がまだ決まっていない状態でも構いません。現状の一覧を作るところから一緒に進められますので、お問い合わせからお気軽にご連絡ください。
よくある質問(FAQ)
情シスアウトソーシングとは何か?
社内の情報システム部門が担っている業務の一部または全部を、外部の事業者に委託することです。対象になるのはサーバーやネットワークの監視、ユーザーからの問い合わせ対応、機器の保守、ライセンス管理、ベンダーとの調整などです。IT保守の外部委託、IT運用代行、システム監視のアウトソースといった呼び方も、この範囲の一部を指しています。重要なのは、業務を委託しても投資判断・データのアクセス権限の承認・監査対応の責任は社内に残るという点です。
タイの工場で情シスアウトソーシングを使うと費用はどれくらいか?
委託する範囲によって変わります。本記事のモデル工場(従業員480名、PC 210台、ラヨーン県の自動車内装部品メーカー)の試算では、基本監視のみの第1層が月額12,000 THB、一次切り分けとヘルプデスクを加えた第2層までが月額30,000 THB、定期保守と資産台帳とベンダー窓口を加えた第3層までが月額44,000 THBです。初期費用は第3層までで320,000 THBを見込んでいます。なお日本国内では、一般的な目安として月額定額制で50,000円から300,000円程度と紹介されていますが、これは日本国内の相場感であり、タイの見積りに換算して当てはめられるものではありません。
IT保守を外部委託すると社内には何が残るのか?
権限と責任が残ります。具体的には5つで、本社が持つのが投資判断とIT予算の承認、およびセキュリティ方針や認証基盤といったグローバル標準の決定です。現地が持つのが業務要件の定義と受け入れ判断、データへのアクセス権限の承認、そして監査と法令対応の最終責任です。作業は外に出せますが、この5つは外に出せません。契約書の別紙にこの線引きを書いておくと、障害発生時の範囲の議論が短く済みます。
システム監視をアウトソースすると、どこまで分かるのか?
基本監視で分かるのは、機器やサービスが止まったこと、リソースがしきい値を超えたこと、バックアップジョブが失敗したことです。生産管理サーバーのプロセスの生死、ディスク空き容量、スイッチのポートのリンク状態、無線アクセスポイントの死活、回線の疎通などが対象になります。一方で、業務データの内容がおかしいこと(在庫がマイナスになっているなど)は基本監視の対象外です。それは業務側の点検で拾う領域です。また、アラートの一次受けを委託先に持たせない限り、夜間と休日は監視していないのと同じ状態になります。
IT担当者が不在のまま何年も回してきたが、今からでも始められるか?
始められます。むしろ最初の作業は、現状の一覧を作ることです。サーバー、ネットワーク機器、PC、契約の一覧を2週間から4週間かけて作り、この段階では不明なものを不明として記録します。網羅できていなくても構いません。次に委託範囲を3層のどこまでにするかを仮決めし、同じ範囲定義を複数社に渡して見積りを取ります。範囲定義を先に固めておかないと、返ってくる見積りの前提が事業者ごとに違い、比較そのものができません。第1層の基本監視だけから始めて、後から層を積み上げる進め方も可能です。
参考情報
1. ジェトロ 2023年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)のタイ編(2023年8月から9月実施)
タイのIT人材不足56.7%、一般管理職の不足79.8%、地域平均58.2%と68.8%との比較の出典です。本文の「1.5ポイント」は58.2から56.7を引いた差、「11ポイント」は79.8と68.8の差です。
2. メタップス「ひとり情シス」実態調査(2021年9月から10月実施、情報システム部門所属の会社員514名対象)
「ひとり情シス」該当11.4%(514名中およそ59名)、課題として挙がったセキュリティ面への不安59.3%、業務負荷51.9%の出典です。2021年時点の調査であり、母数が小さい点にご留意ください。
3. 日経ビジネス タイの現地採用スタッフの待遇と現地化に関する記事
タイで働く現地採用スタッフの待遇が上がり、日本人駐在員を減らして現地採用に切り替える企業があるという傾向の参照元です。本記事では傾向の説明にのみ用い、具体的な数値は引用していません。
4. ITアウトソーシング(ITO)市場の市場規模と成長率
2026年6,386.5億米ドルから2031年7,520.8億米ドルへ、CAGR3.32%、SMEセグメントはCAGR3.96%という予測の出典です。世界市場の予測であり、タイ市場の数値ではありません。
5. 情シスアウトソーシングの費用相場に関する解説ページ
月額定額制50,000円から300,000円程度、従量課金制5,000円から10,000円程度、SES常駐型100,000円から1,000,000円程度という目安の出典です。特定の調査に基づく数値ではなく、業界の一般的な目安として紹介されているページです。